マイクロ流体チップ
【課題】少量の試料を容易に分注することのできるマイクロ流体チップを提供する。
【解決手段】本発明にかかるマイクロ流体チップ100は、第1面11および第1面11に対向する第2面12を有し、リザーバー15が形成されたリザーバー領域13およびリザーバー領域13に平面視において隣り合うウェル領域14が設けられるとともに、ウェル領域14内に第1面11側に開口16aを有するウェル16が形成された基板10と、基板10の第1面11側に敷設され、平面視において、リザーバー領域13およびウェル領域14を囲むように基板10に固着された第1固着領域21、および、リザーバー領域13側に不連続な部分を有して開口16aの輪郭に沿うように基板10に固着された第2固着領域22を有するカバーと、を含む。
【解決手段】本発明にかかるマイクロ流体チップ100は、第1面11および第1面11に対向する第2面12を有し、リザーバー15が形成されたリザーバー領域13およびリザーバー領域13に平面視において隣り合うウェル領域14が設けられるとともに、ウェル領域14内に第1面11側に開口16aを有するウェル16が形成された基板10と、基板10の第1面11側に敷設され、平面視において、リザーバー領域13およびウェル領域14を囲むように基板10に固着された第1固着領域21、および、リザーバー領域13側に不連続な部分を有して開口16aの輪郭に沿うように基板10に固着された第2固着領域22を有するカバーと、を含む。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等に液体の微細な流路が設けられたマイクロ流体チップを使用して、化学分析や化学合成、あるいはバイオ関連の分析を行う方法が注目されている。マイクロ流体チップは、Micro Total Analytical System(マイクロTAS)あるいはラボオンチップ(Lab−on−a−chip)などの名称で呼ばれることもある。
【0003】
マイクロ流体チップの中には、一般に、ウェルと称される複数の微小な反応容器を備えており、当該複数の反応容器の各々において、互いに異なる反応を行うことができるものがある。マイクロ流体チップは、従来の分析装置、分析器具、反応容器などに比較して試料や試薬の量を非常に少なくすることができ、また、操作にともなう廃棄物を少なくすることができるなどの利点がある。そのため、医療診断、環境や食品のオンサイト分析、医薬品や化学品等の生産等、広い分野での利用が期待される。例えば、特許文献1には、リザーバーとウェルとがチャネルと称する流路によって連絡され、リザーバーに導入されたサンプルをウェルに分注するマイクロカード(チップ)が記載されている。
【0004】
マイクロ流体チップは、試薬が少量で足りることから、各種の検査のコストを下げることが可能となり、また、試料(検体)の必要量も少量でよいため、反応時間を大幅に短縮することができる。特に医療分野の検査等にマイクロ流体チップを適用する場合には、血液などの検体の必要量が小さいため、例えば患者の負担を軽減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−509199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、例えば、特許文献1のチップのように、リザーバーとウェルの間に流路を設けたマイクロ流体チップでは、試料の分注を行う際に、当該流路を通じて近隣の複数のウェル間で互いに試料が混合してしまい、コンタミネーションを生じる場合があった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、分注の際に試料のコンタミネーションを生じにくいマイクロ流体チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明にかかるマイクロ流体チップの一態様は、
第1面および前記第1面に対向する第2面を有し、リザーバーが形成されたリザーバー領域および該リザーバー領域に平面視において隣り合うウェル領域が設けられるとともに、前記ウェル領域内に前記第1面側に開口を有するウェルが形成された基板と、
前記基板の前記第1面側に敷設され、平面視において、前記リザーバー領域および前記ウェル領域を囲むように前記基板に固着された第1固着領域、および、前記リザーバー領域側に不連続な部分を有して前記開口の輪郭に沿うように前記基板に固着された第2固着領域を有するカバーと、
を含む。
【0010】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、試料をウェルに分注する際に、ウェル内に導入された試料が逆流しにくく、該ウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。すなわち、コンタミネーションを抑制することができる。
【0011】
なお、本発明において、「敷設」とは、基板の第1面にカバーが敷かれた状態のことを指し、「固着」とは、基板の第1面に敷設されて固定されている状態を指す。したがって、カバーが敷設され、固着領域を有する状態とは、基板とカバーとの間に間隙を形成することが容易な部分と、基板とカバーとが分離しにくい部分とがある状態であり、後者の基板とカバーとが分離しにくい部分を、固着された固着領域と表現するものとする。
【0012】
またなお、本発明において、「平面視において」または「平面的に見て」という場合は、基板の第1面に直交する方向から見た場合のことを指すものとする。
【0013】
[適用例2]
適用例1において、
前記ウェルは、平面視において、前記開口の輪郭が前記リザーバー領域側に突出する突出部を有してもよい。
【0014】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、突出部の形状によって、試料の導入を容易にすることができる。
【0015】
[適用例3]
適用例2において、
前記突出部を複数有してもよい。
【0016】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、ウェル内の気体と、導入される試料との置換をより効率的に行うことができる。
【0017】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の合計の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上であってもよい。
【0018】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【0019】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の最も長く連続する部分の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上であってもよい。
【0020】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【0021】
[適用例6]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記第2固着領域の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって前記開口を区画した場合に、前記直線および前記第2固着領域によって囲まれる前記開口の区画部分の面積は、前記開口の面積の50%以上を占めることができる。
【0022】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の基板10を模式的に示す平面図。
【図2】実施形態の基板10の断面の模式図。
【図3】実施形態のウェル16近傍を拡大して模式的に示す平面図。
【図4】実施形態のウェル16近傍を拡大して模式的に示す断面図。
【図5】実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図。
【図6】実施形態のマイクロ流体チップ100の断面の模式図。
【図7】実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図。
【図8】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図9】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図10】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図11】参考例のマイクロ流体チップを模式的に示す図。
【図12】変形例のマイクロ流体チップのウェル46を模式的に示す平面図。
【図13】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図14】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図15】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図16】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図17】変形例のマイクロ流体チップのウェル46を模式的に示す平面図。
【図18】変形例のマイクロ流体チップ200の断面の模式図。
【図19】変形例のマイクロ流体チップ300の断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。そのため、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で実施される各種の変形例も含む。なお、下記の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1.マイクロ流体チップ
本実施形態のマイクロ流体チップ100は、基板10と、カバー20とを有する。
【0026】
1.1.基板
図1は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の基板10を模式的に示す平面図である。図2は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の基板10の断面の模式図である。図2は、図1のA−A線の断面に相当する。
【0027】
1.1.1.基板
基板10は、マイクロ流体チップ100の基体となる板状の部材である。基板10は、図2に示すように、互いに表裏の関係を有する(互いに対向する)第1面11および第2面12を有する。基板10の形状は、平板状であれば特に限定されない。基板10の厚み(第1面11および第2面12の間の距離)も特に限定されないが、取り扱いの容易さや、破損しにくさの点で、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。基板10の平面的な外形形状については、特に限定されず、矩形、円形などとすることができる。本実施形態では、基板10の平面的な形状が長方形である例を示す。
【0028】
基板10の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックス(登録商標)ガラス)、および有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。マイクロ流体チップ100を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、基板10は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、マイクロ流体チップ100をPCRに用いる場合、基板10はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0029】
さらに、基板10の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。基板10の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、後述するウェル16等をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、基板10の材質を透明なものとすることができる。またなお、マイクロ流体チップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、基板10の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0030】
基板10が無機材料で形成される場合には、フォトリソグラフィー法を用いたドライエッチングなどを行って、成形、加工することができる。また、基板10が樹脂を主成分として形成される場合には、鋳型成形、射出成形またはホットエンボス加工などの方法によって、成形、加工することができる。
【0031】
1.1.2.リザーバー領域およびウェル領域
図1に示すように、基板10には、平面視において、リザーバー領域13およびウェル領域14が設けられる。リザーバー領域13およびウェル領域14は、互いに隣り合って設けられる。リザーバー領域13およびウェル領域14は、隣接して設けられてもよい。また、リザーバー領域13およびウェル領域14は、複数設けられてもよい。リザーバー領域13およびウェル領域14は、平面視において、後述するカバー20の第1固着領域21の内側に設けられる。基板10におけるリザーバー領域13およびウェル領域14の設けられる位置は、基板10に遠心力等の慣性力が印加された際に、リザーバー領域13からウェル領域14に向かう方向に当該慣性力が作用することができる限り特に限定されない。リザーバー領域13およびウェル領域14の平面的な形状は、特に限定されず、矩形、円形等とすることができる。
【0032】
1.1.3.リザーバー
基板10のリザーバー領域13には、リザーバー15が形成される。リザーバー15は、マイクロ流体チップ100を使用する際に、少なくとも慣性力が印加される前に、試料(検体等の液体)を貯留するための空間である。リザーバー15は、基板10の第1面11に開口を有して形成される。リザーバー15の平面的な形状は限定されず、円形、矩形などとすることができる。リザーバー15の容積の大きさは、例えば、ウェル16の合計の容積と同じかそれよりも大きくすることが好ましい。
【0033】
リザーバー15は、図1および図2の例では、第1面11側に開口する窪み状に形成されているが、これに限定されず、第2面12側に貫通していてもよい。マイクロ流体チップ100を使用する際には、リザーバー15には、外部から試料が供給されるが、図1および図2の例では、例えば、カバー20を装着する前に供給されてもよいし、カバー20が装着された後にあっては、後述の変形例のように、カバー20のリザーバー15に対応する領域に孔を形成して該孔から供給されてもよい、さらに、カバー20をリザーバー15に対応する領域だけ剥離して供給されてもよい。なお、リザーバー15が採りうる他の形態については、変形例の項でも説明する。
【0034】
1.1.4.ウェル
基板10のウェル領域14には、基板10の第1面11側に開口16aを有するウェル16が形成される(図1および図2参照)。図3は、マイクロ流体チップ100のウェル16近傍を拡大して示す平面図である。図4は、マイクロ流体チップ100のウェル16近傍の断面を拡大して示す模式図である。図3のB−B線の断面が図4に相当する。
