説明

マップ作成支援装置およびその方法並びにプログラム

【課題】エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップを作成するにあたり実施される試験を効率的に行うこと。
【解決手段】トルクと回転数とで特定される複数のモード点について実験計画法を実施し、制御因子の候補の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択する第1処理部22と、複数の第2追加試験点を設定する第2設定部24と、第2追加試験点において所定のエンジン特性要求を満足すると推定される少なくとも2つの制御因子を抽出する抽出部25と、各第2追加試験点について、抽出部25によって抽出された制御因子の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択する第2処理部26と、第1処理部23、第2処理部26の結果を用いて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成する第1応答曲面作成部27とを具備するマップ作成支援装置10を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するマップ作成支援装置およびその方法並びにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ディーゼルエンジンは、電子制御方式のコモンレール型燃料噴射制御装置の採用により、燃費向上、排ガス改善のためのきめ細かい制御が可能となっている。具体的には、エンジン燃料サイクルに合わせた多段の燃料噴射が可能となっており、主燃料噴射(メイン噴射)の他、その前後のタイミングにおいて、2段ずつ噴射することも行われており、全体で4乃至5段の燃料噴射を行うことがある。
また、排ガス再循環(EGR:Exhaust gas recirculation)、可変構造過給機(例えば、VG(Variable Geometry)ターボ等)などの装置も取り付けられ、制御因子の個数が非常に多くなっている。
これら制御因子の制御条件は、事前に試験によって決められた適正値をエンジン制御装置(ECU:Engine Control Unit)にマップとして記憶しておくのが一般的である。
従って、このマップには、最適化された適正な制御条件が記憶されることとなる。エンジンの回転数、トルクの運転範囲において、排ガス規制を満たすために、多数の制御因子の制御条件(燃料噴射パターンなど)を決めるのに、一点一点エンジン試験を実施して決定するのでは、相当な時間を要することは自明である。
このため、実験計画法を使った試験工数の低減、応答曲面法を利用したエンジン特性の数学的近似モデルを利用する方法、最適化手法の適用などが提案されている。
【特許文献1】特開2005−42656号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、実験計画法を利用するにしても、回転数−トルクの空間において、全ての制御因子を考慮した試験数は膨大となる。応答曲面法も制御因子と応答特性の関係を精度よく同定するためには、十分なデータ数を必要とするため、制御因子が多くなると試験数も増加し、現実的に困難になることが容易に予想される。
最適化手法は、原理的には最適な解を求めることができるが、高速な最適化には応答曲面モデルを必要とする場合も多く、制御因子が多くなると時間がかかるという欠点がある。また、エンジン全体の滑らかな制御性を考慮した場合には、適切な制御条件を取り入れる必要がある。
【0004】
本発明は、上記問題を解決するためになされたもので、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップを作成するにあたり実施される試験を効率的に行うとともに、時間短縮を図ることのできるマップ作成支援装置およびその方法並びにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
本発明は、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するマップ作成支援装置であって、制御因子の候補が記憶されている記憶手段と、トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定する第1設定手段と、前記モード点の各々について実験計画法を実施し、前記制御因子の候補の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択する第1処理手段と、前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定する第2設定手段と、前記第1処理手段で求められた各前記モード点における制御因子に基づいて、前記第2追加試験点において所定のエンジン特性要求を満足すると推定される少なくとも2つの制御因子を、前記記憶手段に格納されている複数の制御因子の候補の中から抽出する抽出手段と、前記第2追加試験点の各々について、前記抽出手段によって抽出された該制御因子の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択する第2処理手段と、第1処理手段で求められた各前記モード点における制御因子及び第2処理手段で求められた各前記第2追加試験点における制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成する第1応答曲面作成手段とを具備するマップ作成支援装置を提供する。
