説明

マルチキメラマウスの作製方法およびヒト組織特異的な病変の免疫病因の研究のための使用

本発明は、異種のみのMHCクラスIおよび/またはクラスII(HLA分子)で拘束される、異種(ヒト)の機能的な免疫系と機能的な組織とを含むマルチキメラマウスの作製方法に関する。本発明はまた、組織特異的な疾患(感染性、腫瘍性または自己免疫性病変)の免疫病因の研究のための、前記方法により得ることができる該マルチキメラマウスの使用、ならびにこれら疾患に対するワクチンまたは免疫療法剤の設計および試験のための、それらの応用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異種のMHCクラスIおよび/またはクラスII(HLA分子)のみで拘束される、異種(ヒト)の機能的な免疫系と機能的な組織とを含むマルチキメラマウスの作製方法に関するものである。本発明はまた、組織特異的な疾患(感染性、腫瘍性または自己免疫性病変)の免疫病因の研究のための、前記方法により得ることができる該マルチキメラマウスの使用、ならびにこれら疾患に対するワクチンまたは免疫療法剤の設計および試験のための、それらの応用に関するものである。
【背景技術】
【0002】
インビトロアッセイにおいてヒト細胞には失われている生体の構成要素および複雑性を有する動物モデルは、ヒトの疾患に対する予防的および治癒的で適切な治療法(ワクチン接種、免疫療法)の設計に必須である。しかしながら、厳密にヒトへ制限された病変に利用できる動物モデルは、ほとんどない。さらに、現存するモデルは、高価で、準備が困難であるか(HIV感染のサルのモデル)またはヒトの病変との関連性が離れている(マラリアまたは細菌性赤痢のマウスモデル)。
【0003】
これらの制限を克服するために、ヒトの分子(CD4、ケモカイン、コレセプター、HLA)を発現するトランスジェニックマウスが構築されてきた。しかしながら、これらトランスジェニックマウスは、疾患に応答するヒト生体の複雑性を反映せず、疾患の特定の段階のみの研究を可能にする。
【0004】
ヒトの造血の再現を試みる小動物異種移植モデルが、インビボにおけるヒトの免疫系の発達と機能を解析するために用いられてきた。これらのモデルにおいて、ヒト/マウスキメラまたはヒト化マウスを作製するように、ヒトの造血細胞および組織を、異種移植片を拒絶する能力が損なわれているマウスに移植する。
【0005】
生着は、重症複合免疫不全マウスにおける成熟ヒト末梢血白血球の移入(huPBL-SCIDマウス;Mosierら, Nature, 1998, 335, 256-259)、ならびにSCIDマウスにおける造血性胎児肝細胞、胎児骨、胎児胸腺および胎児リンパ節の移植(SCID-huマウス; McCuneら, Science, 1988, 241, 1632-1639; McCuneら, Semin. Immunol., 1996, 8, 187-)の後に最初に報告された。TおよびBリンパ球欠陥SCIDマウス(Prkdcscid 変異マウス)における、これらの最初の報告の後に、あるレベルの生着もまた、組み換え活性化遺伝子(RAG)欠陥マウス(Rag1-/-、Rag2-/-変異マウス;Schultzら, J. Immunol., 2000, 164, 2496-2507;Goldmanら, Br. J. Haematol., 1998, 103, 335-342)における造血細胞の移植により達成された。しかしながら、これらのモデルにおける生着のレベルは、おそらく宿主動物の自然免疫の残存のために、まだ低かった。非肥満型糖尿病/重症複合免疫不全(NOD/SCID)マウスは、BALB/c/SCIDまたはC.B.17/SCIDマウスよりも、ヒトの前駆細胞の生着のより高いレベルを支持することを示してきた(Greinerら, Stem Cells, 1998, 16, 166-)。ベータ-2マイクログロブリン遺伝子でのヌル対立遺伝子(NOD/SCID/(2m-/-;O. Kolletら, Blood, 2000, 95, 3102-)または細胞質領域を欠損した切形の共通サイトカイン受容体γ鎖(γc)変異体(NOD/SCID/γc-/-;Itoら, Blood, 2002, 100, 3175-)のいずれかを有するNOD/SCIDマウスが作製された。β2mは主要組織適合複合体(MHC)クラスIが介する自然免疫にとって必要であり、かつγc(元々はIL-2Rγ鎖と呼ばれる)は、そのいくつかはリンパ系の生成/維持に必要な、多くのリンパ関連サイトカイン(IL-2、IL-7、IL-9、IL-12、IL-15およびIL-21)のための受容体へテロ二量体に欠くことができない構成要素なので、これらのマウスにおいてNK細胞、T細胞およびB細胞の発達ならびに機能は阻害される。HLA-DR1トランスジェニックNOD/SCIDマウスおよびHLA-DR3トランスジェニックRag2-/-マウスもまた樹立された(Camachoら, Cellular Immunology, 2004, 232, 86-95;米国特許出願第2003/0028911号)。しかしながら、これらのモデルはヒトリンパ系細胞の限られた発達および維持を持続させるだけであり、かつ免疫応答をめったに引き起こさない。
【0006】
より最近では、放射線照射した新生Rag2-/-c-/-マウスへのCD34+ヒト臍帯血細胞の肝臓内注射によって、B、T、および樹状細胞の新たな発達;組織化した1次および2次リンパ器官の形成;ならびに機能的な免疫応答の発生が示すように、定量的かつ機能的に完全な免疫系が形成された(Traggai, Science, 2004, 304, 104-107)。この異種移植系の有効性は、同じ系統のマウス(Gimenoら, Blood, 2004, 104, 3886-3883)および共通サイトカイン受容体γ鎖の完全ヌル変異を有するNOD/SCIDマウス(NOD/SCID/γcnull;Ishikawaら, Blood, 2005, 106, 1565-1573)において、さらに確認された。
【0007】
しかしながら、他の研究(Wangら, J.Exp.Med., 2005, 201, 1603-1614)では、hES胚性体に由来し、かつ放射線照射したNOD/SCIDマウスへ静脈内注射されたCD34+ヒト前駆体が、マウス血清の凝集のせいで引き起こされた肺塞栓により生着マウスの死亡を導くことが報告された。
【0008】
それにもかかわらず、これらのモデルはいくつかの不利な点を示す:これらは造血系組織だけに制限され;キメラリンパ系器官におけるT細胞の数が非常に限られていることと共に定量的なT細胞の再構成がかなり乏しい。さらに、抗原提示細胞の性質(マウス対ヒト)が不明確なままであるので、機能的研究はこれらの系においては困難であり、かつマウスMHCによるヒトT細胞応答の拘束の可能性を排除することを可能にしない。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0009】
これらの制限を克服するために、本発明は、マルチキメラマウスの作製方法を提供し、これはいずれの適切な手段により、異種の前駆細胞をトランスジェニックマウスへ移植する工程を含み:
a)該前駆細胞が、造血および非造血前駆体を含み、
b)トランスジェニックマウスが:
b1)マウスTリンパ球、Bリンパ球およびNK細胞の欠陥、
b2)マウスMHCクラスIおよびMHCクラスII分子の欠陥、および
b3)該前駆細胞との同種からの機能的MHCクラスI導入遺伝子および/または機能的MHCクラスII導入遺伝子
を含む表現型を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1は、トランスジェニックマウスにおけるT、BおよびNK細胞の不在を示す。C57Bl/6マウス、Rag-/- γc-/-β2m-/- IAβb-/-(RGBI-/-と称する)、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-A2+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+ HLA-A2+マウスからの脾臓細胞を、マウスCD19およびマウスCD3(A)ならびにマウスNK1.1およびマウスDX5(B)について染色した。パネルは、各グループの3匹のマウスおよび2人のヒトドナーの代表である。
【図2】図2は、トランスジェニックマウスにおけるMHC分子発現の解析を示す。C57Bl/6マウス、Rag-/- γc-/-β2m-/- IAβb-/-(RGBI-/-と称する)、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-A2+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+ HLA-A2+マウスからのヒトPBLおよび脾臓細胞を、HLA-DR/DP/DQ(A)、HLA-A/B/C(B)、IAb(C)、H-2Db/Kb(D)について染色した。 Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-A2+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+ HLA-A2+マウスについて、HLA-DR/DP/DQ(A)、およびHLA-A/B/C(B)の発現プロフィール(塗りつぶしていないヒストグラム)を、Rag-/- γc-/-β2m-/- IAβb-/-対照マウスについて得られた発現プロフィール(塗りつぶしたヒストグラム)とともに示す。 Rag-/- γc-/-β2m-/- IAβb-/-、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-A2+、Rag-/-γc-/-β2m-/- IAβb-/- HLA-DR1+ HLA-A2+マウスについて、IAβb(C)およびH-2Db/Kb(D)の発現プロフィール(塗りつぶしていないヒストグラム)を、C57Bl/6対照マウスについて得られた発現プロフィール(塗りつぶしたヒストグラム)とともに示す。 パネルは、各グループの3匹のマウスおよび2人のヒトドナーの代表である。
【図3】図3は、H9ヒト胚性幹(hES)細胞のCD34分化を示す。未分化H9細胞は、過集密な(over-confluent)OP-9細胞の層上で培養された。共培養の異なる日において、ヒトCD34および段階特異的胚性抗原4(SSEA-4)の発現を、フローサイトメトリにより単一細胞懸濁物においてモニターした。パネルAは、マウス胚性線維芽(MEF)およびOP-9細胞の両方についての対照のネガティブ染色を示す。パネルBおよびCは、2つの異なる時点において、「材料と方法」に記載される2つの別個のOP-9細胞株とともにそれぞれ実行された、2つのH9/OP-9共培養から得られた結果を示す。
【図4】図4は、OP-9細胞株によるH9分化の異なる効率を示す。H9/OP-9共培養におけるCD34発現(A)またはCD34/SSEA-4の二重発現(B)の動態をフローサイトメトリにより調査した(AおよびB)。目盛りは、OP-9細胞株および得られたCD34+の割合に依存して異なることに注意されたい。
