説明

マイクロ流体装置

本発明は、試料を受けるための領域、励起光源および検出器を含んでなるマイクロ流体装置であって、前記領域の一部は、必要な波長範囲におけるエネルギーを透過させることを可能にし、他の波長におけるエネルギーの透過を妨げることを特徴とする装置、ならびにディスポーザブルオンチップ蛍光検出における前記装置の使用に関する

【発明の詳細な説明】
【発明の説明】
【0001】
本発明は、一体式に組み込まれた色素ドープ(dye-doped)ポリジメチルシロキサン(PDMS)光学フィルターおよびディスポーザブルオンチップ蛍光検出におけるその使用に関する。
【0002】
マイクロ流体装置は、化学工学および分子生物学における小型化およびミクロ全分析システム(μTAS)の開発において大きなインパクトを有する。これらのシステムは、臨床的な治療分岐点(point-of care)の診断、遺伝子分析、薬物開発、食品産業、環境モニタリング、法医学研究および化学的/生物学的な戦争の防衛における広範な適用に対して可能性を有する。装置の小型化は、分析時間の短縮、試薬および分析物の消費の減少、分離効率の上昇、高処理スクリーニング、携帯性および使い捨てを可能にする。
【0003】
マイクロ流体研究の主な目標は、完全な化学的または生物学的分析の全てのステージを単一の装置にうまく組み込んだ統合されたシステムの開発である。分析における典型的なステージには、サンプリング、前処理、化学反応、分析分離、および分析物検出が含まれる。最終的なステップは、少量の分析物が存在し、結果として高い感度の検出が要求されるため、最も難しいことが多い。実際に、光学的な技術は、多くの場合、十分な感度を提供する唯一のものであり、それ故、マイクロ流体装置において使用するための統合された光学的な構成要素を開発するためにかなりの努力がなされてきた。これに関して、他のミクロレンズ、フィルター、ミラー、格子、導波管、光源および光検出器を統合するための努力がなされてきた。
【0004】
マイクロ全分析システムにおける検体の検出は、多くの方法により達成することができるが、蛍光に基づく検出が最も広く使用される。蛍光に基づく検出は、特に、例えば、その高度な感受性、自動化のしやすさおよびリアルタイム検出故に、DNAの検出に使用される。サンガー配列決定およびポリメラーゼ連鎖反応(PCR)のような多くの現在の生化学プロトコルは、蛍光標識法に適応する。それ故、そのような検出法をチップに基づく分析に組み込むことは、当該分野において重要な発展であり、蛍光検出は、分析チップにおける種々の適用において使用することができる。
【0005】
蛍光検出の感度は、バックグラウンドシグナルによりひどく損なわれ、内在性のサンプル成分または光源による検出器の直接励起もしくは励起光源に由来する非結合性もしくは非特異的に結合するプローブ(試薬バックグラウンド)散乱光から生じ得る。自己蛍光および散乱光もしくは直接励起光の検出は、不要なシグナルを吸収し、必要なシグナルを伝えるようにフィルターを選択することにより最小化することができる。この方法において、信号雑音比は大いに増強され得る。それ故、フィルターの使用は、蛍光検出において重要な役割を果たす。
【0006】
通常の蛍光検出システムは、高価で非携帯性の、かさばる分離した構成要素を使用する。マイクロ全分析システムと組み合わせたそのような通常の光学的なシステムの発展は、それ故容易ではない。小型の光源、フィルターおよび高感度のオンチップ光検出器の設計を含むため、そのようなシステムの小型化は簡単ではない。
【0007】
マイクロ全分析システムおよびラボチップ(lab-on-a-chip)の領域において、一体式の基質内に光学的な構成要素を機能的に組み込むことは、近年、重要な研究および開発活動の対象となっている。蛍光に基づく検出において、励起光をシャープにするために光学的なショートパスフィルター(short pass filter)が使用され、励起光が検出器に到達することを妨げるためにロングパスフィルター(long pass filter)が一般的に使用される。通常、これらのフィルターは外部の構成要素として使用され、そうでなければ光学的なマイクロチップに組み込まれる。
【0008】
マイクロ流体装置に関して、光学的なロングパスフィルターは特に重要な役割を果たす。通常の蛍光検出において、励起光源および検出器は、励起光源による検出器の直接照明を避けるために、通常、他方に対して直交性に配列される。しかしながら、この直交性の配置は、光学的なグレードの側表面の製造およびマイクロ流体チップの側表面における光学的な構成成分の容易でない統合を必要とするため、マイクロ流体環境において実行することが難しい。光源および検出器は、共直線配置でマイクロ流体チップの上面および底面に最も都合よく配置されるが、これは通常、検出器を励起光源からの直接光で満たし、典型的に、検体からの弱い蛍光シグナルを遮蔽する。この「正面(head-on)」配置における励起光および発光の効果的な識別を達成するための鍵は、検出器の前にロングパスフィルターを使用し、励起光を遮断してより長い波長の発光シグナルのみを通過させることである。この目的でロングパスフィルターを使用することはよく確立されているが、分離した独立型のフィルターに依存しており、良好な光学性能を生じるが、一体式の統合を妨げ、マイクロチャンネルと検出器との距離を増大させ、蛍光シグナルの非効率的な収集を生じる。
【0009】
構築されたハイブリッド装置において、市販のZnS/YF干渉フィルターが、散乱励起光を締め出すために、背部照明配置において使用される。同様に、市販のロングパスおよびショートパスフィルターは、手持ち式のタンパク質分析器のハイブリッド落射蛍光(epi-fluorescence)検出モジュールにおいて使用される。流路ノッチ(notch)と干渉フィルターとの組み合わせは、PDMS層を介してガラスマイクロチップに取り付けられる。加えて、PDMSマイクロ流体層と、ミクロアバランシェフォトダイオードを含んでなる第2のPDMSプレートとに挟まれた厚さ80μmの黄色のポリカーボネートロングパスフィルターが使用される。しかしながら、この構築において、光源をつけることにより5倍の高さのバックグラウンドシグナルが観察され、非効率的な遮断が示された。そのようなハイブリッド構築アプローチは、マイクロチャンネル、フィルターおよび検出器の大きな距離に悩み、結果として、蛍光シグナルの非効率的な収集および検出感度の制限を生じる。さらに、そのようなハイブリッド構築において得られるバックグラウンドシグナルは、高感度検出に対して高すぎる。
【0010】
PINシリコンフォトダイオードの上部における一体式に統合された多層干渉フィルターは、シリコンベースのマイクロチップに対して開発された。前記フィルターは、典型的に、40の交代性のSiO/TiO層を含んでなり、490nmにおいて5%の透過率を示し、510nmにおいて90%の透過率を示す。しかしながら、これらの統合されたDNA分析ミクロ装置は、現在、複雑な組み立ておよび高いコストのため、使い捨ての診断試験に対して適さない。
【0011】
Cdsの薄いフィルムフィルターが開発され、ほとんどの入射角に対して励起光の強い遮断を示す。しかしながら、発光シグナルの40%以下のみが透過され、結果として低い感度となる。ドープAlGaAsまたは多層Fabry-Perot空隙に基づくロングパスフィルターは、それぞれ側面の照明および低い透過率の問題点があることも報告されている。
【0012】
マイクロ流体システムは、ガラス、酸化ケイ素またはポリジメチルシロキサンのようなポリマーで製造することができる。ポリジメチルシロキサンは、特に、レプリカ造型により高い正確さでミクロンおよびサブミクロンスケールでの特徴の再生を可能にし、280nmの低さまで良好な光学的透明度を有し、低温で硬化し、無毒であり、可逆的に変形することができ、それ自体および他の物質を可逆的に封着することができ、空気または酸素プラズマに曝した後、共有結合の形成により可逆的に封着することができるため、マイクロ流体装置において使用されることが好ましい。
【0013】
上述した干渉フィルターおよびCdsフィルターは、原理的に、ガラスマイクロ流体チップとまっすぐに統合されるが、Cds、TiOおよびSiOのような多結晶の物質は、典型的に相対的に高い温度(>300℃)で堆積され、基質が動いた場合に亀裂を生じる傾向があるため、それらはPDMSのような適合するエラストマーの物質に対して不適合である。
【0014】
ポリジメチルシロキサンは、その化学的特性を変化させることにより、生物医学的な適用に対して予め修飾される。加えて、スダンレッドを用いた重合後染色により産生される染色されたポリジメチルシロキサンは、輻射熱検出器として使用される。メソスケールシステムにおける自己組織化は、パーフルオロデカリン、パーフルオロメチルデカリン、クリスタルバイオレットおよびスダンレッド7Bによりポリジメチルシロキサンを重合後染色することにより調べられた。しかしながら、そのような染色工程は拡散ベースであり、それ故遅く、色素取り込みは通常浅く、不均一であり、色素負荷を制御するのが難しい。
【0015】
フィルターとしての色素ドープポリジメチルシロキサン層の使用が提案されている。しかしながら、色素をポリジメチルシロキサンに組み込むことに付随する問題がこの提案の実現を妨げ、現在は、フィルターとして使用するための外部の組織立っていない重合後染色されたポリジメチルシロキサン層の実施例のみが開示されている。
【0016】
