説明

マルチバンドアンテナ及び携帯型の通信機器

本発明は、マルチバンド対応が可能な小型のマルチバンドアンテナを提供することを目的とするものである。複数の周波数帯の高周波信号を放射可能なメインエレメント10と、メインエレメント10と異なる周波数に共振可能な1つ以上のサブエレメント20と、サブエレメントの基端部と接地導体とを導通又は非導通にするためのスイッチ機構40とを備えてマルチバンドアンテナを構成する。スイッチ機構40によりサブエレメント20と接地導体とが導通しているときは、サブエレメント20がメインエレメント10に対する無給電誘導素子として作用して当該サブエレメント20の先端部とメインエレメント10の開放端部とが高周波結合した先端短絡アンテナとなり、他方、サブエレメント20と接地導体とが非導通のときは、サブエレメント20がメインエレメント10に対する無給電反射素子として作用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
本発明は、例えば、音、画像(静止画、動画)、データなどの複数のメディアに対応可能な携帯電話無線機、PDA(Personal Digital Assistance)等の携帯型の通信機器及びそれに内蔵されるマルチバンドアンテナに関する。
発明の背景
携帯電話無線機等に代表される携帯型の通信機器の進歩は目覚ましいものがある。最近は、これらの通信機器においても、単なる通話のみならず、データ通信ないし画像通信を含めたマルチメディア化の傾向がある。このような傾向に呼応して、携帯電話無線機又は移動通信機器のアンテナに対しても、小型で、かつ、複数の周波数帯(バンド)において通信可能なマルチバンドアンテナが要望されている。
従来のこの種のマルチバンドアンテナとしては、例えば、特開平11−136025号公報に記載されたアンテナ装置(従来例1)、特開平10−209733号公報に記載されたアンテナ装置(従来例2)、特開平11−68456号公報に記載されたアンテナ装置(従来例3)、特開2002−335117号公報に記載されたアンテナ装置(従来例4)、特開2003−124730号公報に記載されたアンテナ装置(従来例5)がある。
従来例1に記載されているアンテナ装置は、直方体状の基体の一方主面全面に形成されたグランド電極と、基体の他方主面上で一端が開放端で他端がグランド端(グランド電極に接続)となる放射電極と、放射電極の開放端に第1のギャップを介して近接して形成された給電電極と、放射電極の開放端に第2のギャップを介して近接して形成された1つ以上の制御電極と、制御電極とグランド電極との間を接続/非接続にするためのスイッチとを備え、このスイッチをオン−オフして全体の静電容量の大きさを変化させることにより、放射電極の共振周波数を切り換えて使用できるようにしたものである。
従来例2に記載されているアンテナ装置は、従来例1のようなグランド電極、放射電極、給電電極のほか、放射電極と連続して一体に形成された1つ以上の補助放射電極と、この補助放射電極とグランド電極との間を高周波的な接続/非接続にするためのスイッチを備え、このスイッチをオン−オフして放射電極のグランド部分のインダクタンス成分を変化させることにより、放射電極の共振周波数を切り換えて使用できるようにしたものである。
従来例3に記載されているアンテナ装置は、直方体状の基体の表面に、従来例1のようなグランド電極、放射電極、給電電極を備えたものにおいて、基体の表面上に、周波数切換手段(半導体スイッチ)を設け、この周波数切換手段を動作させてインダクタンス成分又は静電容量成分を変化させることにより、放射電極の共振周波数を切り換えるようにしたものである。
従来例4に記載されているアンテナ装置は、接地導体部を有する実装基板上に直方体状の基体を実装し、この基体の表面に、一端が開放端で他端がグランド端となる放射電極とアンテナ側制御用電極(従来例1の制御電極に相当)とを設けるとともに、実装基板上に、グランドから浮いた状態の基板側制御用電極と、この基板側制御用電極を接地導体部に高周波的に接続するための共振周波数調整手段(インダクタンス成分と静電容量成分の少なくとも一方をもつ半田ブリッジ、ストリップ等)とを設け、この共振周波数調整手段のインピーダンスを変えることにより、放射電極の共振周波数を可変にしたものである。
従来例5に記載されているアンテナ装置は、それぞれ、その一端が開放端で、二分岐された一方の他端がグランド端、他方の他端が給電端となる2種類のアンテナエレメント(上述の放射電極に相当)と、各々のアンテナエレメントと実装基板の接地導体部とを導通/非導通にするための2種類のスイッチとを備え、これらのスイッチの一方と他方とを相互排反的にオン−オフにすることにより、装置全体の共振周波数を切り換えるようにしたものである。
上記の各従来例のアンテナ装置のほか、放射電極であるアンテナエレメントを複数回折り曲げ、この折り曲げたアンテナエレメントの長さ及び間隔を調整することによって、複数の共振周波数を持たせた折り返し式のアンテナ等も存在する。
近年の移動通信機器に搭載されるマルチバンドアンテナには、AMPS(Advanced Mobil Phone System)(824MHz〜894MHz)、GSM(Global System for Mobile Communications)900(880MHz〜960MHz)、GSM1800(1710MHz〜1880MHz)、DCS(Digital Cellular System)(1710MHz〜1850MHz)、PCS(Personal Communications System1900(1850MHz〜1990MHz)、UMTS(Universal Mobile Telecommunications System)(1920MHz〜2170MHz)のような複数のバンドを複合的に使用できるものが望まれている。
従来例1〜従来例4のアンテナ装置は、それぞれ、表面実装型アンテナを主たる構成要素として含むため、非常に小型であり、携帯電話無線機、あるいは、移動通信機器に内蔵する場合に好都合となる。しかし、このようなアンテナ装置では、サイズが固定の放射電極のインダクタンス成分、静電容量成分を変えることによって共振周波数を切り換える構成のため、上記のバンドの数が2〜4程度までは容易に対応が可能であるが、バンド数がそれ以上になると、共振周波数の調整が非常に困難になるという問題がある。また、バンド数の増加に伴うアンテナ利得の低下、共振周波数の帯域幅の狭帯域化も問題となる。