【0035】
ウェル16は、ウェル領域14に複数形成されることができる。ウェル領域14に複数形成される際のウェル16の配置は、その機能を損なわない限り任意である。ウェル16は、基板10の第1面11側に開口16aを有した容器状の形状を有する。ウェル16は、内部に検体(試料)等の液体を保持することができる。また、ウェル16内において、検体等の液体の反応を行うことができる。例えば、ウェル16には、リザーバー15の内容物を導入して保持することができ、その反応容器としての機能を果たすことができる。
【0036】
ウェル16の形状は、容器状であれば、特に限定されず、多様な形態を採ることができる。例えば、ウェル16の形状は、円柱、角柱、円錐台および角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。また、ウェル16の形状は、平面視において、開口16aよりも大きい輪郭を有してもよく、このような形状としては、例えば、開口16aから基板10に厚み方向に延びる第1のウェルと、該第1のウェルに基板10内部で接続して、リザーバー領域13と反対側の方向に延びる第2のウェルとを有する、アルファベットの「L」型の形状等であってもよい。本実施形態ではウェル16の形状として、図1ないし図4に示すような円柱状(平面視において円形であって、断面視において矩形である形状)の形状を有する場合について説明する。ウェル16が採りうる他の形状については、変形例の項でさらに説明する。
【0037】
図4に示すように、ウェル16内には、あらかじめ、反応または検査のための試薬30を配置しておくことができる。配置される試薬30の状態は、固体あるいは液体であることが好ましい。例えば、マイクロ流体チップ100をPCRのチップとして用いる場合には、試薬30としては、標的核酸を増幅するためのプライマー(核酸)、増幅産物量を測定するための蛍光試薬(例えばSYBR GREEN(商標))、および、必要な場合には他の核酸などを配置することができる。試薬30として、前記例示のもののような、乾燥等に対して安定性の高いものを用いる場合には、ウェル16内で乾燥されてもよく、図3に示すように、例えば、ウェル16の内壁面に塗布されて乾燥された状態で配置されてもよい。このように試薬30をウェル16の内壁面に塗布する方法としては、例えば、インクジェット方式の印刷に用いられる液体噴射ヘッド等により、試薬30を塗布する方法が挙げられる。
【0038】
また、試薬30をウェル16内に配置する場合は、複数のウェル16に互いに同じ試薬30が配置されてもよいし、互いに異なる試薬30が配置されてもよい。ウェル16が複数形成されている場合、ウェル16毎にどのように試薬30を配置するかについては、所望の反応や検査の態様にしたがって任意に設計することができる。
【0039】
ウェル16内において試薬30が配置される位置は、特に限定されないが、開口16aから遠い位置であるほど、試薬30が、導入された液体とともにウェル16の外に流出する可能性が小さくなる点でより好ましい。
【0040】
ウェル16の開口16aは、後述するカバー20によって塞がれることができる。これにより、ウェル16は、独立した密閉容器となることができる。このようにウェル16を独立して密閉することにより、他のウェル16の内容物との混合やコンタミネーションを抑制できる。ウェル16は、カバー20がウェル16の開口16aの周囲に敷設されて固着されると、独立した密閉容器となることができる。
【0041】
1.2.カバー
図5は、本実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図である。図6は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の断面の模式図である。図6は、図5のC−C線の断面に相当する。
【0042】
1.2.1.カバー
カバー20は、基板10の第1面11側に敷設される。本明細書では「敷設」との文言は、カバー20と基板10の第1面11とが、固着(固定)されている場合と固着されていない場合とを含む意味で用いている。カバー20は、フィルムまたはシート状の形状を有する。カバー20の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上5mm以下とすることができる。カバー20の平面的な外形形状は、基板10の平面的な外形形状と一致していてもいなくてもよい。図5の例では、カバー20の平面的な外形形状は、基板10の平面的な外形形状と一致している。カバー20は、静的な状態では基板10に接しているが、マイクロ流体チップ100に遠心力などの慣性力が印加された場合には、後述する固着領域以外の領域で、基板10とカバー20との間に間隙が形成される程度の可撓性ないしは弾性を有する。また、カバー20は、基板10に接した状態で、基板10に設けられるウェル16の開口16aを塞ぎ、ウェル16を独立した空間(容器)とすることができる。カバー20は、基板10に押しつけられる場合などに、ウェル16の開口16a付近において撓みにくくウェル16の容積に大きな変化を生じない程度の弾性を有することが好ましい。このようなカバー20の弾性の程度は、カバー20の厚み、ウェル16の開口16aの大きさ、および基板10に当接される際の押圧などを考慮して、材質を選ぶことにより適宜設計されることができる。
【0043】
カバー20の材質としては、遠心力等の慣性力によって撓むことができる程度の弾性を有するものが挙げられ、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂および各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。マイクロ流体チップ100を、PCRの反応チップとして使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、カバー20は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。マイクロ流体チップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、カバー20の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。またなお、マイクロ流体チップ100をPCRのチップとして用いる場合は、カバー20はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0044】
また、カバー20の材質には、基板10と同様に、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質を配合することができる。カバー20の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。さらに、後述するウェル16をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、カバー20の材質を透明なものとすることができる。カバー20は、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、プレス成形などの方法によって、成形、加工することができる。
【0045】
カバー20は、一方の表面20aが基板10に向かうように敷設される。すなわち、表面20aが基板10の第1面11に面するように設けられる。カバー20の表面20aは、接着性を有してもよい。表面20aが接着性を有する場合には、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されるときに、表面20aと第1面11とが剥離できる程度の接着力とすることが好ましい。ただし、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力を印加し終えた後はこの限りではなく、表面20aと第1面11とが離れにくいように接着(固着)する程度の接着力を有してもよい。
【0046】
カバー20の表面20aは、接着力を有さなくてもよい。このような場合には、第1面11に表面20aを固着させるために、接着剤を利用することや、熱融着を行うことができる。また、表面20aは、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有してもよい。このような表面20aとしては、多孔質となっているものを例示することができる。このような方法であれば、基板10およびカバー20を固着させる際に、加圧させるだけなので熱が発生することがなく、マイクロ流体チップ100の温度の上昇を抑制することができ、試料等に与える熱の影響を抑制することができる。このような表面20aを有するカバー20の具体例としては、商品名:LightCycler 480 Sealing Foil・型名:04 729 757 001・ロシュ・ダイアグノスティクス社製、商品名:ポリオレフィン マイクロプレートシーリングテープ・型名:9793・3M社製、商品名:アンプリフィケーションテープ96・型名:232702・Nunc社製などを例示することができる。
【0047】
さらに、表面20aは、潜在的な接着力を有してもよい。すなわち、表面20aは、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加される前までは接着力を有さず、慣性力が印加された後の所望の時点で、エネルギー線(例えば、紫外線、電子線など)を照射することによって接着力を発揮できるものであってもよい。
【0048】
また、表面20aと基板10の第1面11とを固着させる方法としては、超音波溶着法を利用してもよい。例えば、固着させたい領域の形状に対応する形状の治具をカバー20の基板10に対して固着させたい部分に押しつけて超音波振動させ、カバー20と基板10とを溶着(固着)させてもよい。このようにすれば、基板10とカバー20とを超音波照射によって溶着(固着)させるため、例えば液体が、生化学的な試料である場合などにおいて、試料に対する加熱を抑えることができるため、試料に与えるダメージを少なくすることができる。また、例えば、ウェルに含まれる試薬の活性を低下させることも抑制できる。さらに、第1固着領域21を超音波溶着法によって形成した場合は、溶着による基板10とカバー20との接合力は比較的強いため、ウェル領域14からの液体の漏れをより確実に防止することができる。以下に述べる第1固着領域21および第2固着領域22は、上述のような方法により形成することができる。
【0049】
1.2.2.第1固着領域
カバー20は、基板10と固着された第1固着領域21および第2固着領域22を有する。
【0050】
第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14を囲むように配置される。すなわち、平面的に見て、第1固着領域21の内側に、リザーバー領域13およびウェル領域14が配置される。第1固着領域21は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されても、敷設されたカバー20と基板10とが剥離しにくい領域である。敷設されているカバー20の第1固着領域21および第2固着領域22以外の領域は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されると、表面20aと第1面11とが剥離することができる。第1固着領域21では、カバー20の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー20と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0051】
第1固着領域21の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に間隙が形成されるときに、当該間隙を内部に形成する袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。これにより、基板10とカバー20との間で、リザーバー領域13およびウェル領域14を基板10の第1面11側で連通させるとともに、試料(液体)を両領域の間で流通させることができる。
【0052】
既に述べたが、慣性力は、リザーバー領域13側からウェル領域14側へ向かうようにマイクロ流体チップ100に印加される。そのため、第1固着領域21は、少なくともウェル領域14を囲む位置では連続して設けられる。したがって、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、慣性力により、液体が第1固着領域21の外側に、ウェル領域14側から漏れ出さないようになっている。また、第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続していることができる。このようにすれば、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、液体が第1固着領域21の外側に漏れ出さないようにすることができる。なお、第1固着領域21は、リザーバー領域13側においては、連続していない部分を有してもよい。
【0053】
第1固着領域21の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第1固着領域21の形状に塗布して、カバー20を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第1固着領域21は、カバー20の表面20aがカバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第1固着領域21の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第1固着領域21は、第1固着領域21の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0054】
1.2.3.第2固着領域
第2固着領域22は、平面視において、ウェル16の開口16aの輪郭に沿うように設けられる。また、第2固着領域22は、平面視において、リザーバー領域13側に不連続な部分22aを有して設けられる。すなわち、平面的に見て、第2固着領域22の内側に接してウェル16が配置される。第2固着領域22は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されても、カバー20と基板10とが剥離しにくい領域である。したがって、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されると、リザーバー領域13側の不連続な部分22aにおいて、表面20aと第1面11とが剥離することができる。第2固着領域22では、カバー20の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー20と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0055】