低コストの装置で高感度の検出を可能とする光学的な検出システムにおいて使用するための改善されたマイクロ流体装置に対する必要性がある。本発明は、色素ドープポリジメチルシロキサンマイクロ流体層を含んでなる光学フィルターの製造方法および統合されたマイクロ流体装置へそれを組み込む方法を提供する。
【0017】
本発明の第1の側面は、試料を受けるための領域、励起光源および検出器を含んでなるマイクロ流体装置であって、前記領域の一部が必要とされる波長内のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げることを特徴とする装置を提供する。
【0018】
特に、前記領域の部分は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物で構成され、前記色素は、必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げる。
【0019】
前記マイクロ流体装置はさらに提供され、前記領域は必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げる。特に、前記領域は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物で構成され、前記色素は、必要な波長のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げる。
【0020】
それ故、試料を受けるための領域は、一体式の構造として提供され、前記領域は、前記マイクロ流体装置の統合部分となる。
【0021】
前記領域は、1以上の壁で境界をつけられてよい。上述したように、前記領域の壁は、装置の統合部分である。1以上の壁または1以上の壁の一部は、上述したように前記組成物を含んでなる(すなわち、壁またはその一部は、必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げることができる)。好ましくは、前記領域に境界をつける全ての壁は、上述した組成物を含んでなる。好ましくは、上述した組成物を含んでなる前記壁または壁の部分は、試料と検出器との間、試料と光源との間または試料と検出器との間および試料と光源との間に配置される。好ましくは、前記マイクロ流体装置は、上述したポリジメチルシロキサン組成物を含んでなる。特に、前記ポリジメチルシロキサン組成物は、壁部分または前記領域を封着するプレート部分を製造するために使用されてよい。
【0022】
少なくとも前記領域の部分を製造するためにポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物を使用することが、分離する内部フィルターまたは外部フィルターに対する必要性を回避することが認識されるであろう。前記領域内の試料の励起は、試料にエネルギーを透過させる。前記マイクロ流体装置および特に前記領域の壁におけるポリメチルシロキサン組成物の存在は、必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、一方で他の全ての波長のエネルギーの透過を妨げる。前記マイクロ流体装置および特に前記領域は、フィルターとして作用する。マイクロ流体装置の製造におけるポリジメチルシロキサン組成物の使用は、望ましくない波長の試料に由来するエネルギーの透過を減少させ、および/または妨げることを可能にする(すなわち、励起光の散乱に由来するバックグラウンドノイズを減少さる)。ポリジメチルシロキサン組成物は、蛍光および/またはりん光サンプルの自己蛍光に由来するグラウンドノイズをさらに減少させ得る。
【0023】
前記第1の側面の装置は、付加的なフィルターを必要としない。前記第1の側面のマイクロ流体装置に前記組成物を組み込む替わりに、前記装置が、ショートパス励起光フィルター、バンドパスフィルター、ロングパス検出フィルター、または吸収フィルターとして作用することを可能にし、直接光または散乱光が検出器に到達することを妨げるために、バックグラウンドに由来する散乱を最小化する。
【0024】
前記領域は、好ましくは、約1〜999μm、好ましくは約10〜約500μm、より好ましくは20〜100μmの深さを有する。光学的な検出のために、より深い領域、例えば600〜800μmを使用することがしばしば有用である。励起光源は、好ましくは、マイクロ流体装置の中および/または外部に組み込むことができる1以上の光源を含んでなる。前記励起光源は、通常のランプ、レーザー、レーザーダイオード、無機発光ダイオード(LED)または有機発光ダイオード(OLED)であってよい。検出器は、マイクロ流体装置および/またはその外部に組み込まれてよい。前記検出器は、光電子倍増管または無機もしくは有機のフォトダイオードであってよい。前記マイクロ流体装置は、好ましくは、例えば基板チップのような基板を含んでなり、前記領域は、それに組み込まれ、および/またはそれに支持される。前記基板は、ポリジメチルシロキサン組成物または当該分野で通常使用される他の物質を含んでよい。
【0025】
前記装置の構成要素は、上述した組成物から製造されてよい。好ましくは、励起後のサンプルから伝達されるエネルギーの経路にある直接または間接の構成要素は、前記組成物から製造される。
【0026】
前記装置は、1以上のポリジメチルシロキサン組成物の層を含んでよい。前記層は、3mm以下の厚さ、好ましくは2mm以下の厚さ、好ましくは1mm以下の厚さ、好ましくは100μm以下の厚さ、好ましくは10μm以下の厚さまたは好ましくは1μm以下の厚さであってよい。前記層は、互いの上部に重ねられてよく、例えば内因性の接着により可逆的に、または例えば酸素もしくは空気プラズマで処理することにより不可逆的に融合されるか、あるいは融合されなくてよい。そのような層の使用は、前記領域と検出器との距離を最小化し、効率の高いエネルギーの収集を可能にする。
【0027】
それ故、前記マイクロ流体装置は、検体のより感度の高い検出を可能にする。前記第1の側面の装置の使用は、前記領域からフィルターまでの距離を最小化するため、優れた光の収集をさらに可能にする。前記装置の大きさは、付加的な外部の構成要素を含む付加的な構成要素を減少することにより、最小を維持することもできる。
【0028】
前記マイクロ流体装置は、検体の蛍光検出に対して使用されてよい。前記検体は、蛍光および/またはりん光検体であってよい。あるいは、前記検体は、検出を可能にするために、フルオロフォアおよび/またはホスフォア(phosphore)で修飾されてよい(例えば、免疫測定法における標識タンパク質またはDNAハイブリダイゼーション分析における標識核酸)。特に、フルオロフォアおよび/またはホスフォアを含んでなる検体は、前記マイクロ流体装置に導入され、任意に修飾されてよい(生物学的、物理学的または化学的方法により)。あるいは、前記検体は、前記マイクロ流体装置に導入される前に修飾されてよい。フルオロフォアおよび/またはホスフォアは、光源によるフルオロフォアおよび/またはホスフォアの励起により装置において検出を受け、その出力はショートパスフィルターを用いて任意にシャープにされる。励起されたフルオロフォアおよび/またはホスフォアは光を再放射し、前記再放射された光は、マイクロ流体装置に組み込まれた検出器、またはマイクロ流体装置の外部の検出器により検出される。前記マイクロ流体装置におけるポリジメチルシロキサン組成物は望ましくない波長の励起光を遮断するため、再放射された光の信号雑音比を増強し、より感度の高い検出を可能にする。
【0029】
前記マイクロ流体装置は、該マイクロ流体装置の内部および/または外部に1以上の付加的なフィルターを含んでよい。前記付加的なフィルターは、ショートパス励起光フィルター、バンドパスフィルター、ロングパス検出フィルターまたは吸収フィルターとして作用し、直接または散乱励起光が検出器に到達するのを妨げるために、バックグラウンドに由来する散乱を最小化する。前記マイクロ流体装置は、好ましくは、無機もしくは有機半導体に基づく光源および/または無機もしくは有機半導体に基づくフォトダイオードを含んでなる。
【0030】
本発明の目的において、前記色素は低い蛍光の光安定性の化合物であり、必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、且つ他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げる。好ましくは、前記色素はリゾクロム(lysochrome)色素(すなわち脂溶性色素)である。そのようなリゾクロム色素の例には、分子再構成を受け、もはやイオン化することができないアゾ色素が含まれる。色素の選択は、エネルギーが伝達される波長範囲および波長範囲の幅を決定することが理解されるであろう。それ故、前記色素は、組成物を調整するために使用され、必要な波長範囲において必要なまたは望ましい程度の選択性および感度での透過を可能にする。
【0031】
好ましくは、前記色素は、フェニル環のような1以上の芳香環を含んでなる芳香系を含む。より好ましくは、前記色素は、2以上の融合したフェニル環を含んでなる接合した芳香系を含む。前記2以上の融合した環は、直接的に相互に融合するか、またはシクロヘキシル環のような不飽和もしくは部分飽和した環のように介在部分に融合してよい。本発明の第1の側面の1つの特徴において、前記色素は式(I)の化合物を含んでなる。
【化9】