従来例5のアンテナ装置では、バンド数の増加には対応が可能であるが、2種類のアンテナエレメントを実質的に同一平面に配する必要があるなどの制約があり、さらに、各アンテナエレメントが特殊かつ複雑な形状になるため、アンテナエレメント用の面積を十分に確保しなければならず、小型化が困難であるという問題があった。
この発明は、このような問題を解決するために、マルチバンド対応が可能な小型の広帯域マルチバンドアンテナ及び通信機器を提供することを、その課題とする。
【発明の開示】
本発明が提供するマルチバンドアンテナは、開放端部と給電端部とを有し、前記給電端部に給電された複数の周波数帯の高周波信号を放射可能なメインエレメントと;その先端部が前記メインエレメントの開放端部と所定間隔だけ離して配設され、前記メインエレメントと異なる周波数に共振可能な1つ以上のサブエレメントと;前記サブエレメントの基端部と所定部位に配された接地導体とを導通又は非導通にするためのスイッチ機構とを有しており;前記スイッチ機構により前記基端部と前記接地導体とが導通している第1状態のときに前記前記サブエレメントが前記メインエレメントに対する無給電誘導素子として作用して当該サブエレメントの先端部と前記メインエレメントの開放端部とが高周波結合した先端短絡アンテナとなり、他方、前記スイッチ機構により前記基端部と前記接地導体とが非導通となる第2状態のときに前記サブエレメントが前記メインエレメントに対する無給電反射素子として作用するものである。
このように、メインエレメントと異なる周波数に共振可能なサブエレメントを、無給電誘導素子と無給電反射素子とに切り換え可能にすることで、エレメント数を増加させることなく、より多くの共振周波数をもつことができ、小型でありながら、広帯域に対応可能なマルチバンドアンテナを実現することができる。
前記スイッチ機構は、具体的には、サブエレメントの基端部と接地導体との間に挿入接続され、外部より入力される制御信号の信号レベルによってスイッチング動作を行う半導体スイッチング素子を、前記導通又は非導通を切り換えるための構成要素として含んで構成される。このように半導体スイッチング素子によってスイッチ機構を構成することで、第1状態と第2状態とを容易に切り換えることができる。
好ましくは、前記メインエレメントの電気的面積が、すべての前記サブエレメントの電気的面積の和に対して略3〜略18倍の値とする。これにより、マルチバンドアンテナの電気的面積がメインエレメントの電気的面積と実質的に同じになり、サブエレメントを設けることによる放射特性に与える影響を緩和することができる。
前記メインエレメントは、例えば、逆L状、逆F状、メアンダ状又は板状の導電性薄板で成形されており、前記サブエレメントは、例えば、前記メインエレメントに対して所定の位置関係をもつように成形されたストリップ状の導電性部材で成形される。
複数の周波数を矛盾なく放射可能にする観点からは、その一端部が前記接地導体に接続され、その他端部が前記メインエレメントに対して略平行の自由端となるインピーダンス調整用エレメントをさらに備えるようにするのが好ましい。
通信機器への実装をより容易にする観点からは、通信機器に装着可能な基体を備えてマルチバンドアンテナを構成することが好ましい。この基体の一部には、前記接地導体、所定の高周波信号の送受信を行う高周波送受信回路と接続するための給電用端子、及び、外部から入力されるスイッチ機構の制御のための制御信号が入力される制御端子が形成されており、前記メインエレメント及び前記サブエレメントは、前記接地導体に対して所定の位置関係を維持して前記基体に取り付けられており、前記メインエレメントの給電端部は前記給電用端子に接続されており、前記半導体スイッチング素子には、前記制御端子を通じて入力される前記制御信号が供給されるように構成される。
複数の周波数を使用するときの便宜を考慮して、前記給電端部と前記給電用端子との間に、誘導性素子と容量性素子との組合せからなるインピーダンス整合回路が介在するように構成してもよい。同様に、前記スイッチ機構が半導体スイッチング素子であるときに、その半導体スイッチング素子と前記制御端子との間に、前記制御端子を高周波的に遮断し、かつ直流的には導通させるためのインピーダンス調整回路が介在するように構成してもよい。
上記のように、基体を設ける場合において、前記基体には、それぞれ他方のものと対向する一対の主面部、一対の側端部及び一対の短端部を有する誘電体から成るエレメント取付基体が固定されるようにする。前記メインエレメント及び前記サブエレメントは、前記エレメント取付基体に、その形状に沿って取り付けられる。
この場合、前記メインエレメント及び前記サブエレメントは、それぞれ、前記エレメント取付基体の一つの主面部に形成されており、かつ、当該主面部が前記接地導体の表面部と同一平面上に存するようにする。あるいは、前記メインエレメント及び前記サブエレメントが、それぞれ、前記エレメント取付基体の一方の側端部に沿って前記接地導体と略垂直の方向に延び、さらに当該エレメント取付基体の一つの主面部を経由して他方の側端部に至り、当該側端部において前記メインエレメントの開放端部と前記サブエレメントの先端部とが所定の間隔で対向している構造にする。あるいは、前記メインエレメント及び前記サブエレメントが、それぞれ、前記エレメント取付基体の一方の側端部に沿って前記接地導体と略垂直の方向に延び、さらに当該エレメント取付基体の一つの主面部上で前記接地導体と略水平の方向に曲折し、当該主面部上で、前記メインエレメントの開放端部と前記サブエレメントの先端部とが所定の間隔で対向している構造にする。
本発明のマルチバンドアンテナにおいて、前記メインエレメントと前記サブエレメントとがそれぞれ一つであり、第1設定周波数の波長がλf1、第2設定周波数の波長がλf2、第3設定周波数の波長がλf3、第4設定周波数の波長がλf4、第5設定周波数の波長がλf5、である場合、前記メインエレメントのエレメント長は、略λf2/4かつ略3λf5/4であり、前記サブエレメントのエレメント長は、略nλf3/2であり、前記第1状態のときの前記先端短絡アンテナのエレメント長が略λf1/2かつ略λf4とする。
