説明

マイクロアレイを用いた生体活性の変化の評価方法

【課題】 マイクロアレイを用いた生体活性の変化の正確な評価方法の提供。
【解決手段】 サンプル中の各遺伝子やタンパク質の発現量を経時的に比較することで、マイクロアレイを用いた生体活性の変化を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロアレイを用いた生体活性の変化の評価方法に関する。即ち、本発明はマイクロアレイを用いた生体活性の測定データを経時的に比較することを特徴とする生体活性の変化の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝子やタンパク質の発現変化を検出することにより、生体活性の変化を評価する方法として、ノーザンブロッティング、サザンブロッティング、PCRやリアルタイムPCR等が従来実施されてきた。これらは目的の遺伝子またはタンパク質を特定して、その発現量の変化を評価する場合に有効な方法であるが、近年のゲノムプロジェクトに代表されるような種々の遺伝子やタンパク質の発現を網羅的に検出し、評価するには不向きであった。そこで、近年ではこれらに変わる方法として、マイクロアレイが取り入れられるようになった。
【0003】
マイクロアレイとは、ガラス等の基板上(固定層)に数百〜数万の遺伝子のプローブや抗原・抗体等が配置されたもので、このアレイ上で、これらと対象とする生物の細胞等から調製された遺伝子やタンパク質をハイブリダイズさせることによって、種々の遺伝子やタンパク質の発現を検出することができる。マイクロアレイは、サンプル中における癌の原因遺伝子や食中毒の原因遺伝子の存在を確認する等、医療や食品分野において幅広く利用されている。また、一度の測定実験によって、多くの生体活性に関わる情報を得ることができることから、様々な条件における特定の遺伝子やタンパク質の発現の変化を測定することもでき、対象とする生物における遺伝子やタンパク質の体系的な発現解析を効率的に行うことが可能である。
【0004】
この方法は、例えば薬剤処理による遺伝子発現の変化を検出する場合に使用できる。この場合、薬剤処理の細胞及び未処理の細胞のように2種類の細胞を試料として、それぞれに由来するmRNAを抽出・精製し、これをCy3、Cy5などの異なる蛍光物質で標識する。これらをサンプル及びコントロールとして、DNAマイクロアレイ上で競合的ハイブリダイゼーションを行うことで、異なる励起波長における各蛍光強度を測定する。この工程によりアレイ上の各スポットから得られた蛍光強度をそれぞれ定量・比較することによって、2種類の細胞における各遺伝子発現に関し、情報を得ることができる。
【0005】
このようなマイクロアレイを用いた遺伝子やタンパク質の発現変化においては、測定された結果が補正されて評価される。現在知られている補正は、主にスポット間の検出標識物質の蛍光強度の差等を対象としている。2種類の細胞の発現量に差がないと考えられる場合には、全遺伝子発現量は変化しないものとして、各スポットから得られる蛍光シグナルの総計や中間値より補正係数を算出し、各スポットシグナルの蛍光強度を補正する方法により行われる(例えば、非特許文献1参照)。また2種類の細胞の発現量が異なっているとされる場合には、各細胞において発現量が一定とされるβアクチン等のハウスキーピング遺伝子の蛍光シグナル値より補正係数を算出し、各スポットシグナルの蛍光強度を補正する方法等がある(例えば、非特許文献2参照)。
【0006】
しかし、マイクロアレイは一枚のアレイ上に数百〜数万の遺伝子のプローブや抗原・抗体等が多数存在し、これらのような単純な補正では十分とは言えない。また、サンプルによっては、遺伝子発現の変化が激しい発生初期段階のようにハウスキーピング遺伝子等が安定して存在せず、補正係数を算出できない場合がある。マイクロアレイにより得られる測定データは、競合的ハイブリダイゼーションに用いたサンプル中の各遺伝子やタンパク質のその時点での発現量を示すのみである。従って、薬剤処理による遺伝子発現の変化や、タンパク質の発現活性等の生体活性の変化を評価する場合に、この競合的ハイブリダイゼーションの結果のみによって発現活性を評価していることになる。そのため、例えば実際は基準時より活性が下がっている場合であっても、その時点のコントロールの絶対値が低いため、競合した時点においてコントロールよりもサンプルの方が優勢の場合には、あたかもサンプルの活性が上がっているように観察され、誤って評価している例等が多く存在している(例えば、比較例1参照)。
【非特許文献1】Wilson, M. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 96: 12833-12838, 1999
【非特許文献2】Heller, R. A. et al. : Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94: 2150-2155, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、マイクロアレイを用いた生体活性の変化の正確な評価方法の提供を課題とする。即ち、本発明はマイクロアレイを用いた生体活性の測定データの適切な比較方法を示すことで、正確な評価方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、競合的ハイブリダイゼーションに用いたサンプル中の各遺伝子やタンパク質の発現量を経時的に比較することで、マイクロアレイを用いた生体活性の変化を正確に評価できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
従来知られている生体活性の変化を経時的に測定する方法としては、リアルタイムPCRやリアルタイムRT−PCRという方法が挙げられるが、この方法は目的とする遺伝子の前後の配列よりプライマーを設計し、その遺伝子を増幅することで発現を確認するという方法であるため、目的とする遺伝子の配列が明確である場合にしか利用できない。これに比べて、今回の発明では数百〜数万の遺伝子やタンパク質、抗原・抗体等を固定したマイクロアレイを用いることによって、特定の遺伝子のみでなく、対象とする生物において体系的な遺伝子やタンパク質の発現解析を効率的に行うことが可能となる。
