説明

マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害剤

【課題】天然物の中からMMP−1阻害作用、MMP−2阻害作用、エストロゲン様作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用及びcAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有するものを見出し、それを有効成分とするMMP−1阻害剤、MMP−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びcAMPホスホジエステラーゼ阻害剤を提供する。
【解決手段】MMP−1阻害剤、MMP−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びcAMPホスホジエステラーゼ阻害剤に、キンモクセイ抽出物・アクテオシドを含有せしめる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、皮膚の老化に伴う変化を誘導する因子として、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMPs;Matrix metalloproteinases)の関与が指摘されている。このMMPsの中でも、マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)は、皮膚の真皮細胞外マトリックスの主要構成成分であるコラーゲンを分解する酵素として知られているが、その発現は紫外線の照射により大きく増加し、コラーゲンの減少・変性の一因となり、皮膚のシワの形成、弾力性の低下等の大きな要因となると考えられている。したがって、MMP−1の活性を阻害することは、皮膚の老化症状を予防・改善する上で重要である。このようなMMP−1阻害作用を有するものとしては、例えば、マツ科マツ属二葉松類の樹皮の抽出物等が知られている(特許文献1参照)。
【0003】
また、MMPsの中でも、ゼラチナーゼ群に属する酵素であるマトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)は、基底膜の主要構成成分であるIV型コラーゲンやラミニン5を分解する酵素として知られているが、その発現及び活性は紫外線の照射により大きく増加し、紫外線による基底膜成分の減少、基底膜の構造変化の原因となり、皮膚におけるシワやたるみの形成等の大きな要因となることが明らかとなっている(非特許文献1参照)。
【0004】
さらに、マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)は、血管内皮細胞下に存在する基底膜を構成するIV型コラーゲン等を分解し、分解された血管内皮細胞は間質へ遊走していき、間質中で増殖し、管腔を形成し、新生血管を構築していく。そして、この新生された血管が腫瘍細胞に到達して、栄養源と酸素とを腫瘍細胞に供給し、腫瘍が大きくなっていくことが知られている(非特許文献2参照)。
【0005】
したがって、MMP−2の活性を阻害することにより、基底膜成分の減少、基底膜の構造変化を抑制し、皮膚機能を改善することができるとともに、血管新生を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制することができると考えられる。このようなMMP−2阻害作用を有するものとしては、例えば、黒霊芝抽出物(特許文献2参照)、クリ渋皮発酵物からの抽出物(特許文献3参照)等が知られている。
【0006】
加齢に伴う皮膚老化の一因は、女性ホルモンの一種であるエストロゲンの分泌が減退することにある。すなわち、エストロゲンは成人女性の健康維持に深く関わっており、その分泌不足は種々の内科的疾患を招くほか、肌の過敏症、弾力性の低下、潤いの減少等、好ましくない肌の変化の原因となったり、閉経後の女性等におけるエストロゲンの欠乏は、冠動脈性心臓疾患や骨粗鬆症の原因となったりすることが知られている。
【0007】
そこで、エストロゲンの分泌が衰える更年期以降の女性に対して、エストロゲンと同様の作用を有する物質を配合した薬剤を、経皮的又は経口的に投与することが行われている。このようなエストロゲン様作用を有するものとしては、例えば、五斂子の葉部からの抽出物(特許文献4参照)等が知られている。
【0008】
天然保湿因子(Natural Moisturizing Factors;NMF)の主成分であるアミノ酸は、ケラトヒアリン顆粒に由来するフィラグリンが角質層内で分解されて産生される。このフィラグリンは、角質層直下の顆粒層に存在する表皮ケラチノサイトでプロフィラグリンとして発現する。その後、直ちにリン酸化し、ケラトヒアリン顆粒に蓄積され、脱リン酸,加水分解を経てフィラグリンへと分解され、角質層に移行して、ケラチンフィラメントの凝集効率を高め、角質細胞の内部構築に関与することが知られている(非特許文献3参照)。
【0009】
近年、このフィラグリンが、皮膚の水分保持に非常に重要かつ必要不可欠であること、及び乾燥等の条件によってフィラグリンの合成力が低下し、角質層におけるアミノ酸量が低下することが知られている(非特許文献4参照)。
【0010】
したがって、表皮ケラチノサイトにおいて、プロフィラグリンmRNAの発現促進を通じて、フィラグリンの産生を促進し、それにより角質層内のアミノ酸量を増大させることで、角質層の水分環境を本質的に改善することができると期待されている。
【0011】
このようなプロフィラグリン産生促進作用及びフィラグリン産生促進作用を有するものとしては、例えば、カンゾウ抽出物(特許文献5参照)、天然植物中に含まれるフラバノン配糖体として知られるリクイリチン(特許文献6参照)等が知られており、プロフィラグリン及びフィラグリン蛋白産生促進作用を有するものとしては、例えば、Citrus属に属する植物エキス又は酵母エキス(特許文献7参照)等が知られている。
【0012】
