説明

マイタケ由来の抗インフルエンザウイルス活性を有する物質及びその製造方法

【課題】本発明は、マイタケ抽出物中のマクロファージの活性化を介した抗インフルエンザウイルス活性の強い画分もしくは活性物質が、低分子画分に分布することを見出し、簡便に効率よい製造法を開発し、飲食品、医薬品および飼料もしくは飼料添加剤等に利用することを課題とする。
【解決手段】抗インフルエンザウイルス活性の強い含有物質が受ける変化が小さく、夾雑物が少なくなるように、限外濾過装置またはゲル濾過装置などの分子フルイ装置で処理し、分子量30000〜100000の範囲で糖タンパク質含有画分もしくは糖−タンパク質複合体含有画分を取り出すことにより、課題を解決した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗インフルエンザウイルス活性を有するマイタケ由来の特定抽出画分およびその製造法に関する。
【0002】
本発明は、TNF-α誘導作用を有するマイタケ由来の糖タンパク質含有画分もしくは糖−タンパク質複合体含有画分およびその製造法に関する。
【0003】
さらに本発明は上記マイタケ由来の糖タンパク質含有画分もしくは糖−タンパク質複合体画分を含有する飲食品、医薬品、飼料もしくは飼料添加剤に関する。
【背景技術】
【0004】
インフルエンザは、インフルエンザウイルス(A型、B型、C型)の感染によって咽喉や上気道粘膜でウイルスが増殖することによりはじまる急性炎症であり、また気道の炎症とともに高熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛、関節痛などの全身症状が発症する。壮健な成人の場合、急性感染症として1週間程度で回復するが、慢性の肺疾患、腎臓疾患、心臓疾患や糖尿病などの基礎疾患を有する者、乳幼児や高齢者はハイリスク群であり、肺炎などを併発する危険が高いと言われている(落合宏:薬局44巻1231-1237(1993)、 非特許文献1)。
【0005】
インフルエンザの予防としてワクチンは最近社会的にも認知がすすみ、接種率も増加傾向にある。しかし、インフルエンザウイルスの抗原性が変わりやすいため、効果に揺れを生じ必ずしも初期効果が期待できない場合もあると言われている。
【0006】
一方、迅速診断法に加え治療薬も格段と進歩して、リン酸オセルタミビル等はインフルエンザの流行期にそなえて備蓄される程になっている。しかし耐性ウイルスの出現や服用による副作用などが報じられ、治療薬に問題がないわけではない。インフルエンザの恐ろしさを考えた時、安全かつ入手が容易な天然物もしくはその抽出物から抗インフルエンザウイルス活性物質を探索することは意義あることと考え、出願人は食材として大量に人工栽培されているキノコ、中でも免疫賦活作用があることが報告されているマイタケに従来から注目してきた。
【0007】
マイタケ抽出物については、本出願人等の開発努力により多彩な作用が知られており、例えばAIDS症改善効果については特開平7−69913号公報(特許文献1)に、抗腫瘍作用については特開平9−238697号公報(登録第2859843号、特許文献2)に、活性酸素消去活性については特開2000−119650公報(登録第3260329号、特許文献3)に、NO産生誘導作用については特開2001−172194公報(特許文献4)等で報告されている。
【0008】
本発明者等はマイタケ中の成分について研究を重ねた結果、マイタケの熱水抽出物に抗インフルエンザウイルス活性のあることを知見して特許出願を行い特開2005−145934公報(特許文献5)で報告されている。食材として大量生産がなされ、安全なマイタケの抽出画分に抗インフルエンザウイルス活性等、生体防御活性があることを見出したことは、極めて意義ある発明である。
【0009】
ところで感染防御機構すなわち免疫システムにおいてはウイルス等に感染すると、まずマクロファージ(Mφと省略)等が非特異的認識による貪食処理を行い(自然免疫または非特異的防御機構)、処理しきれない場合、サイトカインを放出したり抗原を細胞表面に提示し、そのシグナルをヘルパーT細胞が受け取って更に高度な防御機構(獲得免疫または特異的防御機構)を作動させることが明らかにされている。獲得免疫系の作動では、更に、T細胞、NK細胞等が活性化する(細胞性免疫)場合と、B細胞が活性化する(液性免疫)場合に分かれる。過去の研究により、マイタケ成分が表わす抗腫瘍作用の成分本質は特殊な化学構造(主鎖β-1,6結合、分岐鎖β-1,3結合)をもつβ-D-グルカン多糖体(糖−タンパク質複合体の糖部分)であることが明らかにされている(Chem.Pharm.Bull. 35(3),1162-1168 (1987)、非特許文献2)。それ以後、マイタケに含有される別の化学構造の成分で優れた抗腫瘍作用を表わすものは未だ見つかっていない。なお、その作用機序はマクロファージの活性化に始まる細胞性免疫システムの活性化であることが解明されている(Biol. Pharm. Bull 25(12), 1647-1650(2002)、 非特許文献3)。