すなわち、本発明は以下の(1)〜(16)である。
【0010】
(1)ラベル化したサンプルとラベル化したコントロールを競合させつつ、または、経過時間の異なるラベル化したコントロールを競合させつつ、マイクロアレイ上の固定化された複数のプローブとハイブリダイズさせることによって、該ラベル量を測定する生体活性の測定データの評価方法であって、以下の工程:
(a)プローブ毎にサンプル及びコントロールまたは経過時間の異なるコントロールの生体活性を経時的に測定し、データを得る工程
(b)得られたデータよりコントロールの経時的な発現量及びサンプルの経時的な発現量またはコントロール同士の経時的な発現量を比較する工程、
を含む前記マイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(2)データを比較する工程が、サンプルの経時的な測定データとコントロールの基準時の測定データを比較する工程である前記(1)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(3)データを比較する工程が、
(a)ある時間経過後のコントロールの測定データ(Yc)と、それ以前の時間におけるコントロールの測定データ(Xc)が等しく時系列内で発現量が変化しない内部標準遺伝子を抽出する工程
(b)工程 (a)において抽出した内部標準遺伝子において、ある時間経過後のサンプル及びコントロールを競合させて得た測定データ(Yc’)と、それ以前の時間におけるサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Xc’)を等しくする係数(A)を求める工程
(c)工程(b)において得られた係数(A)を用いて目的とする遺伝子の各時間経過後のサンプル及びコントロールの測定データを補正する工程
を含む前記(1)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(4)データを比較する工程が、
(a)目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データ(Yc)を1として、目的とする遺伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)の発現量比(B)を算出する工程
(b)工程(a)において得られた発現量比(B)を用いて目的とする遺伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)を補正する工程
をさらに含む前記(1)または(3)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(5)測定する試料がDNA、RNA、タンパク質、化学物質である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(6)測定する試料が、化学処理されたサンプル及び無処理のコントロールである前記(1)〜(5)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(7)化学処理がレチノイン酸またはカドミウムによる処理である前記(1)〜(6)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(8)マイクロアレイ上の固定化されたプローブが、DNA、RNA、抗体、ペプチド、既知タンパク質の断片、化学物質である前記(1)〜(7)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(9)マイクロアレイ上の固定化されたプローブが、初期発生段階の細胞のDNA、RNA、ペプチド、既知タンパク質の断片である前記(1)〜(8)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(10)ラベル化した複数のプローブを、マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロール、または、経過時間の異なるコントロールとハイブリダイズさせることによって、該ラベル量を測定する生体活性の測定データの評価方法であって、以下の工程:
(a)プローブ毎にサンプル及びコントロール、または経過時間の異なるコントロールの生体活性を経時的に測定し、データを得る工程、
(b)得られたデータよりコントロールの経時的な発現量及びサンプルの経時的な発現量またはコントロール同士の経時的な発現量を比較する工程、
を含む前記マイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(11)データを比較する工程が、サンプルの経時的な測定データとコントロールの基準時の測定データを比較する工程である前記(10)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(12)データを比較する工程が、
(a)コントロールについてある時間経過後の測定データ(Yc)と、それ以前の時間における測定データ(Xc)が等しく、時系列内で発現量が変化しない内部標準遺伝子を抽出する工程
(b)工程(a)において抽出した内部標準遺伝子において、ある時間経過後のサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Yc’)と、それ以前の時間におけるサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Xc’)を等しくする係数(A)を求める工程
(c)工程(b)において得られた係数(A)を用いて目的とする遺伝子の各時間経過後のサンプル及びコントロールの測定データを補正する工程
を含む前記(10)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(13)データを比較する工程が、
(a)目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データ(Yc)を1として、目的とする遺伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)の発現量比(B)を算出する工程
