説明

マイクロ波加熱用断熱材とその製造方法

【課題】加熱効率のよいマイクロ波加熱用断熱材を提供する。
【解決手段】無機酸化物を基材とするマイクロ波加熱用の断熱材であって、微細なカーボン粒子を断熱材に分散させたことにある。カーボンの割合は、0.001〜6wt%であることが好ましい。また、断熱材の密度を2〜6g/cm3とすることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波加熱用断熱材とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般のヒータ加熱など外部加熱方式で用いられる断熱材には、主として酸化物系のアルミナやシリカ,ジルコニア系の素材が用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、特に製鉄用の炉材で、酸化物系セラミックスに黒鉛を分散することにより耐食性,耐熱衝撃性の改善を図る例が開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、近年普及している高周波用の断熱材として、ムライト系断熱材やマグネシア,ジルコニアなどに炭化珪素などを組み合わせることにより、加熱を補助する断熱材が提案されている。そのほか、特許文献3では、高周波用のラミング材として加熱補助効果のないものも提案されている。
【0005】
近年、金属粉末の熱処理あるいは焼結などのプロセスとして、一般の高周波よりも周波数の高い900MHz〜30GHzのいわゆるマイクロ波加熱の検討がなされている。マイクロ波加熱は加熱対象物の自己発熱により加熱する手法であるが、その発熱挙動は対象物の物性に強く依存するため、所望の温度に加熱できない場合は、電磁波吸収能に優れる炭化珪素を用い加熱を補助する手法が取られる(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、特許文献4では主にセラミックス材料を加熱することを目的としており、金属材料などの処理には最適とは言えない。金属材料は一般には誘電体であるセラミックス材料よりもマイクロ波の吸収が劣るため、金属材料を処理する際は、それに合わせた断熱材あるいは断熱手法が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−147761号公報
【特許文献2】特開2004−257725号公報
【特許文献3】特開平11−228242号公報
【特許文献4】特開2004−257725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、加熱効率に優れたマイクロ波加熱用断熱材とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のマイクロ波焼結用断熱材は、基材が無機酸化物で構成され、前記基材上にカーボンが分散していることを特徴とする。
【0010】
本発明のマイクロ波加熱用断熱材の製造方法は、無機酸化物と、バインダとを混練,焼結する工程を有し、前記バインダは、カルボキシルメチルセルロース,メチルセルロース,ポリエチレンオキサイド,トリエタノールアミン,ポリビニルアルコール,でんぷん及びポリアクリル酸化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加熱効率のよい断熱材を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】加熱時の粉末試料および断熱材の配置を示す図。
【図2】実施例1と比較例1の試料を各セッティングでマルチモード炉により加熱した時の温度/出力チャートを示す図。
【図3】含有するカーボンの割合と加熱到達温度の関係を示す図。
【図4】実施例3の断熱材と実施例1の断熱材について、繰返し加熱・焼結実験の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明のマイクロ波加熱用断熱材の特徴は、無機酸化物を基材とする断熱材であって、微細なカーボン粒子を断熱材に分散させたことにある。
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
マイクロ波で対象物を加熱する際、対象物のマイクロ波吸収特性が低い場合、炭化珪素(以後SiC)などのマイクロ波吸収能に優れる材料を加熱補助のために用いる。しかし、SiCは一般に高価である。また、加工性が悪いためSiC自体を対象物に合わせて複雑形状にすることは難しく、対象物が金属材料で大型かつ複雑形状である場合は、加熱ムラなく処理することは困難となる。
【0016】
SiCを粉末状にし、断熱材内側に塗布することにより大型で複雑形状のものにも適用する事はできるが、塗布厚さを均一にする事は難しく、やはり対象物に加熱ムラが生じる場合がある。さらに、SiCのマイクロ波吸収特性は極めて高いため、マイクロ波のエネルギーの大半がSiCに吸収され、対象物の自己発熱が乏しく、ヒータ加熱と同じ加熱方式となる場合があり、マイクロ波加熱特有の効果が薄れるなどの問題がある。
【0017】
SiCよりも熱効率に優れかつ安価な加熱補助効果を有する断熱材として、断熱材中に微細なカーボン粒子を断熱材に分散させた。このような断熱材は、高周波加熱あるいはマイクロ波用加熱炉での熱処理に用いられ、金属系材料の焼結などの熱処理に最適である。
【0018】
