説明

マルチケミストリ分画

生物学的分子の複雑な混合物を分画するための方法、装置、およびキットを提供する。
一態様においては、提供される方法は、一シリーズの異なる吸着剤を提供する工程、複雑な混合物を吸着剤のシリーズに導入する工程、複雑な混合物を吸着剤のそれぞれと連続的に接触させる工程、および複雑な混合物由来の生体分子成分を吸着剤に捕獲してそれぞれの吸着剤が上記複数の生体分子成分の実質的にユニークなサブセットを捕獲する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関係出願に関する情報
本出願は2004年7月27日出願の米国特許仮出願第60/591,319号および2004年6月16日出願の米国特許仮出願第60/580,627号の優先権を主張し、これらの両方の出願は本明細書に参照により組み入れられる。
【0002】
本発明は、一般的にタンパク質化学および分析化学の分野、ならびに、さらに特に、タンパク質および生物起源の他の化学品の(かかる化学品の)複雑な混合物からの精製に関する。本発明はタンパク質化学、分析化学、臨床化学、薬物発見、および診断の領域に応用することができる。
【背景技術】
【0003】
組織抽出物または生物液からのタンパク質含量の分析は、生物の表現型の状態を理解するための非常に高度かつ強力な方法を提供する。表現型として「標準的」もしくは「正常」なサンプルと非標準的なサンプルとの間のタンパク質含量の違いの比較は、病理学的表現型を同定しかつ、恐らく、対症または治療処置を同定するための手段を提供する。従って、原則として、組織および他の生物学的サンプル中のタンパク質含量の分析は、疾患に対する迅速で正確な診断およびより優れた処置を行うための大きな可能性を有する。
【0004】
しかし、複雑なサンプル中の個々のペプチドまたはタンパク質(または他の生物起源の分子)の検出および量は、典型的なサンプル中の分子種濃度の大きいダイナミックレンジ(〜108)を考えると、簡単なものではない。言い換えると、所与のサンプル体積中に、最も普通の分子種は最も普通でない分子種より1億倍大きいオーダーで存在する。所与の生物学的サンプル中の分子種を単離しかつ定量する現行の材料と方法だけでは、かかる混合物の全ての構成成分を信頼性をもって単離するのに十分でない。典型的な場合、支配的な分子種はその1000分の1未満の濃度で存在する分子種をマスクするであろう。血液などの生物学的サンプルについては、アルブミンおよび免疫グロブリンが最も支配的な2分子種である;そして、疾患マーカーとして関連性を有しうるまたは薬物発見に重要でありうる様々な酵素、抗体、タンパク質または二次代謝物を同定する試みはこれらの群れにより複雑化され、最も普通に利用される2つの分析技法:2次元電気泳動(2DE)および質量分析計(MS)の分解能、感度、および負荷能力を制限する。例えば、サンプル中にこのような非常に高存在量のタンパク質が存在すると、その結果、サンプル中に存在する他分子種のシグナル重複(2DEにおける)またはシグナル抑制(MSにおける)を生じ、これが分析を複雑化しかつサンプル中に存在する分子種の目録について得た結論を台無しにする。
【0005】
これらの複雑な事項を解決する古典的手法は、非常に濃縮したタンパク質を分離すること、または様々な分画法により混合物全体の複雑度を減ずることにあった。かかる方法としては、細胞下分画(subcellular fractionation)(Lopez, M.F., Electrophoresis, 2000, 21:1082-1093;Hochstrasser, D.F.ら, Electrophoresis, 2000, 21 :1104-1115;Dreger, M., Mass. Spectrmetry Reviews, 2003, 22:27-56;Patton, W.F., J Chromatography B, 1999, 722:203-223;Mc Donald T.G ら, Basic Res. Cardiol, 2003, 98:219-227;Patton, W.F.ら, Electrophoresis, 2001, 22:950- 959;Gerner Cら, MoI. & Cellular Pr oteomics, 2002, 7:528-537)、等電点分離(Issaq, J.H.ら, Electrophoresis, 2002,23:3048-3061;Dreger, 2003;Righetti P.G.ら, J. Proteome Res., 2003: 2, 303-311;Righetti P.G.ら, Electrophoresis, 2000: 21, 3639-3648;Rossier J.S.ら, Electrophoresis, 2003: 24, 3-11;Faupel M.ら, Proteomics, 2002, 2:151-156;Miller B.S.ら, Electrophoresis, 2003, 24:3484-3492;)、一次元SDS-電気泳動(Issaq, J.H.ら 2002,7,15)、分子サイズ決定(molecular sizing)(Issac, J.H.ら 2003, Hochstrasserら 2000)、および液体クロマトグラフィ(Issaq, J.H.ら 2002, Hochstrasserら 2000)が挙げられ、通常の方法はこれらを2DEの前に実施するかまたは直接MSもしくはLC-MS同定を実施する。例えばICAT技法はビオチン化タグ付きトリプシンペプチドのアビジン-アフィニティ分離に関わる(Issaq, J.H.ら 2002,Hochstrasserら 2000;Moseley, A.M., Trends in Biotechnology, 2001, 19:S10)。他の分画法は、イオン交換(Lopez, M.F., 2000,17)、カルシウム結合タンパク質(Lopez, M.F.ら, Electrophoresis, 2000, 21:3427-3440)に対するIMAC、またはリンタンパク質(Hunt, D.F.ら, Nat. Biotechnol, 2002, 20:301-305)、疎水性(Lopez, 2000)、ヘパリン(Hochstrasserら 2000)もしくはレクチン(Hochstrasserら 2000;Lopez, 2000;Regnier, F.ら, J. Chromatography B, 2001, 752:293-306)アフィニティクロマトグラフィを用いて複雑度のより低いタンパク質サンプルを得る。無傷タンパク質分画またはそれらのトリプシン消化物に対して使用する二次元液体クロマトグラフィは、一般的に逆相(RP)を第2の次元に使用し、イオン交換(Yates, IR., Nature Biotech, 1999, 17:676-682、Unger, K.K.ら, Anal. Chem., 2002, 74:809- 820)、クロマト−フォーカシング(Wall, D.ら, Anal. Chem., 2000, 72:1099-1111)、サイズ排除(Opiteck, G., Anal. Biochem., 1998, 258:349-361)、アフィニティ(Regnier 2001)、または他の逆相(RP)(Chicz R.ら, Rapid Commun. in Mass Spectrometry, 2003, 17:909-916)を第1のクロマトグラフィ工程として組合わせる。プロテオーム分画の多次元クロマトグラフィは、とりわけ2DEのような冗長な分析法が最後のボトルネックとなる場合、管理(pH調節、脱塩、第2次元における再注入)しかつ分析すべき画分の数が多いので一般的に二次元を越えることはない。
【0006】
今もなお、生物学的物質の複雑な混合物を含有するサンプルを分離するための、より効率的でかつより信頼性のある方法、材料、および装置を提供する差し迫った必要性は残ったままである。本発明はこれらおよびその他の必要性に応えるものである。
【発明の開示】
【0007】
概要
本発明は、生物学的物質、とりわけタンパク質の複雑な混合物の、より効率的なかつ信頼性のある精製を可能にする方法、装置、およびキットを提供することにより、これらおよびその他の必要性の解決に取り組むものである。本発明が提供する方法、装置、およびキットは、所与のサンプル中の生物学的物質、とりわけタンパク質のさらなる精製および同定かつ定量する分析技法と一緒に使用することができる。従って、本発明の方法、装置、およびキットは他の分野でもとりわけプロテオミクス、診断、および薬物発見に重要な応用先を有する。
【0008】
一実施形態においては、本発明は複数の異なる生体成分を含む複雑な混合物を前分画する方法に関する。本発明が提供する方法の1つの特定の実施形態は、異なる吸着剤の1シリーズを提供する工程、複雑な混合物を上記吸着剤のシリーズに導入する工程、複雑な混合物をそれぞれの吸着剤と連続して接触させる工程、および生体分子成分を複雑な混合物から吸着剤上に捕獲して、その結果、それぞれの吸着剤が上記複数の生体分子成分の実質的にユニークなサブセットを捕獲する工程を含んでなる。さらに本方法の特定の実施形態においては、本方法は、複雑な混合物を高特異性、中特異性、および低特異性を含む少なくとも2つの異なる特異性を有する異なる吸着剤と接触させる工程を含む。本方法のなおさらに特定の実施形態は、複雑な混合物から全ての生体分子成分を実質的に完全に捕獲する吸着剤を選択する工程を含む。
【0009】
一態様においては、特異性低下の増加(progression of decreasing specificity)に従って配置された少なくとも3つの異なる吸着剤の1シリーズを提供する工程;複雑な混合物を上記吸着剤のシリーズに導入する工程;連続的に上記複雑な混合物を上記吸着剤のそれぞれと接触させる工程;および上記吸着剤のそれぞれが上記複数の生体分子成分の実質的にユニークなサブセットを捕獲することを特徴とする、生体分子成分を上記複雑な混合物から捕獲する工程を含んでなる方法を提供する。
【0010】
他の態様においては、本発明は複数の生体分子成分を含む複雑な混合物を前分画する装置を提供する。一実施形態において、本発明の装置はシリーズ配置で結合された、異なる生体分子成分型に対して異なる吸着特異性により特徴付けられる複数の吸着剤を含む。吸着剤は、(i)複雑な混合物と(ii)吸着剤に適合しうるバッファーを含有する緩衝化溶液の連続的に吸着剤の連続配置を介する導入および通過が、混合物成分から少なくとも一部分の混合物成分を除去するのに有効であるように配置される。さらに特定の実施形態においては、少なくとも1つの生体分子成分型に対する親和性の増加(progression in affinities)を規定する(define)ように配置する。さらに特定の実施形態においては、装置は実質的に隣接成分隔絶体を規定する。さらに特定の実施形態においては、装置は少なくとも1つの生体分子成分型に対する吸着特異性の実質的に線形の増加を規定する。
【0011】
一例においては、異なる生体分子成分型に対して異なる吸着特異性により特徴付けられる少なくとも3つの吸着剤を含む装置であって、該吸着剤が特異性の低下に従った連続配置で結合された上記装置を提供する。他の例においては、装置は順に:(a)高特異性吸着剤、(b)中特異性吸着剤、および(c)低特異性吸着剤を含んでなってもよく、上記吸着剤は連続配置で結合されていて、その場合、(i)複雑な混合物と(ii)上記材料に適合しうるバッファーを含む緩衝化溶液の連続的に上記材料の連続配置を介する導入および通過は、上記複雑な混合物成分から上記生体分子成分の全てを実質的に除去するのに有効である。
