説明

マス部材の取付構造

【課題】ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材にマス部材を取り付けるマス部材の取付構造において、マス部材を嵌入部材に取り付けるための工数を削減する。
【解決手段】マス部材3は、1枚の板状部材を加工してなるものであって、筒周方向に波形に形成された波形部30を有していて、嵌入部材2の筒部20の外周面に筒周方向に延びるように取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材にマス部材を取り付けるマス部材の取付構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材を備えたエンジンマウントなどにおいて、車体側部材の共振の抑制等のため、その嵌入部材にマス部材を取り付けることが知られている(例えば特許文献1及び2を参照)。
【0003】
図5は、従来のエンジンマウントの一例を示す斜視図である。この図の例のものでは、内部にゴムブッシュ101が圧入固定された筒部120を有する嵌入部材102が、その外周に取り付けられたブラケット121,121によって車体側部材(図示せず)に連結される一方、ゴムブッシュ101は、エンジン(図示せず)に連結されるようになっている。
【0004】
マス部材103は、複数枚の板状部材130,130,…からなっていて、これらの板状部材130,130,…が筒軸方向に重ね合わされて、これら同士が溶接された後、この互いに溶接された板状部材130,130,…が嵌入部材102の筒部120の外周面に溶接されることにより、嵌入部材102の外周面に取り付けられている。このように、マス部材103を板状部材130,130,…で構成するのは、エンジンマウントaの量産数が少ない場合に有用である。また、板状部材130,130,…同士を溶接するのは、これらが互いに接触して異音が発生することを防止するためである。
【0005】
尚、上記従来のものでは、マス部材103は異形になっているが、これはエンジンマウントaの周辺にある周辺部品(図示せず)との干渉を防止するためである。
【特許文献1】特開2008−95821号公報
【特許文献2】特開平8−233030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来のものでは、マス部材103を嵌入部材102に溶接するのに加えて、マス部材103を構成する板状部材130,130,…同士も溶接する必要があるため、その溶接箇所が多くなり、マス部材103を嵌入部材102に取り付けるための工数が多くなっていた。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材にマス部材を取り付けるマス部材の取付構造において、マス部材を嵌入部材に取り付けるための工数を削減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明は、ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材にマス部材を取り付けるマス部材の取付構造であって、上記マス部材は、1枚の板状部材を加工してなるものであって、筒周方向に波形に形成された波形部を有していて、上記筒部の外周面に筒周方向に延びるように取り付けられていることを特徴とするものである。
【0009】
これにより、マス部材は、1枚の板状部材を加工してなるものであるので、従来のように、マス部材を構成する複数枚の板状部材同士を溶接する場合と比較して、マス部材を嵌入部材に取り付けるための工数を削減することができる。
【0010】
第2の発明は、上記第1の発明において、上記波形部は、筒周方向に交互に形成された、筒径方向外側の山部及び内側の谷部を有しており、上記谷部のうち少なくとも1つと上記筒部の外周面との間には、隙間が開いていることを特徴とするものである。
【0011】
これにより、マス部材の波形部の谷部のうち少なくとも1つと嵌入部材の筒部の外周面との間に、隙間を開けているので、谷部と筒部とが接触して異音が発生することを抑制することができる。
【0012】
第3の発明は、上記第1又は2の発明において、上記マス部材は、周辺部品と対向配置されかつ上記筒部の外周面に沿って延びるように形成された弧形部をさらに有していることを特徴とするものである。
【0013】
これにより、マス部材の弧形部は、周辺部品と対向配置されていて、嵌入部材の筒部の外周面に沿って延びるように形成されているので、波形部を周辺部品と対向配置する場合と比較して、マス部材が周辺部品と干渉することを防止することができる。
【0014】
第4の発明は、上記第1〜3のいずれか1つの発明において、上記マス部材は、その筒周方向両端部が上記筒部の外周面にそれぞれ溶接されることにより、上記筒部の外周面に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0015】
