説明

マグネットクラッチ

【課題】円滑な作動を確保し、防錆性を悪化させることなく、かつ環境に優しいマグネットクラッチを提供すること。
【解決手段】ロータ2と、ロータ2の摩擦面21に対向配置された被摩擦面31を有するアーマチャ3と、アーマチャ3をロータ2側に吸引する電磁コイル4と、アーマチャ3の回転動力を従動機器に伝えるゴムハブ5とを有するマグネットクラッチ1。ゴムハブ5は、アーマチャ3に固定されるアウターハブ51と、従動機器に接続されるインナーハブ52と、アウターハブ51とインナーハブ52との間に配されたゴム部53とからなる。アーマチャ3は、表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されている。アウターハブ51の表面と、インナーハブ52の表面と、ゴム部53におけるゴム座面531とには、アーマチャ3とゴム部53との粘着を防止する機能を有する粉体塗膜6を形成してある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転動力の伝達及びその遮断を行うマグネットクラッチに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、カーエアコン用コンプレッサ等への回転動力の伝達とその遮断を行うマグネットクラッチがある(特許文献1、2、3参照)。該マグネットクラッチは、回転動力を受けて回転する摩擦面を有するロータと、該ロータの摩擦面に対向配置された被摩擦面を有するアーマチャと、通電により磁力を発生して上記アーマチャを上記ロータ側に吸引する電磁コイルと、上記アーマチャの回転動力をコンプレッサに伝えるゴムハブとを有する。
【0003】
また、ゴムハブは、アーマチャをロータとの間に挟み込む位置に配されている。そして、アーマチャは、磁気コイルの通電の入切によって、ロータ側に吸引されたり、ロータから離れたりする。即ち、磁気コイルの通電時には、その磁力によりロータ側に吸引され、磁気コイルの非通電時には、ゴム部の復元力によりロータから離れる。これにより、ロータに伝達された回転動力を、アーマチャ及びゴムハブを介してコンプレッサに伝達する。
【0004】
そして、アーマチャがロータから離れる方向に移動したとき、ゴムハブに当接することとなる。このとき、アーマチャは、ゴム部の一部に当接することで、衝撃を抑制するよう構成されている。ところが、例えば、高温環境下において、アーマチャは、ゴム部の一部に当接したとき、アーマチャがゴム部に粘着することがある。これは、アーマチャを被覆する電着塗膜に含まれる未硬化成分と、ゴム部を被覆する粉体塗膜に含まれる未硬化の残存硬化剤とが上記高温化で融解し、化学反応を起こすことで引き起こされると考えられる。
【0005】
この場合、再び磁気コイルに通電したとき、アーマチャがゴムハブから円滑に離れなくなるおそれがある。そうすると、磁気コイルの通電時に、アーマチャがロータ側に円滑に移動しないおそれがある。その結果、回転動力をコンプレッサに伝達したいときに即座に伝達することができず、マグネットクラッチの機能が損なわれることとなる。
【0006】
また、インナーハブ及びアウターハブ並びにアーマチャは通常鉄鋼材からなるため、表面に防錆処理を施す必要がある。
この防錆処理には、従来フェノール系溶剤塗料を用いていたが、フェノール系溶剤塗料は有機溶剤を大量に含有しているため、環境に悪影響を与えるおそれがある。それ故、これを溶剤含有量の少ない塗料に変更する必要がある。
【0007】
そこで、耐食性に優れ、かつ溶剤を含まないエポキシ系塗料を用いることが考えられるが、脱着を繰り返し、動力を伝達するマグネットクラッチの接合部を塗装する場合、クラッチの脱着による温度上昇に伴う塗膜の融解が発生し、ゴムハブとアーマチャとの粘着防止が不能になることがある。これは、アーマチャ部を塗装する際に使用される電着塗料を構成する成分(主にエポキシ樹脂とブロックイソシアネート化合物と各種顔料)と、ゴム部を塗装する際に使用される粉体塗料を構成する成分(エポキシ樹脂と硬化剤と充填剤)とを比較したとき、両者が共にエポキシ樹脂を使用していることに起因する。
【0008】
即ち、電着塗料を焼き付けて電着塗膜を得るとき、未反応の成分が残る場合がある。同様に、粉体塗料を焼き付けて粉体塗膜を得るとき、未反応の成分が残る場合がある。両塗膜が高温環境下で使用される場合、即ち、マグネットクラッチの接合部を構成する部分に使用される場合、上記融着に伴う問題回避と、粉体塗料の基本的性質は相反事象といえる。
このような相反事象の問題を解決し、さらに上記環境への悪影響を同時に解消できる塗料の開発が望まれていた。
