マクロラクチンA及びその誘導体を有効成分として含有する抗炎症性組成物
本発明は、新規なバチルス菌株バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2、KCCM10769P)株から生産されるマクロラクチンA、7−O−マロニルマクロラクチンA、7−O−スクシニルマクロラクチンAなどのマクロラクチン化合物の抗炎症的使用に関する。
本発明が提供するマクロラクチン化合物は、炎症媒介因子の形成に関連するタンパク質である誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現及び形成を強力に抑制すること、及び従ってタンパク質の代謝産物である酸化窒素(NO)及びプロスタグランジンE2(PGE2)の形成を阻害することを確認した。また、炎症促進性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)である腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−6(IL−6)及び顆粒球マクロファージコロニー-刺激因子(GM−CSF)の形成阻害に対する優れた効果を有することを確認した。
従って、本発明のバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株から生産されるマクロラクチン化合物は優れた抗炎症剤を提供することができる。
本発明が提供するマクロラクチン化合物は、炎症媒介因子の形成に関連するタンパク質である誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現及び形成を強力に抑制すること、及び従ってタンパク質の代謝産物である酸化窒素(NO)及びプロスタグランジンE2(PGE2)の形成を阻害することを確認した。また、炎症促進性サイトカイン(pro-inflammatory cytokine)である腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−6(IL−6)及び顆粒球マクロファージコロニー-刺激因子(GM−CSF)の形成阻害に対する優れた効果を有することを確認した。
従って、本発明のバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株から生産されるマクロラクチン化合物は優れた抗炎症剤を提供することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus Polyfermenticus KJS-2,;KCCM10769P)から生産されるマクロラクチンA(以下、「MA」と称す)、7−O−マロニルマクロラクチンA(以下、「MMA」と称す)及び7−O−スクシニルマクロラクチンA(以下、「SMA」と称す)などのマクロラクチン化合物の抗炎症的使用に関する。具体的には、本発明は、誘導型酸化窒素合成酵素(以下、「iNOS」と称す)、シクロオキシゲナーゼ−2(以下、「COX−2」と称す)、及び炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子−α(以下、「TNF−α」と称す)、インターロイキン−1β(以下、「IL−1β」と称す)、インターロイキン−6(以下、「IL−6」と称す)及び顆粒球マクロファージコロニー−刺激因子(以下、「GM−CSF」と称す)の形成を抑制することによって、優れた抗炎症活性を有する前記マクロラクチン化合物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロラクチン化合物は、24−員ラクトン環を有するマクロライド系抗生物質である(非特許文献1)。前記化合物は分類されていない海洋バクテリア、放線菌、及びバチルス菌株から生産されると報告されており、21種類が同定されている。これらのマクロラクチン化合物は様々な薬理活性を有している。マクロラクチン化合物の薬理活性に対する先の研究は以下の通りである。
【0003】
1989年、Willam Fenical は、単純ヘルペスウイルスとHIVに対するMAの抗ウイルス活性を開示した。1997年、Ick-Dong Yooは、アクチノマヅラ属(Actinomadura sp.)株からMAを得て、MAを用いてグルタメート(glutamate)に由来する神経細胞の保護に関する研究を行った。2001年に、Hiroshi Sano は、バチルス属(Bacillus sp.)PP19−H3株からMAを単離して、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)IFO12732とバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)IFO3134株に対するMAの抗菌活性をに関する研究を行った。2003年、Sung-Won Choi はストレプトミセス属(Streptomyces sp.)YB−401株からMAを得て、コレステロール生合成に対するMAの阻害効果を開示した。2004年には、Keun-Hyung Park は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)CHO104株からMAを分離して、黄色ブドウ球菌KCTC1928、エシュリキア・コリKCTC2593、及びボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に対するMAの抗菌活性を研究した。2005年には、Joo-Won Suh はバチルス属sunhua株からMAを得て、MAを用いてジャガイモそうか病を誘発するストレプトミセス疥癬(scabies)の阻害を研究した。2006年に、Gabriella Molinari はバチルス・ズブティリス(Bacillus subtilis)DSM16696株からMA、MMA、及びSMAを単離して、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)(vancomycim-resistant Enterococci)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、及び バーク(バルク)ホルデリア・セパシア (Burkholderia cepacia)に対するそれぞれの化合物の抗菌活性を研究した。この研究では、MMAとSMAは試験菌に対する優れた抗菌活性を有していた反面、MAは単に、MRSAに対してのみ抗菌活性を示したことが報告された。
【0004】
マクロラクチン化合物は様々な薬理活性を有しているが、マクロラクチン化合物の抗炎症活性に関する研究は現在まで全く報告されていない。
【0005】
炎症は、生体の患部に生じた損傷に対する防御的応答である。即ち、炎症応答は、有害な刺激に応答して、刺激による損傷を除去することによって元の状態に回復しようという防御的応答である。
【0006】
炎症を誘発する物質の一つである酸化窒素(以下、「NO」と称す)は、正常状態では内皮細胞やマクロファージで生産される。血管拡張、血小板接着及び凝集、神経伝達、消化器系の運動、勃起などに関与する媒介物質であるNOは、炎症細胞及び非免疫細胞で生成され、微生物感染に対する防御作用も果たす。リポ多糖体(以下、「LPS」と称す)、炎症誘発因子及び放射線照射などに起因する刺激は、特に、細胞内のiNOSタンパク質の発現を誘導し、NOを継続生成して、炎症疾患を誘発する。
【0007】
別の炎症誘発物質であるプロスタグランジンE2(以下、「PGE2」と称す)は、アラキドン酸由来のホルモンの一種であり、様々な生理活性に関与する。PGE2はCOX−2タンパク質の発現により生成される。COX−2の発現を抑制する薬物は、炎症病巣におけるPGE2生成の阻害によって、鎮痛、抗浮腫、解熱、抗炎症及び抗凝固活性を有するので、これらは血栓、浮腫、梗塞、発作及び脳血管疾患の予防及び治療に使用できる。
【0008】
前記2種類の炎症誘発物質であるiNOSとCOX−2は、互いに密接に関連している。例えば、過剰に生成されたNOは、COX−2の発現に影響を与えることがある。従って、iNOS及びCOX−2活性の阻害剤は、NO及びPGE2代謝産物の過剰生成に起因する様々な疾患(例えば、炎症疾患)を予防または治療する薬物として開発するための高い可能性を有すると考えられている。
【0009】
現在まで、ステロイド及び非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)は、急性及び慢性炎症疾患の治療に適宜使用されてきた。しかし、従来の抗炎症剤は、特に長期間使用すると、かなりの副作用をもたらす。従って、副作用が殆ど無い新しい抗炎症剤を開発することが切に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 1989,111, 7519-7524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の抗炎症剤の上記問題点を考慮した、本発明の目的は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株から生産される、MA、MMA及びSMAのようなマクロラクチン化合物の抗炎症的使用を提供することである。特に本発明は、iNOS及びCOX−2の形成を阻害することによって優れた抗炎症活性を有するマクロラクチン化合物の使用を提供する。
【0012】
また、本発明の目的は、前記マクロラクチン化合物を有効成分として含有する、炎症疾患の予防及び治療のための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株から生産される式(1)のMA、式(2)のMMA及び式(3)のSMAの抗炎症的使用を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、MA、MMA及びSMAのような前記マクロラクチン化合物のiNOS及びCOX−2タンパク質、及び炎症性サイトカインの形成を阻害するための抗炎症的使用を提供する。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、前記マクロラクチン化合物を含有する炎症疾患の予防及び治療のための医薬組成物を提供する。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0020】
式(1)のMAと式(2)のMMAを得るために、本発明者らによって分離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株を、MA培地中で発酵する。発酵液を酢酸エチルで抽出して、抽出液を濃縮する。実施例1の方法に従って、目的の生成物を分離して、精製する。
【0021】
式(3)のSMAを得るために、前記株を、HP−20樹脂を含むトリプトソイ(TSB)培地で発酵する。実施例1の方法に従って、目的の生成物を分離して、精製する。
