説明

マイクロ向流送液装置及びマイクロ向流送液方法

【課題】分子拡散とせん断を利用した流体の混合をそれぞれ効果の比率を一定に行うことができるとともに、混合の反応時間を制御することができるマイクロ向流送液装置及びマイクロ向流送液方法を提供する。
【解決手段】マイクロ向流送液装置1は、水系流体6を導入する第1の導入管3Aと、有機溶剤系流体7を導入する第2の導入管3Bと、水系流体6と有機溶剤系流体7の混合流体8を排出する排出管4A及び4Bと、第1の導入管を一端3Aに、第2の導入管3Bを他端に設けて、第1の導入管3Aと、他端において第1の導入管3Aと対面する位置に設けられた第1の排出管4Aとをつなぐ壁面に対して親水膜5を設け、第2の導入管3Bと、一端において第2の導入管3Bと対面する位置に設けられた排出管4Bとをつなぐ壁面を疎水壁20aで構成し、水系流体6と有機溶剤流体7とをそれぞれ交互に向流で流す流路20とを有する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ向流送液装置及びマイクロ向流送液方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非特許文献1のマイクロ向流送液装置は、2種類の液体を導入する円盤状の入口プレートと、円盤の中心に向かって放射線状に設けられた幅50〜200μmの複数のマイクロ流路及びマイクロ流路が合流する半径220〜520μmの混合部を有する混合プレートと、混合プレートにおいて混合された液体を排出する出口プレートとを有し、隣り合うマイクロ流路を流れる流体の層流の拡散混合に加えて、混合部中心付近における流体の層流に働くせん断力を利用した混合を実施するものである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】前 一廣・牧 泰輔・青木 宣明著、「化学工学論文集」化学工学会、2008年発行、第34巻、第1号、p.8−17
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、本構成を有さない場合に比べて、処理能力が向上したマイクロ向流送液装置及びマイクロ向流送液方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]第1の流体を導入する第1の導入部と、第2の流体を導入する第2の導入部と、前記第1の流体と前記第2の流体の混合流体を排出する排出部と、前記第1の導入部を一方の側に接続し、前記第2の導入部を他方の側に接続し、前記排出部を前記一方の側及び前記他方の側に接続して、前記第1の導入部と前記他方の側の前記排出部とをつなぐ壁面に親水領域を設け、前記第2の導入部と前記一方の側の前記排出部とをつなぐ壁面に疎水領域を設けて、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ交互に向流で流す流路と、を有するマイクロ向流送液装置。
【0006】
[2]前記流路の内壁は、前記疎水領域で構成され、前記親水領域は、前記疎水領域上に形成される前記[1]に記載のマイクロ向流送液装置。
【0007】
[3]内側で第1の流体を導入し、外側で混合流体を排出する導入部と、内側で混合流体を排出し、外側で第2の流体を導入する排出部と、前記導入部を一方の側に内装し、前記排出部を他方の側に内装して、前記導入部の内側と前記排出部の内側をつなぐように前記第1の流体を流し、内壁に前記第2の流体が親和性の高い領域を設け、前記第2の流体を前記内壁に沿って流すことで、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ向流で流す流路と、を有するマイクロ向流送液装置。
【0008】
[4]第1の流体を導入するステップと、第2の流体を導入するステップと、
流路の壁面に設けられた親水領域に前記第1の流体を流し、疎水領域に前記第2の流体を流すことで、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ交互に向流で流し、混合して混合流体を生成するステップと、前記第1の流体と前記第2の流体の前記混合流体を排出するステップと、を有するマイクロ向流送液方法。
【発明の効果】
【0009】
請求項1、3又は4に係る発明によれば、本構成を有さない場合に比べて、処理能力が向上する。
【0010】
請求項2に係る発明によれば、親水領域が疎水領域上に形成されていない場合に比べて、容易に向流を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、A−A断面図、(c)は、B−B断面図、(d)は、C−C断面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の流路の構成例を示すD−D断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の製造例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、E−E断面図、(c)は、F−F断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の他の製造例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、G−G断面図、(c)は、H−H断面図である。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の他の製造例を示す概略図であり、(a)は、図4(a)のG−G断面図、(b)は、H−H断面図と同等である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の構成例を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[第1の実施の形態]