【0009】
そのような粉体塗料としては、具体的には、顔料など充填剤の含有率が高い(高PWCの)粉体塗料が望ましい。通常の粉体塗料における顔料含有率は20〜30重量%のものが多く、そのような粉体塗料は、上記ゴム部を塗装する材料としては不適といえる。
特許文献4には、顔料含有率が50重量%の粉体塗料が開示されている。50重量%の顔料含有率を達成するために特許文献4が開示している粉体塗料においては、エポキシ基含有ビニル共重合体が正リン酸ジエステル基を含有することが必須とされている。
【0010】
しかし、このような強酸性を示す材料をマグネットクラッチのゴムハブに使用すると、未反応のリン酸基含有化合物がマグネットクラッチのゴムハブの金属部分に錆を発生させる可能性があるため、好ましくない。
また、ゴム部との付着性の観点からも、酸性物質を含む塗料組成物は好ましくないことが知られており、上記マグネットクラッチの塗装に適用しても、クラッチとしての性能を保証できる塗装としては機能しなかった。
【0011】
【特許文献1】国際公開第03/069178号パンフレット
【特許文献2】特開平8−114241号公報
【特許文献3】特開2005−180474号公報
【特許文献4】特開2002−371226号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、円滑な作動を確保し、防錆性を悪化させることなく、かつ環境に優しいマグネットクラッチを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、回転動力を受けて回転する摩擦面を有するロータと、該ロータの摩擦面に対向配置された被摩擦面を有するアーマチャと、通電により磁力を発生して上記アーマチャを上記ロータ側に吸引する電磁コイルと、上記アーマチャを上記ロータとの間に挟み込む位置に配され上記アーマチャの回転動力を従動機器に伝えるゴムハブとを有するマグネットクラッチにおいて、
上記ゴムハブは、上記アーマチャに固定されるアウターハブと、上記従動機器に接続されるインナーハブと、上記アウターハブと上記インナーハブとの間に配されたゴム部とからなり、
上記アーマチャは、表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されており、
かつ、上記アウターハブの表面と、上記インナーハブの表面と、上記ゴム部における上記アーマチャと接触するゴム座面とには、上記アーマチャと上記ゴム部との粘着を防止する機能を有する粉体塗膜を形成しており、
該粉体塗膜を形成する粉体塗料は、酸性基を持たないエポキシ樹脂と、硬化剤と、充填剤とを含有しており、該充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、40〜60重量%であることを特徴とするマグネットクラッチにある(請求項1)。
【0014】
次に、本発明の作用効果につき説明する。
上記マグネットクラッチにおいては、上記アーマチャの表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されており、また上記アウターハブの表面と上記インナーハブの表面とに上記粉体塗膜を施している。これにより、アウターハブ及びインナーハブの防錆を確保することができる。
【0015】
また、上記ゴム部のゴム座面にも上記粉体塗膜が形成されている。それ故、ゴム座面とアーマチャとが接触した場合にも、両者が粘着することを防ぐことができる。これにより、アーマチャがゴム座面に接触した後においても、円滑にアーマチャがゴム座面から離れることができ、マグネットクラッチの円滑な作動を確保することができる。
【0016】
また、上記粉体塗膜は、上記アウターハブの表面と、上記インナーハブの表面と、上記ゴム部における上記アーマチャと接触するゴム座面とに形成するため、その形成を容易に行うことができる。
【0017】
また、上記粉体塗膜を形成する粉体塗料は、有機溶剤を含有しておらず、また、塗装時に発生した余剰の塗料を回収再利用することが容易であり、廃棄物の少ない塗料であるため、環境に優しい塗料である。それ故、この粉体塗膜を用いたマグネットクラッチは、その製造過程において環境に優しい。
【0018】
また、上記粉体塗膜を形成する粉体塗料は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、充填剤とを含有してなり、該充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、40〜60重量%である。これにより、アウターハブ及びインナーハブの防錆性を確保すると共に、アーマチャとゴム部との粘着を充分に防止することができる。
