説明

マイクロ化学システム用チップおよびその使用方法

【課題】 実質的に同一の外観を呈している複数個のマイクロ化学システム用チップ1の個別認識と、分析、測定などによって得られる新しい情報などの追記による記録とを容易に達成し得るマイクロ化学システム用チップ1を提供する。
【解決手段】 板状部材15に設けられた流路7、8a、8b、9a、9bにおいて流体の化学的および/または物理的な処理および/または操作を行うようにしたマイクロ化学システム用チップ1において、上記マイクロ化学システム用チップ1の識別情報が記録される電子タグ4が、上記板状部材15の内部または表面に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、板状部材に設けられた流路において液体などの流体の化学的および/または物理的な処理および/または操作(本文においては、単に「化学処理」という。)を行うようにしたマイクロ化学システム用チップに関するものであり、さらに、このようなマイクロ化学システム用チップの使用方法にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、化学処理を微小空間で行うための集積化技術が、化学処理の高速性や微少量での化学処理などの観点から、注目されている。このような化学処理の集積化技術の1つとしてのガラス基板などの基板を用いたマイクロ化学システムは、小さな基板に設けた微小な流路において、試料の混合、反応、合成、分析、分離、抽出、検出などを行うことを目的としている。
【0003】
例えば、特許文献1によって、極微量のタンパクや核酸などを分析する電気泳動装置が提案されている。そして、この特許文献1の電気泳動装置は、互いに接合された2枚のガラス基板から成る流路付き板状部材でもって構成されている。また、このようなマイクロ化学システムにおいては、試料が一般的に微量であるから、高感度の検出方法が必要である。したがって、特許文献2においては、このような高感度の検出方法として、光熱変換分光分析法が用いられている。さらに、このようなマイクロ化学システムにおいて用いられる部材は、板状であるから、断面が円形または角形のガラスキャピラリチューブに比べて破損しにくく、また、取扱いが容易である。
【特許文献1】特開平8−178897号公報
【特許文献2】特開2002−214175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述のような従来技術には、つぎの(A)項〜(D)項に記載のような問題点がある。これらの問題点がそれぞれ生じる理由は、これらの(A)項〜(D)項のそれぞれの記載のつぎに順次記載する(a)項〜(d)項に記載のとおりである。
(A)互いに同じチャネル構造(換言すれば、微小流路構造)を備える複数個のマイクロ化学システム用チップを同時に扱うときに、これらのマイクロ化学システム用チップ同士の取り違えが発生する恐れがある。
(a)複数個のマイクロ化学システム用チップが互いに同じ外観を呈するから、これら複数個のチップを自動的に識別するための適切な手法が存在しない。
(B)マイクロ化学システム用チップに用いられる板状部材の表面に、文字、バーコード、インデックスなどを刻印または印字することによって識別する方法が考えられるが、あらかじめ記録されていた情報とは別に、分析、測定などによって得られる新しい情報を簡単な方法で追記するのが困難である。
(b)文字、バーコード、インデックスなどを刻印または印字するようにした情報記録のいずれの場合でも、分析装置とは別に専用の書き込み装置を用意して、この書き込み装置により追記する必要がある。
(C)特許文献3には、光記録媒体を備えた板状部材を用いることによって、個々のマイクロ化学システム用チップに対する情報の読み出しや記録を行う方法が開示されている。しかし、複数個のマイクロ化学システム用チップに対して情報の読み出しや記録を行う場合には、この特許文献3の方法では、処理速度に制限があり、また、動作温度の幅が比較的狭い。
(c)複数個のマイクロ化学システム用チップに対する情報の読み出しや記録が光源を用いて行われるために、個々のチップに対して1個ずつ順番に情報の読み出しや書き込みの処理をする必要がある。また、情報の読み出しや書き込みの対象となる光記録媒体の温度特性上、室温を大きく超える高温での利用が困難である。
(D)マイクロ化学システム用チップについての情報の管理が難しい。
