マイクロチャネルを有する臓器模倣装置ならびにその使用および製造方法
一つまたは複数の多孔質膜で分離された中央マイクロチャネルを有する本体を含むシステムおよび方法を提供する。膜は、中央マイクロチャネルを二つ以上の並列した中央マイクロチャネルに分割するように形成され、一つまたは複数の第一流体が第一中央マイクロチャネルを通じて適用され、一つまたは複数の第二流体が第二以降の中央マイクロチャネルを通じて適用される。各多孔質膜の表面は細胞の付着を支持するため細胞接着分子でコートすることができ、かつ膜の上面または下面における細胞の組織化を促進する。細孔は、ガスおよび小さい化学物質を交換できる程度の大きさ、または大きいタンパク質および生体細胞全体の移行とチャネル通過ができる程度の大きさにすることができる。流体圧力、流量およびチャネルの形態を変えることによっても、一方または両方の組織層に所望の機械力を印加することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年7月16日に出願した米国特許仮出願第61/081,080号の米国特許法119条(e)に基づく恩典を主張するものである。なおその内容全体は、参照により本明細書に組み入れられるものである。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所から授与された、助成番号:NIH R01ES016665-01A1による米国政府の支援によってなされたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示は、概して、マイクロチャネルを有する臓器模倣装置ならびにその使用および製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
押力、引張力、張力、圧縮力などの機械力は、細胞の成長と挙動の重要な制御因子である。テンセグリティーによって、これら物理的力が、どのように細胞中または組織中に分布しているか、ならびにどのようにおよびどこに影響を及ぼすかを決定する構造が提供される。
【0005】
ヒトの身体内では、ほとんどの細胞は、常に張力または圧縮力などの機械力を受けている。培養中の細胞に機械的歪を印加すると、インビボ環境がシミュレートされ、細胞に劇的な形態変化と生体力学反応が引き起こされる。培養中、細胞に機械的負荷を加えると、例えばDNAまたはRNAの合成または分解の速度と量の変化、タンパク質の発現と分泌の変化、細胞の分裂と整列の速度の変化、エネルギー代謝の変化、高分子の合成または分解の速度の変化、およびその他の生化学的および生体エネルギー的変化などの、長期的および短期的変化が起こる。
【0006】
あらゆる細胞は、内部の足場すなわち細胞骨格、分子の「支柱とワイヤ」で形成された格子を有している。「ワイヤ」は、細胞膜から核まで延びて、内方向の引張力を発揮するマイクロフィラメントとして知られている細いケーブルの交差ネットワークである。引張力に対抗するのは、微小管、すなわち細胞骨格の圧縮力に耐えるより太い「支柱」、および細胞を細胞外マトリックスに固定する細胞の外膜上の特殊な受容体分子であり、この繊維状物質は細胞群を保持している。この力のバランスは、テンセグリティーの特徴である。
【0007】
組織は、細胞外マトリックスの「卵カートン」に着座している卵のように細胞群から形成されている。インテグリンとして知られている、細胞をマトリックスに固定する受容体分子は、細胞をより広い領域に接続する。組織に対する機械力は、まず、インテグリンがその固定点で感知し、次いで細胞骨格によって各細胞内の深い領域に運ばれる。細胞の内部で、この力はタンパク質分子を振動させるかまたはその形態を変化させて、生化学反応をトリガーし、または核内の染色体を引っ張って(tug on)、遺伝子を活性化することができる。
【0008】
また細胞は、細胞骨格のフィラメントに一定の引張力があるため、筋肉と同様に「トーン」を有するといえる。伸長されたバイオリンの弦が、その長さに沿って異なるポイントに力が加えられると異なる音を発するのとよく似ているように、細胞は、変形される程度によって異なる、化学的シグナルの処理を行なう。
【0009】
増殖因子は、細胞が伸長される程度によって異なる作用を有している。傷の表面の細胞のように引っ張られて平らになっている細胞は、成長し増殖する傾向があり、一方、過度に密集した状態で詰め込まれた円形細胞は「自殺」プログラムに切り替わり死ぬ。対照的に、伸長されたり収縮したりしない細胞は、その意図する機能を続行する。
【0010】
細胞のテンセグリティーのもう一つの原理は、その物理的位置が問題となるということである。制御分子が細胞内にゆるく浮遊しているとき、その活性は、細胞に全体として作用する機械的力による影響をほとんど受けない。しかし、制御分子は、細胞骨格に結合されると、より大きなネットワークの一部になり、細胞の意思決定に影響する立場にある。多くの制御分子およびシグナル伝達分子は、細胞の表面膜の細胞骨格に、接着部位として知られているスポットで固定されており、その接着部位にはインテグリンが密集している。これらの主要位置は、コンピュータネットワークのノードのようにシグナルを処理する中心部であり、そこでは、隣接する分子が、外界からの機械的情報を受けてシグナルを交換することができる。
【0011】
したがって、薬物の全作用、薬物送達賦形剤、ナノ診断もしくはナノ治療、または生理的環境中の粒子、ガスおよび毒物などの環境ストレス因子を評価するには、細胞-細胞および細胞-化学物質の相互作用を研究するだけではなく、これらの相互作用が、健康な組織と疾患に冒されている組織の両者において、生理的な機械的力の影響をどのように受けているか研究する必要がある。
【0012】
培養中の細胞の機械的環境または応答を変える方法には、単層を剥離させ磁界もしくは電界を適用するか、または静的もしくは周期的な張力もしくは圧縮力を、スクリュー器具、液圧もしくは重量で培養細胞に直接印加することによって、細胞を傷つける方法がある。また細胞を液体流にさらすことによって、せん断応力も発生させてきた。しかし、これらの方法はほとんど、印加された歪を定量できないか、生理的に適切な組織-組織相互作用を維持する培養の微環境内において、周期的変形の再現可能な広い範囲を達成するための制御をもたらすことができない。
【0013】
生体臓器は、集合的に機能して、流体のせん断力と機械的歪力などの動的機械力の存在下で、物質、細胞、および情報を組織-組織の界面を通過させて運ぶ二つ以上の密接に並置された組織で構成された三次元の血管化構造である。これらの生理的な組織-組織界面を再現し、流体を流動させて動的機械的歪み生じさせることができる、生体細胞を含有しているマイクロ装置を作製することは、複雑な臓器の機能、例えば免疫細胞の輸送、栄養素の吸収、感染、酸素と二酸化酸素の交換などの研究、ならびに薬物のスクリーニング、毒物学、診断および治療に対して大きな価値がある。
【0014】
肺胞-毛細血管ユニットは、各種の肺疾患の病理発生と進行のみならず肺の正常な生理的機能の維持に非常に重要な役割を演じている。肺の複雑な構造、肺胞とその周りの微小血管の小ささ、およびこの臓器の動的機械運動のため、この構造を微小規模で研究することは困難である。
【0015】
肺は、ガス交換が起こる顕微鏡的肺胞コンパートメントへのおよびそのコンパートメントからの対流ガス輸送を可能にする導管の階層的に分枝したネットワークを有する、解剖学的に独特の構造を有している。肺胞は、正常な呼吸を行なうのに最も重要な肺の機能ユニットであり、かつ界面活性物質が作用して空気を取り入れさせる部位、および急性呼吸困難症候群(ARDS)または肺炎などの感染症の患者において、免疫細胞、病原体および流体が集まる部位であるのみならず、血液-ガスの関門もしくは界面である点で臨床上最も重要である。
【0016】
肺毛細血管と肺胞管腔の間の血液-ガス関門または組織-組織界面は、薄い細胞外マトリックス(ECM)によって分離されている毛細血管内皮の単層に密接した肺胞上皮の単層で構成されており、胚の細胞および分子の自己組織化によって形成される。肺胞-毛細血管ユニットの機能の分析は、この臓器レベルの構造をインビトロで再現させることは不可能なので、事実上すべて動物全身実験で行なわれている。
【0017】
肺胞-毛細血管ユニット(これは通常、各呼吸周期の間、拡張と収縮を繰り返す)の主要構造の組織化、生理的機能および生理的もしくは病理的な機械的活性を示す多細胞で多組織の臓器様構造の組織化を促進することができる実験装置が無いことが、重要な問題点である。この限界は、この臓器レベルの構造を再現しおよびその生理的な機械的微環境をインビトロで再現できれば、克服できる。しかしこれは、十分には達成されていない。
【0018】
組織-組織関連機能を遂行し、化学的力のみならず機械力に応答してデバイス中に細胞を自然に組織化することができ、かつ組織-組織の生理機能を模倣する膜を通じて細胞の挙動を研究できる、インビトロまたはインビボで使用可能な臓器模倣デバイスが要望されている。
【発明の概要】
【0019】
概要
本発明のシステムと方法は、一つまたは複数の多孔質膜によって分離された中央マイクロチャネルを有する本体を含んでいる。これらの膜は、中央マイクロチャネルを二つ以上の密接した平行な中央マイクロチャネルに分割するように形成され、そして一つまたは複数の第一流体が、第一中央マイクロチャネルを通じて適用され、かつ一つまたは複数の第二流体が第二以降の中央マイクロチャネルを通じて適用される。これら各多孔質膜の表面は、細胞接着分子でコートして細胞の付着を支持し、各膜の上面と下面での組織化を促進して、前記隣接する平行な流体チャネルの間の多孔質膜によって分離された一つまたは複数の組織-組織の界面を生成させることができる。この膜は、生体細胞全体と同様に、多孔質、可撓性、弾性またはそれら性質を組み合わせた性質を有していてもよく、ガスと小さい化学物質のみを交換できる程度に大きいか、または大きなタンパク質の移行とチャネル経由通過が可能な程度に大きい細孔を備えている。また、流体の圧力、流れの特性およびチャネルの形状を変えて、一方のまたは両方の組織層に所望の流体せん断応力を印加することができる。
【0020】
一態様において、中央マイクロチャネルに隣接する動作チャネルは、前記膜を圧力に応答して選択的に拡張および収縮させる圧力差をつくる正または負の圧力が印加されて、それにより、さらに生体の組織-組織界面の機械力を生理学的にシミュレートする。
【0021】
もう一つの態様では、三つ以上の並列したマイクロチャネルが、中央マイクロチャネルは一つの共通組織型で、および二つの外側チャネルの膜の両面は二つの異なる組織型で被覆された複数の平行な多孔質膜で分離されている。一実施例は、癌細胞が中央マイクロチャネル内と両多孔質膜の内表面に増殖し、一方、毛細血管内皮が一方の多孔質膜の対向表面に増殖しかつリンパ管内皮が第二の多孔質膜の対向表面に増殖している癌模倣装置である。この装置は、腫瘍の微小構造を再現するので、腫瘍細胞のリンパマイクロチャネル経由の放出と転移のみならず酸素、栄養素、薬物および免疫細胞の血管経由送達の研究を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付図面は、本明細書に組み入れられてその一部を形成し、一つまたは複数の態様の実施例を表し、実施例の態様の説明と共に、諸態様の原理と実施の説明に役立つ働きをしている。
【0023】
【図1】一態様による臓器模倣装置の一例を利用するシステムの構成図を表す。
【図2A】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図2B】一態様による臓器模倣装置の分解図を表す。
【図2C】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図2D】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図2E】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図2F】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図2G】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図3A】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図3B】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図3C】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図3D】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図3E】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図4A】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4B】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4C】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4D】一態様による組織-組織界面装置の膜の側面図を表す。
【図5A】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5B】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5C】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5D】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5E】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図6】一態様による多チャネルを有する臓器模倣装置を利用するシステム図を表す。
【図7A】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図7B】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図7C】一態様による臓器模倣装置の膜の側面図を表す。
【図8】本発明の装置で実施する実験による時間の経過とROS生成を表す。
【図9】本発明の装置で実施する実験による時間の経過とROS生成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施態様の説明
本明細書の実施態様において、臓器をシミュレートする装置ならびに該装置の使用および製造方法について説明する。当業者は、以下の記載事項が、説明だけを目的とし、限定を全く意図していないことを理解する。その他の態様は、この開示の恩恵を受けている当業者の念頭に容易に浮かぶ。ここで、添付図面に表されている実施態様の実行について、詳細に説明する。同一または類似の品目を指すために図面および下記説明全体を通じて同じ参照指標を使用する。「一態様」という語句は、一より多くの態様を含み、したがって、簡潔さのために一態様のみに限定されないものとする。
【0025】
この開示にしたがって、臓器模倣装置(「本発明の装置」とも呼称される)は、センサ、コンピュータ、ディスプレイ、ならびにソフトウェア、データ構成要素、プロセスステップおよび/またはデータ構造を利用する他の計算装置を含む、全システムに使用することが好ましい。臓器模倣装置が利用されるコンピュータシステムについて、本明細書に記載されているデータ構成要素、プロセスステップおよび/またはデータ構造は、各種の操作システム、計算プラットフォーム、コンピュータプログラムおよび/または汎用機械を使用して実行できる。さらに、当業者は、配線装置、利用者書込み可能ゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)などの汎用性の低い装置も、本明細書に開示されている発明の概念の範囲と精神を逸脱することなく使用できることを理解する。
【0026】
一連のプロセスステップを含む方法が、下記臓器模倣装置に使用されるコンピュータまたは機械で実行され、かつそれらプロセスステップが前記機械によって、一連の読取り可能な命令として記憶できる場合、それらプロセスステップは、コンピュータ記憶装置(例えばROM(Read Only Memory:読取り専用メモリ)、PROM(Programmable Read Only Memory:プログラム可能読取り専用メモリ)、EEPROM(Electrically Eraseable Programmable Read Only Memory:電気的に消去可能なプログラム可能読取り専用メモリ)、フラッシュメモリ、ジャンプドライブなど)、磁気記憶媒体(例えばテープ、磁気ディスクドライブなど)、光学式記憶媒体(例えばCD-ROM、DVD-ROM、紙カード、紙テープなど)およびその他のタイプのプログラムメモリなどの有形媒体に記憶できる。
【0027】
本発明の装置の諸態様は、組織や臓器の工学のみならず、基礎生物科学、生命科学の研究、創薬と薬物開発、薬物の安全性の試験、化学と生物学の検定を含む多数の分野で利用できる。一態様において、本発明の臓器模倣装置は、心臓血管、癌および臓器特異的疾患の生態学の基礎研究を行なうための微小血管網目構造として使用できる。さらに、臓器模倣装置の一つまたは複数の態様は、臓器置換構造物のみならず、肝臓、腎臓、肺、腸、骨髄ならびにその他の臓器および組織に対する臓器支援装置に用途を見出す。
【0028】
各種の環境の刺激に対する細胞の応答は、本発明の装置と組み合わせることができる各種システムを使ってモニターできる。周知のセンサを使用してpHの変化をモニターできる。遺伝子転写の変化または細胞生化学もしくは構造組織化の変化を測定するため、連続的にまたは定期的に細胞をサンプリングすることもできる。例えば、細胞ストレスの徴候である活性酸素種(ROI)を測定できる。へマトキシリンとエオシンによる染色法などの染色法を利用して、多孔質の膜上に増殖した「組織」を顕微鏡分析、免疫組織化学分析、インサイチューハイブリダイゼーション分析または典型的な病理分析に供することもできる。これらの分析用の試料は、リアルタイムで取り出すか、または実験後に採取するか、または研究または実験中の異なる段階に少量の生検材料を採取することができる。
【0029】
例えば特定の細胞受容体を標的化するため、前記膜上で増殖させた細胞を、他の細胞、例えば免疫系細胞または細菌細胞、抗体または抗体指向性細胞に曝露(subject)することができる。前記細胞を、ウイルスまたは他の粒子に曝露することができる。外部から供給される物質、例えば細胞、ウイルス、粒子またはタンパク質の運動の検出を助けるため、放射標識または蛍光標識などの典型的な手段を用いて、それらを容易に標識することができる。
【0030】
細胞は、本発明の装置を利用して、1、2、3、4、5、6または7日間、少なくとも1〜2週間の間および2週間を超えて増殖させ、培養して分析できる。例えば、以下に述べるように、前記装置の一態様の多孔質薄膜上に肺胞上皮細胞を肺微小血管内皮細胞と共培養すると、これら細胞の生存能を失うことなく2週間を超えて増殖させることができることが示される。
【0031】
本明細書に記載の臓器模倣装置には、以下を含むが限定されない、多種類の用途がある:疾患のマーカーの確認;抗癌治療法の効果の査定;、遺伝子治療ベクターの試験;薬物の開発;スクリーニング;細胞特に幹細胞および骨髄細胞の研究;生体内変化、吸収、クリアランス、代謝および生体異物の活性化の研究;化学薬剤または生物学的薬剤の生体利用性およびその上皮層もしくは内皮層を通過する輸送の研究;生物学的薬剤または化学薬剤の血液-脳関門を通過する輸送の研究;生物学的薬剤または化学薬剤の腸上皮関門を通過する輸送の研究;化学薬剤の急性基礎毒性の研究;化学薬剤の急性局所特異的もしくは急性臓器特異的な毒性の研究;化学薬剤の慢性基礎毒性の研究;化学薬剤の慢性局所特異的もしくは慢性臓器特異的な毒性の研究;化学薬剤の催奇形性の研究;化学薬剤の遺伝子毒性、発癌性および変異原性の研究;感染性生物剤および生物兵器の検出;有害な化学薬剤および化学兵器の検出;感染性疾患の研究;化学薬剤または生物薬剤の、疾患を治療する効果の研究;疾患を治療するための薬剤の最適投与範囲の研究;生物薬剤に対する臓器のインビボでの応答の予測;化学薬剤または生物薬剤の薬物動態の予測;化学薬剤または生物薬剤の薬力学の予測;薬剤に対する応答における遺伝内容の影響に関する研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答の遺伝子転写の研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答におけるタンパク質発現の研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答における代謝の変化の研究。本発明の臓器模倣装置は、物質に対する細胞の作用(例えば薬物の組織代謝と同等の様式での)について、細胞をスクリーニングするのに使用することもできる。
【0032】
本発明の装置は、機械的に活性な組織、例えば心臓、肺、骨格筋、骨、靭帯、腱、軟骨、平滑筋細胞、腸、腎臓、内皮細胞および他の組織由来の細胞から培養された細胞に対する、歩行、走行、呼吸、蠕動、月経血もしくは尿の流れまたは心臓の拍動の機械的負荷の環境をシミュレートするのに使用できる。静止環境において細胞の生物学的または生化学的応答を試験するのではなくて、研究者は、張力、圧縮力およびせん断力を含む機械的応力の周波数、振幅および継続期間の所定の範囲を、培養細胞に適用できる。
【0033】
当業者は、前記膜の表面に各種の細胞を移植できる。この細胞には、線虫、アメーバを含む多細胞構造体からヒトなどの哺乳類までのあらゆる細胞型が含まれる。本発明の装置に移植される細胞型は、模倣したい臓器のタイプもしくは臓器の機能およびその臓器を含む組織によって決まる。本発明の装置の膜に移植できる各種タイプの細胞については、以下にさらに詳細に述べる。
【0034】
各種の幹細胞、例えば骨髄細胞、誘発された成人幹細胞、胎児幹細胞または成人組織から単離された幹細胞を、多孔質膜の一面もしくは両面に共培養することもできる。細胞の各層に供給されるチャンバー中の異なる培養液を使用して、異なる分化刺激を前記幹細胞の層に到達させて、それにより、その細胞を、異なる細胞型に分化させることができる。また、前記膜の同じ面上の細胞型を混合して、膜で分離されない、異なる細胞の共培養物をつくることもできる。
【0035】
本明細書に記載の臓器模倣装置を使って、薬物の送達のみならず、生体内変化、吸収、クリアランス、代謝および生体異物の活性化を研究できる。腸内などの上皮層、血管内などの内皮層および血管-脳関門を通過する化学薬剤と生物薬剤の輸送および生体利用性も研究できる。化学薬剤の急性基礎毒性、急性局所毒性または急性臓器特異的毒性、催奇形性、遺伝子毒性、発癌性および変異原性も研究できる。感染性生物剤、生物兵器、有害な化学薬剤および化学兵器も検出および研究できる。感染症および当該感染症を治療するための化学薬剤と生物薬剤の効果および当該薬剤の最適投与範囲を研究できる。化学薬剤および生物薬剤に対する臓器のインビボでの応答およびこれら薬剤の薬物動態学と薬力学は、本発明の装置を使って検出し研究できる。これら薬剤に対する応答における遺伝的内容の影響を研究できる。化学薬剤または生物薬剤に対するタンパク質の量と遺伝子発現を測定できる。化学薬剤または生物薬剤に対する代謝の変化は、同様に本発明の装置を使って研究できる。
【0036】
従来の細胞培養物または組織培養物に対する本発明の臓器模倣装置の利点は、多数存在する。例えば、細胞を本発明の臓器模倣装置に入れると、線維芽細胞、SMC(平滑筋細胞)およびEC(内皮細胞)の分化が起こって、インビボの状態に近い特定の三次元構造の組織-組織の関係が再現され、薬理学的物質または活性物質または生成物に対する細胞の機能と応答を、組織および臓器のレベルで研究できる。
【0037】
さらに、多くの細胞または組織の活性、例えば、限定されないが、輸送流動チャネル中の層組織中へのおよびその層を通じての薬物の拡散速度;細胞の形態;異なる層における分化と分泌の変化;細胞の移動、増殖、アポトーシスなどは、本発明の臓器模倣装置での検出に適している。さらに、本システムの異なる層に位置する異なる型の細胞に対する各種薬物の作用が、容易に評価できる。
【0038】
創薬において、例えば本明細書に記載の臓器模倣装置を使用することには二つの利点がある。すなわち、(1)本発明の臓器模倣装置は、インビボの組織の層構造をより適切に模倣できるので、細胞レベルと組織レベルに加えて臓器レベルで薬物の効果を研究することができ、かつ(2)本発明の臓器模倣装置は、薬物の選択と毒性の研究のためのインビボ組織モデルの使用と動物の使用を減少させる。
【0039】
創薬および薬物開発に加えて、本明細書に記載の臓器模倣装置は、基礎研究および臨床研究にも有用である。例えば、本発明の臓器模倣装置は、腫瘍発生の機序を研究するのに利用できる。インビボでの癌の進行を、間質細胞と細胞外マトリックス(ECM)を含む、宿主および腫瘍の微小環境で調節するということは十分に達成されている。例えば、間質細胞が、良性の上皮細胞を悪性細胞に変換しうることが分かり、それにより、ECMが腫瘍形成に影響することが分かった。特定の構造で増殖する細胞は、細胞毒性剤に対する耐性が単分子層の細胞より高いという証拠が増大している。従って、臓器模倣装置は、癌細胞の独自の増殖特性をシミュレートするより優れた手段であり、そのため、インビボの腫瘍の、薬物に対する実際の感受性をより適切に示す。
【0040】
本発明の臓器模倣装置は、限定しないが、心臓血管系、肺、腸、腎臓、脳、骨髄、骨、歯および皮膚を含む各種組織を設計するのに利用できる。本発明の臓器模倣装置は、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のような適切な生体適合性および/または生分解性材料で構成されている場合、インビボで移植または内植するのに使用できる。さらに、いくつかの細胞型を立体的に局在させ、その相互作用を制御する性能は、生理学的により正確な組織および臓器類似物を階層的に設計し、創成する機会を提供する。多細胞型を特定の配置に配列すると、細胞の分化、維持および機能の寿命に有利に影響する。
【0041】
本発明の臓器模倣装置は、インビボでの細胞の要求と細胞の存在に対応して、異なる細胞型に、異なる増殖因子、化学物質、ガスおよび栄養素を加えることができる。これらの因子またはタンパク質の位置を制御することによって、特定の細胞のリモデリングと機能のプロセスを導くことができ、かつ全システムに分子の刺激を提供することもできて、新生組織(neotissue)、細胞のリモデリング、分泌の促進などの有利な発展が達成できる。
【0042】
さらに別の局面では、本発明の臓器模倣装置は、マイクロ流体装置などの多細胞型細胞マイクロアレイとして利用できる。本発明の臓器模倣装置を使用して、細胞アレイのパターン統合性を維持できる。これらの細胞マイクロアレイは、特に複合されて自動化されると、将来の「チップ上のラボ(lab-on-a-chip)」を構成しうる。これらの小型化された多細胞型培養物は、より速くノイズの少ない検定法で細胞の動態の観察を促進することができ、かつ細胞に前記アレイに対するインビボ様応答を示させる組み込まれた複雑性(built-in complexity)を有している。
【0043】
さらに別の局面で、本発明の臓器模倣装置は生物センサとして使用できる。細胞は、刺激に対して多面的な生理的応答をしそしてこれらの応答を増幅する新規な機構を有していることが多いので、細胞ベースのバイオセンサは、他のバイオセンサより多くの情報を提供できる。本発明の臓器模倣装置におけるすべての細胞型は、被検物の異なる局面を同時にモニターするのに使用することができ;本発明の臓器模倣装置における異なる細胞型は、異なる被検物を同時にモニターするのに;または両方の型のモニターの混合物に使用できる。大腸菌(E. coli)から哺乳類系統の細胞までの範囲の細胞は、環境モニタリング、毒素の検出および生理学的モニタリングの用途に利用するセンサとして使用されている。
【0044】
さらに別の局面では、本発明の臓器模倣装置は、細胞生物学における基本的プロセスおよび細胞-ECMの相互作用を理解するのに使用できる。インビボリモデリングのプロセスは、細胞とECMの間の複雑で動的な相互プロセスである。本発明の臓器模倣装置は、これらの生物システムの複雑さをとらえることができ、これらのシステムを研究および有益な操作に利用できるようにする。さらに、蛍光顕微鏡法、微量蛍光定量法または光コヒーレンストモグラフィー(OCT)などの画像化機器を組合せ、本発明の装置を使用して、多層化組織中の細胞の挙動をリアルタイムで分析することが期待されている。リアルタイム分析を行なうのに適した細胞と組織の研究の例には、細胞の分泌とシグナル伝達、細胞-細胞の相互作用、組織-組織の相互作用、動的に設計された組織の構築とモニタリング、組織工学における構造-機能の研究、および細胞リモデリングマトリックスのインビトロでのプロセスが含まれる。
【0045】
本発明の臓器模倣装置の他の使用例は、この装置を生体動物の身体内にインビボで移植して装置を細胞と組織で充満(impregnate)させて正常な組織-組織界面をつくることによって、組織-組織の界面と複雑な臓器構造を装置内に形成させることである。次いで、一つまたは複数の流体チャネルを通じて、細胞が生存するのに必要な培養液とガスで潅流しながら、全装置ならびにその中に含有している細胞および組織を外科手術で取り出す。次に、この複雑な臓器模倣装置は、潅流し続けることによってインビトロで生存できるように維持して、高度に複雑な細胞と組織の機能を、その通常の3D状態で、現存するインビトロのいかなるモデル系でも使用できない複雑さのレベルで研究するのに使用できる。
【0046】
特に、周囲の組織間隙に対して開いた一つまたは複数の対応するポートを有するチャネル中に、骨誘導物質例えば脱塩骨粉または骨形態形成タンパク質(BMP)を含有しているマイクロチャネル装置を、動物中にインビボで皮下移植することができる。第二チャネルは、移植中、その末端ポートを閉じるかまたは取り外し可能な固体材料例えば固体のロッドで塞ぐことによって閉じる。創傷が治癒すると、過去の研究で分かっているように、微小血管と間葉系幹細胞を含む結合組織が本発明の装置の開放チャネル中に増殖し、そして骨誘導物質が存在することによって、十分に機能する骨髄を形成するための循環する造血前駆細胞が動員される空間を伴う骨が形成される。
【0047】
このプロセスが完了すると、手術部位を再び開き、次に、第二チャネルを、ロッドまたはプラグを取り外すことによって再度開き、次に流体リザーバに連結したカテーテルと接続して、細胞の生存に必要な栄養素とガスを含む培養液を、第二チャネルを通じてポンプ輸送して前記膜の細孔を通じて、形成された骨髄を含有している第一チャネル中に送ることができる。次にこのマイクロチャネル装置全体は、周囲の組織から切り離され、装置に培養液を流入させ続けながら、動物から取り出し、組織培養インキュベータに入れ、第二チャネルを通じて液体を流動させ続けながら培養を維持し、そして所望によりその入口と出口のポートを接続することによって、追加の液体流を第一チャネルに加えることもできる。このようにマイクロチャネル装置は、制御された環境内と同様にインビトロで無傷の骨髄の機能を研究するのに使用される。
【0048】
本発明の装置のインビボでの移植を容易に行なえるように、生体適合性および生分解性の材料のどちらも本発明の装置に使用できる。生体適合性および生分解性のコーティングも使用できる。例えば、金属製基板にはセラミックのコーティングを使用できる。しかし、任意のタイプのコーティング材料およびコーティングが、異なるタイプの材料、すなわち金属、セラミック、ポリマー、ヒドロゲルまたはこれらの材料の任意の組合せで製造できる。
【0049】
生体適合材料には、限定されないが、酸化物、フォスフェート、カーボネート、窒化物、またはカーボニトリドが含まれる。酸化物の中では、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化イリジウム、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンが好ましい。コーティングは、場合によっては、時間が経過すると溶解して生体組織で置換できる生分解性材料で製造することもできる。基板は金属、セラミック、ポリマーまたはこれらの任意の組合せなどの材料で製造される。ステンレス鋼、ニチノール、チタン、チタン合金もしくはアルミニウムなどの金属およびジルコニア、アルミナもしくはリン酸カルシウムなどのセラミックが特に関心対象となる。
【0050】
生体適合材料は、時間の経過とともに溶解して生体組織で置換できるという点で生分解性でもある。このような生分解性材料には、限定されないが、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(PGA)、コラーゲンまたは他のECM分子、他の結合組織タンパク質、マグネシウム合金、ポリカプロラクトン、ヒアルロン酸、接着性タンパク質、生分解性ポリマー、生体適合性で生分解性の合成材料、例えばバイオポリマー、バイオガラス、バイオセラミック、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、例えばリン酸モノカルシウム一水和物、無水リン酸モノカルシウム、リン酸ジカルシウム二水和物、無水リン酸ジカルシウム、リン酸テトラカルシウム、オルトリン酸リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸α-トリカルシウム、リン酸β-トリカルシウム、アパタイト、例えばヒドロキシアパタイト、またはポリマー、例えばポリ(α-ヒドロキシエステル)類、ポリ(オルトエステル)類、ポリ(エーテルエステル)類、ポリ無水物類、ポリ(ホスファゼン)類、ポリ(フマル酸プロピレン)類、ポリ(エステルアミド)類、ポリ(フマル酸エチレン)類、ポリ(アミノ酸)類、多糖類、ポリペプチド類、ポリ(ヒドロキシ酪酸)類、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)類、ポリウレタン類、ポリ(リンゴ酸)、ポリラクチド類、ポリグリコリド類、ポリカプロラクトン類、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)類、ポリジオキサノン類もしくはそのコポリマー類、ターポリマー類もしくはこれらポリマーの混合物、または生体適合性で生分解性の物質の組合せが含まれる。生分解性ガラス、ならびにポリグリコリド類、ポリラクチド類および/またはグリコリド/ラクチドコポリマー類のような部分結晶性の生体吸収性ポリマーから製造した生理活性を有するガラス自己強化超高強度生体吸収性複合体も使用できる。
【0051】
これらの材料としては、移植体の形態によって、高い初期強度、適当な弾性率、および強度保持時間がインビボで4週間から1年までのものが好ましい。また、強化材、例えば結晶性ポリマーの繊維、ポリマー樹脂中の炭素繊維および粒状充填材例えばヒドロキシアパタイトも、生分解性装置の寸法安定性と機械的特性を提供するために使用することができる。生分解性材料を製造するときに相互侵入網目構造(PIN)を利用することは、機械的強度を改善する手段として実証されている。IPNで強化された生分解性材料の機械的特性をさらに改善するため、本発明の装置は、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)85:15(PLGA)またはポリ(l-ラクチド-コ-d,l-ラクチド)70:30(PLA)のホストマトリックス中に、異なる架橋剤を使って架橋されたフマル酸ポリプロピレンの半相互侵入網目構造(SIPN)として製造される。Charles-Hilaire Rivard et al.(Journal of Applied Biomaterials,Volume 6 Issue 1,Pages 65-68,1 Sep 2004)に記載されているような天然のポリ(ヒドロキシ酪酸-コ-9%ヒドロキシ吉草酸)コポリマー膜も使用できる。当業者は、本発明の装置が用いられる用途に従って、任意の特定の目的ならびに細胞型および組織型に適した、他の生分解性材料も選択できる。
【0052】
本明細書に記載されている装置は、インビボで配置される場合、治療装置として使用することもできる。本発明の装置を、例えば本発明の装置に生体細胞および生体組織を宿らせることができる動物モデル内に入れて骨髄またはリンパ節などの臓器模倣物を再現し、次いで血管チャネルを培養液で潅流しながら、前記装置全体を生体細胞とともに取り出すことができる。本発明の装置は、取り出して、エクスビボで生きたまま保持して、インビトロまたはエクスビボでの研究に利用できる。特に、前記膜はインビトロで、その少なくとも一方の面を一つまたは複数の細胞層でコートできる。この態様では、前記細胞は生物の外部でプレーティングする。一態様では、この膜は、その少なくとも一方の面を、インビボで一つまたは複数の細胞層でコートする。この膜の一方の面をインビトロで処理し、他方の面をインビボで処理することができる。一方の面または両面をまずインビトロで一つの細胞型でコートし、次にその装置を移植して追加の細胞層をインビボで誘引することもできる。
【0053】
概して、本明細書の開示は、一つまたは複数の多孔質膜によって分離された中央マイクロチャネルを有する本体を備えた装置およびその使用を対象としている。前記膜は、前記中央マイクロチャネルを二つ以上の密接した並列の中央マイクロチャネルに分割するように形成され、一つまたは複数の第一流体が第一中央マイクロチャネルを通して適用され、一つまたは複数の第二流体が第二以降の中央マイクロチャネルを通して適用される。各多孔質膜の表面は、細胞の付着を支持し、この膜の上面または下面に細胞が組織へと組織化するのを促進することができ、その結果、隣接する平行な流体チャネルの間に多孔質膜で分離された組織-組織界面が生成される。前記膜は、多孔質、可撓性、弾性またはその組合せでもよく、その細孔は、ガスおよび小さい化学物質のみを交換できる程度に大きいか、または大きなタンパク質および生体細胞全体が移行およびチャネルによって通過できる程度に大きい細孔を有する。流体圧、流量およびチャネルの形態を変えて、一方または両方の組織層に所望の流体せん断応力を加えることができる。