【0032】
前記式(I)の化合物は、フェニルまたはナフタレン環の1以上の位置において、1以上のヒドロキシ、ハロ、C1〜4アルキルで置換されてよい。
【0033】
本発明の目的において、前記色素は、スダンブルーII(ソルベントブルー35)、スダンブラックB(ソルベントブラック)、スダンI(ソルベントイエロー14)、スダンII(ソルベントオレンジ7)、スダンIII(ソルベントレッド23)およびスダンIV(ソルベントレッド24)、ソルベントブルー37、ソルベントブルー38、ソルベントブルー59ならびにソルベントグリーン3(キンザリン(Quinzarine)グリーン55)のようなスダン色素ファミリーから選択される1以上を含んでよい。より好ましくは、前記色素は1以上のスダンII、
【化10】

【0034】
および/またはスダンIV
【化11】

【0035】
から選択される。
【0036】
前記第1の側面の代替的または付加的な特徴において、前記色素はスダンブルーIIであってよい。
【化12】

【0037】
あるいは、前記色素は、ポルフィリンもしくはその誘導体、ピグメント、着色顔料、またはCdsのようなナノ粒子であってよい。2以上の波長におけるエネルギーの透過を可能にするために(すなわち、バンドパスろ過を作るために)、2以上の色素がポリジメチルシロキサン組成物中に組み込まれてよいことが理解されるであろう。
【0038】
前記色素は、ポリジメチルシロキサンとの混合物として組成物中に提供されてよい。あるいは、いくつかまたは全ての色素がポリジメチルシロキサンモノマーと反応し、共重合体を形成してよい。
【0039】
特に、前記マイクロ流体装置は、ポリジメチルシロキサンおよびスダンIIを含んでなる組成物を含み、前記ポリジメチルシロキサン組成物は、570nm以上の波長において透過を可能にし、520nm以下の波長において透過を妨げる。
【0040】
前記組成物は、フィルターとして作用し、ある一定の波長またはある一定の波長範囲のエネルギー、好ましくは光の透過を可能にする。特定の波長または波長範囲のエネルギーの透過は、透過されるエネルギーの検出を可能にするのに十分である。前記組成物は、さらに、他の全ての波長(すなわち、望ましくないまたは特定されない波長)において、エネルギー(すなわち光)の透過を妨げる。前記組成物は、望ましくない波長のエネルギーの透過を必ずしも100%阻害するとは限らない。ポリジメチルシロキサン組成物が望ましくない波長のエネルギーの透過を十分に減少させる代わりに、望ましい波長または波長範囲のエネルギーの検出を妨げるわけではない。
【0041】
波長範囲の広さは、使用される色素に依存する。特に、エネルギーの透過は、100〜300nmの範囲以上で生じる。
【0042】
望ましい波長における透過から非透過までの移行相は、好ましくは100nm以下、より好ましくは50nm以下である。本発明の組成物は、マイクロ流体装置の製造において例えばポリジメチルシロキサンおよびスダンブルーIIを含んでなる組成物を使用することにより広帯域のろ過を可能にし、400〜500nmの透過を可能にするが、300nm未満または550nmより大きい波長における透過を妨げる。あるいは、前記組成物は、狭い帯域のろ過、すなわち、50nm以下、好ましくは20nm以下、好ましくは5nm以下、好ましくは1nm以下の波長範囲にわたる透過を可能にし得る。
【0043】
前記色素の前記組成物への組み込みが、エネルギー、例えば光がポリジメチルシロキサン組成物を通して透過され得る波長を決定することは、当業者により認識されるであろう。それ故、前記組成物は、励起源(例えば励起光源)のスペクトルおよび特定の検出方法により必要とされるような検出シグナルにより調節され得る。
【0044】
好ましくは、前記組成物は、必要な波長におけるエネルギーの80%より大きい透過、より好ましくは必要な波長におけるエネルギーの90%より大きい透過、最も好ましくは必要な波長におけるエネルギーの95%以上の透過を可能にする。さらに、前記組成物は、好ましくは望ましくない波長におけるエネルギーの10%未満の透過、好ましくは望ましくない波長におけるエネルギーの5%未満の透過、好ましくは望ましくない波長におけるエネルギーの2%未満の透過を可能にする。好ましくは、望ましくない波長におけるエネルギーの1%以下の透過、好ましくは望ましくない波長におけるエネルギーの0.1%以下の透過、好ましくは望ましくない波長におけるエネルギーの0.01%以下の透過を可能にする。
【0045】
好ましくは、前記組成物は光の透過を可能にする。好ましくは、前記光は蛍光またはりん光として検出可能である。
【0046】
前記マイクロ流体装置は、特に低いコストで製造することが可能である。ポリジメチルシロキサン−色素組成物を前記装置に組み込むことにより、コストがかかり且つ組み込むために時間がかかる通常の分離フィルターに対する必要性を除去する。特に、干渉フィルターは複合シリコンに基づく多層製造を必要とする一方で、ゼラチンフィルターは色素の液体ゼラチンへの組み込み、ゼラチン−色素混合物のガラスへのコーティング、混合物の乾燥、ガラスからの混合物の剥離、およびラッカーを用いたコーティングを必要とする。これらの通常のフィルターは、その後、マイクロ流体装置に組み込まれる必要がある。
【0047】
本発明の装置は、その低コスト製造により、ディスポーザブル装置として提供することができる。前記装置の製造は、特に、例えばシリコンベースの干渉フィルターのような通常のフィルターを組み込む当該分野で既知の装置を製造することと比較した場合に費用対効果が高い。
【0048】
本発明のポリジメチルシロキサン組成物の使用は、低い自己蛍光、無視できる水溶液の浸出および制限された光誘導性の分解を示すマイクロ流体装置またはフィルターを製造することを可能にする。
【0049】
前記組成物のスペクトルの特徴を商業的に入手可能なSchottロングパスフィルターと比較すると、本発明は高品質の光学フィルターをPDMSマイクロ流体チップに組み込むことができることを示す。本発明の組成物の使用は、使用において丈夫なフィルターの製造を可能にし、拡張された照射の後にわずかな分解、および延長された水溶液への曝露の後に無視できる程度の色素浸出を示すにすぎない。本発明は、低コスト高品質の統合されたフィルターを提供することを可能にし、治療の分岐点の診断のための高感度ディスポーザブルマイクロ流体装置の開発に対する重要なステップを示す。
【0050】
本発明の第2の側面は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物の製造方法であって、無極性溶媒に色素を溶解することと、前記溶解された色素をポリジメチルシロキサンモノマーと混合することと、前記色素の存在下においてポリジメチルシロキサンモノマーを重合することとを含んでなる方法に関する。
【0051】
前記色素の存在下におけるポリジメチルシロキサンモノマーの重合は、正確な色素濃度の調整および均一な色素の組み込みを可能にする。
【0052】
前記無極性溶媒は、好ましくは、トルエン、キシレンまたはヘキサンである。前記ポリジメチルシロキサン組成物の製造方法は、任意に、重合の前にポリジメチルシロキサンに硬化剤を加えることを含む。加えて、重合前の混合物は、重合の前に任意に脱気されてよい。
【0053】
前記第2の側面の方法は、信頼できる方法で組成物を製造することを可能にするため、前記第1の側面において開示したようなマイクロ流体装置を製造するために使用することができる物質を提供することができる。
【0054】
本発明の第3の側面は、本発明の前記第1の側面において述べたようなマイクロ流体装置の製造方法に関する。前記組成物は、色素を無極性溶媒に溶解することと、溶解された色素とポリジメチルシロキサンモノマーとを混合することと、予め決定された対象を形成することと、重合体混合物を硬化することとを含んでなる。前記装置は、好ましくは、溶解された色素およびポリジメチルシロキサンモノマーを型に入れることにより形成され、前記最終産物は、硬化した後に型から外される。
【0055】
前記方法は、任意に、溶解された色素とポリジメチルシロキサンモノマーの混合物に硬化剤を添加することを含んでなる。前記装置は、好ましくは、溶解された色素、ポリジメチルシロキサンモノマーおよび硬化剤の型への導入により形成されてよく、最終産物は硬化した後型から外される。
【0056】
重合体混合物の硬化は、例えば、混合物を95℃で2時間、または65℃で4時間、好ましくは6時間、より好ましくは8時間、オーブンで焼くことにより行われてよい。あるいは、前記混合物は、空気中に放置して硬化されてよい(例えば24時間以上、室温で)。前記装置は、キャスティングまたは射出成型により調製されてよい。例えば、1以上の壁または1以上の壁の一部のような領域の一部がポリジメチルシロキサン−色素組成物を含んでなる場合、前記部分は、上述したように製造されてよく、基板のように色素を含まない第2のポリジメチルシロキサン部分と結合する。
【0057】
本発明の第4の側面は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物を提供する。
【0058】
好ましくは、前記色素は、フェニル環のような1以上の芳香環を含んでなる芳香系を含む。より好ましくは、前記色素は、2以上の融合したフェニル環を含んでなる接合した芳香系を含む。本発明の前記第1の側面の1つの特徴において、前記色素は式(I)の化合物を含んでなる。
【化13】

