説明

マスタスレーブマニピュレータ

【課題】冗長関節を有するマスタスレーブマニピュレータにおいて、遠隔操作装置とスレーブアームとの構造が異なる構造であっても、逆運動学計算にかかる負荷を低減可能なマスタスレーブマニピュレータを提供すること。
【解決手段】遠隔操作装置100からの操作信号を受けて、マスタ制御部201は、操作部101の姿勢変化に係る等価回転ベクトルV(t)と直前の操作部101のマスタロール軸X(t)とを算出する(ステップS1)。V(t)とX(t)のなす角φが規定値以下の場合には、冗長関節1(Roll2)と、関節1と冗長関係にある関節4(Roll1)のうち、Roll2を駆動関節とし、Roll1を固定関節として(ステップS3)、逆運動学計算を行う。角度φが規定値を以下でない場合には、Roll1を駆動関節とし、Roll2を固定関節として(ステップS4)、逆運動学計算を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冗長関節を有するマスタスレーブマニピュレータに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、医療施設の省人化を図るため、ロボットによる医療処置の研究が行われている。特に、外科分野では、多自由度(多関節)アームを有するマニピュレータによって患者の処置をするマニピュレータシステムについての各種の提案がなされている。このようなマニピュレータシステムにおいて、患者の体腔に直接接触するマニピュレータ(スレーブマニピュレータ)を、遠隔操作装置によって遠隔操作できるようにしたマスタスレーブマニピュレータが知られている。
【0003】
ここで、内視鏡下手術で特に困難な針かけ動作を、マスタスレーブマニピュレータを用いて行う場合、スレーブアームの先端に取り付けられたグリッパーをローリングさせながら針をかけることになる。このとき、先端にロール軸関節がないスレーブアームでは、先端に取り付けられたグリッパーをローリングさせるためのローリングに伴って他の関節を協調動作させることになる。この場合、多数の関節が動作して、周囲の臓器等に衝突する可能性が考えられる。これに対し、先端部に冗長関節を設けることにより、先端のみの位置・姿勢決めを可能としたマスタスレーブマニピュレータが例えば特許文献1において提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭63−267177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般に、特許文献1等の先端に冗長関節を有するマスタスレーブマニピュレータの場合、遠隔操作装置からの指令値に従ってスレーブアームの各関節の駆動量を計算するための逆運動学計算が複雑化する。このような場合、例えばスレーブアームの自由度と遠隔操作装置の自由度とを一致させ、スレーブアームの各関節を1対1で対応させるようにすれば逆運動学計算を簡略化することができる。しかしながら、通常、自由度の多い遠隔操作装置を片手で操作することは困難である。
【0006】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたもので、冗長関節を有するマスタスレーブマニピュレータにおいて、遠隔操作装置とスレーブアームとの構造が異なる構造であっても、逆運動学計算にかかる負荷を低減可能なマスタスレーブマニピュレータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様のマスタスレーブマニピュレータは、複数の自由度に対応した操作情報を与えるマスタとしての遠隔操作装置と、複数の自由度に対応した複数の関節を有し、該複数の関節の中に冗長関節が含まれるスレーブマニピュレータと、前記操作情報に従って、前記関節の動作を制御する制御部と、を具備し、前記制御部は、前記操作情報から前記遠隔操作装置の姿勢変化を算出し、該姿勢変化を用いて、所定時間毎に、前記関節のうちで冗長関係にある関節の1つを選択して駆動することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、冗長関節を有するマスタスレーブマニピュレータにおいて、遠隔操作装置とスレーブアームとの構造が異なる構造であっても、逆運動学計算にかかる負荷を低減可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの全体構成を示す図である。
【図2】遠隔操作装置の構成例を示す図である。
【図3】スレーブマニピュレータの構成例を示す図である。
【図4】本発明の一実施形態における関節選択の考え方について説明するための図である。
【図5】本発明の一実施形態におけるマスタスレーブマニピュレータの動作を示すフローチャートである。
【図6】冗長関節をヨー軸関節とした変形例を示す図である。
【図7】冗長関節をピッチ軸関節とした変形例を示す図である。