断熱材の基材は、Al23,SiO2,ZrO2などの酸化物あるいはこれらの複合体である。アルミナ(Al23)およびシリカ(SiO2)などの酸化物系セラミックスは一般のマグネトロンから発振される0.5〜6GHz程度のマイクロ波の透過性が良く、かつ低密度にすることで優れた断熱性を発揮する。またジルコニア(ZrO2)は高価だが、Al23およびSiO2よりもマイクロ波吸収能が良いため、マイクロ波用の断熱材としては、条件によりAl23およびSiO2よりも効率的に断熱できる場合がある。マイクロ波加熱では加熱対象物が試料周辺のみであり、試料周辺は急熱・急冷されるため、高い断熱性と耐熱衝撃性が必要となる。Al23およびSiO2やZrO2断熱材の密度はある程度低い方が耐熱衝撃性に優れる。
【0019】
従って、これら断熱材の見掛け密度は、1.5〜7g/cm3、好ましくは2〜6g/cm3程度が望ましい。
【0020】
マイクロ波加熱による金属粉末の加熱は、金属粉末の焼結が進むと加熱効率が落ちる。この時、加熱を補助するためのサセプタを用いることが有効である。そこで、本発明では、カーボン成分をサセプタに用いている。
【0021】
カーボンは半導体であり、その粒径によってマイクロ波吸収効率が大きく異なり、カーボン粒径が細かい程加熱され易くなる。そこで、カーボンの粒径は0.01〜100μmであることが好ましい。0.01μm〜100μmとすることで、加熱対象温度が1600℃程度まで対応することが可能となる。
【0022】
カーボンは集合状態では互いの粒子間で電気的接触が生じ、粒径に対して充分な加熱効率が得られない。従って、カーボンは前述の酸化物断熱材に均一に分散している状態が望ましい。カーボンは少なすぎる場合、少量のカーボンにエネルギーが集中しカーボンの消耗が激しくなるため、少なくとも0.001wt%以上のカーボン成分を含む必要がある。また、カーボン量が多すぎる場合、カーボンの昇温にマイクロ波のエネルギーが消費されるため、試料の自己発熱を阻害する。従って、カーボン量は6wt%を上限とすることが好ましい。
【0023】
上記の断熱材を作製する上で、カーボン成分の均一分散が重要となる。低密度酸化物を成形するときに直接的に混錬する手法の場合、微粒子のカーボンは凝集し、その効果が充分に現れない場合がある。酸化物断熱材のバインダに含まれるカーボン成分を利用することで、均一に微細なカーボン粒子を分散させることができる。バインダ成分すなわち有機化合物として原料の酸化物に混錬・成形し、これを非酸化雰囲気(例えば真空中)で500〜1200℃に加熱することでバインダ成分を炭化させ、微細カーボン粒子を断熱材中に均一分散させることができる。
【0024】
この有機成分は、例えば、カルボキシルメチルセルロース,メチルセルロース,ポリエチレンオキサイド,トリエタノールアミン,ポリビニルアルコール,でんぷんあるいはポリアクリル酸系の化合物などである。
【0025】
このとき、バインダである有機化合物は、前駆体に0.01〜10wt%含まれることで、加熱後0.001〜6wt%カーボン成分を含む本発明の断熱材を得ることができる。
【0026】
上記の断熱材は主としてマイクロ波照射装置およびマイクロ波加熱炉などに適用される。マイクロ波加熱炉が高真空あるいは高純度の不活性ガス雰囲気で使用される場合は、酸化物に所定の重量および粒子径のカーボンを分散しただけの状態でも、上記の断熱材は加熱補助効果を発揮する。
【0027】
一方、低真空中や純度の低い不活性ガス雰囲気中などのいわゆる酸化雰囲気中においては、カーボンが激しく消耗するため、酸化物にカーボンを分散しただけの状態では長期間使用することができない。このカーボンの酸化を抑制するためにガラスでこれらをコーティングする事が有効となる。ガラスには例えばケイ酸ナトリウムあるいはケイ酸カリウムなどの液状のものを断熱材に含浸し乾燥させることで、断熱材をガラスコーティングすることができる。このコーティング処理により、耐酸化性を向上させることができ、酸化雰囲気においても優れた耐久性を確保することができる。
【0028】
以下、実施例を用いてさらに本発明の詳細を説明する。
【実施例1】
【0029】
本実施例は、アルミナあるいはシリカ、またはこれらの複合物を基材とする断熱材に、カーボンを添加した断熱材を使用して金属粉の焼結を行った例である。断熱材に含まれるカーボン量は0.5wt%となるように前駆体を調整した。
【0030】
断熱材の150mm×150mm×20mmの板に、外径φ95,内径φ75,深さ7mmの溝を加工し、この溝部に150μm程度の鋳鉄粉末をタッピングにより充填した。試料粉末を平均粒径150μm程度の鋳鉄粉末である。溝に充填された鋳鉄粉末の見掛け密度はおよそ3g/mm3である。
【0031】
図1に、加熱時の粉末試料および断熱材の配置を示す。
【0032】
鋳鉄粉末4を充填した本実施例の断熱材1の周囲を、サセプタを含まないAl23,SiO2で構成される通常の断熱材2で覆った。試料温度の測定は放射温度計で行うため、本実施例の断熱材1および通常の断熱材2には、放射温度計の視野を確保するため、貫通穴3を設けた。2.45GHzのマルチモードタイプのマイクロ波焼結炉により焼結を行った。
【0033】
焼結条件は、雰囲気をN2ガス、目標温度を1050〜1060℃とした。また、初期マイクロ波出力を1kWとし、加熱状況を見ながら2kWを上限として調整した。温度の測定は放射温度計により行い、設定放射率は1.0とした。
【0034】
〔比較例1〕
比較例として、Al23,SiO2で構成されるカーボン成分を含まない断熱材に、実施例1と同様に溝を加工し、その溝部に鋳鉄粉末4を充填し、マイクロ波焼結炉により焼結を行った。この時、溝を加工した断熱材の蓋としてSiC板5を置き、加熱補助とした。
【0035】
図2に、実施例1及び比較例1の試料を各セッティングでマルチモード炉により加熱した時の温度/出力チャートを示す。