【0059】
式(I)の化合物は、フェニルまたはナフタレン環の1以上の位置において、1以上のヒドロキシ、ハロ、C1〜4アルキルで置換されてよい。
【0060】
本発明の目的において、前記色素は、スダンブルーII(ソルベントブルー35)、スダンブラックB(ソルベントブラック)、スダンI(ソルベントイエロー14)、スダンII(ソルベントオレンジ7)、スダンIII(ソルベントレッド23)、スダンIV(ソルベントレッド24)、ソルベントブルー37、ソルベントブルー38、ソルベントブルー59およびソルベントグリーン3(キニザリングリーン55)のようなスダン色素ファミリーから選択される1以上を含んでよい。より好ましくは、前記色素は、スダンII
【化14】

【0061】
および/またはスダンIV
【化15】

【0062】
の1以上から選択される。
【0063】
前記第1の側面の代替的または付加的な特徴において、前記色素はスダンブルー(II)であってよい。
【化16】

【0064】
あるいは、前記色素は、ポルフィリンもしくはその誘導体、着色顔料、ピグメント、またはCdsのようなナノ粒子であってよい。2以上の波長におけるエネルギーの透過を可能にするため(すなわち、バンドパスろ過を作るため)に、2以上の色素がポリジメチルシロキサン組成物に組み込まれてよいことが認識されるであろう。
【0065】
前記第4の側面の色素は、トルエン、キシレンまたはヘキサンのような無極性溶媒に溶解する。前記色素はさらに、凝集に対する低い傾向を示す。
【0066】
前記組成物は、例えば本発明の第1の側面の装置のような装置に組み込むための光学的な構成要素を製造するために使用されてよい。特に、前記組成物は、フィルター、レンズ、プリズム、ミクロレンズ、反応域、センサー、基板等に組み込むため、またはそれらを製造するために使用されてよい。
【0067】
第5の側面は、診断試験に関し、本発明の前記第1の側面のマイクロ流体装置に試料を導入することと、任意に、前記試料を化学的、物理的、もしくは生物学的な方法により修飾することと、前記試料を励起させることと(例えば照明により)、放出されるエネルギーを検出することとを含んでなる。特に、前記第5の側面の試験は、検体の蛍光またはりん光検出、好ましくは蛍光検出を可能にする。前記検体は、蛍光および/またはりん光検体であってよい。あるいは、前記検体は、フルオロフォアまたはホスフォアにより修飾されてよい。例えば、検体は、蛍光もしくはりん光で標識されたタンパク質(例えば免疫測定法)または核酸(例えばDNAハイブリダイゼーション分析)であってよい。フルオロフォアおよび/またはホスフォアを含んでなる検体は、マイクロ流体装置に導入され、任意に修飾される。あるいは、非フルオロフォアまたはホスフォア検体は、前記マイクロ流体装置に導入され、蛍光および/またはりん光を発するように修飾される。前記フルオロフォアおよび/またはホスフォアは光源により励起され、フルオロフォアおよび/またはホスフォアから再放出された光が検出される。
【0068】
前記フルオロフォアまたはホスフォアは、好ましくは、標識されたタンパク質、核酸またはそれらの一部もしくは誘導体である。
【0069】
前記診断試験は、好ましくは、蛍光および/またはりん光により検体の存在または非存在を検出するための試験を含んでなる。
【0070】
本発明の第6の側面は、診断試験を行うためのキットに関し、本発明の第1の側面のマイクロ流体装置および行われるべき診断試験に関する説明書を含んでなる。
【0071】
本発明の各側面の全ての好ましい特徴は、他の全ての側面に必要な変更を加えて適用される。
【0072】
本発明は、種々の方法で実施することができ、付随する図面を参照して本発明を説明するために、多くの特定の実施形態が実施例により述べられる。
【0073】
図1は、色素ドープPDMSフィルターを用いるための典型的な配置を示す。一体式のマイクロ流体フィルター層は、組織立っていないPDMS板に対して封着される。蛍光色素は、マイクロチャンネル注入口を通して注入され、OLED光源を用いて励起される。共線配置において、色素から放出される蛍光は、ドープPDMSフィルター層を通して有機フォトダイオードを用いて検出される。
【0074】
図2は、青色OLED(1)の放出スペクトルならびにモデルフルオロフォアローダミンBの励起との重なり(2)および放出スペクトルを示す。スダンIIを添加した光学フィルター層(4)は、ロングパスフィルターとして作用し、OLED放出が検出器に到達するのを効果的に遮断する。
【0075】
図3は、種々の濃度のスダンII(A)、スダンIII(B)およびスダンIV(C)色素を添加した厚さ3mmのPDMS層の透過特性を示す。アスタリスクは、最適化された条件に対するスペクトルを示す。
【0076】
図4は、スダンIIが添加された厚さ2mm(A)および厚さ1mm(B)の薄いフィルムPDMS層に対する透過特性を示す。
【0077】
図5は、厚さ2mmの市販のSchottフィルターならびに1200および900μg/mLのスダンIIがそれぞれ添加された厚さ1mmおよび厚さ2mmのPDMS層に対する自己蛍光測定を示す。200mW Ar Ion層は、励起光源として使用された。蛍光放出は、積分球(integration sphere)内において、CCDスペクトロメーターを用いて測定された。図は、582nmカットオンSchottフィルターの透過スペクトルを示す。
【0078】
図6は、2mmの市販のSchottフィルターおよび900μg/mLのスダンIIをドープした2mmPDMS層に対する自己蛍光検出結果を示す。488nm Ar Ionレーザーは、励起光源として使用された。蛍光放出は、積分球内において、高感度CCDスペクトロメーターを使用して測定された。図は、583nmにカットオンポイントを有するSchottフィルターの放出スペクトルを示す。PDMSフィルターの色素負荷は、同じフィルターの厚さに対するSchottフィルターの光学密度とほぼ一致させるように選択された。
【0079】
図7は、最適化された厚さ1mm(A)および厚さ2mm(B)のスダンIIドープPDMS層の選択的な遮断の特性を示す。500および520nmにおける励起単色光が使用された場合、モデルフルオロフォアローダミンBの吸収バンドと重複する。両方の波長が前記フィルター層により効果的に遮断される。しかしながら、フルオロフォアに由来するより長い波長の発光は透過する。これは、600nmにおける単色光を用いて示される。透過した光は、ドープされていないPDMSよりもわずかに低いのみである(点線を参照されたい)。
【0080】
図8は、1mm〜OD4スダンIIフィルターの遮断特性を示し、ここで述べられる共線配置を用いて測定される。下のプロットは、500nmの光が色素ドープPDMSにより強く減弱されることを示す一方で、600nmの光は非ドープのPDMSに匹敵するレベルで透過することを示す。上のプロットは、色素ドープPDMSに対する大いに拡大されたスケールでの500nmのデータを示す。スペクトル範囲全体にわたって検出可能なシグナルはなく、透過光の強度およびフィルター自己蛍光の強度は共にスペクトロメーターのノイズの下限以下である。
【0081】
図9は、化学的な溶媒に対するフィルター安定性を示す。化学的安定性の試験のために、フィルターは、水またはエタノール中で超音波処理された。表されたデータは、600μg/mLスダンIIをドープした厚さ2mmのPDMS層に対するものである。
【0082】
図10は、PDMS中に添加される異なる色素を示し、ペトリ皿においてカラープレートを形成する。
【0083】
図11は、異なるドーピングレベルにおける厚さ2mmのスダンブルー(II)をドープしたPDMSの透過スペクトルを示す。
【0084】
図12は、マイクロ流体チップの図を示し、カラーフィルターは、チャンネル部分および/またはチップを封着するためのプレート部分の一部として、直接的にマイクロ流体チップに加工することができる。
【0085】
図13は、一体式に統合された光学的なロングパスフィルターの図を示す。構造化された色素ドープPDMS層は、マイクロ流体回路および光学的なロングパスフィルターとして同時に役立つ。開示されたマイクロチャンネルは、第2の非ドープPDMS板に対してドープ層を封着することにより得られる。共線検出配置のために、励起光源および検出器は、構築されたマイクロチップの上および下に位置する。図13に対する挿入は、800μmの広さおよび800μmの深さのマイクロチャンネルを有するスダンIIドープPDMSフィルターの画像を示す。
【0086】
図14は、種々の濃度のスダンII、スダンIIIおよびスダンIVをドープした3mmPDMS層に対する値Qの図を示す。Qは、カットオンポイント以上および以下の波長におけるフィルター透過の割合に対応する。スダンII(カットオン550nm)について、600および500nmにおける透過の値が使用された。スダンIII(カットオン560nm)およびスダンIV(カットオン580nm)について、650および470nm、ならびに630および530nmにおける透過がそれぞれ使用された。
【0087】
図15は、種々の濃度のスダンIIをドープした1mmPDMS層に対するQ値の図を示す。点線は、カットオンポイント以上および以下のスダンIIの吸光係数に基づく理論的な限界に対応する。
【0088】
本発明は次に、以下の1以上の非限定的な実施例により説明される。
【実施例】
【0089】
光学フィルター製造
