マスキング治具とマスキング方法
【課題】成形型の内面に凸部を形成しなくても実質的に良好なマスキングが可能となり、成形後の製品も基部材部分と別部材との間に隙間が生じることがないマスキング治具とマスキング方法を提供する。
【解決手段】基部材1内に別部材2を埋設した成形品Wの、基部材q又は別部材2の表面に塗料を塗布するとき、成形品Wを成形する成形型11上に載置された基部材1又は別部材2をカップ部材12で覆い、カップ部材12内の空気を吸引手段14により吸引し、カップ部材12を基部材1又は別部材2に取り付けることを特徴とする。
【解決手段】基部材1内に別部材2を埋設した成形品Wの、基部材q又は別部材2の表面に塗料を塗布するとき、成形品Wを成形する成形型11上に載置された基部材1又は別部材2をカップ部材12で覆い、カップ部材12内の空気を吸引手段14により吸引し、カップ部材12を基部材1又は別部材2に取り付けることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用品などを塗装するときに使用するマスキング治具とマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用品の塗装には、塗装時に塗料が吹きかからないようにするマスキングが行われているが、このマスキングには、従来から、マスキングテープ、マスキング治具などが使用されている。マスキングテープは、マスキングの位置精度が高く有効な方法であるが、貼り付けに時間が掛かるのみでなく、コストの面で問題がある。また、最近では、下記特許文献1に開示されているように、エアー噴射によるマスキングも採用されている。このようなエアーシールによるマスキングは、車体塗装のような大型の製品の塗装には、良好であっても、小物用品には不向きなことが多いことから、自動車用小物用品の塗装には、マスキング治具が使用されることが多い。
【特許文献1】実開平5−76553号公報(要約、図1、図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車用小物用品は、種々あるが、成形形態として、基部材の一部に別部材を一体的に取り付けるものがある。例えば、車両用空気調和装置の噴出し口あるいは操舵用のハンドル部材などは、所定形状に成形した基部材に対し別部材を一体成形して取り付け、しかも、基部材部分の表面に塗装を施すことがある。
【0004】
このような小物用品を樹脂モールドにより製造する場合には、前記別部材を成形型の内面に設置した後に、成形型内に樹脂を流し、別部材と基部材とを一体化することにより仕上げるが、前記基部材の表面に塗装を施す場合には、前記樹脂モールドする前に、成形型の内面の、予め別部材を設置する部分をマスキング治具により覆い、成形型の内面を塗装した後に、このマスキング治具を取外して樹脂モールドし、別部材と基部材部分を一体成形することがある。
【0005】
しかし、成形型の内面をマスキング治具により覆う場合、マスキング位置の精度を向上させるためには、前記成形型の内面に位置決め用の凸部を形成しなければならず、コスト的にも不利で、また作業性の面でも凸部の上あるいは凸部を基準としてマスキング治具を設置しなければならないという面倒さがある。さらに、このような凸部を形成すると、凸部間に別部材を設置した状態で樹脂モールドし、成形型から成形品を取り出すと、この凸部により基部材部分と別部材との間に隙間が生じることになり、この隙間が意匠的に好ましくないこともある。
【0006】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、成形型の内面に凸部を形成しなくても実質的に良好なマスキングが可能となり、成形後の製品も基部材部分と別部材との間に隙間が生じることがないマスキング治具とマスキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0008】
(1) 基部材に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときに使用するマスキング治具であって、前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材の少なくとも一方の上に設置されるカップ部材と、当該カップ部材内を負圧にし前記基部材又は別部材に吸着させる吸引手段と、を有する特徴とするマスキング治具。
【0009】