【0010】
以前、本出願人はマイタケ熱水抽出物をアルコール処理で精製して得た糖−タンパク質複合体を発明し(特許文献2)、それが優れた免疫賦活作用を有する抗腫瘍物質であることを示した。本発明者らは、マイタケ抽出物がMφの活性化に始まる免疫賦活作用を有するなら、ウイルス感染防御においても有益な作用が有るのではないかと考え研究したところ、Mφの活性化によりTNF-αが放出され、それがインフルエンザウイルス感染細胞においてウイルスの増殖抑制因子として作用することを見出した(特許文献5)。これは自然免疫系の活性化段階での作用であり、ワクチン等による作用機序と異なり原理的に薬剤耐性が生じず、食品成分による免疫賦活作用として意義あるものと考えられる。
【0011】
なお、マイタケに含有される糖−タンパク質複合体(糖部分はβ-D-グルカン)に優れた抗腫瘍活性が発見された当初、その分子量が百万前後又はそれ以上の巨大高分子に焦点が当てられてきた。一般に、含有物質の分子量が巨大になるほど精製途中で分子の結合が切断を受けやすく、無傷に精製することが難しくなる傾向がある。また、自然物からの抽出物に含まれる夾雑物は、分子量が小さいものほど増加する傾向がある。
【0012】
【特許文献1】特開平7−69913号公報
【特許文献2】特開平9−238697号公報
【特許文献3】特開2000−119650公報
【特許文献4】特開2001−172194公報
【特許文献5】特開2005−145934公報
【非特許文献1】落合宏:薬局44巻1231-1237(1993)
【非特許文献2】Chem.Pharm.Bull. 35(3),1162-1168 (1987)
【非特許文献3】Biol. Pharm. Bull 25(12), 1647-1650(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、マイタケ抽出物中のMφの活性化を介した抗インフルエンザウイルス活性の強い画分もしくは活性物質が分布する分画域を見出し、簡便に効率よい製造法を開発し、飲食品、医薬品および飼料もしくは飼料添加剤等に利用することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は上記課題を解決するために研究を重ねた結果、マイタケの熱水抽出物中の比較的低分子の中間画分が抗インフルエンザウイルス活性等においてより優れることを見出し本発明を完成した。
【0015】
本発明者らは、抗インフルエンザウイルス活性含有物質が受ける変化が小さく、夾雑物が少なく、且つ物質特性を従来以上に正確に規定できる抽出条件を探索し、限外濾過装置またはゲル濾過装置などの分子フルイ装置で処理し、分子量30000〜100000の低分子量で、糖タンパク質含有画分もしくは糖−タンパク質複合体含有画分を取り出すことにより本発明を完成した。
【0016】
すなわち、本発明は
(1)マイタケの子実体もしくは菌糸体を熱水で処理し得られる抽出液を分子フルイ装置で処理し、分子量分布が30000〜100000の画分を採取することを特徴とするマイタケ由来の抽出画分の製造法、
(2)マイタケの子実体もしくは菌糸体を熱水で処理し得られる抽出液にアルコールを添加して放置後液面もしくは液中に浮遊する物質およびアルコールを除去した抽出液を分子フルイ装置で処理し、分子量分布が30000〜100000の画分を採取することを特徴とするマイタケ由来の抽出画分の製造法、
(3)(1)もしくは(2)の方法で製造した分子量分布が30000〜100000のマイタケ由来の抽出画分、
(4)(1)もしくは(2)の方法で製造した分子量分布が30000〜100000で、糖とタンパク質の比率が50:50〜65:35であり、呈色反応がアンスロン反応とニンヒドリン反応が陽性であることを特徴とするマイタケ由来の抽出画分、
(5)(3)もしくは(4)記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とするTNF-α誘導作用物質、
(6)(3)もしくは(4)記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス活性物質、
(7)上記(3)〜(6)のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする飲食品、
(8)上記(3)〜(6)のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする医薬品、
(9)上記(3)〜(6)のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする飼料もしくは飼料添加物
に関する。
【0017】