【0006】
本発明によれば、第1設定手段によりトルクと回転数とで特定される複数のモード点が設定され、第1処理手段により、記憶手段に格納されている複数の制御因子の候補の中から、各モード点について所定の特性要求を満足する制御因子が選択される。続いて、第2設定手段により、モード点以外の複数の第2追加試験点が設定され、この第2追加試験点において所定のエンジン特性要求を満足すると推定される少なくとも2つの制御因子の候補が抽出手段により抽出される。そして、第2処理手段においては、各第2追加試験点において所定の特性要求を満足する制御因子が前記抽出手段によって抽出された少なくとも2つの制御因子の候補の中からそれぞれ選択される。このようにして、モード点、第2追加試験点についてそれぞれ制御因子が求められると、これらの制御因子を用いて、トルク、回転数、およびエンジン特性値の関係を表す第1応答曲面が第1応答曲面作成手段によって作成される。そして、この後段の処理においては、この第1応答曲面が参照されて、エンジン制御装置に格納されるマップが作成されることとなる。
このように、本発明では、第2追加試験点の設定に先駆けて、第1処理手段により各モード点における制御因子が選択されるので、この制御因子の傾向を考慮して、第2追加試験点における実験計画法に用いる制御因子の候補を限定することが可能となる。この結果、処理時間を短縮することができ、効率的に制御因子と特性値との関係を取得することが可能となる。
【0007】
上記マップ作成支援装置において、前記第1応答曲面作成手段は、第1処理手段で求められた制御因子及び第2処理手段で求められた制御因子をその属性に応じて区分し、区分した制御因子毎に、前記応答曲面を作成することとしてもよい。
【0008】
このように、制御因子をその属性に応じて区分し、区分した制御因子毎に応答曲面を作成するので、1つの応答曲面を作成するのに使用するデータ量を低減することができる。これにより、処理負担を低減させることができ、処理時間の短縮を図ることができる。
【0009】
上記マップ作成支援装置は、ユーザが情報を入力するための入力手段を備え、前記抽出手段は、前記入力手段から各前記第2追加試験点における少なくとも2つの制御因子の候補が入力された場合に、入力されたこれらの制御因子の候補を前記記憶手段から抽出することとしてもよい。
【0010】
このような構成によれば、第2追加試験点における制御因子を求める際に、ユーザが候補とする制御因子を選択することが可能となる。
【0011】
上記マップ作成支援装置は、第1処理手段で求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第2応答曲面を作成する第2応答曲面作成手段を備えることとしてもよい。
【0012】
第1応答曲面が作成された後段の処理として、回転数を所定の値に固定した場合に、所望のトルクを得るための制御因子の条件を算出する最適化計算が実施される。この最適化計算は、上記該第1応答曲面を用いて行われる。また、制御因子の条件としては、例えば、燃料噴射段数、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、レール圧などが挙げられる。
上記最適化計算では、数学モデルの解を求めることとなるが、その解を求める際に、誤った初期値から出発してしまうと解が求まらないおそれがある。このような場合に、上述のように、データ量の少ないモード点において選択された制御因子を用いて第2応答曲面を作成し、この第2応答曲面を用いて第1応答曲面における解の大体の予測を行えば、第1応答曲面を用いて数学モデルを解くときの解探索の初期値を適切な値に設定することが可能となる。
このように、データ量の少ない第2応答曲面を利用して解の目星をつけることにより、第1応答曲面を利用した実際の解探索においては、適切な初期値を設定することができ、数学モデルを解くのに要する処理負担の軽減および処理時間の短縮を図ることが可能となる。
【0013】
上記マップ作成支援装置は、前記第1応答曲面を用いて所定の数学モデルを解くことにより、回転数を所定の値に固定した場合に所望のトルクを得るための制御因子の条件を解として求める最適化計算手段と、解の探索範囲を入力するための入力手段とを備え、前記最適化計算手段は、前記入力手段から入力された解の探索範囲において、前記数学モデルを解くこととしてもよい。
【0014】
このような構成によれば、最適化計算手段は、入力手段によって入力された解の探索範囲において解を求めればよいので、解、換言すると、回転数を所定の値に固定した場合に所定のトルクを得るための制御因子の条件を効率よく求めることができる。
【0015】
上記マップ作成支援装置において、前記最適化計算手段は、前記入力手段から入力された解の探索範囲において前記数学モデルを解いた結果、解が見つからなかった場合には、解が求まるまで該解の探索範囲を拡張することとしてもよい。
【0016】
