説明

マグネトロンカソード

【課題】ターゲット部材の片減りを防止しつつ、簡易な構造で、基板に平行で基板中心に向く磁界を基板上に形成し、膜厚分布を向上させることのできるマグネトロンカソードを提供する。
【解決手段】基板に対向して配される環状のターゲット6と、ターゲット背面にターゲットに対して移動可能且つ回転可能に配置され、不均一な磁界を発生させるマグネット組立15によって構成されるマグネトロンカソードにおいて、ターゲットの中心開口部周縁に中央シールド部が設けられ、中央シールド部は複数の磁性体部品による積層構造を有する中央カバー10が設けられるとともに、ターゲット外周側保持リング11は、複数の磁性体部品からなる積層構造を有し、これら磁性体部品の少なくとも一つが、マグネット組立によって生じる磁界に対応して基板上に磁気異方性を構築する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に薄膜を形成するためのマグネトロンスパッタ装置に用いられるマグネトロンカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、磁場の分布を均一に形成してターゲットのエッチングプロファイルを広く且つ均一に形成することを目的とするもので、3つ以上の磁極部を備え、各磁極部はターゲットに向かって同一の極性を有する1つまたは複数のマグネットを備え、隣接する磁極部は、ターゲットに向かって相異なる磁性を有し、一の磁極部は、他の磁極部の外周を囲むように配置されているマグネトロンカソードを開示する。
【0003】
特許文献2は、ターゲットの使用効率を向上させることを目的とするもので、内側磁石と、この内側磁石とは反対の磁性で前記内側磁石を取り囲む外側磁石とを板状磁性体材料からなるヨークで磁気的に接続して構成された磁気回路をターゲットの背面側に配置してなるマグネトロンスパッタ装置用カソードにおいて、前記内側磁石と外側磁石との間にあって、ターゲットに形成されるエロージョンの最深部に正対する領域に、非磁性体部材を介してヨークの主面側に指示される軟磁性体からなる磁界制御部を配設することを開示する。
【0004】
特許文献3は、基板の外周に設けられた複数のマグネトロン蒸発源より蒸発した金属原子又はイオンを、基板に付着させて基板に薄膜を形成するマグネトロンスパッタ装置において、隣り合うマグネトロン蒸発源の中間位置に、マグネトロン蒸発源の外側磁極の極性と同一の極性を持った補助磁極が配され、おのおののマグネトロン蒸発源の外側磁極の極性がすべて同一とされることにより、各マグネトロン蒸発源の外側磁極と該外側磁極に隣接する前記補助磁極との中間付近で反発し合う磁場を生じさせると共に、各マグネトロン蒸発源の内側磁極と該内側磁極に隣接する前記補助磁極とを相互に結ぶ磁力線を生じさせる。これによって、基板を取り囲む形状の磁場が形成され、基板上に形成される皮膜の密着力や膜構造を改善する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−218089号公報
【特許文献2】特開2005−8917号公報
【特許文献3】特開2006−118052号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した引用文献から明らかなように、磁場を利用するマグネトロンスパッタリング法は、低圧および高密度プラズマの真空容器内で行うことができるため、スパッタリング粒子の直進性を高めることができるので、段差がある部分にも効果的にスパッタリング粒子を堆積することができることからステップカバレージが向上するという効果を有するが、特許文献1〜3に記載された装置においては、磁石は固定的に定まった軌跡に沿ってしか移動できないため、金属ターゲット部材からスパッタされる粒子の飛び出す位置が一定であるため、一定の場所のターゲット部材だけで減ってしまうため、ターゲット部材の寿命が短いという問題点、また片減りによるカバレージ分布が低下するという問題点が生じる。
【0007】
このため、ターゲットの片減りを防止するために、磁界の状態を変化させてスパッタ粒子の放出するターゲット内の領域を変化させてターゲットを均一に減らしてターゲットの寿命を延ばすことが考えられているが、この方法においては、基板上の磁界も不均一になるため、基板上に磁気異方性を構築することが難しいという問題点が生じた。
