説明

マイクロ波プラズマ処理装置

【課題】処理対象物の外周面に、所定の処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを課題とする。
【解決手段】マイクロ波プラズマ処理装置1は、スリット300を有する筒状の内周壁部30と、内周壁部30の軸直方向外側に配置される筒状の外周壁部31と、内周壁部30と外周壁部31との間に区画される導波通路33と、内周壁部30の軸直方向内側に区画され、スリット300を介して導波通路33に連通し、処理対象物80の外周面800が配置される照射部34と、プラズマ生成用ガスをスリット300に供給するガス供給管35と、を備える。略大気圧条件下において、マイクロ波とプラズマ生成用ガスとをスリット300に通過させることにより、スリット300付近に高電界を形成し、照射部34にプラズマを生成し、プラズマにより外周面800に所定の処理を施す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、略大気圧条件下において、マイクロ波によりプラズマを発生させ、プラズマにより処理対象物に所定の処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車業界においては、フッ素系樹脂製のバリア層と、ポリアミド系樹脂製の強化層と、を有する多層構造の燃料配管部材が開発されている。強化層は、バリア層の径方向外側に積層されている。バリア層は、燃料配管部材から燃料が蒸散するのを抑制している。強化層は、燃料配管部材の強度を確保している。
【0003】
フッ素系樹脂とポリアミド系樹脂とは溶融接着しない。そこで、従来は、バリア層と強化層との接着性を向上させるために、バリア層の外周面に、コロナ放電による表面改質処理を行っていた(特許文献1)。また、バリア層のフッ素系樹脂を酸変性(グラフト化)させていた(特許文献2)。また、バリア層の外周面に、減圧高周波(RF)プラズマによる表面改質処理を行っていた(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されているように、コロナ放電によりバリア層の外周面の表面改質処理を行う場合、比較的大きなバイアスを加える必要がある。このため、局部的に過剰な電荷がかかる場合がある。この場合、異常放電により、バリア層の外周面が荒れやすい。また、特許文献2に記載されているように、バリア層のフッ素系樹脂を酸変性させる場合、燃料配管部材の製造コストが高くなってしまう。また、特許文献3に記載されているように、減圧高周波(RF)プラズマ処理によりバリア層の外周面の表面改質処理を行う場合、大気圧よりも低い圧力を確保する必要がある。このため、真空設備などが必要になる。したがって、プラズマ処理装置の設備コスト、延いては燃料配管部材の製造コストが高くなってしまう。
【特許文献1】特公平8−5167号公報
【特許文献2】特開平11−320770号公報
【特許文献3】特開2001−270051公報
【特許文献4】特開2007−299720公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また、特許文献4には、略大気圧条件下でプラズマを生成することができるプラズマ処理装置が開示されている。同文献記載のプラズマ処理装置は、誘電体基板と、マイクロストリップ線路と、アース導体と、誘電体ガス管と、を備えている。マイクロストリップ線路とアース導体とは、誘電体基板を挟む両面に配置されている。誘電体基板の一端からは、マイクロ波が入力される。誘電体基板の他端は、誘電体ガス管のノズル付近に配置されている。誘電体基板を伝播したマイクロ波は、誘電体ガス管のノズル付近に放射される。マイクロ波により、誘電体ガス管のノズル付近に、電界が形成される。一方、誘電体ガス管内には、ガスが流れている。マイクロ波の電界で、当該ガスが電離することにより、プラズマが生成する。生成したプラズマは、誘電体ガス管のノズルから吹き出す。当該プラズマを照射することにより、処理対象物の表面改質処理を行う。同文献記載のプラズマ処理装置によると、大気圧または大気圧付近の圧力で、表面改質処理を行うことができる。このため、真空設備が不要である。
【0006】
しかしながら、同文献記載のプラズマ処理装置の場合、プラズマの照射方向が一方向である。このため、同文献記載のプラズマ処理装置によると、処理対象物に対して、複数の方向からプラズマを照射することができない。したがって、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面が、処理対象面である場合、表面改質処理を施しにくい。
【0007】
