説明

マイクロカプセル製造装置および製造方法

【課題】カプセルに内包される芯物質とカプセル壁となる膜物質の量のばらつきがすくなく、かつ微量のマイクロカプセルを製造することができる装置の提供。
【解決手段】第1のピペットと第1のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第1の吐出部と、第2のピペットと第2のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第2の吐出部とを備え、第1の吐出部2と前記第2の吐出部は、第1のピペットと前記第2のピペットが交差するように配置されている、マイクロカプセル製造装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロカプセル生成装置および生成方法に関する。より詳細には、油性および/または水性の液体中に逆の性質の液体が内包されたマイクロカプセルを生成する装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、直径が数μm〜数百μmの微小容器の総称である。マイクロカプセルはカプセルに内包される芯物質とカプセル壁となる膜物質とによって構成される。その代表的な機能として、芯物質が液体でも、見かけ上固体として取り扱うことができる(形態改変)、芯物質との反応や混合を膜物質によって避けることができる(隔離効果)、芯物質の保存期間を延ばすことができる(保存効果)、芯物質の不安定要素を安定化できる(保護効果)、毒性、臭気および香料などを隠蔽できる(隠蔽効果)および芯物質の放出を抑制できる(放出抑制)などがある。
【0003】
近年これらの機能に注目して、化学産業、医療、製薬、バイオ産業、食品産業および化粧品産業などの様々な分野において、マイクロカプセル化技術が利用されている。利用例として、pHや温度変化により芯物質が変化する酵素を芯物質とするマイクロカプセル、熱感知器およびガス検知器などがある。また、マイクロカプセルを応用した製品が身近なものとなっている。よく知られているものでは、ペン先の圧力によって割れるマイクロカプセルを用いたノーカーボン紙や、ビフィズス菌を胃酸から守るためにマイクロカプセルに封入添加した食品などがある。また、一度に多量摂取すると悪い副作用がある医薬品をカプセルに封入し、必要なときに必要な部位へ必要な量の薬物を合理的に送り届け、長時間にわたってゆっくりと外部へ放出させることで薬の効果を持続させるドラッグ・デリバリー・システムといった医療分野におけるマイクロカプセルの利用、研究も進んでいる。
【0004】
現状のマイクロカプセルの製造方法には、化学的方法、物理化学的方法および機械的方法がある。現状の製造方法に共通する特徴は、単位時間あたりに製造できるカプセルの個数は多いが、直径や内包量のばらつきが大きい点である。特に、よく用いられる手法である化学反応をベースとしてカプセルを液中に生成させる方法では、直径や芯物質の内包量のばらつきが大きな問題点である(直径:100μm、ばらつき:数μm〜数10μm)。しかし、新薬のドラック・デリバリーなどでは極微小(直径1〜20μm程度)なカプセルを生成することが極めて重要である。
【0005】
化学的方法では、カプセルを大量生産することを前提としているため、希少性の高い物質を封入する場合、粒径および試薬の濃度などパラメータの異なるカプセルを多品種少量生産することに適さない。また、液性によって封入できない物質も存在する。
【0006】
バイオセンサ、ケミカルセンサ、表面実装の半導体素子の製造工程および遺伝子などの封入実験では、極微小(直径1〜50μm程度)のカプセルを特定の数で、直径や芯物質の内包量を一定にそろえて基板上の任意の位置に精密に据え付ける必要がある。しかし現状の製造方法では、カプセルの設置に別の装置やシステムが不可欠であるだけでなく、設置は極めて困難である。このため、大量のカプセルを消費することになり無駄が多い。精密に据え付けるために、精密にマニピュレーションする装置が必要とされる。自由にマイクロカプセルの直径や内包量をコントロールし、必要な個数だけ生成することが可能になる多品種少量生産に特化した精密マイクロカプセルの製造装置および位置決め装置が必要とされているが、それに対応できないのが現状の問題点である。さらにカプセルの生成と設置を一体化させた手法および装置がないことも現状の問題点である。
【0007】
マイクロカプセルの直径や芯物質内包量などの均一化が求められるのは、製品の物理的安定性および製品の品質安定性の向上が期待できるためである。しかし、現状のマイクロカプセル製法は、直径や芯物質内包量のばらつきが大きいため、均一なサイズ、任意サイズのカプセル生成は容易でない。
