説明

マスキング材の製造方法

【課題】 部材上に定められたマスキング範囲を被覆し、保護するマスキング材を、簡易かつ安価に成形することが可能な製造方法を提供する。
【解決手段】 部材上に定められたマスキング範囲を被覆し、保護するマスキング材10の製造方法であって、上記マスキング範囲の形状を概略的に再現してなる簡易型を使用し、熱可塑性樹脂製シートを用いた真空および/または圧空成形によって該簡易型から中空状の複製型を複製する第1工程と、上記複製型の一面または両面に液状のエラストマーを塗布して乾燥する第2工程と、上記複製型からエラストマーを剥がして該エラストマーからなる上記マスキング材10を得る第3工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車の外装材や内装材等といった部材に表面処理を施す際に、該部材上のマスキング範囲を被覆し、保護するためのマスキング材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、上記自動車の外装材や内装材に塗装等の表面処理を施す際、塗装の塗り分けや、孔部等を保護するため、表面処理の対象にしたくない範囲(保護対象範囲)をマスキング材で被覆し、保護している。
通常のマスキング材はシート材とテープ材とからなり、該シート材で保護対象範囲を覆い、該テープ材で該シート材を貼着固定するようになっているが、作業が繁雑で時間を要するうえ、一度の使用で使い捨てなければならず、無駄が多い。
そこで、マスキング材として、合成樹脂シートを延伸成形で上記保護対象範囲に対応する形状に形成したものが提供されており(例えば特許文献1,2参照)、該マスキング材は、保護対象範囲に対応する形状であるため該保護対象範囲に被せるのみで簡単に装着が可能であり、成形体であるため繰り返しの使用が可能である。
また上記延伸成形によるマスキング材は、その製造に成形型を必要としており、該成形型は、金属や合成樹脂等を材料に用い、保護対象範囲の形状を正確に再現できるようにサイズ調整やテーパー付けや丸み付け等の形状の調製を行って製造される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−293170号公報
【特許文献2】特開2002−336748号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで上記マスキング材には、例えば正確な塗装の塗り分け等のように保護対象範囲を厳密に被覆することを要求されるものがある一方で、塗料による汚れ防止や傷つき防止等のために保護対象範囲を被覆可能であればよく、簡易的に使用されるものがある。
簡易的に使用されるマスキング材として、上記成形型によるマスキング材を使用することは、該成形型の製造に時間やコスト等を要してしまうため、質的に見合うものとならない。特に保護対象範囲が大きくなるに従い、該成形型の製造に要する時間やコスト等は大きく嵩むことになり、質的に全く見合わなくなる。
一方、通常のシート材とテープ材とからなるマスキング材は、上記したように無駄が多く、量的に見合うものにならない。
このためマスキング材には、保護対象範囲の形状を正確に再現できる上記成形型を用いる方法の他に、簡易で安価に成形可能な製造方法が要求されているという問題があった。
本発明は、上記従来技術に存在する問題点に着目してなされたものであり、その目的とするところは、マスキング材を簡易かつ安価に成形することが可能なマスキング材の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載のマスキング材の製造方法の発明は、部材上に定められたマスキング範囲を被覆し、保護するマスキング材の製造方法であって、上記マスキング範囲の形状を概略的に再現してなる簡易型を使用し、熱可塑性樹脂製シートを用いた真空および/または圧空成形によって該簡易型から中空状の複製型を複製する第1工程と、上記複製型の一面または両面に液状のエラストマーを塗布して乾燥する第2工程と、上記複製型からエラストマーを剥がして該エラストマーからなる上記マスキング材を得る第3工程と、を備えることを要旨とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のマスキング材の製造方法の発明において、上記簡易型は、石膏又は砂を材料に用いて成形されたものであることを要旨とする。
【発明の効果】
【0006】
〔作用〕