前記第1使用周波数帯が及び前記第2使用周波数帯は、実質的には824MHz〜894MHz又は880MHz〜960MHzであり、前記第3使用周波数帯、前記第4使用周波数帯及び前記第5使用周波数帯が、実質的に1710MHz〜1880MHz、1850MHz〜1990MHz及び1920MHz〜2170MHzである。
一般的には、エレメント長については、マルチバンドアンテナの共振周波数が、使用周波数帯域内に実質的に入るように設計することが、実用上は重要なので、メインエレメントのエレメント長は、例えば、使用周波数帯域内に設定した設定周波数の波長をλとすると、略(2n+1)λ/4(但し、nは0,1,2,・・・)又は略nλ/2(但し、nは1,2,・・・)、サブエレメントのエレメント長は、略nλ/2(但し、nは1,2,・・・)、メインエレメントとサブエレメントとで先端短絡アンテナとして動作するときの合計のエレメント長は、略nλ/2(但し、nは1,2,・・・)となるように設計する。この関係は、一つのメインエレメントに対してサブエレメントが複数の場合も同様の関係となる。
本発明の通信機器は、上述したマルチバンドアンテナを筐体内に収容してなり、使用周波数帯の切換を前記制御信号の信号レベルの切換によって行うように構成されている、携帯型の通信機器である。
本発明によれば、高感度で小型、マルチバンド化に対応したアンテナを備えた携帯電話無線機等の携帯型の通信機器を提供できるため、これらの機器の用途を大幅に拡張することができる。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明のマルチバンドアンテナの構成図である。
図2(a)は第1状態時、メインエレメントとサブエレメントとの協働により先端短絡アンテナとして動作するときの原理説明図であり、図2(b)は第2状態時、サブアンテナが無給電反射素子として動作するときの原理説明図である。
図3は、図1に示したマルチバンドアンテナのVSWR−周波数特性図である。
図4(a)〜(c)は、各エレメントの形状のバリエーションを示した図である。
図5(a)は、コプレーナ構造の放射パターンであり、図5(b)は、オーバーレイ構造の放射パターンを示した図である。
図6は、平面コプレーナ構造のマルチバンドアンテナの実装状態説明図である。
図7は、立体コプレーナ構造のマルチバンドアンテナの実装状態説明図である。
図8は、平面オーバーレイ構造のマルチバンドアンテナの実装状態説明図である。
図9は、立体オーバーレイ構造のマルチバンドアンテナの実装状態説明図である。
図10(a)〜(c)は、マルチバンドアンテナを携帯無線電話機に搭載した状態を示すための説明図である。
図11は、サブエレメントを複数設けたマルチバンドアンテナの構成図である。
図12は、図11のマルチバンドアンテナのVSWR−周波数特性図である。
図13(a)は、スイッチ機構と接地導体との間に容量性素子を挿入した状態を示した図であり、図13(b)は、誘導性素子を挿入した状態を示した図である。
図14は、図13の場合のVSWR−周波数特性図である。
図15(a)は、携帯電話無線機用の基体の正面図であり、図15(b)はその側面図である。
図16は、本発明の実施例によるマルチバンドアンテナの構成図である。
図17(a)は、設定バンド、設定周波数、及びエレメント長の関係を示した図表であり、図17(b)は制御信号の電圧値と設定バンドの関係を示した図表である。
図18(a)は、AMPS、GSM900におけるVSWR特性であり、図18(b)はGSM1800、DC、PCS1900、UMTSにおけるVSWR特性である。
図19(a)は、AMPS、GSM900における利得特性であり、図19(b)はGSM1800、DCS、PCS1900、UMTSにおける利得特性である。
図20は、AMPS及びGSM1800のときの対接地導体間隔とアンテナ利得との関係図である。
【発明を実施するための最良の形態】
図1を参照して、本発明のマルチバンドアンテナの基本的な構成例を説明する。
本発明のマルチバンドアンテナは、図1に示されるように、メインエレメント10とサブエレメント20とのセットを含んで構成される。メインエレメント10は、例えば逆L状に成形された導電性薄板から成り、その電気的面積は、マルチバンドアンテナとしての全体の電気的面積を実質的にカバーする面積になるように成形されている。
このメインエレメント10の両端部のうち、一方端は開放端部11、他方端は給電端部12である。給電端部12には、図示しない高周波送受信回路が接続される給電用端子30が設けられている。送信時には、高周波送受信回路からこの給電用端子30に所定電力値の高周波信号が供給され、マルチバンドアンテナが送信用アンテナとして動作できるようになる。
サブエレメント20は、電気的面積がメインエレメント10の電気的面積よりも十分に小さくなるように、例えば棒状あるいはストリップ状の導電性部材から成る。導電性部材の略中央部は、例えばメアンダ状に成形されている。サブエレメント20の先端部21は、メインエレメント10の開放端部11と間隔d1だけ離して配設されている。
サブエレメント20の略中央部は、メインエレメント10の給電端部に近い部分に対して間隔d2でほぼ対向している。
なお、以後の説明において、サブエレメント20の先端部21という場合、図1に示されているような最先端断面部のほか、最先端から一定長の側面部も含むものとする(これについては、後述する)。また、間隔d1は、固定的に設計してもよいが、アンテナ製造後に任意に調整できるようにしてもよい。後者の場合は、例えば、メインエレメント10の開放端部11とサブエレメント20の先端部21の一方又は双方を変位させるか、あるいは、サブエレメント20の先端部21付近の長さをカットすることによって、それを実現する。間隔d2についても同様である。
サブエレメント20の基端部22には、スイッチ機構40が設けられている。
