説明

マイクロチップ積層型化学反応装置を使用したペプチド合成方法

【課題】化学的に最も効率が良く、コスト効率の良いペプチド生産を大規模に実現する方法の提供。
【解決手段】少なくとも1つ以上の反応原料液導入部と、少なくとも1つ以上の反応試薬液導入部と、反応生成物排出部と、それらと連通する反応域としてのマイクロチャネルを備えたマイクロチップを所定個数だけ積層一体化したマイクロチップ積層型化学反応システムを使用したペプチド合成方法であって、アミノ酸またはペプチドフラグメントを反応原料液導入部から導入し、反応試薬を反応試薬液導入部からそれぞれのマイクロチップに導入して各反応領域のマイクロチャネルにおいて反応を行い、反応生成物としてのペプチドを反応生成物排出部から収集する工程を含み、各アミノ酸および各反応薬液の流速、濃度、および反応時間の長さは、マイクロチップのそれぞれの条件に適するように制御することを特徴とするペプチド合成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロチップ積層型化学反応装置を使用したペプチド合成方法に関する。さらに、本発明は、ペプチドまたはペプチドフラグメント中間体の大規模生産を目的とした積層型マイクロチャネル化学反応器の応用に関する。これらマイクロチャネル反応器は、より純度の高い物質と効率よく化学反応を起こすように構成されたマイクロスペースを利用するものである。さらに、これら反応器を積層構造とすることにより生成物の質を保ちながらより簡単にスケールアップすることができる。
【背景技術】
【0002】
ペプチドは、プロテインより短く単純な構成であり、商業的に重要な役割を持つ薬物として使用するために合成されている。活性薬理成分(API)としては、必要とされる量がその化学的合成対象物より少量であることが多い。一般に使用されるAPIの必要量はkg単位であり、ペプチドAPIの最も多く出回っているものを除けばトン単位で製造する設備を必要とすることは稀である。しかし、ペプチドの量的な需要が低いとはいえ、ペプチドを大量に合成することは、コストも手間もかかる。ペプチドは、人間または他の動物から抽出することもできるし、また、化学的に合成したり、あるいは遺伝子を組み換えたりすることによって合成することもできる。従来の方法にはそれぞれの独自の欠点があるが、一般的に言えば、商業的生産においては、すべての方法が出来るだけ高い純度と生産高を実現するものでなければならない。さらに従来のペプチドの有機化学合成は、通常の商業的用途ではない最も単純なペプチドでさえ、その自動化には非常に労力を必要とする。熟練の有機物またはペプチド専門の化学者が必要であり、特にGMP(医薬品の製造及び品質管理に関する基準)に見合うように作られるペプチドについては、APIで使用するためのペプチドの総コストのうち、労働コストが50%以上に達する。
【0003】
最近、マイクロメータースペースの中で起きる化学反応が、分子の拡散距離が短いこと、特定のインターフェース領域が大きいこと、そして熱容量が小さいことなどから効率が高いといわれている。これらのマイクロメータースペースの利点を生かして構成された反応器には様々な設計が考えられる。そのうちの一つ(マイクロチャネル反応器として知られる)は、チャネルの直径が500μm以下であり、様々な分析システム、センサおよび他の小規模反応に適用されてきた(JP2002−292275)。
【0004】
これらのマイクロチャネル反応器は、化学的効率が高いという利点に加え、研究所規模の設計から商業的規模の生産へとスケールアップする際に必要とされるスケールアップのための労力を大幅に省力化できるという利点を有する。従来のペプチド生産に必要とされたような規模拡大の労力に対するタイムリーかつコストのかかるプロセスを開発する代わりに、マイクロチャネル反応器を使用することにより、使用するマイクロチャネル反応器の数を増やすだけで、開発に用いたものと同じプロセスを維持することができる。この商業的量に達するためのチップの“数の増加”は、従来の規模拡大に必要とされる労力のうちの少し労力で達成可能である。
【0005】
生産における数の増加とコスト削減を実現するため、最近マイクロチップ積層概念を考案し、特許を取得した。これらの繰り返して、平行かつ垂直方向に積層一体化したマイクロチャネル反応器は、ペプチドとペプチドフラグメント中間体の大規模生産に応用されたことはなく、また、通常の有機合成反応においても同じである。
【発明の開示】
【0006】
化学的に最も効率がよく、コスト効率のよいペプチドAPI生産を大規模に実現するため(本発明は、ペプチドの生産だけでなく、通常の有機合成反応にも適用可能である)、本発明は以下を提供する:
<1>少なくとも1つ以上の反応原料液導入部と、少なくとも1つ以上の反応試薬液導入部と、反応生成物排出部と、それらと連通する反応域としてのマイクロチャネルを備えたマイクロチップを所定個数だけ積層一体化したマイクロチップ積層型化学反応システムを使用したペプチド合成方法であって、アミノ酸またはペプチドフラグメントを反応原料液導入部から導入し、反応試薬を反応試薬液導入部からそれぞれのマイクロチップに導入して各反応領域のマイクロチャネルにおいて反応を行い、反応生成物としてのペプチドを反応生成物排出部から収集する工程を含み、各アミノ酸および各反応薬液の流速、濃度、および反応時間の長さは、マイクロチップのそれぞれの条件に適するように制御することを特徴とするペプチド合成方法;
<2>マイクロチップの条件が、反応領域のマイクロチャネルにおけるマイクロチャネルの幅か、マイクロチップの積層数か、反応時間の長さである上記<1>に記載のペプチド合成方法;
<3>2種以上のアミノ酸またはペプチドフラグメントをアミノ酸またはペプチドフラグメント混合液として混合し、アミノ酸またはペプチドフラグメント混合液を1つの反応原料液導入部の中に導入し、反応試薬を2種以上の反応試薬液導入部に導入し、その反応試薬の1つと、アミノ酸またはペプチドフラグメント混合液の1つと反応させ、それを残りの反応試薬と反応させる前記<1>または<2>に記載のペプチド合成方法;
<4> 反応原料の流速がそれぞれ0.5から5μl/分の範囲内である前記<1>から<3>のいずれか1項記載のペプチド合成方法;
<5>反応原料の濃度がそれぞれ50から350mMである上記<1>から<4>のいずれか1項記載のペプチド合成方法;
<6>各マイクロチップの反応原料液導入部が、その上または下に積層されたマイクロチップの反応原料液導入部、もしくはその上および下に積層された反応原料液導入部と直接連通している、上記<1>から<5>のいずれか1項記載のペプチド合成方法;
<7>各マイクロチップの反応生成物排出部は、その上または下に積層されたマイクロチップの反応生成物排出部、もしくはその上および下に積層された反応生成物排出部と直接連通する前記<1>から<6>のいずれか1項記載のペプチド合成方法;
<8>所定個数の積層一体化されたマイクロチップ数が、5から15マイクロチップからなる前記<1>から<7>のいずれか1項記載のペプチド合成方法;および
<9>所定個数の積層一体化されたマイクロチップが、並設一体化されている前記<1>から<8>のいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は上記のような特徴を有するが、以下に本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
有機合成の分野では、通常、大量合成を目的とする反応が多く、マイクロチャンネルを反応場として利用する場合には、得られる生成物の絶対量がしばしば問題点として指摘されている。しかしながら、「マイクロチップ」と「有機合成」の組み合わせは一見相反するように見えるが、マイクロチップの反応は効率が高いことを考慮すれば、実際には大いに適合するものである。かえってマイクロチップは従来の反応器使用するより大きな効果を奏するものである。本発明はこの特徴を実現するものである。
【0009】
マイクロチャンネルを反応場とする合成の場合には、スケールアップにあたって本質的に化学工業的検討を一切必要としないのである。この出願の発明のように、それぞれの需要に見合う所定の枚数のマイクロチップを積層し、さらには並設することで、集積化するだけで、高効率な需要追随型反応システムとすることができるのである。
【0010】
前述のように、マイクロチップは、それぞれ反応原料溶液(1)および(2)と、反応生成物溶液の排液部と、導入部と排液部と連通する数十から数百ミクロンの幅を有する反応領域としてのマイクロチャネルとを備え、本発明の図1に示すように一体に積層されている。反応原料を反応原料液導入部から導入し、それぞれのマイクロチャネルの反応領域にて反応させ、マイクロチップ積層型化学反応システムの反応生成物排出部から反応生成物を収集する。そして、マイクロチップ積層型化学反応システムを使用して化学反応が行われる。特に、反応生成物であるペプチド(またはペプチドフラグメント中間体)は、反応原料の一つであるアミノ酸またはペプチドフラグメントから生成される。すなわち、上記の目的は、アミノ酸またはペプチドフラグメントおよび試薬の流速を所定の幅のマイクロチャネルに対して最適な流速とし、所定個数のマイクロチップならびにアミノ酸と試薬に対する所定の長さの反応時間において、アミノ酸と試薬を最適な濃度とするように制御することによって実現できる。