近年、飽食や運動不足等の生活習慣が原因となって体脂肪が増加し、肥満が増えている。このような肥満の増加は、人間ばかりでなく、ペットや家畜においても見られる。肥満は、高脂血症や動脈硬化等の成人病の原因になるため、美容の面で問題となるばかりでなく、健康の面でも大きな問題となる。
【0013】
生体内の脂肪を分解するためには、サイクリックAMPの役割が重要となる。サイクリックAMPは生体内に存在するリパーゼを活性化し、活性化されたリパーゼによって脂肪が脂肪酸とグリセロールとに分解される。しかし、サイクリックAMPホスホジエステラーゼが活性化されるとサイクリックAMPの分解が誘発され、リパーゼの活性化が阻害される。そのため、サイクリックAMPホスホジエステラーゼの活性を阻害することにより細胞内におけるサイクリックAMPが増量し、脂肪の分解を促進することができるものと考えられる。このようなサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害作用を有するものとして、ピーナッツ渋皮抽出物(特許文献8参照)等が知られている。
【特許文献1】特開2003−277223号公報
【特許文献2】特開2005−298391号公報
【特許文献3】特開2004−352634号公報
【特許文献4】特開2002−226323号公報
【特許文献5】特開2002−363054号公報
【特許文献6】特開2003−146886号公報
【特許文献7】特開2001−261568号公報
【特許文献8】特開2004−26719号公報
【非特許文献1】Gary J. Fisher et al.,「Nature」,1996,Vol.379,No.25,p.335
【非特許文献2】血管新生とマトリックスメタロプロテアーゼ,「第120回日本医学会シンポジウム記録集 血管新生の基礎と臨床」,2001年12月13日,p.43-49
【非特許文献3】「フレグランスジャーナル臨時増刊」,2000年,Vol.17,p.14-19
【非特許文献4】「Arch. Dermatol. Res.」,1996,Vol.288,p.442-446
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明は第一に、安全性の高い天然物の中からマトリックスメタロプロテアーゼ−1活性阻害作用を有するものを見出し、それを有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤を提供することを目的とする。
【0015】
本発明は第二に、安全性の高い天然物の中からマトリックスメタロプロテアーゼ−2活性阻害作用を有するものを見出し、それを有効成分とするマトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤を提供することを目的とする。
【0016】
本発明は第三に、安全性の高い天然物の中からエストロゲン様作用を有するものを見出し、それを有効成分とするエストロゲン様作用剤を提供することを目的とする。
【0017】
本発明は第四に、安全性の高い天然物の中からプロフィラグリン産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするプロフィラグリン産生促進剤を提供することを目的とする。
【0018】
本発明は第五に、安全性の高い天然物の中からフィラグリン産生促進作用を有するものを見出し、それを有効成分とするフィラグリン産生促進剤を提供することを目的とする。
【0019】
本発明は第六に、安全性の高い天然物の中からサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有するものを見出し、それを有効成分とする抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記課題を解決するため、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、天然物であるキンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有し、安全性に優れたマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明について説明する。
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有する。
【0023】
ここで、本発明において「キンモクセイからの抽出物」には、キンモクセイを抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0024】
アクテオシド(Acteoside)は、下記式(I)で表される化学構造を有するポリフェノールである。
【0025】
【化1】

【0026】
アクテオシドは、アクテオシドを含有する植物抽出物から単離・精製することにより製造することができる。このようなアクテオシドを含有する植物抽出物は、植物の抽出に一般に用いられている方法によって得ることができる。アクテオシドを含有する植物としては、例えば、キンモクセイ(学名:Osmanthus fragrans var. aurantiacus)等が挙げられる。
【0027】
キンモクセイ(Osmanthus fragrans var. aurantiacus)は、モクセイ科モクセイ属に属する常緑小高木であり、別名、桂花とも呼ばれ、中国南部が原産地であり、このような地域から容易に入手することができる。抽出原料として使用し得るキンモクセイの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、樹皮部、幹部、茎部、果実部、花部等の地上部、根部又はこれらの部位の混合物等が挙げられるが、好ましくは花部である。
【0028】