これにより、マス部材は、その筒周方向両端部が嵌入部材の筒部の外周面にそれぞれ溶接されることにより、筒部の外周面に取り付けられているので、マス部材を嵌入部材に取り付けるための溶接箇所が二箇所で済み、その取付工数を削減することができる。
【0016】
第5の発明は、上記第1〜3のいずれか1つの発明において、上記マス部材は、筒周方向の略全周に亘って延びていて、その筒周方向両端部同士が結合されることにより、上記筒部の外周面に取り付けられていることを特徴とするものである。
【0017】
これにより、マス部材は、筒周方向の略全周に亘って延びていて、その筒周方向両端部同士が結合されることにより、嵌入部材の筒部の外周面に取り付けられているので、マス部材を嵌入部材に取り付けるための溶接箇所が一箇所で済む、又はマス部材を嵌入部材に取り付けるために溶接しないで済み、その取付工数を削減することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、マス部材は、1枚の板状部材を加工してなるものであるので、従来のように、マス部材を構成する複数枚の板状部材同士を溶接する場合と比較して、マス部材を嵌入部材に取り付けるための工数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0020】
(実施形態1)
本実施形態では、防振装置としてのゴムブッシュを自動車のエンジンマウントAに適用し、このエンジンマウントAは、図示しない自動車のパワープラントと車体との間に介在されて、そのパワープラントの荷重を支持するとともに、当該パワープラントからの振動を吸収し或いは減衰させて、車体への振動伝達を抑制するためのものである。
【0021】
すなわち、図1に示すように、ゴムブッシュ1は、中空円筒状の金属製内筒体10と、この内筒体10の外周囲に内筒体10と同軸に設けられた中空円筒状の金属製外筒体11と、これら両筒体10,11の間に設けられて両筒体10,11を互いに連結するゴム弾性体12とを備えるものである。そして、内部にゴムブッシュ1が圧入固定された中空円筒状の筒部20を有する嵌入金具2(嵌入部材)が、例えばその外周に筒径方向外側に延びるように一体的に取り付けられた2つの金属製ブラケット(図示せず)によって振動受け側の車体フレーム(図示せず)に連結される一方、内筒体10は、その筒軸方向両端部がそれぞれボルト等により結合されるブラケット(図示せず)によって、振動源側のパワープラントに連結されるようになっている。
【0022】
エンジンマウントAは、例えばエンジンルームに横置きに搭載されるパワープラントのトランスミッション側の端部を吊り下げるものであり、内筒体10の軸線が概ね自動車の車体の前後方向を向くように配置されている。内筒体10は、筒軸方向長さが外筒体11よりも長くなっていて、筒軸方向両端が外筒体11からそれぞれ突出している。尚、図中の13,14は、両筒体10,11の筒軸方向の相対変位を制限するゴム製ストッパーである。
【0023】
上記嵌入金具2は、上記筒部20に加えて、この筒部20の筒軸方向一方側(図1(a)では手前側)の端部を筒径方向内側に90度折り曲げて形成された第1フランジ部21と、筒部20の筒軸方向他方側(図1(a)では奥側)の端部を筒径方向外側に90度折り曲げて形成された第2フランジ部22とを有している。このように、第1フランジ部21を筒径方向内側に突出させているので、嵌入金具2内に嵌入したゴムブッシュ1を第1フランジ部21によって受けて保持することができる。
【0024】
嵌入金具2には、車体フレームの共振の抑制等のため、マス部材(デッドウェイト)3が取付固定されている。以下、このマス部材3の取付構造について説明する。尚、マス部材3は、エンジンマウントAの車体への取付工程の、後工程にて、他の部材と干渉しないように嵌入金具2に取り付けられるようになっている。また、マス部材3には、外部から直接荷重が入力されることはない。
【0025】
マス部材3は、1枚の板状部材を折り曲げ加工してなるものであって、筒周方向に波形に形成された波形部30を有している。言い換えると、この波形部30は、筒周方向に蛇腹状に折り畳まれてなるものである。波形部30は、筒周方向に交互に形成された、筒径方向外側に配置された山部31及び筒径方向内側に配置された谷部32を有している。マス部材3の筒周方向両端部は、谷部32でそれぞれ構成されている。波形部30の形状や大きさ(例えば、波形部30の筒周方向長さや筒径方向高さ、山部31や谷部32のピッチ)は、車体フレームの共振の抑制等に必要なマス部材3の必要重量に基づいて設定されている。このように、マス部材3に波形部30を設けることにより、マス部材3の重量設計に幅を持たせることができる。
【0026】