また、上記エポキシ樹脂が酸性基を持たないことにより、ゴムハブの金属部分の腐食の促進を防ぐことができる。
【0019】
以上のごとく、本発明によれば、円滑な作動を確保し、防錆性を悪化させることなく、かつ環境に優しいマグネットクラッチを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明(請求項1)において、上記アーマチャの表面に形成された防錆塗膜は、例えば、エポキシ系電着塗膜とすることができる。
また、上記従動機器としては、例えば、車両用冷凍サイクルのコンプレッサ等がある。また、上記ロータは、例えば、車両走行用エンジンの回転動力を受けて回転する。
【0021】
また、上記充填剤の含有量が、40重量%未満の場合には、相対的にエポキシ樹脂と硬化剤の配合量が多くなり、結果として得られる粉体塗膜中に含まれる未反応の硬化剤量が増加する。その結果、アーマチャとゴム部との粘着を防ぐことが困難となるおそれがある。一方、上記含有量が60重量%を超える場合には、粉体塗料を塗布する際に、粉体塗料を溶融させにくくなり、造膜性が低下するおそれがある。その結果、粉体塗膜を充分に形成することが困難となり、アウターハブやインナーハブの防錆を充分に確保できなくなるおそれがあるばかりでなく、粉体塗料の製造そのものが困難となるおそれがある。
また、上記エポキシ樹脂が酸性基を持つ場合には、ゴムハブの金属部分の腐食を促進するおそれがある。逆に、エポキシ樹脂が塩基基を持つ場合には、酸性基含有物質によるゴムハブの金属部分の腐食を阻止することができる。
【0022】
また、上記充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、50〜60重量%であることがより好ましい(請求項2)。
この場合には、より一層効果的に、アーマチャとゴム部との粘着を防止することができる。
【0023】
また、上記エポキシ樹脂は、エポキシ当量700〜1000g/eqのビスフェノール型エポキシ樹脂であることが好ましい(請求項3)。
この場合には、アウターハブ及びインナーハブの防錆性を確保すると共に、アーマチャとゴム部との粘着を充分に防止することができる。
上記エポキシ当量が700g/eq未満の場合には、上記粉体塗膜が固形の状態であっても常温でブロッキングを生じやすく、アーマチャとの粘着を防止することが困難となるおそれがある。一方、上記エポキシ当量が1000g/eqを超える場合には、粉体塗装時における粉体塗料の温度が低くなったときに溶融しにくくなり、造膜性が低下して、アウターハブ及びインナーハブの耐久性や防錆性が不充分となるおそれがある。
【0024】
また、上記硬化剤は、アミン系硬化剤であり、イミダゾール類、イミダゾリン類、ジシアンジアミド類、ジヒドラジド類、アミンアダクト類から選ばれる一種以上の化合物を含み、上記硬化剤の配合量は、上記粉体塗料全体に対して、1〜10重量%であることが好ましい(請求項4)。
この場合には、上記粉体塗料の造膜性を確保すると共に、ゴム部とアーマチャとの粘着防止を充分に行うことができる。
上記硬化剤の配合量が1重量%未満の場合には、上記粉体塗膜の造膜製が低下し、その結果、耐久性が低下するおそれがある。その結果、アウターハブ及びインナーハブの防錆を充分に確保することが困難となるおそれがある。これは、粉体塗膜において架橋が不充分となり、塗膜性能が低下するためと考えられる。一方、上記硬化剤の配合量が10重量%を超える場合には、アーマチャとの粘着を防止することが困難となるおそれがある。これは、粉体塗膜中の未反応硬化剤と、アーマチャの表面に施した防錆塗膜中の未反応エポキシ基との反応による接着現象によるものと考えられる。
【0025】
また、上記粉体塗膜は、引張伸縮型動的粘弾性測定装置により測定されるガラス転移温度が、120〜130℃であることが好ましい(請求項5)。
この場合には、アーマチャとゴム部との粘着防止を容易にすることができる。
上記ガラス転移温度が120℃未満の場合には、高温環境化において、アーマチャとゴム部との粘着を充分に防止することが困難となるおそれがある。一方、上記ガラス転移温度が130℃を超える場合には、粉体塗膜の造膜性が低下するおそれがあり、アウターハブやインナーハブの防錆を充分に行うことが困難となるおそれがある。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
