説明

マイクロ秒X線強度切換えのためのX線管

【課題】画質、イメージング・システムの性能、及びX線源の耐久性を保存するように電子ビームの焦点及び位置を同じ時間尺度で制御する。また、走査要件に基づいて電子ビーム強度を制御して電子ビームを正確に配置するX線管の設計を開発する。
【解決手段】X線管(50)用の入射器(52)が提示される。入射器(52)は、電子ビーム(64)を放出する放出器(58)と、放出器(58)の周りに配設されて電子ビーム(64)を集束させる少なくとも一つの集束電極(70)と、放出器(58)に関して正のバイアス電圧に保たれて電子ビーム(64)の強度を制御する少なくとも一つの引出し電極(74)とを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は一般的には、X線管に関し、さらに具体的には、マイクロ秒X線強度切換えのための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
典型的には、計算機式断層写真法(CT)イメージング・システムでは、X線源が患者又は手荷物のような被検体又は物体へ向けてファン(扇形)形状又はコーン(円錐形)形状のX線を放出する。以下では、「被検体」及び「対象」「物体」との用語は、撮像されることが可能な任意の物体を含むように用いられ得る。ビームは被検体によって減弱された後に放射線検出器のアレイに入射する。検出器アレイにおいて受光される減弱後のビーム放射線の強度は典型的には、被検体によるX線ビームの減弱量に依存している。検出器アレイの各々の検出器素子が、各々の検出器素子によって受光された減弱後のビームを示す別個の電気信号を発生する。電気信号はデータ処理システムへ伝送されて解析される。データ処理システムは、電気信号を処理して画像の形成を容易にする。
【0003】
一般的には、CTシステムでは、X線源及び検出器アレイは、撮像平面内で被検体を中心としてガントリの周りで回転する。さらに、X線源は一般的にはX線管を含んでおり、X線管は焦点においてX線ビームを放出する。また、X線検出器又は検出器アレイは典型的には、検出器において受光されるX線ビームをコリメートするコリメータと、コリメータに隣接して配設されてX線を光エネルギへ変換するシンチレータと、隣接するシンチレータから光エネルギを受け取ってここから電気信号を発生するフォトダイオードとを含んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第6652143号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CTシステムにおいて用いられている現在利用可能なX線管は、電子ビーム強度のレベルを所望の時間分解能に合わせて制御することができない。この分野では、フィラメントの加熱を制御する手法、及び血管撮影用X線源に典型的に用いられているウェーネルト円筒(Wehnelt Cylinder)格子制御を用いる手法のような手法を用いたり、X線管のターゲットに電子ビーム強度を制御するための電子加速フードを用いたりすることにより幾つかの試みが行なわれている。また、現在利用可能なマイクロ波源は、ピアス電極(Pierce electrode)のような集束電極を含む電子銃を含んで電子ビームを発生している。これらの電子銃は典型的には、制御格子手段の利用を介してビーム電流の大きさを制御する格子を含んでいる。残念ながら、格子ワイヤの熱機械的応力は電子ビームの遮断面積が最小になるときに小さくなるので、電子ビームのエネルギ及びデューティ・サイクルのため遮断用ワイヤ・メッシュ格子の導入が困難になっている。さらに、電子ビーム電流の急速な変化は、X線ターゲットでの電子ビームの適正な配置及び集束を妨げる。また、電子ビーム強度の0%から100%までの電子ビーム電流の変調は、空間電荷力の変化が所望の電磁集束及び偏向に変化を齎すため電子ビームの力を変化させる。従って、画質、イメージング・システムの性能、及びX線源の耐久性を保存するように電子ビームの焦点及び位置を同じ時間尺度で制御することが望ましい。
【0006】
また、走査要件に基づいて電子ビーム強度を制御して電子ビームを正確に配置するX線管の設計を開発することがさらに望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
