説明

マルチギャップ型回転電機

【課題】渦電流による損失を低減して高出力化および高効率化を実現できるマルチギャップ型モータ1を提供する。
【解決手段】ステータコアは、ロータの径方向外側に配置される外側コア6と、ロータの径方向内側に配置される内側コア7と、ロータの軸方向一端側に配置される側面コアとで構成される。側面コアは、径方向の外側と内側とに分断されて、外側コア6の軸方向一端側に連接され、且つ、ロータの軸方向端面と対向する外側ロータ対向部(外側ティース8b)を有する側面外コア8と、内側コア7の軸方向一端側に連接され、且つ、ロータの軸方向端面と対向する内側ロータ対向部(内側ティース9b)を有する側面内コア9とで構成され、それぞれ電磁鋼板を積層して形成される。この側面外コア8と側面内コア9は、外側ロータ対向部の内周端と内側ロータ対向部の外周端との間にギャップを有して径方向に対向配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、車両用の電動機や発電機に用いて好適なマルチギャップ型回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来技術として、特許文献1に記載されたダブルステータ型モータがある。
このダブルステータ型モータは、ロータディスクを介して回転軸に連結される環状のロータと、このロータの径方向内側に配置される内ステータと、ロータの径方向外側に配置される外ステータとを有し、ロータと内外ステータとの間で径方向にダブルギャップを形成することにより、シングルステータ型モータと比較して、高トルクを発生することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−282331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、更なる高出力を考えた場合に、最も簡素な方法として、ギャップの多面化が考えられる。すなわち、ロータと内外ステータとの間に形成される径方向のギャップに加えて、ロータの軸方向一端側に側面ステータを配置して軸方向ギャップを形成することにより、三面ギャップとする方法が考えられる。
しかし、これまでは、上記のようなマルチギャップ構造を採用していないのが実情である。その主な理由としては、側面ステータの鉄心を通常の積層鋼板を用いて構成した場合に、積層方向に流れる磁束によって積層面内に渦電流が発生するため、損失が増大して出力を著しく低下させてしまうことにある。
【0005】
また、損失を低減する方法としては、電気的に絶縁コーティングが施された軟磁性粉末を加圧成形した、いわゆる圧粉磁心を側面ステータの鉄心材料として用いる方法が考えられる。しかし、圧粉磁心は、磁気特性が電磁鋼板より劣るために出力が低下すること、製造コストが増加すること、機械的に脆く信頼性に欠けること等、実用には解決すべき多くの課題がある。
本発明は、上記事情に基づいて成されたもので、その目的は、渦電流による損失を低減して高出力を得ることが可能なマルチギャップ型回転電機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(請求項1の発明)
本発明のマルチギャップ型回転電機は、回転軸に連結されて回転軸と一体に回転する環状のロータと、このロータの径方向外側にギャップを有して配置される外側コア、ロータの径方向内側にギャップを有して配置される内側コア、および、ロータの軸方向一端側にギャップを有して配置される側面コアによって構成されるステータコアと、このステータコアに巻装されるステータコイルとを有し、側面コアは、外側コアの軸方向一端側に連接される側面外コアと、内側コアの軸方向一端側に連接される側面内コアとで構成され、側面外コアは、外側コアの内周端より径方向の内側に突き出て、軸方向にロータの外周側軸方向端面と対向する外側ロータ対向部を有し、側面内コアは、内側コアの外周端より径方向の外側に突き出て、軸方向にロータの内周側軸方向端面と対向する内側ロータ対向部を有し、側面外コアと側面内コアは、外側ロータ対向部の内周端と内側ロータ対向部の外周端との間にギャップを有して径方向に対向配置されていることを特徴とする。
【0007】
上記の構成では、ロータと内側コアおよび外側コアとの間に形成される内外二つの径方向ギャップに加えて、ロータと側面コアとの間に形成される軸方向ギャップが追加されるため、トルクを発生する面積が増加して、高出力化を実現できる。
