説明

マウスガード洗浄剤

【課題】スポーツに使用するマウスガードや睡眠時に装着するナイトガード等の弾力性を有するマウスガードを洗浄する洗浄剤であって、使用が容易であり、かつ洗浄力も高いマウスガード洗浄剤を提供すること。
【解決手段】歯牙を被覆するための樹脂製のマウスガードを洗浄する洗浄剤であって、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩と、有機酸とからなる発泡成分を含有することを特徴とするマウスガード洗浄剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスガード洗浄剤に関し、更に詳しくは、スポーツで使用されるマウスガードや睡眠時に装着されるナイトガード等の顎口腔系を保護するためのマウスガードを洗浄するためのマウスガード洗浄剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ラグビー、アメリカンフットボール、レスリング、アイスホッケー、ボクシング等のコンタクトスポーツにおいては、競技中に歯牙や顎骨に大きな衝撃力が加わることがある。その衝撃から口腔内の各器官や組織を保護するためにマウスガード(マウスピース又はマウスプロテクタとも呼ばれる)を装着して衝撃力を吸収することが行われている。一方、いびきや歯ぎしり、睡眠時無呼吸症候群、顎関節症等を予防するために、睡眠時にナイトガードやマウスピースを装着することが行われている。
【0003】
このようなマウスガードやナイトガードは弾力性のある素材で作製されており、例えば、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、ポリオレフィン系樹脂、シリコン樹脂等の弾性材料に歯形を転写した凹部を形成して作製されている。装用者は、歯列の歯冠にマウスガードの凹部を嵌入させて装着する。
【0004】
マウスガードは、口腔内で歯牙を覆うように装着するため、樹脂が歯列に密着した状態となり、唾液の流動が規制されて唾液による口腔内の自浄作用が低下する。従って、装着している間に食物残渣、歯垢汚れ、煙草のヤニ等の汚れが付着しやすくなる。また、ゴムのような弾力性のある樹脂材料は、表面に汚れやほこりが付きやすい。
【0005】
このような汚れが付着した状態で放置しておくと、マウスガードに臭いが残ったり、変色することがあるため、洗浄して清潔に保つ必要がある。その洗浄方法としては、洗い流しや研磨剤等によるブラッシング等があるが、これらの方法では、表面の汚れは除去できるものの、マウスガードに定着した頑固な汚れや臭いは除去しにくく、指先やブラシ等でマウスガードの表面を擦ることで樹脂表面を傷つけてしまい、マウスガードを磨耗させたり破損させてしまうおそれがある。また、洗浄剤に浸け置くことにより洗浄する方法として、例えば、二酸化チタンを主成分として含有する歯科用製品の洗浄に使用される洗浄剤が提案されており、その洗浄剤のマウスピースへの適用も提案されているが(例えば、特許文献1参照)、その他にマウスガード用の洗浄剤はほとんど提案がなされていない。
【特許文献1】国際公開第01/91701号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1の洗浄剤は、光触媒である二酸化チタンの光照射による酸化作用により洗浄するため容易には使用できず、実用的ではない。そこで、本発明は、スポーツに使用するマウスガードや睡眠時に装着するナイトガード等の歯牙を被覆するための樹脂製のマウスガードを洗浄する洗浄剤であって、使用が容易であり、かつ洗浄力も高いマウスガード洗浄剤を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、以下の(1)〜(3)によって達成されるものである。
(1)歯牙を被覆するための樹脂製のマウスガードを洗浄する洗浄剤であって、炭酸塩及び/又は炭酸水素塩と、有機酸とからなる発泡成分を含有することを特徴とするマウスガード洗浄剤。
(2)前記炭酸塩又は炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素リチウム、及び炭酸水素ルビジウムからなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)記載のマウスガード洗浄剤。
(3)前記有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マロン酸、ピロリドンカルボン酸、及びマレイン酸からなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする前記(1)又は前記(2)記載のマウスガード洗浄剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明のマウスガード洗浄剤は、水分と反応させて発泡状態とすることで浸漬させたマウスガードの汚れをその発泡により浮かせて除去することができるため、マウスガードの表面を傷つけることなく、表面に定着した汚れや臭いを効果的に除去できる。また、使用方法も容易であるため、実用的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明のマウスガード洗浄剤の実施形態について詳細に説明する。