本発明において、マイタケは(Grifola frondosa)、白マイタケ(Grifola albicans)、チョレイマイタケ(Dendropolyporus umbellatus)、トンビマイタケ(Grifola gigantia)等いずれも用いることが出来る。又これらマイタケ類の子実体、菌糸体いずれも用いることが出来るが、最近ではマイタケの子実体の人工栽培が可能となり、安定した原料確保の面から該マイタケの子実体を使用するのが好ましい。
【0018】
マイタケは生のもの、乾燥品、乾燥粉末何れも使用出きるが、乾燥粉末が扱いやすく好ましい。乾燥マイタケとしては天日、熱風乾燥或いは凍結乾燥したもの等いずれも用いることが出来る。マイタケ乾燥粉末は粒子の粗いものから微細なものまで使用することが出来る。
【0019】
抽出の方法は熱水で行う。本発明における「熱水」とは温度60℃以上の水を意味する。また、「水」とは水道水、脱イオン水(イオン交換水)、蒸留水、逆浸透水などの純水を意味する。従って抽出はマイタケと水を混合し、加熱下、常圧乃至加圧下、常法に準じて適宜行いうる。例えば60〜125℃で5分〜数時間抽出する。短時間で効率よく行うには、100℃以上、例えば圧力釜を用いて加圧下120℃前後で30分〜1時間前後抽出を行うのが良い。
【0020】
得られた抽出液を室温に冷却し、エタノールを最終濃度50%に添加し、10℃以下で一晩静置した後、その液面や液中に浮遊する固形物質を除去し、真空蒸留装置でエタノールを除去すると褐色の抽出液が得られる。
【0021】
以上のように得られた抽出液を分子フルイ装置で処理する。分子フルイ装置としては限外濾過装置、ゲル濾過装置を使用する。
【0022】
限外濾過装置としては加圧攪拌方式によるもの、ホローファイバーによるもの、カセットシステムによるもの、薄層渦流システムによるもの、減圧吸引によるもの、等市販の装置が適宜使用し得る。また限外濾過膜としては、例えば、セルロースアセテート、セルロース、酸化セルロース、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリサッカライド、ビニルアクリル共重合体等のうち、分画分子量が30000のものと100000のものを組み合わせて使用する。
【0023】
最初に分画分子量100000の膜を使用して100000以下の画分を採取し、次いで分画分子量30000の膜を使用して30000以下の画分を除き、分子量30000〜100000の画分を採取する。
【0024】
勿論、最初に分画分子量30000の膜を使用して分子量30000以上の画分を採取し、次いで分画分子量100000の膜を使用して100000以上の画分を除き、分子量30000〜100000の画分を採取しても良い。
【0025】
又ゲル濾過は溶質分子の大きさの違いに基づくクロマトグラフィー分離法で、この方法を利用して任意の分子量範囲の物質を分離することが出来る。ゲルとしてはデキストランを利用したセファデックス、アガロース、セルロース等一般に用いられているものが使用し得る。
【0026】
例えば、乾燥マイタケ子実体の粉末と適当量の水を圧力釜に入れ、加圧下115〜120℃で抽出し、フィルタープレス装置など通常の濾過装置を使用して残渣を除去し、抽出液を得る。得られた抽出液を直接、又は必要に応じて高分子多糖体の精製処理手段として行われるアルコール沈殿法、或いはその他の処理を行って分子量数十万以上の巨大高分子物質を除いた後、限外濾過装置、或いはゲル濾過装置により分子量30000〜100000の低分子画分を分取する。除いた高分子物質は別途に利用することもできる。
【0027】
上記のようにして得られた低分子画分は褐色の液体であり、濃縮してエキスとし、更に乾燥してエキス末として利用出来る。乾燥エキス末とするのが利用しやすく、噴霧乾燥、凍結乾燥等何れの手段も用いうる。こうして得られた分子量30000〜100000の画分の乾燥エキス末は淡褐色の粉末で、糖とタンパク質の比率が50:50〜65:35であり、呈色反応はアンスロン反応とニンヒドリン反応が陽性である。また、タンパク質はアミノ酸自動分析法(但しトリプトファンは高速液体クロマトグラフ法)によりグルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、リジン、バリン、アルギニン、スレオニン、グリシン、セリン、ロイシン、プロリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、メチオニン等から構成されていることが分かった。なお、上記アミノ酸の構成は、以前、本出願人が行った発明(特許文献2)に記載のものと一致していた。
【0028】
