説明

マスク用フィルタ

【課題】 高い抗菌作用、抗ウィルス作用を有し、粉塵濾過性能、通気性、強度及びマスクへの加工性に優れるマスク用フィルタの提供。
【解決手段】 ポリオレフィン繊維中に含有させた無機系抗菌剤微粒子が、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上でポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合でポリオレフィン繊維表面に露出しているか、又は0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合でポリオレフィン繊維表面に露出しているポリオレフィン繊維シートよりなる層を内側に有し、両表面に乾式不織布よりなる層を有する積層シートからなるマスク用フィルタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマスク用フィルタおよびそれを用いて形成したマスクに関する。より詳細には、本発明は、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン繊維から形成した抗菌性の繊維シートよりなる層を内側に有する両表面に乾式不織布よりなる層を有する積層シートからなるマスク用フィルタおよびそれを用いて形成したマスクに関する。本発明のマスク用フィルタは、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に位置する抗菌性のポリオレフィン繊維シートを構成するポリオレフィン繊維中に練り込まれている無機系抗菌剤微粒子が繊維表面から多数露出しているため、高い抗菌作用、抗ウィルス作用を安定して発揮することができ、しかも粉塵濾過性能および通気性に優れ、更に強度およびマスクへの加工性にも優れるため、本発明のマスク用フィルタを用いることによって、高い抗菌作用、抗ウイルス作用、粉塵濾過作用を有し、しかも着用時に息苦しくないマスクを、良好な作業性で簡単に且つ円滑に製造することができる。
【背景技術】
【0002】
クシャミ、咳、談話などで生ずる飛沫や空気を媒体としたウイルス性感染や細菌感染を防ぐために、従来からマスクが慣用されてきた。特に、近年、風邪やインフルエンザの流行、鳥インフルエンザやコロナウィルスに代表される新型感染病の発症、病院内での細菌感染やウイルス感染の予防などを受けて、抗菌効果を有するマスクや、マスク用素材の開発が行われている。抗菌性のマスクおよびマスク用素材に係る従来技術としては、表面に銀をメッキまたは蒸着によって付着させた合成繊維を含む織布などから形成したマスク(特許文献1)、基布を銀担持無機微粒子などの抗菌性微粒子を含有する分散液で処理して基布を構成する繊維の表面に銀担持無機微粒子などの抗菌性微粒子を被着させた後にエレクトレット化して得られる抗菌性帯電フィルターを用いて形成したマスク用フィルタ(特許文献2)、水酸基とカルボキシル基を同時に有するクエン酸、林檎酸、乳酸などのヒドロキシ酸を固定した繊維状基材を用いて形成した抗ウイルス性マスク(引用文献3)などが知られている。
【0003】
しかしながら、上記の特許文献1および2のマスクは、銀や銀担持無機微粒子などの抗菌剤を後加工により繊維表面や繊維製基布に付着させているため、加工工程が増えて生産上不利であり、しかも使用時などに抗菌剤が繊維表面から脱落したり、剥離し易く、抗菌効果の持続性の点で問題がある。その上、上記特許文献2のマスクに用いられる抗菌性帯電フィルタは、繊維表面が銀などの抗菌剤で覆われているために、エレクトレット加工を施して吸着能力を向上させようとしても、エレクトレット効果が阻害され、十分な吸着性能が得られにくく、しかも通気性が小さくなりがちで、マスクにしたときに息苦しくなり易く、またマスクへの加工性に劣るという問題がある。
また、上記の特許文献3のマスクで用いられているヒドロキシ酸は有機系抗菌剤であるため、耐熱性、安定性などが不十分であり、マスクを製造するための加工時、特に加熱して加工する際に、抗菌性能の低下が生じ易く、しかもヒドロキシ酸に特有の臭気が生じ易い。
【0004】
また、銀、銅、錫、亜鉛などの抗菌性の金属イオンを無機担体に担持させた無機系抗菌剤を練り込んだポリオレフィン繊維製の不織布などが知られている(特許文献4および5)。しかし、特許文献4および5などに記載されている、無機系抗菌剤を含有するポリオレフィン繊維から形成した従来の不織布では、無機系抗菌剤の大半がポリオレフィンで被覆された状態で繊維内部に存在していて繊維表面への露出が少ないため、無機系抗菌剤が有する抗菌作用を十分に発揮できない。しかも、無機系抗菌剤を含有するポリオレフィン繊維から形成した従来の不織布は、不織布を形成しているポリオレフィン繊維の繊維径がかなり大きく、それによって不織布の比表面積が大きくないために、これらの不織布をマスク用フィルタとして用いても、ウィルス、細菌などの病原体に対する抗菌効果を十分に発揮しにくい。
【0005】
【特許文献1】特開平11−19238号公報
【特許文献2】特開平11−267236号公報
【特許文献3】特開2005−198676号公報
【特許文献4】特開平5−153874号公報
【特許文献5】特開平8−325915号公報
【非特許文献1】「Industrial and Engineering Chemistry」,1956,Vol.48,No.8号,p.1342−1346
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、高い抗菌作用、抗ウィルス作用を有すると共に、当該抗菌作用、抗ウイルス作用の持続性に優れていて、マスクに加工して着用したときに、空気中に存在する細菌類、ウイルス類、黴類や、呼吸、咳、クシャミ、談話などに伴って人の鼻や口から排出される菌類やウイルス類などをマスクで捕捉・殺傷して、有害な菌類やウイルス類が、呼吸器官を通して人体に入り込んだり、逆に人体から空気中に撒き散らされるのを効果的に防ぐことのできるマスク用フィルタ、および当該マスク用フィルタを用いてなるマスクを提供することである。
さらに、本発明の目的は、上記した高い抗菌作用、抗ウイルス作用と併せて、粉塵濾過性能に優れていて、菌類やウイルスの防除だけでなく、空気中の粉塵等をもマスクで確実に捕捉して、粉塵等が体内に入るのを防ぐことのできるマスク用フィルタおよびそれからなるマスクを提供することである。
そして、本発明の目的は、通気性が良好で、着用したときに息苦しくなく、着用感に優れるマスクを形成できるマスク用フィルタ、および当該マスク用フィルタを用いてなるマスクを提供することである。
また、本発明の目的は、強度が高くてマスクに加工する際に破損などが生じず、しかもマスクへの加工性に優れていて、上記した優れた諸特性を有するマスクを、簡単な加工工程や処理操作で、円滑に、生産性良く製造することのできるマスク用フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記した目的を達成するために研究を行ってきた。そして、ポリオレフィン系樹脂中に練り込んだ無機系抗菌剤微粒子が、ポリオレフィン繊維の表面に多く露出していて、それによって無機系抗菌剤微粒子が本来有する高い抗菌作用を十分に且つ効果的に発揮する、抗菌作用およびその持続性に優れるポリオレフィン繊維シートを開発することができた。そこで、本発明者らは、前記した抗菌性のポリオレフィン繊維シートを用いてマスク用のフィルタを開発すべく、更に種々検討を重ねた。そして、その抗菌性のポリオレフィン繊維シートを内側に配置し、両表面に乾式不織布よりなる層を有する積層シートがマスク用フィルタとして適しているのではないかと考えて、当該積層シートをつくりその物性などについて調査した。
その結果、当該積層シートが、抗菌作用、抗ウィルス作用およびそれらの持続性に優れており、当該積層シートをフィルタとして用いて製造したマスクは、空気中に存在する細菌類、ウイルス類、黴類などの有害な微生物や、呼吸、咳、クシャミ、談話などに伴って人の鼻や口から排出される菌類やウイルス類などをマスクで捕捉・殺傷して、有害な菌類やウイルス類が、呼吸器官を通して人体に入り込んだり、逆に人体から空気中に撒き散らされるのを良好に防ぐことが判明した。
【0008】
さらに、本発明者らは、当該積層シートが、粉塵濾過性能および通気性にも優れており、当該積層シートをフィルタとして用いてマスク製造したマスクは、空気中の粉塵等をマスク部分で確実に捕捉して、粉塵等が体内に入るのを防ぐことができ、しかも通気性に優れていて、着用したときに息苦しくないことを見出した。
また、本発明者らは、当該積層シートは、強度が高く、更にマスクへの加工性に優れており、マスクへの加工時に破損などのトラブルを生ずることなく、簡単な加工工程で、上記した諸特性に優れるマスクを円滑に生産性良く製造できることを見出し、それらの知見に基づいて本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
(1) 下記のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)から選ばれる抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層を内側に有し、両表面に乾式不織布(II)よりなる層を有する積層シートからなることを特徴とするマスク用フィルタである。
ポリオレフィン繊維シート(Ia)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
ポリオレフィン繊維シート(Ib)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
【0010】
そして、本発明は、
(2) 抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維中に含まれる無機系抗菌剤微粒子の平均粒径が0.01〜10μmである前記(1)のマスク用フィルタ;および、
(3) 抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径が0.5〜15μmである前記(1)または(2)のマスク用フィルタ;
である。
【0011】
さらに、本発明は、
(4) 抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維が、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂(A)と無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン系樹脂(B)を混合したポリオレフィン系樹脂組成物であって且つポリオレフィン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFRA)(g/10分)とポリオレフィン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFRB)(g/10分)の差の絶対値が下記の数式(1)を満足するポリオレフィン系樹脂組成物から形成されている前記(1)〜(3)のいずれかのマスク用フィルタである。

0≦|MFRA−MFRB|≦600 (1)

[但し、MFRAおよびMFRBは、いずれも、JIS K 7210に従って、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件下に測定したときのメルトフローレート(単位:g/10分)である。]
【0012】
そして、本発明は、
(5) 抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)が、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を用いてメルトブロー法によって製造した不織布である前記(1)〜(4)のいずれかのマスク用フィルタ;
(6) マスク用フィルタをなす積層シートが、表面層をなす乾式不織布(II)と、抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)またはポリオレフィン繊維シート(Ib)との間に、無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン繊維からなるポリオレフィン繊維シート(III)よりなる層を更に有する前記(1)〜(5)のいずれかのマスク用フィルタ;および、