(b)工程(a)において得られた発現量比(B)を用いて目的とする遺伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)を補正する工程
をさらに含む前記(10)または(12)に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(14)マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロールが卵(あるいは胚)、細胞である前記(10)〜(13)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(15)マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロールが、化学処理されたサンプル及び無処理のコントロールである前記(10)〜(14)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
(16)化学処理がレチノイン酸またはカドミウムによる処理である前記(10)〜(15)のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の評価方法は、マイクロアレイを用いた生体活性の変化を正確に評価することで、簡便かつ効率的に、体系的な遺伝子やタンパク質の発現解析を可能とする。この方法を用いた発現解析により、病気の解明や創薬等を目的として、有用な遺伝子やタンパク質を適切にスクリーニングすることも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者らは、マイクロアレイを用いた生体活性の変化の評価において、競合的ハイブリダイゼーションにおけるある時点のサンプル中の各遺伝子やタンパク質の発現量のみを評価することによる誤った評価が多数発表されている点に着目し、これらの発現量を経時的に比較することで、マイクロアレイを用いた生体活性の変化を正確に評価することに成功した。即ち、本発明の評価方法は、マイクロアレイで得られる生体活性の測定データを、コントロール及びサンプルごとに経時的に測定し、サンプルにおける測定データとコントロールの測定データを基準時において比較し、またその経時的な値を補正することにより、サンプルにおける生体活性の真の変化を正確に評価する方法である。
【0013】
従来知られている生体活性の変化を経時的に測定する方法として、リアルタイムPCRやリアルタイムRT−PCRという方法が実施されているが、この方法は目的とする遺伝子の前後の配列よりプライマーを設計し、その遺伝子を増幅することで発現を確認するという方法であるため、目的とする遺伝子の配列が明確である場合にしか利用できない。これに比べて、今回の発明に係る方法によれば、数百〜数万の遺伝子やタンパク質、抗原・抗体等を固定したマイクロアレイを用いる場合であっても、特定の遺伝子のみでなく、対象とする生物における遺伝子やタンパク質の発現変化を正確、体系的かつ効率的に評価することが可能となる。
【0014】
本発明のマイクロアレイにおける生体活性の発現変化の評価方法は、コントロールとサンプルの差異を明確にすることが容易であり、細胞内にハウスキーピング遺伝子等が安定して存在しない環境にあるサンプルにおいても用いることができる。本発明の対象となるマイクロアレイでは、DNA、RNA等の遺伝子のみならず、抗体、ペプチド、既知タンパク質の断片等のタンパク質、化学物質をプローブとして用いることもできる。化学物質をプローブとする場合、ドラッグスクリーニング等を目的とすることもできる。また、卵(胚)、細胞等のサンプルをアレイ基板上に固定し、遺伝子やタンパク質、或いは化学物質等のプローブを用いて発現活性の変化を評価することもできる。これらが固定されるアレイ基板には、ガラスやシリコン等を素材として、平板、円柱状等のものを用いることができ、形状にはとらわれない。
【0015】
発現変化を評価する処理の方法としては、レチノイン酸やカドミウム等の化学処理や、温度、物理的ストレス等の物理処理も可能である。
また、プローブは蛍光、色素、放射性物質等でラベルすることもでき、調べたい目的に応じてアレイ基板のボリュームが許す限り何色でラベルしても良い。
【0016】
細胞から抽出した遺伝子をサンプルまたはコントロールとして、薬剤処理による影響を評価する方法では、例えば、薬剤処理をした細胞の遺伝子を青色でラベルし、未処理の細胞の遺伝子を赤色でラベルすることができる。このように2色でラベルした試料を、複数の遺伝子のプローブを固定した1枚のアレイ基板にハイブリダイズさせた場合に、アレイ上で青色に標識されたスポットには薬剤処理によって発現する遺伝子が存在し、アレイ上で赤色に標識されたスポットには薬剤処理によって影響を受けない遺伝子が存在することが一目で確認できる。
さらに、これらに加えて処理時間の異なる細胞の遺伝子を緑色でラベルすることができる。このように試料を3色でラベルした場合においては、ハイブリダイズによって、アレイ上で緑色に標識されたスポットには処理時間の違いによって影響を受ける遺伝子が存在することも一目で確認することができる。これらを比較することで薬剤処理における遺伝子の発現変化を、経時的に評価することも可能である。
【0017】
本発明でいう「ラベル化」とは、分光光度的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的手段によって検出可能な任意の組成物を用いてサンプルまたはコントロールを標識することを指す。本発明において有効な標識は、蛍光色素(例えば、Cy3、Cy5、緑色蛍光タンパク質など)、放射性標識(例えば、H、125I、35S、14Cまたは32P)、酵素標識(例えば、西洋わさびパーオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼなど)が挙げられる。
【0018】