(2) 基部材内に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときのマスキング方法であって、前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材をカップ部材で覆い、当該カップ部材内の空気を吸引手段により吸引し、前記カップ部材を前記基部材又は別部材に取り付けることを特徴とするマスキング方法。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明は、成形型上に載置された基部材又は別部材をカップ部材で覆い、内部の空気を吸引手段により吸引して、前記カップ部材を基部材又は別部材に取り付けるため、成形型の内面に凸部を形成しなくてもマスキングすることができ、成形後の製品も基部材部分と別部材との間に隙間が生じることがない。
【0011】
また、吸引手段が吸引した空気をカップ部材が前記成形品と接する位置に向かって吹き出すと、エアー噴射によるマスキングも行うことができ、マスキングが確実になり、実質的に良好なマスキングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は本実施形態に係るマスキング治具を用いて成形する成形品を示す概略斜視図、図2は同成形品の概略断面図、図3は同実施形態に係るマスキング治具を示す概略断面図、図4は図3の要部拡大断面図である。
【0014】
本実施形態が成形する成形品Wとしては、例えば、車両用空気調和装置の噴出しグリルあるいは操舵用のハンドル部材などであり、図1,2に示すように、噴出しグリルやハンドル部材を構成する基部材1の一部に、例えば、木目状にプリントされた部材などの別部材2を一体的に形成するものである。
【0015】
このような成形品Wを成形する場合に使用されるマスキング治具10は、図3に示すように、成形型11上に載置された別部材2の上に設置されるカップ部材12と、カップ部材の通孔13に連通された吸引手段14と、吸引手段14から排出された排気を基部材1と別部材2との境界部分3に吐出する排気手段15と、を有している。
【0016】
さらに詳述する。カップ部材12は、別部材2の上面に密着して別部材2を覆いマスキングするものであるが、別部材2の外形形状よりやや小さくしている。
【0017】
例えば、別部材2の外形形状が、図1に示すように矩形であれば、カップ部材12もこの形状に対応する形状、つまり桝を伏せたような形状とし、図3,4より明らかなように、別部材2の外形形状よりやや小さな形状としている。
【0018】
このようにすれば、カップ部材12を別部材2の外形形状とぴったり一致するように取り付ける必要がなく、取り付け性が迅速で容易にできる利点があるのみでなく、後述する噴射ノズル16から噴射される排気が、別部材2の周縁である基部材1との境界部分3に向かいやすくなり、マスキングが確実になり、実質的に良好なマスキングが可能となる。
【0019】
カップ部材12の材質としては、金属あるいは樹脂など種々のものが使用できるが、取り扱いやすさからすれば、軽量な樹脂を使用することが好ましい。図1に示す成形品Wは、極めて簡素な例を示すものであるために、比較的平滑な形状をしており、カップ部材12も別部材2の上面に載置するのみで吸着状態となるが、基部材1あるいは別部材2の形状あるいは材質などによっては、上面が変形した凹凸状態であったり、硬い面あるいは柔軟な面であったり、種々の状況が考えられる。しかし、比較的柔軟な樹脂によりカップ部材12を形成すれば、別部材2の上面がどのようなものであっても、比較的容易に対処でき、より確実にカップ部材12を別部材2の上面に取り付けることができ、良好なマスキングを行うことができる。
【0020】
吸引手段14は、カップ部材12内の空気を吸引するものであればどのようなものであっても良いが、本実施形態では、カップ部材12の頂部に開設された通孔13からカップ部材12内の空気を吸引除去する吸引ポンプにより構成されている。カップ部材12の頂部に通孔13を開設すると、カップ部材12を別部材2の上面に密着させてマスキングしやすくなる。なお、吸引ポンプには、ロータリ式、レシプロ式、ダイアフラム式など種々のものがあり、どのようなものであってもよいが、より好ましくは小型のエジェクタ式のものが好ましい。
【0021】
特に、カップ部材12に吸引ポンプを取り付けると、カップ部材12のみを自由に持ち運ぶことができ、工場などに配管されているエアー配管を流れる空気を使用しなくても、カップ部材12を別部材2に取り付けやすく、マスキング時の利便性が向上する。
【0022】
