説明

マイクロチップ、このマイクロチップを用いた液体の混合方法及び血液検査方法

【課題】粘度・比重・容量比が異なる一定量の複数の液体を簡便に混合できるマイクロチップ、そのマイクロチップを用いた混合方法を提供する。
【解決手段】流路基板と、流路基板に形成され、複数の液体を導入するための投入ポートと、投入ポートに導入された複数の液体を混合させつつ流動させる流路と、流路に連通し、該流路内の雰囲気を減圧する際に、減圧手段が接続可能な減圧ポートとを備え、流路には、液体が流動する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい第1流路部と、第1流路部より断面積が小さい第2流路部とが交互に形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ、このマイクロチップを用いた混合方法及び血液検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数の液体を混合させる技術としては、例えば、下記特許文献1から3に示すものがある。
【0003】
【特許文献1】特開2001−120972号公報
【特許文献2】特開2002−346355号公報
【特許文献3】特開2003−1077号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1から3に記載の方法は、粘度・比重・容量比が異なる2液を混合するには適さない。また、連続的な送液による混合であり、一定量(連続的な混合ではなく、ある一定量。例えば合計20μL)を混合するという使用目的には適さない。例えば、血液検査において、微小量の血液と希釈液とを混合させる場合には、上記の方法では均一に混合することができない。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、粘度・比重・容量比が異なる一定量の複数の液体を簡便に混合することができるマイクロチップ、そのマイクロチップを用いた混合方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の上記目的は、下記によって達成される。
(1) 流路基板と、前記流路基板に形成され、複数の液体を導入するための投入ポートと、前記投入ポートに導入された前記複数の液体を混合させつつ流動させる流路と、前記流路に連通し、該流路内の雰囲気を減圧する際に、減圧手段が接続可能な減圧ポートとを備え、前記流路には、前記液体が流動する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい第1流路部と、前記第1流路部より断面積が小さい第2流路部とが交互に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。
(2) 前記第1流路部の断面積が前記第2の流路部の断面積に対して2倍以上であることを特徴とする上記(1)に記載のマイクロチップ。
(3) 前記第1流路部の容積が前記複数の液体全体の体積の80%以上であることを特徴とする上記(1)又は(2)に記載のマイクロチップ。
(4) 前記第1流路部における前記液体の流れる方向に平行な方向の長さが、前記第2流路部における前記液体の流れる方向に平行な方向の長さに対して0.1〜10倍であることを特徴とする上記(1)から(3)のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
(5) 前記流路の底面の角部が流路幅の10%以上の曲率半径を有することを特徴とする上記(1)から(4)のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
(6) 前記投入ポートが1つであることを特徴とする上記(1)から(5)のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
(7)
前記複数の液体が前記流路を往復移動することを特徴とする上記(1)から(6)のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
(8) 上記(1)から(7)のいずれか1つに記載のマイクロチップを用いて複数の液体を混合することを特徴とする液体の混合方法。
(9) 前記複数の液体のうち少なくとも1種類の被混合液を投入ポートに予め入れておくことを特徴とする上記(8)に記載の液体の混合方法。
(10) 上記(1)から(7)のいずれか1つに記載のマイクロチップを用いて血液と希釈液とを混合することを特徴とする血液検査方法。
(11) 流路基板と、前記流路基板に形成され、複数の液体を導入するための投入ポートと、前記投入ポートに導入された前記複数の液体を混合させつつ流動させる流路とを備え、前記流路内の雰囲気を加圧する際に、前記投入ポートに加圧手段が接続可能であって、前記流路には、前記液体が流動する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい第1流路部と、前記第1流路部より断面積が小さい第2流路部とが交互に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。
【0007】