(d)マイクロ化学システム用チップの板状部材の表面に、文字、バーコード、インデックスなどを刻印または印字することによって情報を記録する場合には、このように記録された情報を部外者であっても容易に読み取ることができる可能性がある。
【特許文献3】特開2003−130883号公報
【0005】
本発明は、上記(A)項〜(D)項に記載のような従来技術の問題点を解決するために発明されたものであって、その目的は、無線通信による非接触自動識別技術(以下、「RFID」という。)を用いることによって、実質的に同一の外観を呈していてもよい複数個のマイクロ化学システム用チップの個別認識と、分析、測定などによって得られる新しい情報などの追記による記録とを、必要に応じてセキュリティ面に配慮した形式でもって、容易に達成し得るようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、その第1の観点によれば、板状部材に設けられた流路において液体などの流体の化学的および/または物理的な処理および/または操作を行うようにしたマイクロ化学システム用チップにおいて、上記マイクロ化学システム用チップの識別情報が記録される電子タグが、上記板状部材の内部または表面に設けられていることを特徴とするものである。本発明の上記第1の観点においては、上記板状部材が互いに積層された少なくとも2枚の基板から成り、上記流路がこれら2枚の基板の間に形成され、上記電子タグが上記2枚の基板の間に挟み込まれているのが好ましい。また、上記板状部材を構成している上記少なくとも2枚の基板のうちの少なくとも上下両外側の2枚の基板の材料がガラスであるのが好ましい。さらに、上記電子タグが挟み込まれている上記2枚の基板のうちの少なくとも一方の基板の上記電子タグ側の面に電子タグ収容用凹部が設けられ、上記電子タグが上記電子タグ収容用凹部に収容されているのが好ましい。
【0007】
本発明は、その第2の観点によれば、上記第1の観点によるマイクロ化学システム用チップの複数個と、これら複数個のマイクロ化学システム用チップに共通のマイクロ化学システム本体とがそれぞれ用意され、上記共通のマイクロ化学システム本体は、上記複数個のマイクロ化学システム用チップにそれぞれ共通の分析装置および記憶装置を備えるとともに、上記複数個のマイクロ化学システム用チップに共通のリーダ/ライタ装置を組み込んだものであり、上記共通のリーダ/ライタ装置が上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれから読み出す上記識別情報が、上記共通の記憶装置にそれぞれ記憶され、上記共通の分析装置が上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれについて作り出す分析情報が、上記識別情報と関連付けられて、上記共通の記憶装置にそれぞれ記憶されるととともに、上記共通のリーダ/ライタ装置によって上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれの上記電子タグに書き込まれることを特徴とするマイクロ化学システム用チップの使用方法に係るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マイクロ化学システム用チップの電子タグには識別情報が記録されるから、リーダ/ライタ装置などの読み取り装置により上記識別情報を読み出すことによって、それぞれのマイクロ化学システム用チップを容易に個別認識することができる。
【0009】
また、マイクロ化学システム用チップの表面に、文字、バーコード、インデックスなどを刻印または印字することにより情報記録するようにした従来技術の場合には、情報記録部が、目視などの人的作業、その他の読み取り作業において、マイクロ化学システム用チップの表面の傷、汚れなどのために判別し難くなる恐れがあるが、本発明によれば、電子タグに記録される識別情報を無線通信によって読み取ることができるから、マイクロ化学システム用チップの表面の傷、汚れなどが、電子タグに記録される識別情報の読み取りに悪影響を与える恐れがない。
【0010】
また、マイクロ化学システム用チップにおいて実施される化学処理などによる分析情報などを、リーダ/ライタ装置などの書き込み装置によって、あらかじめ記録されている情報以外の新しい情報として電子タグの微小記録素子に追記することができる。
【0011】