本発明のマスキング材の製造方法によれば、原型である簡易型は、マスキング範囲の形状を概略的に再現してなるものであり、サイズ調整やテーパー付けや丸み付け等の形状の調製を精密に行ったものではない。またマスキング範囲が大きなものであっても、該マスキング範囲の形状を概略的に再現できればよいので、該成形型は簡易かつ安価に製造されたものでよい。加えて、該簡易型から中空状の複製型を複製した後、該複製型からマスキング材を得る方法としたことで、該簡易型から該マスキング材を直接的に製造する必要がないため、該簡易型には耐久性をさほど求めなくてもよい。さらに複製型は、真空および/または圧空成形によって熱可塑性樹脂製シートから簡易に形成することができるので、所望する耐久性を満たしつつも、破損等した場合には迅速に交換することができる。そして、マスキング材は、上記複製型の一面または両面に液状のエラストマーを塗布して乾燥し、剥がすという方法で、簡便かつ短時間に形成することができるので、該マスキング材を簡易かつ安価に提供することができるようになる。
また上記簡易型は、石膏又は砂を材料に用いて成形されたものであることが望ましく、金属や合成樹脂を材料に用いたものに比べ、熱媒や冷媒の流路を設けたりする等の温度調節機能を設ける必要がなく、また研磨等によって形状の微細な修正をしたりする等の必要もないので、型作成に係る手間や費用を軽減することができる。
【0007】
〔効果〕
本発明にあっては、部材上に定められたマスキング範囲を被覆し、保護するマスキング材を、簡易かつ安価に成形することが可能な製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】実施例のマスキング材を使用する状態を示す説明図。
【図2】第1工程で簡易型から複製型を複製する状態を示す説明図。
【図3】第2工程で複製型にエラストマーを塗布する状態を示す説明図。
【図4】第3工程で複製型からマスキング材を剥がす状態を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明におけるマスキング材を具体化した一実施例について説明する。
図1に示すように、本実施例のマスキング材10は、自動車の内装材であって、ダッシュボード1と、該ダッシュボード1に一体化されたセンターコンソール2と、を保護対象の部材とする。
上記ダッシュボード1においては、上面の略中央に計器類3が配置されており、運転席側の正面にステアリングコラム4が配設され、助手席側の正面にグローブボックス5が配設されている。なお、特に図示はしないが、該センターコンソール2には、エアコンやオーディオやナビゲーション等といった機器を操作するための操作パネルや操作レバーが装着されたりするようになっており、また該ダッシュボード1の中央部や両側部にはエアコン風の吹出口が取り付けられている。
【0010】
本実施例においては、上記ステアリングコラム4の周辺部分を除く上記ダッシュボード1の表面の略全体と、上記センターコンソール2の表面全体と、をマスキング範囲としている。上記マスキング材10は、該マスキング範囲を保護するべく、またマスキング作業における利便性を考慮し、該マスキング範囲を一体的に被覆できるように、上記ダッシュボード1と上記センターコンソール2とが一体的となった形状を再現してなる。また該マスキング材10による形状の再現は、概略的なものである。具体的には該マスキング材10において、計器類3やグローブボックス5の形状、あるいは上記操作パネルや操作レバー、上記吹出口の形状等は再現されておらず、該マスキング材10は上記マスキング範囲を一律に被覆するように構成されている。
上記マスキング材10は、一度の装着作業で上記ダッシュボード1の表面の略全体と、上記センターコンソール2の表面全体と、いう大きなマスキング範囲を被覆することが可能であるという利点を有している。また上記マスキング材10の装着作業は、該マスキング材10を上記ダッシュボード1と上記センターコンソール2とに被せるのみであり、非常に簡単かつ短時間で終了する。そして、該マスキング材10は、自動車の車室内における各種内装材等の取付作業や、塗装作業等といった表面処理において、傷つきや塗料の付着等からマスキング範囲を保護する。
なお上記マスキング材10においては、上記ダッシュボード1に装着される部分と、上記センターコンソール2に装着される部分と、を必ずしも一体的に形成するとする必要はない。例えば、上記ダッシュボード1に装着される部分と、上記センターコンソール2に装着される部分とに分けて2つのマスキング材を構成してもよく、あるいは3つ以上の部分に分けて3つ以上のマスキング材を構成してもよい。あるいは、前記2つの部分に分けたマスキング材相互を、またあるいは3つ以上の部分に分けたマスキング材相互を、接着剤や粘着テープ等で接合して一体化し、1つのマスキング材としてもよい。
