説明

マイクロポンプの制御方法、マイクロポンプの駆動回路

【課題】少ない流量でも精度良く送液制御を行うことができるマイクロポンプの制御方法、マイクロポンプの駆動回路を提供する。
【解決手段】加圧室の内部の圧力をアクチュエータで変化させて流体を流路に送出するマイクロポンプの制御方法において、基準電圧から第1のピーク電圧までの立ち上がり時間が第1のピーク電圧から基準電圧までの立ち下がり時間より長い第1の台形波電圧と、基準電圧から第2のピーク電圧までの立ち上がり時間が第2のピーク電圧から基準電圧までの立ち下がり時間より短い第2の台形波電圧と、を所定の順でアクチュエータに印加することにより送出する流体の流量を制御することを特徴とするマイクロポンプの制御方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロポンプの制御方法、マイクロポンプの駆動回路に関する。
【背景技術】
【0002】
近年において、マイクロマシン技術を応用し、化学分析や化学合成などのための機器や手法を微細化して行うμ−TAS(Micro Total Analysis System)が注目されている。μ−TASによる化学分析、環境計測などでは、デバイス(チップ)上で送液、混合、検出を行うために、送液手段としてマイクロポンプが用いられる。そのような送液手段に適したマイクロポンプの例として、本出願人が開示した特許文献1に記載のものがある。
【0003】
このような用途では、マイクロチップ内の流路に蓄えられた微少量の試薬や検体を精度良く送液する必要があり、マイクロポンプの送液制御を高精度に行う必要がある。しかしながら、マイクロポンプによって流体を流路に送出すると、流路抵抗値が変化するため目標の流量に制御することが難しい。
【0004】
このような問題を解決するため、本出願人はマイクロポンプの作動による流路中の流体の量の変化に基づく流路抵抗の変化の予測値に関する情報を取得し、取得した情報に基づいてマイクロポンプを駆動するための電気信号を制御する方法を提案している(特許文献2参照)。特許文献2では、マイクロポンプを駆動するための電気信号は一定周期で繰り返す台形波電圧であり、台形波電圧のピーク電圧を制御する方法を開示している。
【特許文献1】特開2001−322099号公報
【特許文献2】特開2004−270537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、台形波電圧のピーク電圧を制御する方法では、印加電圧が低いと大気圧や温度の影響を受けやすく所望の圧力が得られないため、印加電圧を低くして少ない流量を送液するときは安定した流量が得られないことがあった。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであって、少ない流量でも精度良く送液制御を行うことができるマイクロポンプの制御方法、マイクロポンプの駆動回路を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記構成により達成することができる。
【0008】
1.
加圧室の内部の圧力をアクチュエータで変化させて流体を流路に送出するマイクロポンプの制御方法において、
基準電圧から第1のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第1のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より長い第1の台形波電圧と、
前記基準電圧から第2のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第2のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より短い第2の台形波電圧と、
を所定の順で前記アクチュエータに印加することにより送出する前記流体の流量を制御することを特徴とするマイクロポンプの制御方法。
【0009】
2.
前記第1の台形波電圧または前記第2の台形波電圧を前記アクチュエータに印加しない休止期間の長さを変えることにより前記流体の流量を制御することを特徴とする1に記載のマイクロポンプの制御方法。
【0010】
3.
