説明

マグネトロンスパッタカソード

【課題】ターゲットに局所的な侵食が発生することが抑制できてターゲットの利用効率を高めることができるマグネトロンスパッタカソードを提供する。
【解決手段】マグネトロンスパッタカソードは、立体形状の輪郭を有するターゲット1aと、トンネル状の磁場を形成する磁石ユニット2aとを備える。このターゲットの表面の一部をスパッタリングにより侵食されるスパッタ面12a、12cとし、前記磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線が、スパッタ面を跨いでターゲットの周囲を周回するように磁石ユニットが構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板やシリコンウエハ等の成膜対象物に対して成膜を行うスパッタリング装置用のマグネトロンスパッタカソードに関する。
【背景技術】
【0002】
上記種のマグネトロンスパッタカソードは、通常、成膜対象物に対向配置されるターゲットと、スパッタリングにより侵食される面をスパッタ面(つまり、ターゲットのうち成膜面に対向する面)とし、このスパッタ面の背面側に配置されてこのターゲット前方にトンネル状の漏洩磁場(磁束)を形成する磁石ユニットとを備える。そして、ターゲットに負の電位を持った直流電力または交流電力を印加してターゲットをスパッタリングする際、上記漏洩磁場にてターゲット前方で電離した電子及びスパッタリングによって生じた二次電子を捕捉してガス分子との衝突確率を高めることでプラズマ密度を高めている。このようなマグネトロンスパッタカソードを備えたスパッタリング装置は、例えば処理基板の著しい温度上昇を伴うことなく成膜速度を向上できる等の利点があり、近年では、大面積のフラットパネルディスプレイの製造工程にて透明電導膜の形成等に広く利用されている。
【0003】
ここで、ターゲットとして直方体形状(平面視略矩形)のものを用いる場合を例に説明すると、磁石ユニットとしては、ターゲットの背面側に平行に配置される平面視略矩形の支持板(ヨーク)の前面中央に、その長手方向に沿って線状に中央磁石を配置すると共に、この中央磁石の周囲を囲うように支持板上面の周縁全体に亘ってターゲット側の極性が異なる周辺磁石を配置して構成したものが例えば特許文献1で知られている。
【0004】
上記従来例の磁石ユニットでは、磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線がターゲットの前方でこのスパッタ面に略平行な同一平面内でレーストラック状に閉じ、これに沿ってレーストラック状のプラズマが発生すると共に、このプラズマ形状が転写されるかの如く、ターゲットのスパッタ面が侵食される。然し、上記従来例のものでは、レーストラック状の所謂コーナ部にて磁束密度が局所的に高くなり、中央磁石の延長線上に沿ったターゲットの侵食をみると、スパッタ面の周縁領域では、その中央領域と比較して侵食が局所的に進行し易くなり、これでは、ターゲット使用効率を劣化させるという不具合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−34244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記点に鑑み、ターゲットに局所的な侵食が発生することが抑制できてターゲットの利用効率を高めることができるマグネトロンスパッタカソードを提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のマグネトロンスパッタカソードは、立体形状の輪郭を有するターゲットと、トンネル状の磁場を形成する磁石ユニットとを備え、このターゲットの表面の一部をスパッタリングにより侵食されるスパッタ面とし、前記磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線が、スパッタ面を跨いでターゲットの周囲を周回するように磁石ユニットが構成されることを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、前記磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線がスパッタ面を跨いでターゲットの周囲を周回するように磁石ユニットを構成した(つまり、局所的な侵食を生じるコーナ部をなくした)ため、例えばターゲットに負の電位を持った電力を投入すると、スパッタ面の前方に上記線に沿う長さ方向に密度が略均等な筋状のプラズマが発生するようになる。その結果、ターゲットのスパッタ面を線状(筋状)に略均等に侵食することができ、ターゲットに局所的な侵食が発生することが抑制できる。なお、本発明にいう立体形状とは、例えば直方体、立方体や円柱等だけでなく、円錐、角錐または截頭錐体を含み、また、中空または中実のものであってもよい。また、立体形状の表面のうち、磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線が跨ぐ面を全てスパッタ面とすることができ、その中で任意の少なくとも1面を選択し、この面に成膜対象物を対向させておけば、当該成膜対象物に成膜することが可能となる。
【0009】