簡潔に述べると、本発明の手法の一観点によれば、X線管の入射器(injector)が提示される。入射器は、電子ビームを放出する放出器と、放出器の周りに配設されて電子ビームを集束させる少なくとも一つの集束電極と、放出器に関して正のバイアス電圧に保たれて電子ビームの強度を制御する少なくとも一つの引出し電極とを含んでいる。
【0008】
本発明の手法のもう一つの観点によれば、X線管が提示される。X線管は入射器を含んでおり、入射器は、電子ビームを放出する放出器と、放出器の周りに配設されて電子ビームを集束させる少なくとも一つの集束電極と、電子ビームの強度を制御し、放出器に関して正のバイアス電圧に保たれている少なくとも一つの引出し電極とを含んでいる。さらに、X線管はまた、電子ビームによって衝突されるX線を発生するターゲットと、入射器とターゲットとの間に位置して、電子ビームをターゲットへ向けて集束、偏向及び/又は配置するのに指向的に作用する磁気アセンブリとを含んでいる。
【0009】
本発明の手法のさらにもう一つの観点によれば、計算機式断層写真法システムが提示される。計算機式断層写真法システムは、ガントリと、ガントリに結合されたX線管とを含んでいる。X線管は、管外被と、入射器とを含んでおり、入射器は、電子ビームを放出する放出器と、放出器の周りに配設されて電子ビームを集束させる少なくとも一つの集束電極と、電子ビームの強度を制御し、放出器に関して正のバイアス電圧に保たれている少なくとも一つの引出し電極とを含んでいる。X線管はまた、電子ビームによって衝突されるX線を発生するターゲットと、入射器とターゲットとの間に位置して、電子ビームをターゲットへ向けて集束、偏向及び/又は配置するのに指向的に作用する磁気アセンブリとを含んでいる。さらに、計算機式断層写真法システムは、X線管に電力及びタイミング信号を供給するX線制御器と、撮像対象からの減弱されたX線ビームを検出する1又は複数の検出器素子とを含んでいる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
本発明のこれらの特徴、観点及び利点、並びに他の特徴、観点及び利点は、添付の図面を参照して以下の詳細な説明を読むとさらに十分に理解されよう。図面全体を通して類似の符号は類似の部分を表わす。
【図1】CTイメージング・システムの見取り図である。
【図2】図1に示すCTイメージング・システムのブロック概略図である。
【図3】本発明の手法の各観点による例示的なX線管の図である。
【図4】本発明の手法の各観点によるもう一つの例示的なX線管の図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の各実施形態は、X線管でのマイクロ秒X線強度切換えに関する。例示的なX線管、及びこの例示的なX線管を用いた計算機式断層写真法システムが提示される。
【0012】
ここで図1及び図2を参照すると、計算機式断層写真法(CT)イメージング・システム10が示されている。CTイメージング・システム10はガントリ12を含んでいる。ガントリ12はX線源14を有し、X線源14は典型的には、ガントリ12においてX線管の反対側に配置されている検出器アレイ18へ向けてX線ビーム16を投射するX線管である。一実施形態では、ガントリ12は、X線ビームを投射する多数のX線源を(患者θ軸又は患者Z軸に沿って)有し得る。検出器アレイ18は複数の検出器20によって形成されており、検出器20は一括で、患者22のような撮像されるべき対象を透過した投射X線を感知する。X線投影データを取得するための1回の走査の間に、ガントリ12及びガントリ12に装着されている構成部品は回転中心24の周りを回転する。CTイメージング・システム10は患者22に関して説明されているが、CTイメージング・システム10は医療分野以外にも応用され得ることを認められたい。例えば、CTイメージング・システム10は、手荷物及び小包等のような密閉物品の内容を確認するために用いられる場合もあるし、爆発物及び/又は生体有害物質のような密輸品の捜索に用いられる場合もある。
【0013】
ガントリ12の回転及びX線源14の動作は、CTシステム10の制御機構26によって制御される。制御機構26は、X線制御器28とガントリ・モータ制御器30とを含んでおり、X線制御器28はX線源14に電力及びタイミング信号を供給し、ガントリ・モータ制御器30はガントリ12の回転速度及び位置を制御する。制御機構26内に設けられているデータ取得システム(DAS)32が検出器20からのアナログ・データをサンプリングして、後続の処理のためにこのデータをディジタル信号へ変換する。画像再構成器34が、サンプリングされてディジタル化されたX線データをDAS32から受け取って高速再構成を実行する。再構成された画像はコンピュータ36への入力として印加され、コンピュータ36は大容量記憶装置38に画像を記憶させる。