また、電子タグの機能上、リーダ/ライタ装置は、複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれの電子タグとの間で、データなどの情報の読み取りおよび書き込みの並列処理が可能である。したがって、多数個のマイクロ化学システム用チップの識別とこれら多数個のチップへの記録とを高速で処理することが可能である。
【0012】
また、電子タグの動作温度の上限は一般的に約200℃と高いから、本発明によるマイクロ化学システム用チップは、DNAの増幅技術であるポリメラーゼ連鎖反応などのように高温を必要とする温度処理に対しても、十分な耐性を備えている。
【0013】
また、電子タグは、情報を保存できるだけではなくて、論理回路などの組み込みが可能であるから、本発明によるマイクロ化学システム用チップに必要に応じてセキュリティ管理などの機能を組み込むのが、比較的容易である。
【0014】
さらに、マイクロ化学システム用チップの電子タグに対して情報を読み取ったり書き込んだりするリーダ/ライタ装置は、一般的に小型であり、また、電子タグに対して非接触で情報を読み取りおよび書き込みすることができるから、分析装置、記憶装置などを備えたマイクロ化学システム本体への組み込みが容易であり、このために、分析装置などとリーダ/ライタ装置とを容易に統合できて、比較的容易に両者を別個に用意する必要がないようにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
つぎに、本発明を適用した一実施例を、「1、マイクロ化学システム用チップの構成」、「2、マイクロ化学システム用チップの使用状態」および「3、マイクロ化学システム用チップの効果」に項分けして、図面を参照しつつ説明する。
【0016】
1、マイクロ化学システム用チップの構成
この一実施例におけるマイクロ化学システム用チップ1は、図1〜図4に示すように、上側のガラス基板2および下側のガラス基板3から成る2枚のガラス基板によって全体として扁平な長方形状に構成された板状部材15を備えている。そして、マイクロ化学システム用チップ1の固有の識別情報が記録された電子タグ4が、これら2枚のガラス基板2、3の間に挟み込まれてチップ1に固定されている。
【0017】
具体的には、上側ガラス基板2は、左側の前後一対の貫通孔5a、5bおよび右側の前後一対の貫通孔6a、6bから成る左右一対ずつの貫通孔を備えている。また、下側ガラス基板3の上面には、この上面のほぼ中央部分をほぼ左右方向に延びる分析などの化学処理用の流路のための溝7と、この溝7の左側の端部から二叉に分れて全体としてほぼV字状を成している左側の前後一対の試料注入用流路のための溝8a、8bと、上記化学処理用流路溝7の右側の端部から二叉に分れて全体としてほぼV字状を成している右側の前後一対の試料注入用流路のための溝9a、9bと、電子タグ4を収容するための凹部10とがそれぞれ形成されている。そして、これら前後一対ずつの試料注入用流路溝8a、8b、9a、9bの先端部は、上側ガラス基板2の前後一対ずつの貫通孔5a、5b、6a、6bにそれぞれ上下にほぼ同形で対向するように下側ガラス基板3の上面に形成されている左側の前後一対のバッファ溜り部11a、11bおよび右側の前後一対のバッファ溜り部12a、12bにそれぞれ連なっている。
【0018】
電子タグ4は、アンテナ13と、このアンテナ13が電気的に接続されているICチップ14とを備えている。このICチップ14は、微小記録素子として機能するものであって、アンテナ13上に取付け固定されていてよい。また、このアンテナ13は、バーアンテナ、ループアンテナなどであってよいが、図示の実施例においては、バーアンテナが用いられている。そして、このアンテナ13は、図示の実施例においては、13.56MHz用であって、長さ70mm、幅1.5mm、厚さ0.25mmの寸法を有している。
【0019】
電子タグ4のほぼ全体は、下側ガラス基板3の上面に形成されている電子タグ収容用の凹部10に収容されている。この電子タグ収容用凹部10は、電子タグ4とほぼ同形または一回り大きい大きさであってよく、マイクロ化学システム用チップ1のチャネル(すなわち、微小流路溝7、8、9およびバッファ溜り部11、12)を形成するときに同時に形成することができる。このようなチャネルは、特許文献4に開示されている方法でもって形成することができる。
【特許文献4】特開2003−277075号公報
【0020】
具体的には、マイクロシステム用チップ1のチャネル(すなわち、流路溝7、8、9およびバッファ溜り部11、12)ならびに電子タグ収容用凹部10は、下側ガラス基板3の上面に、つぎの(1)項〜(5)項に記載のステップでもって形成されることができる。