また、側面コアは、外側コアに連接される側面外コアと、内側コアに連接される側面内コアとに分断されているので、積層鋼板によって構成される側面コアの面内渦電流(側面外コアと側面内コアとを跨ぐ大きな渦電流ループ)を無くすことができる。これにより、加工性、強度、磁気特性、およびコスト等の点で優れる積層鋼板を用いて側面コアを構成しても、渦電流による損失を低減できるので、高出力および高効率なマルチギャップ型回転電機を提供できる。
【0008】
(請求項2の発明)
請求項1に記載したマルチギャップ型回転電機において、側面外コアは、外側ロータ対向部の内周面に開口する複数のスロットが周方向に等間隔に形成されて、周方向に隣合うスロットとスロットとの間にそれぞれ外側ティースを有し、側面内コアは、内側ロータ対向部の外周面に開口する複数のスロットが周方向に等間隔に形成されて、周方向に隣合うスロットとスロットとの間にそれぞれ内側ティースを有し、外側ロータ対向部には、外側ティースの内周端に開口して径方向の外側へ延びる1つまたは複数のスリットが形成され、内側ロータ対向部には、内側ティースの内周端に開口して径方向の内側へ延びる1つまたは複数のスリットが形成されていることを特徴とする。
上記の構成では、外側ティースおよび内側ティースにそれぞれスリットを形成しているので、外側ティースおよび内側ティースの先端部分で局所的に発生する渦電流を小さくできる。これにより、渦電流損を更に低減できるため、より高出力化かつ高効率化を図ることができる。
【0009】
(請求項3の発明)
請求項2に記載したマルチギャップ型回転電機において、外側ティースに形成されるスリットは、外側ティースの内周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成され、内側ティースに形成されるスリットは、内側ティースの外周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成されていることを特徴とする。 本発明では、外側ティースに形成されるスリットおよび内側ティースに形成されるスリットをそれぞれテーパ状とすることで、プレスによるスリットの加工が容易となる。
また、外側ティースおよび内側ティースは、それぞれ根元が太く、先端に向かって次第に細くなっているため、外部から伝わる振動や磁気吸引力による振動を抑制できる。その結果、ギャップ長の変動による性能の低下、繰り返し振動による強度的劣化、および騒音等を抑えることができる。
【0010】
(請求項4の発明)
請求項2または3に記載したマルチギャップ型回転電機において、ロータの軸方向端面と対向する外側ティースの対向面積は、外側ティースの周方向幅と外側ティースの軸方向幅とを乗算して求められる面積に対し50〜100%の範囲に設定され、ロータの軸方向端面と対向する内側ティースの対向面積は、内側ティースの周方向幅と内側ティースの軸方向幅とを乗算して求められる面積に対し50〜100%の範囲に設定されていることを特徴とする。
上記の構成によれば、磁気飽和による性能低下および不要な磁路断面による渦電流損の増大を防ぐことができ、より高出力化および高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の回転電機を適用したモータの全体構造を示す断面図である。
【図2】(a)ステータコアの断面図、(b)ステータコアの平面図である。
【図3】ステータコアの一部を示す斜視図である。
【図4】ステータの断面図である。
【図5】ステータコイルの変形例を示すステータの断面図である。
【図6】ステータコアのティース形状を示す平面図である。
【図7】ティース形状の変形例を示す平面図である。
【図8】ティース形状の変形例を示す平面図である。
【図9】一体型側面コアと分離型側面コアとで渦電流損の大きさを測定したシミュレーション結果の比較図である。
【図10】ステータコアの一部を拡大した斜視図である(実施例2)。
【図11】(a)断面比60%のティース形状を示す平面図、(b)断面比80%のティース形状を示す平面図である。
【図12】ティースの断面比とトルク残存率との関係をグラフにした図面である。
【図13】(a)側面外コアと側面内コアとをブリッジによって連結したステータコアの断面図、(b)同ステータコアの平面図である(実施例3)。
【図14】ステータコアの一部を示す拡大図である(実施例3)。
【図15】側面外コアと側面内コアとを連結部材によって連結した構成を示すステータの断面図である(実施例4)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態を以下の実施例により詳細に説明する。
【実施例】
【0013】