【図8】冗長関係にある関節が、隣接しており、かつ、独立して駆動可能なスレーブアームの構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータの全体構成を示す図である。図1に示すように、本実施形態に係るマスタスレーブマニピュレータは、遠隔操作装置100と、制御装置200と、スレーブマニピュレータ300と、を有している。なお、図1の例は、本実施形態のマスタスレーブマニピュレータの医療用途への適用例である。しかしながら、本実施形態のマスタスレーブマニピュレータは、医療用途以外の各種の用途に適用可能である。
【0011】
遠隔操作装置100は、本マスタスレーブマニピュレータにおけるマスタとして機能するものであって、操作部101と、表示部102と、を有している。
操作部101は、例えば図2(a)に示すように、回転機構より構成された駆動軸と、直動機構より構成された駆動軸と、を含む駆動部を有している。さらに、操作部101の終端部(操作者10によって把持される側とする)には、グリッパー部1011が設けられている。このような構成において、操作者10が、グリッパー部1011を把持した状態で、操作部101を移動させたり、回転させたり、グリッパー部1011を操作したりすることにより、操作部101を構成する各駆動軸が駆動される。各駆動軸の駆動量(回転機構の場合には回転角、直動機構の場合には変位量)は、各駆動軸に設けられた図示しない位置検出器(例えばエンコーダ)によって検出され、各位置検出器の検出信号が、スレーブマニピュレータ300のスレーブアーム301の手先の位置・姿勢を指令するための、操作部101の操作情報を示す信号(操作信号)として制御装置200に出力される。ここで、図2(a)において、操作部101は、駆動軸が6個設けられており、この6個の駆動軸の駆動によって、6個の指令値を算出するための6自由度に対応した操作信号(位置に関する信号(θ,d,d)と姿勢に関する信号(θ,θ,θ))を出力する。
【0012】
なお、操作部101は、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢を指令できるものであれば、その構成は特に限定されるものではない。例えば、操作部101に水平3軸の並進移動を検出するためのセンサ(例えば加速度センサ)と各軸周りの回転を検出するためのセンサ(例えば角速度センサ)を設けるようにすれば、例えば図2(b)に示すように、操作部101を手持ち式として構成することもできる。図2(b)の例において、操作者10が手持ち式の操作部101を3次元空間内で移動させたり、回転させたりすることで、6自由度に対応した操作信号を与えることが可能である。なお、図2(b)は、操作部101で得られた操作信号を、無線通信部103を経由して無線通信可能とした例を示している。勿論、図2(b)の例において、操作部101で得られた操作信号を有線通信するようにしても良い。
【0013】
表示部102は、例えば液晶ディスプレイから構成され、制御装置200から入力された画像信号に基づいて画像を表示する。後述するが、制御装置200から入力される画像信号は、スレーブアーム301に取り付けられた電子カメラ(電子内視鏡)を介して得られた画像信号を、制御装置200において処理したものである。このような画像信号に基づく画像を、表示部102に表示させることにより、遠隔操作装置100の操作者10は、遠隔操作装置100から離れた場所に配置されたスレーブマニピュレータ300の手先の画像を確認することが可能である。
【0014】
制御部としての制御装置200は、マスタ制御部201と、マニピュレータ制御部202と、画像処理部203と、を有している。
マスタ制御部201は、遠隔操作装置100からの6自由度に対応した操作信号に従って、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢の指令値を算出する。また、マスタ制御部201は、遠隔操作装置100からの操作信号に従って、スレーブアーム301の各関節のうち冗長関係にある関節の中の1つを駆動関節として選択し、この選択結果を示す関節選択信号を、位置・姿勢の指令値とともにマニピュレータ制御部202に出力する。
ここで冗長関係にあるとは、関節の回転軸がお互いに並行にある関係を示している。
【0015】
マニピュレータ制御部202は、遠隔操作装置100からの位置・姿勢の指令値と関節選択信号とを受けて、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢を指令値に一致させるために必要なスレーブアーム301の各関節の駆動量を、逆運動学計算によって算出する。後述するが、本実施形態のスレーブアーム301は、7自由度に対応した関節であるが、1つの関節を固定関節として各関節の駆動を行うため、7自由度の全ての駆動量が未知の場合よりも逆運動学計算で算出する関節数を低減でき,逆運動学計算を簡略化することができる。
【0016】
画像処理部203は、スレーブアーム301の先端に設けられた電子カメラ(電子内視鏡等)から得られた画像信号を処理し、表示部102の表示用の画像信号を生成して表示部102に出力する。
スレーブマニピュレータ300は、スレーブアーム301と、手術台302とを有している。
