説明

マルチフィラメントおよび高密度織物

【課題】 製織性に優れ、特にスポーツ衣料に好適な高密度織物を得ることができる高強度細繊度マルチフィラメントおよびこれらを用いた高密度織物を提供する。
【解決手段】 固有粘度が0.70〜1.20、全酸化チタン粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmである酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、総繊度4〜15dtex、単糸繊度1.3〜5.0dtex、破断強度5.0〜7.0cN/dtex、破断伸度25〜45%であることを特徴とするマルチフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製織性に優れ、特にスポーツ衣料に好適な高密度薄地織物をとすることができる高強度細繊度のマルチフィラメントおよびこれらを用いた高密度織物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、スポーツ衣料、エアバッグなどの用途を中心に、ポリエステルやナイロンをはじめとする合成繊維マルチフィラメントを用いた高密度織物が数多く提案されているが、用途の高度化により、更なる薄地化、またこれに伴う高強度化した織物が求められている。また、エアバッグではもちろんのこと、スポーツ、アウトドア衣料においても防風性向上、もしくはダウンジャケットのダウン飛び出し防止などの観点から、より高密度化した織物の要求が強い。
【0003】
これらに対応する提案として、単糸繊度が0.5〜3.0dtexで、引張強力が5.0〜9.0dtexのポリエステル糸条を用いたカバーファクターが1500〜2500の高密度織物が提案されている(特許文献1)。この提案では、ある程度の高密度化は可能になるが、糸条を構成するポリエステル系ポリマーが特に規定されたものではないため、カバーファクターが2500程度になると製織時の経糸切れ、経糸の毛羽発生が問題となる。また、カバーファクター2500程度では、十分に薄地化、高密度化の要求に応えることができない。
【0004】
また、高密度織物として、特許文献2〜3の提案があるが、エアバッグを主用途としているため、用いるマルチフィラメント総繊度が高く、本発明で目的とする織物の薄地化に対応していない。さらに、カバーファクターが1500以上で、構成する経糸および緯糸が有機系顔料を200ppm以上含有し、単糸繊度が1.0dtex以下の高密度織物が提案されている(特許文献4)。この方法では単糸繊度が小さすぎるため、製織時に特に経糸の毛羽発生が多いという問題を有していた。
【特許文献1】特開2006−52505号公報(請求項1〜4)
【特許文献2】特開平7−258940号公報(請求項12)
【特許文献3】特開平8−246289号公報(実施例1)
【特許文献4】特開2004−107843号公報(請求項1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、かかる従来技術の欠点を改良し、製織時に経糸および緯糸切れ、毛羽発生がなく、かつ機械的特性に優れた超軽量、高密度薄地織物を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記発明の目的は、以下によって達成することができる。すなわち、固有粘度が0.70〜1.20、全酸化チタン粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmである酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、総繊度4〜15dtex、単糸繊度1.3〜5.0dtex、破断強度5.0〜7.0cN/dtex、破断伸度25〜45%であることを特徴とするマルチフィラメントである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のマルチフィラメントとすることで、製織時の糸切れ、毛羽発生がなく、機械的特性に高密度薄地織物を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のマルチモノフィラメントは、固有粘度が0.70〜1.20のポリエチレンテレフタレートからなることが必要である。耐候性、寸法安定性、機械的特性の観点から、本発明のマルチフィラメントはポリエチレンテレフタレートからなる必要がある。目的を損なわない範囲であれば、少量の共重合成分を含有しても良い。また、固有粘度は0.70以上とすることで、本発明で必要な破断強度を得ることができる。また、1.20以下とすることで、安定して製糸することが可能となる。好ましい固有粘度の範囲は0.75〜1.00である。
【0009】