(7) 抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)が少なくともエレクトレット化されている前記(1)〜(5)のいずれかのマスク用フィルタ;
である。
【0013】
また、本発明は、
(8) 積層シートにおいて、当該積層シートを構成する各層がホットメルト樹脂を用いるかまたはエンボス加工により接着されている前記(1)〜(7)のいずれかのマスク用フィルタ;
(9) 乾式不織布(II)が、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布およびスパンレース不織布から選らばれた乾式不織布である前記(1)〜(8)のいずれかのマスク用フィルタ;
(10) フラジール法による通気度が10〜200cc/cm2/secである前記(1)〜(9)のいずれかのマスク用フィルタ;および、
(11) 前記(1)〜(10)のいずれかのマスク用フィルタを用いて形成したマスク;
である。
【発明の効果】
【0014】
本発明のマスク用フィルタでは、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に位置する抗菌性のポリオレフィン繊維製シート(I)において、ポリオレフィン系樹脂中に練り込んだ無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維の表面に多く露出しているため、無機系抗菌剤微粒子が本来有する高い抗菌作用を十分に且つ効果的に発揮されて、抗菌作用およびその持続性に優れている。
さらに、本発明のマスク用フィルタでは、マスク用フィルタをなす積層シートの両表面が乾式不織布(II)よりなる層からなっているため、前記した抗菌性のポリオレフィン繊維製シート層が乾式不織布(II)で保護されるために、ポリオレフィン繊維製シートの繊維から無機系抗菌剤微粒子が脱落しにくく、抗菌作用の持続性に優れている。
そのため、本発明のマスク用フィルタを用いて製造したマスクは、空気中に存在する細菌類、ウイルス類、黴類などの有害な微生物や、呼吸、咳、クシャミ、談話などに伴って人の鼻や口から排出される菌類やウイルス類などをマスクで捕捉・殺傷して、有害な菌類やウイルス類が、呼吸器官を通して人体に入り込んだり、逆に人体から空気中に撒き散らされるのを良好に防ぐことができる。
【0015】
さらに、マスク用フィルタは、粉塵などの濾過性能(捕捉性能)および通気性にも優れているため、当該マスク用フィルタを用いて製造したマスクは、空気中の粉塵等をマスク部分で確実に捕捉して、粉塵等が体内に入るのを防ぐことができ、しかも着用したときに息苦しくなく、着用感に優れている。
特に、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に位置する抗菌性のポリオレフィン繊維シートを少なくともエレクトレット化して帯電させたものでは、粉塵などの濾過性能(捕捉性能)により優れている。
その上、本発明のマスク用フィルタは、強度が高く、マスクへの加工性に優れており、マスクへの加工時に破損などのトラブルを生ずることなく、簡単な加工工程で、上記した諸特性に優れるマスクを円滑に生産性良く製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のマスク用フィルタは、抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層を内側に有し、両表面に乾式不織布(II)よりなる層を有する積層シートからなり、当該積層シートの内側の前記ポリオレフィン繊維シート(I)は、下記のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)から選ばれる。
ポリオレフィン繊維シート(Ia)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
ポリオレフィン繊維シート(Ib)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
【0017】
ポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)では、繊維を形成するポリオレフィン系樹脂組成物中に溶融混練などによって練り込まれた無機系抗菌剤微粒子が、繊維を形成するポリオレフィン系樹脂中(ポリオレフィン繊維中)に完全に埋没せずに、当該ポリオレフィン系樹脂組成物からなるポリオレフィン繊維の表面に多数露出している。
【0018】
ポリオレフィン繊維シート(Ia)は、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所(以下これを「無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所」ということがある)を、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上という多割合で有していて、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維中に完全に埋没しておらず、無機系抗菌剤微粒子が繊維外に多数顕われていることによって、無機系抗菌剤微粒子自体の抗菌作用が十分に発揮されて高い抗菌特性を有する。
ポリオレフィン繊維シート(Ia)では、無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所の数が、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり2箇所以上であることが好ましく、3箇所以上であることがより好ましく、4箇所以上であることが更に好ましい。
ポリオレフィン繊維シート(Ia)では、「無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所を、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する」という要件を満たす限りは、当該露出部分のSEM写真に基づいて算出される面積が0.01μm2未満であっても構わない。
【0019】
無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維の表面から露出しているか否かは、ポリオレフィン繊維シートを、ポリオレフィン繊維シートの表面側から走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した写真(「SEM写真」から判別することができる。ポリオレフィン繊維の表面から露出している無機微粒子部分は、ポリオレフィン系樹脂よりなる繊維部分に比べて明色になっており、繊維を形成しているポリオレフィン系樹脂部分と明確に区別できる。
【0020】
ポリオレフィン繊維シート(Ia)では、ポリオレフィン繊維シートの表面を撮影したSEM写真における無機系抗菌剤微粒子が露出した明色部分のサイズおよび数を測定することによって、無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所のポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たりの数を調べることができる。
具体的には、無機系抗菌剤微粒子が球形または球形に近い形状である場合は、ポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分は、SEM写真では、常に所定の直径を有する円または円に近い形状として撮影されるので(球の断面はどこをとっても円形)、その円の直径を測定して、球形をなす無機系抗菌剤微粒子の平均粒径と対比することによって、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維表面から露出しているか否かを判定することができる。
例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影された写真において、球形の無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維表面から露出している部位に相当する円の直径が無機系抗菌剤微粒子の平均粒径と同じであれば、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/2以上がポリオレフィン繊維表面から露出していることになる。また、無機系抗菌剤微粒子の露出部分に相当する撮影された円の直径が無機系抗菌剤微粒子の平均粒径の1/20以上であれば、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維表面から露出していることになる。
【0021】
一方、ポリオレフィン系樹脂中に含有させる無機系抗菌剤微粒子の形状が球形または球形に近い形状をなしていない場合は、SEM写真におけるポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分の形状は必ずしも円形またはそれに近い形状にはならない。また、ポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分の撮影された形状がたまたま円形またはそれに近い形状であっても、露出部分の体積が無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上になっていないことがある。そのような場合には、SEM写真における無機系抗菌剤微粒子の露出部分のサイズからは、無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維の表面から露出しているか否かを判定することが困難になり易い。そのため、無機系抗菌剤微粒子が球形または球形に近い形状でない場合は、露出部分の体積割合を求めるのではなく、SEM写真に基づく無機系抗菌剤微粒子の露出部分の面積によって、その露出程度を判定する。
【0022】
本発明のマスク用フィルタでは、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に配置するポリオレフィン繊維シート(I)として、ポリオレフィン繊維シートの表面のSEM写真において、無機系抗菌剤微粒子が、0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所が、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上存在している上記したポリオレフィン繊維シート(Ib)を用いた場合にも、ポリオレフィン繊維シート(Ib)を形成しているポリオレフィン繊維の表面に無機系抗菌剤微粒子が多数露出していることによって、ポリオレフィン繊維シート(Ia)を用いた場合と同様に、マスク用フィルタに高い抗菌性能を付与することができる。
ポリオレフィン繊維シート(Ib)では、無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所が、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり2箇所以上であることが好ましく、3箇所以上であることがより好ましく、4箇所以上であることが更に好ましい。
ポリオレフィン繊維シート(Ib)では、「無機系抗菌剤微粒子が、0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所が、ポリオレフィン繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上存在する」という要件を満たす限りは、ポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分の体積が無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100未満であっても構わない。
【0023】
ポリオレフィン繊維中に含有させる無機系抗菌剤微粒子が球形または球形に近い形状の場合は、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に位置するポリオレフィン繊維シートは、ポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)のいずれか一方に該当するものであってもよいし、または両方に該当するものであってもよい。