【0008】
以上のことから、本願発明は、ターゲット部材の片減りを防止しつつ、簡易な構造で、基板に平行で基板中心に向く磁界を基板上に形成し、所定の特性、例えば磁気異方性を与えることができるマグネトロンカソードを提供することにある。さらに、上記目的に加えて、磁界の不均一によって生じるスパッタ粒子飛散の不均一性を防止するために、ターゲット近傍における導入ガスの噴射状態を変化させて、基板上の膜厚分布を向上させることができるマグネトロンカソードを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
したがって、本願発明は、真空容器内に配置される基板に対向して配される環状のターゲットと、該ターゲットの外周部分を保持するターゲット外周側保持リングと、前記ターゲットの背面に前記ターゲットに対して移動可能且つ回転可能に配置され、不均一な磁界を発生させるマグネット組立とによって少なくとも構成されるマグネトロンカソードにおいて、前記ターゲットの中心開口部周縁には、中央シールド部が設けられ、該中央シールド部には、複数の磁性体部品による積層構造を有する中央カバーが設けられるとともに、前記ターゲット外周側保持リングは、複数の磁性体部品からなる積層構造を有し、前記中央カバーを構成する複数の磁性体部品及び前記ターゲット外周側保持リングを構成する複数の磁性体部品の少なくとも一つが、前記マグネット組立による不均一な磁界が前記基板上に磁気異方性を構築できるようにマグネット組立によって生じる磁界に対応して形成されることにある。
【0010】
これによって、中央シールド部を構成する中央カバーを構成する磁性体部品及びターゲット外周側保持リングを構成する磁性体部品の少なくとも一つの形状を、前記マグネット組立から生じる磁界に対応して変化させたので、マグネット組立から発生する磁力線の通過状態が変化させることができ、基板面上に基板中心を向いた平行な磁界を発生させ、基板上に積層された磁性膜に基板中心方向の磁気異方性を付けることも可能となるものである。
【0011】
また、前記中央シールド部には、該中央シールド部の外周外方向に導入ガスを吐出させるそれぞれが開閉可能である複数の中央側吐出孔が設けられ、前記ターゲットの周囲に設けられる外側シールド部には、該外側シールド部の外方向に導入ガスを吐出させると共にそれぞれが開閉自在である複数の外側吐出孔と、該外側シールド部の内方向に導入ガスを吐出させると共にそれぞれが開閉自在である複数の内側吐出孔とが形成されることが望ましい。
【0012】
これによって、ターゲット近傍における導入ガスの噴射状態を変化させることができるので、ターゲット粒子の放射状態を変化させることができ、結果としてターゲットから放射される粒子の分散状態を変化させて、基板の均等な膜厚分布を達成できるものである。
【0013】
さらに、前記中央シールド部は、電極を兼ね、切り替え手段によって該電極の極性を変化させることによって、中央シールド部のクリーニングを行うことが望ましい。
【0014】
前記マグネット組立は、回転軸を中心とする所定の中心角で配される複数の径方向マグネット群によって構成されるとともに、それぞれの径方向マグネット群は、中心方向に傾斜する少なくとも1つの内周マグネットと、外周方向に傾斜し、前記内周マグネットと極性が異なる少なくとも1つの外周マグネットとによって構成され、それぞれの径方向マグネット群を構成する内周マグネットと外周マグネットの数及び位置は、前記中央シールド部及びターゲット外周側保持リングの形状に合わせて不均一に配置されることが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本願発明によれば、前記ターゲットの中央開口部周縁に設けられる中央シールド部に中央側吐出口を設けるとともに、ターゲットの外周周縁に設けられる外側シールド部に、前記シールド部の内周方向に導入ガスを吐出させる複数の内側吐出孔及び外側シールド部の外周方向に導入ガスを吐出させる複数の外側吐出孔を設け、さらにこれらを開閉自在としたことによって、これらから吹き出す導入ガスの吹出位置を調節することができるので、ターゲット近傍の導入ガスの状態を所望により変化させることができるため、基板上に形成される膜の膜厚分布を均一にすることができるものである。
【0016】