本発明のマイタケ由来の分子量30000〜100000の画分につき、分子ふるい装置処理前マイタケ抽出物(以下未分画抽出物と略す)を対照としてマウス由来のマクロファージP388D1細胞の培地にそれぞれ100μg/mlで添加して種々の時間培養後、採取したそれぞれの培養上清を、予めインフルエンザウイルスを接種し感染させたイヌ腎臓上皮由来のMDCK細胞の培地に添加して24時間培養したところ、後述の「<試験例>抗インフルエンザウィルス活性の検討」の結果からわかるように、マイタケ抽出物画分のうち分子量30000〜100000の画分添加の場合が未分画抽出物や他の画分添加の場合と比較して、インフルエンザウイルスの増殖抑制作用が強く認められた。
【0029】
以上の結果より、マイタケ由来の分子量30000〜100000の画分は優れた抗インフルエンザウイルス活性を有し、インフルエンザウイルス等感冒の予防或いは罹患後の症状軽減のための飲食品、医薬品および飼料もしくは飼料添加物に配合して用いることが出来る。
【0030】
本発明における飲食品とは、牛乳・ドリンク等の飲料及び日常食している各種加工食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメントといわれるいわゆる健康食品、栄養機能食品や特定保健用食品を含めた保健機能食品、高齢者用食品等を含めた特別用途食品等全て包含される。又医薬品中には動物薬も包含される。
【0031】
健康食品、サプリメント、機能性食品、医薬品又は動物用医薬品として用いる場合は適宜、賦形剤、増量剤を加え錠剤、カプセル剤、顆粒剤、粉末剤、丸剤、液剤、懸濁液剤等各種製剤に加工することができる。
【0032】
飼料、若しくは飼料添加剤として用いる場合は、そのまま或いは各種飼料に適宜配合すれば良い。飲み水に溶かして与えることもできる。
【発明の効果】
【0033】
マイタケ由来の分子量30000〜100000の画分に、マクロファージを刺激してTNF-α合成を誘導し、抗インフルエンザウイルス作用がみとめられ、インフルエンザ等感冒の予防或いは罹患後の症状軽減のための食品、医薬品および飼料もしくは飼料添加剤としての応用が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
以下、本発明を具体的に説明するために実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではないことは言うまでもない。
【実施例1】
【0035】
マイタケ子実体乾燥物の粉末10kgと水120Lを圧力釜に入れ、加圧下120℃で30分間抽出し、フィルタープレス装置で残渣を除去し、濃度4%の抽出液93Lを得た。該抽出液を真空蒸留装置で濃度10%まで濃縮し、濃褐色の抽出液37Lを得た。該抽出液をとり、メンブランフィルター(0.45μm)で濾過した未分画抽出液400mlをクロスフロー式限外濾過膜ユニット(Vivascience Ltd.社製Vivaflow 50、分画分子量100000)を用いて濾過し、濾過液360mlおよび非濾過液40mlを得た。該非濾過液に水360mlを加えて再度濾過し、濾過液360mlと非濾過液40mlを得た。同様の操作を更に2回行い、最終的に非濾過液、即ち分子量100000以上の画分40mlおよび4回分の濾過液を合わせた分子量100000以下の画分1440mlを得た。後者をエバポレータで400mlまで濃縮した。
【0036】
上記分子量100000以下の画分400mlを限外濾過膜ユニット(Vivascience Ltd.社製Vivaflow 50、分画分子量30000)を用いて濾過し、濾過液360ml、および非濾過液40mlを得た。該非濾過液に水360mlを加えて再度限外濾過し、濾過液360mlおよび非濾過液40mlを得た。同様の操作を更に2回行い、最終的に非濾過液、即ち分子量30000〜100000の画分40mlおよび4回分の濾過液を合わせた分子量30000以下の画分1440mlを得た。後者をエバポレータで400mlまで濃縮した。
【0037】
以上の様にして得られた未分画抽出液はスプレードライ装置で、各抽出画分は凍結乾燥法で乾燥処理し、各々、褐色の未分画抽出物、灰白色の分子量100000以上の画分を1.1g、淡褐色の分子量30000〜100000の画分を2g、および褐色の分子量30000以下画分を36g得た。
【実施例2】
【0038】
マイタケ子実体乾燥物の粉末20kgと水230Lを圧力釜に入れ、加圧下約120℃で約30分間抽出し、フィルタープレス装置で残渣を除去し、濃度4%の抽出液200Lを得た。該抽出液を真空蒸留装置で濃縮して濃度22%の褐色液31Lを得た。該褐色液を室温に冷却した後、95%エタノールを最終濃度50%に添加し、10℃以下で一晩静置した。その液面や溶液中に浮遊する固形物質を除去し、真空蒸留装置でエタノール除去および濃縮を行ない、濃度42%の抽出液16Lを得た。該抽出液をスプレードライ装置で噴霧乾燥してマイタケ抽出物を得た。
【0039】