本発明のマイクロ波プラズマ処理装置は、上記課題に鑑みて完成されたものである。したがって、本発明は、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面に、所定の処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記課題を解決するため、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置は、スリットを有する筒状の内周壁部と、該内周壁部の軸直方向外側に配置される筒状の外周壁部と、該内周壁部と該外周壁部との間に区画されマイクロ波が伝播する導波通路と、該内周壁部の軸直方向内側に区画され、該スリットを介して該導波通路に連通し、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面が配置される照射部と、プラズマ生成用ガスを、直接あるいは間接的に、該スリットに供給するガス供給管と、を備えてなり、略大気圧条件下において、該マイクロ波と該プラズマ生成用ガスとを該スリットに通過させることにより該マイクロ波の電界を集中させ該スリット付近に高電界を形成し、該高電界により該プラズマ生成用ガスを電離させ該照射部にプラズマを生成し、該プラズマにより該処理対象物の該外周面に所定の処理を施すことを特徴とする(請求項1に対応)。
【0009】
本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、軸直方向外側から軸直方向内側に向かって、導波通路→スリット→照射部が配置されている。また、照射部に、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面が配置されている。このため、プラズマは、軸直方向外側から軸直方向内側に向かって、処理対象物の外周面に照射される。したがって、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面に、所定の処理を施しやすい。また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、プラズマ照射の際、プラズマが電界などにより加速されない。このため、プラズマが外周面を荒らしにくい。
【0010】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、マイクロ波を導波通路からスリットに流入させる際に、通路断面積が小さくなる。このため、スリット付近において、マイクロ波の電界強度を高くすることができる。したがって、減圧条件下でなくても、言い換えると略大気圧条件下であっても、確実に、プラズマ生成用ガスを電離させることができる。このように、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、真空設備が不要である。このため、設備構造が簡単である。
【0011】
また、処理対象物の製造ラインが略大気圧条件にある場合、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置を、当該製造ラインに設置することも可能である(勿論、製造ラインに設置しない場合も(1)の構成に含まれる)。こうすると、外周面への処理を、製造ラインの流れ作業の一環として、実行することができる。
【0012】
また、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、マイクロ波は、誘電体基板ではなく、導波通路(空間)を伝播する。このため、誘電体基板は不要である。したがって、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置によると、この点においても、設備構造が簡単である。
【0013】
(1−1)好ましくは、上記(1)の構成において、前記スリットは、前記マイクロ波の波長の倍数(1/2波長、1/4波長含む)に相当する部分に配置されている構成とする方がよい。
【0014】
本構成によると、定在波による共振現象が起こる部分に、スリットが配置されている。このため、マイクロ波の電界強度を、より高くすることができる。また、マイクロ波の入力電力が小さくても、プラズマを生成することができる。
【0015】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記処理対象物は、前記スリットに対して、相対的に軸方向に移動可能であり、該スリットは、周方向に延在している構成とする方がよい(請求項2に対応)。
【0016】
ここで、「処理対象物が、スリットに対して、相対的に軸方向に移動可能」とは、静止したスリットに対して、処理対象物が軸方向に移動可能なことをいう。また、静止した処理対象物に対して、スリットが軸方向に移動可能なことをいう。また、処理対象物とスリットとが、相対的な位置関係を軸方向に変化させながら、共に移動可能であることをいう。また、処理対象物が、スリットに対して、相対的に回転しながら、軸方向に移動可能であることを含む。