【0012】
さらに他の態様においては、本発明は、複数の生体分子成分を含む複雑な混合物を前分画する装置を作るためのキットを提供する。一実施形態においては、本発明が提供するキットは異なる生体分子成分型に対して異なる吸着特異性により特徴付けられる複数の吸着剤および適合しうるバッファーを含んでなり、これらは上記材料をシリーズ配置で結合すると、(i)複雑な混合物と(ii)バッファーを含む緩衝化された溶液の、該材料のシリーズ配置を介する導入および連続通過は複雑な混合物から複数の生体分子成分の実質的に全てを捕獲するのに有効であるように選ばれる。
【0013】
さらなる実施形態においては、本発明の方法、装置、およびキットを用いて単離した生体分子成分を少なくとも1つの吸着剤から、例えば、水、カオトロピック剤、リオトロピック剤(離液剤)、有機溶液、イオン強度の変化、pHの変化、温度変化、圧力変化、またはそれらを組み合わせにより溶出する。単離した成分は次に、質量分析、一次元および多次元ゲル電気泳動、蛍光定量法、高圧液体クロマトグラフィ、中圧液体クロマトグラフィなどの方法を用いて検出しかつ同定することができる。
【0014】
本発明のこれらのおよびその他の態様および利点は、添付せる図面とともに以下の説明を読むとさらに明らかになろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
詳細な説明
本発明は、生体分子成分、すなわち、生物学的方法により作られた化学種、例えば、厳密に限定されるものでないが、タンパク質、核酸、脂質、および代謝物を含有する複雑な混合物の複雑度を低減するための方法および系を提供する。本発明が提供する方法および系は生体分子成分の単離と検出を、従来可能であったより高い感度と効率で可能にする。
【0016】
図1は、100において本発明の一実施形態を図解する。複数の異なる生体分子成分101を含む複雑な混合物を含有するサンプルをサンプル分画カラム102に導入して下記の通り少なくとも部分的分割を行う。カラム102は連続して配置された複数の吸着剤104、106、108、および110を含むものであり、このカラムを通して溶液101を通過させることによりそれぞれの吸着剤材料と連続的に接触させ、その後に残る溶液を受器112へ溶出する。
【0017】
本発明の一実施形態においては、生体分子成分の実質的に全てが吸着剤104〜110によって吸着されるように吸着剤を選ぶ。本発明のさらに特定の実施形態においては、それぞれの吸着剤104〜110は生体分子成分の複数のユニークなサブセットを実質的に捕獲する。従って、吸着剤104はサブセット114を、吸着剤106はサブセット116を、吸着剤108はサブセット118を、そして吸着剤110はサブセット120をそれぞれ捕獲するのに有効である。複数の生体分子成分101の様々なサブセットを捕獲した後、捕獲した生体分子成分を含有する吸着剤を単離し(すなわち、カラムから取外し);そして上記サブセット成分を溶出するかあるいは以下に詳しく考察するように吸着剤から取出してさらに処理する。
【0018】
本明細書に用いる「捕獲」は、カラム102通過中に溶液101から生体分子成分のある特定のサブセットを実質的に完全に除去して、溶液101中の1つ以上の生体分子成分を吸着しかつ可逆的に保持する吸着剤の能力を意味する。タンパク質精製などの生物起源の化学品の混合物を分離する技術分野の業者は、生体分子成分を保持する吸着剤の能力は吸着剤と溶液が接触する周囲条件(例えば、温度およびカラムを通過する溶液のイオン強度またはpH)下で吸着剤と生体分子成分の間の相互作用により規定されるある特定の生体分子成分に対する吸着剤の特異性を本質的に有することを理解するであろう。相互作用は、吸着剤による生体分子成分(生体分子成分のサブセット)の吸着を生じるのに十分であるとわかっているまたは思われるいずれかの物理化学的相互作用であって、生体分子成分(またはサブセット)の溶液を実質的に完全に欠乏させるものの、捕獲した生体分子成分のその後の溶出がなお可能である上記物理化学的相互作用であってもよい。
【0019】
典型的な吸着剤-生体分子成分相互作用としては、限定されるものでなく、イオン交換(陽イオンまたは陰イオン);疎水性相互作用;生物学的親和性(染料およびリガンドとタンパク質、またはレクチンと複合糖質、グリカン、糖ペプチド、多糖、および他の細胞成分との間の相互作用を含む);免疫親和性(すなわち、抗原-抗体相互作用またはそれらの断片間の相互作用);金属-キレートまたは金属-イオン相互作用、タンパク質と親硫黄材料(thiophilic materials)の間の相互作用、タンパク質とヒドロキシアパタイトとの相互作用、およびサイズ排除が挙げられる。多数のかかる材料はタンパク質または核酸精製の技術分野の業者に公知である。これらの材料は、公知の技法および材料を用いて作るかまたは商業的に購入することができる。これらの材料の説明およびこれらを作る方法の例は、本明細書に参照によりその全てが全ての目的のために組み入れられるProtein Purification Protocol 第2版, Cutler編 Humana Press 2004に記載されている。
【0020】
イオン交換材料には強および弱の陽イオンおよび陰イオン交換樹脂が含まれる。強陽イオン交換リガンドにはスルホプロピル(SP)およびスルホン酸メチル(S)が含まれる。弱陽イオン交換リガンドにはカルボキシメチル(CM)が含まれる。強陰イオン交換リガンドには四級アンモニウムおよび四級アミノエチル(QAE)が含まれる。弱陰イオン交換リガンドにはジエチルアミノエチル(DEAE)が含まれる。好適なイオン交換材料の例としては、限定されることなく、商品名:Q-、S-、DEAE-およびCM CERAMIC HYPERD(登録商標);DEAE-、CM-、およびSP TRISACRYL(登録商標);M-、LS-;DEAE-、およびSP SPHERODEX(登録商標)LS;およびQMA SPHEROSIL(登録商標)LSのもとでCiphergen Biosystems(Fremont, CA)から市販される材料が挙げられる。他の好適なものは商品名:UNOSPHERE、MACRO-PREP(HIGH Q、HIGH S、DEAE、およびCMを含む)、ならびにAGおよびBio-RexのもとでBio-Rad Laboratories(Hercules、CA)から販売されている。さらにより好適な市販イオン交換材料は商品名:DEAE-TRISACRYL(登録商標)、DEAEセファロース(登録商標)、DEAE-セルロース、ジエチルアミノエチルSEPHACEL(登録商標)、セファデックス(登録商標)、QAEセファデックス(登録商標)、アンバージェット(登録商標)、アンバーライト(登録商標)、コレスチラミン樹脂、CMセファロース(登録商標)、SPセファロース(登録商標)、SP-TRISACRYL(登録商標)、セルロースホスフェート、CM-セルロース、CMセファデックス(登録商標)、SPセファデックス(登録商標)、およびアンバーライト(登録商標)のもとでSigma-Aldrich Co.(St. Louis、MO)から販売されている。イオン交換材料の他の市販品供給先としてはAmersham Biosciences(www.amersham.com)が挙げられる。さらに他の材料がタンパク質精製の技術分野の業者には馴染みがありうる。
【0021】
疎水性相互作用を利用する(疎水性相互作用クロマトグラフィ、「HIC」)ための好適な材料としては、フェニルセファロース 6 FAST FLOW、ブチルセファロース 4 FAST FLOW、オクチルセファロース 4 FAST FLOW、フェニルセファロース HIGH PERFORMANCE、フェニルセファロース CL-4B、オクチルセファロース CL-4B、SOURCETM 15ETH、SOURCE 15ISO、およびSOURCEPHEの商品名のもとでAmersham Biosciences(Piscataway、NJ)から販売されるものが挙げられる。また、FRACTOGEL(登録商標) EMD プロピル(S)およびFRACTOGEL(登録商標)EMDフェニル I(S)としてVWR International(www.chromatography.uk.co)から販売される材料を利用することもできる。さらに他の市販されるHIC材料としては、TOYOPEARLおよびTSKGELの商品名のもとでTosoh Bioscience LLC(Montgomeryville、PA)から販売される材料が挙げられる。同等な材料は商品名MEP HYPERCELのもとで市販されている(Ciphergen Biosystems、Fremont、CA)。さらに他の材料がタンパク質精製の技術分野の業者に馴染みがありうる。
【0022】
親和性材料には、生体分子成分とリガンドの間の構造的相互作用に基づいて生体分子成分を引き付けかつ吸着するのに有効ないずれかの材料、例えば、抗体-抗原、酵素-リガンド、核酸-結合タンパク質、およびホルモン-受容体が含まれる。相互作用は天然または合成リガンドと生体分子成分の間であってもよい。リガンドは単特異的(例えば、ホルモンまたは基質)または群特異的(例えば、酵素補因子、植物レクチン、およびプロテインA)のいずれであってもよい。本発明に好適な普通のグループ特異的リガンドの例を表1に掲げる。
【表1】

【0023】

従って、広範囲の生体分子材料を、親和性材料を用いて吸着することができる。市販の親和性材料としては、プロテインA CERAMIC HYPERD(登録商標)F、ブルー TRISACRYL(登録商標)M、ヘパリンHYPERD(登録商標)M、およびリシンHYPERD(登録商標)の商品名でCiphergen Biosystems(Fremont、CA)から販売されるものが挙げられる。さらに他の市販材料がAmersham Biosciences(www.amershambioscience.com)およびSigma-Aldrich(www.sigmaaldrich.com)などの供給業者から提供される。さらに他の材料がタンパク質精製の分野の業者に馴染みがありうる。
【0024】
本発明のいくつかの実施形態においては、反応性染料から誘導される親和性材料を用いて吸着剤を作製する。染料-リガンド吸着剤はタンパク質およびキナーゼおよびデヒドロゲナーゼなどの核酸補因子を用いる酵素と結合するために有用であることが多い;しかし血清アルブミンを含む他のタンパク質もこれらの吸着剤を用いて効率的に識別することができる。好適な市販材料の例としては、反応染料ブルー、反応染料レッド、反応染料イェロー、反応染料グリーン、および反応染料ブラウン(Sigma-Aldrich);DYEMATRIXゲル・ブルー、DYEMATRIXゲルレッド、DYEMATRIXゲルORANGE、およびDYEMATRIXゲル・グリーン(Millipore、Billerica、MA);および(Procion染料として知られる)ブルーH-B(Cibacronブルー)、ブルーMX-R、レッドHE-3B、イェローH-A、イェローMX-3r、グリーンH-4G、グリーンH-E4BD、ブラウンMX-5BRの商品名のもとで販売されているものが挙げられる。さらに他の材料がタンパク質精製の技術分野の業者に馴染みがありうる。
【0025】
複合糖質、グリカン、糖ペプチド、多糖、可溶細胞構成成分、および細胞を分離しかつ単離するために有用な吸着剤をレクチンから作ることができる。好適なレクチンとしては表2に示したものが挙げられる。
【表2】

【0026】