スイッチ機構40は、制御端子41に入力される制御信号により、所定部位に配されている接地導体50とサブエレメント20の基端部22との導通/非導通を切り換えるものである。スイッチ機構40には、その入出力間をメカニカルに導通(オン)/非導通(オフ)にするスイッチのほか、制御信号の信号レベルに応じて入出力間を実質的に導通(オン)/非導通(オフ)にする半導体スイッチング素子を用いることができる。
半導体スイッチング素子としては、例えば、汎用のショットキーダイオードを用いることができるが、アイソレーションを重視する場合はPINダイオード、低電流動作を重視する場合はFETスイッチ又はICスイッチ、強電界・低ひずみを重視する場合はMEMSスイッチ(Micro Electro Mechanical Systems:微細な電気回路と機械的構造を一体化したもの)を用いることができる。制御信号は、図示しないインターフェース装置から制御端子41を通じて入力される本発明の通信機器のバンド選択のための電圧信号であり、例えば、0〜3Vの電圧信号を用いることができる。
スイッチ機構40により基端部22と接地導体50とが導通している状態を「第1状態」、両者が非導通の状態を「第2状態」とする。
第1状態のときは、サブエレメント20の基端部22が接地されるので、サブエレメント20がメインエレメント10に対する無給電誘導素子として作用し、当該サブエレメント20とメインエレメント10とが高周波結合して、先端短絡(ループ)アンテナとして動作する。つまり、本例では、図2(a)に示されるように、サブエレメント20の共振がメインエレメント10に誘導されてメインエレメント10の全体とサブエレメント20の全体とが誘導結合(磁界結合)するとともに、メインエレメント10の開放端部11とサブエレメント20の先端部21とが容量結合(電界結合)した一つのループアンテナとして動作する。このように、第1状態のときには、メインエレメント10とサブエレメント20とが2種類の結合状態をとるように動作するため、複数の共振周波数を持つことができる。
他方、第2状態のときは、サブエレメント20の基端部22が開放されるので、図2(b)に示されるように、サブエレメント20がメインエレメント10に対して電気的影響を与えない極小の無給電反射素子として作用する。
<各エレメントのサイズ、配置等>
ここで、メインエレメント10とサブエレメント20のサイズ(エレメント長、電気的面積等)、配置(間隔d1,d2、メインエレメント10の水平部と接地導体との間隔(対接地導体間隔)等)の好ましい例について説明する。
エレメント長については、マルチバンドアンテナとしての共振周波数が、すべて使用周波数帯域内に実質的に入るように設計することが、実用上は重要である。
そのため、図1に例示した構成によるメインエレメント10のエレメント長は、例えば、使用周波数帯域内に任意に設定した第2設定周波数f2の波長をλf2、第5設定周波数の波長をλf5とすると、略(2n+1)λf2,f5/4(但し、nは0,1,2,・・・)となるように設計するのが好ましい。「n」の値は、サブエレメント20の数及び設定周波数の数に応じて異なる。例えば、サブエレメント20の数が図1のように一つで、設定周波数を第1〜第5設定周波数とする場合、第2設定周波数f2ではλf2/4で、第5設定周波数では略3λf5/4となる。
サブエレメント20のエレメント長は、例えば、使用周波数帯域内に設定した第3設定周波数f3の波長をλf3とすると、略nλf3/2(但し、nは0,1,2,・・・)となるように設計するのが好ましい。
また、第1状態のとき、つまり、メインエレメント10とサブエレメント20とで先端短絡アンテナとして動作するときの合計のエレメント長(間隔d1を含む)は、例えば、使用周波数帯域内に設定した第1設定周波数f1の波長をλf1、第4設定周波数f4の波長をλf4とすると、略nλf1,f4/2(但し、nは1,2,・・・)となるように設計するのが好ましい。すなわち、第1設定周波数のときは略λ/2で、第4設定周波数のときは略λf4となる。
この場合、f及びfは、メインエレメント10とサブエレメント20の容量結合による共振周波数、fは上述した2つのエレメント間の誘導結合による共振周波数であり、f及びfは、サブエレメント20が無給電反射素子として作用するときのメインエレメント10の共振周波数である。
「略」は、アンテナのVSWRを向上させるために、多少の微調整が入ることを意味している。例えば、第1状態のときのマルチバンドアンテナの共振周波数は、間隔d1を広くするほど高く、間隔d1を狭くするほど低くなるように変化する。また、第1状態のときのメインエレメント10とサブエレメント20との誘導結合による共振周波数の帯域幅は、間隔d2を狭くするほど広く、広くするほど狭くなる。さらに、サブエレメント20の基端部22が開放のときと短絡のときとでアンテナインピーダンスも変化する。そのため、給電時(アンテナ共振時)のVSWRの値を計測しながら、その値が最適になるように、各エレメント長ないしその配置(間隔d1,d2)を調整する結果、上述した各エレメント長も、実際には、多少変化することになる。
メインエレメント10とサブエレメント20の電気的面積の比率もまた、アンテナ共振時のVSWRの値が最適になるように設計する。そのためには、サブエレメント20を設けることによってマルチバンドアンテナ全体で使用可能な周波数帯域を狭くすることなく、かつ放射特性等に大きな影響を与えないように成形する必要がある。発明者らの実験によれば、メインエレメント10に対するサブエレメント20の面積比率が、ほぼ、略3:1から略18:1の範囲内に収めることで、実用上支障のない放射特性等が得られることが確認されている。この範囲内であれば、マルチバンドアンテナの電気的面積が、ほぼメインエレメント10の電気的面積となるため、サブエレメント20の数を複数に増やしても、共振周波数の狭帯域を最小限にすることができるのである。また、サブエレメント20の電気的面積が小さいことから、マルチバンドアンテナとしての全体のサイズも小型にすることができる。
間隔d1は誘導結合、間隔d2は容量結合の強度を定める。そのため、使用する周波数を含むバンドでのVSWRを見ながら決定していく必要がある。対接地導体間隔は、それを狭くしていくと、放射特性が低下するためにアンテナ利得が下がる。そこで、性能上、問題のない値となる間隔を決定していく必要がある。
<VSWR特性>