【0017】
本構成によると、スリットの延在方向と、処理対象物の外周面の移動方向と、が略直交している。このため、短時間で、処理対象物の外周面の広い部分に、所定の処理を施すことができる。
【0018】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記内周壁部と前記外周壁部とは、軸直方向断面の外形が互いに略相似形であると共に、略同軸上に配置されている構成とする方がよい(請求項3に対応)。
【0019】
本構成によると、照射部の軸直方向外側に、導波通路を略均等に配置することができる。このため、内周壁部におけるスリットの周方向位置に起因して、プラズマが不均一になるのを抑制することができる。
【0020】
(4)好ましくは、上記(2)または(3)の構成において、前記スリットは、周方向に延在するリング状を呈している構成とする方がよい(請求項4に対応)。本構成によると、スリットがリング状(無端環状)を呈している。このため、処理対象物の外周面に、全周に亘って、所定の処理を施すことができる。なお、スリットは、複数配置してもよい。
【0021】
(5)好ましくは、上記(2)または(3)の構成において、前記スリットは、周方向に延在する部分弧状を呈している構成とする方がよい(請求項5に対応)。本構成によると、スリットが、部分弧状を呈している。このため、処理対象物の外周面の所定の周方向区間に、所定の処理を施すことができる。なお、スリットは、複数配置してもよい。
【0022】
(6)好ましくは、上記(5)の構成において、前記スリットは、複数配置されており、複数の該スリットの軸方向投影面は、周方向に連なるリング状を呈している構成とする方がよい(請求項6に対応)。
【0023】
ここで、リング状の軸方向投影面を形成する、複数のスリットは、配置されたスリットの全部でも、一部でもよい。すなわち、配置されたスリットの軸方向投影面が全て連なることにより、360°のみならず、それ以上の周方向区間に亘って、軸方向投影面が形成されてもよい。例えば、複数のスリットが、内周壁部に螺旋状に配置されており、当該螺旋が周方向に一周以上延在している場合は、本構成に含まれる。
【0024】
本構成によると、複数のスリットの軸方向投影面が連なることにより、リング状の軸方向投影面が形成される。このため、複数のスリットの軸直方向内側を、処理対象物の外周面が通過することにより、当該外周面に、全周に亘って、所定の処理を施すことができる。
【0025】
(7)好ましくは、上記(1)ないし(6)のいずれかの構成において、前記処理対象物は、フッ素系樹脂製であって円筒状の内層と、該内層の径方向外側に積層されポリアミド系樹脂製であって円筒状の外層と、を有する配管部材の、該内層であり、所定の前記処理は、該外層の内周面に対する、該内層の外周面の接着性を向上させる表面改質処理である構成とする方がよい(請求項7に対応)。
【0026】
つまり、本構成は、複層構造の配管部材の内層の外周面に、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置を用いて、表面改質処理を施すものである。本構成によると、内層と外層との層間接着力が向上する。このため、内層と外層とが剥離しにくい配管部材を作製することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によると、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面に、所定の処理を施しやすいマイクロ波プラズマ処理装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置の実施の形態について説明する。
【0029】
<第一実施形態>
[マイクロ波プラズマ処理装置の構成]
まず、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の構成について説明する。本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置は、略大気圧(=1.013×10Paあるいは当該圧力付近の圧力)条件下において、配管部材の内層の外周面に、表面改質処理を施すものである。
【0030】
図1に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の斜視図を示す。図2に、同マイクロ波プラズマ処理装置の分解斜視図を示す。図3に、同マイクロ波プラズマ処理装置の前後方向断面図を示す。図1〜図3に示すように、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1は、第一導波管2と、第二導波管3と、を備えている。
【0031】