スレーブアーム301は、7自由度に対応した関節を有し、マニピュレータ制御部202からの制御信号に従って各関節が駆動される。図3にスレーブアーム301の構造の一例を示す。図3に示すスレーブアーム301は、7個の関節1〜7が連設して配置され、先端部に先端効果器(end effector)3011が取り付けられている。なお、図3で示した先端効果器3011は、グリッパー(把持器)の例を示している。この他、先端部にカメラ(電子内視鏡)等を取り付けても良い。
【0017】
図3に示す関節のうち、関節1、4はロール軸(図2に示すマスタのX軸に対応)周りに回転する関節であり、関節2、7はヨー軸(図2に示すマスタのZ軸に対応)周りに回転する関節であり、関節3、6はピッチ軸(図2に示すマスタのY軸に対応)周りに回転する関節である。また、関節5はロール軸に沿って伸縮する関節である。ここで、図3の例においては、7個の関節は全てが独立している。特に、図3は、隣り合う関節が異なる駆動軸に対応して動作する例を示している。
【0018】
図3に示した関節2〜7を協調させながら駆動させることによって、スレーブアーム301における手先の位置の3自由度と姿勢の3自由度とが実現される。また、これらの関節に加えて図3では、先端効果器3011をローリングさせるための関節1を冗長関節として設けている。このような構成により、例えば、スレーブアーム301をローリングさせる場合において、先端側に遠い側である関節4をローリングさせるか、または、先端側に近い側である関節1をローリングさせるかを適時選択することが可能である。本実施形態では、関節1と関節4とは同時に駆動させないようにして逆運動学計算を簡略化する。
【0019】
手術台302は、患者20が戴置される台であって、例えばこの手術台302にスレーブアーム301が設置される。
以下、本実施形態のマスタスレーブマニピュレータの動作について説明する。遠隔操作装置100を把持している操作者10が、遠隔操作装置100の操作部101に設けられたグリッパー部1011を把持した状態で、操作部101を移動させたり、回転させたり、グリッパー部1011を操作したりすることにより、操作部101を構成する各駆動軸が駆動される。各駆動軸が駆動されると、その駆動量が図示しない位置検出器によって検出され、各位置検出器の検出信号(操作信号)が制御装置200に出力される。なお、操作信号は、所定時間Δt毎に出力される。
【0020】
制御装置200のマスタ制御部201は、遠隔操作装置100からの6自由度に対応した操作信号に従って、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢の指令値を算出する。また、マスタ制御部201は、遠隔操作装置100からの操作信号に従って、スレーブアーム301の各関節のうち冗長関係にある関節の中の1つを駆動関節とし、残りを固定関節として選択し、この選択結果を示す関節選択信号を、位置・姿勢の指令値とともにマニピュレータ制御部202に出力する。
【0021】
ここで、関節選択信号について説明する。図3で示したように、本実施形態の例のスレーブアーム301は、6つの自由度に対応した関節に加えて、他の関節と独立して駆動可能な1つのロール軸関節を冗長関節として有し、これによって7自由度に対応した駆動を行う。スレーブアーム301の手先の位置・姿勢の指令値からスレーブアーム301の各関節の駆動量を求めるための逆運動学計算を行う場合において、指令値の数と、スレーブアーム301の駆動関節の数とが一致しているときには、逆運動学計算によって各関節の駆動量を一意に定めることができ、計算自体もそれほど複雑にはならない。これに対し、遠隔操作装置100の指令値の数よりもスレーブアーム301の駆動関節の数のほうが多くなると、収束計算を行わなければ、各関節の駆動量を一意に定めることができず、計算が複雑化する。本実施形態では、冗長関節である関節1(Roll2とする)と、この関節1と冗長関係にある関節4(Roll1とする)との一方を固定関節とし、他方を駆動関節として逆運動学計算を行うようにする。これにより、逆運動学計算の際には、7自由度のスレーブアーム301を実質的に6自由度のスレーブアーム301と考えることができるので、逆運動学計算にかかる負荷を軽減することができる。関節選択信号は、マニピュレータ制御部202において、駆動関節と固定関節とを識別するための信号である。
【0022】
Roll1とRoll2の何れを固定関節とするのかは、所定時間毎の遠隔操作装置100の姿勢変化によって決定する。以下、この考え方について説明する。
