説明

マスキング治具

【課題】ワークのマスクしたい領域に表面処理が回り込むことを防止できるマスキング治具を提供する。
【解決手段】ワーク100に接触して電気的導通を行う第1の導通部11aと、第1の導通部11aがワーク100に接触した状態で、ワーク100の接合面100aに弾性変形して接触し、接合面100aをシールするゴムリング13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの一部に表面処理が施されないようにマスクをするマスキング治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、ワークに通電して表面処理を行うときに使用されるマスキング治具は、ワークとの導通を行うために金属により形成されていた。
しかし、金属製のマスキング治具では、マスキング治具及びワークの加工精度によっては、両者の密着が不十分となり、本来マスクしたい領域に表面処理が回り込んでしまうという問題があった。
【特許文献1】特開2002−263534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の課題は、ワークのマスクしたい領域に表面処理が回り込むことを防止できるマスキング治具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、以下のような解決手段により、前記課題を解決する。なお、理解を容易にするために、本発明の実施例に対応する符号を付して説明するが、これに限定されるものではない。
請求項1の発明は、ワーク(100)に接触して電気的導通を行う導通部(11a,11b,212a,212b)と、前記導通部が前記ワークに接触した状態で、前記ワークの非加工領域(100a)に弾性変形して接触し、前記非加工領域をシールするシール部材(13)と、を備えるマスキング治具(10,20)である。
請求項2の発明は、請求項1に記載のマスキング治具において、前記シール部材(13)は、前記非加工領域(100a)の周縁部に対応した位置に弾性変形量が他の部分よりも大きい大変形部を有すること、を特徴とするマスキング治具(10,20)である。
請求項3の発明は、ワークに接触して電気的導通を行う導通部(11a,11b,212a,212b)と、前記導通部以外の部分であって、電気的に導通可能な導体が露出していない非導通部(11h,211)と、を備えるマスキング治具(10,20)である。
請求項4の発明は、請求項3に記載のマスキング治具において、前記非導通部(11h)は、導体の表面を被覆する絶縁体であること、を特徴とするマスキング治具(10)である。
請求項5の発明は、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のマスキング治具において、ワーク(100)に対して接触しないでシールを行う非接触シール部を有すること、を特徴とするマスキング治具である。
請求項6の発明は、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のマスキング治具において、前記導通部(11a,11b,212a,212b)が前記ワーク(100)に対して導通可能となる状態で、前記ワークとは異なる複数のワーク(100−2,100−3)がお互いに導通可能かつ前記ワークと導通可能に並べて配置可能であること、を特徴とするマスキング治具(10,20)である。
請求項7の発明は、請求項6に記載のマスキング治具において、前記導通部(11a,11b,212a,212b)は、導体により形成されたワーク(100)に対して接触すること、を特徴とするマスキング治具(10,20)である。
なお、符号を付した構成は適宜改良してもよい。また、少なくとも一部を他の構成物に代替してもよく、その配置について特に限定のない構成要件は、実施例で開示した配置に限らない。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、ワークのマスクしたい領域に表面処理が回り込むことを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、図面等を参照しながら、本発明の実施の形態について、更に詳しく説明する。
【0007】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態のマスキング治具10を示す図である。
図1(a)は、ワークのマスク領域(非加工領域)に対向する側から見た図であり、図1(b)は、図1(a)中に示した矢印A−Aで切断した断面図である。