このようにすることで、入力手段によって入力された解の探索範囲において上記条件を満たす解が見つからなかった場合には、自動的に解の探索範囲が拡張され、解の探索が継続して行われることとなる。これにより、解を確実に見つけることが可能となる。
【0017】
上記マップ作成支援装置において、前記第1設定手段は、国際規格等の規格によって特性値の条件が課されている所定の運転点を前記モード点として設定することとしてもよい。
【0018】
このように、規格等によって特性値の条件が課されている所定の運転点(トルクと回転数との組み合わせからなる点)については、記憶手段に格納されている全ての制御因子の中から所定の特性要求を満たす制御因子が選択されることとなる。これにより、モード点における制御因子の選択においては、第2追加試験点の場合と比べて、高い精度を確保することができる。
【0019】
上記マップ作成支援装置において、前記第1設定手段は、X座標またはY座標のいずれか一方にトルクが、その他方に回転数が定義されたXY座標系において、トルク及び回転数を低、中、高の3段階にそれぞれ区分したときに作成されるXY座標系上の9つの領域において、各領域に少なくとも1つのモード点が設定されていなかった場合に、該領域のそれぞれに試験点が設定されるように、第1追加試験点を設定することとしてもよい。
【0020】
このように、第1追加試験点を設定することにより、トルクと回転数とで定義されるXY座標系にモード点を含む試験点をバランスよくばらつかせることが可能となる。これにより、各モード点および第1追加試験点の間を補間する第2追加試験点を設定した場合に、その第2追加試験点の候補となる制御因子を容易にかつ精度よく推測することが可能となる。
【0021】
上記マップ作成支援装置において、前記制御因子は、例えば、燃料噴射条件である。
より具体的には、前記制御因子は、例えば、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、および燃料噴射段数の少なくとも1つからなる。
また、前記エンジン特性値は、例えば、排ガス値および燃費の少なくともいずれかである。
【0022】
本発明は、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するマップ作成支援方法であって、トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定し、前記モード点の各々について実験計画法を実施し、予め設定されている複数の制御因子の候補の中から、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択し、前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定し、前記モード点毎に求められた前記制御因子に基づいて、前記第2追加試験点の解となり得る制御因子を、予め設定されている制御因子の候補の中から抽出し、抽出した制御因子の中から、前記第2追加試験点の各々について、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択し、前記モード点および前記第2追加試験点において求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成するマップ作成支援方法を提供する。
【0023】
本発明は、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するためのマップ作成支援プログラムであって、トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定するステップと、前記モード点の各々について実験計画法を実施し、予め設定されている複数の制御因子の候補の中から、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択するステップと、前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定するステップと、前記モード点毎に求められた前記制御因子に基づいて、前記第2追加試験点の解となり得る制御因子を、予め設定されている制御因子の候補の中から抽出するステップと、抽出した制御因子の中から、前記第2追加試験点の各々について、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択するステップと、前記モード点および前記第2追加試験点において求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成するステップとをコンピュータに実行させるためのマップ作成支援プログラムを提供する。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップを作成するにあたり実施される試験を効率的に行うとともに、時間短縮を図ることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明に係るマップ作成支援装置およびその方法並びにプログラムの一実施形態について、図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態に係るマップ作成支援装置は、車両等に搭載されるエンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援する装置である。図1は、本実施形態に係るマップ作成支援装置の概略構成を示したブロック図である。