ここで、「花」とは、一般に、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体をいい、葉の変形である花葉と茎の変形である花軸とから構成され、花葉には、萼、花弁、雄しべ、心皮等の器官が含まれる。本発明において抽出原料として使用する「花部」には、種子植物の有性生殖にかかわる器官の総体の他、その一部、例えば、花葉、花被(萼と花冠)、花冠、花弁等も含まれる。
【0029】
アクテオシドを含有する植物抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまま又は粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、キンモクセイの極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0030】
抽出溶媒としては、極性溶媒を用いるのが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0031】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本発明において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0032】
抽出溶媒として使用することのできる親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3−ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2〜5の多価アルコール等が挙げられる。
【0033】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族アルコール1〜90質量部を混合することが好ましく、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して低級脂肪族ケトン1〜40質量部を混合することが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水10質量部に対して多価アルコール10〜90質量部を混合することが好ましい。
【0034】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5〜15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温又は還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0035】
得られた抽出液はそのままでもマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤の有効成分として使用することができるが、濃縮液又は乾燥物としたものの方が使用しやすい。
【0036】
キンモクセイからの抽出物は特有の匂いを有しているため、その生理活性の低下を招かない範囲で脱色、脱臭等を目的とする精製を行うことも可能であるが、飲食品等に配合する場合には大量に使用するものではないから、未精製のままでも実用上支障はない。
【0037】
以上のようにして得られた抽出液、当該抽出液の濃縮物又は当該抽出液の乾燥物からアクテオシドを単離・精製する方法は、特に限定されるものではなく、常法により行うことができる。例えば、植物抽出物を、シリカゲルやアルミナ等の多孔質物質、スチレン−ジビニルベンゼン共重合体やポリメタクリレート等の多孔性樹脂等を用いたカラムクロマトグラフィーに付して、水、アルコールの順で溶出させることで、アルコールで溶出される画分としてアクテオシドを得ることができる。カラムクロマトグラフィーにて溶出液として用いられるアルコールは、特に限定されるものではなく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1〜5の低級脂肪族アルコール又はそれらの水溶液等が挙げられる。さらに、カラムクロマトグラフィーにより得られたアルコール画分を、ODSを用いた逆相シリカゲルクロマトグラフィー、再結晶、液−液向流抽出、イオン交換樹脂を用いたカラムクロマトグラフィー等の任意の有機化合物精製手段を用いて精製してもよい。
【0038】
上記のようにして得られるキンモクセイからの抽出物又はアクテオシドは、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害作用、エストロゲン様作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、抗肥満作用及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有しているため、それぞれの作用を利用してマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤の有効成分として用いることができる。
【0039】
また、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドは、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害作用、エストロゲン様作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有しているため、マトリックスメタロプロテアーゼ−1の発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2の発現上昇に起因する疾患の予防・治療剤、エストロゲンの欠乏に起因する疾患の予防・治療剤、プロフィラグリンの産生量低下に起因する疾患の予防・治療剤、フィラグリンの産生量低下に起因する疾患の予防・治療剤、又はサイクリックAMPの産生量低下に起因する疾患の予防・治療剤の有効成分として使用することができる。
【0040】
マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、有効成分としてキンモクセイからの抽出物のみを含有していてもよいし、アクテオシドのみを含有していてもよいし、キンモクセイからの抽出物とアクテオシドとの混合物を含有していてもよい。キンモクセイからの抽出物とアクテオシドとの混合物を有効成分として含有せしめる場合、その配合割合は、キンモクセイからの抽出物やアクテオシドの有する作用の程度に応じて適宜決定すればよい。
【0041】
ここで、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有する抗肥満作用は、例えば、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用に基づいて発揮される。ただし、キンモクセイからの抽出物又はアクテオシドが有する抗肥満作用は、上記作用に基づいて発揮される抗肥満作用に限定されるものではない。
【0042】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドのみからなるものであってもよいし、上記抽出物及び/又はアクテオシドを製剤化したものであってもよい。
【0043】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドは、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯臭剤等を用いることができる。また、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドは、他の組成物(例えば、飲食品等)に配合して使用することができる。
【0044】
なお、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、必要に応じて、マトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害作用、エストロゲン様作用、プロフィラグリン産生促進作用、フィラグリン産生促進作用、抗肥満作用又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有する他の天然抽出物等を配合して有効成分として用いることができる。
【0045】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤の投与方法としては、一般に経口投与が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防・治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。
【0046】
また、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0047】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用を通じて、皮膚の老化症状を予防・改善することができるとともに、例えば、癌細胞の浸潤、転移等をも予防することができる。ただし、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤は、これらの用途以外にもマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0048】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するマトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害作用を通じて、皮膚の老化症状を予防・改善することができるとともに、血管新生を抑制し、腫瘍細胞への血流を抑制し、腫瘍細胞の増殖を抑制することができ、マトリックスメタロプロテアーゼ−2の発現上昇に起因する疾患(例えば、悪性腫瘍、がん等)を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤は、これらの用途以外にもマトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0049】
本発明のエストロゲン様作用剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するエストロゲン様作用を通じて、皮膚の老化症状を予防・改善することができるとともに、エストロゲンの欠乏に起因する疾患(例えば、冠動脈性心臓疾患(心筋梗塞等)、骨粗鬆症等)を予防、治療又は改善することができる。ただし、本発明のエストロゲン様作用剤は、これらの用途以外にもエストロゲン様作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0050】
本発明のプロフィラグリン産生促進剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するプロフィラグリン産生促進作用を通じて、細胞内でのプロフィラグリンの産生を促進し、プロフィラグリンの加水分解により得られるフィラグリン量を増加させ、皮膚の保湿能力を改善することができ、これにより、皮膚の弾力性を維持し、皮膚の老化、乾燥肌、しわ、肌荒れ等を予防・改善することができる。ただし、本発明のプロフィラグリン産生促進剤は、これらの用途以外にもプロフィラグリン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0051】
本発明のフィラグリン産生促進剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するフィラグリン産生促進作用を通じて、細胞内でのフィラグリンの産生を促進し、皮膚の保湿能力を改善することができ、これにより、皮膚の弾力性を維持し、皮膚の老化、乾燥肌、しわ、肌荒れ等を予防・改善することができる。ただし、本発明のフィラグリン産生促進剤は、これらの用途以外にもフィラグリン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0052】
