説明

マイクロ向流抽出装置

【課題】 既存のマイクロ抽出装置では、二流体を同じ方向(平流)に流すことはできるが、互いに逆方向(向流)に流すのは困難である。そのため既存のマイクロ装置では、溝(マイクロチャネル)部を長く取っても、一理論平衡段の抽出効果しか期待できないという欠点がある。
【解決手段】 本発明では、溝(マイクロチャネル)部が隔膜で二分されたマイクロ抽出装置を考案した。この隔膜を挟んで、二流体を向流方向に流すことが可能になった。さらに溝内流体間での目的物質の移動の促進を図るために、溝内に小球を入れて、この小球の左右の運動により各溝内流体を攪拌混合できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(1)小球の転がりにより流体を攪拌し、2)隔膜を通して流体間の物質移動を図るマイクロ向流抽出装置を製作したことに関する。
本発明は、異相系(液−液系、気−液系)の抽出(物質移動)だけでなく、均一相系の抽出にも適用可能なマイクロ抽出装置である。
【背景技術】
【0002】
マイクロ化学プロセスは、小規模生産に向いた化学プロセスであり、実用化はまだ始まったばかりである。今後、医薬品や医薬品中間体の製造や、研究室規模での有機化合物の合成等に用いられることが期待されている。マイクロ化学プロセスは、マイクロリアクター、マイクロ分離装置(マイクロ蒸留塔、マイクロ抽出装置等)、マイクロミキサーやマイクロポンプ等から構成されている。
マイクロ装置の特徴としては、(1)溝(マイクロチャンネル)部内の流体(気体、液体)の流れが層流であること、(2)流体の単位体積あたりの表面積が大きいこと、が挙げられる。
本発明は新しいマイクロ抽出装置の製作に関するものなので、以下では、マイクロ抽出装置に議論を絞る。互いに接する二つの溝(マイクロチャネル)中を流れる二流体間(気−液、液−液間)での物質の移動を考えると、上記(1)は流体間の移動速度を低下させる要因になるが、(2)は、溝の径が小さいほど流体の接触面積が大きくなるので、物質の移動速度を増大させる要因になる。さらに通常のマイクロ装置では、二流体を向流方向に流すことは困難である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
[0002]の(1)で述べたように、通常のマイクロ装置内の流体の流れは層流である。それに対して、本発明の装置では、小球の左右の転がりにより溝内を流れる液を撹拌混合できるようにした。このことにより、二流体間の物質移動の促進を図れる。さらに溝部を隔膜により二分割することにより、向流抽出が可能になった。
本装置で使用する隔膜としては、透析膜や、濾紙に油脂やシリコーングリース等を滲みこませた物を考えている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明では、以下のようなマイクロ抽出装置を考案した。
(1)マイクロ抽出装置本体の作成。
図1のような、縦方向と深さ方向がともに数ミリで、横方向が数十センチある溝を有する板を、二枚作成した。そして、この板の溝部に数ミリの小金属球をそれぞれ数個入れた。そしてこれらの板の中間に隔膜を挟んで、溝面どうしを合わせて、数個のボルトで留めることにより、マイクロ抽出装置本体を作成した。
(2)マイクロ抽出装置の組み立て
図2のようにマイクロ抽出装置を、立てて、組み立てた。装置本体は、ほぼ中間点で、三角形の支持棒により支えられている。さらに小さい鉄棒(鉄芯+ストロー)が、本体の右端に、ガムテープで張り付けられている。On−offタイマーを働かせて、電磁石で、この鉄棒を上下させることにより、装置本体を上下に動かすことが出来るようになっている。この上下運動により溝中の金属球が左右に転がり、液が混合される。さらに図3のように、抽出装置本体を横方向に組立てることも可能である。
【0005】
本発明のマイクロ装置では、二つの流体をマイクロポンプで、細管(ステンレススチール)を通して、互いに逆方向(向流)に溝内に連続的に流すことを特徴とする。
この装置の運転により、(抽出目的物質を含む)流体を一方から流して、隔膜を通して、他方の流体中にその物質を抽出させることが出来る。
【発明の効果】
【0006】
この装置の製作により、向流マイクロ抽出を連続的に行うことが可能になった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
この発明の実施形態を示す。図4のような抽出装置の溝板を、アクリル樹脂板で4枚製作した。その外形は縦80mm、厚さ20mmおよび横500mmで、溝部の寸法は縦4mm、深さ4mmおよび横400mmである。そして前述の図2または、図3のようにマイクロ装置を組み立てた。各溝部には、1/8インチ(=3.175mmm)タングステン球5個を入れた。隔膜として、透析膜を使用した。図2では溝部は並列(右左)に接しており、図3では上下に接している。水を二方向から流した実験では、いずれの場合も装置本体を12度傾斜させると、小球が転がることが分かった。さらに転がり時間は、2.8秒であることが分かった。
図2と図3の組み立ての違いにより、隔膜間の物質移動どのように異なるかは、現時点では不明である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】 マイクロ抽出装置の溝板の略図。この板二枚を張り合わせて一つにして使用する。
【図2】 縦方向にマイクロ抽出装置を組み立てたときの図。この組み立て図では、二つの溝は平行に配置されている。隔膜は垂直方向にある。
【図3】 横方向にマイクロ抽出装置を組み立てたときの図。この組み立て図では、二つの溝は上下に配置されている。隔膜は水平方向にある。上の溝内の金属球は隔膜の上に乗っている。
【図4】 実際に製作した抽出装置の溝板の略図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
本発明は、上下運動する溝(マイクロチャンネル)部を持つマイクロ向流抽出装置を製作したことを特徴とする。
本装置には以下の特徴がある。
(1)本装置では、数個の小球が入った溝(マイクロチャネル)部を連続的に上下に動かすことにより、溝内の流体の混合を行う。
(2)本装置では、溝が隔膜により二分割されており、隔膜を通して溝内流体間で目的物質の抽出を行う。
(3)本装置では、マイクロレベルでの連続向流抽出が可能である。
(4)本装置では、異相系流体間(気−液、液−液系間)だけでなく、均一流体間でも目的物質の抽出が可能である。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−50835(P2009−50835A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−248064(P2007−248064)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(505319234)
【Fターム(参考)】