説明

マッハツェンダ光導波路とそれを用いた光変調器

【課題】小型で低損失な光導波路を含むマッハツェンダ光導波路、および当該マッハツェンダ光導波路を具備し、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射する光変調器を提供する。
【解決手段】基板上に、入力光導波路と、出力光導波路と、前記入力光導波路と前記出力光導波路とにそれぞれ接続され、前記入力光導波路からの光が入力される、または前記出力光導波路へ光を出力する分岐光導波路と、前記分岐光導波路に接続され、曲率半径を有して曲線上に形成されたアームと、前記アームに沿って前記基板の一部が掘り下げられた溝部とが形成されたリッジ型のマッハツェンダ光導波路であって、前記アームは、前記アームの根元部近傍において実質的に前記溝部が形成されておらず、当該実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの曲率半径が、前記溝部が形成されている領域における前記アームの曲率半径よりも大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小型で低損失な光導波路を含むマッハツェンダ光導波路、および当該マッハツェンダ光導波路を具備し、光導波路に入射した光を高周波電気信号で変調して光信号パルスとして出射する光変調器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高速、大容量の光通信システムが実用化されている。このような高速、大容量の光通信システムに組込むための高速、小型、低価格、かつ高安定な光変調器の開発が求められている。
【0003】
このような要望に応える光変調器として、リチウムナイオベート(LiNbO)のように電界を印加することにより屈折率が変化する、いわゆる電気光学効果を有する基板(以下、LN基板と略す)に光導波路と進行波電極を形成した進行波電極型リチウムナイオベート光変調器(以下、LN光変調器と略す)がある。このLN光変調器は、その優れたチャーピング特性から2.5Gbit/s、10Gbit/sの大容量光通信システムに適用されている。最近はさらに40Gbit/sの超大容量光通信システムにも適用が検討されている。
【0004】
以下、従来、実用化され、又は提唱されてきたリチウムナイオベートの電気光学効果を利用したLN光変調器について説明し、その中で従来使用されて来た分岐光導波路や合波光導波路について述べる。なお、分岐光導波路と合波光導波路を総称して分岐光導波路、あるいはカプラと呼ぶこともある。
【0005】
(第1の従来技術)
特許文献1に開示された、z−カットLN基板を用いて構成したプレーナ型LN光変調器を第1の従来技術の光変調器として図6にその斜視図を示す。なお、図7は図6のA−A´線における断面図である。
【0006】
z−カットLN基板1上に光導波路3が形成されている。この光導波路3は、金属Tiを1050℃で約10時間熱拡散して形成した光導波路であり、マッハツェンダ干渉系(あるいは、マッハツェンダ光導波路)を構成している。したがって、光導波路3の電気信号と光が相互作用する部位(相互作用部と言う)には2本の相互作用光導波路3dと3e、つまりマッハツェンダ光導波路の2本のアームが形成されている。また、図7で使用されているように平坦なLN基板に形成された光導波路をプレーナ光導波路と呼んでいる。
【0007】
実際のLN光変調器では、この光導波路3の上面にSiOバッファ層2が形成され、このSiOバッファ層2の上面に進行波電極4が形成されている。進行波電極4としては、1つの中心導体4aと2つの接地導体4b、4cを有するコプレーナウェーブガイド(CPW)を用いている。なお、通常、進行波電極4は高価な貴金属材料であるAuにより形成されている。5はz−カットLN基板1を用いて製作したLN光変調器に特有の焦電効果に起因する温度ドリフトを抑圧するための導電層であり、通常はSi導電層を用いる。なお、説明を簡単にするために、図6では図示したSi導電層5を図7においては省略している。また、以下においてもSi導電層5は省略して議論する。
【0008】
