説明

マイクロコネクタ

【課題】 耐圧性を向上することができると共にデッドボリュームを低減することができる脱着容易なマイクロコネクタを提供する。
【解決手段】 マイクロ化学システム100は、流路11を有するマイクロ化学チップ12と、流路11に送液すべく流路11の導入口11aに挿入された送液チューブ13と、マイクロ化学チップ12と送液チューブ13とを接続すると共にマイクロ化学チップ12を固定するマイクロコネクタ10とを備える。マイクロコネクタ10は、送液チューブ13の外周面13aを保持すべくマイクロ化学チップ12上に配置されたハウジング14と、ハウジング14からの圧力により変形して、マイクロ化学チップ12の表面12a及び送液チューブ13の外周面13aを同時に押圧すべくハウジング14及びマイクロ化学チップ12間に配置された略円錐形のフェラル15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロコネクタに関し、特に、マイクロ化学チップと送液チューブとを接続するマイクロコネクタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学反応の高速性や微少量での反応、オンサイト分析等の観点から、化学反応を微小空間で行うための集積化技術が注目されており、小さなガラス基板等に形成した微細な流路の中で液中試料の混合、反応、分離、抽出、検出等を行うことを目的としたマイクロ化学チップの開発が進められている。このようなマイクロ化学チップにおいて扱う液体試料の容量は非常に少ないので、マイクロ化学チップ用のマイクロコネクタは小容量の液体試料を扱う必要がある。このようなマイクロ化学システム用のマイクロコネクタとして、図8に示すように、マイクロ化学チップ81と送液チューブ82とを接続するマイクロコネクタ80が実用化されている。このマイクロコネクタ80は、ハウジング83とOリング84とから成る。また、送液チューブ82は接着剤86によりハウジング83に固定されている。
【0003】
上述した従来のマイクロ化学システム800においては、送液チューブ82を接着剤86によりハウジング83に固定する必要があり、この送液チューブ82とハウジング83との接着に手間がかかる。また、送液チューブ82とハウジング83とを接着した後にネジ留めするため、送液チューブ82が回転してねじれが生じる。また、耐薬品性を向上すべくハウジング83の材料としてテフロン(登録商標)が使用されていると、接着剤85,86の接着力が低くなってしまう。また、Oリング84を使用しているため、耐圧性が低く、液漏れが起こり易くデッドボリュームが大きくなる。
【0004】
そこで、Oリングを使用しないマイクロ化学システム900(図9)が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2005−43188号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記マイクロ化学システム900においては、送液チューブ92を予め加工する必要があるため、使い易さやコストの面で問題がある。また、送液チューブ92の先端がフィット93を介してマイクロ化学チップ91の表面91aと接触しているため、デッドボリュームが生じてしまう。
【0006】
本発明の目的は、耐圧性を向上することができると共にデッドボリュームを低減することができる脱着容易なマイクロコネクタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、請求項1記載のマイクロコネクタは、流路を有するマイクロ化学チップと前記流路に送液する送液チューブとを接続するマイクロコネクタにおいて、前記マイクロ化学チップ上に配置されたハウジングと、前記ハウジングからの圧力により変形して、前記マイクロ化学チップの表面及び前記送液チューブの外周面を同時に押圧すべく前記ハウジング及び前記マイクロ化学チップ間に配置されたフェラルとを備えることを特徴とする。
【0008】
請求項2記載のマイクロコネクタは、請求項1記載のマイクロコネクタにおいて、前記フェラルは前記送液チューブの外周面のうち少なくとも前記マイクロ化学チップの表面に最も近い部分を押圧することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載のマイクロコネクタは、請求項1又は2記載のマイクロコネクタにおいて、前記送液チューブが前記流路の導入口に挿入されることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載のマイクロコネクタは、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマイクロコネクタにおいて、前記フェラルは略円錐形であることを特徴とする。