【図5】図5は、H9由来CD34+細胞による、生着した免疫欠陥マウスのヒト造血系再構成を示す。6匹の放射線照射したRAG-/-、γc-/-、mβ2m-/-、I-Aβ-/、C5-/-、HLA-DR1+、HLA-A2+新生マウスに、「材料と方法」に記載されるように、CD34+細胞が豊富なH9/OP-9共培養細胞を生着させた。6週間後、キメラの脾臓(A下段)および骨髄(B右)におけるCD45+細胞の存在をフローサイトメトリにより評価した。陰性対照として、非生着免疫欠陥マウスの脾臓(A上段左)および骨髄(B左)から得られた結果を示す。ヒト臍帯血のCD45発現レベルを示す(A上段右)。全ての細胞は、FSC/SSCの基準による赤血球およびデブリスを排除する細胞のゲーティングの後、少なくとも3.106の取得イベントから解析される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
従来のトランスジェニックマウスモデルで得られた結果とは反対に、本発明のトランスジェニックマウスへのCD34+由来のヒト胚性幹細胞の肝臓内注射は、いかなる死も引き起こさなかっただけではなく、トランスジェニックマウス受容者の骨髄および脾臓へのヒトCD45+細胞の移動を引き起した。
【0012】
本発明によるトランスジェニックマウスにおける、HLA分子による宿主マウスのMHC分子の置換は、最初のモデルを顕著に改善する。HLAの状況(context)において、従来モデルにおいて主に遭遇する異種間の相互作用よりも強い、ヒトCD4/MHCクラスIIの相互作用およびCD8/MHCクラスIの相互作用は、ヒト胸腺細胞のポジティブセレクションおよび産生されたヒトT細胞の末梢での生存の両方を促進することにより、T細胞数を劇的に増加させる。さらに、HLA分子による宿主マウスのMHC分子の置換は、ヒトMHCの状況においてヒトT細胞応答の拘束を確実にする。該マウス宿主のハプロタイプは、ドナー細胞の1つに以前の機能(previous function)を確実にすることを強制しない。マウス宿主とドナー細胞との間のHLAハプロタイプが異なる場合、ドナーT細胞は宿主とそのHLAの状況の両方に教育されるであろう。本発明のマウスは、新しいヒト/マウス マルチキメラを作製するために、ヒトの造血および非造血前駆体の移植のための受容宿主として使用される。該マルチキメラマウスは、異種のみのMHCクラスIおよび/またはクラスII(HLA分子)で拘束される、異種(ヒト)の機能的な免疫系と少なくとも1つの機能的な組織とを含む。
【0013】
これらのマウスは、完全なヒト化モデルで、安価で、準備が容易で、再現性があり、柔軟性があり(HLA変動性/組織多様性)、広い範囲の組織特異的疾患(感染、腫瘍または自己免疫性病変)の免疫病因、およびインビボでの組織分化における免疫系の役割を研究するために用いることができる。これらのマウスは、ヒトへの使用のためにインビボで最大効力を持つワクチンまたは免疫療法の開発および最適化に有用なモデルを提供する。特に、そのようなマウスは、単一の動物において、広い範囲の病変(感染性疾患、癌、自己免疫疾患)に冒されたヒト組織で発現する抗原に対して惹起される適応免疫応答(抗体、ヘルパーおよび細胞溶解)の構成要素の完全な解析を可能にする。
【0014】
このモデルにおいて、免疫応答のエフェクターおよびそれらに指向される抗原(抗原特異的抗体、抗原特異的HLAクラスII拘束性CD4+T細胞、抗原特異的HLAクラスI拘束性CD8+T細胞)の同定が可能である。これらの応答が、どのように協調するのかについての研究もまた可能である。例えば、ある特定の副次集団のその役割を評価するために、抗CD抗体処理(抗CD4、CD8、NK、CD19、CD25など)によって枯渇される。前駆細胞の遺伝的内容を操作して、ある特定の遺伝子の関連性を研究することは容易である。マウス宿主および/またはドナー前駆細胞のための、ヒト個体群の遺伝的多様性を反映する異なるHLAアロタイプの大規模なパネル評価のアクセスできることにより(Taylorらによる評価, The Lancet, 2005, 366:2019-2025)、ヒト個体群全体をカバーする研究が可能になる。一旦、惹起されるエフェクターおよびそれらが認識する抗原が同定されると、免疫応答を制御する適切な免疫療法剤および防御的免疫応答を誘導する適切なワクチンの設計、ならびにそれにより組織特異的疾患の予防または治療が可能である。それゆえ、このモデルは、ヒトの病原体、癌および自己免疫疾患に対するより効果的な予防または治療的免疫療法ならびにワクチンの創作に有用である。これらのマウスは、基本および応用の免疫学研究のための最適化されたツールである。
【0015】
定義
「異種の」、「異種」とは、マウスではない脊椎動物を指す。
「同系の細胞」とは、同じ遺伝子型の個体からの細胞(唯一の個体または一卵性双子からの細胞)を指す。
「幹細胞」とは、クローン形成能および自己再生能ならびに複数の細胞系統に分化する潜在性を有する、多能性または多分化性の細胞を指す。これらの細胞は、複数の身体組織型の再構成を可能にする。
「前駆体」、「前駆細胞」とは、特定の細胞系へ分化する潜在性を有する委任細胞を指す。これらの細胞は、特定の身体組織型の再構成を可能にする。
「キメラの」、「キメラ」とは、ある種から別種の宿主に移植された細胞の異種移植を指す。
「マルチキメラの」、「マルチキメラ」とは、ある種から別種の宿主に移植された、少なくとも2つの異なる細胞型の異種移植を指す。
【0016】
「の欠陥」とは、分子または細胞の機能の欠乏を指す。
「変異」とは、ポリヌクレオチド配列における1つまたはそれより多いヌクレオチドの置換、挿入、削除を指す。
「欠陥遺伝子」、「不活性化遺伝子」、「ヌル対立遺伝子」とは、野生型遺伝子の分子機能を欠く変更された遺伝子産物をもたらす、自発的または指向された変異を含む遺伝子を指す。
「破壊された遺伝子」とは、相同組み換えまたは当該技術で知られるその他のアプローチを用いて不活性化された遺伝子を指す。
【0017】
「導入遺伝子」とは、それが導入されるトランスジェニック動物または細胞にとって、部分的または全体的に非相同である、つまり外来性の核酸配列、あるいはそれが導入されるトランスジェニック動物または細胞の内因性遺伝子と相同であるが、それが挿入される細胞のゲノムを変更するような様式で動物のゲノムに挿入されるように設計されるか、または挿入される核酸配列(例えば、それが本来の遺伝子の位置とは異なる位置に挿入されるか、またはその挿入によりノックアウトとなる)を指す。導入遺伝子は、選択される核酸の最適な発現にとって必要となり得る、1つまたはそれより多い転写調節配列、およびイントロンのようなその他の核酸に作動可能に連結されることが可能である。
【0018】
「機能的導入遺伝子」とは、導入遺伝子を含むマウスの少なくとも1つの細胞において、mRNA転写産物を生じ、これが次に適当にプロセシングされたタンパク質を生ずる導入遺伝子を指す。当業者は、既知の転写制御要素および転写後修飾を指令する配列の様々の組が、宿主マウスにおける導入遺伝子の発現を指令するための選択肢のライブラリーを提供することを理解するであろう。本発明の多くの実施形態において、H-2遺伝子調節要素の制御下のHLA導入遺伝子の発現が好ましい。
【0019】
「HLA」とは、ヒトMHC複合体を指し、「H-2」とは、マウスMHC複合体を指す。
【0020】
本発明の方法によれば、造血前駆体および非造血前駆体は、単一のドナーからであり得る;この場合において、該前駆体は同じ遺伝子型を有する(同系の前駆体)。あるいは、前駆体(造血前駆体および/または非造血前駆体)は、2またはそれより多いドナーからであり得る;この場合において、前駆体(造血前駆体および/または非造血前駆体)は、遺伝子型(MHCハプロタイプを含む)が異なる細胞からなる。
【0021】
本発明の方法によれば、造血前駆体および非造血前駆体は、当業者に公知の方法によって、適切な組織(胎児組織、臍帯血、成人骨髄)から単離し得るか、または成人もしくは胚性幹細胞からインビトロで導きうる。例えば、インビトロでヒト胚性幹細胞を複数の異なる系統に分化させる方法は、Hyslopら, Expert. Rev. mol. Med., 2005, 7, 1-21;Odoricoら, Stem cells, 2001, 19, 193-204に記載されている。ヒト胚性幹細胞を、特にCD34+細胞、肝細胞、膵細胞または神経細胞に分化させる方法は、それぞれ:Vodyanikら, Blood, 2005, 105, 617-626;Lavonら, Differentiation, 2004, 72, 230-238 および LevonとBenvenisty, J. Cell. Bioch., 2005, 96:1193-1202;Assadyら, Diabetes, 2001, 50, 1961-1967;Zhangら, Nat. Biotechnol., 2001, 19, 1129-1133に記載されている。例えば、インビトロでヒト成人幹細胞を複数の異なる、または単一の系統に分化させる方法は、Korblingら, N Engl J Med, 2003, 349:570-582において概説されている。
【0022】
第1の実施形態において、本発明は、前駆細胞が幹細胞から導かれるものである方法を提供する。生物学的材料供給源はより多い量で利用でき、かつより多くの前駆細胞、特にCD34+造血前駆体を含むので、幹細胞の使用によって、より多くの前駆細胞を得ることができる。さらに、胚性幹細胞は免疫原性がより低い。これらの利点は、同じトランスジェニック系統の別のマウスへの、同じ前駆細胞の調製物の移植により得られる、異なるマウスキメラ間の再現性を増加させる。
【0023】
別の実施形態において、本発明は、前駆細胞がヒト前駆細胞である方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、造血前駆細胞がヒトCD34+細胞である方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、非造血前駆細胞が、肝細胞、神経細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞、またはメラニン形成細胞の前駆体、および内皮、グリア、または膵細胞の前駆体からなる群より選択される方法を提供する。
【0024】
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、非相同な遺伝子の発現を誘導するか、または内因性の遺伝子の発現を阻害するように、興味対象のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドによって遺伝子的に改変されている方法を提供する。該改変は、安定的または一過性であり得る。例えば、該細胞は、サイトカイン遺伝子または癌遺伝子のような興味対象の遺伝子を発現するトランスジェニック細胞であり得る。例えば、T細胞記憶の産生/維持に関連するIL-7またはIL-15の導入遺伝子の発現は、有効なワクチン接種の誘導に有用であり得る。前駆細胞は、N-エチル-N-ニトロソウレア、7,12-ジメチルベンズ(a)アントラセン(DMBA)またはウレタンのような遺伝毒性発癌物質による処理後に癌腫の誘発をさらに増進する(M. Okamuraら, Cancer letters, 2006: 1-10)、それ自体のプロモーターでヒトc-Ha-ras遺伝子を発現するために遺伝子導入したものであり得る。
【0025】
肝臓での発現を与えるヒトアンチトロンビンIII遺伝子の調節配列の制御下にあるSV40初期配列のような癌遺伝子の条件的発現は、肝臓の癌腫のためのよいモデルを提供し得る(D-Q Louら, Cancer letters 2005, 229:107-114)。あるいは、該細胞は、興味対象の遺伝子を標的にするsiRNAにより一過性に改変されたものでありえ、例えば、調節T細胞の維持/機能に関連するIL-2遺伝子発現の条件的阻害は、有効なワクチン接種の開発に有利であり得る。プロアポトーシス遺伝子の条件的ノックダウンもまた、腫瘍の発生のために研究され得る。