第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に間隙が形成されるときに、リザーバー領域13側の不連続な部分22aにおいて、当該間隙と、ウェル16の内部とを連通させるようにすることが挙げられる。また、第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されて、試料(液体)がウェル16に導入される(ウェル16内の気体が試料と置き換わる)ときに、過剰となった試料がウェル16のリザーバー領域13とは反対側の方向に漏れ出しにくくする袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。この機能は、第2固着領域22が、少なくともウェル16の開口16aの輪郭において、リザーバー領域13側と反対側の位置では連続して設けられることにより発現する。これにより、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、慣性力により、ウェル16の容積に対して過剰量の液体が、第2固着領域22のリザーバー領域12とは反対側の方向に漏れ出しにくくなっている。
【0056】
また、第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に形成される間隙およびウェル16の内部の間の試料(液体)の移動する経路を狭窄することが挙げられる。第2固着領域22が、このような形状を有することによって、ウェル16に一旦導入された試料等が、再びウェル16の外へ漏出しにくくすることができる。これにより、ウェルに導入された試料と、近接するウェルに導入された試料との間の混合や、混合によるコンタミネーションを防止する効果を高めることができる。
【0057】
第2固着領域22は、多様な形状をとることができる。図3に示す第2固着領域22は、その形状の例のいくつかを示しており、いずれの例も、ウェル16の開口16aの輪郭に沿うように設けられ、かつ、リザーバー領域13側に不連続な部分22aを有して設けられている。なお、図3の例では、ウェル16ごとに異なる形状の第2固着領域22が形成されているが、第2固着領域22は、複数のウェル16において、同じ形状となっていてもよい。
【0058】
図3に示される第2固着領域22は、いずれも、後述する突出部を有さないウェルに対して形成されたものであるが、以下で説明する事項は、ウェルが突出部を有しても適用することができる。
【0059】
第2固着領域22の形状は、図3に示すように、リザーバー領域13側に不連続部分を有する限り、どのような形状を採ってもよい。しかし、第2固着領域22のウェル16の開口16aの輪郭における合計の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上とすること、あるいは、開口16aの輪郭における第2固着領域22の最も長く連続する部分の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上とすることが好ましい。これにより、本実施形態のマイクロ流体チップ100の効果の一つである、隣接するウェル16の内容物の混合や、コンタミネーションをより確実に抑制することができる。図3の(a)で例示される第2固着領域22は、リザーバー領域13の反対側のみに形成されている。この例は、第2固着領域22のウェル16の開口16aの輪郭における合計の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%となっている。図3の(b)で例示される第2固着領域22は、リザーバー領域13の反対側の全部と、リザーバー領域13の側の一部とに形成されている。この例は、開口16aの輪郭における第2固着領域22の最も長く連続する部分の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上となっている。
【0060】
また、第2固着領域22の形状は、第2固着領域22の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって開口16aを区画したときに、当該直線および第2固着領域22によって囲まれる開口16の区画部分の面積Spが、開口16aの面積の50%以上を占めるようにしてもよい。これにより、本実施形態のマイクロ流体チップ100の効果の一つである、隣接するウェル16の内容物の混合や、コンタミネーションをより確実に抑制することができる。図3の(b)の例では、第2固着領域22の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって開口16aを区画したときに、当該直線および第2固着領域22によって囲まれる開口16の区画部分の面積Spは、開口16aの面積の50%以上を占めている。
【0061】
なお、図3(b)の例のように、ウェル16に不連続な部分22aが複数形成されると、例えば、試料を導入する経路の数が増えるとともに、各経路の幅を小さくすることができる。これにより、例えば、不連続な部分22aを適宜配置することにより、ウェル16へ試料210を導入する経路と、ウェル16から気体を排出する経路とを分けることができる。これにより、マイクロ流体チップを使用する際の、試料のウェル16への導入をより効率的に行うことができる。
【0062】
第2固着領域22の大きさについては、第1固着領域21と第2固着領域22とが連続しない範囲で、隣り合うウェル16の周りに形成された第2固着領域22が互いに連続していてもよい。図7は、マイクロ流体チップ100において、隣り合うウェル16の第2固着領域22が連続している様子を模式的に示している。このような第2固着領域22が形成されても、連続した第2固着領域22のリザーバー領域13とは反対側に位置するウェル16に対して、図の矢印で示すように、遠心力により試料に回り込みの流れを生じさせることが可能なので、支障なく試料を導入することができる。
【0063】
第2固着領域22の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第2固着領域22の形状に塗布して、カバー20を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第2固着領域22は、カバー20の表面20aがカバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第2固着領域22の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第2固着領域22は、第2固着領域22の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0064】
1.3.マイクロ流体チップの使用方法
以上説明したマイクロ流体チップ100は、広範な用途に使用することができるが、以下、マイクロ流体チップ100をPCRのためのチップとして用いる場合を例として、その使用方法を説明する。
【0065】
図8は、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に検体210を入れた状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図である。検体210の状態は、液体である。なお、図6は、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に検体210を入れた状態で、慣性力が印加されていない状態を模式的に示している。
【0066】
以下の例では、カバー20の表面20aが、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有しているものとする。また、以下の例では、カバー20の第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続しているものとする。また、以下の例では、カバー20は、透明な材質で形成されているものとする。なお、この例では、ウェル16の形状は円柱形であって、底面の直径がおよそ1mm、深さがおよそ0.5mmであるものを例示する。さらに、この例では、基板10およびカバー20の平面的な外形形状は、長方形であって、長辺が約7.5cm短辺が約2.5cmであるものを例示する。
【0067】
まず、標的核酸を含む検体210を調製する。PCRの検体210としては、標的核酸、プライマーDNA、PCRマスターミックス(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、および塩化マグネシウム等の補酵素を含む)を含む水溶液を例示することができる。検体210において、測定対象となる標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液等から抽出されたDNAまたはRNAから逆転写したcDNA等が挙げられる。検体210の量は、ウェル16の全体の容積に応じて適宜決定されるが、例えば複数のウェル16の総容積と同じかまたは前記総容積より多いことが好ましく、複数のウェル16により確実に検体210を充填できる点で、複数のウェル16の総容積より多いことがより好ましい。
【0068】
次に、検体210をマイクロ流体チップ100のリザーバー15に収容する(図6参照)。この時点では、マイクロ流体チップ100のウェル16内には、検体210は導入されておらず、試薬30等が各ウェル16に配置されている。試薬30等としては、プライマーDNAや蛍光プローブDNAを例示することができる。また、リザーバー15に検体210を入れる方法は、特に限定されず、既に述べたように、例えば、カバー20を装着する前に行ってもよいし、カバー20が装着された後にあっては、カバー20のリザーバー15に対応する領域に孔を形成して該孔から供給してもよい、さらに、カバー20をリザーバー15に対応する領域だけ剥離して供給されてもよい。
【0069】
次に、マイクロ流体チップ100に、リザーバー領域13側からウェル領域14側に向かう慣性力を作用させる。本実施形態では、慣性力は遠心機によって印加される。遠心機の回転軸Rは、マイクロ流体チップ100のリザーバー領域13から見て、ウェル領域14と反対側に配置される。遠心機を運転して、マイクロ流体チップ100に慣性力(遠心力)が発生すると、図8に示すように、リザーバー15の中の検体210が、回転軸Rから遠ざかる方向、すなわちウェル領域14に向かう方向に加速度G(図中矢印)を受ける。そして加速度を受けている状態では、基板10とカバー20との間に間隙が生じ、検体210は、ウェル領域14に向かって該間隙内を移送される。なお、このときの間隙の大きさ(厚み)は、特に制限はないが、図8では、間隙の大きさが非常に小さい例を示している。そして、基板10のウェル領域14に形成されたウェル16の開口16aから、第2固着領域22の不連続な部分を介して、慣性力でウェル16内の空気と入れ替わることによって検体210がウェル16に導入される。ウェル16に導入された検体は、ウェル16内にあらかじめ配置された試薬30等と混合される。
【0070】
なお、図8の例では、遠心機の回転軸Rに対して、垂直な方向に沿ってマイクロ流体チップ100の平面(例えば基板10の第1面11)が配置されて回転されている様子を示しているが、マイクロ流体チップ100の遠心機の回転軸Rに対する配置は、リザーバー15の内部の検体210が、遠心力によって、ウェル16へ向かって移動することができる範囲で任意である。このような配置は、基板10のウェル16の配置などによって、適宜に設定することができる。
【0071】
次に、遠心機を停止し、慣性力の印加を止める。この状態では、検体210がウェル16内に充填されている。また、例えば、検体210の体積が、ウェル16の合計の容積よりも大きい場合などには、検体210は、ウェル16内、並びに、基板10およびカバー20の間の間隙に存在している。いずれの場合であっても、カバー20の外側から、ローラー、スキージ、ブレード等の治具によって、カバー20を基板10に押さえつけることによって、カバー20をマイクロ流体チップ100に密着させてウェル16を密閉することができ、ウェル16内に正確な容量の検体210を封入することができる。すなわち、検体210が基板10およびカバー20の間の間隙に存在していない状態では、カバー20を基板10に押さえつけることによって不連続な部分22aが圧着されて、ウェル16が密閉され、検体210が基板10およびカバー20の間の間隙に存在している状態では、余分の検体210をリザーバー領域13側に押し戻しつつ、ウェル16が密閉されることができる。これにより、ウェル16は、所定の容積の密閉された反応容器とされることができる。
【0072】
図9は、ローラー500によって、マイクロ流体チップ100のウェル16を密閉する様子を模式的に示した図である。図9の例では、ローラー500によって、基板10およびカバー20の間の間隙に存在する過剰の検体210を貫通孔15からリザーバー15に戻しつつ、ウェル16を密閉する様子を示している。図10は、マイクロ流体チップ100のウェル16が密閉された状態を模式的に示す平面図である。
【0073】
図10は、ウェル16が密閉されたマイクロ流体チップ100を模式的に示した平面図である。図10に示すように、ローラー500によって、カバー20が押しつけられた後は、基板10とカバー20の接触する面は、少なくともウェル16の周囲(図示の例では基板10とカバー20の接触する全面)において固着される。
【0074】
以上のようにして、図10に示すように、マイクロ流体チップ100のウェル16内に、正確な容量の検体210を導入することができる。マイクロ流体チップ100に複数のウェル16が形成されている場合も同様であり、該複数のウェル16は、上記操作の結果、それぞれ独立した密閉空間となり、所望の量の検体210を精密に分注することができる。
【0075】
その後、マイクロ流体チップ100をサーマルサイクラーなどの温度制御装置に導入して、PCRの反応をウェル16内で行う。PCR反応の温度制御の一例としては、55℃、74℃、95℃の3段階の温度変化を数分の周期で繰り返す方法が挙げられる。このような温度サイクルにより、1サイクル当たり標的核酸を2倍に増幅することができる。さらに、ここではカバー20が透明な材質であるため、必要に応じて、カバー20の外側から、カバー20を介してウェル16の内部を観察できる。そのため、標的核酸の定量(リアルタイムPCR)が可能であり、PCR反応の途中でも反応の進行状況等を確認することができる。また、マイクロ流体チップ100を用いて、SNPなどの遺伝子の変異やDNAのメチル化等、PCRの原理を用いた様々な核酸(DNA、RNA)の解析を行うことができる。
【0076】
なお、第2固着領域22の他の効果としては、マイクロ流体チップ100を使用するときに、基板10とカバー20との間の間隙が大きくなりすぎないようにすることが挙げられる。図11は、第2固着領域を有さない参考例のマイクロ流体チップを示している。例えば、図11に示すように、マイクロ流体チップ100の使用時に印加される慣性力が大きすぎると、リザーバー領域13と反対側の端付近において、基板10とカバー20との間隙が大きくなりすぎる場合がある。本実施形態のマイクロ流体チップ100では、第2固着領域22が形成されるため、少なくともウェル16の近傍において、基板10とカバー20との間隙を大きくなりすぎないようにすることができる。したがって、例えば、試料の無駄を小さく抑えることができる。