「プローブ」とは、サンプルまたはコントロールにおける目的の生体活性を確認するための遺伝子配列またはタンパク質、あるいは化学物質を指す。特に本発明においては、ある時点における(例えば、発生段階)細胞の全遺伝子またはタンパク質を少なくとも1またはそれ以上のいくつかの遺伝子断片あるいはペプチド断片、あるいは標識した化学物質を指す。
【0019】
「マイクロアレイ」とは、チップとも呼ばれ、ガラスやシリコン等の基板上に数百〜数万のDNA、RNA等の遺伝子や、抗体、ペプチド、既知タンパク質の断片等のタンパク質、あるいは化学物質をプローブとして結合させたものを言う。または、卵(胚)、細胞等のサンプルを基板上に固定したものも含む。さらに、[ハウスメイドマイクロアレイ]とは、実験室で作製したマイクロアレイを指し、特に本発明では、目的とする生物の遺伝子またはタンパク質(例えば、発生段階)のいくつかの遺伝子断片あるいはペプチドをプローブとして、基板上に固定したものを指す。なお、マイクロアレイにはプローブとなる遺伝子等を1セット固定化したものの他、同一の遺伝子セットを2セット基板上に固定したものも含む。また、実験室で調製した卵(胚)、細胞等のサンプルを基板上に固定したものも含む。
【0020】
「ハイブリダイズ」とはある遺伝子配列またはタンパク質(例えば、アレイ上のプローブ)が、サンプルあるいはコントロール中に存在する特定の遺伝子またはタンパク質と、相補的に結合する事を指す。または、アレイ上のサンプルあるいはコントロール(例えば、卵(胚)、細胞等)中に存在する特定の遺伝子と、ある遺伝子配列またはタンパク質(例えば、プローブ)が相補的に結合する事を指す。結合の条件は目的によって調整でき、厳密にはある遺伝子またはタンパク質にのみ結合するというストリンジェントな(ストリクトな、限定的・特異的な)条件が好ましい。
【0021】
「生体活性の変化」とは、生体の組織または細胞の代謝によるDNAやRNA等の遺伝子やタンパク質の発現量の変化を指し、特に本発明においては、外因的な化学処理(例えば、レチノイン酸やカドミウム等の薬剤)や物理処理(例えば温度、物理的ストレス等)によって誘導される生体の組織または細胞におけるDNAやRNA等の遺伝子やタンパク質の発現量の変化を指す。
【0022】
「評価」とは、コントロールとサンプルにおける絶対量または相対量の生体活性の変化を測定し、その測定量を比較することを指す。絶対量の測定は、既知の濃度の1つまたは複数の物質と未知の物質とのハイブリダイゼーション強度を比較することによって(例えば、標準曲線の作製による)で実行できる。また相対量の測定は、2つ以上の処理物質間のハイブリダイゼーションシグナルを比較してハイブリダイゼーション強度を測定することで実行できる。
【0023】
評価にあたり、サンプルの経時的な測定データとコントロールの基準時の測定データを比較する工程を含む方法を用いることができる。また、時系列内で発現量が変化しない内部標準遺伝子または時間の経過に伴って発現量が定量的に変化する遺伝子を抽出して、時系列内の測定データを等しくする係数(A)を求め、目的とする遺伝子の各時間経過後のサンプル及びコントロールの測定データを補正する工程を含む方法を用いることができる。さらに、目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データを1として、その他の時間における発現量比(B)を求め、その他の時間における発現量を補正する工程を含む方法を用いることもできる。
【0024】
マイクロアレイを用いたDNAやRNA等の遺伝子やタンパク質の発現変化の解析にあたり、本発明のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法を解析ソフト等に組み込むことができる。図1のマイクロアレイ解析フロー中に本発明の評価ステップを盛り込んだフローチャートを示す。簡単にフローの概要を説明する。解析はマイクロアレイの画像データを取り込むステップと、次にその各データの蛍光強度を数値化するステップと、複数のアレイ数値データを標準化するステップと、これに基づきクラスタ解析を行うステップと、発現変化グラフを作成するステップと、遺伝子グループを比較するステップからなる。ここで複数のアレイ数値データの標準化のステップに本発明の評価法を取り入れることができる。これにより、遺伝子の発現変化を迅速かつ正確に解析することができる。
【0025】
以下、本発明の参考例、試験例及び実施例を示すが、本発明はこれらによって制限されない。
【試験例1】
【0026】
I−1. 実験材料の調製
ゼブラフィッシュは水温28℃、明期14時間、暗期10時間で飼育されたものを使用した。受精卵は、任意に選んだ健康な雌雄数組が産んだ直後のものを採取し、飼育水をHoltfreter’s solution(以下、HSと略す)に置換して28℃で飼育した。HSは表1に示す組成で調製した。また、以降、受精後0、6、12、18、24、および48時間(以下、hpf:hour per fertilizationと略す)の胚とは、前後15分間を含む30分間に産卵された胚を0hpfとして、HSにて28℃で飼育した場合の各時間後の胚と定義した。
【0027】
【表1】

【0028】
I−2. cDNAマイクロアレイによる発現解析
ゼブラフィッシュ(未受精卵及び受精後0〜24時間目の初期胚)より抽出した5579遺伝子(cDNA)とコントロール遺伝子(ヒト、アラビドプシス(Arabidopsis)29遺伝子)をPlasmidPrep(登録商標、Qiagen社製)で精製し、これをテンプレートとしてPCRを行った。ゼブラフィッシュ遺伝子に用いたPCRのプライマーは配列表配列番号1(λTriplEx5’)および配列番号2(λTriplEx3’)に示した。また、ヒトおよびアラビドプシス遺伝子に用いたプライマーは配列表配列番号3(M13−20Primer)および配列表配列番号4(Reverse Primer)に示した。得られたPCR産物を電気泳動で確認後、回収・濃縮して再度電気泳動して濃度を確認した。PCR産物は凍結乾燥した後、スポット溶液(3×SSC;0.45M塩化ナトリウム,0.045M クエン酸ナトリウム)に溶解して、384穴プレートに移してAffimetrix417Arrayer(登録商標、Affimetrix社製)を用いてスポッティングを行い、ハウスメイドマイクロアレイMZM(以下MZM:Mie University Zebrafish Microarrayと略す)を作製した。MZMにおいて蛍光標識の組み合わせを替えて試験を行い、再現性を見ることによりデータの精度を上げた。作製したMZMは一枚のマイクロアレイ上に同じスポット群UpperとLowerの2組ずつスポットされているため、1枚につき2回分のアレイデータが得られた。
