説明

マグネシウム合金素材の製造方法

【課題】微細な結晶組織で優れた機械的性質を持つマグネシウム合金素材を得るためのマグネシウム合金素材の製造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金素材の製造方法は、マグネシウム合金からなり、板状または塊状の出発素材を用意する工程と、出発素材に対して、250℃以下の温度で圧下率70%以上の塑性加工を施し、動的再結晶を生じさせずに歪を導入する工程と、塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作製する工程と、粉体を一対の回転ロール間に通して圧縮変形させる工程と、回転ロール間を通過した圧縮変形粉体を引き続いて破砕して顆粒状粉体とする破砕工程とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引張強度および耐力に優れるとともに、良好な衝撃エネルギー吸収性能を持つマグネシウム合金素材の製造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金は、低比重による軽量化効果が期待されるので、携帯電話や携帯音響機器の筐体をはじめ、自動車用部品、機械部品、構造用材料等に広く活用されている。更なる軽量化効果の発現には、マグネシウム合金の高強度化と高靭性化が必要である。このような特性向上には、マグネシウム合金の組成・成分の最適化や、素地を構成するマグネシウム結晶粒の微細化が有効である。特に、マグネシウム合金素材の結晶粒微細化に関しては、これまで圧延法、押出加工法、鍛造加工法、引き抜き加工法など、塑性加工プロセスを基調とした方法が用いられている。
【0003】
特開2005−256133号公報は、ローラーコンパクターによって粉体原料の結晶粒径を微細化する方法を開示している。具体的には、出発原料粉末を1対のロール間に通して圧縮変形させ、引き続いて破砕処理を行って顆粒状粉体とする。この圧縮変形および破砕処理を数十回繰り返して行うことによって、微細な結晶粒径を持つ粉体が得られる。
【0004】
上記の公報に開示された方法では、微細な結晶粒径を持つ粉体を得るために圧縮変形および破砕処理を数十回繰り返して行わなければならないので、製造効率および経済性の点で改善すべき余地がある。
【0005】
マグネシウム合金板材を圧延することによって結晶組織を微細化することも可能であるが、マグネシウムは最密六方格子(HCP結晶構造)を有しており、低温(200℃以下)での変形機構は主に底面すべりが支配的となる。そのため、上記の低温域でのマグネシウム合金板材の加工度は数パーセントに限られ、一般的に圧延は300℃以上で行われている。その場合でも、材料の割れや破断を防止するため、25%以下の圧下率の多パス圧延が行われる。
【0006】
軽金属学会第109回秋期大会講演概要(2005)の第27頁〜28頁に、「高速圧延されたAZ31マグネシウム合金板の組織と集合組織」(左海哲夫ら)と題して、マグネシウム合金板に高速圧延を適用することによって微細な結晶組織を得る方法が提案されている。左海らは、圧延の効率化および組織制御への利用には1パスあたりの圧下率を大きくする必要があること、マグネシウム合金は冷温間域では底面すべりしか活動しないため、大圧下圧延を成功させるためには材料を加熱しなければならないこと、材料の加工発熱を最大限に利用し材料自身の温度を上昇させるためには、加工中の工具および周囲の雰囲気への熱伝達による温度低下を防がなければならないことに着目し、そのためには、高速で加工を行い、工具と材料の接触時間を短くすることが効果的であると考えて、高速圧延を試みた。その結果、圧延速度を高速にすることによりマグネシウム合金の圧延加工性が改善され、1パス大圧下圧延が可能となり、微細粒組織で優れた機械的性質を有する展伸板材が得られることを見出した。
【特許文献1】特開2005−256133号公報
【非特許文献1】軽金属学会第109回秋期大会講演概要(2005)、27頁〜28頁、「高速圧延されたAZ31マグネシウム合金板の組織と集合組織」(左海哲夫ら)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
左海らの実験結果によると、圧延速度が2000m/minの高速圧延では、350℃のみならず200℃の温度でも1パスで圧下率61%の圧延が可能であったことが報告されている。圧延温度100℃以下ではせん断帯が発生するが、圧下率が高くなるとせん断帯に微細な再結晶粒が現れ、より高圧下率では再結晶粒が板全体に広がることも報告している。
【0008】