【0026】
造血前駆細胞は、機能的T、Bおよび樹状細胞へ造血前駆体が分化することを改善する遺伝子改変を有利に含み得る。これら改変は、当業者に公知である。例えば、造血前駆細胞でのSTAT5の条件的発現は、Kyba, M.およびDaley, G. Q., Experimental hematology, 2003, 31, 994-1006に記載のように得ることができる。
【0027】
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、異種のMHC多型を考慮に入れるために、異なるMHCハプロタイプ、より好ましくは異種において最も頻出のハプロタイプのドナーからである方法を提供する。例えば、該マウスは、ヒト個体群に最も頻出のHLAハプロタイプのトランスジェニックである。これらヒト化マウスは、ヒト個体群の遺伝子の多様性を反映するHLA分子を有する。それゆえ、それらの免疫系は、該個体群のほとんどの個体の免疫系を反映する。
【0028】
前駆細胞のハプロタイプはまた、疾患、例えば、自己免疫疾患(Jonesら, Nature Reviews Immunol., 2006, 6:271-282)またはHCV(Yee L.J., Genes and Immunity, 2004, 5:237-245)もしくはHIV(Bontrop R.E.およびD.I. Watkins, Trends in Immunol., 2005, 26:227-233)のようなウィルス感染の進展または結果に関連するハプロタイプに相当し得る。
【0029】
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、同時に移植される方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、逐次的に移植される方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、マウスの同じ部位に移植される方法を提供する。
別の実施形態において、本発明は、造血前駆体または非造血前駆体が、マウスの異なる部位に移植される方法を提供する。
【0030】
マウスへ前駆細胞を移植する方法は、当該技術において公知である。造血前駆細胞を、致死量未満の放射線照射された新生マウスに移植することが好ましい。胎児組織、骨髄、臍帯血または胚性幹細胞から得られる細胞を、トランスジェニックマウスへの造血前駆細胞の生着率を改善するために、移植前に適切な時間で培養し得る。移植される細胞数は、トランスジェニックマウスへの最適な移植を得るように測定される。例えば、Traggiaiら, Science, 2004, 304, 104-107;Ishikawaら, Blood, 2005, 106, 1565-1573;Gimenoら, Blood, 2004, 104, 3886-3893に記載のように、104〜106個のヒトCD34+細胞は腹腔内、肝臓内、または静脈内、例えば顔面の血管を介して、致死に近い放射線照射された新生マウスに移植される。
【0031】
造血前駆細胞および非造血前駆細胞は、同時にまたは逐次的に移植され得る。どちらの方法も科学的または技術的理由により要求され得る。例えば、同日に神経前駆体および造血前駆体を新生マウスの脳および肝臓に注射することは難しいが、肝臓前駆体および造血前駆体を同時に肝臓へ注射することは可能である。好ましくは、造血組織の移植は肝臓内であり、かつ非造血組織の移植は正所であるか、または器官に依存しない。例えば、造血/肝臓の再構成は、両方の前駆体の肝臓内への移植により達成される。造血/神経の再構成は、造血前駆体の肝臓内への、および非造血前駆体の正所の部位(脳)への移植により達成される。造血/膵臓の再構成は、造血前駆体の肝臓内への、および膵臓前駆体のマウス宿主の腎臓被膜下への移植により達成される。
【0032】
本発明で定義された、マウスTおよびBリンパ球、ならびにNK細胞に欠陥のあるトランスジェニックマウスは、自発的または指向された変異(欠陥遺伝子)により不活性化された、T、Bおよび/またはNK細胞の発達に必須の2つの遺伝子を含む。当業者に公知のこれらの変異は、例えば、マウスscid変異(Prkdcscid;Bosmaら, Nature 1983, 301, 527-530;Bosmaら, Curr. Top. Microbiol., Immunol., 1988, 137, 197-202)または組み換え活性化遺伝子の破壊(Rag1-/-またはRag2-/-;Mombaertsら, Cell, 1992, 68, 869-877;Takedaら, Immunity, 1996, 5, 217-228)である第1の変異、およびベージュ変異(Lystbg;Mac Dougallら, Cell. Immunol., 1990, 130, 106-117)またはβ2-マイクログロブリン遺伝子(β2m-/-;Kolletら, Blood, 2000, 95, 3102-3105)、IL-2受容体γ鎖(または共通サイトカイン受容体γ鎖(γc))遺伝子(IL-2Rγ-/-またはγc-/-;DiSantoら, P.N.A.S., 1995, 92, 377-381)、もしくはIL-2受容体β鎖(IL-2Rβ)遺伝子(IL-2Rβ-/-;Suzukiら;J. Exp. Med., 1997, 185, 499-505)の破壊である第2の変異を含む。
【0033】
さらに、これらの変異は、当業者に公知の適切な遺伝子背景にある。例えば、SCID変異はNOD背景(糖尿病になりやすい非肥満型糖尿病性背景、NOD/SCID;Prochazkaら, P.N.A.S., 1992, 89, 3290-3294)にあるものが好ましい。
【0034】
例えば、本発明によるマウスは、T、BおよびNK細胞の欠陥に相当する下記の遺伝子型の1つを含む:SCID/Beige(scid/scid, bg/bg;Mac Dougallら, Cell. Immunol., 1990, 130, 106-117)、NOD/SCID/IL2-Rγnull(Ishikawaら, Blood, 106, 1565-1573;Schultzら, J. Immunol., 2005, 174, 6477-6489)、NOD/SCID/β2m-/-(Zijlstarら, Nature, 1990, 344, 742-746)、Rag2-/-c-/-(Goldmanら, Br. J. Haematol., 1998, 103, 335-342)。
【0035】
別の実施形態において、本発明は、b1)で定義したトランスジェニックマウスの欠陥が、Rag2遺伝子の欠陥および共通受容体γ鎖遺伝子の欠陥に関連する方法を提供する。両方の遺伝子が相同組み換えにより破壊されること(Rag2およびγcノックアウトまたはRag2-/-c-/-)が好ましい。
【0036】
MHCクラスI分子は、β2-マイクログロブリン(β2-m)軽鎖と非共有結合的に会合するα-鎖(重鎖)を含む。MHCクラスII分子は、α-鎖およびβ-鎖を含むヘテロ二量体である。ヒト複合体は3つのクラスI α-鎖遺伝子:HLA-A、HLA-B、およびHLA-CならびにMHCクラスII α-およびβ-鎖遺伝子の3つの対、HLA-DR、-DPおよび-DQを含む。多くのハプロタイプにおいて、HLA-DRクラスターは、その生成物がDRα鎖と対をなし得る、余分のβ鎖遺伝子を含み、そして遺伝子の3つの組は4つのタイプのMHCクラスII分子を生む。マウスにおいて、3つのクラスI α-鎖遺伝子は、H-2-L、H-2-D、およびH-2Kである。マウスMHCクラスII遺伝子は、H-2-AおよびH-2-Eである。H-2-Eαは、H2bハプロタイプにおける偽遺伝子である。
【0037】
別の実施形態において、本発明は、トランスジェニックマウスのMHCクラスI分子の欠陥が、β2-マイクログロブリン遺伝子の欠陥、好ましくはβ2-マイクログロブリン遺伝子の破壊(β2mノックアウト、β2m-/-)に関連する方法を提供する;マウスでのβ2-マイクログロブリン鎖の欠如は、マウスMHCクラスI分子(H-2-L、H-2-D、およびH-2K)の細胞表面発現の欠乏を導く。
【0038】
好ましい実施形態において、β2-マイクログロブリン遺伝子および少なくとも1つのクラスI α-鎖遺伝子、例えば、H2-Dbおよび/またはH2-Kb遺伝子は破壊されている。
【0039】
β2mノックアウトマウスは、当業者に公知である。例えば、β2m-/-マウスは、Zijlstarら, Nature, 1990, 344, 742-746に記載され、かつβ2m-/-、H2-Dbおよび/またはH2-Kbマウスは、Pascoloら, J. Exp. Med., 1997, 185:2043-2051に記載のように得ることが可能である。
【0040】
別の実施形態において、本発明は、トランスジェニックマウスのMHCクラスII分子の欠陥が、H-2b-Aβ遺伝子の欠陥、および最終的にH-2-Eβ遺伝子の欠陥に関連する方法を提供する。
【0041】
H2bハプロタイプにおいて、マウスMHCクラスII分子の欠陥は、H-2b-Aβ遺伝子の破壊(I-AβbノックアウトまたはI-Aβb -/-)により得られる;H-2 I-A β-鎖の欠如は、このハプロタイプにおいてH-2-Eα遺伝子は偽遺伝子であるので、通常のH-2 I-AおよびI-EクラスII分子の細胞表面発現の欠乏を導く。他のH-2ハプロタイプにおいて、マウスMHCクラスII分子の欠陥は、H-2-AβおよびH-2-Eβ遺伝子の両方の破壊によって得られる。
【0042】
I-Aβb ノックアウトマウスは、当業者に公知である。例えば、I-Aβb -/-マウスは、Takedaら, Immunity, 1996, 5, 217-228に記載される。H-2-AβおよびH-2-Eβ遺伝子の両方をノックアウトしたマウスは、Madsenら, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 1999, 96:10338-10343に記載される。
【0043】
Tリンパ球を標的にするT-エピトープに基づくワクチンの設計を妨げる困難の1つは、HLAクラスI/クラスII分子の多型である。多型のHLA抗原および別個のHLA対立遺伝子の両方の結果として、異なる個体のHLA遺伝子の間に遺伝的多様性が存在することは、当該技術において知られている。HLA分子の高度の多型のせいで、2つの個体により提示される抗原からのエピトープの組は、前記個体を特徴付けるHLA分子またはHLAタイプに依存して異なり得る。しかしながら、大多数のHLA分子はその配分が世界中で同質ではないにもかかわらず、いくつかの対立遺伝子がヒト個体群において優勢である(HLA-DR1、-DR3、-B7、-B8、-A1、-A2)。例えば、HLA-A2.1およびHLA-DR1分子は、それぞれ個体の30〜50%および6〜18%に発現する。さらに、HLAクラスIアイソタイプの、または対立遺伝子の変異体間の提示されるペプチドの組の重複があり、かつペプチドのHLAクラスII分子への結合が、クラスI分子への結合よりも厳密ではない。それゆえ、HLA-A2.1およびHLA-DR1分子により提示されるペプチドは、個体群中の最多数の個体により提示されるエピトープの典型となるはずである。それにもかかわらず、ヒト個体群全体をカバーするために、他のHLAアイソタイプの、または対立遺伝子の変異体により提示される最適なエピトープを同定することが望ましい。このことは、免疫応答において偏りがある場合においても重要であり得るので、抗原が他のHLAハプロタイプによって提示されることが好ましい。このことは、HLAハプロタイプが疾患、例えば、自己免疫疾患(Jonesら, Nature Reviews Immunol, 2006, 6:271-282)またはHCV(Yee L.J., Genes and Immunity, 2004, 5:237-245)もしくはHIV(Bontrop R.E. およびD.I. Watkins, Trends in Immunol., 2005, 26:227-233)のようなウィルス感染の発達および結果に関連する場合においても、適切であり得る。