まず、遠隔操作装置100の姿勢変化について次のように定義する。例えば、ある時刻tにおいて、遠隔操作装置100の操作部101の位置が、図4(a)に示す位置O(t)であるとする。また、時刻tにおける操作部101の姿勢が、マスタロール軸X、マスタピッチ軸Y、マスタヨー軸Zがそれぞれ、図4(a)に示すX(t)、Y(t)、Z(t)の方向を向くような姿勢であるとする。この状態から、所定時間Δt経過後の時刻t+1において、操作部101の位置が、図4(a)に示す位置O(t+1)に変化したとする。また、時刻t+1における操作部101の姿勢が、マスタロール軸X、マスタピッチ軸Y、マスタヨー軸Zがそれぞれ、図4(a)に示すX(t+1)、Y(t+1)、Z(t+1)の方向を向くような姿勢に変化したとする。このときの操作部101の姿勢変化は、マスタロール軸X(t)周りの回転と、マスタピッチ軸Y(t)周りの回転と、マスタヨー軸Z(t)の回転とを合成したものである。さらに、数学的には、このような3つの軸周りの回転を、1つの軸周りの回転に置き換えることが可能である。即ち、図4(b)に示すように、ある回転軸V(t)を設定すると、時刻tから時刻t+1の間の操作部101の姿勢変化は、操作部101を回転軸V(t)周りにθ(t)だけ回転させたものと等価である。一般に、このような回転軸V(t)を表わすベクトルを、等価回転ベクトル(等価回転軸ベクトル等とも呼ばれる)と言う。本実施形態では、この等価回転ベクトルを用いて、操作部101の姿勢変化を判定する。
【0023】
ここで、スレーブアーム301の手先をローリングさせる動作を行う場合を考える。例えば、内視鏡下手術においては、術後の縫合の際に針かけ動作が必要となる。このような針かけ動作においては、スレーブアーム301の手先に取り付けられた先端効果器3011としてのグリッパーをローリングさせながら患者20の必要な部位に針をかけることになる。上述したように、スレーブアーム301は、7つの関節を協調動作させながら、先端効果器3011の位置・姿勢を制御するものである。このとき、先端効果器3011から遠い関節であるRoll1をローリングさせると、先端効果器3011のローリングも行われる反面、その他の関節も大きく動作してしまってスレーブアーム301の関節が周囲の臓器等に衝突してしまう場合があり得る。
【0024】
このため、針かけ動作のような、主にローリング動作が必要な場合には、他の関節が不必要に動作しないよう、スレーブアーム301の手先に近い側の関節であるRoll2をローリングさせることが望ましい。この場合には、Roll1を固定関節としても特に問題はなく、Roll1を固定関節とすることにより、逆運動学計算を簡略化することが可能となる。一方、Roll1を固定関節とすると、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢の取り得る範囲が大きく制限されるため、ローリング以外の回転も必要な動作の場合には、Roll1をローリングさせることが望ましい。この場合には、Roll2は固定関節としても特に問題はなく、Roll2を固定関節とすることにより、逆運動学計算を簡略化することが可能となる。
【0025】
操作部101の操作によって主に先端のロール軸関節を動作させるよう指令されたか否かは、図4(c)に示す、等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とのなす角φ(t)によって判別することができる。即ち、等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とが一致(φ(t)=0)していれば、時刻tから時刻t+1の間の操作部101の姿勢変化は、ローリングによる姿勢変化のみであると考えることができる。この場合には、操作部101により、スレーブアーム301の手先のローリングのみが必要な動作が指令されたと考えることができる。実際には、等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とが完全に一致する場合だけでなく、他の動作も入るが主に手先のローリング操作である場合も含め、等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とのなす角φ(t)にある規定値を設定し、φ(t)がこの規定値以下の場合には、先端のロール軸関節を主に動かす操作とみなす。
【0026】
図5は、以上のような考え方に従ったスレーブアーム301の駆動制御の流れについて示すフローチャートである。図5の処理は、所定時間Δt毎に実行される。図5の処理において、遠隔操作装置100から操作信号が入力されると、マスタ制御部201は、入力された操作信号から、時刻tから時刻t+1の間の姿勢変化を表わすための等価回転ベクトルV(t)と時刻tにおけるマスタロール軸X(t)とを算出する(ステップS1)。
【0027】
等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とを算出した後、マスタ制御部201は、V(t)とX(t)とのなす角φが規定値以下であるか否かを判定する(ステップS2)。ステップS2の判定において、角度φが規定値以下である、即ちV(t)とX(t)とが略一致している場合に、マスタ制御部201は、先端効果器3011が取り付けられている関節(Roll2)を駆動関節とし、この関節と冗長関係にある関節(Roll1)を固定関節とする(ステップS3)。一方、ステップS2の判定において、角度φが規定値を越えている場合に、マスタ制御部201は、先端効果器3011が取り付けられている関節(Roll2)を固定関節とし、この関節と冗長関係にある関節(Roll1)を駆動関節とする(ステップS4)。
【0028】