加圧室の内部の圧力をアクチュエータで変化させて流体を流路に送出するマイクロポンプの駆動回路において、
送出する前記流体の流量に応じてタイミングパルスと台形波切り換え信号を発生するタイミング信号発生手段と、
前記タイミングパルスに基づいて基準電圧から第1のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第1のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より長い第1の台形波を発生する第1の台形波発生回路と、
前記タイミングパルスに基づいて前記基準電圧から第2のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第2のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より短い第2の台形波を発生する第2の台形波発生回路と、
前記台形波切り換え信号に基づいて前記第1の台形波発生回路と前記第2の台形波発生回路を切り換えて前記アクチュエータに供給する台形波切り換え手段と、
を有することを特徴とするマイクロポンプの駆動回路。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、立ち上がり時間と立ち下がり時間、ピーク電圧が異なる2種類の台形波電圧を所定の順でアクチュエータに印加することにより正方向の送液の後その一部を逆方向に送液するので、その差分の少ない流量を精度良く送液制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面に基づき本発明の実施形態を説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係わるマイクロポンプの部分的な断面図である。図2は、本発明の実施形態に係わるマイクロポンプの部分的な平面図である。図1のように、マイクロポンプ100は、基板101と、基板101上に積層された上側基板103と、上側基板103上に積層された振動板105と、振動板105の加圧室109と対向する側に積層されたアクチュエータ107、からなる。基板101には第1液室111、第1流路115、加圧室109、第2流路117および第2液室113が形成されている。アクチュエータ107は駆動回路120で駆動される。図1の矢印Fはマイクロポンプ100が送液する正方向を示し、矢印Bは逆方向を示している。
【0014】
基板101は、例えば厚さ500[μm]の感光性ガラス基板であり、深さ100[μm]に達するまでエッチングを行なうことにより、第1液室111、第1流路115、加圧室109、第2流路117および第2液室113が形成される。第1流路115と第2流路117とは、幅および深さが同じで、長さが第1流路よりも第2流路の方が長くなっている。
【0015】
上側基板103は、ガラス基板であり、基板101上に積層されることにより、第1液室111、第1流路115、第2液室113および第2流路117の上面が形成される。上側基板103の加圧室109の上面に当たる部分は、エッチングなどにより加工されて、貫通している。
【0016】
振動板105は、例えば厚さ50[μm]の薄板ガラスである。アクチュエータ107は、例えば圧電性セラミックスであり、例えば厚さ50[μm]のチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)セラミックスを用いることができる。アクチュエータ107と振動板105とは接着剤等で貼り合わせられている。
【0017】
駆動回路120は、アクチュエータ107に駆動電圧を印加するために、所定の波形の電圧を発生させる。アクチュエータ107に駆動回路120から駆動電圧が印加されることにより、振動板105とアクチュエータ107とがユニモルフモードの屈曲変形(反り変形)をする。これにより、加圧室109の容積が増減する。
【0018】
次にマイクロポンプ100の動作原理について説明する。
【0019】
第1流路115は、その流入側と流出側との差圧が零に近いときは流路抵抗が低いが、差圧が大きくなると流路抵抗が大きくなる。つまり圧力依存性が大きい。第2流路117は、差圧が零に近いときの流路抵抗は第1流路115の場合よりも大きいが、圧力依存性がほとんどなく、差圧が大きくなっても流路抵抗は余り変化せず、差圧が大きい場合に流路抵抗が第1流路115よりも小さくなる。
【0020】
このような流路抵抗特性は、流路を流れる液体(流体)が、差圧の大きさに応じて乱流となるようにするか、または差圧にかかわりなく常に層流となるようにするか、によって得ることが可能である。具体的には、例えば、第1流路115を流路長の短いオリフィスとし、第2流路117を第1流路115と内径が同じで流路長の長いノズルとすることによって実現することが可能である。
【0021】
第2流路117と第1流路115のこのような流路抵抗特性を利用して、加圧室109に圧力を発生させるとともに、その圧力の変化の割合を制御することによって、流路抵抗の低い方に液体を吐出するようなポンプ作用を実現することができる。
【0022】