本発明の抗肥満剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を通じて、サイクリックAMPの産生を促進し、脂肪細胞の分解をすることができ、この結果、肥満症を改善することができる。ただし、本発明の抗肥満剤は、これらの用途以外にもサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0053】
本発明のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシドが有するサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を通じて、サイクリックAMPの産生を促進し、脂肪細胞の分解を促進することができ、この結果、肥満症を改善することができる。ただし、本発明のサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、これらの用途以外にもサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0054】
なお、本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤、フィラグリン産生促進剤、抗肥満剤又はサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することもできる。
【実施例】
【0055】
以下、製造例及び試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。
【0056】
〔製造例1〕キンモクセイ花部抽出物の製造
キンモクセイの花部の粗粉砕物150gに50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比=1:1)1500mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃にて2時間保ち、熱時濾過した。続いて、残渣に50質量%エタノール1500mLを加え、穏やかに攪拌しながら80℃にて2時間保ち、熱時濾過した。得られた濾液を合わせて減圧下にて濃縮し、減圧乾燥機で乾燥してキンモクセイ花部抽出物(71.4g,試料1)を得た。
【0057】
〔製造例2〕アクテオシドの製造
製造例1により得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)8.9gをクロロホルム/メタノール/水=10:5:1の混合溶液に溶解し、シリカゲル(商品名:シリカゲル60,メルク社製)を充填したガラス製のカラム上部より流入して、シリカゲルに吸着させた。ガラス製のカラムに移動層としてクロロホルム/メタノール/水=10:5:1を流し、その溶出液を集め、溶媒を留去して、精製物(2.5g,試料2)を得た。
【0058】
上記のようにして精製して得られた精製物について、マススペクトル分析、H−NMR分析及び13C−NMR分析をした。かかる分析結果を下記に示す。
【0059】
<マススペクトル(ESI−MS)>
[M−H] m/z 623(理論値:C293615−H=623)
[M+Na] m/z 647(理論値:C293615+Na=647)
【0060】
H−NMRケミカルシフトδ(帰属水素):>
6.69 (1H, d, J=2.0 Hz, H-2), 6.67 (1H, d, J=8.1 Hz, H-5), 6.55 (1H, dd, J=2.0, 8.1Hz, H-6), 2.78 (2H, t-like, H-7), 4.01 (1H, overlapped, H-8a), 3.70 (1H, overlapped, H-8b), 7.05 (1H, d, J=2.2 Hz, H-2’), 6.77 (1H, d, J=8.3 Hz, H-5’), 6.94 (1H, dd, J=2.2, 8.3Hz, H-6’), 7.58 (1H, d, J=15.9 Hz, H-7’), 6.27 (1H, d, J=15.9 Hz, H-8’), 4.36 (1H, d, J=7.8Hz, GlcH-1), 3.39 (1H, dd, J=7.8, 8.1Hz, GlcH-2), 3.80(1H, br.t, J=9.0 Hz, Glc H-3), 4.88 (1H, br.t, J=9.2 Hz, Glc H-4), 3.58 (1H, overlapped, Glc H-5), 3.48 (2H, overlapped, Glc H-6), 5.18( 1H, br.s, Rha H-1), 3.90 (1H, m, Rha H-2), 3.58 (2H, overlapped, Rha-H-3 and Rha H-5), 3.30(1H, overlapped, Rha-H-4), 1.08.(3H, d, J=6.1 Hz, Rha H-6)
【0061】
13C−NMRケミカルシフトδ(帰属炭素):>
131.1(s, C-1), 116.1(d, C-2), 146.5(s, C-3), 144.3(s, C-4), 116.8(d, C-5), 121.0(d, C-6), 36.4(t, C-7), 72.0(t, C-8), 127.3(s, C-1’), 114.9(d, C-2’), 145.8(s, C-3’), 149.4(s, C-4’), 116.2(d, C-5’), 122.9(d, C-6’), 147.7(d, C-7’), 114.4(d, C-8’), 167.9(s, C-9’), 103.9(d, Glc C-1), 75.9(d, Glc C-2), 81.4(d, Glc C-3), 70.7(d, Glc C-4), 75.8(d, Glc C-5), 62.1(t, Glc C-6), 102.7(d, Rha C-1), 72.1(d, Rha C-2), 71.8(d, Rha C-3), 73.5(d, Rha C-4), 70.2(d, RhaC-5), 18.3(q, Rha C-6)