(1)下側ガラス基板3を下側のプレス成形型(図示せず)上に載置する。
(2)ついで、流路溝7、8、9、溜り部11、12および凹部10にそれぞれ対応した突条部をその下側面に有する上側のプレス成形型(図示せず)を、ガラス基板3上に載置する。
(3)ついで、上下の成形型によって挟み込まれたガラス基板3に連続炉(図示せず)内を移動させつつ、ガラス基板3の予熱を行うとともに、上下の成形型によってガラス基板3をプレス加工して、流路溝7、8、9、溜り部11、12および凹部10を形成する。
(4)ついで、上下の成形型によって挟み込まれたガラス基板3を連続炉内から取り出して徐冷および放冷してから、上下の成形型をガラス基板3から離型させる。
(5)ついで、流路溝7、8、9、溜り部11、12および凹部10がそれぞれ形成されたガラス基板3のプレス面を研磨および洗浄する。
【0021】
左右一対ずつの貫通孔5a、5b、6a、6bは、切削加工による穴あけなどによって、上側ガラス基板2に形成されることができる。そして、下側ガラス基板3の上面に形成されている電子タグ収容用凹部10に電子タグ4のほぼ全体を収容してから、上側ガラス基板2の下面を下側ガラス基板3の上面に重ね合せて、両者を互いに結合する。この結合は、上側および下側のガラス基板2、3を互いに溶着するか、あるいは、適当な接着剤でもって両者を互いに接着することによって達成することができる。
【0022】
電子タグ4のICチップ14に記録される識別情報は、漢字、平仮名、片仮名、記号などの2バイト情報と、アルファベット、数字などの1バイト情報との任意の組み合わせから固有のものとして構成することができる。また、この識別情報は、個々のマイクロ化学システム用チップ1を識別することを目的としてそれぞれのICチップ14に記録される。したがって、それぞれのマイクロ化学システム用チップ1に設けられる個々の電子タグ4のICチップ14に記録される識別情報には、互いに同一のものは存在しないのが好ましい。そして、上記識別情報は、改変不可な読み取り専用情報として電子タグ4のICチップ14に記録されるのが好ましい。
【0023】
マイクロ化学システム用チップ1への試料導入方法としては、つぎの2つの方法が考えられる。その第1の方法は、手動による試料導入方法であり、第2の方法は、試料の自動導入方法である。
【0024】
この第1の方法は、具体的には、まず、分析などの化学処理を施すべき試料溶液1種類に対し、電子タグ4が設けられたマイクロ化学システム用チップ1を1個準備する。そして、この試料溶液をマイクロ化学システム用チップ1の試料注入用流路溝8a、8b、9a、9bの少なくとも1つに導入したときには、この導入した試料についての情報を上記電子タグ4のICチップ14にRFID(Radio Frequency Identification=無線周波数識別)用のリーダ/ライタ装置22(図5参照)を用いて記録する。この試料情報は、例えば、試料の採取場所、採取検体、採取日時、採取法や、試料の化学物質名、濃度、体積、メーカー名や、試料導入を実施した日時、気温、湿度、実施担当者名、実施場所などを含むことができる。
【0025】
上記第2の方法は、具体的には、マイクロ化学システム用チップ1に導入した試料の情報を、RFID用リーダ/ライタ装置22を備えた試料導入装置(図示せず)によって、自動的に記録するものである。この第2の方法の場合の試料情報も、上記第1の方法の場合の試料情報と同様のものであってよい。
【0026】
2、マイクロ化学システム用チップの使用状態
図5には、電子タグ4がそれぞれ設けられている複数個のマイクロ化学システム用チップ1a、1b、1c、1dと、分析装置21および記憶装置25を備えるとともにリーダ/ライタ装置22が組み込まれているマイクロ化学システム本体20とを用いて、試料溶液について分析などの化学的および/または物理的な処理および/または操作を実施する状態が示されている。このマイクロ化学システム本体20は、後述のコンピュータを含み、また、前述の試料導入装置を必要に応じて含むことができる。
【0027】