【0024】
ポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)の表面を走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した写真には、ポリオレフィン繊維シートの最表面に位置するポリオレフィン繊維と共に、その奥(内側)に位置するポリオレフィン繊維も写っているが、写真からは最表面に位置するポリオレフィン繊維と内側に位置するポリオレフィン繊維の判別が難しいことが多いので、本発明では、ポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分のサイズや数の測定に当たっては、最表面に位置するポリオレフィン繊維であるかまたは内側に位置するかポリオレフィン繊維であるかを区別せずに、SEM写真に写っているポリオレフィン繊維のすべてを対象としてポリオレフィン繊維の表面から露出している無機系抗菌剤微粒子部分のサイズや数を測定するものとし、したがってポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)における上記規定は、そのようにして測定したときの値をいう。
【0025】
ポリオレフィン繊維シート(I)[すなわちポリオレフィン繊維シート(Ia)および(Ib)、以下同じ]を構成するポリオレフィン繊維中に含有させる無機系抗菌剤微粒子としては、繊維やポリオレフィン繊維シート(I)を製造する際の断糸、無機系抗菌剤微粒子の脱落、「ショット」(繊維状にならないポリマー玉)の発生などを防止する観点から、平均粒径0.01〜10μmのものが好ましく、0.1〜8μmのものがより好ましく、0.3〜6μmのものが更に好ましい。無機系抗菌剤微粒子の平均粒径が10μmよりも大きいと、繊維やポリオレフィン繊維シート(I)を製造する際に断糸、繊維からの無機系抗菌剤微粒子の脱落、ショットの発生などが起き易くなり、一方0.01μm未満であると無機系抗菌剤微粒子の凝集などが生じて、ポリオレフィン繊維中に均一に混合されにくくなる。
本明細書における無機系抗菌剤微粒子の平均粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を使用して測定される平均粒径であり、その具体的な測定法は以下の実施例に記載するとおりである。
【0026】
ポリオレフィン繊維シート(I)を構成するポリオレフィン繊維中に含有させる無機系抗菌剤微粒子としては、人体に対して安全で、繊維の溶融紡糸時の加熱などにより揮発、分解、変質などを生じず、かつ短期間で抗菌作用が低下しない無機系抗菌剤微粒子のいずれもが使用できる。
本発明で用い得る無機系抗菌剤微粒子の例としては、銀イオン、銅イオン、亜鉛イオン、錫イオンなどの抗菌作用を有する金属イオンを無機担体に保持させた無機系抗菌剤微粒子、酸化チタン系無機系抗菌剤微粒子などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
抗菌性を有する金属イオンを無機担体に保持させた無機系抗菌剤微粒子では、無機担体の種類は特に制限されず、ポリオレフィン繊維シート(I)の劣化作用などを示さないものであればいずれも使用でき、イオン交換能や金属イオン吸着能を有していて金属イオンの保持能の高い無機担体が好ましく用いられる。そのような無機担体の例としては、ゼオライト、リン酸ジルコニウム、リン酸カルシウムなどを挙げることができ、そのなかでも高いイオン交換能を有するゼオライトが特に好ましい。
上記した無機系抗菌剤微粒子のうちでも、銀イオンを前記した無機担体に保持させた無機系抗菌剤微粒子が特に好ましく用いられる。
【0027】
ポリオレフィン繊維シート(I)を形成するポリオレフィン繊維中の無機系抗菌剤微粒子の含有量は、特に制限されず、繊維を形成するポリオレフィンの種類、繊維繊度、無機系抗菌剤微粒子の種類や粒子径などに応じて調整することができる。一般的には、紡糸時のトラブル防止などの点から、ポリオレフィン繊維を形成するポリオレフィン系樹脂組成物の質量(無機系抗菌剤微粒子などをも含むポリオレフィン系樹脂組成物の質量)に基づいて、無機系抗菌剤微粒子の含有量は、0.01〜10質量%であることが好ましく、0.05〜5質量%であることがより好ましく、0.1〜2質量%であることが更に好ましい。
【0028】
ポリオレフィン繊維シート(I)を形成するポリオレフィン繊維は、その平均繊維径が、0.5〜15μmであることが好ましく、0.7〜10μmであることがより好ましく、0.8〜7μmであることが更に好ましく、1〜5μmであることが一層好ましい。当該ポリオレフィン繊維の平均繊維径を、前記範囲にすることによって、ポリオレフィン繊維中に含有させた無機系抗菌剤微粒子の繊維表面からの露出度や露出数が大きくなって、ポリオレフィン繊維シート(I)の抗菌性能が一層高くなり、しかも柔軟性、フィルタ性能に優れたものとなる。ポリオレフィン繊維の平均繊維径が0.5μm未満であるとポリオレフィン繊維シート(I)の強度不足、取り扱い性不良などが生ずることがある。一方、ポリオレフィン繊維の平均繊維径が15μmを超えると、ポリオレフィン繊維中に含まれる無機系抗菌剤微粒子のポリオレフィン繊維表面からの露出度が低下して、ポリオレフィン繊維シート(I)の抗菌性能が低下する。
なお、本明細書でいうポリオレフィン繊維シートを形成するポリオレフィン繊維の平均繊維径は、ポリオレフィン繊維シートを走査型電子顕微鏡(SEM)にて撮影した写真から測定した繊維径から求められる平均値であり、その詳細については以下の実施例に記載するとおりである。
【0029】
ポリオレフィン繊維シート(I)の厚さは、製造安定性、取り扱い性、抗菌効果、塵埃などの除去性(分離性)、マスクへの加工性などの点から、0.05〜5mmであることが好ましく、0.1〜3mmであることがより好ましく、0.15〜2mmであることが更に好ましい。ポリオレフィン繊維シート(I)が薄すぎると、強度の低下、抗菌効果や塵埃などの除去効果の低下、乾式不織布と積層する際の取り扱い性の不良、形態維持不良などが生じ易くなり、一方ポリオレフィン繊維シート(I)が厚すぎると、ポリオレフィン繊維シートと乾式不織布との積層シートかならるマスク用フィルタが重くなったり、柔軟性が失われて、取り扱い性、マスクへの加工性、マスクの着用性などが劣るものになり易い。
【0030】
ポリオレフィン繊維シート(I)の目付は、製造安定性、取り扱い性などの点から、3〜200g/m2であることが好ましく、5〜100g/m2であることがより好ましく、10〜50g/m2であることが更に好ましい。
ポリオレフィン繊維シート(I)の目付が3g/m2未満であると、強度が低くなり、一方200g/m2を超えると、重くなったり、柔軟性が失われたりして、取り扱い性が劣るものになり易い。
【0031】
当該ポリオレフィン繊維を形成するポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどのポリオレフィン樹脂を挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。そのうちでも、特にポリプロピレンが、特にメルトブロー法によってポリオレフィン繊維シート(I)を製造する際の成形性に優れており、しかも低コストであることから好ましく用いられる。
さらに、無機系抗菌剤微粒子を含有させたポリオレフィン系樹脂組成物を用いて、メルトブロー法によってポリオレフィン繊維シート(I)を製造する場合には、無機系抗菌剤微粒子がポリマー中に含まれていることによって、「ショット」と称されるポリマー玉が非常に発生し易くなる。ショットの多発したポリオレフィン繊維シート(不織布)をマスク用フィルタに用いると「漏れ」が生ずるが、ポリプロピレンを用いてポリオレフィン繊維シート(I)を形成すると、そのようなショットの発生を防ぐことができる。
【0032】
また、ポリオレフィン繊維を形成するポリオレフィン系樹脂としては、JIS K 7210に基づいて、温度230℃、荷重2.16kgおよび測定時間10分の条件下で測定したメルトフローレート(MFR)が5〜2500g/10分、特に40〜1600g/10分のものが好ましく用いられる。MFRが前記範囲のポリオレフィン系樹脂を用いることによって、ポリオレフィン繊維シート(I)を製造する際の繊維化が円滑に且つ均一に行われて、繊維径が細く、地合が均一となる。なお、ポリオレフィン繊維を形成するポリオレフィン系樹脂が、2種以上のポリオレフィン系樹脂の混合物である場合は、前記したMFRは、2種以上のポリオレフィン系樹脂の混合物のMFRをいう。
【0033】
特に、ポリオレフィン繊維シート(I)の製造に当たっては、ポリオレフィン系樹脂中に無機系抗菌剤微粒子を一度に混合してポリオレフィン系樹脂組成物をつくり、それを用いてポリオレフィン繊維シート(I)を製造してもよいが、無機系抗菌剤微粒子をポリオレフィン繊維の表面に多数露出させて、高い抗菌作用を有するポリオレフィン繊維シート(I)を円滑に得るためには、ポリオレフィン繊維シート(I)の製造に用いる無機系抗菌剤微粒子含有ポリオレフィン系樹脂組成物を次のようにして調製することが好ましい。
すなわち、メルトフローレートの差の絶対値が下記の数式(1)を満足するポリオレフィン系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を使用し、無機系抗菌剤微粒子をポリオレフィン系樹脂(A)の溶融下に混合してポリオレフィン系樹脂(A)の組成物をつくり、その組成物を無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン系樹脂(B)と混合して無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物をつくった後に、そのポリオレフィン系樹脂組成物を用いてポリオレフィン繊維シート(I)を製造することが好ましい。

0≦|MFRA−MFRB|≦600 (1)

[上記式中、MFRAはポリオレフィン系樹脂(A)のメルトフローレート、MFRBはポリオレフィン系樹脂(B)のメルトフローレートであり、両メルトフローレートはいずれも、JIS K 7210に従って、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件下に測定したときのメルトフローレート(単位:g/10分)である。]
【0034】
上記の数式(1)を満たすポリオレフィン系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を用いて上記した方法で調製して無機系抗菌剤微粒子含有ポリオレフィン系樹脂組成物を用いてポリオレフィン繊維シート(I)を製造するに当たっては、ポリオレフィン系樹脂(A)のMFRAとポリオレフィン系樹脂(B)のMFRBの差の絶対値は、400以下であることがより好ましく、0〜300であることが更に好ましい。
【0035】
ポリオレフィン系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を使用し、ポリオレフィン系樹脂(A)中に無機系抗菌剤微粒子を予め混合し、それにポリオレフィン系樹脂(B)を混合して無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製し、当該ポリオレフィン系樹脂組成物を用いてポリオレフィン繊維シート(I)を製造するに当たっては、ポリオレフィン系樹脂(A)(無機系抗菌剤微粒子を含有させる前の樹脂):ポリオレフィン系樹脂(B)の使用割合は、質量比で、99:1〜1:99であることが好ましく、80:20〜3:97であることがより好ましく、50:50〜5:95であることが更に好ましい。
【0036】