【0014】
また、コンピュータ36はまた、キーボードのような入力装置(図1〜図2には示されていない)を有し得る操作者コンソール40を介して操作者から指令及び走査用パラメータを受け取る。付設されている表示器42によって、操作者は、再構成された画像及びコンピュータ36からの他のデータを観測することができる。操作者によって供給された指令及びパラメータはコンピュータ36によって用いられて、DAS32、X線制御器28及びガントリ・モータ制御器30に制御情報及び信号情報を供給する。加えて、コンピュータ36は、モータ式テーブル46を制御するテーブル・モータ制御器44を動作させて、患者22及びガントリ12を配置する。具体的には、テーブル46は患者22の各部分をガントリ開口48を通して移動させる。幾つかの実施形態では、コンピュータ36は、コンベヤ・システム46を制御するコンベヤ・システム制御器44を動作させて、小荷物又は手荷物のような物体及びガントリ12を配置し得ることが特記され得る。さらに具体的には、コンベヤ・システム46は物体をガントリ開口48を通して移動させる。
【0015】
X線源14は典型的には、少なくともカソード及びアノードを含むX線管である。カソードは、直熱式カソードであっても間接加熱式カソードであってもよい。現在、X線管は、電子ビームを発生してアノードに衝突させてX線を発生する電子源を含んでいる。これらの電子源は、フィラメントの電流を変化させ、従ってフィラメントの放出温度を変化させることによりビーム電流の大きさを制御する。残念ながら、これらのX線管は走査要件に基づいてビュー単位で電子ビーム強度を制御することができず、これによりシステムの撮像選択肢を限定している。従って、例示的なX線管が提示され、このX線管は、公称動作時のマイクロ秒電流制御、多数のX線源のゲート制御又は利用制御のためのオン/オフ格子制御、X線画像の改善のための0%〜100%変調、及び所望の強度のX線を発生して画質を高めるための線量制御又は高速電圧切換えを提供する。
【0016】
図3は、本発明の手法の各観点による例示的なX線管50の図である。一実施形態では、X線管50はX線源14であり得る(図1〜図2参照)。図示の実施形態では、X線管50は真空壁54の内部に配設された例示的な入射器52を含んでいる。さらに、入射器52は、当該入射器52の様々な構成要素を封入する入射器壁53を含んでいる。加えて、X線管50はまた、アノード56を含んでいる。アノード56は典型的には、X線ターゲットである。入射器52及びアノード56は、管外被72の内部に配設されている。本発明の手法の各観点によれば、入射器52は少なくとも一つのカソードを放出器58の形態で含み得る。本例では、カソード、具体的には放出器58は、直熱式であり得る。さらに、放出器は放出器支持体60に結合され、次に放出器支持体60は入射器壁53に結合され得る。放出器58は、当該放出器58に大電流を流すことにより加熱され得る。電圧源66がこの電流を放出器58に供給することができる。一実施形態では、約10アンペア(A)の電流を放出器58に流すことができる。放出器58は、電圧源66によって供給される電流によって加熱される結果として電子ビーム64を放出することができる。本書で用いられる「電子ビーム」との用語は、実質的に類似した速度を有する複数の電子から成る流れを指すのに用いられ得る。
【0017】
電子ビーム64はターゲット56へ向けて導かれてX線84を発生することができる。さらに具体的には、電子ビーム64は、放出器58とターゲット56との間に電位差を印加することにより放出器58からターゲット56へ向けて加速され得る。一実施形態では、約40kV〜約450kVの範囲の高電圧が高電圧フィードスルー68の利用を介して印加されて、放出器58とターゲット56との間に電位差を設定し、これにより高電圧主電場78を発生することができる。一実施形態では、約140kVの高電圧差が放出器58とターゲット56との間に印加されて、ターゲット56へ向かう電子ビーム64の電子を加速することができる。現在思量される構成では、ターゲット56は接地電位にあり得ることが特記され得る。例として述べると、放出器58は約−140kVの電位にあり、ターゲット56は接地電位又は約0ボルトにあり得る。
【0018】
代替的な実施形態では、放出器58が接地電位に保たれて、ターゲット56が放出器58に関して正の電位に保たれ得る。例として述べると、ターゲットは約140kVの電位にあり、放出器58は接地電位又は約0ボルトにあり得る。