(実施例1)
実施例1では、本発明のマルチギャップ型回転電機を、自動車のエンジンと変速機との間に配設されるエンジン直結型モータに適用した一例を説明する。
このモータ1は、図1に示す様に、エンジンのクランク軸2にロータディスク3を介して連結される環状のロータ4と、このロータ4の外周側と内周側および軸方向の一端側にそれぞれギャップを有して配置されるステータコア(後述する)と、このステータコアに巻装されるステータコイル(後述する)とで構成される。
ロータ4は、例えば、複数のセグメントを円環状に連結したコアプレートを積層して形成される積層コア4aと、この積層コア4aの軸方向一端面に連結される端面コア4bとで構成され、ロータディスク3にボルト5等で固定される。
【0014】
ステータコアは、ロータ4の径方向外側に配置される外側コア6と、ロータ4の径方向内側に配置される内側コア7と、ロータ4の軸方向一端側に配置される側面コア8、9とで構成される。
外側コア6は、円環状に打ち抜かれた電磁鋼板を積層して形成され、図2(b)に示す様に、内周面に複数のスロット6aが形成されている。このスロット6aは、図3に示す様に、外側コア6の内周面に開口して、周方向に等間隔に形成され、周方向に隣合うスロット6aとスロット6aとの間にティース6bが設けられている。
内側コア7は、円環状に打ち抜かれた電磁鋼板を積層して形成され、図2(b)に示す様に、外周面に複数のスロット7aが形成されている。このスロット7aは、図3に示す様に、内側コア7の外周面に開口して、周方向に等間隔に形成され、周方向に隣合うスロット7aとスロット7aとの間にティース7bが設けられている。なお、本実施例では、外側コア6のスロット数と内側コア7のスロット数とが同数に設定されている。
【0015】
側面コア8、9は、図2(a)に示す様に、径方向の外側と内側とに分断されて、外側コア6の軸方向一端側に連接される側面外コア8と、内側コア7の軸方向一端側に連接される側面内コア9とを有し、それぞれ電磁鋼板を積層して形成される。
側面外コア8は、図4に示す様に、外径が外側コア6と同一であり、内径が外側コア6より小さく形成され、外側コア6の内周端より径方向の内側へ突き出る部分が、ロータ4の外周側の軸方向端面とギャップを有して軸方向に対向する本発明の外側ロータ対向部を形成している。
【0016】
ロータ4の外周側軸方向端面に対向する側面外コア8の内周側には、図3に示す様に、外側ロータ対向部の内周面に開口する複数のスロット8aが周方向に等間隔に形成され、周方向に隣合うスロット8aとスロット8aとの間にそれぞれ外側ティース8bが設けられている。すなわち、上記の外側ロータ対向部は、スロット8aを介して周方向に当ピッチに配列される複数の外側ティース8bによって構成されている。なお、側面外コア8に形成されるスロット8aは、外側コア6のスロット数と同数であり、且つ、外側コア6のスロット6aと軸方向に連通している。
【0017】
側面内コア9は、図4に示す様に、内径が内側コア7と同一であり、外径が内側コア7より大きく形成され、内側コア7の外周端より径方向の外側へ突き出る部分が、ロータ4の内周側の軸方向端面とギャップを有して軸方向に対向する本発明の内側ロータ対向部を形成している。ロータ4の内周側軸方向端面に対向する側面内コア9の外周側には、図3に示す様に、内側ロータ対向部の外周面に開口する複数のスロット9aが周方向に等間隔に形成され、周方向に隣合うスロット9aとスロット9aとの間にそれぞれ内側ティース9bが設けられている。
【0018】
すなわち、上記の内側ロータ対向部は、スロット9aを介して周方向に当ピッチに配列される複数の内側ティース9bによって構成されている。なお、側面内コア9に形成されるスロット9aは、内側コア7のスロット数と同数であり、且つ、内側コア7のスロット7aと軸方向に連通している。
上記の側面外コア8と側面内コア9は、図4に示す様に、外側ロータ対向部(外側ティース8b)の内周端と、内側ロータ対向部(内側ティース9b)の外周端との間にギャップδを有して径方向に対向配置されている。
【0019】
外側ロータ対向部を構成する外側ティース8bには、図6に示す様に、径方向の内周端に開口して径方向の外側(図示上側)へ延びるスリット8cが形成されている。このスリット8cは、外側ティース8bの外周側から内周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成されている。