ポリオレフィン系樹脂(A)とポリオレフィン系樹脂(B)を使用して上記した方法で無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製するに当たっては、二軸押出機などを使用して押し出しながらポリオレフィン系樹脂(A)に無機系抗菌剤微粒子を混合した後にそれにポリオレフィン系樹脂(B)を混合してもよいし、またはマスターバッチを用いてチップブレンドの後に押出してもよい。マスターバッチ法による場合は、例えば、ポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂(A)に無機系抗菌剤微粒子を練り込んだマスターバッチを準備し、これにポリプロピレンなどのポリオレフィン系樹脂(B)を混合して無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を調製することによって、無機系抗菌剤微粒子のポリオレフィン系樹脂中での分散が良好となり、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維に露出しやすくなる。
【0037】
ポリオレフィン系樹脂中への無機系抗菌剤微粒子の混合装置としては、無機系抗菌剤微粒子をポリオレフィン系樹脂中に均一に混合し得る装置であればいずれのものも使用でき、二軸押出機などの混練装置を使用することが、ポリオレフィン系樹脂中に無機系抗菌剤微粒子を生産性よく、均一に混合できる点から好ましい。
【0038】
ポリオレフィン繊維シート(I)におけるポリオレフィン繊維を形成する無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて他の重合体や添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、例えば酸化防止剤、ラジカル吸収剤、紫外線吸収剤などの耐候安定剤、界面活性剤、顔料などを挙げることができる。
【0039】
ポリオレフィン繊維シート(I)の製造に当たっては、上記した特性を備えるポリオレフィン繊維シート(Ia)および/またはポリオレフィン繊維シート(Ib)を製造し得る方法であればいずれの方法を採用してもよく、そのうちでも、メルトブロー法によってポリオレフィン繊維シート(I)を製造することが極めて好ましい。メルトブロー法によってポリオレフィン繊維シート(I)を製造することによって、ポリオレフィン繊維シート(I)を形成するポリオレフィン繊維の平均繊維径が一般に15μm以下、更には10μm以下、特に5μm以下と極めて小さくなり、それに伴って無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維シート(I)を形成するポリオレフィン繊維の表面から多く露出していて高い抗菌作用を有し、しかも柔軟性、フィルタ性能などに優れるポリオレフィン繊維シート(I)を円滑に製造することができる。
【0040】
メルトブロー法によるポリオレフィン繊維シート(不織布)の製造方法については、非特許文献1にメルトブロー法についての基本的な装置および方法が開示されて以来、多くの方法が提案されている。ポリオレフィン繊維シートをメルトブロー法で製造するに当たっては、非特許文献1に記載されている方法や、その他従来から知られている既知のメルトブロー法を採用することができる。
例えば、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物をメルトブロー不織布製造装置に供給して、そのエクストルーダー(押出機)で160〜340℃にて溶融した後、複数の紡糸孔が一列に配列した口金から温度200〜320℃で吐出すると同時に紡糸孔の近傍に設けたスリットから200〜330℃の加熱空気を噴出させて吐出した繊維を細化し、それを下方に位置するネットコンベアなどの上に捕集することによってポリオレフィン繊維シートを製造することができる。
【0041】
本発明のマスク用フィルタでは、マスク用フィルタをなす積層シートは、乾式不織布(II)/ポリオレフィン繊維シート(I)/乾式不織布(II)からなる3層構造を有していてもよいし、または表面層をなす乾式不織布(II)と内側に位置するポリオレフィン繊維シート(I)との間に、無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィンを用いて形成したポリオレフィン繊維よりなるシート[すなわちポリオレフィン繊維シート(III)]よりなる層を更に有していてもよい。乾式不織布(II)よりなる表面層とポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層の間にポリオレフィン繊維シート(III)よりなる層を更に設けることにより、マスク用フィルタをなす積層シートの厚さ、目付、通気度、捕集効率の調整などをより緻密に行うことができる。
【0042】
本発明のマスク用フィルタが、ポリオレフィン繊維シート(III)を更に有する積層シートからなる場合は、当該積層シートの層構造としては、
(a) 乾式不織布(II)(マスクにしたときの表面側)/ポリオレフィン繊維シート(III)/ポリオレフィン繊維シート(I)/乾式不織布(II)(マスクにしたときの口許側);
(b) 乾式不織布(II)(マスクにしたときの表面側)/ポリオレフィン繊維シート(I)/ポリオレフィン繊維シート(III)/乾式不織布(II)(マスクにしたときの口許側);
(c) 乾式不織布(II)(マスクにしたときの表面側)/ポリオレフィン繊維シート(III)/ポリオレフィン繊維シート(I)/ポリオレフィン繊維シート(III)/乾式不織布(II)(マスクにしたときの口許側);
などを挙げることができる。
【0043】
無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン繊維よりなるポリオレフィン繊維シート(III)としては、無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン系樹脂を用いて製造したメルトブロー不織布、スパンボンド不織布が、接着性、通気性の点から好ましく用いられる。
ポリオレフィン繊維シート(III)を構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径は、ポリオレフィン繊維シート(I)と同じように、0.5〜15μmであることが好ましく、0.7〜10μmであることがより好ましく、0.8〜7μmであることが更に好ましく、1〜5μmであることが一層好ましい。
また、ポリオレフィン繊維シート(III)の目付は、5〜100g/m2であることが好ましく、10〜70g/m2であることがより好ましく、10〜50g/m2であることが更に好ましい。
ポリオレフィン繊維シート(III)の厚さは、0.05〜5mmであることが好ましく、0.1〜3mmであることがより好ましく、0.15〜2mmであることが更に好ましい。
【0044】
ポリオレフィン繊維シート(I)、またはポリオレフィン繊維シート(I)とポリオレフィン繊維シート(III)は、本発明のマスク用フィルタにおける塵埃などの除去効率(濾過効率、捕捉率)を向上させるために、エレクトレット化(帯電処理)しておくことが好ましい。特に、ポリオレフィン繊維シート(I)およびポリオレフィン繊維シート(III)を構成するポリオレフィン繊維がポリプロピレンからなっている場合は、工業的にエレクトレット化しやすく、また帯電効果が長期間安定して持続するので好ましい。ポリオレフィン繊維シート(I)およびポリオレフィン繊維シート(III)のエレクトレット化は、一般的なエレクトレット化設備を用いて行うことができる。エレクトレット化方法および条件としては、代表的には、針状電極を使用して、電極距離10〜50mm、印加電圧10〜50kV、温度20〜120℃の条件下で行うのがよい。
【0045】
本発明のマスク用フィルタをなす積層シートが両表面に有する乾式不織布(II)としては、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布、機械結合不織布(スパンレース不織布、ニードルパンチング不織布等)などを挙げることができ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
そのうち、サーマルボンド不織布は、溶融接着性の短繊維(通常は低融点の熱可塑性重合体よりなる短繊維)を用いて形成した薄い繊維ウエブに加熱を施して繊維同士を溶融接着させて製造した不織布である。
本発明で用い得るサーマルボンド不織布の代表例としては、
(a1)高融点熱可塑性重合体よりなる芯部と低融点熱可塑性重合体よりなる鞘部とからなる芯鞘型複合紡糸短繊維または芯鞘型混合紡糸短繊維を、必要に応じて非溶融性の短繊維と共に、混綿、開繊、ウエブ化した後に、加熱処理して芯鞘型複合紡糸短繊維または芯鞘型混合紡糸短繊維の鞘成分の溶融接着作用によって繊維同士を接着して得られるサーマルボンド不織布;
(a2)低融点熱可塑性重合体短繊維と高融点熱可塑性重合体短繊維および/または熱で溶融しない短繊維とを混綿、開繊、ウエブ化した後に、加熱処理して低融点の熱可塑性重合体短繊維を溶融させて繊維同士を接着して得られるサーマルボンド不織布;
などを挙げることができる。
【0046】
上記(a1)のサーマルボンド不織布の製造に用いる芯鞘型複合紡糸短繊維または芯鞘型混合紡糸短繊維では、芯成分をなす高融点熱可塑性重合体と鞘成分をなす低融点熱可塑性重合体の融点差が10℃以上であることが好ましく、20〜150℃であることがより好ましい。芯鞘型複合紡糸短繊維または芯鞘型混合紡糸短繊維における重合体の組み合わせとしては、例えばポリプロピレン(芯)/ポリエチレン(鞘)、ポリエチレンテレフタレート(芯)/ポリエチレン(鞘)、ポリプロピレン(芯)/共重合ポリプロピレン(鞘)、ポリエチレンテレフタレート(芯)/共重合ポリエチレンテレフタレート(鞘)などを挙げることができる。
【0047】
上記(a2)のサーマルボンド不織布の製造に用いる低融点熱可塑性重合体短繊維と高融点熱可塑性重合体短繊維の融点差は10℃以上であることが好ましく、20〜150℃であることがより好ましい。上記(a2)のサーマルボンド不織布を製造するための短繊維の組み合わせとしては、例えば、ポリエチレン短繊維(低融点)/ポリプロピレン短繊維(高融点)、ポリエチレン短繊維(低融点)/ポリエチレンテレフタレート短繊維(高融点)、共重合ポリプロピレン短繊維(低融点)/ポリプロピレン短繊維(高融点)、共重合ポリエチレンテレフタレート短繊維(低融点)/ポリエチレンテレフタレート短繊維(高融点)、ポリエチレン短繊維(低融点)/セルロース繊維(非溶融)、ポリエチレン短繊維(低融点)/綿繊維(非溶融)などを挙げることができる。
【0048】
また、スパンボンド不織布としては、紡糸ノズルから吐出されたフィラメント状の化学繊維を空気流などによって延伸処理した後、コンベア上に直接集積して連続ウエブを形成し、ウエブを形成している化学繊維(フィラメント)同士を、接着剤、融着、繊維相互の絡み合などによって接合または絡合して得られる不織布のいずれも使用できる。
そのうちでも、スパンボンド不織布としては、ポリエステル、ナイロン、ポリプロピレンなどのような、繊維形成性の熱可塑性重合体を溶融紡糸して得られるフィラメント繊維から形成したものが、ポリオレフィン繊維シートとの積層のし易さ、スパンボンド不織布自体の製造の容易性や入手容易性、寸法安定性、強度などの点から好ましい。
【0049】
機械結合不織布としては、スパンレース不織布や、短繊維状の合成繊維(例えばポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン、アクリルなどからなる繊維)、天然繊維(綿、麻、羊毛など)、それらの混合物を混綿、開繊、カード処理などを施してウエブ状にし、そのウエブをニードルパンチング処理して繊維同士を絡合させた不織布を用いることができる。
【0050】
本発明では、マスク用フィルタをなす積層シートの表面に有する乾式不織布(II)として、サーマルボンド不織布およびスパンボンド不織布が、ポリオレフィン繊維シート(I)やポリオレフィン繊維シート(III)との積層の容易性、寸法安定性などの点から好ましく用いられ、特にサーマルボンド不織布がより好ましく用いられる。
【0051】
マスク用フィルタをなす積層シートの両表面に有する乾式不織布(II)では、それを構成する繊維の平均繊維径が15〜50μmであることが好ましく、20〜40μmであることがより好ましく、20〜30μmであることが更に好ましい。乾式不織布(II)を構成する繊維の平均繊維径が小さすぎると、通気性を損ない易く、一方大きすぎると積層シートが硬くて、風合が悪いものになり易い。
【0052】