【0019】
また、電子ビーム64がターゲット56に入射すると、ターゲット56に多量の熱が発生される。残念ながら、ターゲット56において発生される熱は、ターゲット56を溶融させるのに十分なほど著しい場合がある。本発明の手法の各観点によれば、回転ターゲットを用いてターゲット56での熱発生の問題を回避することができる。さらに具体的には、一実施形態では、ターゲット56は回転するように構成されることができ、すると電子ビーム64はターゲット56において同じ位置には衝突しないのでターゲット56に衝突する電子ビーム64がターゲット56を溶融させることがなくなる。もう一つの実施形態では、ターゲット56は静止ターゲットを含み得る。さらにまた、ターゲット56は、電子ビーム64の衝突によって発生される熱に耐えることが可能な材料で製造され得る。例えば、ターゲット56は、限定しないがタングステン、モリブデン、又は銅のような材料を含み得る。
【0020】
現在思量される構成では、放出器58は平面型放出器である。代替的な構成では、放出器58は曲面型放出器であってよい。曲面型放出器は、典型的には曲率が凹であって、電子ビームの前集束を提供する。本書で用いられる「曲面型放出器」との用語は、彎曲した放出面を有する放出器を指すのに用いられ得る。さらに、「平面型放出器」との用語は、平坦な放出面を有する放出器を指すのに用いられ得る。本発明の手法の各観点によれば、成形された放出器を用いることもできる。例えば、一実施形態では、方形放出器又は矩形放出器のような様々な多角形形状の放出器を用いることができる。但し、限定しないが楕円形又は円形の放出器のような他の形状の放出器を用いることもできる。応用要件に基づいて、様々な形状又は寸法の放出器を用いてよいことが特記され得る。
【0021】
本発明の手法の各観点によれば、放出器58は仕事関数の低い材料から形成され得る。さらに具体的には、放出器58は、融点が高く高温において安定な電子放出が可能な材料から形成され得る。仕事関数の低い材料としては、限定しないがタングステン、トリウム入りタングステン、及び六ホウ化ランタン等が挙げられる。
【0022】
引き続き図3を参照して述べると、入射器52は、少なくとも一つの集束電極70を含み得る。一実施形態では、少なくとも一つの集束電極70は、当該集束電極70が電子ビーム64をターゲット56へ向けて集束させるように放出器58に隣接して配設され得る。本書で用いられる「隣接」との用語は、空間又は位置において近傍であることを意味する。さらに、一実施形態では、集束電極70は放出器58の電圧電位よりも低い電圧電位に保たれ得る。放出器58と集束電極70との間の電位差は、放出器58から発生される電子が集束電極70へ向けて移動するのを防ぐ。一実施形態では、集束電極70は放出器58に関して負の電位に保たれ得る。放出器58に関して集束電極70が負電位にあることにより、電子ビーム64は集束電極70から離隔して集束し、これによりターゲット56へ向けた電子ビーム64の集束が容易になる。
【0023】
もう一つの実施形態では、集束電極70は、放出器58の電圧電位に等しい又は実質的に類似した電圧電位に保たれ得る。放出器58の電圧電位に関して集束電極70の電圧電位を類似したものにすると、集束電極70の形状によって静電場を成形することにより平行な電子ビームが生成される。集束電極70は、放出器58及び集束電極70を結合する導線(図3には示されていない)の利用を介して放出器58の電圧電位に等しい又は実質的に類似した電圧電位に保たれ得る。
【0024】
また、本発明の手法の各観点によれば、入射器52は、電子ビーム64をターゲット56へ向けて付加的に制御して集束させる少なくとも一つの引出し電極74を含んでいる。一実施形態では、少なくとも一つの引出し電極74は、ターゲット56と放出器58との間に位置する。さらに、幾つかの実施形態では、引出し電極74は、当該引出し電極74に所望の電圧を供給する電圧タブ(図3には示されていない)の利用を介して正のバイアスを印加され得る。本発明の手法の各観点によれば、バイアス電圧電源90が引出し電極74に電位を供給することができ、引出し電極74が放出器58に関して正のバイアス電圧に保たれるようにしている。一実施形態では、引出し電極74を様々な電圧電位を有する複数の領域に分割して、放出器58の様々な領域からの集束又はバイアス付き放出を実行することができる。
【0025】