図3は、図1に例示された構成のマルチバンドアンテナによるVSWRと設定周波数との関係を示している。図3に示されるように、この例のマルチバンドアンテナでは、エレメント長に応じて、少なくとも5つの共振周波数を持つことができるし、共振周波数の調整も、スイッチ機構40への制御信号の入力だけで行うことができる。このように、本発明によれば、マルチバンドに対応する小型かつ広帯域で共振周波数の調整が容易なマルチバンドアンテナを得ることができる。
<エレメント形状の他の例>
メインエレメント10とサブエレメント20の各々の形状は、必ずしも、図1に示した例に限定されず、用途に応じて、種々の形状のものを用いることができる。
例えば、図4(a)の例では、サブエレメント20は図1に示したものと同じであるが、逆F状の導電性薄板からなるメインエレメント10aを採用し、このメインエレメント10aのうち、開放端部以外の二つの端部の一つを給電端部、他の一つを接地端部としている。メインエレメント10aをこのような形状にすると、電気的面積及び特性を確保しつつマルチバンドアンテナのサイズを図1に示したものよりもさらに小型にすることができる。
図4(b)の例では、サブエレメント20は図1に示したものと同じであるが、メアンダ状の導電性薄板から成るメインエレメント10bを採用している。メアンダ状にするとエレメント長を短くすることができるので、マルチバンドアンテナのサイズの小型化に寄与することができる。
図4(c)の例では、メアンダ成形がなされていないサブエレメント20aと矩形状の導電性薄板からなるメインエレメント10cとを採用している。このような形状にすることで、成形のコストがかからない分安価にすることができ、また、放射効率の高いマルチバンドアンテナを容易に実現することができる。
<アンテナ取付構造と放射パターン>
本発明のマルチバンドアンテナは、用途に応じて、コプレーナ(Coplanar)構造とオーバーレイ(Overlay)構造のいずれの構造をも採用することができる。
図5(a)はコプレーナ構造を採用する場合の基本的なアンテナ取付構造と、そのときの高周波信号の放射パターンを示している。コプレーナ構造では、接地導体Eに対してマルチバンドアンテナ1が略平行に設けられるので、放射パターンは、マルチバンドアンテナ1の表方向の第1覆域パターン(FRONT)P11と裏方向の第2覆域パターン(BACK)P12とが、ほぼ対称的となる。
これに対して、オーバーレイ構造では、図5(b)に示されるようにマルチバンドアンテナ1が接地導体Eに積層されたものとなるため、放射パターンは、接地導体Eに遮られる分、上記の第1覆域パターンP11に対して第2覆域パターンP12が、相対的に縮小されたものとなる。
<マルチバンドアンテナの実装例>
次に、本発明のマルチバンドアンテナの実装例を具体的に説明する。
本発明のマルチバンドアンテナには、コプレーナ構造/オーバーレイ構造とも、平面構成のものと、立体構成のものとがある。以下、これらの具体例を説明する。
[平面コプレーナ構造]
平面コプレーナ構造のマルチバンドアンテナは、例えば、図6に示すように、誘電体基体K1の全面又は表裏面部の一方の主表面を導体で覆うことにより構成された接地導体E1と、例えばFR−4誘電体からなるエレメント取付基体D1とを同じ平面上で接合して構成される。1枚の誘電体基体の一部のみを導体で覆って接地導体E1とし、残部をエレメント取付基体D1とすることもできる。
エレメント取付基体D1の主表面には、逆L型のメインエレメント101及びメアンダ成形されたサブエレメント201がそれぞれ蒸着あるいは接着等によって固定されている。メインエレメント101の開放端部とサブエレメント201の先端部とは一定間隔(d1)離して対向している。エレメント取付基体D1の主表面のうち、メインエレメント101の給電端付近には、その給電端部に接続された給電用端子301が設けられており、さらに、サブエレメント202の基端部付近に、スイッチ機構401と制御端子411とが設けられている。スイッチ機構401は、サブエレメント202の基端部と接地導体E1とを結ぶ導電性部材の間に介在しており、スイッチ機構401がオンのときには、サブエレメント201と接地導体E1とが導通するようになっている。図示しない高周波送受信回路側のコネクタが給電用端子301に結合され、また、図示しない通信機器の制御装置側のコネクタが制御端子411に結合されることにより、マルチバンドアンテナとして動作可能な状態となる。
[立体コプレーナ構造]
立体コプレーナ構造のマルチバンドアンテナは、例えば、図7に示すように、誘電体基体K2の一部を導体で覆うことにより構成された接地導体E2と、誘電体基体K2のうち、導体が形成されていない部位に、例えばFR−4誘電体からなるエレメント取付基体D2を積層して構成される。エレメント取付基体D2は、例えば、面積の広い表裏一対の主表面部、一対の側端部、一対の端部を有する直方体状に成形されたものである。なお、このエレメント取付基体D2の形状は、マルチバンドアンテナが搭載される通信機器の筐体形状に応じて任意に変形することができる。
逆L状のメインエレメント102及びメアンダ状のサブエレメント202は、それぞれ、エレメント取付基体D2の接地導体E2に隣接する側の側端部から表側の主表面部を介して他方の側端部に延在している。メインエレメント102の開放端部とサブエレメント202の先端部とは一定間隔(d1)離して対向している。サブエレメント202の基端部は、スイッチ機構402及び取付金具422を介して接地導体E2と導通している。メインエレメント102の給電端部と導通する給電用端子302及びスイッチ機構402に制御信号を供給するための制御端子412は、誘電体基体K2の所定部位に設けられている。図示しない高周波送受信回路側のコネクタが給電用端子302に結合され、また、図示しない通信機器の制御装置側のコネクタが制御端子412に結合されることにより、マルチバンドアンテナとして動作可能な状態となる。
[平面オーバレイ構造]
平面オーバーレイ構造のマルチバンドアンテナとしては、例えば、図8に示すような公知の板状逆F型アンテナ(PIFA:Planar Inverted F Antenna)をメインエレメント103として用いることができる。
