説明

マイケルソン干渉計

【課題】移動鏡が高速で往復運動する際の振動を抑制し、装置の振動による測定精度の低下を回避する。
【解決手段】反射鏡61とこれに釣り合う重量を有するボイスコイルモータ62のムービングコイル63とをパンタグラフ構造体65で連結する。ムービングコイル63に駆動電流を流すことで往復運動のための駆動力を与えると、パンタグラフ構造体65を介して反射鏡61はムービングコイル63と反対方向で同じ距離だけ移動する。そのため、両者のバランスにより可動部全体の重心位置は殆ど変化せず、これにより振動の発生を軽減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フーリエ変換赤外分光光度計などの光学装置に広く利用されるマイケルソン干渉計に関する。
【背景技術】
【0002】
フーリエ変換赤外分光光度計(FTIR)、赤外顕微鏡などの光学装置において、インタフェログラムを生成するためにマイケルソン干渉計が利用されている(例えば特許文献1など参照)。マイケルソン干渉計では、入射した光束をハーフミラー等の光分割手段により2つの光束に分割して異なる光路に送り、2つに分かれた光束をそれぞれ異なる反射鏡で反射させて元の光路を逆戻りさせて上記ハーフミラーにより合成する。2つの反射鏡の一方の位置を固定し、他方の反射鏡を光軸に沿って周期的に移動させると2つの光束の光路長の差が変化するため、ハーフミラーで合成された光は周期的に振幅が変化する干渉波、即ち、インタフェログラムとなる。
【0003】
FTIRなどの光学装置では、マイケルソン干渉計において移動鏡を多数回往復運動させ、その際に得られたデータを積算することでデータの精度を高めている。そのため、データの取得時間を短縮するためには、移動鏡を高速で往復運動させる必要がある。FTIRなどに使用される一般的なマイケルソン干渉計においては、移動鏡を数mm〜数cm程度のストロークで1秒間に数十回程度往復運動させるようにしている。このように移動鏡が往復運動するとその反動による振動が発生し、その振動が装置の一部又は全体に波及するおそれがある。そうした振動は、例えば光軸を狂わせたり、干渉波形の乱れを生じさせたりして、測定そのものができなかったり、或いは測定できたとしても精度が低下したりするといった問題を引き起こす場合がある。
【0004】
こうした振動の影響を軽減するには、移動鏡自体をできるだけ軽量化するとともに、装置全体の重量を増して移動鏡の振動が装置に伝わりにくくすることが考えられる。しかしながら、移動鏡の軽量化には限界があり、一方、装置の重量を増すと装置が大型化し、可搬性が悪くなるという問題が起こる。
【0005】
【特許文献1】特開2002−22536号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、移動鏡の高速の往復運動に伴う振動の発生を軽減し、精度や安定性の高い測定を行うことができるマイケルソン干渉計を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために成された本発明は、入射光を2つに分割し、その一方の光を位置が固定された第1反射鏡で反射させるとともに、他方の光を光路長が変化するように移動する第2反射鏡で反射させ、両反射光を合一することで干渉光を発生させるマイケルソン干渉計において、
a)前記第2反射鏡を往復運動させるための駆動力を発生する駆動力発生手段と、
b)前記駆動力により前記第2反射鏡が移動するに伴って該第2反射鏡の重量に対応した重量を有する調整部材を該反射鏡と反対方向に移動させることで、該反射鏡及び前記調整部材を含む可動体の重心位置の移動を抑制する重心位置安定化手段と、
を備えることを特徴としている。
【0008】
第2反射鏡(移動鏡)が往復運動する際に振動が発生する主な原因は、第2反射鏡を含む可動体の重心が移動することにある。そこで、本発明に係るマイケルソン干渉計では、第2反射鏡の重量に対応した重量を有する調整部材を該反射鏡と反対方向に移動させることで、第2反射鏡を含む可動体の重心位置が移動しないようにする。
【0009】