本発明者らは、鋭意検討した結果、細繊度のマルチフィラメントの製織性を向上させるためには、含有する酸化チタンの添加量だけではなく、添加されている酸化チタンの一次粒子径の分布が大きな影響を及ぼすことを見出した。すなわち、本発明のマルチフィラメントは、酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有していることが必要であり、かつ、含有している全酸化チタン粒子数の60%以上が、一次粒子径0.1〜0.6μmであることが必要である。酸化チタンの含有量は0.3重量%以上とすることで、走行する糸と金属の摩擦を十分に低減することが可能となり、0.8重量%以下とすることで、目的の原糸強度を得ることが可能となり、また製織時に接触する金属と原糸との擦過を抑制することができる。さらに、全酸化チタンの粒子数の60%以上が、一次粒子径が0.1〜0.6μmであることが必要である。酸化チタンの一次粒子径の分布を特定の範囲とすることで、製織時の、経糸の筬等との擦過を極力低減することが可能となる。全酸化チタン粒子数の30%以上が0.2〜0.4μmであることがより好ましい。また、本発明の目的を損なわない範囲であれば、酸化チタン以外でもシリカ、アルミナ等の無機粒子や有機顔料のほか抗酸化剤、着色防止剤、帯電防止剤、耐光剤等を少量含有していてもよい。
【0010】
また、本発明のマルチフィラメントは、総繊度が4〜15dtexであることが必要である。4dtex以上とすることで安定的に製糸、製織することが可能となり、15dtex以下とすることで、目的の超高密度薄地織物とすることができる。好ましい総繊度の範囲は8〜13dtexである。
【0011】
さらに、本発明のマルチフィラメントは、単糸繊度が1.3〜5.0dtexであることが必要である。単糸繊度を1.3dtex以上とすることで、製織時の糸切れ、毛羽の発生を抑制することができるとともに、コシがある高密度織物が得られる。また、5.0dtex以下とすることで、得られた織物は緻密性を保ちつつ、硬くなりすぎず良好な風合いを有する。好ましい単糸繊度の範囲は1.6〜3.0dtexである。
【0012】
次に、本発明のスクリーン紗用モノフィラメントは、破断強度が5.0〜7.0cN/dtex、破断伸度が25〜45%である。ここでいう破断強度および破断伸度とは、引張試験での破断点における強度および伸度をさす。破断強度を5.0cN/dtex以上とすることで、薄地の高密度織物としても十分な機械的特性が得られ、7.0cN/dtex以下とすることで、安定的な製糸および製織に必要な適度な原糸の伸度を残すことが可能となる。好ましい破断強度の範囲は、5.5〜6.5cN/dtexである。破断伸度を25%以上とすることで製織時に毛羽を発生しにくくすることが可能であり、45%以下とすることで、目的の破断強度が得られる。好ましい破断伸度の範囲は30〜40%である。
【0013】
また、本発明のマルチフィラメントを経糸および緯糸に配して高密度織物が得られる。本発明のマルチフィラメントは、総繊度が4〜15dtexと極めて低繊度であるため、得られる高密度織物は、下記式で示すカバーファクターが2500以上であることが好ましい。カバーファクターは織物を構成する糸条の太さと織物密度によって定められる織物構造の粗密さをあらわす係数であり、数値が大きいほど高密度であることを示す。
カバーファクター=経糸密度(本/2.54cm)×(経糸繊度(dtex))1/2+緯糸密度(本/2.54cm)×(緯糸繊度(dtex)1/2
さらに、織物の機械的特性を保持するため、得られる高密度織物の、経方向および緯方向いずれの引裂き強力も100〜500cNとなるように設計することが好ましい。高密度織物の組織は特に限定するものではなく、用途に応じていずれも組織も好ましく適用することができる。製織機は特に限定しないが、細繊度であることから、スルーザー、レピア織機を好ましく用いることができる。
【実施例】
【0014】
以下に本発明を詳細に説明する。尚、実施例中の評価は以下の評価方法に従った。
A.固有粘度
オルトクロロフェノール10mlに対し試料0.10gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて測定した。
B.酸化チタン一次粒子径分布
酸化チタン粒子を、エチレングリコールのスラリーとし、HORIBA製CAPA−700を用い、吸光度が1.0〜0.5の範囲となるようにスラリー濃度を調整しサンプルを作製した後、遠心沈降させながら粒径分布を測定した。N=10で測定し、0.1〜0.6μmの一次粒子径の存在割合(%)の平均値を求めた。
C.破断強伸度
東洋ボールドウィン社製テンシロン引張り試験機を用いて試長20cm、引張り速度20cm/分の条件で、応力−歪み曲線から破断点での値を求めた。
D.引裂き強力
得られた織物について、経方向および緯方向の引裂き強力をJIS L1096.8.15.5D法(ペンジュラム法)に準じて測定した。
E.製糸性
後述する実施例の方法でモノフィラメントを得るに当たり、チップ原料1000kgから得られたマルチフィラメントの収率が100%以下90%以上を○○、90%未満〜80%以上を○、80%未満〜70%以上を△、70%未満を×とし、○○および○を合格とした。
F.製織工程通過性
製織工程での通過性(糸切れ、毛羽発生)について、○○、○、△、×の4段階で相対的に評価し、○○および○を合格とした。
G.総合評価
各評価項目について総合的に判断し、○○、○、△、×の4段階で評価し、○○および○を合格とした。
【0015】
実施例1