左海らは、圧延速度の上昇とともに1パスあたりの限界圧下率が上昇することを予測しているが、実験で確認した最大圧下率は62%であり、それ以上の圧下率の実現可能性については不明である。また、左海らの方法では、マグネシウム合金板の高速圧延時の動的再結晶を利用して結晶粒を微細化するものである。このようにして得られた微細結晶組織のマグネシウム合金材料を利用して押出用ビレットを作製し、所定の温度で押出加工した場合、押出加工時に微細な結晶粒が粗大化するため、最終的に得られるマグネシウム合金押出材の結晶組織は粗大化してしまう。
【0009】
この発明の目的は、微細な結晶組織で優れた機械的性質を持つマグネシウム合金素材を得るためのマグネシウム合金素材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に従ったマグネシウム合金素材の製造方法は、マグネシウム合金からなり、板状または塊状の出発素材を用意する工程と、出発素材に対して、250℃以下の温度で圧下率70%以上の塑性加工を施し、動的再結晶を生じさせずに歪を導入する工程と、塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作製する工程と、粉体を一対の回転ロール間に通して圧縮変形させる工程と、回転ロール間を通過した圧縮変形粉体を引き続いて破砕して顆粒状粉体とする破砕工程とを備える。
【0011】
本願発明者らは、板状または塊状のマグネシウム合金の出発素材を塑性加工する条件として、温度および圧下率を変えて実験を行った。その結果、圧下率が70%以上であれば、室温での塑性加工でも破断が無く、均一に加工できること、および動的再結晶を生じさせずに大きな歪を導入できることを見出した。温度の上限を250℃にしたのは、動的再結晶の発生を避けるためである。
【0012】
圧下率70%以上の塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作った後、この粉体を一対の回転ロール間に通して圧縮変形させ、引き続いて破砕処理を行なって顆粒状粉体とすることにより、微細な結晶粒を持つマグネシウム合金素材が得られる。再結晶することなく大きな歪を導入している顆粒状粉体を圧縮して固めた押出用ビレットであれば、押出加工時に動的再結晶を生じ、最終的に微細な結晶粒を持ち、さらに良好な衝撃エネルギー吸収能を持つマグネシウム合金素材を得ることができる。
【0013】
結晶粒をより微細化するために、圧縮変形工程および破砕工程を複数回繰り返しても良い。
【0014】
押出加工後のマグネシウム合金素材がより微細な結晶組織を持つようにするには、塑性加工時により大きな歪を導入することが必要である。そのためには、圧下率を80%以上にするのが望ましい。また、経済性の観点および動的再結晶の発生を確実に防ぐという観点から、好ましくは、塑性加工時の出発素材の温度を50℃以下にする。
【0015】
大きな歪を導入する塑性加工は、一つの実施形態では、出発素材を1対のロール間に通す圧延加工であり、他の実施形態では、出発素材を圧縮変形させるプレス加工である。
【0016】
好ましくは、押出加工時の粉体ビレットの温度は、150〜400℃である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、板状または塊状のマグネシウム合金出発素材を加工して高強度で高耐衝撃性のマグネシウム合金素材を得るまでの工程を図解的に示している。
【0018】
出発素材は、板状または塊状のマグネシウム合金である。出発素材の一例として、板厚が3〜10mmの板材を使用している。後の塑性加工で出発素材に歪を導入することになるが、歪導入サイトが多いという観点から出発素材として鋳造材を使用するのが好ましい。
【0019】
出発素材の温度を室温〜250℃にし、この出発素材に対して圧下率70%以上の塑性加工を施し、動的再結晶を生じさせずに大量の歪を導入する。図示した実施形態では、塑性加工は、出発素材を1対のロール間に通す圧延加工であり、1パス後の板材の厚みは0.4〜0.9mmとなる。圧下率とは、加工前の素材の厚み減少率である。
【0020】
出発素材の板厚が3mmで、塑性加工後の板厚が0.9mmであれば、圧下率は次のように求められる。
【0021】
圧下率(%)={(3.0−0.9)/3.0}×100=70
マグネシウムはHCP結晶構造で低温では底面すべりしか起こらないので、従来の技術常識では、マグネシウム合金板材を室温で圧延する場合には、割れや破断を避けるために20%以下の圧下率にしなければならないと考えられていた。一般的には、割れや破断を避けるためにマグネシウム合金板材の圧延を300℃以上の温度で行っている。その場合でも、圧下率は25%以下であった。
【0022】
本願発明者らは室温下でマグネシウム合金板材に対して圧延加工を行い、圧下率と素材の割れとの関係を調べた。本願発明者らの実験では、圧下率を20%〜60%の範囲にしたとき素材の割れが発生したが、圧下率を70%以上にすると素材の割れは発生しなかった。この結果は、今までの技術常識からは予測できないことである。