X線管において、X線ビームのエネルギは、多数の方法の1又は複数を介して制御され得ることが特記され得る。例えば、X線ビームのエネルギは、カソードとアノードとの間の電位差(すなわち加速電圧)を変化させること、X線ターゲットの材料を変更すること、又は電子ビームをフィルタリングすることにより制御され得る。このことを一般に「kV制御」と呼ぶ。本書で用いられる「電子ビーム電流」との用語は、カソードとアノードとの間の秒当たりの電子流の流れを指す。さらに、X線ビームの強度は、電子ビーム電流の制御を介して制御可能である。強度を制御するかかる手法を一般に「mA制御」と呼ぶ。本書で議論されるように、本発明の手法の各観点は、引出し電極74の利用を介した電子ビーム電流の制御を提供する。かかる引出し電極74の利用は、加速電圧から電子放出の制御を切り離すことを可能にすることが特記され得る。
【0026】
さらに、引出し電極74はマイクロ秒電流制御のために構成される。明確に述べると、電子ビーム電流は、引出し電極74に印加される電圧をマイクロ秒のオーダーで変化させることにより、マイクロ秒のオーダーで制御され得る。放出器58は無限の電子発生源として扱われ得ることが特記され得る。本発明の手法の各観点によれば、電子ビーム電流は、典型的には放出器58からターゲット56へ向かう電子の流れであって、引出し電極74の電圧電位を変化させることにより制御され得る。電子ビーム電流の制御について以下でさらに詳細に説明する。
【0027】
引き続き図3を参照して述べると、引出し電極74はまた、集束電極70に関して正の電圧にバイアスを印加され得る。例として、放出器58の電圧電位が約−140kVである場合に、集束電極70の電圧電位は約−140kV以下に保たれてよく、引出し電極74の電圧電位は放出器58に関して引出し電極74に正のバイアスを印加するために約−135kVに保たれ得る。本発明の手法の各観点によれば、集束電極70と引出し電極74との間の電位差によって引出し電極74と集束電極70との間に電場76が発生される。このように発生される電場76の強度を用いて、放出器58によってターゲット56へ向けて発生される電子ビーム64の強度を制御することができる。このようにして、ターゲット56に衝突する電子ビーム64の強度は電場76によって制御され得る。さらに具体的には、電場76は、放出器58から放出された電子をターゲット56へ向けて加速する。電場76が強いほど放出器58からターゲット56へ向かう電子の加速は大きくなる。代替的には、電場76が弱いほど放出器58からターゲット56へ向かう電子の加速は小さくなる。
【0028】
加えて、引出し電極74に加わるバイアス電圧を変化させると、電子ビーム64の強度を変更することができる。前述のように、引出し電極に加わるバイアス電圧を、バイアス電圧電源90に存在する電圧タブの利用を介して変化させることができる。引出し電極74に、放出器58に関して相対的に正となるようにバイアスを印加すると、電子ビーム64の強度が高まる。代替的には、引出し電極74に、放出器58に関して相対的に正とならないようにバイアスを印加すると、電子ビーム64の強度が小さくなる。一実施形態では、電子ビーム64は、引出し電極74に、放出器58に関して負となるようにバイアスを印加することにより完全に遮断され得る。前述のように、引出し電極74に加わるバイアス電圧は、バイアス電圧電源90の利用を介して供給され得る。従って、電子ビーム64の強度は、バイアス電圧電源90に存在する電圧タブの利用を介して引出し電極74に加わるバイアス電圧を変化させることにより、可能な強度の0%から100%まで制御され得る。
【0029】
さらに、8kV以下の電圧シフトを引出し電極74に印加して電子ビーム64の強度を制御することができる。幾つかの実施形態では、これらの電圧シフトは、制御電子回路モジュール92の利用を介して引出し電極74に印加され得る。制御電子回路モジュール92は、引出し電極74に印加される電圧を1マイクロ秒〜15マイクロ秒の間隔乃至少なくとも約150ミリ秒の間隔で変化させる。一実施形態では、制御電子回路モジュール92は、引出し電極74に印加される電圧を変化させるSi切換え技術サーキットリを含み得る。幾つかの実施形態では、電圧シフトの範囲が8kVを超える場合には炭化ケイ素(SiC)切換え技術を応用することができる。従って、引出し電極74に印加される電圧の変化は、例えば1マイクロ秒〜15マイクロ秒の間隔での電子ビーム64の強度の変化を容易にする。電子ビームの強度をマイクロ秒のオーダーで制御するこの手法をマイクロ秒強度切換えと呼ぶことができる。