本発明に係るマイクロチップは、投入ポートに混合の対象となる複数の液体を入れ、減圧ポートに減圧手段を接続して流路内の雰囲気を加圧又は減圧することで、投入ポートに導入された複数の液体がともに流路に沿って移動する構成である。複数の液体が流路を流れる際に、断面積の小さい第2流路部から第2流路部より断面積が大きい第1流路部に流動するときには、複数の液体には乱流により、拡散する作用が生じる。また、流路に沿って第1流路部と第2流路部とを交互に連続して形成することで、この拡散作用が繰り返され、複数の液体が均一に混合することができるようになる。したがって、本発明に係るマイクロチップを使用すれば、微小量の血液と希釈液とを均一に混合することができ、血液検査方法に用いることで効率良く且つ確実に血液の混合を行うことができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、粘度・比重・容量比が異なる一定量の複数の液体を簡便に混合することができるマイクロチップ、そのマイクロチップを用いた混合方法及び血液検査方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳しく説明する。
最初に、本発明に係るマイクロチップの構成を説明する。
図1に示すように、マイクロチップ10は、流路基板11を備えている。流路基板11には、複数の液体を導入するための投入ポート12と、この投入ポート12に導入された複数の液体を混合させつつ流動させる流路14と、流路14に連通する減圧ポート13とが形成されている。
【0010】
減圧ポート13には、流路14内の雰囲気を減圧する減圧手段が接続可能である。減圧手段によって流路14内を減圧することで、予め投入ポートに導入された複数の液体がそれぞれ流路14内を減圧ポート13側へ流動する。
【0011】
流路14には、液体が流動する方向(図1においてFで示す一点鎖線の方向)に沿って第1流路部と第2流路部とが交互に形成されている。第1流路部は、流路14において液体が流動する方向の断面積が他の流路より大きい部分p21,p22,p23,p24,p25,p26,p27,p28(以下、総称して第1流路部とする。)であり、第2流路部は、第1流路部に比べ、液体が流動する方向の断面積が小さい部分p11,p12,p13,p14,p15,p16,p17,p18,p19(以下、総称して第2流路部とする。)である。
【0012】
本実施形態のマイクロチップ10において、投入ポート12には、液体の流動方向Fの沿って順に、第2流路部p11、第1流路部p21、第2流路部p12、第1流路部p22、第2流路部p13、第1流路部p23、第2流路部p14、第1流路部p24、第2流路部p15、第1流路部p25、第2流路部p16、第1流路部p26、第2流路部p17、第1流路部p27、第2流路部p18、第1流路部p28、第2流路部p19が連通している。第2流路部p19には減圧ポート13が連通している。
【0013】
流路14に形成する第1流路部と第2流路部のそれぞれの数は特に限定されないが、少なくとも1つの第2流路部と、該第2流路部に対して流動方向Fの前後に第1流路部が設けられていることが好ましい。
【0014】
本実施形態において、流路14は投入ポート12から減圧ポート13に向かう方向(図1中矢印y方向)に対して垂直な方向(図1中矢印x方向)に迂回するように、流路基板の平面視において略波状に形成されている。しかし、流路14の形状はこれに限定されず、第1流路部と第2流路部とを交互に形成することができる範囲において適宜変更することができる。
【0015】
次に、本発明に係るマイクロチップ10の製造方法の一例を説明する。
マイクロチップ10は、プレート表面上にマイクロドリルで流路基板を加工して製作される。流路基板11の材料は無機材質でも良いし、有機材質でもいい。流路基板11に使用される無機材質の例を挙げれば金属、シリコン、テフロン(登録商標)、ガラス、セラミックスなどである。有機材質はプラスチック、ゴムなどである。
【0016】
ここで、プラスチックの例としては、COP、PS、PC、PMMA、PE、PET、PP等を挙げることができる。ゴムの例としては、天然ゴム、合成ゴム、シリコンゴム、PDMS(polydimethylsiloxane)等を挙げることができる。シリコン含有物質としては、ガラス、石英、シリコンウエファー等のアモルファスシリコン、ポリメチルシロキサンなどのシリコーンが挙げられる。
【0017】
特に好ましい例としては、PMMA、COP、PS、PC、PET、PDMS、ガラス、シリコンウエファー等を挙げることができる。
【0018】
流路14の形状については、細い部分は特に限定はないが、直線状、曲線状など、いずれの形態をとることも可能であるが、直線状であることが好ましい。第1流路部の太い拡張部分は六角形、円形、四角形、多角形が望ましい。更に望ましくは六角形である。こうすることで、流動させる液体同士の拡散の作用が生じやすくなる。液の流動性を良くするために多角形の角部はR形状にすることが望ましい。
【0019】
第2流路部における細い部分流路の幅は必要に応じて適宜広くすることも狭くすることもできる。検体量が少ない場合は、マイクロ流路であることが望ましい。マイクロ流路は、本明細書において、等価直径3mm以下の流路を言う。
【0020】