図1に示されるように、本実施形態に係るマップ作成支援装置10は、コンピュータシステム(計算機システム)であり、CPU(中央演算処理装置)11、RAM(Random Access Memory)等の主記憶装置12、HDD(Hard Disk Drive)等の補助記憶装置13、キーボードやマウスなどの入力装置14、及びモニタやプリンタなどの出力装置15、外部の機器と通信を行うことにより情報の授受を行う通信装置16などで構成されている。
補助記憶装置13には、各種プログラム(例えば、シミュレーションプログラム)が格納されており、CPU11が補助記憶装置13から主記憶装置12にプログラムを読み出し、実行することにより種々の処理を実現させる。
【0027】
図2は、マップ作成支援装置10が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。図2に示されるように、マップ作成支援装置10は、記憶部21と、第1設定部22と、第1処理部23と、第2設定部24と、抽出部25と、第2処理部26と、第1応答曲面作成部27と、第2応答曲面作成部28とを主な構成として備えている。第1応答曲面作成部27によって作成される第1応答曲面、第2応答曲面作成部27によって作成される第2応答曲面は、後段の最適化計算部30に与えられ、制御マップの作成に用いられる。
【0028】
記憶部21には、制御因子の候補が記憶されている。制御因子は、例えば、燃料噴射条件であり、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、および燃料噴射段数の少なくとも1つからなる。本実施形態において、制御因子は、図3に示すように、噴射タイミングと噴射段数との組み合わせからなる。このように、本実施形態においては、噴射タイミングと噴射段数の組み合わせがそれぞれ異なる8通りの制御因子の候補が記憶部21に格納されている。なお、以下においては、説明の便宜上、制御因子の候補を第1ショットモードSM1、第2ショットモードSM2等のように記載する。また、図3において、横軸はエンジン回転角、縦軸は燃料噴射量を示しており、台形はメイン噴射を示している。
【0029】
第1設定部22は、まず、トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定する。モード点の設定においては、例えば、米国におけるTIER等のように規格によって決定されているトルク−回転数のモード点を設定する。本実施形態では、図4に示すように、排ガスが規制されている運転点であるA乃至Hをモード点として設定する。図4において、横軸はエンジン回転数、縦軸はトルクである。
【0030】
また、第1設定部23は、上記モード点を補間するように、図4に示される回転数−トルク座標系において、第1追加試験点を追加する。例えば、図4に示されたモード点においては、低回転数かつ高トルクの領域、並びに、中回転数かつ低トルクの領域にモード点が設定されていないことがわかる。そこで、図5に示すように、モード点が足りない領域において、第1追加試験点を追加設定することにより、低回転数から高回転数、また、低トルクから高トルクの全体の領域において、モード点および第1追加試験点からなる試験点がバランスよく配置されるようにする。
これにより、例えば、回転数およびトルクをそれぞれ低、中、高の3段階に分けたときの各組み合わせにおける9つの領域について、それぞれ第1追加試験点を設定することができる。
【0031】
第1処理部23は、第1設定部22によって設定された8つのモード点A乃至Hおよび3つの第1追加試験点I乃至Kの計11個の試験点A〜Kの各々について、記憶部21に格納されている複数の制御因子の候補の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を求める。このとき、第1処理部23は、実験計画法を用いて所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を特定する。
具体的には、記憶部21に格納されている8つの制御因子である第1ショットモードSM1乃至第8ショットモードSM8のそれぞれについて、エンジン試験を行い、各試験点で特定されるトルク−回転数の場合に、どのようなエンジン特性が得られるのかを試験する。エンジン特性は、例えば、排気ガス量、燃費等であり、これらのエンジン特性値が所定の要求値を満たすような制御因子を特定する。なお、このとき直交表を用いることで、効率的にシミュレーションを行うことが可能となる。
上記実験計画法については、例えば、特開2002−322938号公報にも開示されているように、公知の技術であるため、詳細説明については省略する。
【0032】
このようにして、第1処理部23により各試験点A〜Kについて、所定のエンジン特性要求を満たす制御因子が選択される。図6に、第1処理部23の処理結果の一例を示す。本実施形態では、図6に示されるように、試験点A,E,I〜Kについては制御因子SSM1が、試験点B,Cについては制御因子SSM8が、試験点D、F〜Hについては制御因子SSM6が選択されている。
【0033】