つまり、加圧室109の圧力を上昇させるとともに、その変化の割合を大きくしておけば、差圧が大きくなって第1流路115の流路抵抗の方が第2流路117の流路抵抗よりも大きくなり、加圧室109内の液体は第2流路117から吐出する(吐出工程)。そして、加圧室109の圧力を下降させるとともに、その変化の割合を小さくすれば、差圧が小さく維持されて第2流路117の流路抵抗の方が第1流路115の流路抵抗よりも大きくなり、第1流路115から加圧室109内に液体が流入する(吸入工程)。
【0023】
これとは逆に、加圧室109の圧力を上昇させるとともに、その変化の割合を小さくすれば、差圧が小さく維持されて第2流路117の流路抵抗の方が第1流路115の流路抵抗よりも大きくなり、加圧室109内の液体は第1流路115から吐出する(吐出工程)。そして、加圧室109の圧力を下降させるとともに、その変化の割合を大きくすれば、差圧が大きくなって第2流路117の流路抵抗の方が第1流路115の流路抵抗よりも小さくなり、第2流路117から加圧室109内に液体が流入する(吸入工程)。
【0024】
このような加圧室109の圧力制御は、アクチュエータ107に供給する駆動電圧を制御し、振動板105の変形の量およびタイミングを制御することによって実現される。
【0025】
図3は本発明の第1の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。図3(a)はアクチュエータ107に供給する駆動電圧Eと時間tとの関係を、図3(b)は流量Qと時間tとの関係を示している。
【0026】
アクチュエータ107に印加する駆動電圧が上昇すると、アクチュエータ107と振動板105は、加圧室109側に反り変形し、その結果加圧室109の容積が減少するものとする。逆に、アクチュエータ107に印加する駆動電圧が下降すると、アクチュエータ107と振動板105が加圧室109側に反り変形する変位量が減少するため、加圧室109の容積が増加するものとする。
【0027】
図3(a)に示すようにT1〜T3の期間はアクチュエータ107に第1の台形波電圧が印加され、T5〜T7の期間はアクチュエータ107に第2の台形波電圧が印加される。
【0028】
第1の台形波電圧は立ち上がり時間T1の間に基準電圧e0から第1のピーク電圧e1まで上昇し、ピーク電圧期間T2を過ぎると立ち下がり時間T3の間にピーク電圧e1から基準電圧e0まで下降する。
【0029】
第2の台形波電圧は立ち上がり時間T5の間に基準電圧e0から第2のピーク電圧e2まで上昇し、ピーク電圧期間T6を過ぎると立ち下がり時間T7の間にピーク電圧e2から基準電圧e0まで下降する。
【0030】
T4、T8の期間は、基準電圧e0(例えば0V)がアクチュエータ107に印加される。また、立ち上がり時間T1>立ち下がり時間T3、立ち上がり時間T5<立ち下がり時間T7である。
【0031】
第1の台形波電圧では立ち上がり時間T1>立ち下がり時間T3なので、加圧室109の圧力が上昇するときの変化の割合は、加圧室109の圧力が下降するときの変化の割合より小さい。したがって、前述の様に加圧室109内の液体は第1流路115から矢印F方向に吐出する。
【0032】
図3(b)は第1液室111から吐出された液体の流量Qの一例を示している。立ち上がり時間T1の期間、加圧室109の圧力が緩やかに上昇するので流路124を流れる流量Qも緩やかに上昇する。T2の休止期間の後、立ち下がり時間T3の期間は加圧室109の圧力が急に下降すると、おもに第1流路115から加圧室109内に液体が流入し、一部が第2流路117から加圧室109内に流入する。そのため、流量Qは急に減少する。しかし、立ち下がり時間T3の期間に減少する流量Qは立ち上がり時間T1の期間に流入した流量Qより少なく、T4の休止期間においては、初期状態よりも流量Qが増加している。このようにT1からT3のサイクルでは流量Qは増加し、休止期間であるT4の期間の流量はq1である。
【0033】
次に印加される第2の台形波電圧では立ち上がり時間T5<立ち下がり時間T7なので、加圧室109の圧力が上昇するときの変化の割合は、加圧室109の圧力が下降するときの変化の割合より大きい。したがって、前述の様に第1流路115から加圧室109内に液体が流入する。
【0034】
図3(b)に示すように、立ち上がり時間T5の期間、加圧室109の圧力が急に上昇すると、おもに第2流路117から液体が吐出し、一部が第1流路115から吐出する。そのため、流量Qは急に減少する。
【0035】
一方、T6の休止期間の後、立ち下がり時間T7の期間において加圧室109の圧力が緩やかに下降すると、第2流路117から加圧室109内に液体が流入する。そのため、流量Qは緩やかに増加する。しかし、T5の期間に減少する流量Qは立ち下がり時間T7の期間に増加した流量Qより少なく、T5〜T7のサイクルでは流量Qが少し増加する。休止期間であるT8の期間の流量はq2である。T4の期間の流量q1からT8の期間の流量q2へ増加した流量をΔqとすると、Δq<q1でありT1〜T8の期間ではq1+Δqだけ流量が増えたことになる。
【0036】