本発明においては、例えば、前記ターゲットは、その長手方向にのびる貫通孔を有し、磁石ユニットは、ターゲットの内周面側の磁性をかえて貫通孔内に挿設された少なくとも一対のリング磁石を有し、ターゲットの外表面をスパッタ面とするか、または、前記ターゲットは、その長手方向にのびる貫通孔を有し、磁石ユニットは、長手方向に直交する方向でターゲットの外周を囲い、かつ、ターゲットの外周面側の磁性をかえて長手方向に隣接配置される少なくとも一対のリング磁石を有し、ターゲットの内表面をスパッタ面とすれば、ターゲットのスパッタ面を線状(筋状)に略均等に侵食する構成が実現できる。また、複数対のリング磁石をターゲットの長手方向に列設しておけば、例えば成膜対象物への成膜速度を向上できて有利である。
【0010】
また、本発明においては、前記磁石ユニットをターゲットの長手方向全長に亘って移動自在な駆動手段を更に備えることが好ましい。これによれば、ターゲットのスパッタ面をその全面に亘って均等に侵食させることができ、ターゲットの極めて高い利用効率を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の第1の実施形態に係るマグネトロンスパッタカソードの構成を示す模式斜視図。
【図2】磁石ユニットによる漏洩磁場の形成を説明する模式斜視図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係るマグネトロンスパッタカソードの構成を示す模式斜視図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係るマグネトロンスパッタカソードの構成を示す模式斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、成膜対象物を矩形のガラス基板Sとし、このガラス基板Sの片面に成膜する場合を例に本発明の実施形態に係るマグネトロンスパッタカソードを説明する。
【0013】
図1及び図2を参照して、Cは、第1の実施形態のマグネトロンスパッタカソードである。マグネトロンスパッタカソードCは、直方体形状のターゲット1aを備える。ターゲット1aは、Al合金、MoやITOなどガラス基板S表面に成膜しようとする薄膜の組成に応じて公知の方法で作製されている。また、ターゲット1aには、その長手方向にのびる、断面視矩形の貫通孔が形成され、ターゲット1aの内周面11を構成する。そして、この貫通孔内には磁石ユニット2aが挿設されている。
【0014】
磁石ユニット2aは、正面視で内周面11の輪郭より小さい矩形の輪郭を有する、磁石の吸着力を増幅する磁性材料製の支持板(ヨーク)21を備える。支持板21には、ターゲット1aの内周面11と隙間を存してこの内周面11と同心になるように一対のリング磁石22、23が外装されている。両リング磁石22、23は、磁石の同磁化に換算したときの体積が一致しており、また、ターゲット1aの内周面11側の極性をかえてかつターゲット1aの長手方向に所定間隔を存するように隣接配置される。これにより、ターゲット1aの長手方向の前面及び後面を除く、ターゲットの4つの外表面(外周面)12a〜12dの上方(前方)で釣り合ったトンネル状の磁場(磁束)Mが形成される(図2参照)。そして、磁場の垂直成分がゼロとなる位置(トンネル状の磁束の各頂部)を通る線がターゲット1aの長手方向に直交する方向で4つの外表面12a〜12dを夫々跨いでターゲット1aの周囲を周回するようになる(図2参照)。
【0015】
この場合、ターゲット1aの4つの外表面12a〜12dをスパッタ面とすることができるが、本実施形態では、比較的面積が大きい、互いに対向する2つの面12a、12cをスパッタ面とし、成膜時にはこれらスパッタ面に対向するようにガラス基板Sが配置される(図1参照)。なお、図1中、手前側のガラス基板は省略している。また、比較的面積の小さい面12b、12dには、スパッタリング中、ターゲット1aを冷却するバッキングプレート(図示せず)がインジウムやスズなどのボンディング材を介して接合される。そして、図外の真空チャンバに上記マグネトロンカソードユニットCを設置した場合には、比較的面積の小さい面の周囲に所定の隙間(例えば、2〜3mmの範囲)を存して、図示省略のシールド部材が配置され、スパッタリング時にはスパッタリングされないようになっている。
【0016】
また、支持板21の中央部には、図示省略のナット部材が設けられており、このナット部材には、長手方向にのびるように貫通孔内に挿設された送りねじ3が螺合している。そして、図外のモータで送りねじ3を回転駆動すると、この送りねじ3の回転方向に応じて磁石ユニット2aが貫通孔に沿って往復動するようになる。この場合、送りねじ3やモータが本実施形態の駆動手段を構成する。
【0017】
上記構成のマグネトロンスパッタカソードCは、スパッタ室を画成する図外の真空チャンバ内に配置される。そして、スパッタ面12a、12cに対向するようにガラス基板Sを真空チャンバ内で設置した後、真空雰囲気中でアルゴン等の希ガスからなるスパッタガス(場合によっては、OやHOといった反応ガス)が一定の流量で導入され、この状態でターゲット1aに負の電位を持った直流電力または交流電力を印加してターゲット1aをスパッタリングすることで、ガラス基板Sの片面に所定の薄膜が成膜される。
【0018】
上記第1実施形態によれば、磁場Mの垂直成分がゼロとなる位置を通る線がスパッタ面12a、12cを跨いでターゲット1aの周囲を周回するようになるため、ターゲット1aに負の電位を持った電力を投入すると、スパッタ面12a、12cの前方に上記線に沿う長さ方向に密度が略均等な筋状のプラズマが発生するようになる。その結果、ターゲット1aのスパッタ面12a、12cを線状(筋状)に略均等に侵食することができ、ターゲット1aに局所的な侵食が発生することが抑制できる。そして、送りねじ3の回転により磁石ユニット2aをターゲット1aの長手方向全長に亘って往復動すれば、ターゲット1aのスパッタ面12a、12cをその全面に亘って均等に侵食させることができ、ターゲット1aの極めて高い利用効率を達成することができる。