第一導波管2は、角筒部20と、端板21と、保持部22と、第一導波通路23と、を備えている。角筒部20は、金属製である。角筒部20は、前後方向に延在している。角筒部20の下壁には、内周壁部保持孔200が穿設されている。角筒部20の上壁には、外周壁部取付孔201が穿設されている。内周壁部保持孔200と外周壁部取付孔201とは、上下方向に対向している。端板21は、ステンレス鋼製であって、長方形状を呈している。端板21は、角筒部20の前端開口を封止している。角筒部20の内部には、第一導波通路23が区画されている。図3に示すように、第一導波通路23には、マイクロ波発振器90から、入射側のパワーモニタ91→アイソレータ92→反射側のパワーモニタ93→整合器94を介して、マイクロ波が伝播する。保持部22は、金属製であって、下方から上方に向かって尖るテーパ筒状を呈している。保持部22は、角筒部20の下壁上面(内面)から立設されている。保持部22は、内周壁部保持孔200の口縁に配置されている。
【0032】
第二導波管3は、内周壁部30と、外周壁部31と、端板32と、第二導波通路33と、照射部34と、ガス供給管35と、を備えている。第二導波通路33は、本発明の導波通路に含まれる。第二導波管3は、第一導波管2に対して、略直角に連なっている。
【0033】
内周壁部30は、金属製であって、円筒状を呈している。内周壁部30は、上下方向に延在している。内周壁部30の下端は、角筒部20の外周壁部取付孔201および内周壁部保持孔200を貫通している。すなわち、内周壁部30の下端は、角筒部20から、下方に突出している。内周壁部30の下端付近の外周面は、内周壁部保持孔200の内周縁、および保持部22により、固定されている。このように、内周壁部30は、角筒部20の下壁に固定されている。
【0034】
図4に、図3の枠IV内の拡大図を示す。図4に示すように、内周壁部30には、スリット300が形成されている。スリット300は、マイクロ波の波長の倍数(1/2波長、1/4波長含む)に相当する部分に配置されている。スリット300は、周方向に延在するリング状を呈している。言い換えると、スリット300により、内周壁部30は、上下方向に二分割されている。内周壁部30の下部分は、上述したように、角筒部20の下壁に固定されている。内周壁部30の上部分は、後述するように、端板32の内周縁に固定されている。すなわち、内周壁部30の上部分、下部分が、各々、隣接部材に固定されることにより、スリット300が区画されている。スリット300の軸方向幅は、約1mmに設定されている。
【0035】
外周壁部31は、金属製であって、円筒状を呈している。外周壁部31は、内周壁部30よりも、短軸である。すなわち、外周壁部31は、内周壁部30よりも、軸方向全長(上下方向全長)が短い。また、外周壁部31は、内周壁部30よりも、大径である。外周壁部31は、内周壁部30の径方向(軸直方向)外側に配置されている。外周壁部31と内周壁部30とは、略同軸上に配置されている。外周壁部31の下端は、角筒部20の外周壁部取付孔201の口縁に取り付けられている。すなわち、外周壁部31は、角筒部20の上壁に固定されている。外周壁部31には、ガス供給管取付孔310が穿設されている。ガス供給管取付孔310は、スリット300と、径方向に対向している。
【0036】
第二導波通路33は、外周壁部31の内周面と、内周壁部30の外周面と、の間に区画されている。すなわち、第二導波通路33を形成する空間は、円筒状を呈している。第二導波通路33は、外周壁部取付孔201を介して、第一導波通路23に略直角に連なっている。
【0037】
端板32は、ステンレス鋼製であって、リング板状を呈している。端板32は、外周壁部31の上端を封止している。第二導波通路33は、端板32により、外部から遮断されている。端板32の内周縁は、内周壁部30の外周面に固定されている。
【0038】
照射部34は、内周壁部30の径方向内側に配置されている。図4に示すように、照射部34は、スリット300の径方向内側に全周的に配置されている。照射部34には、図4に点線ハッチングで示すように、プラズマPが生成される。
【0039】
ガス供給管35は、ステンレス鋼製である。ガス供給管35は、外周壁部31のガス供給管取付孔310の口縁に取り付けられている。ガス供給管35の内部には、アルゴンガスが流れている。アルゴンガスは、本発明のプラズマ生成用ガスに含まれる。
【0040】
配管部材の内層80は、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)製であって、円筒状を呈している。ETFEは、本発明のフッ素系樹脂に含まれる。内層80は、内周壁部30よりも、長軸である。すなわち、内層80は、内周壁部30よりも、軸方向全長(上下方向全長)が長い。また、内層80は、内周壁部30よりも、小径である。内層80と内周壁部30とは、略同軸上に配置されている。内層80は、内周壁部30の径方向内側を、下方から上方に向かって、通過する。