【0011】
請求項5記載のマイクロコネクタは、請求項4記載のマイクロコネクタにおいて、前記ハウジングは前記フェラルを挿入するためのラッパ状開口部を有し、前記ラッパ状開口部における角度が前記フェラルにおける角度よりも小さいことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
請求項1記載のマイクロコネクタによれば、ハウジング及びマイクロ化学チップ間に配置されたフェラルがハウジングからの圧力により変形して、マイクロ化学チップの表面及び送液チューブの外周面を同時に押圧するので、耐圧性を向上することができると共にデッドボリュームを低減することができ、また、脱着も簡単である。
【0013】
請求項2記載のマイクロコネクタによれば、フェラルがマイクロ化学チップの表面に最も近い部分を押圧するので、デッドボリュームを確実に低減することができる。
【0014】
請求項3記載のマイクロコネクタによれば、送液チューブが流路の導入口に挿入されているので、デッドボリュームをさらに低減することができる。
【0015】
請求項4記載のマイクロコネクタによれば、フェラルは略円錐形のテフロン(登録商標)から成るので、耐薬品性を向上することができる。
【0016】
請求項5記載のマイクロコネクタによれば、フェラルを挿入するためのラッパ状開口部における角度がフェラルにおける角度よりも小さいので、フェラルが送液チューブを押さえつける部分をマイクロ化学チップ側に移行することができ、もって液漏れを防止しデッドボリュームをさらに低減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、ハウジング及びマイクロ化学チップ間に配置されたフェラルがハウジングからの圧力により変形して、マイクロ化学チップの表面及び送液チューブの外周面を同時に押圧すると、耐圧性を向上することができると共にデッドボリュームを低減することができ、また、脱着も簡単であることを見出した。
【0018】
本発明は、上記研究の結果に基づいてなされたものである。
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係るマイクロコネクタを図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1(a)は、本発明の実施の形態に係るマイクロコネクタの構成を概略的に示す断面図である。
【0021】
図1(a)において、マイクロ化学システム100は、流路11を有するマイクロ化学チップ12と、流路11に送液すべく流路11の導入口11aに挿入された送液チューブ13と、マイクロ化学チップ12と送液チューブ13とを接続すると共にマイクロ化学チップ12を固定するマイクロコネクタ10とを備える。ここで、送液チューブ13には、耐薬品性等の観点から、PEEK(ポリエーテル・エーテル・ケトン)が用いられる。
【0022】
マイクロコネクタ10は、送液チューブ13の外周面13aを保持すべくマイクロ化学チップ12上に配置されたハウジング14と、ハウジング14からの圧力により変形して、マイクロ化学チップ12の表面12a及び送液チューブ13の外周面13aを同時に押圧すべくハウジング14及びマイクロ化学チップ12間に配置された略円錐形のフェラル15とを備える。ハウジング14には、耐食性及び剛性等の観点から、SUS(鉄−ニッケル−クロム合金、又は鉄−クロム合金)が用いられ、フェラル15には、耐薬品性及び弾性等の観点から、フッ素製樹脂、特にテフロン(登録商標)が用いられる。ここで、フェラル15は、圧力により変形する物質であれば何であってもよく、弾性体のみならず塑性変形するもの、例えば、PEEK等のプラスチックであってもよい。
【0023】
ハウジング14及びマイクロ化学チップ12間の距離を縮めることによって、フェラル15がマイクロ化学チップ12の表面12aを押圧してフェラル15及びマイクロ化学チップ12間がシールされる。さらに、ハウジング14及びマイクロ化学チップ12間の距離を縮めることによって、フェラル15が変形して送液チューブ13の外周面13aを押圧し、フェラル15及び送液チューブ13間がシールされる。即ち、フェラル15は、ハウジング14からの圧力により変形して、マイクロ化学チップ12の表面12a及び送液チューブ13の外周面13aを同時に押圧する。