【0030】
加えて、例示的なX線管50はまた、ターゲット56において電子ビーム64を集束させ且つ/又は配置して偏向させる磁気アセンブリ80を含み得る。一実施形態では、磁気アセンブリ80は入射器52とターゲット56との間に配設され得る。一実施形態では、磁気アセンブリ80は、X線ターゲット56において電子ビーム64を成形する磁場を形成することにより電子ビーム64の集束に作用する1又は複数の多極電磁石を含み得る。1又は複数の多極電磁石としては、1若しくは複数の四重極磁石、1若しくは複数の二極磁石、又はこれらの組み合わせを等が挙げられる。電子ビーム電流及び電圧の特性が急速に変化するのに伴って、入射器における空間電荷及び静電集束の効果が呼応して変化する。安定な焦点スポット寸法を保つため、又はシステム要件に従って焦点スポット寸法を高速に変更するために、磁気アセンブリ80は、広範な焦点スポット寸法に対して定常状態から30ミリ秒未満までの時間尺度で制御可能な性能を有する磁場を提供する。このことは、CTシステム性能の要件を達成すると共に、X線源系統の保護を提供する。加えて、磁気アセンブリ80は、X線ターゲット56の所望の位置への電子ビーム64の偏向及び配置のための1又は複数の二極磁石を含み得る。集束されて配置された電子ビーム64は、ターゲット56に入射してX線84を発生する。電子ビーム64のターゲット56との衝突によって発生されるX線84は、X線管50から、一般にX線窓86とも呼ばれる管外被72の開口を通って、対象(図3には示されていない)へ向けて導かれ得る。
【0031】
引き続き図3を参照して述べると、電子ビーム64の電子は、ターゲット56に衝突した後に後方散乱される場合がある。従って、例示的なX線管50は、ターゲット56から後方散乱された電子を収集する電子収集器82を含み得る。本発明の手法の各観点によれば、電子収集器82は接地電位に保たれ得る。代替的な実施形態では、電子収集器82は、ターゲット56の電位と実質的に類似した電位に保たれ得る。さらに、一実施形態では、電子収集器82がターゲット56に隣接して位置して、ターゲット56から後方散乱された電子を収集し得る。もう一つの実施形態では、電子収集器82は、引出し電極74とターゲット56との間でターゲット56に近接して位置し得る。加えて、電子収集器82は、限定しないが例えばモリブデンのような耐熱材料から形成され得る。さらに、一実施形態では、電子収集器82は銅から形成され得る。もう一つの実施形態では、電子収集器82は耐熱金属と銅との組み合わせから形成され得る。
【0032】
さらに、例示的なX線管50はまた、電子ビーム64の電子のターゲット56との衝突によって発生され得る陽イオンを吸引する陽イオン収集器(図3には示されていない)を含み得ることが特記され得る。陽イオン収集器は一般的には、電子ビームの経路に沿って配置されて陽イオンがX線管50の様々な構成要素に衝突するのを防ぎ、これによりX線管50の構成要素に対する損傷を防ぐ。
【0033】
ここで図4を参照すると、例示的なX線管100のもう一つの実施形態の図が示されている。本実施形態に示すように、X線管100は真空壁54の内部に配設された例示的な入射器102を含んでいる。さらに、入射器102は、入射器102の様々な構成要素を封入する入射器壁53を含んでいる。X線管50の場合と同様に、X線管100もまたアノード56を含んでいる。
【0034】
本発明の手法の各観点によれば、入射器102は間接加熱式カソードを含み得る。従って、図4に示す実施形態では、入射器102は放出器110のような間接加熱式カソードを含んでいる。現在思量される構成では、放出器110は曲面型放出器である。さらに、本例では、放出器110のような間接加熱式カソードは、少なくとも一つの熱イオン電子源104によって加熱され得る。少なくとも一つの熱イオン電子源104は、適当な加熱条件に置かれると電子を放出する放出面を含んでいる。本発明の手法の各観点によれば、放出面は、円形、矩形、楕円形若しくは方形の幾何学的構成、又はこれらの組み合わせを含み得る。さらに、放出面は少なくとも一つのコイル・フィラメント、リボン、平坦な面、又はこれらの組み合わせを含み得ることが特記され得る。熱イオン電子源104は、少なくとも一つの熱イオン電子源104を流れる電子流の流れに応答して電子を発生するように構成され得る。電子流は、ジュール加熱によって熱イオン電子源104の温度を上昇させる。また、熱イオン電子源104は、融点が高く高温において安定な電子放出が可能な材料から形成され得る。