イムノアフィニティ材料はタンパク質精製の分野の業者に公知の標準的方法と材料を用いて作ることができる(例えば、Protein Purification Protocolsを参照)。市販のイムノアフィニティ材料としてはSigma- Aldrich(www.sigmaaldrich.com)およびAmersham Biosciences(www.amersham.com)が販売する材料が挙げられる。同様に、金属-イオンアフィニティ(IMAC)材料は公知の材料と方法を用いて調製するか(例えば、Protein Purification Protocolsを参照)または購入する(例えば、Sigma-Aldrich(www.sigmaaldrich.com)またはAmersham Biosciences(www.amersham.com)から)ことができる。通常の金属としてはNi(II)、Zn(II)、およびCu(II)が挙げられる。これらの材料のいくつかの例を表3に掲げる。
【表3】

【0027】

ヒドロキシアパタイト(HT/HTP)および親硫黄(TAC)吸着剤の合成もタンパク質精製業者には馴染みがありうる(例えば、Protein Purification Protocolsを参照)。市販品供給元としては、Bio-Rad(Hercules、CA)(商品名CHT)、Ciphergen Biosystems(Fremont、CA)(商品名HA ULTROGEL(登録商標))、およびBerkeley Advanced Biomaterials(San Leandro、CA)(商品名HAP)が挙げられる。親硫黄吸着剤はまた、タンパク質精製業者に公知の方法および材料を用いて作るかまたは商品名:MEP HYPERCEL(Ciphergen Biosystems;Fremont、CA)、THIOPHILIC UNIFLOWおよびTHIOPHILIC SUPERFLOW(Clonetech;Palo Alto、CA)、THIOSORB(Millipore;Billerica、MA)、T-GEL(Affiland;Ans-Liege、Belgium)、AFFI-T(Ken-en-Tec;Copenhagen、Denmark)、HI-TRAP(Amersham Biosciences;Piscataway、NJ)、およびFRACTOGEL(Merck KgA;Poole Dorset UK)のもとで購入することができる。
【0028】
上記吸着剤材料は異なる生体分子成分に対して特異性を有する。この点について、用語「特異性」は吸着剤が結合する所与のサンプル中の異なる生体分子種の数に関する。一態様においては、吸着剤を特異性の相対度により、例えば高特異性吸着剤、中特異性吸着剤、低特異性吸着剤に分類することができる。高特異性吸着剤には、一般的にある特定の生体分子または生体分子のサブセットを吸着する強い選好性を有する材料が含まれる。かかる材料は、抗体-エピトープ認識、受容体-リガンド、または酵素-受容体相互作用などの高い生物特異的吸着相互作用を有することが多い。これらの吸着剤の例としては、プロテインA-、プロテインG-、抗体-、受容体-およびアプタマー-結合吸着剤が挙げられる。中特異性吸着剤には、高特異的材料より低いがある程度の生物特異的吸着相互作用を有する材料が含まれ、そしてMEP、MBI、疎水性吸着剤、およびヘパリン-、染料-、および金属キレーター-結合材料が含まれる。多数の「混合モード」の材料は中特異性を有する。これらのいくつかは分子と、例えば、疎水性およびイオン相互作用を介して結合する。低特異性吸着剤には生体分子成分をバルク分子の特性(例えば、酸-塩基、双極子モーメント、分子サイズ、または表面静電気電位)を利用して吸着する材料が含まれ、そしてかかる材料にはジルコニア、シリカ、フェニルプロピルアミンセルロース、セラミック、チタニア、アルミナ、およびイオン交換体(陽イオンまたは陰イオン)が含まれる。
【0029】
高特異性から低特異性への進行は特に有用な役割を果たす。特に、これによってサンプル中のタンパク質をほとんど独占的であるグループと複雑度の低いグループに分画することが可能になる。このように、様々な画分中のタンパク質は検出方法を選ぶことによって、より容易に分割される。例えば、低もしくは中特異性樹脂はサンプル中の多数の生体分子(非常に高濃度なものを含む)と親和性を有しまたは結合しうる。しかしサンプルを、中特異性吸着剤に曝す前に高濃度のタンパク質に対する高特異性吸着剤に曝すことにより、高濃度タンパク質のほとんどまたは全てを除去することができる。この方法で中特異性吸着剤に捕獲される生体分子のセットから高濃度生体分子をほとんどまたは完全に排除しうる。これによって、より低い複雑度のタンパク質のセットが中特異性吸着剤に捕獲される。本発明の計画は、従って、そうしなければ分画過程の後ろの段階で吸着剤により捕獲されうる生体分子、例えばタンパク質をより早い段階で除去して、各段階で次段階へ通過する生体分子の複雑度を低くすることにある。
【0030】
本発明の一実施形態においては、生体分子成分の溶液を高、中、または低特異性吸着剤のうちの少なくとも3つの異なる吸着剤と接触させる。いくつかの実施形態においては、溶液を同じ程度の特異性の1、2、または3以上の材料(例えば、2つの中特異性材料または3つの低特異性材料)と接触させうる。他の実施形態においては、溶液を高特異性から低特異性への進行を規定する複数の吸着剤と接触させる。他の実施形態においては、溶液を高特異性から低特異性への進行を規定する複数の吸着剤と接触させる。さらに他の実施形態においては、吸着剤材料を実質的に特異性の線形の進行に配置する。さらに他の実施形態においては、吸着剤材料は実質的に隣接体を形成する。さらに他の実施形態においては、吸着剤はお互いに直交性である、すなわち、それぞれの吸着剤の能力がユニークな生体分子成分また生体分子成分のサブセットに対して実質的に選択的である。他の例においては、吸着剤を少なくとも1つの吸着剤は高特異性吸着剤でありかつ他の少なくとも1つの吸着剤は中もしくは低特異性吸着剤であるように選ぶ。他の実施形態においては、複数の吸着剤をそれぞれ少なくとも1つの吸着剤が高特異性吸着剤、中特異性吸着剤、および低特異性吸着剤であるように選ぶ。さらに他の実施形態においては、少なくとも2つの吸着剤を、高特異性吸着剤、中特異性吸着剤、および低特異性吸着剤のうちの2つのクラスから選ぶ。他の実施形態においては、少なくとも2つの吸着剤が高特異性吸着剤でありかつ少なくとも1つの吸着剤が低特異性吸着剤である。
【0031】
あるいは、同程度の特異性を有する吸着剤の一シリーズを用いてもよい。この実施形態においては、吸着剤は同程度の特異性を持つ一方、それらは異なる絶対特異性を有する、すなわち、それぞれの吸着剤はサンプル中の異なる数の生体分子成分の化学種と個々に結合する。従って、同程度の特異性を有する吸着剤を利用する場合、これらを最高特異性から最低特異性まで吸着が実質的に線形の増加を与えるように配置する。第2吸着剤が第1吸着剤と比較して特異性が低いというのは、同じサンプルに曝した場合、第2吸着剤が第1吸着剤より多い数の(サンプルからの)化学種と結合することを意味する。
【0032】
例えば、一実施形態においては、シリーズ中のそれぞれの吸着剤は疎水性吸着剤であってもよい。この点については、それぞれの吸着剤は炭化水素鎖および、任意に、アミンリガンドを含み、そしてシリーズ中のそれぞれの吸着剤の炭化水素鎖はその前の吸着剤より多い炭素数を含む。好適な末端結合官能基としては、限定されるものでないが、一級アミン類、三級アミン類、四級アンモニウム塩、または疎水基が挙げられる。吸着剤は例えば、C1、C2、C3、C4、C5、C6などからなる群より選択される炭化水素鎖を含むことができる。
【0033】
タンパク質は、他の特性のなかでも、ロイシン、イソロイシン、バリンおよびフェニルアラニンなどの親油性アミノ酸の含量と配列の結果であるその疎水度(疎水性指数とも呼ばれる)により特徴づけられる。タンパク質は、疎水度の関数として、離液性の塩の存在のもとで疎水性相互作用吸着剤と会合する。吸着強度は吸着剤の疎水特性と離液系列塩の濃度の両方に依存する。吸着剤をタンパク質と生理学的条件のもとでタンパク質と会合できるように設計する場合、唯一の変数は吸着剤それ自体の構造であろう。吸着剤の疎水度は使用するリガンドの炭化水素鎖の長さとその密度に依存する。しかし、リガンド密度を固定すれば、炭化水素鎖の長さだけが吸着剤部分の役割を演じうる。実際、異なる鎖長および同じリガンド密度をもつ吸着剤を合成することが可能である。もしリガンドを生理学的条件のもとで吸着を生じるもののなかから選択すれば、識別が固相だけに依存しうる系を設けることは可能である。
【0034】
もしわずかに疎水性の吸着剤を一グループのタンパク質とともに充填すると、最も疎水性の高いタンパク質だけが捕獲され、その他は全て流通物中に見出されるであろう。次いでもしその上清を中度の疎水性の吸着剤と接触すれば、中度の疎水性のタンパク質が捕獲されかつその他は上清中に見出されるであろう。最後にもし最も疎水性の低いタンパク質を含有するこの第2の上清を非常に疎水性の吸着剤と接触させると、全ての他のタンパク質が吸着されるであろう。
【0035】
この場合、様々な疎水性の吸着剤を積み重ね、そしてタンパク質を充填して異なる層を通過させることができる。積み重ねた吸着剤の配列は、最初に最も疎水性の弱い吸着剤、次いで高まる疎水度の吸着剤の配列から構成しなければならない。その系が期待通り作動するには、カラムの第1層が最も疎水性の化学種を欠乏させ、第2層が次いでより低い疎水性の化学種のグループを除去する(以後も同様)というような充填条件下で作動することが必要である。吸着剤の最後のセクション(最も疎水性)は最終的に最後の疎水性タンパク質を除去するであろう。
【0036】
吸着は、全カラムセクションに対して同じバッファーを用いて実施する;より好ましいバッファーは、0.15M塩化ナトリウムを含有する生理学的リン酸バッファーである。これにバッファー改変剤を加えてタンパク質吸着の条件をモジュレートしてもよい(一般的方法の変法を参照)。
【0037】
吸着剤は異なる長さの炭化水素鎖を用いて作り、カラムセクションの疎水度を駆動する。さらに特定すれば、疎水性リガンドは1つの端末において一級アミンでありかつ他の端末において疎水性部分である。該シリーズの最初のリガンドはメチルアミン、次いでエチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミンなどである。本発明の応用における実用的に重要な最長の疎水性アミンはオクタデシルアミンである。
【0038】
リガンド端末のアミン基は離液系列酸を加えることなくタンパク質吸着を誘導する。このいわゆる生理学的疎水性相互作用吸着剤(HIC)は国際特許出願第PCT/US2005/001304号に記載されている。しかし、チオエーテル類(「S」架橋)およびエーテル類(「O」架橋)などの他のリンカーも容易に用いることができる。
【0039】
固体吸着剤を調製するための好ましいマトリックス材料はセルロースおよびその他の多糖である。疎水性リガンドを導入するための好ましい活性化法は臭化アリルである。
【0040】
タンパク質の疎水度による分離の典型的な例は次の通りである:脂肪族疎水性支持体を次の炭化水素鎖:C2、C4、C8を用いて調製する。それぞれの吸着剤を3つの積み重ねたPromegaカラムに詰め、それぞれ吸着剤125μLを満たす。次にカラムをリン酸緩衝化生理食塩水を用いて平衡化し、次いでアルブミン欠乏血清(タンパク質濃度:5mg/mL)200μlを注入する。次にサンプルをセクショナルカラム中にPBSを用いて押し込む。吸着相が終わると、セクショナルカラムを取り外してそれぞれに吸着されたタンパク質を、TFA/ACN/水(0.8%-20%-79.2%)の混合物を用いて溶出する。次に、採集したタンパク質をSELDI MSによって分析する。
