説明

マルチトラックレコーダ装置

【課題】マルチトラックレコーダ装置において、効率的にステレオ録音を行う。
【解決手段】マルチトラックレコーダ装置は、入力端子10から入力された音声信号をそれぞれ記憶媒体22の異なるトラックに記録するマルチトラック録音を行うと同時に、各音声信号をミックスダウンしてステレオ信号を生成してさらに異なるトラックに記録するステレオ録音を実行する。マルチ録音ファイルとステレオ録音ファイルは別個に作成され、ステレオ録音のみが必要な場合にはステレオ録音ファイルのみを読み出して再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の入力端子から入力される音声信号をそれぞれ異なるトラックに録音する機能を備えたマルチトラックレコーダ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、複数の入力端子から入力される音声信号をそれぞれ異なるトラックに録音するマルチトラック録音や、複数の入力端子から入力される音声信号をミキシングして録音するミキシング録音、あるいは録音したトラックを再生して2トラックにミックスダウンしてステレオ録音する技術が知られている。例えば、音楽の制作現場において、楽曲を構成するドラムやベース、ギター等の各楽器の音を、それぞれ異なるトラックに録音し、制作者(ミキシングエンジニア)が全体のバランスを考慮しながら各楽曲の音量バランスを調整し、最終的に2チャンネルステレオの楽曲を作成する等である。ミキシング作業においては、エコーやリバーブ等のエフェクト処理も必要に応じて行われる。下記の特許文献1には、複数の音声信号入力手段から入力された音声信号をミキシングし、ミキシングした音声信号をデータ圧縮して記録する技術が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、少なくとも、未録音の媒体又は消去後の媒体に最初に録音を行う作業と、録音済みトラックを再生モニタしつつ別のトラックに新たな入力信号を録音する作業と、録音済みトラックをそのまま、あるいは新たな入力信号とミキシングして別トラックに録音する作業と、録音済みトラックをある区間だけ部分的に録音し直す作業と、録音済みトラックに録音された信号をそのまま、あるいはミキシングして出力する作業とを含む各種作業形態に応じて、ミキサとレコーダの接続状態を自動設定する技術が開示されている。
【0004】
さらに、特許文献3には、ピンポン録音のミックスダウン作業のやり直し時に、全ての音楽パートをモニタしながらミックスダウン作業を行えるようにする技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平08−124296号公報
【特許文献2】特許第2560496号
【特許文献3】特許第4003419号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マルチトラック録音された音声信号を再生してミックスダウンする場合、マルチトラック録音工程とミックスダウン工程という二つの工程を経ることとなり、作業が煩雑となる。ユーザが本来的に必要なのがステレオ録音である場合、マルチトラック録音は必要でないにもかかわらずマルチトラック録音を実行し、これを再生した後でなければ所望のステレオ録音が得られない問題がある。
【0007】
本発明は、ステレオ録音が迅速に得られるとともに、ステレオ録音に何らかの不具合が生じた場合においても、再度録音する必要がなく所望のステレオ録音を得ることができる装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マルチトラックレコーダ装置であって、複数の入力端子から入力された音声信号を記憶媒体のそれぞれ異なるトラックに記録するマルチトラック録音手段と、前記マルチトラック録音手段による録音と並行して、前記複数の入力端子から入力された音声信号をミキシングしてステレオ信号を生成し、さらに異なるトラックに記録するステレオ録音手段とを有することを特徴とする。
【0009】
本発明の1つの実施形態では、前記ステレオ録音手段による録音で作成される音楽ファイルは、前記マルチトラック録音手段による録音で作成される音楽ファイルとは別個のファイルとして作成される。
【0010】