【0008】
この要求に応える新しい手法が特許文献1に開示されている。特許文献1は、第1の流体に導出口が接する流路内に第1の流体に比べて前記導出口との間の親和力が強い第2の流体を供給する工程と、流路内に第2の流体に比べて導出口との間の親和力が弱い第3の流体を供給する工程と、流路内において導出口に前記親和力により第2の流体を保持しながら、第3の流体を注入し、第2の流体内に第3の流体を内包させる複合型微粒子を形成する工程とを備えたことを特徴とする複合型微粒子の製造方法を開示している。上記工程により、2相エマルションが生成される。しかし、この方法では、芯物質および膜物質のパラメータ変更には柔軟に対応できず、多品種生産に適しているとは言えない。また、その製造に高度な技術が必要であり、製造コストも高い。さらに、流路が微小であるため、試験管やビーカーのように簡単に洗浄する事ができない。さらに、本法によっても、カプセルに内包される芯物質とカプセル壁となる膜物質の量のばらつきがすくなく、かつ微量のマイクロカプセルを製造することができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−272196号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、カプセルに内包される芯物質とカプセル壁となる膜物質の量のばらつきがすくなく、かつ微量のマイクロカプセルを製造することができる装置および方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、第1のピペットと前記第1のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第1の吐出部と、第2のピペットと前記第2のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第2のピペット内に保持された液状物を吐出するための第2のニードルとを備えた第2の吐出部とを備え、前記第1の吐出部と前記第2の吐出部は、前記第1のピペットと前記第2のピペットが交差するように配置されている、マイクロカプセル製造装置を提供する。
【0012】
また、本発明は、第1のピペットと前記第1のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された第1の液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第1の吐出部と、第2のピペットと前記第2のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第2のピペット内に保持された第2の液状物を吐出するための第2のニードルとを備えた第2の吐出部とを備え、前記第1のピペットが前記第1のニードルにより前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出した後、前記第2のピペットは、前記吐出された液状物の内部にその先端を差し込み、前記第2のピペット内に保持された液状物を吐出することにより、2相のマイクロカプセルを生成することができる、マイクロカプセル製造装置を提供する。
【0013】
また、本発明は、第1の液状物と第2の液状物は、第1の液状物が油性のときに、第2の液状物が水性であり、または第1の液状物が水性のときに、第2の液状物が油性である、上記マイクロカプセル製造装置を提供する。
【0014】
さらに、本発明は、第1のピペット内に保持された第1の液状物を吐出する工程と、前記吐出された第1の液状物の内部に、第2のピペットを差し込む工程と、前記第2のピペット内に保持された第2の液状物を第2の液状物の内部に吐出する工程とを含む、マイクロカプセル製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、前記第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出した後に、前記第1の液状物を固定する工程を更に含む、上記マイクロカプセル製造方法を提供する。
【0016】
また、第1の液状物と第2の液状物は、第1の液状物が油性のときに、第2の液状物が水性であり、または第1の液状物が水性のときに、第2の液状物が油性である、上記マイクロカプセル製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、カプセルに内包される芯物質とカプセル壁となる膜物質の量のばらつきがすくなく、かつ微量のマイクロカプセルを製造することができる。特に、本発明によれば、医薬品など、芯物質および膜物質の量を厳密に制御する必要がある用途に適したマイクロカプセルを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明のマイクロカプセル製造装置の一態様を示す模式図。
