説明

マイクロ波放電装置

【課題】マイクロ波放電装置において、放電空間に対する構造的な制約を増すことなく、大気圧プラズマによって活性化した粒子に流速を付与可能とする。
【解決手段】マイクロ波放電装置1は、マイクロ波を導波する第1および第2の導体21,22と、各導体21,22の終端部21a,22aに形成された放電空間23と、放電空間23に生成されるプラズマ中の荷電粒子に作用させる電界を生成する電圧源3とを備えている。プラズマPは、両導体21,22により導波されるマイクロ波によって生成される。電圧源3が印加する電界は、プラズマ中の荷電粒子に電磁気力を作用させて荷電粒子を含む気体の流れを発生させる。電界は、終端部21a,22aを電極として印加することができ、放電空間23に対する構造的な制約を増すことがない。流速を付与された気体中には、プラズマに起因する活性化した粒子が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ波により大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、大気圧中において、マイクロ波が伝搬するマイクロストリップ線路の終端部にマイクロ波によって大気圧プラズマを生成するようにしたマイクロ波放電装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。この装置は、プラズマが生成される放電空間に流速を有するガスを流入させることにより、放電空間からプラズマを吹き出させて被処理材料にプラズマを吹き付けて、その材料表面にCVD成膜やエッチング等のプラズマ処理を行うことを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−299720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述したような従来のマイクロ波放電装置においては、プラズマを被処理材料の表面に導くためにガス流を用いており、そのガスの導入のためのノズルや流路が放電空間に近接配置されるので、装置が複雑化している。
【0005】
本発明は、上記課題を解消するものであって、放電空間に対する構造的な制約を増すことなく、大気圧プラズマによって活性化した粒子に流速を付与することができるマイクロ波放電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を達成するために、本発明のマイクロ波放電装置は、大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置において、マイクロ波を導波する第1および第2の導体と、第1および第2の導体の終端部に形成された放電空間と、第1および第2の導体により導波されるマイクロ波によって放電空間に生成されるプラズマ中の荷電粒子に電磁気力を作用させて荷電粒子を含む気体の流れを発生させる駆動手段と、を備えたことを特徴とする。
【0007】
このマイクロ波放電装置において、駆動手段は、第1および第2の導体間にバイアス電圧を印加して放電空間に電界を生成する電界発生手段を含むことができる。
【0008】
このマイクロ波放電装置において、駆動手段は、放電空間に磁界を生成する磁界発生手段を含むことができる。
【0009】
このマイクロ波放電装置において、第1および第2の導体は、誘電体の表面で終端しており、放電空間が誘電体の表面上の空間とされていてもよい。
【0010】
このマイクロ波放電装置において、第1および第2の導体は、互いに平行かつ同じ方向に延伸して終端部を形成していてもよい。
【0011】
このマイクロ波放電装置において、放電空間は、誘電体に設けた凹部によって形成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明のマイクロ波放電装置によれば、プラズマ中の荷電粒子に電磁力を作用させるので、放電空間に対する構造的な制約を増すことなく、大気圧プラズマによって活性化した粒子に流速を付与して、荷電粒子を含む気体の流れを発生させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】(a)は本発明の第1の実施形態に係るマイクロ波放電装置についての斜視図、(b)は同装置の断面図。
【図2】同装置に供給するマイクロ波のバイアス電圧を説明する波形図。
【図3】(a)は同装置の変形例の斜視図、(b)は同装置の他の変形例の斜視図。
【図4】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同変形例の断面図。