また、内側ロータ対向部を構成する内側ティース9bには、図6に示す様に、径方向の外周端に開口して径方向の内側(図示下側)へ延びるスリット9cが形成されている。このスリット9cは、内側ティース9bの内周側から外周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成されている。
【0020】
ステータコイルは、例えば、図4に示す様に、外側コア6と側面外コア8とに跨がって巻装される外側コイル10と、内側コア7と側面内コア9とに跨がって巻装される内側コイル11とで構成される。外側コイル10と内側コイル11は、例えば、それぞれ星型結線される三相コイルによって形成され、三相コイルの端部が図示しないインバータに接続される。
また、ステータコイルは、図5に示す様に、外側コイル10と内側コイル11とを連結する側面コイル12を設けることもできる。この図5に示すステータコイルは、径方向の断面形状が略コの字状(図5では逆コの字状)の円筒体に成形され、ステータコアの各スロット6a、7a、8a、9aに対し、図示右側から軸方向に挿入することにより、容易にステータコアに組み付けることができる。
【0021】
(実施例1の作用および効果)
実施例1に記載したモータ1は、ロータ4の内周面と内側コア7との間、および、ロータ4の外周面と外側コア6との間に形成される内外二つの径方向ギャップと、ロータ4の軸方向端面と側面コア8、9との間に形成される軸方向ギャップとで三面ギャップを形成している。これにより、特許文献1に記載された二面ギャップのダブルステータ型モータと比較して、トルクを発生する面積が増加するため、高出力化を実現できる。
【0022】
また、側面コア8、9は、外側コア6に連接される側面外コア8と、内側コア7に連接される側面内コア9とに分断され、その側面外コア8と側面内コア9とが、外側ティース8bの内周端と内側ティース9bの外周端との間にギャップδを有して径方向に対向配置されている。この構成によれば、電磁鋼板を積層して構成される側面コア8、9の面内渦電流(側面外コア8と側面内コア9とを跨ぐ大きな渦電流ループ)を無くすことができる。よって、加工性、強度、磁気特性、およびコスト等の点で優れる積層鋼板を用いて側面コア8、9を構成しても、渦電流による損失を低減できるので、高出力および高効率なモータ1を提供できる。
【0023】
さらに、側面外コア8および側面内コア9は、外側ティース8bおよび内側ティース9bにそれぞれスリット8c、9cを形成しているので、外側ティース8bおよび内側ティース9bの先端部分で局所的に発生する渦電流を小さくできる。これにより、渦電流損を更に低減できるため、より高出力化かつ高効率化を図ることができる。
また、外側ティース8bのスリット8cおよび内側ティース9bのスリット9cは、それぞれ外側ティース8bおよび内側ティース9bの先端に向かってスリット幅が大きくなるテーパ状に形成されるので、プレスによるスリット8c、9cの加工が容易である。
【0024】
さらに、外側ティース8bおよび内側ティース9bは、スリット8c、9cをテーパ状に形成することで、それぞれ根元が太く、先端に向かって次第に細くなっているため、外部から伝わる振動や磁気吸引力による振動を抑制できる。その結果、外側ティース8bおよび内側ティース9bとロータ4との間に形成されるギャップ長の変動による性能の低下、繰り返し振動による強度的劣化、および騒音等を抑えることができる。
なお、実施例1では、外側ティース8bおよび内側ティース9bにそれぞれスリット8c、9cを1本ずつ形成しているが、スリット8c、9cを1本に限定する必要はなく、例えば、図7に示す様に、スリット8c、9cを複数本(図6では2本)形成しても良い。あるいは、図8に示す様に、スリット8c、9cを廃止することもできる。
【0025】
ここで、実施例1の効果を検証した結果を図9に示す。
図9は、側面コアが側面外コア8と側面内コア9とに分離されていない一体型のモデルAと、側面コアが側面外コア8と側面内コア9とに分離されているモデルB、C、Dとで渦電流損の大きさを比較したシミュレーション結果である。なお、モデルBは、外側ティース8bおよび内側ティース9bにスリット8c、9cを形成していないタイプ。モデルCは、外側ティース8bおよび内側ティース9bにスリット幅一定のスリット8c、9cを2本形成したタイプ。モデルDは、外側ティース8bおよび内側ティース9bにテーパ状のスリット8c、9cを形成したタイプである。
図9に示す結果からも明らかな様に、側面コアが分離されていない一体型のモデルAと比較して、側面コアを側面外コア8と側面内コア9とに分離したモデルB、C、Dの方が渦電流損を小さくできる。特に、外側ティース8bおよび内側ティース9bにスリット8c、9cを形成したモデルC、Dでは、渦電流損の低減効果が顕著である。