【0041】
この方法に有用な疎水性リガンドのタイプとしては、メチル〜オクタデシルなどの脂肪族直鎖が挙げられる;これらは分枝鎖脂肪族炭化水素鎖であってもよい;これらは環状構造または芳香族疎水性構造であってもよい。これらはまた、脂肪族および芳香族構造の組み合わせであってもよい。
【0042】
本発明の好ましい実施形態は一般的に次の一般式(I):
【化1】

【0043】

で表わされる。上記式中、R1、R2、R4、およびR5は独立してH、C1〜6-アルキル、C1〜6-アルコキシ、C1〜6-アルキル-C1〜6-アルコキシ、アリール、C1〜6-アルカリール、-NR'C(O)R''、-C(O)NR'R''、およびヒドロキシから選択される。好ましくは、R1、R2、R4、およびR5は独立してHおよびC1〜6-アルキルから選択される。最も好ましい実施形態では、R1とR2はHであり、一方R4とR5はC1〜6-アルキルである。
【0044】
所望の末端結合官能基に応じて、R6はH、C1〜6-アルキル、アリール、C1〜6-アルカリール、-C(O)OH、-S(O)2OH、および-P(O)(OH)2からなる群より選択される。従って、末端結合官能基は全体として一般的に式(I)中の-(NR5)(R3')d’Y-R6により表わされる。1つの好ましい実施形態においては、例えば、d'は1であり、従ってアミン((R3')Yが不在である場合)または四級アンモニウム塩((R3')Yが存在する場合)などの末端結合官能基を与える。これらの実施形態において、R6は好ましくはC1〜6-アルキルである。
【0045】
他の実施形態において、d'は0であり、従って、主にR6により表わされる末端結合官能基を与える。これらの場合、疎水性末端結合官能基が所望であれば、R6は好ましくはH、C1〜6-アルキル、アリール、およびC1〜6-アルカリール基から選択される。末端結合官能基が陽イオン交換基である場合、それに応じてR6は-C(O)OH、-S(O)2OH、および-P(O)(OH)2から選択される。
【0046】
式(I)に存在する(R3)Xおよび(R3')Yの部分は、それぞれの部分が結合したそれぞれの窒素原子とともに四級アンモニウム塩を形成する。式(I)に要求されるXおよびYは陰イオンを表わす。これらの陰イオンは、クロマトグラフィ材料の定められた用途に適合する限り、その本性を制限する特定の要件はない。この陰イオンの例としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素、酢酸、硝酸、水酸化、硫酸、炭酸、ホウ酸、および蟻酸イオンが挙げられる。
【0047】
それ故に、式(I)のバランスは、一般的に疎水性リンカーを表わす。以上規定した疎水基の定義に従ってリンカーは全体的に疎水性であり、その特性は、好ましくはアルキレン鎖をリンカー中に組み込むことによってa、a'、a''およびa'''の選択に対応して達成される。好ましくは、少なくともa、a'、a''およびa'''の1つは2または3であり、より好ましくは、少なくともa、a'、a''およびa'''の2つは2または3であり、そして最も好ましくは、aが3である一方、a'が2、3、4、5、または6である。
【0048】
好ましい実施形態においては、リンカーは疎水性であるだけでなく親硫黄性である。従って、式(I)中のhetおよびhet'の片方もしくは両方は親硫黄性の高い基-S-、-S(O)-、および-S(O)2-から選択され、Sが最も好ましい。最も好ましくはクロマトグラフィ材料において、hetはSである一方、het'は存在しない。
【0049】
本発明者らは、クロマトグラフィ材料のある特定のサブセットが特に効果的であることを発見した。これは、該材料が疎水性リンカー中に疎水性の有意な区画または領域を提供し、アルキレン断片が一緒に結合することによりその特性が一般的に達成されるからである。このように、(CR1R2)a、(CR1R2)a'、(CR1R2)a''および(CR1R2)a'''の少なくとも2つは、2つの無置換エチレン基(すなわち、-CH2-CH2-)を表わす。あるいは、疎水性リンカーは少なくとも2つの無置換のプロピレン基を含んでもよい。すなわち、(CR1R2)a、(CR1R2)a'、(CR1R2)a''および(CR1R2)a'''の少なくとも2つは2つのプロピレン基(すなわち、-CH2-CH2-CH2-)を表わす。他の実施形態においては、疎水性リンカーは少なくとも1つの無置換のエチレン基および少なくとも1つの単置換されたプロピレン基を含んでもよい。例えば、(CR1R2)a、(CR1R2)a'、(CR1R2)a''および(CR1R2)a'''の少なくとも1つは-CH2-CH2-でありかつ少なくとも1つは-C3H5(OH)-である。他の実施形態においては、疎水性リンカーは少なくとも2つの単置換されたプロピレン基を含んでもよい。例えば、(CR1R2)a、(CR1R2)a'、(CR1R2)a''および(CR1R2)a'''の少なくとも2つは-C3H5(OH)である。これらの実施形態において、アルキレン基はヘテロ原子または-O-、-S-、-NH-もしくは-C(O)N(H)-などのヘテロ原子を含む基により分離されていてもよい。これらの全ての組み合わせが意図されている。
【0050】
さらに特定すれば、一実施形態は、一般式(I)中のhetまたはhet'により分離された無置換のプロピレン基および無置換のエチレン基を組み込んでいて、ここで、例えば、a(またはa'')は3であり、a'(またはa''')は2であり、かつb(またはb')は1である。この実施形態においては、しかし、プロピレン基を1つのヒドロキシル基と置換してリンカーの全体疎水性を維持することは可能である。
【0051】
他の好ましい実施形態においては、疎水性リンカーはhetまたはhet'により分離された2つの無置換プロピレン基を含む。従って、一般式(I)について、aとa'が共に3である一方、bは1であるか、またはa''とa'''が共に3である一方、b'は1である。
【0052】
なお他の好ましい実施形態においては、疎水性リンカーはhetにより分離された無置換プロピレン基および少なくとも1つの無置換ペンチレン基を含み、こうして一般式(I)中のaは3であり、a'は5であり、そしてbは1であるリンカーに対応する。この実施形態において、プロピレン基はヒドロキシル基により1回置換されていてもよい。
【0053】
さらに他の好ましい実施形態においては、疎水性リンカーはアミノ部分により分離された2つの無置換プロピレン基を含む。それ故に一般式(I)については、aまたはa'は3であり、その他は0であり;a''またはa'''は3であり;hetおよびhet'は不在であり;そしてcは0である一方、dは1である。
【0054】
一般式(I)において、波線は、疎水性リンカーが結合している固体支持体を表わす。しかし、一般式(I)は、判りやすいように固体支持体に繋がれた唯一つのリンカー-末端結合官能基を示すことを理解されたい。本発明のクロマトグラフィ材料は、実際には、ほぼ50〜ほぼ150μmol/mL、好ましくはほぼ80〜ほぼ150μmol/mL、そしてより好ましくは100〜ほぼ150μmol/mLクロマトグラフィ材料のリンカー-末端結合官能基密度を有する。
【0055】
リガンドを、それが生理学的イオン強度で機能できるようにするマトリックスと結合するリンカーの型には窒素、硫黄基または酸素原子が含まれる。
【0056】
固体マトリックスの活性化はアフィニティクロマトグラフィで使用される周知の化学的手法を用いて達成することができる。好ましい手法の1つにはアリル基の使用が含まれる。これは固相マトリックスを臭化アリルまたはアリル-グリシジル-エーテルと反応させることにより得られる。
【0057】
タンパク質充填用バッファーは最も一般的にはPBSなどの生理学的バッファーである。多数の変法がpH、イオン強度および成分の性質に応じて可能である。吸着バッファーに対する改変剤も、とりわけ、疎水性会合のモジュレーションが必要である場合(疎水性会合を弱める)に使用可能である。これは最初のバッファーに界面活性剤、アルコール、尿素、チオ尿素、グアニジンなどを加えることにより行うことができる。
【0058】
脱着溶液はタンパク質を吸着剤から溶出することができる化学成分から成る。最も一般的には、トリフルオロ酢酸、アセトニトリルおよび水などの酸性pHの有機混合水溶液から成る。しかし、脱着溶液はアルカリpHであってかつアルコールまたは界面活性剤またはカオトロピック剤を含有してもよい。
【0059】
積み重ねた層は、疎水度の上昇順に異なる疎水性吸着剤の2層から10層までまたはさらに20層まで達してもよい。
【0060】
記載した原理を応用するために用いるデバイスは、上流のカラムの出口が次のカラムの入口と直接連結している積み重ねたカラムであってもよい。それは積み重ねた96-ウエルフィルタープレートのセットであってもよいし、またはタンパク質溶液を、詰められたスラリーモードの固体相吸着剤の一シリーズ全体に、連続して注入できるようにしたいずれかのデバイスであってもよい。
【0061】
記載した方法により分離するタンパク質は、生体液、例えば、血清、尿、CSF由来であり;それは組織可溶性抽出物であってもよい。この考えが意図する特定の態様は膜抽出物からの成分の分離である。これらを尿素の存在のもとに置いて、カラムの配列に充填してもよい。
【0062】
上記材料は、かかる複雑な化合物から生体分子材料を分離するための当業者に公知のいずれかの方式においておよびいずれかの装置によって使用されている。これらの材料を使用する公知のフォーマットとしては、カラムクロマトグラフィ、中圧液体クロマトグラフィ、高圧液体クロマトグラフィ、フラットサーフェイスまたは他の二次元アレイ(例えば、Ciphergen Biosystems(Fremont、CA)からのプロテインチップ(登録商標)アレイ)、または96-ウエルフィルタープレートが挙げられる。後者はパラレル分画に有用である。分離に使用される装置としてはさらに、等電点電気泳動を可能にする電位付加が挙げられる。さらに多数のフォーマットがタンパク質精製分野の業者には公知でありうる。
【0063】
一実施形態においては、吸着剤は最大濃度の生体分子材料を最初に除去するように選ぶ。例えば、ヒト血清のタンパク質組成の上から90%には次の成分が含まれる:アルブミン、IgG、トランスフェリン、α-1抗-トリプシン、IgA、IgM、フィブリノーゲン、α-2-マクログロブリン、および補体C3。ヒト血清の上からほぼ99%にはさらに次の成分が含まれる:アポリポプロテインA1およびB;リポプロテインA;AGP、因子H;セルロプラスム;プレアルブミン;補体因子B;補体因子C4、C8、C9、およびC19;およびα-糖タンパク質)を含む。残りの1%はいわゆるディープ・プロテオーム(deep proteome)を含有する。吸着剤を、プロテインA吸着剤およびCibacronブルー吸着剤が最初の2つとなるように配置すると、ヒト血清のダイナミックレンジ(dynamic range)をほぼ108からほぼ105へ低下させることができ、それにより低存在量の生体分子成分の捕獲して同定および定量が可能になる。フェニルプロピルアミンセルロースなどの吸着剤をカラムの終わりに置くと、サンプル中の残りの生体分子成分を捕獲するのに有用であることが多い。概して、もし最初の吸着剤があまりに一般的であると(すなわち、低特異性を有すると)、あまりにも多くの材料が最初の2つの吸着剤により隔離されるので、残りの吸着剤の有用性を減じうる。しかし、もし最初の吸着剤があまりにも特異的であれば(すなわち、高特異性を有すれば)、残りの吸着剤材料の効力は大きなサンプルダイナミックレンジにより低下しうる。一実施形態においては、吸着剤を、第1吸着剤、または第1および併用する第2吸着剤が少なくとも10のファクター、より特定すれば少なくとも100のファクター、そして、さらに特定すれば少なくとも1,000のファクターだけサンプルのダイナミックレンジの減少を提供するように選ぶ。