【0029】
I−2−1. サンプルの調製
RNA抽出からラベリングの操作は、器具および試薬等のすべてについてRNase−freeの状態で行った。ラベリング以降の操作はサンプルを遮光し、蛍光標識の退光を防いだ。産卵された直後の受精卵をHSバッファおよび1.0×10−8M レチノイン酸(以下、atRAと略す)を含むHSバッファに曝露し、28℃で24hpfまで飼育した。生存している胚を採集し、卵膜表面の水分を充分に除去して計量した後、15ml容遠沈管に移して、10倍量のISOGEN(登録商標、ニッポンジーン社製)またはQIAzol(登録商標、Qiagen社製)を加えた。これを針(21G×11/2”,テルモ社製)とシリンジ(テルモ社製)を用いて胚が完全に懸濁するまでホモジナイズした。なお、ホモジナイズしたサンプルは、十分量の胚(胚重量約1000mg=マイクロアレイ5枚前後)を採集できるまで、−80℃で凍結保存した。
【0030】
I−2−2. TotalRNAの抽出
凍結保存していたサンプルを融解し、室温に5分間静置した。これに、ISOGEN(登録商標)またはQIAzol(登録商標)量の1/5量のクロロホルムを加え、15秒間激しく振とうして室温に2〜3分間静置した。遠心分離(8,000rpm、15分間、4℃)後、水層を新たなチューブへ移し、これと等量の70%エタノールを加えて数分間ボルテックスした。さらに、得られたサンプルからのtotalRNAの抽出にはRNeasy Midi kit(登録商標、Qiagen社製)を使用し、最終的に200μlのDEPC処理水で溶出した。溶出液1μlをDEPC処理水により70倍希釈し、OD260およびOD280の吸収を測定して濃度および精製度を算出した。RNA濃度が1.1μg/μl以下であったサンプルについては、逆転写反応に充分な濃度に達するようにエタノール沈殿を行って濃縮した。
【0031】
I−2−3. cDNAの標識化
前記I−2−2で得られたtotalRNAはoligodTプライマーを用いてmRNAのみを特異的に逆転写した。また同時に、dNTPにCy3あるいはCy5−dNTPを加えて、転写されるcDNAを蛍光標識した。すなわち、新しい0.5ml容チューブにtotalRNAを40μg、0.5μg/μl oligodTプライマーを8μl加え、総量が46μlとなるようにDEPC処理水を加えて穏やかに混合した。これを、70℃で10分間静置した後、氷上に移して表2に示した試薬を加えてよく混合した。逆転写酵素はSuperscriptII reverse transcriptase(登録商標、Invitrogen社製)を用いた。これを4℃で5分間、23℃で10分間、42℃で120分間反応させ、0.5M EDTAを20μl、1N NaOHを20μl加えて65℃に15分間静置後、4℃に移した。これに1M Tris−HCl(pH7.4)を50μl加えた。以下、HSバッファに曝露した受精卵由来のcDNAをコントロールとして、atRAを含むHSバッファに曝露した受精卵由来のcDNAをサンプルとした。
【0032】
【表2】

【0033】
I−2−4. 標識化cDNAの精製および濃縮
Cy3またはCy5標識されたcDNAの精製はQIAquick PCR purification kit(登録商標、Qiagen社製)を使用した。溶出は100μlの溶出液で行い、得られたCy3およびCy5で標識された溶出液を新しい1.5ml容チューブに加えて混合した。また、混合する組み合わせは表3に従った。これに300μlのTE(10mM Tris−HCl,pH8.0,1mM EDTA)を加えた。全溶液(500μl)を1.5ml容チューブにセットしたMicrocon YM−30 sample reserver(登録商標、Millipore社製)に移して、遠心分離(12,000rpm、13分間、室温)してサンプルを濃縮した。このときリザーバー内に直径1mm程度の紫色の水滴が残るのがよく、13分間の遠心分離で足りない場合はさらに1分間遠心分離をした。また、濃縮され過ぎていた場合にはTEを5μl加えた。リザーバーをチューブから外して上下を逆にし、新たな1.5ml容チューブにセットした。遠心分離(3,000rpm、5分間、室温)後、リザーバー内のサンプルを新しいチューブに移した。
【0034】
【表3】

【0035】
I−2−5. ハイブリダイゼーション
濃縮したサンプルに10μg/μl Yeast tRNAを0.5μl、20×SSCを12.5μl、50×Denhaedt’s solution、10%SDSを6.5μl、ハイブリダイゼーション溶液を10μl加え混和した。TEで全量を40μlにして95℃で2分間静置した後、氷上に移した。さらに、コンペティターDNAとして1μg/μl salmon sperm DNAを5μl、ホルムアミドを5μl加え、ハイブリダイゼーション前に42℃で2分間加熱した。cDNAマイクロアレイは前記MZMを用いた。cDNAマイクロアレイに埃等が付着すると蛍光解析に支障を来たすため、これ以降の操作はパウダーフリーのグローブを装着して慎重に行った。マイクロアレイの両面をエアースプレーで吹き、スポット面の中央にサンプルを滴下した。この上からカバーガラスをマイクロアレイとの間に空気が入らないようにゆっくりと被せ、乾燥防止のための滅菌水を加えたハイブリダイゼーションチャンバーに入れて、65℃で16〜24時間ハイブリダイズした。
【0036】
I−2−6. 洗浄
ハイブリダイゼーション後のマイクロアレイは、カバーガラスが外れるまで2×SSC、0.1%SDSの入ったグラスボックスに浸漬した。カバーガラスを外す際は、スポット上をカバーガラスが何度も擦れることがないように細心の注意を払った。その後、2×SSC、0.1%SDSに沈めた洗浄台にマイクロアレイをセットし、スターラーで撹拌することにより洗浄した。続けて、1×SSC、0.5×SSCおよび0.1×SSCへと洗浄液を変えて同様に洗浄した。洗浄したマイクロアレイは、自然乾燥する前にエアースプレーによって急速に水分を完全に飛ばしてスキャンニングの操作へ移った。