該マイタケ抽出物30gを水に溶かし、メンブランフィルター(0.45μm)で濾過して褐色の未分画抽出液400mlを調製した。未分画抽出液をクロスフロー式限外濾過膜ユニット(Vivascience Ltd.社製Vivaflow 50、分画分子量100000)を用いて濾過し、濾過液360ml、および非濾過液40mlを得た。該非濾過液に水360mlを加えて再度限外濾過し、濾過液360mlと非濾過液40mlを得た。同様の操作を更に1回行い、非濾過液、即ち分子量100000以上の画分40mlおよび3回分の濾過液を合わせた分子量100000以下の画分1080mlを得た。後者をエバポレータで400mlまで濃縮した。
【0040】
上記分子量100000以下の画分400mlを限外濾過膜ユニット(Vivascience Ltd.社製Vivaflow 50、分画分子量30000)を用いて濾過し、濾過液360mlおよび非濾過液40mlを得た。該非濾過液に水360mlを加えて再度限外濾過し、濾過液360mlおよび非濾過液40mlを得た。同様の操作を更に1回行い、非濾過液、即ち分子量30000〜100000の画分40mlおよび3回分の濾過液を合わせた分子量30000以下の画分1080mlを得た。後者をエバポレータで400mlまで濃縮した。
【0041】
以上のようにして得られた各抽出画分を凍結乾燥し、各々、灰白色の分子量100000以上の画分を0.78g、淡褐色の分子量30000〜100000の画分を1.4g、および褐色の分子量30000以下の画分を27g得た。
【0042】
以上のようにして得られた本発明の目的物分子量30000〜100000の画分の性状について記載する。
【0043】
外観:淡褐色の粉末
呈色反応:アンスロン反応およびニンヒドリン反応が陽性
分子量:30000〜100000
有機成分:主に炭水化物とタンパク質 (表1参照)
【0044】
【表1】

【0045】
タンパク質のアミノ酸組成:グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、リジン、バリン、アルギニン、スレオニン、グリシン、セリン、ロイシン、プロリン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン、ヒスチジン、トリプトファン、シスチン、メチオニン〔分析者:(財)日本食品分析センター〕
【0046】
次に、実施例2で得られた分子量100000以上の画分、分子量30000〜100000の画分、分子量30000以下の画分および未分画抽出物を使い、抗インフルエンザウイルス試験を行った。
【0047】
〈試験例〉 抗インフルエンザウイルス活性の検討
複雑な試験手順の全体の概略を図1に示した。
材料の調製
抗インフルエンザウイルス活性検討の実験に用いた材料は以下の通りである。
被験物刺激細胞:マウスマクロファージ由来P388D1細胞は10%非働化牛胎仔血清加Dulbecco's MEMで培養したものを使用した。
【0048】
インフルエンザウイルス感染細胞:MDCK細胞を8%非働化牛胎仔血清加MEMで培養したものを用いた。
【0049】
インフルエンザウイルス:infulenza virus A /Aich/2/68(H3N2)。発育鶏卵漿尿膜腔に接種し、得られた感染漿尿液を活性ウイルス液とし、リン酸緩衝生理食塩水で適宜希釈したものを使用した。
【0050】
試験に先立ちマイタケ抽出物のP388D1細胞への細胞毒性をミトコンドリアの酵素活性を指標にしたMTT法にて検討した。P388D1細胞を実施例2で得られたマイタケ抽出物の種々の濃度で12時間刺激した場合、200μg/ml以下の濃度では細胞毒性は認められなかった。この結果より、以下の実験では実施例2で得られた各マイタケ抽出物の濃度として100μg/mlを用いることにした。
【0051】
実施例2で得られた分子量100000以上の画分、分子量30000〜100000の画分、分子量30000以下の画分、および未分画抽出物について抗インフルエンザウイルス活性の比較試験を行った。Conditioned medium(以下CMと省略)として、6センチデイシュ上で予め培養したP388D1細胞を血清不含DMED培地にて1回洗浄後、同培地に各種マイタケ抽出物を各100μg/ml添加して6時間、8時間、10時間の各所定時間培養、すなわちマイタケ刺激後、適宜採取した培養液上清をCMとして用いた。また、対照として、どのマイタケ抽出物・抽出画分(被験物)も非添加で各時間培養した後の培養液上清のCMを用いた。
【0052】
24穴プレートに培養したMDCK細胞にインフルエンザウイルスを感染多重度(MOI:multiplicity of infectionの略)5PFU/cell(細胞1個あたりウイルス粒子5個)で接種し、室温にて60分間吸着させた後、リン酸緩衝生理食塩水で3回洗浄し未吸着ウイルスを洗浄除去した。その後、種々のCMに置き換え(通常2ml)、12時間培養し、MDCK細胞中で増殖したウイルス数をplaque法で定量した。なお、CM非添加で培養した場合をControlとした。その結果、図2に示すように、マクロファージ刺激6時間、8時間、10時間の各刺激時間のグループの中で常に条件3(分子量30000〜100000の画分)の場合が他の抽出画分に比較して優れた抗インフルエンザウイルス活性を示した。