【図2】本発明のマイクロカプセル製造装置の一態様を示す模式図。
【図3】本発明のマイクロカプセル製造装置により2相マイクロカプセルを製造する手順の一態様を示す図。
【図4】本発明のマイクロカプセル製造装置の一態様のブロック図。
【図5】ピペットの台形動作に対する変位センサと動画解析結果の比較を示す図。
【図6】性能評価実験および単相エマルションの生成に用いたピペットおよびタングステン針の制御目標値波形を示す図。
【図7】変位センサGT2で測定した制御目標値波形に対する応答波形を示す図。
【図8】本発明のマイクロカプセル製造方法による単相エマルション生成過程を示す図(直径250μm)。
【図9】生成した単相エマルション40個の直径の変化を示す図(平均直径229μm)。
【図10】2相エマルションの生成に用いた内側ガラス管とタングステン針の制御目標値波形を示す図。
【図11】本発明のマイクロカプセル製造方法による単相エマルションの合体を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明のマイクロカプセル製造装置を、図面を参照して詳述する。図1は、本発明に従ったマイクロカプセル製造装置の一実施態様の模式図である。マイクロカプセル製造装置1は、第1の吐出部2および第2の吐出部7を備える。第1の吐出部2は、1軸ステージおよび先端部で構成される。同様に、第2の吐出部7も、1軸ステージおよび先端部で構成される。図2は、マイクロカプセル製造装置の1の第1の吐出部2および第2の吐出部7の先端部の模式図を示す。
【0020】
第1の吐出部2の先端部14は、第1のピペット3を備える。また、第1の吐出部2の先端部14は、第1のピペット3内を往復動可能に装着され、かつ第1のピペット3内に保持された液状物4を吐出するための第1のニードル5を備える。先端部14の第1のニードル5は、1軸ステージ6に取り付けられており、1軸ステージ6により第1のピペット3内を往復動される。
【0021】
一方、第2の吐出部7の先端部15は、第2のピペット8を備える。また、第2の吐出部7の先端部15は、第2のピペット8内を往復動可能に装着され、かつ第2のピペット8内に保持された液状物9を吐出するための第2のニードル10を備える。先端部15の第2のニードル10は、1軸ステージ11に取り付けられており、1軸ステージ11により第2のピペット8内を往復動される。
【0022】
本明細書において、「吐出する」とは、筒状容器からその内容物を出すことができることをいう。「保持する」とは、筒状容器内に液状物を貯めておくことができることをいう。また、本明細書において、ピペットは、液体をその中に保持することができ、かつその中に保持された液体を吐出することができる形状の任意のノズルを包含する。また、ピペットは、任意の材料で製造することができ、たとえばガラスピペットであることができる。
【0023】
一方、ニードルは、任意の材料のニードルであることができ、たとえばタングステン棒であることができる。また、ニードルは、上記ピペット内で往復動可能な大きさを有する。したがって、ニードルの外径は、ピペットの内径よりも大きくなければならない。
【0024】
ピペットおよびニードルの大きさは、製造するマイクロカプセルの大きさに応じて、適宜選択することができる。たとえば、以下の実施例に示したように、数100μmの直径を有するマイクロカプセルを製造する場合は、先端内径約90μmの直径を有するピペットを使用し、先端直径約70μmのニードルを使用することができる。
【0025】
図1では、ニードルおよびピペットが1軸ステージに取り付けられている例を示したが、ニードルは、任意の手段を使用してピペット内を往復動させることができる。たとえば、特開2008-191091および国際公開公報2010/018675に記載されたような装置により、ニードルを往復動させることができる。具体的には、大きな電圧を加えるほど大きな変位を示す圧電素子を駆動源として、変位拡大機構によってその変位が拡大されて出力される変位拡大機構付圧電アクチュエータなどのアクチュエータを使用することができる。1軸ステージとして変位拡大機構付圧電アクチュエータを使用する場合、アクチュエータに変位拡大機構を介してニードルを取り付けて、アクチュエータの圧電素子に加える電圧を変化させることにより、ニードルを往復動させることができる。同様に、ピペット自体も、ニードルと同様の手段によって往復動可能にすることができる。ピペットも、アクチュエータなどの任意の手段を使用して往復動させることができる。たとえば、特開2008-191091および国際公開公報2010/018675に記載されたような装置により、ピペットを往復動させることができる。したがって、ニードルは、ピペットと共に往復動すると共に、静止しているピペット内を往復動することができる。