本発明の実施例にかかるマグネットクラッチにつき、図1〜図3を用いて説明する。
本例のマグネットクラッチ1は、図1に示すごとく、ロータ2とアーマチャ3と電磁コイル4とゴムハブ5とを有する。
ロータ2は、回転動力を受けて回転すると共に、摩擦面21を有する。アーマチャ3は、ロータ2の摩擦面21に対向配置された被摩擦面31を有する。電磁コイル4は、通電により磁力を発生してアーマチャ3をロータ2側に吸引する。ゴムハブ5は、アーマチャ3をロータ2との間に挟み込む位置に配されアーマチャ3の回転動力を従動機器(図示略)に伝える。
【0027】
ゴムハブ5は、アーマチャ3に固定されるアウターハブ51と、従動機器に接続されるインナーハブ52と、アウターハブ51とインナーハブ52との間に配されたゴム部53とからなる。
アーマチャ3は、表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されてなる。そして、アウターハブ51の表面と、インナーハブ52の表面と、ゴム部53におけるアーマチャ3と接触するゴム座面531とには、アーマチャ3とゴム部53との粘着を防止する機能を有する粉体塗膜6が形成されている。
【0028】
アーマチャ3、インナーハブ52及びアウターハブ51は、鉄鋼材からなる。アーマチャ3は、アウターハブ51にリベット11によって固定されており、ゴム部53の弾性変形によりロータ2側へ変位可能となっている。
また、アーマチャ3の表面には、エポキシ系電着塗膜が形成されている(図示略)。また、ゴム座面531以外におけるゴム部53の表面には粉体塗膜6を形成していない部分も存在する。
【0029】
本例のマグネットクラッチ1においては、エンジンの回転動力を受けて、ロータ2が回転軸Aを中心に回転する。
図1に示すごとく、アーマチャ3がロータ2から離れているときには、ロータ2は空回りをすることとなる。即ち、電磁コイル4に通電していないときには、アーマチャ3がロータ2から離れ、ゴム部53のゴム座面531に接触する。このとき、ゴム座面531によってアーマチャ3の変位による衝撃を吸収する。
【0030】
一方、図2に示すごとく、電磁コイル4に通電したとき、アーマチャ3が電磁コイル4側に引き付けられる。このとき、ゴム部53が弾性変形してアーマチャ3の変位を許容する。そして、アーマチャ3の被摩擦面31がロータ2の摩擦面21に接触し、アーマチャ3はロータ2と共に回転する。そして、アーマチャ3はリベット11によってアウターハブ51に固定されている。そのため、ロータ2の回転が、アーマチャ3及びリベット11を介してアウターハブ51に伝わり、ゴムハブ5が回転する。これにより、ゴムハブ5に固定されたコンプレッサ等の従動機器が回転する。
【0031】
粉体塗膜6を形成する粉体塗料は、酸性基を持たないエポキシ樹脂と、硬化剤と、充填剤とを含有してなる。そして、充填剤の含有量は、エポキシ樹脂と硬化剤と充填剤との合計に対して、40〜60重量%であり、より好ましくは、50〜60重量%である。
上記充填剤としては、例えば、シリカ粉(丸仙工業社製、珪石粉マルA)、炭酸カルシウム(丸尾カルシウム社製、スーパー2000)、タルク(富士タルク工業社製、タルクPK−50)、沈降性硫酸バリウム(堺化学社製、沈降性硫酸バリウムSS−50)等を用いることができる。また、粉体塗料には、これらの充填剤の1種又は2種以上を混合して添加することができる。
また、必要に応じて、上記充填剤の一部として、例えばカーボンブラック(三菱化学社製カーボンMA−100)を配合することもできる。
【0032】
上記エポキシ樹脂は、エポキシ当量700〜1000g/eq、より好ましくはエポキシ当量800〜1000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、例えば、ビスフェノールAとエピハロヒドリンとを反応させて得られる、下記の一般式(1)で表されるもの等を挙げることができる。
【0033】
【化1】

【0034】
上記式中、bは2〜9の整数を表す。上記エピハロヒドリンとしては、例えば、エピクロルヒドリン、エピブロモヒドリン等を挙げることができる。上記一般式(1)で表されるビスフェノールA型エポキシは、例えば、触媒の存在下に低分子量エポキシ樹脂とビスフェノールAとを2段反応によって高分子化させる等の方法によって得ることができる。上記触媒としては、例えば、トリエチルアミン等の三級アミン、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリメチルアンモニウムクロライド等の四級アンモニウム塩等を挙げることができる。