【0023】
出発素材に対する塑性加工では、動的再結晶を生じさせずに大量の歪を導入することが重要である。塑性加工時に動的再結晶によって素材が結晶組織を持つようになると、後の押出加工時に結晶粒が粗大化してしまい、最終マグネシウム合金素材が微細な結晶組織を有さなくなる。動的再結晶を生じさせないという観点から、塑性加工時の出発素材の温度を250℃以下にすることが必要である。経済性の観点および動的再結晶を確実に防ぐという観点からすれば、塑性加工時の出発素材の温度を50℃以下にするのが望ましい。
【0024】
出発素材に対する塑性加工としては、圧延加工に限られず、出発素材を圧縮変形させるプレス加工であってもよい。この場合であっても、上記の加工条件が当てはまる。
【0025】
図1に示すように、圧下率70%以上の塑性加工を施した素材に対して粉砕処理を行ない、粉体を得る。本発明の特徴は、この粉体をさらに一対の回転ロール間に通して圧縮変形させ、引き続いて圧縮変形粉体を破砕して顆粒状粉体にすることにある。このように大圧下塑性加工によって大量の歪を導入することに引き続いて、ローラーコンパクターによって粉体を圧縮変形させることにより、最終的に得られるマグネシウム合金素材の結晶粒がより微細化し、強度的に優れたものとなる。
【0026】
上記のようにして得られた顆粒状粉体を圧縮して固めて押出加工用の粉体ビレットを作製する。好ましくは、この粉体ビレットを150〜400℃の温度で押出加工する。この押出加工時に大量の歪を含む素材の内部で動的再結晶が生じるので、最終的に得られるマグネシウム合金素材は、微細な結晶組織を有するものとなる。
【0027】
図2は、縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率(%)をとった座標に、マグネシウム合金素材に対する従来の一般的な圧延加工の領域、左海らの報告(軽金属学会第109回秋期大会講演概要(2005))に記載された高速圧延の領域、および本発明の塑性加工の領域を示している。
【0028】
マグネシウム合金素材に対する従来の一般圧延では、圧延温度が300〜400℃で、圧下率が25%以下である。左海らの報告に記載された高速圧延では、圧延温度が室温から350℃で、圧下率が約60%以下である。本発明の塑性加工では、圧延温度が室温から250℃で、圧下率が70%以上である。
【0029】
本願発明者らは、マグネシウム合金板材を室温で圧延加工して、圧下率と素材の割れとの関係を調べた。圧下率が20%、40%、60%では素材の割れ(破断)が発生した。一方、圧下率を80%、90%にしたとき、素材の破断は生じず均一に圧延加工して大量の歪を導入することができた。80%以上の圧下率で圧延加工すると、素材の先端部または末端部で多少の耳割れが生じることがあるが、素材は後工程で粉砕処理されるので、特に問題とはならない。
【0030】
図3は、縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率(%)をとった座標に、破断(割れ)の有無を示す記号を記入したものである。圧下率を20%にしたとき、室温では素材の破断が生じたが、圧延温度を100℃以上にすれば破断なしで均一圧延加工をすることができた。圧下率を40〜60%にしたとき、圧延温度が100℃以下では素材の破断が生じたが、圧延温度を200℃以上にすれば破断なしで均一圧延加工をすることができた。圧下率を70%以上にしたとき、室温以上の温度で破断なしで均一圧延加工をすることができた。
【0031】
本願発明者らは、圧延加工時のマグネシウム合金素材の予熱温度と、圧延加工後の金属組織との関係を調べた。圧下率を20%〜40%にして圧延加工した場合、予熱温度が25℃であれば加工後の素材は再結晶組織を有していないが、予熱温度を400℃にすると動的再結晶により結晶化した組織を有するものとなった。圧下率を70%にして圧延加工した場合、予熱温度が200℃以下であれば加工後の素材は再結晶組織を有していないが、予熱温度を300℃以上にすると動的再結晶により結晶化した組織を有するものとなった。圧下率を80%にして圧延加工した場合、予熱温度が200℃以下であれば加工後の素材は全く再結晶組織を有していないが、予熱温度が250℃のとき、素材の一部のみが動的再結晶により結晶化していることが認められた。また、圧下率が80%で予熱温度を300℃以上にすると、素材のほぼ全体が動的再結晶により結晶化した。従って、予熱温度の上限を250℃とすることに意義がある。圧下率を90%にして圧延加工した場合、予熱温度が25℃であれば素材は再結晶組織を有していないが、400℃の予熱温度にすると素材は結晶化した。
【0032】
図4は、縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率(%)をとった座標に、再結晶の有無を示す記号を記入したものである。圧下率を70%以上にし、圧延温度を250℃以下にすれば、再結晶をすることなく圧延加工をすることが可能となる。