【0053】
マイタケ抽出物の分画条件の違いによるMφへの影響を図3に示した。図3(a)は実施例2で得られた未分画抽出物、分子量100000以上の画分、分子量30000〜100000の画分および分子量30000以下の画分を各々Mφ培養液に添加し、MφでのTNF-α mRNA合成量の比較をRT-PCR法で示した。その結果、分子量30000〜100000の画分の場合がTNF-α遺伝子発現が最も盛んに行われていることがわかった。なお、未分画抽出物および各画分は、定常的に発現している内部標準遺伝子GAPDHの発現には影響しないこともわかった。
【0054】
図3(b)は分画条件の違いによるTNF-α産生への影響をELISA法で測定した結果を示した。その結果、分子量30000〜100000の画分の場合が、MφでのTNF-α 産生量が最も多くなることがわかった。
【0055】
また、図4にマイタケ抽出物の分子量30000〜100000の画分の濃度を変えてMφ培地へ添加した影響を示した。図4(a)はMφ細胞で転写されたTNF-α mRNAをRT-PCR法で検出した結果を示した。比較のため、内部標準遺伝子として定常的に発現していることが知られるGAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)のmRNAを検出した結果を示した。その結果、TNF-α mRNA転写量はマイタケ刺激に対し濃度依存的に増加することがわかった。一方、定常的に発現しているGAPDHの発現には影響していないことがわかった。
図4(b)はMφ細胞において産生されたTNF-α量をELISA法で測定した結果を示した。その結果、TNF-α産生量はマイタケ刺激に対し濃度依存的に増加することがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】抗インフルエンザウイルス作用試験のフローを示す図。
【図2】マイタケ抽出物の抗インフルエンザウイルス活性の比較を示す図。
【図3】マイタケ抽出物の分画条件の違いによるマクロファージへの影響を示す図。
【図4】マクロファージにおけるTNF-α産生に及ぼすマイタケ抽出画分濃度の影響を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイタケの子実体もしくは菌糸体を熱水で処理し、得られる抽出液を分子フルイ装置で処理して、分子量分布が30000〜100000の画分を採取することを特徴とするマイタケ由来の抽出画分の製造方法。
【請求項2】
マイタケの子実体もしくは菌糸体を熱水で処理し、得られる抽出液にアルコールを添加して放置後液面若しくは液中に浮遊する物質を取り除き、分子フルイ装置で処理して、分子量分布が30000〜100000の画分を採取することを特徴とするマイタケ由来の抽出画分の製造方法。
【請求項3】
請求項1もしくは2に記載の方法で製造した分子量分布が30000〜100000のマイタケ由来の抽出画分。
【請求項4】
請求項1もしくは2に記載の方法で製造した分子量分布が30000〜100000で、糖とタンパク質の比率が50:50〜35:65であり、アンスロン反応とニンヒドリン反応が陽性であることを特徴とするマイタケ由来の抽出画分。
【請求項5】
請求項3もしくは4に記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とするTNF-α誘導作用物質。
【請求項6】
請求項3もしくは4に記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする抗インフルエンザウイルス活性物質。
【請求項7】
請求項3〜6のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする飲食品。
【請求項8】
請求項3〜6のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする医薬品。
【請求項9】
請求項3〜6のいずれか記載のマイタケ由来の抽出画分を含有することを特徴とする飼料もしくは飼料添加物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−106018(P2008−106018A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−292091(P2006−292091)
【出願日】平成18年10月27日(2006.10.27)
【出願人】(593084915)株式会社雪国まいたけ (30)
【Fターム(参考)】