このように第1の台形波電圧のサイクルで図1の矢印F方向に送出した流体を第2の台形波電圧のサイクルで一部を図1の矢印B方向に戻すことにより、目標とする流量が少ない場合でも精度良く送液制御を行うことができる。
【0037】
図3において、アクチュエータ107に印加する第1のピーク電圧e1は、数ボルトから数十ボルト程度、最大で100ボルト程度、第2のピーク電圧e2は、第1のピーク電圧e1より低い電圧である。第1のピーク電圧e1と第2のピーク電圧e2は、マイクロポンプ100毎に大気圧や温度の影響を受けず、所望の圧力が得られ安定した流量で送液できる所定の電圧以上に設定する。また、第2のピーク電圧e2は目標とする流量に応じて第1のピーク電圧e1より低く設定する。
【0038】
また、時間T1、T7は60μs程度、時間T2、T6は0〜数μs程度、時間T3、T5は20μs程度である。時間T4、T8は0であってもよい。駆動電圧Eの周波数は11kHz程度である。
【0039】
図3(a)に示す駆動電圧Eによって、第1液室111には、例えば図3(b)に示すような流量が得られる。なお、図3(b)に実線で示す流量は、ポンプ動作によって得られる流量を模式的に示したもので、実際には流体の慣性振動が重畳する。したがって、これら図に示された流量曲線に振動成分が重畳された曲線が実際に得られる流量を示すこととなる。流量の平均値は図3(b)に点線で示す直線Q1のように増加する。
【0040】
図4は本発明の第2の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。図4(a)はアクチュエータ107に供給する駆動電圧Eと時間tとの関係を、図4(b)は流量Qと時間tとの関係を示している。
【0041】
第1の実施形態との違いは、第1の台形波電圧のサイクルT1〜T4を3回繰り返した後、第2の台形波電圧のサイクルT5〜T8を1回行って、また第1の台形波電圧のサイクルT1〜T4を行うようにした点である。そのほかの条件は第1の実施形態と同様であり説明を省略する。
【0042】
図4(a)のように、第1の台形波電圧のサイクルT1〜T4を3回繰り返した間に増加した流量を第2の台形波電圧のサイクルT5〜T8を1回行って減少させると、流量の平均値Q2は図4(b)に示すように図3の例より多く増加する。
【0043】
このように、第1の台形波電圧のサイクルT1〜T4を繰り返す回数と第2の台形波電圧のサイクルT5〜T8を行う回数を設定することにより、図3の例より多い流量でも精度良く流量を制御できる。
【0044】
図5は本発明の第3の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。図5(a)はアクチュエータ107に供給する駆動電圧Eと時間tとの関係を、図5(b)は流量Qと時間tとの関係を示している。
【0045】
第1の実施形態との違いは、休止期間T4、T8を第1の実施形態より長くした点である。そのほかの条件は第1の実施形態等同様であり説明を省略する。
【0046】
図5(a)のように、休止期間T4または休止期間T8を長くすると、流量の平均値Q3は図5(b)に示すように図3の例より緩やかに増加する。
【0047】
このように、休止期間T4または休止期間T8の長さを設定することにより、微小な流量の流量制御が可能になる。
【0048】
図6は本発明の第4の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。図6(a)はアクチュエータ107に供給する駆動電圧Eと時間tとの関係を、図6(b)は流量Qと時間tとの関係を示している。
【0049】
第4の実施形態では逆方向である図1の矢印B方向に送液する場合のマイクロポンプの制御方法の一例である。
【0050】
図6(a)に示すようにT10〜T12の期間はアクチュエータ107に第1の台形波電圧が印加され、T13〜T16の期間はアクチュエータ107に第2の台形波電圧が印加される。
【0051】
第1の台形波電圧は立ち上がり時間T10の間基準電圧e0から第1のピーク電圧e1まで上昇し、ピーク電圧期間T11を過ぎると立ち下がり時間T12の間にピーク電圧e1から基準電圧e0まで下降する。
【0052】
第2の台形波電圧は立ち上がり時間T14の間基準電圧e0から第2のピーク電圧e2まで上昇し、ピーク電圧期間T15を過ぎると立ち下がり時間T16の間にピーク電圧e2から基準電圧e0まで下降する。
【0053】
T13、T17の期間は、基準電圧e0(例えば0V)がアクチュエータ107に印加される。また、立ち上がり時間T10<立ち下がり時間T12、立ち上がり時間T14>立ち下がり時間T16である。
【0054】
第1の台形波電圧では立ち上がり時間T10<立ち下がり時間T12なので、加圧室109の圧力が上昇するときの変化の割合は、加圧室109の圧力が下降するときの変化の割合より大きい。したがって、加圧室109内の液体は第2流路117から吐出する。
【0055】