【0044】
本発明の方法で用いるトランスジェニックマウスは、1つまたはそれより多い、異種の機能的MHCクラスIおよび/またはクラスII導入遺伝子を含み得る。MHCクラスIおよび/またはクラスII導入遺伝子のアロタイプが、異種個体群の遺伝子の多様性を反映することが好ましい。例えば、異種個体群で最も頻出のアロタイプが、異種個体群の全体をカバーするように選択される。異種のMHCクラスIおよび/またはクラスII導入遺伝子は、前駆細胞に存在する対立遺伝子の配列または前駆細胞に存在しない他の対立遺伝子の配列を有し得る。
【0045】
別の実施形態において、本発明は、トランスジェニックマウスの異種MHCクラスI導入遺伝子がヒトHLAクラスI導入遺伝子であり、かつトランスジェニックマウスの異種MHCクラスII導入遺伝子がヒトHLAクラスII導入遺伝子である方法を提供する。
ヒトHLAクラスIおよびクラスII導入遺伝子は、前駆細胞に存在する対立遺伝子の配列または前駆細胞に存在しない他の対立遺伝子の配列を有し得る。
好ましくは、ヒトHLAクラスIおよびクラスII導入遺伝子は、ヒト個体群に最も頻出のアロタイプに相当する。
例えば、ヒトHLAクラスI導入遺伝子がHLA-A2導入遺伝子であり、かつHLAクラスII導入遺伝子がHLA-DRA1導入遺伝子である。
より好ましくは、HLA-A2導入遺伝子は、HLA-A2.1重鎖にヒトβ2mがペプチドの腕によって共有結合的に連結されている、HLA-A2.1単鎖をコードする。
HLA-DR1αおよびβ鎖は、それぞれHLA-DRA*0101およびHLA-DRB1*0101遺伝子をコードし得る。
【0046】
HLAクラスIおよびHLAクラスIIトランスジェニックマウスは、当業者に公知である。例えば、キメラ単鎖(そのN末端にてヒトβ2mのC末端に15アミノ酸のペプチドリンカーによって連結されるHLA-A2.1のα1-α2ドメイン(HLA-A*0201遺伝子によりコードされる)、H-2 Dbの細胞質ドメインまでのα3)を発現するHLA-A2.1トランスジェニックマウスは、Pascoloら, J. Exp. Med., 1997, 185, 2043-2051に記載される。
HLA-DRA*0101およびHLA-DRB1*0101遺伝子によってコードされるDR1分子を発現するHLA-DR1トランスジェニックマウスは、Altmannら, J. Exp. Med., 1995, 181, 867-875に記載される。
【0047】
よって、本明細書に開示される本発明の実施形態は、1つの多型HLA抗原を別のものに、または1つのHLA対立遺伝子を別のものに置換し得る。HLA多型および対立遺伝子の例は、例えば、http://www.anthonynolan.org.uk/HIG/data.htmlおよびhttp://www.ebi.ac.uk/imgt/hlaならびにHLAの遺伝子の多様性は:Functional and Medical Implication、Dominique Charon (編)、EDK Medical and Scientific International Publisher、およびThe HLA FactsBook, Steven G.E. Marsh、Peter Parham and Linda Barber、AP Academic Press, 2000において見ることが可能である。
【0048】
ヒトHLAクラスIおよびクラスII導入遺伝子は、疾患、例えば、自己免疫疾患(Jonesら, Nature Reviews Immunol, 2006, 6:271-282)またはHCV(Yee L.J., Genes and Immunity, 2004, 5:237-245)もしくはHIV(Bontrop R.E. およびD.I. Watkins, Trends in Immunol., 2005, 26:227-233)のようなウィルス感染の発達および結果に関連するアロタイプにも相当し得る。
【0049】
あるいは、他の脊椎動物からのMHCクラスIおよびクラスII分子は、本発明によるトランスジェニックマウスにおいて発現できる。MHC遺伝子配列は、NCBIデータベース(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)のようなデータベースでアクセスできる。
【0050】
別の実施例において、本発明は、トランスジェニックマウスが以下の遺伝子型:
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-A2+/+、HLA-DR1+/+
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-A2+/+、および
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-DR1+/+
のうちの1つを有する方法を提供する。
【0051】
別の実施例において、本発明は、トランスジェニックマウスが補体のC5タンパク質の欠陥(C5-/-)をさらに含む方法を提供する。系統129またはFBVのマウスは、補体のC5タンパク質の欠陥を有するマウスの例である。これらの系統は、本発明で用いられるトランスジェニックマウスの作製に有利に用いられる。
【0052】
本発明はまた、組織特異的疾患の免疫病因の役割を研究するための、上記で定義した方法により得ることが可能なマルチキメラマウスの使用に関連する。
本発明はまた、インビボでの組織の分化を研究するための、上記で定義した方法により得ることが可能なマルチキメラマウスの使用に関連する:マルチキメラマウスは、インビボでの、適応免疫系および異種(例えば、ヒト)の別の組織の発達を研究するためのモデルを提供する。
【0053】
上記使用の好ましい実施形態において、マルチキメラマウスは:
-異種の機能的なトランスジェニックMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子;該MHCクラスIおよびクラスII分子は、移植された前駆細胞のハプロタイプと同一の、または異なるハプロタイプに相当し得る、
-トランスジェニックMHCクラスIおよびMHCクラスII分子のみに制限される異種の機能的免疫系、
-異種の機能的組織、
-機能的なマウスTリンパ球、Bリンパ球およびNK細胞の欠乏、および
-マウスMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子の細胞表面発現の欠乏
を含む。
【0054】
上記使用の別の好ましい実施形態において、組織は:肝臓、神経、脂肪、心臓、軟骨、内皮、膵臓、筋肉および皮膚組織からなる群より選択される。
【0055】
本発明はまた、インビボで組織特異的疾患の免疫病因を研究する方法に関連し:
a)上で定義したマルチキメラマウスの組織に病変を誘導する工程と、
b)該マルチキメラマウスの病変組織の免疫応答をいずれの適切な方法により解析する工程とを含むことを特徴とする。
【0056】
前記方法の好ましい実施形態によると、工程a)が、いずれの適切な方法により、マウスキメラに病原性微生物を接種することによって実行される。
【0057】
病原性微生物は、限定することなく:細菌、真菌、ウィルス、寄生虫およびプリオンを含む。細菌は、例えば:ジフテリア菌(C. diphtheriae)、百日咳菌(B.pertussis)、破傷風菌(C. tetani)、インフルエンザ菌(H. influenzae)、肺炎双球菌(S. pneumoniae)、大腸菌(E. Coli)、莢膜桿菌(Klebsiella)、黄色ブドウ球菌(S. aureus)、表皮ブドウ球菌(S. epidermidis)、髄膜炎菌(N. meningiditis)、炭疽菌(B. anthracis)、リステリア菌、トラコーマクラミジア(Chlamydia trachomatis)および肺炎クラミジア(Chlamydia pneumoniae)、リケッチア、A群連鎖球菌(Group A Streptococcus)、B群連鎖球菌、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)、サルモネラ菌、赤痢菌(Shigella)、マイコバクテリア(結核菌(Mycobacterium tuberculosis))およびマイコプラズマを含む。ウィルスは、例えば:ポリオ、おたふくかぜ、麻疹、風疹、狂犬病、エボラ、A、B、C、DおよびE型肝炎、水痘-帯状疱疹、単純ヘルペス1および2型、パラインフルエンザ1、2および3型、ヒト免疫不全ウィルスIおよびII、RSV、CMV、EBV、ライノウィルス、AおよびB型インフルエンザウィルス、アデノウィルス、コロナウィルス、ロタウィルスおよび腸内ウィルスを含む。真菌は、例えば:カンジダ(Candida sp.)(カンジダアルビカンス(Candida albicans))を含む。寄生虫は、例えば:マラリア原虫(熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum))、ニューモシスチスカリニ(Pneumocystis carinii)、リーシュマニア、およびトキソプラズマを含む。
【0058】
前記方法の別の好ましい実施形態によると、工程a)が、いずれの方法により、マウスキメラに腫瘍または自己免疫疾患の誘導原を接種することによって実行される。
腫瘍または自己免疫疾患の誘導原は、当業者に公知である。例えば、ストレプトゾトシンは、自己免疫性糖尿病を誘発するのに用いることができ、DSS(デキストラン硫酸ナトリウム)は、炎症性大腸疾患(IBD;Shintaniら, General Pharmacology, 1998, 31:477-488)を誘発するのに用いることができる。ウレタンもまた、肺腺癌を誘発するのに用いることができる(Steramanら, Am. J. Pathol., 2005, 167:1763-1775)。
【0059】
前記方法の別の好ましい実施形態によると、工程b)は、前記病変組織に発現する抗原に対する体液性応答、ヘルパーT細胞応答または細胞傷害性T細胞応答の存在についてアッセイすることを含む。
抗原に対する免疫応答の存在は、当該技術において公知のいかなる方法によってアッセイされる。
抗原に対する体液性応答の存在は、ELISAによるマウス宿主の血清からの抗原特異的抗体の力価の測定、またはELISPOTによる抗体分泌細胞数の測定によりアッセイされる。
抗原に対するヘルパーT細胞応答の存在は、インビトロでのT細胞増殖アッセイ、ならびにサイトカイン産生の検出のための、ELISPOTまたは細胞間染色およびフローサイトメトリによる解析によりアッセイされる。
抗原に対する細胞傷害性T細胞応答の存在は、インビトロ(Cr51放出)またはインビボ(Barberら, J. Immunol., 2003, 171:27-31)でのCTLアッセイによりアッセイされる。
【0060】
本発明はまた、インビボでの免疫療法剤またはワクチンのスクリーニングの方法に関連し:
-いずれの適切な方法によって、上記で定義したマルチキメラマウスに免疫療法剤またはワクチンを投与する工程と、
