説明

マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法

【課題】マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に環境親和的で、且つ高い耐食性を付与できる化成皮膜層を形成する方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に脱脂処理した後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面の酸化皮膜除去のためのエッチング処理後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に発生したスマットを除去するためのデスマット処理後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜形成処理した後に水洗い処理する工程;及び前記化成皮膜上に塗装処理する工程;を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法に関するものであり、より詳しくは、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に環境親和的で、且つ高い耐食性を付与できる化成皮膜層を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、マグネシウムは地球上に豊富なだけでなく、密度が約1.74g/cmであり、構造用金属材料中最も軽量なため、航空機、自動車および携帯用機器等に使用されており、使用量および適用範囲が急激に増加している。
【0003】
しかし、マグネシウム合金は材質の特性上、耐食性に劣るという短所あるため、表面に化学処理を必須的に行わなければならなく、このような化学処理中で最も多く用いられて来た方法の一つに、化成皮膜形成後に塗装で仕上げる工程がある。
【0004】
化成皮膜形成方法は、マグネシウム表面に多様な化学反応によって皮膜が形成される金属表面処理の一つであり、皮膜の厚さは数百nm範囲を表し、化成処理溶液によって様々な種類がある。また、化成皮膜形成方法は外部から電気を加える電気メッキとは異なり、外部から電気を加えず、金属表面で起こる化学反応を利用して皮膜を得るという特徴がある。
【0005】
このようなマグネシウム合金の化成皮膜形成方法は、一般的にクロム系化成処理と非クロム系化成処理方法がある。
【0006】
クロム系化成処理は、70年代にDow Chemicalで開発され、Dow1やDow21のように命名され利用されている。代表的なDow法は、重クロム酸ソーダを主成分として酸性溶液で金属表面処理が行われる。Dow法で使用される酸性溶液は、管理が容易で且つ表面処理後に金属の耐食性および塗装密着性がよいという長所がある。しかし、使用される酸性溶液内の6価クロムの有害性が見つかったため使用に制限がある。
【0007】
これにより、低クロム系あるいは非クロム系化成処理方法が開発され利用されているが、非クロム系化成処理法は主にマンガン塩系およびジルコニウム塩系があり、その他希土類塩系と有機系が知られているが、処理液が高価だったり管理が大変だという短所がある。
【0008】
また、化成皮膜の色が、クロメートの場合は緑色や赤灰色を帯び、非クロム系の場合は灰色やアイボリー色を表すため、マグネシウムの金属の色がそのまま表現されないことから、マグネシウム合金外観の良さが低下する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的の一つは、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成して耐食性を向上させる方法を提供することである。
【0010】
本発明の他の目的は、環境に優しいマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法を提供することである。
【0011】
本発明の他の目的は、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成して表面処理後にも外観の損傷を最小化する方法を提供することである。
【0012】
本発明の他の目的は、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成して外観の良さを最大化できる方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一実施例によるマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法は、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に脱脂処理した後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面の酸化皮膜除去のためのエッチング処理後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に発生したスマット(smut)を除去するためのデスマット処理後に水洗い処理する工程;前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜形成処理した後に水洗い処理する工程;及び前記化成皮膜上に塗装処理をする工程;を含む。
【0014】
前記のような方法によって耐食性が向上し、表面処理後にも外観の損傷を最小化し、見た目の良さを最大化できるマグネシウム又はマグネシウム合金が提供できる。
【0015】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に脱脂処理した後に水洗い処理する工程で、前記脱脂処理は30〜60g/Lの水酸化カリウム(KOH)、150〜200g/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)、20〜30g/Lのアミンオキシド、5〜10g/LのC11NaO(グルコン酸ナトリウム)及び浸潤剤(Wetting agent)で組成された第1水溶液によって処理できる。前記のように構成された第1水溶液は、マグネシウム又はマグネシウム合金表面の油成分を容易に除去でき、素材の変色を最小化できる。
【0016】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面における酸化皮膜除去のためのエッチング処理後に水洗い処理する工程で前記エッチング処理は600〜800g/Lの硝酸(HNO)、200〜400g/Lの燐酸(HPO)及び浸潤剤を混合した第2水溶液によって処理できる。一方、第2水溶液は蒸留水で希釈してpH1.0〜2.0に調整でき、約35〜50℃の温度範囲内で形成できる。前記のように構成された第2水溶液によって、マグネシウム又はマグネシウム合金表面の酸化膜が容易に除去でき、金属の変色を最小化できる。
【0017】
一方、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に発生したスマットを除去するためのデスマット処理後に水洗い処理する工程で、前記デスマット処理は50〜200g/Lの水酸化カリウム(KOH)及び5〜10g/Lの平滑剤を混合した第3水溶液に浸漬処理できる。前記のような組成比率によって金属表面に水酸化皮膜の発生を防止でき、金属がデスマットされることを防止できる。
【0018】
また、前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜形成処理した後に水洗い処理する工程で、前記化成皮膜形成処理は600〜800g/Lの硝酸(HNO)、200〜400g/Lの燐酸(HPO)及び0.5〜10g/Lのフッ酸(HF)を混合した第4水溶液に処理できる。このとき、第4水溶液は蒸留水で希釈してpH2.0〜4.0に調整して、20〜60℃の前記第4水溶液中で前記化成皮膜を形成できる。このように、第4水溶液の温度を限定することにより、皮膜形成速度を調節して金属表面に一定の厚さの皮膜が形成できるようにし、金属外観の損傷を最小化できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一実施例のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法によると、酸アルカリとの反応性に優れ、活性が強いため耐食性が向上し得る。
【0020】
本発明の一実施例のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法によると、クロム酸等の環境に有害な物質を使用せず、金属表面に皮膜を形成するため環境に優しい皮膜層を形成できる。
本発明の一実施例のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法によると、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に表面処理をした後にもマグネシウムそのままの色を表現できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の一実施例にかかるマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法によって表面処理されたマグネシウム合金板材の表面組織の拡大図。
【図2】本発明の一実施例にかかるマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法を図示した順序図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下で、本発明にかかる実施例を添付の図面を参照して詳しく説明する。しかし、本発明が実施例によって制限されたり限定されるものではない。各図面に提示された同一な参照符号は同一な部材を表す。
【0023】
図1は、本発明の一実施例にかかるマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法によって表面処理されたマグネシウム合金板材の表面組織の拡大図であり、図2は本発明の一実施例にかかるマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法を図示した順序図である。
【0024】
以下、図面を説明するためにマグネシウム合金表面に化成皮膜層を形成する例を挙げて説明するが、発明で要求される条件に従いマグネシウム金属板表面上に化成皮膜層が形成される場合もある。
【0025】
図面および[表1]を参考すると、成形したマグネシウム合金表面に付着している油脂成分と異物質を除去し、金属の変色を防止するためにマグネシウム合金表面を脱脂処理できる第1水溶液を形成できる(S210)。
【0026】
【表1】