この図5において、分析、測定などを実施されるべき試料溶液中に存在する検出対象の定性分析または定量分析が、チップ1a〜1dからの試料情報23に基づく分析装置21による分析、測定などによって行われる。この分析装置21による測定値の取得の際には、分析装置21で作り出される測定データなどの分析情報28が、分析装置21からリーダ/ライタ装置22に送信される。そして、この分析情報28は、リーダ/ライタ用アンテナ24と電子タグ4のアンテナ13との無線交信を介して、マイクロ化学システム用チップ1a〜1dの電子タグ4のICチップ14に記録される。この分析情報28は、分析装置21による測定値に加えて、例えば、分析装置名、分析装置のメーカー名や、測定などを実施した日時、実施担当者名、分析場所などを含むことができる。
【0028】
多数の分析対象がある場合には、分析対象の数に応じた必要な数のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dを用意して、上述の場合と同様に分析などを行えばよい。すべての検体(すなわち、分析対象)についての分析などが終わった後に、リーダ/ライタ装置22は、複数個のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dの各電子タグ4から並列的に読み取った識別情報などのデータ27を、大容量記憶装置25に記録および保管することができる。そして、図5に示すマイクロ化学システム本体20のコンピュータ(図示せず)による制御によって、複数個のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dの分析情報28が分析装置21から読み取られ、この読み取られた分析情報28が、上記識別情報などのデータ27と関連付けられて、ハードディスクなどの大容量記憶装置25に統合的に記録および保管されることができる。
【0029】
図5に示す分析装置21、アンテナ24付きのRFID用リーダ/ライタ装置22、大容量記憶装置25および上記コンピュータならびに必要な場合には既述の試料導入装置は、上述のように情報を相互に交換するから、これらが互いに一体化されたマイクロ化学システム本体20であるのが好ましい。また、図5において、符号26は、マイクロ化学システム用チップ1a〜1dの各電子タグ4のアンテナ13とリーダ/ライタ用アンテナ24との間で無線交信される読み取り/書き込み情報(電波)を示している。
【0030】
上述のようにして分析情報を管理すれば、過去に分析した検体(試料)については、上記マイクロ化学システム本体20を検索などの手段で操作することによって、過去の分析結果を簡単に参照することができる。また、上記マイクロ化学システム本体20を診断などに応用すれば、患者別の過去の分析項目や分析結果などの履歴を容易に参照することができる。
【0031】
分析に用いられたマイクロ化学システム用チップ1a〜1dは、最終的には廃棄されることになるが、どのような方法で廃棄されるのかが非常に重要になる。特に、マイクロ化学システム用チップ1a〜1dが医療用などに用いられた場合には、廃棄についての規則は厳格である。図1〜図5に示すマイクロ化学システム用チップ1a〜1dでは、各チップ1a〜1dに固有の情報が記録されているために、分析したサンプル、分析に用いられた試薬などの情報に基づいて、どのような方法で廃棄すべきであるかを容易に管理することが可能である。
【0032】
具体的には、廃棄する際に、過去に記録された分析情報などのデータを読み取って廃棄方法を決定し、この決定された廃棄方法に基づいて廃棄処理を行えばよい。この廃棄の際には、過去に記録された分析情報などのデータを抹消するのが好ましい。しかし、電子タグ4に論理回路などを組み込むことによって、不特定多数の人が読み出すことができないようにセキュリティを確保することができるから、廃棄による個人情報の漏洩をこの方法によっても防止することが可能である。
【0033】
3、マイクロ化学システム用チップの効果
図1〜図4に示すマイクロ化学システム用チップ1を図5に示すマイクロ化学システムに用いることによって、つぎの(ア)項〜(オ)項に記載の効果を奏するようにすることができる。
(ア)試料溶液の種類および濃度や分析装置21による測定値の情報が、個々のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dに固有の識別番号によって管理されているために、外観が互いに同一のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dを多数個用いて同時に分析を実施した場合でも、多数個のチップ1a〜1d同士の取り違えによる測定結果の取り違えが生じない。