【0077】
1.4.変形例
1.4.1.ウェルの形状の変形
上記「1.1.4.ウェル」の項で、ウェル16は、種々の変形が可能である旨を記載した。以下に、ウェル16の変形実施形態であるウェル46について記載する。
【0078】
図12は、変形例のウェル46の近傍を拡大して模式的に示す平面図である。図13ないし図16は、変形例のウェル46の断面を拡大して模式的に示す平面図である。図13ないし図16は、それぞれ、図12のD−D線、E−E線、F−F線、およびG−G線の断面に相当する。なお、以下の変形例では、上述の実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。以下の変形例で述べる構成において、上述の実施形態にと同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有する。
【0079】
ウェル46は、図12に示すような、基板10の第1面11側に開口47aを有する突出部47を有してもよい。換言すると、ウェル46は、平面視において、開口46aの輪郭がリザーバー領域13側に突出するように形成された突出部47を有してもよい。図12の例では、ウェル46は、一つの突出部47を有し、突出部47の開口47aの輪郭は、ウェル46の輪郭に連続するとともに、ウェル46の輪郭からリザーバー領域13側に向かって突出している。
【0080】
突出部47は、基板10内でウェル46に連通する空間である。また、突出部47は、基板10の第1面11側に開口47aを有し、ウェル46と一体化して容器状の形状を有する。突出部47の形状は、特に限定されないが、例えば、突出部47の形状は、円柱、角柱、円錐台および角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。突出部47の大きさは、特に限定されないが、主たる容器となるウェル46よりも小さい容積を有することが好ましい。また、突出部47の深さは、特に限定されず、ウェル46の深さと同じでも、これより浅くてもよい。さらに、突出部47の深さは、一様でなくてもよく、底面が傾斜するなどしていてもよい。
【0081】
突出部47の形成される位置は、ウェル46のリザーバー領域13側であることが好ましい。突出部47がウェル46のリザーバー領域13側に形成されることにより、マイクロ流体チップ100を使用する際に、試料が突出部47を介してウェル46に導入されやすくなる。ウェル46に突出部47が形成されると、突出部46の形状によってこれを流通する試料の流量を調節することができる。
【0082】
また、突出部47が形成されると、第2固着領域22を形成することを容易化することができる。すなわち、上述の「1.2.3.第2固着領域」の項で、第2固着領域22は、例えば、第2固着領域22の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる旨を述べた。突出部47が形成されると、このときの治具の形状を単純化することができる。突出部47を有さない場合には、当該治具に第2固着領域22の不連続な部分に対応する形状を形成しておく必要があるが、突出部47を有する場合には、ウェル46よりも大きい円筒または円柱状の治具を用いても、第2固着領域22の不連続な部分を形成することができる。
【0083】
図13ないし図16は、マイクロ流体チップに慣性力が印加されている状態を示しており、いずれの図にも、試料210が描かれている。図13ないし図16の例では、第2固着領域22以外の領域において、基板10とカバー20との間に間隙が形成されており、当該間隙内、ウェル46内、および突出部47内に試料210が存在する様子を示している。そして、図13に示すように、間隙および突出部47が連通しているため、突出部47を介してウェル46内に試料210を導入することができる。
【0084】
また、突出部47は、複数形成されることができる。図17は、2つの突出部47を有するウェル46を拡大して模式的に示す平面図である。図17の例においても、突出部47の開口47aの輪郭は、いずれも、ウェル46の輪郭に連続している。そして、突出部47は、ウェル46の輪郭から突出している基板10内でウェル46に連通する空間となっており、基板10の第1面11側に開口47aを有し、ウェル46と一体化して容器状の形状を有している。
【0085】
ウェル46に突出部47が複数形成されると、例えば、第2固着領域22の不連続な部分を複数形成することが容易となる。ウェル46に突出部47が複数形成されると、試料の流路の数が増えるとともに、各流路の幅を小さくすることができる。これにより、例えば、各突出部47を適宜配置することにより、ウェル46へ試料210を導入する経路と、ウェル46から気体を排出する経路とを分けることができる。これにより、マイクロ流体チップを使用する際の、試料のウェル46への導入をより効率的に行うことができる。
【0086】
なお、上記いずれの例においても、突出部47の開口47aは、ウェル46の開口46aとともに、カバー20によって塞がれることができる。これにより、ウェル46およびこれに連通する突出部47は、独立した一つの密閉容器となることができる。このようにウェル46を独立して密閉することにより、他のウェル46の内容物との混合やコンタミネーションを抑制できる点は、既に述べたと同様である。
【0087】
1.4.2.貫通孔
本実施形態のマイクロ流体チップは、リザーバー15に外部から、試料(検体等の液体)を供給する機構を備えることができる。このような機構としては、例えば、リザーバー15と外部とを連通する貫通孔15aや、リザーバー15に直接、汎用のチューブ(マイクロチューブ、PCRチューブなど)を装着するような貫通孔15aが挙げられる。
【0088】
図18および図19は、貫通孔15aを有するマイクロ流体チップの断面を模式的に示す図である。
【0089】
図18に示したマイクロ流体チップ200の基板10のリザーバー領域13には、試料210を収容するためのリザーバー15が形成されるとともに、リザーバー15と外部とを連通する貫通孔15aが形成されている。マイクロ流体チップ200は、図18に示すように、基板10とカバー20に特別な加工を施すことなく、ピペットPを用いるなどして、当該貫通孔15aを介して、外部から試料210をリザーバー15に導入することができる。そして、必要に応じて、図示のようなシール50を用いて、貫通孔15aの開口を塞ぐことができる。このような変形例のマイクロ流体チップ200によれば、試料をリザーバー15に導入する際の作業性を向上させることができる。
【0090】
また、図19に示したマイクロ流体チップ300には、試料を収容するためのリザーバー15にマイクロチューブなどを接続することができる容器装着機構17が形成されている。容器装着機構17は、基板10の第2面12側に容器400を接続して、当該容器400の内部とリザーバー15とを連通させて一つの閉空間とすることができる。
【0091】
容器400としては、例えば、汎用のチューブ(マイクロチューブ、PCRチューブなど)を挙げることができる。容器装着機構17は、例えば、基板10と容器400とを繋ぎ合わせる構造を有し、基板10に容器400を固定させることができる。例えば、容器装着機構17は、図19に示す例では、容器400を嵌着させるような構造(容器400がキャップとなりうる構造)を有している。この例では、貫通孔15の周囲の第2面12側に、円筒状の容器装着機構17が形成されており、容器装着機構17が、容器400の内面に嵌挿されて、容器400が固定されている。また、図示の例のように、容器装着機構17は、容器400を外れにくくするための突起17aなどの補助的な機能を有する構造を有してもよい。
【0092】
変形例のマイクロ流体チップ300によれば、試料をリザーバー15に導入する際の作業性を、さらに向上させることができる。すなわち、あらかじめ容器400内に試料210を準備することにより、容器400からマイクロ流体チップへ該試料を移し替える必要がなくなる。そのため、作業性が向上するとともに、試料をより無駄なくリザーバー15に導入することができる。
【0093】
1.5.作用効果等
本実施形態のマイクロ流体チップは、少なくとも以下の作用効果を有する。本実施形態のマイクロ流体チップは、リザーバー領域13側に不連続な部分を有してウェルの開口の輪郭に沿うように基板に固着された第2固着領域を有するカバーを含んでいる。そのため、ウェルに液体を流通させるための経路が狭窄され、一度ウェルに導入された液体が逆流しにくい。したがって、試料の混合等のコンタミネーションが抑制される。
【0094】
また、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、少量の液体を精度よく分注することができ、例えば、ピペットを用いて人手によって液体を分注する場合に困難である微小量の液体の分注が可能である。すなわち、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、液体を設計量に極めて近い量で、ウェル内に導入することを容易に行うことができる。また、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、ウェルに連通する流路が形成されていないため、ウェルを高密度に配置できるとともに、使用する液体の量を極めて少量に抑えることができる。したがって、本実施形態のマイクロ流体チップを用いて検査、反応等を行う場合の効率と信頼性を高めることができる。さらに、本実施形態のマイクロ流体チップは、分注作業の工数やコストを大幅に削減することができる。加えて、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、分注工程を大幅に削減することができ、例えば自動分注装置のような高価な設備を用いる必要がないため、低コストにて液体を分注することができる。
【0095】
本実施形態では、一部で、マイクロ流体チップがPCRに用いられる場合を例示して説明したが、本実施形態のマイクロ流体チップの用途は、限定されず、例えば、ウイルス、細菌、タンパク質、低分子〜高分子化合物、細胞、粒子、コロイド、例えば花粉等のアレルギー物質、毒物、有害物質、環境汚染物質の検査などにも使用することができる。また、本実施形態では、マイクロ流体チップのウェルに試薬30が配置される場合について説明したが、検査内容によっては、ウェルには試薬30が配置されなくてもよい。
【0096】
2.検体の測定方法
上述したマイクロ流体チップおよびその使用方法を用いた検体210の測定方法について述べる。本実施形態にかかる検体210の測定方法の一例としては、検体210をマイクロ流体チップ100のリザーバー15に導入する工程と、マイクロ流体チップ100に慣性力を印加して、検体210をウェルに充填する工程と、少なくともウェルの開口の周囲において、基板10およびカバー20を固着する工程と、ウェル内で、検体210の反応を行う工程と、検体210をウェル内に存在する状態で観測する工程と、を有するものを挙げることができる。
【0097】
まず、検体210を、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に導入する。この工程は、例えば既述のとおり、マイクロピペット等により検体210をリザーバー15に注入し、必要に応じてシール50等を用いてリザーバー15を封止することにより行うことができる。
【0098】
次に、マイクロ流体チップ100に慣性力を印加して、検体210をウェルに充填する工程は、例えば既述のとおり、遠心機により慣性力(遠心力)を印加して行うことができる。
【0099】
少なくともウェル16の開口16aの周囲において、基板10およびカバー20を固着する工程は、例えば既述のとおり、カバー20の表面20aを圧力によって接着力を発揮する態様として、ローラー500によってカバー20を基板10に押しつけることによって行うことができる。
【0100】
ウェル16内で、検体210の反応を行う工程は、上記工程の後に、例えば既述のとおり、マイクロ流体チップ100をサーマルサイクラーに導入することによって行うことができる。
【0101】
検体210をウェル16内に存在する状態で観測する工程は、例えば既述のとおり、マイクロ流体チップ100の基板10およびカバー20の少なくとも一方を透明な材質として、外部からウェル16内を観測して行うことができる。
【0102】
以上のような検体の測定方法によれば、ウェルに所定量の検体210を高い精度で簡便に充填することができ、隣り合うウェル間の混合等を小さく抑えることができる。また、検体210への異物の混入を防止して、低コストで精度良くかつ確実に検体210を分注することができ、検体210の測定精度を向上することができる。
【0103】
以上に述べた実施形態および各変形実施形態は、任意の複数の形態を適宜組み合わせることが可能である。これにより、組み合わされた実施形態は、それぞれの実施形態が有する効果または相乗的な効果を奏することができる。
【0104】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0105】
10…基板、11…第1面、12…第2面、13…リザーバー領域、14…ウェル領域、15…リザーバー、15a…貫通孔、16…ウェル、16a…開口、17…容器装着機構、17a…突起、20…カバー、20a…表面、21…第1固着領域、22…第2固着領域、22a…不連続な部分、30…試薬、46…ウェル、46a…開口、47…突出部、47a…開口、50…シール、100,200,300…マイクロ流体チップ、400…容器、210…試料、500…ローラー、R…回転軸、G…加速度、P…ピペット
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロ流体チップに関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板等に液体の微細な流路が設けられたマイクロ流体チップを使用して、化学分析や化学合成、あるいはバイオ関連の分析を行う方法が注目されている。マイクロ流体チップは、Micro Total Analytical System(マイクロTAS)あるいはラボオンチップ(Lab−on−a−chip)などの名称で呼ばれることもある。
【0003】
マイクロ流体チップの中には、一般に、ウェルと称される複数の微小な反応容器を備えており、当該複数の反応容器の各々において、互いに異なる反応を行うことができるものがある。マイクロ流体チップは、従来の分析装置、分析器具、反応容器などに比較して試料や試薬の量を非常に少なくすることができ、また、操作にともなう廃棄物を少なくすることができるなどの利点がある。そのため、医療診断、環境や食品のオンサイト分析、医薬品や化学品等の生産等、広い分野での利用が期待される。例えば、特許文献1には、リザーバーとウェルとがチャネルと称する流路によって連絡され、リザーバーに導入されたサンプルをウェルに分注するマイクロカード(チップ)が記載されている。
【0004】