【0054】
非限定的な実施態様では、本発明の装置は、肺の動作を模倣するように形成されており、ここで、肺の上皮細胞がECM膜の一方の表面に自己組織化し、かつ肺の毛細管内皮細胞が同じ多孔質膜の反対側の面に自己組織化する。したがって、本発明の装置は、生理的な機械的歪に曝露して呼吸をシミュレートできるか、または空気由来および血液由来の両方の化学物質、分子、粒子、ならびに細胞の刺激に曝露して、前記膜の細孔を通る組織-組織界面を横切る化学物質、分子、および細胞の交換を研究できる機能性肺胞-毛細血管ユニットの構造と機能をシミュレートすることができる。本発明の装置は、生理的状態および病的状態で分析できる臓器レベルの応答を模倣する、インビトロの肺モデルの開発に影響している。このシステムは、限定されないが、薬物のスクリーニング、薬物の送達、ワクチンの送達、生物学的検出、毒物学、生理学および臓器/組織工学の用途を含むいくつかの用途に利用できる。
【0055】
図1は、一態様による本発明の装置を利用するシステム全体のブロック図を示す。図1に示すように、システム100は臓器模倣装置102、装置102に連結された一つまたは複数の流体供給源104、104N、流体供給源104と装置102に連結された一つまたは複数の任意のポンプ106を含んでいる。一つまたは複数のCPU 110がポンプ106に連結され、好ましくは装置102へのおよび装置102からの流体の流量を制御する。前記CPUは、好ましくは一つまたは複数のプロセッサ112および一つまたは複数の局所/遠隔記憶メモリ114を含んでいる。ディスプレイ116はCPU 110に連結され、一つまたは複数の圧力源118がCPU 110および装置102に連結されている。CPU 110は、好ましくは前記装置への加圧流体の流量と速度を制御する。本明細書には一つの界面装置102が示され説明されているが、複数の界面装置102が、以下に説明するようにシステム100内で試験し分析できると意図されていることに注目すべきである。
【0056】
より詳細に説明すると、臓器模倣装置102は、好ましくは装置102のマイクロチャネルを、前記システムの外側の構成要素、例えば流体供給源および圧力源と連通して配置する二つ以上のポートを含んでいる。特に、装置102は一つまたは複数の流体供給源104Nに連結され、その流体供給源には空気、血液、水、細胞、化合物、粒子および/または装置102に送達すべきいずれかの他の培養液を入れることができる。一態様では、流体供給源104は、装置102の一つまたは複数のマイクロチャネルに流体を提供し、また好ましくは装置102から出る流体を受け入れる。装置102から出る流体は、さらにまたはあるいは流体供給源104と別個の流体の収集機またはリザーバ108に集められることが企図される。したがって、別個の流体供給源104、104Nはそれぞれ流体を装置102に提供しかつ流体を装置102から取り出すことができる。
【0057】
一態様では、装置102から出る流体は、再利用することができ、その流体が最初それを通じて入ったのと同じかまたは異なる流入ポート中に再度導入できる。例えば、装置102は、特定の中央マイクロチャネルを通過させた流体を再循環して前記装置に戻し、次いで同じ中央マイクロチャネルを通じて再び流動させるように設定できる。これは、例えば、流体が前記装置に再循環されるとき流体中の分析物の濃度を増大するために利用できる。別の実施例では、装置102は、該装置を通過させた流体を再循環して該装置に戻し、次に別の中央マイクロチャネルを通じて流動させるように設定することができる。これは、流体を別のマイクロチャネルを通じて循環させるときに流体の濃度または組成を変えるのに利用できる。
【0058】
一つまたは複数のポンプ106が、好ましくは流体を装置102中にポンプ輸送するのに利用されるが、ポンプは一般にこのシステムでは任意なものである。流体ポンプは当該技術分野では周知であるから、本明細書では、詳細には説明しない。以下に詳細に説明するように、各マイクロチャネル部分は、好ましくはそのそれぞれの入口および/または出口のポートと連通しているので、各マイクロチャネル部分はそれらを通して流体を流動させることができる。
【0059】
本発明の装置の各マイクロチャネルは、好ましくは専用の入口と出口のポート有し、それらのポートは、それぞれの専用の流体供給源および/または流体収集機に接続されて、培養液の流速、流れの内容、圧力、温度および他の特性を、独立して、各中央マイクロチャネルを通じて制御できる。したがって、RNAまたはタンパク質のレベルでの遺伝子発現の変化などといった所望の細胞マーカーについて別個の流体チャネルを別個にサンプリングすることによって、各々の細胞または組織の層に対する各種の刺激の影響を別個にモニターすることもできる。
【0060】
細胞注入機/取出し機108の構成要素は、装置102と連通して示されており、細胞注入機/取出し機108は、限定されないが上皮細胞および内皮細胞などの細胞を、前記装置中に入口ポート210、218を通じて導入される細胞とは独立に、装置102内の界面膜の一つまたは複数の表面上に注入し、同表面から取り出し、および/または同表面上で操作するように、形成されている。例えば、病原性細胞をひきつける磁気粒子を含有する血液は別個の装置で培養され、その後、その混合物は、それを流体供給源104を通じて流動させる必要なしに、所望の時点に注入機によってシステム中に導入できる。一態様では、細胞の注入機/取出し機108は、独立に制御されるが、細胞注入機/取出し機108は図1に示すように、CPU 110によって制御できる。細胞注入機/取出し機108は任意の構成要素であり、必須というわけではない。
【0061】
必要というわけではないが、一つまたは複数の圧力源118から圧力を印加して、装置102中に機械的運動を起こすために圧力差を作り出すことができる。圧力を前記装置で使用する一態様では、圧力源118は、CPU110によって制御されて、前記装置内に圧力差をかけて、前記装置内の一つまたは複数の膜(図3A〜3B)を、かけられた圧力差に応答して効果的に拡張および/または収縮させる。一態様では、圧力源118によって装置100にかけられる圧力は、その装置の形態または用途によって正圧である。さらにまたは代わりに、圧力源118によってかけられる圧力は、装置の形態または用途によって真空または吸引などの負圧である。圧力源118は、好ましくはCPU110で制御され、その結果、設定された時間間隔または頻度で装置102に圧力をかけ、その時間間隔は均一または不均一に設定できる。圧力源118は、前記時間間隔で均一な圧力をかけるように制御することができ、または異なる圧力を異なる時間間隔でかけることができる。例えば、圧力源118によりかける圧力は大きさを大きくしてもよく、および/または所望の頻度に設定して、走っているかまたは運動しているヒトを模倣することができる。圧力源118は、例えばヒトの睡眠をシミュレートするゆっくりとした不規則なパターンをかけることもできる。一態様では、CPU 110は、圧力源118を操作して、かける圧力の時間間隔をランダムに変えて周期的伸張パターンを起こさせて、自然呼吸中の呼吸数と1回換気量の不規則性をシミュレートする。
【0062】
一つまたは複数のセンサ120は、装置102に連結されて、装置102内の一つまたは複数の領域をモニターすることができ、これらセンサ120はモニタリングデータをCPU110に提供する。一つのタイプのセンサ120は、好ましくは、一つまたは複数の動作マイクロチャネルまたは中央マイクロチャネルの中の圧力の量に関するデータを装置102に提供する圧力センサである。マイクロチャネル壁の対向する面からの圧力のデータは、動作マイクロチャネルと中央マイクロチャネルの間のリアルタイムの圧力差の情報を計算するのに利用できる。このモニタリングデータは、CPU 110によって利用され、細胞が装置102内で特定の環境中にてリアルタイムでどのように挙動しているかということのみならず装置の動作状態についての情報を提供する。センサ120は、電極でもよく、赤外線、光(例えばカメラ、LED)または磁気の性能を有し、または他の適切なタイプの技術を利用してモニタリングデータを提供する。例えば、前記センサは、膜を通過する電気特性(例えば電位差、抵抗および短絡回路電流)を分析する一つまたは複数の微小電極でもよく、膜を通過して流体/イオンを輸送する機能のみならず組織化された障壁の形成を確認する。センサ120は装置102の外側に位置しているかまたは装置102に組み入れられていてもよいことには注目すべきである。CPU110はセンサ120の動作を制御することが意図されるが、必須ではない。前記データは、好ましくはディスプレイ116に示される。
【0063】
図2Aは、一態様による組織界面装置の透視図を表す。特に、図2Aに示すように、装置200(参照番号102で示されてもいる)は、好ましくは、一態様によって、分枝マイクロチャネル構造203を有する本体202を含んでいる。本体202は、可撓性材料で製造できるが、代わりに非可撓性材料で製造されうることが企図される。マイクロチャネル構造203は例示しているだけで、図2Aに示す構造に限定されないことに注目すべきである。本体202は、好ましくは、限定されないがポリジメチルシロキサン(PDMS)またはポリイミドを含む可撓性生体適合ポリマーで製造される。また、本体202は、ガラス、ケイ素、硬質プラスチックなどの非可撓性材料で製造できると企図される。前記界面膜は、本体202と同じ材料で製造することが好ましいが、前記装置の本体と異なる材料で製造することも企図される。
【0064】
図2Aに示す装置は、以下により詳細に説明する複数のポート205を含んでいる。さらに、前記分枝構造物203は組織-組織界面シミュレーション領域(図2Bの膜208)を含んでおり、ここでは細胞の挙動および/またはガス、化学物質、分子、粒子および細胞の通過がモニターされる。図2Bは一態様による臓器模倣装置の分解図を表す。特に、装置200の外体202は、好ましくは、第一外体部分204、第二外体部分206および介在する多孔質膜208で構成され、この多孔質膜208は、第一と第二の外体部分204と206が互いに取り付けられるときに、それらの間に取り付けられて本体全体が形成される。
【0065】
図2Bは一態様による本発明の装置の分解図を表す。図2Bに示すように、第一外体部分204は、好ましくは本体202の外表面上に位置する一つまたは複数の対応する入口開口211と連通する一つまたは複数の入口流体ポート210を含んでいる。装置100は、好ましくは入口開口211を通じて流体供給源104に接続され、流体は、入口流体ポート210を通じて、流体供給源104から装置100内に移動する。
【0066】
さらに、第一外体部分204は、好ましくは本体202の外表面上の一つまたは複数の対応する出口開口215と連通する一つまたは複数の出口流体ポート212を含んでいる。特に、装置100を通過する流体は、対応する出口開口215を経由し装置100から出て流体収集機108または他の適当な構成要素に至る。装置200は、流体ポート210が出口でありおよび流体ポート212が入口であるように設定できることに注目すべきである。入口と出口の開口211、215は本体202の頂面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0067】
一態様では、入口流体ポート210と出口流体ポート212は、第一中央マイクロチャネル250A(図3A参照)と連通し、その結果、流体は、第二中央マイクロチャネル250B(図3A参照)とは独立して、第一中央マイクロチャネル250Aを経由して入口流体ポート210から出口流体ポート212まで動的に移動できる。
【0068】
入口流体ポートと出口ポートの間を通過する流体が、中央部分250Aと250Bとで共有されることも企図される。一方の態様では、中央マイクロチャネル250Aを通過する流体流の特性、例えば流速などは、中央マイクロチャネル250Bを通過する流体流の特性とは独立して制御可能であるが、その逆もいえる。
【0069】
さらに、第一部分204は、一つまたは複数の圧力入口ポート214と一つまたは複数の圧力出口ポート216を含み、その入口ポート214は装置100の外表面上に位置する対応する開口217と連通している。入口開口と出口開口は本体202の頂面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は、代わりに、本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0070】
動作中、圧力源118(図1)に接続された一つまたは複数の圧力管(図示せず)は、正または負の圧力を、開口217を経由して装置に印加する。さらに、圧力管(図示せず)は装置100に接続され、加圧流体を出口ポート216から開口223を経由して取り出す。装置200が、圧力ポート214が出口でありおよび圧力ポート216が入口であるように設定できることには注目すべきである。圧力開口217、223は本体202の頂面上に示されているが、圧力開口217、223の一つまたは複数は、本体202の一つまたは複数の側面上に配置できることが企図されることには注目すべきである。
【0071】
図2Bを参照すると、第二外体部分206は、好ましくは一つまたは複数の入口流体ポート218と一つまたは複数の出口流体ポート220を含んでいる。入口流体ポート218が開口219と連通し、かつ出口流体ポート220が開口221と連通し、その結果、開口219と221が第二外部本体部分206の外面上に位置していることが好ましい。入口開口と出口開口は本体202の表面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は、代わりに本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0072】
上記第一外体部分204の場合と同様に、流体供給源104に接続された一つまたは複数の流体管(図1)は、好ましくは開口219に接続されて、流体を、ポート218を経由して装置100に提供する。さらに、流体は、装置100から、出口ポート220と外側開口221を経由して出て流体リザーバ/収集機108または他の構成要素に至る。装置200は、流体ポート218が出口でありかつ流体ポート220が入口であるように設定できることに注目すべきである。
【0073】
さらに、第二外体部分206が一つまたは複数の圧力入口ポート222および一つまたは複数の圧力出口ポート224を含むことが好ましい。特に、圧力入口ポート222が開口227と連通し、かつ圧力出口ポート224が開口229と連通し、その結果、開口227と229が好ましくは第二部分206の外面上に位置していることが好ましい。この入口開口と出口開口は本体202の底面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数が、代わりに、本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。圧力源118に接続された圧力管(図1)は、好ましくは、対応する開口227および229を経由してポート222と224と係合している。装置200は、圧力ポート222が出口であり及び流体ポート224が入口であるように設定できることに注目すべきである。
【0074】
一態様では、膜208が第一部分204と第二部分206の間に取り付けられ、その結果、膜208が装置200の本体202内に位置している(図5E参照)。一態様では、膜208は、貫通する複数の細孔または開口を有する材料で製造され、その結果、分子、細胞、流体および任意の培養液が、膜208の一つまたは複数の細孔を経由して膜208を通過できる。以下に詳細に説明するように、一態様では、多孔質膜208は、中央マイクロチャネル250A、250Bと動作マイクロチャネルの間に存在する圧力差に応答して当該膜208に応力および/または歪を受けさせる材料で製造できることが企図される。あるいは、多孔質膜208は比較的非弾力性であり、培養液が中央マイクロチャネル250A、250Bの一つまたは複数を通過し、細胞が組織化して中央マイクロチャネル250A、250Bの間を多孔質膜を経由して移動する間、膜208は最小の運動を行なうか全く運動しない。
【0075】
参照図2Cは、線C-C(図2Bから)からみた本体の第一外体部分204の組織-組織界面領域の透視図を表す。図2Cに示すように、組織-組織界面領域207Aの頂部は第一部分204の本体内にあり、中央マイクロチャネル230の頂部および中央マイクロチャネル230に隣接する動作マイクロチャネル232の一つまたは複数の頂部を含んでいる。マイクロチャネル壁234は、好ましくは中央マイクロチャネル230を動作マイクロチャネル232から分離して、中央マイクロチャネル230を通過して移動する流体が動作マイクロチャネル232に入らないようにする。同様に、チャネル壁234は、動作マイクロチャネル232を通過する加圧流体が中央マイクロチャネル230に入るのを防止する。一対の動作マイクロチャネル232が、図2Cと3Aの中央マイクロチャネル230の対向する面上に示されていることは注目すべきであるが、しかしこの装置は三つ以上の動作マイクロチャネル232を組み込むことができることが企図される。また、装置200は、中央マイクロチャネル230に隣接する動作マイクロチャネル232を一つだけ含むことができることも企図される。
【0076】
図2Dは、本体の第二外部206の線D-Dからみた組織界面領域の透視図である。図2Dに示すように、その組織界面領域は、中央マイクロチャネル240の底部および中央マイクロチャネル240部分に隣接する動作マイクロチャネル242の少なくとも二つの底部を含んでいる。一対のチャネル壁234が、好ましくは中央マイクロチャネル240を動作マイクロチャネル232から分離して、中央マイクロチャネル230を通じて移動する流体が動作マイクロチャネル232に入らないようにする。同様に、チャネル壁234は、動作マイクロチャネル232を通過する加圧流体が中央マイクロチャネル230に入るのを防止する。
【0077】
図2Cと2Dに示すように、中央マイクロチャネルの頂部230と底部240は各々、50ミクロンと1000ミクロンの間の範囲の幅寸法(Bとして示す)を有し、好ましくは約400ミクロンである。その他の幅寸法が、装置が模倣する生理的システムのタイプに応じて企図されることには注目すべきである。さらに、動作マイクロチャネル232と242の頂部と底部は各々、25ミクロンと800ミクロンの間の幅寸法(Aとして示す)を有し、好ましくは約200ミクロンであるが、他の幅寸法も企図される。中央マイクロチャネルおよび/または動作マイクロチャネルの高さの寸法は50ミクロンと数センチメートルの間の範囲であり、好ましくは約200ミクロンである。マイクルチャネル壁234、244は、好ましくは厚さの範囲が5ミクロンから50ミクロンまでであるが、他の幅寸法も、前記壁に使用される材料、前記装置が使用される用途などに応じて企図される。
【0078】
図3Aは、一態様による本体内の組織界面領域の透視図を表す。特に、図3Aは、互いに接合された第一部分207Aと第二部分207Bを表し、側壁228と238、およびチャネル壁234と244が、全中央マイクロチャネル250および動作マイクロチャネル252を形成している。先に述べたように、中央マイクロチャネル250と動作マイクロチャネル252は、壁234、244で分離されて、流体がチャネル250、252の間を通過できないことが好ましい。
【0079】
膜208は、好ましくは、中央マイクロチャネル250の中央に配置され、図3Aに示すx-y面に平行な面に沿って配向されている。一つの膜208が中央マイクロチャネル250中に示されているが、以下により詳細に述べるように、二つ以上の膜208を中央マイクロチャネル250内に設置できることは注目すべきである。中央マイクロチャネル250内に配置されることに加えて、膜208は、装置を製造中、チャネル壁234、244によって定位置に挟まれる。
【0080】
膜208は、好ましくは全中央マイクロチャネル250を、二つ以上の別個の中央マイクロチャネル250Aと250Bに分離する。膜208は、中央マイクロチャネル250の中央に示されているが、代わりに、膜208を中央マイクロチャネル250内に、垂直方向に偏心させて配置してもよく、その結果、中央マイクロチャネル部分250A、250Bの一方の容積または断面積を、もう一方のマイクロチャネル部分より大きくすることができることは注目すべきである。
【0081】
以下により詳細に述べるように、膜208は、細胞または分子を通過させるための多孔質の部分を少なくとも有している。さらにまたは代わりに、膜208の少なくとも一部は、弾性または延伸性を有し、膜208は一つまたは複数の平面軸に沿って拡張/収縮するよう操作できる。したがって、膜208の一つまたは複数の部分は多孔質で弾性であるかまたは多孔質で非弾性であってもよいことが企図される。
【0082】
多孔質で弾性の膜については、圧力差を装置内に印加して、膜208を、x-y面に沿って相対的に連続して拡張、収縮させることができる。特に、上記のように、一つまたは複数の圧力源が好ましくは加圧流体(例えば空気)を一つまたは複数の動作マイクロチャネル252を通じて加え、その結果、マイクロチャネル252中の加圧流体がマイクロチャネル壁234、244に対して圧力差を生じる。膜208は、その製造材料のタイプによっては弾性をもたせることができる。膜208が二種類以上の材料で製造されている場合、膜を構成しているそれぞれの材料の重量比は、その弾性を決定する要因である。例えば、膜208がPDMSで製造される態様では、そのヤング率の価は、12kPa〜20Mpaの範囲内であるが、他の弾性値も企図される。
【0083】
図3Aと3Bに示す態様では、加圧流体は、動作マイクロチャネル252のみを通じて印加される真空または吸引力である。吸引力によってマイクロチャネル壁234、244に対して起こされた圧力差は、壁234、244を、装置228、238の側部の外側に向かって湾曲させるかまたは膨らませる(図3B参照)。膜208は、壁234、244に取り付けられてその間に挟まれているが、壁234、244が相対的に移動すると、この膜の対向する末端がこれらの壁と共に移動し、膜の平面に沿って伸張する(図3Bに208'として示す)。この伸長運動は、例えば呼吸中の肺胞内の組織-組織界面によって経験される機械力を模倣しているので、組織構造中への細胞の自己組織化および細胞の挙動の重要な調節を行なう。
【0084】
負圧の印加をやめる(および/または正圧を動作チャネルにかける)と、動作チャネル252と中央チャネル250の間の圧力差は低下して、チャネル壁234、244がそのニュートラルな位置(図3Aに示す位置)の方向へ収縮する。動作中、負圧を、交互に時間間隔をとって装置200に印加すると、その平面に沿って膜208が連続的に拡張および収縮し、それにより制御されたインビトロ環境中で生体臓器の組織-組織界面の動作を模倣する。考察されているように、制御された環境中の模倣された臓器の動作によって、前記膜および組み合わせた第一と第二のマイクロチャネル250A、250Bに関する分子、化学物質、粒子および細胞の通過のみならず、組織中の細胞の挙動をモニターできる。
【0085】
本明細書における「圧力差」という用語は、中央マイクロチャネルと外側の動作チャネルの間の特定の壁の対向する面の圧力差に関連があることに注目すべきである。この圧力差は、膜208の拡張および/または収縮の目的を達成するために、いくつかの方法で生成できることが企図される。先に述べたように、負圧(すなわち吸引または真空)を、一つまたは複数の動作チャネル252にかけることができる。あるいは、膜208に予め負荷をかけるかまたは予め応力をかけて初期設定で拡張状態にして、壁234、244が、図3Bに示すように、すでに湾曲した形態になっていることが企図される。この態様では、動作チャネル252にかけられる正圧は、壁234、244を、中央マイクロチャネルの方向へ内側に移動させて(図3A参照)膜208を収縮させる圧力差を生成する。
【0086】
別の態様では、正と負の圧力を組み合わせて一つまたは複数の動作チャネル252に印加して、膜208を、中央マイクロチャネル中で平面に沿って移動させることも企図される。上記どの態様においても、一つまたは複数の動作チャネル252内の流体の圧力は、一つまたは複数の中央マイクロチャネル250A、250B内の流体の圧力に対して圧力差が実際に生じて、膜208の相対的な拡張/収縮を起こすよう圧力が望ましい。例えば、流体は、特定の圧力を有し、頂部の中央マイクロチャネル250A中に加えられ、その結果、底部の中央マイクロチャネル250B内の流体は、異なる圧力を有する。この例では、一つまたは複数の動作チャネル252にかけられる圧力は、膜208の所望の拡張/収縮を確保するために、中央マイクロチャネル250A、250Bの一方または両方の中の流体の圧力を考慮しなければならない。
【0087】
一態様で、頂部と底部のマイクロチャネル250A、250Bの間に圧力差を存在させて、膜208の少なくとも一部に、x-y面に沿った拡張/収縮に加えて、z方向に垂直に拡張および/または収縮を起こさせることができる。
【0088】
一態様において、膜208が拡張および収縮すると、好ましくは、化学物質、分子、粒子および/または流体もしくはガスの、組織-組織界面を通過する輸送に影響を与え、細胞の生理を変える、生理的な機械的刺激を模倣する接着細胞とECMに機械的力を印加する。装置に生成された圧力差は、好ましくは膜を拡張/収縮させるが、マイクロモータまたはアクチュエータのような機械的手段を利用して、圧力差が膜上に細胞の拡張/収縮を起こさせて、細胞の生理を調整するのを補助または代替させることが企図される。
【0089】
図3Eと4Cは、一態様による、貫通して延びる複数の開口302を含む膜208の透視図を表す。特に、図3Eと4Cに示す膜は、膜208の頂面304と底面306の間に延びる一つまたは複数の組み入れられた細孔または開口302を含んでいる。
【0090】
この膜は、細胞、粒子、化学物質、および/または培養液を、中央マイクロチャネルの部分250A、250Bの間を、膜208を通って中央マイクロチャネルの一部分から他の部分までまたはその逆に移行させるように形成されている。当該細孔の開口は、図4A〜4Cには五角形の断面形状であることが示されているが、円形302、六角形308、正方形、楕円形310、などを含むがそれらに限定されない他の断面形状を企図する。細孔302、308、310(一般に参照番号302で呼称されている)は、好ましくは頂面304と底面306の間を垂直に延びているが、細孔312のように頂面と底面の間を横方向に伸ばすことも企図される。前記細孔は、膜208の少なくとも一部に沿ってスリットまたは他の形状の開口を追加して/代わりに組み入れて、細胞、粒子、化学物質および/または流体に、中央マイクロチャネルの一部分から他の部分まで膜208を通過させることにも注目すべきである。
【0091】
細孔の幅寸法は、好ましくは0.5ミクロンから20ミクロンの範囲であるが、その幅寸法は、約10ミクロンが好ましい。しかし、幅寸法は上記範囲を超えることが企図される。いくつかの態様では、膜208は、典型的な分子/化学物質の濾過装置より大きい細孔または開口を有し、分子のみならず細胞を、一方のマイクロチャネル部分(例えば250A)から他方のマイクロチャネル部分(例えば250B)までまたはその逆に、膜208を通過して移行させる。これは、細胞を培養するのに有用である。すなわち、前記装置によって提供されるマイクロチャネルの環境内に存在することに応答して頂部と底部の中央チャネルに極性化し、その結果、流体および細胞が、これらマイクロチャネル250A、250Bを接続する細孔を通じて動的に通過する細胞。
【0092】
図4Bに示すように、膜208の厚さは70ナノメートルと50ミクロンの間でよいが、好ましい厚さの範囲は、5ミクロンと15ミクロンの間である。膜208は、当該膜208の他の領域より厚さが小さいかまたは大きい領域を含むように設計することも企図される。図3Cに示すように、膜208が、当該膜208の他の領域に比べて厚さの薄い一つまたは複数の領域209を有することが示されている。その厚さの薄い領域209は、膜208の全長または全幅にわたって伸びていてもよく、または代わりに膜208の特定の場所のみに位置していてもよい。その厚さの薄い領域209は、膜208の底面に沿って示されているが(すなわちマイクロチャネル250Bに対面している)、厚さの薄い領域209が、追加して/代わりに、膜208の対向する面上にあってもよい(すなわちマイクロチャネル250Aに対面する)ことが企図されることには注目すべきである。膜208の少なくとも一部分は、図3Dに示すように、その膜の他の部分に比べて厚さの大きい一つまたは複数の領域209'を有し、上記厚さの薄い領域と同じ選択肢を有することができることには注目すべきである。
【0093】
一態様において、多孔質膜208は、溝や隆起などの微細なおよび/またはナノスケールのパターンを有するように設計または表面パターン化することができ、その結果、このパターンのパラメータまたは特性はいずれも、所望の大きさ、形状、厚さ、充填剤などに設計できる。
【0094】
一態様では、膜208は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)または他のいずれかのポリマーの化合物または材料で製造できるが、これは必須ではない。例えば、膜208は、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロフェン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)、ニトリル類、ポリウレタン類およびポリシリコーン類で製造できる。GE RTV 615、ビニル-シラン架橋(型)シリコーンエラストマー(系)が使用できる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)の膜は、Bisco Silicons(イリノイ州エルクグローブ)から入手できるHT-6135膜およびHT-6240膜であり、選択された用途において有用である。材料の選択は、一般に、実行されている用途に必要な特定の材料特性(例えば耐溶媒性、剛性、気体透過性および/または温度安定性)によって決まる。マイクロ流体装置の構成要素を製造するのに使用できる追加のエラストマー材料は、Unger et al.(2000 Science 288:113-116)に記載されている。本発明の装置のいくつかのエラストマーは隔膜として使用され、その伸長特性と緩和特性に加えてその多孔性、不透過性、耐薬品性およびその湿潤性と不動態化性によって選択される。別のエラストマーはその熱伝導性によって選択される。Micronics Parker Chomerics Thermagapの材料61-02-0404-F574(0.020"厚み)はソフトエラストマー(<5 ShoreA)であり、1.6W/m-°Kの熱伝導率を提供するには5〜10psiの圧力を要する。弾性の無い可変フィルムもマイクロ流体装置に使用できる。本発明の装置および膜を記載されているように製造するための他の適切な材料として、絹、架橋したまたは架橋していないECMゲルを利用できる。
【0095】
中央マイクロチャネル250と動作マイクロチャネル252は、断面が実質的に正方形かまたは長方形で示されているが、円形、楕円形、六角形などといった他の断面形状も企図されることに注目すべきである。装置200は、一態様において、およそ二つの動作チャネル252および/またはおよそ二つの中央マイクロチャネル250A、250Bを有していてもよいことも企図される。
【0096】
一態様では、中央マイクロチャネルは、装置の長さの少なくとも一部分に沿って幅寸法Bが不均一であることも企図される。図2Eは、一態様による組織界面領域400のトップダウン断面図を表す。図2Eに示すように、界面400は、マイクロチャネル壁404によって分離された隣接する動作チャネル406に沿って中央マイクロチャネル402を含んでいる。図2Eの態様では、中央マイクロチャネル402は、幅寸法C(末端408における)から幅寸法D(末端410における)まで、幅が徐々に増大していることが示されている。図2Eの態様では、動作チャネル406は各々、対応して幅寸法が低下している(末端408のおける幅寸法Eから末端410における幅寸法Fまで)。別の態様では、図2Fに示すように動作チャネル406'は、末端408と410において、実質的に均一な幅寸法Fを有している。膜(図示せず)は中央マイクロチャネル402の上に配置されて、壁404の上面上に取り付けられているので、その膜は中央マイクロチャネル402と類似のテーパー付きの形状である。したがって、このテーパー付き膜は、圧力差が動作マイクロチャネル406と中央マイクロチャネル402の間にかけられると矢印の方向に不均一に伸長される。
【0097】
別の態様では、中央マイクロチャネルは、図2Gに示すように、部分的に断面が円形の部分を有している。特に図2Gに示す態様では、中央マイクロチャネル502と隣接する動作マイクロチャネル504の間に生じた圧力差は、マイクロチャネル壁506を、矢印の示す方向に移動させる。中央マイクロチャネル502の円形部分508については、中央部分508における前記壁の外向きの等軸移動(矢印で示す)が壁506の最上部に取り付けられた膜(図示せず)の等軸伸長を起こす。
【0098】
本明細書に記載されている装置200はいくつもの用途に使用される可能性がある。例えば、一用途では、膜208は、当該膜208の周期的伸長および/または生体液体(例えば空気、粘液、血液)の流動によって起こる生理的な機械的歪に供され、肺胞および内在する肺毛細血管の天然の微小環境を再現する。一態様では、膜208上での細胞の培養条件が、細胞外マトリックス(ECM)のコーティング、培養液による潅流または周期的な機械的歪によって最適化されて、共培養細胞の形状および機能の特性が維持され、そしてこれら細胞の、膜208を横切る直接の細胞相互作用が可能になる。したがって、装置200によって、長期間の細胞培養および膜上に増殖した肺の上皮細胞と内皮細胞の隣接単層の動的な機械的伸長を同時に実行できる。
【0099】
肺内の肺胞上皮と肺内皮の間の組織-組織界面をシミュレートするのに膜208を利用する場合の一方法は、I型肺胞上皮細胞を、第一部分250Aに対面する膜208の面(以後、膜の上面と呼ぶ)に適用して上皮層を模倣する方法である。しかし、I型様とII型様の肺胞上皮細胞を約7:13の比率で混合して、肺胞上皮のインビボ細胞構造を再現することが可能である。上記例示された方法では、肺の微小血管内皮細胞を、第二部分250Bに対面する膜208の反対側の面(以後、膜の底面と呼ぶ)上で培養する。この例示された方法では、負圧を装置200に周期的にかけて、膜208を、その平面に沿って、連続して拡張および収縮させる。
【0100】
かような操作中、典型的な接合構造が膜207上に生成して、流体およびイオンが、第一部分250Aと第二部分250Bの間の膜208を通過して輸送されるので、生理的な肺胞-毛細血管ユニットが膜208上に生成しうる。膜208上の密着結合の生成は、ZO-1およびオクルディンなどの密着結合タンパク質のオンチップ免疫組織化学検出法を利用して評価できる。さらにまたは代わりに、蛍光標識をつけた大分子(例えば重量の異なるデキストラン)の排除を定量して膜の透過性を測定し、培養条件を変えることによって上皮膜障壁の形成を最適化することができる。さらに、組織学的、生化学的およびマイクロ流体学的方法を利用して、膜208上にそのインビボ対応物の重要な構造組織化を再現する機能性肺胞-毛細血管ユニットの形成を示すことができる。
【0101】
一実施例で、膜208上に自己組織化された組織-組織界面のガス交換機能を、それ自身の酸素分圧と血液を各々有する異なる流体を、それぞれの第一部分250Aと第二部分250Bに注入することによって、測定することができ、この場合、第一部分250Aは肺胞区域として働き、第二部分250Bは微小血管区域として働く。好ましくは装置200内の血液-ガス測定装置を使用して、装置中を血液が通過する前後に、それぞれの部分250Aと250B内の血液中酸素のレベルを測定する。例えば、血液は、空気を上部チャネル250A中に注入しながら、チャネル250B中を流動できるので、出てくる空気を集めて、酸素計を使って酸素レベルを測定する。酸素計は、既存のシステムと組み合わせるかまたは別個のユニットとして一つまたは複数の中央マイクロチャネルの出口ポートに接続することができる。一態様では、空気または他の媒体を薬物または粒子を含有するエアロゾルとともに装置を通じて流動させ、次いで、膜を経由したこれらの薬物または粒子の血液への輸送を測定する。病原体またはサイトカインを前記空気またはガス媒体の側に添加し、次いで病原体の血液への侵入のみならず、近くの毛細血管内皮への免疫細胞の固着および免疫細胞と浮腫液の血液側から気道側への通過を測定することも企図される。
【0102】
上皮が機能するには、構成細胞の極性化が必要であるから、膜の構造を、透過型電子顕微鏡法、免疫組織細胞化学、共焦点顕微鏡法または他の適切な手段を使って可視化して、膜208の肺胞上皮細胞側の極性化をモニターする。肺模倣装置の態様では、蛍光染料を、第一および/または第二のマイクロチャネル250A、250Bに適用して、膜208における気道上皮による肺胞界面活性物質の産生を測定することができる。特に、膜208上の肺胞上皮細胞は、細胞内に貯蔵された肺界面活性物質(例えばキナクリン)に特異的に標識付けする蛍光染料を細胞が取り込むことから発生する蛍光を測定するか、または特異抗体を使ってモニターすることができる。
【0103】
組織界面装置200の独特の機能の一つは、臓器レベルで肺の炎症性反応をシミュレートして、免疫細胞がどのようにして血液から内皮を通過し肺胞コンパートメントに移行するか研究できるインビトロモデルを発展できることである。これが達成される一方法は、第一部分250Aへの炎症促進因子(例えばIL-1β、TNF-α、IL-8、シリカのマイクロ粒子とナノ粒子、病原体)の制御されかつプログラム可能なマイクロ流体送達、ならびに第二部分250Bにおけるヒトの全血流または循環免疫細胞を含有する培養液の制御されかつプログラム可能なマイクロ流体送達である。前記膜を通過する電気抵抗と短絡回路電流をモニターして、炎症性反応中の、血管透過性、流体の溢出および細胞の肺胞腔への流入の変化を研究できる。蛍光顕微鏡法を利用して、溢出反応中の動的な細胞運動挙動を可視化できる。
【0104】