【0033】
図5は、圧下率80%の圧延加工時のマグネシウム合金出発素材の予熱温度と、圧延加工後のマグネシウム合金素材の硬度との関係を示す図である。出発素材の予熱温度が250℃以下で圧延加工した場合、圧延加工後のマグネシウム合金素材の硬度(Hv)は90以上であるが、予熱温度が300℃以上の温度で圧延加工をした場合、圧延加工後のマグネシウム合金素材の硬度(Hv)が90未満になることが認められた。
【0034】
本願発明者らは、下記の4種の製造方法を経て作製した押出材のシャルピー吸収エネルギーおよび0.2%耐力を測定した。その結果を図6に示す。
【0035】
1)「鋳物押出材」
鋳造法によって作製したマグネシウム合金ビレットを押出加工したものである。
【0036】
2)「大圧下率圧延法」
板状または塊状のマグネシウム合金の出発素材に対して圧下率70%以上の塑性加工を行い、塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作り、この粉体を圧縮して固めた粉体ビレットを押出加工したものである。
【0037】
3)「RCP工法」
マグネシウム合金からなる出発原料粉末を一対のロール間に通して圧縮変形させ、この圧縮変形粉体を破砕して顆粒状粉体とし、この顆粒状粉体を圧縮して固めた顆粒状粉体ビレットを押出加工したものである。
【0038】
4)「大圧下+RCP工法」
本発明に従った製造方法である。板状または塊状のマグネシウム合金の出発素材に対して圧下率70%以上の塑性加工を行い、塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作る。さらに、この粉体を一対のロール間に通して圧縮変形させ、この圧縮変形粉体を破砕して顆粒状粉体とし、この顆粒状粉体を圧縮して固めた顆粒状粉体ビレットを押出加工したものである。
【0039】
図6から次のことを理解できる。
【0040】
「鋳物押出材」は、そのシャルピー吸収エネルギーvEが15J程度、耐力が200MPa程度である。
【0041】
「大圧下率圧延法」を経た押出材であれば、耐力が「鋳物押出材」と同程度であるが、シャルピー吸収エネルギーは30〜35J程度になり著しく向上している。
【0042】
「RCP工法」を経た押出材では、耐力はパス回数の増加とともに向上するが、シャルピー吸収エネルギーはパス回数の増加とともに低下する。パス回数が50回だと、シャルピー吸収エネルギーが5J以下となってしまう。
【0043】
本発明の実施形態である「大圧下+RCP工法」を経た押出材では、耐力は「大圧下率圧延法」の押出材よりも高い値を示し、シャルピー吸収エネルギーは「大圧下率圧延法」の押出材よりも僅かに劣るものの「鋳物押出材」よりははるかに良好な特性を示している。
【0044】
図7は、各種の押出材の強度特性を示す図である。比較した押出材は、「市販のAZ31B合金」、「RCP工法」の押出材、「大圧下工法」の押出材、本発明例である「大圧下+RCP5パス」の押出材である。なお、素材の材質は、いずれもAZ31B合金である。
【0045】
図7の結果から次のことを理解できる。
【0046】
「RCP工法」の押出材では、市販のAZ31B合金と比較して、強度(引張強度TS、耐力YS)が高いが、シャルピー衝撃吸収エネルギー(vE)が低かった。
【0047】
「大圧下工法」の押出材では、衝撃吸収エネルギー(vE)は市販のAZ31B合金の3〜4倍であり、強度(引張強度TS、耐力YS)は市販のAZ31B合金よりも高いが、「RCP工法」の押出材よりも低かった。
【0048】
本発明例である「大圧下+RCP5パス」の押出材では、「RCP工法」の押出材に比較して、強度(引張強度TS、耐力YS)が僅かに低かったが、衝撃吸収エネルギーが遥かに高かった。また、「大圧下工法」の押出材に比較して、シャルピー吸収エネルギーが下がったが、強度は向上した。
【0049】
以上のことから、本発明例である「大圧下+RCP」の押出材であれば、強度(引張強度TS、耐力YS)および衝撃吸収エネルギーの両者において、満足できる特性が得られることを理解できる。
【0050】
図8は、「大圧下+RCP」工法において、ローラーコンパクター(RCP)のパス回数とマグネシウム合金押出材の強度との関係を示す図である。図8に示す測定結果から、次のことを理解できる。
【0051】
「大圧下+RCP」工法では、RCP処理回数の増加に従い、マグネシウム合金(AZ31B)押出材の強度(引張強度TS、耐力YS)が増加する。それに対して、シャルピー衝撃吸収エネルギーは、RCP処理回数の増加に従い、低下する。RCP処理回数(パス回数)が5〜10回であれば、マグネシウム合金押出材の強度および衝撃吸収エネルギーの両者において、満足できる特性が得られることを理解できる。