マイクロ流体チップは、試薬が少量で足りることから、各種の検査のコストを下げることが可能となり、また、試料(検体)の必要量も少量でよいため、反応時間を大幅に短縮することができる。特に医療分野の検査等にマイクロ流体チップを適用する場合には、血液などの検体の必要量が小さいため、例えば患者の負担を軽減できるという利点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2006−509199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、例えば、特許文献1のチップのように、リザーバーとウェルの間に流路を設けたマイクロ流体チップでは、試料の分注を行う際に、当該流路を通じて近隣の複数のウェル間で互いに試料が混合してしまい、コンタミネーションを生じる場合があった。
【0007】
本発明のいくつかの態様にかかる目的の一つは、分注の際に試料のコンタミネーションを生じにくいマイクロ流体チップを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の態様または適用例として実現することができる。
【0009】
[適用例1]
本発明にかかるマイクロ流体チップの一態様は、
第1面および前記第1面に対向する第2面を有し、リザーバーが形成されたリザーバー領域および該リザーバー領域に平面視において隣り合うウェル領域が設けられるとともに、前記ウェル領域内に前記第1面側に開口を有するウェルが形成された基板と、
前記基板の前記第1面側に敷設され、平面視において、前記リザーバー領域および前記ウェル領域を囲むように前記基板に固着された第1固着領域、および、前記リザーバー領域側に不連続な部分を有して前記開口の輪郭に沿うように前記基板に固着された第2固着領域を有するカバーと、
を含む。
【0010】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、試料をウェルに分注する際に、ウェル内に導入された試料が逆流しにくく、該ウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。すなわち、コンタミネーションを抑制することができる。
【0011】
なお、本発明において、「敷設」とは、基板の第1面にカバーが敷かれた状態のことを指し、「固着」とは、基板の第1面に敷設されて固定されている状態を指す。したがって、カバーが敷設され、固着領域を有する状態とは、基板とカバーとの間に間隙を形成することが容易な部分と、基板とカバーとが分離しにくい部分とがある状態であり、後者の基板とカバーとが分離しにくい部分を、固着された固着領域と表現するものとする。
【0012】
またなお、本発明において、「平面視において」または「平面的に見て」という場合は、基板の第1面に直交する方向から見た場合のことを指すものとする。
【0013】
[適用例2]
適用例1において、
前記ウェルは、平面視において、前記開口の輪郭が前記リザーバー領域側に突出する突出部を有してもよい。
【0014】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、突出部の形状によって、試料の導入を容易にすることができる。
【0015】
[適用例3]
適用例2において、
前記突出部を複数有してもよい。
【0016】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、ウェル内の気体と、導入される試料との置換をより効率的に行うことができる。
【0017】
[適用例4]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の合計の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上であってもよい。
【0018】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【0019】
[適用例5]
適用例1ないし適用例4のいずれか一例において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の最も長く連続する部分の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上であってもよい。
【0020】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【0021】
[適用例6]
適用例1ないし適用例3のいずれか一例において、
前記第2固着領域の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって前記開口を区画した場合に、前記直線および前記第2固着領域によって囲まれる前記開口の区画部分の面積は、前記開口の面積の50%以上を占めることができる。
【0022】
本適用例のマイクロ流体チップによれば、より確実にウェル内の試料が近隣のウェル内の試料と混合されにくくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施形態の基板10を模式的に示す平面図。
【図2】実施形態の基板10の断面の模式図。
【図3】実施形態のウェル16近傍を拡大して模式的に示す平面図。
【図4】実施形態のウェル16近傍を拡大して模式的に示す断面図。
【図5】実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図。
【図6】実施形態のマイクロ流体チップ100の断面の模式図。
【図7】実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図。
【図8】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図9】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図10】実施形態のマイクロ流体チップの使用方法の一例を模式的に示す図。
【図11】参考例のマイクロ流体チップを模式的に示す図。
【図12】変形例のマイクロ流体チップのウェル46を模式的に示す平面図。
【図13】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図14】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図15】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図16】変形例のマイクロ流体チップのウェル46近傍の断面の模式図。
【図17】変形例のマイクロ流体チップのウェル46を模式的に示す平面図。
【図18】変形例のマイクロ流体チップ200の断面の模式図。
【図19】変形例のマイクロ流体チップ300の断面の模式図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお以下の実施形態は、本発明の一例を説明するものである。そのため、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、要旨を変更しない範囲で実施される各種の変形例も含む。なお、下記の実施形態で説明される構成の全てが本発明の必須構成要件であるとは限らない。
【0025】
1.マイクロ流体チップ
本実施形態のマイクロ流体チップ100は、基板10と、カバー20とを有する。
【0026】
1.1.基板
図1は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の基板10を模式的に示す平面図である。図2は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の基板10の断面の模式図である。図2は、図1のA−A線の断面に相当する。
【0027】
1.1.1.基板
基板10は、マイクロ流体チップ100の基体となる板状の部材である。基板10は、図2に示すように、互いに表裏の関係を有する(互いに対向する)第1面11および第2面12を有する。基板10の形状は、平板状であれば特に限定されない。基板10の厚み(第1面11および第2面12の間の距離)も特に限定されないが、取り扱いの容易さや、破損しにくさの点で、0.5mm以上5mm以下であることが好ましい。基板10の平面的な外形形状については、特に限定されず、矩形、円形などとすることができる。本実施形態では、基板10の平面的な形状が長方形である例を示す。
【0028】
基板10の材質としては、特に限定されず、無機材料(例えば単結晶シリコン、パイレックス(登録商標)ガラス)、および有機材料(例えばポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂)を挙げることができ、これらの複合材料であってもよい。マイクロ流体チップ100を、PCR(Polymerase Chain Reaction:ポリメラーゼ連鎖反応)の反応容器(反応チップ)として使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、基板10は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。なお、マイクロ流体チップ100をPCRに用いる場合、基板10はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0029】
さらに、基板10の材質には、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質等を配合することができる。基板10の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。また、後述するウェル16等をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途(例えば、リアルタイムPCRなど)にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、基板10の材質を透明なものとすることができる。またなお、マイクロ流体チップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、基板10の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。
【0030】
基板10が無機材料で形成される場合には、フォトリソグラフィー法を用いたドライエッチングなどを行って、成形、加工することができる。また、基板10が樹脂を主成分として形成される場合には、鋳型成形、射出成形またはホットエンボス加工などの方法によって、成形、加工することができる。
【0031】
1.1.2.リザーバー領域およびウェル領域
図1に示すように、基板10には、平面視において、リザーバー領域13およびウェル領域14が設けられる。リザーバー領域13およびウェル領域14は、互いに隣り合って設けられる。リザーバー領域13およびウェル領域14は、隣接して設けられてもよい。また、リザーバー領域13およびウェル領域14は、複数設けられてもよい。リザーバー領域13およびウェル領域14は、平面視において、後述するカバー20の第1固着領域21の内側に設けられる。基板10におけるリザーバー領域13およびウェル領域14の設けられる位置は、基板10に遠心力等の慣性力が印加された際に、リザーバー領域13からウェル領域14に向かう方向に当該慣性力が作用することができる限り特に限定されない。リザーバー領域13およびウェル領域14の平面的な形状は、特に限定されず、矩形、円形等とすることができる。
【0032】
1.1.3.リザーバー
基板10のリザーバー領域13には、リザーバー15が形成される。リザーバー15は、マイクロ流体チップ100を使用する際に、少なくとも慣性力が印加される前に、試料(検体等の液体)を貯留するための空間である。リザーバー15は、基板10の第1面11に開口を有して形成される。リザーバー15の平面的な形状は限定されず、円形、矩形などとすることができる。リザーバー15の容積の大きさは、例えば、ウェル16の合計の容積と同じかそれよりも大きくすることが好ましい。
【0033】
リザーバー15は、図1および図2の例では、第1面11側に開口する窪み状に形成されているが、これに限定されず、第2面12側に貫通していてもよい。マイクロ流体チップ100を使用する際には、リザーバー15には、外部から試料が供給されるが、図1および図2の例では、例えば、カバー20を装着する前に供給されてもよいし、カバー20が装着された後にあっては、後述の変形例のように、カバー20のリザーバー15に対応する領域に孔を形成して該孔から供給されてもよい、さらに、カバー20をリザーバー15に対応する領域だけ剥離して供給されてもよい。なお、リザーバー15が採りうる他の形態については、変形例の項でも説明する。
【0034】
1.1.4.ウェル
基板10のウェル領域14には、基板10の第1面11側に開口16aを有するウェル16が形成される(図1および図2参照)。図3は、マイクロ流体チップ100のウェル16近傍を拡大して示す平面図である。図4は、マイクロ流体チップ100のウェル16近傍の断面を拡大して示す模式図である。図3のB−B線の断面が図4に相当する。
【0035】
ウェル16は、ウェル領域14に複数形成されることができる。ウェル領域14に複数形成される際のウェル16の配置は、その機能を損なわない限り任意である。ウェル16は、基板10の第1面11側に開口16aを有した容器状の形状を有する。ウェル16は、内部に検体(試料)等の液体を保持することができる。また、ウェル16内において、検体等の液体の反応を行うことができる。例えば、ウェル16には、リザーバー15の内容物を導入して保持することができ、その反応容器としての機能を果たすことができる。
【0036】
ウェル16の形状は、容器状であれば、特に限定されず、多様な形態を採ることができる。例えば、ウェル16の形状は、円柱、角柱、円錐台および角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。また、ウェル16の形状は、平面視において、開口16aよりも大きい輪郭を有してもよく、このような形状としては、例えば、開口16aから基板10に厚み方向に延びる第1のウェルと、該第1のウェルに基板10内部で接続して、リザーバー領域13と反対側の方向に延びる第2のウェルとを有する、アルファベットの「L」型の形状等であってもよい。本実施形態ではウェル16の形状として、図1ないし図4に示すような円柱状(平面視において円形であって、断面視において矩形である形状)の形状を有する場合について説明する。ウェル16が採りうる他の形状については、変形例の項でさらに説明する。
【0037】
図4に示すように、ウェル16内には、あらかじめ、反応または検査のための試薬30を配置しておくことができる。配置される試薬30の状態は、固体あるいは液体であることが好ましい。例えば、マイクロ流体チップ100をPCRのチップとして用いる場合には、試薬30としては、標的核酸を増幅するためのプライマー(核酸)、増幅産物量を測定するための蛍光試薬(例えばSYBR GREEN(商標))、および、必要な場合には他の核酸などを配置することができる。試薬30として、前記例示のもののような、乾燥等に対して安定性の高いものを用いる場合には、ウェル16内で乾燥されてもよく、図3に示すように、例えば、ウェル16の内壁面に塗布されて乾燥された状態で配置されてもよい。このように試薬30をウェル16の内壁面に塗布する方法としては、例えば、インクジェット方式の印刷に用いられる液体噴射ヘッド等により、試薬30を塗布する方法が挙げられる。