【0026】
本発明のマイクロカプセル製造装置は、図3に示したように動作する。図3には、膜物質のための第1の液状物として水性溶液を使用し、芯物質のための第2の液状物として油性溶液を使用して、油層中にマイクロカプセルを製造するときの動作を示してある。
【0027】
第1のピペット3内には、膜物質のための第1の液状物4が保持されている。まず、図3左上段に示したように、第1のピペット3に接続された1軸ステージが移動することにより、第1のピペット3が油層中に差し込まれる。次いで、図3左中段に示したように、第1のニードル5に接続された1軸ステージが移動することにより、第1のニードル5が第1のピペット3の先端方向に移動する。第1のピペット3内に保持された液状物4は、第1のニードル5によって押し出されて、第1のピペット3の先端に吐出される。このとき、吐出された液状物4は、第1のピペット3の先端に付着したままの状態になる。
【0028】
次いで、第2のピペット8に接続された1軸ステージが移動することにより、第2のピペット8が油層中に差し込まれる。図3左下段に示したように、第2のピペット8は、その先端が、吐出された液状物4の内部に位置するように制御される。次いで、図3右上段に示したように、第2のニードル10に接続された1軸ステージが移動することにより、第2のニードル10が、第2のピペット8の先端方向に移動する。第2のピペット8内に保持された液状物10は、第2のニードル10によって押し出されて、第2のピペット8の先端に吐出される。
【0029】
上記のように液状物4および液状物10を吐出することにより、両ピペットの先端に2層のマイクロカプセルが形成される。マイクロカプセルが形成された後、各ピペットに接続された1軸ステージを移動することにより、油層からピペットを引き抜く。図3右中段および下段では、第2のピペット8を引き抜いた後、第1のピペット3を引き抜いているが、いずれの順序でピペットを引き抜いてもよい。
【0030】
上記のとおり、本発明のマイクロカプセル製造装置は、第1のピペット3および第2のピペット8の先端に2層のマイクロカプセルが形成される。したがって、第1のピペット3および第2のピペット8は、交差するように配置される。第1のピペット3および第2のピペット8を交差するように配置するために、任意の方法で両ピペットの移動位置を調整することができる。たとえば、それぞれの吐出部に微調整ねじを取り付けることにより、ピペットおよびニードルの先端の位置を微調整することができる。使用者は、目視または顕微鏡下でピペットおよびニードルの先端を確認し、微調整ねじを操作することによって、交差する配置に位置決めする。
【0031】
また、第1のピペット3および第2のピペット8は、任意の角度で交差するように配置することができる。たとえば、45°の角度で配置することができる。
【0032】
ピペットが油層から引き抜かれた後、各ニードルに接続された1軸ステージが移動することにより、ピペット内部のニードルが元の位置に戻る。ニードルがピペット先端から引き戻されると、ピペットの先端部に液状物が供給される。この状態において、2層のマイクロカプセルを形成するための一巡動作が終了する。ピペット内の液状物は、任意の方法を使用して供給することができる。たとえば、単にピペットに液状物供給のための流路を設けることにより、流路を介して液状物を供給することができる。また、特開2008-191091および国際公開公報2010/018675に記載されたような装置により、ピペット内に液状物を供給することができる。具体的には、国際公開公報2010/018675のように、本発明の吐出部を密閉された筐体内に設け、該筐体に設けられた空気孔から空気を挿入し、その圧力によって液状物を供給することができる。
【0033】
また、上記動作は、ステージ制御部からステージ制御信号を送出することにより、制御することができる。ステージ制御部から送出されるステージ制御信号は、各1軸ステージを制御する。ステージ制御信号は、所望の位置、回数および速度で、ピペットおよびニードルを位置決めするように制御信号を送出することができる。ステージ制御部は、パーソナルコンピュータなどのシステム制御ユニットによってユーザがデータ入力部から入力する入力データに基づいて制御される。
【0034】
複数のマイクロカプセルを製造する場合は、上記の工程を所定の回数繰り返すことにより所望の量のマイクロカプセルを得ることができる。たとえば、以下のような手順で処理することができる。