加えて、一実施形態では、熱イオン電子源104は仕事関数の低い材料から形成され得る。一実施形態では、熱イオン電子源104は、仕事関数の低い材料による被覆を含み得る。さらに具体的には、熱イオン電子源104は、限定しないがタングステン、トリウム入りタングステン、タングステン−レニウム、及びモリブデン等のように加熱されると電子を発生することが可能な材料から形成され得る。加えて、一実施形態では、熱イオン電子源104は、フィラメント導線(図4には示されていない)を介して熱イオン電子源104に電圧を印加することにより加熱され得る。幾つかの実施形態では、第一の電圧源106を用いて熱イオン電子源104に電圧を印加することができる。熱イオン電子源104によって発生される電子を一般に加熱電子ビーム108とも呼ぶ。
【0035】
放出器110は加熱電子ビーム108によって衝突される電子ビーム112を発生する。電子ビーム112はターゲット56へ向けて導かれて、X線84を発生することができる。さらに具体的には、電子ビーム112は、放出器110とターゲット56との間に電位差を印加することにより放出器110からターゲット56へ向けて加速され得る。さらに、図4の現在思量される構成に示すように、放出器110は放出器支持体60に結合された曲面型放出器であり、次に放出器支持体60は前述のように入射器壁53に結合されている。但し、放出器110は彎曲している必要はなく、代わりに平坦な放出面を有していてもよい。一実施形態では、放出器110は仕事関数の低い材料で製造され得る。代替的には、放出器110は、タングステンよりも低い仕事関数を有し加熱されると電子を放出する低仕事関数の材料を含み得る。さらに具体的には、放出器110は、限定しないがタングステン、トリウム入りタングステン、及び六ホウ化ランタン等のように融点が高く高温において安定な電子放出が可能な材料から形成され得る。放出器110のような間接加熱式カソードの現在思量される構成では、曲面型放出器の設計が達成され得る。また、放出器110からの熱が熱イオン電子源104に戻って流れると、放出器110での熱暴走が生じ得る。熱暴走は、温度制限領域(regime)の代わりに空間電荷制限領域において熱イオン電子源104を動作させることにより回避され得る。空間電荷制限領域は、放出器110からの電子の放出が、放出器110の温度ではなく放出器110の表面に形成される電場によって制限されるときに形成される。
【0036】
図3に関して上で述べたように、集束電極70及び引出し電極74を用いて放出器110から放出される電子を加速し、電子ビーム112をターゲット56へ向けて導くことができる。さらにまた、集束電極70及び引出し電極74の利用は電子ビーム112の強度の制御を容易にする。図3に関して上で述べたように、引出し電極74は、放出器110及び集束電極70に関して正のバイアス電圧に保たれる。これにより、ターゲット56に衝突する電子ビーム112の強度を制御することが容易になる。ターゲット56に入射する電子ビーム112はX線84を発生する。
【0037】
以上に記載したような例示的なX線管の実施形態は、電子ビームのマイクロ秒電流制御のような幾つかの利点を有する。また、この例示的なX線管を用いて、低kV信号を増幅することにより高速kV切換えを改善することができる。さらに、この例示的なX線管は、電子ビームの放出と加速とを切り離すことにより低kV放出レベルを増大させることができる。加えて、この例示的なX線管では、電子ビームの焦点スポット寸法、並びに強度及び配置を保持することができ、CTイメージング・システムの画質が改善される。
【0038】
発明の幾つかの特徴のみを本書に図示して説明したが、当業者には多くの改変及び変形が想到されよう。従って、特許請求の範囲は、本発明の真意に含まれるような全ての改変及び変形を網羅するものと理解されたい。
【符号の説明】
【0039】
10 CTイメージング・システム
12 ガントリ
14 X線源
16 X線
18 検出器アレイ
20 複数の検出器
22 患者
24 回転中心
26 制御機構
28 X線制御器
30 ガントリ・モータ制御器
32 データ取得システム
34 画像再構成器
36 コンピュータ
38 大容量記憶装置
40 コンソール
42 表示器
44 テーブル・モータ制御器
46 コンベヤ・システム/テーブル
48 ガントリ開口
50 X線管
52 入射器
53 入射器壁
54 真空壁
56 アノード/ターゲット
58 放出器
60 放出器支持体
64 電子ビーム
66 電圧源
68 高電圧フィードスルー
70 集束電極