Roll1とRoll2の何れを駆動関節とし、何れを固定関節とするかを選択した後、マスタ制御部201は、スレーブアーム301の手先の位置・姿勢を指令するための指令値とともに、Roll1とRoll2の何れを駆動関節とし、何れを固定関節とするかを示す関節選択信号を、マニピュレータ制御部202に送信する。これを受けてマニピュレータ制御部202は、Roll1とRoll2の何れかを固定関節とした状態で逆運動学計算を行ってスレーブアーム301の各関節(固定関節とした関節以外)の駆動量を算出する。そして、マニピュレータ制御部202は、算出した駆動量に従ってスレーブアーム301の各関節を駆動する(ステップS5)。なお、逆運動学計算については、例えば解析的な手法等の従来周知の各種の手法を用いることができる。ここでは、その詳細についての説明は省略する。
【0029】
以上説明したように、本発明によれば、スレーブアーム301自体をローリングさせるための関節に加えて、先端効果器3011をローリングさせるための関節Roll2を冗長関節として有するスレーブアーム301において、遠隔操作装置100の操作部101の姿勢変化から、針かけ動作のような、主にローリングが必要な動作の指示がなされたかを判別するようにしている。そして、この判別の結果、主にローリングが必要な動作をさせるように指示されたと判別できる場合(等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とが略一致している場合)には、Roll2を駆動関節、Roll1を固定関節として逆運動学計算を行うようにしている。一方、ローリング以外の姿勢変化も必要な動作をさせるように指示されたと判別できる場合(等価回転ベクトルV(t)とマスタロール軸X(t)とが略一致していない場合)には、Roll1を駆動関節、Roll2を固定関節として逆運動学計算を行うようにしている。このように、本実施形態では、所定時間毎の操作部101の姿勢変化に応じて、Roll1とRoll2との使い分けを行うようにすることで、仮に遠隔操作装置とスレーブアームとの構造が異なる構造であっても、操作者10の操作の意図を反映しつつ、逆運動学計算にかかる負荷を低減することができる。また、本実施形態では、Roll1とRoll2との使い分けを自動的に行うことができ、スイッチなどにより駆動関節を切り替える必要がなく、操作者10の手間を軽減することも可能である。
【0030】
また、操作部101の姿勢変化を等価回転ベクトルV(t)により表わすようにしているため、種々の構造の遠隔操作装置100に対して、操作部101の姿勢変化を適切に求めることが可能である。
ここで、上述した例では、遠隔操作装置100の操作部101の自由度が6自由度(位置3自由度、姿勢3自由度)、スレーブアーム301の自由度が7自由度(位置3自由度、姿勢3自由度、手先のローリング)の例を示している。これに対し、遠隔操作装置100の操作部101の自由度とスレーブアーム301の自由度との関係は上述した例に限るものではない。例えば位置の自由度をなくした場合(即ち、操作部101の自由度が3自由度で、スレーブアーム301の自由度が4自由度の場合)であっても、上述した本実施形態の技術を適用できる。さらに、上述した例は、冗長関節が1つの例を示しているが、冗長関節の数は1つに限るものではない。例えば、図3において、関節2と関節3との間に別のロール軸関節が配されても本実施形態の技術を適用できる。なお、この場合には、関節2と関節3の間に配される関節を常に駆動関節とする。
【0031】
また、図3の例では、先端効果器3011が取り付けられている冗長関節をロール軸関節としているが、例えば、図6(a)に示すように、先端効果器3011がヨー軸関節に取り付けられた構造であっても、また図7(a)に示すように、先端効果器3011がピッチ軸関節に取り付けられた構造であっても、上述した本実施形態の技術を適用できる。ただし、図6(a)の構造の場合には、ステップS2の判定において、等価回転ベクトルV(t)とマスタヨー軸Z(t)のなす角φ(t)(図6(b)にφ(t)を示している)が規定値以下か否かを判定し、規定値以下の場合には先端効果器3011側の関節(図6(a)の関節1)を駆動関節とする。また、図7(a)の構造の場合には、ステップS2の判定において、等価回転ベクトルV(t)とマスタピッチ軸Y(t)のなす角φ(t)(図7(b)にφ(t)を示している)が規定値以下か否かを判定し、規定値以下の場合には先端効果器3011側の関節(図7(a)の関節1)を駆動関節とする。このように、本実施形態における、冗長関節と、冗長関節と冗長関係にある関節との選択は、遠隔操作装置100の姿勢変化を表わすための等価回転ベクトルと、スレーブアーム301の構造によって遠隔操作装置100に予め定められた軸と、のなす角を判定することにより、種々の構造のスレーブアーム301に対応して行うことが可能である。
【0032】
ここで、図7の例において、関節2を90度回転させた場合、関節1はヨー軸関節と等価となる。このような場合には、関節1と関節3との間で、ステップS2の判定を行うことも可能である。このように、ステップS2の判定は、初期状態で回転軸が平行になっている関節同士で行うだけではなく、冗長自由度機構において、駆動中に回転軸同士が平行となった関節の間で行うことができる。