【0064】
従って、本発明は、異なる濃度の複数の高存在量の生体分子成分を含む複雑な混合物から高存在量の生体分子成分を欠乏させる方法であって、上記複雑な混合物を生体特異性吸着剤材料と接触させてそれにより低存在量の複雑な混合物を与える工程;ならびに上記低存在量の複雑な混合物を順に、混合モードの吸着剤材料および非特異性吸着剤材料と接触させてそれにより上記高存在量の生体分子成分の濃度のほぼ5%未満の濃度である生体分子成分を含有する欠乏した複雑な混合物を与える工程を含んでなる、上記方法を提供する。他の実施形態においては、本発明の方法は、上記高存在量の生体分子成分の濃度のほぼ1%未満の濃度である生体分子成分を含有する欠乏した複雑な混合物を与える。さらに他の実施形態においては、本発明の方法は、上記高存在量の生体分子成分の濃度のほぼ0.1%未満の濃度である生体分子成分を含有する欠乏した複雑な混合物を与える。さらに他の実施形態においては、本発明の方法は、上記高存在量の生体分子成分の濃度のほぼ0.01%未満の濃度である生体分子成分を含有する欠乏した複雑な混合物を与える。なおさらに他の実施形態においては、本発明の方法は、上記高存在量の生体分子成分の濃度のほぼ0.001%未満の濃度である生体分子成分を含有する欠乏した複雑な混合物を提供する。
【0065】
さらに他の実施形態においては、本発明は、本明細書に記載の複雑な混合物であって、上記欠乏した複雑な混合物が元来の複雑な混合物中に総タンパク質質量の5%未満;より特定すれば、総タンパク質質量の1%未満;さらにより特定すれば、総タンパク質質量の0.1%未満;なおより特定すれば、総タンパク質質量の0.01%未満;そしてさらになおより特定すれば、総タンパク質質量の0.001%未満含まれた化学種について濃縮された上記複雑な混合物を提供する。
【0066】
本発明のこの態様を図2の200において説明する、すなわち、この図において、複雑なサンプル、例えば、免疫グロブリン(IgG、トランスフェリン、α-1抗-トリプシン、IgA、IgM、およびハプトグロブリン)およびアルブミンなどの少なくとも1つの高濃度の生体分子成分を有するヒト血清を第1吸着剤202により吸着させて、成分濃度のダイナミックレンジを低下させる。例えば、吸着剤202は免疫グロブリンに対して高特異性を有するプロテインAであってもよい。この材料の第2吸着剤204への曝露はダイナミックレンジのさらなる低下を与える。かかる吸着剤はさらなる免疫グロブリン、アルブミン、および凝固因子、または支配的な他の化学種を吸着する大きな能力を有する他の吸着剤であってもよい。かかる吸着剤の一例はCibachronブルーまたはヘパリンである。かかる吸着剤は、先に考察したように10、または100、または1,000のファクターだけダイナミックレンジを低下することができる。吸着剤206へのさらなる曝露はより低存在量の成分の捕獲を可能にする。かかる吸着剤としては、染料、キレーター、または特異的成分に対する抗体などの混合モード材料が挙げられる。サンプル中の残りの成分は、フェニルプロピルアミン、シリカ、またはジルコニアなどの低特異性材料208に曝す。最後に、残りの溶出液を210に採集する。
【0067】
例えば、血清はタンパク質濃度の大きなダイナミックレンジ(〜108)を有する複雑な生体液である。最も高濃度のタンパク質にはアルブミンおよび免疫グロブリンが含まれる。従って、実施例に説明するように、吸着剤の有用な配列は、主なタンパク質を除去する大能力を有する吸着剤を分画の初期段階に(例えば、カラムのトップに)配置してこれらのタンパク質をサンプルから最初に除去する。第1吸着剤に続いて、より低存在量のタンパク質を除去する効力のある中および低特異性吸着剤を置く。しかし、樹脂に搭載した抗体などの高特異性吸着剤を用いて特異的低存在量の生体分子を捕獲することもできる。以下にさらに詳しく記載した1つの配列は、プロテインA-HyperD(免疫グロブリンを捕獲する)−ブルーTrisacryl M(アルブミンを捕獲する)−ヘパリン-HyperD−MEP-HyperCel−グリーン5-アガロース−酸化ジルコニア−フェニルプロピルアミン-Celである。プロテインAは免疫グロブリンを除去する。ブルーTrisAcryl Mはアルブミンを除去する。ヘパリン-HyperDは様々な凝固因子(血漿から)を除去する。MEP-HyperCelはプロテアーゼを除去する。グリーン5(混合モード吸着剤)は正味の正表面電荷を有するタンパク質を除去する。勿論、他の複雑な生体液を、開示した方法を用いて前分画することもできる。
【0068】
吸着剤を選んでカラム中に詰め終わるか、または他の方法で使用のために配置し終わると、サンプル溶液用のバッファー溶液を調製する。一般的に、バッファーは、分画に使用する様々な吸着剤材料と適合する(すなわち、バッファーが吸着剤の能力もしくは性能を実質的に損なわない)いずれのバッファー溶液であってもよい。かかる配慮はタンパク質精製業者にとって馴染みあるものであろう。本発明の一実施形態においては、バッファーは中性pHまたは生理学的制限内のpH値を有する。後者は、血液などの体液に由来するサンプルに用いることができる。さらに特定の実施形態においては、バッファーはpH=8を有し、0.1M Tris-HCl、16% PBS(リン酸緩衝化生理食塩水)および水を含有する。他の実施形態においては、最初に吸着剤の技術的特徴を用いてバッファー処方を評価し、次いでカラムにサンプルを流して分画を最適化するようにバッファーを繰り返し調節することにより決定する。かかる最適化は、その後の2D-ゲル上で生じるスポット数またはSELDI(Surface Enhanced Laser Desorption Ionization)などの質量分析計により同定したピーク数を決定する方法を含む。また、試験材料またはサンプルを公知の材料によりスパイクして、その材料が実質的に特定の吸着剤材料により吸着されたかを確認することもできる。かかる単離物を処方判定基準として用いてバッファーを調節して最終処方とすることができる。タンパク質精製分野の業者に明らかである他の判定基準を用いてもよい。例えば、もしサンプルが血液由来であれば、1つの判定基準は第1吸着剤材料によるサンプルからのアルブミンまたは免疫グロブリン除去の効率であってもよい。
【0069】
バッファーを決定した後、サンプル溶液を調製し、そしてカラムに溶液を充填する。一般的にサンプル濃度およびカラムに充填する溶液の量の決定は、タンパク質精製業者にとって公知の技法を用いて行いうる。いくつかの事例では、実験者は1つ、2つ、またはそれ以上の試験カラムを調製して最適濃度と充填量を決定しうる。一実施形態においては、サンプルをほぼ5倍に希釈して全体積100μLとし、準備した96ウエルプレートに充填する。他の実施形態においては、ほぼ20μLのサンプルをほぼ200μLに希釈し、準備したカラムにシリンジポンプを用いて送る。
【0070】
充填後、溶液をカラムまたは積重ねたプレート(または他の適当な装置)中の吸着剤を通過させると、サンプル中の生体分子成分は接触して吸着剤により捕獲もしくは隔絶されるかまたは次の吸着剤へ通過する。一実施形態においては、生体分子材料のそれぞれのサブセットを実質的に単一の吸着剤により単離し、生体分子成分の実質的な量が装置から溶出しないようにする。
【0071】
一実施形態においては、吸着剤は隣接生体分子を隔絶する構造体を形成する。従って、複雑な混合物の吸着剤の1シリーズの接触は連続的方法で行われ、そのシリーズ中の異なる吸着剤の間の妨害またはさらなる処理は起こらない。それぞれの生体分子成分のサブセットの捕獲後、それぞれの吸着剤材料を本体から切り取って(例えば、切断により)これにより吸着された生体分子成分のその後の処理を行うことができる。あるいは、商品名WIZARDのもとで販売されるような区切られたカラムを用いて、吸着剤および吸着された材料を保持する個々のエレメントを取外し、その後の処理を行うことができる。このように、カラム中のそれぞれの吸着剤含有セグメントは脱離可能である。
【0072】
従って、一態様においては、少なくとも3つの脱離可能なセグメントを含む装置であって、ここでそれぞれのセグメントが異なる吸着特異性を有する吸着剤を含みかつ上記セグメントが吸着剤の特異性低下の進行に従って配置された装置が提供される。一実施形態においては、セグメントは物理的にお互いと結合している。他の実施形態においては、セグメントはチューブまたは導管などの媒介手段により接続されて液経路を形成する。この実施形態においては、それぞれのセグメントは理想的には、流入および流出管の付属手段およびセグメント中の吸着剤の保持手段を含む。マルチウエルフィルタープレートをこの方式で用いてもよい。この点について、本明細書に参照により組み入れられる2005年5月25日出願の米国特許仮出願第60/684,177号に開示された流体デバイスは脱離可能なセグメントをもつマルチウエルプレートを提供しており、このデバイスは本発明のプラットホームとして有用である。
【0073】
吸着剤を単離した後に、隔絶した生体分子材料を吸着剤と生体分子材料にとって適当である公知の材料および技法を用いて溶出することができる。好適な溶出方法としては、限定されるものでないが、水への曝露、カオトロピック剤、離液性剤、有機溶媒、イオン強度の変化、pHの変化、温度の変化、圧力の変化、または以上のいずれかの2以上の組み合わせが挙げられる。
【0074】
溶出後、単離した生体分子材料をさらなる操作で処理してもよい。一実施形態においては、溶出した生体分子成分を第2の分離手順で処理する。第2の分離手順は本発明により提供されるもう一回の分画、通常の分画手順、一、二、もしくは多次元ゲル電気泳動、質量分析、および中圧もしくは高圧液体クロマトグラフィであってもよい。他の実施形態においては、生体分子成分の化学的同一性を確認する。かかる確認は蛍光定量法、質量分析(SELDIプローブ上の成分材料の析出と次のレーザー脱着イオン化質量分析を含む)、一、二、もしくは多次元ゲル電気泳動、および中圧もしくは高圧液体クロマトグラフィにより行うことができる。他の好適な方法としては、個々にまたは組合わせて、アミノ-または核酸配列分析、核磁気共鳴、およびX線結晶学が挙げられる。タンパク質化学分野の業者にはさらに多くの方法が明らかであろう。
【0075】
実施例1においては、75μLの吸着剤プロテインA、ジルコニア、ヘパリン、MEP、グリーン5、および150μLの吸着剤ブルーTrisacrylおよびフェニルプロピルアミンセルロースをWIZARDミニカラムの個々のエレメント中に詰めた。吸着剤を1ウエル当たり200μLの結合バッファー(PBS(16v)/1M Tris-HCl(pH8、9v)/H2O(75v))を用いて平衡化した。サンプル体積100μL(5倍希釈)の生体分子成分の溶液をカラムに通過させた。カラムエレメントを単離して吸着された材料を溶出した。溶出物を質量分析によって分析し、その結果を単一カラムを用いて得たサンプルの同じ質量分析と比較した。本発明の方法は従来技術の方法よりほとんど2倍の多い(89%多い)ピークを与えた。