【0036】
実施例1の断熱材を使用した場合、1.2kWで目標温度に達し、優れた加熱効率を示した。実施例1の断熱材により加熱した試料は、焼結による収縮は殆どなく、ほぼ充填した形状のまま焼結ができた。加熱後の試料は充分ハンドリングでき、リング全周にわたり良好な焼結状態であった。
【0037】
一方、比較例1(従来断熱材とSiC板の組合せ)の場合、加熱初期の温度の上昇が遅かった。これはマイクロ波出力の大半がSiCに吸収されているためである。また、目標温度に到達するのに2kWを要した。通常断熱材とSiC板を用いた場合、リング全周にわたって焼結不足であった。通常の断熱材とSiC板による加熱の場合、試料粉末の自己発熱が抑えられる他、試料への入熱が試料上方(SiC板対向面)からのみとなるため、粉末の焼結が十分に進まなかった。
【0038】
上記の通り、実施例1の断熱材では、比較例1(通常断熱材とSiC板の組合せ)より優れた加熱効率を示し、低出力でかつ効率的に粉末を焼結することができる事が確認された。
【実施例2】
【0039】
実施例2は、実施例1の断熱材の前駆体の調整により、含有カーボンを0.3〜9wt%とした例である。φ10程度の小型の実施例2の断熱材を単独でマイクロ波照射する要素実験を行った。加熱条件は、マイクロ波出力を1kW(マルチモード炉)、窒素雰囲気中とした。図3に、含有するカーボンの割合と加熱到達温度の関係を示す。カーボン量が7wt%程度以上では、急激な温度上昇とプラズマを伴う放電が生じた。
【0040】
カーボン量が7wt%の断熱材で、実施例1と同様の鋳鉄粉末の焼結実験を行った。その結果、試料の焼結が進まない部位と溶融が生じる部位にわかれ、健全な焼結体を得る事ができなかった。
【実施例3】
【0041】
実施例3の断熱材として、実施例1の断熱材の表面にケイ酸ナトリウムによるコーティングを施した。ケイ酸ナトリウムに純水を加え、これを実施例1の断熱材の表面から含浸させた後、100℃程度で1時間乾燥させた。
【0042】
実施例3(コーティングあり)の断熱材と実施例1(コーティング無し)の断熱材について、繰返し加熱・焼結実験を行った結果を図4に示す。実施例1の条件で加熱実験を繰返し行った。
【0043】
実施例1の断熱材では、加熱回数とともに目標温度(1060℃)に到達するためのマイクロ波出力が上昇し、12回目以降の加熱ではマイクロ波出力2kWを印加しても目標温度に加熱することができなかった。実施例1の断熱材を繰返し使用した場合、雰囲気中に不純物として存在している酸素成分と断熱材中のカーボン成分が反応し、カーボンが消耗したと考えられる。一方、コーティングを行った実施例3の断熱材は、12回以上の使用においても加熱効率の低下が認められず、優れた耐久性を示した。したがって、表面をコーティングすることにより、カーボンの消耗を抑制できる。
【0044】
なお、コーティング材はケイ酸カリウムでも同様の効果を発揮する事を確認した。断熱材の表面にガラスコーティングが生成したため、カーボンの消耗が抑制されていると考えられる。
【符号の説明】
【0045】
1 本発明の断熱材
2 通常の断熱材
3 放射温度計用の貫通穴
4 鋳鉄粉末
5 SiC板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材が無機酸化物で構成され、前記基材上にカーボンが分散していることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材。
【請求項2】
請求項1において、前記断熱材中のカーボン量が0.001〜6wt%であることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材。
【請求項3】
請求項1において、前記カーボンは0.01〜100μmの粒子であり、前記断熱材の密度は2〜6g/cm3であることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材。
【請求項4】
請求項1において、前記無機酸化物が、Al23,SiO2及びZrO2から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材。
【請求項5】
請求項1において、表面が酸化物系ガラスでコーティングされていることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載された断熱材を備えたマイクロ波炉であって、マイクロ波が900MHz〜30GHzであることを特徴とするマイクロ波炉。
【請求項7】
無機酸化物と、バインダとを混練,焼結する工程を有し、
前記バインダは、カルボキシルメチルセルロース,メチルセルロース,ポリエチレンオキサイド,トリエタノールアミン,ポリビニルアルコール,でんぷん及びポリアクリル酸化合物から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材の製造方法。
【請求項8】
請求項7において、前記バインダの混合量が0.01〜10wt%であることを特徴とするマイクロ波焼結用断熱材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−171834(P2012−171834A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−35299(P2011−35299)
【出願日】平成23年2月22日(2011.2.22)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】