【0026】
(実施例2)
この実施例2は、ロータ4の軸方向端面と対向する外側ロータ対向部(外側ティース8b)の対向面積および内側ロータ対向部(内側ティース9b)の対向面積を所定の範囲に設定する一例である。
図10に示す様に、ロータ4の軸方向端面に対向する外側ティース8bの対向面積(図中にハッチングを入れた領域の面積)をSo、外側ティース8bの周方向幅をWo、外側ティース8bの軸方向幅をho、外側ティース8bの周方向幅Woと外側ティース8bの軸方向幅hoとを乗算して求められる面積をS1とすると、下記(1)式が成立する。
50%≦(So/S1)×100≦100%………………………(1)
すなわち、ロータ4の軸方向端面に対向する外側ティース8bの対向面積Soは、外側ティース8bの周方向幅Woと外側ティース8bの軸方向幅hoとを乗算して求められる面積S1に対し、50〜100%の範囲に設定されている。
【0027】
また、ロータ4の軸方向端面に対向する内側ティース9bの対向面積(図10にハッチングを入れた領域の面積)をSi、内側ティース9bの周方向幅をWi、内側ティース9bの軸方向幅をhi(=ho)、内側ティース9bの周方向幅Wiと内側ティース9bの軸方向幅hiとを乗算して求められる面積をS2とすると、下記(2)式が成立する。
50%≦(Si/S2)×100≦100%………………………(2)
すなわち、ロータ4の軸方向端面と対向する内側ティース9bの対向面積Siは、内側ティース9bの周方向幅Wiと内側ティース9bの軸方向幅hiとを乗算して求められる面積S2に対し、50〜100%の範囲に設定されている。
【0028】
図11(a)は、外側ティース8bの断面比(So/S1)および内側ティース9bの断面比(Si/S2)を60%に設定した場合、図11(b)は、外側ティース8bの断面比(So/S1)および内側ティース9bの断面比(Si/S2)を80%に設定した場合の各ティース形状を示している。断面比60%の場合と断面比80%の場合とを比較すると、断面比80%の方が、断面比60%の場合より、外側ティース8bの対向面積Soおよび内側ティース9bの対向面積Siが大きく、且つ、外側ティース8bの先端と内側ティース9bの先端との間に形成されるギャップδが小さくなっている。
【0029】
ここで、外側ティース8bおよび内側ティース9bの断面比をそれぞれ50〜100%の範囲に設定したことによる効果を図12に示す。この図12は、外側ティース8bおよび内側ティース9bの断面比とトルク残存率との相関を検証したシミュレーション結果である。このシミュレーション結果では、外側ティース8bおよび内側ティース9bの断面比が50〜100%の範囲であれば、略99%以上のトルク残存率を得ることができる。なお、実施例1の図9に示したモデルDは、外側ティース8bおよび内側ティース9bの断面比を60%に設定している。よって、モデルDの断面比を60%より更に小さく設定することで、図9に示す結果は更に向上する、つまり、渦電流損をより低減できる。
上記の様に、外側ティース8bおよび内側ティース9bの断面比をそれぞれ50〜100%の範囲に設定することにより、磁気飽和による性能低下および不要な磁路断面による渦電流損の増大を防ぐことができ、より高出力化および高効率化を図ることができる。
【0030】
(実施例3)
この実施例3は、図13に示す様に、側面外コア8と側面内コア9とをブリッジ13によって連結する一例である。ブリッジ13は、周方向に等間隔(例えば電気角2πピッチ)に設けられ、図14に示す様に、側面外コア8の外側ティース8bと側面内コア9の内側ティース9bとを連結している。
なお、図13、図14に示すブリッジ13は、周方向に同位置に配設される外側ティース8bと内側ティース9bとを連結しているが、必ずしも周方向に同位置のティース同士を連結する必要はなく、周方向に位置が異なる外側ティース8bと内側ティース9bとを連結しても良い。
上記の構成によれば、側面外コア8と側面内コア9との軸心精度を向上できる。
【0031】
(実施例4)
この実施例4は、図15に示す様に、側面外コア8と側面内コア9とを連結部材14によって連結固定する一例である。
連結部材14は、例えば、金属プレートを円環状にプレスして成形され、径方向の外周端面が、側面外コア8のスロット底部より径方向外側の軸方向端面に固定され、径方向の内周端面が、側面内コア9のスロット底部より径方向内側の軸方向端面に固定されて、側面外コア8と側面内コア9とを機械的に連結している。