【0033】
また、上述した各例は、回転軸が平行で冗長関係にある関節の間に、この関節に対して回転軸が直交した独立な関係にある関節が配置される構造のスレーブアーム301を示している。実際には、スレーブアーム301を構成する各関節が独立して駆動されるのであれば、冗長関係にある関節が隣接して配置されても良い。例えば、図8のような構造であっても、関節1と関節2とに対して上述した本実施形態の技術を適用可能である。
【0034】
以上実施形態に基づいて本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨の範囲内で種々の変形や応用が可能なことは勿論である。
さらに、上記した実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件の適当な組合せにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全
構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、上述したような課題を解決でき、上述したような効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成も発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0035】
100…遠隔操作装置、101…操作部、200…制御装置、201…マスタ制御部、202…マニピュレータ制御部、203…画像処理部、300…スレーブマニピュレータ、301…スレーブアーム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の自由度に対応した操作情報を与えるマスタとしての遠隔操作装置と、
複数の自由度に対応した複数の関節を有し、該複数の関節の中に冗長関節が含まれるスレーブマニピュレータと、
前記操作情報に従って、前記関節の動作を制御する制御部と、
を具備し、
前記制御部は、前記操作情報から前記遠隔操作装置の姿勢変化を算出し、該姿勢変化を用いて、所定時間毎に、前記関節のうちで冗長関係にある関節の1つを選択して駆動することを特徴とするマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項2】
前記制御部は、前記姿勢変化を表わすための軸と前記遠隔操作装置の予め定められた軸とのなす角度から、前記関節のうちで冗長関係にある関節の1つを選択して駆動することを特徴とする請求項1に記載のマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項3】
前記姿勢変化を表わすための軸は、前記姿勢変化を、姿勢変化前から姿勢変化後の回転とみた場合の回転軸に対応していることを特徴とする請求項2に記載のマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項4】
前記冗長関係にある関節の間には、前記関節の軸と直交する回転軸を有する関節が存在していることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項5】
前記冗長関係にある関節は、隣接して配置されていることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項6】
前記制御部は、前記姿勢変化を表わすための軸と前記遠隔操作装置の予め定められた軸とのなす角度が規定値以下の場合に、前記冗長関係にある関節のうち、前記スレーブマニピュレータの先端側に最も近い関節を選択して駆動し、前記姿勢変化を表わすための軸と前記遠隔操作装置の予め定められた軸とのなす角度が前記規定値を越える場合に、前記冗長関係にある関節のうち、前記スレーブマニピュレータの先端側から最も遠い関節を選択して駆動することを特徴とする請求項2乃至5の何れか1項に記載のマスタスレーブマニピュレータ。
【請求項7】
前記制御部は、前記関節のうちで冗長関係にある関節のうちの選択しなかった関節を固定関節として、残りの関節の駆動量を逆運動学計算によって算出することを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のマスタスレーブマニピュレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−55996(P2012−55996A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−200248(P2010−200248)
【出願日】平成22年9月7日(2010.9.7)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「がん超早期診断・治療機器の総合研究開発/超低侵襲治療機器システムの研究開発/内視鏡下手術支援システムの研究開発プロジェクト」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】