【0027】
前記第1水溶液に提供された添加剤は浸潤剤であり、金属表面に第1水溶液をよく染み込むようにさせる界面活性剤になり得る。前記の界面活性剤は、発明で要求される条件に従い多様な浸潤剤が使用できる。
【0028】
このとき、第1水溶液の組成比率を提示した[表1]の範囲から外れると、マグネシウム合金表面の油成分が除去される速度が遅くなったり金属の素材が変色し得るため、第1水溶液の組成比率は図示の範囲内であることが好ましい。
【0029】
前記第1水溶液を利用してマグネシウム合金表面の油脂成分と異物質を除去した後、水洗い処理できる(S210)。前記水洗い処理でマグネシウム合金表面に残っている第1水溶液成分を完全に除去できる。
【0030】
第1水溶液は、強アルカリ成分であるため、もしマグネシウム合金表面に第1水溶液成分が残っていると、後工程で使用される強酸性溶液と反応して金属表面の化学的な反応を低下させ、金属表面が不均衡に形成され得る。よって、水洗い処理を通じて金属表面に残っている第1水溶液を完全に除去することで後工程の効率を向上させることができる。
【0031】
脱脂処理が終了すると、金属表面のマグネシウム酸化皮膜を除去するために[表2]のような第2水溶液を製造できる(S220)。
【0032】
【表2】

【0033】
前記第2水溶液に提供された浸潤剤は前述の説明通り金属に溶液をよく染み込むようにさせた界面活性剤であって、発明で要求される条件に従い多様に提供できる。
【0034】
前記第2水溶液を利用してマグネシウム合金表面をエッチング処理すると、金属表面の酸化皮膜を適切な速度で除去でき、金属の変色を防止できる。
【0035】
マグネシウム合金のエッチング処理が終了すると、水洗い処理ができる(S220)。前述の説明通り水洗い処理は金属表面の酸化皮膜を除去する過程で使用される溶液が工程後に表面に残って金属の外観の損傷を防止できる。
【0036】
エッチング処理および水洗い処理が終了すると、[表3]のように第3水溶液を製造してマグネシウム合金表面に発生したスマットを除去できる(S230)。
【0037】
【表3】