図6(b)は第1液室111から吐出された液体の流量Qの一例を示している。立ち上がり時間T10の期間、加圧室109の圧力が急に上昇するので流路124を流れる流量Qも急に上昇する。T11の休止期間の後、立ち下がり時間T12の期間は加圧室109の圧力が緩やかに下降すると、おもに第2流路117から加圧室109内に液体が流入し、一部が第1流路115から加圧室109内に流入する。そのため、流量Qは緩やかに減少する。しかし、立ち下がり時間T12の期間に減少する流量Qは立ち上がり時間T10の期間に流入した流量Qより多く、T13の休止期間においては、初期状態よりも流量Qが減少している。このようにT10からT12のサイクルでは流量Qは減少する。
【0056】
次に印加される第2の台形波電圧では立ち下がり時間T16<立ち上がり時間T14なので、加圧室109の圧力が上昇するときの変化の割合は、加圧室109の圧力が下降するときの変化の割合より小さい。したがって、第2流路117から加圧室109内に液体が流入する。
【0057】
図6(b)に示すように、立ち上がり時間T14の期間、加圧室109の圧力が緩やかに上昇すると、おもに第2流路117から液体が吐出し、一部が第1流路115から吐出する。そのため、流量Qは緩やかに減少する。
【0058】
一方、T15の休止期間の後、立ち下がり時間T16の期間において加圧室109の圧力が急に下降すると、第2流路117から加圧室109内に液体が流入する。そのため、流量Qは急に増加する。しかし、T14の期間に減少する流量Qは立ち下がり時間T16の期間に吐出した流量Qより多く、T14〜T16のサイクルでは流量Qが少し減少する。
【0059】
このように第1の台形波電圧のサイクルで矢印B方向に送出した流体を第2の台形波電圧のサイクルで一部を矢印F方向に戻すことにより、第1の実施形態と逆方向に少ない流量を精度良く送液制御を行うことができる。また、第2の実施形態、第3の実施形態で説明した送液制御も同様に逆方向に送液する場合に適用できる。
【0060】
次に、マイクロポンプを駆動する駆動回路について図7、図8、図9を用いて説明する。
【0061】
図7は本発明の実施形態におけるマイクロポンプの駆動回路のブロック図、図8は台形波発生部の回路部ブロック図、図9は駆動回路のタイミングチャートである。
【0062】
駆動回路120はタイミング信号発生部21、電源部22、第1台形波発生部23、第2台形波発生部24、台形波切り換え手段25、バッファアンプ26から構成される。制御部20はCPUやメモリなどを内蔵し、プログラムにしたがって目標とする流量をタイミング信号発生部21に指令する。
【0063】
タイミング信号発生部21は、制御部20が指令した目標流量に応じて、タイミングパルスS1、S2と台形波切り換え信号S3を発生する。
【0064】
第1台形波発生部23、第2台形波発生部24の内部回路を図8の回路ブロック図を参照して説明する。なお、図8に図示する第1台形波発生部23を例に説明するが、第2台形波発生部24も同じ回路構成であり説明を省略する。
【0065】
図8の切り換え部54は、タイミングパルスS1に基づいて、定電流充電部51と定電流放電部52とを切り換えて作動させるためのものである。図8の例では、図9(a)に示すタイミングパルスS1が‘H’のとき定電流放電部52がコンデンサC1に接続され、タイミングパルスS1が‘L’のとき定電流充電部51がコンデンサC1に接続される。
【0066】
図8の定電流充電部51は、電源部22から一定の電流Icを流してコンデンサC1を充電するための定電流回路である。図9のタイミングチャートを参照しながら動作を説明する。
【0067】
図9(a)はタイミングパルスS1のタイミングチャート、図9(b)はコンデンサC1の電圧をエミッタフォロア回路などから構成されるバッファ部53を介して出力した出力電圧V01の波形を示している。
【0068】
タイミングパルスS1が‘L’の間、定電流Icで容量CxのコンデンサC1を充電すると時間t経過後のV01は、V01=(Ic/Cx)×tであり、時間に比例して上昇する。電圧Vc1の上限は電源部22から供給される第1のピーク電圧e1である。なお、期間TCより短い時間trが経過すると、第1のピーク電圧e1まで出力電圧V01が上昇し定電流充電部51が飽和し充電が行われなくなるようにIc、Cxなどのパラメータが設定されている。
【0069】
定電流放電部52は、コンデンサC1を一定の電流Idで放電させるために設けられている。タイミングパルスS1が‘H’の間、第1のピーク電圧e1まで充電された容量CxのコンデンサC1を定電流Idで放電する。出力電圧V01は、V01=e1−(Id/Cx)×tであり、時間tに比例して減少しコンデンサC1を放電する。なお、期間TDより短い時間Tfが経過すると、出力電圧V01が0VになるようにId、Cxなどのパラメータが設定されている。休止している時間T1fはタイミングパルスS1の期間TDの長さを変更することにより設定する。
【0070】
このようにして、第1の台形波電圧を発生する。
【0071】
図9(c)はタイミングパルスS2のタイミングチャート、第2の台形波発生部24の出力電圧V02の波形を示している。
【0072】
第2の台形波発生部24の回路構成は第1の台形波発生部23と同様であり、内部回路の動作についての詳細な説明は省略する。
【0073】