組織界面装置200は、ナノマテリアルが、肺の組織-組織界面に対してどのように挙動するかを試験するのにも使用できる。特に、ナノマテリアル(例えばシリカナノ粒子、超常磁性ナノ粒子、金ナノ粒子、単層カーボンナノチューブ)を、膜208の気道表面に適用して、膜208上で増殖させた気道細胞または内皮細胞に対して起こる可能性があるナノマテリアルの毒作用、および気道流路から血流路へのナノマテリアルの流入を研究できる。例えば、センサ120を使用して、膜208上に形成された組織障壁を通過するナノマテリアルの遊出、ならびにガス交換および流体/イオンの輸送などといった障壁機能の、ナノマテリアルにより誘発された変化をモニターできる。
【0105】
組織界面装置200は、肺の生物学と生理学の各種の重要な分野について直接分析することができ、その分野には、限定されないが、ガス交換、流体/イオンの輸送、炎症、感染、浮腫/呼吸困難症候群、癌と転移の発生、真菌感染症、薬物送達と薬物スクリーニング、生物学的検出および肺のメカノトランスダクションが含まれる。さらに、装置200は、血液-脳関門、腸、骨髄、糸球体、および癌性腫瘍の微環境などの他の生理系に見られる生体組織-組織界面を、正確にモデル化できる。上記のように、二つ以上の組織界面装置200を複合し自動化して、薬物、化学物質、粒子、毒物、病原体の、または他の環境刺激に対する細胞と組織の反応のハイスループット分析、毒物とワクチンのスクリーニング、ならびに毒性学と生物学的検定の用途を提供できる。本発明の装置は、インビトロでの複雑な組織と臓器の生理学の研究、および生体適合性または生分解性の装置によるインビボでの組織と臓器の操作の研究に使用できる。
【0106】
一態様では、組織界面装置200を使用して、その中に人造組織層を作製することができる。この態様では、二種類以上の異なる細胞型を膜208の対向する表面上に適用し、適切な生理環境を模倣する条件下で培養する。さらにまたは代わりに、圧力差を中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作マイクロチャネルとの間にかけ、マイクロチャネル壁を移動させて膜208をその面に沿って拡張/収縮させる。
【0107】
別の実施例では、装置200は、多孔質の膜208を使用して、肺細胞を膜208の一方の面上で培養し、内皮細胞を膜208の他方の面上に維持する。装置200の動作中、これら二つの細胞層は膜208の細孔を経由する化学物質と分子の刺激の通過によって互いに連通している。この連通をモニターおよび分析して、標準的な組織培養システムで単一組織型として単離して培養した場合と比較して、生理学的な機械的シミュレーションを伴ってまたは伴わずに、これらの細胞が、組織-組織界面としてどのように異なって機能するかを理解することができる。細胞と組織の生理、ならびに化学物質、分子、粒子および細胞のこの組織-組織界面の通過の変化をモニターすることによって、より有効な薬物または治療法を作り出し、これまで知られていなかった毒性を同定し、そしてこれらの開発工程の期間を有意に短縮するのに利用できる情報を得ることができる。特に、かような制御された環境における細胞の挙動によって、研究者は、従来のインビトロの培養技術を使っては再現できない、上記諸システムに起こる各種生理現象を研究できる。換言すれば、装置200は、患者の身体の外側で、それでもなお肺の重要な生理機能と構造を保持する制御可能な環境で、モニタリング可能な人造血液-空気関門をつくりだす機能を有している。上記装置は、肺の機能を模倣するということについて説明されているが、この装置は、生きた微生物の集団を含有している胃腸管の蠕動および吸収、腎臓における還流および尿の生成、血液-脳関門の機能、皮膚の老化による機械的変形の作用、造血幹細胞ニッチを有する骨髄-微小血管の界面など他の生理システムを模倣するように容易に構成できることに注目すべきである。
【0108】
膜表面の処理の詳細、ならびに装置を操作中、中央マイクロチャネル250A、250Bを通じておよび/または膜に適用できる培養液のタイプの詳細を、ここで述べる。多孔質膜を含む膜は、図4Dに示すように、各種の細胞接着促進物質またはECMタンパク質例えばフィブロネクチン、ラミニン、または各種のコラーゲンまたはこれらの組合せなどの物質でコートできる。一般に、図4Dに示すように、一種類または複数種の物質608が膜604の一方の表面上に示されているが、一方、別の物質610を膜604の対向する表面上に適用するか、または両表面を同じ物質でコートできる。いくつかの態様では、ECM(例えば初代細胞または胎児幹細胞などの細胞が産生するECMでもよい)および他の構成物が無血清の環境で産生される。
【0109】
一態様では、膜に結合させて細胞の付着を改善し細胞の増殖を安定化する、細胞接着因子と正電荷の分子の組合わせを膜にコートする。正電荷の分子は、ポリリジン、キトサン、ポリ(エチレンイミン)、またはアクリルアミドもしくはメタクリルアミドを重合させて得たアクリルからなる群より選択することができ、第一級、第二級もしくは第三級のアミンまたは第四級の塩の形態の正電荷の基を含んでいる。細胞接着因子は膜に付加することができ、好ましくはフィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチンもしくはテネイシンまたはその細胞結合領域を有するフラグメントもしくは類似体である。正電荷分子と細胞接着因子は膜に共有結合することができる。別の態様では、正電荷分子と細胞接着因子が互いに共有結合され、次いで正電荷分子または細胞接着因子のいずれかが膜に共有結合される。また、正電荷分子もしくは細胞接着因子または両者は、膜に共有結合されない安定なコーティングの形態で提供できる。
【0110】
一態様では、細胞付着促進物質、マトリックス形成製剤およびその他の組成物は、消毒され、不要な混入を防止する。消毒は、例えば紫外線、濾過または熱で達成できる。特にインキュベーション中に抗生物質を添加して、細菌、真菌などの望ましくない微生物の増殖を防止することもできる。かような抗生物質には、非限定的な例として、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリン、アムホテリシンおよびシプロフロキサシンが含まれる。
【0111】
別の態様では、膜は細胞培養物でコートされるが、その細胞培養物には、限定されないが、初代細胞の培養物、株化細胞系、または幹細胞の培養物、例えばフィブロネクチンもしくはコラーゲンを含むかまたは本質的にこれらからなるECM物質に結合されたESCなどが含まれる。
【0112】
一態様では、膜に結合される初代細胞または細胞系は肺胞細胞、内皮細胞、腸細胞、角化細胞でもよく、限定されないが、ヒトの皮膚の角化細胞、または本明細書の別の場所に列挙されているかもしくは当業者には周知の他のいずれかの細胞型が含まれる。別の態様では、初代細胞は線維芽細胞でもよく、限定されないが、ヒト胎児線維芽細胞が含まれる。いくつかの態様では、幹細胞培養物の幹細胞は胎児幹細胞である。胎児幹細胞の供給源には、限定されないが哺乳類が含まれ、ヒト以外の霊長類およびヒトを含んでいる。ヒト胎児幹細胞の非限定例としては、
が含まれる。一態様では、幹細胞培養物の幹細胞は、誘導された多能性幹細胞である。
【0113】
一態様では、細胞培養物は、無血清の初代細胞培養物または幹細胞培養物などの細胞培養物でもよい。これらの態様のいくつかでは、無血清の初代細胞ECMが初代細胞無血清培養液(SFM)とともに使用される。適切なSFMには、限定されないが、(a)EPILIFE(登録商標)Defined Growth Supplementを添加されたEPILIFE(登録商標)Serum Free Culture Mediumおよび(b)Defined Keratinocyte-SFM Growth Supplementを添加されたDefined Keratinocyte-SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。これらの態様のいくつかでは、無血清幹細胞ECMを幹細胞SFMとともに使用する。適切なSFMには、限定されないが、塩基性線維芽細胞増殖因子とβ-メルカプトエタノールを添加されたSTEMPRO(登録商標)hESC Serum Free Media(SFM)、KNOCKOUT(商標)Serum Replacement(SR)を添加されたKNOCKOUT(商標)D-MEM、STEMPRO(登録商標)MSC SFM、およびSTEMPRO(登録商標)NSC SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。
【0114】
一態様では、前記組成物はゼノフリー(xeno-free)でもよい。組成物は、細胞が由来する動物の種以外の動物由来の物質を欠いているときに「ゼノフリー」といわれる。一態様では、初代細胞培養物または幹細胞の培養物などの細胞培養物でありうる細胞培養物はゼノフリーである。これらの態様では、ゼノフリーECMは、初代細胞ECMまたは特に幹細胞の増殖または分化を支持するように設計されたECMなどのECMであってもよい。これらのマトリックスは、特にゼノフリーであるように設計される。
【0115】
一態様では、細胞培養物は、条件培養液で培養された初代細胞または幹細胞である。他の態様では、培養液は非条件培養液である。
【0116】
一態様では、細胞培養の条件は完全に規定されている。これらの態様では、流体チャンバー内の完全に規定された細胞培養液を用いる。適切な培養液には、限定されないが、初代細胞用のEPILIFE(登録商標)Definited Growth Supplementを添加されたEPILIFE(登録商標)Serum Free Culture Medium、および幹細胞用のSTEMPRO(登録商標)hESC SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。
【0117】
薬物、環境ストレス要因、病原体、毒物などの作用を研究するため、これらを、チャネルの多孔質膜に付着させた細胞を増殖させるのに適切な所望の細胞培養液に添加できる。したがって、細菌、ウイルス、エアロゾル、各種のナノ粒子、毒物、ガス物質などの病原体を、チャンバー中に流入して細胞へ供給される培養液に導入できる。
【0118】
当業者は、前記細胞の代謝活性によって培養液のpHバランスを制御して、関心対象の任意の細胞型または組織型のpHを適切なレベルに維持することもできる。pHをモニターし調節するモニターおよび調節システムは、本発明の装置中に挿入できる。
【0119】
膜は、好ましくは、一方の面または両面を、細胞、分子またはその他のものでコートされ、その結果、本発明の装置は、膜経由での、マイクロチャネルに沿ったおよび/またはマイクロチャネル間の細胞の挙動をモニターするための、制御された環境を提供する。本発明の装置には多細胞生物由来の任意の細胞を使用できる。例えば、ヒトの身体は、少なくとも210種の既知の細胞型を含んでいる。当業者は、本発明の装置中に、細胞の有用な組合せを容易に構築することができる。本発明の装置に使用できる細胞型(例えばヒト)には、限定されないが以下のものが含まれる。すなわち、外皮系細胞:限定されないが、角化上皮細胞、表皮角化細胞(表皮細胞を分化する)、表皮基底細胞(幹細胞)、指の爪と足の爪の角化細胞、爪床基底細胞(幹細胞)、髄様毛幹細胞、皮質毛幹細胞、小皮毛幹細胞、小皮毛根鞘細胞、ハックスリー層の毛根鞘細胞、ヘンレ層の毛根鞘細胞、外部毛根鞘細胞、毛母基細胞(幹細胞);湿潤重層バリヤ上皮細胞:例えば角膜、舌、口腔、食道、肛門管、下位尿管および膣の重層扁平上皮の表面上皮細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、下位尿管および膣の上皮の基底細胞(幹細胞)、尿路上皮細胞(膀胱と尿管を被覆する);外分泌上皮細胞、例えば唾液腺粘液細胞(多糖類が豊富な分泌物)、唾液腺漿液細胞(糖タンパク質酵素が豊富な分泌物)、舌のフォンエブナー腺細胞(味蕾を洗浄する)、乳腺細胞(乳汁分泌)、涙腺細胞(涙を分泌)、耳の耳垢腺細胞(耳垢分泌)、エクリン汗腺暗細胞(糖タンパク質分泌)、エクリン汗腺明細胞(小分子分泌)、アポクリン汗腺細胞(臭気分泌、性ホルモン感受性)、眼瞼のモール細胞腺(特殊汗腺)、皮脂腺細胞(脂質が豊富な皮脂を分泌)、鼻のボーマン腺細胞(嗅上皮を洗浄する)、十二指腸のブルナー腺細胞(酵素とアルカリ性粘液)、精のう細胞(精子の泳動用のフラクトースを含む精液成分を分泌)、前立腺細胞(精液成分を分泌)、尿道球腺細胞(粘液分泌)、バルトリン腺細胞(膣潤滑液分泌)、レトレ腺細胞(粘液分泌)、子宮内膜細胞(炭水化物分泌)、気道および消化管の分離杯細胞(粘液分泌)、胃を被覆する粘液細胞(粘液分布)、胃腺酵素原細胞(ペプシノーゲン分泌)、胃腺酸分泌細胞(塩酸分泌)、膵臓腺房細胞(炭酸水素塩と消化酵素を分泌)、膵臓内分泌細胞、小腸のパネート細胞(リゾチーム分泌)、腸上皮細胞、肺のI型とII型の肺細胞(界面活性剤を分泌)および/または肺のクララ細胞が含まれる。
【0120】
また、前記膜は、以下の細胞類でコートすることができる。すなわちホルモン分泌細胞、例えば膵臓のランゲルハンス島の内分泌細胞、下垂体前葉細胞、成長ホルモン産生細胞、乳腺刺激ホルモン産生細胞、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、性線刺激ホルモン産生細胞、副腎皮質刺激因子産生細胞、メラニン細胞刺激ホルモンを分泌する下垂体中葉細胞;およびオキシトシンまたはバソプレシンを分泌する大型神経分泌細胞;セロトニン、エンドルフィン、ソマトスタチン、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、インスリン、グルカゴン、ボンベシンを分泌する腸管と気道の細胞;甲状腺細胞例えば甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞、上皮小体腺細胞、上皮小体主細胞、好酸性細胞、副腎細胞、ステロイドホルモン(ミネラルコルチコイド類およびグルココルチコイド類)を分泌するクロム親和性細胞、テストステロンを分泌する精巣のライディッヒ細胞、エストロゲンを分泌する卵胞の内卵胞膜細胞、プロゲステロンを分泌する破裂卵胞の黄体細胞、顆粒膜黄体細胞、卵胞膜黄体細胞、傍糸球体細胞(レニンを分泌)、腎臓の密集斑細胞、腎臓の極周囲の細胞および/または腎臓の糸球体間質細胞である。
【0121】
さらにまたは代わりに、前記膜の少なくとも一方の面を、代謝および貯蔵細胞、例えば肝細胞(肝臓細胞)、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞で処理できる。また、障壁機能細胞(肺、消化管、外分泌腺および尿生殖路)、または腎臓細胞、例えば腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体足細胞、腎臓近位尿細管刷毛縁細胞、ヘンレ薄セグメント細胞のループ、腎臓遠位尿細管細胞および/または腎臓集合管細胞も使用できる。
【0122】
本発明の装置に使用できるその他の細胞には、I型肺胞上皮細胞(肺の気腔を被覆する)、膵管細胞(腺房中心細胞)、平滑管細胞(汗腺、唾液腺、乳腺などの)、主細胞、間在細胞、管細胞(精嚢、前立腺などの)、腸刷毛縁細胞(微小絨毛を有する)、外分泌腺線状部導管細胞、胆嚢上皮細胞、小輸出管非線毛細胞、精巣上体主細胞および/または精巣上体基底細胞が含まれる。
【0123】
閉鎖内体腔を被覆する上皮細胞、例えば血管とリンパ血管の内皮有窓細胞、血管とリンパ管の内皮連続細胞、血管とリンパ管の内皮脾細胞、滑膜細胞(関節腔を覆い、ヒアルロン酸を分泌する)、漿膜細胞(腹膜、胸膜および心膜腔を被覆する)、扁平細胞(耳の外リンパ隙を被覆する)、扁平細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、微小絨毛を有する内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、微小絨毛無しの内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、暗細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、前庭膜細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、血管条基底細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、血管条周辺細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、クラウディウス細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、ベッチャー細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、脈絡叢細胞(脳脊髄液を分泌)、柔膜クモ膜扁平細胞、眼の色素性線毛上皮細胞、眼の非色素性線毛上皮細胞および/または角膜内皮細胞も使用できる。
【0124】
以下の細胞は、培養液中の膜の表面にこれらの細胞を付加することによって、本発明の装置に使用できる。それら細胞には、推進機能を有する線毛細胞、例えば気道線毛細胞、卵管線毛細胞(女性)、子宮内膜線毛細胞(女性)、精巣網線毛細胞(男性)、小輸出管線毛細胞(男性)および/または中枢神経系の線毛上衣細胞(脳腔を被覆する)などが含まれる。
【0125】
特殊化されたECMを分泌する細胞をプレーティングすることもできる。このような細胞には、例えばエナメル芽上皮細胞(歯のエナメル質を分泌する)、耳の前庭器の半月平面上皮細胞(プロテオグリカンを分泌する)、コルチ歯間上皮細胞の器官(毛細胞を被覆する蓋膜を隠す分泌する)、疎性結合組織線維芽細胞、角膜線維芽細胞(角膜実質細胞)、腱線維芽細胞、骨髄細膜組織線維芽細胞、その他の非上皮線維芽細胞、血管周囲細胞、椎間板の髄核細胞、セメント芽細胞/セメント細胞(歯根骨様セメント質を分泌)、象牙芽細胞/オドントサイト(odontocyte)(歯の象牙質を分泌する)、ヒアリン軟骨の軟骨細胞、線維軟骨の軟骨細胞、弾性軟骨の軟骨細胞、骨芽細胞/骨細胞、前骨芽細胞(骨芽細胞の幹細胞)、眼のガラス体のガラス体細胞、耳の外リンパ腔の星細胞、肝臓星細胞(イトウ細胞)および/または膵臓星細胞などが含まれる。
【0126】
さらにまたは代わりに、収縮細胞、例えば骨格筋細胞、赤色骨格筋細胞(緩徐)、白色骨格筋細胞(敏速)、中間骨格筋細胞、筋紡錘の核袋細胞、筋紡錘の核鎖細胞、衛星細胞(幹細胞)、心筋細胞、固有心筋細胞、結節性心筋細胞、プルキンエ線維細胞、平滑筋細胞(各種)、虹彩の筋上皮細胞、外分泌腺の筋上皮細胞などが、本発明の装置に使用できる。
【0127】
下記細胞、すなわち血液と免疫系の細胞、例えば赤血球(赤血球)、巨核球(血小板前駆体)、単球、結合組織マクロファージ(各種)、上皮ランゲルハンス細胞、破骨細胞(骨中)、樹状細胞(リンパ組織中)、小グリア細胞(中枢神経系中)、好中性顆粒、好酸性顆粒、好塩基性顆粒、肥満細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、細胞毒性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、網状赤血球、幹細胞および血液と免疫系用の委任前駆細胞(各種)も、本発明の装置に使用できる。これらの細胞は、単一の細胞型としてまたは混合物で使用して、組織培養系における免疫細胞の作用を決定できる。
【0128】
一種類または複数種の神経系細胞、すなわち知覚変換細胞、例えばコルチ器官の聴覚内有毛細胞、コルチ器官の聴覚外毛細胞、嗅上皮の基底細胞(嗅ニューロンの幹細胞)、低温感受性一次感覚ニューロン、感熱性一次感覚ニューロン、表皮のメルケル細胞(触覚センサ)、嗅覚受容ニューロン、痛み感受性一次感覚ニューロン(各種);眼の網膜の光受容体細胞、例えば光受容体杆体細胞、眼の光受容体青感性錐状体視細胞、眼の光受容体緑感性錐状体視細胞、眼の光受容体赤感性錐状体視細胞、固有受容体一次感覚ニューロン(各種);触覚感受性一次感覚ニューロン(各種);I型頚動脈小体細胞(血液pHのセンサ);II型頚動脈小体細胞(血液pHのセンサ);耳の前庭器のI型毛細胞(加速度と重力);耳の前庭器のII型毛細胞(加速度と重力);および/またはI型味蕾細胞でも膜を処理できる。
【0129】
さらに、自律性ニューロン細胞、例えばコリン作動性神経細胞(各種)、アドレナリン作動性神経細胞(各種)、ペプチド作動性神経細胞(各種)を、本発明の装置に使用できる。さらに、感覚器および末梢ニューロン支持細胞も利用できる。これらの細胞には、例えばコルチ器官の内柱細胞、コルチ器官の外柱細胞、コルチ器官の内指節細胞、コルチ器官の外指節細胞、コルチ器官の辺縁細胞、コルチ器官のヘンゼン細胞、前庭器支持細胞、I型味蕾支持細胞、嗅上皮支持細胞、シュワン細胞、衛星細胞(被包性末梢神経細胞体)および/または腸管グリア細胞が含まれる。いくつかの態様では、中枢神経系ニューロンおよびグリア細胞、例えば、星状神経膠細胞(各種、ニューロン細胞(多種類のタイプ、未だ分類不十分)、希突起グリア細胞および紡錘ニューロンも使用できる。
【0130】
水晶体細胞、例えば前水晶体上皮細胞および結晶含有水晶体線維細胞も、本発明の装置に使用できる。さらに、色素細胞例えばメラニン形成細胞と網膜色素上皮細胞;ならびに性細胞、例えば卵祖細胞/卵母細胞、精子、精母細胞、精祖細胞(精母細胞の幹細胞)および精虫を使用できる。
【0131】
いくつかの態様では、膜に、ナース細胞、卵胞細胞、セルトリ細胞(精巣中)、胸腺上皮細胞を付加することができる。間質腎臓細胞などの間質細胞も使用できる。
【0132】
一態様では、膜の少なくとも一方の面を、上皮細胞でコートできる。上皮細胞は身体の至るところに存在する腔および構造体の表面を被覆する細胞で構成された組織である。また、多くの腺は上皮組織で形成されている。上皮細胞は結合組織の頂部に位置しそして二つの層が基底膜で分離されている。ヒトの場合、上皮は一次身体組織として分類され、その他の組織は、結合組織、筋肉組織および神経組織である。上皮は、接着分子e-カドヘリンの表出により(結合組織のニューロンおよび細胞によって使用されるn-カドヘリンとは対照的に)規定されることが多い。
【0133】
上皮細胞の機能には、分泌、選択吸収、防御、細胞を通過する輸送および知覚の検出が含まれ、その結果、それら機能は、通常、広範囲の先端基底側の極性(例えば、異なる膜タンパク質の発現)および分化を提供する。上皮細胞の例には、薄い平坦なプレートの外観を有している扁平細胞が含まれる。上皮細胞は、組織中でともに密着して、流体が容易に移動できる平滑で低摩擦の表面を提供する。その核の形は、通常、細胞の形態に対応しているので、上皮細胞の型を確認するのに役立つ。扁平細胞は薄い平らな形なので水平に平らな楕円形の核を有する傾向がある。扁平上皮は、典型的に、肺の中の肺胞上皮のように単純な受動拡散を利用して表面を被覆することが分かっている。また、特殊化された扁平上皮は、血管(内皮)および心臓(中皮)および身体内にみられる大きな腔などの腔の内張りも形成する。
【0134】
上皮細胞の別の例は、立方体様細胞である。立方体様細胞は、おおむね立方体の形状であり、断面は正方形である。各細胞は中央に球形の核を有している。立方体様上皮は通常、分泌組織または吸収組織、例えば膵臓の(分泌性)外分泌腺、尿細管の(吸収性)内張りおよび腺の管路の中にみられる。立方体様細胞は、女性の卵巣中に卵細胞を、および男性の精巣中に精子細胞を産生する胚上皮も構成している。
【0135】
上皮細胞のさらに別のタイプは、引き伸ばされた柱の形態の円柱状上皮細胞である。その核は引き伸ばされ、通常細胞の基底の近くに位置している。円柱状内皮細胞は、胃や腸の内張りを形成している。いくつかの円柱状細胞は、例えば、鼻、耳および舌の味蕾の中の感覚受容用に特殊化されている。杯細胞(単一細胞腺)は、十二指腸の柱状上皮細胞の間に見られる。この細胞は潤滑剤として働く粘液を分泌する。
【0136】
上皮細胞のさらに別の例は偽重層細胞である。この細胞はその核が異なる高さに見える単層の円柱上皮細胞であり、この細胞を断面で見ると、その上皮は層状になっているという誤解を招く恐れがある(それ故「偽重層」)印象をあたえる。偽重層上皮は、繊毛と呼ばれるその先端の(管腔)膜の細い毛様延長部分を有していてもよい。この場合、この上皮は、「繊毛」のある「偽重層上皮」と記述する。繊毛は、細胞骨格微小管と結合構造タンパク質および酵素の相互作用によって特定の方向にエネルギー依存性の拍動をすることができる。発生した繊毛運動作用は、杯細胞に局所的に粘液を分泌させて(病原体と粒子を潤滑して捕捉するため)その方向に(典型的には身体から外へ)流動させる。繊毛のある上皮は、気道(鼻、気管支)にみられるが、女性の子宮やファロピウス管にも見られ、そこにおいて繊毛は卵子を子宮に前進させる。
【0137】
上皮は、身体の外側(皮膚)および内側の腔と管腔の両者を被覆する。我々の皮膚の最も外側の層は、死んだ重層扁平角化上皮細胞で構成されている。
【0138】
口の内側、食道および直腸の一部を被覆する組織は、角化されていない重層扁平上皮で構成されている。身体の腔を外部環境から分離しているその他の表面は、単層で、扁平、円柱もしくは偽重層の上皮細胞で被覆されている。他の上皮細胞は、肺、胃腸管、生殖器官および尿路の内側を被覆し、ならびに外分泌線および内分泌腺を被覆する。角膜の外層は、迅速に増殖し容易に再生される上皮細胞で被覆されている。内皮(血管、心臓およびリンパ管の内張り)は特殊な形態の上皮である。別のタイプである中皮は、心膜、胸膜および腹膜の壁を形成している。
【0139】
したがって、利用可能な細胞型を多孔質膜上にプレーティングし、利用可能な真空を印加して、その細胞に、生理的力(例えば皮膚への張力または肺への機械的歪)を模倣する生理的または人工の機械力を印加することによって、記載されている本発明の細胞培養装置中で、前記組織の任意のものを再現することができる。一態様では、膜の一方の面は、上皮細胞でコートされそして他方の面は内皮細胞でコートされる。
【0140】
内皮は、内腔内を循環する血液と残りの血管壁との間の界面を形成する、血管の内表面を被覆する細胞の薄い層である。内皮細胞は、心臓から最も細い血管まで全循環系を被覆する。これらの細胞は、血液流の乱れを減少させ、血液をより遠方へポンプ輸送できる。内皮組織は特殊な型の上皮組織である(動物の生体組織の4種の型のうちの一つである)。より具体的に述べると、内皮は単層扁平上皮である。
【0141】
解剖学の基本的モデルによって、上皮細胞と内皮細胞は、どの組織から増殖するのか、およびケラチンフィラメントではなくビメンチンの存在がこれらを上皮細胞から分けるということに基づいて、区別される。心腔の内表面の内皮は、心内膜と呼称される。毛細血管と毛細リンパ管は、単層と呼称される内皮細胞の単一層で構成されている。内皮細胞は、血管生理学の多くの局面、すなわち血管収縮および血管拡張したがって血圧の制御;血液の凝固(血栓症および線維素溶解現象);アテローマ性動脈硬化症;新血管の形成(血管新生);炎症および障壁の機能に関連しており、内皮は血管内腔と周囲の組織の間の選択的障壁として活動して、血流中へおよび血流からの物質の通過と白血球細胞の輸送を制御する。慢性炎症の症例のように、内皮の単層の透過性が過剰にまたは長期間増大すると、組織の水腫/膨潤をもたらすことがある。いくつかの臓器では、高度に分化した内皮細胞が存在し、特殊な「濾過機能」を実行する。かような独特な内皮の構造の例として、腎臓の糸球体と血液-脳関門がある。
【0142】
一態様では、培養された内皮細胞を含む膜の面を、各種の試験物質、および白血球細胞もしくは特異的免疫系細胞に曝露して、組織レベルの免疫系細胞の機能に対する試験物質の作用を研究することができる。
【0143】
組織界面装置200がどのようにして製造されるかについて、ここで、一態様によって詳細に述べる。PDMS膜の製造には、好ましくは、段階的に組み立てられる多数の部品の平行した処理が含まれている。図4Aは、多孔質膜208の製造に最終的に使用される、一態様による原型600の透視図である。図4Aに示すように、原型600は、好ましくは、フォトレジストをケイ素の基板に対して所望の形態と大きさに型押しすることによって製造される。
【0144】
柱状部602は、膜208の意図する設計によって、任意の所望の配列に設計できる。例えば、柱状部602を、円形パターンに配列し、対応して膜208に細孔の円形パターンのセットを形成することができる。柱状部602は、上記のような五角形以外の他の断面形状にして、膜に対応する細孔をつくることができることに注目すべきである。原型600が、高さの異なる隆起を有し、平坦でない膜を作製できることにも注目すべきである。
【0145】
次いで、図4Bに示すように、原型600は、好ましくはPDMSでスピンコートされてスピンコートされた層604を形成させる。次いで、そのスピンコートされた層604は、設定された時間と温度(例えば110℃で15分間)で硬化させ、次に原型600を剥がして、図4Cに示すように、五角形の通孔606の配列を有する薄いPDMS膜604を製造する。図示したこの実施例は、10μm厚のPDMS膜の製造を示しているが、その他の厚さも企図される。
【0146】
他の材料も使用できるが、PDMSは、適度に硬いエラストマー(1MPa)であり、非毒性でかつ300nmまで光学的に透明であるという点で、生物学的に有用な性質を有している。PDMSは、本質的に、非常に疎水性であるが、プラズマで処理することによって、親水型に変換できる。膜604は、前記いくつかの各種目的のため加工することができる。例えば、膜604の細孔606は、当業者には公知のECMの分子またはゲル、例えばMATRIGEL、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリン、エラスチンなどでコートまたは充填することができる。前記組織-組織界面は、図4Dに示すように、膜604の各面に異なる型の細胞を培養することによってコートできる。特に、図4Dに示すように、一つの型の細胞608を、膜604の一方の面にコートし、一方、膜604の反対側の面に別の型の細胞610をコートする。
【0147】
図5Aと5Bは、第一外体部分202、第二外体部分204が一態様によって形成される工程を示す。第一と第二の外体部分202、204は、好ましくはソフトリソグラフィー法を利用して形成されるが、当該技術分野で周知の他の方法も企図される。一態様では、フォトレジスト(図示せず)が基板上に形成され、そのフォトレジストは、第一外体部分の所望の分枝形態の鏡像のポジレリーフの特徴を有している。同様に、第二のフォトレジスト(図示せず)が別の基盤上に形成され、その第二フォトレジストは、第二の外体部分204の分枝形態の鏡像の対応するポジレリーフの特徴を有している。前記マイクロチャネルは、連通ポートおよびポート開口とともに、好ましくは、PDMSまたは他の適切な材料を各原型に対してキャストすることによって製造することが好ましい。第一と第二の外体部分202、204が形成されたならば、ポート開口として働く通孔を、好ましくは、開口を形成する機械またはスタンプを使って、PDMSの平板を通して作製する。
【0148】
図5Cに示すように、すでに製造されたPDMS膜208を、次に、第一外体部分202と第二外体部分204の間に挟みこんで、マイクロチャネル壁234、244および外壁238、248を、適当な製造装置と技術を利用して整列させる。その後、マイクロチャネル壁234、244と外壁を、好ましくは適切な付着剤またはエポキシ樹脂を使って、膜208に結合させる。さらに、外体部分202、204の残りの部分は適切な付着剤またはエポキシ樹脂を使って互いに永久的に結合させて、全装置を製造する。
【0149】
次いで、図5Dに示すように、PDMSエッチング溶液を、動作チャネル中に導入して、PDMS膜セグメントを動作チャネル内でエッチングする。その結果、図5Eに示すように、前記膜がない二つの側部の動作チャネル252が生成されるが、中央マイクロチャネル中には膜が保持されている。上記のものは、好ましくはソフトリソグラフィー法を利用して製造されるが、その詳細は、Whitesides et al.,刊行されたAnnual Review, Biomed Engineering, 3.335-3.373(2001)による「Soft Lithography in Biology and Biochemistry」およびThangawng et al., Biomed Microdevices, vol.9. num.4, 2007, p. 587-95による「An Ultra-Thin PDMS Membrane As A Bio/Micro-Nano Interface:Fabrication And Characterization」に記載されている。なお、これら両文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0150】
図6は、一態様による多数の組織界面装置を有するシステムの模式図を表す。特に、図6に示すように、このシステム700は、一つまたは複数の流体供給源704と圧力源(図示せず)に連結された一つまたは複数のCPU702を含み、その結果、これらのものは図示されている三つの組織界面装置706A、706Bおよび706Cに連結されている。この態様では、装置706が三つ示されているが、三つより少ないかまたは多い装置706が企図されることに注目すべきである。システム700では、前記三つの装置のうち二つ(すなわち706Aと706B)は流体供給源704に対して並列に接続され、そして装置706Aと706Cは流体供給源704に対して直列に連結されている。図示されている形態は一実施例にすぎず、他のタイプの連結パターンが用途によって利用できることに注目すべきである。
【0151】
図示されている実施例において、流体供給源704からの流体は、装置706Aと706Bの流体入口に直接供給される。その流体は、装置706Aを通過すると装置706Bと706Cの流体入口ポート中に直接放出される。さらに、装置706Bからの流体出口は、装置706Aから装置706C中へのアウトプットと結合している。多数の装置が動作することによって、流体または膜中の細胞は、流体が別の制御された環境を通過した後どのように挙動するか、センサデータを利用してモニターすることができる。したがって、このシステムは、多数の独立した「段階」を設定することができ、各段階における細胞の挙動を、装置706を使用して、シミュレートされた生理条件下でモニターしかつ制御することができる。直列に接続された一つまたは複数の装置は、細胞間の化学的連通を研究するのに利用できる。例えば、一細胞型が、特定の流体に曝露されたことに応答してタンパク質Aを分泌し、その結果その分泌されたタンパク質Aを含有する流体が一方の装置から出て、次いで別の装置中で特異的にパターン化された別の細胞型に曝露され、その結果、タンパク質Aを含有する流体と、別の装置内の別の細胞との相互作用をモニターできる(例えば、パラクリンのシグナル伝達)。前記平行な構成の場合、平行に接続された一つまたは複数の装置は、個々の装置を別個に通過する細胞の挙動を分析するのではなく、同時に多数の装置を通過する細胞の挙動を分析するので、効率が増大して有利である。
【0152】
図7Aは、二つの多孔質膜で分離された三つの平行なマイクロチャネルを含む、一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。図7Aに示すように、臓器模倣装置800は、動作マイクロチャネル802および動作マイクロチャネル802の間に配置された全中央マイクロチャネル804を含んでいる。全中央マイクロチャネル804は、マイクロチャネル804を、三つの別個の中央マイクロチャネル804A、804Bおよび804Cに分離するそれぞれの平行なx-y面に沿って配置された多数の膜806A、806Bを含んでいる。膜806Aと806Bは、多孔質、弾性またはその組合せの性質を持っていてもよい。正および/または負の加圧された培養液を、動作チャネル802を経由して加えると、圧力差を生じて、膜806A、806Bを、それぞれの面に沿って、平行に拡張および収縮させる。
【0153】
図7Bは、一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。図7Bに示すように、組織界面装置900は動作マイクロチャネル902A、902Bおよびマイクロチャネル902の間に配置された中央マイクロチャネル904を含んでいる。その中央マイクロチャネル904は、それぞれの平行なx-y面に沿って配置された多数の膜906A、906Bを含んでいる。さらに、壁910は、中央マイクロチャネルを、それぞれの区域を有する二つの別個の中央マイクロチャネルに分離し、その結果、壁910は、膜904Aおよび904Bとともに、マイクロチャネル904A、904B、904Cおよび904Dを画成している。膜906Aと906Bは少なくとも部分的に多孔質、弾性またはその組合せの性質を有している。
【0154】
図7Bに示す装置は、動作マイクロチャネル902Aと902Bが壁908によって分離され、その結果、マイクロチャネル902Aと902Bに印加される別個の圧力が、それぞれの膜904Aと904Bを拡張または収縮させるという点で、図7Aに示す装置とは異なる。特に、正および/または負の圧力を、動作マイクロチャネル902Aを経由して印加して、膜906Aをその面に沿って拡張および収縮させ、一方、異なる正および/または負の圧力を、動作マイクロチャネル902Bを経由して印加して、膜906Bをその面に沿って、異なる振幅および/または大きさで拡張および収縮させることができる。勿論、一方のセットの動作マイクロチャネルは圧力を経験できるが、他方のセットは圧力を経験しないので、一方の膜を動作させるだけである。二つの膜が装置800と900内に示されているが、三つ以上の膜が企図され、それらを装置内に形成させることができることには注目すべきである。
【0155】
図7Cに示す一実施例では、図7Aに記載されている三つのチャネルを含む装置が、血管化腫瘍の細胞の挙動を確認するためコートされている二つの膜806Aと806Bを有している。特に、膜806Aは、その上表面805Aにリンパ内皮がコートされ、およびその下表面に間質細胞がコートされ、そして第二多孔質膜805Bの上表面にも間質細胞がコートされ、およびその下面805Cに血管内皮がコートされている。腫瘍細胞が、区域804Bの上部膜と下部膜の表面上の間質細胞の層によって頂部と底部が囲まれている中央マイクロチャネル内に配置されている。細胞培養液または血液などの流体が、区域804Cの血管チャネルに入る。細胞培養液またはリンパ液などの流体は、区域804Aのリンパチャネルに入る。装置800のこの構成によって、研究者は、癌転移中の腫瘍の増殖ならびに血管およびリンパ管への浸潤を模倣して研究することができる。この実施例において、膜806A、806Bの一つまたは複数が、動作マイクロチャネル経由の圧力に応答して拡張/収縮できる。さらにまたは代わりに、これらの膜は、動作できないが、多孔質であるかまたは溝を有し、細胞に膜を通過させる。