【0062】
以上の分析結果から、キンモクセイ花部抽出物から得られた化合物が、下記式(I)で表されるアクテオシド(Acteoside)であることが確認された。
【0063】
【化2】

【0064】
〔試験例1〕マトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害作用試験
製造例1にて得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたアクテオシド(Acteoside,試料2)について、以下のようにして間オリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害作用を試験した。
【0065】
蓋付試験管にて20mmol/Lの塩化カルシウムを含有する0.1mol/LのTris−HCL緩衝液(pH7.1)に溶解した試料溶液(試料濃度は表1を参照)50μL、MMP−1溶液(COLLAGENASE Type IV from Clostridium histolyticum,Sigma社製)50μL及びPz-peptide溶液(Pz-Pro-Leu-Gly-Pro-D-Arg-OH,BACHEM Feinchemikalien AG社製)400μLを混合し、37℃にて30分反応させた後、25mmol/Lのクエン酸溶液1mLを加え反応を停止した。その後、酢酸エチル5mLを加え、激しく振とうした。これを遠心(1600×g,10分)し、酢酸エチル層の波長230nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式により、MMP−1阻害率(%)を算出した。
【0066】
MMP−1阻害率(%)={1−(C−D)/(A−B)}×100
式中、Aは「試料無添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Bは「試料無添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Cは「試料添加、酵素添加での波長320nmにおける吸光度」を表し、Dは、「試料添加、酵素無添加での波長320nmにおける吸光度」を表す。
【0067】
また、試料濃度を段階的に減少させて上記MMP−1阻害率の測定を行い、MMP−1阻害率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を内挿法により求めた。
結果を表1に示す。
【0068】
【表1】

【0069】
表1に示すように、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドは、MMP−1阻害作用を有することが確認された。また、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドのMMP−1阻害作用の程度は、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドの濃度により調節可能であることが確認された。
【0070】
〔試験例2〕マトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)阻害作用試験
製造例1にて得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたアクテオシド(Acteoside,試料2)について、以下のようにしてマトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)阻害作用を試験した。
【0071】
(1)MMP−2の調製
ヒトMMP−2 cDNAを、下記の5'PCRプライマー及び3'PCRプライマーを用い、MMP−2の3.3kb cDNA断片を含むpSG−GelAを鋳型としてPCR反応を行った。得られた30Alaから474Valまでをコードする1.3kb PCR断片をBam Hl/Sallで消化し、pTH−72発現ベクター(pTH−MMP2−PC)のBam Hl/Sall部位にクローン化した。
5'PCRプライマー:5'-ggcggatccatggcgccgtcgcccatcatc-3'
3'PCRプライマー:3'-gccgtcgactacaatgtcctgtttgcagat-5'
【0072】
ヒトMMP−2の発現は、「Itoh, M. et al.; J. Biolchem., Vol.119, pp667-673, 1996」に準じて、精製及び巻き戻し(以下「リフォールディング」という。)は、「西村義文、大野茂雄 監修,タンパク実験プロトコール 細胞工学別冊 実験プロトコールシリーズ2 構造解析編,1997」に準じて行った。また、cDNAは、「Collier, I. E. et al., J. Biol. Chem., Vol.263, No.14, pp6579-6587, 1998」に記載されているものを使用した。
【0073】
すなわち、MMP−2のcDNAを含む発現ベクター(pTH−MMP−2)を、大腸菌BL21(DE3)株にトランスフェクトし、IPTGで発現誘導した。発現タンパクは、Ni−NTA樹脂(QUIAGEN INC.社製)を用いてアフィニティー精製後、リフォールディングを行い、酢酸4−アミノフェニル水銀と37℃で60分間反応を行うことで活性型へ移行させた後、EDTAを加えた。これを酵素標本とし、蛍光性ペプチド基質(MOCAc/DNP peptide)切断活性反応を行い、高速液体クロマトグラフィー(カラム:Wakosil 5C18,溶離液:30%アセトニトリル+0.1%THF,流速:1.0mL/min,検出:励起波長325nm,蛍光波長410nm)による生成物のピーク面積を測定し、これを酵素活性の指標とした。
【0074】
(2)MMP−2阻害活性の測定