図2は、マスキング治具10とワーク100との関係を説明するために並べて示した断面図である。なお、本実施例のマスキング治具10は、後述するように、マスキング治具10とワーク100とを複数連ねて使用することが可能であるので、図2には、マスキング治具10と同一形状のマスキング治具10−2を併せて示している。
【0008】
ワーク100は、超音波モータ等の振動アクチュエータのステータとなる部分に設けられる所謂弾性体である。ワーク100は、例えば、ステンレス合金等の共振先鋭度が大きい金属材料からなり、円環状に形成されている。ワーク100には、不図示の圧電体が接着接合される接合面100aが設けられている。また、ワーク100の接合面100aと反対側には、径方向に複数の溝を切った櫛歯100dが形成されている。
【0009】
櫛歯100dの先端は、不図示のロータと加圧接触し、ワーク100に対してロータが相対的に移動を行う。したがって、櫛歯100dの先端は、摺動特性を良好にし、かつ、耐摩耗特性を高めることが望ましい。そこで、ワーク100には、表面処理として電気メッキ、例えば、ニッケル−リンメッキ等が施される。しかし、ワーク100の全体にメッキ等が施されると、圧電体との接着強度が低下してしまう場合がある。したがって、ワーク100をメッキ処理するときには、接合面100aをマスクして、接合面100aがメッキされないようにする必要がある。
また、ワーク100の接合面100aが設けられた側には、ワーク側第1の導通部100bが設けられ、これと反対側には、ワーク側第2の導通部100cが設けられている。ワーク側第1の導通部100b及びワーク側第2の導通部100cは、ワーク100を含む振動アクチュエータが完成品として駆動されるときには、他の部材と接触することが無く、メッキ処理がされてもされていなくてもよい位置に設けられている。
【0010】
第1実施形態のマスキング治具10は、ワーク100をメッキ処理(メッキ加工)するときに、ワーク100の接合面100aにメッキ処理(メッキ加工)がされないようにマスクを行う(覆う)治具であり、本体部11,ゴムリング13を備えている。
本体部11は、真鍮、ステンレス合金、アルミニウム等の導電性を有した金属性の材料により形成されており、第1の導通部11a,第2の導通部11b,ゴムつぶし部11c,11d,ゴム逃げ溝部11e,嵌合壁部11fを有し、図1(b)に示す断面形状を回転させた回転体形状となっている。
【0011】
第1の導通部11aは、ワーク側第1の導通部100bに接触し、表面処理時に必要なワーク100への通電を可能とする部分である。
ゴムつぶし部11c,11dは、第1の導通部11aがワーク側第1の導通部100bに接触した状態のときに、後述のゴムリング13の外周部及び内周部に接触し、ゴムリング13の外周部及び内周部をゴムリング13の他の部分よりも大きく変形させる部分である。
ゴム逃げ溝部11eは、ゴムつぶし部11cとゴムつぶし部11dとの間に設けられた溝である。このゴム逃げ溝部11eを設けたことにより、ゴムリング13がゴムつぶし部11c,11dに対応する位置で変形し易くなっている。
嵌合壁部11fは、本体部11の外周に設けられており、その内周がワーク100の外周と嵌合してワーク100の位置決めを行う部分である。
【0012】
第2の導通部11bは、マスキング治具10とワーク100とを複数連ねて使用するときに、各ワークと各マスキング治具との導通を確保するために必要な部分である。第2の導通部11bは、ワーク側第2の導通部100cに接触し、表面処理時に必要なワーク100への通電を可能とする。
図3は、マスキング治具10とワーク100とを複数連ねて使用する状態を示す断面図である。
図3では、ワーク100,100−2,100−3の3つのワークをまとめて表面処理するときに、マスキング治具10,10−2,10−3,10−4の4つのマスキング治具を使用している例を示したが、ワーク及びマスキング治具の数は、適宜変更可能である。
図3に示すように、複数のワーク及びマスキング治具を連ねて使用するときには、マスキング治具10の中央に設けられた嵌合孔11gにボルト部材201を嵌合させ、ワッシャ部材202,ナット部材203を用いてワーク及びマスキング治具を固定する。このような形態とすれば、ワーク100が導体であることにより、例えば、マスキング治具10−4、又は、ボルト部材201及びナット部材203及びワッシャ部材202を介してマスキング治具10に表面処理用の通電を行えば、全てのワークに対して通電を行える。
【0013】
