説明

マグネット保持用スリーブ

【課題】表面加工の作業性が高い容易な形状で、安定したトナー搬送を可能とすることを目的とするものである。
【解決手段】円筒状金属の表面に、軸方向へ直線状に第1の間隔で複数の第1凹部を配置した第1凹部帯と、この第1凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第1平坦帯と、この第1平坦帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に第1の間隔で複数の第2凹部を配置した第2凹部帯と、この第2凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第2平坦帯とからなる複合凹部帯を周方向に連続配置し、前記周方向において個々の前記第1凹部の中心を結ぶ第1中心線および前記周方向において個々の前記第2凹部の中心を結ぶ第2中心線をそれぞれ直線状とし、前記第1中心線と前記第2中心線とは異なる線上に非重複で配置した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種印刷機器に使用されるトナー搬送用のマグネットロールにおけるマグネット保持用のスリーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
以下、従来のマグネット保持用スリーブについて図面を用いて説明する。従来のマグネット保持用スリーブでは例えば図5に示すように、スリーブ1の表面に形成するところのトナーを搬送するための凹凸2は、レーザー照射による加工によって、連続した溝状として形成することや、上記のように明確な溝状の凹凸2ではなく、サンドブラスト加工によりスリーブ1の表面全体に分散させた微細凹凸(図示せず)をランダムに形成したものであった(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−343542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のマグネット保持用スリーブでは、スリーブ1の表面にレーザー照射によって凹凸2を形成した場合、特に微細なパターンとしての凹凸2を要求するものについては、その寸法精度を非常に高くする事が出来る一方で、凹凸2の形成に時間を要することとなるため作業性に課題を有するものであった。
【0005】
また或いは、サンドブラスト加工によって微細凹凸(図示せず)を全面に形成する場合では、作業性は優れてはいるものの、スリーブ1の表面部位による微細凹凸(図示せず)の制御が困難であると同時に、微細凹凸の経時変化に伴うトナー搬送量の変化が生じるという課題を有するものであった。
【0006】
そこで本発明は、表面加工の作業性が高い容易な形状で、安定したトナー搬送を可能とするマグネット保持用スリーブを得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そしてこの目的を達成するために、円筒状金属の表面に、軸方向へ直線状に第1の間隔で複数の第1凹部を配置した第1凹部帯と、この第1凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第1平坦帯と、この第1平坦帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に第1の間隔で複数の第2凹部を配置した第2凹部帯と、この第2凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第2平坦帯とからなる複合凹部帯を周方向に連続配置し、前記周方向において個々の前記第1凹部の中心を結ぶ第1中心線および前記周方向において個々の前記第2凹部の中心を結ぶ第2中心線をそれぞれ直線状とし、前記第1中心線と前記第2中心線とは異なる線上に非重複で配置したことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トナー搬送を担うスリーブ表面の凹部が簡素な形状で規則的に等間隔で配置し、かつ凹部寸法をスリーブの何れの位置においても同一としていることで、安定したトナー量を搬送することができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態におけるマグネット保持用スリーブの斜視図
【図2】本発明の一実施形態におけるマグネット保持用スリーブの表面展開図