光学的なロングパスフィルターは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)をドープしてプレ重合により製造された。スダンII、III、IVおよびスダンブルーII色素(シグマアルドリッチ, Gillingham, UK)は、1 mLトルエンに溶解され、その後、予め10:1v/vの比で混合された16.5 mLのPDMSモノマーおよび硬化剤に添加された(Sylgard 184 シリコンエラストマーキット, Dow Corning, Coventry, UK)。均一なPDMS着色が得られるまで、強い手動の混合を継続した。ドープされたPDMSは、その後、組織化されていないフィルターの製造のためのプラスチックのペトリ皿に、または一体式に統合されたマイクロ流体装置/フィルター層を型に入れて作るためのSU−8原型に注がれた。2つのレベルのSU−8原型は、標準的なSU−8加工プロトコルを用いて、CIP社(Centre of Integrated Photonics(Ipswich, UK))において、シリコン基板上で製造された。フィルターの厚さは、注がれるPDMSの容積により調節され、標準的なフィルターの厚さは3 mmである。フィルター性能の最適化のために、色素負荷を調節すると共に、厚みは後で2 mmおよび1 mmに低下させた。PDMS硬化は、室温で48時間行った。高いスダンII色素負荷のために、65℃、4時間の硬化ステップを加えた。
【0090】
フィルターは、種々の厚み(1〜3 mm)および色素負荷(60〜1800μg/mL)で調製された。最も高い色素負荷は、色素分子の完全な溶解および最終的なマトリックス中における均一な分散を達成するために、トルエン含量の増大を必要とした。しかしながら、過度に高い溶媒含量は、延長された硬化の後でさえ不完全な重合を結果として生じた。それ故、ドープされたPDMSにおける全溶媒の量は、10v/v/-%以下に制限された。高い色素負荷に対して、PDMSの完全な硬化を保証するために65℃で4時間の硬化ステップが加えられた。
【0091】
色素ドープPDMSフィルターの透過率は、特注の薄いフィルムのホルダーを備えたUV−VISスペクトロメーターV−560(Jasco, Great Dunmow, UK)において測定された。スペクトルは、空気に対して補正および参照されたベースラインであった。典型的な走査は、250〜850nm、400nm/分、2nmライン幅で行われた。スダンフィルター範囲の自己蛍光は、積分球を用いて、200mW Ar Ionレーザー励起光源およびUSB 2000 CCDスペクトロメーター(Ocean Optics, Duiven, The Netherlands)で測定された。
【0092】
継続的な光照射に対するフィルター安定性は、UVライト(200W水銀アークランプ)でフィルターを照射すること、研究室のベンチにフィルターを保管すること、およびそれらを4週間、周辺光に曝すことにより試験された。化学的安定性は、水またはエタノール中に浸されたフィルターにより試験され、33KHz(300W)で、5分間、10分間、1時間、3時間および5時間超音波処理された(Sonomatic S1000, Langford Electronics, Birmingham, UK)。結果として得られる光学特性は、処理されていないPDMSフィルターと比較された。
【0093】
マイクロ流体チップの製造
一体式に統合されたマイクロ流体/フィルター層の製造について、スダンIIドープPDMSモノマー/硬化剤溶液は、硬化の前にSU−8原型に注がれた。SU−8原型は、標準的なSU−8加工プロトコルを用いて、シリコン基板上で製造された(Centre for Integrated Photonics, Ipswich, UK)。図13に示すように、硬化されたPDMS層はその後剥離され、PDMSの組織化されていない板に対して封着され、開示されたマイクロチャンネルが形成された。特性の再現の正確さは、色素添加により影響されず、ミクロンサイズの特性を容易に作ることができる。弾性、水和性および結合性の特徴のような原体PDMSの特性も影響されない。それ故、PDMSの有利な特性は、色素添加の後でも保持されている。
【0094】
蛍光検出機構
オンチップ蛍光検出における一体式に統合されたマイクロ流体/フィルター層の使用について、ガラスパスツールピペットを用いてチャンネルエンドに交通孔を開け、結果として直径〜2 mmの穴を生じ、1 mmの厚さの組織化されていないPDMS板に対して可逆的に封着する。その後、異なる濃度のローダミンB溶液がマイクロチップ注入口を通して水力学的に注入される。共線検出配置において、ブルーOLEDおよび有機フォトダイオードが励起光源および検出器としてそれぞれ使用されてよい(図1)。ブルーOLED発光は、420〜650nmの範囲であり、465nmにピーク発光を伴う。ローダミンBは、540および570nmの発光極大をそれぞれ有する。使用される最適化された色素ドープPDMSフィルターは、520nm以下で<2%の透過率を示し、570nm以上で〜90%の透過率を示す(図2)。これは、ローダミンBに由来する蛍光放出が透過する一方で、励起光の効果的な遮断を可能にする。PDMS層のドーピングがない場合、フォトダイオードは直接励起光により飽和され、低い強度の蛍光の検出を妨げる。有機フォトダイオードの応答性は、典型的に、400〜800nmである。
【0095】
フィルター自己蛍光のより厳密な測定は、積分球−その内部表面が拡散的に反射する物質で被覆された中空球を用いて得られる。光源、この場合自己蛍光フィルターが理想的な積分球内に位置する場合、前記光は、発光の角分布とは無関係に前記領域の内部表面に等方向に再分布される。それ故、一定の波長のNΩが立体角Ωにおいて検出される場合、放出された光子の全数Nは、N=kλNΩ(4π/Ω)により得られ、式中のkλは、前記球における反射損失を説明する波長依存性の定数である。それ故、積分球の使用は、自己蛍光を介して放出される光子の総数を、前記球壁の単一の位置における測定から決定することを可能にし、全部の角の発光分布を精密に考慮する必要性を除去することができる。前記PDMSフィルターは、直径18cmの球(Labsphere)の内部に位置し、小さな入口を通して入る200mW 488nm Ar イオンレーザー(43シリーズ Ar イオンレーザー, Melles Griot)から出力される直径2mmのビームで照射された。放出された光は、第2の入口に挿入され、レーザービームに対して90°に配向された光ファイバー結合CCDスペクトロメーター(直径600μmのファイバーを有するUSB2000CCDスペクトロメーター,Ocean Optics)を用いて検出された。スダンII PDMSフィルターの自己蛍光の特性は、583nmにカットオンポイントを有する商業的に入手可能なSchottガラスロングパスフィルターと同様に測定された。前記Schottフィルターは、570〜950nmの範囲で少量の自己蛍光を示したが、PDMSフィルターからは蛍光は検出されず、スダンII/PDMSフィルターの高い品質を確認した(図6)。自己蛍光は、CCDスペクトロメーターで示すには弱すぎるため、フィルターの外部光ルミネセンス量子効率は計算できなかった。しかしながら、システムの感度に基づいて、それは、0.01%未満であることが確実であった。
【0096】
PDMSホストマトリックスへの発色団取り込みの最適化
比較を目的として、以前にWhitesidesにより報告されたように、極性色素を用いた重合後染色は、ローダミンBおよびローダミン640を用いて行われた。両方のケースにおいて、染色は48時間の色素水溶液への浸漬後に観察される一方で、横断面の切断は、表面付近のみの強い染色を明らかにする。これは、拡散による染色過程と一致する。水和性を増強するためにPDMS表面をプラズマ処理することまたは細孔サイズを拡大するために10:1〜50:1 v/vにモノマー/硬化剤比を増大させることにより色素取り込みを増大させる試みは、成功しなかった。
【0097】
重合前ドーピングは、硬化の前に色素団をモノマー/硬化剤混合物に添加することにより試験された。PDMSホストマトリックスについて、Sylgardモノマーはヘキサンおよびキシレンに溶解されるため、無極性の色素団を必要とする。水またはエタノールに溶解された極性色素の添加は、乳剤質の不均一な色素団の組み込みおよび不完全な重合を結果として生じた。対照的に、少量のヘキサンまたはトルエンに溶解され、PDMSモノマー/硬化剤と完全に混合された無極性のスダン色素は、均一に組み込まれた。適用した溶媒容積は、ドープされたPDMSにおける全溶媒量が10v/v-%以下となるように最小化された。溶媒含量が高いと、延長された硬化の後でさえ、不完全な重合を結果として生じることが多い。
【0098】
硬化の後のスダンドープPDMS層の光学的な性質は、図3に示す。スダンIIベースのロングパスフィルターのカットオンポイントは550nmであり、50%ピーク透過における波長に対応する。スダンIIについて、300μg/ml以下の色素濃度は570nm以上の高い透過を結果として生じるが、520nm以下における遮断が不完全になることが分かる(図3a)。色素濃度の増大は、低波長の遮断を増強し、高波長の透過を減少させる。最適な色素濃度は、420μg/mL、520nm以下で〜1%の透過、570nm以上で85%までの透過を生じる。スダンIII色素の組み込みは、一般的に、570nm以上でより高い透過を生じるが、低波長の遮断と高波長の透過との間に広範な遷移層を生じた(図3b)。カットオンポイントは560nmであった。最適な結果は、300μg/mLの場合に得られ、450nm以下で<0.5%の透過、620nm以上で85%の透過を生じた。580nmのカットオンポイントを有するスダンIVドープフィルターは、典型的に、低波長における優れた遮断、適度にシャープな遷移層、および高波長における良い透過性を示した(図3c)。最適な結果は、300μg/mLの場合に得られ、500nm以下で<0.5%の透過、および620nm以上で90%までの透過であった。強い励起光源を使用した他の適用の場合、より高い色素負荷を有するフィルターを使用することは有用であり、低波長の遮断を増強する。
【0099】