-該マルチキメラマウスの組織において、病変を誘導する工程と、
-対照(未処理マウス)との比較により、処理されたマウスにおけるワクチンの免疫防御効果または免疫療法剤の治療効果の存在をアッセイする工程と
を含むことを特徴とする。
【0061】
前記方法の好ましい実施形態によると、疾患は:癌、自己免疫疾患、および感染性疾患からなる群より選択される。癌は、固形腫瘍または白血病であり得る。自己免疫疾患は、例えば自己免疫性糖尿病である。感染性疾患は:ウィルス性肝炎、マラリア、AIDS、クロイツフェルト-ヤコブ病およびEBV随伴性癌からなる群より有利に選択される。
【0062】
本発明の方法は、抗原のマッピングのために、新しい抗原および免疫療法薬剤のスクリーニングのために、ならびにヒトワクチン用の異なる抗原調製物の免疫原性およびヒトでの免疫療法用の異なる薬剤の効果を評価するために用いることができる。
【0063】
本発明の実施は、そうでないと記載しない限り、当該技術の範囲内の、細胞生物学、細胞培養、分子生物学、導入遺伝子生物学、微生物学、組み換えDNA、および免疫学の従来技術を使用する。そのような技術は、文献において十分に説明されている。例えば、Current Protocols in Molecular Biology (Frederick M. AUSUBEL, 2000, Wiley and son Inc, Library of Congress, USA); Molecular Cloning: A Laboratory Manual, 第3版, (Sambrookら, 2001, Cold Spring Harbor, New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press); Oligonucleotide Synthesis (M. J. Gait編, 1984); Mulliら、米国特許第4,683,195号; Nucleic Acid Hybridization (B. D. Harries & S. J. Higgins編, 1984); Transcription And Translation (B. D. HamesおよびS. J. Higgins編, 1984); Culture Of Animal Cells (R. I. Freshney, Alan R. Liss, Inc., 1987); Immobilized Cells And Enzymes (IRL Press, 1986); B. Perbal, A Practical Guide To Molecular Cloning (1984), Methods In ENZYMOLOGY (J. AbelsonおよびM. Simon,編集主任, Academic Press, Inc., New York)のシリーズ, 特に154巻および155巻 (Wuら編) ならびに185巻, "Gene Expression Technology" (D. Goeddel編); Gene Transfer Vectors For Mammalian Cells (J. H. MillerおよびM. P. Calos編, 1987, Cold Spring Harbor Laboratory); Immunochemical Methods In Cell And Molecular Biology (Mayerおよび Walker編, Academic Press, London, 1987); Handbook Of Experimental Immunology, I巻〜IV巻 (D. M. WeirおよびC. C. Blackwell編, 1986);および Manipulating the Mouse Embryo, (Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y., 1986)を参照されたい。
【0064】
本発明で用いられるトランスジェニックマウスは、二重変異体および二重トランスジェニック体が得られるまで、上記で定義した興味対象の変異/導入遺伝子を1つまたはそれより多く有するマウスの継続的な交配、および子孫のスクリーニングをすることにより作製できる。それらは、H-2クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスと、上記で定義したHLA-I+および/またはHLA-II+トランスジェニックマウスとの交配により有利に作製される。前記H-2クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスが、Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-遺伝子型を有することが好ましい。
【0065】
本明細書の開示内容に基づいて、付加的なMHCクラスI/MHCクラスII-トランスジェニック、H-2クラスI/クラスII-KO免疫欠陥マウスを、従来の相同組み換え技術を用いることにより構築することが可能である。例えば、付加的なMHCクラスIトランスジェニックおよび付加的なMHCクラスIIトランスジェニックを、従来の相同組み換え技術を用いることにより構築することが可能である。これらのトランスジェニック体を、上記で定義したH-2クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスと交配することができる。
【0066】
「相同組み換え」は、トランスジェニック動物を作製するために、細胞の予め選択した所望の遺伝子配列に変異を導入するための一般的なアプローチである(Mansourら, Nature, 1998, 336:348-352; Capecchi, M. R., Trends Genet., 1989, 5:70-76; Capecchi, M. R., Science, 1989, 244:1288-1292;,Current Communications in Molecular Biology, Capecchi, M. R. (Capecchiら編)中の, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989), pp. 45-52; Frohmanら, Cell, 1989, 56:145-147)。現在では、マウスのいずれの遺伝子も計画的に変えることができる(Capecchi, M. R., Trends Genet., 1989, 5:70-76 ; Frohmanら, Cell, 1989, 56:145-147)。遺伝子ターゲティングは、選択される遺伝子座のクローン化したDNA配列に所望の変異を導入するための標準的な組み換えDNA技術の使用を伴う。「遺伝子ターゲティング」法を利用するために、興味対象の遺伝子を予めクローン化し、かつイントロン-エクソン境界を決定しなければならない。該方法は、特定の興味遺伝子の翻訳される領域へのマーカー遺伝子(例えば、nptll遺伝子)の挿入をもたらす。このように、遺伝子ターゲティング法の使用は、興味遺伝子の全体の破壊という結果になる。意義深いことに、細胞の遺伝子を変えるための遺伝子ターゲティングの使用は、その遺伝子配列の全体の変更の形成をもたらす。そしてその変異は、相同組み換えを通じて多能性の胚由来幹(ES)細胞のゲノムへと移行される。この変更された幹細胞は、マウスの胚盤胞へマイクロインジェクションされ、そして発生しているマウス胚へ合体させて、キメラ動物へ最後には発達させる。いくつかの場合において、キメラ動物の生殖細胞(germ line cells)は、遺伝子的変更のされたES細胞由来のものであり、かつその変異体の遺伝子型は繁殖を通じて遺伝することができる。
【0067】
本発明で用いられるキメラまたはトランスジェニック動物を、マウスES細胞のようなマウス多能性前駆細胞または同等物であり得る、マウス細胞への1つまたはそれより多いDNA分子の導入により調製し得る(Current Communications in Molecular Biology, Capecchi, M. R. (Robertson, E. J編)中の, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989), pp. 39-44)。該多能性(前駆体またはトランスフェクションされた)細胞は、キメラまたはトランスジェニック動物を作り上げるために、当該技術で既知の様式(Evansら, Nature, 1981, 292:154-156)でインビボにおいて培養することができる。本発明にしたがって、いずれのES細胞も用いることができる。しかしながら、ES細胞の初めての単離物を用いることが望ましい。そのような単離物は、Robertson, E. J.(Current Communications in Molecular Biology, Capecchi, M. R.(編)中の, Cold Spring Harbor Press, Cold Spring Harbor, N.Y. (1989), pp. 39-44)により開示されたCCE細胞株のような胚から直接、またはCCE細胞株からES細胞のクローン化単離(Schwartzbergら, Science, 1989, 246:799-803, この文献は参照により本明細書に取り入れられる)から得ることができる。そのようなクローン化単離は、E. J. Robertsonの方法(Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach, (E. J. Robertson編)中の, IRL Press, Oxford, 1987、この文献と方法は参照により本明細書に取り入れられる)によって成し遂げることができる。そのようなクローン化増殖の目的は、動物への分化のためにより大きい効果を有するES細胞を得ることである。クローンとして選択されたES細胞は、トランスジェニック動物の作製において、前駆細胞株CCEよりも約10倍よりも高い効力を持つ。本発明の組み換え方法の目的のために、クローン化選択は利点を提供しない。クローンとして胚から由来するES細胞株の例は、ES細胞株ABI(hprt+)またはAB2.1 (hprt")である。該ES細胞は、E. J. Robertson(Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach中の(E. J. Robertson編, IRL Press, Oxford, 1987, pp 71-112)、この文献は参照により本明細書に取り入れられる)に記載されるように、(STO細胞(特にSNC4 STO細胞)および/または初代胚性線維芽細胞のような)間質性細胞上に培養されることが好ましい。キメラマウスの作製と解析の方法は、Bradley, A.により開示される(Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach中の (E. J. Robertson編), IRL Press, Oxford, 1987, pp 113-151、この文献は参照により本明細書に取り入れられる)。間質性(および/または線維芽)細胞は、異常なES細胞のクローンの過増殖を排除することに役立つ。最も好ましくは、該細胞を白血球阻害因子(「lit」)の存在下で培養する(Goughら, Reprod. Fertil. Dev., 1989, 1:281-288; Yamamori, Y.ら, Science, 1989, 246:1412-1416)。lifをコードする遺伝子はクローン化されているので(Gough, N. M.ら, 1989, Reprod. Fertil. Dev. 1:281-288)、当該技術において既知の方法により、この遺伝子で間質性細胞を形質転換し、そして培養培地中へlifを分泌する形質転換した間質性細胞上でES細胞を培養することが特に好ましい。