【0041】
[マイクロ波プラズマ処理装置の動き]
次に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1の、配管部材の内層80に表面改質処理を施す際の、動きについて説明する。まず、図3に示すように、マイクロ波電源95をオンにする。マイクロ波電源95をオンにすると、マイクロ波発振器90がマイクロ波を発生する。発生したマイクロ波は、入射側のパワーモニタ91→アイソレータ92→反射側のパワーモニタ93→整合器94を介して、第一導波通路23に導入される。
【0042】
この際、入射側のパワーモニタ91により、発生したマイクロ波の出力をモニタリングする。また、反射側のパワーモニタ93により、反射されたマイクロ波の出力をモニタリングする。また、アイソレータ92により、反射されたマイクロ波の出力を減衰させる。また、整合器94により、マイクロ波の反射量を調整する。
【0043】
次に、マイクロ波は、第一導波通路23から、第二導波通路33に導入される。導入された、マイクロ波は、第二導波通路33を、下方から上方に向かって伝播する。続いて、マイクロ波は、内周壁部30のスリット300に進入する。ここで、スリット300の通路断面積は、第二導波通路33の通路断面積と比較して、極めて小さい。このため、第二導波通路33からスリット300に進入する際、マイクロ波の電界強度は、極めて高くなる。
【0044】
一方、ガス供給管35からは、ガス供給管取付孔310を介して、第二導波通路33に、アルゴンガスが供給される。アルゴンガスは、マイクロ波と共に、スリット300に進入する。スリット300を通過する際、アルゴンガスは、スリット300付近に形成されたマイクロ波の高電界により、電離する。そして、スリット300の径方向内側に、プラズマPが生成される。
【0045】
それから、予め溶融押出成形により作製した配管部材の内層80を、内周壁部30の下端開口から挿入する。内層80は、スリット300の径方向内側を、下方から上方に向かって通過する。この際、プラズマPが、内層80の外周面800に全周的に照射される。なお、排気ガスは、内周壁部30の上下端開口から、外部に排出される。このように、内層80が内周壁部30(具体的にはスリット300)の径方向内側を通過することにより、外周面800に表面改質処理が施される。その後、内層80の外周面に、ポリアミド12(PA12)製の外層を、溶融押出成形により積層させる。PA12は、本発明のポリアミド系樹脂に含まれる。
【0046】
図5に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置を用いて作製された配管部材の斜視図を示す。図6に、同配管部材の径方向断面図を示す。図5、図6に示すように、配管部材8は、内層80と外層81とを備えている。内層80の外周面800(詳しくは、外周面800から所定の深さ部分)には、図6に細線ハッチングで示すように、表面改質により、水酸基やカルボキシル基等の官能基が付与される。当該官能基は、外層81のPA12と、熱により溶融接着する。このため、内層80と外層81とは、高い層間接着力で接着している。
【0047】
[作用効果]
次に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1の作用効果について説明する。本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、径方向外側から径方向内側に向かって、第二導波通路33→スリット300→照射部34が配置されている。また、照射部34を内層80の外周面800が通過する。このため、プラズマPは、径方向外側から径方向内側に向かって、言い換えると内層80の軸心に集中するように、多方向から外周面800に照射される。したがって、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、外周面800に表面改質処理を施しやすい。また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、プラズマP照射の際、プラズマPが電界などにより加速されない。このため、プラズマPが外周面800を荒らしにくい。
【0048】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、マイクロ波を第二導波通路33からスリット300に流入させる際に、通路断面積が小さくなる。このため、スリット300付近において、マイクロ波の電界強度を高くすることができる。したがって、減圧条件下でなくても、言い換えると略大気圧条件下であっても、確実に、アルゴンガスを電離させることができる。このように、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、真空設備が不要である。このため、設備構造が簡単である。