具体的には、駆動力発生手段としてボイスコイルモータが使用されている場合、そのボイスコイルモータの可動部、つまりムービングコイル又はムービングマグネットを調整部材として利用することができる。この可動部と第2反射鏡とを直線上で互いに反対方向に移動させるために、第2反射鏡とボイスコイルモータの可動部とを連結するパンタグラフ構造体を用いることができる。また、第2反射鏡とボイスコイルモータの可動部とを連結するラックアンドピニオン構造体を用いてもよい。
【0010】
上記のようなパンタグラフ構造体やラックアンドピニオン構造体を用いると、ボイスコイルモータの可動部が第2反射鏡に近付く方向に移動するとき第2反射鏡も可動部に近付くように移動し、ボイスコイルモータの可動部が第2反射鏡から離れる方向に移動するとき第2反射鏡も可動部から離れるように移動する。これによって、可動部及び第2反射鏡にそれぞれ作用する慣性力は打ち消し合い、可動体全体の重心をほぼ同じ位置に保つことができる。また、上記のような態様では、第2反射鏡の移動と調整部材の移動とが同一の駆動力発生手段による駆動力により行え、構造も簡単であるためコスト増加が少なくて済む。
【0011】
なお、本発明の別の態様として、上記重心位置安定化手段は、重錘と、第2反射鏡の移動に応じて前記重錘をそれと逆方向に移動させる補助駆動手段とを含む構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るマイケルソン干渉計によれば、干渉波形を発生するために第2反射鏡(移動鏡)が往復運動した場合でも振動の発生は軽減され、その振動の伝播によってマイケルソン干渉計やこれを搭載している光学装置(例えばFTIRなど)が振動するのを抑制することができる。それにより、マイケルソン干渉計の干渉波形の乱れが解消され、測定の精度向上を図ることができるとともに再現性が向上する等、測定の安定性を高めることができる。また、振動を抑制するために光学装置などの重量を不必要に増す必要がなくなるので、装置の小形、軽量化にも有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
まず本発明に係るマイケルソン干渉計を利用する光学装置の一例として、フーリエ変換赤外分光光度計の構成を図4により簡単に説明する。
【0014】
図4において、マイケルソン干渉計の主干渉計は、赤外光源1、集光鏡2、コリメータ鏡3、ビームスプリッタ4、固定鏡5、移動鏡ユニット6などから構成され、スペクトル測定を行うための干渉赤外光を発生させる。即ち、赤外光源1から出射された光は、集光鏡2、コリメータ鏡3を介して平行光としてビームスプリッタ4に照射され、ここで固定鏡5に向かう光路L1と移動鏡ユニット6に向かう光路L2の二方向に分割される。固定鏡5及び移動鏡ユニット6の反射鏡61にてそれぞれ反射した光はそれぞれの光路を戻ってビームスプリッタ4によって合成され、放物面鏡11へ向かう光路L3に送られる。このとき、反射鏡61は前後(図4中の矢印の方向)に往復運動しているため、合成された光は時間的に振幅が変動する干渉光(インタフェログラム)となる。放物面鏡11にて集光された光は試料12に照射され、試料12を通過した光は楕円面鏡13により光検出器14へ集光される。
【0015】
一方、マイケルソン干渉計のコントロール干渉計は、レーザ光源7、ミラー8、ビームスプリッタ4、固定鏡5、移動鏡ユニット6などから構成され、干渉縞信号を得るためのレーザ干渉光を発生させる。即ち、レーザ光源7から出射された光はミラー8を介してビームスプリッタ4に照射され、上記赤外光と同様に干渉光となって放物面鏡11へ向かう光路L3へ送られる。このレーザ干渉光は非常に小さな径の光束となって進行するため、光路L3中に挿入された微小ミラー9により反射されて光検出器10に導入される。図示しないが、光検出器10の受光信号つまりレーザ光干渉縞信号からパルス信号が生成され、このパルス信号の発生タイミングに同期して、光検出器14で受光された赤外干渉光がサンプリングされデジタルデータに変換される。データを高速で取得するためには、移動鏡ユニット6において反射鏡61を高い精度で以て高速に往復運動させる必要がある。
【0016】
[第1実施例]
次に、本発明の一実施例であるマイケルソン干渉計において、特徴的な構成である移動鏡ユニット6の構成と動作とを図1により説明する。図1はこの移動鏡ユニット6の構成を示す概略図である。