【0011】
さらに、上記のような、マイクロチップの反応試薬液の二つの導入部は限定されるものではなく、それ以上でもよい。例えば、図4に示すようにマイクロチップ上に反応試薬液の3つの導入部を設けてもよい。図4では、導入口(A)、 (B)、(C)および導出口が示されている。一つ将来的に使用するための予備の導入口が別途設けられており、ストッパで閉塞おり、マイクロチャネルの幅は90μm、深さは37.4μm、長さは200cmである。このマイクロチャネル反応器は、パイレックス(登録商標)ガラスを使用して作成する。さらに、導入口Aは、反応原料液導入部であり、導入口BとCは、反応試薬液体導入部であり、導出口は反応生成物排出部である。
【0012】
図4に示すのは、反応手順(すなわちアミノ酸からのペプチド合成)として、2種類以上のアミノ酸がアミノ酸またはペプチドフラグメント混合液として混合され、アミノ酸またはペプチドフラグメント混合液が導入口A(すなわち反応原料液導入部)に導入され、反応試薬が導入口BおよびC(すなわち反応試薬液体導入部)のそれぞれに導入される。そして、導入口Aからのアミノ酸またはペプチドフラグメント混合液と、導入口Bからの試薬を反応させた後、これを導入口Cからの残りの試薬と反応させる。
【0013】
本発明において、反応原料に関しては上記のようにアミノ酸またはペプチドフラグメントが好ましく、反応生成物に関しては上記のようにペプチドまたはペプチドフラグメント中間体であるのが好ましい。そして、ペプチドに対する合成反応のような効率のよい化学反応を実現するため、反応試薬に様々な種類の試薬を使用することができる。例えば、結合試薬(例えばHBTU、HCTUなど)、塩基(例えば、ジイソプロピルエチルアミン、N−メチルモルホリンなど)などを使用することができる。
【0014】
また、マイクロチップの条件は、反応領域のマイクロチャネルにおけるマイクロチャネルの均等な幅か、積層されたマイクロチップの数か、反応時間の長さである。マイクロチップの状態について詳しく説明するため、反応原料の流量は、積層されたマイクロチップそれぞれに対して0.5から5μl/分の範囲とし、反応原料の濃度はそれぞれ積層されたマイクロチップにおいて50から350mMとした。
【0015】
詳細を説明すると、最も化学的に効率よく、またコスト的にも効率よくペプチドAPIを大規模に生成するために、発明者は、ペプチドまたはペプチドフラグメント中間体の大規模生産において10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器(マイクロチップ積層型化学反応システム)を使用した。反応溶液における所定の濃度の試薬は連続的に10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器の導入口に最適な流量で供給し、マイクロチャネル反応器の導出口から連続的に流出する生成物を捕集した。ペプチドフラグメント中間体またはアミノ酸原料、結合試薬(例えばHBTU、HCTUなど)および塩基(例えばジイソプロピルエチルアミン、N-メチルモホリンなど)は、所定の濃度の結合反応溶液(例えばN,N−ジメチルフォルムアミド、N−メチル−2−ピロリドンなど)に予め溶解しておき、最適な流量で10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器の導入口に供給した。反応混合溶液の中の生成物を10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器から捕集した。生成物は高い生成量であり、かつ、高純度で得ることができた。これら10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器による生産のコストは、発明者が同様の生成物を大規模生産する際に用いる従来の溶液相プロセスより大幅に低くなることが計算上明らかとなった。
【0016】
この技術と10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器を用い、発明者はペプチドフラグメント中間体またはアミノ酸を結合させてペプチドを生成した。このマイクロチップ技術による生産コストは、生成物の純度が高く、労力が低く、生産に必要なスペースが少なくて済み、生産高が大きいので、従来の溶液相での合成方法と比較して大幅に低い。この技術により、労力が削減される。すなわちスケールアップするために必要とされるプロセスの開発にかかる時間が、また、良好で、かつ、安定した純度の生成物への純化にかかる労力が、より少なくなる。また、この技術は、連続的な流量の積層マイクロチャネル反応器が従来の大規模なバッチ単位の合成反応器よりかなり小型であるため、生成スペースが少なくて済む。