【0049】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、マイクロ波は、誘電体基板ではなく、第一導波通路23(空間)および第二導波通路33(空間)を伝播する。このため、誘電体基板は不要である。したがって、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、この点においても、設備構造が簡単である。
【0050】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、スリット300の延在方向(周方向)と、外周面800の移動方向(軸方向)と、が略直交している。また、スリット300がリング状を呈している。このため、内周壁部30の径方向内側を軸方向に通過させるだけで、内層80の外周面800の略全面に、表面改質処理を施すことができる。すなわち、短時間で、外周面800の略全面に、表面改質処理を施すことができる。
【0051】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1によると、内周壁部30と外周壁部31とは、径方向断面の外形が互いに略相似形(円形)である。並びに、内周壁部30と外周壁部31とは、略同軸上に配置されている。このため、第二導波通路33の径方向幅が、全周的に略一定である。したがって、周方向全長に亘って、プラズマPが不均一になるのを抑制することができる。
【0052】
また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置1を用いて外周面800の表面改質処理を行うと、内層80と外層81との層間接着力が向上する。このため、内層80と外層81とが剥離しにくい配管部材8を作製することができる。
【0053】
<第二実施形態>
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と、の相違点は、内周壁部のスリットの形状、配置数、配置場所のみである。したがって、ここでは相違点についてのみ説明する。
【0054】
図7に、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の内周壁部の斜視図を示す。図8に、同内周壁部の展開図(図7の一点鎖線から切り開いた図)を示す。なお、図2と対応する部位については、同じ符号で示す。
【0055】
図7、図8に示すように、内周壁部30には、合計20個のスリット301が配置されている。スリット301は、周方向に延在する部分円弧状を呈している。スリット301の径方向内側には、照射部が配置されている。照射部には、プラズマが生成される。
【0056】
20個のスリット301は、螺旋状に配置されている。20個のスリット301は、内周壁部30を周方向に二周している。周方向に隣接するスリット301の中心同士は、36°ずつ離間して配置されている。周方向に連なる10個のスリット301の軸方向投影面は、リング状を呈している。
【0057】
内層の外周面が内周壁部30の径方向内側を通過する際、外周面の任意の部位(例えば、図8に示す180°部位)は、二つのスリット301の径方向内側を通過することになる。このため、外周面の任意の部位には、表面改質処理が二回施される。
【0058】
本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置は、構成が共通する部分に関しては、第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置と同様の作用効果を有する。また、本実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置によると、10個のスリット301の軸方向投影面が連なることにより、リング状の軸方向投影面が形成される。このため、内層の外周面に、全周に亘って、表面改質処理を施すことができる。また、全20個のスリット301は、内周壁部30を周方向に二周している。このため、内層の外周面に、表面改質処理を二回施すことができる。また、本実施形態のプラズマ処理装置によると、内周壁部30が、上下方向に二分割されていない。このため、隣接部材に対する内周壁部30の取付が簡単である。また、内周壁部30の隣接部材に対する取付状況により、スリット301の軸方向幅が変化するおそれが小さい。
【0059】
<その他>
以上、本発明のマイクロ波プラズマ処理装置の実施の形態について説明した。しかしながら、実施の形態は上記形態に特に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0060】