【0035】
ユーザは、データ入力部からピペットおよびニードルの往復動を制御するための初期設定条件および処理指令を入力する。次いで、マイクロカプセル製造処理手順に入ると、データ入力部から入力される入力データに基づいて、ステージ制御部に対してピペットおよびニードルの位置決め情報が与えられる。このとき、入力データは、所定のメモリに保存されていてもよい。続いて、初期設定条件に入力された条件に基づくステージ制御信号を各1軸ステージに与える。ステージ制御部は、ピペットおよびニードルを初期設定された速度で往復動させる。上記処理を全ての指定量のマイクロカプセルが得られるまで繰り返す。
【0036】
上記の説明では、膜物質のための第1の液状物として水性溶液を使用し、芯物質のための第2の液状物として油性溶液を使用して、油層中にマイクロカプセルを製造するときの動作を示した。しかし、第1の液状物および第2の液状物は、それぞれ膜物質および芯物質を形成することができる任意の材料であることができる。たとえば、膜物質のための第1の液状物および芯物質のための第2の液状物は、望まれるマイクロカプセルの機能および特性などに応じて、いずれか一方が油性であり、かつ他方が水性であれば、いずれの性質の液状物も使用することができる。たとえば、膜物質のための第1の液状物として油性溶液を使用し、芯物質のための第2の液状物として水性溶液を使用することができる。この場合、各ピペットを水層中に差し込んで、水層中でマイクロカプセルが製造される。逆に、膜物質のための第1の液状物として水性溶液を使用し、芯物質のための第2の液状物として油性溶液を使用する場合、各ピペットを油層中に差し込んで、油層中でマイクロカプセルが製造される。
【0037】
また、上記方法によって製造したマイクロカプセルは、第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出した後に、第1の液状物を固定することもできる。これにより、液状ではなく、軟および硬カプセルとしてマイクロカプセルを製造することができる。このように、製造されたマイクロカプセルを軟および硬カプセルとして加工するための材料および方法は、当業者に任意の材料および方法を使用することができる。
【0038】
一方、本発明は、マイクロカプセル製造方法を提供する。本発明のマイクロカプセル製造方法は、第1のピペット内に保持された第1の液状物を吐出する工程と、吐出された第1の液状物の内部に、第2のピペットを差し込む工程と、第2のピペット内に保持された第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出する工程とを含む。また、本発明のマイクロカプセル製造方法は、第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出した後に、第1の液状物を固定する工程を更に含んでいてもよい。本発明のマイクロカプセル製造方法は、上記マイクロカプセル製造装置を使用して実施することができる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明のマイクロカプセル製造装置および製造方法による、2相マイクロカプセルの製造例を示す。図3に示した実験装置を設計および製作した。
【0040】
装置の構成部品
・接触式変位センサ
・リニアアクチュエータ
・リニアスライド(70mm)×2
・ピペット保持部品×2
・タングステン針保持部品×2
・XYZθ精密ステージ×2。
【0041】
本発明のマイクロカプセル製造装置の構造
ピペット保持部品とタングステン保持部品をリニアスライドに取り付け、これをリニアアクチュエータで駆動する。本装置では、リニアスライドを採用した事でガタの小さい直線駆動が可能になった。リニアアクチュエータの動きは、接触式変位センサで計測する。非接触式のリニアエンコーダではなく、接触式変位センサを採用したことで、センサヘッドとガラススケールの位置調整を行う必要がなくなった。接触式変位センサの測定分解能は0.5μm、測定精度は2μmである。変位の出力方式は、AB相方式のものにした。これは、非接触式のリニアエンコーダとの互換性を持たせるためである。また、制御性を損なわないようにするため、低測力タイプを採用した。これらを組み合わせたユニットを2組製作し、それぞれを4自由度(XYZθ)の精密ステージに取り付けた。また、本装置では油層を形成するディスポセルの位置調整もできるようにした。ディスポセル保持部品は、3自由度(XYZ)の精密ステージと接続されている。
【0042】
本発明のマイクロカプセル製造装置のブロック図
図4に本装置のブロック図を示す。制御ボードに搭載しているマイクロコントローラが位置制御を行っている。この制御ループに対して、PCからのアナログ電圧を制御目標値として、与える。この方法は、針先付着法実験装置と同様である。