本実施形態の排気手段15は、カップ部材12の側壁12aより径方向外方に突出された支持部17と、支持部17に取り付けられた噴射ノズル16と、一端が吸引手段14に他端が噴射ノズル16にそれぞれ連通された排気パイプPと、により構成されている。つまり、本実施形態では、吸引手段14が吸引した空気を、図4に示すように、別部材2の表面に向って噴射し、ここから周辺に向わせてエアーシールし、別部材2の表面に不必要に塗料が付着しないようにしている。
【0023】
次に、作用を説明する。
【0024】
図5〜図7は成形品の成形工程を順に示すもので、図5は成形型の上面に別部材を設置した断面図、図6はマスキングして塗装している状態を示す概略断面図、図7は基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図、図8〜図12は比較例として挙げた従来の成形品の成形工程を順に示すもので、図8はマスキングと塗装状態を示す概略断面図、図9はマスキングを外している状態を示す概略断面図、図10は基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図、図11は従来の成形品を示す概略断面図、図12は従来の成形品を示す概略斜視図である。
【0025】
本実施形態では、まず、図5に示すように、成形型11の上面に、予め成形した別部材2を、例えば、木目状にプリントされた側が下面となるように載置する。次に、図6に示すように、別部材2上にカップ部材12をセットし、吸引手段14である吸引ポンプを作動し、カップ部材12内の空気を通孔13より排気パイプPを通って排気する。これによりカップ部材12は、別部材2の上面に密着し、別部材2の上面をマスキングする。また、排気パイプPを通って噴射ノズル17から排出された空気は、別部材2の表面に沿って流れ、別部材2と、後に成形される基部材1との境界部分3をエアーシールすることになる。吸引手段14が吸引した空気を、カップ部材12が接する別部材2に向かって吹き出すと、エアーシールによるマスキングを行うことができ、実質的に良好なマスキングが可能となる。特に、別部材2と基部材1との境界部分3をエアーシールすると、後述する塗料Tを塗布したとき、塗料Tの付着を確実に防止できることになる。
【0026】
この状態で塗装ガン18より所定の塗料を、成形型11や別部材2に向って塗布すると、塗料Tはカップ部材12のマスキング機能と噴射ノズル17から排出された空気により別部材2の上面には塗布されず、成形型11の上面及び別部材2の側面に付着する。
【0027】
塗布した塗料Tが乾燥固化すると、マスキング治具10を別部材2の上面から除去する。除去に当たっては、吸引ポンプの作動を停止し、カップ部材12内の負圧状態を解消した後、型内塗装ロボットのアームを作動するなどして、カップ部材12を除去する。
【0028】
そして、図7に示すように、塗料Tが塗布された成形型11の上面と別部材2の上面に樹脂モールドし、基部材1を形成する。なお、前述の塗料Tを塗布する前に、予め成形型11の上面などに離型剤を塗布しておくと、基部材1を樹脂モールドにより形成したときに、離型が容易にできる。
【0029】
このように成形された本実施形態の成形品Wと、従来のマスキング方法で成形された成形品とを比較すると、その仕上がり状況の相違は明らかである。例えば、従来のマスキング方法では、まず、図8に示すように、成形型11の上面に形成した突起部11aの上にマスキング治具Jを載置してマスキングした状態で、塗装ガン18より塗料Tを塗布する。そして、図9に示すように、マスキングを外した後、図10に示すように、別部材2の上面などに基部材1の樹脂をモールドする。このため、成形品は、離型時に突起部11aの部分、つまり、基部材1と別部材2との間の部分に隙間Gが生じ、これが意匠的な点あるいは見切りなどで問題となる(図11、図12参照)。
【0030】
この点、本実施形態では、このような突起部11aを必要とせずマスキングができるため、図1、図2及び図6に示すように、基部材1と別部材2との間はぴったりと密着した状態に成形され、従来のものに比しより見切りの良い製品を成形できる。
【0031】
<変形例>
上述した実施形態の排気手段15では、支持部17は別部材2の上面とほぼ平行に側壁12aより突出され、噴射ノズル17は別部材2の上面にほぼ直交するように空気を噴射し、エアーシールしているが、これのみに限定されるものではない。
【0032】
図13は本発明の実施形態に係るマスキング治具の変形例を示す概略断面図であるが、図1などに示す部材と共通する部材には同一符号を付し、以下説明を省略する。
【0033】