例えば、上記第一実施形態においては、内周壁部30にスリット300を一つだけ配置したが、スリット300の配置数は特に限定しない。軸方向に離間して、スリット300を複数配置してもよい。こうすると、内層80の外周面800に、複数回、表面改質処理を施すことができる。
【0061】
また、上記第二実施形態においては、合計20個のスリット301を、内周壁部30に螺旋状に配置したが、例えば、点線円状に配置してもよい。また、スリット301により形成される螺旋の、内周壁部30に対する周回数は特に限定しない。また、第二実施形態においては、図8に示すように、スリット301の形状を長方形状としたが、楕円状、長円状(対向する一対の半円が一対の直線により連結された形状)としてもよい。また、第一実施形態のリング状のスリット300と、第二実施形態の部分円弧状のスリット301と、を適宜組み合わせて用いてもよい。
【0062】
また、上記実施形態においては、内層80を、周方向に回転させずに下方から上方に向かって移動させたが、周方向に回転させながら下方から上方に向かって移動させてもよい。また、上記実施形態においては、第二導波管3の上流側に第一導波管2を配置したが、所望のマイクロ波を第二導波通路33に伝播させることができれば、第一導波管2を配置しなくてもよい。
【0063】
また、上記実施形態においては、スリット300、301の軸方向幅を約1mmに設定したが、軸方向幅は特に限定しない。好ましくは、0.02mm以上、1mm以下とする方がよい。その理由は、0.02mm未満の場合、スリット300、301においてアーク放電が起きスリット300、301が損傷する可能性があるからである。また、1mm超過の場合、プラズマを生成するために高パワーのマイクロ波入射電力を必要するからである。
【0064】
また、内周壁部30、外周壁部31は、円筒状の他、三角筒状、四角筒状、五角筒状などの角筒状であってもよい。また、内周壁部30と外周壁部31とが略同軸上に配置されていなくてもよい。
【0065】
また、上記実施形態においては、プラズマ生成用ガスとして、アルゴンガスを用いた。しかしながら、ガスの種類は特に限定しない。例えば、アルゴン(Ar)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)およびキセノン(Xe)からなる希ガスや、水素、窒素、酸素等からなる分子性ガスの中から、一種類あるいは二種類以上のガスを適宜選び、選択した当該ガスをプラズマ生成用ガスとしてもよい。また、生成したプラズマを安定させるために、プラズマ生成用ガスに加えて、アセトン等の有機溶剤を気化混入させてもよい。
【0066】
また、上記実施形態においては、本発明のフッ素系樹脂としてETFEを用いた。しかしながら、例えば、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−ビニリデンフルオライド共重合体(THV)、ビニリデンフルオライド樹脂(PVDF)、テトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ビニリデンフルオライド−クロロトリフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン共重合体、ビニリデンフルオライド−テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン−パーフルオロアルコキシビニルエーテル共重合体などを用いてもよい。また、これらのフッ素系樹脂を、二種以上併せて用いてもよい。
【0067】
また、上記実施形態においては、本発明のポリアミド系樹脂として、PA12を用いた。しかしながら、例えば、ポリアミド6(PA6)、ポリアミド66(PA66)、ポリアミド99(PA99)、ポリアミド610(PA610)、ポリアミド612(PA612)、ポリアミド11(PA11)、ポリアミド912(PA912)、ポリアミド6とポリアミド66との共重合体(PA6/66)、ポリアミド6とポリアミド12との共重合体(PA6/12)などを用いてもよい。また、これらのポリアミド系樹脂を二種以上併せて用いてもよい。また、第一導波管2、第二導波管3の材質も特に限定しない。ステンレス鋼製の他、アルミニウム製、銅製としてもよい。
【0068】
また、角筒部20は、好ましくは、強度を保つために、ステンレス鋼製とする方がよい。また、マイクロ波の反射を小さくするために、角筒部20の内面を、導電率が高い銅や銀などでメッキするとよい。同様に、マイクロ波の反射を小さくするために、端板21のマイクロ波が当たる面を、導電率が高い銅や銀などでメッキするとよい。また、内周壁部30は、好ましくは、導電率の高い銅やアルミ製とする方がよい。また、外周壁部31は、好ましくは、強度を保つためにステンレス鋼製とする方がよい。また、マイクロ波の反射を小さくするために、外周壁部31の内面を導電率が高い銅や銀などでメッキするとよい。同様に、マイクロ波の反射を小さくするために、端板32のマイクロ波が当たる面を、導電率が高い銅や銀などでメッキするとよい。