【0024】
なお、フェラル15は送液チューブ13の外周面13aのうち少なくともマイクロ化学チップ12の表面12aに最も近い部分13bを押圧することを要する。
【0025】
また、図1(a)では、マイクロコネクタ10がマイクロ化学チップ12の表面12a上に装着されているが、図1(b),(c)に示すように、マイクロコネクタ10がマイクロ化学チップ12の側面12b上にホルダ(不図示)を介して装着されていてもよい。
【0026】
図2は、図1におけるマイクロコネクタ10の構成を概略的に示す断面図である。
【0027】
図2において、ハウジング14はラッパ状開口部14aを有し、このラッパ状開口部14aに略円錐形のフェラル15が挿入されてマイクロコネクタ10が形成される。なお、ラッパ状開口部14aにおける角度aは45°であり、フェラル15における角度bは52°である。
【0028】
図3は、図1のマイクロコネクタ10の変形例の構成を概略的に示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は斜視図であり、(c)はチップホルダに装着された場合の斜視図である。
【0029】
図3において、ハウジング14の外周部にはM4のネジ14bが切ってあり、このネジ14bをチップホルダ31のネジ受け32(図3(c))にねじ込むことによって、ハウジング14をマイクロ化学チップ12側に押し込み、フェラル15に圧力をかける構造になっている。
【0030】
本実施の形態によれば、ハウジング14及びマイクロ化学チップ12間に配置されたフェラル15がハウジング14からの圧力により変形して、マイクロ化学チップ12の表面12a及び送液チューブ13の外周面13aを同時に押圧するので、耐圧性を向上することができると共に液体試料が入る空間を小さくしてデッドボリュームを低減することができる。なお、耐圧性を向上することができるのは、フェラル15が送液チューブ13及びマイクロ化学チップ12に対して、線ではなく面で接触しているからである。
【0031】
本実施の形態に係るマイクロコネクタ10における圧力(MPa)に対する累積不良率(%)の関係(図4における直線A)より、本実施の形態に係るマイクロコネクタ10は、7.5MPa程度での累積不良率(%)が約10%であり、耐圧性が高いことが分かる。
【0032】
また、図5に示すように、マイクロ化学チップ52の流路51の両端に、本実施の形態に係るマイクロコネクタ10(図1)又は従来のコネクタ80(図8)を介してチューブ53a,53bを接続し、一方のチューブ53aにはシリンジポンプ54を接続し、他方のチューブ53bには圧力計55を接続した。シリンジポンプ54から流速10μL/minで水を流し、マイクロコネクタ又は従来のコネクタから水が漏れた瞬間の圧力計55の最大値を記録し、この記録した値、即ち耐圧値(kgf/cm)を表1に示す。なお、本実施の形態に係るマイクロコネクタ(図1)については測定を15回行い、従来のコネクタ(図8)については測定を5回行い、1回の測定毎に部品(図5)は新しいものと交換した。
【0033】
【表1】

【0034】
表1より、本実施の形態に係るマイクロコネクタの平均耐圧値は94.6kgf/cmであり、従来のマイクロコネクタの平均耐圧値は52.5kgf/cmであり、本実施の形態に係るマイクロコネクタの平均耐圧値は従来のマイクロコネクタの平均耐圧値の約1.8倍であることが分かる。
【0035】
また、図6に示す実験系を組み1μLの試料(Ni色素水溶液)を純水(5μL/分)にインジェクトしたときの熱レンズ信号変化について、本実施の形態に係るマイクロコネクタ10(図7(a))と従来のマイクロコネクタ(図7(b))とを比較することにより、本実施の形態に係るマイクロコネクタ10はデッドボリュームが少ないことが分かる。
【0036】
本実施の形態に係るマイクロコネクタ10によれば、接着剤を使う必要をなくすことができ、もって使いやすい単純な構造にすることができると共にコストを安くすることができる。
【0037】
本実施の形態に係るマイクロコネクタ10によれば、液体試料と接触する接液部が、ガラス製のマイクロ化学チップ12と、PEEK製の送液チューブ13と、テフロン(登録商標)製のフェラル15とから成るので、耐薬品性を向上することができる。
【0038】