【図3】(a)本発明の一実施形態におけるマグネット保持用スリーブのエッチング工程の第1模式図、(b)本発明の一実施形態におけるマグネット保持用スリーブのエッチング工程の第2模式図
【図4】本発明の一実施形態におけるマグネット保持用スリーブの上面拡大図
【図5】従来のマグネット保持用スリーブの正面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図を用いて説明する。
【0011】
(実施の形態)
図1は本発明の第1の実施形態におけるマグネット保持用スリーブがマグネットを保持した状態の斜視図であり、円筒状の金属からなるスリーブ3の洞部4に棒状マグネット5が挿入されており、これらが適用されることとなる複写機(図示せず)内においては、固定した棒状マグネット5の周囲をスリーブ3が軸6を中心に回転することで、現像用のトナー(図示せず)の転写を行っている。
【0012】
ここで、スリーブ3の表面を平面に展開したものが図2に示す表面展開図である。ここではまず、円筒状金属からなるスリーブ3の表面に、図1に示す軸6の方向に掘り込んだ図2に示す複数の第1凹部7と、平坦部8とを交互にスリーブ3の軸方向に配置した第1凹部帯9を形成している。そして、第1凹部帯9に隣接させる位置に、平坦な部分に加工を加えていない軸方向に直線状に平坦面を連続させた第1平坦帯10を形成している。また、第1平坦帯10に、第1凹部帯9とは反対側で隣接させる位置に、第1凹部7と同様に掘り込んだ第2凹部11と、平坦部12とを交互にスリーブ3の軸方向に配置した第2凹部帯13を形成している。さらに、第2凹部帯13に、第1平坦帯10とは反対側で隣接させる位置に、平坦な部分に加工を加えていない軸方向に直線状に平坦面を連続させた第2平坦帯14を形成している。
【0013】
そして、第1凹部帯9、第1平坦帯10、第2凹部帯13、第2平坦帯14とからなる複合凹部帯15をスリーブ3の周方向に連続して配置することで、全周にわたって複合凹部帯15を形成している。
【0014】
ここで、掘り込みを行っていない部分を平坦面として示しているものの、実際には図1に示すようにこれらは円筒の表面に形成しているものであることから、厳密には曲率を有した面であるものの、概ね平坦であるとして扱うことで問題は無いと考えられることから、便宜上、平坦面と称して扱うこととしている。
【0015】
ここで、スリーブ3の周方向において個々の第1凹部7の中心を結ぶ線分と、同様に周方向において個々の第2凹部11の中心を結ぶ線分とは、ともに概ね直線状の第1中心線16と第2中心線17となるよう、第1凹部7および第2凹部11は規則的に配置したものとしている。
【0016】
また、第1中心線16と第2中心線17とは異なる線上に非重複で配置することにより、規則性は持たせているものの周方向に第1凹部7と第2凹部11とが一致した状態となることを回避し、スリーブ3の表面における凹凸が適度に分散するよう配置しているものである。
【0017】
この構成によれば、厳密な凹凸の寸法や配置を規定することなく、適度に掘り込んだ部分でトナーを安定的に搬送することが可能な凹部を分散配置させることが可能であり、かつ、全体に微細凹凸を分散するのではなく単純な規則的配置を行うため経時変化に伴う磨耗も抑制できることから、トナー搬送量の変化を抑制することができるものである。
【0018】
また、スリーブ3の軸方向における個々の第1凹部7の間隔に該当する平坦部8や、個々の第2凹部11の間隔に該当する平坦部12と、周方向における第1平坦帯10および第2平坦帯14の幅寸法を同一とすることにより、第1凹部7や第2凹部11の分散をさらに偏りの無い平均化したものとすることができることとなる。当然ながら、スリーブ3の軸方向における個々の第1凹部7や個々の第2凹部11は等間隔の配置としている。これにより平坦部8、12、や第1平坦帯10および第2平坦帯14に該当する平坦面の寸法を均一化することとなり、上述の場合と同様にスリーブ3が回転して感光ドラム(図示せず)との間で生じる押圧力に起因する磨耗を抑制すると同時に、磨耗が進行し易くなる局部的に狭い平坦面を存在させなくすることで、磨耗の部分的な偏りを伴わないものとすることができることから、トナー搬送量の変化をさらに抑制することができるものである。
【0019】