マス部材3は、その筒周方向両端部(即ち両端の谷部32,32)が上記嵌入金具2の筒部20の外周面にそれぞれ溶接されることにより、筒部20の外周面における車体の左右方向一方側(図1(b)では右側)に筒周方向に延びるように取り付けられている。図中のWは溶接部を示している(図1(a)では図示省略)。このように、マス部材3を嵌入金具2に取り付けるための溶接箇所が二箇所で済むため、従来のように、マス部材を構成する複数枚の板状部材同士を溶接する場合と比較して、その取付工数を削減することができる。また、上記のように溶接箇所が二箇所になることにより、その溶接長さが短くなるため、コスト削減を図ることができるとともに、嵌入金具2に歪みが発生することを防止することができる。
【0027】
マス部材3は、筒部20の第2フランジ部22との干渉を防止するため、筒部20の外周面の第1フランジ部21側寄りに配置されている。また、両端の谷部32,32以外の他の谷部32,32,…と筒部20の外周面との間には、それぞれ隙間が開いている。このような隙間を設けることにより、谷部32と筒部20とが接触して異音が発生することを防止することができる。
【0028】
(実施形態2)
本実施形態は、図2に示すように、マス部材3を筒部20の外周面にて筒周方向の略全周に亘って延ばして巻いたものである。以下、実施形態1との相違点について説明する。
【0029】
マス部材3は、互いに斜め上下方向(図2(b)では右上(又は左下)方向)に対向する第1及び第2波形部30a,30bと、これらの波形部30a,30bの、下記周辺部品P側の端部の間を連結するように湾曲形成された円弧形部33と、第1波形部30aにおける円弧形部33(周辺部品P)とは反対側の端部から筒部20の外周面に沿って第1波形部30aとは反対側に延びるように湾曲形成された第1結合部34と、第2波形部30bにおける円弧形部33とは反対側の端部から筒部20の外周面に沿って第2波形部30bとは反対側に延びるように湾曲形成された第2結合部35とを有している。
【0030】
円弧形部33は、エンジンマウントA(ゴムブッシュ1)の周辺にある周辺部品P(図2(b)のみ図示)と対向配置されていて、筒部20の外周面に沿って延びるように形成されている。つまり、円弧形部33は筒部20の外周面に略密着している。このように円弧形部33を形成することにより、波形部30を周辺部品Pと対向するように配置する場合と比較して、マス部材3が周辺部品Pと干渉することを防止することができる。
【0031】
第1結合部34おける第1波形部30aとは反対側の端部と、第2結合部35おける第2波形部30bとは反対側の端部とは、近接対向(又は接触対向)している。
【0032】
マス部材3は、その筒周方向両端部同士(即ち第1及び第2結合部34,35おける波形部30a,30bとは反対側の端部同士)が溶接によって結合されることにより、筒部20の外周面に取り付けられている。このように、マス部材3を嵌入金具2に取り付けるための溶接箇所が一箇所で済むため、その取付工数を削減することができる。また、マス部材3を嵌入金具2に溶接しなくて済むため、嵌入金具2に歪みが発生することを防止することができる。
【0033】
尚、本実施形態では、波形部30や円弧形部33の配置位置や個数などを上記のように設定しているが、当然のことながら、周辺部品Pの配置位置や個数などに応じて、波形部30や円弧形部33の配置位置や個数などを変更してもよい。
【0034】
(実施形態3)
本実施形態は、図3に示すように、実施形態2と同様、マス部材3を筒部20の外周面にて筒周方向の略全周に亘って延ばして巻いたものであるが、マス部材3の嵌入金具2への取付手段が実施形態2とは異なるものである。以下、実施形態2との相違点について説明する。
【0035】
マス部材3は、第1及び第2波形部30a,30b、円弧形部33、並びに第1及び第2結合部34,35に加えて、この第1結合部34における第1波形部30aとは反対側の端部を筒径方向外側に約90度折り曲げて形成された略矩形状の第1締結部34aと、第2結合部35における第2波形部30bとは反対側の端部を筒径方向外側に約90度折り曲げて形成された略矩形状の第2締結部35aとをさらに有している。これらの締結部34a,35aは、近接対向(又は接触対向)している。第1及び第2締結部34a,35aには、互いに対応する位置に締結用挿通孔(図示せず)がそれぞれ形成されている。
【0036】
マス部材3は、その第1及び第2締結部34a,35a同士がそれらの締結用挿通孔に挿通されたボルト36及びナット37(即ち締結具)による締結によって結合されることにより、嵌入金具2の筒部20の外周面に取り付けられている。このように、マス部材3を嵌入金具2に取り付けるために締結箇所が一箇所必要となるものの、その代わり、その取付のために溶接しないで済むため、その取付工数を削減することができる。この取付方法は、嵌入金具2及びマス部材3が溶接不可能なもの(例えば鋳物やアルミダイキャスト製のもの)である場合に有用である。