【0076】
本発明はまた、以上に記載の生体分子成分の複雑な混合物を分画するための装置およびキットも提供する。
【0077】
一態様においては、本発明は生体分子成分の複雑な混合物を前分画するための装置を提供する。一実施形態においては、本発明の装置は、異なる生体分子成分に対して異なる吸着特異性を有する複数の上記吸着剤を含む。吸着剤は連続して結合されかつ液が連通し、上記緩衝化溶液中の混合物の導入および通過は複雑な混合物から成分の少なくとも一部分を除去するのに有効である。これらのエレメントの様々な実施形態は上記のように与えることができる。例えば、吸着剤を、ある型の生体分子成分に対する特異性の進行を与えるように配置することができる。かかる進行は線形でありうる。吸着剤はまた、実質的に隣接成分隔絶体として与えることもできる。吸着剤はカラムアセンブリーでまたは1シリーズの96ウエルプレートにより与えられるカラムのアレイで配置することができる。他の実施形態においては、該装置に対する吸着剤は、(a)高特異性吸着剤、(b)中特異性吸着剤材料、および(c)低特異性吸着剤材料を含むように選ばれる。
【0078】
他の態様においては、本発明は、異なる生体分子成分型に対する異なる吸着特異性により特徴付けられる複数の吸着剤および適合しうるバッファーを含むキットを提供する。その組み合わせは、該材料をシリーズ配置で結合すると、材料の上記シリーズ配置を介する(i)上記複雑な混合物および(ii)上記バッファーを含む緩衝化溶液の導入および連続通過が、上記複雑な混合物から上記複数の生体分子成分の実質的に全てを捕獲するのに有効であるように選ばれる。他の実施形態においては、該装置に対する吸着剤は、(a)高特異性吸着剤、(b)中特異性吸着剤材料、および(c)低特異性吸着剤材料を含むように選ばれる。
【実施例】
【0079】
以下の実施例は、本発明のある特定の実施形態を説明するために、本発明を理解する手引きとして与えるものであって、決して本発明の範囲を限定すると解釈してはならない。試薬の説明および一般的手順を以下に与える。
【0080】
材料
真空ユニットはWhatman(Clifton、NJ、USA)より入手した。MICROMIXミキサーはDPC(Los Angeles、CA、USA)より入手した。MINIPULS III蠕動ポンプはGilson(Middleton、WI、USA)より入手した。Q-HYPERD F(登録商標)、プロテインA CERAMIC HYPERD(登録商標)、ブルーTRIS ACRYL(登録商標)、ヘパリンHYPERD(登録商標)、MEP-HYPERCEL(登録商標)、セルロースに固定したグリーン5、ジルコニアおよびフェニルプロピルアミンセルロース吸着剤は、販売元(Ciphergen/BioSepra, 48 Avenue des Genottes, Cergy St. Christophe, France)より購入した。SILENT SCREEN LOPRODYNEフィルタープレートはNUNC(Rochester、NY、USA)より購入した。WIZARDミニカラムはPromega(Madison、WI、USA)より購入した。シナピン酸(SPA)はCiphergen Bioinstruments(Fremont、CA、USA)より購入した。1モルTris-HCl pH 8ストックバッファーはInvitrogen(Carlsbad、CA、USA)より購入した。ヒト血清はIntergen(Norcross、GA、USA)より購入した。ウシインスリン、PBSバッファー、トリフルオロ-酢酸(TFA)、イソプロパノール(IPA)、アセトニトリル(ACN)、アンモニア29%(NH4OH)溶液はSigma-Ultraより購入した。尿素、CHAPS、Trisma塩基、オクチル-グルコピラノシド(OGP)、HEPES、酢酸ナトリウム、およびクエン酸ナトリウムはSigma-Aldrich(St. Louis、MO、USA)より購入した。
【0081】
変性ヒト血清サンプルの調製
変性ヒト血清のサンプルは、ヒト血清2mlを9M尿素-2%CHAPS溶液2.5mlとほぼ1時間室温にて組合わせることにより調製した。その溶液のアリコートをとって凍結した。次いでこの変性血清0.4mlに1M Tris-HCl pH 9のストックバッファー36μl、9M尿素-2%CHAPS溶液100μl、およびDI水364μlを加えて、ヒト血清の全20%希釈を得た。
【0082】
ウシインスリンによるヒト血清のスパイキング
0.1M Tris-HCl(pH 8)中の1μMウシインスリン(Sigma)溶液を未変性または変性ヒト血清に加え、100、10、または1フェトモル/血清マイクロリットル(fMol/μL)の最終インスリン濃度を得た。
【0083】
SELDI-MS分析
体積30μlを有する溶液のサンプルプールを、使用するプロテインチップアレイ(IMAC30、CM10、Q10またはH50アレイ)に対応する結合バッファー(0.5M NaClを含む0.1Mリン酸ナトリウムpH 7(IMAC30)、0.1M酢酸ナトリウムpH 4(CM10)、5OmM Tris-HCl pH 9(Q10)、および0.1%TFA、10%アセトニトリル(H50))中に半希釈した。30分間室温にてインキュベーションの後、アレイを結合バッファー150μLを用いて2回洗浄しそして脱イオン(DI)水を用いて大規模に洗浄した。シナピン(SPA)飽和溶液のアリコート0.5μLを2回加えた後にリーダーで読み取った。それぞれのタンパク質チップアレイ上のユニークなピークの計数を、プロテインチップ・ソフトウエア3.2.0(Ciphergen Biosystems、Fremont、CAより入手可能)を用いて実施した。4つのアレイのクラスター形成後のピーク計数は、1以上のアレイで検出された同じ質量のピークを1回だけ計数した。IMAC30、CM1O、Q1OおよびH50プロテインチップアレイは、それぞれニトリロ-酢酸-、カルボキシメチル-、四級アンモニウム-、およびC16-疎水性部分により官能化した。
【0084】
分画プロトコルの説明
実施例1:96-ウエルフィルタープレートにおけるヒト血清のマルチケミストリー分画
それぞれのフィルタープレートにただ1つの吸着剤ケミストリーを割付けて、1ウエル当たり上記吸着剤75μLを用いて満たしたが、但しブルー-Trisacrylおよびフェニルプロピルアミンセルロースはそれぞれ1ウエル当たり150μlを用いた。それぞれの吸着剤を、1ウエル当たり結合バッファー(PBS(16v)/1M Tris-HCl(pH 8、9v)/H2O(75v))200μLを加えて5分間浸漬することにより平衡化し、次いでバッファーを真空除去した。平衡化手順を4回繰り返して完全な平衡化を達成した。吸着剤をプレートに表4に示した通り割当てた。
【表4】

【0085】

0.1M Tris-HCl pH 8バッファーに5倍希釈しておいた(ウシインスリンをスパイクしたまたは純粋な)ヒト血清100μLのアリコートを、プロテインA吸着剤を満たしておいたプレート1のウエルに加え、そして20分間ミキサー(レベル7に強度を設定)でインキュベートした。次いでこの吸着剤上清を、受入れプレートとして真空ユニットに取付けたプレート2(ブルーTrisacryl)上で直接濾過して取出した。プレート1に結合バッファー160μlを受け入れて第1回の洗浄を行った。プレート1と2をそれぞれミキサーで20分間インキュベートした。プレート2の上清をプレート3(ブルーTrisacryl)に上記のように移し、そしてプレート1の上清をプレート2に移した。次いでプレート1に結合バッファーの第2アリコート(160μL)を受け入れて第2回の洗浄を行った。3つのプレート1〜3をミキサーで20分間インキュベートした。同じ手順を続け、その場合、いずれかのプレート「N」からの上清をプレート「N+1」へ真空で引いて移した。プレート1は上清を真空移動した後に、全部で5回、結合バッファーを用いて洗浄した。
【0086】
最終プレート8(フェニルプロピルアミン)からの全ての上清を空の96プレートに移して分析用の流通画分を得た。結合した材料の溶出は、プレート1、5、および8に対してはTFA(0.4v)/H2O(39.6v)/ACN(3.3v)/DPA(6.7v)の溶液、またはプレート2、3、4、6、および7に対してはNH4OH(4v)/H2O(36v)/ACN(3.3v)/IPA(6.7v)の溶液160μlを加えて行い、次いで全プレートのインキュベーションをミキサー上で20分間行った。空の標識した96ウエルプレート中に全ての溶出液を真空移動して溶出画分を得た後、同じ溶出操作の2回目を繰り返した。同じウエル由来の全ての溶出液(2 x 160μL)を上記プレートにプールし、凍結し、そして凍結乾燥した。全ての凍結乾燥した画分を25mM Tris-HCl(pH7.5)100μLに溶解した後、分析した。
【0087】
96-ウエルフィルタープレートによる(ウシインスリンによるスパイクしたまたはしない)ヒト血清の参照陰イオン交換分画プレート
1枚のフィルタープレートを1ウエル当たり90μLのQ-HYPER D FTMを用いて満たした。1ウエル当たり200μLの結合バッファー(1M尿素/0.22% CHAPS/50mM Tris-HCl pH 9)を加えて5分間浸漬することにより、それぞれのウエル中の吸着剤を平衡化した。次いでバッファーを真空により除去した。この操作を4回繰り返して完全な平衡化を達成した。
【0088】
40mM Tris-HCl pH9バッファーに5倍希釈した、サンプル体積100μLの変性ヒト血清(ウシインスリンでスパイクしたまたはしない)(第4.2.5.1節のプロトコルを参照)を吸着剤に加えて45分間ミキサー(強度設定7)上でインキュベートした。次いで吸着剤上清を空の96ウエルプレートへ直接濾過して取り出し、流通画分を得た。次いで、100μLの50mM Tris-HCl pH 9/0.1%OGPバッファーをビーズに加え、この組合わせたものを10分間ミキサー(強度設定7)上でインキュベートした。次いで上清を濾過して取り出し、先の流通画分とプールした。次いでpH低下による段階溶出を、100μLの50 mM HEPES pH 7/0.1%OGPバッファーのビーズへの添加とミキサー(強度設定7)上の10分間インキュベーションにより開始した。他の空の96ウエルプレート中へのHEPES上清の真空移動後に、同じ工程を繰り返し;そして2つのHEPES溶出液を一緒にプールしてpH 7の200μl画分を得た。同じ工程(2 x 100μl)を次の酸性溶出液のそれぞれに対して、100mM酢酸ナトリウムpH 5、100mM酢酸ナトリウムpH 4、50 mMクエン酸ナトリウムpH 3および0.1%TFA/16.6%ACN/33.3%IPA(有機)溶液を用いて繰り返した。溶出の終わりに、6画分(流通、pH 7、pH 5、pH 4、pH 3および有機)の分析の準備ができた。
【0089】
ピーク計数の結果
本発明のマルチケミストリー分画方法は、Q-HYPERD上の標準分画と比較すると、ユニークなピーク数(クラスター化した4-アレイ)ならびに全ピーク数(4-アレイの和)を倍加することができる(表5および図3を参照)。
【表5】

【0090】

実施例2:ウシインスリンをスパイクしたヒト血清のミニカラム上でのマルチケミストリー分画