すなわち、例えば、誘電体基体K3の全体を覆うことにより構成された接地導体E3の所定部位に、逆F型に成形されたメインエレメント103を、その給電端部が給電用端子303から垂直方向に延びるように設ける。また、メアンダ状のサブエレメント203の先端部を逆F型のメインエレメント103の開放端部と所定間隔離して配するとともにその基端部寄りを、スイッチ機構403を介して接地導体E3に対して垂直方向に延びるように設ける。逆F型のメインエレメント103の他の接地端部103aは接地導体E3に接合させる。制御端子413は、接地導体E3の所定部位に設けられる。
図示しない通信機器の高周波送受信回路側のコネクタが給電用端子303に結合され、また、図示しない制御装置側のコネクタが制御端子413に結合されることにより、マルチバンドアンテナとして動作可能な状態となる。
[立体オーバーレイ構造]
立体オーバーレイ構造のマルチバンドアンテナは、例えば、図9に示すように、誘電体基体K4の主表面部の全面を導体で覆うことにより構成された接地導体E4上に、例えばFR−4誘電体からなるエレメント取付基体D4を積層して構成される。エレメント取付基体D4は、例えば、面積の広い表裏一対の主表面部、一対の側端部、一対の端部を有する直方体状に成形されたものである。
逆L状のメインエレメント104及びメアンダ状のサブエレメント204は、それぞれ、エレメント取付基体D4の接地導体E4に隣接する側の側端部から表側の主表面部にかけて延在している。メインエレメント104の開放端部とサブエレメント204の先端部とは一定間隔(d1)離して対向している。サブエレメント204の基端部は、スイッチ機構404及び取付金具424を介して接地導体E4と導通している。メインエレメント104の給電端部と導通する給電用端子304及びスイッチ機構404に制御信号を供給するための制御端子414は、誘電体基体K4の所定部位に設けられている。
図示しない高周波送受信回路側のコネクタが給電用端子304に結合され、また、図示しない通信機器の制御装置側のコネクタが制御端子414に結合されることにより、マルチバンドアンテナとして動作可能な状態となる。
なお、接地導体E1〜E4の大きさ、及び、接地導体E1〜E4と各メインエレメント101〜104との距離、間隔が大きくなるほどアンテナインピーダンスが低下して放射効率が低くくなり、帯域幅も狭くなる傾向がある。そのため、本例では、使用する周波数帯域において十分な性能が確保されるように、接地導体E1〜E4の面積並びにメインエレメント101〜104に対する接地導体E1〜E4の距離、間隔を設定している。
<マルチバンドアンテナが搭載される通信機器>
本発明のマルチバンドアンテナは、音、画像(静止画、動画)、データなどの複数のメディアに対応可能な携帯電話無線機、PDA等の移動可能な携帯型の通信機器に搭載されて使用されるのに適している。例えば、携帯電話無線機に搭載する場合は、図10に斜線で示したように、マルチバンドアンテナを取り付けて使用することが可能である。図10(a)は、携帯電話無線機の操作部の背面側に接地導体、操作部の端部にマルチバンドアンテナ1aを取り付けた例である。また、図10(b)は、携帯電話無線機の表示部の背面側に接地導体、表示部の先端部にマルチバンドアンテナ1bを取り付けた例である。図10(c)は操作部の背面側に接地導体、背面端部にマルチバンドアンテナ1cを取り付けた例である。筐体内部に収容(内蔵)する構成であってもよい。
通信機器には、使用周波数帯の切換を行うため、上述したとおり所要の信号レベルを有する制御信号を発生させる制御装置が設けられている。
なお、マルチバンドアンテナは、求められる性能に応じて、適宜、交換して使用することも可能である。この場合は、通信機器の上記の部位に、それぞれ、マルチバンドアンテナを離脱自在に装着するための機構を設けるとともに、メインエレメントおよびサブエレメントの一方又は両方の側では、上記機構に適合する装着機構を形成するようにする。
<マルチバンドアンテナの他の実施形態>
次に、本発明のマルチバンドアンテナの他の実施形態を説明する。
図11は、図1に示したマルチバンドアンテナの変形例として、サブエレメントを複数使用したときの構成図である。このような形態のマルチバンドアンテナは、1つのメインエレメント(例えば逆L型エレメント)10と、それぞれ、先端部がメインエレメント10の開放端部と間隔d1で対向する2つのサブエレメント20a,20bとを備えて構成される。これらのサブエレメント20a,20bの電気的面積の和は、メインエレメント10の電気的面積に対して実質的に無視できる面積とすることは、上述したとおりである。
メインエレメント10の給電端部には給電用端子30が設けられる。サブエレメント20aの基端部と接地導体50との間には、制御端子41aに供給される制御信号によって導通/非導通が切り換えられるスイッチ機構40aが設けられる。サブエレメント20bも同様に、その基端部と接地導体50との間に、制御端子41bに供給される制御信号によって導通/非導通が切り換えられるスイッチ機構40bが設けられる。
図11に示した構成のマルチバンドアンテナにおいて、各エレメント長の関係は、図1に示したものとほぼ同じとなる。
すなわち、メインエレメント10のみで略(2n+1)λf3,f8/4(但し、n=0,1,2,・・・)、メインエレメント10とサブエレメント20aとで先端短絡アンテナとして動作するときで略nλf1,f5/2(但し、n=1,2,・・・)、メインエレメント10とサブエレメント20bとで先端短絡アンテナとして動作するときで略nλf2,f7/2(但し、n=1,2,・・・)、サブエレメント20aのみで略nλf4/2(但し、n=1,2,・・・)、サブエレメント20bのみで略nλf6/2(但し、n=1,2,・・・)となる。
、f、f、fが容量結合による共振周波数、f、fが誘導結合による共振周波数、f、fは、サブエレメント20a,20bが無給電反射素子として作用するときの設定周波数である。
このように構成されるマルチバンドアンテナのVSWR−設定周波数特性は、制御端子41a,41bに入力する制御信号の信号レベルを調整することで、図12のように、f1〜f8の8つの共振周波数を持つものとなり、更なるマルチバントに対応することができる。
[各種調整回路]