(向流送液装置の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の構成例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、A−A断面図、(c)は、B−B断面図、(d)は、C−C断面図である。
【0013】
マイクロ向流送液装置1は、図1(a)〜(d)に示すように、疎水性を有する材質、例えば、PDMS(Polydimethylsiloxane)によって形成され内部に流路20を有する本体2と、流路20に対して水系流体6を導入する第1の導入管3Aと、流路20に対して有機溶剤系流体7を導入する第2の導入管3Bと、水系流体6と有機溶剤系流体7とを流路20において混合して得られる混合流体8を排出する第1の排出管4A及び第2の排出管4Bとを有する。
【0014】
また、マイクロ向流送液装置1は、図1(c)に示すように、疎水壁20aによって形成される流路20と、疎水壁に形成される親水膜5とを有する。疎水壁20aは、第2の導入管3Bから第2の排出管4Bに向けて有機溶剤系流体7に対する流路を形成し、親水膜5は、第1の導入管3Aから第1の排出管4Aに向けて水系流体6に対する流路を形成する。
【0015】
図2は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の流路の構成例を示す図1(c)のD−D断面図である。
【0016】
水系流体6は、第1の導入管3Aから導入されて、親水膜5上で流体の層流を形成し、後述する有機溶剤系流体7の層流と混合して最終的に本体2の一部である支柱21に阻まれ第1の排出管4Aから排出される。
【0017】
有機溶剤系流体7は、第2の導入管3Bから導入されて、疎水壁20a上で流体の層流を形成し、水系流体6の層流と混合して最終的に本体2の一部である支柱21に阻まれ第2の排出管4Bから排出される。
【0018】
例えば、水系流体6としてコバルト錯体溶液を、有機溶剤系流体7としてブチルアセテート等を用いることで、マイクロ向流送液装置1は、コバルト錯体をブチルアセテートに抽出する。このとき、水系流体6及び有機溶剤系流体7をそれぞれ流量0.3〜3ml/minで導入することでそれぞれの層流が得られる。
【0019】
また、水系流体6として微粒子の分散液を、有機溶剤系流体7としてブチルアセテートを流入すると、マイクロ向流送液装置1は、分散度の高い微粒子凝縮体を造粒する。
【0020】
(製造方法)
図3は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の製造例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、E−E断面図、(c)は、F−F断面図である。
【0021】
本体2の下部を形成する本体2Aは、鋳型にPDMS、例えば、ダウコーニング社製シルポットを流し込んで重合することで作成され、流路20及び支柱21を有する。
【0022】
鋳型は、例えば、Si基板にDRIE(Deep Reactive Ion Etching)を施すことにより、又はSi基板上にアクリル系ネガレジスト、例えば、化薬マイクロケム社製Su8を用いて流路20の反転パターンを形成することにより作成される。エッチング深さ又はレジストの高さは、例えば、50μm程度とする。
【0023】
図4は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の他の製造例を示す概略図であり、(a)は、平面図、(b)は、G−G断面図、(c)は、H−H断面図である。
【0024】
本体2Aは、図3に示した本体2Aに、疎水壁20aとして用いる部分をメタルマスク等で覆い、酸素プラズマ処理又はアクリル酸プラズマ重合処理を施して親水膜5を形成することで作成される。
【0025】
図5は、本発明の第1の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の他の製造例を示す概略図であり、(a)は、図4(a)のG−G断面図、(b)は、H−H断面図と同等である。
【0026】
本体2Bは、図4に示した本体2Aと同様の工程で作成されたものであり、本体2A及び2BをPDMSの自己吸着性を利用して張り合わせることで厚みD、幅W、長さLの本体2を形成する。本体2の形成後、上部及び下部に貫通孔を形成し、第1の導入管3A、第2の導入管3B、第1の排出管4A及び第2の排出管4Bを取り付けてマイクロ向流送液装置1が生成される。
【0027】
なお、流路20の厚みd、端に形成され疎水壁20aで囲まれる流路の幅w、親水膜5で囲まれる流路の幅及び端以外の疎水壁20aで囲まれる流路の幅wは、水系流体6及び有機溶剤系流体7に用いる媒体によって変更し、長さlは、水系流体6及び有機溶剤系流体7流速及びそれぞれの反応時間から定まる値で設計される。なお、d+2w=wを条件とする。