【0156】
本発明の装置の独特の性能を、生理的な機械力によって誘導される設計されたナノマテリアルの急性毒性と肺外転移を評価する実験でモニターした。その場合、本発明の装置を使用して肺の炎症をモデル化し、それは肺の組織とサイトカインの複雑な相互作用および肺胞-毛細血管障壁を通って移行する血液由来免疫細胞を正確に再現しかつ直接可視化することができる。このモデルを使用して、本発明の装置は、模倣された肺の、ナノ材料に対する有意な炎症反応を明らかにする。最終的に、本発明の装置を使用して、肺の細菌感染ならびに好中球の動員および貪食作用によるそのクリアランスをシミュレートする。
【0157】
本発明の装置を、実験で使用して、生理的機械力が、肺内における設計されたナノ粒子の毒性を誘発するかまたは悪化させ、かつその粒子の体循環への転流を促進しうることが発見された。さらに、肺炎症をシミュレートするインビトロのモデルが開発されたことで、循環する血液由来免疫細胞の炎症性内皮への接着およびそれらの肺胞-毛細血管関門を通過する移行が直接観察できる。このモデルに基づいて、設計されたナノ粒子の有意な炎症促進活性が明らかになった。この証拠に基づいて、肺感染のモデルを確立することができ、かつ好中球の肺胞中への侵入および細菌貪食現象によって媒介される、細菌に対する肺固有の免疫反応を再現できた。
【0158】
本発明の装置は、いくつかの実験で利用され、そこでは生体の肺を模倣するのに使用された。本発明の装置による観察結果と発見を以下に述べる。実際の肺が正常に吸気している間、胸腔は、横隔膜を収縮させかつ胸郭を拡張させるため拡張し、その結果、肺胞の外側の胸腔内圧は低下する。肺胞壁を横切る圧力差が増大すると、肺胞を拡張させて空気が肺の中へ押し込まれ、その結果、肺胞の上皮および周囲の毛細血管の内皮を伸長する。肺胞の上皮細胞を、肺微小血管の内皮細胞とともに、多孔質薄膜上で共培養して、肺胞上皮と肺内皮の間の界面を模倣する二つの対向する組織層を作製する。マイクロチャネルの形態が区分されたことで、前記上皮と内皮の流体環境の独立した操作と生理的機械的歪の付加を容易にできる。
【0159】
この実験で、ヒト起原の肺胞上皮細胞と初代肺微小血管内皮細胞の共培養物を、生存能力の損失無しに2週間にわたって増殖させた。マイクロ流体培養によって、上皮層と内皮層の両方に存在する典型的な接合複合体で明らかな構造統合性を有する強固な肺胞-毛細血管関門が産生された。このマイクロ流体装置をコンピュータ制御の真空と組み合わせて、プログラム可能な様式で振幅と歪レベルを変えることによって、膜/細胞を周期的に伸長できるようになった。真空を印加すると、広幅の中央マイクロチャネルを横切って均一な一方向の張力が生じることが観察された。同時に、この張力が接着細胞によって知覚され、それらが伸長してそれらの突出表面積を増大することが発見された。また機械的歪が細胞に有効に印加されることが、伸長により誘発される整列および内皮細胞の一過性カルシウム反応が示されることによって確認された。
【0160】
肺組織のオンチップ産生およびその天然の微小環境の正確な発生反復によって提供される独特な性能に基づいて、本発明の装置を使用して、ナノマテリアルの起こし得る有害反応を評価した。設計されたナノマテリアルが広く使用されているにもかかわらず、健康と環境に対するナノマテリアルのリスクについて依然として知るべきことは多い。既存の毒物学の方法は、単純化しすぎたインビトロのモデル、または細胞レベルでの機械的研究に対して問題を起こすことが多い長期間で高価な動物実験に依存している。細胞培養研究と動物モデルとの間のギャップを埋めるため、本発明の装置を使用して、厳密に制御された生物模倣微小環境下でナノマテリアルの毒性をより現実的で正確な評価をすることができる。
【0161】
上記実験では、本発明の装置で調製された肺胞上皮組織を、各種のナノマテリアルに曝露し、次に酸化ストレスを、活性酸素種(ROS)の細胞内での産生量を微量蛍光定量法を使って測定することによって試験した。コロイドシリカナノ粒子と量子ドットの試験によって、生理的機械的歪が、ナノ粒子が起こす酸化ストレスを劇的に増大して、肺内皮に早期の毒性反応を誘発できることが発見された。例えば、前記細胞を、正常な呼吸をシミュレートする0.2Hzでの10%歪の周期的伸長と組み合わせて12nmのシリカナノ粒子に曝露したとき、ROSの産生量は、2時間後に5倍を上回って増大したが、一方、ナノ粒子または機械的歪のみの場合は実験の期間中、測定可能な反応を全く起こさなかった(図8参照)。カルボキシル化された量子ドットで処理された細胞の反応は、類似の傾向を示した(図9参照)。図9に示すように、シリカナノ粒子のみに24時間曝露した後、類似のレベルのROSの増加が起こることが分かった。
【0162】
図9に示すように、周期的歪のみでは、その期間にかかわらず、有意な影響が起こらないことも見出された。まとめると、これらの観察結果は、生理的力が、ナノ粒子と相乗的に働いて、肺の中で早期の毒作用を発揮するかまたはナノ粒子の毒性を悪化させることを示唆している。この伸長が誘発する、ナノマテリアルに対するROS反応は、歪のレベルおよびカスパーゼの活性によって検出される上皮細胞の誘発されたアポトーシスによって決まる。上記細胞は、ナノ粒子に曝露されている間、臨床に使用されるフリーラジカル捕捉剤のN-アセチルシステイン(NAC)で処理すると、おそらく細胞内グルタチオンを増大させるNACの抗酸化活性のため、酸化ストレスから完全に救出される。ナノマテリアルと歪との組み合わされた作用により生じる酸化ストレスが、ナノマテリアルのタイプによって有意に変化することも観察された。例えば、同じ条件下で、50nmの超常磁性鉄ナノ粒子に曝露されただけで、酸化ストレスが一過的に増大した。この独特なROS反応は、表1に示すように、単層カーボンナノチューブ、金ナノ粒子、ポリスチレンナノ粒子、およびポリエチレングリコールでコートされた量子ドットを含む他のナノマテリアルの試験では観察されなかった。
【0163】
【表1】
【0164】
組織-ナノマテリアル相互作用に対する生理的力の影響を理解するため、共焦点顕微鏡法を利用して、1時間曝露した後、100nmの蛍光ナノ粒子の上皮細胞中への内部移行を分析した。しかし、細胞内区画中に検出された粒子またはその凝集体の数は、機械的歪が存在している場合、著しく大きく、80%以上の細胞がナノ粒子を吸収したことが分かったが、一方、歪がない場合、吸収されたナノ粒子の程度は著しく小さかった。これらの結果は、生理的機械的力は、細胞のナノマテリアル吸収を促進することができ、ナノマテリアルを、細胞内の成分と相互に反応させて潜在的に一層有害にすることを示している。
【0165】
さらに、本発明の装置は、ナノマテリアルの肺胞腔から微小血管への肺外移行を研究する機会を提供するますます多くのインビボの証拠が、肺胞中のナノマテリアルは、肺胞-毛細血管関門を通過して肺循環系に入る性能を有し、他の臓器に影響している可能性を示唆している。この状態を研究するため、20nmの蛍光ナノ粒子を上皮の側に導入して、ナノ粒子の移行を、連続の流体流により下部血液流路から運ばれる粒子の数を数えることによってモニターした。このモデルによって、10%の周期的歪を有する生理的条件下で、ナノ粒子の血管区画中への移行速度が、弛緩した静止組織壁を通過する輸送と比較して、著しく増大することが明らかになった。これらの知見は、生体の肺の固有の機械的活性が、ナノマテリアルを肺胞腔から血流中に移行させることができることのインビトロでの証拠を提供している。また、この実験から得たデータは、動物実験で観察された、吸引されたナノマテリアルが全身に分布し蓄積されることを支持し、この反応を研究するための代替モデルシステムを提供するだけでなく、このプロセスの機序を示すのに潜在的に寄与している。
【0166】
本発明の装置の、肺内の統合された臓器レベルの反応を復元する性能をさらに示すため、循環する血液由来免疫細胞を組み入れて肺炎症の主工程を再現したより精巧なモデルを開発した。一般に、肺における炎症反応は、高度に調整された上皮産生の多段カスケードと早期反応のサイトカインの放出、白血球接着分子のアップレギュレーションによる血管内皮の活性化、および続く白血球の肺微小循環から肺胞腔への侵入を含んでいる。このプロセスをシミュレートするため、まず肺胞上皮の先端表面を、強力な炎症促進メディエーターである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)でシミュレートし、次いで、内皮の活性化を細胞間接着分子-1(ICAM-1)の発現を測定することによって試験した。肺胞組織の5時間にわたるTNF-αによる刺激に反応して膜の対向面上の内皮細胞は、その表面でのICAM-1の発現を劇的に増大した。さらに、活性化された内皮は、血液微小流路中を流動するヒト好中球の捕捉と強い接着を助けたが、これらはサイトカインの曝露がない場合には接着しなかった。上皮細胞を低投与量のTNF-αで処理すると、内皮が弱く活性化して、捕捉された好中球を、捕捉される(arrest)ことなく流れの方向に連続的に移動させる。顕微鏡で直接可視化すると、接着性好中球が平坦になり、強い接着部位から、離れた位置までゆっくり進み、そこで好中球は、数分間にわたって、内皮を通じて浸出し、次いで膜の細孔を通じて肺胞-毛細血管関門を通過して移行することが明らかになった。その移行した好中球は、次に優先的に細胞間接合部を通じて肺胞上皮の先端表面に移行し、次いで流体の流れや周期的伸長にかかわらず上皮層上に保持された。これらの連続事象によって、微小血管系から肺胞の区画へ好中球を動員するという肺の炎症の特徴であるプロセス全体が成功裡に複製される。
【0167】
コロイドシリカナノ粒子の肺に対する炎症促進作用を、本発明の装置を使用して研究した。肺胞上皮細胞が12nmのシリカナノ粒子に5時間曝露されると、微小血管の内皮が活性化され高レベルのICAM-1の発現を示した。10%の周期的歪をナノ粒子とともに利用すると、相乗効果で、ICAM-1の内皮での発現がアップレギュレーションされることが見出された。血液チャネルを循環するヒトの好中球は、炎症を起こした内皮に強く接着し、組織障壁を通過して移行し上皮表面上に蓄積することが分かった。これらの観察結果は、これらのシリカナノ粒子の有意な炎症促進活性を証明しており、このことは、肺に急性炎症を起こす生理的力によってより明らかになり得る。
【0168】
一実験で、本発明の装置を、細菌由来の肺の感染に対する固有の免疫反応を模倣するよう作製した。細菌に感染した肺を模倣するため、肺胞上皮細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)を構成的に発現する大腸菌(E. coli)で先端を5時間刺激した。次いでヒト好中球を、血管マイクロチャネル中に流動させたところ、内皮細胞に付着し、組織層を通過して血管外に漏出した。これは、細菌による上皮の刺激が内皮の活性化を起こしたことを示している。好中球は、上皮の表面に到達すると、GFPで標識された細菌への指向性の移動を示し、細菌を飲み込んだ。これは、蛍光標識された移動する好中球が貪食した細菌を検出することによって示すことができる。また、好中球は二種類以上の細菌を短時間で摂取することができ、その食細胞活性は、大部分の細菌が観察領域からいなくなるまで続くことが観察された。これらの結果は、インビトロの3Dの生理的な臓器における、細菌感染に対する総合的免疫反応の完全なプロセスを再現する上記モデルの性能を、明確に示している。
【0169】
態様および用途を示し説明してきたが、当業者が、上記以外の多くの変更が、本明細書に開示された本発明の概念から逸脱することなく可能であるというこの開示の恩典を有していることは明らかである。それ故、前記諸態様は、添付の特許請求の範囲の精神以外には限定されない。
【0170】
本発明の対象事項は、以下のアルファベット順に並べたパラグラフで定義できる。
【0171】
[A]内部に中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜を含み、前記膜が、中央マイクロチャネルを分離して、第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルを形成するように形成され、第一流体が第一中央マイクロチャネルを通じて利用され、かつ第二流体が第二中央マイクロチャネルを通じて利用され、前記膜が複数の生体細胞の付着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、臓器模倣装置。
【0172】
[B]多孔質膜が少なくとも部分的に可撓性であり、さらに、
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第一チャンバーの壁であって、上記膜がその上に取り付けられている第一チャンバーの壁、および
上記第一チャンバーの壁の対向する側に、第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接する第一動作チャネルであって、この動作チャネルと中央マイクロチャネルの間に印加された圧力差が、第一と第二の中央マイクロチャネル内で、第一チャンバーの壁を第一の所望の方向に曲げて、平面に沿って拡張または収縮させる第一動作チャネル
を含む、[A]の装置。
【0173】
[C]第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第二チャンバーの壁であって、膜の対向する末端が第二チャンバーの壁に取り付けられている第二チャンバーの壁、および
第二チャンバーの壁の対向する側の中央マイクロチャネルに隣接して配置された第二動作チャネルであって、第二動作チャネルと中央マイクロチャネルの間の圧力差が、第一と第二の中央マイクロチャネル内で、第二チャンバーの壁を第二の所望の方向に曲げて平面に沿って拡張または収縮させる第二動作チャネル
をさらに含む、[A]または[B]の装置。
【0174】
[D]膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0175】
[E]膜が中央マイクロチャネル内に配置された第一膜と第二膜をさらに含み、第二膜が第一膜に平行に配向されてその間に第三中央マイクロチャネル形成する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0176】
[F]膜がPDMSを含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0177】
[G]膜が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0178】
[H]膜の一方の面または両面が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0179】
[I]細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0180】
[J]膜の一方の面が上皮細胞でコートされ、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0181】
[K]装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0182】
[L]装置がさらに生物に移植されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0183】
[M]生物がヒトである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0184】
[N]膜が、インビトロにて一つまたは複数の細胞層でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0185】
[O]少なくとも一つの膜が、インビボにて一つまたは複数の細胞層でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0186】
[P]膜が、その膜への少なくとも一つの細胞層の付着を促進する生体適合性物質でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0187】
[Q]生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0188】
[R]生体適合性材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0189】
[S]第一流体が白血球細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0190】
[T]中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜を含む本体を有し、前記膜が中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分離し、複数の生体細胞の付着を支持する少なくとも一種類の付着分子でその膜がコートされている、臓器模倣装置を選択する工程、
第一流体を第一中央マイクロチャネルを通じて適用する工程、
第二流体を第二中央マイクロチャネルを通じて適用する工程、および
第一と第二の中央マイクロチャネルの間の膜に対する細胞の挙動をモニターする工程
を含む、方法。
【0191】
[U]膜が少なくとも部分的に弾性であり、かつ本体が、第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された少なくとも一つの動作チャネルを含む方法であって、
中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作チャネルの間の圧力差を調節し、その結果、膜がその圧力差に反応して平面に沿って伸長する工程
をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0192】
[V]圧力差を調節する工程がさらに
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って所望の方向に移動するように圧力差を増大する工程、および
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って反対の方向に移動するように圧力差を低下させる工程
を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0193】
[W]膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0194】
[X]膜を一つまたは複数の細胞層で処理し、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0195】
[Y]一つまたは複数の細胞層を、膜の一方の面または両面に適用する方法であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞をさらに含んでいる工程を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0196】
[Z]細胞が上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0197】
[AA]膜の一方の面が上皮細胞でコートされ、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0198】
[BB]装置本体および膜が、生体適合材料または生分解性材料で作製されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0199】
[CC]装置がさらに生物に移植される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0200】
[DD]生物がヒトである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0201】
[EE]膜がインビトロで一つまたは複数の細胞層でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0202】
[FF]少なくとも一つの膜がインビボで一つまたは複数の細胞層でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0203】
[GG]膜が、少なくとも一つの細胞層の膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0204】
[HH]生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0205】
[II]生体適合材料がコラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0206】
[JJ]第一流体が白血球細胞を含んでいる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0207】
[KK]中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置されて、中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する少なくとも部分的に多孔質の膜を含む本体を有する装置を選択する工程、
前記膜を、該膜の第一面で少なくとも一つの細胞層と接触させ、該多孔質膜の第二面で少なくとも一つの細胞層と接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造を作製する工程、
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む上記組織構造を、適用可能な細胞培養液中の少なくとも一種類の物質と接触させる工程、
均一または不均一な力を、ある期間、細胞に印加する工程、および
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体中の細胞の反応を測定して、上記少なくとも一種類の物質の細胞に対する作用を測定する工程
を含む、組織系中の少なくとも一種類の物質の作用を、生理学的または病理学的な機械力で決定する方法。
【0208】
[LL]適用可能な細胞培養液に白血球細胞が添加されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0209】
[MM]均一または不均一な力が真空を使用して印加される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0210】
[NN]少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体が、多孔質膜の第一面上に肺胞上皮細胞を含み、かつ多孔質膜の第二面上に肺の微小血管細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0211】
[OO]前記物質が、ナノ粒子、環境毒素もしくは環境汚染物質、タバコの煙、化粧品に使用される化学物質もしくは粒子、薬物もしくは薬物候補、エアロゾル、花粉を含む天然の粒子、化学兵器、一本鎖もしくは二本鎖の核酸、ウイルス、細菌および単細胞生物からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0212】
[PP]反応の測定を、活性酸素種の発現を測定することによって実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0213】
[QQ]反応の測定を、組織染色法を利用して実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0214】
[RR]物質の作用を測定する前に、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の生検材料を採取し、該材料を染色する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0215】
[SS]反応の測定を、接触している細胞培養液の試料から実施する方法であって、反応の測定を、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む膜形状の組織構造体の第一面または第二面または両面、および少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0216】
[TT]類似の並列装置系内で、前記物質の作用を別の物質とまたは前記物質を含まない対照と比較する工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0217】
[UU]まず第一物質を接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に作用させ、時間をおいて、少なくとも第二物質と接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含みかつ第一物質の作用を受けた組織構造体に対する第二物質の作用を試験する、膜を少なくとも二種類の物質と接触させる工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0218】
[VV]中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内の平行面に沿って配置された複数の膜を含み、
複数の膜の少なくとも一つが少なくとも部分的に多孔質であり、該複数の膜が、中央マイクロチャネルを複数の中央マイクロチャネルに分割するよう形成されている、臓器模倣装置。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2008年7月16日に出願した米国特許仮出願第61/081,080号の米国特許法119条(e)に基づく恩典を主張するものである。なおその内容全体は、参照により本明細書に組み入れられるものである。
【0002】
政府の支援
本発明は、米国国立衛生研究所から授与された、助成番号:NIH R01ES016665-01A1による米国政府の支援によってなされたものである。米国政府は本発明に対して一定の権利を有する。
【0003】
技術分野
本開示は、概して、マイクロチャネルを有する臓器模倣装置ならびにその使用および製造方法に関する。
【背景技術】
【0004】
背景
押力、引張力、張力、圧縮力などの機械力は、細胞の成長と挙動の重要な制御因子である。テンセグリティーによって、これら物理的力が、どのように細胞中または組織中に分布しているか、ならびにどのようにおよびどこに影響を及ぼすかを決定する構造が提供される。
【0005】
ヒトの身体内では、ほとんどの細胞は、常に張力または圧縮力などの機械力を受けている。培養中の細胞に機械的歪を印加すると、インビボ環境がシミュレートされ、細胞に劇的な形態変化と生体力学反応が引き起こされる。培養中、細胞に機械的負荷を加えると、例えばDNAまたはRNAの合成または分解の速度と量の変化、タンパク質の発現と分泌の変化、細胞の分裂と整列の速度の変化、エネルギー代謝の変化、高分子の合成または分解の速度の変化、およびその他の生化学的および生体エネルギー的変化などの、長期的および短期的変化が起こる。
【0006】
あらゆる細胞は、内部の足場すなわち細胞骨格、分子の「支柱とワイヤ」で形成された格子を有している。「ワイヤ」は、細胞膜から核まで延びて、内方向の引張力を発揮するマイクロフィラメントとして知られている細いケーブルの交差ネットワークである。引張力に対抗するのは、微小管、すなわち細胞骨格の圧縮力に耐えるより太い「支柱」、および細胞を細胞外マトリックスに固定する細胞の外膜上の特殊な受容体分子であり、この繊維状物質は細胞群を保持している。この力のバランスは、テンセグリティーの特徴である。
【0007】
組織は、細胞外マトリックスの「卵カートン」に着座している卵のように細胞群から形成されている。インテグリンとして知られている、細胞をマトリックスに固定する受容体分子は、細胞をより広い領域に接続する。組織に対する機械力は、まず、インテグリンがその固定点で感知し、次いで細胞骨格によって各細胞内の深い領域に運ばれる。細胞の内部で、この力はタンパク質分子を振動させるかまたはその形態を変化させて、生化学反応をトリガーし、または核内の染色体を引っ張って(tug on)、遺伝子を活性化することができる。
【0008】
また細胞は、細胞骨格のフィラメントに一定の引張力があるため、筋肉と同様に「トーン」を有するといえる。伸長されたバイオリンの弦が、その長さに沿って異なるポイントに力が加えられると異なる音を発するのとよく似ているように、細胞は、変形される程度によって異なる、化学的シグナルの処理を行なう。
【0009】
増殖因子は、細胞が伸長される程度によって異なる作用を有している。傷の表面の細胞のように引っ張られて平らになっている細胞は、成長し増殖する傾向があり、一方、過度に密集した状態で詰め込まれた円形細胞は「自殺」プログラムに切り替わり死ぬ。対照的に、伸長されたり収縮したりしない細胞は、その意図する機能を続行する。
【0010】
細胞のテンセグリティーのもう一つの原理は、その物理的位置が問題となるということである。制御分子が細胞内にゆるく浮遊しているとき、その活性は、細胞に全体として作用する機械的力による影響をほとんど受けない。しかし、制御分子は、細胞骨格に結合されると、より大きなネットワークの一部になり、細胞の意思決定に影響する立場にある。多くの制御分子およびシグナル伝達分子は、細胞の表面膜の細胞骨格に、接着部位として知られているスポットで固定されており、その接着部位にはインテグリンが密集している。これらの主要位置は、コンピュータネットワークのノードのようにシグナルを処理する中心部であり、そこでは、隣接する分子が、外界からの機械的情報を受けてシグナルを交換することができる。
【0011】
したがって、薬物の全作用、薬物送達賦形剤、ナノ診断もしくはナノ治療、または生理的環境中の粒子、ガスおよび毒物などの環境ストレス因子を評価するには、細胞-細胞および細胞-化学物質の相互作用を研究するだけではなく、これらの相互作用が、健康な組織と疾患に冒されている組織の両者において、生理的な機械的力の影響をどのように受けているか研究する必要がある。
【0012】
培養中の細胞の機械的環境または応答を変える方法には、単層を剥離させ磁界もしくは電界を適用するか、または静的もしくは周期的な張力もしくは圧縮力を、スクリュー器具、液圧もしくは重量で培養細胞に直接印加することによって、細胞を傷つける方法がある。また細胞を液体流にさらすことによって、せん断応力も発生させてきた。しかし、これらの方法はほとんど、印加された歪を定量できないか、生理的に適切な組織-組織相互作用を維持する培養の微環境内において、周期的変形の再現可能な広い範囲を達成するための制御をもたらすことができない。
【0013】
生体臓器は、集合的に機能して、流体のせん断力と機械的歪力などの動的機械力の存在下で、物質、細胞、および情報を組織-組織の界面を通過させて運ぶ二つ以上の密接に並置された組織で構成された三次元の血管化構造である。これらの生理的な組織-組織界面を再現し、流体を流動させて動的機械的歪み生じさせることができる、生体細胞を含有しているマイクロ装置を作製することは、複雑な臓器の機能、例えば免疫細胞の輸送、栄養素の吸収、感染、酸素と二酸化酸素の交換などの研究、ならびに薬物のスクリーニング、毒物学、診断および治療に対して大きな価値がある。
【0014】
肺胞-毛細血管ユニットは、各種の肺疾患の病理発生と進行のみならず肺の正常な生理的機能の維持に非常に重要な役割を演じている。肺の複雑な構造、肺胞とその周りの微小血管の小ささ、およびこの臓器の動的機械運動のため、この構造を微小規模で研究することは困難である。
【0015】
肺は、ガス交換が起こる顕微鏡的肺胞コンパートメントへのおよびそのコンパートメントからの対流ガス輸送を可能にする導管の階層的に分枝したネットワークを有する、解剖学的に独特の構造を有している。肺胞は、正常な呼吸を行なうのに最も重要な肺の機能ユニットであり、かつ界面活性物質が作用して空気を取り入れさせる部位、および急性呼吸困難症候群(ARDS)または肺炎などの感染症の患者において、免疫細胞、病原体および流体が集まる部位であるのみならず、血液-ガスの関門もしくは界面である点で臨床上最も重要である。
【0016】
肺毛細血管と肺胞管腔の間の血液-ガス関門または組織-組織界面は、薄い細胞外マトリックス(ECM)によって分離されている毛細血管内皮の単層に密接した肺胞上皮の単層で構成されており、胚の細胞および分子の自己組織化によって形成される。肺胞-毛細血管ユニットの機能の分析は、この臓器レベルの構造をインビトロで再現させることは不可能なので、事実上すべて動物全身実験で行なわれている。
【0017】
肺胞-毛細血管ユニット(これは通常、各呼吸周期の間、拡張と収縮を繰り返す)の主要構造の組織化、生理的機能および生理的もしくは病理的な機械的活性を示す多細胞で多組織の臓器様構造の組織化を促進することができる実験装置が無いことが、重要な問題点である。この限界は、この臓器レベルの構造を再現しおよびその生理的な機械的微環境をインビトロで再現できれば、克服できる。しかしこれは、十分には達成されていない。
【0018】
組織-組織関連機能を遂行し、化学的力のみならず機械力に応答してデバイス中に細胞を自然に組織化することができ、かつ組織-組織の生理機能を模倣する膜を通じて細胞の挙動を研究できる、インビトロまたはインビボで使用可能な臓器模倣デバイスが要望されている。
【発明の概要】
【0019】
概要
本発明のシステムと方法は、一つまたは複数の多孔質膜によって分離された中央マイクロチャネルを有する本体を含んでいる。これらの膜は、中央マイクロチャネルを二つ以上の密接した平行な中央マイクロチャネルに分割するように形成され、そして一つまたは複数の第一流体が、第一中央マイクロチャネルを通じて適用され、かつ一つまたは複数の第二流体が第二以降の中央マイクロチャネルを通じて適用される。これら各多孔質膜の表面は、細胞接着分子でコートして細胞の付着を支持し、各膜の上面と下面での組織化を促進して、前記隣接する平行な流体チャネルの間の多孔質膜によって分離された一つまたは複数の組織-組織の界面を生成させることができる。この膜は、生体細胞全体と同様に、多孔質、可撓性、弾性またはそれら性質を組み合わせた性質を有していてもよく、ガスと小さい化学物質のみを交換できる程度に大きいか、または大きなタンパク質の移行とチャネル経由通過が可能な程度に大きい細孔を備えている。また、流体の圧力、流れの特性およびチャネルの形状を変えて、一方のまたは両方の組織層に所望の流体せん断応力を印加することができる。
【0020】
一態様において、中央マイクロチャネルに隣接する動作チャネルは、前記膜を圧力に応答して選択的に拡張および収縮させる圧力差をつくる正または負の圧力が印加されて、それにより、さらに生体の組織-組織界面の機械力を生理学的にシミュレートする。
【0021】
もう一つの態様では、三つ以上の並列したマイクロチャネルが、中央マイクロチャネルは一つの共通組織型で、および二つの外側チャネルの膜の両面は二つの異なる組織型で被覆された複数の平行な多孔質膜で分離されている。一実施例は、癌細胞が中央マイクロチャネル内と両多孔質膜の内表面に増殖し、一方、毛細血管内皮が一方の多孔質膜の対向表面に増殖しかつリンパ管内皮が第二の多孔質膜の対向表面に増殖している癌模倣装置である。この装置は、腫瘍の微小構造を再現するので、腫瘍細胞のリンパマイクロチャネル経由の放出と転移のみならず酸素、栄養素、薬物および免疫細胞の血管経由送達の研究を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
添付図面は、本明細書に組み入れられてその一部を形成し、一つまたは複数の態様の実施例を表し、実施例の態様の説明と共に、諸態様の原理と実施の説明に役立つ働きをしている。
【0023】
【図1】一態様による臓器模倣装置の一例を利用するシステムの構成図を表す。
【図2A】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図2B】一態様による臓器模倣装置の分解図を表す。
【図2C】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図2D】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図2E】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図2F】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図2G】一つまたは複数の態様による装置の組織-組織界面領域のトップダウン断面図を表す。
【図3A】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図3B】一態様による装置の組織-組織界面領域の透視図を表す。
【図3C】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図3D】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図3E】一つまたは複数の態様による膜の透視図を表す。
【図4A】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4B】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4C】一態様による2チャネル装置の膜の形成の透視図を表す。
【図4D】一態様による組織-組織界面装置の膜の側面図を表す。