さらに、第1中心線16と第2中心線17とはスリーブ3の軸方向において等間隔で連続して配置することが望ましい。これにより、スリーブ3の回転方向である周方向において、第1凹部7あるいは第2凹部11の何れかが存在する部分が大部分となり、回転方向に平坦面が連続する領域を最小限とすることができ、トナー搬送量の低下やムラの発生し易くなる領域を小さくすることができる。
【0020】
また、軸方向における第1凹部7、平坦部8、第2凹部11、平坦部12の全てを同一寸法とする、あるいは軸方向における第1凹部7の寸法を平坦部8よりも大きくし、同時に第2凹部11の寸法を平坦部12よりも大きくすることで、回転方向に平坦面が連続する領域を存在させなくすることができ、よりトナー搬送量の安定化を図ることが可能である。ここで、平坦部8、12の大きさは磨耗に対して重要な意味を有することから、軸方向における第1凹部7、平坦部8、第2凹部11、平坦部12の全てを同一寸法として、平坦部8、12を小さくし過ぎないことが望ましい。
【0021】
以上の説明では、スリーブ3における第1凹部7や第2凹部11について説明しているが、ここではエッチングによる第1凹部7や第2凹部11の形成について説明する。図3(a)(b)はスリーブのエッチング工程についての模式図を示したものであり、まず図3(a)に示す第1段階の工程において、表面が平坦な状態のスリーブ3を、図2における第1凹部7や第2凹部11を形成することに対応した図3(a)の開口部18を予め設けたマスク19によって覆う。そして図3(b)に示す第2段階の工程において、マスク19で覆った状態のスリーブ3に対して、エッチング液を適量塗布した後に洗浄を行うことで、図2に示すように、第1凹部7や第2凹部11を形成したスリーブ3を得ることとなる。
【0022】
図3(a)(b)におけるマスク19に形成した開口部18は当然ながらここまでに説明したように、規則性をもって分散して配置した位置関係となっているものである。そして特に、図2に示す、平坦部8、12、や第1平坦帯10および第2平坦帯14に該当する平坦面の寸法を均一化することとしていることから、図3(b)におけるマスク19に設けた開口部18によって挟まれることとなる領域であるA領域やB領域は、開口部18がほぼ規則的に設けた状態となっていることから、特に小さな領域や特に大きな領域、或いは特に狭くなった部位や特に広くなった部位は生じないこととなる。
【0023】
これは、マスク19とスリーブ3との密着性については、その密着力はマスク19とスリーブ3との接する面積が大きく関係することから、マスク19における個々の部位とスリーブ3との密着力にも大きな差が現れないということでもある。従って、マスク19における特定の部位が剥れ易くなることに起因し、その部位にエッチング液が浸入し易くなることでイレギュラーな部分に図2に示す第1凹部7や第2凹部11が拡張した凹部を形成することを抑制することが可能となる。また、ほぼ完全に平坦であるべき部分に凹凸を生じることも抑制することが可能となる。よって、無駄な凹凸が存在しないことで、磨耗による形状の劣化も抑制でき、この結果として、第1凹部7や第2凹部11に依存するトナーの搬送量はスリーブ3の部位に係らずほぼ均一なものとすることができる。また、ここで説明しているように、エッチングの工程は特に困難な技術は伴わず、比較的一般的な設備において図3(a)(b)に示すマスク19やそこでの開口部18の加工ができることから、作業性やコストについても非常に適用が容易なものでもある。
【0024】
ここまでの説明においては、第1凹部7や第2凹部11の上面形状を矩形あるいは方形とした前提で説明しているものの、厳密な形状としては図4に示す上面拡大図の第1凹部7のように、四隅にそれぞれ曲率を設けた曲率部20を形成することが望ましい。これは、第1凹部7によってトナー搬送を行うにあたり、仮に明確な角部(図示せず)が四隅に存在すると、その部分へトナー(図示せず)による負荷が集中しやすくなり、この負荷は小さな力ではあるものの長時間の継続によって磨耗が生じる恐れがあり、この場合、特にスリーブ3の回転方向(周方向)の後方側ではその傾向が強化され、初期に形成した第1凹部7の上面形状が変形することでトナー搬送量を変化させてしまうことに対するものである。
【0025】
従って、曲率部20を、四隅に或いは、少なくともスリーブ3の回転方向(周方向)の後方側に設けることにより、トナー(図示せず)から受ける負荷をコーナーに集中させず分散させ易くなり、第1凹部7の形状の変化を抑制することが可能となり、結果としてトナー搬送量の安定化を可能とするものである。これについては、第2凹部11についても同様の効果を有するものである。