(イ)分析情報が個々のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dに個別に記録されているために、多数個のマイクロ化学システム用チップ1a〜1dの個別の情報を共通のコンピュータで正確に読み取って、一元的に管理することが可能である。
(ウ)分析、測定などを実施したマイクロ化学システム用チップ1a〜1dにそれぞれ設けられた電子タグ4に測定結果を直接に書き込むことができるために、個々の試料溶液に対する測定値の管理が容易であり、また、測定結果をノートやコンピュータなどへ転記するような作業によって通常起こり得る転記ミスなどを防止することができる。
(エ)用いられた試料や試薬の履歴を個々の電子タグ4から判別することができるために、マイクロ化学システム用チップ1a〜1dを廃棄する際に適切な廃棄方法を容易に選択することができ、また、セキュリティを確保した記録方法を用いることによって、チップ1a〜1dの廃棄の際に、個々の電子タグ4の記録を抹消しなくても、個人情報の漏洩を防止することができる。
(オ)電子タグ4が上側ガラス基板2と下側ガラス基板3との間に挟み込まれてマイクロ化学システム用チップ1に固定されているので、電子タグ4が設けられているマイクロ化学システム用チップ1を耐酸性、耐アルカリ性などに富んだものにするのが比較的容易である。
【0034】
以上において、本発明の一実施例について詳細に説明したが、本発明は、この一実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の趣旨に基づいて各種の変更および修正が可能である。
【0035】
たとえば、上述の実施例においては、電子タグ4を上側ガラス基板2と下側ガラス基板3との間に挟み込んでマイクロ化学システム用チップ1に固定するようにした。しかし、電子タグ4は、マイクロ化学システム用チップ1の上面および/または下面(例えば、上側ガラス基板2の上面および/または下側ガラス基板3の下面)に適当な接着剤による接着などによって固定されていてもよい。この場合、チップ1の上面および/または下面に上述の実施例の場合と同様な電子タグ収容用凹部が設けられるとともに、電子タグ4がこの電子タグ収容用凹部に収容されて適当な接着剤により接着されていてもよい。
【0036】
また、上述の実施例においては、マイクロ化学システム用チップ1の微小流路溝7〜9、バッファ溜り部11、12および凹部10を下側ガラス基板3の上面に形成した窪み部(換言すれば、凹部)のみによって形成した。しかし、これらの流路溝7〜9、溜り部11、12および凹部10のうちのいずれか1つまたは複数もしくは全部は、下側ガラス基板3の上面に形成した上記窪み部と、上側ガラス基板2の下面にこれらの窪み部に対向するように形成した窪み部とによって形成されていてもよい。
【0037】
また、上述の実施例においては、マイクロ化学システム用チップ1の基板を上側のガラス基板2と下側のガラス基板3とから構成した。しかし、チップ1の基板は、3枚以上のガラスなどの基板から構成することができ、ガラスなどの基板が例えば3枚のときには、上側の基板と中間の基板との間にチャネル7〜9、11、12および凹部10を形成するとともに、中間の基板と下側の基板との間に同様のチャネルを形成することができる。この場合、すべての基板がガラスから成っていてもよいし、上下両外側の2枚の基板のみがガラスから成っていてもよい。
【0038】
また、上述の実施例においては、マイクロ化学システム用チップ1の板状部材15は、扁平なほぼ長方形状に構成されているが、必要に応じて、ほぼ長方形以外のほぼ四角形、ほぼ四角形以外のほぼ多角形、ほぼ円形、ほぼ楕円形、ほぼ長円形、その他の任意の扁平な形状であってよい。
【0039】
また、上述の実施例においては、マイクロ化学システム用チップ1の板状部材15(具体的には、上側および下側の基板2、3)をガラスから構成した。特に、細胞などの生体溶液試料(例えば、DNA解析用)としての用途を考慮すると、チップ1の基板の材料は、耐酸性、耐アルカリ性などの高いガラス(具体的には、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、石英ガラスなど)が好ましい。しかし、チップ1の板状部材15は、用途が限定されている場合などには、プラスチックなどの有機物、セラミックなどの無機物、さらには金属などの材料が用いられてもよい。
【0040】
