説明

マグネットローラ

【課題】 強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成型してなるマグネットピースを複数個張り合わせて成型したマグネットローラにおいて、マグネットピースの射出成形時に、成形品に反りや折れが発生したり、ヒートサイクル試験後にクラックが発生したりする。
【解決手段】 樹脂磁石材料の樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂を用い、該ナイロン共重合体の相対粘度を1.6〜1.9とすることにより、反りがなく、実用的強度も得られ、ヒートサイクル後のクラックも防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、複写機、プリンタ、ファクシミリ等の画像形成装置に組み込まれるマグネットローラに関する。
【背景技術】
【0002】
複写機、プリンタ、ファクシミリ等における粉末トナーを用いた画像形成装置に組み込まれるマグネットローラは、次のように構成されているのが一般的である。
【0003】
すなわち、(1)ポリアミド等の熱可塑性樹脂を10〜20重量%、フェライトが80〜90重量%の樹脂マグネット材で磁極ピースを成形する時、ランナー部を磁極ピース長手方向に設けて成形した後、これらをシャフトに複数個組み合わせて貼り合わせてマグネットローラを形成するものである。(特許文献1)(2)通常樹脂磁石材料で、樹脂注入ゲートを、短辺または短辺近くの長辺端面に有することにより、成形後のマグネットピースの変形や反りを防止するものである。(特許文献2)
【特許文献1】特開平1−115110
【特許文献2】特開平2−165176
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1は、成形後のマグネットピースが変形したり、反りが発生するため、軸方向あるいは周方向に均一にシャフト外周面へ密着させることができない場合があり、マグネットピースの剥がれやクラック等が発生する場合がある。
【0005】
また、特許文献2は、樹脂注入ゲートを、短辺または短辺近くの長辺端面に設置することにより、成形後のマグネットピースの変形や反りを防止しているが、このようなゲート構造は金型が複雑になり、メンテナンスが頻繁に必要で、また金型も高価になってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のマグネットローラは、強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形したマグネットピースを複数個貼り合わせて形成したマグネットローラにおいて、前記樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂を用いることにより、溶融樹脂磁石の流動性が向上し、成形タクトが短くなり、また成形されたマグネットピースに変形や反りがなく、また適度な硬さや弾力性を持つため、取り扱い性や接着性が向上し、クラックも発生しない。
【0007】
また、本発明のマグネットローラは、マグネットピースに用いる樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂を用い、該樹脂の相対粘度を1.6〜1.9とすることにより、溶融樹脂磁石の流動性が向上し、成形タクトが短くなり、また成形されたマグネットピースに変形や反りがなく、また適度な硬さや弾力性を持つため、取り扱い性や接着性が向上し、クラックも発生しない。
【発明の効果】
【0008】
本発明(請求項1)により、成形されたマグネットピースは、変形や反りがなく、また適度な硬さや弾力性を持ち、クラックが防止できる。
本発明(請求項2)により、成形されたマグネットピースは、変形や反りがなく、また適度な硬さや弾力性を持ち、クラックが防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形したマグネットピースを複数個貼り合わせて形成したマグネットローラにおいて、前記樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂を用いることを特徴とするマグネットローラ。
【0010】
従来、特許文献1や2のように、樹脂バインダーにポリアミド樹脂あるいは通常の熱可塑性樹脂を用いて、マグネットピースを成形し、該マグネットピースをシャフト外周面に貼り合わせてマグネットローラを形成している。
【0011】