【0068】
上記の特徴に加えて、本発明は、本発明による方法を説明する実施例、および添付図面を参照する以下の記載から明らかになる他の特徴をさらに含む。
【実施例】
【0069】
実施例1:トランスジェニックマウスの作製
1)材料と方法
a)マウス
トランスジェニックマウスは、異なるマウス系統を交配することにより作製した:
- Rag2-/-マウス(Takedaら, Immunity, 1996, 5, 217-228)とγc-/-マウス(DiSantoら, P.N.A.S., 1995, 92, 377-381)との交配により得られたRag2-/-、γc-/-(129背景)。
- Zijlstraら, Nature, 1990, 344, 742-746に記載されるβ2m-/-(C57Bl/6背景)。
- Takedaら, Immunity, 1996, 5, 217-228に記載されるI-Aβb -/-(C57Bl/6背景)。
- HLA-DRA*0101およびHLA-DRB1*0101遺伝子によりコードされるDR1分子を発現する、Altmannら, J. Exp. Med., 1995, 181, 867-875に記載されるHLA-DR1トランスジェニックマウス(DR1+、FVB背景)。
- キメラ単鎖(そのN末端にてヒトβ2mのC末端に15アミノ酸のペプチドリンカーによって連結されるHLA-A2.1のα1-α2ドメイン(HLA-A*0201遺伝子によりコードされる)、H-2 Dbの細胞質ドメインまでのα3)を発現する、Pascoloら, J. Exp. Med., 1997, 185, 2043-2051に記載されるHLA-A2.1トランスジェニックマウス。
【0070】
より明確には、Rag2-/-、γc-/-マウス(129背景)をI-Aβb -/-(C57Bl/6背景)と交配し、該F1子孫をβ2m-/-(C57Bl/6背景)、HLA-DR1トランスジェニックマウス(DR1+、FVB背景)およびHLA-A2.1トランスジェニックマウスと連続的に交配した。I-Aαb+(マウスMHCクラスII-/-表現型に必須)およびC5-/-子孫(129およびFVB系統の両方が構成的にC5-/-)は、各交配から選択した。
【0071】
b)遺伝子型決定
各子孫の遺伝子型は、標準的なプロトコルおよび異なる遺伝子のための以下のプライマーを用いる、尾のDNA へのPCR法により決定された。
【0072】
【表1】

【0073】
c)フローサイトメトリ解析
ヒトPBL、C57Bl/6、Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-A2+/+、HLA-DR1+/+、Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-A2+/+、Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-DR1+/+、およびRag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-マウスの脾臓細胞を引き裂き、そして抗FcR抗体とともにインキュベートした。それから、細胞を0.05 %アジ化物、2% FCS、および適切な蛍光色素でコンジュゲートした抗HLA-DR/DP/DQ、抗HLA-A/B/C、抗H-2 IAb、抗H-2Db + 抗Kb、抗マウスCD19、抗マウスCD3、抗マウスNK1.1モノクローナル抗体(mAb)を含むPBS中で染色した。染色後、細胞を2回洗浄し、そして同じ緩衝液に再懸濁した。標識は、CellQuestソフトウェアを有するLSRフローサイトメータで解析された。
【0074】
2)結果
4つのマウス系統が得られた:
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-A2+/+、HLA-DR1+/+
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-A2+/+
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/-、HLA-DR1+/+、および
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb-/--。
4つのタイプのマウスにおける、マウスT、B(図1A)およびNK細胞(図1B)の不在は、蛍光活性化細胞選別により評価された。HLA-A2.1、H-2 Kb/Db、HLA-DR1およびH-2 IAb分子の細胞表面発現は、フローサイトメトリにより評価された。内因性H-2クラスIおよびクラスII分子の細胞表面発現は、該4つのマウスにおいて存在しなかった(図2Cおよび2D)。同様のレベルのHLA-A2.1発現(図2B)が、HLA A2.1 /HLA-DR1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスおよびHLA A2.1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスにおいて観察されたが、HLA-DR1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KOマウスおよびH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスにおいては、HLA-A2.1が存在しなかった。同様のレベルのHLADR1発現(図2A)が、HLA A2.1 /HLA-DR1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスおよびHLA-DR1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスにおいて観察された一方で、HLA A2.1トランスジェニックH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスおよびH-2 クラスI-/クラスII-KO免疫欠陥マウスにおいては、発現は検出されなかった。しかしながら、トランスジェニックマウスにおいてHLA-DR1および-A2分子は、ヒトPBLにおいてよりも低かった。
【0075】
実施例2:ヒト/マウス キメラの作製と特徴決定
1)材料と方法
a)細胞株
H9ヒト胚性幹細胞株は、WICELLから得た。H9細胞は、WICELLの推奨に従って、0.5 % グルタミン(GIBCO)、1 %非必須アミノ酸(GIBCO)、20 % Knockout(商標)血清代替物 (KSR;(GIBCO)、4 ng/ml bFGF(INVITROGEN)および100 μM β-メルカプトエタノール(GIBCO)を補ったF12培地(GIBCO)中において、継代23〜39回で使用され、かつ放射線照射されたMEF(マウス胚性線維芽)上で維持された。2つのOP-9マウス骨髄間質性細胞株が用いられた:「OP-9パスツール研究所」と呼ばれる1つは、標準的な手順により得られ、他方はATCC(#CRL-2749(商標))から得た。どちらのOP-9細胞株も、1 % グルタミンおよび20 %合成(defined)血清(HYCLONE)を補ったα-MEM(SIGMA)を含むOP-9培地中で維持された。
【0076】
b)CD34+細胞へのH9分化
手順は、Voldyanikらの記載から改変した(Blood 2005, 105, 617-626)。OP-9細胞は、集密になるまで15 cm直径ペトリディッシュ中に培養し、そして半分の培地を交換し、該細胞をさらに4日間培養した。この時、培地を100μM モノチオグリセロール(SIGMA)を補ったOP-9培地50 mlに取り換えた。コラゲナーゼ処理された100〜200万個の未分化H9細胞群を、OP-9層を含むペトリディッシュに加えた。半分の培地を4日目に交換し、そしてその後2日ごとに交換した。異なる日に、共培養物の一定量をコラゲナーゼIV(INVITROGEN)で5分間処理し、続いて15分間のトリプシン-EDTA(GIBCO)処理をした。処理された細胞を、APCコンジュゲート抗ヒト段階特異的胚性抗原4(SSEA-4;R&D SYSTEM)mAbおよびPEコンジュゲート抗CD34 (STEMCELL、クローン8G12) mAbを用いて共染色した。細胞は、FlowJoソフトウェアとインターフェイスで接続されたCyanサイトメータ(DAKO)で解析した。
【0077】
c)免疫欠陥宿主のH9由来CD34+細胞との生着
H9/OP-9共培養の9日後、単一細胞懸濁物を5分間のコラゲナーゼIV(INVITROGEN)消化と続く15分間のトリプシン-EDTA(GIBCO)消化により作製した。CD34+画分は、製造者の推奨に従って、ダイレクトCD34前駆細胞単離キット(MYLTENYI BIOTECH)を用いる抗CD34磁性ビーズとのインキュベーションと、続くAutomacsソータ(MYLTENYI BIOTECH)での選別の後に濃縮された。該濃縮物は、30%のCD34+ H9細胞であった。6匹のRAG-/-、γc-/-、mβ2m-/-、I-Aβ-/-、C5-/-、HLA-DR1+、HLA-A2+ 新生マウスに、4 Gy/分でセシウム137源から、致死に近いと滴定される線量の3 Gyの放射線を4時間の間隔で2回照射した。20μlのPBS中の該細胞(3.104個のCD34+細胞に相当する計105個の細胞)を、以前に記載された(Traggiaiら, Science, 2004, 304, 104-107)ように、30ゲージの針を用いて、12時間後に肝臓内に生着させた。6週間後にマウスを犠牲にし、そして骨髄、脾臓および肝臓の単一細胞懸濁物を調製し、そしてFITCコンジュゲート抗CD45 mAb(BECTON DICKINSON)を用いて、ヒト造血細胞の存在についてフローサイトメトリで解析した。さらに、異なるリンパ系の再構成は、T(CD3+ CD4+ およびCD8+)、B(CD19)、NK(CD16)、DC(CD11c+ CD123+/-)およびマクロファージ(CD11b+)のフローサイトメトリ検出により解析された。各サンプルについて、少なくとも3.106イベントをLSR(BECTON DICKINSON)またはFlowJoソフトウェアとインターフェイスで接続されたCyanサイトメータ(DAKO)のどちらかで取得した。解析は、FSC/SSCの基準によるデブリスおよび赤血球を除く、全ての細胞について実行された。
【0078】
2)結果
a)全てのOP-9細胞がCD34+前駆体へのhES細胞分化を等しく支援するわけではない