【0038】
また、試薬30をウェル16内に配置する場合は、複数のウェル16に互いに同じ試薬30が配置されてもよいし、互いに異なる試薬30が配置されてもよい。ウェル16が複数形成されている場合、ウェル16毎にどのように試薬30を配置するかについては、所望の反応や検査の態様にしたがって任意に設計することができる。
【0039】
ウェル16内において試薬30が配置される位置は、特に限定されないが、開口16aから遠い位置であるほど、試薬30が、導入された液体とともにウェル16の外に流出する可能性が小さくなる点でより好ましい。
【0040】
ウェル16の開口16aは、後述するカバー20によって塞がれることができる。これにより、ウェル16は、独立した密閉容器となることができる。このようにウェル16を独立して密閉することにより、他のウェル16の内容物との混合やコンタミネーションを抑制できる。ウェル16は、カバー20がウェル16の開口16aの周囲に敷設されて固着されると、独立した密閉容器となることができる。
【0041】
1.2.カバー
図5は、本実施形態のマイクロ流体チップ100を模式的に示す平面図である。図6は、本実施形態のマイクロ流体チップ100の断面の模式図である。図6は、図5のC−C線の断面に相当する。
【0042】
1.2.1.カバー
カバー20は、基板10の第1面11側に敷設される。本明細書では「敷設」との文言は、カバー20と基板10の第1面11とが、固着(固定)されている場合と固着されていない場合とを含む意味で用いている。カバー20は、フィルムまたはシート状の形状を有する。カバー20の厚みは、特に限定されないが、例えば、0.01mm以上5mm以下とすることができる。カバー20の平面的な外形形状は、基板10の平面的な外形形状と一致していてもいなくてもよい。図5の例では、カバー20の平面的な外形形状は、基板10の平面的な外形形状と一致している。カバー20は、静的な状態では基板10に接しているが、マイクロ流体チップ100に遠心力などの慣性力が印加された場合には、後述する固着領域以外の領域で、基板10とカバー20との間に間隙が形成される程度の可撓性ないしは弾性を有する。また、カバー20は、基板10に接した状態で、基板10に設けられるウェル16の開口16aを塞ぎ、ウェル16を独立した空間(容器)とすることができる。カバー20は、基板10に押しつけられる場合などに、ウェル16の開口16a付近において撓みにくくウェル16の容積に大きな変化を生じない程度の弾性を有することが好ましい。このようなカバー20の弾性の程度は、カバー20の厚み、ウェル16の開口16aの大きさ、および基板10に当接される際の押圧などを考慮して、材質を選ぶことにより適宜設計されることができる。
【0043】
カバー20の材質としては、遠心力等の慣性力によって撓むことができる程度の弾性を有するものが挙げられ、例えば、有機材料(ポリカーボネート、ポリプロピレン等の樹脂および各種のゴム)や、有機材料と無機材料の複合材料を挙げることができる。マイクロ流体チップ100を、PCRの反応チップとして使用する場合など、蛍光測定を伴う用途に使用する場合には、カバー20は、自発蛍光の小さい材質で形成されることが望ましい。このような自発蛍光の小さい材質としては、例えば、ポリカーボネート、ポリプロピレン等が挙げられる。マイクロ流体チップ100をPCRの反応チップとして使用する場合には、カバー20の材質は、核酸やタンパク質の吸着が少なく、ポリメラーゼ等の酵素反応を阻害しない材質であることが好ましい。またなお、マイクロ流体チップ100をPCRのチップとして用いる場合は、カバー20はPCRにおける加熱に耐えられる材質であることが好ましい。
【0044】
また、カバー20の材質には、基板10と同様に、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、アニリンブラック、若しくは、Ru、Mn、Ni、Cr、Fe、CoまたはCuの酸化物、Si、Ti、Ta、ZrまたはCrの炭化物などの黒色物質を配合することができる。カバー20の材質に、このような黒色物質が配合されることにより、樹脂等の有する自発蛍光をさらに抑制することができる。さらに、後述するウェル16をマイクロ流体チップ100の外部から観察するような用途にマイクロ流体チップ100を用いる場合には、必要に応じて、カバー20の材質を透明なものとすることができる。カバー20は、例えば、フィルム成形、シート成形、射出成形、プレス成形などの方法によって、成形、加工することができる。
【0045】
カバー20は、一方の表面20aが基板10に向かうように敷設される。すなわち、表面20aが基板10の第1面11に面するように設けられる。カバー20の表面20aは、接着性を有してもよい。表面20aが接着性を有する場合には、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されるときに、表面20aと第1面11とが剥離できる程度の接着力とすることが好ましい。ただし、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力を印加し終えた後はこの限りではなく、表面20aと第1面11とが離れにくいように接着(固着)する程度の接着力を有してもよい。
【0046】
カバー20の表面20aは、接着力を有さなくてもよい。このような場合には、第1面11に表面20aを固着させるために、接着剤を利用することや、熱融着を行うことができる。また、表面20aは、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有してもよい。このような表面20aとしては、多孔質となっているものを例示することができる。このような方法であれば、基板10およびカバー20を固着させる際に、加圧させるだけなので熱が発生することがなく、マイクロ流体チップ100の温度の上昇を抑制することができ、試料等に与える熱の影響を抑制することができる。このような表面20aを有するカバー20の具体例としては、商品名:LightCycler 480 Sealing Foil・型名:04 729 757 001・ロシュ・ダイアグノスティクス社製、商品名:ポリオレフィン マイクロプレートシーリングテープ・型名:9793・3M社製、商品名:アンプリフィケーションテープ96・型名:232702・Nunc社製などを例示することができる。
【0047】
さらに、表面20aは、潜在的な接着力を有してもよい。すなわち、表面20aは、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加される前までは接着力を有さず、慣性力が印加された後の所望の時点で、エネルギー線(例えば、紫外線、電子線など)を照射することによって接着力を発揮できるものであってもよい。
【0048】
また、表面20aと基板10の第1面11とを固着させる方法としては、超音波溶着法を利用してもよい。例えば、固着させたい領域の形状に対応する形状の治具をカバー20の基板10に対して固着させたい部分に押しつけて超音波振動させ、カバー20と基板10とを溶着(固着)させてもよい。このようにすれば、基板10とカバー20とを超音波照射によって溶着(固着)させるため、例えば液体が、生化学的な試料である場合などにおいて、試料に対する加熱を抑えることができるため、試料に与えるダメージを少なくすることができる。また、例えば、ウェルに含まれる試薬の活性を低下させることも抑制できる。さらに、第1固着領域21を超音波溶着法によって形成した場合は、溶着による基板10とカバー20との接合力は比較的強いため、ウェル領域14からの液体の漏れをより確実に防止することができる。以下に述べる第1固着領域21および第2固着領域22は、上述のような方法により形成することができる。
【0049】
1.2.2.第1固着領域
カバー20は、基板10と固着された第1固着領域21および第2固着領域22を有する。
【0050】
第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14を囲むように配置される。すなわち、平面的に見て、第1固着領域21の内側に、リザーバー領域13およびウェル領域14が配置される。第1固着領域21は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されても、敷設されたカバー20と基板10とが剥離しにくい領域である。敷設されているカバー20の第1固着領域21および第2固着領域22以外の領域は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されると、表面20aと第1面11とが剥離することができる。第1固着領域21では、カバー20の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー20と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0051】
第1固着領域21の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に間隙が形成されるときに、当該間隙を内部に形成する袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。これにより、基板10とカバー20との間で、リザーバー領域13およびウェル領域14を基板10の第1面11側で連通させるとともに、試料(液体)を両領域の間で流通させることができる。
【0052】
既に述べたが、慣性力は、リザーバー領域13側からウェル領域14側へ向かうようにマイクロ流体チップ100に印加される。そのため、第1固着領域21は、少なくともウェル領域14を囲む位置では連続して設けられる。したがって、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、慣性力により、液体が第1固着領域21の外側に、ウェル領域14側から漏れ出さないようになっている。また、第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続していることができる。このようにすれば、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、液体が第1固着領域21の外側に漏れ出さないようにすることができる。なお、第1固着領域21は、リザーバー領域13側においては、連続していない部分を有してもよい。
【0053】
第1固着領域21の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第1固着領域21の形状に塗布して、カバー20を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第1固着領域21は、カバー20の表面20aがカバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第1固着領域21の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第1固着領域21は、第1固着領域21の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0054】
1.2.3.第2固着領域
第2固着領域22は、平面視において、ウェル16の開口16aの輪郭に沿うように設けられる。また、第2固着領域22は、平面視において、リザーバー領域13側に不連続な部分22aを有して設けられる。すなわち、平面的に見て、第2固着領域22の内側に接してウェル16が配置される。第2固着領域22は、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されても、カバー20と基板10とが剥離しにくい領域である。したがって、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されると、リザーバー領域13側の不連続な部分22aにおいて、表面20aと第1面11とが剥離することができる。第2固着領域22では、カバー20の表面20aの性質に合わせて、例えば、カバー20と基板10とが溶着されてもよく、粘着剤、接着剤等で接着されてもよい。
【0055】
第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に間隙が形成されるときに、リザーバー領域13側の不連続な部分22aにおいて、当該間隙と、ウェル16の内部とを連通させるようにすることが挙げられる。また、第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されて、試料(液体)がウェル16に導入される(ウェル16内の気体が試料と置き換わる)ときに、過剰となった試料がウェル16のリザーバー領域13とは反対側の方向に漏れ出しにくくする袋(ポケット)状の構造を形成させることが挙げられる。この機能は、第2固着領域22が、少なくともウェル16の開口16aの輪郭において、リザーバー領域13側と反対側の位置では連続して設けられることにより発現する。これにより、カバー20と基板10との間の間隙に液体が導入された際に、慣性力により、ウェル16の容積に対して過剰量の液体が、第2固着領域22のリザーバー領域12とは反対側の方向に漏れ出しにくくなっている。
【0056】
また、第2固着領域22の機能の一つとしては、マイクロ流体チップ100に遠心力等の慣性力が印加されてカバー20と基板10との間に形成される間隙およびウェル16の内部の間の試料(液体)の移動する経路を狭窄することが挙げられる。第2固着領域22が、このような形状を有することによって、ウェル16に一旦導入された試料等が、再びウェル16の外へ漏出しにくくすることができる。これにより、ウェルに導入された試料と、近接するウェルに導入された試料との間の混合や、混合によるコンタミネーションを防止する効果を高めることができる。
【0057】
第2固着領域22は、多様な形状をとることができる。図3に示す第2固着領域22は、その形状の例のいくつかを示しており、いずれの例も、ウェル16の開口16aの輪郭に沿うように設けられ、かつ、リザーバー領域13側に不連続な部分22aを有して設けられている。なお、図3の例では、ウェル16ごとに異なる形状の第2固着領域22が形成されているが、第2固着領域22は、複数のウェル16において、同じ形状となっていてもよい。
【0058】
図3に示される第2固着領域22は、いずれも、後述する突出部を有さないウェルに対して形成されたものであるが、以下で説明する事項は、ウェルが突出部を有しても適用することができる。
【0059】