また、乾式不織布(II)の厚さは、製造安定性、取り扱い性、ポリオレフィン繊維シートとの積層の容易性、寸法安定性などの点から、0.10〜0.50mmであることが好ましく、0.15〜0.40mmであることがより好ましく、0.18〜0.30mmであることが更に好ましい。乾式不織布(II)が薄すぎると、強度の低下、ポリオレフィン繊維シート(I)と積層する際の取り扱い性の不良、へたりなどが生じ易くなり、一方乾式不織布(II)が厚すぎると、積層シートからなるマスク用フィルタが重くなったり、柔軟性が失われて、取り扱い性、マスクへの加工性、装着感などが劣るものになり易い。
【0053】
乾式不織布(II)の目付は、15〜60g/m2であることが好ましく、20〜50g/m2であることがより好ましく、25〜40g/m2であることが更に好ましい。
乾式不織布(II)の目付が小さすぎると、強度の低下などが生じ易くなり、一方乾式不織布(II)の目付が大きすぎると、マスク用フィルタの通気性悪化、加工不良などが生じ易くなる。
【0054】
マスク用フィルタをなす積層シートの両表面に有する乾式不織布(II)は、同じであってもよいし、または異なっていてもよい。
本発明のマスク用フィルタをなす積層シートの層構造の具体例としては、
(a)サーマルボンド不織布/ポリオレフィン繊維シート(I)/サーマルボンド不織布;
(b)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/メルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/ポリオレフィン繊維シート(I)/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
(c)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/スパンボンド不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/ポリオレフィン繊維シート(I)/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
(d)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/ポリオレフィン繊維シート(I)/メルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
(e)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/ポリオレフィン繊維シート(I)/スパンボンド不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
(f)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/スパンボンド不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/ポリオレフィン繊維シート(I)/スパンボンド不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
(g)サーマルボンド不織布(マスクにしたときの表面側)/メルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/ポリオレフィン繊維シート(I)/メルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(III)]/サーマルボンド不織布(マスクにしたときの口許側);
などを挙げることができる。
上記したうちでも、マスク用フィルタは、上記(a)、(d)、(e)の積層シートからなることが、通気性が良好である点、抗菌性シートが表面に近い部分に配置されている点から好ましい。
【0055】
本発明のマスク用フィルタをなす積層シート全体の厚さは、取り扱い性、マスクへの加工性、当該マスク用フィルタを用いて形成したマスクの着用感、寸法安定性などの点から、0.1〜7mmであることが好ましく、0.2〜5mmであることがより好ましく、0.2〜3mmであることが更に好ましい。マスク用フィルタをなす積層シートが薄すぎると、マスクに加工する際の取り扱い性の不良、強度、抗菌効果、塵埃などの除去効果などの低下や、マスクにした際の着用性の不良、寸法安定性不良などが生じ易くなる。一方、マスク用フィルタをなす積層が厚すぎると、マスクに加工する際の取り扱い性の不良、通気性の低下による息苦しさの発生などが生じ易くなる。
【0056】
また、本発明のマスク用フィルタをなす積層シート全体の目付は、35〜300g/m2であることが好ましく、40〜200g/m2であることがより好ましく、50〜100g/m2であることが更に好ましい。
積層シートの目付が小さすぎると、強度の低下、加工不良などが生じ易くなり、一方積層シートの目付が大きすぎると、マスクへの加工性の不良、マスク用フィルタの通気性悪化、着用感の不良などが生じ易くなる。
【0057】
本発明のマスク用フィルタは、マスクにしたときに息苦しくなくて着用感に優れる点、保温効果などのから、フラジール法による通気度が10〜200c/cm2/secであることが好ましく、20〜150cc/cm2/secであることがより好ましい。
ここで、本明細書でいう「フラジール法による通気度」とは、JIS L1096によって測定した通気度である。
【0058】
マスク用フィルタをなす積層シートを製造するためのポリオレフィン繊維シート(I)と乾式不織布(II)、および場合によりポリオレフィン繊維シート(III)の積層方法は特に制限されず、前記したシートおよび不織布を良好に接着できればどのような方法であってもよい。
例えば、ホットメルト接着剤を用いる方法、加熱エンボスによる方法などを挙げることができる。そのうちでも、加熱エンボスによる方法が、接着剤を特別に使用する必要がなく、操作が簡単である点から好ましく採用される。
ポリオレフィン繊維シート(I)と乾式不織布(II)、および場合によりポリオレフィン繊維シート(III)の積層は、積層シート(マスク用フィルタ)の通気性が阻害されない接着方式であればいずれを採用してもよく、そのうちでも、線接着、点接着、線接着と点接着の組み合わせによる接着が、通気性を良好に維持しながら積層できるので好ましく採用される。
加熱エンボス法を採用して、線接着方式により行う場合は、一般に、エンボス温度100〜140℃、線圧20〜60kg/cm、圧着面積1〜25%が好ましく採用される。
【0059】
本発明のマスク用フィルタをなす積層シートの製造に当たっては、例えば、積層シートの製造に用いるシートおよび不織布の全てを所定の順序(位置関係)で重ねて、一度の加熱エンボス処理や接着剤による接着操作で積層シートを製造してもよいし、積層シートの製造に用いる3つ以上のシートおよび不織布のうちの2つを予め積層・接着した後、残りのシートおよび/または不織布を積層・接着して積層シートを製造してもよい。
積層シートの内部に位置するポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層と乾式不織布(II)よりなる表面層との間にポリオレフィン繊維シート(III)よりなる層が介在した積層シートでは、予め製造されているポリオレフィン繊維シート(III)をポリオレフィン繊維シート(I)を製造するための装置(メルトブロー装置など)に連続的に供給しながら、当該ポリオレフィン繊維シート(III)の上にポリオレフィン繊維シート(I)を製造するための無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物をメルトブロー法などによって吐出してポリオレフィン繊維シート(III)上にポリオレフィン繊維シート(I)(不織布)が積層したポリオレフィン繊維複合シートをつくり、そのポリオレフィン繊維複合シートの両面に乾式不織布(II)を配置して接着・積層する方法が好ましく採用される。
【0060】
本発明のマスク用フィルタを用いて作製されるマスクの形状や構造は特に制限されず、本発明のマスク用フィルタが、マスク着用者の口許および鼻孔を覆うための材料として少なくとも用いられたマスクであればいずれでもよい。
何ら限定されるものではないが、本発明のマスク用フィルタを用いてなすマスクの例としては、図1および図2に示すものを挙げることができる。
【0061】
図1の(a)のマスクAは、口許および鼻孔を覆うための覆い部1が、本発明のマスク用フィルタから形成され、耳掛け部2が伸縮性のある他の不織布などから形成されたマスクである。
図1の(a)のマスクAは、図1の(b)に示す1対のマスク用片A1、A2の先端の接合部位3a,3b同士を、ヒートシールなどによって図1の(a)に示すようにして接合して接合部3とすることによって形成することができる。図1の(b)に示す1対のマスク用片A1、A2は、本発明のマスク用フィルタ1aと他の伸縮性の不織布2aを接合したものを、図1の(b)に示す形状に裁断したものである。なお、図1の(b)において、4はマスク用フィルタ1aと不織布2aの接合部であり、5は耳掛け部2を形成するために不織布2aに設けた切れ目(耳を通すための孔部)である。
図2のマスクAは、口許および鼻孔を覆うための覆い部1の両端に、耳掛け用の紐部2cを取り付けたマスクである。
図1および図2のマスクは、口許および鼻孔を覆うための覆い部1が、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維表面から多数露出しているポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層を内側に有し、両表面の乾式不織布(II)よりなる層を有する積層シートからなる本発明のマスク用フィルタから形成されていることにより、高い抗菌作用、抗ウイルス作用、粉塵濾過作用を有し、しかも着用時に息苦しくなく着用感に優れている。
【実施例】
【0062】
以下に、本発明を実施例などによりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されない。なお、以下の実施例および比較例における各物性値は、下記の方法により測定または評価した。
【0063】
(1)ポリオレフィンのメルトフローレート(MFR):
MFRの測定装置(宝工業社製「L244」)を使用して、JIS K 7210に従って、温度230℃、荷重2.16kgおよび測定時間10分の条件下で以下の実施例および比較例で使用したポリオレフィンのメルトフローレート(MFR)(g/10分)を測定した。
【0064】
(2)無機系抗菌剤微粒子の平均粒径:
(i) 以下の実施例および比較例で使用した無機系抗菌剤微粒子(銀系無機系抗菌剤微粒子)に、水を加えて十分に撹拌して、水中に均一に分散させた。
(ii) 上記(i)で得られた分散液を用いて、レーザー回折散乱式粒度測定装置(堀場製作所製「LA−920」)を使用して、粒度分布解析を行った。
なお、測定時、測定装置に内蔵されている超音波ホモジナイザーにより超音波を1分間照射した後に測定を行い、体積基準の粒度分布により計算される算術平均値(μm)を無機系抗菌剤微粒子の平均粒径とした。
【0065】
(3)ポリオレフィン繊維シートを形成しているポリオレフィン繊維の平均繊維径:
ポリオレフィン繊維シートから試験片(縦×横=5cm×5cm)を採取し、試験片の表面における中央部(対角線の交点を中心とする部分)を走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して1000倍の倍率で写真撮影した。これにより得られた写真の中央部(対角線の交点)を中心として写真上に半径15cmの円を描き、その円内に含まれる全ての未融着ポリオレフィン繊維(通常約50〜100本程度)の長さ方向の中央部またはそれに近い箇所での繊維径をノギスにより測定し、その平均値を採ってポリオレフィン繊維の平均繊維径(μm)とした。
なお、ポリオレフィン繊維の平均繊維径の測定に当たっては、写真に撮影されているポリオレフィン繊維がポリオレフィン繊維シートの最表面に位置するポリオレフィン繊維であるかまたは内側に位置するポリオレフィン繊維であるかを区別せずに、SEM写真に写っているポリオレフィン繊維のすべてを対象として平均繊維径を求めた。
【0066】
(4)ポリオレフィン繊維シート表面での無機系抗菌剤微粒子の露出箇所の数の測定:
(i)無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所の数:
エレクトレット化後のポリオレフィン繊維シートから試験片(縦×横=5cm×5cm)を採取し、試験片の表面における中央部(対角線の交点を中心とする部分)を、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して2000倍の倍率で写真撮影した。これにより得られた写真の中央部(対角線の交点)を中心点として写真上で1辺が14cmの正方形(実際のポリオレフィン繊維シートでは1辺が100μmの正方形)を描き、その正方形の範囲内に存在する、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維表面に露出している箇所をピックアップすると共にその直径を測定し、それらの露出箇所のうち、無機系抗菌剤微粒子の1/100以上が露出している箇所の数を合計し、その合計数から、ポリオレフィン繊維シート表面1.0×10-2mm2当たりの無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所の数を求めた。試験片10個を用意し、同様の測定を10回行って、平均値を採用した。
なお、ポリオレフィン繊維中に含まれる無機系抗菌剤微粒子が、例えば平均粒径2.5μmの球形微粒子である場合は、直径0.13μm以上の円状に撮影された無機系抗菌剤微粒子の露出部分が、1/100以上露出箇所に相当する(以下の実施例2では、平均粒径が2.5μmの球形の無機系抗菌剤微粒子を用いた)。
【0067】
(ii)無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積で露出している箇所の数:
上記(i)で無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所の寸法と数を測定した後、SEM写真における上記(i)の測定範囲(測定領域)と同じ領域内において、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維表面に露出している箇所をピックアップしてその箇所の面積を測定し、無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積で露出している箇所の数を数え、ポリオレフィン繊維シート表面1.0×10-2mm2当たりの「0.01μm2以上の面積で露出している箇所」の数を求めた。試験片10個を用意し、同様の測定を10回行って、平均値を採用した。
なお、無機系抗菌剤微粒子がポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所の面積は、例えば、SEM写真における無機系抗菌剤微粒子の露出箇所をその形状どおりに正確に切り取り、切り取ったものの重さ(wb)を測ると共に、同じSEM写真における基準面積S(例えば縦×横=10μm×10μmの正方形)の重さ(wa)を測ることによって、下記の数式(2)から求めることができる。

無機系抗菌剤微粒子の露出箇所の面積=S×(wb/wa) (2)
【0068】
(5)ポリオレフィン繊維シートおよびマスク用フィルタの通気度:
JIS L1096に準拠してフラジール法により通気度を測定した。
【0069】
(6)マスク用フィルタの抗菌試験(殺菌活性値):
以下の実施例および比較例で得られたマスク用フィルタについて、JIS L1902「繊維製品の抗菌性試験方法」に準じて抗菌試験を行って、殺菌活性値を求めた。殺菌活性値が高いほど抗菌作用に優れている。
採用した試験条件は下記のとおりである。
・菌液条件 1/20NB(普通ブイヨン)、0.2ml
・作用条件:37℃、18時間
・ 菌種:クレプシェラ・ニュウモニアエ(Klebsiella pneumoniae)
・殺菌活性値:作用時間前後の生菌数の差を対数で表した値
殺菌活性値=Log(作用直後生菌数/作用後生菌数)
【0070】
(7)マスク用フィルタの抗ウィルス試験:
以下の実施例および比較例で得られたマスク用フィルタについて、JIS Z2801「抗菌加工製品−抗菌性試験方法・抗菌効果」に準じて抗ウィルス試験を行った。
採用した試験条件は下記のとおりである。
・菌種:インフルエンザ A ウィルス(A/New caledonia/20/99)
・菌液条件:作用ウィルス量 0.2ml
・作用条件:25℃、24時間
・効果判定:ウィルス感染価が初期の10%以下の場合に「効果あり」と判定し、10%を超える場合を「効果なし」と判定した。
【0071】
(8)マスク用フィルタの粉塵濾過性能(粉塵捕捉性能):
(i) 以下の実施例および比較例で得られたマスク用フィルタから、直径が110mmの円形の試験片を採取し、その試験片を粉塵濾過性能測定装置(柴田科学社製「AP6310FP」)の測定セル(濾過面の直径=85mm)に装着した。
(ii) 直径が2μm以下で且つ数量平均粒径が0.5μmのシリカダストを試験用粉塵として用いて、当該粉塵(シリカダスト)の濃度が30±5mg/m3である粉塵含有空気を調製した。
(iii) 上記(ii)で調製した粉塵(シリカダスト)含有空気を、30L/minの流量で上記(i)で準備した測定セルに1分間流した。このとき、セルの上流側の空気(濾過前空気)中の粉塵の濃度と、セルの下流側の空気(濾過後の空気)中の粉塵の濃度を、光散乱光量積分方式の検出機器を使用して測定した。
(iv) 上記(iii)で測定したセルの上流側の粉塵の濃度をD1、セルの下流側の粉塵の濃度D2として、下記の数式(3)から粉塵の捕捉率(%)を求めた。

粉塵の捕捉率(%)={D1−D2)/D1}×100 (3)
【0072】
《実施例1》
(1)エレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)の製造:
(i) ポリプロピレン(A)(MFR=300g/10分)80質量部に、リン酸ジルコニウムを主体とする無機イオン交換体に銀イオンを担持させた銀系無機抗菌剤微粒子(東亞合成社製「ノバロンAG300」、平均粒径1μm、略立方体形)20質量部を配合して、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するマスターバッチを調製した。
(ii) 上記(i)で調製したマスターバッチと、ポリプロピレン(B)(MFR=700g/10分)を、マスターバッチ:ポリプロピレン=1:9の質量比で混合し、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度280℃、エア温度290℃、エア圧力1.2kg/cm2、単孔吐出量0.4g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)を製造した。
(iii) 上記(ii)で得られた抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)を一般的なエレクトレット設備を使用し、針状電極と電極の距離=25mm、印加電圧−25kV、温度80℃の条件下でエレクトレット処理を行い、エレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)を製造した。
(iv) 上記(iii)で得られたエレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)は、目付が18g/m2であり、フラジール法による通気度は100cc/cm2/secであった。また、当該ポリオレフィン繊維シート(I)を構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径は3.6μmであった。また、このポリオレフィン繊維シート(I)における無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維表面に露出している箇所を上記した方法で測定したところ、繊維シート表面1.0×10-2mm当たり1.2箇所であった。
【0073】
(2)マスク用フィルタの製造
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)の一方の表面側に、マスク表面材としてサーマルボンド不織布(目付=32g/m2、ポリエチレンテレフタレートよりなる芯部とポリエチレンよりなる鞘部とからなる芯鞘型複合短繊維製)を配置し、前記ポリオレフィン繊維シートのもう一方の表面側にマスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化抗菌性ポリオレフィン繊維シート(I)/サーマルボンド不織布の3層構造を有する積層シートからなマスク用フィルタを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたマスク用フィルタは、目付が82g/m2、フラジール法による通気度が40cc/cm2/secであり、通気性に優れるものであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性ともに優れていた。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すように、粉塵の捕捉率が高く、粉塵濾過性能も良好であった。
【0074】
《実施例2》
(1)エレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートの製造:
(i) ポリプロピレン(MFR=700g/10分)を一般的なメルトブロー設備を使用し、紡糸温度250℃、エア温度260℃、エア圧力0.8kg/cm2、単孔吐出量0.5g/孔・分、捕集距離35cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、低密度のポリプロピレン製のメルトブロー不織布(イ)[ポリオレフィン繊維シート(III)に相当]を製造した。このメルトブロー不織布(イ)は、目付が10g/m2、フラジール法による通気度が250cc/cm2/secであった。また、メルトブロー不織布(イ)を構成するポリプロピレン繊維の平均繊維径は4.8μmであった。
(ii)(a) ポリプロピレン(A)(MFR=300g/10分)80質量部に、リン酸ジルコニウムを主体とする無機イオン交換体に銀イオンを担持させた銀系無機抗菌剤微粒子(東亞合成社製「ノバロンAG300」、平均粒径1μm、略立方体形)20質量部を配合して、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するマスターバッチを調製した。
(b) 上記(a)で調製したマスターバッチとポリプロピレン(B)(MFR=700g/10分)をマスターバッチ:ポリプロピレン=1:9の質量比で混合し、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度210℃、エア温度220℃、エア圧力0.9kg/cm2、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離16cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)の条件下に、上記(i)で製造したメルトブロー不織布(イ)の上に直接メルトブロー紡糸を行って、銀系無機抗菌剤微粒子を含有しないポリプロピレン繊維よりなるメルトブロー不織布(イ)[ポリオレフィン繊維シート(III)]の上に、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるメルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)に相当]が接着・積層した2層構造を有する抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートを製造した。これにより得られた2層構造のポリオレフィン繊維複合シートでは、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるポリオレフィン不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]部分の目付が6g/m2であり、したがって2層構造のポリオレフィン繊維複合シート全体の目付は16g/m2であった。
【0075】