変調用の高周波(RF)電気信号をこの光変調器の高周波電気信号給電線6を介して中心導体4aと接地導体4bに供給すると、中心導体4aと接地導体4bの間に電界が印加される。z−カットLN基板1は電気光学効果を有するので、この電界により屈折率変化を生じ、2本の相互作用光導波路3d、3eを伝搬する光の位相にずれが発生する。このずれがπになった場合、光導波路3のマッハツェンダ光導波路としての合波部において、高次モードを励振し、光はOFF状態になる。なお、7は高周波電気信号出力線であり、終端抵抗で置き換えても良い。
【0009】
図6に示した特許文献1の光変調器の特徴としては、1)中心導体4aの幅Sを相互作用光導波路3d、3eの幅とほぼ同じ6μm〜12μm程度としている、2)中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWを15〜60μmと広くしている、さらに3)相互作用光導波路3d、3eを伝搬する光の中心導体4aと接地導体4b、4cからなる進行波電極4を構成する金属による吸収を抑えるためにのみ使用されてきたSiOバッファ層2の比誘電率が4〜6と比較的低いことを利用してSiOバッファ層2の厚みDを400nm〜1.5μm程度と厚くする、ことにより、高周波電気信号のマイクロ波等価屈折率nを低減して、相互作用光導波路3d、3eを導波する光の等価屈折率nに近づけるとともに、特性インピーダンスをなるべく50Ωに近づけている。
【0010】
ここで、図8は図6において使用されている光導波路3の上面図である。3aは入力光導波路、3b(3g)はY分岐(合波)光導波路(以降はともにY分岐光導波路と言う)、3c(3f)はY分岐(合波)光導波路のアーム(以降はともにY分岐光導波路のアームと言う)、3dと3eは相互作用光導波路、3hは出力光導波路である。なお、Y分岐合波光導波路のアーム3fはY分岐光導波路3gのいわば入力光導波路となっている。
【0011】
このように、ここでは光入力用カプラと光出力用カプラとしてY分岐光導波路を用いたが、多モード干渉型(MMI)カプラやゼロギャップ方向性結合器など、その他の構造の光導波路でも良いことは言うまでもない。
【0012】
また、図8では入力光導波路3aと出力光導波路3hは各々1本であるが、これに限るものではない。つまり、入力光導波路と出力光導波路は複数本あっても良い。
【0013】
また図8において、入力光導波路3aや出力光導波路3hの長さは入射したモードを安定させる、あるいは出射の際に高次モードを落とすためにある程度の長さが必要であり、それらに必要な長さはほぼ決まっている。またY分岐光導波路3b、3gの長さも損失の観点からほぼ決まっている。さらに、パッケージ筐体の長さも決まっているので、LN光変調器のチップの長さもほぼ決まることになる。そのため、図8に示したY分岐光導波路のアーム3cと3fの長さLとL、及び相互作用光導波路3dと3eの長さ(この光と高周波電気信号が相互作用する領域の長さを、相互作用部の長さあるいは相互作用長という)Lの和Lは一定である。
【0014】
図9には性能を評価する簡単な目安として、相互作用長Lに対するDCVπ(静的な電圧における半波長電圧)を示す。図からわかるように、相互作用部の長さLが長いほどVπは低くなり、性能的に有利になると言える。このDCVπと相互作用長LはよくVπ・Lとして議論されるように性能指数として重要であり、相互作用長Lは長いほど駆動電圧を低減するためにも、また設計の自由度を増すためにも有利となる。その結果、LN光変調器としての重要な特性である高周波駆動電圧も相互作用光導波路3dと3eの長さLにより決定される。このように、Y分岐光導波路のアーム3cと3fの長さLとLを可能な限り短くすることが好ましい。
【0015】
なお、以下の議論ではY分岐光導波路のアーム3cと3fは同一の構造をしていると仮定して議論するが、これらを互いに異ならしめても良いことはいうまでもない。
【0016】
なお、図を簡単にするために、図8ではY分岐光導波路のアーム3cと3fを直線のように描いたが、実際には描画が簡単で、かつ挿入損失が低い円弧を組み合わせて使用するのが一般的である。
【0017】
Y分岐光導波路の具体的な構造を図10に示す。ここで、プレーナ光導波路の構造を有するY分岐光導波路のアーム3cの曲率半径Rは30mm〜50mm程度であり、アーム3cは1つの曲率半径Rからなる円弧で構成されている。ここで、Y分岐光導波路のアーム3cの長さをLとする(つまり、図10のLは図8のLとLに対応する)。なお、以下ではY分岐光導波路について議論を進めるが、Y合波光導波路についても同じ議論を当てはめることができる。