さらに、上述の実施例において、マイクロ化学システム用チップ1の板状部材15の材料として、上述のようなホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、アルミノホウケイ酸ガラス、石英ガラスなどのガラスを用いた場合には、チップ1を洗浄することによって再利用することが可能である。そして、この再利用の回数をチップ1の電子タグ4のICチップ14に記録することによって、チップ1の再利用回数の管理を行うのが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明を適用した一実施例におけるマイクロ化学システム用チップの平面図である。(実施例1)
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。(実施例1)
【図3】図1のB−B線に沿った断面図である。(実施例1)
【図4】図3に示す下側ガラス基板の平面図である。(実施例1)
【図5】図1に示すマイクロ化学システム用チップの使用状態を示すブロックダイヤグラムである。(実施例1)
【符号の説明】
【0042】
1 マイクロ化学システム用チップ
1a マイクロ化学システム用チップ
1b マイクロ化学システム用チップ
1c マイクロ化学システム用チップ
1d マイクロ化学システム用チップ
2 上側ガラス基板
3 下側ガラス基板
4 電子タグ
7 化学処理用流路溝
8a 試料注入用流路溝
8b 試料注入用流路溝
9a 試料注入用流路溝
9b 試料注入用流路溝
10 電子タグ収容用凹部
15 板状部材
20 マイクロ化学システム本体
21 分析装置
22 リーダ/ライタ装置
25 記憶装置
27 識別情報
28 分析情報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部材に設けられた流路において流体の化学的および/または物理的な処理および/または操作を行うようにしたマイクロ化学システム用チップにおいて、
上記マイクロ化学システム用チップの識別情報が記録される電子タグが、上記板状部材の内部または表面に設けられていることを特徴とするマイクロ化学システム用チップ。
【請求項2】
上記板状部材が互いに積層された少なくとも2枚の基板から成り、
上記流路がこれら2枚の基板の間に形成され、
上記電子タグが上記2枚の基板の間に挟み込まれていることを特徴とする、請求項1に記載のマイクロ化学システム用チップ。
【請求項3】
上記板状部材を構成している上記少なくとも2枚の基板のうちの少なくとも上下両外側の2枚の基板の材料がガラスであることを特徴とする、請求項2に記載のマイクロ化学システム用チップ。
【請求項4】
上記電子タグが挟み込まれている上記2枚の基板のうちの少なくとも一方の基板の上記電子タグ側の面に電子タグ収容用凹部が設けられ、
上記電子タグが上記電子タグ収容用凹部に収容されていることを特徴とする、請求項2または3に記載のマイクロ化学システム用チップ。
【請求項5】
請求項1〜4のうちのいずれか1項に記載のマイクロ化学システム用チップの複数個と、これら複数個のマイクロ化学システム用チップに共通のマイクロ化学システム本体とをそれぞれ用意し、
上記共通のマイクロ化学システム本体は、上記複数個のマイクロ化学システム用チップにそれぞれ共通の分析装置および記憶装置を備えるとともに、上記複数個のマイクロ化学システム用チップに共通のリーダ/ライタ装置を組み込んだものであり、
上記共通のリーダ/ライタ装置が上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれから読み出す上記識別情報が、上記共通の記憶装置にそれぞれ記憶され、
上記共通の分析装置が上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれについて作り出す分析情報が、上記識別情報と関連付けられて、上記共通の記憶装置にそれぞれ記憶されるとともに、上記共通のリーダ/ライタ装置によって上記複数個のマイクロ化学システム用チップのそれぞれの上記電子タグに書き込まれることを特徴とするマイクロ化学システム用チップの使用方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−3349(P2007−3349A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183929(P2005−183929)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】