本発明でいう等価直径(equivalent diameter)は、相当(直)径とも呼ばれ、機械工学の分野で一般的に用いられている用語である。任意断面形状の配管(本発明では流路に当たる。)に対し等価な円管を想定するとき、その等価円管の直径を等価直径といい、deq:等価直径は、A:配管の断面積、p:配管のぬれぶち長さ(周長)を用いて、deq=4A/pと定義される。円管に適用した場合、この等価直径は円管直径に一致する。等価直径は等価円管のデータを基に、その配管の流動あるいは熱伝達特性を推定するのに用いられ、現象の空間的スケール(代表的長さ)を表す。等価直径は、一辺aの正四角形管ではdeq=4a2/4a=a、路高さhの平行平板間の流れではdeq=2hとなる。これらの詳細は「機械工学事典」((社)日本機械学会編1997年、丸善(株))に記載されている。
【0021】
本発明に用いられるマイクロ流路の等価直径は3mm以下であるが、好ましくは10〜2000μmであり、特に好ましくは20〜1000μmである。
【0022】
また流路14の長さには特に制限はないが、好ましくは1mm〜10000mmであり、特に好ましくは2mm〜100mmである。
【0023】
本発明に用いられる流路14の幅は、1〜3000μmであることが好ましく、より好ましくは10〜2000μmであり、さらに好ましくは50〜1000μm である。流路14の幅が上記範囲であると、血液などの検体が、流路14の壁から抵抗を受けて流動性が低下することが少なく、かつ、検体の量を少量にとどめることが できるため、好ましい。
【0024】
第1流路部の、液体の流動方向Fに対して垂直な断面積が、第2の流路部の断面積に対して2倍以上であることが好ましく、より好ましくは3倍以上である。また、第1流路部の容積が複数の液体全体の体積の80%以上であることが好ましい。
【0025】
第1流路部における液体の流れる方向に平行な方向の長さが、第2流路部における液体の流れる方向に平行な方向の長さに対して0.1〜10倍であることが好ましい。
【0026】
流路14には、第1流路部と第2流路部が交互に連続して複数個存在し、その数が1〜100個であることが望ましく、より好ましくは3〜50個であり、さらに好ましくは5〜15個である。
【0027】
また、液体の混合方式は混合流路に沿って、一つの方向でもいいし、往復しても良い。
【0028】
流路14の内部表面に親、疎水化処理を施すことが好ましい。水性検体の場合は親水化処理、油性検体の場合、疎水化処理が必要である。親疎水化処理法として、従来の表面処理方法が適用できる。大きく分けて、化学的表面処理法と物理的表面処理法がある。化学的表面処理法としては、薬品処理、カップリング剤による処理、蒸気処理、グラフト化、電気化学的方法、添加剤による表面改質などがある。物理的表面処理法としては、UV照射、電子線処理、イオンビーム照射、低温プラズマ処理、CASING処理、グロー、コロナ放電処理、酸素プラズマなどの方法がある。
【0029】
次に、血液と希釈液を混合する手順は図面を参照して説明する。図2は、マイクロチップで2種の液体(ここでは、血液と希釈液)を混合する手順を説明する図である。
先ず、導入ポート12にピペットを用いて0.5μLの血液L1と25μLの希釈液L2を入れ、減圧ポート13に接続された減圧装置(例えばシリンジポンプ)により、流路の減圧を開始する。又は、導入ポート12に加圧装置(加圧手段)を接続して、流路内部を加圧してもいい。さらに、流路内を血液L1と希釈液L2とが往復移動する方式であってもよい。
【0030】
減圧を開始すると、図2(a)に示すように、比重・粘度が低い希釈液L2が先に流路14内に導かれ、次に血液L1が流路内に導かれる。流路14の断面積の拡縮がない場合はこのまま混ざり合うことはない。
【0031】
第2流路部p11を経由して第1流路部p21に流動した希釈液L2が、該第2流路部p11から第1流路部p21に至る流路14内部の空間の拡張に応じ、第1流路部p21において拡散され、続いて、血液L1が第1流路部p21において同様に拡散される。こうして、血液L1と希釈液L2には、ともに拡散の作用が働き、血液L1と希釈液L2とが互いに混合される(図2(b)参照)。以下、血液L1と希釈液L2との混合液をL3とする。
【0032】
次に、図2(c)に示すように、第2流路部p12から第1流路部p22に混合液L3が流動する際に、再び混合液L3に拡散する作用が働き、第1流路部p22において更に血液L1と希釈液L2とが混合される。
【0033】
図2(d)から(e)に示すように、混合液L3が第1流路部及び第2流路部を交互に流動することで、血液L1と希釈液L2とが次第に混合される。
【0034】
ここで、複数の液体を効率的に混合するために、断面積の大きい部分である第1流路部の容積は、混合する2液の容積の合計と概略等しいかそれより大きいことが望ましい。3種類以上の液体を投入する場合には混合する複数の液体の容積の合計と概略等しいかそれより大きいことが望ましい。
【0035】
マイクロドリルで流路を作成する場合には流路14の深さは一定で製作するのが効率的であり、この場合、流路14の断面積の拡縮は流路14の幅寸法(流路基板11の平面視において流動方向Fに対して垂直な方向の寸法D,d)の拡縮によって行う。送液に伴う液切れ、気泡混入を防ぐために断面積の拡縮は徐々に行うことが望ましく、角部はR形状であることが望ましい。流路幅によって拡縮を行う場合拡縮部形状は三角形状であり、広がり角度(図1の角度A)が90°以下であることが望ましい。
【0036】