(iii) 上記(ii)でで得られた2層構造のポリオレフィン繊維複合シートを、実施例1で使用したのと同じエレクトレット設備を使用して、針状電極、電極距離25mm、印加電圧−25kV、温度80℃の条件下で、ポリオレフィン繊維複合シートにおける銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなる不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]層を針状電極側としてエレクトレット処理を行って、抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維複合シートを製造した。
(iv) 上記(iii)で得られた抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維複合シートは、目付が16g/m2、フラジール法による通気度が123cc/cm2/secであった。また、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるメルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]層を構成するポリプロピレン繊維の平均繊維径は1.2μmであり、当該メルトブロー不織布層表面における無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維表面に露出している箇所を上記した方法で測定したところ、繊維シート表面1.0×10-2mm当たり1.5箇所であった。
【0076】
(2)マスク用フィルタの製造:
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートの一方の表面側に、マスク表面材としてサーマルボンド不織布(目付=32g/m2、ポリエチレンテレフタレートよりなる芯部とポリエチレンよりなる鞘部とからなる芯鞘型複合短繊維製)を配置し、前記ポリオレフィン繊維複合シートのもう一方の表面側に、マスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が、幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化抗菌性ポリオレフィン繊維複合シート/サーマルボンド不織布からなる層構造を有する、マスク用フィルタとして用いるための積層シートを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたマスク用フィルタ(積層シート)は、目付が80g/m2、フラジール法による通気度が50cc/cm2/secであり、通気性に優れるものであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性ともに優れていた。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すように、粉塵の捕捉率が高く、粉塵濾過性能も良好であった。
【0077】
《実施例3》
(1)エレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートの製造:
(i) ポリプロピレン繊維製のスパンボンド不織布(目付=20g/m2、通気度=350cc/cm2/sec)[ポリオレフィン繊維シート(III)に相当]を準備した。
(ii) ポリプロピレン(A)(MFR=100g/10分)80質量部に、ゼオライトに銀イオンを担持させた銀系無機抗菌剤微粒子(シナネンゼオミック社製「ゼオミック」、平均粒径2.5μm、略球形)20質量部を配合して、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するマスターバッチを調製した。
(iii) 上記(ii)で調製したマスターバッチと、ポリプロピレン(B)(MFR=600g/10分)を、マスターバッチ:ポリプロピレン=1:9の質量比で混合し、実施例1で使用したのと同じメルトブローン設備を使用し、紡糸温度210℃、エア温度220℃、エア圧力0.9kg/cm2、単孔吐出量0.1g/孔・分、捕集距離16cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)の条件下に、このメルトブロー設備の後方から上記(i)で準備したスパンボンド不織布を連続的に供給しながら、当該スパンボンド不織布上に直接メルトブロー紡糸を行い、スパンボンド不織布上に銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるメルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)に相当]が接着・積層した2層構造を有する抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートを製造した。これにより得られた2層構造のポリオレフィン繊維複合シートでは、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるポリオレフィン不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]部分の目付が6g/m2であり、したがって2層構造のポリオレフィン繊維複合シート全体の目付は26g/m2であった。
【0078】
(iii) 上記(ii)でで得られた2層構造のポリオレフィン繊維複合シートを、実施例1で使用したのと同じエレクトレット設備を使用して、針状電極、電極距離30mm、印加電圧−27kV、温度80℃の条件下で、ポリオレフィン繊維複合シートにおける銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなる不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]層を針状電極側としてエレクトレット処理を行って、抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維複合シートを製造した。
(iv) 上記(iii)で得られた抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維複合シートは、目付が26g/m2、フラジール法による通気度が136cc/cm2/secであった。また、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するポリプロピレン繊維よりなるメルトブロー不織布[ポリオレフィン繊維シート(I)]層を構成するポリプロピレン繊維の平均繊維径は1.2μmであり、当該メルトブロー不織布層表面における無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維表面に露出している箇所を上記した方法で測定したところ、繊維シート表面1.0×10-2mm当たり4.9箇所であった。また、この繊維表面における無機系抗菌剤微粒子の1/100以上露出箇所の数を上記した方法で測定したところ、繊維シート表面1.0×10-2mm2当たり4.5箇所であった。
【0079】
(2)マスク用フィルタの製造:
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートの一方の表面側に、マスク表面材としてサーマルボンド不織布(目付=32g/m2、ポリエチレンテレフタレートよりなる芯部とポリエチレンよりなる鞘部とからなる芯鞘型複合短繊維製)を配置し、前記ポリオレフィン繊維複合シートのもう一方の表面側に、マスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が、幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化抗菌性ポリオレフィン繊維複合シート/サーマルボンド不織布からなる層構造を有する、マスク用フィルタとして用いるための積層シートを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたマスク用フィルタ(積層シート)は、目付が90g/m2、フラジール法による通気度が55cc/cm2/secであり、通気性に優れるものであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性ともに優れていた。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すように、粉塵の捕捉率が高く、粉塵濾過性能も良好であった。
【0080】
《実施例4》
(1) 実施例1の(2)の(i)において、マスク表面材およびマスク口元材をなす乾式不織布として、サーマルボンド不織布の代わりに、ポリプロピレン製のスパンボンド不織布(目付25g/m2)に用いた以外は実施例1と同様に、マスク用フィルタ(積層シート)を製造した。
(2) 上記(1)で得られたマスク用フィルタ(積層シート)は、目付が68g/m2、フラジール法による通気度が60cc/cm2/secであり、通気性に優れるものであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性ともに優れていた。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すように、粉塵の捕捉率が高く、粉塵濾過性能も良好であった。
【0081】
《比較例1》
(1)エレクトレット化したポリオレフィン繊維シートの製造:
(i) ポリプロピレン(MFR=700g/10分)を一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度275℃、エア温度285℃、エア圧力1.0kg/cm2、単孔吐出量0.4g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、ポリプロピレン製のメルトブロー不織布(ポリオレフィン繊維シート)を製造した。
(ii) 上記(i)でで得られたポリオレフィン繊維シート(ポリプロピレン製のメルトブロー不織布)を、実施例1で使用したのと同じエレクトレット設備を使用して、針状電極、電極距離25mm、印加電圧−25kV、温度80℃の条件下でエレクトレット処理を行って帯電したポリオレフィン繊維シートを製造した。
(iii) 上記(ii)で得られた帯電したポリオレフィン繊維シートは、目付が20g/m2、フラジール法による通気度が72cc/cm2/sec、ポリプロピレン繊維の平均繊維径が3.5μmであった。
【0082】
(2)マスク用フィルタの製造:
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化したポリオレフィン繊維シートの一方の表面側に、マスク表面材として実施例1の(2)で使用したのと同じサーマルボンド不織布を配置し、前記ポリオレフィン繊維シートのもう一方の表面側に、マスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が、幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化ポリオレフィン繊維シート/サーマルボンド不織布からなる層構造を有する、マスク用フィルタとして用いるための積層シートを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたマスク用フィルタ(積層シート)は、目付が84g/m2、フラジール法による通気度が30cc/cm2/secであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性は認められなかった。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0083】
《比較例2》
(1)エレクトレット化したポリオレフィン繊維シートの製造:
(i) ポリプロピレン(A)(MFR=45g/10分)80質量部に、リン酸ジルコニウムを主体とする無機イオン交換体に銀イオンを担持させた銀系無機抗菌剤微粒子(東亞合成社製「ノバロンAG300」、平均粒径1μm、略立方体形)20質量部を配合して、銀系無機抗菌剤微粒子を含有するマスターバッチを調製した。