【0035】
また、上記硬化剤は、アミン系硬化剤であり、イミダゾール類、イミダゾリン類、ジシアンジアミド類、ジヒドラジド類、アミンアダクト類から選ばれる一種以上の化合物を含む。硬化剤の配合量は、粉体塗料全体に対して、1〜10重量%である。
具体的には、上記硬化剤は、例えば、ジシアンジアミド類としてはPTIジャパン社製CG−1400、イミダゾール類としては四国化成社製キュアゾールC11Z、イミダゾリン類としては四国化成社製キュアゾール2PZL、酸ジヒドラジド類としては大塚化学社製ADH、アミン類としては4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、及びこれらのアミンを出発原料とした芳香族アミン(東都化成社製トートアミンTH−1000等)がある。上記粉体塗料には、これらの硬化剤の1種又は2種以上混合したものを添加することができる。
また、上記粉体塗料には、硬化促進剤を配合することもできる。
【0036】
また、上記粉体塗料には、上記成分の他に、一般的に用いられている公知の流れ性調整剤、消泡剤、流動性添加剤等も必要に応じて配合することができる。
また、上記粉体塗膜6は、引張伸縮型動的粘弾性測定装置により測定されるガラス転移温度が、120〜130℃である。
【0037】
次に、本例の作用効果につき説明する。
上記マグネットクラッチ1においては、アーマチャ3の表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されており、またアウターハブ51の表面とインナーハブ52の表面とに粉体塗膜6を施している。これにより、アウターハブ51及びインナーハブ52の防錆を確保することができる。
【0038】
また、上記ゴム部53のゴム座面531にも上記粉体塗膜6が形成されている。それ故、図2に示すごとく、ゴム座面531とアーマチャ3とが接触した場合にも、両者が粘着することを防ぐことができる。これにより、アーマチャ3がゴム座面531に接触した後においても、円滑にアーマチャ3がゴム座面531から離れることができ、マグネットクラッチ1の円滑な作動を確保することができる。
【0039】
また、図1、図3に示すごとく、上記粉体塗膜6は、アウターハブ51の表面と、上記インナーハブ52の表面と、上記ゴム部53におけるアーマチャ5と接触するゴム座面531とに形成するため、その形成を容易に行うことができる。
【0040】
また、上記アウターハブ51の表面と、上記インナーハブ52の表面と、該ゴム部52における上記アーマチャ3と接触するゴム座面531とに施す粉体塗膜6を形成する粉体塗料は、有機溶剤を含有しておらず、また、回収再利用が容易で廃棄物の少ない塗料であるため、環境に優しい塗料である。それ故、この粉体塗膜6を用いたマグネットクラッチ1は、その製造過程において環境に優しい。
【0041】
また、上記粉体塗膜6を形成する粉体塗料は、エポキシ樹脂と、硬化剤と、充填剤とを含有してなり、該充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、40〜60重量%である。そのため、アウターハブ51及びインナーハブ52の防錆性を確保すると共に、アーマチャ3とゴム部53との粘着を充分に防止することができる。
また、上記充填剤の含有量を50〜60重量%とすることにより、一層効果的に、アーマチャ3とゴム部53との粘着を防止することができる。
【0042】
また、上記エポキシ樹脂は、エポキシ当量700〜1000g/eqのビスフェノールA型エポキシ樹脂であるため、アウターハブ51及びインナーハブ52の防錆性を確保すると共に、アーマチャ3とゴム部53との粘着を充分に防止することができる。
【0043】
また、上記硬化剤は、アミン系硬化剤であり、イミダゾール類、イミダゾリン類、ジシアンジアミド類、ジヒドラジド類、アミンアダクト類から選ばれる一種以上の化合物を含み、上記硬化剤の配合量は、上記粉体塗料全体に対して、1〜10重量%である。そのため、上記粉体塗料の塗膜性能を確保すると共に、ゴム部53とアーマチャ3との粘着防止を充分に行うことができる。
【0044】
また、粉体塗膜6は、引張伸縮型動的粘弾性測定装置により測定されるガラス転移温度が、120〜130℃であるため、アーマチャ3とゴム部53との粘着防止を容易にすることができる。
【0045】
以上のごとく、本例によれば、円滑な作動を確保し、防錆性を悪化させることなく、かつ環境に優しいマグネットクラッチを提供することができる。
【0046】
(実施例2)