【0022】
精製した生成物の構造を、LC/Massと核磁気共鳴(NMR)によって解析した。
【0023】
前記マクロラクチン化合物、MA、MMA及びSMAの抗炎症効果についての研究は、現在まで報告されていない。
【0024】
本発明者らは、前記マクロラクチン化合物の抗炎症効果を確認して、本発明を完成させた。抗炎症効果を調べるために、精製したそれぞれの化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7細胞株をLPS(0.1μg/mL又は1.0μg/mL、シグマ社製)で刺激し、次いで炎症誘発物質である、1)NOと2)PGE2の形成及びそれらの形成に関連する酵素の発現を分析した。同様の方法で、3)炎症促進性サイトカイン、TNF−α、IL−1β、IL−6及びGM−CSFの形成も分析した。
【0025】
1)NO形成の抑制は、グリース反応(Griess recation)によって確認した。その結果、LPS単独で処理した対照群に比べて、MA、MMA及びSMA全てがNO形成を強力に阻害することを確認した。マクロラクチン化合物のNO形成における阻害効果は、特にヒドロコルチゾン(hydrocortisone)のそれに匹敵していたか、または優れていた。
【0026】
NO形成はiNOSタンパク質と関連している。iNOS活性が誘発されると、長時間にわたって多量のNOが形成される。NOは、病理的な血管拡張、細胞毒性、組織損傷などの生体系に対する副作用が知られていて、且つ炎症状態では血管透過性、浮腫などの炎症応答を促進させ、炎症媒介因子の生合成を促進して炎症を深刻化することも知られている。
【0027】
NO形成を抑制する作用機構を調べるために、それぞれのマクロラクチン化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7をLPSで刺激してiNOSの形成を誘導した後、各化合物におけるiNOS形成の抑制程度をリアルタイムPCR及びウェスタンブロットによって確認した。
【0028】
その結果、リアルタイムPCRによる遺伝子発現において、MA、MMA及びSMAの全てがiNOS mRNAの発現を強力に抑制して、その抑制効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。ウェスタンブロット法により確認したタンパク質発現レベルでも、本発明のマクロラクチン化合物はLPS単独で処理した対照群に比べて、強い抑制効果を示した。
【0029】
前記結果から、本発明のマクロラクチン化合物は、iNOSタンパク質の発現を抑制する作用によって、NO形成を抑制すると考えられる。
【0030】
2)別の炎症媒介因子であるPGE2の抑制を、酵素免疫吸着分析法(ELISA)キットを用いて確認した。その結果、LPS単独で処理した対照群に比べてMA、MMA及びSMAの全てがPGE2の形成を強力に阻害することを確認した。特に、マクロラクチン化合物のPGE2形成の阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。多くの抗炎症薬物はPGE2合成を抑制する作用機構を有しており、これはCOX−2タンパク質の形成及び活性を阻害することに起因している。COX−2によって合成されたPGE2は炎症応答を媒介する。COX−2タンパク質により生成されたPGE2は炎症応答、免疫応答、及び脈管形成を刺激して、癌の発生にも関与していることが知られている。PGE2合成の抑制とCOX−2タンパク質合成の抑制との関連性を調べるために、それぞれのマクロラクチン化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7をLPSで刺激してCOX−2形成を誘導した後、各化合物におけるCOX−2タンパク質形成の抑制程度をリアルタイムPCR及びウェスタンブロットによって確認した。その結果、本発明のマクロラクチン化合物はCOX−2mRNAの発現を強く抑制し、その抑制活性はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。ウェスタンブロットで確認したCOX−2タンパク質の発現においても、本発明のマクロラクチン化合物はLPS単独で処理した対照群に比べて強い抑制効果を示した。
【0031】
前記結果により、本発明のマクロラクチン化合物は、COX−2タンパク質の発現を抑制することによって、PGE2形成を強力に阻害すると考えられる。
【0032】
上記の結果から、本発明のマクロラクチン化合物は、iNOSとCOX−2タンパク質の形成を抑制する作用によって、NOとPGE2の形成を強力に阻害したことを確認した。
【0033】
3)本発明のマクロラクチン化合物による炎症促進性サイトカインの抑制を、マウス ELISA kit(KOMA Biotech社製)を用いて確認した。
【0034】
TNF−α測定の結果、LPS単独で処理した対照群に比べて、MA、MMA及びSMAの全てがTNF−αの形成を阻害した。また、マクロラクチン化合物のTNF−αの形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。特に、MAは他の対照物質と比較して優れたTNF−α形成の阻害効果を有している。
【0035】
IL−1β測定の結果、MAとSMAのそれぞれがIL−1βの形成を強力に阻害して、特に、マクロラクチン化合物のIL−1β形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または、優れていたと確認された。
【0036】
IL−6測定の結果、MA、MMA及びSMAの全てはIL−6の形成を強力に阻害したことを確認した。マクロラクチン化合物のIL−1β形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれより優れてはいなかった。
【0037】
GM−CSF測定の結果、MAとSMAのそれぞれがGM−CSFの形成を強力に阻害したことを確認した。マクロラクチン化合物のGM−CSF形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれより優れていた。
【0038】
前記結果により、本発明のマクロラクチン化合物は、急性炎症と慢性炎症の両方に関与している炎症促進性サイトカインを強力に阻害すると考えられる。
【0039】
また、本発明のマクロラクチン化合物と、抗炎症剤として一般的に用いられているヒドロコルチゾンがマウスのマクロファージRAW264.7に及ぼす細胞毒性を チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(以下、「MTT」と称す)分析によって確認した。その結果、本発明のマクロラクチン化合物の細胞毒性はヒドロコルチゾンのそれより低かった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株の発酵液抽出物のMPLCクロマトグラム(MPLC chromatgram)である。
【図2】図2は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株の培養液抽出物のMPLCクロマトグラムである。
【図3】図3は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産されたマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、そしてc)エレクトロスプレーイオン化スペクトル(ESI−スペクトル)である。
【図4】図4は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産された7−O−マロニルマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、そしてc)ESI−スペクトルである。
【図5】図5は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産された7−O−スクシニルマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、c)ESI−スペクトルである。
【図6】図6は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるNO形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるPGE2形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるiNOSmRNA発現に対する阻害効果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるCOX−2mRNA発現に対する阻害効果を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるiNOSとCOX−2タンパク質生成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞における細胞毒性を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるTNF−α形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるIL−1β形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるIL−6形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるGM−CSF形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の実施例により本発明をより詳細にに説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を説明することのみを目的としていて、本発明の範囲はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からのマクロラクチンA、7−O−マロニルマクロラクチンA、及び7−O−スクシニルマクロラクチンAの生産、分離及びそれらの構造解析
【0043】
[工程1:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からのマクロラクチンA及び7−O−マロニルマクロラクチンAの生産及びそれらの分離]
MAとMMAを得るために、本発明者により単離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株を用いる発酵工程を、MA培地中で実施した。
【0044】
MA培地の組成は次の通りである。
栄養培養液(Nutrient broth)(Difco社製)16g/L、
スキムミルク10g/L、
2.5μMのFeSO4、
500μMのCaCl2、
1mMのMgSO4、
13mMのKCl.