第2固着領域22の形状は、図3に示すように、リザーバー領域13側に不連続部分を有する限り、どのような形状を採ってもよい。しかし、第2固着領域22のウェル16の開口16aの輪郭における合計の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上とすること、あるいは、開口16aの輪郭における第2固着領域22の最も長く連続する部分の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上とすることが好ましい。これにより、本実施形態のマイクロ流体チップ100の効果の一つである、隣接するウェル16の内容物の混合や、コンタミネーションをより確実に抑制することができる。図3の(a)で例示される第2固着領域22は、リザーバー領域13の反対側のみに形成されている。この例は、第2固着領域22のウェル16の開口16aの輪郭における合計の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%となっている。図3の(b)で例示される第2固着領域22は、リザーバー領域13の反対側の全部と、リザーバー領域13の側の一部とに形成されている。この例は、開口16aの輪郭における第2固着領域22の最も長く連続する部分の長さが、開口16aの輪郭の長さの50%以上となっている。
【0060】
また、第2固着領域22の形状は、第2固着領域22の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって開口16aを区画したときに、当該直線および第2固着領域22によって囲まれる開口16の区画部分の面積Spが、開口16aの面積の50%以上を占めるようにしてもよい。これにより、本実施形態のマイクロ流体チップ100の効果の一つである、隣接するウェル16の内容物の混合や、コンタミネーションをより確実に抑制することができる。図3の(b)の例では、第2固着領域22の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって開口16aを区画したときに、当該直線および第2固着領域22によって囲まれる開口16の区画部分の面積Spは、開口16aの面積の50%以上を占めている。
【0061】
なお、図3(b)の例のように、ウェル16に不連続な部分22aが複数形成されると、例えば、試料を導入する経路の数が増えるとともに、各経路の幅を小さくすることができる。これにより、例えば、不連続な部分22aを適宜配置することにより、ウェル16へ試料210を導入する経路と、ウェル16から気体を排出する経路とを分けることができる。これにより、マイクロ流体チップを使用する際の、試料のウェル16への導入をより効率的に行うことができる。
【0062】
第2固着領域22の大きさについては、第1固着領域21と第2固着領域22とが連続しない範囲で、隣り合うウェル16の周りに形成された第2固着領域22が互いに連続していてもよい。図7は、マイクロ流体チップ100において、隣り合うウェル16の第2固着領域22が連続している様子を模式的に示している。このような第2固着領域22が形成されても、連続した第2固着領域22のリザーバー領域13とは反対側に位置するウェル16に対して、図の矢印で示すように、遠心力により試料に回り込みの流れを生じさせることが可能なので、支障なく試料を導入することができる。
【0063】
第2固着領域22の形成は、例えば、基板10の第1面11に、接着剤を第2固着領域22の形状に塗布して、カバー20を敷設することによって形成することができる。また、例えば、第2固着領域22は、カバー20の表面20aがカバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有する場合には、第2固着領域22の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる。また、例えば、第2固着領域22は、第2固着領域22の形状に対応する形状の治具を用いた超音波溶着によって形成することもできる。
【0064】
1.3.マイクロ流体チップの使用方法
以上説明したマイクロ流体チップ100は、広範な用途に使用することができるが、以下、マイクロ流体チップ100をPCRのためのチップとして用いる場合を例として、その使用方法を説明する。
【0065】
図8は、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に検体210を入れた状態で、慣性力を印加した様子を模式的に示す図である。検体210の状態は、液体である。なお、図6は、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に検体210を入れた状態で、慣性力が印加されていない状態を模式的に示している。
【0066】
以下の例では、カバー20の表面20aが、カバー20を基板10に対して加圧しない状態では接着力を発揮せずに、加圧により接着力を発揮する性質を有しているものとする。また、以下の例では、カバー20の第1固着領域21は、平面視において、基板10のリザーバー領域13およびウェル領域14の両者を取り囲んで環状に連続しているものとする。また、以下の例では、カバー20は、透明な材質で形成されているものとする。なお、この例では、ウェル16の形状は円柱形であって、底面の直径がおよそ1mm、深さがおよそ0.5mmであるものを例示する。さらに、この例では、基板10およびカバー20の平面的な外形形状は、長方形であって、長辺が約7.5cm短辺が約2.5cmであるものを例示する。
【0067】
まず、標的核酸を含む検体210を調製する。PCRの検体210としては、標的核酸、プライマーDNA、PCRマスターミックス(例えば、ポリメラーゼ、ヌクレオチド、および塩化マグネシウム等の補酵素を含む)を含む水溶液を例示することができる。検体210において、測定対象となる標的核酸としては、例えば、血液、尿、唾液、髄液等から抽出されたDNAまたはRNAから逆転写したcDNA等が挙げられる。検体210の量は、ウェル16の全体の容積に応じて適宜決定されるが、例えば複数のウェル16の総容積と同じかまたは前記総容積より多いことが好ましく、複数のウェル16により確実に検体210を充填できる点で、複数のウェル16の総容積より多いことがより好ましい。
【0068】
次に、検体210をマイクロ流体チップ100のリザーバー15に収容する(図6参照)。この時点では、マイクロ流体チップ100のウェル16内には、検体210は導入されておらず、試薬30等が各ウェル16に配置されている。試薬30等としては、プライマーDNAや蛍光プローブDNAを例示することができる。また、リザーバー15に検体210を入れる方法は、特に限定されず、既に述べたように、例えば、カバー20を装着する前に行ってもよいし、カバー20が装着された後にあっては、カバー20のリザーバー15に対応する領域に孔を形成して該孔から供給してもよい、さらに、カバー20をリザーバー15に対応する領域だけ剥離して供給されてもよい。
【0069】
次に、マイクロ流体チップ100に、リザーバー領域13側からウェル領域14側に向かう慣性力を作用させる。本実施形態では、慣性力は遠心機によって印加される。遠心機の回転軸Rは、マイクロ流体チップ100のリザーバー領域13から見て、ウェル領域14と反対側に配置される。遠心機を運転して、マイクロ流体チップ100に慣性力(遠心力)が発生すると、図8に示すように、リザーバー15の中の検体210が、回転軸Rから遠ざかる方向、すなわちウェル領域14に向かう方向に加速度G(図中矢印)を受ける。そして加速度を受けている状態では、基板10とカバー20との間に間隙が生じ、検体210は、ウェル領域14に向かって該間隙内を移送される。なお、このときの間隙の大きさ(厚み)は、特に制限はないが、図8では、間隙の大きさが非常に小さい例を示している。そして、基板10のウェル領域14に形成されたウェル16の開口16aから、第2固着領域22の不連続な部分を介して、慣性力でウェル16内の空気と入れ替わることによって検体210がウェル16に導入される。ウェル16に導入された検体は、ウェル16内にあらかじめ配置された試薬30等と混合される。
【0070】
なお、図8の例では、遠心機の回転軸Rに対して、垂直な方向に沿ってマイクロ流体チップ100の平面(例えば基板10の第1面11)が配置されて回転されている様子を示しているが、マイクロ流体チップ100の遠心機の回転軸Rに対する配置は、リザーバー15の内部の検体210が、遠心力によって、ウェル16へ向かって移動することができる範囲で任意である。このような配置は、基板10のウェル16の配置などによって、適宜に設定することができる。
【0071】
次に、遠心機を停止し、慣性力の印加を止める。この状態では、検体210がウェル16内に充填されている。また、例えば、検体210の体積が、ウェル16の合計の容積よりも大きい場合などには、検体210は、ウェル16内、並びに、基板10およびカバー20の間の間隙に存在している。いずれの場合であっても、カバー20の外側から、ローラー、スキージ、ブレード等の治具によって、カバー20を基板10に押さえつけることによって、カバー20をマイクロ流体チップ100に密着させてウェル16を密閉することができ、ウェル16内に正確な容量の検体210を封入することができる。すなわち、検体210が基板10およびカバー20の間の間隙に存在していない状態では、カバー20を基板10に押さえつけることによって不連続な部分22aが圧着されて、ウェル16が密閉され、検体210が基板10およびカバー20の間の間隙に存在している状態では、余分の検体210をリザーバー領域13側に押し戻しつつ、ウェル16が密閉されることができる。これにより、ウェル16は、所定の容積の密閉された反応容器とされることができる。
【0072】
図9は、ローラー500によって、マイクロ流体チップ100のウェル16を密閉する様子を模式的に示した図である。図9の例では、ローラー500によって、基板10およびカバー20の間の間隙に存在する過剰の検体210を貫通孔15からリザーバー15に戻しつつ、ウェル16を密閉する様子を示している。図10は、マイクロ流体チップ100のウェル16が密閉された状態を模式的に示す平面図である。
【0073】
図10は、ウェル16が密閉されたマイクロ流体チップ100を模式的に示した平面図である。図10に示すように、ローラー500によって、カバー20が押しつけられた後は、基板10とカバー20の接触する面は、少なくともウェル16の周囲(図示の例では基板10とカバー20の接触する全面)において固着される。
【0074】
以上のようにして、図10に示すように、マイクロ流体チップ100のウェル16内に、正確な容量の検体210を導入することができる。マイクロ流体チップ100に複数のウェル16が形成されている場合も同様であり、該複数のウェル16は、上記操作の結果、それぞれ独立した密閉空間となり、所望の量の検体210を精密に分注することができる。
【0075】
その後、マイクロ流体チップ100をサーマルサイクラーなどの温度制御装置に導入して、PCRの反応をウェル16内で行う。PCR反応の温度制御の一例としては、55℃、74℃、95℃の3段階の温度変化を数分の周期で繰り返す方法が挙げられる。このような温度サイクルにより、1サイクル当たり標的核酸を2倍に増幅することができる。さらに、ここではカバー20が透明な材質であるため、必要に応じて、カバー20の外側から、カバー20を介してウェル16の内部を観察できる。そのため、標的核酸の定量(リアルタイムPCR)が可能であり、PCR反応の途中でも反応の進行状況等を確認することができる。また、マイクロ流体チップ100を用いて、SNPなどの遺伝子の変異やDNAのメチル化等、PCRの原理を用いた様々な核酸(DNA、RNA)の解析を行うことができる。
【0076】
なお、第2固着領域22の他の効果としては、マイクロ流体チップ100を使用するときに、基板10とカバー20との間の間隙が大きくなりすぎないようにすることが挙げられる。図11は、第2固着領域を有さない参考例のマイクロ流体チップを示している。例えば、図11に示すように、マイクロ流体チップ100の使用時に印加される慣性力が大きすぎると、リザーバー領域13と反対側の端付近において、基板10とカバー20との間隙が大きくなりすぎる場合がある。本実施形態のマイクロ流体チップ100では、第2固着領域22が形成されるため、少なくともウェル16の近傍において、基板10とカバー20との間隙を大きくなりすぎないようにすることができる。したがって、例えば、試料の無駄を小さく抑えることができる。
【0077】
1.4.変形例
1.4.1.ウェルの形状の変形
上記「1.1.4.ウェル」の項で、ウェル16は、種々の変形が可能である旨を記載した。以下に、ウェル16の変形実施形態であるウェル46について記載する。
【0078】
図12は、変形例のウェル46の近傍を拡大して模式的に示す平面図である。図13ないし図16は、変形例のウェル46の断面を拡大して模式的に示す平面図である。図13ないし図16は、それぞれ、図12のD−D線、E−E線、F−F線、およびG−G線の断面に相当する。なお、以下の変形例では、上述の実施形態で述べたと同様の構成については同じ符号を付して詳しい説明は省略する。以下の変形例で述べる構成において、上述の実施形態にと同じ符号で示された構成は、同様の作用機能を有する。
【0079】
ウェル46は、図12に示すような、基板10の第1面11側に開口47aを有する突出部47を有してもよい。換言すると、ウェル46は、平面視において、開口46aの輪郭がリザーバー領域13側に突出するように形成された突出部47を有してもよい。図12の例では、ウェル46は、一つの突出部47を有し、突出部47の開口47aの輪郭は、ウェル46の輪郭に連続するとともに、ウェル46の輪郭からリザーバー領域13側に向かって突出している。
【0080】
突出部47は、基板10内でウェル46に連通する空間である。また、突出部47は、基板10の第1面11側に開口47aを有し、ウェル46と一体化して容器状の形状を有する。突出部47の形状は、特に限定されないが、例えば、突出部47の形状は、円柱、角柱、円錐台および角錐台、これらが傾いたような形状、並びにこれらを組み合わせた形状のいずれでもよい。突出部47の大きさは、特に限定されないが、主たる容器となるウェル46よりも小さい容積を有することが好ましい。また、突出部47の深さは、特に限定されず、ウェル46の深さと同じでも、これより浅くてもよい。さらに、突出部47の深さは、一様でなくてもよく、底面が傾斜するなどしていてもよい。
【0081】
突出部47の形成される位置は、ウェル46のリザーバー領域13側であることが好ましい。突出部47がウェル46のリザーバー領域13側に形成されることにより、マイクロ流体チップ100を使用する際に、試料が突出部47を介してウェル46に導入されやすくなる。ウェル46に突出部47が形成されると、突出部46の形状によってこれを流通する試料の流量を調節することができる。
【0082】
また、突出部47が形成されると、第2固着領域22を形成することを容易化することができる。すなわち、上述の「1.2.3.第2固着領域」の項で、第2固着領域22は、例えば、第2固着領域22の形状に対応する治具等を用意して、当該治具によって、カバー20を基板10に対して加圧力を印加して形成されることができる旨を述べた。突出部47が形成されると、このときの治具の形状を単純化することができる。突出部47を有さない場合には、当該治具に第2固着領域22の不連続な部分に対応する形状を形成しておく必要があるが、突出部47を有する場合には、ウェル46よりも大きい円筒または円柱状の治具を用いても、第2固着領域22の不連続な部分を形成することができる。
【0083】