前述したものでは、別部材2は、例示的に全体が平坦な形状をしたものを想定したので、排気手段15では、支持部17が別部材2の上面とほぼ平行に側壁12aより突出し、噴射ノズル17も別部材2の上面にほぼ直交するように空気を噴射しているが、図13に例示するように、別部材2が中央部2aの外周にリブ2bを有するものであり、リブ2bの外周面にも塗料Tを塗布する場合には、支持部17を別部材2の側壁12aより上向きに突出し、噴射ノズル17もリブ2bに傾斜して空気を噴射させても良く、また、噴射ノズル17の噴射方向を適宜調節し、成形品Wの形状に応じて吹き出しを変化させるようにしても良い。
【0034】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態は、カップ部材12を1つの別部材2に取り付けているが、これのみでなく基部材1に取り付けてもよく、場合によっては。複数の別部材2あるいは基部材1に対し複数のカップ部材12を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、基部材に別部材を一体化した自動車部品の製造を行なう場合に、基部材と別部材との間に隙間が生じない見切りの良い製品を、容易に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る成形品を示す概略斜視図である。
【図2】同成形品の断面図である。
【図3】本実施形態に係るマスキング治具を示す概略断面図である。
【図4】図3の要部拡大断面図である。
【図5】成形型の上面に別部材を設置した断面図である。
【図6】マスキングして塗装している状態を示す概略断面図である。
【図7】基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図である。
【図8】従来方法のマスキングと塗装状態を示す概略断面図である。
【図9】従来方法のマスキングを外している状態を示す概略断面図である。
【図10】従来方法の基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図である。
【図11】従来の成形品を示す概略断面図である。
【図12】従来の成形品を示す概略斜視図である。
【図13】本発明の実施形態に係るマスキング治具の変形例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…基部材、
2…別部材、
3…液圧注入部、
10…マスキング治具、
11…成形型、
12…カップ部材、
14…吸引手段、
15…排気手段、
16…噴射ノズル、
17a…吹き出し口、
W…成形品。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、自動車用品などを塗装するときに使用するマスキング治具とマスキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用品の塗装には、塗装時に塗料が吹きかからないようにするマスキングが行われているが、このマスキングには、従来から、マスキングテープ、マスキング治具などが使用されている。マスキングテープは、マスキングの位置精度が高く有効な方法であるが、貼り付けに時間が掛かるのみでなく、コストの面で問題がある。また、最近では、下記特許文献1に開示されているように、エアー噴射によるマスキングも採用されている。このようなエアーシールによるマスキングは、車体塗装のような大型の製品の塗装には、良好であっても、小物用品には不向きなことが多いことから、自動車用小物用品の塗装には、マスキング治具が使用されることが多い。
【特許文献1】実開平5−76553号公報(要約、図1、図4参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
自動車用小物用品は、種々あるが、成形形態として、基部材の一部に別部材を一体的に取り付けるものがある。例えば、車両用空気調和装置の噴出し口あるいは操舵用のハンドル部材などは、所定形状に成形した基部材に対し別部材を一体成形して取り付け、しかも、基部材部分の表面に塗装を施すことがある。
【0004】
このような小物用品を樹脂モールドにより製造する場合には、前記別部材を成形型の内面に設置した後に、成形型内に樹脂を流し、別部材と基部材とを一体化することにより仕上げるが、前記基部材の表面に塗装を施す場合には、前記樹脂モールドする前に、成形型の内面の、予め別部材を設置する部分をマスキング治具により覆い、成形型の内面を塗装した後に、このマスキング治具を取外して樹脂モールドし、別部材と基部材部分を一体成形することがある。
【0005】