【0018】
図7に示した第1の従来技術の構造により、中心導体4aの幅Sが30μm程度、中心導体4aと接地導体4b、4c間のギャップWが6μm程度、SiOバッファ層2の厚みDが300nm程度であった第1の従来技術以前の構造と比べて、光変調帯域、特性インピーダンスなど光変調器としての特性が大幅に改善できた。しかしながら、光変調帯域、駆動電圧、特性インピーダンスなどについてさらに改善された特性が必要となり、次に述べる第2の従来技術として、いわゆるリッジ構造が提案された。
【0019】
(第2の従来技術)
第1の従来技術をさらに高性能化するために特許文献2、特許文献3に提案されたリッジ構造を第2の従来技術として図11(a)に示す。ここで、8aは中心導体4aの下のリッジ部、8bは接地導体4bの下のリッジ部、2はSiOバッファ層である。9a、9b、9cは基板1の一部が掘り下げられて形成された、溝部の底面(以降、単に溝部と言う)である。なお、9aと9bの上方は空隙となっている。
【0020】
また、図11(b)において10a、10bは中心導体4aから出て接地導体4b、4cに入る電気力線であり、相互作用光導波路3d、3eに作用してそれらの屈折率を変化させる(あるいは、相互作用光導波路3d、3eを伝搬する光と相互作用するとも言える)。
【0021】
この第2の従来技術ではz−カットLN基板1に8aや8bなどのリッジ部が形成されているため、電気力線10aは溝部9aの上方の空気を、電気力線10bは溝部9bの上方の空気を感じる。その結果、高周波電気信号のマイクロ波等価屈折率nがより低減して、相互作用光導波路3d、3eを導波する光の等価屈折率nに近づく、あるいは特性インピーダンスが50Ωに向かって高くなるという利点がある。さらに、電気力線10a、10bには比誘電率が高い領域に閉じこもる性質があるので、相互作用光導波路3d、3eを伝搬する光との相互作用の効率が高くなり、結果的に駆動電圧を低減できる。通常、リッジ部8a、8bの高さとしては2〜10μm程度、進行波電極の厚みとしては20〜60μm程度、SiOバッファ層2の厚みとしては300nm〜1.5μm程度が使用される。なお、説明の簡単のために、図7と同じく、図11(a)と図11(b)ではSi導電層を省略している。
【0022】
この第2の従来技術により、光変調帯域、駆動電圧、特性インピーダンスなど、光変調器としての基本性能について図7に示した第1の従来技術よりも大幅に改善された特性が実現できる。
【0023】
ここで、図11(a)のリッジ構造を実現する工程(プロセス工程)の一例について図12を用いて説明する。
【0024】
工程(a)ではz−カットLN基板1の上の全面にドライエッチング用マスク11を堆積する。この時、ドライエッチング用マスク11とz−カットLN基板1の間にSiOなどの保護層を設けても良い。そして、ドライエッチング用マスク11の上にフォトレジストを塗布し、そのフォトレジストを12a、12b、12c、12dのようにパターニングする。
【0025】
工程(b)では、工程(a)で12a、12b、12c、12dのようにパターニングしたフォトレジストを用いて、図12の(a)におけるドライエッチング用マスク11を、ウェットエッチングやドライエッチングにより11a、11b、11c、11dのようにパターニングした後、フォトレジスト12a、12b、12c、12dを除去する。
【0026】
工程(c)では、ドライエッチング用マスク11a、11b、11c、11dを用いて、イオンビーム13によりz−カットLN基板1をドライエッチングする。ここで、8a、8bはリッジ部、9a、9b、9cは溝部である。
【0027】
工程(d)では、ドライエッチング用マスク11a、11b、11c、11dを除去する。これで、リッジ構造が完成する。
【0028】
ここで、図11(a)や図12からわかるようにリッジ部8a、8bは台形の形状となる。これはz−カットLN基板1のドライエッチング時に11a、11b、11c、11dがサイドエッチングされるために生じる。そして後述するように、このことがY分岐光導波路などにおける光の挿入損失に大きな影響を与えることになる。なお、この台形の角度(つまり、z−カットLN基板1の表面に平行な方向に対するリッジ部8aと8bの側面の角度)は50°〜85°程度である。