本実施形態の本体部11の表面には、第1の導通部11a及び第2の導通部11bを除き、絶縁体11hにより被覆されている。なお、絶縁体11hは、図1に示した本体部11の断面において、太線で示した範囲に設けられている。絶縁体としては、例えば、エポキシ樹脂系塗料を用いたり、ポリエステル樹脂系塗料を用いたりするとよい。
本体部11の表面を絶縁体により被覆したことにより、ワーク100をメッキ処理したときに本体部11がメッキされてしまうことを防止できる。
本体部11がメッキされてしまうと、繰り返し使用することにより本体部11の寸法がメッキ厚により変化して、使用できなくなることがあり、また、メッキされた本体部11を使用すると、ワークよりも本体部11のメッキに対してメッキ処理が促進されてしまい、ワークに対するメッキが不十分となることもある。さらに、本来不要な本体部11に対するメッキを行うことにより、メッキ液の劣化が早まり、経済性、対環境性も悪化してしまう。
本実施形態では、本体部11の表面を絶縁体により被覆したので、上述のような問題が生じない。
【0014】
図1及び図2に戻って、ゴムリング13は、ワーク100をメッキ処理するときに、接合面100aと接触する位置に配置された円環状のゴムである。なお、ゴムリング13は、本体部11に対して単に載せるだけでもよいし、接着固定してもよい。ゴムリング13の厚さは、ゴムリング13を本体部11上に配置した状態でワーク100をセットしたときには、ワーク100の接合面100aがゴムリング13に接触して、第1の導通部11aがワーク側第1の導通部100bに接触しないような厚さとなっている。そして、図3に示したようにボルト部材201,ワッシャ部材202,ナット部材203を用いて、ゴムリング13が変形する方向に締め付けることにより、第1の導通部11aがワーク側第1の導通部100bに接触する。この第1の導通部11aがワーク側第1の導通部100bに接触して導通可能な状態では、ゴムリング13は、ゴムつぶし部11c,11dにより押されてその外周部及び内周部が他の部分に比べて大きく変形する。このようにゴムリング13の外周部及び内周部が他の部分に比べて大きく変形することにより、本体部11のゴムリング13を配置する面、及び、ゴムリング13の寸法精度によらず、メッキ処理時に、メッキ液がワーク100の接合面100aに進入することを防止できる。
【0015】
本実施形態によれば、ワーク100の接合面100aにメッキがされることを防止できる。また。マスキング治具がメッキされてしまうことを防止できる。さらに、複数のワークをマスキングしながらまとめてメッキできる。
【0016】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態のマスキング治具20を示す図である。なお、図4では、第1実施形態の図2と同様に、マスキング治具20と同一形状のマスキング治具20−2を併せて示している。
第2実施形態のマスキング治具20は、第1実施形態と同様にワーク100をマスクする治具であるが、第1実施形態の本体部11を2部品に分けて形成した例である。したがって、前述した第1実施形態と同様の機能を果たす部分には、同一の符号又は末尾に同一の符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
第2実施形態のマスキング治具20は、非導電性本体部211と、導電性本体部212とを有している。
非導電性本体部211は、例えば、フッ素樹脂等の非導電性の材料により形成されており、ゴムつぶし部211c,211d,ゴム逃げ溝部211e,嵌合壁部211fを有している。
導電性本体部212は、真鍮、ステンレス合金、アルミニウム等の導電性を有した金属性の材料により形成された円筒状の部材であり、非導電性本体部211内にインサート成形されており、第1の導通部212a,第2の導通部212bを備えている。なお、第1の導通部212a,第2の導通部212bは、第1実施形態における第1の導通部11a,第2の導通部11bに相当する部分である。
【0017】
先に示した第1実施形態では、本体部11の表面を絶縁体により被覆することによりマスキング治具10にメッキが付着することを防止している。これに対して、第2実施形態では、マスキング治具20の大部分を非導電性の材料により形成し、その一部に導電性を有した導電性本体部212を設けることにより、ワーク100への導通を確保しながら、マスキング治具20にメッキが付着することを防止している。このような形態とすることにより、マスキング治具の表面の絶縁体がはがれ落ちるようなこともなく、マスキング治具をより長く使用できる。
