説明

マスタ・スレーブ型遠隔操作システム

【目的】
マスタ・スレーブ型遠隔操作システムにおいて、動作や力のスケーリングによる操作性や作業性を検証する手段を備え、微細作業を行う際に、実施する作業の内容や、作業を行う操作者の技能に合わせて、適当なスケーリングの割合を決定し、効果的に作業を行うことを目的とする。
【構成】
主に人間が操作するマスタロボットと、離れた場所で作業を行うスレーブロボットを備えるマスタ・スレーブ型遠隔操作システムにおいて、マスタロボットおよびスレーブロボットには、位置や動作、あるいは作用する力を検出するセンサを備え、また制御用コンピュータには、マスタ・スレーブ型遠隔操作システムの操作性や作業性を検証する手段を備える。本システムを用いることで、実施する作業の内容や、作業を行う操作者の技能に合わせて、適当なスケーリングの割合を決定し、効果的な作業を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操作性や作業性を検証する手段を備えたマスタ・スレーブ型遠隔操作システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ロボット技術や通信技術が進歩し、様々なマスタ・スレーブシステムが開発されている。マスタ・スレーブシステムには、マスタロボットとスレーブロボットが、同じ構造を有するものや異なる構造を有するもの、また、同じスケールを有するものや異なるスケールを有するものが存在する。
【0003】
微細作業に用いるマスタ・スレーブシステムでは、マスタロボットは主に人間が操作するため、人間が操作しやすい大きさに作られることが一般的である。これに対し、スレーブロボットは、微細作業を行うことが必要なため、マスタロボットとはスケールの異なるロボットを必要とする。
【0004】
マスタ・スレーブシステムを用いて微細作業を行う場合、スレーブロボットの先端の動作は小さく、扱う力の大きさも小さい。そこで、スレーブロボットの動作や、スレーブロボットと外部環境との間に作用する力をマスタロボットに伝達する時に、その情報を拡大し、人間が扱いやすいサイズにスケーリングして伝達する方法が考えられる。
【0005】
しかしながら、マスタ・スレーブシステムを用いて微細作業を行う際の、マスタ・スレーブシステムの操作性や作業性と各種情報のスケーリングとの関係は明らかになっておらず、スケールの異なるマスタ・スレーブ型遠隔操作システムにおいて、動作や力のスケーリングによる操作性や作業性を検証する手段を有するシステムは存在していない。
【特許文献1】特開平7-205058
【特許文献2】特開平8-187246
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マスタロボットとスレーブロボットのスケールが異なるマスタ・スレーブ型遠隔操作システムを用いて、微細作業等を効果的に実施するためには、実施する作業の内容や、作業を行う操作者の技能に合わせて、マスタロボットの動作やマスタロボットと操作者の間に作用する力と、スレーブロボットの動作やスレーブロボットと環境の間に作用する力等を、スケーリングする必要がある。
【0007】
しかしながら、従来のマスタ・スレーブ型遠隔操作システムは、操作性や作業性を検討する手段を備えていなかったため、実施する作業の内容や、作業を行う操作者の技能に合わせて、適当なスケーリングの割合を決定することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明では操作効率や操作精度などの操作性、および作業効率や作業精度などの作業性など、スケーリング効果を検証する手段を備えた、マスタ・スレーブ型遠隔操作システムを開発する。
【発明の効果】
【0009】
本発明による、操作性や作業性を検証する手段を備えたマスタ・スレーブ型遠隔操作システムを開発することで、実施する作業の内容や、作業を行う操作者の技能に合わせて、適当なスケーリングの割合を決定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明によるマスタ・スレーブ型遠隔操作システムの一つの実施例について説明する。マスタロボットは、ACサーボモータで駆動され、ベルト−プーリ機構および平行リンク機構を用いた3自由度構成とする。ACサーボモータには、回転を検出するセンサが装備され、ACサーボモータの回転の情報から、マスタロボットの位置・姿勢が検出される。また、マスタロボット先端には力センサが装備され、操作者とマスタロボットの間に作用する力を検出する。