【0029】
図13は図11(a)に示したリッジ構造の光導波路におけるY分岐光導波路である。図13では、リッジ部8a、8bの側壁を8a´、8b´として指示している。この場合においても、Y分岐光導波路のアーム3cは円弧を組み合わせて構成されており、1つの曲率半径Rからなる円弧で構成されている。
【0030】
図14(a)、(b)は各々図13のB−B´とC−C´における断面図である。図13において説明したように、リッジ部8a、8bは台形となる。従って、図14のB−B´における断面図では、図14(a)に示したように光導波路3dと3eの間の溝部9bが消失し、リッジ構造(あるいはリッジ光導波路構造)とならずにプレーナ構造(あるいはプレーナ光導波路構造)となる。一方、図13のC−C´における断面図では図14(b)に示したように溝部9bが形成され、リッジ構造をなしている。
【0031】
なお、後における説明を簡単にするために、図13に示したリッジ型Y分岐光導波路の光導波路のみを図15に示す。図10に示したプレーナ型Y分岐光導波路と同じく、レチクルの描画の簡単さと挿入損の低さから図14のリッジ型Y分岐光導波路のアームも円弧により構成されている。ここで、その曲率半径をRとするとその値は2mm〜10mm程度である。
【0032】
図16には図10に第1の従来技術で使用するプレーナ光導波路構造のY分岐光導波路と、図13に第2の従来技術で使用するリッジ光導波路構造のY分岐光導波路について、Y分岐光導波路における1本のアームの曲率半径R、Rに対するそれらの挿入損失を各々点線と実線で示す。また、図には第1の従来技術と第2の従来技術におけるY分岐光導波路のアーム3cの全長を各々L、Lとして示している。図16に示した光の挿入損失は、いわば図10や図13に示したY分岐光導波路における1本のアームにより形成されるSベンド光導波路による損失に対応している。
【0033】
図16からわかるように、Y分岐光導波路のアーム3cがプレーナ光導波路からなる第1の従来技術では円弧の曲率半径Rが小さくなると、挿入損失が急速に増加する。そのため、実際のデバイスでは30mm〜50mm程度と大きな曲率半径を使用するのが普通である。
【0034】
一方、Y分岐光導波路のアーム3cにリッジ光導波路を使用する第2の従来技術では、円弧の曲率半径Rが小さくなっても第1の従来技術ほどには挿入損失は増加しないものの、図14(a)に示すように、図13のB−B´の部分はプレーナ光導波路であるので、円弧の曲率半径Rが小さくなるとこの部分での挿入損失が急速に増加する。図16のRが小さな場合において、プレーナ光導波路構造である第1の従来技術についての結果からその様子を見ることができる。
【0035】
参考のために、図16には全体が完全にリッジ光導波路からなるSベンド光導波路の挿入損失を一点鎖線で示している。このように、全体が完全にリッジ光導波路からなるSベンド光導波路では円弧の曲率半径が小さくなっても光の挿入損失の増加を抑圧できる。
【0036】
以上のように、図7に示した第1の従来技術ではY分岐光導波路がプレーナ光導波路構造であるため、ベンド光導波路の曲率半径Rを大きく設定する必要があり、図8におけるY分岐光導波路のアーム3cと3fの長さLとLが長くなった。そのため高周波電気信号と光が相互作用する相互作用長Lが短くなり、高周波駆動電圧が高くなってしまうという問題があった。
【0037】
一方、図13に示す第2の従来技術におけるリッジ型Y分岐光導波路では、図14(a)、(b)に示すようにプレーナ光導波路とリッジ光導波路の両方の構造を有している。そして、図15からわかるようにこのY分岐光導波路は一つの曲率半径Rからなる2つの円弧により形成されている。その結果、図14(a)の円弧における光の挿入損失を抑えるために曲率半径Rとして大きな値を選択すると、Y分岐光導波路のアーム3c(と3f)の長さL(とL)が長くなるので、相互作用部の長さLが短くなる。その結果、高周波駆動電圧が高くなってしまうという問題があった。
【0038】