【0045】
発酵工程は、空気流入量0.143vvm、回転数200rpm、温度30℃、及び1NのHClと3NのNaOHでpH6.8に保持した条件下で実施した。発酵液を酢酸エチルで抽出した後、濃縮した。濃縮液をメタノールに溶解して、中圧液体クロマトグラフィー(以下、MPLCと称す)用の試料を作成した。Buchi MPLC system(Buchi pump C−605、column1.5×23cm、Fraction collector Buchi C−660)を使用して、カラム内にはLiChroprep C−18(40〜63μm、メルク社製)を充填した。262nmで検出を行い、移動相は流速15mL/minの40%アセトニトリルである。発酵液抽出物をMPLCカラム内に注入した後、図1に記載の第1のピークと第2のピークに該当する画分を濃縮して、次の分析のための試料を作成した。
【0046】
[工程2:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からの7−O−スクシニルマクロラクチンAの生産及びその分離]
本発明者らによって単離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株をHP−20樹脂(三菱化学社製)10%を含むトリプチックソイブロス(TSB)培地に接種して、30℃、200rpmで2.5日間培養した。培養後、HP−20樹脂を回収し、水で洗浄した。メタノールを用いて結合した物質を溶出した。メタノール溶出液を濃縮して、MPLC用の試料を作成した。
【0047】
MPLCの操作条件は前述と同様であった。図2に示されているピークに該当する画分を濃縮して、次の分析のための試料を作成した。
【0048】
[工程3:分析の条件及び構造の解明]
工程1及び2で精製した各物質を下記の装置及び条件で分析した。Zorbax SB−C18カラム(粒径5μm、4.6×250mm)を備えたアジレント(agilent)1100シリーズLC/Massを用いて質量分析を行った。LCの移動相は、アセトニトリルと0.1%ギ酸含有水であり、LC分析条件は、流速1mL/分で20分間、アセトニトリル0%から100%の勾配溶媒を用いて、262nmで検出した。質量分析の条件は、乾燥ガス流13L/分、蒸気圧50psi、及び乾燥ガス温度350℃を用いるAP−ESI(Atmosphere pressure-Electro spray ionization)モードであった。毛細管電圧はカチオンモードで4000V、アニオンモードで3500Vであり、質量範囲は100m/z〜1000m/zであり、そしてフラグメント電圧(fragment voltage)150Vであった。前記条件下で工程1及び2で精製した各物質を分析して、図3、4及び5にその結果を示した。各化合物の質量分析の結果は以下の通りでる。
【0049】
図1、第1の画分は、[M+Na]+425.4m/z、[M+K]+441.4m/z、最大吸光度(λmax)262nm、純度98.3%であると、そして第2の画分は[M+Na]+511.7m/z、最大吸光度(λmax)258nm、純度84.88%であると確認した。図2の画分は、[M+Na]+526.0m/z、[M−H]−502.0m/z、最大吸光度(λmax)258nm、純度97.02%であると確認した。
【0050】
精製したそれぞれの物質の約30mgをDMSO−d6溶液に溶解した後、NMR分析によってそれらの化学構造を特定した。特定するために、1H−NMR、13C−NMR、DEPT−90、DEPT−135、Homo COZY、HMQC、及びHMBCなどの多種のNMR技術を用い、そして1H−NMRスペクトルの問題を解決するために、プロトンデカップリング方法も用いた。
【0051】
NMR分析の結果、図1及び図3の第1画分はMAと同定された。その結果を表1及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は、17℃で、−10(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(1)と同じ化合物、MAであることを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
NMR分析の結果、図1及び図4の第2の画分はMMAと同定された。その結果を表2及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は17℃で−5(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(2)と同じ化合物、MMAであることを確認した。
【0054】
【表2】
【0055】
NMR分析の結果、図2及び図4の画分はSMAと同定された。その結果を表3及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は17℃で−15(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(3)と同じ化合物、SMAであることを確認した。
【0056】
【表3】
【0057】
表4は、本発明で調査したバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株から生産したMA、MMA及びSMAの生産方法、収率、純度及び特性を示す(表4に記載した)。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例2:ネズミのマクロファージRAW264.7細胞株に対するマクロラクチン化合物の抗炎症活性の検討
ネズミマクロファージ細胞株であるRAW264.7は、韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Bank;KCLB)から入手した。10%ウシ胎仔血清(FBS;LONZA社製)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma社製)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;LONZA社製)中、37℃、5%CO2恒温器で培養して、細胞密度が80%に達したときに、継代培養を行った。RAW264.7細胞を24時間培養した後、MA(1〜100μM)、MMA(10μM)、SMA(10μM)及び抗炎症活性を有している公知物質である、ヒドロコルチゾン(10μM)を加えた。添加の1時間後に、LPS(0.1又は1.0μm/mL、シグマ社製)を混合物に加え、次いで8時間又は16時間培養した。陰性対照としてジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」)を使用し、陽性対照としてマクロラクチン化合物を添加しない状態のLPS(0.1又は1.0μm/mL、シグマ社製)を使用した。
【0060】
実験例1:NO形成に対する阻害効果
細胞培養液内のNOの濃度は、硝酸/亜硝酸比色アッセイキット(Cayman社製)を使用して測定した。1×105細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、6ウェルプレート中、実施例2に記載した条件下で24時間培養して、本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。培養培地を製造会社から提供された96ウェルプレート中でグリース試薬R1(スルファニルアミド)で、次いでグリース試薬R2(N−(1−ナフチル)−エチレンジアミン)で処理し、次いで亜硝酸塩からの紫色のアゾ基の形成を検出した。製造会社から提供された標準溶液によってUVスペクトルメータにおける540nmの吸光度で作成した検量線を用いて、NO生成量を算出した。
【0061】
その結果、MAとヒドロコルチゾンの両方がNO形成を強力に阻害したのに対して、MMAとSMAは低い阻害活性を示した(図6を参照されたい)。
【0062】
実験例2:PGE2形成に対する阻害効果
細胞内の炎症性因子である、PGE2の形成量は、アマシャムプロスタグランジンE2 biotrak エンザイムイムノアッセイ(Amersham prostaglandin E2 biotrak Enzymeimmunoassay;EIA)システムキット(GE Healthcare社製)を用いて測定した。96ウェルプレート中、2×104細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで、本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、Sigma社製)で処理した後、16時間さらに培養した。製造会社から提供された標準溶液によって、UVスペクトルメータにおける450nmの吸光度で作成した検量線を用いて、PGE2生成量を算出した。標準物質に対する検量線のr2値は0.99以上であった。
【0063】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、PGE2形成を強力に阻害しており、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図7を参照されたい)。