本発明では、例えば図1、図2、図3のような金型にてマグネットピースの磁性粒子を配向着磁し、マグネットピースを得て、該マグネットピースをシャフトの外周面に貼り合わせて、図4(斜視図)図5(断面図)のようなマグネットローラを得る。
【0012】
ここで上記マグネットピースは、異方性フェライト磁性粉の50重量%〜95重量%と、樹脂バインダー(ナイロン共重合体樹脂)を5重量%〜50重量%とからなる混合物を主体とし、必要に応じて、磁性粉の表面処理剤としてシラン系やチタネート系等のカップリング剤、流動性を良好にするポリスチレン系・フッ素系滑剤等、安定剤、可塑剤、もしくは難燃剤などを添加し、混合分散し、溶融混練し、ペレット状に成形した後に、射出成形する。
【0013】
成形時に印加する配向着磁磁場は、各磁極に要求される磁束密度仕様により適宜選択すればよい。また、要求磁気特性によっては成形時に配向着磁磁場を印加せず、成形後に着磁してもよい。
【0014】
前記樹脂磁石材料を用いることにより、射出成形にて成形されたマグネットピースは、1)変形や反りがなく、2)適度な硬さ持つため、ロボットによるマグネットピースの金型からの自動取り出しが可能となり、3)適度な弾力性を持つため、取り扱い性や接着性が向上し、クラックも発生しない。
【0015】
マグネットローラは、図1、図2、図3のような金型を用いて、注入口から溶融樹脂磁石を、電磁石あるいは永久磁石で、金型に配置した配向着磁用ヨークにより240K・A/m〜2400K・A/mの磁場を印加しながら注入し、磁性粒子を所望の方向に配向着磁し、硬化させ、マグネットピースが得られる。得られたマグネットピースは、射出成形により金型内で成形されるため、押出成形品よりも寸法精度が良好であるので、後加工が不要となり、低コストで高寸法精度のマグネットピースが得られる。また、射出成形の場合、溶融樹脂磁石の溶融粘度が押出成形等に比べはるかに低いので、磁性粒子の配向度が向上し、高磁気特性のマグネットピースが得られ、現像剤の搬送性が良好となり、また現像剤かぶりが防止でき高画質となる。
【0016】
また、本発明は、樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂の相対粘度が1.6〜1.9のものを用いたマグネットピースである。ナイロン共重合体とは、2種類以上のナイロン単量体を構成単位とした重合体のことで、6−12ナイロン、6−66ナイロン、6−12−66ナイロン等があげられるが、これらに限定されるものでない。
【0017】
本発明では、例えば図1、図2、図3のような金型にてマグネットピースの磁性粒子を配向着磁し、軸部と本体部を磁石材料で一体射出成形し、図4(斜視図)図5(断面図)のようなマグネットピースを得る。
【0018】
ここで上記マグネットピースは、異方性フェライト磁性粉の50重量%〜95重量%と、樹脂バインダーを5重量%〜50重量%とからなる混合物を主体とし、必要に応じて、磁性粉の表面処理剤としてシラン系やチタネート系等のカップリング剤、流動性を良好にするポリスチレン系・フッ素系滑剤等、安定剤、可塑剤、もしくは難燃剤などを添加し、混合分散し、溶融混練し、ペレット状に成形した後に、射出成形する。
【0019】
上記ナイロン共重合体の相対粘度は1.6〜1.9が好ましい。1.6未満では成形品の強度が低下し、1.9を超えると流動性が低下し成形性が悪化する。相対粘度はJISのK6933−1999にて測定した。
【0020】
前記樹脂磁石材料を用いることにより、射出成形にて成形されたマグネットピースは、1)変形や反りがなく、2)適度な硬さ持つため、ロボットによるマグネットピースの金型からの自動取り出しが可能となり、3)適度な弾力性を持つため、取り扱い性や接着性が向上し、クラック(ヒートサイクルテスト後も含め)も発生しない。
【0021】
成形時に印加する配向着磁磁場は、各磁極に要求される磁束密度仕様により適宜選択すればよい。また、要求磁気特性によっては成形時に配向着磁磁場を印加せず、成形後に着磁してもよい。
【0022】
マグネットピースは、図1、図2、図3のような金型を用いて、注入口から溶融樹脂磁石を、電磁石あるいは永久磁石で、金型に配置した配向着磁用ヨークにより240K・A/m〜2400K・A/mの磁場を印加しながら注入し、磁性粒子を所望の方向に配向着磁し、硬化させ、マグネットピースが得られる。得られたマグネットピースは、射出成形により金型内で成形されるため、押出成形品よりも寸法精度が良好であるので、後加工が不要となり、低コストで高寸法精度のマグネットピースが得られる。また、射出成形の場合、溶融樹脂磁石の溶融粘度が押出成形等に比べはるかに低いので、磁性粒子の配向度が向上し、高磁気特性のマグネットピースが得られ、現像剤の搬送性が良好となり、また現像剤かぶりが防止でき高画質となる。