【0037】
尚、本実施形態では、マス部材3は、その第1及び第2締結部34a,35a同士がボルト36及びナット37による締結によって結合されることにより、嵌入金具2の筒部20の外周面に取り付けられているが、これに限らず、例えば、図4に示すように、その第1及び第2締結部34a,35a同士がリベット38(即ち締結具)による締結によって結合されることにより、筒部20の外周面に取り付けられてもよい。
【0038】
(その他の実施形態)
上記各実施形態では、ゴムブッシュ1をエンジンマウントAに適用しているが、これに限らず、例えば、ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材を備えたトルクロッドやサスペンションリンクなどに適用してもよい。
【0039】
さらに、上記各実施形態では、両端の谷部32,32以外の他の谷部32,32,…と筒部20の外周面との間に、それぞれ隙間を設けているが、谷部32,32,…のうち少なくとも1つと筒部20の外周面との間に、隙間を設けていればよい。但し、異音の発生の防止の観点からは、筒部20との間に隙間を設ける谷部32の数は多いことが望ましい。
【0040】
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0041】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示すものであって、明細書には何ら拘束されない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明にかかるマス部材の取付構造において、マス部材を嵌入部材に取り付けるための工数を削減することが必要な用途等に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の実施形態1に係るエンジンマウントを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【図2】実施形態2に係るエンジンマウントを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図、(c)は側面図である。
【図3】実施形態3に係るエンジンマウントを示す図であり、(a)は斜視図、(b)は正面図である。
【図4】実施形態3に係るエンジンマウントの変形例の斜視図である。
【図5】従来のエンジンマウントの斜視図である。
【符号の説明】
【0044】
A エンジンマウント
P 周辺部品
1 ゴムブッシュ
2 嵌入金具(嵌入部材)
20 筒部
3 マス部材
30 波形部
30a 第1波形部
30b 第2波形部
31 山部
32 谷部
33 円弧形部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムブッシュが嵌入される筒部を有する嵌入部材にマス部材を取り付けるマス部材の取付構造であって、
上記マス部材は、1枚の板状部材を加工してなるものであって、筒周方向に波形に形成された波形部を有していて、上記筒部の外周面に筒周方向に延びるように取り付けられていることを特徴とするマス部材の取付構造。
【請求項2】
請求項1記載のマス部材の取付構造において、
上記波形部は、筒周方向に交互に形成された、筒径方向外側の山部及び内側の谷部を有しており、
上記谷部のうち少なくとも1つと上記筒部の外周面との間には、隙間が開いていることを特徴とするマス部材の取付構造。
【請求項3】
請求項1又は2記載のマス部材の取付構造において、
上記マス部材は、周辺部品と対向配置されかつ上記筒部の外周面に沿って延びるように形成された弧形部をさらに有していることを特徴とするマス部材の取付構造。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のマス部材の取付構造において、
上記マス部材は、その筒周方向両端部が上記筒部の外周面にそれぞれ溶接されることにより、上記筒部の外周面に取り付けられていることを特徴とするマス部材の取付構造。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1つに記載のマス部材の取付構造において、
上記マス部材は、筒周方向の略全周に亘って延びていて、その筒周方向両端部同士が結合されることにより、上記筒部の外周面に取り付けられていることを特徴とするマス部材の取付構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−203545(P2010−203545A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−50800(P2009−50800)
【出願日】平成21年3月4日(2009.3.4)
【出願人】(000201869)倉敷化工株式会社 (282)
【Fターム(参考)】