【0011】
スレーブロボットは、マスタロボットと同様にACサーボモータで駆動され、ベルト−プーリ機構および平行リンク機構を用いた3自由度構成とする。ACサーボモータには、回転を検出するセンサが装備され、ACサーボモータの回転の情報から、スレーブロボットの位置・姿勢が検出される。ただし、平行リンク機構のリンク長が、マスタロボットと比較して半分の長さとなっている。また、スレーブロボット先端にも力センサが装備され、スレーブロボットと外部環境との間に作用する力を検出する。
【0012】
本発明では、マスタロボットとスレーブロボットのサイズが異なることを特徴としているが、マスタロボットおよびスレーブロボットの自由度、駆動用のアクチュエータや減速機、動力伝達のためのメカニズム、動作や力を検出するセンサについては、一般的なロボットに用いられる他の手段も利用することができる。
【0013】
マスタロボットおよびスレーブロボットは、コンピュータにより制御される。制御用のコンピュータには、マスタロボットおよびスレーブロボットの位置や姿勢、マスタロボットと操作者の間に作用する力や、スレーブロボットと外部環境との間に作用する力が入力される。このとき、マスタロボットおよびスレーブロボットの各種情報は、そのまま、あるいは適宜拡大、または縮小されて用いられる。
【0014】
操作者は、マスタ・スレーブ型遠隔操作システムを用いて、行いたい作業を模擬したタスクを実行する。このとき、タスクの実行時間、マスタロボットの操作のし易さ、マスタロボットの目標からの誤差、スレーブロボットの目標からの誤差等を計測する。これらの計測したデータを用いて、マスタ・スレーブ型遠隔操作システムの操作性、および作業性を評価する。評価した値に基づき、実施したい作業に適したスケーリング尺度を決定する。
【産業上の利用可能性】
【0015】
本発明は、医療の現場において、微細な外科手術を行うためのマスタ・スレーブ型遠隔操作システムに用いることで、複雑な作業を適切に実行することができる。また、手術支援に限らず、人間が直接行うことが困難な微細作業を行うためのマスタ・スレーブ型遠隔操作システムに用いることが可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主に人間が操作するマスタロボットと、離れた場所で作業を行うスレーブロボットを備えるマスタ・スレーブ型遠隔操作システムにおいて、マスタロボットとスレーブロボットのサイズが異なることを特徴とし、マスタロボットの動作とスレーブロボットの動作のスケールを変化させたり、スレーブロボットと外部環境との間に作用する力と、マスタロボットと操作者の間に作用する力のスケールを変化させたりする手段を備え、マスタロボットの操作効率や操作精度などの操作性を評価する手段と、スレーブロボットの作業効率や作業精度などの作業性を評価する手段を備えることを特徴とする、マスタ・スレーブ型遠隔操作システム。
【請求項2】
マスタ・スレーブ型遠隔操作システムにおいて、操作性や作業性の評価に基づき,マスタロボットの動作とスレーブロボットの動作のスケールや、スレーブロボットと外部環境との間に作用する力と、マスタロボットと操作者の間に作用する力のスケールなど,マスタ・スレーブ型遠隔操作システムのスケーリング尺度を決定することを特徴とする、請求項1のマスタ・スレーブ型遠隔操作システム。
【請求項3】
スレーブロボットの動作を撮影するカメラと、マスタロボットを操作する操作者にスレーブロボットの動作を提示するモニタを備え、操作者に提示するスレーブロボットの映像の倍率を変化させた場合の、マスタロボットの操作効率や操作精度などの操作性を検証する手段と、スレーブロボットの作業効率や作業精度などの作業性を検証する手段を備えることを特徴とする、請求項1または請求項2のマスタ・スレーブ型遠隔操作システム。
【請求項4】
マスタロボットにおいて、ロボットの位置や姿勢、運動を計測するためのセンサと、操作者とマスタロボットの間に作用する力を検出するセンサを備え、スレーブロボットにおいて、ロボットの位置や姿勢、運動を計測するためのセンサと、スレーブロボットと外部環境の間に作用する力を検出するセンサを備えることを特徴とする、請求項1〜請求項3のいずれかに記載のマスタ・スレーブ型遠隔操作システム。