蛍光検出において、励起光遮断と放出される蛍光の透過との間の鋭いカットオンは重大であるため、典型的な遷移層<50nmを有するスダンIIドープ層は、さらなる最適化のために選択された。薄いフィルムのフィルターは、フルオロフォア発光の効率的な収集のために有益であり、そのようなフィルター厚さの効果は、その後調査された。図4は、スダンIIドープPDMS層について、フィルターの厚さを減少させることに伴う変化を示す。厚さ2mmの層に600μg/mLのスダンIIをドーピングした場合、500nmにおいて<1%の透過率、570nm以上で〜90%の透過率を示した(図4a)。これは、厚さ3mmの層が〜85%の高波長透過率を生じることを超える改善である。色素負荷を720および900μg/mLに増大させることにより、低波長の遮断を増強し、500nm透過率を<0.5および0.05%に低下させ、それぞれ2.3および3.3の光学密度に対応する(OD=−log(%T/100))。色素負荷を調節せずに層の厚さを1mmに低下させることにより、高波長の透過を改善したが、低波長の減弱には効果がなかった(図4b)。しかしながら、色素負荷が1080および1200μg/mLに増大した場合、優れた低波長の遮断が達成され、それぞれ0.1%(OD3)および0.007%(OD4.2)の500nm透過率であった。これは、最高水準の減弱レベルを示し、レーザー、レーザーダイオード、LEDおよびOLEDのような強力な光源の使用を可能にする。色素負荷を2400μg/mLまでさらに増大させた場合、低波長の遮断がさらに増強されることなく高波長の透過を減少させた。我々は、フィルターの遮断特性は、組み込まれた色素の全量により主に決定されると信じている。結果として、より薄いフィルムは、最適な結果のためにより高い色素負荷を必要とする。しかしながら、この傾向は、色素の溶解性により制限され、すなわち、過剰な色素負荷は、不均一な懸濁型の色素取り込みを結果として生じ得る。2400μg/mL以上の色素負荷は、溶媒量を増大させても粒子の凝集を生じる。
【0100】
フィルターの自己蛍光は、200mW Ar イオンレーザー、積分球および光ファイバーを備えたCCDスペクトロメーターを用いて試験された。硫酸バリウムで被覆された積分球は、全ての光を球全体に均一に拡散させ、等方向に放出された蛍光の収集を増大させる。PDMSフィルターは、球の内部に位置し、球の開口部を通して侵入する直径2mmのレーザービームで照明された。フィルターから生じる放出された自己蛍光の検出は、レーザービームに対して90°配向した第2の開口部に挿入されたCCDスペクトロメーターを用いて行われた。それぞれ1200および900mg/mLのスダンIIをドープした最適化された1mmおよび2mmの厚さのPDMS層および市販の厚さ2mmのSchottフィルターの自己蛍光は、図5に示す。Schottフィルターが570〜950nmの相当な自己蛍光を示す一方で、スダンIIドープPDMSフィルターは測定可能な自己蛍光を示さないことがわかった。これは、本発明の方法により光学的なグレードのフィルターを作ることができ、工業標準規格に合致することを証明する。
【0101】
本発明のフィルターの優れた選択的な遮断特性を示すために、単色光の模擬の励起およびモデルフルオロフォアローダミンBに対して典型的に使用される波長を用いて照射した(図7)。厚さ1mmおよび厚さ2mmのドープされたPDMS層の両方について、500および520nmにおける励起光は効果的に遮断された一方で、より長い波長の蛍光放出は、ドープされていないPDMSと同様のレベルまで透過することがわかった。低い自己蛍光との組み合わせにおけるこれらの特性は、優れたロングパスフィルタリングの特性を示す。
【0102】
最適化された2mmのスダンIIドープフィルターについて、化学的な溶媒および延長された光曝露に対する安定性が続いて検討され、それは、産業的な適用に対する重要なパラメータである(図9)。5分間水中で超音波処理した場合、無視できるほどの変化を生じたのみであり、低波長の透過は0.15%増大し、高波長の透過は<2%減少した。エタノール中で5分間超音波処理した場合、マイクロチップクリーニングプロトコルにおいて通常使用されるように、同様の無視できるほどの変化を生じた。ドープしたフィルターをエタノールに1時間浸漬した場合、透過において〜1.5%の変化を生じた一方で、エタノールに5時間浸漬した場合は、〜2%の高波長の透過の低下を生じ、低波長の遮断については無視できるほどの変化であった。これらの変化は、わずかな色素の浸出に起因し、エタノールの場合により強く(スダン色素のより高い溶解性による)、超音波処理誘導性のキャビテーションにより増強される。ディスポーザブル装置において使用するために、この溶媒安定性は明らかに良好である。研究室におけるドープされたフィルターの周辺光への延長された曝露は、4週間後、低波長の遮断のわずかな低下を明らかにし、我々は色素のわずかな退色に起因すると考えた(500nm透過率は0.1〜0.5%増大した)。同様に、200W UVランプに1時間および200mW Arイオンレーザーに30分曝露した場合、最小の変化を生じたのみであった。我々は、この光安定性は、気密なアルミニウム箔包装で日常的に包装されるディスポーザブル診断システムにおける予測された使用に対して特に適していると考える。
【0103】
ショートパスまたはバンドパスフィルターの適用について、スダンブルーIIはトルエンに溶解され、それぞれ15μg/ml、10μg/ml、5μg/mlの異なる濃度の溶液が作られる。前記色素が完全に溶解したことを決定することは必要である。1容積の溶液を10容積のPDMSモノマーおよび1容積の硬化剤と混合し、混合物を予め形成された型に流し込み、決められた形の構成要素が作られた(すなわち、プレート、チップ、またはレンズ)。前記混合物は、モノマーを硬化する前に脱気し、混合物中の気泡を除去した。硬化は、室温で空気中に混合物を放置することにより行った。予め形づくられたゴム様のフレキシブルなPDMS構成要素が得られる。
【0104】
スダンブルーIIをドープしたPDMSにより形成された厚さ2mmのプレートの透過スペクトルは、UV−VIS分光光度計により測定され、図11に示した。重合前のPDMSと混合された異なる濃度のスダンブルーII溶液は、透過スペクトルを最適化するために使用された。スペクトルから、厚さ2mmのPDMSプレートに対して適切な濃度は、カラーフィルタリングに使用することができ、青または赤の領域のスペクトルにおいて透過させ、550nm〜650nmを遮断する。
【0105】
それ故、フィルターはPDMS構築物から作ることができ、蛍光検出に対して使用することができる。前記構築物は、チャンネル部分またはチップを封着するためのプレート部分の一部としてマイクロ流体装置に直接導入することができる(図12に示す)。前記装置は、励起光または検出のためのフィルターとして作用し得る。
【0106】
理想的なロングパスフィルターは、カットオンの両側で優れた減弱および透過を提供すべきであり、それ故我々は、フィルター性能を評価するために、簡便な指数Q値=T(λ透過)/T(λ遮断)を使用した(式中のT(λ)は、波長λにおけるパーセント透過であり、λ透過およびλ遮断は、フィルターカットオンの両側の好都合な波長に対応する)。以下の基準に適合する場合、Qは、透明なPDMSが色素ドープPDMSで置換されたときの感度における予想される改善に対応する:(i)光源のスペクトルは、ロングパスフィルターの減弱領域に完全に位置することと;(ii)検体の発光スペクトルは、ロングパスフィルターの透過領域に完全に位置することと;(iii)検出限界は、検出器のノイズまたは他の電気的なノイズよりむしろ励起光によるバックグラウンドにより決定されることと;(iv)フィルターからの自己蛍光が無視できること。これらの基準が満たされた場合、最適なフィルターの性能は、Qを最大にする色素負荷において得られる。
【0107】
予備試験において、3つの色素分子の相対的な性能を評価するために、厚さ3mmのフィルターは、60〜720μg/mLの範囲でスダンII、スダンIIIおよびスダンIV色素負荷を用いることにより作られた。前記3つの色素に対するQ値の濃度依存性は図3に示す。スダンIIおよびスダンIVのQ値は、色素負荷と共に急速に増大し、色素濃度が増大すると共に短波長の減弱が改善されることと一致する。スダンIIIの場合、Q値は最初、色素負荷と共に指数関数的に増大するが、300μg/mLのピークに急速に到達し、その後減少する。300μg/mL以上の色素負荷において、色素分子の粒子がドープされたPDMS層において目に見えるため、フィルター性能におけるこの減少は色素分子の凝集に起因し、色素の組み込みが不均一であることを意味する。スダンIIおよびIVは共に、フィルター材料であることが期待されるが、スダンIIIはトルエンに十分溶解しないため、適切なフィルター性能を達成しない。代替の溶媒の選択により、高品質なスダンIIIフィルターが製造される可能性がある。
【0108】
減弱と透過の間の鋭いロールオン(roll-on)は、蛍光検出において重要であるため、幅<50nmの典型的なロールオン遷移を有するスダンIIフィルターは、さらなる最適化のために選択された。マイクロ流体の環境におけるフルオロフォア放出の効率的な回収を確認するために、フルオロフォアと検出器との間の距離は小さく維持するべきであり、続く試験は1mmのフィルター上で行われ、それはマイクロ流体装置において使用される基板の厚さの典型である。図4において、我々は、600〜1200μg/mLの範囲の色素濃度でスダンIIフィルターを用いて得られるQ値を示し、上限は、注目すべき色素凝集なく達成することができる最大色素負荷に対応する。Q値は、全濃度範囲にわたってシャープに増大し、1200μg/mLにおいて、最大値〜8800に到達する。上記4つの基準を満たす場合、ほぼ4オーダーの規模の感度における潜在的な増大を表す。Q値は調査された濃度範囲で超指数関数的に増大し、色素が不均一に組み込まれた場合、Q値は以下の実験的な関係により色素濃度と関連するため、それはいくらか驚くべきことである:
【数1】