本例は、表1〜表5に示すごとく、種々の組成の粉体塗料を作製し、各粉体塗料によって粉体塗膜を形成したときの塗膜の性状等を評価した例である。
即ち、以下の4種類のビスフェノールA型エポキシ樹脂1〜4と、4種類のアミン系硬化剤1〜4と、2種類の充填剤1、2とを、表1〜表5に示す配合で調製して、試料1〜18、及び比較試料1〜12を作製した。
また、各試料には、顔料として、カーボンブラック(三菱化学社製、カーボンMA−100)を0.5重量部、表面調整剤として、シリコーンオイル(東芝シリコーン社製、YF3919)を0.5重量部配合した。
【0047】
エポキシ樹脂1としては、エピコート1005F(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量1000g/eq)を用いた。
エポキシ樹脂2としては、エピコート1003F(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量750g/eq)を用いた。
エポキシ樹脂3としては、エポトートYD−902(東都化成社製、エポキシ当量650g/eq)を用いた。
エポキシ樹脂4としては、エピコート1006F(ジャパンエポキシレジン社製、エポキシ当量1100g/eq)を用いた。
【0048】
また、硬化剤1としては、トートアミンTH−1000(東都化成社製)を用いた。
硬化剤2としては、キュアゾール2PZL(四国化成社製)を用いた。
硬化剤3としては、アジピン酸ジヒドラジド(大塚化学社製)を用いた。
硬化剤4としては、ジシアンジアミドCG−1400(PTIジャパン社製)を用いた。
【0049】
また、充填剤1としては、沈降性硫酸バリウムSS−50(堺化学社製)を用いた。
充填剤2としては、炭酸カルシウム、スーパー2000(丸尾カルシウム社製)を用いた。
【0050】
各成分をスーパーミキサー(三井三池社製)で予備混合した原料を、溶融混練機(ブスコニーダー、ブス社製)で溶融混合後、プレスローラーにて圧延冷却し、粗粉砕しペレットを作成した。このペレットを機械粉砕機(「アトマイザーKIIW−1型」、不二パウダル社製)にて粉砕し、150メッシュの篩を通して平均粒径25〜35μmの粉体塗料組成物を得た。
【0051】
次いで、厚さ0.8mm×70mm×150mmのダル鋼板(SPCC−SD)に燐酸亜鉛処理剤(「サーフダインDP4000」、日本ペイント社製)を使用して化成処理した後、表1〜表5にそれぞれ示す粉体塗料をコロナ帯電型塗装ガン(「GX116」、パーカーアイオニクス社製)を用いて、硬化膜厚60μmで塗装し、粉体塗膜を形成した。
次いで上記粉体塗膜が形成された被塗物を、10分間、150℃をキープし焼き付け試験板とした。
評価用として得られた各塗板を、下記の項目について性能を評価した。結果を表1〜表5に示した。
【0052】
【表1】

【0053】
【表2】

【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
以下に各評価方法につき説明する。
<ガラス転移点>
上記条件で塗膜を作成し、強制伸縮振動型粘弾性測定装置(バイブロン)によって、動的粘弾性を測定して、温度変化させたときの極大値を与える温度をガラス転移点として測定する。
【0058】
<密着性>
JIS D0202 4.15の碁盤目付着性試験に準じて、塗装有効面(鉄部・ゴム部)に1mmの碁盤目100個を作り碁盤目の上にセロハン粘着テープを貼付け、直ちに直角に引き離して完全に剥がれないで残った碁盤目の数を調べる。表中、「○」は100枚中100枚に剥がれがなかったことを示す。
【0059】
<耐食性>
JIS D0202 4.6項の耐食性試験に準じて、クロスカットを行った試験板を35℃、5%の塩水噴霧試験を384時間実施して、水洗後、室内に2時間置いてから、クロスカット部からの腐食幅を測定する。
表中「○」は腐食幅3mm以下で合格であることを示し、「×」は腐食幅が3mmを超えていたことを示す。
【0060】
<非粘着性>
ゴム部53に粉体塗装した後に、電着塗装を施したアーマチャ3と接触させた状態でリベット11によりかしめ、120℃の恒温槽で72時間放置した後に取り出す。そして、インナーハブ52に対してアウターハブ51及びアーマチャ3がロータ2側に変位するように、オートグラフにより荷重を加えながらゴム部53の変位を測定する。
そして、ゴム部53の変位が0.1mmの時点の荷重が130Nを超えなければ、合格とする。表中、「◎」は全く粘着性がないため荷重が発生しなかったものであり、「○」が合格であり、「△」が粘着性が若干見受けられ、「×」が強い粘着性が発生することを示す。