【0017】
また、この技術はペプチドフラグメント中間体またはアミノ酸の結合を必要とするいかなるペプチドまたはペプチドフラグメント中間体の生産にも適用することができる。例えば、発明者は、成功の例としてLHRH類似体であるブセレリンおよびゴセレリンを生成した。
【0018】
一体的に積層するマイクロチップに関して、パイレックス(登録商標)ガラス板をマイクロチップ基板として使用し、この板を圧縮による加熱で溶融した。しかしながら、基板の種類によって、従来周知の様々な方法を採用してもよい。
【0019】
図1に示すような本発明のマイクロチップ積層型化学反応システムにおいて、それぞれのマイクロチップの反応原料液導入部をその上または下に積層したマイクロチップの反応原料液導入部と、あるいは、その上および下に積層した反応原料液導入部と直接連通させてもよい。あるいは、各マイクロチップの反応生成物排出部をその上または下に積層したマイクロチップの反応生成物排出部もしくはその上および下に積層した反応生成物排出部と直接連通させてもよい。
【0020】
上記のシステムでは、各段のマイクロチャネルには、図2に示すようにマイクロチャネルの寸法より十分大きい直径を有する垂直方向の孔が穿設されている。その結果、孔は、各段に送る溶液の緩衝用貯液槽として、また、外部に排出される反応生成物を収集するための貯液槽として作用する。例えば、テフロン(登録商標)のチューブを各垂直方向の孔に接続し、反応生成物溶液を捕集する。加圧ポンプで材料溶液を流すことによって反応させた後に捕集する。その結果、それぞれが単一のマイクロチップとして同様の機能を示す複数のマイクロチャネルにおいて並列的に反応させることができ、数十から数百ミクロンのマイクロチャネルを有する反応器の特性を利用して単位時間あたりの反応生成物の生産高を上げることができる。
【0021】
本発明の態様としては、溶液を別々に導入し、また排出するために、反応システムを連通構造に形成する代わりとして、材料溶液導入部と反応生成物溶液排出部をそれぞれのマイクロチップまたは数個のマイクロチップの組立体に接続することが。
【0022】
あるいは、図3に示すように、マイクロチップ積層型化学反応システムを、一体的に積層した所定個数のマイクロチップ積層型部材を一体的に平行に組み立てるように構成することもできる。
【0023】
上記の実施形態において説明した積層型化学反応システムによると、単純な並行合成を進行させることによって生産規模を柔軟に制御可能としながらマイクロスペースの反応を利用することによって反応の生産性が向上する。その結果、大規模合成による過度生産のリスクを排除可能としながら大規模合成が可能である。また、システムを単純化するとともに、開発プロセスを合理化することができる。
【0024】
上記のような特性から、本発明は大量生産システム、薬品の合成生産だけでなく、多種の必要な生成物を必要な量だけ合成するという小規模な生産システムにも適用可能である。
【0025】
本発明について、油/水2相流において顔料を合成する例を挙げて詳しく説明する。
【0026】
これは油相に溶存するレゾルシノール誘導体が油相と水相とに分配され、ジアゾニウム塩とジアゾカップリング反応を起こした後に、生成した主生成物が再び油相に抽出される反応系である。平面Y字型のマイクロチャンネルを配設したマイクロチップ(幅250μm、深さ100μm)を用い反応後の有機相を分析することで、反応効率を評価した。
【0027】
反応収率を評価した結果、マイクロチップ内反応においてはマクロスケール反応よりも収率が明らかに高いことがわかった。これは比界面積の大きなマイクロチップ内反応においては、生成する主生成物が効率良く有機相に抽出されるために水相中での滞留時間が短く、副反応が進行しにくくなり、相対的に反応収率が向上したものと考えられる。
【0028】
このようなマイクロチップを用いた合成システムでは化学工学的検討が一切必要無く、平板状のチップの単純な積み上げで、たとえば図3のように、大量生産への適用が可能である。前記のとおり検討した高収率合成システムの結果を用いてチップ1枚あたりの生産量を計算し、年間生産量1トンの実現に必要な積み上げスペースを計算すると、必要スペースは0.4m3程度となり、少ないスペースでの大量生産が十分に可能であることがわかる。
【0029】
よって、これまでの化学工学では実現困難であった原料の連続送液に基づく高収率合成や、マイクロチップの積み上げ枚数調製によって、必要な物質を必要な量だけ合成する需要追随型合成システムの構築も容易である。