【図5A】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5B】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5C】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5D】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図5E】一態様による臓器模倣装置の形成の透視図を表す。
【図6】一態様による多チャネルを有する臓器模倣装置を利用するシステム図を表す。
【図7A】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図7B】一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。
【図7C】一態様による臓器模倣装置の膜の側面図を表す。
【図8】本発明の装置で実施する実験による時間の経過とROS生成を表す。
【図9】本発明の装置で実施する実験による時間の経過とROS生成を表す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
実施態様の説明
本明細書の実施態様において、臓器をシミュレートする装置ならびに該装置の使用および製造方法について説明する。当業者は、以下の記載事項が、説明だけを目的とし、限定を全く意図していないことを理解する。その他の態様は、この開示の恩恵を受けている当業者の念頭に容易に浮かぶ。ここで、添付図面に表されている実施態様の実行について、詳細に説明する。同一または類似の品目を指すために図面および下記説明全体を通じて同じ参照指標を使用する。「一態様」という語句は、一より多くの態様を含み、したがって、簡潔さのために一態様のみに限定されないものとする。
【0025】
この開示にしたがって、臓器模倣装置(「本発明の装置」とも呼称される)は、センサ、コンピュータ、ディスプレイ、ならびにソフトウェア、データ構成要素、プロセスステップおよび/またはデータ構造を利用する他の計算装置を含む、全システムに使用することが好ましい。臓器模倣装置が利用されるコンピュータシステムについて、本明細書に記載されているデータ構成要素、プロセスステップおよび/またはデータ構造は、各種の操作システム、計算プラットフォーム、コンピュータプログラムおよび/または汎用機械を使用して実行できる。さらに、当業者は、配線装置、利用者書込み可能ゲートアレイ(FPGA)、特定用途向け集積回路(ASIC)などの汎用性の低い装置も、本明細書に開示されている発明の概念の範囲と精神を逸脱することなく使用できることを理解する。
【0026】
一連のプロセスステップを含む方法が、下記臓器模倣装置に使用されるコンピュータまたは機械で実行され、かつそれらプロセスステップが前記機械によって、一連の読取り可能な命令として記憶できる場合、それらプロセスステップは、コンピュータ記憶装置(例えばROM(Read Only Memory:読取り専用メモリ)、PROM(Programmable Read Only Memory:プログラム可能読取り専用メモリ)、EEPROM(Electrically Eraseable Programmable Read Only Memory:電気的に消去可能なプログラム可能読取り専用メモリ)、フラッシュメモリ、ジャンプドライブなど)、磁気記憶媒体(例えばテープ、磁気ディスクドライブなど)、光学式記憶媒体(例えばCD-ROM、DVD-ROM、紙カード、紙テープなど)およびその他のタイプのプログラムメモリなどの有形媒体に記憶できる。
【0027】
本発明の装置の諸態様は、組織や臓器の工学のみならず、基礎生物科学、生命科学の研究、創薬と薬物開発、薬物の安全性の試験、化学と生物学の検定を含む多数の分野で利用できる。一態様において、本発明の臓器模倣装置は、心臓血管、癌および臓器特異的疾患の生態学の基礎研究を行なうための微小血管網目構造として使用できる。さらに、臓器模倣装置の一つまたは複数の態様は、臓器置換構造物のみならず、肝臓、腎臓、肺、腸、骨髄ならびにその他の臓器および組織に対する臓器支援装置に用途を見出す。
【0028】
各種の環境の刺激に対する細胞の応答は、本発明の装置と組み合わせることができる各種システムを使ってモニターできる。周知のセンサを使用してpHの変化をモニターできる。遺伝子転写の変化または細胞生化学もしくは構造組織化の変化を測定するため、連続的にまたは定期的に細胞をサンプリングすることもできる。例えば、細胞ストレスの徴候である活性酸素種(ROI)を測定できる。へマトキシリンとエオシンによる染色法などの染色法を利用して、多孔質の膜上に増殖した「組織」を顕微鏡分析、免疫組織化学分析、インサイチューハイブリダイゼーション分析または典型的な病理分析に供することもできる。これらの分析用の試料は、リアルタイムで取り出すか、または実験後に採取するか、または研究または実験中の異なる段階に少量の生検材料を採取することができる。
【0029】
例えば特定の細胞受容体を標的化するため、前記膜上で増殖させた細胞を、他の細胞、例えば免疫系細胞または細菌細胞、抗体または抗体指向性細胞に曝露(subject)することができる。前記細胞を、ウイルスまたは他の粒子に曝露することができる。外部から供給される物質、例えば細胞、ウイルス、粒子またはタンパク質の運動の検出を助けるため、放射標識または蛍光標識などの典型的な手段を用いて、それらを容易に標識することができる。
【0030】
細胞は、本発明の装置を利用して、1、2、3、4、5、6または7日間、少なくとも1〜2週間の間および2週間を超えて増殖させ、培養して分析できる。例えば、以下に述べるように、前記装置の一態様の多孔質薄膜上に肺胞上皮細胞を肺微小血管内皮細胞と共培養すると、これら細胞の生存能を失うことなく2週間を超えて増殖させることができることが示される。
【0031】
本明細書に記載の臓器模倣装置には、以下を含むが限定されない、多種類の用途がある:疾患のマーカーの確認;抗癌治療法の効果の査定;、遺伝子治療ベクターの試験;薬物の開発;スクリーニング;細胞特に幹細胞および骨髄細胞の研究;生体内変化、吸収、クリアランス、代謝および生体異物の活性化の研究;化学薬剤または生物学的薬剤の生体利用性およびその上皮層もしくは内皮層を通過する輸送の研究;生物学的薬剤または化学薬剤の血液-脳関門を通過する輸送の研究;生物学的薬剤または化学薬剤の腸上皮関門を通過する輸送の研究;化学薬剤の急性基礎毒性の研究;化学薬剤の急性局所特異的もしくは急性臓器特異的な毒性の研究;化学薬剤の慢性基礎毒性の研究;化学薬剤の慢性局所特異的もしくは慢性臓器特異的な毒性の研究;化学薬剤の催奇形性の研究;化学薬剤の遺伝子毒性、発癌性および変異原性の研究;感染性生物剤および生物兵器の検出;有害な化学薬剤および化学兵器の検出;感染性疾患の研究;化学薬剤または生物薬剤の、疾患を治療する効果の研究;疾患を治療するための薬剤の最適投与範囲の研究;生物薬剤に対する臓器のインビボでの応答の予測;化学薬剤または生物薬剤の薬物動態の予測;化学薬剤または生物薬剤の薬力学の予測;薬剤に対する応答における遺伝内容の影響に関する研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答の遺伝子転写の研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答におけるタンパク質発現の研究;化学薬剤または生物薬剤に対する応答における代謝の変化の研究。本発明の臓器模倣装置は、物質に対する細胞の作用(例えば薬物の組織代謝と同等の様式での)について、細胞をスクリーニングするのに使用することもできる。
【0032】
本発明の装置は、機械的に活性な組織、例えば心臓、肺、骨格筋、骨、靭帯、腱、軟骨、平滑筋細胞、腸、腎臓、内皮細胞および他の組織由来の細胞から培養された細胞に対する、歩行、走行、呼吸、蠕動、月経血もしくは尿の流れまたは心臓の拍動の機械的負荷の環境をシミュレートするのに使用できる。静止環境において細胞の生物学的または生化学的応答を試験するのではなくて、研究者は、張力、圧縮力およびせん断力を含む機械的応力の周波数、振幅および継続期間の所定の範囲を、培養細胞に適用できる。
【0033】
当業者は、前記膜の表面に各種の細胞を移植できる。この細胞には、線虫、アメーバを含む多細胞構造体からヒトなどの哺乳類までのあらゆる細胞型が含まれる。本発明の装置に移植される細胞型は、模倣したい臓器のタイプもしくは臓器の機能およびその臓器を含む組織によって決まる。本発明の装置の膜に移植できる各種タイプの細胞については、以下にさらに詳細に述べる。
【0034】
各種の幹細胞、例えば骨髄細胞、誘発された成人幹細胞、胎児幹細胞または成人組織から単離された幹細胞を、多孔質膜の一面もしくは両面に共培養することもできる。細胞の各層に供給されるチャンバー中の異なる培養液を使用して、異なる分化刺激を前記幹細胞の層に到達させて、それにより、その細胞を、異なる細胞型に分化させることができる。また、前記膜の同じ面上の細胞型を混合して、膜で分離されない、異なる細胞の共培養物をつくることもできる。
【0035】
本明細書に記載の臓器模倣装置を使って、薬物の送達のみならず、生体内変化、吸収、クリアランス、代謝および生体異物の活性化を研究できる。腸内などの上皮層、血管内などの内皮層および血管-脳関門を通過する化学薬剤と生物薬剤の輸送および生体利用性も研究できる。化学薬剤の急性基礎毒性、急性局所毒性または急性臓器特異的毒性、催奇形性、遺伝子毒性、発癌性および変異原性も研究できる。感染性生物剤、生物兵器、有害な化学薬剤および化学兵器も検出および研究できる。感染症および当該感染症を治療するための化学薬剤と生物薬剤の効果および当該薬剤の最適投与範囲を研究できる。化学薬剤および生物薬剤に対する臓器のインビボでの応答およびこれら薬剤の薬物動態学と薬力学は、本発明の装置を使って検出し研究できる。これら薬剤に対する応答における遺伝的内容の影響を研究できる。化学薬剤または生物薬剤に対するタンパク質の量と遺伝子発現を測定できる。化学薬剤または生物薬剤に対する代謝の変化は、同様に本発明の装置を使って研究できる。
【0036】
従来の細胞培養物または組織培養物に対する本発明の臓器模倣装置の利点は、多数存在する。例えば、細胞を本発明の臓器模倣装置に入れると、線維芽細胞、SMC(平滑筋細胞)およびEC(内皮細胞)の分化が起こって、インビボの状態に近い特定の三次元構造の組織-組織の関係が再現され、薬理学的物質または活性物質または生成物に対する細胞の機能と応答を、組織および臓器のレベルで研究できる。
【0037】
さらに、多くの細胞または組織の活性、例えば、限定されないが、輸送流動チャネル中の層組織中へのおよびその層を通じての薬物の拡散速度;細胞の形態;異なる層における分化と分泌の変化;細胞の移動、増殖、アポトーシスなどは、本発明の臓器模倣装置での検出に適している。さらに、本システムの異なる層に位置する異なる型の細胞に対する各種薬物の作用が、容易に評価できる。
【0038】
創薬において、例えば本明細書に記載の臓器模倣装置を使用することには二つの利点がある。すなわち、(1)本発明の臓器模倣装置は、インビボの組織の層構造をより適切に模倣できるので、細胞レベルと組織レベルに加えて臓器レベルで薬物の効果を研究することができ、かつ(2)本発明の臓器模倣装置は、薬物の選択と毒性の研究のためのインビボ組織モデルの使用と動物の使用を減少させる。
【0039】
創薬および薬物開発に加えて、本明細書に記載の臓器模倣装置は、基礎研究および臨床研究にも有用である。例えば、本発明の臓器模倣装置は、腫瘍発生の機序を研究するのに利用できる。インビボでの癌の進行を、間質細胞と細胞外マトリックス(ECM)を含む、宿主および腫瘍の微小環境で調節するということは十分に達成されている。例えば、間質細胞が、良性の上皮細胞を悪性細胞に変換しうることが分かり、それにより、ECMが腫瘍形成に影響することが分かった。特定の構造で増殖する細胞は、細胞毒性剤に対する耐性が単分子層の細胞より高いという証拠が増大している。従って、臓器模倣装置は、癌細胞の独自の増殖特性をシミュレートするより優れた手段であり、そのため、インビボの腫瘍の、薬物に対する実際の感受性をより適切に示す。
【0040】
本発明の臓器模倣装置は、限定しないが、心臓血管系、肺、腸、腎臓、脳、骨髄、骨、歯および皮膚を含む各種組織を設計するのに利用できる。本発明の臓器模倣装置は、乳酸-グリコール酸共重合体(PLGA)のような適切な生体適合性および/または生分解性材料で構成されている場合、インビボで移植または内植するのに使用できる。さらに、いくつかの細胞型を立体的に局在させ、その相互作用を制御する性能は、生理学的により正確な組織および臓器類似物を階層的に設計し、創成する機会を提供する。多細胞型を特定の配置に配列すると、細胞の分化、維持および機能の寿命に有利に影響する。
【0041】
本発明の臓器模倣装置は、インビボでの細胞の要求と細胞の存在に対応して、異なる細胞型に、異なる増殖因子、化学物質、ガスおよび栄養素を加えることができる。これらの因子またはタンパク質の位置を制御することによって、特定の細胞のリモデリングと機能のプロセスを導くことができ、かつ全システムに分子の刺激を提供することもできて、新生組織(neotissue)、細胞のリモデリング、分泌の促進などの有利な発展が達成できる。
【0042】
さらに別の局面では、本発明の臓器模倣装置は、マイクロ流体装置などの多細胞型細胞マイクロアレイとして利用できる。本発明の臓器模倣装置を使用して、細胞アレイのパターン統合性を維持できる。これらの細胞マイクロアレイは、特に複合されて自動化されると、将来の「チップ上のラボ(lab-on-a-chip)」を構成しうる。これらの小型化された多細胞型培養物は、より速くノイズの少ない検定法で細胞の動態の観察を促進することができ、かつ細胞に前記アレイに対するインビボ様応答を示させる組み込まれた複雑性(built-in complexity)を有している。
【0043】
さらに別の局面で、本発明の臓器模倣装置は生物センサとして使用できる。細胞は、刺激に対して多面的な生理的応答をしそしてこれらの応答を増幅する新規な機構を有していることが多いので、細胞ベースのバイオセンサは、他のバイオセンサより多くの情報を提供できる。本発明の臓器模倣装置におけるすべての細胞型は、被検物の異なる局面を同時にモニターするのに使用することができ;本発明の臓器模倣装置における異なる細胞型は、異なる被検物を同時にモニターするのに;または両方の型のモニターの混合物に使用できる。大腸菌(E. coli)から哺乳類系統の細胞までの範囲の細胞は、環境モニタリング、毒素の検出および生理学的モニタリングの用途に利用するセンサとして使用されている。
【0044】
さらに別の局面では、本発明の臓器模倣装置は、細胞生物学における基本的プロセスおよび細胞-ECMの相互作用を理解するのに使用できる。インビボリモデリングのプロセスは、細胞とECMの間の複雑で動的な相互プロセスである。本発明の臓器模倣装置は、これらの生物システムの複雑さをとらえることができ、これらのシステムを研究および有益な操作に利用できるようにする。さらに、蛍光顕微鏡法、微量蛍光定量法または光コヒーレンストモグラフィー(OCT)などの画像化機器を組合せ、本発明の装置を使用して、多層化組織中の細胞の挙動をリアルタイムで分析することが期待されている。リアルタイム分析を行なうのに適した細胞と組織の研究の例には、細胞の分泌とシグナル伝達、細胞-細胞の相互作用、組織-組織の相互作用、動的に設計された組織の構築とモニタリング、組織工学における構造-機能の研究、および細胞リモデリングマトリックスのインビトロでのプロセスが含まれる。
【0045】
本発明の臓器模倣装置の他の使用例は、この装置を生体動物の身体内にインビボで移植して装置を細胞と組織で充満(impregnate)させて正常な組織-組織界面をつくることによって、組織-組織の界面と複雑な臓器構造を装置内に形成させることである。次いで、一つまたは複数の流体チャネルを通じて、細胞が生存するのに必要な培養液とガスで潅流しながら、全装置ならびにその中に含有している細胞および組織を外科手術で取り出す。次に、この複雑な臓器模倣装置は、潅流し続けることによってインビトロで生存できるように維持して、高度に複雑な細胞と組織の機能を、その通常の3D状態で、現存するインビトロのいかなるモデル系でも使用できない複雑さのレベルで研究するのに使用できる。
【0046】
特に、周囲の組織間隙に対して開いた一つまたは複数の対応するポートを有するチャネル中に、骨誘導物質例えば脱塩骨粉または骨形態形成タンパク質(BMP)を含有しているマイクロチャネル装置を、動物中にインビボで皮下移植することができる。第二チャネルは、移植中、その末端ポートを閉じるかまたは取り外し可能な固体材料例えば固体のロッドで塞ぐことによって閉じる。創傷が治癒すると、過去の研究で分かっているように、微小血管と間葉系幹細胞を含む結合組織が本発明の装置の開放チャネル中に増殖し、そして骨誘導物質が存在することによって、十分に機能する骨髄を形成するための循環する造血前駆細胞が動員される空間を伴う骨が形成される。
【0047】
このプロセスが完了すると、手術部位を再び開き、次に、第二チャネルを、ロッドまたはプラグを取り外すことによって再度開き、次に流体リザーバに連結したカテーテルと接続して、細胞の生存に必要な栄養素とガスを含む培養液を、第二チャネルを通じてポンプ輸送して前記膜の細孔を通じて、形成された骨髄を含有している第一チャネル中に送ることができる。次にこのマイクロチャネル装置全体は、周囲の組織から切り離され、装置に培養液を流入させ続けながら、動物から取り出し、組織培養インキュベータに入れ、第二チャネルを通じて液体を流動させ続けながら培養を維持し、そして所望によりその入口と出口のポートを接続することによって、追加の液体流を第一チャネルに加えることもできる。このようにマイクロチャネル装置は、制御された環境内と同様にインビトロで無傷の骨髄の機能を研究するのに使用される。
【0048】
本発明の装置のインビボでの移植を容易に行なえるように、生体適合性および生分解性の材料のどちらも本発明の装置に使用できる。生体適合性および生分解性のコーティングも使用できる。例えば、金属製基板にはセラミックのコーティングを使用できる。しかし、任意のタイプのコーティング材料およびコーティングが、異なるタイプの材料、すなわち金属、セラミック、ポリマー、ヒドロゲルまたはこれらの材料の任意の組合せで製造できる。
【0049】
生体適合材料には、限定されないが、酸化物、フォスフェート、カーボネート、窒化物、またはカーボニトリドが含まれる。酸化物の中では、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化イリジウム、酸化ジルコニウムまたは酸化チタンが好ましい。コーティングは、場合によっては、時間が経過すると溶解して生体組織で置換できる生分解性材料で製造することもできる。基板は金属、セラミック、ポリマーまたはこれらの任意の組合せなどの材料で製造される。ステンレス鋼、ニチノール、チタン、チタン合金もしくはアルミニウムなどの金属およびジルコニア、アルミナもしくはリン酸カルシウムなどのセラミックが特に関心対象となる。
【0050】
生体適合材料は、時間の経過とともに溶解して生体組織で置換できるという点で生分解性でもある。このような生分解性材料には、限定されないが、ポリ(乳酸-コ-グリコール酸)、ポリ乳酸、ポリグリコール酸(PGA)、コラーゲンまたは他のECM分子、他の結合組織タンパク質、マグネシウム合金、ポリカプロラクトン、ヒアルロン酸、接着性タンパク質、生分解性ポリマー、生体適合性で生分解性の合成材料、例えばバイオポリマー、バイオガラス、バイオセラミック、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、例えばリン酸モノカルシウム一水和物、無水リン酸モノカルシウム、リン酸ジカルシウム二水和物、無水リン酸ジカルシウム、リン酸テトラカルシウム、オルトリン酸リン酸カルシウム、ピロリン酸カルシウム、リン酸α-トリカルシウム、リン酸β-トリカルシウム、アパタイト、例えばヒドロキシアパタイト、またはポリマー、例えばポリ(α-ヒドロキシエステル)類、ポリ(オルトエステル)類、ポリ(エーテルエステル)類、ポリ無水物類、ポリ(ホスファゼン)類、ポリ(フマル酸プロピレン)類、ポリ(エステルアミド)類、ポリ(フマル酸エチレン)類、ポリ(アミノ酸)類、多糖類、ポリペプチド類、ポリ(ヒドロキシ酪酸)類、ポリ(ヒドロキシ吉草酸)類、ポリウレタン類、ポリ(リンゴ酸)、ポリラクチド類、ポリグリコリド類、ポリカプロラクトン類、ポリ(グリコリド-コ-トリメチレンカーボネート)類、ポリジオキサノン類もしくはそのコポリマー類、ターポリマー類もしくはこれらポリマーの混合物、または生体適合性で生分解性の物質の組合せが含まれる。生分解性ガラス、ならびにポリグリコリド類、ポリラクチド類および/またはグリコリド/ラクチドコポリマー類のような部分結晶性の生体吸収性ポリマーから製造した生理活性を有するガラス自己強化超高強度生体吸収性複合体も使用できる。
【0051】
これらの材料としては、移植体の形態によって、高い初期強度、適当な弾性率、および強度保持時間がインビボで4週間から1年までのものが好ましい。また、強化材、例えば結晶性ポリマーの繊維、ポリマー樹脂中の炭素繊維および粒状充填材例えばヒドロキシアパタイトも、生分解性装置の寸法安定性と機械的特性を提供するために使用することができる。生分解性材料を製造するときに相互侵入網目構造(PIN)を利用することは、機械的強度を改善する手段として実証されている。IPNで強化された生分解性材料の機械的特性をさらに改善するため、本発明の装置は、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)85:15(PLGA)またはポリ(l-ラクチド-コ-d,l-ラクチド)70:30(PLA)のホストマトリックス中に、異なる架橋剤を使って架橋されたフマル酸ポリプロピレンの半相互侵入網目構造(SIPN)として製造される。Charles-Hilaire Rivard et al.(Journal of Applied Biomaterials,Volume 6 Issue 1,Pages 65-68,1 Sep 2004)に記載されているような天然のポリ(ヒドロキシ酪酸-コ-9%ヒドロキシ吉草酸)コポリマー膜も使用できる。当業者は、本発明の装置が用いられる用途に従って、任意の特定の目的ならびに細胞型および組織型に適した、他の生分解性材料も選択できる。
【0052】
本明細書に記載されている装置は、インビボで配置される場合、治療装置として使用することもできる。本発明の装置を、例えば本発明の装置に生体細胞および生体組織を宿らせることができる動物モデル内に入れて骨髄またはリンパ節などの臓器模倣物を再現し、次いで血管チャネルを培養液で潅流しながら、前記装置全体を生体細胞とともに取り出すことができる。本発明の装置は、取り出して、エクスビボで生きたまま保持して、インビトロまたはエクスビボでの研究に利用できる。特に、前記膜はインビトロで、その少なくとも一方の面を一つまたは複数の細胞層でコートできる。この態様では、前記細胞は生物の外部でプレーティングする。一態様では、この膜は、その少なくとも一方の面を、インビボで一つまたは複数の細胞層でコートする。この膜の一方の面をインビトロで処理し、他方の面をインビボで処理することができる。一方の面または両面をまずインビトロで一つの細胞型でコートし、次にその装置を移植して追加の細胞層をインビボで誘引することもできる。
【0053】
概して、本明細書の開示は、一つまたは複数の多孔質膜によって分離された中央マイクロチャネルを有する本体を備えた装置およびその使用を対象としている。前記膜は、前記中央マイクロチャネルを二つ以上の密接した並列の中央マイクロチャネルに分割するように形成され、一つまたは複数の第一流体が第一中央マイクロチャネルを通して適用され、一つまたは複数の第二流体が第二以降の中央マイクロチャネルを通して適用される。各多孔質膜の表面は、細胞の付着を支持し、この膜の上面または下面に細胞が組織へと組織化するのを促進することができ、その結果、隣接する平行な流体チャネルの間に多孔質膜で分離された組織-組織界面が生成される。前記膜は、多孔質、可撓性、弾性またはその組合せでもよく、その細孔は、ガスおよび小さい化学物質のみを交換できる程度に大きいか、または大きなタンパク質および生体細胞全体が移行およびチャネルによって通過できる程度に大きい細孔を有する。流体圧、流量およびチャネルの形態を変えて、一方または両方の組織層に所望の流体せん断応力を加えることができる。
【0054】
非限定的な実施態様では、本発明の装置は、肺の動作を模倣するように形成されており、ここで、肺の上皮細胞がECM膜の一方の表面に自己組織化し、かつ肺の毛細管内皮細胞が同じ多孔質膜の反対側の面に自己組織化する。したがって、本発明の装置は、生理的な機械的歪に曝露して呼吸をシミュレートできるか、または空気由来および血液由来の両方の化学物質、分子、粒子、ならびに細胞の刺激に曝露して、前記膜の細孔を通る組織-組織界面を横切る化学物質、分子、および細胞の交換を研究できる機能性肺胞-毛細血管ユニットの構造と機能をシミュレートすることができる。本発明の装置は、生理的状態および病的状態で分析できる臓器レベルの応答を模倣する、インビトロの肺モデルの開発に影響している。このシステムは、限定されないが、薬物のスクリーニング、薬物の送達、ワクチンの送達、生物学的検出、毒物学、生理学および臓器/組織工学の用途を含むいくつかの用途に利用できる。
【0055】
図1は、一態様による本発明の装置を利用するシステム全体のブロック図を示す。図1に示すように、システム100は臓器模倣装置102、装置102に連結された一つまたは複数の流体供給源104、104N、流体供給源104と装置102に連結された一つまたは複数の任意のポンプ106を含んでいる。一つまたは複数のCPU 110がポンプ106に連結され、好ましくは装置102へのおよび装置102からの流体の流量を制御する。前記CPUは、好ましくは一つまたは複数のプロセッサ112および一つまたは複数の局所/遠隔記憶メモリ114を含んでいる。ディスプレイ116はCPU 110に連結され、一つまたは複数の圧力源118がCPU 110および装置102に連結されている。CPU 110は、好ましくは前記装置への加圧流体の流量と速度を制御する。本明細書には一つの界面装置102が示され説明されているが、複数の界面装置102が、以下に説明するようにシステム100内で試験し分析できると意図されていることに注目すべきである。
【0056】
より詳細に説明すると、臓器模倣装置102は、好ましくは装置102のマイクロチャネルを、前記システムの外側の構成要素、例えば流体供給源および圧力源と連通して配置する二つ以上のポートを含んでいる。特に、装置102は一つまたは複数の流体供給源104Nに連結され、その流体供給源には空気、血液、水、細胞、化合物、粒子および/または装置102に送達すべきいずれかの他の培養液を入れることができる。一態様では、流体供給源104は、装置102の一つまたは複数のマイクロチャネルに流体を提供し、また好ましくは装置102から出る流体を受け入れる。装置102から出る流体は、さらにまたはあるいは流体供給源104と別個の流体の収集機またはリザーバ108に集められることが企図される。したがって、別個の流体供給源104、104Nはそれぞれ流体を装置102に提供しかつ流体を装置102から取り出すことができる。
【0057】
一態様では、装置102から出る流体は、再利用することができ、その流体が最初それを通じて入ったのと同じかまたは異なる流入ポート中に再度導入できる。例えば、装置102は、特定の中央マイクロチャネルを通過させた流体を再循環して前記装置に戻し、次いで同じ中央マイクロチャネルを通じて再び流動させるように設定できる。これは、例えば、流体が前記装置に再循環されるとき流体中の分析物の濃度を増大するために利用できる。別の実施例では、装置102は、該装置を通過させた流体を再循環して該装置に戻し、次に別の中央マイクロチャネルを通じて流動させるように設定することができる。これは、流体を別のマイクロチャネルを通じて循環させるときに流体の濃度または組成を変えるのに利用できる。
【0058】
一つまたは複数のポンプ106が、好ましくは流体を装置102中にポンプ輸送するのに利用されるが、ポンプは一般にこのシステムでは任意なものである。流体ポンプは当該技術分野では周知であるから、本明細書では、詳細には説明しない。以下に詳細に説明するように、各マイクロチャネル部分は、好ましくはそのそれぞれの入口および/または出口のポートと連通しているので、各マイクロチャネル部分はそれらを通して流体を流動させることができる。
【0059】
本発明の装置の各マイクロチャネルは、好ましくは専用の入口と出口のポート有し、それらのポートは、それぞれの専用の流体供給源および/または流体収集機に接続されて、培養液の流速、流れの内容、圧力、温度および他の特性を、独立して、各中央マイクロチャネルを通じて制御できる。したがって、RNAまたはタンパク質のレベルでの遺伝子発現の変化などといった所望の細胞マーカーについて別個の流体チャネルを別個にサンプリングすることによって、各々の細胞または組織の層に対する各種の刺激の影響を別個にモニターすることもできる。
【0060】
細胞注入機/取出し機108の構成要素は、装置102と連通して示されており、細胞注入機/取出し機108は、限定されないが上皮細胞および内皮細胞などの細胞を、前記装置中に入口ポート210、218を通じて導入される細胞とは独立に、装置102内の界面膜の一つまたは複数の表面上に注入し、同表面から取り出し、および/または同表面上で操作するように、形成されている。例えば、病原性細胞をひきつける磁気粒子を含有する血液は別個の装置で培養され、その後、その混合物は、それを流体供給源104を通じて流動させる必要なしに、所望の時点に注入機によってシステム中に導入できる。一態様では、細胞の注入機/取出し機108は、独立に制御されるが、細胞注入機/取出し機108は図1に示すように、CPU 110によって制御できる。細胞注入機/取出し機108は任意の構成要素であり、必須というわけではない。
【0061】
必要というわけではないが、一つまたは複数の圧力源118から圧力を印加して、装置102中に機械的運動を起こすために圧力差を作り出すことができる。圧力を前記装置で使用する一態様では、圧力源118は、CPU110によって制御されて、前記装置内に圧力差をかけて、前記装置内の一つまたは複数の膜(図3A〜3B)を、かけられた圧力差に応答して効果的に拡張および/または収縮させる。一態様では、圧力源118によって装置100にかけられる圧力は、その装置の形態または用途によって正圧である。さらにまたは代わりに、圧力源118によってかけられる圧力は、装置の形態または用途によって真空または吸引などの負圧である。圧力源118は、好ましくはCPU110で制御され、その結果、設定された時間間隔または頻度で装置102に圧力をかけ、その時間間隔は均一または不均一に設定できる。圧力源118は、前記時間間隔で均一な圧力をかけるように制御することができ、または異なる圧力を異なる時間間隔でかけることができる。例えば、圧力源118によりかける圧力は大きさを大きくしてもよく、および/または所望の頻度に設定して、走っているかまたは運動しているヒトを模倣することができる。圧力源118は、例えばヒトの睡眠をシミュレートするゆっくりとした不規則なパターンをかけることもできる。一態様では、CPU 110は、圧力源118を操作して、かける圧力の時間間隔をランダムに変えて周期的伸張パターンを起こさせて、自然呼吸中の呼吸数と1回換気量の不規則性をシミュレートする。
【0062】
一つまたは複数のセンサ120は、装置102に連結されて、装置102内の一つまたは複数の領域をモニターすることができ、これらセンサ120はモニタリングデータをCPU110に提供する。一つのタイプのセンサ120は、好ましくは、一つまたは複数の動作マイクロチャネルまたは中央マイクロチャネルの中の圧力の量に関するデータを装置102に提供する圧力センサである。マイクロチャネル壁の対向する面からの圧力のデータは、動作マイクロチャネルと中央マイクロチャネルの間のリアルタイムの圧力差の情報を計算するのに利用できる。このモニタリングデータは、CPU 110によって利用され、細胞が装置102内で特定の環境中にてリアルタイムでどのように挙動しているかということのみならず装置の動作状態についての情報を提供する。センサ120は、電極でもよく、赤外線、光(例えばカメラ、LED)または磁気の性能を有し、または他の適切なタイプの技術を利用してモニタリングデータを提供する。例えば、前記センサは、膜を通過する電気特性(例えば電位差、抵抗および短絡回路電流)を分析する一つまたは複数の微小電極でもよく、膜を通過して流体/イオンを輸送する機能のみならず組織化された障壁の形成を確認する。センサ120は装置102の外側に位置しているかまたは装置102に組み入れられていてもよいことには注目すべきである。CPU110はセンサ120の動作を制御することが意図されるが、必須ではない。前記データは、好ましくはディスプレイ116に示される。
【0063】
図2Aは、一態様による組織界面装置の透視図を表す。特に、図2Aに示すように、装置200(参照番号102で示されてもいる)は、好ましくは、一態様によって、分枝マイクロチャネル構造203を有する本体202を含んでいる。本体202は、可撓性材料で製造できるが、代わりに非可撓性材料で製造されうることが企図される。マイクロチャネル構造203は例示しているだけで、図2Aに示す構造に限定されないことに注目すべきである。本体202は、好ましくは、限定されないがポリジメチルシロキサン(PDMS)またはポリイミドを含む可撓性生体適合ポリマーで製造される。また、本体202は、ガラス、ケイ素、硬質プラスチックなどの非可撓性材料で製造できると企図される。前記界面膜は、本体202と同じ材料で製造することが好ましいが、前記装置の本体と異なる材料で製造することも企図される。
【0064】
図2Aに示す装置は、以下により詳細に説明する複数のポート205を含んでいる。さらに、前記分枝構造物203は組織-組織界面シミュレーション領域(図2Bの膜208)を含んでおり、ここでは細胞の挙動および/またはガス、化学物質、分子、粒子および細胞の通過がモニターされる。図2Bは一態様による臓器模倣装置の分解図を表す。特に、装置200の外体202は、好ましくは、第一外体部分204、第二外体部分206および介在する多孔質膜208で構成され、この多孔質膜208は、第一と第二の外体部分204と206が互いに取り付けられるときに、それらの間に取り付けられて本体全体が形成される。
【0065】
図2Bは一態様による本発明の装置の分解図を表す。図2Bに示すように、第一外体部分204は、好ましくは本体202の外表面上に位置する一つまたは複数の対応する入口開口211と連通する一つまたは複数の入口流体ポート210を含んでいる。装置100は、好ましくは入口開口211を通じて流体供給源104に接続され、流体は、入口流体ポート210を通じて、流体供給源104から装置100内に移動する。
【0066】
さらに、第一外体部分204は、好ましくは本体202の外表面上の一つまたは複数の対応する出口開口215と連通する一つまたは複数の出口流体ポート212を含んでいる。特に、装置100を通過する流体は、対応する出口開口215を経由し装置100から出て流体収集機108または他の適当な構成要素に至る。装置200は、流体ポート210が出口でありおよび流体ポート212が入口であるように設定できることに注目すべきである。入口と出口の開口211、215は本体202の頂面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0067】
一態様では、入口流体ポート210と出口流体ポート212は、第一中央マイクロチャネル250A(図3A参照)と連通し、その結果、流体は、第二中央マイクロチャネル250B(図3A参照)とは独立して、第一中央マイクロチャネル250Aを経由して入口流体ポート210から出口流体ポート212まで動的に移動できる。
【0068】
入口流体ポートと出口ポートの間を通過する流体が、中央部分250Aと250Bとで共有されることも企図される。一方の態様では、中央マイクロチャネル250Aを通過する流体流の特性、例えば流速などは、中央マイクロチャネル250Bを通過する流体流の特性とは独立して制御可能であるが、その逆もいえる。
【0069】
さらに、第一部分204は、一つまたは複数の圧力入口ポート214と一つまたは複数の圧力出口ポート216を含み、その入口ポート214は装置100の外表面上に位置する対応する開口217と連通している。入口開口と出口開口は本体202の頂面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は、代わりに、本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0070】
動作中、圧力源118(図1)に接続された一つまたは複数の圧力管(図示せず)は、正または負の圧力を、開口217を経由して装置に印加する。さらに、圧力管(図示せず)は装置100に接続され、加圧流体を出口ポート216から開口223を経由して取り出す。装置200が、圧力ポート214が出口でありおよび圧力ポート216が入口であるように設定できることには注目すべきである。圧力開口217、223は本体202の頂面上に示されているが、圧力開口217、223の一つまたは複数は、本体202の一つまたは複数の側面上に配置できることが企図されることには注目すべきである。
【0071】
図2Bを参照すると、第二外体部分206は、好ましくは一つまたは複数の入口流体ポート218と一つまたは複数の出口流体ポート220を含んでいる。入口流体ポート218が開口219と連通し、かつ出口流体ポート220が開口221と連通し、その結果、開口219と221が第二外部本体部分206の外面上に位置していることが好ましい。入口開口と出口開口は本体202の表面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数は、代わりに本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。
【0072】
上記第一外体部分204の場合と同様に、流体供給源104に接続された一つまたは複数の流体管(図1)は、好ましくは開口219に接続されて、流体を、ポート218を経由して装置100に提供する。さらに、流体は、装置100から、出口ポート220と外側開口221を経由して出て流体リザーバ/収集機108または他の構成要素に至る。装置200は、流体ポート218が出口でありかつ流体ポート220が入口であるように設定できることに注目すべきである。