また、流路途中の液残りを最小限にするために、流路14の底面の角部はR形状にすることが望ましい。R寸法は流路幅の1/10〜1/2が適当である。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例、比較例を挙げて本発明を詳しく説明する。こ本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0038】
(実施例1:混合流路の作成)
樹脂プレート表面上にマイクロドリルで流路基板を加工した(図1)。その後、同サイズのPDMSプレートと一緒にプラズマ親水化15分処理した。PDMSプレートを流路基板上に装着し、PDMSの自己吸着力により流路の密閉状態を作り、混合用流路完成した。PDMSプレイトには、被混合液の導入ポートと減圧手段接続部(減圧ポート)に適切な大きさの孔が開いている。
【0039】
(実施例2:混合効果の確認)
実施例1に作製した流路を用い性質の異なる2液の混合実験を行った。
ピペットにより、被混合液の導入ポートに血液0.5μLと希釈液25μLを入れ、PDMSの減圧手段接続部に接続された減圧装置(例えばシリンジポンプ)により、流路の減圧を開始する。
【0040】
減圧を開始すると、比重・粘度が低い希釈液が先に流路内に導かれ、次に血液が流路内に導かれる。流路断面積の拡張により液の拡散効果があり、数回繰り返しによって、次第に2液が混合されていく。
【0041】
血液と希釈液均一に混合された様子は写真で確認できた。同時に分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))を用いて、図2(f)に示すように、中心波長510nmの可視光でセル中のTa,Tb,Tcの3箇所の透過光学濃度を測定した。3箇所それぞれのOD値がまったく一致であるので、血液と希釈液が均一に混合されることがわかった。
【0042】
(実施例3:HbA1cの検出)
特開平8−122335号公報に記載の実施例2と同様の方法で、ヘモグロビンA1c用多層乾式スライドを作製した。このスライドに、既知量のヒトHbA1Cを含有するpH7の50mMグリセロ燐酸緩衝溶液10μLを点着し、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線を作成した。図3に示すように、ヘモグロビンA1c分析用乾式免疫分析要素はヘモグロビンA1Cの定量を精度良く行えることが明らかである。
【0043】
全血0.5μLを混合液導入ポート(希釈液25μLを事前入れ)に入れ、PDMSの減圧手段接続部に接続された減圧装置(例えばシリンジポンプ)により、液を動かし、混合後の検体液を一定量で反応検出部のヘモグロビンA1c用多層乾式スライドに導入して、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線からヘモグロビンA1Cの量を求める(測定回数、N=5)。ヘモグロビンA1Cの測定値 (g/dL)は1.07±0.04であり、CVは3.7%であった。
【0044】
比較例として、同じ血液サンプルと希釈溶血液をチップ外でピペット吸引による完全混合溶血後、同じ量でヘモグロビンA1c用多層乾式スライドに供給し、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線からヘモグロビンA1Cの量を求める(測定回数、N=5)。ヘモグロビンA1Cの測定値 (g/dL) は1.06±0.035、CVは3.3%。この混合チップによる混合効果は従来の攪拌方法とほぼ同じ効果を得られた。
【0045】
(実施例4:CRPの検出)
特開2003-75445号公報に記載の実施例と同様の方法で、CRP用多層乾式スライドを作製した。このスライドに、既知量のヒトCRPを含有するpH7の50mMグリセロ燐酸緩衝溶液10μLを点着し、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線を作成した。図4に示すように、CRP分析用乾式免疫分析要素はCRPの定量を精度良く行えることが明らかである。
【0046】
CRP濃度が既知のCRP標準血清1μLを混合液導入ポート(希釈液20μLを事前入れ)に入れ、PDMSの減圧手段接続部に接続された減圧装置(例えばシリンジポンプ)により、液を動かし、混合後の検体液を10μLで反応検出部のCRP用多層乾式スライドに導入して、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線からCRPの量を求める(測定回数、N=5)。この結果、CRPの測定値 (g/dL)が3.00±0.08であり、CVが2.7%であった。
【0047】
比較例として、同じサンプルと希釈液をチップ外でピペット吸引による完全混合後、同じ量でCRP用多層乾式スライドに供給し、37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で反射光学濃度を測定した。点着から3分後および5分後の反射光学濃度の差(ΔOD5-3)を求めて、検量線からCRPの量を求める(測定回数、N=5)。この結果、CRPの測定値 (g/dL)が3.06±0.1であり、CVが3.2%であった。
【0048】
(実施例5:アルデヒド脱水素酵素遺伝子(ALDH2)の検出)
特開2003-61658号に記載の実施例と同様の方法で、増幅検出用ピロリン酸多層乾式スライドを作製した。下記に示す反応液50μLを導入ポートに事前に入れ、精製されたヒトDNA試料1μLを、参照用として蒸留水1μLを混合液導入ポートに入れた。そして、PDMSの減圧手段接続部に接続された減圧装置(例えばシリンジポンプ)により、温度サイクル部位に液を動かす。