例えば、図1に示した構成のマルチバンドアンテナにおいて、スイッチ機構40と接地導体50との間に、容量性素子又は誘導性素子を挿入して、共振周波数を変化させることができる。例えば、図13(a)は容量性素子61を挿入した例、同(b)は誘導性素子を挿入した例である。サブエレメント20のエレメント長が、図13(a)の場合は見かけ上短縮され、同(b)の場合は見かけ上延長されるため、アンテナの共振周波数は、図14のように変化する。このようにして、共振周波数の微調を行うことができる。
また、このほかに、メインエレメント10の給電端部と給電用端子30との間に、誘導性素子と容量性素子との並列回路又は直並列回路からなるインピーダンス整合回路を挿入したり、制御端子41からスイッチ機構40に直接制御信号を供給するのではなく電流調整用の抵抗器を介在させたり、使用周波数帯に対して高インピーダンスになるような誘導性素子を介してスイッチ機構40に制御信号を供給するようにしてもよい。
また、インピーダンス調整用に、メインエレメント10とある間隔をおいてほぼ平行で、その一端が接地導体50にほぼ垂直に接合された調整用エレメントを備えるようにしてもよい。
【実施例】
次に、本発明のマルチバンドアンテナの実施例を説明する。
ここでは、携帯電話無線機への搭載に適した平面コプレーナ構造のマルチバンドアンテナの例を示す。図15は、このマルチバンドアンテナを実装するための基体の構造及びサイズを説明するための図であり、(a)は平面図、(b)は側面図である。
この基体は、縱96mm、横40mm、厚み1.0mmのFR−4誘電体基体のうち、縦80mmの部分を接地導体E0、残部の縦16mmの部分をエレメント取付基体D0として用いている。
エレメント取付基体D0には、図16に示すように、エレメント長が長さA+長さBの逆L型のメインエレメント10、(電気的な)エレメント長が長さC、メアンダサイズが長さDのメアンダ型のサブエレメント20のほか、サブエレメント20の基端部と接地導体50との間にPINダイオードPD1を介在させている。
また、長さEの調整用エレメント80、インピーダンス整合回路が設けられている。調整用エレメント80及びインピーダンス整合回路は、設定周波数及び使用周波数帯の数によりアンテナのインピーダンス整合が必要になることから設けられる。インピーダンス整合回路としては、例えば、図16のように、コイルL2、L3及びコンデンサC1との直並列回路を採用することができる。給電用端子30と給電端部との間には上記コイルL3が介在している。調整用エレメント80は、メインエレメント10と間隔d3をおいて、ほぼ平行で、一端が接地導体E0とほぼ垂直に設けられる。
なお、前述のように、メインエレメント10の開放端部とサブエレメント20の先端部との間隔はd1、サブエレメント20とメインエレメント10の間隔はd2である。
PINダイオードPD1には、コイルL1及び抵抗器R1を介して制御端子43から使用目的に応じた信号レベルの制御信号が入力されるようになっている。抵抗器R1は電流調整用のものであり、コイルL1は、上述したように、制御端子43が、使用周波数帯に対して高インピーダンスになるように、つまり使用周波数帯に対して高周波的に無視できるようにするためのものである。このようにして、制御端子43が存在することの特性に与える影響を抑制している。PINダイオードPD1に供給される制御信号の電圧は0〜3V、消費電流は3.0mAとして、0V(オフ)−3V(オン)と電圧を変化させることで、周波数帯域(バンド)の切替を行うことができる。
この実施例において設定可能なバンドは、AMPS(824MHz〜894MHz)、GSM900(880MHz〜960MHz)、GSM1800(1710MHz〜1880MHz)、DCS(1710MHz〜1850MHz)、PCS1900(1850MHz〜1990MHz)及び、UMTS(1920MHz〜2170MHz)とし、図17(a)に示す設定バンド、設定周波数、エレメント長、及び、図17(b)に示す値の制御信号で切換動作させる。
これらの図表によれば、エレメント長は、例えば、メインエレメント10のエレメント長をGSM900バンド内の設定周波数の略λ/4、及び、UMTSバンド内の設定周波数の略3λ/4とし、サブエレメント20のエレメント長を、GSM1800、及び、DCSバンド内の設定周波数の略λ/2に設定している。
このように構成されるマルチバンドアンテナにおいて、制御信号を0[V]と3[V]に切り換えた場合のVSWR特性は、図18のようになる。図18(a)はAMPS、GSM900におけるVSWR特性、同(b)はGSM1800、DCS、PCS1900、UMTSにおけるVSWR特性である。
また、制御信号を0[V]と3[V]に切り換えた場合の利得特性は、図19のようになる。図19(a)はAMPS、GSM900における利得特性、同(b)はGSM1800、DCS、PCS1900、UMTSにおける利得特性である。
それぞれ、各バンド選択時においても使用に十分可能な値となっている。これらの特性を考慮して、図16に示した各定数は、例えば、以下のようにする。
d1:0.8mm、d2:28mm、d3:1.0mm、P1:1.0mm、A:38.0mm、B:16.0mm、C:14.0mm、D:6.0mm、E:6.0mm、L1:100nH、L2:10nH、L3:6.8nH、C1:0.75pF、R1:1.0kΩ。
また、メインエレメント10の水平部と接地導体との間隔(対接地導体間隔)とアンテナ利得との関係は、図20のようになる。図20は、AMPS及びGSM1800のときの例である。この特性図から、この実施例では、性能上、問題のない値となる間隔12mmに設定した。
このように、本発明の実施形態及びそれを具体化した実施例によれば、メインエレメントと異なる周波数に共振可能なサブエレメントを、無給電誘導素子と無給電反射素子とに切り換え可能になるので、エレメント数を増加させることなく、より多くの共振周波数を持つことができ、小型でありながら、広帯域に対応可能なマルチバンドアンテナを容易に実現することができる。
なお、上記の実施形態及び実施例に示した各エレメントの形状、サイズを表す数値、配置等は例示であって、本発明の範囲をこれらに限定する趣旨でないことは、勿論である。
【図1】