【0073】
さらに、第二外体部分206が一つまたは複数の圧力入口ポート222および一つまたは複数の圧力出口ポート224を含むことが好ましい。特に、圧力入口ポート222が開口227と連通し、かつ圧力出口ポート224が開口229と連通し、その結果、開口227と229が好ましくは第二部分206の外面上に位置していることが好ましい。この入口開口と出口開口は本体202の底面上に示されているが、これら開口の一つまたは複数が、代わりに、本体の一つまたは複数の面上に位置していてもよい。圧力源118に接続された圧力管(図1)は、好ましくは、対応する開口227および229を経由してポート222と224と係合している。装置200は、圧力ポート222が出口であり及び流体ポート224が入口であるように設定できることに注目すべきである。
【0074】
一態様では、膜208が第一部分204と第二部分206の間に取り付けられ、その結果、膜208が装置200の本体202内に位置している(図5E参照)。一態様では、膜208は、貫通する複数の細孔または開口を有する材料で製造され、その結果、分子、細胞、流体および任意の培養液が、膜208の一つまたは複数の細孔を経由して膜208を通過できる。以下に詳細に説明するように、一態様では、多孔質膜208は、中央マイクロチャネル250A、250Bと動作マイクロチャネルの間に存在する圧力差に応答して当該膜208に応力および/または歪を受けさせる材料で製造できることが企図される。あるいは、多孔質膜208は比較的非弾力性であり、培養液が中央マイクロチャネル250A、250Bの一つまたは複数を通過し、細胞が組織化して中央マイクロチャネル250A、250Bの間を多孔質膜を経由して移動する間、膜208は最小の運動を行なうか全く運動しない。
【0075】
参照図2Cは、線C-C(図2Bから)からみた本体の第一外体部分204の組織-組織界面領域の透視図を表す。図2Cに示すように、組織-組織界面領域207Aの頂部は第一部分204の本体内にあり、中央マイクロチャネル230の頂部および中央マイクロチャネル230に隣接する動作マイクロチャネル232の一つまたは複数の頂部を含んでいる。マイクロチャネル壁234は、好ましくは中央マイクロチャネル230を動作マイクロチャネル232から分離して、中央マイクロチャネル230を通過して移動する流体が動作マイクロチャネル232に入らないようにする。同様に、チャネル壁234は、動作マイクロチャネル232を通過する加圧流体が中央マイクロチャネル230に入るのを防止する。一対の動作マイクロチャネル232が、図2Cと3Aの中央マイクロチャネル230の対向する面上に示されていることは注目すべきであるが、しかしこの装置は三つ以上の動作マイクロチャネル232を組み込むことができることが企図される。また、装置200は、中央マイクロチャネル230に隣接する動作マイクロチャネル232を一つだけ含むことができることも企図される。
【0076】
図2Dは、本体の第二外部206の線D-Dからみた組織界面領域の透視図である。図2Dに示すように、その組織界面領域は、中央マイクロチャネル240の底部および中央マイクロチャネル240部分に隣接する動作マイクロチャネル242の少なくとも二つの底部を含んでいる。一対のチャネル壁234が、好ましくは中央マイクロチャネル240を動作マイクロチャネル232から分離して、中央マイクロチャネル230を通じて移動する流体が動作マイクロチャネル232に入らないようにする。同様に、チャネル壁234は、動作マイクロチャネル232を通過する加圧流体が中央マイクロチャネル230に入るのを防止する。
【0077】
図2Cと2Dに示すように、中央マイクロチャネルの頂部230と底部240は各々、50ミクロンと1000ミクロンの間の範囲の幅寸法(Bとして示す)を有し、好ましくは約400ミクロンである。その他の幅寸法が、装置が模倣する生理的システムのタイプに応じて企図されることには注目すべきである。さらに、動作マイクロチャネル232と242の頂部と底部は各々、25ミクロンと800ミクロンの間の幅寸法(Aとして示す)を有し、好ましくは約200ミクロンであるが、他の幅寸法も企図される。中央マイクロチャネルおよび/または動作マイクロチャネルの高さの寸法は50ミクロンと数センチメートルの間の範囲であり、好ましくは約200ミクロンである。マイクルチャネル壁234、244は、好ましくは厚さの範囲が5ミクロンから50ミクロンまでであるが、他の幅寸法も、前記壁に使用される材料、前記装置が使用される用途などに応じて企図される。
【0078】
図3Aは、一態様による本体内の組織界面領域の透視図を表す。特に、図3Aは、互いに接合された第一部分207Aと第二部分207Bを表し、側壁228と238、およびチャネル壁234と244が、全中央マイクロチャネル250および動作マイクロチャネル252を形成している。先に述べたように、中央マイクロチャネル250と動作マイクロチャネル252は、壁234、244で分離されて、流体がチャネル250、252の間を通過できないことが好ましい。
【0079】
膜208は、好ましくは、中央マイクロチャネル250の中央に配置され、図3Aに示すx-y面に平行な面に沿って配向されている。一つの膜208が中央マイクロチャネル250中に示されているが、以下により詳細に述べるように、二つ以上の膜208を中央マイクロチャネル250内に設置できることは注目すべきである。中央マイクロチャネル250内に配置されることに加えて、膜208は、装置を製造中、チャネル壁234、244によって定位置に挟まれる。
【0080】
膜208は、好ましくは全中央マイクロチャネル250を、二つ以上の別個の中央マイクロチャネル250Aと250Bに分離する。膜208は、中央マイクロチャネル250の中央に示されているが、代わりに、膜208を中央マイクロチャネル250内に、垂直方向に偏心させて配置してもよく、その結果、中央マイクロチャネル部分250A、250Bの一方の容積または断面積を、もう一方のマイクロチャネル部分より大きくすることができることは注目すべきである。
【0081】
以下により詳細に述べるように、膜208は、細胞または分子を通過させるための多孔質の部分を少なくとも有している。さらにまたは代わりに、膜208の少なくとも一部は、弾性または延伸性を有し、膜208は一つまたは複数の平面軸に沿って拡張/収縮するよう操作できる。したがって、膜208の一つまたは複数の部分は多孔質で弾性であるかまたは多孔質で非弾性であってもよいことが企図される。
【0082】
多孔質で弾性の膜については、圧力差を装置内に印加して、膜208を、x-y面に沿って相対的に連続して拡張、収縮させることができる。特に、上記のように、一つまたは複数の圧力源が好ましくは加圧流体(例えば空気)を一つまたは複数の動作マイクロチャネル252を通じて加え、その結果、マイクロチャネル252中の加圧流体がマイクロチャネル壁234、244に対して圧力差を生じる。膜208は、その製造材料のタイプによっては弾性をもたせることができる。膜208が二種類以上の材料で製造されている場合、膜を構成しているそれぞれの材料の重量比は、その弾性を決定する要因である。例えば、膜208がPDMSで製造される態様では、そのヤング率の価は、12kPa〜20Mpaの範囲内であるが、他の弾性値も企図される。
【0083】
図3Aと3Bに示す態様では、加圧流体は、動作マイクロチャネル252のみを通じて印加される真空または吸引力である。吸引力によってマイクロチャネル壁234、244に対して起こされた圧力差は、壁234、244を、装置228、238の側部の外側に向かって湾曲させるかまたは膨らませる(図3B参照)。膜208は、壁234、244に取り付けられてその間に挟まれているが、壁234、244が相対的に移動すると、この膜の対向する末端がこれらの壁と共に移動し、膜の平面に沿って伸張する(図3Bに208'として示す)。この伸長運動は、例えば呼吸中の肺胞内の組織-組織界面によって経験される機械力を模倣しているので、組織構造中への細胞の自己組織化および細胞の挙動の重要な調節を行なう。
【0084】
負圧の印加をやめる(および/または正圧を動作チャネルにかける)と、動作チャネル252と中央チャネル250の間の圧力差は低下して、チャネル壁234、244がそのニュートラルな位置(図3Aに示す位置)の方向へ収縮する。動作中、負圧を、交互に時間間隔をとって装置200に印加すると、その平面に沿って膜208が連続的に拡張および収縮し、それにより制御されたインビトロ環境中で生体臓器の組織-組織界面の動作を模倣する。考察されているように、制御された環境中の模倣された臓器の動作によって、前記膜および組み合わせた第一と第二のマイクロチャネル250A、250Bに関する分子、化学物質、粒子および細胞の通過のみならず、組織中の細胞の挙動をモニターできる。
【0085】
本明細書における「圧力差」という用語は、中央マイクロチャネルと外側の動作チャネルの間の特定の壁の対向する面の圧力差に関連があることに注目すべきである。この圧力差は、膜208の拡張および/または収縮の目的を達成するために、いくつかの方法で生成できることが企図される。先に述べたように、負圧(すなわち吸引または真空)を、一つまたは複数の動作チャネル252にかけることができる。あるいは、膜208に予め負荷をかけるかまたは予め応力をかけて初期設定で拡張状態にして、壁234、244が、図3Bに示すように、すでに湾曲した形態になっていることが企図される。この態様では、動作チャネル252にかけられる正圧は、壁234、244を、中央マイクロチャネルの方向へ内側に移動させて(図3A参照)膜208を収縮させる圧力差を生成する。
【0086】
別の態様では、正と負の圧力を組み合わせて一つまたは複数の動作チャネル252に印加して、膜208を、中央マイクロチャネル中で平面に沿って移動させることも企図される。上記どの態様においても、一つまたは複数の動作チャネル252内の流体の圧力は、一つまたは複数の中央マイクロチャネル250A、250B内の流体の圧力に対して圧力差が実際に生じて、膜208の相対的な拡張/収縮を起こすよう圧力が望ましい。例えば、流体は、特定の圧力を有し、頂部の中央マイクロチャネル250A中に加えられ、その結果、底部の中央マイクロチャネル250B内の流体は、異なる圧力を有する。この例では、一つまたは複数の動作チャネル252にかけられる圧力は、膜208の所望の拡張/収縮を確保するために、中央マイクロチャネル250A、250Bの一方または両方の中の流体の圧力を考慮しなければならない。
【0087】
一態様で、頂部と底部のマイクロチャネル250A、250Bの間に圧力差を存在させて、膜208の少なくとも一部に、x-y面に沿った拡張/収縮に加えて、z方向に垂直に拡張および/または収縮を起こさせることができる。
【0088】
一態様において、膜208が拡張および収縮すると、好ましくは、化学物質、分子、粒子および/または流体もしくはガスの、組織-組織界面を通過する輸送に影響を与え、細胞の生理を変える、生理的な機械的刺激を模倣する接着細胞とECMに機械的力を印加する。装置に生成された圧力差は、好ましくは膜を拡張/収縮させるが、マイクロモータまたはアクチュエータのような機械的手段を利用して、圧力差が膜上に細胞の拡張/収縮を起こさせて、細胞の生理を調整するのを補助または代替させることが企図される。
【0089】
図3Eと4Cは、一態様による、貫通して延びる複数の開口302を含む膜208の透視図を表す。特に、図3Eと4Cに示す膜は、膜208の頂面304と底面306の間に延びる一つまたは複数の組み入れられた細孔または開口302を含んでいる。
【0090】
この膜は、細胞、粒子、化学物質、および/または培養液を、中央マイクロチャネルの部分250A、250Bの間を、膜208を通って中央マイクロチャネルの一部分から他の部分までまたはその逆に移行させるように形成されている。当該細孔の開口は、図4A〜4Cには五角形の断面形状であることが示されているが、円形302、六角形308、正方形、楕円形310、などを含むがそれらに限定されない他の断面形状を企図する。細孔302、308、310(一般に参照番号302で呼称されている)は、好ましくは頂面304と底面306の間を垂直に延びているが、細孔312のように頂面と底面の間を横方向に伸ばすことも企図される。前記細孔は、膜208の少なくとも一部に沿ってスリットまたは他の形状の開口を追加して/代わりに組み入れて、細胞、粒子、化学物質および/または流体に、中央マイクロチャネルの一部分から他の部分まで膜208を通過させることにも注目すべきである。
【0091】
細孔の幅寸法は、好ましくは0.5ミクロンから20ミクロンの範囲であるが、その幅寸法は、約10ミクロンが好ましい。しかし、幅寸法は上記範囲を超えることが企図される。いくつかの態様では、膜208は、典型的な分子/化学物質の濾過装置より大きい細孔または開口を有し、分子のみならず細胞を、一方のマイクロチャネル部分(例えば250A)から他方のマイクロチャネル部分(例えば250B)までまたはその逆に、膜208を通過して移行させる。これは、細胞を培養するのに有用である。すなわち、前記装置によって提供されるマイクロチャネルの環境内に存在することに応答して頂部と底部の中央チャネルに極性化し、その結果、流体および細胞が、これらマイクロチャネル250A、250Bを接続する細孔を通じて動的に通過する細胞。
【0092】
図4Bに示すように、膜208の厚さは70ナノメートルと50ミクロンの間でよいが、好ましい厚さの範囲は、5ミクロンと15ミクロンの間である。膜208は、当該膜208の他の領域より厚さが小さいかまたは大きい領域を含むように設計することも企図される。図3Cに示すように、膜208が、当該膜208の他の領域に比べて厚さの薄い一つまたは複数の領域209を有することが示されている。その厚さの薄い領域209は、膜208の全長または全幅にわたって伸びていてもよく、または代わりに膜208の特定の場所のみに位置していてもよい。その厚さの薄い領域209は、膜208の底面に沿って示されているが(すなわちマイクロチャネル250Bに対面している)、厚さの薄い領域209が、追加して/代わりに、膜208の対向する面上にあってもよい(すなわちマイクロチャネル250Aに対面する)ことが企図されることには注目すべきである。膜208の少なくとも一部分は、図3Dに示すように、その膜の他の部分に比べて厚さの大きい一つまたは複数の領域209'を有し、上記厚さの薄い領域と同じ選択肢を有することができることには注目すべきである。
【0093】
一態様において、多孔質膜208は、溝や隆起などの微細なおよび/またはナノスケールのパターンを有するように設計または表面パターン化することができ、その結果、このパターンのパラメータまたは特性はいずれも、所望の大きさ、形状、厚さ、充填剤などに設計できる。
【0094】
一態様では、膜208は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)または他のいずれかのポリマーの化合物または材料で製造できるが、これは必須ではない。例えば、膜208は、ポリイミド、ポリエステル、ポリカーボネート、環状オレフィンコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ナイロン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロフェン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン-ブタジエン-スチレン)、ニトリル類、ポリウレタン類およびポリシリコーン類で製造できる。GE RTV 615、ビニル-シラン架橋(型)シリコーンエラストマー(系)が使用できる。ポリジメチルシロキサン(PDMS)の膜は、Bisco Silicons(イリノイ州エルクグローブ)から入手できるHT-6135膜およびHT-6240膜であり、選択された用途において有用である。材料の選択は、一般に、実行されている用途に必要な特定の材料特性(例えば耐溶媒性、剛性、気体透過性および/または温度安定性)によって決まる。マイクロ流体装置の構成要素を製造するのに使用できる追加のエラストマー材料は、Unger et al.(2000 Science 288:113-116)に記載されている。本発明の装置のいくつかのエラストマーは隔膜として使用され、その伸長特性と緩和特性に加えてその多孔性、不透過性、耐薬品性およびその湿潤性と不動態化性によって選択される。別のエラストマーはその熱伝導性によって選択される。Micronics Parker Chomerics Thermagapの材料61-02-0404-F574(0.020"厚み)はソフトエラストマー(<5 ShoreA)であり、1.6W/m-°Kの熱伝導率を提供するには5〜10psiの圧力を要する。弾性の無い可変フィルムもマイクロ流体装置に使用できる。本発明の装置および膜を記載されているように製造するための他の適切な材料として、絹、架橋したまたは架橋していないECMゲルを利用できる。
【0095】
中央マイクロチャネル250と動作マイクロチャネル252は、断面が実質的に正方形かまたは長方形で示されているが、円形、楕円形、六角形などといった他の断面形状も企図されることに注目すべきである。装置200は、一態様において、およそ二つの動作チャネル252および/またはおよそ二つの中央マイクロチャネル250A、250Bを有していてもよいことも企図される。
【0096】
一態様では、中央マイクロチャネルは、装置の長さの少なくとも一部分に沿って幅寸法Bが不均一であることも企図される。図2Eは、一態様による組織界面領域400のトップダウン断面図を表す。図2Eに示すように、界面400は、マイクロチャネル壁404によって分離された隣接する動作チャネル406に沿って中央マイクロチャネル402を含んでいる。図2Eの態様では、中央マイクロチャネル402は、幅寸法C(末端408における)から幅寸法D(末端410における)まで、幅が徐々に増大していることが示されている。図2Eの態様では、動作チャネル406は各々、対応して幅寸法が低下している(末端408のおける幅寸法Eから末端410における幅寸法Fまで)。別の態様では、図2Fに示すように動作チャネル406'は、末端408と410において、実質的に均一な幅寸法Fを有している。膜(図示せず)は中央マイクロチャネル402の上に配置されて、壁404の上面上に取り付けられているので、その膜は中央マイクロチャネル402と類似のテーパー付きの形状である。したがって、このテーパー付き膜は、圧力差が動作マイクロチャネル406と中央マイクロチャネル402の間にかけられると矢印の方向に不均一に伸長される。
【0097】
別の態様では、中央マイクロチャネルは、図2Gに示すように、部分的に断面が円形の部分を有している。特に図2Gに示す態様では、中央マイクロチャネル502と隣接する動作マイクロチャネル504の間に生じた圧力差は、マイクロチャネル壁506を、矢印の示す方向に移動させる。中央マイクロチャネル502の円形部分508については、中央部分508における前記壁の外向きの等軸移動(矢印で示す)が壁506の最上部に取り付けられた膜(図示せず)の等軸伸長を起こす。
【0098】
本明細書に記載されている装置200はいくつもの用途に使用される可能性がある。例えば、一用途では、膜208は、当該膜208の周期的伸長および/または生体液体(例えば空気、粘液、血液)の流動によって起こる生理的な機械的歪に供され、肺胞および内在する肺毛細血管の天然の微小環境を再現する。一態様では、膜208上での細胞の培養条件が、細胞外マトリックス(ECM)のコーティング、培養液による潅流または周期的な機械的歪によって最適化されて、共培養細胞の形状および機能の特性が維持され、そしてこれら細胞の、膜208を横切る直接の細胞相互作用が可能になる。したがって、装置200によって、長期間の細胞培養および膜上に増殖した肺の上皮細胞と内皮細胞の隣接単層の動的な機械的伸長を同時に実行できる。
【0099】
肺内の肺胞上皮と肺内皮の間の組織-組織界面をシミュレートするのに膜208を利用する場合の一方法は、I型肺胞上皮細胞を、第一部分250Aに対面する膜208の面(以後、膜の上面と呼ぶ)に適用して上皮層を模倣する方法である。しかし、I型様とII型様の肺胞上皮細胞を約7:13の比率で混合して、肺胞上皮のインビボ細胞構造を再現することが可能である。上記例示された方法では、肺の微小血管内皮細胞を、第二部分250Bに対面する膜208の反対側の面(以後、膜の底面と呼ぶ)上で培養する。この例示された方法では、負圧を装置200に周期的にかけて、膜208を、その平面に沿って、連続して拡張および収縮させる。
【0100】
かような操作中、典型的な接合構造が膜207上に生成して、流体およびイオンが、第一部分250Aと第二部分250Bの間の膜208を通過して輸送されるので、生理的な肺胞-毛細血管ユニットが膜208上に生成しうる。膜208上の密着結合の生成は、ZO-1およびオクルディンなどの密着結合タンパク質のオンチップ免疫組織化学検出法を利用して評価できる。さらにまたは代わりに、蛍光標識をつけた大分子(例えば重量の異なるデキストラン)の排除を定量して膜の透過性を測定し、培養条件を変えることによって上皮膜障壁の形成を最適化することができる。さらに、組織学的、生化学的およびマイクロ流体学的方法を利用して、膜208上にそのインビボ対応物の重要な構造組織化を再現する機能性肺胞-毛細血管ユニットの形成を示すことができる。
【0101】
一実施例で、膜208上に自己組織化された組織-組織界面のガス交換機能を、それ自身の酸素分圧と血液を各々有する異なる流体を、それぞれの第一部分250Aと第二部分250Bに注入することによって、測定することができ、この場合、第一部分250Aは肺胞区域として働き、第二部分250Bは微小血管区域として働く。好ましくは装置200内の血液-ガス測定装置を使用して、装置中を血液が通過する前後に、それぞれの部分250Aと250B内の血液中酸素のレベルを測定する。例えば、血液は、空気を上部チャネル250A中に注入しながら、チャネル250B中を流動できるので、出てくる空気を集めて、酸素計を使って酸素レベルを測定する。酸素計は、既存のシステムと組み合わせるかまたは別個のユニットとして一つまたは複数の中央マイクロチャネルの出口ポートに接続することができる。一態様では、空気または他の媒体を薬物または粒子を含有するエアロゾルとともに装置を通じて流動させ、次いで、膜を経由したこれらの薬物または粒子の血液への輸送を測定する。病原体またはサイトカインを前記空気またはガス媒体の側に添加し、次いで病原体の血液への侵入のみならず、近くの毛細血管内皮への免疫細胞の固着および免疫細胞と浮腫液の血液側から気道側への通過を測定することも企図される。
【0102】
上皮が機能するには、構成細胞の極性化が必要であるから、膜の構造を、透過型電子顕微鏡法、免疫組織細胞化学、共焦点顕微鏡法または他の適切な手段を使って可視化して、膜208の肺胞上皮細胞側の極性化をモニターする。肺模倣装置の態様では、蛍光染料を、第一および/または第二のマイクロチャネル250A、250Bに適用して、膜208における気道上皮による肺胞界面活性物質の産生を測定することができる。特に、膜208上の肺胞上皮細胞は、細胞内に貯蔵された肺界面活性物質(例えばキナクリン)に特異的に標識付けする蛍光染料を細胞が取り込むことから発生する蛍光を測定するか、または特異抗体を使ってモニターすることができる。
【0103】
組織界面装置200の独特の機能の一つは、臓器レベルで肺の炎症性反応をシミュレートして、免疫細胞がどのようにして血液から内皮を通過し肺胞コンパートメントに移行するか研究できるインビトロモデルを発展できることである。これが達成される一方法は、第一部分250Aへの炎症促進因子(例えばIL-1β、TNF-α、IL-8、シリカのマイクロ粒子とナノ粒子、病原体)の制御されかつプログラム可能なマイクロ流体送達、ならびに第二部分250Bにおけるヒトの全血流または循環免疫細胞を含有する培養液の制御されかつプログラム可能なマイクロ流体送達である。前記膜を通過する電気抵抗と短絡回路電流をモニターして、炎症性反応中の、血管透過性、流体の溢出および細胞の肺胞腔への流入の変化を研究できる。蛍光顕微鏡法を利用して、溢出反応中の動的な細胞運動挙動を可視化できる。
【0104】
組織界面装置200は、ナノマテリアルが、肺の組織-組織界面に対してどのように挙動するかを試験するのにも使用できる。特に、ナノマテリアル(例えばシリカナノ粒子、超常磁性ナノ粒子、金ナノ粒子、単層カーボンナノチューブ)を、膜208の気道表面に適用して、膜208上で増殖させた気道細胞または内皮細胞に対して起こる可能性があるナノマテリアルの毒作用、および気道流路から血流路へのナノマテリアルの流入を研究できる。例えば、センサ120を使用して、膜208上に形成された組織障壁を通過するナノマテリアルの遊出、ならびにガス交換および流体/イオンの輸送などといった障壁機能の、ナノマテリアルにより誘発された変化をモニターできる。
【0105】
組織界面装置200は、肺の生物学と生理学の各種の重要な分野について直接分析することができ、その分野には、限定されないが、ガス交換、流体/イオンの輸送、炎症、感染、浮腫/呼吸困難症候群、癌と転移の発生、真菌感染症、薬物送達と薬物スクリーニング、生物学的検出および肺のメカノトランスダクションが含まれる。さらに、装置200は、血液-脳関門、腸、骨髄、糸球体、および癌性腫瘍の微環境などの他の生理系に見られる生体組織-組織界面を、正確にモデル化できる。上記のように、二つ以上の組織界面装置200を複合し自動化して、薬物、化学物質、粒子、毒物、病原体の、または他の環境刺激に対する細胞と組織の反応のハイスループット分析、毒物とワクチンのスクリーニング、ならびに毒性学と生物学的検定の用途を提供できる。本発明の装置は、インビトロでの複雑な組織と臓器の生理学の研究、および生体適合性または生分解性の装置によるインビボでの組織と臓器の操作の研究に使用できる。
【0106】
一態様では、組織界面装置200を使用して、その中に人造組織層を作製することができる。この態様では、二種類以上の異なる細胞型を膜208の対向する表面上に適用し、適切な生理環境を模倣する条件下で培養する。さらにまたは代わりに、圧力差を中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作マイクロチャネルとの間にかけ、マイクロチャネル壁を移動させて膜208をその面に沿って拡張/収縮させる。
【0107】
別の実施例では、装置200は、多孔質の膜208を使用して、肺細胞を膜208の一方の面上で培養し、内皮細胞を膜208の他方の面上に維持する。装置200の動作中、これら二つの細胞層は膜208の細孔を経由する化学物質と分子の刺激の通過によって互いに連通している。この連通をモニターおよび分析して、標準的な組織培養システムで単一組織型として単離して培養した場合と比較して、生理学的な機械的シミュレーションを伴ってまたは伴わずに、これらの細胞が、組織-組織界面としてどのように異なって機能するかを理解することができる。細胞と組織の生理、ならびに化学物質、分子、粒子および細胞のこの組織-組織界面の通過の変化をモニターすることによって、より有効な薬物または治療法を作り出し、これまで知られていなかった毒性を同定し、そしてこれらの開発工程の期間を有意に短縮するのに利用できる情報を得ることができる。特に、かような制御された環境における細胞の挙動によって、研究者は、従来のインビトロの培養技術を使っては再現できない、上記諸システムに起こる各種生理現象を研究できる。換言すれば、装置200は、患者の身体の外側で、それでもなお肺の重要な生理機能と構造を保持する制御可能な環境で、モニタリング可能な人造血液-空気関門をつくりだす機能を有している。上記装置は、肺の機能を模倣するということについて説明されているが、この装置は、生きた微生物の集団を含有している胃腸管の蠕動および吸収、腎臓における還流および尿の生成、血液-脳関門の機能、皮膚の老化による機械的変形の作用、造血幹細胞ニッチを有する骨髄-微小血管の界面など他の生理システムを模倣するように容易に構成できることに注目すべきである。
【0108】
膜表面の処理の詳細、ならびに装置を操作中、中央マイクロチャネル250A、250Bを通じておよび/または膜に適用できる培養液のタイプの詳細を、ここで述べる。多孔質膜を含む膜は、図4Dに示すように、各種の細胞接着促進物質またはECMタンパク質例えばフィブロネクチン、ラミニン、または各種のコラーゲンまたはこれらの組合せなどの物質でコートできる。一般に、図4Dに示すように、一種類または複数種の物質608が膜604の一方の表面上に示されているが、一方、別の物質610を膜604の対向する表面上に適用するか、または両表面を同じ物質でコートできる。いくつかの態様では、ECM(例えば初代細胞または胎児幹細胞などの細胞が産生するECMでもよい)および他の構成物が無血清の環境で産生される。
【0109】
一態様では、膜に結合させて細胞の付着を改善し細胞の増殖を安定化する、細胞接着因子と正電荷の分子の組合わせを膜にコートする。正電荷の分子は、ポリリジン、キトサン、ポリ(エチレンイミン)、またはアクリルアミドもしくはメタクリルアミドを重合させて得たアクリルからなる群より選択することができ、第一級、第二級もしくは第三級のアミンまたは第四級の塩の形態の正電荷の基を含んでいる。細胞接着因子は膜に付加することができ、好ましくはフィブロネクチン、ラミニン、コラーゲン、ビトロネクチンもしくはテネイシンまたはその細胞結合領域を有するフラグメントもしくは類似体である。正電荷分子と細胞接着因子は膜に共有結合することができる。別の態様では、正電荷分子と細胞接着因子が互いに共有結合され、次いで正電荷分子または細胞接着因子のいずれかが膜に共有結合される。また、正電荷分子もしくは細胞接着因子または両者は、膜に共有結合されない安定なコーティングの形態で提供できる。
【0110】
一態様では、細胞付着促進物質、マトリックス形成製剤およびその他の組成物は、消毒され、不要な混入を防止する。消毒は、例えば紫外線、濾過または熱で達成できる。特にインキュベーション中に抗生物質を添加して、細菌、真菌などの望ましくない微生物の増殖を防止することもできる。かような抗生物質には、非限定的な例として、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ペニシリン、アムホテリシンおよびシプロフロキサシンが含まれる。
【0111】
別の態様では、膜は細胞培養物でコートされるが、その細胞培養物には、限定されないが、初代細胞の培養物、株化細胞系、または幹細胞の培養物、例えばフィブロネクチンもしくはコラーゲンを含むかまたは本質的にこれらからなるECM物質に結合されたESCなどが含まれる。
【0112】
一態様では、膜に結合される初代細胞または細胞系は肺胞細胞、内皮細胞、腸細胞、角化細胞でもよく、限定されないが、ヒトの皮膚の角化細胞、または本明細書の別の場所に列挙されているかもしくは当業者には周知の他のいずれかの細胞型が含まれる。別の態様では、初代細胞は線維芽細胞でもよく、限定されないが、ヒト胎児線維芽細胞が含まれる。いくつかの態様では、幹細胞培養物の幹細胞は胎児幹細胞である。胎児幹細胞の供給源には、限定されないが哺乳類が含まれ、ヒト以外の霊長類およびヒトを含んでいる。ヒト胎児幹細胞の非限定例としては、
が含まれる。一態様では、幹細胞培養物の幹細胞は、誘導された多能性幹細胞である。
【0113】
一態様では、細胞培養物は、無血清の初代細胞培養物または幹細胞培養物などの細胞培養物でもよい。これらの態様のいくつかでは、無血清の初代細胞ECMが初代細胞無血清培養液(SFM)とともに使用される。適切なSFMには、限定されないが、(a)EPILIFE(登録商標)Defined Growth Supplementを添加されたEPILIFE(登録商標)Serum Free Culture Mediumおよび(b)Defined Keratinocyte-SFM Growth Supplementを添加されたDefined Keratinocyte-SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。これらの態様のいくつかでは、無血清幹細胞ECMを幹細胞SFMとともに使用する。適切なSFMには、限定されないが、塩基性線維芽細胞増殖因子とβ-メルカプトエタノールを添加されたSTEMPRO(登録商標)hESC Serum Free Media(SFM)、KNOCKOUT(商標)Serum Replacement(SR)を添加されたKNOCKOUT(商標)D-MEM、STEMPRO(登録商標)MSC SFM、およびSTEMPRO(登録商標)NSC SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。
【0114】
一態様では、前記組成物はゼノフリー(xeno-free)でもよい。組成物は、細胞が由来する動物の種以外の動物由来の物質を欠いているときに「ゼノフリー」といわれる。一態様では、初代細胞培養物または幹細胞の培養物などの細胞培養物でありうる細胞培養物はゼノフリーである。これらの態様では、ゼノフリーECMは、初代細胞ECMまたは特に幹細胞の増殖または分化を支持するように設計されたECMなどのECMであってもよい。これらのマトリックスは、特にゼノフリーであるように設計される。
【0115】
一態様では、細胞培養物は、条件培養液で培養された初代細胞または幹細胞である。他の態様では、培養液は非条件培養液である。
【0116】
一態様では、細胞培養の条件は完全に規定されている。これらの態様では、流体チャンバー内の完全に規定された細胞培養液を用いる。適切な培養液には、限定されないが、初代細胞用のEPILIFE(登録商標)Definited Growth Supplementを添加されたEPILIFE(登録商標)Serum Free Culture Medium、および幹細胞用のSTEMPRO(登録商標)hESC SFMが含まれ、すべてGibco/Invitrogen(米国カリフォルニア州カールズバッド)から市販されている。
【0117】
薬物、環境ストレス要因、病原体、毒物などの作用を研究するため、これらを、チャネルの多孔質膜に付着させた細胞を増殖させるのに適切な所望の細胞培養液に添加できる。したがって、細菌、ウイルス、エアロゾル、各種のナノ粒子、毒物、ガス物質などの病原体を、チャンバー中に流入して細胞へ供給される培養液に導入できる。
【0118】
当業者は、前記細胞の代謝活性によって培養液のpHバランスを制御して、関心対象の任意の細胞型または組織型のpHを適切なレベルに維持することもできる。pHをモニターし調節するモニターおよび調節システムは、本発明の装置中に挿入できる。
【0119】
膜は、好ましくは、一方の面または両面を、細胞、分子またはその他のものでコートされ、その結果、本発明の装置は、膜経由での、マイクロチャネルに沿ったおよび/またはマイクロチャネル間の細胞の挙動をモニターするための、制御された環境を提供する。本発明の装置には多細胞生物由来の任意の細胞を使用できる。例えば、ヒトの身体は、少なくとも210種の既知の細胞型を含んでいる。当業者は、本発明の装置中に、細胞の有用な組合せを容易に構築することができる。本発明の装置に使用できる細胞型(例えばヒト)には、限定されないが以下のものが含まれる。すなわち、外皮系細胞:限定されないが、角化上皮細胞、表皮角化細胞(表皮細胞を分化する)、表皮基底細胞(幹細胞)、指の爪と足の爪の角化細胞、爪床基底細胞(幹細胞)、髄様毛幹細胞、皮質毛幹細胞、小皮毛幹細胞、小皮毛根鞘細胞、ハックスリー層の毛根鞘細胞、ヘンレ層の毛根鞘細胞、外部毛根鞘細胞、毛母基細胞(幹細胞);湿潤重層バリヤ上皮細胞:例えば角膜、舌、口腔、食道、肛門管、下位尿管および膣の重層扁平上皮の表面上皮細胞、角膜、舌、口腔、食道、肛門管、下位尿管および膣の上皮の基底細胞(幹細胞)、尿路上皮細胞(膀胱と尿管を被覆する);外分泌上皮細胞、例えば唾液腺粘液細胞(多糖類が豊富な分泌物)、唾液腺漿液細胞(糖タンパク質酵素が豊富な分泌物)、舌のフォンエブナー腺細胞(味蕾を洗浄する)、乳腺細胞(乳汁分泌)、涙腺細胞(涙を分泌)、耳の耳垢腺細胞(耳垢分泌)、エクリン汗腺暗細胞(糖タンパク質分泌)、エクリン汗腺明細胞(小分子分泌)、アポクリン汗腺細胞(臭気分泌、性ホルモン感受性)、眼瞼のモール細胞腺(特殊汗腺)、皮脂腺細胞(脂質が豊富な皮脂を分泌)、鼻のボーマン腺細胞(嗅上皮を洗浄する)、十二指腸のブルナー腺細胞(酵素とアルカリ性粘液)、精のう細胞(精子の泳動用のフラクトースを含む精液成分を分泌)、前立腺細胞(精液成分を分泌)、尿道球腺細胞(粘液分泌)、バルトリン腺細胞(膣潤滑液分泌)、レトレ腺細胞(粘液分泌)、子宮内膜細胞(炭水化物分泌)、気道および消化管の分離杯細胞(粘液分泌)、胃を被覆する粘液細胞(粘液分布)、胃腺酵素原細胞(ペプシノーゲン分泌)、胃腺酸分泌細胞(塩酸分泌)、膵臓腺房細胞(炭酸水素塩と消化酵素を分泌)、膵臓内分泌細胞、小腸のパネート細胞(リゾチーム分泌)、腸上皮細胞、肺のI型とII型の肺細胞(界面活性剤を分泌)および/または肺のクララ細胞が含まれる。
【0120】
また、前記膜は、以下の細胞類でコートすることができる。すなわちホルモン分泌細胞、例えば膵臓のランゲルハンス島の内分泌細胞、下垂体前葉細胞、成長ホルモン産生細胞、乳腺刺激ホルモン産生細胞、甲状腺刺激ホルモン産生細胞、性線刺激ホルモン産生細胞、副腎皮質刺激因子産生細胞、メラニン細胞刺激ホルモンを分泌する下垂体中葉細胞;およびオキシトシンまたはバソプレシンを分泌する大型神経分泌細胞;セロトニン、エンドルフィン、ソマトスタチン、ガストリン、セクレチン、コレシストキニン、インスリン、グルカゴン、ボンベシンを分泌する腸管と気道の細胞;甲状腺細胞例えば甲状腺上皮細胞、傍濾胞細胞、上皮小体腺細胞、上皮小体主細胞、好酸性細胞、副腎細胞、ステロイドホルモン(ミネラルコルチコイド類およびグルココルチコイド類)を分泌するクロム親和性細胞、テストステロンを分泌する精巣のライディッヒ細胞、エストロゲンを分泌する卵胞の内卵胞膜細胞、プロゲステロンを分泌する破裂卵胞の黄体細胞、顆粒膜黄体細胞、卵胞膜黄体細胞、傍糸球体細胞(レニンを分泌)、腎臓の密集斑細胞、腎臓の極周囲の細胞および/または腎臓の糸球体間質細胞である。
【0121】