しかし、成形型の内面をマスキング治具により覆う場合、マスキング位置の精度を向上させるためには、前記成形型の内面に位置決め用の凸部を形成しなければならず、コスト的にも不利で、また作業性の面でも凸部の上あるいは凸部を基準としてマスキング治具を設置しなければならないという面倒さがある。さらに、このような凸部を形成すると、凸部間に別部材を設置した状態で樹脂モールドし、成形型から成形品を取り出すと、この凸部により基部材部分と別部材との間に隙間が生じることになり、この隙間が意匠的に好ましくないこともある。
【0006】
本発明は、上記従来技術に伴う課題を解決するためになされたものであり、成形型の内面に凸部を形成しなくても実質的に良好なマスキングが可能となり、成形後の製品も基部材部分と別部材との間に隙間が生じることがないマスキング治具とマスキング方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的は、下記する手段により達成される。
【0008】
(1) 基部材に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときに使用するマスキング治具であって、前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材の少なくとも一方の上に設置されるカップ部材と、当該カップ部材内を負圧にし前記基部材又は別部材に吸着させる吸引手段と、を有する特徴とするマスキング治具。
【0009】
(2) 基部材内に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときのマスキング方法であって、前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材をカップ部材で覆い、当該カップ部材内の空気を吸引手段により吸引し、前記カップ部材を前記基部材又は別部材に取り付けることを特徴とするマスキング方法。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した本発明は、成形型上に載置された基部材又は別部材をカップ部材で覆い、内部の空気を吸引手段により吸引して、前記カップ部材を基部材又は別部材に取り付けるため、成形型の内面に凸部を形成しなくてもマスキングすることができ、成形後の製品も基部材部分と別部材との間に隙間が生じることがない。
【0011】
また、吸引手段が吸引した空気をカップ部材が前記成形品と接する位置に向かって吹き出すと、エアー噴射によるマスキングも行うことができ、マスキングが確実になり、実質的に良好なマスキングが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1は本実施形態に係るマスキング治具を用いて成形する成形品を示す概略斜視図、図2は同成形品の概略断面図、図3は同実施形態に係るマスキング治具を示す概略断面図、図4は図3の要部拡大断面図である。
【0014】
本実施形態が成形する成形品Wとしては、例えば、車両用空気調和装置の噴出しグリルあるいは操舵用のハンドル部材などであり、図1,2に示すように、噴出しグリルやハンドル部材を構成する基部材1の一部に、例えば、木目状にプリントされた部材などの別部材2を一体的に形成するものである。
【0015】
このような成形品Wを成形する場合に使用されるマスキング治具10は、図3に示すように、成形型11上に載置された別部材2の上に設置されるカップ部材12と、カップ部材の通孔13に連通された吸引手段14と、吸引手段14から排出された排気を基部材1と別部材2との境界部分3に吐出する排気手段15と、を有している。
【0016】
さらに詳述する。カップ部材12は、別部材2の上面に密着して別部材2を覆いマスキングするものであるが、別部材2の外形形状よりやや小さくしている。
【0017】
例えば、別部材2の外形形状が、図1に示すように矩形であれば、カップ部材12もこの形状に対応する形状、つまり桝を伏せたような形状とし、図3,4より明らかなように、別部材2の外形形状よりやや小さな形状としている。
【0018】
このようにすれば、カップ部材12を別部材2の外形形状とぴったり一致するように取り付ける必要がなく、取り付け性が迅速で容易にできる利点があるのみでなく、後述する噴射ノズル16から噴射される排気が、別部材2の周縁である基部材1との境界部分3に向かいやすくなり、マスキングが確実になり、実質的に良好なマスキングが可能となる。
【0019】