さらに、図14(b)のリッジ光導波路構造に着目し、小さな曲率半径Rを選択することにより、Y分岐光導波路のアーム3c、3fの長さL、Lを短くできるので相互作用長Lを長くできる。しかしながら、プレーナ光導波路構造である図14(a)の領域における挿入損失が光デバイスとして許容できないほど増加してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0039】
【特許文献1】特開平2−51123号公報
【特許文献2】特開平3−229214号公報
【特許文献3】特開平4−288518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0040】
以上のように、プレーナ光導波路構造のY分岐光導波路ではそのアームを構成する円弧の曲率半径が小さいと挿入損失が急増する。そのためプレーナ光導波路からなる第1の従来技術ではY分岐光導波路のアームの曲率半径を大きくすることにより光の挿入損失を抑えるとY分岐光導波路のアームが長くなる。その結果、相互作用長が短くなり、駆動電圧が高くなった。またリッジ光導波路を用いる第2の従来技術においては、Y分岐光導波路のアームが、曲率半径が小さいと光の挿入損失が大きくなってしまうプレーナ光導波路と、曲率半径が小さくても光の挿入損失を小さく抑えることのできるリッジ光導波路の両方からなっていた。さらに、これらは1つの曲率半径からなる円弧で構成されていた。そのため、プレーナ光導波路の部分における挿入損失を抑えるためにその円弧の曲率半径を大きくするとY分岐光導波路のアーム全体としての長さが長くなるので、光と高周波電気信号が相互作用する相互作用部が短くなり、結果的に高周波駆動電圧が高くなった。一方、その円弧の曲率半径を小さくするとY分岐光導波路のアームの長さを短くできるので相対的に相互作用長を長くすることが可能となる。その結果、高周波駆動電圧を抑圧することができるものの、プレーナ光導波路の部分における損失増加のために、光デバイスとして許容できないほど光の挿入損失が大きくなるという問題が生じていた。このように、曲率半径が小さくても挿入損失を抑えることのできるリッジ光導波路を用いる分岐光導波路において、光の挿入損失を低く抑え、かつそのアームの長さを短くできる構造と、これを用いることにより低損失で駆動電圧が小さなLN光変調器の実現が急務であった。
【0041】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、優れた分岐光導波路や合波光導波路を用いることにより、光変調特性が高性能であるとともに、光の挿入損失が改善された光変調器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0042】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1に記載のマッハツェンダ光導波路は、基板上に、入力光導波路と、出力光導波路と、前記入力光導波路と前記出力光導波路とにそれぞれ接続され、前記入力光導波路からの光が入力される、または前記出力光導波路へ光を出力する分岐光導波路と、前記分岐光導波路に接続され、曲率半径を有して曲線上に形成されたアームと、前記アームに沿って前記基板の一部が掘り下げられた溝部とが形成されたリッジ型のマッハツェンダ光導波路であって、前記アームは、前記アームの根元部近傍において実質的に前記溝部が形成されておらず、当該実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの曲率半径が、前記溝部が形成されている領域における前記アームの曲率半径よりも大きいことを特徴としている。
【0043】
上記課題を解決するために、本発明の請求項2に記載のマッハツェンダ光導波路は、請求項1に記載のマッハツェンダ光導波路において、前記実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数の絶対値が、前記溝部が形成されている領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数の絶対値よりも大きいことを特徴としている。
【0044】