また、本発明の1つの実施形態では、前記マルチトラック録音手段による録音で作成される音楽ファイルは、前記ステレオ録音手段による録音で作成される音楽ファイルのバックアップファイルとして機能する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ステレオ録音が迅速に得られる。また、ステレオ録音に何らかの不具合が生じた場合においても、再度録音する必要がなく所望のステレオ録音を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の構成ブロック図である。
【図2】他の実施形態のレコードトラックのファイル説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面に基づき本発明の実施形態ついて説明する。
【0014】
図1に、本実施形態におけるマルチトラックレコーダ装置の構成ブロック図を示す。本実施形態のマルチトラックレコーダ装置は、複数の入力端子から入力される音声信号をそれぞれ異なるトラックに録音するマルチトラック録音と、複数の入力端子から入力される音声信号をミキシング(ミックスダウン)してLRチャンネルトラックに録音するステレオ録音とを同時並行して行うものである。
【0015】
すなわち、従来のマルチトラックレコーダ装置では、複数の入力端子から入力される音声信号のステレオ録音を行う場合は、複数の入力端子から入力される音声信号を、一旦、それぞれ異なるトラックに録音し、その後に、録音した全てのトラック又は所望のトラックから音声信号を再生してミックスダウンしてLRチャンネルトラックに録音するという工程を経るが、本実施形態におけるマルチトラックレコーダ装置は、マルチトラック録音とステレオ録音とを同時に行うものである。
【0016】
図1において、マルチトラックレコーダ装置には複数の入力端子10が設けられており、入力端子10のそれぞれから音声信号が入力される。例えば、楽曲を構成する各楽器の音声信号がそれぞれ異なる入力端子10から入力される。図において、入力端子10は合計8個示されているが、もちろんこの数は任意に設定することができる。各入力端子10から供給された音声信号は、信号処理回路12に供給される。
【0017】
信号処理回路12は、トリム器及びA/Dコンバータを備え、トリム器にて入力音量を調整するととともに、A/Dで入力アナログ音声信号をデジタル信号に変換して出力する。
【0018】
各入力端子10からのデジタル信号は、それぞれ2つの系統に分岐して供給される。第1の系統はモノラルバス14に至る系統であり、第2の系統はステレオバス16に至る系統である。モノラルバス14は、録音スイッチ18を介して記録媒体22に接続される。ユーザが録音スイッチ18をON操作すると、各入力端子10からのデジタル信号は記憶媒体22の各トラックに記録される。もちろん、デジタル信号を記録する際にはエンコード処理してもよく、さらに圧縮処理をしてもよい。各入力端子10からのデジタル信号は、記録媒体22の異なるトラックにそれぞれ記録される(マルチトラック録音)。記録媒体22はハードディスクやコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリであり、デジタル信号はファイル形式でそれぞれのトラックに記録される。例えば、第1トラックには<SongName>_01.wavなるファイルが作成され、第2トラックには<SongName>_02.wavなるファイルが作成され、第3トラックには<SongName>_03.wavなるファイルが作成される。以下同様にして、第8トラックには<SongName>_08.wavなるファイルが作成される。以上のようにして、記憶媒体22には、マルチトラック録音の結果として、第1トラック〜第8トラックのそれぞれに音楽ファイルが記録される。
【0019】
一方、ステレオバス16に至る系統は、レベル器及びパン器を介してステレオバス16に接続される。レベル器及びパン器はユーザ操作可能であり、それぞれデジタル信号のレベル調整及び左右のバランス調整を行う。各入力端子10からのデジタル信号は、全てステレオバス16に供給される。ステレオバス16には、マスタレベル器及びステレオ録音スイッチ20が設けられる。ユーザが、ステレオ録音スイッチ20をON操作すると、各音声信号がミックスダウンされて記憶媒体22の別トラックに記録される。ステレオ録音のトラックは、マルチトラック録音の各トラックとは異なるトラックであり、ここにステレオ録音の音楽ファイルが<SongName>_ST.wavとして記録される。ファイル名の「ST」は、このファイルがステレオ録音されたことを示すものである。<Songname>はユーザが自分で入力するが、それ以外のファイル番号やST,識別子はマルチトラックレコーダ装置が自動で付与する。