【0052】
具体的に見ると、大圧下の塑性加工後のRCP処理回数が10回の場合、耐力(YS)は「RCP工法」の押出材と同等のレベルであり、衝撃吸収エネルギーは、「RCP工法」の押出材よりも遥かに高く、市販のAZ31B合金よりも1.5〜2倍程高くなっている。
【0053】
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、優れた強度を持ち、かつ良好な衝撃吸収エネルギーを持つマグネシウム合金素材の製造方法として有利に利用され得る。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】本発明に従った製造方法を実施するための装置の一例を図解的に示す図である。
【図2】縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率をとった座標に、マグネシウム合金素材に対する従来の圧延加工の領域、左海らの報告に記載された高速圧延の領域、および本発明の塑性加工領域を示した図である。
【図3】縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率をとった座標に、破断の有無を示す記号を記入した図である。
【図4】縦軸に圧延温度をとり、横軸に1パスあたりの圧下率をとった座標に、再結晶の有無を示す記号を記入した図である。
【図5】圧下率80%の圧延加工時のマグネシウム合金出発素材の予熱温度と、圧延加工後のマグネシウム合金素材の硬度との関係を示す図である。
【図6】異なった製造方法を経て作製した押出材について、シャルピー吸収エネルギーと耐力との関係を示す図である。
【図7】異なった製造方法を経て作製した押出材について、強度およびシャルピー衝撃吸収エネルギーを棒グラフで比較した図である。
【図8】大圧下塑性加工後のRCP処理回数の増加に伴って、強度およびシャルピー吸収エネルギーがどのように変化するかを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金からなり、板状または塊状の出発素材を用意する工程と、
前記出発素材に対して、250℃以下の温度で圧下率70%以上の塑性加工を施し、動的再結晶を生じさせずに歪を導入する工程と、
前記塑性加工後の素材を粉砕して粉体を作製する工程と、
前記粉体を一対の回転ロール間に通して圧縮変形させる工程と、
前記回転ロール間を通過した圧縮変形粉体を引き続いて破砕して顆粒状粉体とする破砕工程とを備えた、マグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮変形工程および前記破砕工程を複数回繰り返す、請求項1に記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項3】
前記課粒状粉体を圧縮して固めた粉体ビレットを作製する工程と、
前記粉体ビレットを押出し加工する工程とをさらに備える、請求項1または2に記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項4】
前記塑性加工時の出発素材の温度を50℃以下にする、請求項1〜3のいずれかに記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項5】
前記塑性加工の圧下率が80%以上である、請求項1〜4のいずれかに記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項6】
前記塑性加工は、前記出発素材を一対のロール間に通す圧延加工である、請求項1〜5のいずれかに記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項7】
前記塑性加工は、前記出発素材を圧縮変形させる塑性加工である、請求項1〜5のいずれかに記載のマグネシウム合金素材の製造方法。
【請求項8】
押出し加工時の粉体ビレットの温度は150〜400℃である、請求項3に記載のマグネシウム合金素材の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−1538(P2010−1538A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−162103(P2008−162103)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【特許番号】特許第4372827号(P4372827)
【特許公報発行日】平成21年11月25日(2009.11.25)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(504100802)
【Fターム(参考)】