【0023】
ここで、磁性粉としては、MO・nFe23(nは自然数)で代表される化学式を持つ異方性フェライト磁性粉などがあげられる。式中のMとして、Sr、Baまたは鉛などの1種または2種以上が適宜選択して用いられる。
【0024】
マグネットピースの主な樹脂バインダーとしては、6−12ナイロン、6−66ナイロン、6−12−66等のナイロン共重合体樹脂などが挙げられるが、コストや成形性から6−12ナイロン共重合体が好適である。
【0025】
また、要求される磁束密度により、磁性粉として、異方性フェライト磁性粉、等方性フェライト磁性粉、異方性希土類磁性粉(例えばSmFeN系)、等方性希土類磁性粉(例えばNeFeB系)を単独または2種類以上を混合して使用しても良い。
上記に示した単独磁性粉あるいは混合磁性粉の含有率が50重量%未満では、磁性粉不足により、マグネットピースの磁気特性が低下して所望の磁力が得られにくくなり、またそれらの含有率が95重量%を超えると、バインダー不足となり成形性が損なわれるおそれがある。
【0026】
また、本明細書においては、5極構成のマグネットロールを図示しているが、本発明は5極マグネットロールのみに限定されない。すなわち、所望の磁束密度と磁界分布により、マグネットピースの数量を選択し、磁極数や磁極位置も適宜設定すればよい。
さらに、成形と同時に磁場を印加する場合、成形物の脱型性の向上や、成形物のマグカス等のゴミ付着防止やマグネットピースの取り扱い性を容易にするために、成形後金型内あるいは金型外で一旦脱磁し、その後着磁してもよい。
【実施例】
【0027】
以下に本発明を実施例および比較例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1)
図5のマグネットピース材料として、樹脂バインダーの相対粘度が1.6である6−12共重合体ナイロン(宇部興産製P7115Uをベースに相対粘度を1.6に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とし、磁性粉として異方性ストロンチウムフェライト磁性粉(SrO・6Fe23)を90重量%とし、これらを混合し、溶融混練し、ペレット状に成形し、このペレットを溶融状態にし、図1(N1極)、図2(N2極、N3極)、図3(S1極およびS2極)の各金型を用いて、注入口から溶融樹脂磁石材料を射出注入し、240K・A/m〜2400K・A/mの磁場を印加しながら溶融樹脂磁石の磁性粒子を配向着磁し、図5に示すマグネットピースを射出成形した。成形されたマグネットピースをシャフト外周面に貼り合わせてマグネットローラを形成した。
【0029】
マグネットローラ本体部(マグネット部)の外径はφ13.6、マグネット本体部の長さは320mm、シャフトの外径はφ6で、材質はSUM22を使用した。
形成されたマグネットローラの両端軸部を支持し、マグネットローラを回転させながら、マグネットローラの中心から8mm離れた位置(スリーブ上)にプローブ(磁束密度センサー)をセットし、ガウスメータにてマグネットローラの周方向磁束密度パターンを測定した。
【0030】
マグネットピースの抗折強度は万能試験機(島津製作所製AGS−H 5kN)で図6のようにマグネットピースを固定治具に固定し矢印の方向へ加圧治具を50mm/minのスピードで加圧し、抗折強度と折れるまでのたわみ量を測定した。
マグネットピースの反り量は、図7のように、マグネットピースの定盤の上に乗せ、定盤との隙間の最大値を反り量とした。
【0031】
さらに、シャフトの外周面に各マグネットピースを貼り合わせてマグネットローラとした状態で、ヒートサイクルテスト(条件:−40℃×3hr⇔70℃×3hrを40サイクル)を行った後、マグネットローラ本体部(マグネットピース)のクラックの有無を観察した。
測定結果を表1に示す。
【0032】
(実施例2)
樹脂バインダーとして相対粘度が1.9である6−12共重合体ナイロン(宇部興産製P7115Uをベースに相対粘度を1.9に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0033】
(実施例3)
樹脂バインダーとして相対粘度が1.6である6−66共重合体ナイロン(宇部興産製5013Bをベースに相対粘度を1.6に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
(実施例4)