【0064】
実験例3:iNOS及びCOX−2mRNAの発現に対する効果
細胞内の炎症性因子である、iNOS及びCOX−2mRNAの発現に対する本発明のマクロラクチン化合物の効果を検討した。6ウェルプレート中、1X105細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。培養細胞の全てのRNAをRNase無しの条件下でTrizol試薬(シグマ社製)によって単離した。分離した全てのRNAを用いるPCR用のテンプレートを得るために、cDNA合成キット(タカラ社製)を使用した。Oligo dT Primer(50μM)1μL、dNTP Mixture(それぞれ10mM)1μL、及びテンプレートRNA2μgの混合物にRNaseを含んでいないdH2Oを添加して、総体積を10μLに調整した。混合物を65℃に5分間、次いで氷に入れて2分間保持した。混合液10μL、5×PrimeScript(登録商標)緩衝液4μL、RNase阻害剤(40U/μL)0.5μL、及びPrimeScript(登録商標)RTase(200U/μL)0.5μLの混合物にRNaseを含まないdH2Oを加えて総体積を20μLに調整した。混合物を42℃で30分間反応してcDNAを合成した。
【0065】
合成したcDNA25〜50ng、sensiMixPlus SYBR 2X緩衝液(Quantance社製)5μL、表5に示したプライマーをそれぞれ0.25pmolの混合物に蒸留水を加えて総体積を10μLに調整した。混合物のiNOSとCOX−2mRNA発現の程度を、リアルタイム遺伝子増幅器(Corbett life science Rotor-gene 6000)を使用して測定した。リアルタイム遺伝子増幅器の操作条件は次の通りである。初期変性は95℃で5分間から始めて、94℃で30秒、57℃で30秒、そして72℃で30秒間50回繰り返した。試料のmRNA発現を互いに比較する時は、ハウスキーピング遺伝子も同時に測定して相対量を求めた。ハウスキーピング遺伝子の測定値で、RNA量を補正することによって各試料のmRNA生成量をCt(Threshold cycle)値で算出した。
【0066】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、iNOSとCOX−2mRNA発現を強力に阻害して、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図8及び図9を参照されたい)。
【0067】
【表5】
【0068】
実験例4:iNOSとCOX−2タンパク質形成に対する効果
細胞内の炎症性因子である、iNOSとCOX−2タンパク質形成に対する、本発明のマクロラクチン化合物の効果を検討した。100mmdish中、1×106細胞/dishに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。細胞を冷却したPBSで2〜3回洗浄し、次いで採取した。採取した細胞に50mMのTris−HCl緩衝液pH7.5(0.1MのKCl、1mMのEDTA、1mMのDTT、0.2mMのPMSF)100μLを添加して、液体窒素を使用して溶解した。この溶解物を4℃で10分間、13,000rpmで遠心分離して上清を採取した。タンパク質はBradford法で定量分析した。50μgのタンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に付した。SDS−PAGEゲルを電圧50Vで2時間、ニトロセルロース膜(Amersham社製)に転写した。1×トリス緩衝食塩液(TBS;0.1MのNaCl、10mMのTris−HCl)でニトロセルロース膜を2回洗浄し、そこに非特異的タンパク質反応を遮断するために3%ゼラチン溶液を添加し、次いで室温で1時間反応した。3%ゼラチン溶液を除去した後、1×トリス緩衝食塩液−Tween(TBS−T;0.1MのNaCl,10mMのTris−HCl、0.1%のTween20)をそこに添加した。iNOSとCOX−2のタンパク質発現を調べるために、抗マウス(anti−mouse )iNOS(Cell Signaling社製)、抗マウス(anti−mouse )COX−2(Cell Signaling社製)、及び抗マウス(anti−mouse )GAPDH(Cell Signaling社製)を、1×TBS−Tで1:1000に希釈して室温で1時間反応した。反応物を1×TBS−Tで2回洗浄し、次いで第2次抗体アルカリホスファターゼを結合した抗ウサギ(anti−rabbit )IgG(Sigma社製)と反応して、1×TBS−Tで、1:5000の比に1時間かけて希釈した。反応物を1×TBS−Tで3回洗浄して、抗体に対応するタンパク質バンドをBCIP/NBT Color Development Substrate(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム、Promega社製)を用いて同定した。
【0069】
その結果、MA、MMA及びSMAの全てが、iNOSとCOX−2タンパク質の形成を強力に阻害して、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図10を参照されたい)。
【0070】
実験例5:細胞毒性に対する効果
本発明のマクロラクチン化合物のネズミマクロファージRAW264.7に対する細胞毒性効果を調べるために、MTT分析法を使用した。4×104細胞/ウェルに調整した細胞を96ウェルプレートで、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物で処理した後、さらに16時間培養した。培地を除去した後、MTT溶液(2mg/mL PBS)100μLを添加し、次いで混合物を37℃、5%CO2恒温器で4時間培養した。MTT溶液を除去した後、DMSO100μLを添加し、次いで混合物を30分間、暗所でしん盪培養した。培養後、遊離ホルマザンの量を540nmでELISAリーダを使用して測定した。
【0071】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、ヒドロコルチゾンのそれと比較して、より低い細胞毒性を有していたことが確認された(図11を参照されたい)。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2(KCCM10769P))株から生産する、3種類のマクロラクチン化合物、MA、MMA及びSMAを提供する。炎症媒介因子の形成に関連するタンパク質である誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現及び形成を直接的に抑制して、その代謝産物であるNO及びPGE2の形成を阻害するので、これらは代謝産物の過剰生成に起因する様々な疾患(例、炎症疾患)を予防及び治療するために使用できる。また、マクロラクチン化合物は従来の抗炎症剤のそれと比べて低い細胞毒性を有している。従って、本発明のマクロラクチン化合物は、従来の抗炎症剤に起因する副作用の問題を解消できると期待される。
【技術分野】
【0001】
本発明は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(Bacillus Polyfermenticus KJS-2,;KCCM10769P)から生産されるマクロラクチンA(以下、「MA」と称す)、7−O−マロニルマクロラクチンA(以下、「MMA」と称す)及び7−O−スクシニルマクロラクチンA(以下、「SMA」と称す)などのマクロラクチン化合物の抗炎症的使用に関する。具体的には、本発明は、誘導型酸化窒素合成酵素(以下、「iNOS」と称す)、シクロオキシゲナーゼ−2(以下、「COX−2」と称す)、及び炎症促進性サイトカインである腫瘍壊死因子−α(以下、「TNF−α」と称す)、インターロイキン−1β(以下、「IL−1β」と称す)、インターロイキン−6(以下、「IL−6」と称す)及び顆粒球マクロファージコロニー−刺激因子(以下、「GM−CSF」と称す)の形成を抑制することによって、優れた抗炎症活性を有する前記マクロラクチン化合物の使用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マクロラクチン化合物は、24−員ラクトン環を有するマクロライド系抗生物質である(非特許文献1)。前記化合物は分類されていない海洋バクテリア、放線菌、及びバチルス菌株から生産されると報告されており、21種類が同定されている。これらのマクロラクチン化合物は様々な薬理活性を有している。マクロラクチン化合物の薬理活性に対する先の研究は以下の通りである。
【0003】