【0069】
また、内層80の外周面800に対する、プラズマPの照射時間も特に限定しない。例えば、照射時間は、1秒以上200秒以下としてもよい。また、マイクロ波の周波数も特に限定しない。例えば、433MHz〜2.45GHzの周波数のマイクロ波を用いることができる。好ましくは、周波数2.45GHzのマイクロ波を用いる方がよい。その理由は、当該周波数は、電波法に適合しているからである。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】第一実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の斜視図である。
【図2】同マイクロ波プラズマ処理装置の分解斜視図である。
【図3】同マイクロ波プラズマ処理装置の前後方向断面図である。
【図4】図3の枠IV内の拡大図である。
【図5】同マイクロ波プラズマ処理装置を用いて作製された配管部材の斜視図である。
【図6】同配管部材の径方向断面図である。
【図7】第二実施形態のマイクロ波プラズマ処理装置の内周壁部の斜視図である。
【図8】同内周壁部の展開図である。
【符号の説明】
【0071】
1:マイクロ波プラズマ処理装置、2:第一導波管、3:第二導波管、8:配管部材。
20:角筒部、21:端板、22:保持部、23:第一導波通路、30:内周壁部、31:外周壁部、32:端板、33:第二導波通路(導波通路)、34:照射部、35:ガス供給管、80:内層、81:外層、90:マイクロ波発振器、91:パワーモニタ、92:アイソレータ、93:パワーモニタ、94:整合器、95:マイクロ波電源。
200:内周壁部保持孔、201:外周壁部取付孔、300:スリット、301:スリット、310:ガス供給管取付孔、800:外周面。
P:プラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリットを有する筒状の内周壁部と、
該内周壁部の軸直方向外側に配置される筒状の外周壁部と、
該内周壁部と該外周壁部との間に区画されマイクロ波が伝播する導波通路と、
該内周壁部の軸直方向内側に区画され、該スリットを介して該導波通路に連通し、筒状あるいは柱状の処理対象物の外周面が配置される照射部と、
プラズマ生成用ガスを、直接あるいは間接的に、該スリットに供給するガス供給管と、
を備えてなり、
略大気圧条件下において、該マイクロ波と該プラズマ生成用ガスとを該スリットに通過させることにより該マイクロ波の電界を集中させ該スリット付近に高電界を形成し、該高電界により該プラズマ生成用ガスを電離させ該照射部にプラズマを生成し、該プラズマにより該処理対象物の該外周面に所定の処理を施すマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項2】
前記処理対象物は、前記スリットに対して、相対的に軸方向に移動可能であり、
該スリットは、周方向に延在している請求項1に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項3】
前記内周壁部と前記外周壁部とは、軸直方向断面の外形が互いに略相似形であると共に、略同軸上に配置されている請求項1または請求項2に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項4】
前記スリットは、周方向に延在するリング状を呈している請求項2または請求項3に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項5】
前記スリットは、周方向に延在する部分弧状を呈している請求項2または請求項3に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項6】
前記スリットは、複数配置されており、
複数の該スリットの軸方向投影面は、周方向に連なるリング状を呈している請求項5に記載のマイクロ波プラズマ処理装置。
【請求項7】
前記処理対象物は、フッ素系樹脂製であって円筒状の内層と、該内層の径方向外側に積層されポリアミド系樹脂製であって円筒状の外層と、を有する配管部材の、該内層であり、
所定の前記処理は、該外層の内周面に対する、該内層の外周面の接着性を向上させる表面改質処理である請求項1ないし請求項6のいずれかに記載のマイクロ波プラズマ処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−129327(P2010−129327A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−301841(P2008−301841)
【出願日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】