【0049】
10×PCRバッファー 5μL
2.5mM dNTP 5μL
5μMフ゜ライマー1 2μL
5μMフ゜ライマー2 2μL
Tag 1μL
精製水 35μL
【0050】
プライマー1
5-AACGAAGCCCAGCAAATGA-3
プライマー2
5-GGGCTGCAGGCATACACAGA-3
【0051】
本測定では、デネイチャーを94℃で20秒行い、アニーリングを60℃で30秒行った。また、ポリメラーゼ伸長反応を72℃で1分30秒施す工程を35サイクル繰り返すことでPCR増幅を実施した。さらに、PCR増幅実施後の液を、増幅検出用ピロリン酸多層乾式スライドに導入して37℃に保って、分光光度計(MCPD-2000(大塚電子))でPET支持体側から中心波長650nmの可視光で5分後の反射光学濃度を測定した。
【0052】
以下、点着から5分後の反射光学濃度を示す。
DNA試料 0.548
蒸留水 0.322
【0053】
このように、DNA試料の光学濃度が蒸留水の光学濃度よりも高いことから、ALDH遺伝子が検出することができることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明に係るマイクロチップの構成図である。
【図2】マイクロチップを用いて血液及び希釈液の混合を行う工程を示す図である。
【図3】グリコヘモグロビン測定用分析要素の検量線を示すグラフである。
【図4】CRP乾式分析要素の検量線を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
10 マイクロチップ
11 流路基板
12 投入ポート
13 減圧ポート
14 流路
p11〜p19 第2流路部
p21〜p28 第1流路部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流路基板と、
前記流路基板に形成され、複数の液体を導入するための投入ポートと、
前記投入ポートに導入された前記複数の液体を混合させつつ流動させる流路と、
前記流路に連通し、該流路内の雰囲気を減圧する際に、減圧手段が接続可能な減圧ポートとを備え、
前記流路には、前記液体が流動する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい第1流路部と、前記第1流路部より断面積が小さい第2流路部とが交互に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。
【請求項2】
前記第1流路部の断面積が前記第2の流路部の断面積に対して2倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のマイクロチップ。
【請求項3】
前記第1流路部の容積が前記複数の液体全体の体積の80%以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載のマイクロチップ。
【請求項4】
前記第1流路部における前記液体の流れる方向に平行な方向の長さが、前記第2流路部における前記液体の流れる方向に平行な方向の長さに対して0.1〜10倍であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
【請求項5】
前記流路の底面の角部が流路幅の10%以上の曲率半径を有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
【請求項6】
前記投入ポートが1つであることを特徴とする請求項1から5のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
【請求項7】
前記複数の液体が前記流路を往復移動することを特徴とする請求項1から6のいずれか1つに記載のマイクロチップ。
【請求項8】
上記請求項1から7のいずれか1つに記載のマイクロチップを用いて複数の液体を混合することを特徴とする液体の混合方法。
【請求項9】
前記複数の液体のうち少なくとも1種類の被混合液を投入ポートに予め入れておくことを特徴とする請求項8に記載の液体の混合方法。
【請求項10】
上記請求項1から7いずれか1つに記載のマイクロチップを用いて血液と希釈液とを混合することを特徴とする血液検査方法。
【請求項11】
流路基板と、
前記流路基板に形成され、複数の液体を導入するための投入ポートと、
前記投入ポートに導入された前記複数の液体を混合させつつ流動させる流路とを備え、
前記流路内の雰囲気を加圧する際に、前記投入ポートに加圧手段が接続可能であって、
前記流路には、前記液体が流動する方向の断面積が他の流路における断面積に比して大きい第1流路部と、前記第1流路部より断面積が小さい第2流路部とが交互に形成されていることを特徴とするマイクロチップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−121275(P2007−121275A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−257568(P2006−257568)
【出願日】平成18年9月22日(2006.9.22)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】