1989年、Willam Fenical は、単純ヘルペスウイルスとHIVに対するMAの抗ウイルス活性を開示した。1997年、Ick-Dong Yooは、アクチノマヅラ属(Actinomadura sp.)株からMAを得て、MAを用いてグルタメート(glutamate)に由来する神経細胞の保護に関する研究を行った。2001年に、Hiroshi Sano は、バチルス属(Bacillus sp.)PP19−H3株からMAを単離して、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)IFO12732とバチルス・サブティリス(Bacillus subtilis)IFO3134株に対するMAの抗菌活性をに関する研究を行った。2003年、Sung-Won Choi はストレプトミセス属(Streptomyces sp.)YB−401株からMAを得て、コレステロール生合成に対するMAの阻害効果を開示した。2004年には、Keun-Hyung Park は、バチルス・アミロリケファシエンス(Bacillus amyloliquefaciens)CHO104株からMAを分離して、黄色ブドウ球菌KCTC1928、エシュリキア・コリKCTC2593、及びボトリチス・シネレア(Botrytis cinerea)に対するMAの抗菌活性を研究した。2005年には、Joo-Won Suh はバチルス属sunhua株からMAを得て、MAを用いてジャガイモそうか病を誘発するストレプトミセス疥癬(scabies)の阻害を研究した。2006年に、Gabriella Molinari はバチルス・ズブティリス(Bacillus subtilis)DSM16696株からMA、MMA、及びSMAを単離して、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)(vancomycim-resistant Enterococci)、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)(methicillin-resistant Staphylococcus aureus)、及び バーク(バルク)ホルデリア・セパシア (Burkholderia cepacia)に対するそれぞれの化合物の抗菌活性を研究した。この研究では、MMAとSMAは試験菌に対する優れた抗菌活性を有していた反面、MAは単に、MRSAに対してのみ抗菌活性を示したことが報告された。
【0004】
マクロラクチン化合物は様々な薬理活性を有しているが、マクロラクチン化合物の抗炎症活性に関する研究は現在まで全く報告されていない。
【0005】
炎症は、生体の患部に生じた損傷に対する防御的応答である。即ち、炎症応答は、有害な刺激に応答して、刺激による損傷を除去することによって元の状態に回復しようという防御的応答である。
【0006】
炎症を誘発する物質の一つである酸化窒素(以下、「NO」と称す)は、正常状態では内皮細胞やマクロファージで生産される。血管拡張、血小板接着及び凝集、神経伝達、消化器系の運動、勃起などに関与する媒介物質であるNOは、炎症細胞及び非免疫細胞で生成され、微生物感染に対する防御作用も果たす。リポ多糖体(以下、「LPS」と称す)、炎症誘発因子及び放射線照射などに起因する刺激は、特に、細胞内のiNOSタンパク質の発現を誘導し、NOを継続生成して、炎症疾患を誘発する。
【0007】
別の炎症誘発物質であるプロスタグランジンE2(以下、「PGE2」と称す)は、アラキドン酸由来のホルモンの一種であり、様々な生理活性に関与する。PGE2はCOX−2タンパク質の発現により生成される。COX−2の発現を抑制する薬物は、炎症病巣におけるPGE2生成の阻害によって、鎮痛、抗浮腫、解熱、抗炎症及び抗凝固活性を有するので、これらは血栓、浮腫、梗塞、発作及び脳血管疾患の予防及び治療に使用できる。
【0008】
前記2種類の炎症誘発物質であるiNOSとCOX−2は、互いに密接に関連している。例えば、過剰に生成されたNOは、COX−2の発現に影響を与えることがある。従って、iNOS及びCOX−2活性の阻害剤は、NO及びPGE2代謝産物の過剰生成に起因する様々な疾患(例えば、炎症疾患)を予防または治療する薬物として開発するための高い可能性を有すると考えられている。
【0009】
現在まで、ステロイド及び非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)は、急性及び慢性炎症疾患の治療に適宜使用されてきた。しかし、従来の抗炎症剤は、特に長期間使用すると、かなりの副作用をもたらす。従って、副作用が殆ど無い新しい抗炎症剤を開発することが切に求められている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 1989,111, 7519-7524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の抗炎症剤の上記問題点を考慮した、本発明の目的は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株から生産される、MA、MMA及びSMAのようなマクロラクチン化合物の抗炎症的使用を提供することである。特に本発明は、iNOS及びCOX−2の形成を阻害することによって優れた抗炎症活性を有するマクロラクチン化合物の使用を提供する。
【0012】
また、本発明の目的は、前記マクロラクチン化合物を有効成分として含有する、炎症疾患の予防及び治療のための医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
一態様では、本発明は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株から生産される式(1)のMA、式(2)のMMA及び式(3)のSMAの抗炎症的使用を提供する。
【0014】
別の態様では、本発明は、MA、MMA及びSMAのような前記マクロラクチン化合物のiNOS及びCOX−2タンパク質、及び炎症性サイトカインの形成を阻害するための抗炎症的使用を提供する。
【0015】
更に別の態様では、本発明は、前記マクロラクチン化合物を含有する炎症疾患の予防及び治療のための医薬組成物を提供する。
【0016】
【化1】
【0017】
【化2】
【0018】
【化3】
【0019】
以下、本発明についてより詳細に説明する。
【0020】
式(1)のMAと式(2)のMMAを得るために、本発明者らによって分離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株を、MA培地中で発酵する。発酵液を酢酸エチルで抽出して、抽出液を濃縮する。実施例1の方法に従って、目的の生成物を分離して、精製する。
【0021】
式(3)のSMAを得るために、前記株を、HP−20樹脂を含むトリプトソイ(TSB)培地で発酵する。実施例1の方法に従って、目的の生成物を分離して、精製する。
【0022】
精製した生成物の構造を、LC/Massと核磁気共鳴(NMR)によって解析した。
【0023】
前記マクロラクチン化合物、MA、MMA及びSMAの抗炎症効果についての研究は、現在まで報告されていない。
【0024】
本発明者らは、前記マクロラクチン化合物の抗炎症効果を確認して、本発明を完成させた。抗炎症効果を調べるために、精製したそれぞれの化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7細胞株をLPS(0.1μg/mL又は1.0μg/mL、シグマ社製)で刺激し、次いで炎症誘発物質である、1)NOと2)PGE2の形成及びそれらの形成に関連する酵素の発現を分析した。同様の方法で、3)炎症促進性サイトカイン、TNF−α、IL−1β、IL−6及びGM−CSFの形成も分析した。
【0025】
1)NO形成の抑制は、グリース反応(Griess recation)によって確認した。その結果、LPS単独で処理した対照群に比べて、MA、MMA及びSMA全てがNO形成を強力に阻害することを確認した。マクロラクチン化合物のNO形成における阻害効果は、特にヒドロコルチゾン(hydrocortisone)のそれに匹敵していたか、または優れていた。
【0026】
NO形成はiNOSタンパク質と関連している。iNOS活性が誘発されると、長時間にわたって多量のNOが形成される。NOは、病理的な血管拡張、細胞毒性、組織損傷などの生体系に対する副作用が知られていて、且つ炎症状態では血管透過性、浮腫などの炎症応答を促進させ、炎症媒介因子の生合成を促進して炎症を深刻化することも知られている。
【0027】
NO形成を抑制する作用機構を調べるために、それぞれのマクロラクチン化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7をLPSで刺激してiNOSの形成を誘導した後、各化合物におけるiNOS形成の抑制程度をリアルタイムPCR及びウェスタンブロットによって確認した。
【0028】
その結果、リアルタイムPCRによる遺伝子発現において、MA、MMA及びSMAの全てがiNOS mRNAの発現を強力に抑制して、その抑制効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。ウェスタンブロット法により確認したタンパク質発現レベルでも、本発明のマクロラクチン化合物はLPS単独で処理した対照群に比べて、強い抑制効果を示した。
【0029】
前記結果から、本発明のマクロラクチン化合物は、iNOSタンパク質の発現を抑制する作用によって、NO形成を抑制すると考えられる。
【0030】