樹脂バインダーとして相対粘度が1.9である6−66共重合体ナイロン(宇部興産製5013Bをベースに相対粘度を1.9に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0035】
(比較例1)
樹脂バインダーとしてナイロン6(宇部興産製1013B)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0036】
(比較例2)
樹脂バインダーとしてナイロン12(宇部興産製3014U)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
(比較例3)
樹脂バインダーとして相対粘度が1.5である6−12共重合体ナイロン(宇部興産製P7115Uをベースに相対粘度を1.5に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0038】
(比較例4)
樹脂バインダーとして相対粘度が2.0である6−12共重合体ナイロン(宇部興産製P7115Uをベースに相対粘度を2.0に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0039】
(比較例5)
樹脂バインダーとして相対粘度が1.5である6−66共重合体ナイロン(宇部興産製5013Bをベースに相対粘度を1.5に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0040】
(比較例6)
樹脂バインダーとして相対粘度が2.0である6−66共重合体ナイロン(宇部興産製5013Bをベースに相対粘度を2.0に調整)10重量%(可塑剤、安定剤、滑剤等含む)とする以外は実施例1と同様に行った。
【0041】
【表1】

【0042】
実施例1と比較例1、2を比べると、実施例1の成形品(マグネットピース)は反り量が小さく、抗折強度は実用的に問題なく(40kg以上あれば取り扱い性・脱型性には問題ない)、マグネットピースが折れるまでのたわみ量がやや大きいことから、弾力性があることがわかる。また、実施例1は、ヒートサイクル後のクラックも発生しないことがわかる。
【0043】
実施例1と比較例3を比べると、実施例1は抗折強度(40kg以上ある)が高いことがわかる。
【0044】
実施例2と比較例4を比べると、実施例2の反り量が小さいことがわかる。
【0045】
実施例3と比較例5を比べると、実施例3は抗折強度(40kg以上ある)が高いことがわかる。
【0046】
実施例4と比較例6を比べると、実施例4の反り量が小さいことがわかる。
以上より、樹脂バインダーとしてのナイロン共重合体の相対粘度は1.6〜1.9が適切であることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】マグネットピースの成形用金型
【図2】マグネットピースの成形用金型
【図3】マグネットピースの成形用金型
【図4】本発明のマグネットローラの斜視図
【図5】本発明のマグネットローラの断面図
【図6】マグネットピースの抗折強度の測定を説明する図
【図7】マグネットピースの反り量の測定を説明する図
【符号の説明】
【0048】
1 マグネットピース
2 磁性粒子の配向着磁方向
3 電磁石あるいは永久磁石
4 ヨーク
5 ヨーク
6 マグネットピース
7 マグネットピース
8 軸部
9 マグネットローラ本体部
10 磁束密度ピーク位置
11 磁束密度パターン
12 スリーブ
13 軸(シャフト)
14 マグネットローラ中心点
15 マグネットピース固定治具
16 マグネットピース
17 加圧治具
18 ベース台
19 マグネットピース反り量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強磁性体粉末と樹脂バインダーを主体とする混合物を成形したマグネットピースを複数個貼り合わせて形成したマグネットローラにおいて、前記樹脂バインダーとしてナイロン共重合体樹脂を用いることを特徴とするマグネットローラ。
【請求項2】
ナイロン共重合体樹脂の相対粘度が1.6〜1.9であることを特徴とする請求項1記載のマグネットローラ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−30822(P2006−30822A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212524(P2004−212524)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【出願人】(596087214)栃木カネカ株式会社 (64)
【Fターム(参考)】