【0030】
これまでのマイクロ反応器の検討においては、二液の混合効率(分子拡散)や反応熱の迅速な除去などに着目したものが主流であった。しかし、この出願の発明から、微小空間を利用することで、副生成物の少ない高速高収率な合成反応が実現でき、大量生産にも適合することが確認される。
【0031】
ここで、「ブセレリンとゴセレリンの合成」についての例を以下に示し、本発明を説明する。もちろん、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
〔実施例1〕ブセレリン合成
(1)ブセレリン合成の反応スキーム
pGlu-His-Trp-OH+H-Ser-Tyr-D-Ser(tBu)-Leu-Arg-Pro-NHEt→
pGlu-His-Trp-Ser-Try-D-Ser(tBu)-Leu-Arg-Pro-NHEt (ブセレリン)
2つのペプチドフラグメント中間体は結合試薬と結合し、ブセレリンペプチドとして回収される。
(2)単一のマイクロチャネル反応器によるブセレリン合成
マイクロ反応器の導入口(すなわち反応原料液導入部)に反応原料を次の通り供給した:
導入口A:33(v/v)% N−メチル−2−ピロリドンDMF溶液に150mM pGlu-His-Trp-OHと150mM H-Ser-Tyr-D-Ser(tBu)-Leu-Arg-Pro-NHEt (pGlu-His-Trp-OHの濃度は総重量に基づく);
導入口B:33(v/v)% N-メチル−2−ピロリドンDMF溶液に150mM HBTU;および
導入口C:33(v/v)% N-メチル−2−ピロリドンDMF溶液に240mM DIPEA、および60mM N−メチルモルホリン。
【0033】
単一のマイクロチップ/マイクロチャネル反応器は、導入口および導出口の孔を有するように形成したガラスマイクロチップである。これらの孔は原料と試薬溶液を導入し、生成物の流れを一定にするための管に接続される。
【0034】
反応は、大気温度の連続流動条件(導入口A:2μl/分、B:2μl/分、C:2μl/分)下における単一のマイクロチップ/マイクロチャネル反応器の3つの導入口を通して、原料溶液(導入口A)、結合試薬溶液(導入口B)、および塩基溶液(導入口C)を導入することによって行う。導出口からの生成物の流れは、HPLCによって収集され、分析される。生成量は得られたピーク領域と比較基準との比較に基づいて定量的に算出される。
【0035】
さらに、上述の各条件は、ブセレリン合成用の10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器にも適用可能である。
〔実施例2〕ゴセレリン合成
(1)ゴセレリン合成の反応スキーム
pGlu-His-Trp-OH+H-Ser-Tyr-D-Ser(tBu)-Leu-Arg-Pro-AzaGly-NH2→
pGhi-His-Trp-Ser-Tyr-D-Ser(tBu)-Leu-Arg-Pro-AzaGly-NH2(ゴセレリン)
(2)単一のマイクロチャネル反応器によるゴセレリン合成
単一のマイクロチップ/マイクロチャネル反応器は導入口および導出口の孔を有するように形成されたガラスのマイクロチップである。これらの孔は、原料と試薬溶液を導入し、生成物の流れを一定にするための管に接続される。
【0036】
大気温度の連続流動条件(導入口A:2.0μl/分、B:2μl/分、C:3μl/分)下における単一のマイクロチップ/マイクロチャネル反応器の3つの導入口を通して、原料溶液(導入口A)、結合試薬溶液(導入口B)、および塩基溶液(導入口C)を導入することによって行う。導出口からの生成物の流れは、HPLCによって収集され、分析される。生成量は得られたピーク領域と標準基準との比較に基づいて91.5%となった。
【0037】
さらに、上述の各条件は、ゴセレリン合成用の10マイクロチップ積層マイクロチャネル反応器に適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、産業上の利用法として、ペプチドまたはペプチドフラグメント中間体の大規模生産にまた、活性薬理成分(API)として利用するために使用できる。この生産方法は生産/プラントスペースの大きさを削減できるとともに、従来の大型反応槽におけるバッチ規模の合成の代わりにマイクロチャネル反応器において連続流動法を採用しているため、安全性も高いものである。
【0039】