【0043】
観察方法
高速度カメラ顕微鏡を使用した。本装置をフリーアングル観察システムに搭載し、側面から高速度カメラ顕微鏡で観察する。
【0044】
本発明のマイクロカプセル製造装置の性能評価実験
製作した本発明のマイクロカプセル製造装置が、必要な性能を満たしているかを評価する。評価は2段階に分けて行う。まず、変位センサがピペット(タングステン針)先端の動作を正しく測定できているかを評価する。次に、PCから与えた制御目標に対し、十分に追従できているかを評価する。
【0045】
変位センサ出力と高速度カメラ顕微鏡による動画解析の比較
実験の目的
本発明のマイクロカプセル製造装置では、接触式変位センサを用いてピペットおよびタングステン針の変位を測定している。本来、変位センサのヘッドを当てる部位は、ピペット保持部品およびタングステン保持部品にできるだけ近い事が望ましい。しかし実際には、物理干渉による制限からリニアアクチュエータとリニアスライドの連結部分に変位センサのヘッドを当て、この部分の変位をピペットおよびタングステン針の変位としている。この結果、アッペ誤差や組み付け誤差の影響を受けると推定される。これら誤差の影響がどの程度あるか検証を行う。
【0046】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ
・タングステン針(先端直径φ70[μm]) ・ピペット(先端内径φ90[μm])。
【0047】
実験方法
制御ボードのPIDゲインをそれぞれP=2、I=2、D=2として、モータの電源電圧は、22Vとした。制御目標として最大変位3mmの台形波を与え、その動作を2種類の方法で測定し比較する。
【0048】
1つ目の測定方法は接触式変位センサである。変位センサからのAB相出力はPCので計測され、その値を取得し、グラフ化する。
【0049】
2つ目の測定方法は、動画解析ソフトを使い、高速度カメラ顕微鏡によって撮影した動画を解析する方法である。高速度カメラ顕微鏡でピペットの先端部分の動きを撮影し、その動画の解析結果をグラフ化した。ただし、測定結果の比較を容易にするため、顕微鏡のカメラ45°傾けて撮影している。
【0050】
実験結果と考察
最大変位3mmの台形駆動を行い、ガラス管先端を追尾した。図5に2つの測定方法によって得られた結果を示す。2つの測定結果は十分に一致している。この結果から、変位センサの測定結果をガラス管先端の動きと見なしても問題無い事が示された。
【0051】
制御目標値と変位センサ出力の比較
実験の目的
PCから制御ボードへ与える制御目標値波形とそれに対する応答波形を比較し、ピペットおよびタングステン針が意図した動作をしているかを評価する。
【0052】
本実験システムの目的はピペットおよびタングステン針の動作タイミングを操作し、エマルション生成を行う事である。したがって、制御目標値波形に対し、時間的な遅れなく追従する事よりも、ピペットおよびタングステン針の相対的な位置関係が重要になる。本実験ではこの点に特に注目する。
【0053】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ
・タングステン針(先端直径φ70[μm]) ・ピペット(先端内径φ90[μm])。
【0054】
実験方法
制御ボードのPIDゲインを調節し、それぞれP=2、I=2、D=2とした。モータの電源電圧は22Vとした。制御目標値波形として図5を与え、これに対する応答を変位センサで測定し比較する。図6は、単相エマルション生成に用いる制御目標値波形でもある。
【0055】
実験結果と考察
図7に応答波形を示す。図6の制御目標値波形と比較すると、動作の時間的遅れは約0.05秒あるが、ガラス管とタングステン針の相対的な位置関係は制御目標値波形と十分に一致している。よって、ガラス管およびタングステン針が意図した動作をしていると確かめられた。
【0056】
本発明のマイクロカプセル製造装置による単相エマルション生成実験
実験目的
本発明のマイクロカプセル製造装置では、ピペットおよびタングステン針に45°の傾斜を付けて配置している。この状態で単相エマルションの生成が可能であるかを検証する。
【0057】
実験方法
芯物質用ピペットに精製水を充填し、45°の傾斜を付けて配置する。タングステン針の先端は、エタノールで洗浄した。図6に示した制御目標値波形を用いて単相エマルションの生成を行う。
【0058】