試料を蒸留水に溶解させて8.0mg/mLとした後、蒸留水にて4.0mg/mL、2.0mg/mLに希釈し、懸濁物を除くため濾過した。MMP−2阻害活性の測定は、活性型MMP−2 40μL、試料溶液(試料濃度は表2を参照)20μL、アッセイバッファー(500mMのトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)、1.5Mの塩化ナトリウム、100mMの塩化カルシウム、500μMの硫酸亜鉛、30mMのアジ化ナトリウム、0.05%のBrij35)20μLを、37℃で15分間プレインキュベーションした後、MOCAc/DNP peptide120μL(4.16μM)を添加し、37℃で2時間反応させ、その後EDTA10μL(200mM)を添加した。反応液中の生成物について高速液体クロマトグラフィー分析によるピーク面積を測定した。試料溶液の代わりに蒸留水を加えた反応液の生成物を100%として試料のMMP−2阻害率(%)を算出した。
【0075】
また、試料濃度を段階的に減少させて上記MMP−2阻害率の測定を行い、MMP−2阻害率が50%になる試料濃度IC50(μg/mL)を内挿法により求めた。
結果を表2に示す。
【0076】
【表2】

【0077】
表2に示すように、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドは、MMP−2阻害作用を有することが確認された。また、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドのMMP−2阻害作用の程度は、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドの濃度により調節可能であることが確認された。
【0078】
〔試験例3〕エストロゲン様作用試験
製造例1にて得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたアクテオシド(Acteoside,試料2)について、以下のようにしてエストロゲン様作用を試験した。
【0079】
ヒト乳癌由来細胞(MCF−7)を10%FBS、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有するMEMを用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を、活性炭処理した10%FBS、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有しフェノールレッドを含有しないMEM(T−MEM)を用いて、3.0×10cells/mLの細胞密度に調整した後、48ウェルプレートに1ウェルあたり450μLずつ播種し、細胞を定着させるため培養した。6時間後(0日目)にT−MEM培地で終濃度の10倍に調整した試料溶液(試料濃度は表3を参照)を各ウェルに50μLずつ添加し培養を続けた。3日目に培地を抜き、T−MEMで終濃度に調整した試料溶液を各ウェルに0.5mLずつ添加し、さらに培養を続けた。
【0080】
エストロゲン様作用は、MTTアッセイ法を用いて測定した。培養終了後、培地を抜き、1%NEAA及び1mmol/Lのピルビン酸ナトリウムを含有するMEMに終濃度0.4mg/mLで溶解したMTTを各ウェルに200μLずつ添加した。2時間培養した後に、細胞内に生成したブルーホルマザンを2−プロパノール200μLで抽出した。抽出後、波長570nmにおける吸光度を測定した。同時に濁度として波長650nmにおける吸光度を測定し、両者の差をもってブルーホルマザン生成量とした。ポジティブコントロールとして、1×10−9Mのエストラジオールを使用した。得られた結果から、下記式により、試料溶液添加時のエストロゲン様作用率(%)を算出した。
【0081】
エストロゲン様作用率(%)=A/B×100
式中、Aは「試料溶液添加時の吸光度」を表し、Bは「試料溶液無添加時の吸光度」を表す。
結果を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3に示すように、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドは、エストロゲン様作用を有することが確認された。
【0084】
〔試験例4〕プロフィラグリン/フィラグリン産生促進作用試験
製造例1にて得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたアクテオシド(Acteoside,試料2)について、以下のようにしてプロフィラグリン産生促進作用及びフィラグリン産生促進作用を試験した。
【0085】
正常ヒト新生児皮膚表皮角化細胞(NHEK)を80cmのフラスコで正常ヒト表皮角化細胞培地(KGM)にて37℃、5%CO−95%airの条件下で培養し、常法により細胞を集めた。得られた細胞を上記培地にて1.5×10個/mLの細胞密度に調整し、2mLずつ6穴コラーゲンコートプレートに播種して37℃、5%CO−95%airの条件下にて3日間培養した。培養後、0.5%DMSOに溶解した試料を含むKGM2mLに交換し、37℃、5%CO−95%airの条件下にて5日間培養した。培養終了後、常法により総タンパクの調整を行った。
【0086】
<ウェスタンブロッティング>
10μg/列に調整したサンプルをSDS−PAGEにより展開し、PVDF膜に転写した。5%スキムミルクを含むPBS(−)でブロッキングを行った後、抗ヒトフィラグリンモノクローナル抗体(Harbor Bio-Products)、ビオチン標識抗マウスIg(Whole Ab,Amersham Biosciences社製)及びストレプトアビジンーペルオキシダーゼ複合体(CALBIOCHEM社製)を、0.1%Tween20、0.3%スキムミルクを含むPBS(−)で1000倍に希釈して順次反応させ、ECL Western blotting detection reagents and analysis system(Amersham Biosciences社製)の発光によりプロフィラグリン及びフィラグリンを検出した。検出したバンドをKODAK 1D Image Analysis Software EDAS290 Version3.5にて定量的に測定した。