H9ヒト胚性幹(hES)細胞をCD34+造血前駆体へ分化させるために、以前に記載(Voldyanikら, Blood 2005, 105, 617-626)されたように、未分化H9細胞をOP-9マウス骨髄(BM)由来間質性細胞株と共培養した。2つの異なるOP-9細胞株を用いた。両方のOP-9細胞株を用いるOP-9との共培養において、CD34+ヒト細胞をフローサイトメトリ細胞により確認した(図3Bおよび3C)。予期していたように、両方の細胞株と一緒にした場合、H9由来CD34+細胞は、未分化のマーカーSSEA-4を発現しなかった(図3Bおよび3C)。それにもかかわらず、CD34+を、第1のOP-9細胞株(パスツール研究所;図3B)を用いる8日目においては検出できなかったが、第2のOP-9細胞株(ATCC;図3C)を用いる8日目においては、第1のOP-9細胞株についての11日目(0.37%;図3B)よりも高いパーセンテージ(1.49%)で、それらはすでに産生されていた。対照として、MEF細胞とOP-9細胞のどちらも、用いた抗CD34 mAbおよびSSEA-4 mAbで標識しなかった(図3A)。そして、両方のOP-9細胞株を用いるH9分化の動態を比較した(図4Aおよび4B)。第2のOP-9細胞株を用いるH9細胞の分化は、より急速なだけでなく(14日目(図4A)に対して9日目(図4B)でピークに達した)、より効率的に起こった(0.69%(図4A)に対して5.41%(図4B))。CD34+細胞へのH9細胞の進行的分化は、8日目における未分化SSEA-4+ H9細胞のほとんど完全な喪失(0.8%;図4B)と相関した。このように、これらの結果より、H9 hES細胞をCD34+ 細胞へと分化させる、OP-9細胞の能力を確認した。さらに、これらの結果は、全てのOP-9細胞が、CD34+細胞へのhES細胞の分化を等しく支援するのではないことも示した。
【0079】
b)RAG-/-、γc-/-、mβ2m-/-、I-Aβ-/-、C5-/-、HLA-DR1+、HLA-A2+ 免疫欠陥宿主のH9由来CD34+の生着
そして、少数のH9由来CD34+がRAG-/-、γc-/-、mβ2m-/-、I-Aβ-/-、C5-/-、HLA-DR1+、HLA-A2+ 免疫欠陥宿主に生着する能力を評価した。これのために、H9細胞におけるCD34+発現を、OP-9細胞との共培養後の異なる時間においてモニターした。9日目において、パーセンテージが6%付近に達したとき(図4B)、該共培養細胞を貯留し、そしてCD34+細胞の磁気的選別により濃縮した。6匹の放射線照射された免疫欠陥の新生マウスの肝臓内に、マウス1匹当たり3.104個のCD34+細胞に相当する105個のH9/OP-9細胞を注射した。6週間後、生着されたマウスの異なる器官におけるヒト造血CD45+細胞の存在を、フローサイトメトリによって解析した。結果の統計学的有意性について、各サンプルにおいて多数(少なくとも3.106個の細胞)が解析された(図5)。図5Aにおいて示したように、非生着の対照(0.01%)と比較して、ヒトCD45+細胞による生着の有意なレベルが、試験された全ての宿主(0.298%±0.121)のうち、移植を受けた免疫欠陥宿主の脾臓(0.54%および0.33%)において見られた。以前に観察したように、CD45発現のレベルは、H9由来造血ヒト細胞では、ヒト末梢臍帯血細胞よりも低かった。CD45+の有意なパーセンテージは、より低いレベルではあるが、キメラの骨髄においても見られた(非生着マウスにおける9.44 x 10-3に対して0.013%)。生着の有意なレベルが、6匹中2匹のキメラについて観察された(0.013%図5Cおよび0.011%)。CD45+細胞は、マウスの肝臓において検出されなかった。
【0080】
重要なことに、受容マウスの極度に重症の免疫欠陥(T、BおよびNK細胞がなく、補体タンパク質C5がなく、致死に近い放射線照射)および注射されたCD34+細胞の純度が30%だけである事実にもかかわらず、マウスにおいて奇形腫が検出されず、マウスは移植後の少なくとも6週間まで健康なままであった。これは、H9/OP-9共培養中でSSEA-4+未分化細胞のパーセンテージが進行的に減少するので、それらは共培養の8日目までにほとんど消失する(0.8%付近)という事実により説明し得る。さらに、この観察は、OP-9層上でのH9細胞分化の状況が本研究で用いられたものである場合は少なくとも、免疫欠陥マウスへの移植前のCD34+細胞の徹底的な細胞選別は、必ずしも必要ではないことを指摘する。
【0081】
これらの結果は、OP-9細胞と共培養されたH9 hES細胞から規定されるCD34+は、肝臓に生着でき、かつリンパ系のない宿主の脾臓と骨髄の両方において少なくとも6週間はCD45+細胞として移動および生存できることを示した。放射線照射されたNOD/SCIDマウスで得た結果とは反対に(Wangら, J. Exp. Med., 2005, 201, 1603-1614)、本発明のRAG-/-、γc-/-、mMHC-/-、HLA+、C5-/-マウスへのヒト胚性幹細胞(hES細胞)由来CD34+の肝臓内への注射は、いかなる死も引き起こさなかっただけではなく、トランスジェニックマウス受容者の骨髄および脾臓へのヒトCD45+細胞の移動を引き起した。この違いは、本発明のマウスのC5欠陥もしくはhES細胞からのCD34+細胞の分化の異なる方法、またはその両方によるのであろう。遅延した発現および/またはそれらの内皮分化のため(Wangら, Immunity, 2004, 21, 31-41)、用いた共培養の時間において、CD34+細胞は、CD45+が発現しているとしてはほとんど記載されなかった(Voldyanikら, Blood 2005, 105, 617-626)。このことは、造血の潜在能力を示す、生着されたCD34+ CD45-細胞が、マウスでの生着においてインビボでCD45+細胞に分化できることを意味する。あるいは、注射されたCD34+ CD45+は、ほとんど広がることができない。両方の仮説は、CD34+ CD45+およびCD45-の選別ならびに移植後の両方のヒトサブセットの運命の比較により試験できる。
【0082】
生着のレベルは、臍帯血(CB)CD34+を用いる以前に観察した生着(Ishikawaら, Blood, 2005, 106, 1565-1573)よりも明らかに低い。それにもかかわらず、全てのhES由来CD34+細胞は、CB CD34+細胞と比較して、生着、生存およびCD45+造血前駆体への分化の能力について同等でないだろう。これは、それらの「未成熟さ」およびそれらが内皮性に対する造血性の完全な分化潜在能力を未だに保存しているという事実によるのだろう。ヒト胎児CD34+前駆体を用い、かつRag-/-、γc-/-マウスの効率のよいヒト造血系再構成を導く研究において(Gimenoら, Blood, 2004, 104, 3886-3893)、CD34+サブセットはまた、造血前駆体の点から見ると臍帯血ほどに純粋でないだろう。しかしながら、これらの場合において、かなり多数のCD34+ドナー細胞(0.5〜2.106個)が生着した。
【0083】
それゆえ、マウス1匹当たりにより多くのhES由来CD34+が、CFUを用いてインビトロ試験で示されたように(Galicら, Proc.Natl. Acad. Sci. USA, 2006, 103, 11742-11747;Voldyanikら, Blood 2005, 105, 617-626)、十分なH9由来胚性幹細胞が生着し、かつ骨髄系およびリンパ系へとさらに分化することを確実にするために必要とされ得る。生着率を改善するためのさらなる実験が目下、進行中である:1- より多数のH9由来CD34+細胞(マウス当たり1〜2.106個)の注射;2- OP-9層上での共培養の異なる時間の後の注射、3- より長時間の再構成、4- hES細胞の遺伝子改変、特にSTAT5の条件的発現、これはES/OP-9共培養物由来のマウス造血前駆体からのインビトロおよびインビボでの造血系への分化を加速させる(Kyba, M.およびDaley, G.Q., Experimental hematology, 2003, 31, 994-1006);5- 異なる経路の注射(肝臓内に対する静脈内)。
【0084】
実施例3:ヒト/マウス マルチキメラの作製および特徴決定
CD34+細胞は、実施例2に記載のように、ヒト胚性幹細胞から得た。
肝細胞前駆体は、N;Lavonら, Differenciation, 2004, 72:230-238に記載の方法によって、ヒト胚性幹(ES)細胞から得た。簡単に言えば、肝細胞特異的プロモーターの調節下にあるレポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質)をヒトES細胞に導入した。インビトロでの分化(胚体の形成)において、緑色蛍光細胞をFacs選別した(COULTERからのFacsAriaまたはMoFlow Facsソーター)。細胞の機能(尿素合成)および遺伝子発現(AFP、ALB、APOA4、APOB、APOH、FGA、FGG、FGB、AAT)を解析した。
【0085】
β島前駆体は、G.K.C. Brolenら, Diabetes, 2005, 54:2867-2874に記載の方法の改変版である方法によって、ヒトES細胞から得た。簡単に言えば、β島特異的プロモーター(Pdx1またはFoxa2またはIsl1)による調節下にあるレポーター遺伝子(緑色蛍光タンパク質)をヒトES細胞に導入した。ヒトESは、インビトロで34日間まで分化させた(胚体の形成)。Foxa2+、Pdx1+、Isl1+細胞が、免疫蛍光解析によって評価されたように、dhES細胞コロニーの周辺の範囲において非常に多数となったときに、緑色蛍光細胞をFacs選別した(COULTERからのFacsAriaまたはMoFlow Facsソーター)。
【0086】
生まれた日において、新生マウスに、致死量未満であると力価決定される線量の、4 Gy/分でセシウム137源から2 Gyの放射線を4時間の間隔で2回照射した。放射線照射の6時間後、造血(CD34+細胞;25μl PBS中に1〜2.106個)および肝臓の非造血前駆体のヒト緑色細胞(25μl PBS中に1〜2.106個)の両方は、29ゲージの針を用いて肝臓へ同時に注射(i.h.)された。
【0087】
移植の3ヵ月後、末梢血細胞および血漿を得るためにマウスの尾静脈から採血した。何匹かのマウスをそこで犠牲にし、器官から単一細胞懸濁物を調製した。該細胞を、適切な蛍光色素(BD、COULTER)とコンジュゲートした、CD45、CD19、CD3、CD4またはCD8、CD11cに対する抗体を用いるフローサイトメトリ(LSRまたはfacsanto、COULTER、BD)により解析した。肝臓での生着について、緑色細胞の存在を機能(代謝および解毒酵素)とともにフローサイトメトリにより評価した。
【0088】
実施例4:疾患の免疫病変の研究のためのマルチキメラマウスの使用
ヒト/マウス キメラはHIV感染のモデルとして、特に対照および/またはこの感染の病変におけるCD8 T細胞の役割を研究するために使用される。
実施例2の記載のように、ヒト免疫系により既に再構成されたヒト/マウス キメラの腹腔内に、HIVウィルス単独(ウィルス株または初代単離物)または感染したPHA-芽性同種T細胞のいずれかを注射した。血液サンプルを感染後の異なる時点において採取し、フローサイトメトリによりヒトCD4およびCD8 T細胞のパーセンテージ、ならびに血漿のウィルス量(プロウィルス性DNAおよびウィルス性RNA)の両方をモニターした。
【0089】
感染キメラにおける抗ウィルス性T細胞応答を、以下のアッセイにおいて、評価し、そして非感染キメラからのT細胞により得られる応答と比較した:
- キメラの脾臓およびリンパ節からの抗ウィルス性T細胞の広がりを、HLA-DR1またはHLA-A2に拘束される異なるHIVペプチド複合体の四量体を用いるフローサイトメトリにより測定した、
- HLA-DR1またはHLA-A2に拘束される異なるHIVペプチドによる脾臓およびリンパ節T細胞のインビトロでの再刺激後に、ELISPOTまたはフローサイトメトリ(細胞間染色法)を用いて、γIFN、αTNFおよびIL-2の産生を評価した、
- インビトロでの51Cr放出アッセイ、およびHLA-A2に拘束される異なるHIVペプチドを載せるか、または載せないCFSE標識B細胞標的のインビボでの注射によって、抗ウィルス性細胞毒性を測定した。