それぞれの使い捨てWIZARDカラムを、次の7つの異なる吸着剤の1つの125μLを用いて満たした:プロテインA(1ユニット)、ブルーTrisacryl(3ユニット)、ヘパリン(1ユニット)、MEP(1ユニット)、グリーン5(1ユニット)、およびフェニルプロピルアミン(2ユニット)。10ユニットのスタックを結合バッファー(PBS(16v)/1M Tris-HCl pH8(9v)/H2O(75v))を用いて0.2ml/minの流速で蠕動ポンプを用いて平衡化した。サンプル注入のときは流量を0.01ml/minに減少した。プロテインA第1ユニットのトップに、0.1M Tris-HCl pH 8バッファーに5倍希釈したヒト血清(ウシインスリンをスパイクしたまたはそのままの)166μLを注入した。カラムスタックのボトムにおける最初の1.25mLの採集物を捨て、次の1.25mL溶出液を流通画分として採集した。次いで10カラムユニットの接続を外して、全ての吸着剤内容物をカラムから1.5mLミクロチューブに、次の溶出液を用いて追い出した:プロテインA、Mep、およびフェニルプロピルアミン吸着剤に対してはTFA(0.4v)/H2O(39.6v)/ACN(3.3v)/IPA(6.7v)、そしてブルーTrisacryl、ヘパリン、グリーン5およびジルコニア吸着剤に対してはNH4OH(4v)/H2O(36v)/ACN(3.3v)/IPA(6.7v)。吸着剤と溶出物の混合物を含有するミクロチューブを1時間静かに混合することにより、溶出を完全に実施した。上清を遅い遠心分離により回収し、同じケミストリー吸着剤(ブルーTrisacrylまたはフェニルプロピルアミン)由来のものはプールした。7つの異なる化学成分に対応する7つの溶出液のサンプルそれぞれ300μLを凍結し、凍結乾燥し、そして分析前に100μlの25mM Tris-HCl pH 7.5中に再溶解した。
【0091】
ヒト血清中にスパイクしたウシインスリンの画分分布における低い重複性
図4は本発明の利点を説明する。本発明の方法の方法を用ると、インスリンでスパイクしたサンプルは特異性吸着剤ケミストリー上で検出された(MEP-HYPERCEL、カラムA)。対照的に、実施例1に記載の陰イオン交換分画プレートにより代表される従来の方法を用いると、この広がりによる望ましくないシグナル希釈によって、インスリンはQ-HYPER-Dからのほとんどの溶出画分中に検出された(カラムB)。
【0092】
ヒト血清中にスパイクしたウシインスリンに対するマルチプル分画により得られるより高い感度
図5は本発明の方法により得られる感度の直接的利点を示す。インスリンを特異性吸着剤ケミストリー上に捕獲する本発明の方法の能力は、ヒト血清中の1fMol/μLの低い濃度を提供する(カラムA)。従来の技術である単一ケミストリー分画方法(Q-HyperD)を用いると、感度の2-log低下が観察された(100fMol/μL、カラムB)。従って本発明の方法は、低存在量のタンパク質または他の生体分子種の検出および同定を著しく改善する。
【0093】
実施例3:疎水度によるヒト血清タンパク質の分離
一級アミン類をリガンドとして含有するC2、C4、C8炭化水素鎖をもつ3つの脂肪族疎水性支持体を3つの異なるPromegaカラム(1カラム当たり吸着剤125μL)に詰めた。
【0094】
これらの疎水性吸着剤は、そのユニークな化学構造の結果として、生理学的条件のイオン強度とpHにおいてタンパク質と疎水性会合を形成することができる(本明細書に参照により組み入れられる国際特許出願第PCT/US2005/001304号を参照)。この特性は本実施例にとって非常に有用である、というのはタンパク質相互作用に用いるバッファーは全ての選択した吸着剤に対して同じでありかつ一般的な疎水性クロマトグラフィと同様に離液性剤を含有しないからである。
【0095】
カラムをリン酸緩衝化生理食塩水(150mM塩化ナトリウムを含有する10mMリン酸バッファー、pH7.2)を用いて平衡化し、そして直列に配置した;すなわち、第1カラムの出口を第2カラムの入口にと順送りに接続した。アルブミン欠乏血清(タンパク質濃度:5mg/mL)200μLを吸着剤のシリーズに導入した。次いでサンプルを、セクショナルカラムを通して最初のリン酸緩衝化生理食塩水の生理学的溶液を用いて押出し、流通液中のUV吸収が存在しなくなるまで続けた。
【0096】
次いでカラムを分離し、そしてそれぞれから、吸収されたタンパク質をTFA/ACN/IPA/水(0.8%-6.7%-13.4%-79.2%)の混合物を用いて溶出した。回収したタンパク質を次に一次元電気泳動とSELDI MSにより分析した。
【0097】
図6と7は、それぞれの吸着剤が異なるタンパク質を捕獲することを実証する。異なるカテゴリーのほとんどのタンパク質が逐次的にC2およびC4吸着剤により捕獲された。C8カラムは先行する吸着剤により先に捕獲されなかったユニークな化学種を吸着した。
【0098】
実施例4:疎水度によるヒト血清タンパク質の分離
先の実験は分離原理の有効性を実証する一方、最初の2つのカラムはサンプル中のタンパク質の大部分を吸着した。
【0099】
疎水性に基づくタンパク質のより優れた分画を達成するために、異なる脂肪族鎖吸着剤のシリーズ:C1、C2、C3、C4、およびC6を用いた。前のように、これらの吸着剤のリガンドは一級アミン類を含有した。国際特許出願第PCT/US2005/001304号を参照されたい。
【0100】
C1は疎水会合に対して狭い特異性を有し、それ故に、最も疎水性の化学種と相互作用する。逆に、最も疎水性のセクショナルカラム(C6)は疎水会合に対して大きい特異性を有し、それ故に、先行するカラムによる捕獲を逃れた全てのタンパク質を吸着すると予想され、それには疎水会合に対して弱い特性をもつタンパク質が含まれる。
【0101】
HIC吸着剤のシリーズを2つの異なるバッファーを用いて別の実験で評価した。1つの事例では、先の実施例に記載したのと同じ条件を使用し、そして第2の事例では2M尿素を含有する生理学的バッファーを使用した。後者のバッファーは吸着剤に対するタンパク質の疎水性相互作用を若干低下させるために使用した。
【0102】
サンプル充填および洗浄の後、カラムを分離して先の実施例のように溶出した。採集したタンパク質を次に一次元電気泳動(SDS-PAGE)およびSELDI MSにより分析した。分析データは、異なるセクションカラムに吸着されかつそれから溶出したタンパク質がその電気泳動移動度が異なりかつ異なる分子量を有することを示した。
【0103】
第1の実験(尿素の非存在)において、タンパク質は吸着剤シリーズ(C1〜C3)の最初の部分に位置した。第2の実験(尿素を用いた)においては、タンパク質は下流の次の疎水性カラムに移動した。
【0104】
尿素を用いる実験について、図8は、尿素2Mの存在のもとで吸着されかつ異なるセクショナルカラムから溶出されたタンパク質は異なる電気泳動移動度と質量を持つことを示す。図9は、C1、C2、C3、C4、C6およびFT(流通物)から溶出したタンパク質画分のQ10プロテインチップアレイを用いるSELDI MS分析を与え、2M尿素を含有する生理学的バッファーを使用している。同様に、図10は、C1、C2、C3、C4、C6およびFT(流通物)から溶出したタンパク質画分のCM1Oプロテインチップアレイを用いるSELDI MS分析を与え、2M尿素を含有する生理学的バッファーを使用している。
【0105】
従って、本発明は、生体分子成分の複雑な混合物を分画または前分画するための方法、装置、およびキットを提供する。本発明による方法、装置、およびキットは、従来可能であったより大きい感度でかつ容易に生体分子成分を検出する手段を提供し、従って多くの他の応用においてもより優れた研究および診断のツールを提供する。本明細書に記載の材料の多くの他の例が、本発明の精神と範囲から逸脱することなく、本明細書に記載のように利用しうることがさらに理解されよう。特に、生体分子成分に対する吸着剤として有効ないずれかの材料またはかかる成分を検出しかつ同定するいずれかの方法は本明細書に記載のように利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の方法の一実施形態を説明する。
【図2】本発明の一実施形態によるものであって、高存在量の生体分子種に対して高特異性を有する吸着剤から特定の生体分子種に対して低特異性を有する吸着剤までの範囲にわたる逐次的な吸着剤上のサンプルの連続通過による、サンプルのダイナミックレンジの低下およびサンプル中の生体分子成分の捕獲を説明する。
【図3】本発明の分画方法を他の分画方法と比較するグラフである。
【図4】実施例2に記載した実験結果のグラフであり、本発明の優れた分解能を示す。本発明の方法を用いると、インスリンをスパイクしたサンプルは特異的吸着化学(MEP-HYPERCEL、カラムA)上で検出された。対照的に、従来技術の方法を用いると、インスリンはQ-HYPER-Dからのほとんどの溶出画分中に検出され、この伝播によって望ましくないシグナル希釈が起こった(カラムB)。
【図5】実施例2に記載した実験結果のグラフであり、本発明の優れた分解能を示す。インスリンを特異的吸着ケミストリーで捕獲する本発明の方法の能力により、ヒト血清中の1fMol/μLの低濃度を検出することができた(カラムA)。従来技術である単一ケミストリーの分画方法(Q-HyperD)を用いると、感度の2-log低下が観察された(100fMol/μL、カラムB)。
【図6】プロテインチップ(登録商標)アレイCM10を用いて得たSELDI MSデータを与える質量分析グラフである。a:最初の血清タンパク質;b:C2カラム;c:C4カラム;d:C8カラム。分析した分子量範囲は2000〜10000 Daである。
【図7】プロテインチップ(登録商標)アレイQ10を用いて得たSELDI MSデータを与える質量分析グラフである。a:最初の血清タンパク質;b:C2カラム;c:C4カラム;d:C8カラム。分析した分子量範囲は1000〜6000 Daである。
【図8】還元条件下のタンパク質画分のSDS PAGE分析を与える。「a」は、移動後にクーマシーブルーにより染色したタンパク質を表わし;「b」は、C3、C4、C6およびFT(流通画分)から溶出した画分を銀染色を用いて表わす。
【図9】Q10 プロテインチップアレイを使い、2M尿素を含有する生理学的バッファーを用いてC1、C2、C3、C4、C6およびFT(流通画分)から溶出したタンパク質画分のSELDI MS分析を与える質量分析グラフである。
【図10】CM10 プロテインチップアレイを使い、2M 尿素を含有する生理学的バッファーを用いてC1、C2、C3、C4、C6およびFT(流通画分)から溶出したタンパク質画分のSELDI MS分析を与える質量分析グラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a.特異性低下の進行に従って配置された少なくとも3つの異なる吸着剤のシリーズを提供する工程;
b.複雑な混合物を吸着剤の上記シリーズに導入する工程;
c.上記複雑な混合物を上記吸着剤のそれぞれと連続的に接触させる工程;および
d.生体分子成分を上記複雑な混合物から上記吸着剤上に捕獲sる工程であって、上記吸着剤のそれぞれが複数の生体分子成分の実質的にユニークなサブセットを捕獲する工程;
を含んでなる方法。
【請求項2】
上記吸着剤が高特異性、中特異性、および低特異性からなる群より選択される特異性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記吸着剤の少なくとも1つが高特異性吸着剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記吸着剤の少なくとも1つが中特異性吸着剤である、請求項1に記載の方法.