【0087】
結果は、試料添加及び無添加で培養した細胞のそれぞれから調製したタンパク10μg中のプロフィラグリン及びフィラグリンのNet intensity(バンド強度)を合算した値を用いて、試料のプロフィラグリン産生促進作用を評価し、プロフィラグリン産生促進率(%)を下記式に基づいて算出した。
【0088】
プロフィラグリン産生促進率(%)=A/B×100
上記式において、Aは「試料添加時のNet intensity(プロフィラグリン及びフィラグリンの合計値)」を、Bは「試料無添加時(コントロール)のNet intensity」を表す。
結果を表4に示す。
【0089】
【表4】

【0090】
表4に示すように、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドは、プロフィラグリン産生促進作用及びフィラグリン産生促進作用を有することが確認された。
【0091】
〔試験例5〕サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害試験
製造例1にて得られたキンモクセイ花部抽出物(試料1)及び製造例2にて得られたアクテオシド(Acteoside,試料2)について、以下のようにしてサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を試験した。
【0092】
5mM塩化マグネシウムを含有する50mMトリス塩酸緩衝液(pH7.5)0.2mLに2.5mg/mLウシ血清アルブミン溶液0.1mLおよび0.1mg/mLサイクリックAMPホスホジエステラーゼ溶液0.1mLを加え、さらに試料溶液(試料濃度は表7を参照)を加え、37℃で5分間予備反応した。これに0.5mg/mL cAMP溶液0.05mLを加え、37℃で30分間反応させた。反応後、沸騰水上で3分間煮沸して反応を停止させ、遠心(2260×g、10分、4℃)し、上清を試料反応液とし、下記の条件で高速液体クロマトグラフィー分析をした。また、同様の方法で空試験を行い補正した。
【0093】
<高速液低クロマトグラフィー条件>
Column : Wakosil C18-ODS 5μm(和光純薬工業社製)
Mobil phase : 1mM TBAP in 25mM KH2PO4 : CH3CN = 90 : 10
Flow rate : 1.0mL/min
Detector : 260nm
Atten : 32〜64
【0094】
このようにして測定されたcAMPのピーク面積から、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害率(%)を下記式により算出した。
【0095】
サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害率(%)=(1−A/B)×100
式中、Aは「試料添加時のcAMPのピーク面積」を表し、Bは「試料無添加時のcAMPのピーク面積」を表す。
結果を表5に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
表5に示すように、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドは、サイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用を有することが確認された。また、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドのサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害作用の程度は、キンモクセイ花部抽出物及びアクテオシドの濃度により調節可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のマトリックスメタロプロテアーゼ−1阻害剤、マトリックスメタロプロテアーゼ−2阻害剤、エストロゲン様作用剤、プロフィラグリン産生促進剤及びフィラグリン産生促進剤は、皮膚の老化症状の予防・改善に有用であり、本発明の抗肥満剤及びサイクリックAMPホスホジエステラーゼ阻害剤は、肥満症の予防・改善に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−1(MMP−1)阻害剤。
【請求項2】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするマトリックスメタロプロテアーゼ−2(MMP−2)阻害剤。
【請求項3】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするエストロゲン様作用剤。
【請求項4】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするプロフィラグリン産生促進剤。
【請求項5】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするフィラグリン産生促進剤。
【請求項6】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とする抗肥満剤。
【請求項7】
キンモクセイからの抽出物及び/又はアクテオシド(Acteoside)を有効成分として含有することを特徴とするサイクリックAMPホスホジエステラーゼ活性阻害剤。

【公開番号】特開2009−67749(P2009−67749A)
【公開日】平成21年4月2日(2009.4.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−239859(P2007−239859)
【出願日】平成19年9月14日(2007.9.14)
【出願人】(591082421)丸善製薬株式会社 (239)
【Fターム(参考)】