カップ部材12の材質としては、金属あるいは樹脂など種々のものが使用できるが、取り扱いやすさからすれば、軽量な樹脂を使用することが好ましい。図1に示す成形品Wは、極めて簡素な例を示すものであるために、比較的平滑な形状をしており、カップ部材12も別部材2の上面に載置するのみで吸着状態となるが、基部材1あるいは別部材2の形状あるいは材質などによっては、上面が変形した凹凸状態であったり、硬い面あるいは柔軟な面であったり、種々の状況が考えられる。しかし、比較的柔軟な樹脂によりカップ部材12を形成すれば、別部材2の上面がどのようなものであっても、比較的容易に対処でき、より確実にカップ部材12を別部材2の上面に取り付けることができ、良好なマスキングを行うことができる。
【0020】
吸引手段14は、カップ部材12内の空気を吸引するものであればどのようなものであっても良いが、本実施形態では、カップ部材12の頂部に開設された通孔13からカップ部材12内の空気を吸引除去する吸引ポンプにより構成されている。カップ部材12の頂部に通孔13を開設すると、カップ部材12を別部材2の上面に密着させてマスキングしやすくなる。なお、吸引ポンプには、ロータリ式、レシプロ式、ダイアフラム式など種々のものがあり、どのようなものであってもよいが、より好ましくは小型のエジェクタ式のものが好ましい。
【0021】
特に、カップ部材12に吸引ポンプを取り付けると、カップ部材12のみを自由に持ち運ぶことができ、工場などに配管されているエアー配管を流れる空気を使用しなくても、カップ部材12を別部材2に取り付けやすく、マスキング時の利便性が向上する。
【0022】
本実施形態の排気手段15は、カップ部材12の側壁12aより径方向外方に突出された支持部17と、支持部17に取り付けられた噴射ノズル16と、一端が吸引手段14に他端が噴射ノズル16にそれぞれ連通された排気パイプPと、により構成されている。つまり、本実施形態では、吸引手段14が吸引した空気を、図4に示すように、別部材2の表面に向って噴射し、ここから周辺に向わせてエアーシールし、別部材2の表面に不必要に塗料が付着しないようにしている。
【0023】
次に、作用を説明する。
【0024】
図5〜図7は成形品の成形工程を順に示すもので、図5は成形型の上面に別部材を設置した断面図、図6はマスキングして塗装している状態を示す概略断面図、図7は基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図、図8〜図12は比較例として挙げた従来の成形品の成形工程を順に示すもので、図8はマスキングと塗装状態を示す概略断面図、図9はマスキングを外している状態を示す概略断面図、図10は基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図、図11は従来の成形品を示す概略断面図、図12は従来の成形品を示す概略斜視図である。
【0025】
本実施形態では、まず、図5に示すように、成形型11の上面に、予め成形した別部材2を、例えば、木目状にプリントされた側が下面となるように載置する。次に、図6に示すように、別部材2上にカップ部材12をセットし、吸引手段14である吸引ポンプを作動し、カップ部材12内の空気を通孔13より排気パイプPを通って排気する。これによりカップ部材12は、別部材2の上面に密着し、別部材2の上面をマスキングする。また、排気パイプPを通って噴射ノズル17から排出された空気は、別部材2の表面に沿って流れ、別部材2と、後に成形される基部材1との境界部分3をエアーシールすることになる。吸引手段14が吸引した空気を、カップ部材12が接する別部材2に向かって吹き出すと、エアーシールによるマスキングを行うことができ、実質的に良好なマスキングが可能となる。特に、別部材2と基部材1との境界部分3をエアーシールすると、後述する塗料Tを塗布したとき、塗料Tの付着を確実に防止できることになる。
【0026】
この状態で塗装ガン18より所定の塗料を、成形型11や別部材2に向って塗布すると、塗料Tはカップ部材12のマスキング機能と噴射ノズル17から排出された空気により別部材2の上面には塗布されず、成形型11の上面及び別部材2の側面に付着する。
【0027】
塗布した塗料Tが乾燥固化すると、マスキング治具10を別部材2の上面から除去する。除去に当たっては、吸引ポンプの作動を停止し、カップ部材12内の負圧状態を解消した後、型内塗装ロボットのアームを作動するなどして、カップ部材12を除去する。
【0028】
そして、図7に示すように、塗料Tが塗布された成形型11の上面と別部材2の上面に樹脂モールドし、基部材1を形成する。なお、前述の塗料Tを塗布する前に、予め成形型11の上面などに離型剤を塗布しておくと、基部材1を樹脂モールドにより形成したときに、離型が容易にできる。
【0029】