【0037】
I−2−7. スキャンニングおよび解析
cDNAマイクロアレイのスキャンニングは、DNAマイクロアレイ用共焦点型レーザースキャナーScanArray 5000(登録商標、GSI Lumonics社製)を用いた。スライドガラス上から得られた画像イメージは、TIFFおよびBMP形式で出力して両形式で保存し、解析にはTIFF画像を用いた。画像からの蛍光シグナル強度の数値化は、GenePix(登録商標、Amersham社製)およびQuantArray(登録商標、GSI Lumonics社製)を用いて行い、数値化したデータの解析にはGeneSpring(登録商標、Silicon Genetics社製)を用いた。得られたデータのグラフを図2に示した。また、MZM上にスポットされているゼブラフィッシュS100A1の遺伝子の発現に関して、MZMのデータを解析した。atRAで処理したサンプルまたは未処理のコントロールとハイブリダイズしたMZM上のS100A1の配列のスポット(10−8Mレチノイン酸曝露による受精後24時間のRNAを使用)において測定された蛍光強度を表4に示した。試験は3回行った。
【0038】
【表4】

【試験例2】
【0039】
I−3. リアルタイムPCR
HSおよび1.0×10−8M atRAを含むHS曝露した各発生時間の胚におけるS100A1遺伝子発現量はリアルタイムPCR法を用いて定量した。リアルタイムPCRはABI PRISM 7700 Sequence Detection System(Applied Biosystems社製)を使用し、PCR反応および発現量の測定を同時に行った。PCRには5’ to 3’のヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼが含まれているTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems社製)を用いて行った。配列表配列番号5(ZA1−RT−F)および配列番号6(ZA1−RT−R)に記載のプライマーと配列表配列番号7に記載のプローブ(ZA1−probe)を使用し、表5に示したTm値、PCR反応液組成、ならびにPCRサイクル条件にてPCRを実施した。なお、リアルタイムPCR法では5’末端にレポーター色素となるFAM(登録商標)および3’末端に失活色素となるTAMRA(登録商標)を使用する。
【0040】
目的遺伝子内の約25〜28merのオリゴヌクレオチドをプローブのレポーター色素の蛍光を感知することによって発現量を数値化する方法であり、レポーター色素が失活色素に近接している場合、感光計はその蛍光を感知することができない。一方、プローブの作製はプライマーセットの内部の配列にアニールするように設計し、Tm値はプライマー(Tm=約55℃)より5℃高く設定(Tm=約60℃)した。これにより、プローブはプライマーより早く目的遺伝子のcDNAにアニールする。また、伸長反応が起こり、5’to3’ヌクレアーゼ活性を有するDNAポリメラーゼがプローブの5’末端まで到達してプローブDNAを分解すると、5’末端の塩基とともにレポーター色素が遊離する。その結果、レポーター色素は失活色素による蛍光抑制がなくなるため、この蛍光を観測できるようになる。ABI PRISM 7700 Sequence Detection Systemは、あるレベルの蛍光強度に達するまでのサイクル数によって発現量を算出した。標準サンプルは標準cDNA溶液を用い、1、4、4、4、4、および4倍希釈溶液を用いて試験して検量線を作成した。これらにより得られた相対発現量のグラフを図3に示した。
【0041】
【表5】

【実施例1】
【0042】
解析方法1
前記試験例1により得られたatRA処理によるゼブラフィッシュの受精後の胚におけるS100A1遺伝子発現量の変化を経時的に解析した。表4に示した0、6、12、及び24 hpfのコントロール及びサンプルにおけるS100A1遺伝子発現量の変化を、6hpfを基準時として検討した。
【0043】
結果
コントロール及びサンプルにおけるS100A1遺伝子発現量の経時的な変化を図4a)に示した。サンプルにおけるS100A1遺伝子発現量は、コントロールと同様に0hpfから経時的に低下していることが示された。一方で、atRA処理によりS100A1遺伝子の発現量はコントロールに比べて発現量の低下の割合が低いことが示された。この結果は試験例2におけるリアルタイムPCRによっても裏付けることができた(図3)。
【比較例1】
【0044】
従来の解析方法
表4に示された0,6,12及び24時間の6時間目と12時間目におけるコントロール及びサンプルのS100A1遺伝子発現量の変化を検討した。
【0045】
結果
6時間目と12時間目のコントロール及びサンプルにおけるS100A1遺伝子発現量を図4b)、c)に示した。サンプルにおけるS100A1遺伝子発現量は、コントロールと比較して、6時間目及び12時間目ともに増大していることが示された。このように各時間のコントロール及びサンプルを比較する従来の解析方法においては、atRA処理によってS100A1遺伝子の発現が促進されると示唆された。しかし、実施例1で示した図4a)と比較すると、6時間目及び12時間目におけるサンプルのS100A1遺伝子発現量は、6時間目あるいは12時間目のある特定の時間について検討しているだけであって、実際はatRA処理によってS100A1遺伝子の発現が促進されるのではなく、実施例1に示すようにコントロールと比較して、発現量の低下の割合が低いだけであることが明確となった。
【実施例2】
【0046】
解析方法2