【0028】
以上で説明した各寸法について、マイクロ向流送液装置1は、
1mm<D<50mm
30mm<W<130mm
10mm<L<30mm
10μm<d<1000μm
10mm<l<100mm
10μm<w<1000μm
30μm<w<1500μm
の範囲で水系流体6及び有機溶剤系流体7の層流を形成し、それぞれを混合する。
【0029】
また、マイクロ向流送液装置1は、
50μm<d<500μm
50μm<w<500μm
600μm<w<1500μm
の範囲で水系流体6及び有機溶剤系流体7の層流をより高い精度で形成し、それぞれを混合する。
【0030】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態は、マイクロ向流送液装置1の流路20を円柱状及び円筒状に変更したものである。
【0031】
図6は、本発明の第2の実施の形態に係るマイクロ向流送液装置の構成例を示す断面図である。なお、以下の説明において、第1の実施の形態と同一の構成および機能を有する部分については共通の符号を付している。
【0032】
マイクロ向流送液装置1Aは、疎水性を有する材質、例えば、テフロン(登録商標)チューブを用いて形成され内部に直径φの円柱状の流路20を有する本体2と、流路20に対して水系流体6を導入する直径φの円筒上の導入管3Cと、水系流体6と有機溶剤系流体7とを流路20において混合して得られる混合流体8を排出する排出管4Cとを有する。
【0033】
また、有機溶剤系流体7は、排出管4Cの外周と本体2の内周とで形成される円筒状の流路に対して導入され、同様に混合流体8は、導入管3Cの外周と本体2の内周とで形成される円筒状の流路から排出される。また、流路20において、疎水壁20aは、有機溶剤系流体7に対する流路を円筒状に形成し、導入管3Cから排出管4Cに向けて水系流体6に対する流路を円柱状に形成する。
【0034】
また、マイクロ向流送液装置1Aは、
0.02mm<φ<2mm
0.01mm<φ<1mm
(ただし、φ<φ)の範囲であって、水系流体6及び有機溶剤系流体7を流量0.3〜3ml/minで導入することで、水系流体6及び有機溶剤系流体7の層流を形成し、それぞれを混合する。
【0035】
[他の実施の形態]
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々な変形が可能である。例えば、流路20に設ける親水膜5と疎水壁20aの本数は実施例の本数に限らず、複数設置してもよい。また、第2の実施の形態において、本体2の内壁に親水性膜5を設けて、水系流体6と有機溶剤系流体7とを入れ替えて導入してもよい。
【符号の説明】
【0036】
1…マイクロ向流送液装置、1A…マイクロ向流送液装置、2…本体、2A…本体、2B…本体、3A…導入管、3B…導入管、3C…導入管、4A…排出管、4B…排出管、4C…排出管、5…親水膜、6…水系流体、7…有機溶剤系流体、8…混合流体、20…流路、20a…疎水壁、21…支柱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の流体を導入する第1の導入部と、
第2の流体を導入する第2の導入部と、
前記第1の流体と前記第2の流体の混合流体を排出する排出部と、
前記第1の導入部を一方の側に接続し、前記第2の導入部を他方の側に接続し、前記排出部を前記一方の側及び前記他方の側に接続して、前記第1の導入部と前記他方の側の前記排出部とをつなぐ壁面に親水領域を設け、前記第2の導入部と前記一方の側の前記排出部とをつなぐ壁面に疎水領域を設けて、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ交互に向流で流す流路と、
を有するマイクロ向流送液装置。
【請求項2】
前記流路の内壁は、前記疎水領域で構成され、前記親水領域は、前記疎水領域上に形成される請求項1に記載のマイクロ向流送液装置。
【請求項3】
内側で第1の流体を導入し、外側で混合流体を排出する導入部と、
内側で混合流体を排出し、外側で第2の流体を導入する排出部と、
前記導入部を一方の側に内装し、前記排出部を他方の側に内装して、前記導入部の内側と前記排出部の内側をつなぐように前記第1の流体を流し、内壁に前記第2の流体が親和性の高い領域を設け、前記第2の流体を前記内壁に沿って流すことで、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ向流で流す流路と、
を有するマイクロ向流送液装置。
【請求項4】
第1の流体を導入するステップと、
第2の流体を導入するステップと、
流路の壁面に設けられた親水領域に前記第1の流体を流し、疎水領域に前記第2の流体を流すことで、前記第1の流体と前記第2の流体とをそれぞれ交互に向流で流し、混合して混合流体を生成するステップと、
前記第1の流体と前記第2の流体の前記混合流体を排出するステップと、
を有するマイクロ向流送液方法。



【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−5420(P2011−5420A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−151310(P2009−151310)
【出願日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】