【図5】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同変形例の断面図。
【図6】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同変形例の断面図。
【図7】同装置のさらに他の変形例の断面図。
【図8】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同変形例の断面図。
【図9】(a)は第2の実施形態に係るマイクロ波放電装置についての斜視図、(b)は同装置の断面図。
【図10】同装置の変形例の断面図。
【図11】(a)は同装置の他の変形例の断面図、(b)は同装置のさらに他の変形例の断面図。
【図12】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同変形例の断面図。
【図13】(a)は同装置のさらに他の変形例の斜視図、(b)は同装置のさらに他の変形例の断面図。
【図14】(a)は同装置におけるマイクロ波導波用の導体の終端部の他の変形例の断面図、(b)は同終端部の斜視図。
【図15】(a)は同装置におけるマイクロ波導波用の導体の終端部のさらに他の変形例の断面図、(b)は同終端部の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1の実施形態)
以下、本発明の一実施形態に係るマイクロ波放電装置について、図面を参照して説明する。図1(a)(b)、図2は第1の実施形態に係るマイクロ波放電装置を示す。図1(a)(b)に示すように、マイクロ波放電装置1は、マイクロ波によって大気圧プラズマを生成する放電素子2と、放電素子2によって生成されるプラズマ中の荷電粒子に電磁気力を作用させるための電界を生成する電圧源3(電界発生手段)とを備えている。放電素子2は、誘電体板20と、誘電体板20とともにマイクロストリップ線路を構成する第1および第2の導体21,22と、その導体の終端部21a,22aに形成された放電空間23とを備えている。第1の導体21は、四角形の誘電体板20の一端側から他端側(図中X方向)に向けて、誘電体板20の上面に延設された細長い四角パターン形状の電極であり、その終端部21aは、誘電体板20の中央部付近にある。第2の導体22は、誘電体板20の下面の一端側から他端側、さらに誘電体板20の他端部表面を経由して誘電体板20の上面にまで延設された幅の広い導体である。本例では、第2の導体22の幅は、誘電体板20の幅と同じであるが、第1の導体21との間でマイクロストリップ線路を構成できる幅であればよい。第2の導体22は、誘電体板20の上面において、誘電体板20の一端側に向けて突出した、第1の導体21の幅と同じ幅の終端部22aを有している。両終端部21a,22aは、互いに離間して対向し、その隙間の空間が放電空間23を形成している。
【0015】
大気中において、放電素子2の第1および第2の導体21,22間に、マイクロ波源10からマイクロ波電力を供給すると、終端部21a,22a間の高周波電界によって放電空間23における大気ガスが電離して大気圧プラズマPが生成される。さらに、第1および第2の導体21,22間に、電圧源3によってバイアス電圧Vb(図2)を印加すると、終端部21a,22a間の高周波電界にバイアス電圧Vbによる電界が重畳される。この重畳された電界は、プラズマP中の荷電粒子に電磁気力を作用させて、例えば正イオンを、例えばX方向に移動させる。すると、この正イオンの移動は、正イオンと大気中の分子との衝突を引き起こし、荷電粒子を含む気体のX方向の流れが発生する。電圧源3は、放電空間23に電界を生成して荷電粒子を含む気体の流れを生成する駆動手段を構成している。
【0016】
本実施形態によれば、プラズマ中の荷電粒子に電界の力を作用させて駆動するので、荷電粒子を含む気体の流れを発生させることができる。また、電界を発生させるための電極は、マイクロストリップ線路の終端部21a,22aをそのまま用いるので、放電空間に対する構造的な制約を増すことがなく、マイクロ波放電装置1の産業上の利用範囲を広げることができる。すなわち、このような荷電粒子を含む気体の流れによって、プラズマ発生に基づく活性化粒子を放電素子2から放出させることができ、これらを、被処理表面に導くことにより、被処理表面の活性化や加工等を行うことができる。
【0017】