第2設定部24は、第1設定部22によって設定された上記11個の試験点A乃至K以外の試験点である第2追加試験点を設定する。例えば、第1設定部22は、11点しか試験点を設定していないことから、このデータ量ではエンジン特性値を評価し、制御マップを作成するのに不十分である。このため、第2設定部24は、第1設定部22によって設定された試験点を補間するように多数の第2追加試験点を設定し、回転数−トルク座標空間において全体的にバランスよく試験点が配置されるようにする。
【0034】
抽出部25は、第1処理部23で求められた各試験点A乃至Kにおける制御因子である第1ショットモードSM1、第6ショットモードSM6、第8ショットモードSM8に基づいて、制御因子の候補、即ち、図3に示した制御因子、第1ショットモードSM1乃至第8ショットモードSM8の中から少なくとも2つの制御因子を抽出する。
例えば、本実施形態では、第1処理部23の結果として、第1ショットモードSM1、第6ショットモードSM6、第8ショットモードSM8が選択されているので、抽出部25は、これらの3つを抽出することとしてもよい。また、この場合に、予め何らかの条件が登録されていた場合、例えば、「第1ショットモードSM1と第8ショットモードSM8とが選ばれた場合には、第2ショットモードSM2についても抽出すること」等の条件が登録されていた場合には、抽出部25はこの条件に従って、第2ショットモードSM2についても抽出することとしてもよい。
【0035】
また、抽出部25は、全ての第2追加試験点に対して一括して制御因子を抽出してもよいし、第2追加試験点毎に制御因子を抽出することとしてもよい。
【0036】
また、抽出部25は、登録されているプログラムに従って条件を満たす制御因子を記憶部21から抽出することとしてもよいし、例えば、入力装置14からの入力情報に基づいて制御因子を抽出することとしてもよい。
後者の場合には、例えば、表示画面に表示された図6の結果を参照することにより、ユーザがトルクと回転数とで定義される運転領域毎に、制御因子の候補を抽出することとしてもよい。
【0037】
例えば、図6に示された試験結果では、低回転数の領域、低トルクの領域では、制御因子として第1ショットモードSM1が選択されており、回転数およびトルクがともに中間領域にあるときには、制御因子として第8ショットモードSM8が選択されており、回転数およびトルクがともに中−高領域にあるときは、制御因子として第6ショットモードSM6が選択されている。このような結果から、例えば、図7に示すように、中間領域Q2の付近では制御因子として第8ショットモードSM8が好ましく、回転数およびトルクが中〜高領域については制御因子として第6ショットモードSM6が好ましいことが推定できる。このことから、ユーザは、領域Q1については制御因子として第8ショットモードSM8を、領域Q2については制御因子として第6ショットモードSM6を抽出する旨の指示を入力装置14から行う。
【0038】
続いて、低トルクの領域、低回転数の領域では、制御因子として第1ショットモードSM1が好ましいことがわかる。しかしながら、後述する第2処理部26において直交表を用いる場合、領域Qは四角形であることが求められる。従って、ユーザは全体にわたって制御因子として第1ショットモードSM1を選択する旨の指示を入力装置14から行う。
また、例えば、制御因子が第1ショットモードSM1から第6ショットモードSM6に遷移する領域では、第2ショットモードSM2を用いることが運用などで決められている場合がある。この場合には、ユーザは運用に従い、第2ショットモードSM2を選択する旨の指示を入力装置14から行う。
これにより、抽出部25は、入力装置14から入力されたこれらの指示に従って、それぞれの制御因子を記憶部21から抽出する。なお、このとき、領域が重複している箇所、例えば、領域Q1と領域Q2と領域Q3との重複領域については、第1ショットモードSM1、第2ショットモードSM2、第6ショットモードSM6、第8ショットモードSM8が抽出されることとなる。
【0039】
第2処理部26は、抽出部25により抽出された制御因子である第1ショットモードSM1、第2ショットモードSM2、第6ショットモードSM6、第8ショットモードSM8を対象として実験計画法を行い、第2追加試験点の各々において、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択する。
このように、第2処理部26は、実験計画法で用いる制御因子が制限されているので、記憶部21に格納されている全ての制御因子である第1ショットモードSM1乃至第8ショットモードSM8を用いて実験計画法を実施する第1処理部23に比べて処理負担の軽減が図れるとともに、処理時間の短縮を図ることができる。
【0040】
第1応答曲面作成部27は、第1処理部23で求められた11個の試験点A乃至Kにおける制御因子及び第2処理部26で求められた各第2追加試験点における制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成する。
第1応答曲面の一例を図8に示す。図8において、横軸はエンジン回転数、縦軸はトルクであり、各特性はそれぞれ異なるレベルの排気ガスを表わしている。下に表わされている特性ほど、排気ガスの量が少ない。
【0041】