【0020】
以上のようにして、マルチトラック録音スイッチ18とステレオ録音スイッチ20をともにON操作すると、マルチトラック録音とステレオ録音が同時に実行され、記録媒体22には各トラック毎の音楽ファイルと、ステレオ録音の音楽ファイルが別個に作成されて記録される。
【0021】
なお、ミックスダウンして得られるステレオ信号は、さらに、D/Aコンバータでアナログ音声信号に変換された後に、スピーカ28や出力端子LR30から出力される。
【0022】
マルチトラック録音に関しては、各トラック毎に音楽ファイルを作成するのではなく、第1トラックから第8トラック分をまとめて1つのファイルとして作成することもできる。図2に、この場合のファイル構成を示す。マルチトラック録音の各トラックが1つのファイルとして作成されており、このファイルとは別にステレオ録音ファイルが作成される。
【0023】
マルチトラック録音のファイルとステレオ録音ファイルは別々に作成されるため、マルチトラック録音ファイルとステレオ録音ファイルとをそれぞれ別の種類の記憶媒体22に記録してもよい。例えば、マルチトラック録音ファイルをハードディスクに格納すると共に、ステレオ録音ファイルをコンパクトフラッシュ(登録商標)メモリに格納してもよい。
【0024】
このように、本実施形態の装置では、マルチトラック録音とステレオ録音とが同時に実行され、マルチトラック録音ファイルとステレオ録音ファイルとが別個に作成されるため、ユーザはステレオ録音ファイルが必要な場合には、既に作成されているステレオ録音ファイルのみを読み出して再生すればよく、従来のようにマルチトラック録音を再生し、その後、ミックスダウンしてステレオ録音を作成する必要がなくなる。また、ステレオ録音ファイルを読み出して再生した結果、その録音に満足できない場合には、マルチトラック録音ファイルも存在しているため、ユーザはこのマルチトラック録音ファイルを再生してミックスダウンすることで改めてステレオ録音を行うことができる。すなわち、本実施形態において、マルチトラック録音の音楽ファイルはステレオ録音のバックアップファイルとして機能し得る。
【0025】
本実施形態におけるマルチ録音スイッチ18とステレオ録音スイッチ20は別個のスイッチとして示されているが、これらのスイッチが互いに連動していてもよい。すなわち、マルチ録音スイッチ18がON操作された場合には、これに連動してステレオ録音スイッチ20も自動的にONするようにしてもよく、これによりマルチトラック録音する場合には常に同時にステレオ録音されるようになる。もちろん、マルチ録音スイッチ18とステレオ録音スイッチ20が互いに独立にON/OFF操作可能であってもよい。
【符号の説明】
【0026】
10 入力端子、12 音声信号処理回路、14 モノラルバス、16 ステレオバス、18 マルチトラック録音スイッチ、20 ステレオ録音スイッチ、22 記憶媒体、28 スピーカ、30 出力端子。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトラックレコーダ装置であって、
複数の入力端子から入力された音声信号を記憶媒体のそれぞれ異なるトラックに記録するマルチトラック録音手段と、
前記マルチトラック録音手段による録音と並行して、前記複数の入力端子から入力された音声信号をミキシングしてステレオ信号を生成し、さらに異なるトラックに記録するステレオ録音手段と、
を有することを特徴とするマルチトラックレコーダ装置。
【請求項2】
請求項1記載の装置において、
前記ステレオ録音手段による録音で作成される音楽ファイルは、前記マルチトラック録音手段による録音で作成される音楽ファイルとは別個のファイルとして作成されることを特徴とするマルチトラックレコーダ装置。
【請求項3】
請求項2記載の装置において、
前記マルチトラック録音手段による録音で作成される音楽ファイルは、前記ステレオ録音手段による録音で作成される音楽ファイルのバックアップファイルであることを特徴とするマルチトラックレコーダ装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−60366(P2011−60366A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207743(P2009−207743)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(000003676)ティアック株式会社 (339)
【Fターム(参考)】