図3(a)(b)は、放電素子2の変形例を示す。図3(a)に示す放電素子2は、放電空間23が誘電体板20の上面他端部に形成され、図3(b)に示す放電素子2は、放電空間23が誘電体板20の端部面に形成されている。このように、放電空間23の配置は、誘電体板20における任意の位置とすることができる。この両者は、誘電体板20に対する、バイアス電圧Vbによる電界の方向が互いに異なる。前者における電界の方向は、図1のX方向と同様であり、後者のそれは、誘電体板20の厚み方向であり、図中における上下方向である。誘電体板20の端部付近においては、駆動された気体の流れを制約する誘電体板20がないので、放電空間23からの気体の放出が容易となる。また、誘電体板20は、四角形に限らず、マイクロストリップ線路を形成できる任意形状のもの、例えば、平板ではなく自由曲面を有するものとすることができる。曲面を有する誘電体の表裏を用いて、第1および第2の導体21,22を備えてマイクロストリップ線路を形成し、その曲面の頂部に放電空間23を配設すると、誘電体に邪魔されずに気体の放出が容易となる。
【0018】
図4(a)(b)は、放電素子2の他の変形例を示す。この変形例は、上述のマイクロストリップ線路の代りに、同軸ケーブルを用いて放電素子2を形成している。すなわち、同軸ケーブルの端部において、同軸ケーブルの心線を成す第1の導体21を拡径して円盤状の終端部21aとし、同軸ケーブルの外皮を成す第2の導体22の端部を終端部22aとして、同軸ケーブルの端面に円形の放電空間23を形成している。この変形例は、電圧源3による電界の方向を、同軸ケーブルの中心からの放射状とすることができ、正イオンの外向き加速により、荷電粒子を含む気体の流れを外向き放射状とすることができる。図5(a)(b)は、放電素子2のさらに他の変形例を示す。この変形例は、同軸ケーブルの途中に設けた貫通穴を放電空間23とする放電素子2である。この変形例では、貫通穴方向の気体の流れを生成できる。
【0019】
図6(a)(b)、図7、図8(a)(b)は、放電素子2のさらに他の変形例を示す。図6(a)(b)に示す変形例は、平板状のマイクロストリップ線路における第1の導体21の終端に貫通穴を設け、その貫通穴を放電空間23としている。第1の導体21の終端部21aは、貫通穴の開口縁に周設されている。なお、図7に示すように、終端部21a,22aを、貫通穴の内部に入り込ませることもでき、放電電極間をより近づけることにより、放電によるプラズマ生成がより容易となる。また、図8(a)(b)に示すように、放電空間23を、貫通穴ではなく、凹部によって形成することもできる。この場合、非貫通の凹部に連通する横穴24aを形成しておくことにより、放電用のガスの供給路を明確に設定することができ、荷電粒子を含む気体の流れをより容易に形成できる。これらの変形例は、電圧源3による電界の方向が、誘電体板20の厚み方向(Y方向)であり、荷電粒子や活性粒子を含む気体の流れを誘電体板20の表面に対して垂直方向とすることができる。また、これらの変形例によれば、放電空間23が、貫通穴または凹部から成り、露出していないので、その内部を汚す心配が少なく、放電素子2の取り扱いが容易となる。
【0020】
(第2の実施形態)
図9(a)(b)は、第2の実施形態に係るマイクロ波放電装置1を示す。この実施形態のマイクロ波放電装置1は、放電素子2によって生成されるプラズマ中の荷電粒子に電磁気力を作用させるため、第1の実施形態における電圧源3に代えて、磁界を生成する電磁コイル4(磁界発生手段)を備えたものである。電磁コイル4は、放電空間23を磁界内に含むように、誘電体板20の外部に巻回され、コイルの軸方向がストリップ線路の方向(X方向)となっている。電磁コイル4が、不図示の電流源からの電流によって励磁されると、ストリップ線路の方向に磁界が発生し、プラズマ中の電子が磁力線に沿った軌道に拘束されて運動する。プラズマP中の正イオンは、電子の移動に伴って移動し、荷電粒子を含む気体の流れが形成される。
【0021】
図10乃至図13に、第2の実施形態の変形例を示す。図10に示す変形例は、荷電粒子を含む気体の流れが形成する駆動源として、電界と磁界とを用いるものであり、電圧源3と電磁コイル4とを備えている。図11(a)(b)に示す変形例は、それぞれ、上述した図3(a)(b)の放電素子2に、電磁コイル4を適用する変形例である。図12(a)(b)に示す変形例は、図4(a)(b)の放電素子2に、電磁コイル4を適用する変形例である。また、図13(a)(b)に示す変形例は、図6(a)(b)の放電素子2に、それぞれ、電磁コイル4、永久磁石4aを適用する変形例である。図11乃至図13に示した変形例において、電磁コイル4に加え、電圧源3による電界を用いることもできる。また、電磁コイル4や永久磁石4aによる磁界を、放電空間23から発散する磁界とすることにより、プラズマP中の電子の軌道を発散させて、正イオンの外向きの移動を助けることができる。また、磁界により、プラズマをより安定に高密度にすることができる。
【0022】