上記課題を解決するために、本発明の請求項3に記載のマッハツェンダ光導波路は、請求項1または2に記載のマッハツェンダ光導波路において、前記実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数と、前記溝部が形成されている領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数とが、各々の中心線の交点において一致することを特徴としている。
【0045】
上記課題を解決するために、本発明の請求項4に記載の光変調器は、電気光学効果を有する前記基板上に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマッハツェンダ光導波路が形成され、前記基板の一方の面側に、前記マッハツェンダ光導波路を導波する光を変調する高周波電気信号を印加する中心導体及び接地導体からなる電極が形成されていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0046】
本発明では、プレーナ光導波路構造とリッジ光導波路構造の両方を具備する分岐(合波)光導波路のアームが複数の曲率半径を有する。そして、そのプレーナ光導波路の曲率半径は、リッジ光導波路の曲率半径よりも大きい。これによりプレーナ光導波路の領域における光の挿入損失を極力抑えることが可能となる。また、リッジ光導波路の曲率半径は小さいので光の挿入損失を小さく抑えたまま長手方向の長さを短くすることができる。その結果、光と高周波電気信号の相互作用長を長くすることが可能となるので、全体として光の挿入損失を抑えつつ、高周波電気信号の駆動電圧を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明の第1の実施形態に適用するY分岐光導波路についての概略構成図を示す上面図
【図2】本発明の第1の実施形態に適用するY分岐光導波路のみについての概略構成図を示す上面図
【図3】本発明の第1の実施形態に係わる光変調器の最適構成を説明する図
【図4】本発明の第1の実施形態の動作原理を説明する図
【図5】本発明の第2の実施形態のY分岐光導波路についての概略構成図を示す上面図
【図6】第1の従来技術の光変調器についての概略構成を示す斜視図
【図7】図6のA−A´における断面図
【図8】第1の従来技術の光導波路についての概略構成を示す上面図
【図9】第1の従来技術の光変調器についての動作原理を説明する図
【図10】第1の従来技術の光変調器のY分岐光導波路についての概略構成図を示す上面図
【図11】(a)第2の従来技術の光変調器についての概略構成を示す断面図、(b)第2の従来技術の光変調器についての動作原理を説明する図
【図12】第2の従来技術の光変調器についての製作工程を説明する図
【図13】第2の従来技術の光変調器のY分岐光導波路についての概略構成図を示す上面図
【図14】(a)図13のB−B´における断面図、(b)図13のC−C´における断面図
【図15】第2の従来技術の光変調器のY分岐光導波路のみについての概略構成図を示す上面図
【図16】第1の従来技術と第2の従来技術の光変調器が有するY分岐光導波路の問題点を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0048】
以下、本発明の実施形態について説明するが、図6から図16に示した従来技術と同一の符号は同一機能部に対応しているため、ここでは同一の符号を持つ機能部の説明を省略する。
【0049】
(第1の実施形態)
分岐(合波)光導波路としてY分岐光導波路を例にとり、その上面図を図1に示す。光の入出力を入れ替えればY合波導波路についても同じ議論が当てはまることは言うまでもない。本発明では、Y分岐光導波路のアーム(Sベンド)がプレーナ光導波路の構造(ここでは、幾分リッジ構造の要素はあっても充分なリッジ光導波路とはいえず、プレーナ光導波路に近い構造もこう呼ぶ)と(いわば)完全なリッジ光導波路の構造からなっている。プレーナ光導波路とリッジ光導波路は各々図1中のB−B´とC−C´に対応している。
【0050】
図1中、Y分岐光導波路のアーム3c´がプレーナ光導波路(あるいはそれに近い)構造の領域では曲率半径R´の円弧とし、Y分岐光導波路のアーム3c´´が充分リッジ光導波路の構造となっている領域では曲率半径Rの円弧としている。そして、R´>Rと設定する。