【0017】
移動鏡ユニット6は、赤外光を反射する反射鏡61と、駆動力発生手段としてのボイスコイルモータ62と、ボイスコイルモータ62のムービングコイル63と反射鏡61とを連結するパンタグラフ構造体65と、を含む。反射鏡61は図示しないリニアガイドに沿ってボイスコイルモータ62による直線的な移動方向にのみ移動するように規制されている。ボイスコイルモータ62は、内部にインナヨーク(鉄)が設けられた筒形状のコイルボビンの周囲にコイルが巻回されたムービングコイル63を可動部とし、図示しないアウタヨーク(鉄)の内側にはマグネット64を固定部として有する。ここでは、ムービングコイル63の重量が反射鏡61の重量と同じになるように調整されている。なお、ボイスコイルモータ62はムービングコイル型でなくムービングマグネット型としてもよい。
【0018】
パンタグラフ構造体65は複数のリンクが連結部において旋回可能に連結されたものであるが、中央のリンクの中心点(X軸状の交差点)は、位置が固定された軸651により回転自在に保持される。そのため、後述するようにパンタグラフ構造体65の右端に伸縮するように力が加わったときに、中央のリンクの中心点の位置は変わらず、パンタグラフ構造体65は軸651を中心に左右対称に伸縮運動する。
【0019】
ムービングコイル63に所定の駆動電流が供給されると、ムービングコイル63はマグネット64の内部で所定ストロークで往復運動する。この駆動力がパンタグラフ構造体65を介して反射鏡61に伝播されるが、上述するようにパンタグラフ構造体65は伸縮運動するから、図1(b)に示すように、ムービングコイル63が反射鏡61に近付く方向に移動する際には、反射鏡61はムービングコイル63に近付く方向に移動する。両者の移動距離は等しく、上述のようにムービングコイル63と反射鏡61とは同一重量となっているため、両者がそれぞれ移動する際の慣性力はほぼ打ち消され、重心位置は軸651付近で殆ど変化しない。一方、ムービングコイル63が反射鏡61から離れる方向に移動する際には、反射鏡61もムービングコイル63から離れる方向に移動する。その移動距離も同じであるから、やはり両者がそれぞれ移動する際の慣性力は打ち消され、重心位置は軸651付近で殆ど変化しない。
【0020】
以上のようにボイスコイルモータ62の駆動力により反射鏡61が往復運動する際に、反射鏡61やムービングコイル63を含む可動体の重心位置は殆ど変化しないため、その往復運動に伴う振動は小さくて済む。それによって、移動鏡ユニット6やこれを搭載したマイケルソン干渉計、さらにはFTIR全体の振動も抑制することができる。
【0021】
[第2実施例]
図2は本発明の他の実施例(第2実施例)によるマイケルソン干渉計における移動鏡ユニット6の概略構成図である。この第2実施例では、上記第1実施例のマイケルソン干渉計におけるパンタグラフ構造体の代わりに、ラックピニオン構造体66が設けられている。即ち、反射鏡61とムービングコイル63の両方にそれぞれラックギア661、662が設けられ、そのラックギア661、662の間にそれらに歯合する2個のピニオンギア663が介在している。2個のピニオンギア663はそれぞれ、位置が固定された軸664により回転自在に軸支されており、ムービングコイル63や反射鏡61が移動しても、ピニオンギア663は回動するだけで位置は変化しない。この構成によっても、上記第1実施例と同様に、ムービングコイル63と反射鏡61とは直線上を互いに反対の方向に移動するから、重心位置は殆ど変化せず、第1実施例と同様の作用・効果を奏する。
【0022】
[第3実施例]
図3は本発明のさらに他の実施例(第3実施例)によるマイケルソン干渉計における移動鏡ユニット6の概略構成図である。この第3実施例では、反射鏡61やムービングコイル63の移動方向に平行に延伸するスライド軸671に沿って移動自在に重錘672が設けられ、この重錘672を駆動するためにボイスコイルモータ673のムービングコイル674が付設されている。このムービングコイル674には、図示しないアウタロータの内側に取り付けられたマグネット675との間の磁気的作用により駆動力が発生する。重錘672の重量は反射鏡61がムービングコイル63と一体に移動したときに、それによる慣性を打ち消すのに適切なように定められている。