次に、図14、図15により、第1および第2の導体21,22の終端部21a,22aの構成について説明する。上述した各実施形態および変形例において、第1および第2の導体21,22は、誘電体板20の表面で終端しており、放電空間23が誘電体板20の表面上の空間とされているが、終端部21a,22aの構成はこれに限るものではない。すなわち、終端部21a,22aを、誘電体板20の表面から離れた状態で形成してもよい。例えば、図14(a)(b)、図15(a)(b)に示すように、終端部21a,22aを、誘電体板20の表面から立ち上げたり、立ち上げた端部をさらに、誘電体板20の表面と平行に成るように屈曲させたりしてもよい。このように、終端部21a,22aを、誘電体板20の表面から離れた状態で形成することにより、放電空間23を誘電体板20の表面に影響されない位置に形成することができる。また、図1、図3等に示した放電空間23において、終端部21a,22a間の誘電体板20の表面に凹部を形成してもよく、これにより、同様の効果が得られる。
【0023】
マイクロストリップ線路における終端部21a,22aの構成について、さらに説明する。通常、第2の導体22は接地電極(GND)である。終端部21a,22aは、相互の間にマイクロ波電場を形成する放電電極を構成するものであり、放電空間23を介して互いに対向配置され、その間隔が狭いほど、また、電界を集中させて強くするほど、放電生成(プラズマ生成)が容易となる。そのような対向配置を形成するために、図3(a)(b)では、第1および第2の導体21,22が、互いに平行かつ同じ方向に延伸して終端部21a,22aを形成している。図1(a)(b)における第1および第2の導体21,22は、互いに平行かつ同じ方向に延伸した後、第2の導体22が、第1の導体21がよりも先に延伸した後、逆戻りして、互いに対向する終端部21a,22aを形成している。この場合に、放電空間23に電界が集中するように、終端部22aに突出部が設けられている。
【0024】
なお、本発明は、上記構成に限られることなく種々の変形が可能である。例えば、上述した各実施形態や変形例の構成を互いに組み合わせた構成とすることができる。
【符号の説明】
【0025】
1 マイクロ波放電装置
10 マイクロ波源
2 放電素子
20 誘電体
21 第1の導体
21a 第1の導体の終端部
22 第2の導体
22a 第2の導体の終端部
23 放電空間
3 電圧源(駆動手段、電界発生手段)
4 電磁コイル(駆動手段、磁界発生手段)
4a 永久磁石(駆動手段、磁界発生手段)
P プラズマ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
大気圧プラズマを生成するマイクロ波放電装置において、
マイクロ波を導波する第1および第2の導体と、
前記第1および第2の導体の終端部に形成された放電空間と、
前記第1および第2の導体により導波されるマイクロ波によって前記放電空間に生成されるプラズマ中の荷電粒子に電磁気力を作用させて前記荷電粒子を含む気体の流れを発生させる駆動手段と、を備えたことを特徴とするマイクロ波放電装置。
【請求項2】
前記駆動手段は、前記第1および第2の導体間にバイアス電圧を印加して前記放電空間に電界を生成する電界発生手段を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項3】
前記駆動手段は、前記放電空間に磁界を生成する磁界発生手段を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項4】
前記第1および第2の導体は、誘電体の表面で終端しており、前記放電空間が前記誘電体の表面上の空間とされていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項5】
前記第1および第2の導体は、互いに平行かつ同じ方向に延伸して前記終端部を形成していることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。
【請求項6】
前記放電空間は、誘電体に設けた凹部によって形成されていることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載のマイクロ波放電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−234666(P2012−234666A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−101274(P2011−101274)
【出願日】平成23年4月28日(2011.4.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】