また中央カバー形状の構造を不均一にしたことによって、磁力線の放射形状及び強度を調整し、さらにターゲット外周側保持リングの形状及び構造も磁界に対応して不均一にしたことによって、ターゲットから基板に至る空間内の磁力線の分布に変化をつけることができるものである。特に、基板面上に基板中心を向いた平行な磁力線を形成するようにした場合には、磁性薄膜に基板中心方向の磁気異方性を付けることができるものである。
【0017】
さらに、切り替え手段によって中央シールド部の極性を変化させることができるので、中央シールド部表面のクリーニングが可能となり、これによって作業性の向上が図られるものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本願発明に係るマグネトロンカソードの概略構成図である。
【図2】本願発明に係るマグネトロンカソードの一部拡大概略図である。
【図3】本願発明に係るマグネトロンカソードのマグネット配置の一例を示した説明図である。
【図4】本願発明に係るマグネトロンカソードの中央カバーの一例を示した説明図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
【図5】本願発明に係るマグネトロンカソードのマグネット外周保持リングの一例を示した説明図であり、(a)は平面図、(b)は断面図である。
【図6】本願発明に係るマグネトロンカソードの外側吐出孔、内側吐出孔及び電極側吐出孔の開閉等の一例を示した説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、この発明の実施例について図面により説明する。
【実施例】
【0020】
本願発明に係るマグネトロンカソード1は、図1に示されるように、基板2が載置される作業空間(真空空間)3を画成する真空容器4の開口部5を密封すると共に前記基板2に対峙するように前記真空容器4に固着されるものである。前記マグネトロンカソード1は、図1及び図2に示されるように、基板2に対向して配置される環状のターゲット6と、このターゲット6の背面側を保持すると共に内部に冷却水が循環するターゲット保持部7と、このターゲット保持部7を貫通して前記ターゲット6の中央開口部8に延出する中央シールド部40と、この中央シールド部40の前面を閉塞する電極を兼ねる中央カバー10と、前記ターゲット6の外周周縁を保持するターゲット外周側保持リング11と、この外周保持リング11の前面を覆うと共に前記ターゲット6の外周近傍に位置する外側シールド部12と、この外側シールド部12と前記真空容器4との間に配されると共に絶縁部14を介して前記ターゲット保持部7を保持する装着プレート13と、前記ターゲット保持部7の背後に設けられ、前記ターゲット6に対して回転自在且つ移動自在であるマグネット組立15とによって少なくとも構成される。
【0021】
前記マグネット組立15は、前記ターゲット6に対して回転可能且つ移動可能であるマグネット装着ブロック16と、このマグネット装着ブロック16のターゲット側平面16Aに設けられ、図3に示されるように、前記マグネット装着ブロック16の回転軸を中心として所定の中心角で均等に配される径方向に沿って配される複数の径方向マグネット群17とによって構成される。またそれぞれの径方向マグネット群17は、中心方向に傾斜する少なくとも1つの内周マグネット18と、外周方向に傾斜し、前記内周マグネット18と極性が異なる少なくとも1つの外周マグネット19とによって構成され、それぞれの径方向マグネット群17を構成する内周マグネット18と外周マグネット19の数及び位置は、ターゲット6上に不均一な磁界を発生されて同じ箇所からスパッタ粒子が放出されることを防止し、ターゲット6の片減りを防止するために不均等(ランダム)に配置されるものである。
【0022】
また、前記中央カバー10は、図4(b)で示すように、複数の磁性体部品からなる積層構造を有し、各層10A〜10Dの形状、たとえば大きさ(面積)、厚さ、形状が、前記マグネット組立15から生じる不均一な磁力線を基板2上で平行な磁界となるように、マグネット組立15によって生じる磁界に対応して形成されるものである。また、中央カバー10自体も磁界に対応して不均一な形状であることが望ましい。
【0023】
さらに、前記ターゲット外周側保持リング11も、図5に示すように、同様に磁性体からなる積層構造を有し、各層11A〜11Dの形状、たとえば大きさ(面積)、厚さ、形が前記マグネット組立15から生じる磁界に対応して形成されることが望ましい。さらに、一部に切り欠き凹部11Eを形成しても良いものである。