2)別の炎症媒介因子であるPGE2の抑制を、酵素免疫吸着分析法(ELISA)キットを用いて確認した。その結果、LPS単独で処理した対照群に比べてMA、MMA及びSMAの全てがPGE2の形成を強力に阻害することを確認した。特に、マクロラクチン化合物のPGE2形成の阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。多くの抗炎症薬物はPGE2合成を抑制する作用機構を有しており、これはCOX−2タンパク質の形成及び活性を阻害することに起因している。COX−2によって合成されたPGE2は炎症応答を媒介する。COX−2タンパク質により生成されたPGE2は炎症応答、免疫応答、及び脈管形成を刺激して、癌の発生にも関与していることが知られている。PGE2合成の抑制とCOX−2タンパク質合成の抑制との関連性を調べるために、それぞれのマクロラクチン化合物で処理したマウスのマクロファージRAW264.7をLPSで刺激してCOX−2形成を誘導した後、各化合物におけるCOX−2タンパク質形成の抑制程度をリアルタイムPCR及びウェスタンブロットによって確認した。その結果、本発明のマクロラクチン化合物はCOX−2mRNAの発現を強く抑制し、その抑制活性はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。ウェスタンブロットで確認したCOX−2タンパク質の発現においても、本発明のマクロラクチン化合物はLPS単独で処理した対照群に比べて強い抑制効果を示した。
【0031】
前記結果により、本発明のマクロラクチン化合物は、COX−2タンパク質の発現を抑制することによって、PGE2形成を強力に阻害すると考えられる。
【0032】
上記の結果から、本発明のマクロラクチン化合物は、iNOSとCOX−2タンパク質の形成を抑制する作用によって、NOとPGE2の形成を強力に阻害したことを確認した。
【0033】
3)本発明のマクロラクチン化合物による炎症促進性サイトカインの抑制を、マウス ELISA kit(KOMA Biotech社製)を用いて確認した。
【0034】
TNF−α測定の結果、LPS単独で処理した対照群に比べて、MA、MMA及びSMAの全てがTNF−αの形成を阻害した。また、マクロラクチン化合物のTNF−αの形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または優れていた。特に、MAは他の対照物質と比較して優れたTNF−α形成の阻害効果を有している。
【0035】
IL−1β測定の結果、MAとSMAのそれぞれがIL−1βの形成を強力に阻害して、特に、マクロラクチン化合物のIL−1β形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれに匹敵していたか、または、優れていたと確認された。
【0036】
IL−6測定の結果、MA、MMA及びSMAの全てはIL−6の形成を強力に阻害したことを確認した。マクロラクチン化合物のIL−1β形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれより優れてはいなかった。
【0037】
GM−CSF測定の結果、MAとSMAのそれぞれがGM−CSFの形成を強力に阻害したことを確認した。マクロラクチン化合物のGM−CSF形成に対する阻害効果はヒドロコルチゾンのそれより優れていた。
【0038】
前記結果により、本発明のマクロラクチン化合物は、急性炎症と慢性炎症の両方に関与している炎症促進性サイトカインを強力に阻害すると考えられる。
【0039】
また、本発明のマクロラクチン化合物と、抗炎症剤として一般的に用いられているヒドロコルチゾンがマウスのマクロファージRAW264.7に及ぼす細胞毒性を チアゾリルブルーテトラゾリウムブロミド(以下、「MTT」と称す)分析によって確認した。その結果、本発明のマクロラクチン化合物の細胞毒性はヒドロコルチゾンのそれより低かった。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】図1は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株の発酵液抽出物のMPLCクロマトグラム(MPLC chromatgram)である。
【図2】図2は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株の培養液抽出物のMPLCクロマトグラムである。
【図3】図3は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産されたマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、そしてc)エレクトロスプレーイオン化スペクトル(ESI−スペクトル)である。
【図4】図4は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産された7−O−マロニルマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、そしてc)ESI−スペクトルである。
【図5】図5は、バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株により生産された7−O−スクシニルマクロラクチンAのLC/Mass分析の結果であり、a)262nmで測定したLCクロマトグラム、b)紫外線スペクトル、c)ESI−スペクトルである。
【図6】図6は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるNO形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図7】図7は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるPGE2形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図8】図8は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるiNOSmRNA発現に対する阻害効果を示すグラフである。
【図9】図9は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるCOX−2mRNA発現に対する阻害効果を示すグラフである。
【図10】図10は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるiNOSとCOX−2タンパク質生成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図11】図11は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞における細胞毒性を示すグラフである。
【図12】図12は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるTNF−α形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図13】図13は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるIL−1β形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図14】図14は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるIL−6形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【図15】図15は、本発明のマクロラクチン化合物によるRAW264.7細胞におけるGM−CSF形成に対する阻害効果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下の実施例により本発明をより詳細にに説明する。しかしながら、これらの実施例は本発明を説明することのみを目的としていて、本発明の範囲はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【実施例】
【0042】
実施例1:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からのマクロラクチンA、7−O−マロニルマクロラクチンA、及び7−O−スクシニルマクロラクチンAの生産、分離及びそれらの構造解析
【0043】
[工程1:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からのマクロラクチンA及び7−O−マロニルマクロラクチンAの生産及びそれらの分離]
MAとMMAを得るために、本発明者により単離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株を用いる発酵工程を、MA培地中で実施した。
【0044】
MA培地の組成は次の通りである。
栄養培養液(Nutrient broth)(Difco社製)16g/L、
スキムミルク10g/L、
2.5μMのFeSO4、
500μMのCaCl2、
1mMのMgSO4、
13mMのKCl.