尚、本発明において、マウスガードとは、上顎又は下顎の歯に装着されるマウスピースを指し、特に、競技中において使用されるマウスガードや睡眠時に装着されるナイトガード等の歯牙を被覆して歯列を保護するためのものをいう。また、マウスガードは、人体に無害の樹脂によって形成されるものであり、例えば、ゴムのような柔軟性と弾力性を示す樹脂によって形成され、このような樹脂としては、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、ポリオレフィン系樹脂、シリコン樹脂(ミラブル型、液状型)、天然ゴム、スチレン系樹脂等が挙げられる。
【0010】
本発明のマウスガード洗浄剤は、必須成分として炭酸塩及び/又は炭酸水素塩と、有機酸とからなる水分と反応して気体を発生させる発泡成分を含有して構成される。
【0011】
発泡成分を構成する第1の必須成分である炭酸塩又は炭酸水素塩は、水溶液中で有機酸と反応して二酸化炭素ガスを発生させるものである。炭酸塩又は炭酸水素塩としては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸水素リチウム、炭酸ルビジウム、及び炭酸水素ルビジウム等が挙げられ、本発明においては、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムを使用することが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することもできる。
【0012】
炭酸塩又は炭酸水素塩は、マウスガード洗浄剤中10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%含有させる。炭酸塩又は炭酸水素塩を前記範囲とすることで、二酸化炭素ガスを充分に発生させることができ、充分な洗浄効果を得ることができる。
【0013】
発泡成分を構成する第2の必須成分である有機酸は、前述したごとく水溶液中で炭酸塩又は炭酸水素塩と反応させて二酸化炭素ガスを発生させるものである。有機酸としては、例えば、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マロン酸、ピロリドンカルボン酸、及びマレイン酸等が挙げられ、本発明においては、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸を使用することが好ましい。これらは1種を単独で又は2種以上を併用することもできる。
【0014】
有機酸は、マウスガード洗浄剤中10〜90質量%、好ましくは20〜60質量%含有させる。有機酸を前記範囲とすることで、充分に二酸化炭素ガスを発生させることができる。
【0015】
また、本発明のマウスガード洗浄剤には、前記発泡成分の他に、所望に応じて界面活性剤、酵素、賦形剤、結合剤、殺菌剤、香料、漂白剤、キレート剤、色素等を含有させることができる。
【0016】
界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、両性界面活性剤等を配合することができ、アニオン性界面活性剤としては、アルキル硫酸塩、アルキルエトキシ硫酸塩、アルキルスルホ酢酸塩、オレフィンスルホン酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩等;カチオン性界面活性剤としては、アルキルアンモニウム、アルキルベンジルアンモニウム塩、アルキルサルコシン塩、アルキルアミノジ酢酸塩、アシルメチルタウリン酸塩等;非イオン性界面活性剤としては、アルキルグリコシド、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、脂肪酸モノグリセリド等;両性界面活性剤としては、レシチン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン等の酢酸ベタイン型両性界面活性剤等が挙げられる。本発明においては、洗浄力の点からアルキル硫酸塩等のアニオン性界面活性剤を配合するのが好ましい。
【0017】
界面活性剤は、1種を単独で又は2種以上を併用することもできる。界面活性剤の含有量は、マウスガード洗浄剤中0.1〜30質量%、好ましくは1〜20質量%含有させるのが好ましい。界面活性剤を前記範囲とすることで、発泡成分の発泡性を妨げることなく洗浄力を高めることができる。
【0018】
酵素はプラーク(歯垢)汚れや食物残渣などを分解、除去する効果があり、酵素としては、リパーゼ、パパイン、デキストラナーゼ、アルカリプロテアーゼ、ムタナーゼ等を配合することができ、デキストラナーゼを配合するのが好ましい。酵素の含有量は、マウスガード洗浄剤中0.0001〜10質量%、好ましくは0.05〜5質量%含有させるのが好ましい。
【0019】
賦形剤は、使用に際しての利便性を向上させるために錠剤等に成形する場合に含有させることができ、ポリエチレングリコール、乳糖等の糖類、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム等を例示することができる。
【0020】
本発明のマウスガード洗浄剤の剤型としては特に限定されないが、例えば、錠剤、カプセル剤、分包剤、粉末剤、顆粒剤等とすることができる。本発明において、剤型を錠剤(打錠剤)とするのが好ましく、錠剤とすることで、マウスガード洗浄剤を水溶液中で発泡させる際に、容器の下方から発泡させてその発泡により水溶液中で対流を起こさせ、洗浄液を循環させることでより効果的に洗浄することができる。
【0021】