さらにまたは代わりに、前記膜の少なくとも一方の面を、代謝および貯蔵細胞、例えば肝細胞(肝臓細胞)、白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、肝臓脂肪細胞で処理できる。また、障壁機能細胞(肺、消化管、外分泌腺および尿生殖路)、または腎臓細胞、例えば腎臓糸球体壁細胞、腎臓糸球体足細胞、腎臓近位尿細管刷毛縁細胞、ヘンレ薄セグメント細胞のループ、腎臓遠位尿細管細胞および/または腎臓集合管細胞も使用できる。
【0122】
本発明の装置に使用できるその他の細胞には、I型肺胞上皮細胞(肺の気腔を被覆する)、膵管細胞(腺房中心細胞)、平滑管細胞(汗腺、唾液腺、乳腺などの)、主細胞、間在細胞、管細胞(精嚢、前立腺などの)、腸刷毛縁細胞(微小絨毛を有する)、外分泌腺線状部導管細胞、胆嚢上皮細胞、小輸出管非線毛細胞、精巣上体主細胞および/または精巣上体基底細胞が含まれる。
【0123】
閉鎖内体腔を被覆する上皮細胞、例えば血管とリンパ血管の内皮有窓細胞、血管とリンパ管の内皮連続細胞、血管とリンパ管の内皮脾細胞、滑膜細胞(関節腔を覆い、ヒアルロン酸を分泌する)、漿膜細胞(腹膜、胸膜および心膜腔を被覆する)、扁平細胞(耳の外リンパ隙を被覆する)、扁平細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、微小絨毛を有する内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、微小絨毛無しの内リンパ嚢の円柱細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、暗細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、前庭膜細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、血管条基底細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、血管条周辺細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、クラウディウス細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、ベッチャー細胞(耳の内リンパ隙を被覆する)、脈絡叢細胞(脳脊髄液を分泌)、柔膜クモ膜扁平細胞、眼の色素性線毛上皮細胞、眼の非色素性線毛上皮細胞および/または角膜内皮細胞も使用できる。
【0124】
以下の細胞は、培養液中の膜の表面にこれらの細胞を付加することによって、本発明の装置に使用できる。それら細胞には、推進機能を有する線毛細胞、例えば気道線毛細胞、卵管線毛細胞(女性)、子宮内膜線毛細胞(女性)、精巣網線毛細胞(男性)、小輸出管線毛細胞(男性)および/または中枢神経系の線毛上衣細胞(脳腔を被覆する)などが含まれる。
【0125】
特殊化されたECMを分泌する細胞をプレーティングすることもできる。このような細胞には、例えばエナメル芽上皮細胞(歯のエナメル質を分泌する)、耳の前庭器の半月平面上皮細胞(プロテオグリカンを分泌する)、コルチ歯間上皮細胞の器官(毛細胞を被覆する蓋膜を隠す分泌する)、疎性結合組織線維芽細胞、角膜線維芽細胞(角膜実質細胞)、腱線維芽細胞、骨髄細膜組織線維芽細胞、その他の非上皮線維芽細胞、血管周囲細胞、椎間板の髄核細胞、セメント芽細胞/セメント細胞(歯根骨様セメント質を分泌)、象牙芽細胞/オドントサイト(odontocyte)(歯の象牙質を分泌する)、ヒアリン軟骨の軟骨細胞、線維軟骨の軟骨細胞、弾性軟骨の軟骨細胞、骨芽細胞/骨細胞、前骨芽細胞(骨芽細胞の幹細胞)、眼のガラス体のガラス体細胞、耳の外リンパ腔の星細胞、肝臓星細胞(イトウ細胞)および/または膵臓星細胞などが含まれる。
【0126】
さらにまたは代わりに、収縮細胞、例えば骨格筋細胞、赤色骨格筋細胞(緩徐)、白色骨格筋細胞(敏速)、中間骨格筋細胞、筋紡錘の核袋細胞、筋紡錘の核鎖細胞、衛星細胞(幹細胞)、心筋細胞、固有心筋細胞、結節性心筋細胞、プルキンエ線維細胞、平滑筋細胞(各種)、虹彩の筋上皮細胞、外分泌腺の筋上皮細胞などが、本発明の装置に使用できる。
【0127】
下記細胞、すなわち血液と免疫系の細胞、例えば赤血球(赤血球)、巨核球(血小板前駆体)、単球、結合組織マクロファージ(各種)、上皮ランゲルハンス細胞、破骨細胞(骨中)、樹状細胞(リンパ組織中)、小グリア細胞(中枢神経系中)、好中性顆粒、好酸性顆粒、好塩基性顆粒、肥満細胞、ヘルパーT細胞、サプレッサーT細胞、細胞毒性T細胞、ナチュラルキラーT細胞、B細胞、ナチュラルキラー細胞、網状赤血球、幹細胞および血液と免疫系用の委任前駆細胞(各種)も、本発明の装置に使用できる。これらの細胞は、単一の細胞型としてまたは混合物で使用して、組織培養系における免疫細胞の作用を決定できる。
【0128】
一種類または複数種の神経系細胞、すなわち知覚変換細胞、例えばコルチ器官の聴覚内有毛細胞、コルチ器官の聴覚外毛細胞、嗅上皮の基底細胞(嗅ニューロンの幹細胞)、低温感受性一次感覚ニューロン、感熱性一次感覚ニューロン、表皮のメルケル細胞(触覚センサ)、嗅覚受容ニューロン、痛み感受性一次感覚ニューロン(各種);眼の網膜の光受容体細胞、例えば光受容体杆体細胞、眼の光受容体青感性錐状体視細胞、眼の光受容体緑感性錐状体視細胞、眼の光受容体赤感性錐状体視細胞、固有受容体一次感覚ニューロン(各種);触覚感受性一次感覚ニューロン(各種);I型頚動脈小体細胞(血液pHのセンサ);II型頚動脈小体細胞(血液pHのセンサ);耳の前庭器のI型毛細胞(加速度と重力);耳の前庭器のII型毛細胞(加速度と重力);および/またはI型味蕾細胞でも膜を処理できる。
【0129】
さらに、自律性ニューロン細胞、例えばコリン作動性神経細胞(各種)、アドレナリン作動性神経細胞(各種)、ペプチド作動性神経細胞(各種)を、本発明の装置に使用できる。さらに、感覚器および末梢ニューロン支持細胞も利用できる。これらの細胞には、例えばコルチ器官の内柱細胞、コルチ器官の外柱細胞、コルチ器官の内指節細胞、コルチ器官の外指節細胞、コルチ器官の辺縁細胞、コルチ器官のヘンゼン細胞、前庭器支持細胞、I型味蕾支持細胞、嗅上皮支持細胞、シュワン細胞、衛星細胞(被包性末梢神経細胞体)および/または腸管グリア細胞が含まれる。いくつかの態様では、中枢神経系ニューロンおよびグリア細胞、例えば、星状神経膠細胞(各種、ニューロン細胞(多種類のタイプ、未だ分類不十分)、希突起グリア細胞および紡錘ニューロンも使用できる。
【0130】
水晶体細胞、例えば前水晶体上皮細胞および結晶含有水晶体線維細胞も、本発明の装置に使用できる。さらに、色素細胞例えばメラニン形成細胞と網膜色素上皮細胞;ならびに性細胞、例えば卵祖細胞/卵母細胞、精子、精母細胞、精祖細胞(精母細胞の幹細胞)および精虫を使用できる。
【0131】
いくつかの態様では、膜に、ナース細胞、卵胞細胞、セルトリ細胞(精巣中)、胸腺上皮細胞を付加することができる。間質腎臓細胞などの間質細胞も使用できる。
【0132】
一態様では、膜の少なくとも一方の面を、上皮細胞でコートできる。上皮細胞は身体の至るところに存在する腔および構造体の表面を被覆する細胞で構成された組織である。また、多くの腺は上皮組織で形成されている。上皮細胞は結合組織の頂部に位置しそして二つの層が基底膜で分離されている。ヒトの場合、上皮は一次身体組織として分類され、その他の組織は、結合組織、筋肉組織および神経組織である。上皮は、接着分子e-カドヘリンの表出により(結合組織のニューロンおよび細胞によって使用されるn-カドヘリンとは対照的に)規定されることが多い。
【0133】
上皮細胞の機能には、分泌、選択吸収、防御、細胞を通過する輸送および知覚の検出が含まれ、その結果、それら機能は、通常、広範囲の先端基底側の極性(例えば、異なる膜タンパク質の発現)および分化を提供する。上皮細胞の例には、薄い平坦なプレートの外観を有している扁平細胞が含まれる。上皮細胞は、組織中でともに密着して、流体が容易に移動できる平滑で低摩擦の表面を提供する。その核の形は、通常、細胞の形態に対応しているので、上皮細胞の型を確認するのに役立つ。扁平細胞は薄い平らな形なので水平に平らな楕円形の核を有する傾向がある。扁平上皮は、典型的に、肺の中の肺胞上皮のように単純な受動拡散を利用して表面を被覆することが分かっている。また、特殊化された扁平上皮は、血管(内皮)および心臓(中皮)および身体内にみられる大きな腔などの腔の内張りも形成する。
【0134】
上皮細胞の別の例は、立方体様細胞である。立方体様細胞は、おおむね立方体の形状であり、断面は正方形である。各細胞は中央に球形の核を有している。立方体様上皮は通常、分泌組織または吸収組織、例えば膵臓の(分泌性)外分泌腺、尿細管の(吸収性)内張りおよび腺の管路の中にみられる。立方体様細胞は、女性の卵巣中に卵細胞を、および男性の精巣中に精子細胞を産生する胚上皮も構成している。
【0135】
上皮細胞のさらに別のタイプは、引き伸ばされた柱の形態の円柱状上皮細胞である。その核は引き伸ばされ、通常細胞の基底の近くに位置している。円柱状内皮細胞は、胃や腸の内張りを形成している。いくつかの円柱状細胞は、例えば、鼻、耳および舌の味蕾の中の感覚受容用に特殊化されている。杯細胞(単一細胞腺)は、十二指腸の柱状上皮細胞の間に見られる。この細胞は潤滑剤として働く粘液を分泌する。
【0136】
上皮細胞のさらに別の例は偽重層細胞である。この細胞はその核が異なる高さに見える単層の円柱上皮細胞であり、この細胞を断面で見ると、その上皮は層状になっているという誤解を招く恐れがある(それ故「偽重層」)印象をあたえる。偽重層上皮は、繊毛と呼ばれるその先端の(管腔)膜の細い毛様延長部分を有していてもよい。この場合、この上皮は、「繊毛」のある「偽重層上皮」と記述する。繊毛は、細胞骨格微小管と結合構造タンパク質および酵素の相互作用によって特定の方向にエネルギー依存性の拍動をすることができる。発生した繊毛運動作用は、杯細胞に局所的に粘液を分泌させて(病原体と粒子を潤滑して捕捉するため)その方向に(典型的には身体から外へ)流動させる。繊毛のある上皮は、気道(鼻、気管支)にみられるが、女性の子宮やファロピウス管にも見られ、そこにおいて繊毛は卵子を子宮に前進させる。
【0137】
上皮は、身体の外側(皮膚)および内側の腔と管腔の両者を被覆する。我々の皮膚の最も外側の層は、死んだ重層扁平角化上皮細胞で構成されている。
【0138】
口の内側、食道および直腸の一部を被覆する組織は、角化されていない重層扁平上皮で構成されている。身体の腔を外部環境から分離しているその他の表面は、単層で、扁平、円柱もしくは偽重層の上皮細胞で被覆されている。他の上皮細胞は、肺、胃腸管、生殖器官および尿路の内側を被覆し、ならびに外分泌線および内分泌腺を被覆する。角膜の外層は、迅速に増殖し容易に再生される上皮細胞で被覆されている。内皮(血管、心臓およびリンパ管の内張り)は特殊な形態の上皮である。別のタイプである中皮は、心膜、胸膜および腹膜の壁を形成している。
【0139】
したがって、利用可能な細胞型を多孔質膜上にプレーティングし、利用可能な真空を印加して、その細胞に、生理的力(例えば皮膚への張力または肺への機械的歪)を模倣する生理的または人工の機械力を印加することによって、記載されている本発明の細胞培養装置中で、前記組織の任意のものを再現することができる。一態様では、膜の一方の面は、上皮細胞でコートされそして他方の面は内皮細胞でコートされる。
【0140】
内皮は、内腔内を循環する血液と残りの血管壁との間の界面を形成する、血管の内表面を被覆する細胞の薄い層である。内皮細胞は、心臓から最も細い血管まで全循環系を被覆する。これらの細胞は、血液流の乱れを減少させ、血液をより遠方へポンプ輸送できる。内皮組織は特殊な型の上皮組織である(動物の生体組織の4種の型のうちの一つである)。より具体的に述べると、内皮は単層扁平上皮である。
【0141】
解剖学の基本的モデルによって、上皮細胞と内皮細胞は、どの組織から増殖するのか、およびケラチンフィラメントではなくビメンチンの存在がこれらを上皮細胞から分けるということに基づいて、区別される。心腔の内表面の内皮は、心内膜と呼称される。毛細血管と毛細リンパ管は、単層と呼称される内皮細胞の単一層で構成されている。内皮細胞は、血管生理学の多くの局面、すなわち血管収縮および血管拡張したがって血圧の制御;血液の凝固(血栓症および線維素溶解現象);アテローマ性動脈硬化症;新血管の形成(血管新生);炎症および障壁の機能に関連しており、内皮は血管内腔と周囲の組織の間の選択的障壁として活動して、血流中へおよび血流からの物質の通過と白血球細胞の輸送を制御する。慢性炎症の症例のように、内皮の単層の透過性が過剰にまたは長期間増大すると、組織の水腫/膨潤をもたらすことがある。いくつかの臓器では、高度に分化した内皮細胞が存在し、特殊な「濾過機能」を実行する。かような独特な内皮の構造の例として、腎臓の糸球体と血液-脳関門がある。
【0142】
一態様では、培養された内皮細胞を含む膜の面を、各種の試験物質、および白血球細胞もしくは特異的免疫系細胞に曝露して、組織レベルの免疫系細胞の機能に対する試験物質の作用を研究することができる。
【0143】
組織界面装置200がどのようにして製造されるかについて、ここで、一態様によって詳細に述べる。PDMS膜の製造には、好ましくは、段階的に組み立てられる多数の部品の平行した処理が含まれている。図4Aは、多孔質膜208の製造に最終的に使用される、一態様による原型600の透視図である。図4Aに示すように、原型600は、好ましくは、フォトレジストをケイ素の基板に対して所望の形態と大きさに型押しすることによって製造される。
【0144】
柱状部602は、膜208の意図する設計によって、任意の所望の配列に設計できる。例えば、柱状部602を、円形パターンに配列し、対応して膜208に細孔の円形パターンのセットを形成することができる。柱状部602は、上記のような五角形以外の他の断面形状にして、膜に対応する細孔をつくることができることに注目すべきである。原型600が、高さの異なる隆起を有し、平坦でない膜を作製できることにも注目すべきである。
【0145】
次いで、図4Bに示すように、原型600は、好ましくはPDMSでスピンコートされてスピンコートされた層604を形成させる。次いで、そのスピンコートされた層604は、設定された時間と温度(例えば110℃で15分間)で硬化させ、次に原型600を剥がして、図4Cに示すように、五角形の通孔606の配列を有する薄いPDMS膜604を製造する。図示したこの実施例は、10μm厚のPDMS膜の製造を示しているが、その他の厚さも企図される。
【0146】
他の材料も使用できるが、PDMSは、適度に硬いエラストマー(1MPa)であり、非毒性でかつ300nmまで光学的に透明であるという点で、生物学的に有用な性質を有している。PDMSは、本質的に、非常に疎水性であるが、プラズマで処理することによって、親水型に変換できる。膜604は、前記いくつかの各種目的のため加工することができる。例えば、膜604の細孔606は、当業者には公知のECMの分子またはゲル、例えばMATRIGEL、ラミニン、コラーゲン、フィブロネクチン、フィブリン、エラスチンなどでコートまたは充填することができる。前記組織-組織界面は、図4Dに示すように、膜604の各面に異なる型の細胞を培養することによってコートできる。特に、図4Dに示すように、一つの型の細胞608を、膜604の一方の面にコートし、一方、膜604の反対側の面に別の型の細胞610をコートする。
【0147】
図5Aと5Bは、第一外体部分202、第二外体部分204が一態様によって形成される工程を示す。第一と第二の外体部分202、204は、好ましくはソフトリソグラフィー法を利用して形成されるが、当該技術分野で周知の他の方法も企図される。一態様では、フォトレジスト(図示せず)が基板上に形成され、そのフォトレジストは、第一外体部分の所望の分枝形態の鏡像のポジレリーフの特徴を有している。同様に、第二のフォトレジスト(図示せず)が別の基盤上に形成され、その第二フォトレジストは、第二の外体部分204の分枝形態の鏡像の対応するポジレリーフの特徴を有している。前記マイクロチャネルは、連通ポートおよびポート開口とともに、好ましくは、PDMSまたは他の適切な材料を各原型に対してキャストすることによって製造することが好ましい。第一と第二の外体部分202、204が形成されたならば、ポート開口として働く通孔を、好ましくは、開口を形成する機械またはスタンプを使って、PDMSの平板を通して作製する。
【0148】
図5Cに示すように、すでに製造されたPDMS膜208を、次に、第一外体部分202と第二外体部分204の間に挟みこんで、マイクロチャネル壁234、244および外壁238、248を、適当な製造装置と技術を利用して整列させる。その後、マイクロチャネル壁234、244と外壁を、好ましくは適切な付着剤またはエポキシ樹脂を使って、膜208に結合させる。さらに、外体部分202、204の残りの部分は適切な付着剤またはエポキシ樹脂を使って互いに永久的に結合させて、全装置を製造する。
【0149】
次いで、図5Dに示すように、PDMSエッチング溶液を、動作チャネル中に導入して、PDMS膜セグメントを動作チャネル内でエッチングする。その結果、図5Eに示すように、前記膜がない二つの側部の動作チャネル252が生成されるが、中央マイクロチャネル中には膜が保持されている。上記のものは、好ましくはソフトリソグラフィー法を利用して製造されるが、その詳細は、Whitesides et al.,刊行されたAnnual Review, Biomed Engineering, 3.335-3.373(2001)による「Soft Lithography in Biology and Biochemistry」およびThangawng et al., Biomed Microdevices, vol.9. num.4, 2007, p. 587-95による「An Ultra-Thin PDMS Membrane As A Bio/Micro-Nano Interface:Fabrication And Characterization」に記載されている。なお、これら両文献は、参照により本明細書に組み入れられる。
【0150】
図6は、一態様による多数の組織界面装置を有するシステムの模式図を表す。特に、図6に示すように、このシステム700は、一つまたは複数の流体供給源704と圧力源(図示せず)に連結された一つまたは複数のCPU702を含み、その結果、これらのものは図示されている三つの組織界面装置706A、706Bおよび706Cに連結されている。この態様では、装置706が三つ示されているが、三つより少ないかまたは多い装置706が企図されることに注目すべきである。システム700では、前記三つの装置のうち二つ(すなわち706Aと706B)は流体供給源704に対して並列に接続され、そして装置706Aと706Cは流体供給源704に対して直列に連結されている。図示されている形態は一実施例にすぎず、他のタイプの連結パターンが用途によって利用できることに注目すべきである。
【0151】
図示されている実施例において、流体供給源704からの流体は、装置706Aと706Bの流体入口に直接供給される。その流体は、装置706Aを通過すると装置706Bと706Cの流体入口ポート中に直接放出される。さらに、装置706Bからの流体出口は、装置706Aから装置706C中へのアウトプットと結合している。多数の装置が動作することによって、流体または膜中の細胞は、流体が別の制御された環境を通過した後どのように挙動するか、センサデータを利用してモニターすることができる。したがって、このシステムは、多数の独立した「段階」を設定することができ、各段階における細胞の挙動を、装置706を使用して、シミュレートされた生理条件下でモニターしかつ制御することができる。直列に接続された一つまたは複数の装置は、細胞間の化学的連通を研究するのに利用できる。例えば、一細胞型が、特定の流体に曝露されたことに応答してタンパク質Aを分泌し、その結果その分泌されたタンパク質Aを含有する流体が一方の装置から出て、次いで別の装置中で特異的にパターン化された別の細胞型に曝露され、その結果、タンパク質Aを含有する流体と、別の装置内の別の細胞との相互作用をモニターできる(例えば、パラクリンのシグナル伝達)。前記平行な構成の場合、平行に接続された一つまたは複数の装置は、個々の装置を別個に通過する細胞の挙動を分析するのではなく、同時に多数の装置を通過する細胞の挙動を分析するので、効率が増大して有利である。
【0152】
図7Aは、二つの多孔質膜で分離された三つの平行なマイクロチャネルを含む、一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。図7Aに示すように、臓器模倣装置800は、動作マイクロチャネル802および動作マイクロチャネル802の間に配置された全中央マイクロチャネル804を含んでいる。全中央マイクロチャネル804は、マイクロチャネル804を、三つの別個の中央マイクロチャネル804A、804Bおよび804Cに分離するそれぞれの平行なx-y面に沿って配置された多数の膜806A、806Bを含んでいる。膜806Aと806Bは、多孔質、弾性またはその組合せの性質を持っていてもよい。正および/または負の加圧された培養液を、動作チャネル802を経由して加えると、圧力差を生じて、膜806A、806Bを、それぞれの面に沿って、平行に拡張および収縮させる。
【0153】
図7Bは、一態様による臓器模倣装置の透視図を表す。図7Bに示すように、組織界面装置900は動作マイクロチャネル902A、902Bおよびマイクロチャネル902の間に配置された中央マイクロチャネル904を含んでいる。その中央マイクロチャネル904は、それぞれの平行なx-y面に沿って配置された多数の膜906A、906Bを含んでいる。さらに、壁910は、中央マイクロチャネルを、それぞれの区域を有する二つの別個の中央マイクロチャネルに分離し、その結果、壁910は、膜904Aおよび904Bとともに、マイクロチャネル904A、904B、904Cおよび904Dを画成している。膜906Aと906Bは少なくとも部分的に多孔質、弾性またはその組合せの性質を有している。
【0154】
図7Bに示す装置は、動作マイクロチャネル902Aと902Bが壁908によって分離され、その結果、マイクロチャネル902Aと902Bに印加される別個の圧力が、それぞれの膜904Aと904Bを拡張または収縮させるという点で、図7Aに示す装置とは異なる。特に、正および/または負の圧力を、動作マイクロチャネル902Aを経由して印加して、膜906Aをその面に沿って拡張および収縮させ、一方、異なる正および/または負の圧力を、動作マイクロチャネル902Bを経由して印加して、膜906Bをその面に沿って、異なる振幅および/または大きさで拡張および収縮させることができる。勿論、一方のセットの動作マイクロチャネルは圧力を経験できるが、他方のセットは圧力を経験しないので、一方の膜を動作させるだけである。二つの膜が装置800と900内に示されているが、三つ以上の膜が企図され、それらを装置内に形成させることができることには注目すべきである。
【0155】
図7Cに示す一実施例では、図7Aに記載されている三つのチャネルを含む装置が、血管化腫瘍の細胞の挙動を確認するためコートされている二つの膜806Aと806Bを有している。特に、膜806Aは、その上表面805Aにリンパ内皮がコートされ、およびその下表面に間質細胞がコートされ、そして第二多孔質膜805Bの上表面にも間質細胞がコートされ、およびその下面805Cに血管内皮がコートされている。腫瘍細胞が、区域804Bの上部膜と下部膜の表面上の間質細胞の層によって頂部と底部が囲まれている中央マイクロチャネル内に配置されている。細胞培養液または血液などの流体が、区域804Cの血管チャネルに入る。細胞培養液またはリンパ液などの流体は、区域804Aのリンパチャネルに入る。装置800のこの構成によって、研究者は、癌転移中の腫瘍の増殖ならびに血管およびリンパ管への浸潤を模倣して研究することができる。この実施例において、膜806A、806Bの一つまたは複数が、動作マイクロチャネル経由の圧力に応答して拡張/収縮できる。さらにまたは代わりに、これらの膜は、動作できないが、多孔質であるかまたは溝を有し、細胞に膜を通過させる。
【0156】
本発明の装置の独特の性能を、生理的な機械力によって誘導される設計されたナノマテリアルの急性毒性と肺外転移を評価する実験でモニターした。その場合、本発明の装置を使用して肺の炎症をモデル化し、それは肺の組織とサイトカインの複雑な相互作用および肺胞-毛細血管障壁を通って移行する血液由来免疫細胞を正確に再現しかつ直接可視化することができる。このモデルを使用して、本発明の装置は、模倣された肺の、ナノ材料に対する有意な炎症反応を明らかにする。最終的に、本発明の装置を使用して、肺の細菌感染ならびに好中球の動員および貪食作用によるそのクリアランスをシミュレートする。
【0157】
本発明の装置を、実験で使用して、生理的機械力が、肺内における設計されたナノ粒子の毒性を誘発するかまたは悪化させ、かつその粒子の体循環への転流を促進しうることが発見された。さらに、肺炎症をシミュレートするインビトロのモデルが開発されたことで、循環する血液由来免疫細胞の炎症性内皮への接着およびそれらの肺胞-毛細血管関門を通過する移行が直接観察できる。このモデルに基づいて、設計されたナノ粒子の有意な炎症促進活性が明らかになった。この証拠に基づいて、肺感染のモデルを確立することができ、かつ好中球の肺胞中への侵入および細菌貪食現象によって媒介される、細菌に対する肺固有の免疫反応を再現できた。
【0158】
本発明の装置は、いくつかの実験で利用され、そこでは生体の肺を模倣するのに使用された。本発明の装置による観察結果と発見を以下に述べる。実際の肺が正常に吸気している間、胸腔は、横隔膜を収縮させかつ胸郭を拡張させるため拡張し、その結果、肺胞の外側の胸腔内圧は低下する。肺胞壁を横切る圧力差が増大すると、肺胞を拡張させて空気が肺の中へ押し込まれ、その結果、肺胞の上皮および周囲の毛細血管の内皮を伸長する。肺胞の上皮細胞を、肺微小血管の内皮細胞とともに、多孔質薄膜上で共培養して、肺胞上皮と肺内皮の間の界面を模倣する二つの対向する組織層を作製する。マイクロチャネルの形態が区分されたことで、前記上皮と内皮の流体環境の独立した操作と生理的機械的歪の付加を容易にできる。
【0159】
この実験で、ヒト起原の肺胞上皮細胞と初代肺微小血管内皮細胞の共培養物を、生存能力の損失無しに2週間にわたって増殖させた。マイクロ流体培養によって、上皮層と内皮層の両方に存在する典型的な接合複合体で明らかな構造統合性を有する強固な肺胞-毛細血管関門が産生された。このマイクロ流体装置をコンピュータ制御の真空と組み合わせて、プログラム可能な様式で振幅と歪レベルを変えることによって、膜/細胞を周期的に伸長できるようになった。真空を印加すると、広幅の中央マイクロチャネルを横切って均一な一方向の張力が生じることが観察された。同時に、この張力が接着細胞によって知覚され、それらが伸長してそれらの突出表面積を増大することが発見された。また機械的歪が細胞に有効に印加されることが、伸長により誘発される整列および内皮細胞の一過性カルシウム反応が示されることによって確認された。
【0160】
肺組織のオンチップ産生およびその天然の微小環境の正確な発生反復によって提供される独特な性能に基づいて、本発明の装置を使用して、ナノマテリアルの起こし得る有害反応を評価した。設計されたナノマテリアルが広く使用されているにもかかわらず、健康と環境に対するナノマテリアルのリスクについて依然として知るべきことは多い。既存の毒物学の方法は、単純化しすぎたインビトロのモデル、または細胞レベルでの機械的研究に対して問題を起こすことが多い長期間で高価な動物実験に依存している。細胞培養研究と動物モデルとの間のギャップを埋めるため、本発明の装置を使用して、厳密に制御された生物模倣微小環境下でナノマテリアルの毒性をより現実的で正確な評価をすることができる。
【0161】
上記実験では、本発明の装置で調製された肺胞上皮組織を、各種のナノマテリアルに曝露し、次に酸化ストレスを、活性酸素種(ROS)の細胞内での産生量を微量蛍光定量法を使って測定することによって試験した。コロイドシリカナノ粒子と量子ドットの試験によって、生理的機械的歪が、ナノ粒子が起こす酸化ストレスを劇的に増大して、肺内皮に早期の毒性反応を誘発できることが発見された。例えば、前記細胞を、正常な呼吸をシミュレートする0.2Hzでの10%歪の周期的伸長と組み合わせて12nmのシリカナノ粒子に曝露したとき、ROSの産生量は、2時間後に5倍を上回って増大したが、一方、ナノ粒子または機械的歪のみの場合は実験の期間中、測定可能な反応を全く起こさなかった(図8参照)。カルボキシル化された量子ドットで処理された細胞の反応は、類似の傾向を示した(図9参照)。図9に示すように、シリカナノ粒子のみに24時間曝露した後、類似のレベルのROSの増加が起こることが分かった。
【0162】
図9に示すように、周期的歪のみでは、その期間にかかわらず、有意な影響が起こらないことも見出された。まとめると、これらの観察結果は、生理的力が、ナノ粒子と相乗的に働いて、肺の中で早期の毒作用を発揮するかまたはナノ粒子の毒性を悪化させることを示唆している。この伸長が誘発する、ナノマテリアルに対するROS反応は、歪のレベルおよびカスパーゼの活性によって検出される上皮細胞の誘発されたアポトーシスによって決まる。上記細胞は、ナノ粒子に曝露されている間、臨床に使用されるフリーラジカル捕捉剤のN-アセチルシステイン(NAC)で処理すると、おそらく細胞内グルタチオンを増大させるNACの抗酸化活性のため、酸化ストレスから完全に救出される。ナノマテリアルと歪との組み合わされた作用により生じる酸化ストレスが、ナノマテリアルのタイプによって有意に変化することも観察された。例えば、同じ条件下で、50nmの超常磁性鉄ナノ粒子に曝露されただけで、酸化ストレスが一過的に増大した。この独特なROS反応は、表1に示すように、単層カーボンナノチューブ、金ナノ粒子、ポリスチレンナノ粒子、およびポリエチレングリコールでコートされた量子ドットを含む他のナノマテリアルの試験では観察されなかった。
【0163】
【表1】
【0164】
組織-ナノマテリアル相互作用に対する生理的力の影響を理解するため、共焦点顕微鏡法を利用して、1時間曝露した後、100nmの蛍光ナノ粒子の上皮細胞中への内部移行を分析した。しかし、細胞内区画中に検出された粒子またはその凝集体の数は、機械的歪が存在している場合、著しく大きく、80%以上の細胞がナノ粒子を吸収したことが分かったが、一方、歪がない場合、吸収されたナノ粒子の程度は著しく小さかった。これらの結果は、生理的機械的力は、細胞のナノマテリアル吸収を促進することができ、ナノマテリアルを、細胞内の成分と相互に反応させて潜在的に一層有害にすることを示している。
【0165】
さらに、本発明の装置は、ナノマテリアルの肺胞腔から微小血管への肺外移行を研究する機会を提供するますます多くのインビボの証拠が、肺胞中のナノマテリアルは、肺胞-毛細血管関門を通過して肺循環系に入る性能を有し、他の臓器に影響している可能性を示唆している。この状態を研究するため、20nmの蛍光ナノ粒子を上皮の側に導入して、ナノ粒子の移行を、連続の流体流により下部血液流路から運ばれる粒子の数を数えることによってモニターした。このモデルによって、10%の周期的歪を有する生理的条件下で、ナノ粒子の血管区画中への移行速度が、弛緩した静止組織壁を通過する輸送と比較して、著しく増大することが明らかになった。これらの知見は、生体の肺の固有の機械的活性が、ナノマテリアルを肺胞腔から血流中に移行させることができることのインビトロでの証拠を提供している。また、この実験から得たデータは、動物実験で観察された、吸引されたナノマテリアルが全身に分布し蓄積されることを支持し、この反応を研究するための代替モデルシステムを提供するだけでなく、このプロセスの機序を示すのに潜在的に寄与している。
【0166】
本発明の装置の、肺内の統合された臓器レベルの反応を復元する性能をさらに示すため、循環する血液由来免疫細胞を組み入れて肺炎症の主工程を再現したより精巧なモデルを開発した。一般に、肺における炎症反応は、高度に調整された上皮産生の多段カスケードと早期反応のサイトカインの放出、白血球接着分子のアップレギュレーションによる血管内皮の活性化、および続く白血球の肺微小循環から肺胞腔への侵入を含んでいる。このプロセスをシミュレートするため、まず肺胞上皮の先端表面を、強力な炎症促進メディエーターである腫瘍壊死因子-α(TNF-α)でシミュレートし、次いで、内皮の活性化を細胞間接着分子-1(ICAM-1)の発現を測定することによって試験した。肺胞組織の5時間にわたるTNF-αによる刺激に反応して膜の対向面上の内皮細胞は、その表面でのICAM-1の発現を劇的に増大した。さらに、活性化された内皮は、血液微小流路中を流動するヒト好中球の捕捉と強い接着を助けたが、これらはサイトカインの曝露がない場合には接着しなかった。上皮細胞を低投与量のTNF-αで処理すると、内皮が弱く活性化して、捕捉された好中球を、捕捉される(arrest)ことなく流れの方向に連続的に移動させる。顕微鏡で直接可視化すると、接着性好中球が平坦になり、強い接着部位から、離れた位置までゆっくり進み、そこで好中球は、数分間にわたって、内皮を通じて浸出し、次いで膜の細孔を通じて肺胞-毛細血管関門を通過して移行することが明らかになった。その移行した好中球は、次に優先的に細胞間接合部を通じて肺胞上皮の先端表面に移行し、次いで流体の流れや周期的伸長にかかわらず上皮層上に保持された。これらの連続事象によって、微小血管系から肺胞の区画へ好中球を動員するという肺の炎症の特徴であるプロセス全体が成功裡に複製される。
【0167】
コロイドシリカナノ粒子の肺に対する炎症促進作用を、本発明の装置を使用して研究した。肺胞上皮細胞が12nmのシリカナノ粒子に5時間曝露されると、微小血管の内皮が活性化され高レベルのICAM-1の発現を示した。10%の周期的歪をナノ粒子とともに利用すると、相乗効果で、ICAM-1の内皮での発現がアップレギュレーションされることが見出された。血液チャネルを循環するヒトの好中球は、炎症を起こした内皮に強く接着し、組織障壁を通過して移行し上皮表面上に蓄積することが分かった。これらの観察結果は、これらのシリカナノ粒子の有意な炎症促進活性を証明しており、このことは、肺に急性炎症を起こす生理的力によってより明らかになり得る。
【0168】
一実験で、本発明の装置を、細菌由来の肺の感染に対する固有の免疫反応を模倣するよう作製した。細菌に感染した肺を模倣するため、肺胞上皮細胞を、緑色蛍光タンパク質(GFP)を構成的に発現する大腸菌(E. coli)で先端を5時間刺激した。次いでヒト好中球を、血管マイクロチャネル中に流動させたところ、内皮細胞に付着し、組織層を通過して血管外に漏出した。これは、細菌による上皮の刺激が内皮の活性化を起こしたことを示している。好中球は、上皮の表面に到達すると、GFPで標識された細菌への指向性の移動を示し、細菌を飲み込んだ。これは、蛍光標識された移動する好中球が貪食した細菌を検出することによって示すことができる。また、好中球は二種類以上の細菌を短時間で摂取することができ、その食細胞活性は、大部分の細菌が観察領域からいなくなるまで続くことが観察された。これらの結果は、インビトロの3Dの生理的な臓器における、細菌感染に対する総合的免疫反応の完全なプロセスを再現する上記モデルの性能を、明確に示している。
【0169】
態様および用途を示し説明してきたが、当業者が、上記以外の多くの変更が、本明細書に開示された本発明の概念から逸脱することなく可能であるというこの開示の恩典を有していることは明らかである。それ故、前記諸態様は、添付の特許請求の範囲の精神以外には限定されない。
【0170】
本発明の対象事項は、以下のアルファベット順に並べたパラグラフで定義できる。
【0171】
[A]内部に中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜を含み、前記膜が、中央マイクロチャネルを分離して、第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルを形成するように形成され、第一流体が第一中央マイクロチャネルを通じて利用され、かつ第二流体が第二中央マイクロチャネルを通じて利用され、前記膜が複数の生体細胞の付着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、臓器模倣装置。
【0172】
[B]多孔質膜が少なくとも部分的に可撓性であり、さらに、
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第一チャンバーの壁であって、上記膜がその上に取り付けられている第一チャンバーの壁、および
上記第一チャンバーの壁の対向する側に、第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接する第一動作チャネルであって、この動作チャネルと中央マイクロチャネルの間に印加された圧力差が、第一と第二の中央マイクロチャネル内で、第一チャンバーの壁を第一の所望の方向に曲げて、平面に沿って拡張または収縮させる第一動作チャネル
を含む、[A]の装置。
【0173】
[C]第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第二チャンバーの壁であって、膜の対向する末端が第二チャンバーの壁に取り付けられている第二チャンバーの壁、および
第二チャンバーの壁の対向する側の中央マイクロチャネルに隣接して配置された第二動作チャネルであって、第二動作チャネルと中央マイクロチャネルの間の圧力差が、第一と第二の中央マイクロチャネル内で、第二チャンバーの壁を第二の所望の方向に曲げて平面に沿って拡張または収縮させる第二動作チャネル
をさらに含む、[A]または[B]の装置。
【0174】
[D]膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0175】
[E]膜が中央マイクロチャネル内に配置された第一膜と第二膜をさらに含み、第二膜が第一膜に平行に配向されてその間に第三中央マイクロチャネル形成する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0176】
[F]膜がPDMSを含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0177】
[G]膜が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0178】
[H]膜の一方の面または両面が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0179】