このように成形された本実施形態の成形品Wと、従来のマスキング方法で成形された成形品とを比較すると、その仕上がり状況の相違は明らかである。例えば、従来のマスキング方法では、まず、図8に示すように、成形型11の上面に形成した突起部11aの上にマスキング治具Jを載置してマスキングした状態で、塗装ガン18より塗料Tを塗布する。そして、図9に示すように、マスキングを外した後、図10に示すように、別部材2の上面などに基部材1の樹脂をモールドする。このため、成形品は、離型時に突起部11aの部分、つまり、基部材1と別部材2との間の部分に隙間Gが生じ、これが意匠的な点あるいは見切りなどで問題となる(図11、図12参照)。
【0030】
この点、本実施形態では、このような突起部11aを必要とせずマスキングができるため、図1、図2及び図6に示すように、基部材1と別部材2との間はぴったりと密着した状態に成形され、従来のものに比しより見切りの良い製品を成形できる。
【0031】
<変形例>
上述した実施形態の排気手段15では、支持部17は別部材2の上面とほぼ平行に側壁12aより突出され、噴射ノズル17は別部材2の上面にほぼ直交するように空気を噴射し、エアーシールしているが、これのみに限定されるものではない。
【0032】
図13は本発明の実施形態に係るマスキング治具の変形例を示す概略断面図であるが、図1などに示す部材と共通する部材には同一符号を付し、以下説明を省略する。
【0033】
前述したものでは、別部材2は、例示的に全体が平坦な形状をしたものを想定したので、排気手段15では、支持部17が別部材2の上面とほぼ平行に側壁12aより突出し、噴射ノズル17も別部材2の上面にほぼ直交するように空気を噴射しているが、図13に例示するように、別部材2が中央部2aの外周にリブ2bを有するものであり、リブ2bの外周面にも塗料Tを塗布する場合には、支持部17を別部材2の側壁12aより上向きに突出し、噴射ノズル17もリブ2bに傾斜して空気を噴射させても良く、また、噴射ノズル17の噴射方向を適宜調節し、成形品Wの形状に応じて吹き出しを変化させるようにしても良い。
【0034】
本発明は、上述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲内で種々改変することができる。例えば、上述した実施形態は、カップ部材12を1つの別部材2に取り付けているが、これのみでなく基部材1に取り付けてもよく、場合によっては。複数の別部材2あるいは基部材1に対し複数のカップ部材12を使用することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、基部材に別部材を一体化した自動車部品の製造を行なう場合に、基部材と別部材との間に隙間が生じない見切りの良い製品を、容易に成形できる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本実施形態に係る成形品を示す概略斜視図である。
【図2】同成形品の断面図である。
【図3】本実施形態に係るマスキング治具を示す概略断面図である。
【図4】図3の要部拡大断面図である。
【図5】成形型の上面に別部材を設置した断面図である。
【図6】マスキングして塗装している状態を示す概略断面図である。
【図7】基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図である。
【図8】従来方法のマスキングと塗装状態を示す概略断面図である。
【図9】従来方法のマスキングを外している状態を示す概略断面図である。
【図10】従来方法の基部材を樹脂モールドした状態を示す概略断面図である。
【図11】従来の成形品を示す概略断面図である。
【図12】従来の成形品を示す概略斜視図である。
【図13】本発明の実施形態に係るマスキング治具の変形例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…基部材、
2…別部材、
3…液圧注入部、
10…マスキング治具、
11…成形型、
12…カップ部材、
14…吸引手段、
15…排気手段、
16…噴射ノズル、
17a…吹き出し口、
W…成形品。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基部材に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときに使用するマスキング治具であって、
前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材の少なくとも一方の上に設置されるカップ部材と、当該カップ部材内を負圧にし前記基部材又は別部材に吸着させる吸引手段と、を有するマスキング治具。