【0038】
前記 [表3]に図示した組成比率で製造された第3水溶液はデスマット溶液であって、金属表面のムラ等を除去でき、添加剤である平滑剤を添加して金属表面を平らにできる。
【0039】
また、第3水溶液は、前記[表3]の組成比率に従って調製されることが好ましい。もし第3水溶液が前記組成比率より低い場合は金属表面の一部のみデスマット処理され、組成比率より高い場合は金属表面に水酸化皮膜が形成できる。よって、第3水溶液の組成比率は前記範囲から外れないことが好ましい。
【0040】
一方、マグネシウム合金表面に発生したスマットが除去されると、マグネシウム合金を水洗い処理した後(S230)で、マグネシウム合金の外面に化成皮膜を形成できる(S240)。マグネシウム合金の外面に化成皮膜を形成するために第4水溶液を製造でき、第4水溶液の組成比率は次の通りである。
【0041】
【表4】

【0042】
前記の通り製造された第4水溶液によってマグネシウム合金上に形成された化成皮膜上に塗装処理できる(S250)。
【0043】
前記塗装処理後に金属の耐食性検査のための塩水噴霧試験で36時間後の結果と、皮膜と金属間の密着性試験を行った結果を次の通り表した。
【0044】
【表5】

【0045】
前記のような化成皮膜を形成する方法によって形成されたマグネシウム合金の表面は、マグネシウムそのままの金属色を維持でき、金属表面の損傷を最小化できる。また、マグネシウム合金の耐食性を向上させて多様な機器の原料として使用できる。さらに、既存のクロメート、クロム酸等のような毒性の強い化成皮膜を使用しないため、環境に優しい皮膜層を形成することもできる。
【0046】
以上では、本発明の好ましい実施例を例示的に説明したが、本発明の範囲はこのような特定実施例だけに限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている範疇内で適切に変更できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法において、
マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に脱脂処理した後に水洗い処理する工程;
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面の酸化皮膜除去のためのエッチング処理後に水洗い処理する工程;
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に発生したスマットを除去するためのデスマット処理後に水洗い処理する工程;
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜形成処理した後に水洗い処理する工程;及び
前記化成皮膜上に塗装処理する工程;
を含むことを特徴とする、マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項2】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に脱脂処理した後に水洗い処理する工程で、前記脱脂処理は30〜60g/Lの水酸化カリウム(KOH)、150〜200g/Lの水酸化ナトリウム(NaOH)、20〜30g/Lのアミンオキシド、5〜10g/LのC11NaO(グルコン酸ナトリウム)及び浸潤剤(Wetting agent)で組成された第1水溶液によって処理されることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項3】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面における酸化皮膜除去のためのエッチング処理後に水洗い処理する工程で、前記エッチング処理は600〜800g/Lの硝酸(HNO)、200〜400g/Lの燐酸(HPO)及び浸潤剤を混合した第2水溶液によって処理されることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項4】
前記第2水溶液は、蒸留水で希釈してpH1.0〜2.0に調整されることを特徴とする、請求項3に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項5】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に発生したスマットを除去するためのデスマット処理後に水洗い処理する工程で、前記デスマット処理は50〜200g/Lの水酸化カリウム(KOH)及び5〜10g/Lの平滑剤を混合した第3水溶液に浸漬処理されることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項6】
前記マグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜形成処理した後に水洗い処理する工程で、前記化成皮膜形成処理は600〜800g/Lの硝酸(HNO)、200〜400g/Lの燐酸(HPO)及び0.5〜10g/Lのフッ酸(HF)を混合した第4水溶液で処理されることを特徴とする、請求項1に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。
【請求項7】
前記第4水溶液は、蒸留水で希釈してpH2.0〜4.0に調整して、20〜60℃の前記第4水溶液内で前記化成皮膜が形成されることを特徴とする、請求項6に記載のマグネシウム又はマグネシウム合金の外面に化成皮膜層を形成する方法。


【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−111678(P2011−111678A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−112653(P2010−112653)
【出願日】平成22年5月14日(2010.5.14)
【出願人】(510134363)ケーシー ケミカル カンパニー リミテッド (2)
【出願人】(510134994)コリア インスティチュート オブ インダストリアル テクノロジー (2)
【Fターム(参考)】