【0045】
発酵工程は、空気流入量0.143vvm、回転数200rpm、温度30℃、及び1NのHClと3NのNaOHでpH6.8に保持した条件下で実施した。発酵液を酢酸エチルで抽出した後、濃縮した。濃縮液をメタノールに溶解して、中圧液体クロマトグラフィー(以下、MPLCと称す)用の試料を作成した。Buchi MPLC system(Buchi pump C−605、column1.5×23cm、Fraction collector Buchi C−660)を使用して、カラム内にはLiChroprep C−18(40〜63μm、メルク社製)を充填した。262nmで検出を行い、移動相は流速15mL/minの40%アセトニトリルである。発酵液抽出物をMPLCカラム内に注入した後、図1に記載の第1のピークと第2のピークに該当する画分を濃縮して、次の分析のための試料を作成した。
【0046】
[工程2:バチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株からの7−O−スクシニルマクロラクチンAの生産及びその分離]
本発明者らによって単離されたバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2(KCCM10769P)株をHP−20樹脂(三菱化学社製)10%を含むトリプチックソイブロス(TSB)培地に接種して、30℃、200rpmで2.5日間培養した。培養後、HP−20樹脂を回収し、水で洗浄した。メタノールを用いて結合した物質を溶出した。メタノール溶出液を濃縮して、MPLC用の試料を作成した。
【0047】
MPLCの操作条件は前述と同様であった。図2に示されているピークに該当する画分を濃縮して、次の分析のための試料を作成した。
【0048】
[工程3:分析の条件及び構造の解明]
工程1及び2で精製した各物質を下記の装置及び条件で分析した。Zorbax SB−C18カラム(粒径5μm、4.6×250mm)を備えたアジレント(agilent)1100シリーズLC/Massを用いて質量分析を行った。LCの移動相は、アセトニトリルと0.1%ギ酸含有水であり、LC分析条件は、流速1mL/分で20分間、アセトニトリル0%から100%の勾配溶媒を用いて、262nmで検出した。質量分析の条件は、乾燥ガス流13L/分、蒸気圧50psi、及び乾燥ガス温度350℃を用いるAP−ESI(Atmosphere pressure-Electro spray ionization)モードであった。毛細管電圧はカチオンモードで4000V、アニオンモードで3500Vであり、質量範囲は100m/z〜1000m/zであり、そしてフラグメント電圧(fragment voltage)150Vであった。前記条件下で工程1及び2で精製した各物質を分析して、図3、4及び5にその結果を示した。各化合物の質量分析の結果は以下の通りでる。
【0049】
図1、第1の画分は、[M+Na]+425.4m/z、[M+K]+441.4m/z、最大吸光度(λmax)262nm、純度98.3%であると、そして第2の画分は[M+Na]+511.7m/z、最大吸光度(λmax)258nm、純度84.88%であると確認した。図2の画分は、[M+Na]+526.0m/z、[M−H]−502.0m/z、最大吸光度(λmax)258nm、純度97.02%であると確認した。
【0050】
精製したそれぞれの物質の約30mgをDMSO−d6溶液に溶解した後、NMR分析によってそれらの化学構造を特定した。特定するために、1H−NMR、13C−NMR、DEPT−90、DEPT−135、Homo COZY、HMQC、及びHMBCなどの多種のNMR技術を用い、そして1H−NMRスペクトルの問題を解決するために、プロトンデカップリング方法も用いた。
【0051】
NMR分析の結果、図1及び図3の第1画分はMAと同定された。その結果を表1及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は、17℃で、−10(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(1)と同じ化合物、MAであることを確認した。
【0052】
【表1】
【0053】
NMR分析の結果、図1及び図4の第2の画分はMMAと同定された。その結果を表2及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は17℃で−5(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(2)と同じ化合物、MMAであることを確認した。
【0054】
【表2】
【0055】
NMR分析の結果、図2及び図4の画分はSMAと同定された。その結果を表3及び表4に示す。旋光計(ポラックス−D、アタゴ社製)で測定した物質の比旋光度は17℃で−15(c=4.0、メタノール)であり、これにより物質が式(3)と同じ化合物、SMAであることを確認した。
【0056】
【表3】
【0057】
表4は、本発明で調査したバチルス・ポリファーメンチカスKJS−2株から生産したMA、MMA及びSMAの生産方法、収率、純度及び特性を示す(表4に記載した)。
【0058】
【表4】
【0059】
実施例2:ネズミのマクロファージRAW264.7細胞株に対するマクロラクチン化合物の抗炎症活性の検討
ネズミマクロファージ細胞株であるRAW264.7は、韓国細胞株銀行(Korean Cell Line Bank;KCLB)から入手した。10%ウシ胎仔血清(FBS;LONZA社製)と1%ペニシリン/ストレプトマイシン(Sigma社製)を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM;LONZA社製)中、37℃、5%CO2恒温器で培養して、細胞密度が80%に達したときに、継代培養を行った。RAW264.7細胞を24時間培養した後、MA(1〜100μM)、MMA(10μM)、SMA(10μM)及び抗炎症活性を有している公知物質である、ヒドロコルチゾン(10μM)を加えた。添加の1時間後に、LPS(0.1又は1.0μm/mL、シグマ社製)を混合物に加え、次いで8時間又は16時間培養した。陰性対照としてジメチルスルホキシド(以下、「DMSO」)を使用し、陽性対照としてマクロラクチン化合物を添加しない状態のLPS(0.1又は1.0μm/mL、シグマ社製)を使用した。
【0060】
実験例1:NO形成に対する阻害効果
細胞培養液内のNOの濃度は、硝酸/亜硝酸比色アッセイキット(Cayman社製)を使用して測定した。1×105細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、6ウェルプレート中、実施例2に記載した条件下で24時間培養して、本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。培養培地を製造会社から提供された96ウェルプレート中でグリース試薬R1(スルファニルアミド)で、次いでグリース試薬R2(N−(1−ナフチル)−エチレンジアミン)で処理し、次いで亜硝酸塩からの紫色のアゾ基の形成を検出した。製造会社から提供された標準溶液によってUVスペクトルメータにおける540nmの吸光度で作成した検量線を用いて、NO生成量を算出した。
【0061】
その結果、MAとヒドロコルチゾンの両方がNO形成を強力に阻害したのに対して、MMAとSMAは低い阻害活性を示した(図6を参照されたい)。
【0062】
実験例2:PGE2形成に対する阻害効果
細胞内の炎症性因子である、PGE2の形成量は、アマシャムプロスタグランジンE2 biotrak エンザイムイムノアッセイ(Amersham prostaglandin E2 biotrak Enzymeimmunoassay;EIA)システムキット(GE Healthcare社製)を用いて測定した。96ウェルプレート中、2×104細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで、本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、Sigma社製)で処理した後、16時間さらに培養した。製造会社から提供された標準溶液によって、UVスペクトルメータにおける450nmの吸光度で作成した検量線を用いて、PGE2生成量を算出した。標準物質に対する検量線のr2値は0.99以上であった。
【0063】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、PGE2形成を強力に阻害しており、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図7を参照されたい)。
【0064】
実験例3:iNOS及びCOX−2mRNAの発現に対する効果
細胞内の炎症性因子である、iNOS及びCOX−2mRNAの発現に対する本発明のマクロラクチン化合物の効果を検討した。6ウェルプレート中、1X105細胞/ウェルに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。培養細胞の全てのRNAをRNase無しの条件下でTrizol試薬(シグマ社製)によって単離した。分離した全てのRNAを用いるPCR用のテンプレートを得るために、cDNA合成キット(タカラ社製)を使用した。Oligo dT Primer(50μM)1μL、dNTP Mixture(それぞれ10mM)1μL、及びテンプレートRNA2μgの混合物にRNaseを含んでいないdH2Oを添加して、総体積を10μLに調整した。混合物を65℃に5分間、次いで氷に入れて2分間保持した。混合液10μL、5×PrimeScript(登録商標)緩衝液4μL、RNase阻害剤(40U/μL)0.5μL、及びPrimeScript(登録商標)RTase(200U/μL)0.5μLの混合物にRNaseを含まないdH2Oを加えて総体積を20μLに調整した。混合物を42℃で30分間反応してcDNAを合成した。
【0065】