【請求項2】
前記吸引手段は、前記カップ部材に設けたことを特徴とする請求項1に記載のマスキング治具。
【請求項3】
前記吸引手段は、前記空気を、前記カップ部材が吸着された前記基部材又は別部材に向かって吹き出す排気手段と連通したことを特徴とする請求項1又は2に記載のマスキング治具。
【請求項4】
前記排気手段は、前記空気を、前記基部材と別部材との境界部分に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項3に記載のマスキング治具。
【請求項5】
前記排気手段は、前記成形品の形状に応じて吹き出しを変化させることを特徴とする請求項3又は4に記載のマスキング治具。
【請求項6】
基部材内に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときのマスキング方法であって、
前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材をカップ部材で覆い、当該カップ部材内の空気を吸引手段により吸引し、前記カップ部材を前記基部材又は別部材に取り付けることを特徴とするマスキング方法。
【請求項7】
前記吸引手段が吸引した空気を、前記カップ部材が吸着された前記基部材又は別部材に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項6に記載のマスキング方法。
【請求項8】
前記吸引手段が吸引した空気を、前記基部材と別部材との境界部分に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項6に記載のマスキング方法。
【請求項9】
前記吸引手段が吸引した空気の吹き出し位置を、前記成形品の形状に応じて変化させることを特徴とする請求項7又は8に記載のマスキング方法。
【請求項1】
基部材に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときに使用するマスキング治具であって、
前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材の少なくとも一方の上に設置されるカップ部材と、当該カップ部材内を負圧にし前記基部材又は別部材に吸着させる吸引手段と、を有するマスキング治具。
【請求項2】
前記吸引手段は、前記カップ部材に設けたことを特徴とする請求項1に記載のマスキング治具。
【請求項3】
前記吸引手段は、前記空気を、前記カップ部材が吸着された前記基部材又は別部材に向かって吹き出す排気手段と連通したことを特徴とする請求項1又は2に記載のマスキング治具。
【請求項4】
前記排気手段は、前記空気を、前記基部材と別部材との境界部分に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項3に記載のマスキング治具。
【請求項5】
前記排気手段は、前記成形品の形状に応じて吹き出しを変化させることを特徴とする請求項3又は4に記載のマスキング治具。
【請求項6】
基部材内に別部材を埋設した成形品の、前記基部材又は別部材の表面に塗料を塗布するときのマスキング方法であって、
前記成形品を成形する成形型上に載置された前記基部材又は別部材をカップ部材で覆い、当該カップ部材内の空気を吸引手段により吸引し、前記カップ部材を前記基部材又は別部材に取り付けることを特徴とするマスキング方法。
【請求項7】
前記吸引手段が吸引した空気を、前記カップ部材が吸着された前記基部材又は別部材に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項6に記載のマスキング方法。
【請求項8】
前記吸引手段が吸引した空気を、前記基部材と別部材との境界部分に向かって吹き出すようにしたことを特徴とする請求項6に記載のマスキング方法。
【請求項9】
前記吸引手段が吸引した空気の吹き出し位置を、前記成形品の形状に応じて変化させることを特徴とする請求項7又は8に記載のマスキング方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−245082(P2007−245082A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−74959(P2006−74959)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】
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