本実施の形態では、送液チューブ13は流路11の導入口11aに挿入されて突き差されているが、これに限定されるものではなく、送液チューブ13の先端面13bがマイクロ化学チップ12の表面12a(フェラル15の底面15b)と同一面に位置していてもよい。但し、送液チューブ13を流路11の導入口11aに挿入して突き差した場合の方が、送液チューブ13の先端面13cがマイクロ化学チップ12の表面12a(フェラル15の底面15b)と同一面に位置する場合よりも、デッドボリュームをより低減することができる。
【0039】
本実施の形態では、ラッパ状開口部14aにおける角度aは45°であり、フェラル15における角度bは52°であるが、これに限定されるものではなく、角度aを角度bよりも小さくすればよい。これにより、フェラル15が送液チューブ13を押さえつける部分をマイクロ化学チップ12側に移行することができ、もってデッドボリュームをより低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の実施の形態に係るマイクロコネクタの構成を概略的に示す図であり、(a)は断面図であり、(b)はマイクロ化学チップの側面に装着された場合の断面図であり、(c)はマイクロ化学チップの側面に装着された場合の平面図である。
【図2】図1におけるマイクロコネクタの構成を概略的に示す断面図である。
【図3】図1のマイクロコネクタの変形例の構成を概略的に示す図であり、(a)は断面図であり、(b)は斜視図であり、(c)はチップホルダに装着された場合の斜視図である。
【図4】図1のマイクロコネクタについての耐圧試験結果を示すグラフであり、縦軸が累積不良率(%)を示し、横軸が圧力(MPa)を示す。
【図5】耐圧評価実験系を示す図である。
【図6】デッドボリューム評価実験系を示す図である。
【図7】図6のデッドボリューム評価実験系の評価実験結果を示すグラフであり、(a)は本発明の実施の形態に係るのマイクロコネクタのデッドボリューム評価実験結果を示し、(b)は従来のマイクロコネクタのデッドボリューム評価実験結果を示す。
【図8】従来のマイクロコネクタの構成を概略的に示す断面図である。
【図9】従来のマイクロコネクタの他の構成を概略的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0041】
10 マイクロコネクタ
11 流路
11a 導入口
12 マイクロ化学チップ
12a 表面
13 送液チューブ
13a 外周面
14 ハウジング
15 フェラル
100 マイクロ化学システム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路を有するマイクロ化学チップと前記流路に送液する送液チューブとを接続するマイクロコネクタにおいて、前記マイクロ化学チップ上に配置されたハウジングと、前記ハウジングからの圧力により変形して、前記マイクロ化学チップの表面及び前記送液チューブの外周面を同時に押圧すべく前記ハウジング及び前記マイクロ化学チップ間に配置されたフェラルとを備えることを特徴とするマイクロコネクタ。
【請求項2】
前記フェラルは前記送液チューブの外周面のうち少なくとも前記マイクロ化学チップの表面に最も近い部分を押圧することを特徴とする請求項1記載のマイクロコネクタ。
【請求項3】
前記送液チューブは前記流路の導入口に挿入されることを特徴とする請求項1又は2記載のマイクロコネクタ。
【請求項4】
前記フェラルは略円錐形であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマイクロコネクタ。
【請求項5】
前記ハウジングは前記フェラルを挿入するためのラッパ状開口部を有し、前記ラッパ状開口部における角度が前記フェラルにおける角度よりも小さいことを特徴とする請求項4記載のマイクロコネクタ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2007−21366(P2007−21366A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−207249(P2005−207249)
【出願日】平成17年7月15日(2005.7.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成17年5月23日 独立行政法人産業技術総合研究所九州センター発行の「第11回 化学とマイクロ・ナノシステム研究会 講演予稿集」に発表
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】