【0023】
図3(a)に示すようにムービングコイル63と反射鏡61とが左方に移動したとき、ボイスコイルモータ673により重錘672は反対方向つまり右方に移動する。図3(b)に示すようにムービングコイル63と反射鏡61とが逆に右方に移動したとき、ボイスコイルモータ673により重錘672は反対方向つまり左方に移動する。これにより、これら可動体全体の重心676の位置は殆ど移動しない。なお、この構成ではムービングコイルが2つになるが、ムービングコイル63と674とは同期して互いに逆方向(但し移動距離は同じとは限らない)に移動するから、それらコイルに駆動電流を流す回路は必ずしも独立に設ける必要はなく共通化が可能である。
【0024】
なお、上記実施例はいずれも一例であって、本発明の趣旨の範囲で適宜変更や修正を行なえることは明らかである。例えば、反射鏡は平面鏡を例に示しているが、コーナーキューブミラー等、他の公知の様々な反射手段を用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施例であるマイケルソン干渉計における移動鏡ユニットの概略構成図。
【図2】本発明の第2実施例であるマイケルソン干渉計における移動鏡ユニットの概略構成図。
【図3】本発明の第3実施例であるマイケルソン干渉計における移動鏡ユニットの概略構成図。
【図4】本発明に係るマイケルソン干渉計を利用するフーリエ変換赤外分光光度計の概略光路構成図。
【符号の説明】
【0026】
1…赤外光源
2…集光鏡
3…コリメータ鏡
4…ビームスプリッタ
5…固定鏡
6…移動鏡ユニット
61…反射鏡
62…ボイスコイルモータ
63…ムービングコイル
64…マグネット
65…パンタグラフ構造体
651…軸
66…ラックピニオン構造体
661、662…ラックギア
663…ピニオンギア
664…軸
671…スライド軸
672…重錘
673…ボイスコイルモータ
674…ムービングコイル
675…マグネット
676…重心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射光を2つに分割し、その一方の光を位置が固定された第1反射鏡で反射させるとともに、他方の光を光路長が変化するように移動する第2反射鏡で反射させ、両反射光を合一することで干渉光を発生させるマイケルソン干渉計において、
a)前記第2反射鏡を往復運動させるための駆動力を発生する駆動力発生手段と、
b)前記駆動力により前記第2反射鏡が移動するに伴って該第2反射鏡の重量に対応した重量を有する調整部材を該反射鏡と反対方向に移動させることで、該反射鏡及び前記調整部材を含む可動体の重心位置の移動を抑制する重心位置安定化手段と、
を備えることを特徴とするマイケルソン干渉計。
【請求項2】
前記駆動力発生手段はボイスコイルモータであり、前記重心位置安定化手段は、前記ボイスコイルモータの可動部と、前記第2反射鏡と前記ボイスコイルモータの可動部とを連結するパンタグラフ構造体と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイケルソン干渉計。
【請求項3】
前記駆動力発生手段はボイスコイルモータであり、前記重心位置安定化手段は、前記ボイスコイルモータの可動部と、前記第2反射鏡と前記ボイスコイルモータの可動部とを連結するラックアンドピニオン構造体と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイケルソン干渉計。
【請求項4】
前記重心位置安定化手段は、重錘と、前記第2反射鏡の移動に応じて前記重錘をそれと逆方向に移動させる補助駆動手段と、を含むことを特徴とする請求項1に記載のマイケルソン干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−128654(P2008−128654A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310295(P2006−310295)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】