【0051】
図1において、一点鎖線20は曲率半径R´の円弧からなるY分岐光導波路アーム3c´の幅の中心線を表し、点線21は曲率半径Rの円弧からなるY分岐光導波路アーム3c´´の幅の中心線を表している。また、3iはY分岐光導波路アーム3c´の幅の中心線20とY分岐光導波路アーム3c´´の幅方向の中心線21が交差する点、つまり中心線20と中心線21の交点である。
【0052】
図2にはY分岐光導波路のみを示す。このように、本発明ではY分岐光導波路のアームが複数の曲率半径の円弧から構成されている。ここで、3c´と3c´´からなるY分岐光導波路のアームの長さをLPRとする。
【0053】
なお、光の挿入損失の増加を抑えるには、図3に示すように曲率半径Rの円弧からなる領域3c´の光導波路についての中心線20と、曲率半径Rの円弧からなる領域3c´´の光導波路についての中心線21の微係数は中心線20と21の交点3iにおいて一致することが望ましい。図3の22は、交点3iにおける中心線20と中心線21の長手方法の座標に対する微係数であり、両者は一致している。
【0054】
図4には横軸に本発明におけるリッジ光導波路の構造を有するY分岐光導波路のアーム3c´´の曲率半径Rに対する挿入損失を示す。参考のために、図10に示すY分岐光導波路のアーム3cが1つの曲率半径Rの円弧からなる第1の従来技術と、図13に示すY分岐光導波路のアーム3cが1つの曲率半径Rの円弧からなる第2の従来技術についての結果も図に示す。
【0055】
なお、図1と図2に示した本発明におけるプレーナ光導波路の構造(あるいは、リッジとしての光の閉じ込め効果が弱く、ほぼプレーナ光導波路といえる構造)であるY分岐光導波路のアーム3c´の曲率半径R´は充分大きな値である30mmとした。そのため、この領域における挿入損失の増加はほとんどない。一方、Y分岐光導波路のアーム3C´´は完全にリッジ光導波路の構造なので、曲率半径Rが小さくても光の挿入損失は小さい。
【0056】
従って、本発明を適用することにより、光の挿入損失を増加することなく、Y分岐光導波路のアームの長さ(図2のLPR)を短くすることができるので光と高周波電気信号が相互作用する相互作用長を長くすることができ、結果的に駆動電圧を低減できるという優れた利点を生み出すことができる。
【0057】
なお、これまでY分岐光導波路のアーム3c´は円弧により構成されているとして議論したが、これは円弧がレチクルを作成するのに容易であることと、挿入損失が低いことによる。また本発明の動作原理についての説明が容易であるためでもある。
【0058】
従って、本発明においてはY分岐のアーム3´が円弧以外の曲線であっても良い。あるいは、プレーナ光導波路が無限大の円弧を有する円弧と解釈できる直線が構成要素に含まれていても良い。そしてこれらのことは本発明の全ての実施形態についても成り立つ。勿論であるが、以上の議論はY分岐(合波)回路についても成り立つことは言うまでも無い。
【0059】
(第2の実施形態)
図5は本発明に適用するY分岐光導波路の第2の実施形態である。本実施形態では図からわかるように、第1の実施形態と比較して、プレーナ光導波路の構造を有するY分岐光導波路のアーム3c´の長さが長い。従って、Y分岐光導波路のアームの長さという観点では第1の実施形態よりも若干不利ではあるが、Y分岐光導波路のアーム3c´´はリッジ光導波路の構造となっているので、Y分岐光導波路のアーム3c´´を構成する円弧の曲率半径RをY分岐光導波路のアームc´を構成する円弧の曲率半径R´よりも小さくすることにより、本発明の効果を発揮できる。
【0060】
(各実施形態)
光入力用カプラや光出力用カプラの例としてY分岐型の1x2分岐光導波路について採り上げたが、プレーナ光導波路構造とリッジ光導波路構造の両方がある限り本発明を適用できる。つまり、多モード干渉型(MMI)カプラやゼロギャップカプラを用いた2x2でも良いし、それ以上の光導波路を有するカプラであっても良い。また強度変調器でも良いし、DQPSK、DPSKのような位相変調型のLN光変調器、さらには光変調器以外の光デバイスにも適用できることは言うまでもない。要は本発明はリッジ光導波路とプレーナ光導波路が共存する光デバイスに適用可能である。
【0061】