【0011】
上記マスキング材10の材料には、エラストマーが使用される。該エラストマーとしては、熱硬化性エラストマーと熱可塑性エラストマーとが挙げられ、具体例として、ポリウレタン系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、あるいはスチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−イソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、α−メチルスチレン−ブタジエン−α−メチルスチレンブロック共重合体、α−メチルスチレン−イソプレン−α−メチルスチレンブロック共重合体、スチレン−水素添加ポリオレフィン−スチレンブロック共重合体(SEBS、SEPS)等のスチレン系エラストマー等が挙げられる。これらの中でも、ポリウレタン系エラストマー、特に熱硬化性ポリウレタン系エラストマーは、耐熱性や耐久性に優れ、取り扱いが容易であるため、望ましい。
【0012】
上記マスキング材10の製造方法について説明する。
図2に示すように、上記製造方法の第1工程においては、簡易型20を母型とし、該簡易型から中空状の複製型20Aが複製される。
上記簡易型20は、上記マスキング範囲の形状、つまりは上記ダッシュボード1及び上記センターコンソール2の形状を概略的に再現するように形成されたものであり、上記マスキング材10と同じく、計器類3やグローブボックス5の形状、あるいは上記操作パネルや操作レバー、上記吹出口の形状等といった細かな形状は再現されていない。該簡易型20の材料には、石膏又は砂、あるいは熱可塑性樹脂や熱可塑性樹脂等の合成樹脂、あるいはアルミニウム、鉄、銅等の金属が挙げられるが、これらの中でも入手が容易であり、扱いやすく、材料費が安いという観点から、石膏又は砂を使用することが望ましく、型の成形が容易であるという観点から、石膏を使用することがより望ましい。
【0013】
上記簡易型20からの上記複製型20Aの複製は、熱可塑性樹脂製シートを用いた真空および/または圧空成形によって行われ、該熱可塑性樹脂製シートから上記簡易型20の形状を複製した複製型20Aが得られる。なお真空および/または圧空成形によって該複製型20Aを得る際、該複製型20Aの周囲に余剰部20Bが生じるが、該余剰部20Bはそのまま複製型20Aとともに使用してもよく、また切除してもよい。
【0014】
上記熱可塑性樹脂製シートは真空および/または圧空成形が可能なものであれば特に限定はされないが、複製型20Aとしての使用を考慮すれば、弾力性や、上記エラストマー、特にポリウレタン系エラストマーに対する離型性を有しているものが望ましく、このような熱可塑性樹脂としてポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)、アクリロニトリル-スチレン−共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、ポリカーボネート(PC)、アクリロニトリル-エチレン-スチレン共重合体(AES)、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、エチレン-プロピレン共重合体(EPR)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニリデン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等が挙げられる。
熱可塑性樹脂として上記したものの他に、ポリアミド(PA)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、変性ポリフェニレンエーテル(変性PPE)、ポリエステル、ポリアセタール(POM)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリスルホン(PSF)、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリアリレート(PAR)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、ポリエーテルイミド(PEI)、ポリアミノビスマレイミド、メチルペンテンコポリマー(TPX)、セルロースアセテート(CA)等の熱可塑性エンジニアリングプラスチックを用いてもよい。