【0109】
式中のcは色素濃度であり、dはフィルターの厚さであり、εロングおよびεショートは、それぞれ長波長および短波長における色素分子の吸光係数を意味する。スダンIIの吸光係数は、トルエンにおける100μM溶液中で測定され、500および600nmにおいて、それぞれ24280および170M-1cm-1の値を生じた。これは、1mm層における1200μg/mL(〜4mM)スダンIIに対する理論的な最大のQ値18260に対応し、実質的に、我々のPDMSフィルターにおいて実際に得られる値よりも高い。色素濃度の関数として理想的なQ値は、図4において点線で示され、予想通り、全領域に渡って、観察されたデータは計算された最適値より低い。実験データのより低い非指数関数的な性質は、色素がホストマトリックス内に不均一に取り込まれたことを示し、最適以下の遮断特性を結果として生じる。異なる色素負荷におけるポリマー混合層の微視的な研究は現在進行中であり、色素の改善された分散を得るために、Q値を理論的な最大値により近づける。高い色素負荷において、予想されるQと測定されるQとの間のずれは、2の因子のみである。
【概要】
【0110】
高品質の一体式に組み込まれたディスポーザブルのPDMSに基づくマイクロ流体層は、光学的なロングパスフィルター特性を用いて製造された。スダンIIおよびスダンIV色素の使用は、良好な溶解性を示し、それぞれ550および580nmのカットオン波長を有する高品質なフィルターを製造した。例えば、相対的に低い600μg/mLの色素負荷を有する厚さ3mmのフィルターは、スダンIIおよびスダンIVそれぞれについて3.3および4.3の短波長光学密度を生じた。スダンIIを試験色素として使用する場合、高品質の1mm PDMS層は、1200μg/mLまでの色素負荷を用いて製造された。結果として得られるフィルターは、優れた光学特性を有しており、例えば、500nmにおいて<0.01%の透過、および570nm以上において>80%の透過であった。重要なことに、フィルターは、無視できるほどの自己蛍光を示し、マイクロチップに基づく蛍光検出にそれらを効果的に使用することができた。前記フィルターは、使用において強いことが証明され、水溶液における無視できるほどの浸出および辺縁の光分解を生じたのみであった。PDMSの加工は、色素ドーピングにより影響されず、チャンネル媒体および光学フィルターとして同時に役立つ着色された基板の製造を可能にした。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】図1は、色素ドープPDMSフィルターを用いるための典型的な配置を示す。
【図2】図2は、青色OLED(1)の放出スペクトルならびにモデルフルオロフォアローダミンBの励起との重なり(2)および放出スペクトルを示す。
【図3A】図3Aは、種々の濃度のスダンIIを添加した厚さ3mmのPDMS層の透過特性を示す。
【図3B】図3Bは、種々の濃度のスダンIIIを添加した厚さ3mmのPDMS層の透過特性を示す。
【図3C】図3Cは、種々の濃度のスダンIVを添加した厚さ3mmのPDMS層の透過特性を示す。
【図4】図4は、スダンIIが添加された厚さ2mm(A)および厚さ1mm(B)の薄いフィルムPDMS層に対する透過特性を示す。
【図5】図5は、厚さ2mmの市販のSchottフィルターならびに1200および900μg/mLのスダンIIがそれぞれ添加された厚さ1mmおよび厚さ2mmのPDMS層に対する自己蛍光測定を示す。
【図6】図6は、2mmの市販のSchottフィルターおよび900μg/mLのスダンIIをドープした2mmPDMS層に対する自己蛍光検出結果を示す。
【図7】図7は、最適化された厚さ1mm(A)および厚さ2mm(B)のスダンIIドープPDMS層の選択的な遮断の特性を示す。
【図8】図8は、1mm〜OD4スダンIIフィルターの遮断特性を示す。
【図9】図9は、化学的な溶媒に対するフィルター安定性を示す。
【図10】図10は、PDMS中に添加される異なる色素を示す。
【図11】図11は、異なるドーピングレベルにおける厚さ2mmのスダンブルー(II)をドープしたPDMSの透過スペクトルを示す。
【図12】図12は、マイクロ流体チップの図を示す。
【図13】図13は、一体式に統合された光学的なロングパスフィルターの図を示す。
【図14】図14は、種々の濃度のスダンII、スダンIIIおよびスダンIVをドープした3mmPDMS層に対する値Qの図を示す。
【図15】図15は、種々の濃度のスダンIIをドープした1mmPDMS層に対するQ値の図を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を受けるための領域、励起光源および検出器を含んでなるマイクロ流体装置であって、前記領域の一部は、必要な波長範囲におけるエネルギーの透過を可能にし、他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げることを特徴とする装置。
【請求項2】
請求項1に記載のマイクロ流体装置であって、前記領域の一部は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物で構成され、前記色素は、必要な波長範囲におけるエネルギーの透過を可能にし、他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げる装置。
【請求項3】
請求項1に記載のマイクロ流体装置であって、前記領域は、必要な波長範囲のエネルギーの透過を可能にし、他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げることを特徴とする装置。
【請求項4】
請求項3に記載のマイクロ流体装置であって、前記領域は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物で構成され、前記色素は、必要な波長範囲におけるエネルギー透過を可能にし、他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げる装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置であって、前記領域は1以上の壁により結合され、前記1以上の壁または前記1以上の壁の一部は、ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物を含み、前記色素は、必要な波長範囲におけるエネルギー透過を可能にし、他の全ての波長におけるエネルギーの透過を妨げる装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置であって、前記励起光源は1以上の光源を含んでなる装置。
【請求項7】
請求項2および4〜6のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置であって、前記色素は芳香系を含んでなる装置
【請求項8】
請求項7に記載のマイクロ流体装置であって、前記色素は、フェニル環またはナフタレン環の1以上の位置において1以上のヒドロキシ、ハロ、C1〜4アルキルで任意に置換された式(I)の化合物を含んでなる装置。
【化1】