72 管外被
74 引出し電極
76 電場
78 高電圧主電場
80 磁気アセンブリ
82 電子収集器
84 X線
86 X線窓
90 バイアス電圧源
92 制御電子回路モジュール
100 X線管
102 入射器
104 熱イオン電子源
106 電圧源
108 加熱電子ビーム
110 放出器
112 電子ビーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子ビーム(64)を放出する放出器(58)と、
該放出器(58)の周りに配設されて前記電子ビーム(64)を集束させる少なくとも一つの集束電極(70)と、
前記放出器(58)に関して正のバイアス電圧に保たれて前記電子ビーム(64)の強度を制御する少なくとも一つの引出し電極(74)と
を備えたX線管(50)用の入射器(52)。
【請求項2】
前記電子ビーム(64)を発生するように、前記放出器(58)に衝突する加熱電子ビーム(108)を発生する少なくとも一つの熱イオン電子源(104)をさらに含んでいる請求項1に記載の入射器(52)。
【請求項3】
前記少なくとも一つの熱イオン電子源(104)は放出面を含んでいる、請求項2に記載の入射器(52)。
【請求項4】
前記放出器(58)は、タングステンよりも低い仕事関数を有する低仕事関数材料を含んでいる、請求項1に記載の入射器(52)。
【請求項5】
前記放出器(58)は、曲面型放出器、平面型放出器、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の入射器(52)。
【請求項6】
前記集束電極(70)は、前記引出し電極(74)に関して負の電圧にあるバイアスを印加される、請求項1に記載の入射器(52)。
【請求項7】
入射器(52)であって、
電子ビーム(64)を発生する放出器(58)と、
前記電子ビーム(64)を集束させる少なくとも一つの集束電極(70)と、
前記電子ビーム(64)の強度を制御し、前記放出器(58)に関して正のバイアス電圧に保たれている少なくとも一つの引出し電極(74)と
を含んでいる入射器(52)と、
前記電子ビーム(64)により衝突されるとX線(84)を発生するターゲット(56)と、
前記入射器(52)と前記ターゲット(56)との間に位置して、前記電子ビーム(64)を前記ターゲット(56)へ向けて集束、偏向及び/又は配置するのに指向的に作用する磁気アセンブリ(80)と
を備えたX線管(50)。
【請求項8】
前記電子ビーム(64)を発生するように、前記放出器(58)に衝突する加熱電子ビーム(108)を発生する少なくとも一つの熱イオン電子源(104)をさらに含んでいる請求項7に記載のX線管(50)。
【請求項9】
前記ターゲット(56)から後方散乱された電子を収集する電子収集器(82)をさらに含んでいる請求項7に記載のX線管(50)。
【請求項10】
ガントリ(12)と、
該ガントリ(12)に結合されたX線管(50)であって、
管外被(72)と、
入射器(52)であって、
電子ビーム(64)を発生する放出器(58)と
前記電子ビーム(64)を集束させる少なくとも一つの集束電極(70)と、
前記電子ビーム(64)の強度を制御し、前記放出器(58)に関して正のバイアス電圧に保たれている少なくとも一つの引出し電極(74)と、
を含んでいる入射器(52)と、
前記電子ビーム(64)により衝突されるとX線(84)を発生するターゲット(56)と、
前記入射器(52)と前記ターゲット(56)との間に位置して、前記電子ビーム(64)を前記ターゲット(56)へ向けて集束、偏向及び/又は配置するのに指向的に作用する磁気アセンブリ(80)と
を含んでいるX線管(50)と、
該X線管(50)に電力及びタイミング信号を供給するX線制御器(28)と、
撮像対象(22)からの減弱されたX線ビームを検出する1又は複数の検出器素子(20)と
を備えた計算機式断層写真法システム(10)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−129518(P2011−129518A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−275191(P2010−275191)
【出願日】平成22年12月10日(2010.12.10)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【氏名又は名称原語表記】GENERAL ELECTRIC COMPANY
【Fターム(参考)】