(ii) 上記(i)で調製したマスターバッチと、ポリプロピレン(B)(MFR=700g/10分)を、マスターバッチ:ポリプロピレン=1:9の質量比で混合し、一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度280℃、エア温度295℃、エア圧力1.2kg/cm2、単孔吐出量0.4g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、ポリオレフィン繊維シートを製造した。
(iii) 上記(ii)で得られたポリオレフィン繊維シートを実施例1で使用したのと同じエレクトレット設備を使用し、針状電極と電極の距離=25mm、印加電圧−25kV、温度80℃の条件下でエレクトレット処理を行い、エレクトレット化したポリオレフィン繊維シートを製造した。
(iv) 上記(iii)で得られたエレクトレット化したポリオレフィン繊維シートは、目付が18g/m2であり、フラジール法による通気度は98cc/cm2/secであった。また、当該ポリオレフィン繊維シートを構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径は3.8μmであった。また、このポリオレフィン繊維シート(I)における無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維表面に露出している箇所を上記した方法で測定したところ、繊維シート表面1.0×10-2mm当たり0.4箇所であった。
【0084】
(2)マスク用フィルタの製造
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化したポリオレフィン繊維シートの一方の表面側に、マスク表面材として実施例1の(2)の(i)で使用したのと同じサーマルボンド不織布を配置し、前記ポリオレフィン繊維シートのもう一方の表面側にマスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化ポリオレフィン繊維シート/サーマルボンド不織布の3層構造を有する積層シートからなマスク用フィルタを製造した。
(ii) 上記(i)で得られたマスク用フィルタは、目付が82g/m2、フラジール法による通気度が38cc/cm2/secであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すように、抗菌性および抗ウィルス性ともに劣っていた。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すとおりであった。
【0085】
《比較例3》
(1)エレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維複合シートの製造:
(i) ポリプロピレン(MFR=700g/10分)を一般的なメルトブローン設備を使用し、紡糸温度275℃、エア温度285℃、エア圧力1.0kg/cm2、単孔吐出量0.4g/孔・分、捕集距離30cm、口金における紡糸孔数2850個(1列配置)にてメルトブロー紡糸を行い、ポリプロピレン製のメルトブロー不織布(イ)[ポリオレフィン繊維シート(III)に相当]を製造した。このメルトブロー不織布(イ)は、目付が18g/m2であった。
(ii) 上記(i)で得られたメルトブロー不織布(イ)に、一般的なコロナ処理設備を利用して、処理速度4m/分、電力3kW、放電度1.8w/cm2で処理を行った結果、濡れ張力は44mN/mであった。
(iii) 市販の水系アクリルバインダーに、リン酸ジルコニウムを主体とする無機イオン交換体に銀イオンを担持させた銀系無機抗菌剤微粒子(東亞合成社製「ノバロンAG300」、平均粒径1μm、略立方体形)を20重量部となるように混合し、抗菌剤が均一分散となるまで攪拌した。この抗菌剤含有バインダーを上記(ii)で製造したメルトブローン不織布(イ)にピックアップ率が11%となるように含浸した後、ニップ処理し、次いで120℃で加熱乾燥して抗菌性のポリオレフィン繊維シートを製造した。
(iv) 上記(iii)で得られた抗菌性のポリオレフィン繊維シートを、実施例1で使用したのと同じエレクトレット設備を使用して、針状電極、電極距離25mm、印加電圧−15kV、温度80℃の条件下でエレクトレット処理を行い、抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維シートを製造した。
(v) 上記(iv)で得られた抗菌性の帯電したポリオレフィン繊維シートは、目付が20g/m2、フラジール法による通気度が48cc/cm2/secであった。また、当該ポリオレフィン繊維シートを構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径は4.2μmであった。
【0086】
(2)マスク用フィルタの製造:
(i) 上記(1)で得られたエレクトレット化した抗菌性のポリオレフィン繊維シートの一方の表面側に、マスク表面材として実施例1の(2)で使用したのと同じサーマルボンド不織布を配置し、前記ポリオレフィン繊維シートのもう一方の表面側に、マスク口許材として前記と同じサーマルボンド不織布を配置した後、接着部分が、幅0.3mmの縦筋状柄が3mm間隔で配置したストライプ状になるようにして(接着面積10%)、エンボス温度135℃、線圧40kg/cmの条件下で線状に加熱エンボスして、サーマルボンド不織布/エレクトレット化抗菌性ポリオレフィン繊維シート/サーマルボンド不織布からなる層構造を有する、マスク用フィルタとして用いるための積層シートを製造した。
(ii) 上記(ii)で得られたマスク用フィルタ(積層シート)は、目付が84g/m2、フラジール法による通気度が20cc/cm2/secであった。
このマスク用フィルタの抗菌試験および抗ウィルス試験を上記した方法で行ったところ、下記の表1に示すとおりであった。
また、このマスク用フィルタの粉塵濾過性能を上記した方法で調べたところ、下記の表1に示すように、粉塵の捕捉率が低く、粉塵濾過性能に劣っていた。
【0087】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明のマスク用フィルタは、マスク用フィルタをなす積層シートの内側に位置する抗菌性のポリオレフィン繊維シートを構成するポリオレフィン繊維中に練り込まれている無機系抗菌剤微粒子が繊維表面から多数露出しているため、高い抗菌作用、抗ウィルス作用を安定して発揮し、しかも粉塵濾過性能および通気性、更に強度およびマスクへの加工性にも優れるため、マスクを製造するためのフィルタとして有効に使用できる。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明のマスク用フィルタを使用して製造したマスクの一例を示す図である。
【図2】本発明のマスク用フィルタを使用して製造したマスクの別の例を示す図である。
【符号の説明】
【0090】
A マスク
A1 マスク用片
A2 マスク用片
1 マスクにおける口許および鼻孔を覆う部分(フィルタ部)
1a マスク用フィルタ
2 耳掛け部
2a 不織布
3 マスク用片A1とマスク用片A1の接合部
4 マスク用フィルタ1aと不織布2aの接合部
5 耳掛け用の孔を形成するための切れ目
6 耳掛け用の紐

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)から選ばれる抗菌性のポリオレフィン繊維シート(I)よりなる層を内側に有し、両表面に乾式不織布(II)よりなる層を有する積層シートからなることを特徴とするマスク用フィルタ。
ポリオレフィン繊維シート(Ia)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子の体積の1/100以上がポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
ポリオレフィン繊維シート(Ib)
無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物よりなるポリオレフィン繊維から形成され且つ無機系抗菌剤微粒子が0.01μm2以上の面積でポリオレフィン繊維の表面に露出している箇所を繊維シート面積1.0×10-2mm2当たり1箇所以上の割合で有する抗菌性のポリオレフィン繊維シート。
【請求項2】
抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維中に含まれる無機系抗菌剤微粒子の平均粒径が0.01〜10μmである請求項1に記載のマスク用フィルタ。
【請求項3】
抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維の平均繊維径が0.5〜15μmである請求項1または2に記載のマスク用フィルタ。
【請求項4】
抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)を構成するポリオレフィン繊維が、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂(A)と無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン系樹脂(B)を混合したポリオレフィン系樹脂組成物であって且つポリオレフィン系樹脂(A)のメルトフローレート(MFRA)(g/10分)とポリオレフィン系樹脂(B)のメルトフローレート(MFRB)(g/10分)の差の絶対値が下記の数式(1)を満足するポリオレフィン系樹脂組成物から形成されている請求項1〜3のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。

0≦|MFRA−MFRB|≦600 (1)

[但し、MFRAおよびMFRBは、いずれも、JIS K 7210に従って、温度230℃、荷重2.16kg、測定時間10分の条件下に測定したときのメルトフローレート(単位:g/10分)である。]
【請求項5】
抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)が、無機系抗菌剤微粒子を含有するポリオレフィン系樹脂組成物を用いてメルトブロー法によって製造した不織布である請求項1〜4のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項6】
マスク用フィルタをなす積層シートが、表面層をなす乾式不織布(II)と、抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)またはポリオレフィン繊維シート(Ib)との間に、無機系抗菌剤微粒子を含有しないポリオレフィン繊維からなるポリオレフィン繊維シート(III)よりなる層を更に有する請求項1〜5のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項7】
抗菌性のポリオレフィン繊維シート(Ia)およびポリオレフィン繊維シート(Ib)が少なくともエレクトレット化されている請求項1〜5のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項8】
積層シートにおいて、当該積層シートを構成する各層がホットメルト樹脂を用いるかまたはエンボス加工により接着されている請求項1〜7のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項9】
乾式不織布(II)が、サーマルボンド不織布、スパンボンド不織布およびスパンレース不織布から選ばれた乾式不織布である請求項1〜8のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項10】
フラジール法による通気度が10〜200cc/cm2/secである請求項1〜9のいずれか1項に記載のマスク用フィルタ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のマスク用フィルタを用いて形成したマスク。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−86626(P2008−86626A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−272546(P2006−272546)
【出願日】平成18年10月4日(2006.10.4)
【出願人】(000001085)株式会社クラレ (1,607)
【出願人】(000115108)ユニ・チャーム株式会社 (1,219)
【Fターム(参考)】