【請求項9】
請求項7または8に記載のマイクロ流体装置であって、前記色素はスダン色素ファミリーから選択される装置。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置であって、前記色素は1以上のスダンII、
【化2】

スダンIV、
【化3】

またはスダンブルー(II)
【化4】

である装置。
【請求項11】
請求項2または4〜10のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置であって、前記組成物は、ポリジメチルシロキサンおよびスダンIIを含んでなり、前記ポリジメチルシロキサン組成物は、570nm以上の波長において透過を可能にし、520nm以下の波長において透過を妨げる装置。
【請求項12】
ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物の製造方法であって、前記色素を無極性溶媒に溶解することと、溶解された色素をポリジメチルシロキサンモノマーと混合することと、色素の存在下でポリジメチルシロキサンモノマーを重合することとを含んでなる方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法であって、前記無極性溶媒は、トルエン、キシレンまたはへキサンである方法。
【請求項14】
請求項12または13に記載の方法であって、重合の前に硬化剤がポリジメチルシロキサンモノマーに添加される方法。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置の製造方法であって、色素を無極性溶媒に溶解することと、溶解された色素とポリジメチルシロキサンモノマーを混合することと、予め決定された対象を形成することと、重合体の混合物を硬化することとを含んでなる方法。
【請求項16】
請求項15に記載の方法であって、前記装置は、溶解された色素およびポリジメチルシロキサンモノマーを型に導入することによって形成され、前記最終生成物は硬化の後に型から取り出される方法。
【請求項17】
請求項15または16に記載の方法であって、前記溶解された色素およびポリジメチルシロキサンモノマーは硬化剤の存在下で混合される方法。
【請求項18】
ポリジメチルシロキサンおよび色素を含んでなる組成物であって、前記色素は、フェニル環またはナフタレン環の1以上の位置において1以上のヒドロキシ、ハロ、C1〜4アルキルで任意に置換された式(I)の化合物を含んでなる組成物。
【化5】

【請求項19】
請求項18に記載の組成物であって、前記色素はスダン色素ファミリーから選択される1以上の色素である組成物。
【請求項20】
請求項18または19に記載の組成物であって、前記色素は、1以上のスダンII、
【化6】

またはスダンIV
【化7】

またはスダンブルーII
【化8】

またはポルフィリンもしくはその誘導体、着色顔料、ナノ粒子のピグメントである組成物。
【請求項21】
請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置に試料を導入すること、試料を励起させること、および放出されるエネルギーを検出することを含んでなる診断試験。
【請求項22】
請求項21に記載の診断試験であって、化学的、物理的、または生物学的な修飾により、励起の前に試料を修飾することをさらに含んでなる診断試験。
【請求項23】
請求項21または22に記載の診断試験であって、前記放出されるエネルギーは、蛍光またはりん光により産生される診断試験。
【請求項24】
請求項21〜23のいずれか1項に記載の診断試験であって、フルオロフォアまたはホスフォアを含んでなる試料を前記マイクロ流体装置に導入することと、前記試料を光源で励起することと、試料から再放出される光を検出することとを含んでなる診断試験。
【請求項25】
診断試験を行うためのキットであって、請求項1〜11のいずれか1項に記載のマイクロ流体装置および行われる診断試験に関する説明書を含んでなるキット。
【請求項26】
1以上の図および/または実施例に関して実質的にここで述べられているマイクロ流体装置。
【請求項27】
1以上の図および/または実施例に関して実質的にここで述べられている加工。
【請求項28】
1以上の図および/または実施例に関して実質的にここで述べられている方法。
【請求項29】
1以上の図および/または実施例に関して実質的にここで述べられている組成物。
【請求項30】
1以上の図および/または実施例に関して実質的にここで述べられている診断試験または診断試験を行うためのキット。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図3C】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公表番号】特表2009−516162(P2009−516162A)
【公表日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−539497(P2008−539497)
【出願日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004198
【国際公開番号】WO2007/054710
【国際公開日】平成19年5月18日(2007.5.18)
【出願人】(503183868)モレキュラー・ビジョン・リミテッド (2)
【Fターム(参考)】