【0024】
これによって、基板2上に形成される基板2の薄膜形成面に平行な且つ基板2の中心に向く磁界を形成できる為、磁性薄膜に平行な且つ中心軸方向の磁気異方性を実現することができるものである。
【0025】
また、前記中央カバー10の極性を切り替える切り替え機構20を設けたことによって、中央カバー10の極性を変化させることができるため、中央カバー10の表面のクリーニングが可能となるものである。
【0026】
本願発明に係るマグネトロンカソード1においては、図1,図2及び図6で示すように、前記外側シールド部12の外周側に複数の外側ガス吐出孔21を設け、内周側に複数の内側吐出孔23を設ける。これら外側ガス吐出孔21及び内側吐出孔23のそれぞれは弁22によって開閉可能であり、さらに閉鎖栓24によってどちらかを閉鎖することもできるものである。このように、導入ガスの量及び分布が調整可能としたため、基板2上の膜厚分布の均一性を向上させることができるものである。
【0027】
さらに、前記中央シールド部40には、この中央シールド部40の外周に沿って所定の間隔で開口する複数の中央側吐出孔30が形成され、さらにこれら中央側吐出孔30はそれぞれ閉鎖栓31によって閉鎖することができるものである。
【0028】
尚、内側吐出孔23を開閉する弁22を電気的に制御するようにしても良いものである。また、中央側吐出孔30を閉鎖する閉鎖栓31に代えて電気的に制御可能な弁を設けてもよいものである。これによって、外部から内側吐出孔23及び中央側吐出孔30を外部から制御可能となるものである。
【符号の説明】
【0029】
1 マグネトロンカソード
2 基板
3 作業空間
4 真空容器
5 開口部
6 ターゲット
7 ターゲット保持部
8 中央開口部
10 中央カバー
11 ターゲット外周保持リング
12 外側シールド部
13 装着プレート
14 絶縁部
15 マグネット組立
16 マグネット装着ブロック
17 径方向マグネット群
18 内周マグネット
19 外周マグネット
20 切り替え機構
21 外側吐出孔
22 弁
23 内側吐出孔
24 閉鎖栓
30 中央側吐出孔
31 閉鎖栓
40 中央シールド部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空容器内に配置される基板に対向して配される環状のターゲットと、該ターゲットの外周部分を保持するターゲット外周側保持リングと、前記ターゲットの背面に前記ターゲットに対して移動可能且つ回転可能に配置され、不均一な磁界を発生させるマグネット組立とによって少なくとも構成されるマグネトロンカソードにおいて、
前記ターゲットの中心開口部周縁には、中央シールド部が設けられ、該中央シールド部には、複数の磁性体部品による積層構造を有する中央カバーが設けられるとともに、
前記ターゲット外周側保持リングは、複数の磁性体部品からなる積層構造を有し、
前記中央カバーを構成する複数の磁性体部品及び前記ターゲット外周側保持リングを構成する複数の磁性体部品の少なくとも一つが、前記マグネット組立による不均一な磁界が前記基板上に磁気異方性を構築できるようにマグネット組立によって生じる磁界に対応して形成されることを特徴とするマグネトロンカソード。
【請求項2】
前記中央シールド部には、該中央シールド部の外周外方向に導入ガスを吐出させるそれぞれが開閉可能である複数の中央側吐出孔が設けられ、前記ターゲットの周囲に設けられる外側シールド部には、該外側シールド部の外方向に導入ガスを吐出させると共にそれぞれが開閉自在である複数の外側吐出孔と、該外側シールド部の内方向に導入ガスを吐出させると共にそれぞれが開閉自在である複数の内側吐出孔とが形成されることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンカソード。
【請求項3】
前記中央シールド部は、電極を兼ね、切り替え手段によって該電極の極性を変化させることによって、該中央シールド部のクリーニングを行うことを特徴とする請求項1又は2記載のマグネトロンカソード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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