[I]細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0180】
[J]膜の一方の面が上皮細胞でコートされ、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0181】
[K]装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0182】
[L]装置がさらに生物に移植されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0183】
[M]生物がヒトである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0184】
[N]膜が、インビトロにて一つまたは複数の細胞層でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0185】
[O]少なくとも一つの膜が、インビボにて一つまたは複数の細胞層でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0186】
[P]膜が、その膜への少なくとも一つの細胞層の付着を促進する生体適合性物質でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0187】
[Q]生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0188】
[R]生体適合性材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0189】
[S]第一流体が白血球細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての装置。
【0190】
[T]中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜を含む本体を有し、前記膜が中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分離し、複数の生体細胞の付着を支持する少なくとも一種類の付着分子でその膜がコートされている、臓器模倣装置を選択する工程、
第一流体を第一中央マイクロチャネルを通じて適用する工程、
第二流体を第二中央マイクロチャネルを通じて適用する工程、および
第一と第二の中央マイクロチャネルの間の膜に対する細胞の挙動をモニターする工程
を含む、方法。
【0191】
[U]膜が少なくとも部分的に弾性であり、かつ本体が、第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された少なくとも一つの動作チャネルを含む方法であって、
中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作チャネルの間の圧力差を調節し、その結果、膜がその圧力差に反応して平面に沿って伸長する工程
をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0192】
[V]圧力差を調節する工程がさらに
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って所望の方向に移動するように圧力差を増大する工程、および
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って反対の方向に移動するように圧力差を低下させる工程
を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0193】
[W]膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0194】
[X]膜を一つまたは複数の細胞層で処理し、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0195】
[Y]一つまたは複数の細胞層を、膜の一方の面または両面に適用する方法であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞をさらに含んでいる工程を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0196】
[Z]細胞が上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0197】
[AA]膜の一方の面が上皮細胞でコートされ、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞でコートされている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0198】
[BB]装置本体および膜が、生体適合材料または生分解性材料で作製されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0199】
[CC]装置がさらに生物に移植される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0200】
[DD]生物がヒトである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0201】
[EE]膜がインビトロで一つまたは複数の細胞層でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0202】
[FF]少なくとも一つの膜がインビボで一つまたは複数の細胞層でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0203】
[GG]膜が、少なくとも一つの細胞層の膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0204】
[HH]生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0205】
[II]生体適合材料がコラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0206】
[JJ]第一流体が白血球細胞を含んでいる、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0207】
[KK]中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置されて、中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する少なくとも部分的に多孔質の膜を含む本体を有する装置を選択する工程、
前記膜を、該膜の第一面で少なくとも一つの細胞層と接触させ、該多孔質膜の第二面で少なくとも一つの細胞層と接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造を作製する工程、
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む上記組織構造を、適用可能な細胞培養液中の少なくとも一種類の物質と接触させる工程、
均一または不均一な力を、ある期間、細胞に印加する工程、および
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体中の細胞の反応を測定して、上記少なくとも一種類の物質の細胞に対する作用を測定する工程
を含む、組織系中の少なくとも一種類の物質の作用を、生理学的または病理学的な機械力で決定する方法。
【0208】
[LL]適用可能な細胞培養液に白血球細胞が添加されている、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0209】
[MM]均一または不均一な力が真空を使用して印加される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0210】
[NN]少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体が、多孔質膜の第一面上に肺胞上皮細胞を含み、かつ多孔質膜の第二面上に肺の微小血管細胞を含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0211】
[OO]前記物質が、ナノ粒子、環境毒素もしくは環境汚染物質、タバコの煙、化粧品に使用される化学物質もしくは粒子、薬物もしくは薬物候補、エアロゾル、花粉を含む天然の粒子、化学兵器、一本鎖もしくは二本鎖の核酸、ウイルス、細菌および単細胞生物からなる群より選択される、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0212】
[PP]反応の測定を、活性酸素種の発現を測定することによって実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0213】
[QQ]反応の測定を、組織染色法を利用して実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0214】
[RR]物質の作用を測定する前に、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の生検材料を採取し、該材料を染色する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0215】
[SS]反応の測定を、接触している細胞培養液の試料から実施する方法であって、反応の測定を、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む膜形状の組織構造体の第一面または第二面または両面、および少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から実施する、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0216】
[TT]類似の並列装置系内で、前記物質の作用を別の物質とまたは前記物質を含まない対照と比較する工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0217】
[UU]まず第一物質を接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に作用させ、時間をおいて、少なくとも第二物質と接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含みかつ第一物質の作用を受けた組織構造体に対する第二物質の作用を試験する、膜を少なくとも二種類の物質と接触させる工程をさらに含む、上記パラグラフのいずれかまたはすべての方法。
【0218】
[VV]中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内の平行面に沿って配置された複数の膜を含み、
複数の膜の少なくとも一つが少なくとも部分的に多孔質であり、該複数の膜が、中央マイクロチャネルを複数の中央マイクロチャネルに分割するよう形成されている、臓器模倣装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中央マイクロチャネルを内部に有する本体;および
中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜
を含む、臓器模倣装置であって、
該膜が、中央マイクロチャネルを分離して第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルを形成するように構成され、第一流体が第一中央マイクロチャネルを通じて適用され、第二流体が第二中央マイクロチャネルを通じて適用され、該膜が、複数種の生体細胞の接着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、臓器模倣装置。
【請求項2】
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第一チャンバー壁であって、前記膜が取り付けられている第一チャンバー壁、および
第一チャンバー壁の対向する側で第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接する第一動作チャネル
をさらに含む、多孔質の膜が少なくとも部分的に可撓性である装置であって、
第一動作チャネルと中央マイクロチャネルの間に印加された圧力差が、第一チャンバー壁を第一の所望の方向に曲げて、第一と第二の中央マイクロチャネル内で平面に沿って拡張または収縮させる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第二チャンバー壁であって、前記膜の対向する末端が取り付けられている第二チャンバー壁、および
第二チャンバー壁の対向する側で中央マイクロチャネルに隣接して配置された第二動作チャネルであって、第二動作チャネルと中央マイクロチャネルの間の圧力差が、第二チャンバー壁を第二の所望の方向に曲げて、第一と第二の中央マイクロチャネル内で平面に沿って拡張または収縮させる第二動作チャネル
をさらに含む、請求項2記載の装置。
【請求項4】
膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、請求項1記載の装置。
【請求項5】
膜がさらに、中央マイクロチャネル内に配置された第一膜と第二膜を含み、第二膜が第一膜に平行に配向されて、それらの間に第三中央マイクロチャネルを形成する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
膜がPDMSを含む、請求項1記載の装置。
【請求項7】
膜が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、請求項1記載の装置。
【請求項8】
膜の一方の面または両面が一つまたは複数の細胞層で処理されている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が、後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、請求項1記載の装置。
【請求項9】
細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、請求項8記載の装置。
【請求項10】
膜の一方の面が上皮細胞で処理され、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項11】
装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、請求項8記載の装置。
【請求項12】
さらに生物に移植されている、請求項8記載の装置。
【請求項13】
生物がヒトである、請求項12記載の装置。
【請求項14】
膜が、インビトロで一つまたは複数の細胞層で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項15】
少なくとも一つの膜が、インビボで一つまたは複数の細胞層で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項16】
膜が、少なくとも一つの細胞層の、膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされている、請求項8記載の装置。
【請求項17】
生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチン、および/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、請求項16記載の装置。
【請求項18】
生体適合材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、請求項16記載の装置。
【請求項19】
第一流体が白血球細胞を含む、請求項1記載の装置。
【請求項20】
本体を有する臓器模倣装置を選択する工程であって、該本体が、中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置されて、中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する、少なくとも部分的に多孔質の膜を含み、該膜が、複数の生体細胞の接着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、選択する工程;
第一流体を第一中央マイクロチャネルを通じて適用する工程;
第二流体を第二中央マイクロチャネルを通じて適用する工程;および
第一と第二の中央マイクロチャネルの間の膜に関する細胞の挙動をモニターする工程
を含む、方法。
【請求項21】
以下の工程をさらに含む、膜が少なくとも部分的に弾性で、かつ本体が第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された少なくとも一つの動作チャネルを含む、請求項20記載の方法:
中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作チャネルの間の圧力差を調節する工程であって、膜が圧力差に応答して平面に沿って伸張する、工程。
【請求項22】
圧力差を調節する工程がさらに、
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って所望の方向に移動するように圧力差を増大すること、および
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って逆の方向に移動するように圧力差を低下させること
を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
膜を一つまたは複数の細胞層で処理する工程をさらに含む方法であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
一つまたは複数の細胞層を膜の一方の面または両面上に適用する工程をさらに含む方法であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、請求項22記載の方法。
【請求項26】
細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
膜の一方の面が上皮細胞で処理され、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞で処理されている、請求項25記載の方法。
【請求項28】
装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、請求項25記載の方法。
【請求項29】
装置が、さらに生物に移植される、請求項25記載の方法。
【請求項30】
生物がヒトである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
膜が、インビトロで一つまたは複数の細胞層でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項32】
少なくとも一つの膜が、インビボで一つまたは複数の細胞層でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項33】
膜が、少なくとも一つの細胞層の、膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項34】
生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
生体適合材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
第一流体が白血球細胞を含有している、請求項20記載の方法。
【請求項37】
本体を有する装置を選択する工程であって、該本体が、中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置され、中央マイクロチャネルを、第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する少なくとも部分的に多孔質の膜を含む、選択する工程;
前記膜を、該膜の第一面で少なくとも一つの細胞層と接触させ、かつ該多孔質膜の第二面で少なくとも一つの細胞層と接触させて、それにより少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を形成させる工程;
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む前記組織構造体を、利用可能な細胞培養液内で少なくとも一種類の物質と接触させる工程;
均一または不均一な力をある期間、細胞に印加する工程;ならびに
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む前記組織構造体内の細胞の反応を測定して、細胞に対する少なくとも一つの物質の作用を決定する工程
を含む、組織系内の少なくとも一種類の物質の作用を、生理学的または病理学的機械力で決定する方法。
【請求項38】
利用可能な細胞培養液に白血球細胞が添加されている、請求項37記載の方法。
【請求項39】
均一または不均一な力を、真空を使って印加する、請求項37記載の方法。
【請求項40】
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体が、多孔質膜の第一面上に肺胞上皮細胞を含み、かつ多孔質膜の第二面上に肺微小血管細胞を含む、請求項37記載の方法。
【請求項41】
前記物質が、ナノ粒子、環境毒素もしくは環境汚染物質、タバコの煙、化粧品に使用される化学物質もしくは粒子、薬物もしくは薬物候補、エアロゾル、花粉を含む天然の粒子、化学兵器、一本鎖もしくは二本鎖の核酸、ウイルス、細菌、および単細胞生物からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項42】
反応の測定を、活性酸素種の発現を測定することによって実施する、請求項37記載の方法。
【請求項43】
反応の測定を、組織染色法を利用して実施する、請求項37記載の方法。
【請求項44】
前記物質の作用を測定する前に、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の生検材料を採取する工程をさらに含む方法であって、該生検材料が染色されている、請求項37記載の方法。
【請求項45】
反応の測定を、接触している細胞培養液の試料から実施する方法であって、反応の測定を、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む膜形状の組織構造体の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から、および少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から実施する、請求項37記載の方法。
【請求項46】
前記物質の作用と、別の物質の作用または前記物質を含まない対照物の作用とを、類似の並列装置系内で比較する工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項47】
膜を少なくとも二種類の物質と接触させる工程をさらに含む方法であって、まず第一物質を接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に対して影響を及ぼし、一定時間経過後、少なくとも第二物質と接触させて、第一物質の作用を受けた少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に対する第二物質の作用を試験する、請求項37記載の方法。
【請求項48】
中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内の平行な平面に沿って配置された複数の膜
を含む臓器模倣装置であって、
前記複数の膜のうちの少なくとも一つが、少なくとも部分的に多孔質であり、かつ前記複数の膜が、中央マイクロチャネルを複数の中央マイクロチャネルに分割するように構成されている、臓器模倣装置。
【請求項1】
中央マイクロチャネルを内部に有する本体;および
中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置された少なくとも部分的に多孔質の膜
を含む、臓器模倣装置であって、
該膜が、中央マイクロチャネルを分離して第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルを形成するように構成され、第一流体が第一中央マイクロチャネルを通じて適用され、第二流体が第二中央マイクロチャネルを通じて適用され、該膜が、複数種の生体細胞の接着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、臓器模倣装置。
【請求項2】
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第一チャンバー壁であって、前記膜が取り付けられている第一チャンバー壁、および
第一チャンバー壁の対向する側で第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接する第一動作チャネル
をさらに含む、多孔質の膜が少なくとも部分的に可撓性である装置であって、
第一動作チャネルと中央マイクロチャネルの間に印加された圧力差が、第一チャンバー壁を第一の所望の方向に曲げて、第一と第二の中央マイクロチャネル内で平面に沿って拡張または収縮させる、請求項1記載の装置。
【請求項3】
第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された、本体の第二チャンバー壁であって、前記膜の対向する末端が取り付けられている第二チャンバー壁、および
第二チャンバー壁の対向する側で中央マイクロチャネルに隣接して配置された第二動作チャネルであって、第二動作チャネルと中央マイクロチャネルの間の圧力差が、第二チャンバー壁を第二の所望の方向に曲げて、第一と第二の中央マイクロチャネル内で平面に沿って拡張または収縮させる第二動作チャネル
をさらに含む、請求項2記載の装置。
【請求項4】
膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、請求項1記載の装置。
【請求項5】
膜がさらに、中央マイクロチャネル内に配置された第一膜と第二膜を含み、第二膜が第一膜に平行に配向されて、それらの間に第三中央マイクロチャネルを形成する、請求項1記載の装置。
【請求項6】
膜がPDMSを含む、請求項1記載の装置。
【請求項7】
膜が一つまたは複数の細胞層でコートされている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、請求項1記載の装置。
【請求項8】
膜の一方の面または両面が一つまたは複数の細胞層で処理されている装置であって、該一つまたは複数の細胞層が、後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、請求項1記載の装置。
【請求項9】
細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、請求項8記載の装置。
【請求項10】
膜の一方の面が上皮細胞で処理され、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項11】
装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、請求項8記載の装置。
【請求項12】
さらに生物に移植されている、請求項8記載の装置。
【請求項13】
生物がヒトである、請求項12記載の装置。
【請求項14】
膜が、インビトロで一つまたは複数の細胞層で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項15】
少なくとも一つの膜が、インビボで一つまたは複数の細胞層で処理されている、請求項8記載の装置。
【請求項16】
膜が、少なくとも一つの細胞層の、膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされている、請求項8記載の装置。
【請求項17】
生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチン、および/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、請求項16記載の装置。
【請求項18】
生体適合材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、請求項16記載の装置。
【請求項19】
第一流体が白血球細胞を含む、請求項1記載の装置。
【請求項20】
本体を有する臓器模倣装置を選択する工程であって、該本体が、中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置されて、中央マイクロチャネルを第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する、少なくとも部分的に多孔質の膜を含み、該膜が、複数の生体細胞の接着を支持する少なくとも一種類の付着分子でコートされている、選択する工程;
第一流体を第一中央マイクロチャネルを通じて適用する工程;
第二流体を第二中央マイクロチャネルを通じて適用する工程;および
第一と第二の中央マイクロチャネルの間の膜に関する細胞の挙動をモニターする工程
を含む、方法。
【請求項21】
以下の工程をさらに含む、膜が少なくとも部分的に弾性で、かつ本体が第一と第二の中央マイクロチャネルに隣接して配置された少なくとも一つの動作チャネルを含む、請求項20記載の方法:
中央マイクロチャネルと少なくとも一つの動作チャネルの間の圧力差を調節する工程であって、膜が圧力差に応答して平面に沿って伸張する、工程。
【請求項22】
圧力差を調節する工程がさらに、
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って所望の方向に移動するように圧力差を増大すること、および
膜の一つまたは複数の面が平面に沿って逆の方向に移動するように圧力差を低下させること
を含む、請求項21記載の方法。
【請求項23】
膜の少なくとも一つの細孔開口の幅寸法が0.5〜20ミクロンである、請求項21記載の方法。
【請求項24】
膜を一つまたは複数の細胞層で処理する工程をさらに含む方法であって、該一つまたは複数の細胞層が膜の表面に適用されている、請求項21記載の方法。
【請求項25】
一つまたは複数の細胞層を膜の一方の面または両面上に適用する工程をさらに含む方法であって、該一つまたは複数の細胞層が後生動物細胞、哺乳動物細胞およびヒト細胞からなる群より選択される細胞を含む、請求項22記載の方法。
【請求項26】
細胞が、上皮細胞、内皮細胞、間葉細胞、筋肉細胞、免疫細胞、神経細胞および造血細胞からなる群より選択される、請求項25記載の方法。
【請求項27】
膜の一方の面が上皮細胞で処理され、かつ膜のもう一方の面が内皮細胞で処理されている、請求項25記載の方法。
【請求項28】
装置本体および膜が生体適合材料または生分解性材料で作製されている、請求項25記載の方法。
【請求項29】
装置が、さらに生物に移植される、請求項25記載の方法。
【請求項30】
生物がヒトである、請求項29記載の方法。
【請求項31】
膜が、インビトロで一つまたは複数の細胞層でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項32】
少なくとも一つの膜が、インビボで一つまたは複数の細胞層でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項33】
膜が、少なくとも一つの細胞層の、膜への付着を促進する生体適合性物質でコートされる、請求項25記載の方法。
【請求項34】
生体適合性物質が、コラーゲン、フィブロネクチンおよび/またはラミニンを含む細胞外マトリックスである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
生体適合材料が、コラーゲン、ラミニン、プロテオグリカン、ビトロネクチン、フィブロネクチン、ポリ-D-リジンおよび多糖からなる群より選択される、請求項33記載の方法。
【請求項36】
第一流体が白血球細胞を含有している、請求項20記載の方法。
【請求項37】
本体を有する装置を選択する工程であって、該本体が、中央マイクロチャネル内に平面に沿って配置され、中央マイクロチャネルを、第一中央マイクロチャネルと第二中央マイクロチャネルに分割する少なくとも部分的に多孔質の膜を含む、選択する工程;
前記膜を、該膜の第一面で少なくとも一つの細胞層と接触させ、かつ該多孔質膜の第二面で少なくとも一つの細胞層と接触させて、それにより少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を形成させる工程;
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む前記組織構造体を、利用可能な細胞培養液内で少なくとも一種類の物質と接触させる工程;
均一または不均一な力をある期間、細胞に印加する工程;ならびに
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む前記組織構造体内の細胞の反応を測定して、細胞に対する少なくとも一つの物質の作用を決定する工程
を含む、組織系内の少なくとも一種類の物質の作用を、生理学的または病理学的機械力で決定する方法。
【請求項38】
利用可能な細胞培養液に白血球細胞が添加されている、請求項37記載の方法。
【請求項39】
均一または不均一な力を、真空を使って印加する、請求項37記載の方法。
【請求項40】
少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体が、多孔質膜の第一面上に肺胞上皮細胞を含み、かつ多孔質膜の第二面上に肺微小血管細胞を含む、請求項37記載の方法。
【請求項41】
前記物質が、ナノ粒子、環境毒素もしくは環境汚染物質、タバコの煙、化粧品に使用される化学物質もしくは粒子、薬物もしくは薬物候補、エアロゾル、花粉を含む天然の粒子、化学兵器、一本鎖もしくは二本鎖の核酸、ウイルス、細菌、および単細胞生物からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項42】
反応の測定を、活性酸素種の発現を測定することによって実施する、請求項37記載の方法。
【請求項43】
反応の測定を、組織染色法を利用して実施する、請求項37記載の方法。
【請求項44】
前記物質の作用を測定する前に、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の生検材料を採取する工程をさらに含む方法であって、該生検材料が染色されている、請求項37記載の方法。
【請求項45】
反応の測定を、接触している細胞培養液の試料から実施する方法であって、反応の測定を、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む膜形状の組織構造体の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から、および少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体を含む膜の第一面または第二面または両面と接触している細胞培養液の試料から実施する、請求項37記載の方法。
【請求項46】
前記物質の作用と、別の物質の作用または前記物質を含まない対照物の作用とを、類似の並列装置系内で比較する工程をさらに含む、請求項37記載の方法。
【請求項47】
膜を少なくとも二種類の物質と接触させる工程をさらに含む方法であって、まず第一物質を接触させて、少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に対して影響を及ぼし、一定時間経過後、少なくとも第二物質と接触させて、第一物質の作用を受けた少なくとも二つの異なる型の細胞を含む組織構造体に対する第二物質の作用を試験する、請求項37記載の方法。
【請求項48】
中央マイクロチャネルを有する本体、および
中央マイクロチャネル内の平行な平面に沿って配置された複数の膜
を含む臓器模倣装置であって、
前記複数の膜のうちの少なくとも一つが、少なくとも部分的に多孔質であり、かつ前記複数の膜が、中央マイクロチャネルを複数の中央マイクロチャネルに分割するように構成されている、臓器模倣装置。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【図2E】
【図2F】
【図2G】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図7C】
【図8】
【図9】
【公表番号】特表2011−528232(P2011−528232A)
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−518909(P2011−518909)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/050830
【国際公開番号】WO2010/009307
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際出願番号】PCT/US2009/050830
【国際公開番号】WO2010/009307
【国際公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(596115687)チルドレンズ メディカル センター コーポレーション (25)
【Fターム(参考)】
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