【0061】
<貯蔵安定性>
40℃恒温槽に塗料を2週間保管の後、塗料中に固形塊の有無を確認する。表中、「○」が「固形塊なし」を示し、「×」が「固形塊あり」を示す。
【0062】
以上の評価の結果を、表1〜表5に示す。
表1〜表3から分かるように、試料1〜18については、密着性、耐食性、非粘着性、貯蔵安定性の何れに関しても優れている。これらは、粉体塗料において、充填剤の含有量40〜60重量%、エポキシ当量700〜1000g/eq、硬化剤1〜10重量%を満たすものであり、また、ガラス転移温度も120〜130℃にある。
【0063】
一方、表4、表5に示すごとく、比較試料1〜12については、耐久性、非粘着性、貯蔵安定性において、試料1〜18よりも劣る。
具体的には、充填剤の量が少なすぎると非粘着性が得られ難くなり、充填剤の量が多すぎると耐食性が低下する。
また、エポキシ当量が小さすぎると、非粘着性、貯蔵安定性が低下し、エポキシ当量が大きすぎると耐食性が低下する。
また、硬化剤含有量が大きすぎると非粘着性が得られ難くなる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】実施例1における、動力遮断時のマグネットクラッチの部分説明図。
【図2】実施例1における、動力伝達時のマグネットクラッチの部分説明図。
【図3】実施例1における、ゴムハブの説明図。
【符号の説明】
【0065】
1 マグネットクラッチ
2 ロータ
21 摩擦面
3 アーマチャ
31 被摩擦面
4 電磁コイル
5 ゴムハブ
51 アウターハブ
52 インナーハブ
53 ゴム部
531 ゴム座面
6 粉体塗膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転動力を受けて回転する摩擦面を有するロータと、該ロータの摩擦面に対向配置された被摩擦面を有するアーマチャと、通電により磁力を発生して上記アーマチャを上記ロータ側に吸引する電磁コイルと、上記アーマチャを上記ロータとの間に挟み込む位置に配され上記アーマチャの回転動力を従動機器に伝えるゴムハブとを有するマグネットクラッチにおいて、
上記ゴムハブは、上記アーマチャに固定されるアウターハブと、上記従動機器に接続されるインナーハブと、上記アウターハブと上記インナーハブとの間に配されたゴム部とからなり、
上記アーマチャは、表面に電着塗装による防錆塗膜が形成されており、
かつ、上記アウターハブの表面と、上記インナーハブの表面と、上記ゴム部における上記アーマチャと接触するゴム座面とには、上記アーマチャと上記ゴム部との粘着を防止する機能を有する粉体塗膜を形成しており、
該粉体塗膜を形成する粉体塗料は、酸性基を持たないエポキシ樹脂と、硬化剤と、充填剤とを含有しており、該充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、40〜60重量%であることを特徴とするマグネットクラッチ。
【請求項2】
請求項1において、上記充填剤の含有量は、上記エポキシ樹脂と上記硬化剤と上記充填剤との合計に対して、50〜60重量%であることを特徴とするマグネットクラッチ。
【請求項3】
請求項1又は2において、上記エポキシ樹脂は、エポキシ当量700〜1000g/eqのビスフェノール型エポキシ樹脂であることを特徴とするマグネットクラッチ。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項において、上記硬化剤は、アミン系硬化剤であり、イミダゾール類、イミダゾリン類、ジシアンジアミド類、ジヒドラジド類、アミンアダクト類から選ばれる一種以上の化合物を含み、上記硬化剤の配合量は、上記粉体塗料全体に対して、1〜10重量%であることを特徴とするマグネットクラッチ。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記粉体塗膜は、引張伸縮型動的粘弾性測定装置により測定されるガラス転移温度が、120〜130℃であることを特徴とするマグネットクラッチ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−75681(P2008−75681A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−252702(P2006−252702)
【出願日】平成18年9月19日(2006.9.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】