【0019】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記のものに限定されるものではない。上記第1の実施形態では、ターゲット1a内に、一対のリング磁石22、23を有する磁石ユニット2aを設けたものを例に説明したが、磁場Mの垂直成分がゼロとなる位置を通る線が、スパッタ面を跨いでターゲットの周囲を周回するものであれば、マグネトロンスパッタカソードの構成は上記のものに限定されるものではない。例えば、複数対のリング磁石を長手方向に並べて磁石ユニットを構成することもできる。他方で、中央のリング磁石と、その両側にターゲット側の磁性を変えてリング磁石とを夫々隣接配置して一対のリング磁石としてもよい。この場合、中央のリング磁石の同磁化に換算したときの体積をその両側に配置されるリング磁石の同磁化に換算したときの体積の和(周辺磁石:中心磁石:周辺磁石=1:2:1)程度になるように設計すればよい。
【0020】
また、図3に示すようにマグネトロンスパッタカソードを構成することもできる。即ち、第2の実施形態のマグネトロンスパッタカソードCは、上記同様、直方体形状のターゲット1bを備え、このターゲット1bには、その長手方向にのびる、断面視矩形の貫通孔が形成され、ターゲット1aの内周面11を構成する。そして、磁石ユニット2bは、長手方向に直交する方向でターゲット1bの外周を囲い、かつ、ターゲット1bの外周面側の磁性をかえて長手方向に隣接配置される少なくとも一対のリング磁石24、25を有する。この場合、ターゲット1bの内周面全面がスパッタ面となる。そして、ガラス基板Sへの成膜に際しては、貫通孔内でガラス基板Sを一定の速度で挿入させることで、ガラス基板Sの外表面をその全面に亘って成膜することができる。
【0021】
更に、図4に示すようにマグネトロンスパッタカソードを構成することもできる。即ち、第3の実施形態のマグネトロンスパッタカソードCは、筒状のターゲットホルダ4を備える。このターゲットホルダ4の内周面には、例えば同一の直方体形状のターゲット1cが90度間隔で装着されている。この場合、ターゲット種を互いにかえることもでき、また、ターゲットホルダ4がパッキングプレートとしての役割を果たすように構成してもよい。
【0022】
また、ターゲットホルダ4内には、四角柱状の基板ホルダ5が挿設され、その外周面に成膜対象物Sたるガラス基板が取り付けられ、成膜対象物Sがターゲット1cと対向するようになっている。そして、磁石ユニット2cは、ターゲットホルダ4の長手方向に直交する方向で各ターゲット1cの外周を囲い、かつ、ターゲットホルダ4側の磁性をかえて長手方向に隣接配置される少なくとも一対のリング磁石26、27を有する。これにより、各ターゲットのうち成膜対象物Sとの対向面13のうち長手方向と直交する方向で磁場Mの垂直成分がゼロとなる位置を通る線が跨いでターゲットホルダ(引いては、各ターゲット)の周囲を周回するようになり、ターゲット1cに局所的な侵食が発生することが抑制できる。なお、基板ホルダ5の形態は、上記に限定されるものではなく、多角柱状であればよい。
【符号の説明】
【0023】
、C、C…マグネトロンスパッタカソード、1a、1b、1c…ターゲット、2a、2b、2c…磁石ユニット、22〜27…リング磁石、3…送りねじ(駆動手段)、S…ガラス基板(成膜対象物)M…漏洩磁場。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
立体形状の輪郭を有するターゲットと、トンネル状の磁場を形成する磁石ユニットとを備え、このターゲットの表面の一部をスパッタリングにより侵食されるスパッタ面とし、前記磁場の垂直成分がゼロとなる位置を通る線が、スパッタ面を跨いでターゲットの周囲を周回するように磁石ユニットが構成されることを特徴とするマグネトロンスパッタカソード。
【請求項2】
前記ターゲットは、その長手方向にのびる貫通孔を有し、磁石ユニットは、ターゲットの内周面側の磁性をかえて貫通孔内に挿設された少なくとも一対のリング磁石を有し、ターゲットの外表面をスパッタ面とすることを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタカソード。
【請求項3】
前記ターゲットは、その長手方向にのびる貫通孔を有し、磁石ユニットは、長手方向に直交する方向でターゲットの外周を囲い、かつ、ターゲットの外周面側の磁性をかえて長手方向に隣接配置される少なくとも一対のリング磁石を有し、ターゲットの内表面をスパッタ面としたことを特徴とする請求項1記載のマグネトロンスパッタカソード。
【請求項4】
前記磁石ユニットをターゲットの長手方向全長に亘って移動自在な駆動手段を更に備えることを特徴とする請求項2または請求項3記載のマグネトロンスパッタカソード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−57095(P2013−57095A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−195241(P2011−195241)
【出願日】平成23年9月7日(2011.9.7)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】