図6に示した制御目標値波形の波形は、以下の動作を意味する。タングステン針先端の初期位置を基準(0mm)として、ピペット先端の初期位置を‐1.5mmとする。つまり、初期位置のギャップが1.5mm存在する。まず、ピペットを移動軸方向に3mm下ろし、次にタングステン針を4.5mm下ろす。よって、タングステン針はピペットよりも1.5mm余分に変位する。したがって、初期位置のギャップである1.5mmのピペット内部の空間に閉じ込められた液体が油層に押し出される。
【0059】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ
・タングステン針(先端直径φ70μm) ・ピペット(先端内径φ90μm)
・ディスポセル ・精製水 ・サラダ油 ・界面活性剤。
【0060】
実験結果
図8に示すように、直径250μm単相エマルション生成に成功した。ピペットおよびタングステン針に45°の傾斜を付けた状態でも単相エマルションの生成が可能である事が確かめられた。なお、図8において、単相エマルションの外周が黒く見えるのは、透明な精製水によって構成された単相エマルションが球レンズの機能を果たしているためである。
【0061】
マイクロカプセル製造装置による単相エマルション連続生成実験
実験目的
本発明のマイクロカプセル製造方法では、ピペットおよびタングステン針に45°の傾斜を付けて配置している。この状態で単相エマルションの連続生成が可能であるかを検証する。
【0062】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ(VH-Z50L)
・タングステン針(先端直径φ70μm) ・ピペット(先端内径φ90μm)
・ディスポセル ・精製水 ・サラダ油 ・界面活性剤。
【0063】
実験方法
芯物質用ピペットに精製水を充填し、これをタングステン針で押し出す動作を繰り返し、油層に単相エマルションを連続生成する。ピペットとタングステン針の制御目標値波形には図6に示したものを使用する。制御目標値波形を3秒周期で与え、その様子を高速度カメラ顕微鏡で観察する。
【0064】
実験結果と考察
本発明のマイクロカプセル製造装置による単相エマルションの連続生成に成功した。
【0065】
連続生成した単相エマルションの直径測定実験
実験目的
生成された単相エマルションの直径にどの程度ばらつきがあるかを検証する。本実験における単相エマルションは、本発明のマイクロカプセル製造方法において、2相エマルション生成を行う際の芯物質および膜物質の量にどの程度のばらつきが発生するかの指標になる。
【0066】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ
・タングステン針(先端直径φ70μm) ・ピペット(先端内径φ90μm)
・ディスポセル ・精製水 ・サラダ油 ・界面活性剤。
【0067】
実験結果と考察
生成した単相エマルション40個の直径の変化を測定した。平均直径は229μmであり、直径のばらつきは±15%以内であった。図9より単相エマルションの直径は、徐々に小さくなっている事がわかる。これは、単相エマルションの生成が終わり、タングステン針を内側ピペット内部へ引き戻す際、吸引効果が発生し、油層のサラダ油が内側ピペットに侵入したためと推測される。同時に、毛細管現象を原因とする内側ピペットへのサラダ油の侵入も起きていると推測される。つまり、ピペットを油層から引き抜いた後、ピペット先端付近に付着したサラダ油が毛細管現象により、ピペット内部へ侵入する現象が発生していると考えられる。
【0068】
このうち、吸引効果に起因する侵入は、内側ピペット先端を油層から十分に引き抜いてからタングステン針を引き戻す事で回避できると考えられる。ただし、ピペットを引き抜く際、表面張力の影響を受け、約700μm油面がもり上がる事に注意しなければならない。
【0069】
本発明のマイクロカプセル製造方法による単相エマルションの合体実験
実験目的
マイクロカプセル製造装置の右側と左側のユニットそれぞれで精製水による単相エマルションの生成を行い、どのような条件で2つの単相エマルションの合体が可能か検証する。単相エマルションの合体に成功すれば、その条件(制御目標値波形、ピペットおよびタングステン針の初期位置など)を用いて、V字独立注射法による2相エマルション生成が可能だと推定される。
【0070】
実験方法
膜物質用ピペットに精製水を充填し、芯物質用ピペットにも精製水を充填する。どちらのピペットも45°の傾斜を付けて配置する。タングステン針の先端はエタノールで洗浄した。制御目標値波形を用いて2相エマルションの生成を行う。図10に示した制御目標値波形を用いて2相エマルションの生成を行う。図10の意味するガラス管およびタングステン針の動作は以下に述べる。タングステン針の初期位置を基準(0mm)とする。まず、膜物質用ピペットとタングステン針を用いて油層に膜物質の球体を作り、その場に静止する。次に、芯物質用のピペットが膜物質の球体を突き刺し、芯物質用タングステン針が芯物質を押し出す。その結果、膜物質の球体内部に芯物質が充填される。本実験では、左右どちらのピペットにも精製水を充填しているため、油層で2つの単相エマルションが合体する事が期待される。