また、光導波路の形成法としてはTi熱拡散法の他に、プロトン交換法など光導波路の各種形成法を適用できる。
【0062】
また、z−カットLN基板について説明したが、x−カットやy−カットなどその他の面方位のLN基板でも良いし、リチウムタンタレート基板、さらには半導体基板など異なる材料の基板でも良い。さらに、電極は進行波電極として説明してきたが、原理的には集中定数電極でも良いので、本明細書における電極は集中定数電極も含むものとする。
【符号の説明】
【0063】
1:z−カットLN基板(LN基板)
2:SiOバッファ層(バッファ層)
3:マッハツェンダ光導波路(光導波路)
3a:マッハツェンダ光導波路を構成する入力光導波路
3b、3g:マッハツェンダ光導波路を構成するY分岐光導波路
3c、3c´、3c´´、3f:マッハツェンダ光導波路を構成するY分岐光導波路のアーム
3d、3e:マッハツェンダ光導波路を構成する相互作用光導波路
3h:マッハツェンダ光導波路を構成する出力光導波路
3i:中心線20と中心線21の交点
4:進行波電極
4a:中心導体
4b、4c:接地導体
5:Si導電層
6:高周波(RF)電気信号給電線
7:高周波(RF)電気信号出力線
8a:リッジ部(中心導体用リッジ部)
8b:リッジ部(接地導体用リッジ部)
9a、9b、9c:溝部
10a、10b:電気力線
11、11a、11b、11c、11d:ドライエッチング用マスク
12a、12b、12c、12d:フォトレジスト
13:イオンビーム
20:Y分岐光導波路アーム3c´の幅の中心線
21:Y分岐光導波路アーム3c´´の幅の中心線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に、
入力光導波路と、
出力光導波路と、
前記入力光導波路と前記出力光導波路とにそれぞれ接続され、前記入力光導波路からの光が入力される、または前記出力光導波路へ光を出力する分岐光導波路と、
前記分岐光導波路に接続され、曲率半径を有して曲線上に形成されたアームと、
前記アームに沿って前記基板の一部が掘り下げられた溝部とが形成されたリッジ型のマッハツェンダ光導波路であって、
前記アームは、前記アームの根元部近傍において実質的に前記溝部が形成されておらず、
当該実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの曲率半径が、前記溝部が形成されている領域における前記アームの曲率半径よりも大きいことを特徴とするマッハツェンダ光導波路。
【請求項2】
前記実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数の絶対値が、前記溝部が形成されている領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数の絶対値よりも大きいことを特徴とする請求項1に記載のマッハツェンダ光導波路。
【請求項3】
前記実質的に溝部が形成されていない領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数と、前記溝部が形成されている領域における前記アームの幅方向における中心線に対する前記基板の長手方向の座標についての微係数とが、各々の中心線の交点において一致することを特徴とする請求項1または2に記載のマッハツェンダ光導波路。
【請求項4】
電気光学効果を有する前記基板上に、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のマッハツェンダ光導波路が形成され、
前記基板の一方の面側に、前記マッハツェンダ光導波路を導波する光を変調する高周波電気信号を印加する中心導体及び接地導体からなる電極が形成されていることを特徴とする光変調器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−112670(P2011−112670A)
【公開日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−266004(P2009−266004)
【出願日】平成21年11月24日(2009.11.24)
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】