前記試験例1により得られたatRA処理によるゼブラフィッシュの受精後の胚におけるS100A1遺伝子発現量の変化を経時的に解析した。解析にあたり、ある時間経過後のコントロールの測定データ(以下、Ycと示す)と、それ以前の時間におけるコントロールの測定データ(以下、Xcと示す)が等しく、時系列内で発現量が変化しない内部標準遺伝子を抽出した。そして、抽出した遺伝子においてある時間経過後のサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Yc’)と、それ以前の時間におけるサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Xc’)を測定し、これらを等しくする係数(A)を求めた。この得られた係数(A)を目的とする遺伝子における各時間経過後のサンプル及びコントロールの測定データに乗じ、補正を行った。
【0047】
具体的には、解析にあたり、6時間目のコントロールと12時間目のコントロールを競合させたデータにおいて、12時間目の測定データ(Ycに該当)と、6時間目の測定データ(Xcに該当)が等しく、時系列内で発現が変化しない内部標準遺伝子を抽出した。この内部標準遺伝子としては、6時間(Xc)と12時間目(Yc)の発現量が511で一致したGeneAと、1623で一致したGeneBの2つの遺伝子が抽出された。
【0048】
抽出された遺伝子における12時間目のコントロールと12時間目のサンプルを競合させた12時間目のコントロールの測定データ(Yc’に該当)と、6時間目のコントロールとサンプルを競合させた場合の6時間目のコントロールの測定データ(Xc’に該当)を得た。得られた測定データを表6に示し、これらの測定データを等しくする係数(A)を求めた。係数(A)を求める一般式を数1に示し、GeneA及びGeneBを用いた計算例を数2に例示した。
【0049】
得られた係数(A)を、表4に示した目的とするS100A1遺伝子発現量(12時間目の測定データ)に乗じて補正を行った。補正後のS100A1遺伝子発現量を表7に示した。
【0050】
【表6】

【0051】
【数1】

【0052】
【数2】

ここで得られた値1及び値2の平均値(=0.8375)を係数(A)として用いた。
【0053】
次に、目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データ(以下、Xcとする)を1として、目的とする遺伝子のそれ以前の時間における測定データ(以下、Zcとする)の発現量比(B)を算出して、これをそれ以前の時間における測定データ(Zc)を補正することで、これらの測定データを直接比較できるように補正した。具体的には、0時間目のコントロールと6時間目のコントロールを競合させた測定データにおいて、6時間目のコントロールの測定データ(Xcに該当)と0時間目のコントロールの測定データ(Zcに該当)の発現量比(B)を算出して、これを乗じることにより0時間目のコントロールの測定データの補正を行った。発現量比(B)を求める一般式を数3に示し、表4に示した0時間目のコントロールの測定データを補正する発現量比(B)を求める計算例を数4に例示した。補正後のS100A1遺伝子発現量を表7に示した。
【0054】
【数3】

【0055】
【数4】

ここで得られた発現量比(B)(=6.28)を用いた。
【0056】
【表7】

【0057】
結果
補正によるコントロール及びサンプルにおけるS100A1遺伝子発現量の経時的な変化を図5に示した。補正により、サンプルにおけるS100A1遺伝子発現量は減少するものの、atRA処理によって、発現量の低下の割合が低いことが示された。この方法により、異なった試験区及び時点でのDNAマイクロアレイ解析の結果を補正して、真の発現量を得ることで、試験区間の差異を時系列内の異なった時点間においても正確に把握することが可能となった。
【産業上利用可能性】
【0058】
本発明のマイクロアレイを用いた生体活性の変化を正確に評価する方法により、簡便かつ効率的に、体系的な遺伝子やタンパク質の発現解析を可能とする。この方法を用いた発現解析により、病気の解明や創薬等を目的として、有用な遺伝子やタンパク質を適切にスクリーニングすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の解析方法をマイクロアレイ解析フロー中に盛り込んだ図である。
【図2】cDNAマイクロアレイ解析データを示した図である。(試験例1)。
【図3】リアルタイムPCRによるS100A1遺伝子の相対発現量の経時的な変化を示した図である(試験例2)。
【図4】本発明と従来の解析方法の比較を示した図である。(a)cDNAマイクロアレイによるS100A1遺伝子発現量の経時な変化を示した図である(実施例1)。(b)cDNAマイクロアレイによるatRA処理後6時間目のS100A1遺伝子発現量を示した図である(比較例1)。(c)cDNAマイクロアレイによるatRA処理後12時間目のS100A1遺伝子発現量を示した図である(比較例1)。
【図5】cDNAマイクロアレイにおける試験1回目の補正後の真のS100A1遺伝子発現量の経時的な変化を示した図である(実施例2)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベル化したサンプルとラベル化したコントロールを競合させつつ、または、経過時間の異なるラベル化したコントロールを競合させつつ、マイクロアレイ上の固定化された複数のプローブとハイブリダイズさせることによって、該ラベル量を測定する生体活性の測定データの評価方法であって、以下の工程:
(a) プローブ毎にサンプル及びコントロールまたは経過時間の異なるコントロールの生体 活性を経時的に測定し、データを得る工程
(b) 得られたデータよりコントロールの経時的な発現量及びサンプルの経時的な発現量ま たはコントロール同士の経時的な発現量を比較する工程、
を含む前記マイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項2】
データを比較する工程が、サンプルの経時的な測定データとコントロールの基準時の測定データを比較する工程である請求項1に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項3】
データを比較する工程が、
(a) ある時間経過後のコントロールの測定データ(Yc)と、それ以前の時間におけるコ ントロールの測定データ(Xc)が等しく時系列内で発現量が変化しない内部標準遺 伝子を抽出する工程