【0026】
しかしながら、第1凹部7の局率を大きくし過ぎ、円形に近い上面形状となると、図3(b)に示すマスク19のA領域やB領域における、マスク19とスリーブ3との接する面積について幅の大きな部分と小さな部分との差が顕著になり易いため、マスク19の密着面積についての規則性を維持するという観点では隅部のみに曲率を有した方形もしくは矩形であることが望ましい。
【0027】
このように曲率を有した方形や矩形である場合、図2に示す第1中心線16や第2中心線17を規定するにあたっては、個々の第1凹部7や第2凹部11の中心として例えば、以下のように単純に規定するとよい。つまり、図4に示すように、第1凹部7のスリーブ3の軸方向における両端部E1、E2の中央にあたる軸方向中央線21と、周方向における両端部E3、E4の中央にあたる周方向中央線22との交点を個々の第1凹部7や第2凹部11の中心点Cとして規定すればよく、この中心点Cを結ぶことにより軸方向あるいは周方向における複数の第1凹部7や第2凹部11の配列についての直線性もまた規定できるものである。
【0028】
ここでは規則性が重要な要素であるため、単に軸方向の中心によって規定するのではなく、周方向に関しても中心を決定するための要素を用いたものとしている。この中心を結んだ線分が、軸方向にも周方向にも大きく蛇行しないことが望ましく、その限度としては例えば、図2に示すように隣接する周方向にほぼ平行な第1中心線16と第2中心線17とが部分的に接触あるいは交差する領域が存在しなければ構わない。
【0029】
よって、第1凹部7および第2凹部11それぞれの軸方向寸法における1/2以下に、第1中心線16および第2中心線17のぶれを抑制することで第1中心線16と第2中心線17とが部分的に接触あるいは交差を回避することが可能である。これにより、特に回転方向に平坦面が連続する領域を最小限とすることができ、トナー搬送量の低下やムラ発生の可能性を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明のマグネット保持用スリーブは、安定した現像用トナーの搬送を可能とする効果を有し、印刷用途の各種電子機器に適用するにあたって有用である。
【符号の説明】
【0031】
3 スリーブ
4 洞部
5 棒状マグネット
6 軸
7 第1凹部
8 平坦部
9 第1凹部帯
10 第1平坦帯
11 第2凹部
12 平坦部
13 第2凹部帯
14 第2平坦帯
15 複合凹部帯
16 第1中心線
17 第2中心線
18 開口部
19 マスク
20 曲率部
21 軸方向中央線
22 周方向中央線
A マスク領域
B マスク領域
C 中心点
E1 両端部
E2 両端部
E3 両端部
E4 両端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状金属の表面に、
軸方向へ直線状に第1の間隔で複数の第1凹部を配置した第1凹部帯と、
この第1凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第1平坦帯と、
この第1平坦帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に第1の間隔で複数の第2凹部を配置した第2凹部帯と、
この第2凹部帯に隣接したうえで前記軸方向に直線状に平坦面を連続させた第2平坦帯とからなる複合凹部帯を周方向に連続配置し、
前記周方向において個々の前記第1凹部の中心を結ぶ第1中心線および前記周方向において個々の前記第2凹部の中心を結ぶ第2中心線をそれぞれ直線状とし、
前記第1中心線と前記第2中心線とは異なる線上に非重複で配置したマグネット保持用スリーブ。
【請求項2】
軸方向における第1の間隔と周方向における第1平坦帯および第2平坦帯の寸法を同一とした請求項1に記載のマグネット保持用スリーブ。
【請求項3】
第1中心線と第2中心線とは軸方向に等間隔で連続して配置した請求項2に記載のマグネット保持用スリーブ。
【請求項4】
第1、第2の凹部は、
円筒状金属の表面を覆うマスクに設けた窓部に対応させたうえで前記窓部をエッチング処理によって形成した請求項1から請求項3のいずれかに記載のマグネット保持用スリーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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