【図2】

【図3】

【図4】

【図5】

【図6】

【図7】

【図8】

【図9】

【図10】

【図11】

【図12】

【図13】

【図14】

【図15】

【図16】

【図17】

【図18】

【図19】

【図20】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
開放端部と給電端部とを有し、前記給電端部に給電された複数の周波数帯の高周波信号を放射可能なメインエレメントと;
その先端部が前記メインエレメントの開放端部と所定間隔だけ離して配設され、前記メインエレメントと異なる周波数に共振可能な1つ以上のサブエレメントと;
前記サブエレメントの基端部と所定部位に配された接地導体とを導通又は非導通にするためのスイッチ機構とを有しており;
前記スイッチ機構により前記基端部と前記接地導体とが導通している第1状態のときに前記前記サブエレメントが前記メインエレメントに対する無給電誘導素子として作用して当該サブエレメントの先端部と前記メインエレメントの開放端部とが高周波結合した先端短絡アンテナとなり、他方、前記スイッチ機構により前記基端部と前記接地導体とが非導通となる第2状態のときに前記サブエレメントが前記メインエレメントに対する無給電反射素子として作用する;
マルチバンドアンテナ。
【請求項2】
前記スイッチ機構は、前記サブエレメントの基端部と前記接地導体との間に挿入接続され、外部より入力される制御信号の信号レベルによってスイッチング動作を行う半導体スイッチング素子を、前記導通又は非導通を切り換えるための構成要素として含む、
請求の範囲第1項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項3】
前記メインエレメントの電気的面積が、すべての前記サブエレメントの電気的面積の和に対して略3〜略18倍である、
請求の範囲第1項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項4】
前記メインエレメントが、逆L状、逆F状、メアンダ状又は板状の導電性薄板で成形されており、前記サブエレメントが、前記メインエレメントに対して所定の位置関係をもつように成形されたストリップ状の導電性部材で成形されている、
請求の範囲第3項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項5】
その一端部が前記接地導体に接続され、その他端部が前記メインエレメントに対して略平行の自由端となるインピーダンス調整用エレメントをさらに備える、
請求の範囲第1項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項6】
通信機器に装着可能な基体を備えており、
この基体の一部には、前記接地導体、所定の高周波信号の送受信を行う高周波送受信回路と接続するための給電用端子、及び、前記制御信号が入力される制御端子が形成されており、
前記メインエレメント及び前記サブエレメントは、前記接地導体に対して所定の位置関係を維持して前記基体に取り付けられており、
前記メインエレメントの給電端部は前記給電用端子に接続されており、
前記半導体スイッチング素子には、前記制御端子を通じて入力される前記制御信号が供給されるように構成されている、
請求の範囲第2項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項7】
前記給電端部と前記給電用端子との間に、誘導性素子と容量性素子との組合せからなるインピーダンス整合回路が介在する、
請求の範囲第6項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項8】
前記半導体スイッチング素子と前記制御端子との間に、前記制御端子を高周波的に遮断し、かつ直流的には導通させるためのインピーダンス調整回路が介在する、
請求の範囲第6項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項9】
前記基体には、それぞれ他方のものと対向する一対の主面部、一対の側端部及び一対の短端部を有する誘電体から成るエレメント取付基体が固定されており、
前記メインエレメント及び前記サブエレメントは、前記エレメント取付基体に、その形状に沿って取り付けられている、
請求の範囲第6項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項10】
前記メインエレメント及び前記サブエレメントが、それぞれ、前記エレメント取付基体の一つの主面部に形成されており、かつ、当該主面部が前記接地導体の表面部と同一平面上に存する、
請求の範囲9項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項11】
前記メインエレメント及び前記サブエレメントが、それぞれ、前記エレメント取付基体の−方の側端部に沿って前記接地導体と略垂直の方向に延び、さらに当該エレメント取付基体の一つの主面部を経由して他方の側端部に至り、当該側端部において前記メインエレメントの開放端部と前記サブエレメントの先端部とが所定の間隔で対向している、
請求の範囲第9項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項12】
前記メインエレメント及び前記サブエレメントが、それぞれ、前記エレメント取付基体の一方の側端部に沿って前記接地導体と略垂直の方向に延び、さらに当該エレメント取付基体の一つの主面部上で前記接地導体と略水平の方向に曲折し、当該主面部上で、前記メインエレメントの開放端部と前記サブエレメントの先端部とが所定の間隔で対向している、
請求の範囲第9項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項13】
前記メインエレメントと前記サブエレメントとがそれぞれ一つであり、第1設定周波数の波長がλf1、第2設定周波数の波長がλf2、第3設定周波数の波長がλf3、第4設定周波数の波長がλf4、第5設定周波数の波長がλf5、である場合、
前記メインエレメントのエレメント長は、略λf2/4かつ略3λf5/4であり、
前記サブエレメントのエレメント長は、略λf3/2であり、
前記第1状態のときの前記先端短絡アンテナのエレメント長が略λf1/2かつ略λf4である、
請求の範囲第1項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項14】
前記第1使用周波数帯が及び前記第2使用周波数帯が実質的に824MHz〜894MHz又は880MHz〜960MHzであり、前記第3使用周波数帯、前記第4使用周波数帯及び前記第5使用周波数帯が、実質的に1710MHz〜1880MHz、1850MHz〜1990MHz及び1920MHz〜2170MHzである、
請求の範囲第13項記載のマルチバンドアンテナ。
【請求項15】
請求の範囲第1項乃至請求の範囲第14項のいずれかに記載されたマルチバンドアンテナを筐体内に収容してなり、
使用周波数帯の切換を前記制御信号の信号レベルの切換によって行うように構成されている、
携帯型の通信機器。

【国際公開番号】WO2005/069439
【国際公開日】平成17年7月28日(2005.7.28)
【発行日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517130(P2005−517130)
【国際出願番号】PCT/JP2005/000717
【国際出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(000006758)株式会社ヨコオ (158)
【Fターム(参考)】