この実施例4の構成においても、実施例3と同様に、側面外コア8と側面内コア9との軸心精度を向上できる。
【符号の説明】
【0032】
1 モータ(マルチギャップ型回転電機)
2 クランク軸(回転軸)
4 ロータ
6 外側コア(ステータコア)
7 内側コア(ステータコア)
8 側面外コア(側面コア、ステータコア)
8a 側面外コアのスロット
8b 外側ティース(外側ロータ対向部)
8c 外側ティースに形成されたスリット
9 側面内コア(側面コア、ステータコア)
9a 側面内コアのスロット
9b 内側ティース(内側ロータ対向部)
9c 内側ティースに形成されたスリット
10 外側コイル(ステータコイル)
11 内側コイル(ステータコイル)
12 側面コイル(ステータコイル)
13 ブリッジ
14 連結部材
So 外側ティースの対向面積
Wo 外側ティースの周方向幅
ho 外側ティースの軸方向幅
Si 内側ティースの対向面積
Wi 内側ティースの周方向幅
hi 内側ティースの軸方向幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸に連結されて前記回転軸と一体に回転する環状のロータと、
このロータの径方向外側にギャップを有して配置される外側コア、前記ロータの径方向内側にギャップを有して配置される内側コア、および、前記ロータの軸方向一端側にギャップを有して配置される側面コアによって構成されるステータコアと、
このステータコアに巻装されるステータコイルとを有し、
前記側面コアは、
前記外側コアの軸方向一端側に連接される側面外コアと、
前記内側コアの軸方向一端側に連接される側面内コアとで構成され、
前記側面外コアは、前記外側コアの内周端より径方向の内側に突き出て、軸方向に前記ロータの外周側軸方向端面と対向する外側ロータ対向部を有し、
前記側面内コアは、前記内側コアの外周端より径方向の外側に突き出て、軸方向に前記ロータの内周側軸方向端面と対向する内側ロータ対向部を有し、
前記側面外コアと前記側面内コアは、前記外側ロータ対向部の内周端と前記内側ロータ対向部の外周端との間にギャップを有して径方向に対向配置されていることを特徴とするマルチギャップ型回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載したマルチギャップ型回転電機において、
前記側面外コアは、前記外側ロータ対向部の内周面に開口する複数のスロットが周方向に等間隔に形成されて、周方向に隣合う前記スロットと前記スロットとの間にそれぞれ外側ティースを有し、
前記側面内コアは、前記内側ロータ対向部の外周面に開口する複数のスロットが周方向に等間隔に形成されて、周方向に隣合う前記スロットと前記スロットとの間にそれぞれ内側ティースを有し、
前記外側ロータ対向部には、前記外側ティースの内周端に開口して径方向の外側へ延びる1つまたは複数のスリットが形成され、
前記内側ロータ対向部には、前記内側ティースの内周端に開口して径方向の内側へ延びる1つまたは複数のスリットが形成されていることを特徴とするマルチギャップ型回転電機。
【請求項3】
請求項2に記載したマルチギャップ型回転電機において、
前記外側ティースに形成されるスリットは、前記外側ティースの内周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成され、
前記内側ティースに形成されるスリットは、前記内側ティースの外周端に向かって周方向のスリット幅が次第に大きくなるテーパ状に形成されていることを特徴とするマルチギャップ型回転電機。
【請求項4】
請求項2または3に記載したマルチギャップ型回転電機において、
前記ロータの軸方向端面と対向する前記外側ティースの対向面積は、前記外側ティースの周方向幅と前記外側ティースの軸方向幅とを乗算して求められる面積に対し50〜100%の範囲に設定され、
前記ロータの軸方向端面と対向する前記内側ティースの対向面積は、前記内側ティースの周方向幅と前記内側ティースの軸方向幅とを乗算して求められる面積に対し50〜100%の範囲に設定されていることを特徴とするマルチギャップ型回転電機。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate


【公開番号】特開2013−99196(P2013−99196A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242204(P2011−242204)
【出願日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】