また、マウスガード洗浄剤の1%濃度水溶液のpHが5〜10、好ましくはpH6〜8となるようにするのが好ましい。pHが5より小さい酸性になると、若しくはpH10より大きいアルカリ性になると、繰り返しの洗浄によりマウスガードの材質が劣化しやすくなるため好ましくない。
【0022】
本発明のマウスガード洗浄剤の使用形態としては、マウスガード洗浄剤を発泡状態とした水溶液にマウスガードを浸漬するものであり、例えば、100〜300mLの水道水や精製水等にマウスガード洗浄剤を1〜5g、好ましくは2〜4g投入して発泡を起こさせた状態でマウスガードを浸漬させ、少なくとも発泡が継続している間、好ましく3〜5分程度放置させた後、流水で洗い流して使用すればよい。
【0023】
以下、実施例及び比較例により本発明のマウスガード洗浄剤をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら制限されるものではない。
【実施例】
【0024】
(マウスガード洗浄剤の作製)
実施例1
炭酸塩、クエン酸、過硫酸塩、過ホウ酸塩、アニオン系界面活性剤、酵素からなるマウスガード洗浄剤を打錠成型し、2.72gの錠剤を得た。
【0025】
比較例1
実施例1の錠剤と水50mLを入れたビーカーを密閉容器に共存させ、60℃の恒温槽に24時間載置した。その後約3時間乾燥させて、2.32gの無発泡処理錠剤を得た。
【0026】
(テストプレートの作製)
S.sobrinus菌をBHI培地(Brain Heart Infusion培地)を用いて37℃で24時間培養を行い菌液を調整した。シャーレにヒト唾液(遠心分離した上澄み液)を3mL注ぎ、その後、TSB(Tryptic Soy Broth培地)+2.5%スクロース培地を15mL注ぎ込み、菌液を150μL加え、37℃で24時間静置し、シャーレの底面にプラークを付着させた。生成したプラークをかき集め、500μLを2.5×7.5cmにカットしたエチレンビニルアセテート樹脂プレートに付着させ、コンラージ棒で伸ばしながらドライヤーで乾燥させた。
【0027】
(洗浄力評価試験)
洗浄成分の濃度が略同一となるように、前記作製した実施例1のマウスガード洗浄剤を精製水200mLに溶解し、比較例1のマウスガード洗浄剤を精製水173mLに溶解した。各水溶液に前記作製したテストプレートを5分間浸漬させた。実施例1は水溶液中の発泡を確認した後テストプレートを浸漬させた。精製水で洗い流した後、37℃で一晩乾燥させた。その後、各テストプレートをリン酸バッファー45mLを入れたコニカルチューブに入れ、超音波洗浄器(VS−100III SUNPAR(型式),井内盛栄堂製)に30秒間かけて、テストプレート表面に付着したままのプラークを溶媒中に懸濁した。その後、吸光度計(UV−1200(型式),島津製作所製)により、340nmにおける吸光度を測定してテストプレートに残ったプラーク量を測定した。洗浄力評価試験は、各3回ずつ行った。
【0028】
洗浄力(%)については下式により求めた。
洗浄力(%)=(1−A/B)×100
A=処理後の吸光度
B=処理前の吸光度
洗浄力評価試験の結果を表1に示す。
【0029】
【表1】

【0030】
表1の結果に示されるように、本発明のマウスガード洗浄剤である実施例1の洗浄剤は、比較例1の洗浄剤に比べて洗浄力が高く、テストプレートに付着した汚れを効果的に洗浄することができた。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明に係るマウスガード洗浄剤は、発泡状態により樹脂表面に付着した汚れを除去するとともに、その使用が容易であるため、スポーツで使用されるマウスガードや睡眠時に装着するナイトガード等の洗浄剤として好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯牙を被覆するための樹脂製のマウスガードを洗浄する洗浄剤であって、
炭酸塩及び/又は炭酸水素塩と、有機酸とからなる発泡成分を含有することを特徴とするマウスガード洗浄剤。
【請求項2】
前記炭酸塩又は炭酸水素塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸マグネシウム、炭酸アンモニウム、炭酸リチウム、炭酸ルビジウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、炭酸水素マグネシウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素リチウム、及び炭酸水素ルビジウムからなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1記載のマウスガード洗浄剤。
【請求項3】
前記有機酸が、クエン酸、リンゴ酸、フマル酸、酒石酸、アスコルビン酸、コハク酸、マロン酸、ピロリドンカルボン酸、及びマレイン酸からなる群より選択される1種又は2種以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のマウスガード洗浄剤。

【公開番号】特開2010−6989(P2010−6989A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−169376(P2008−169376)
【出願日】平成20年6月27日(2008.6.27)
【出願人】(000100539)アース製薬株式会社 (191)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】