【0090】
HIV感染中のCD8 T細胞の役割を、CD8 T細胞の消耗および注入により評価した:
- 抗ヒトCD8抗体の注射を用いて、感染キメラのCD8 T細胞を消耗させた。該消耗を血液サンプルからフローサイトメトリにより確認した。そして、CD4 T細胞のパーセンテージならびに脾臓およびリンパ節のウィルス量を、CD8を消耗したものとCD4を十分に持ったHIV感染キメラとの間で比較した、
- HIV感染キメラからの同系CD8 T細胞を、CD8 T細胞消耗HIV感染キメラへ養子的に移行した。CD4 T細胞のパーセンテージならびに脾臓およびリンパ節のウィルス量を、CD8を注射したものとCD8を注射しなかったHIV感染キメラとの間で比較した。
【0091】
HIV感受性に対するCD8 T細胞の役割を、HIVを注射された、CD8を消耗したものおよびCD8を十分持ったキメラで評価した。増殖性感染を評価し、そして注射後の異なる時点においてCD8を消耗したものとCD8を十分に持ったキメラとの間で比較した。それゆえに、血液、胸腺、脾臓およびリンパ節細胞を、PHA刺激の前後において、ウィルスの存在についてRT-PCR法(ウィルス量)により、およびプロウィルスについてPCR法(プロウィルス量)により試験した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
いずれの適切な手段により、異種の前駆細胞をトランスジェニックマウスへ移植する工程を含み:
a)該前駆細胞が、造血および非造血前駆体を含み、
b)トランスジェニックマウスが:
b1)マウスTリンパ球、Bリンパ球およびNK細胞の欠陥、
b2)マウスMHCクラスIおよびMHCクラスII分子の欠陥、ならびに
b3)該前駆細胞との同種からの機能的MHCクラスI導入遺伝子および/または機能的MHCクラスII導入遺伝子
を含む表現型を有する
ことを特徴とする、マルチキメラマウスの作製方法。
【請求項2】
前駆細胞が、幹細胞から得られることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前駆細胞が、同系であることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前駆細胞が、異なるMHCハプロタイプのドナーからであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の方法。
【請求項5】
異なるハプロタイプが、異種の遺伝的多様性を反映することを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前駆細胞が、ヒト前駆細胞であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
造血前駆細胞が、ヒトCD34+細胞であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
非造血前駆細胞が:肝細胞、神経細胞、脂肪細胞、筋細胞、軟骨細胞またはメラニン形成細胞の前駆体、および内皮、グリアまたは膵細胞の前駆体からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
造血または非造血前駆体が、興味対象のオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドによって遺伝子的に改変されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
造血前駆体および非造血前駆体が、同時に移植されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
造血前駆体および非造血前駆体が、逐次的に移植されることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
造血前駆体および非造血前駆体が、マウスの同じ部位に移植されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
造血前駆体および非造血前駆体が、マウスの異なる部位に移植されることを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
b1)で定義したトランスジェニックマウスの欠陥が、Rag2遺伝子の欠陥および共通受容体γ鎖遺伝子の欠陥に起因することを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
トランスジェニックマウスのマウスMHCクラスI分子の欠陥が、β2-マイクログロブリン遺伝子の欠陥に起因することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
トランスジェニックマウスのマウスMHCクラスII分子の欠陥が、H-2b-Aβ遺伝子の欠陥に起因することを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
トランスジェニックマウスの異種のMHCクラスIおよび/またはクラスII導入遺伝子が、ヒトHLAクラスIおよび/またはHLAクラスII導入遺伝子であることを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
HLAクラスI導入遺伝子がHLA-A2導入遺伝子であり、HLAクラスII導入遺伝子がHLA-DR1導入遺伝子であることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
トランスジェニックマウスが:
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-A2+/+、HLA-DR1+/+
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-A2+/+、および
- Rag2-/-、γc-/-、β2m-/-、I-Aβb -/-、HLA-DR1+/+
からなる群より選択される遺伝子型を有することを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
トランスジェニックマウスが、補体のC5タンパク質の欠陥をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法により得ることができるマルチキメラマウスが:
- 異種の機能的なトランスジェニックMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子、
-トランスジェニックMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子のみで拘束される、異種の機能的な免疫系、
- 異種の機能的な組織、
- 機能的なマウスTリンパ球、Bリンパ球、NK細胞の欠乏、ならびに
- マウスMHCクラスIおよびMHCクラスII分子の細胞表面発現の欠乏
を含むことを特徴とする、インビボでの組織分化の研究のためのマルチキメラマウスの使用。
【請求項22】
請求項1〜20のいずれか1項に記載の方法により得ることができるマルチキメラマウスが:
- 異種の機能的なトランスジェニックMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子、
-トランスジェニックMHCクラスIおよび/またはMHCクラスII分子のみで拘束される、異種の機能的な免疫系、
- 異種の機能的な組織、
- 機能的なマウスTリンパ球、Bリンパ球およびNK細胞の欠乏、ならびに
- マウスMHCクラスIおよびMHCクラスII分子の細胞表面発現の欠乏
を含むことを特徴とする、組織特異的疾患の免疫病因の研究のためのマルチキメラマウスの使用。
【請求項23】
マルチキメラマウスが、ヒト前駆細胞の移植により得たヒト/マウス キメラであることを特徴とする、請求項21または請求項22に記載の使用。
【請求項24】
組織が:肝臓、神経、脂肪、心臓、軟骨、内皮、膵臓、筋肉および皮膚組織からなる群より選択されることを特徴とする、請求項21〜23のいずれか1項に記載の使用。
【請求項25】
a)請求項22または請求項23で定義したマルチキメラマウスの組織に病変を誘導する工程と、
b)いずれの適切な手段により、該マルチキメラマウスにおける病変組織に対する免疫応答を解析する工程と
を含むことを特徴とする、インビボで組織特異的疾患の免疫病因を研究する方法。
【請求項26】
工程a)が、いずれの適切な手段により、マウスキメラに病原性微生物を接種することによって実行されることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
工程a)が、いずれの適切な手段により、マウスキメラに腫瘍または自己免疫疾患の誘導原を接種することによって実行されることを特徴とする、請求項25に記載の方法。
【請求項28】
工程b)が、前記病変組織に発現する抗原に対する体液性応答、ヘルパーT細胞応答または細胞傷害性T細胞応答の存在についてアッセイすることを含むことを特徴とする、請求項25〜27のいずれか1項に記載の方法。
【請求項29】
- いずれの適切な方法により、請求項22または請求項23で定義したマルチキメラマウスに免疫療法剤またはワクチンを投与する工程と、
- 該マルチキメラマウスの組織において、病変を誘導する工程と、
- 未処理マウスの対照との比較により、処理されたマウスにおけるワクチンの免疫防御効果または免疫療法剤の治療効果の存在についてアッセイする工程と
を含むことを特徴とする、インビボでの免疫療法剤またはワクチンのスクリーニングの方法。
【請求項30】
前記疾患が:癌、自己免疫疾患、および感染性疾患からなる群より選択されることを特徴とする、請求項25〜29のいずれか1項に記載の方法。
【請求項31】
前記自己免疫疾患が、糖尿病であることを特徴とする、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記感染性疾患が:ウィルス性肝炎、マラリア、AIDS、クロイツフェルト-ヤコブ病およびEBV随伴性癌からなる群より選択されることを特徴とする、請求項30に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2009−542252(P2009−542252A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−519006(P2009−519006)
【出願日】平成19年7月13日(2007.7.13)
【国際出願番号】PCT/IB2007/003055
【国際公開番号】WO2008/010099
【国際公開日】平成20年1月24日(2008.1.24)
【出願人】(501474748)インスティティ・パスツール (27)
【氏名又は名称原語表記】INSTITUT PASTEUR
【住所又は居所原語表記】28,rue du Docteur Roux,F−75724 Paris Cedex 15 FRANCE
【出願人】(502205846)サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィク (154)
【出願人】(509013530)ユニヴェルシテ パリ デカルト (2)
【氏名又は名称原語表記】UNIVERSITE PARIS DESCARTES
【住所又は居所原語表記】12 rue de l’Ecole de Medecine,F−75006 Paris,FRANCE
【Fターム(参考)】