【0071】
実験装置
・マイクロカプセル製造装置 ・制御ボード
・PC
・直流安定化電源(22V) ・高速度カメラ顕微鏡
・フリーアングル観察システム ・レンズ
・タングステン針(先端直径φ70μm) ・ピペット(先端内径φ90μm)
・ディスポセル ・精製水 ・サラダ油 ・界面活性剤。
【0072】
実験結果と考察
図11に示すように、本発明のマイクロカプセル製造方法による単相エマルションの合体に成功した。
【0073】
本発明のマイクロカプセル製造方法の原理および装置の構成により、単相エマルション生成および単相エマルションの合体に成功した。この結果、V字独立注射法による2相エマルション生成が可能である事が示された。また、本発明のマイクロカプセル製造方法は、吸引動作を含まないので、再現性の高い2相エマルション製造方法として期待できる。
【符号の説明】
【0074】
1……マイクロカプセル製造装置、2……第1の吐出部、3……第1のピペット、4……液状物、5……第1のニードル、6……1軸ステージ、7……第2の吐出部、8……第2のピペット、9……液状物、10……第2のニードル、11……1軸ステージ、12……芯物質、13……膜物質、14……先端部、15……先端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のピペットと前記第1のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第1の吐出部と、
第2のピペットと前記第2のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第2のピペット内に保持された液状物を吐出するための第2のニードルとを備えた第2の吐出部と、
を備え、前記第1の吐出部と前記第2の吐出部は、前記第1のピペットと前記第2のピペットが交差するように配置されている、マイクロカプセル製造装置。
【請求項2】
第1のピペットと前記第1のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第1のピペット内に保持された第1の液状物を吐出するための第1のニードルとを備えた第1の吐出部と、
第2のピペットと前記第2のピペット内を往復動可能に装着され、かつ前記第2のピペット内に保持された第2の液状物を吐出するための第2のニードルとを備えた第2の吐出部と、
を備え、
前記第1のピペットが前記第1のニードルにより前記第1のピペット内に保持された液状物を吐出した後、前記第2のピペットは、前記吐出された液状物の内部にその先端を差し込み、前記第2のピペット内に保持された液状物を吐出することにより、2相のマイクロカプセルを生成することができる、マイクロカプセル製造装置。
【請求項3】
第1の液状物と第2の液状物は、第1の液状物が油性のときに、第2の液状物が水性であり、または第1の液状物が水性のときに、第2の液状物が油性である、請求項1または2に記載のマイクロカプセル製造装置
【請求項4】
第1のピペット内に保持された第1の液状物を吐出する工程と、
前記吐出された第1の液状物の内部に、第2のピペットを差し込む工程と、
前記第2のピペット内に保持された第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出する工程と、
を含む、マイクロカプセル製造方法。
【請求項5】
前記第2の液状物を第1の液状物の内部に吐出した後に、前記第1の液状物を固定する工程を更に含む、請求項4に記載のマイクロカプセル製造方法。
【請求項6】
第1の液状物と第2の液状物は、第1の液状物が油性のときに、第2の液状物が水性であり、または第1の液状物が水性のときに、第2の液状物が油性である、請求項4または5に記載のマイクロカプセル製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2012−50942(P2012−50942A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−196563(P2010−196563)
【出願日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【出願人】(505246066)株式会社アプライド・マイクロシステム (7)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】