固有粘度0.78、酸化チタン含有量0.5重量%のポリエチレンテレフタレートを溶融し、300℃で紡糸パックに導き、800m/分の速度で一旦未延伸糸を巻き取った。次いで4.3倍で延伸、130℃で熱処理することにより、12デシテックス5フィラメントのマルチフィラメントを得た。製糸性に問題はなく、良好であった。使用したポリエチレンテレフタレートに添加した酸化チタンは、全粒子数の68%が、一次粒子径0.1〜0.6μmの範囲であった。また、マルチフィラメントの破断強度および伸度はそれぞれ5.6cN/dtex、34%であった。
【0016】
このマルチフィラメントを経糸および緯糸に用い、常法によって整経し、スルーザー織機にて製織し、経糸密度380本/2.54cm、緯糸密度380本/2.54cmの平織物を得た。この際、工程通過性は極めて良好であり、特に問題は見られなかった。得られた織物の引裂き強力は310cN、目付は41g/mであり、軽量性に優れていた。
【0017】
実施例2〜3、比較例1〜2
ポリエチレンテレフタレートの固有粘度を表1および表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法によりマルチフィラメントを得、さらに実施例1と同様の方法で織物を得た。結果を表1および表2にまとめる。
【0018】
実施例4〜5、比較例3〜4
ポリエチレンテレフタレート中の酸化チタン量を表1および表2に示すように変更した以外は実施例1と同様の方法によりマルチフィラメントを得、さらに実施例1と同様の方法で織物を得た。結果を表1および表2にまとめる。
【0019】
実施例6、比較例5
酸化チタン一次粒子径分布の異なるポリエチレンテレフタレートを用いた以外は実施例1と同様の方法によりマルチフィラメントを得、さらに実施例1と同様の方法で織物を得た。結果を表1および表2にまとめる。
【0020】
実施例7〜8、比較例6〜7
紡糸時の吐出量を変更し、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例7では4dtex3フィラメント、実施例8では15dtex6フィラメント、比較例6では25dtex10フィラメント、比較例7では3dtex2フィラメントのマルチフィラメントを得た。比較例7は製糸性が極めて悪く、織物とするだけのマルチフィラメントがえられなかった。得られたマルチフィラメントについて、実施例7では経糸密度650本/2.54cm、緯糸密度650本/2.54cm、実施例8では経糸密度340本/2.54cm、緯糸密度340本/2.54cm、比較例6では経糸密度240本/2.54cm、緯糸密度240本/2.54cmの織物を、実施例1と同様の方法でそれぞれ得た。比較例6では織物の高密度化が困難であり、軽量性にかける織物であった。結果を表1および表2にまとめる。
【0021】
実施例9〜10、比較例8〜9
紡糸時の口金を変更し、それ以外は実施例1と同様の方法で、実施例9では12dtex8フィラメント、実施例10では15dtex3フィラメント、比較例8では12dtex14フィラメント、比較例9では12dtex2フィラメントのマルチフィラメントを得た。得られたマルチフィラメントについて、実施例10では経糸密度340本/2.54cm、とした以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ織物を得た。比較例9はマルチフィラメントの収束性が悪く、工程通過性が悪い上に得られた織物の風合いが硬かった。結果を表1および表2にまとめる。
【0022】
実施例11
実施例1で得られたマルチフィラメントを経糸および緯糸に用い、経糸密度310本/2.54cm、緯糸密度310本/2.54cmとした以外は実施例1と同様の方法で織物を得た。結果を表1に示す。
【0023】
比較例10〜11
実施例1に対し、紡糸時の吐出量および延伸倍率を変更し、比較例10,11を得た。結果を表2にまとめる。
【0024】
【表1】

【0025】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明の方法により得られたマルチフィラメントおよび高密度織物は、機械的特性、軽量性に優れるため、スポーツ衣料、アウトドア衣料などに好ましく用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固有粘度が0.70〜1.20、全酸化チタン粒子数の60%以上が一次粒子径0.1〜0.6μmである酸化チタンを0.3〜0.8重量%含有したポリエチレンテレフタレートからなり、総繊度4〜15dtex、単糸繊度1.3〜5.0dtex、破断強度5.0〜7.0cN/dtex、破断伸度25〜45%であることを特徴とするマルチフィラメント。
【請求項2】
請求項1に記載のマルチフィラメントを経糸および緯糸に用い、下記式に示すカバーファクターが2500以上、引き裂き強力が100〜500cNであることを特徴とする高密度織物。
カバーファクター=経糸密度(本/2.54cm)×(経糸繊度(dtex))1/2+緯糸密度(本/2.54cm)×(緯糸繊度(dtex)1/2

【公開番号】特開2009−74213(P2009−74213A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−246660(P2007−246660)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】