また、原料計算におけるヒューマンエラーによって従来の大型規模によるプロセスにおいては、好まざる純度の低い生成物を一度に大量に生成させてしまうという経済的な損失リスクがあるが、これについてもこの方法によって低減することができる。本発明のマイクロ反応器によるペプチド生産技術においては、生成物は少量ずつ連続的に生産されるので、試薬の量に関する計算ミスがあった場合にもそのような低純度の生成物はある一定の期間少量生産されるだけである。そして、ミスを修正して、希望の量の生成物を生成することができる。結果として、試薬の量に計算ミスがあった場合にも経済的損失は最低限もしくは無視できる程度に抑えられる。
【0040】
この技術によれば、安定して高品質な生成物を得られ、かつ、単純なプロセスで精製されるだけでなく、規模拡大、工程開発時間と労力の削減を容易に行うことができ、付加価値の高い生成物を産業規模で生産への応用が強く期待される。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】図1は本発明のシステムの例を示す斜視図である。
【図2】図2は図1に示す例において、原料液の導入と生成物液体の排出の形態を示す。
【図3】図3はさらに別の例を示す斜視図である。
【図4】図4は、図1に示すようなマイクロチップの別の例を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つ以上の反応原料液導入部と、少なくとも1つ以上の反応試薬液導入部と、反応生成物排出部と、それらと連通する反応域としてのマイクロチャネルを備えたマイクロチップを所定個数だけ積層一体化したマイクロチップ積層型化学反応システムを使用したペプチド合成方法であって、アミノ酸またはペプチドフラグメントを反応原料液導入部から導入し、反応試薬を反応試薬液導入部からそれぞれのマイクロチップに導入して各反応領域のマイクロチャネルにおいて反応を行い、反応生成物としてのペプチドを反応生成物排出部から収集する工程を含み、各アミノ酸および各反応薬液の流速、濃度、および反応時間の長さは、マイクロチップのそれぞれの条件に適するように制御することを特徴とするペプチド合成方法。
【請求項2】
マイクロチップの条件が、反応領域のマイクロチャネルにおけるマイクロチャネルの幅か、マイクロチップの積層数か、反応時間の長さである請求項1記載のペプチド合成方法。
【請求項3】
2種以上のアミノ酸またはペプチドフラグメントをアミノ酸またはペプチドフラグメント混合液として混合し、アミノ酸またはペプチドフラグメント混合液を1つの反応原料液導入部の中に導入し、反応試薬を2種以上の反応試薬液導入部に導入し、その反応試薬の1つと、アミノ酸またはペプチドフラグメント混合液の1つと反応させ、それを残りの反応試薬と反応させる請求項1または2記載のペプチド合成方法。
【請求項4】
反応原料の流速がそれぞれ0.5から5μl/分の範囲内である請求項1から3のいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【請求項5】
反応原料の濃度がそれぞれ50から350mMである請求項1から4のうちのいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【請求項6】
各マイクロチップの反応原料液導入部が、その上または下に積層されたマイクロチップの反応原料液導入部、もしくはその上および下に積層された反応原料液導入部と直接連通している請求項1から5のいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【請求項7】
各マイクロチップの反応生成物排出部は、その上または下に積層されたマイクロチップの反応生成物排出部、もしくはその上および下に積層された反応生成物排出部と直接連通する請求項1から6のいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【請求項8】
所定個数の積層一体化されたマイクロチップ数が、5から15マイクロチップからなる請求項1から7のいずれか1項記載のペプチド合成方法。
【請求項9】
所定個数の積層一体化されたマイクロチップが、並設一体化されている請求項1から8のいずれか1項記載のペプチド合成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−169165(P2006−169165A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2004−363670(P2004−363670)
【出願日】平成16年12月15日(2004.12.15)
【出願人】(000118497)伊藤ハム株式会社 (57)
【Fターム(参考)】