また上記PPには、PEおよび/またはEPRによって変性したポリプロピレン(変性PP)を用いてもよい。さらにまた上記熱可塑性樹脂の二種以上を含むポリマーアロイまたはポリマーブレンドを使用してもよい。あるいは熱可塑性樹脂として、トウモロコシやサトウキビ等の澱粉から得られるポリ乳酸を原料とした生分解性樹脂を使用してもよい。これら熱可塑性樹脂の中でも、PP又は変性PPは、望ましい真空および/または圧空成形性を有し、深絞り成形が容易な材料であり、特に望ましい。
【0015】
図3に示すように、上記製造方法の第2工程においては、上記複製型20Aの一面である外面に液状のエラストマーEが塗布されて乾燥される。
液状のエラストマーEの塗布方法としては、スプレー塗布や刷毛塗り等といった通常の塗布方法が挙げられる。またポリウレタン系エラストマーであれば、スプレーガン等を用いて発泡・硬化させながら、ウレタンフォームを塗布するようにしてもよい。
図4に示すように、上記製造方法の第3工程においては、上記複製型20Aからエラストマーを剥がして該エラストマーからなる上記マスキング材10が得られる。
該マスキング材10の剥離を行いやすくするために、上記第2工程において、液状のエラストマーEを塗布する前に、上記複製型20Aの外面に、パラフィン等の通常の離型剤を塗布してもよい。
そして上記マスキング材10のみを量産する際には、上記第2工程と上記第3工程が繰り返し行われる。また複製型20Aをさらに必要とする場合には、上記第1工程から上記第3工程が繰り返し行われる。
【0016】
本発明は、上記した形態に限定されず、以下のように変更してもよい。
上記マスキング材10によるマスキング対象は、自動車用内装材であれば、ダッシュボード1やセンターコンソール2に限らず、ドアトリム、ピラーカバー、ラゲージトリム等としてもよい。また該マスキング対象は、自動車用内装材に限定されず、フェンダーパネル、ドアパネル、ボンネットフード、バンパー等といった自動車用外装材としてもよい。
上記第2工程では上記複製型20Aの一面である外面に液状のエラストマーEを塗布したが、上記複製型20Aの一面である内面に液状のエラストマーEを塗布してもよい。特に上記マスキング材10は部材の外側に被せるものであるので、上記複製型20Aの外面に液状のエラストマーEを塗布して形成しているが、例えば穴に嵌め入れる等のように部材を内側から保護するようなマスキング材であれば、複製型の内面に液状のエラストマーを塗布して形成することが望ましい。さらに、例えば穴等を介して外側と内側の両方を保護する必要がある部材のマスキング材であれば、複製型の両面である外面及び内面に液状のエラストマーを塗布することで、外側用と内側用のマスキング材を一度に形成することができる。
上記簡易型20は、マスキング対象とする実際の部材から型取りして形成してもよく、あるいはCAD、CAM等を使用して設計図から形成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0017】
本発明のマスキング材の製造方法は、マスキング材を簡易かつ安価に成形することが可能であるから、産業上利用可能である。
【符号の説明】
【0018】
10 マスキング材
20 簡易型
20A 複製型



【特許請求の範囲】
【請求項1】
部材上に定められたマスキング範囲を被覆し、保護するマスキング材の製造方法であって、
上記マスキング範囲の形状を概略的に再現してなる簡易型を使用し、熱可塑性樹脂製シートを用いた真空および/または圧空成形によって該簡易型から中空状の複製型を複製する第1工程と、
上記複製型の一面または両面に液状のエラストマーを塗布して乾燥する第2工程と、
上記複製型からエラストマーを剥がして該エラストマーからなる上記マスキング材を得る第3工程と、
を備える
ことを特徴とするマスキング材の製造方法。
【請求項2】
上記簡易型は、石膏又は砂を材料に用いて成形されたものである
請求項1に記載のマスキング材の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−103165(P2013−103165A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−248241(P2011−248241)
【出願日】平成23年11月14日(2011.11.14)
【出願人】(000243892)名古屋油化株式会社 (78)
【Fターム(参考)】