図13ないし図16は、マイクロ流体チップに慣性力が印加されている状態を示しており、いずれの図にも、試料210が描かれている。図13ないし図16の例では、第2固着領域22以外の領域において、基板10とカバー20との間に間隙が形成されており、当該間隙内、ウェル46内、および突出部47内に試料210が存在する様子を示している。そして、図13に示すように、間隙および突出部47が連通しているため、突出部47を介してウェル46内に試料210を導入することができる。
【0084】
また、突出部47は、複数形成されることができる。図17は、2つの突出部47を有するウェル46を拡大して模式的に示す平面図である。図17の例においても、突出部47の開口47aの輪郭は、いずれも、ウェル46の輪郭に連続している。そして、突出部47は、ウェル46の輪郭から突出している基板10内でウェル46に連通する空間となっており、基板10の第1面11側に開口47aを有し、ウェル46と一体化して容器状の形状を有している。
【0085】
ウェル46に突出部47が複数形成されると、例えば、第2固着領域22の不連続な部分を複数形成することが容易となる。ウェル46に突出部47が複数形成されると、試料の流路の数が増えるとともに、各流路の幅を小さくすることができる。これにより、例えば、各突出部47を適宜配置することにより、ウェル46へ試料210を導入する経路と、ウェル46から気体を排出する経路とを分けることができる。これにより、マイクロ流体チップを使用する際の、試料のウェル46への導入をより効率的に行うことができる。
【0086】
なお、上記いずれの例においても、突出部47の開口47aは、ウェル46の開口46aとともに、カバー20によって塞がれることができる。これにより、ウェル46およびこれに連通する突出部47は、独立した一つの密閉容器となることができる。このようにウェル46を独立して密閉することにより、他のウェル46の内容物との混合やコンタミネーションを抑制できる点は、既に述べたと同様である。
【0087】
1.4.2.貫通孔
本実施形態のマイクロ流体チップは、リザーバー15に外部から、試料(検体等の液体)を供給する機構を備えることができる。このような機構としては、例えば、リザーバー15と外部とを連通する貫通孔15aや、リザーバー15に直接、汎用のチューブ(マイクロチューブ、PCRチューブなど)を装着するような貫通孔15aが挙げられる。
【0088】
図18および図19は、貫通孔15aを有するマイクロ流体チップの断面を模式的に示す図である。
【0089】
図18に示したマイクロ流体チップ200の基板10のリザーバー領域13には、試料210を収容するためのリザーバー15が形成されるとともに、リザーバー15と外部とを連通する貫通孔15aが形成されている。マイクロ流体チップ200は、図18に示すように、基板10とカバー20に特別な加工を施すことなく、ピペットPを用いるなどして、当該貫通孔15aを介して、外部から試料210をリザーバー15に導入することができる。そして、必要に応じて、図示のようなシール50を用いて、貫通孔15aの開口を塞ぐことができる。このような変形例のマイクロ流体チップ200によれば、試料をリザーバー15に導入する際の作業性を向上させることができる。
【0090】
また、図19に示したマイクロ流体チップ300には、試料を収容するためのリザーバー15にマイクロチューブなどを接続することができる容器装着機構17が形成されている。容器装着機構17は、基板10の第2面12側に容器400を接続して、当該容器400の内部とリザーバー15とを連通させて一つの閉空間とすることができる。
【0091】
容器400としては、例えば、汎用のチューブ(マイクロチューブ、PCRチューブなど)を挙げることができる。容器装着機構17は、例えば、基板10と容器400とを繋ぎ合わせる構造を有し、基板10に容器400を固定させることができる。例えば、容器装着機構17は、図19に示す例では、容器400を嵌着させるような構造(容器400がキャップとなりうる構造)を有している。この例では、貫通孔15の周囲の第2面12側に、円筒状の容器装着機構17が形成されており、容器装着機構17が、容器400の内面に嵌挿されて、容器400が固定されている。また、図示の例のように、容器装着機構17は、容器400を外れにくくするための突起17aなどの補助的な機能を有する構造を有してもよい。
【0092】
変形例のマイクロ流体チップ300によれば、試料をリザーバー15に導入する際の作業性を、さらに向上させることができる。すなわち、あらかじめ容器400内に試料210を準備することにより、容器400からマイクロ流体チップへ該試料を移し替える必要がなくなる。そのため、作業性が向上するとともに、試料をより無駄なくリザーバー15に導入することができる。
【0093】
1.5.作用効果等
本実施形態のマイクロ流体チップは、少なくとも以下の作用効果を有する。本実施形態のマイクロ流体チップは、リザーバー領域13側に不連続な部分を有してウェルの開口の輪郭に沿うように基板に固着された第2固着領域を有するカバーを含んでいる。そのため、ウェルに液体を流通させるための経路が狭窄され、一度ウェルに導入された液体が逆流しにくい。したがって、試料の混合等のコンタミネーションが抑制される。
【0094】
また、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、少量の液体を精度よく分注することができ、例えば、ピペットを用いて人手によって液体を分注する場合に困難である微小量の液体の分注が可能である。すなわち、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、液体を設計量に極めて近い量で、ウェル内に導入することを容易に行うことができる。また、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、ウェルに連通する流路が形成されていないため、ウェルを高密度に配置できるとともに、使用する液体の量を極めて少量に抑えることができる。したがって、本実施形態のマイクロ流体チップを用いて検査、反応等を行う場合の効率と信頼性を高めることができる。さらに、本実施形態のマイクロ流体チップは、分注作業の工数やコストを大幅に削減することができる。加えて、本実施形態のマイクロ流体チップによれば、分注工程を大幅に削減することができ、例えば自動分注装置のような高価な設備を用いる必要がないため、低コストにて液体を分注することができる。
【0095】
本実施形態では、一部で、マイクロ流体チップがPCRに用いられる場合を例示して説明したが、本実施形態のマイクロ流体チップの用途は、限定されず、例えば、ウイルス、細菌、タンパク質、低分子〜高分子化合物、細胞、粒子、コロイド、例えば花粉等のアレルギー物質、毒物、有害物質、環境汚染物質の検査などにも使用することができる。また、本実施形態では、マイクロ流体チップのウェルに試薬30が配置される場合について説明したが、検査内容によっては、ウェルには試薬30が配置されなくてもよい。
【0096】
2.検体の測定方法
上述したマイクロ流体チップおよびその使用方法を用いた検体210の測定方法について述べる。本実施形態にかかる検体210の測定方法の一例としては、検体210をマイクロ流体チップ100のリザーバー15に導入する工程と、マイクロ流体チップ100に慣性力を印加して、検体210をウェルに充填する工程と、少なくともウェルの開口の周囲において、基板10およびカバー20を固着する工程と、ウェル内で、検体210の反応を行う工程と、検体210をウェル内に存在する状態で観測する工程と、を有するものを挙げることができる。
【0097】
まず、検体210を、マイクロ流体チップ100のリザーバー15に導入する。この工程は、例えば既述のとおり、マイクロピペット等により検体210をリザーバー15に注入し、必要に応じてシール50等を用いてリザーバー15を封止することにより行うことができる。
【0098】
次に、マイクロ流体チップ100に慣性力を印加して、検体210をウェルに充填する工程は、例えば既述のとおり、遠心機により慣性力(遠心力)を印加して行うことができる。
【0099】
少なくともウェル16の開口16aの周囲において、基板10およびカバー20を固着する工程は、例えば既述のとおり、カバー20の表面20aを圧力によって接着力を発揮する態様として、ローラー500によってカバー20を基板10に押しつけることによって行うことができる。
【0100】
ウェル16内で、検体210の反応を行う工程は、上記工程の後に、例えば既述のとおり、マイクロ流体チップ100をサーマルサイクラーに導入することによって行うことができる。
【0101】
検体210をウェル16内に存在する状態で観測する工程は、例えば既述のとおり、マイクロ流体チップ100の基板10およびカバー20の少なくとも一方を透明な材質として、外部からウェル16内を観測して行うことができる。
【0102】
以上のような検体の測定方法によれば、ウェルに所定量の検体210を高い精度で簡便に充填することができ、隣り合うウェル間の混合等を小さく抑えることができる。また、検体210への異物の混入を防止して、低コストで精度良くかつ確実に検体210を分注することができ、検体210の測定精度を向上することができる。
【0103】
以上に述べた実施形態および各変形実施形態は、任意の複数の形態を適宜組み合わせることが可能である。これにより、組み合わされた実施形態は、それぞれの実施形態が有する効果または相乗的な効果を奏することができる。
【0104】
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、さらに種々の変形が可能である。例えば、本発明は、実施形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成または同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0105】
10…基板、11…第1面、12…第2面、13…リザーバー領域、14…ウェル領域、15…リザーバー、15a…貫通孔、16…ウェル、16a…開口、17…容器装着機構、17a…突起、20…カバー、20a…表面、21…第1固着領域、22…第2固着領域、22a…不連続な部分、30…試薬、46…ウェル、46a…開口、47…突出部、47a…開口、50…シール、100,200,300…マイクロ流体チップ、400…容器、210…試料、500…ローラー、R…回転軸、G…加速度、P…ピペット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面および前記第1面に対向する第2面を有し、リザーバーが形成されたリザーバー領域および該リザーバー領域に平面視において隣り合うウェル領域が設けられるとともに、前記ウェル領域内に前記第1面側に開口を有するウェルが形成された基板と、
前記基板の前記第1面側に敷設され、平面視において、前記リザーバー領域および前記ウェル領域を囲むように前記基板に固着された第1固着領域、および、前記リザーバー領域側に不連続な部分を有して前記開口の輪郭に沿うように前記基板に固着された第2固着領域を有するカバーと、
を含む、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ウェルは、平面視において、前記開口の輪郭が前記リザーバー領域側に突出する突出部を有する、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項2において、
前記突出部を複数有する、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の合計の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上である、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の最も長く連続する部分の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上である、マイクロ流体チップ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記第2固着領域の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって前記開口を区画した場合に、前記直線および前記第2固着領域によって囲まれる前記開口の区画部分の面積は、前記開口の面積の50%以上を占める、マイクロ流体チップ。
【請求項1】
第1面および前記第1面に対向する第2面を有し、リザーバーが形成されたリザーバー領域および該リザーバー領域に平面視において隣り合うウェル領域が設けられるとともに、前記ウェル領域内に前記第1面側に開口を有するウェルが形成された基板と、
前記基板の前記第1面側に敷設され、平面視において、前記リザーバー領域および前記ウェル領域を囲むように前記基板に固着された第1固着領域、および、前記リザーバー領域側に不連続な部分を有して前記開口の輪郭に沿うように前記基板に固着された第2固着領域を有するカバーと、
を含む、マイクロ流体チップ。
【請求項2】
請求項1において、
前記ウェルは、平面視において、前記開口の輪郭が前記リザーバー領域側に突出する突出部を有する、マイクロ流体チップ。
【請求項3】
請求項2において、
前記突出部を複数有する、マイクロ流体チップ。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の合計の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上である、マイクロ流体チップ。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか一項において、
前記開口の輪郭における前記第2固着領域の最も長く連続する部分の長さは、前記開口の輪郭の長さの50%以上である、マイクロ流体チップ。
【請求項6】
請求項1ないし請求項3のいずれか一項において、
前記第2固着領域の最も長く連続する部分の両端を結ぶ直線によって前記開口を区画した場合に、前記直線および前記第2固着領域によって囲まれる前記開口の区画部分の面積は、前記開口の面積の50%以上を占める、マイクロ流体チップ。
【図1】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図18】
【図3】
【図5】
【図7】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【図2】
【図4】
【図6】
【図8】
【図9】
【図11】
【図18】
【図3】
【図5】
【図7】
【図10】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図19】
【公開番号】特開2011−163946(P2011−163946A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−27326(P2010−27326)
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月10日(2010.2.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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