【請求項5】
上記吸着剤の少なくとも1つが低特異性吸着剤である、請求項1に記載の方法.
【請求項6】
吸着剤の上記シリーズが少なくとも1つの高特異性吸着剤、少なくとも1つの中特異性吸着剤および少なくとも1つの低特異性吸着剤を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記シリーズ中の上記吸着剤の全てが高特異性吸着剤、中特異性吸着剤または低特異性吸着剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも2つの吸着剤が同程度の特異性を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記連続的に接触させる工程が連続的方法として行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
上記複雑な混合物から全ての生体分子成分を実質的に完全に除去する上記吸着剤を選択する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
上記吸着剤の少なくとも1つから上記生体分子成分を溶出する工程を含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
上記溶出する工程が上記少なくとも1つの吸着剤を水、カオトロピック剤、離液性剤、有機溶媒、イオン強度の変化、pHの変化、温度の変化、圧力の変化、またはそれらの組み合わせに曝露する工程を含んでなる、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
上記溶出された生体分子成分を第2の分離手順で処理する工程をさらに含んでなる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの捕獲された生体分子成分を検出する工程をさらに含んでなる、請求項10、13または14に記載の方法。
【請求項15】
上記検出が質量分析、一次元および多次元ゲル電気泳動、蛍光分析法、高圧液体クロマトグラフィ、中圧力液体クロマトグラフィからなる群より選択される方法を用いる検出を含んでなる、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
上記検出した生体分子成分の化学的同一性を決定する工程をさらに含んでなる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
上記混合物成分をSELDIプローブの吸着剤表面上で捕獲しかつ上記混合物の化学的同一性をレーザー脱着イオン化質量分析により決定する工程をさらに含んでなる、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
上記吸着剤を実質的に隣接成分隔絶体を形成するように配置する工程をさらに含んでなる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
上記吸着剤を、少なくとも1つの成分型について吸着特異性の実質的に線形の増加に従って配置する工程をさらに含んでなる、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
上記吸着剤のそれぞれが炭化水素鎖およびアミンリガンドを含む疎水性吸着剤であり、その場合、シリーズのそれぞれの吸着剤の炭化水素鎖が前の吸着剤の炭化水素鎖より多い炭素を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項21】
上記吸着剤がC1、C2、C3、C4、C5およびC6からなる群より選択される炭化水素鎖を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
複雑な混合物を逐次的に(a)生体特異性吸着剤材料、(b)混合モードの吸着剤材料、および(c)非特異性吸着剤材料と接触させ、それにより上記複雑な混合物から複数の生体分子成分を捕獲する工程を含んでなる方法。
【請求項23】
上記材料のシリーズの少なくとも1つから上記生体分子成分を溶出する工程をさらに含んでなる、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
上記溶出した生体分子成分を第2の分離手順に供する工程をさらに含んでなる、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
少なくとも1つの捕獲した生体分子成分を検出する工程をさらに含んでなる、請求項23または25に記載の方法。
【請求項26】
上記検出が質量分析、一次元および多次元ゲル電気泳動、蛍光分光、高圧液体クロマトグラフィ、中圧液体クロマトグラフィからなる群より選択される方法を用いる検出を含む、請求項25に記載の方法。
【請求項27】
上記検出した生体分子成分の化学的同一性を決定する工程を含んでなる、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
上記混合物成分をSELDIプローブの吸着剤表面上に捕獲しかつレーザー脱着イオン化質量分析により上記混合物成分の化学的同一性を決定する工程をさらに含んでなる、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
上記材料の少なくとも1つから上記混合物成分を溶出する工程をさらに含んでなる、請求項20に記載の方法。
【請求項30】
複雑な混合物を生体特異性吸着剤材料と接触させ、それにより上記複雑な混合物のダイナミックレンジを少なくとも10のファクターだけ低下させて低存在量の複雑な混合物を得る工程;および上記低存在量の複雑な混合物を、順に、混合モード吸着剤材料および非特異性吸着剤材料と接触させてそれにより実質的に全ての上記複数の生体分子成分を上記複雑な混合物から捕獲する工程を含んでなり、ここで、上記材料は上記複数の生体分子成分の実質的にユニークなサブセットを捕獲する方法。
【請求項31】
少なくとも1つの吸着剤材料から上記生体分子成分を溶出する工程をさらに含んでなる、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
上記溶出した生体分子成分を第2の分離手順で処理する工程をさらに含んでなる、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
少なくとも1つの捕獲した生体分子成分を検出する工程をさらに含んでなる、請求項31または32に記載の方法。
【請求項34】
上記検出が質量分析、一次元および多次元ゲル電気泳動、蛍光分光、高圧液体クロマトグラフィ、中圧液体クロマトグラフィからなる群より選択される方法を用いる検出を含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
上記検出した生体分子成分の化学的同一性を決定する工程をさらに含んでなる、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
上記混合物成分をSELDIプローブの吸着剤表面上に捕獲しかつレーザー脱着イオン化質量分析により上記混合物成分の化学的同一性を決定する工程をさらに含んでなる、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
異なる生体分子成分型に対する異なる吸着特異性により特徴付けられる少なくとも3つの吸着剤を含む装置であって、上記吸着剤が特異性低下に従った連続配置で結合された上記装置。
【請求項38】
上記吸着剤を少なくとも1つの生体分子成分型に対する親和性の増加を規定するように配置された、請求項37に記載の装置。
【請求項39】
上記装置が実質的に隣接成分隔絶体を規定する、請求項38に記載の装置。
【請求項40】
上記装置が少なくとも1つの生体分子成分型に対する吸着特異性の実質的に線形の増加を規定する、請求項39に記載の装置。
【請求項41】
上記装置がカラム状である、請求項40に記載の装置。
【請求項42】
上記装置がカラムのアレイを規定する、請求項40に記載の装置。
【請求項43】
上記装置は少なくとも1つの生体分子成分型に対する吸着特異性の実質的に線形の増加を規定する、請求項37に記載の装置。
【請求項44】
上記装置がカラム状である、請求項43に記載の装置。
【請求項45】
上記装置がカラムのアレイを規定する、請求項44に記載の装置。
【請求項46】
上記装置が積み重ねたマルチウエルフィルタープレートフォーマットで提供される、請求項45に記載の装置。
【請求項47】
(a)高特異性吸着剤、(b)中特異性吸着剤および(c)低特異性吸着剤を順に含む装置であって、上記吸着剤が連続配置で結合され、(i)複雑な混合物および(ii)上記材料と適合しうるバッファーを含む緩衝化溶液の連続的に上記材料の連続配置を介する導入および通過は、上記複雑な混合物成分から上記生体分子成分の全てを実質的に除去するのに有効である上記装置。
【請求項48】
上記材料が少なくとも1つの生体分子成分型に対する親和性の増加を規定するように配置された、請求項47に記載の装置。
【請求項49】
上記装置が実質的に隣接成分隔絶体を規定する、請求項48に記載の装置。
【請求項50】
上記装置が少なくとも1つの生体分子成分型に対する吸着特異性の実質的に線形の増加を規定する、請求項49に記載の装置。
【請求項51】
上記装置がカラム状である、請求項50に記載の装置。
【請求項52】
上記装置がカラムのアレイを規定する、請求項50に記載の装置。
【請求項53】
上記装置が少なくとも1つの生体分子成分型に対する吸着特異性の実質的に線形の増加を規定する、請求項47に記載の装置。
【請求項54】
上記装置がカラム状である、請求項53に記載の装置。
【請求項55】
上記装置がカラムのアレイを規定する、請求項54に記載の装置。
【請求項56】
上記装置を積み重ねたプレートフォーマットで提供する、請求項55に記載の装置。
【請求項57】
サンプル中の異なる生体分子成分に対する異なる吸着特異性により特徴付けられる少なくとも3つの吸着剤およびその吸着剤と適合しうるバッファーを含んでなるキット。
【請求項58】
上記材料が少なくとも1つの生体分子成分型に対する親和性の進行を規定するように配置されている、請求項57に記載のキット。
【請求項59】
上記捕獲生体分子成分を上記吸着剤から溶出するのに有効である溶出バッファーをさらに含む、請求項57に記載のキット。
【請求項60】
上記捕獲生体分子成分を上記吸着剤から溶出するのに有効である溶出バッファーをさらに含む、請求項59に記載のキット。
【請求項61】
上記吸着剤がイオン交換、疎水性相互作用クロマトグラフィ、アフィニティクロマトグラフィおよびイムノアフィニティからなる群より選択される技法に基づいて生体分子成分と相互作用する、請求項57に記載のキット。
【請求項62】
上記吸着剤がプロテインA、ブルーTrisacryl、ヘパリン、Mep、グリーン 5、ジルコニアおよびフェニルプロピルアミンセルロースからなる群より選択される、請求項57に記載のキット。
【請求項63】
異なる生体分子成分型に対する異なる吸着特異性により特徴付けられる(a)高特異性吸着剤、(b)中特異性吸着剤、および(c)低特異性吸着剤および適合しうるバッファーを含んでなるキット。
【請求項64】
上記吸着剤が少なくとも1つの生体分子成分型に対する親和性の増加を規定するように配置されている、請求項63に記載のキット。
【請求項65】
上記捕獲生体分子成分を上記吸着剤から溶出するのに有効である溶出バッファーをさらに含む、請求項63に記載のキット。
【請求項66】
上記捕獲生体分子成分を上記吸着剤から溶出するのに有効である溶出バッファーをさらに含む、請求項63に記載のキット。
【請求項67】
少なくとも3つの脱離可能なセグメントを含んでなる装置であって、それぞれのセグメントが異なる吸着剤特異性を有する吸着剤を含んでなりかつ上記セグメントが吸着剤の特異性低下に従って配置された上記装置。
【請求項68】
上記装置がカラム状である、請求項67に記載の装置。
【請求項69】
上記装置がカラムのアレイを規定する、請求項67に記載の装置。
【請求項70】
上記装置が積み重ねたマルチウエルフィルタープレートフォーマットで提供される、請求項67に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公表番号】特表2008−503725(P2008−503725A)
【公表日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−516785(P2007−516785)
【出願日】平成17年6月16日(2005.6.16)
【国際出願番号】PCT/US2005/021489
【国際公開番号】WO2006/007429
【国際公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【出願人】(504121623)バイオ−ラッド・ラボラトリーズ・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】