このとき、第1応答曲面作成部27は、制御因子毎に第1応答曲面を作成することとしてもよい。例えば、本実施形態では、モード点、第1追加試験点、および第2追加試験点において、制御因子として第1ショットモードSM1、第2ショットモードSM2、第6ショットモードSM6、および第8ショットモードSM8のいずれかが選択されているので、制御因子毎、つまり、第1ショットモードSM1、第2ショットモードSM2、第6ショットモードSM6、第8ショットモードSM8毎に、回転数、トルク、排ガス、燃費のデータを区分し、区分した制御因子毎に、トルクと回転数とエンジン特性値(排ガス、燃費)の関係を表わす第1応答曲面を作成する。
【0042】
第2応答曲面作成部28は、第1処理部23で求められたモード点および第1追加試験点における制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値(排ガス、燃費)の関係を表わす第2応答曲面を作成する。この第2応答曲面は、上記第1応答曲面とは入力と出力の関係が異なっている。つまり、第1応答曲面は、後述するように、回転数を固定としたときに、トルクが目標トルクに最も近づくときの制御要因の条件を解くためのものである。これに対し、第2応答曲面は、入力情報としてトルクと回転数を指定した場合に、制御要因の条件、例えば、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射段数、レール圧等が一意的に出力されるものとされている。
【0043】
次に、最適化計算部30は、第1応答曲面作成部27にて作成された第1応答曲面を用いて所定の数学モデルを解くことにより、回転数を所定の値に固定した場合に所望のトルクを得るための制御因子の条件を解として求める。例えば、最適化計画部30は、回転数を固定としたときに、トルクが目標トルクに最も近づくときの制御要因の条件を解く。制御要因の条件としては、例えば、燃料噴射段数、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、レール圧等が挙げられる。
【0044】
ここで、第1応答曲線を用いた解探索を行う場合、誤った初期値から解探索を始めてしまうと、解が求まらないおそれがある。このような場合を回避するため、本実施形態では、データ数の少ない第2応答曲面を用いて第1応答曲面における解の予測を行う。具体的には、最適化計算部30は、まず、データ量の少ない第2応答曲面の各試験点において、トルクと回転数とを入力情報として与えたときの制御因子の条件を得る。これは、上述したように、第2応答曲面自体が、入力情報としてトルクと回転数を指定した場合に、制御要因の条件、例えば、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射段数、レール圧等が一意的に出力されるものとされていることから、容易に実現できる。
続いて、最適化計算部30は、第2応答曲面を用いて求めた解を、第1応答曲面における解探索の初期値として設定し、回転数を固定としたときに、トルクが目標トルクに最も近づくときの制御要因の条件を解く。このように、少ないデータ量に基づいて作成された第2応答曲面の解を第1応答曲面の解探索の初期値とすることで、最適な初期値から解探索を開始することができ、効率的に解探索を行うことが可能となるとともに、解が求まらない等の種々の問題を解決することができる。
【0045】
最適化計算部30は、第1応答曲面において、固定値とする回転数を逐次更新していくことで、各回転数において所望のトルクを得るための制御因子の条件を繰り返し求めていく。これにより、トルクと回転数とで定義される様々な運転条件下における制御因子の条件、並びに、この制御因子を用いたときの燃費や排ガス量を取得することができる。
また、上記解探索においては、ショットモード毎に作成された第2応答曲面を用いて行われるので、更に効率的に解探索を行うことが可能となる。
【0046】
このようにして、第1応答曲面を用いた解探索が行われ、トルクと回転数とで定義される各運転条件下においてエンジン特性要求を満足する制御因子の条件、例えば、燃料噴射量、燃料噴射タイミング、燃料噴射段数、レール圧等が求まると、これらの結果に基づいてトルクが緩やかに移行するようなエンジン制御マップが作成されることとなる。
【0047】
以上、説明してきたように、本実施形態に係るマップ作成支援装置およびその方法並びにプログラムによれば、各第2追加試験点における制御因子の選択に先駆けて、第1処理部により各モード点および第1追加試験点における制御因子が選択されるので、この制御因子の傾向を考慮して、第2追加試験点における実験計画法に用いる制御因子の候補を限定することが可能となる。この結果、処理時間を短縮することができ、効率的に制御因子と特性値との関係を取得することが可能となる。
【0048】
また、制御因子をその属性に応じて区分し、区分した制御因子毎に第1応答曲面、第2応答曲面を作成するので、1つの応答曲面を作成するのに使用するデータ量を低減することができる。これにより、処理負担を低減させることができ、処理時間の短縮を図ることができる。
【0049】
更に、第1応答曲面を用いた解探索を行う前に、少ないデータに基づいて作成された第2応答曲面を用いて、第1応答曲面における解の予測を行うので、解探索の初期値として適切な値を設定することができる。これにより、第1応答曲面を用いた解探索を効率的に行うことができる。