S2が‘L’の期間TEでは、第2の台形波発生部24の出力電圧V02は電源部22から供給される第2のピーク電圧e2まで上昇する。ピーク電圧e2まで上昇する時間はtsであり、期間TEより短い。
【0074】
S2が‘H’の期間TFでは、第2の台形波発生部24の出力電圧V02は0Vまで低下する。0Vになるまでの時間はtgであり、期間TFより短い。
【0075】
このようにして、第2の台形波電圧を発生する。
【0076】
図9(e)は台形波切り換え信号S3であり、台形波切り換え手段25を切り換えてバッファアンプ26に接続する。例えば、台形波切り換え信号S3が‘H’の期間は第1の台形波発生部23とバッファアンプ26が接続され、台形波切り換え信号S3が‘L’の期間は第2の台形波発生部24とバッファアンプ26が接続される。図9(e)に示す台形波切り換え信号S3の例では、図3(a)に示すような駆動電圧がバッファアンプ26に入力される。バッファアンプ26はアクチュエータ107に接続されており、アクチュエータ107を直接駆動する。
【0077】
以上このように、本発明によれば、少ない流量でも精度良く送液制御を行うことができるマイクロポンプの制御方法、マイクロポンプの駆動回路を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】本発明に実施形態に係わるマイクロポンプの部分的な断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係わるマイクロポンプの部分的な平面図である。
【図3】本発明の第1の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。
【図4】本発明の第2の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。
【図5】本発明の第3の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。
【図6】本発明の第4の実施形態のマイクロポンプの制御方法を説明する説明図である。
【図7】本発明の実施形態におけるマイクロポンプの駆動回路のブロック図である。
【図8】本発明の実施形態における台形波発生部の回路部ブロック図である。
【図9】本発明の実施形態における駆動回路のタイミングチャートである。
【符号の説明】
【0079】
51 定電流充電部
52 定電流放電部
53 バッファ部
100 マイクロポンプ
101 基板
103 上側基板
105 振動板
107 アクチュエータ
109 加圧室
111 第1液室
113 第2液室
115 第1流路
117 第2流路
120 駆動回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加圧室の内部の圧力をアクチュエータで変化させて流体を流路に送出するマイクロポンプの制御方法において、
基準電圧から第1のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第1のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より長い第1の台形波電圧と、
前記基準電圧から第2のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第2のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より短い第2の台形波電圧と、
を所定の順で前記アクチュエータに印加することにより送出する前記流体の流量を制御することを特徴とするマイクロポンプの制御方法。
【請求項2】
前記第1の台形波電圧または前記第2の台形波電圧を前記アクチュエータに印加しない休止期間の長さを変えることにより前記流体の流量を制御することを特徴とする請求項1に記載のマイクロポンプの制御方法。
【請求項3】
加圧室の内部の圧力をアクチュエータで変化させて流体を流路に送出するマイクロポンプの駆動回路において、
送出する前記流体の流量に応じてタイミングパルスと台形波切り換え信号を発生するタイミング信号発生手段と、
前記タイミングパルスに基づいて基準電圧から第1のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第1のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より長い第1の台形波を発生する第1の台形波発生回路と、
前記タイミングパルスに基づいて前記基準電圧から第2のピーク電圧までの立ち上がり時間が前記第2のピーク電圧から前記基準電圧までの立ち下がり時間より短い第2の台形波を発生する第2の台形波発生回路と、
前記台形波切り換え信号に基づいて前記第1の台形波発生回路と前記第2の台形波発生回路を切り換えて前記アクチュエータに供給する台形波切り換え手段と、
を有することを特徴とするマイクロポンプの駆動回路。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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