合成したcDNA25〜50ng、sensiMixPlus SYBR 2X緩衝液(Quantance社製)5μL、表5に示したプライマーをそれぞれ0.25pmolの混合物に蒸留水を加えて総体積を10μLに調整した。混合物のiNOSとCOX−2mRNA発現の程度を、リアルタイム遺伝子増幅器(Corbett life science Rotor-gene 6000)を使用して測定した。リアルタイム遺伝子増幅器の操作条件は次の通りである。初期変性は95℃で5分間から始めて、94℃で30秒、57℃で30秒、そして72℃で30秒間50回繰り返した。試料のmRNA発現を互いに比較する時は、ハウスキーピング遺伝子も同時に測定して相対量を求めた。ハウスキーピング遺伝子の測定値で、RNA量を補正することによって各試料のmRNA生成量をCt(Threshold cycle)値で算出した。
【0066】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、iNOSとCOX−2mRNA発現を強力に阻害して、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図8及び図9を参照されたい)。
【0067】
【表5】
【0068】
実験例4:iNOSとCOX−2タンパク質形成に対する効果
細胞内の炎症性因子である、iNOSとCOX−2タンパク質形成に対する、本発明のマクロラクチン化合物の効果を検討した。100mmdish中、1×106細胞/dishに調整したネズミマクロファージRAW264.7細胞を実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物とLPS(0.1μg/mL、シグマ社製)で処理した後、16時間さらに培養した。細胞を冷却したPBSで2〜3回洗浄し、次いで採取した。採取した細胞に50mMのTris−HCl緩衝液pH7.5(0.1MのKCl、1mMのEDTA、1mMのDTT、0.2mMのPMSF)100μLを添加して、液体窒素を使用して溶解した。この溶解物を4℃で10分間、13,000rpmで遠心分離して上清を採取した。タンパク質はBradford法で定量分析した。50μgのタンパク質をドデシル硫酸ナトリウムポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)に付した。SDS−PAGEゲルを電圧50Vで2時間、ニトロセルロース膜(Amersham社製)に転写した。1×トリス緩衝食塩液(TBS;0.1MのNaCl、10mMのTris−HCl)でニトロセルロース膜を2回洗浄し、そこに非特異的タンパク質反応を遮断するために3%ゼラチン溶液を添加し、次いで室温で1時間反応した。3%ゼラチン溶液を除去した後、1×トリス緩衝食塩液−Tween(TBS−T;0.1MのNaCl,10mMのTris−HCl、0.1%のTween20)をそこに添加した。iNOSとCOX−2のタンパク質発現を調べるために、抗マウス(anti−mouse )iNOS(Cell Signaling社製)、抗マウス(anti−mouse )COX−2(Cell Signaling社製)、及び抗マウス(anti−mouse )GAPDH(Cell Signaling社製)を、1×TBS−Tで1:1000に希釈して室温で1時間反応した。反応物を1×TBS−Tで2回洗浄し、次いで第2次抗体アルカリホスファターゼを結合した抗ウサギ(anti−rabbit )IgG(Sigma社製)と反応して、1×TBS−Tで、1:5000の比に1時間かけて希釈した。反応物を1×TBS−Tで3回洗浄して、抗体に対応するタンパク質バンドをBCIP/NBT Color Development Substrate(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−ホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム、Promega社製)を用いて同定した。
【0069】
その結果、MA、MMA及びSMAの全てが、iNOSとCOX−2タンパク質の形成を強力に阻害して、阻害活性はヒドロコルチゾンのそれと類似していたか、または匹敵していた(図10を参照されたい)。
【0070】
実験例5:細胞毒性に対する効果
本発明のマクロラクチン化合物のネズミマクロファージRAW264.7に対する細胞毒性効果を調べるために、MTT分析法を使用した。4×104細胞/ウェルに調整した細胞を96ウェルプレートで、実施例2に記載した条件下で24時間培養し、次いで本発明のマクロラクチン化合物で処理した後、さらに16時間培養した。培地を除去した後、MTT溶液(2mg/mL PBS)100μLを添加し、次いで混合物を37℃、5%CO2恒温器で4時間培養した。MTT溶液を除去した後、DMSO100μLを添加し、次いで混合物を30分間、暗所でしん盪培養した。培養後、遊離ホルマザンの量を540nmでELISAリーダを使用して測定した。
【0071】
その結果、MA、MMA及びSMAは全て、ヒドロコルチゾンのそれと比較して、より低い細胞毒性を有していたことが確認された(図11を参照されたい)。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2(KCCM10769P))株から生産する、3種類のマクロラクチン化合物、MA、MMA及びSMAを提供する。炎症媒介因子の形成に関連するタンパク質である誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)の発現及び形成を直接的に抑制して、その代謝産物であるNO及びPGE2の形成を阻害するので、これらは代謝産物の過剰生成に起因する様々な疾患(例、炎症疾患)を予防及び治療するために使用できる。また、マクロラクチン化合物は従来の抗炎症剤のそれと比べて低い細胞毒性を有している。従って、本発明のマクロラクチン化合物は、従来の抗炎症剤に起因する副作用の問題を解消できると期待される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2, KCCM10769P)株から生産されるマクロラクチンAを有効成分として含有してなる、抗炎症性組成物。
【請求項2】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(KCCM10769P)株から生産される7−O−マロニルマクロラクチンAを有効成分として含有してなる、抗炎症性組成物。
【請求項3】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(KCCM10769P)株から生産される7−O−スクシニルマクロラクチンAを有効成分として含有してなる抗炎症性組成物。
【請求項4】
抗炎症活性が、炎症媒介因子である酸化窒素(NO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−6(IL−6)及び顆粒球マクロファージコロニー−刺激因子(GM−CSF)の形成の阻害に起因している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
抗炎症活性が、誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)活性の阻害に起因している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項1】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(Bacillus polyfermenticus KJS-2, KCCM10769P)株から生産されるマクロラクチンAを有効成分として含有してなる、抗炎症性組成物。
【請求項2】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(KCCM10769P)株から生産される7−O−マロニルマクロラクチンAを有効成分として含有してなる、抗炎症性組成物。
【請求項3】
バチルス・ポリファーメンチカス KJS−2(KCCM10769P)株から生産される7−O−スクシニルマクロラクチンAを有効成分として含有してなる抗炎症性組成物。
【請求項4】
抗炎症活性が、炎症媒介因子である酸化窒素(NO)、プロスタグランジンE2(PGE2)、腫瘍壊死因子−α(TNF−α)、インターロイキン−1β(IL−1β)、インターロイキン−6(IL−6)及び顆粒球マクロファージコロニー−刺激因子(GM−CSF)の形成の阻害に起因している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
抗炎症活性が、誘導型酸化窒素合成酵素(iNOS)及びシクロオキシゲナーゼ−2(COX−2)活性の阻害に起因している、請求項1〜3のいずれか一項に記載の組成物。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公表番号】特表2012−527452(P2012−527452A)
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−511768(P2012−511768)
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003239
【国際公開番号】WO2010/134790
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511282416)ダエウー ファーマシューティカル インダストリー カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DAEWOO PHARMACEUTICAL IND. CO., LTD.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年5月24日(2010.5.24)
【国際出願番号】PCT/KR2010/003239
【国際公開番号】WO2010/134790
【国際公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【出願人】(511282416)ダエウー ファーマシューティカル インダストリー カンパニー リミテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】DAEWOO PHARMACEUTICAL IND. CO., LTD.
【Fターム(参考)】
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