【0050】
〔変形例1〕
なお、上述した実施形態では、試験点の設定をモード点および第1追加試験点の設定段階と、第2追加試験点の設定段階とからなる2段階に分けたが、このように2段階に分けずに、一括して全ての試験点(モード点+第1追加試験点+第2追加試験点)を設定し、これらの全ての試験点について所定のエンジン特性要求を満足する制御因子をそれぞれ求めることとしてもよい。つまり、上述した実施形態であれば、試験点毎に、制御因子である第1ショットモードSM1乃至第8ショットモードSM8を候補として実験計画法を実施し、試験点毎にエンジン特性要求を満足する制御因子をそれぞれ求めることとしてもよい。
このように、各試験点において実験計画法を実施することで、上述した実施形態の場合と比べて処理時間は長期化するが、この場合であっても、得られた制御因子毎に応答曲面を作成して、解探索を行うことにより、従来の手法に比べて全体の処理時間の短縮を図ることが可能となる。
【0051】
〔変形例2〕
上記実施形態では、制御因子毎に第1応答曲面、第2応答曲面を作成していたが、この例に限定されず、例えば、制御因子毎に分けずに、全体として1つの第1応答曲面、第2応答曲面をそれぞれ作成することとしてもよい。
【0052】
〔変形例3〕
上記実施形態において、最適化計算部30が解探索を行う場合に、解探索を行う範囲(解探索範囲)をユーザが入力装置14から設定できることとしてもよい。この場合には、ユーザによって設定された解探索範囲において、解探索が行われることとなる。
このように、解探索範囲が設定されることにより、この解探索範囲で解探索を行えばよいので、効率的に解を求めることができる。
【0053】
更に、ユーザによって設定された解探索範囲で解探索を行った結果、解が見つからなかった場合には、自動的に解探索範囲を拡張し、解が見つかるまで解探索を継続して行うこととしても良い。
このように、解探索範囲において解探索を行った結果、解が見つからなかった場合には、自動的に解探索範囲を拡張するので、解を確実に見つけることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の一実施形態に係るマップ作成支援装置の概略構成を示したブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るマップ作成支援装置が備える機能を展開して示した機能ブロック図である。
【図3】制御因子の一例を示した図である。
【図4】モード点の設定について説明するための図である。
【図5】第1追加試験点の設定について説明するための図である。
【図6】第1処理部の処理結果の一例を示した図である。
【図7】抽出部の機能を説明するための図である。
【図8】第1応答曲面の一例をコンター図として表わした図である。
【符号の説明】
【0055】
10 マップ作成支援装置
11 CPU
12 主記憶装置
13 補助記憶装置
14 入力装置
15 出力装置
16 通信装置
21 記憶部
22 第1設定部
23 第1処理部
24 第2設定部
25 抽出部
26 第2処理部
27 第1応答曲面作成部
28 第2応答曲面作成部
30 最適化計算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するマップ作成支援装置であって、
制御因子の候補が記憶されている記憶手段と、
トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定する第1設定手段と、
前記モード点の各々について実験計画法を実施し、前記制御因子の候補の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択する第1処理手段と、
前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定する第2設定手段と、
前記第1処理手段で求められた各前記モード点における制御因子に基づいて、前記第2追加試験点において所定のエンジン特性要求を満足すると推定される少なくとも2つの制御因子を、前記記憶手段に格納されている複数の制御因子の候補の中から抽出する抽出手段と、
前記第2追加試験点の各々について、前記抽出手段によって抽出された該制御因子の中から所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択する第2処理手段と、
第1処理手段で求められた各前記モード点における制御因子及び第2処理手段で求められた各前記第2追加試験点における制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成する第1応答曲面作成手段と
を具備するマップ作成支援装置。
【請求項2】
前記第1応答曲面作成手段は、第1処理手段で求められた制御因子及び第2処理手段で求められた制御因子をその属性に応じて区分し、区分した制御因子毎に、前記応答曲面を作成する請求項1に記載のマップ作成支援装置。
【請求項3】
ユーザが情報を入力するための入力手段を備え、
前記抽出手段は、前記入力手段から各前記第2追加試験点における少なくとも2つの制御因子の候補が入力された場合に、入力されたこれらの制御因子の候補を前記記憶手段から抽出する請求項1または請求項2に記載のマップ作成支援装置。