【0018】
(変形形態)
以上説明した実施形態に限定されることなく、種々の変形や変更が可能であって、それらも本発明の均等の範囲内である。
(1)各実施形態において、ゴムリング13の外周部及び内周部が他の部分に比べて大きく変形する例を示したが、これに限らず、例えば、ゴムリングの全体が略一様に変形するようにしてもよい。
【0019】
(2)各実施形態において、ワーク100の接合面100aは、平面である例を示したが、これに限らず、例えば、斜面をマスクしたり、凹凸形状の形成された領域をマスクしたりしてもよい。このような場合には、マスクする領域の周縁部に対応した位置において、シール部材の弾性変形量が他の部分よりも大きくなるようにするとともに、マスクする領域にマスキング治具が接触しない範囲を設けるとよい。そうすることにより、斜面、凹凸形状等、どのような形状をした領域であっても、マスクを行える。
【0020】
(3)各実施形態において、ゴムリング13の両側は、平面である例を示したが、これに限らず、例えば、ゴムリングの外周部分と内周部分を他の部分よりも弾性変形量が大きくなるように突出させてもよい。また、ゴムリングの代わりに、Oリングを複数配置してもよい。
【0021】
(4)各実施形態において、メッキ処理を行うときに使用するマスキング治具を例に挙げて説明したが、これに限らず、例えば、アルマイト処理後の表面に対する封孔処理等に用いることができる。
【0022】
(5)第2実施形態において、導電性本体部212は、円筒状の部材である例を示したが、これに限らず、例えば、棒状の部材を1カ所又は複数箇所に設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施形態のマスキング治具10を示す図である。
【図2】マスキング治具10とワーク100との関係を説明するために並べて示した断面図である。
【図3】マスキング治具10とワーク100とを複数連ねて使用する状態を示す断面図である。
【図4】第2実施形態のマスキング治具20を示す図である。
【符号の説明】
【0024】
10,20:マスキング治具、11:本体部、211:非導電性本体部、212:導電性本体部、11a,212a:第1の導通部、11b,212b:第2の導通部、13:ゴムリング


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワークに接触して電気的導通を行う導通部と、
前記導通部が前記ワークに接触した状態で、前記ワークの非加工領域に弾性変形して接触し、前記非加工領域をシールするシール部材と、
を備えるマスキング治具。
【請求項2】
請求項1に記載のマスキング治具において、
前記シール部材は、前記非加工領域の周縁部に対応した位置に弾性変形量が他の部分よりも大きい大変形部を有すること、
を特徴とするマスキング治具。
【請求項3】
ワークに接触して電気的導通を行う導通部と、
前記導通部以外の部分であって、電気的に導通可能な導体が露出していない非導通部と、
を備えるマスキング治具。
【請求項4】
請求項3に記載のマスキング治具において、
前記非導通部は、導体の表面を被覆する絶縁体であること、
を特徴とするマスキング治具。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のマスキング治具において、
ワークに対して接触しないでシールを行う非接触シール部を有すること、
を特徴とするマスキング治具。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載のマスキング治具において、
前記導通部が前記ワークに対して導通可能となる状態で、前記ワークとは異なる複数のワークがお互いに導通可能かつ前記ワークと導通可能に並べて配置可能であること、
を特徴とするマスキング治具。
【請求項7】
請求項6に記載のマスキング治具において、
前記導通部は、導体により形成されたワークに対して接触すること、
を特徴とするマスキング治具。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−308733(P2007−308733A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−136381(P2006−136381)
【出願日】平成18年5月16日(2006.5.16)
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】