(b) 工程(a)において抽出した内部標準遺伝子において、ある時間経過後のサンプル及 びコントロールを競合させて得た測定データ(Yc’)と、それ以前の時間における サンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Xc’)を 等しくする係数(A)を求める工程
(c) 工程(b)において得られた係数(A)を用いて目的とする遺伝子の各時間経過後の サンプル及びコントロールの測定データを補正する工程
を含む請求項1に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項4】
データを比較する工程が、
(a) 目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データ(Yc)を1として、目的とする遺 伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)の発現量比(B)を算出する工程
(b) 工程(a)において得られた発現量比(B)を用いて目的とする遺伝子のそれ以前の 時間における測定データ(Xc)を補正する工程
をさらに含む請求項1または3に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項5】
測定する試料がDNA、RNA、タンパク質、化学物質である請求項1〜4のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項6】
測定する試料が、化学処理されたサンプル及び無処理のコントロールである請求項1〜5のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項7】
化学処理がレチノイン酸またはカドミウムによる処理である請求項1〜6のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項8】
マイクロアレイ上の固定化されたプローブが、DNA、RNA、抗体、ペプチド、既知タンパク質の断片、化学物質である請求項1〜7のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項9】
マイクロアレイ上の固定化されたプローブが、初期発生段階の細胞のDNA、RNA、ペプチド、既知タンパク質の断片である請求項1〜8のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項10】
ラベル化した複数のプローブを、マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロール、または、経過時間の異なるコントロールとハイブリダイズさせることによって、該ラベル量を測定する生体活性の測定データの評価方法であって、以下の工程:
(a) プローブ毎にサンプル及びコントロール、または経過時間の異なるコントロールの生 体活性を経時的に測定し、データを得る工程、
(b) 得られたデータよりコントロールの経時的な発現量及びサンプルの経時的な発現量ま たはコントロール同士の経時的な発現量を比較する工程、
を含む前記マイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項11】
データを比較する工程が、サンプルの経時的な測定データとコントロールの基準時の測定データを比較する工程である請求項10に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項12】
データを比較する工程が、
(a) コントロールについてある時間経過後の測定データ(Yc)と、それ以前の時間にお ける測定データ(Xc)が等しく、時系列内で発現量が変化しない内部標準遺伝子を 抽出する工程
(b) 工程(a)において抽出した内部標準遺伝子において、ある時間経過後のサンプル及 びコントロールを競合させて得たコントロールの測定データ(Yc’)と、それ以前 の時間におけるサンプル及びコントロールを競合させて得たコントロールの測定デー タ(Xc’)を等しくする係数(A)を求める工程
(c) 工程(b)において得られた係数(A)を用いて目的とする遺伝子の各時間経過後の サンプル及びコントロールの測定データを補正する工程
を含む請求項10に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項13】
データを比較する工程が、
(a) 目的とする遺伝子のある時間経過後の測定データ(Yc)を1として、目的とする遺 伝子のそれ以前の時間における測定データ(Xc)の発現量比(B)を算出する工程
(b) 工程(a)において得られた発現量比(B)を用いて目的とする遺伝子のそれ以前の 時間における測定データ(Xc)を補正する工程
をさらに含む請求項10または12に記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項14】
マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロールが卵(あるいは胚)、細胞である請求項10〜13のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項15】
マイクロアレイ上の固定化されたサンプル及びコントロールが、化学処理されたサンプル及び無処理のコントロールである請求項10〜14のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。
【請求項16】
化学処理がレチノイン酸またはカドミウムによる処理である請求項10〜15のいずれかに記載のマイクロアレイを用いた測定データの評価方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−42701(P2006−42701A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−229931(P2004−229931)
【出願日】平成16年8月5日(2004.8.5)
【出願人】(504039742)
【出願人】(300050367)日立計測器サービス株式会社 (11)
【Fターム(参考)】