【請求項4】
第1処理手段で求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第2応答曲面を作成する第2応答曲面作成手段を備える請求項1から請求項3のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項5】
前記第1応答曲面を用いて所定の数学モデルを解くことにより、回転数を所定の値に固定した場合に所望のトルクを得るための制御因子の条件を解として求める最適化計算手段と、
解の探索範囲を入力するための入力手段と
を備え、
前記最適化計算手段は、前記入力手段から入力された解の探索範囲において、前記数学モデルを解く請求項1から請求項4のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項6】
前記最適化計算手段は、前記入力手段から入力された解の探索範囲において前記数学モデルを解いた結果、解が見つからなかった場合には、解が求まるまで該解の探索範囲を拡張する請求項5に記載のマップ作成支援装置。
【請求項7】
前記第1設定手段は、国際規格等の規格によって特性値の条件が課されている所定の運転点を前記モード点として設定する請求項1から請求項6のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項8】
前記第1設定手段は、X座標またはY座標のいずれか一方にトルクが、その他方に回転数が定義されたXY座標系において、トルク及び回転数を低、中、高の3段階にそれぞれ区分したときに作成されるXY座標系上の9つの領域において、各領域に少なくとも1つのモード点が設定されていなかった場合に、該領域のそれぞれに試験点が設定されるように、第1追加試験点を設定する請求項1から請求項7のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項9】
前記制御因子は、燃料噴射条件である請求項1から請求項8のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項10】
前記制御因子は、燃料噴射タイミング、燃料噴射量、および燃料噴射段数の少なくとも1つからなる請求項9に記載のマップ作成支援装置。
【請求項11】
前記エンジン特性値は、排ガス値および燃費の少なくともいずれかである請求項1から請求項10のいずれかに記載のマップ作成支援装置。
【請求項12】
エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するマップ作成支援方法であって、
トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定し、
前記モード点の各々について実験計画法を実施し、予め設定されている複数の制御因子の候補の中から、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択し、
前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定し、
前記モード点毎に求められた前記制御因子に基づいて、前記第2追加試験点の解となり得る制御因子を、予め設定されている制御因子の候補の中から抽出し、
抽出した制御因子の中から、前記第2追加試験点の各々について、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択し、
前記モード点および前記第2追加試験点において求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成するマップ作成支援方法。
【請求項13】
エンジン制御装置に格納されて使用される制御マップの作成を支援するためのマップ作成支援プログラムであって、
トルクと回転数とで特定される複数のモード点を設定するステップと、
前記モード点の各々について実験計画法を実施し、予め設定されている複数の制御因子の候補の中から、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を該モード点毎に選択するステップと、
前記モード点以外の試験点である複数の第2追加試験点を設定するステップと、
前記モード点毎に求められた前記制御因子に基づいて、前記第2追加試験点の解となり得る制御因子を、予め設定されている制御因子の候補の中から抽出するステップと、
抽出した制御因子の中から、前記第2追加試験点の各々について、所定のエンジン特性要求を満足する制御因子を選択するステップと、
前記モード点および前記第2追加試験点において求められた制御因子に基づいて、トルクと回転数とエンジン特性値の関係を表わす第1応答曲面を作成するステップと
をコンピュータに実行させるためのマップ作成支援プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−144655(P2010−144655A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−324348(P2008−324348)
【出願日】平成20年12月19日(2008.12.19)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】