説明

マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法及び新規化合物

【課題】マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の簡易且つ効率的な製造方法及び新規な化合物を提供する。
【解決手段】本発明のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法は、ROH(メタノール、エタノール及びプロパノール等)で表される溶媒中で、2価の金属ヨウ化物(CaI、MgI及びNiI等)からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物〔Ca(OH)、Ni(OH)及びCo(OH)等〕とヨウ素とからなる触媒と、酸素との存在下で、光照射により、化合物〔RC(O)CC(O)R〕からマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体〔ROC(O)C(R)(OH)C(O)R〕を製造することを特徴とする。また、本発明のマロン酸誘導体の製造方法は、新規化合物である中間体を製造する工程を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法及び新規化合物に関する。更に詳しくは、本発明は、マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の簡易且つ効率的な製造方法及び新規な化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体は、多様な官能基に変換可能なエステル部位を有することから、様々な化成品や医薬品原料として大量に製造されている。特に、マロン酸誘導体は、医薬及び農薬などの分野において有機合成上有用な化合物であり、医薬業界においては、特に睡眠剤の原料等として、広く用いられている。
マロン酸のジエステル基に挟まれた活性メチレン基は、塩基の存在下で容易に脱プロトン化され、アニオン種を生成するため、各種親電子剤の導入が可能であり、非常に多くの誘導体が合成されている。
しかしながら、製造工程において塩基を必要とし、また、重要な官能基であるベンゼン等芳香族環の導入は困難であるという問題がある。
ここで、マロン酸ジアルキルエステルからマロン酸誘導体を合成する製造方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
この製造方法によると、マロン酸ジアルキルエステルをアルカリ金属塩とした後、ポリフルオロアルキルヨーダイドを反応させて、マロン酸誘導体の製造をすることができる。
【0003】
【特許文献1】特開平11−246480号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の製造方法では、一旦アルカリ金属塩とする工程が必要であるため、効率的な製造方法とはいえない。
更に、医薬品では特に重要な芳香族環を含むマロン酸誘導体の製造方法は開示されていない。
【0005】
本発明は、上記の従来の問題を解決するものであり、マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の簡易かつ効率的な製造方法、及び新規な化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下のとおりである。
1.下記一般式(1)で表される溶媒中で、2価の金属ヨウ化物からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物とヨウ素とからなる触媒と、酸素との存在下で、光照射により、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することを特徴とするマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
ROH (1)
〔一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。〕
【化1】

〔一般式(2)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化2】

〔一般式(3)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
2.上記一般式(2)で表される化合物1モルに対して、上記触媒が、0.15〜0.4モルである上記1.に記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
3.上記溶媒が、メタノール、エタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種である上記1.又は上記2.に記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
4.下記一般式(4)で表される中間体を製造する工程を備える上記1.乃至3.のいずれかに記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
【化3】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
5.下記一般式(1)で表される溶媒中で、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する製造方法であって、2価の金属ヨウ化物及びヨウ素から選ばれる少なくとも1種の触媒と、酸素との存在下で、光照射により、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(4)で表される中間体を製造する第1工程と、1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物及び2価の金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で、下記一般式(4)で表される中間体から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する第2工程と、を、順次、備えることを特徴とするマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
ROH (1)
〔一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。〕
【化4】

〔一般式(2)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化5】

〔一般式(3)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化6】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
6.下記一般式(4)で表されることを特徴とする化合物。
【化7】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、上記一般式(1)で表される溶媒中で、2価の金属ヨウ化物からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物とヨウ素とからなる触媒と、酸素と、の存在下で、光照射により、上記一般式(2)で表される化合物から上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することができるため、簡易な操作で、効率良く、且つ確実にマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することができる。
また、上記ジカルボニル化合物1モルに対して、上記触媒は0.15〜0.4モルである場合は、更に効率よくマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することができる。
更に、上記溶媒が、メタノール、エタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種である場合は、特に効率よくマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することができる。
また、一般式(4)で表される中間体を製造する工程を備える製造工程とすることができるため、この中間体を利用できる点で有益である。
更に、2価の金属ヨウ化物及びヨウ素から選ばれる少なくとも1種の触媒と、酸素と、の存在下で、光照射により、上記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(4)で表される中間体を製造する第1工程と、1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物及び2価の金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で、上記記一般式(4)で表される中間体から上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する第2工程と、を、順次、備えるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法の場合には、各工程において、より収率の高い触媒を選択することができ、また、第2工程では、酸素及び光照射を必要としないことから、より効率的、且つ確実にマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することができる。
また、上記一般式(4)で表される化合物は、化学的に安定であるため、種々のマロン酸誘導体の原料として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明を詳しく説明する。
[1]マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法
本発明のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法は、下記一般式(1)で表される溶媒中で、2価の金属ヨウ化物からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物とヨウ素とからなる触媒と、酸素との存在下で、光照射により、上記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することを特徴する。
尚、本明細書において、下記一般式(3)で表される化合物を「マロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体」という。
う。
ROH (1)
〔一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。〕
【化8】

〔一般式(2)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化9】

〔一般式(3)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【0009】
上記「一般式(1)で表される溶媒」は、炭素数1〜5の低級アルコールを意味する。
アルコールを溶媒として用いることができるため、ハロゲン系溶媒を用いる必要がなく、環境に優しく、所謂グリーンケミストリーの概念に叶った反応ということができる。
一般式(1)におけるRは炭素数1〜5のアルキル基を示し、直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。上記炭素数1〜5のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基等が挙げられる。
これらの溶媒であれば効率よくマロン酸誘導体を製造することができる。一方、一般式(1)におけるRが炭素数6以上である場合には、沸点が高くなり、反応混合物からの除去(留去)が困難になる他、粘性も高くなり反応速度の低下、反応試剤の溶解性の低下などの恐れがある。
【0010】
また、上記溶媒は、メタノール、エタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらの溶媒との反応であれば、反応試剤に対する溶解性が高く、分子が小さいため反応速度も速い。さらに、低沸点であることから、反応混合物からの除去(留去)も容易であるため、さらに効率よくマロン酸誘導体を製造することができる。
【0011】
上記「触媒」は、2価の金属ヨウ化物からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物及びヨウ素からなる触媒である。2価の金属ヨウ化物からなる触媒のみ、2価の金属水酸化物及びヨウ素の組み合わせからなる触媒のみのいずれを用いてもよく、併用して用いることもできる。
上記「2価の金属ヨウ化物」は、2価の金属から形成される2価のヨウ化金属化合物であれば特に限定はなく、例えば、MgI、CaI、SrI、BaI、ZnI、NiI、CoI、SmI、MnI、TiIが挙げられる。これらの中でも、MgI、CaI、SrI、BaI、ZnI、NiI、CoI、SmIが好ましく、MgI、CaI、SrI、ZnI、NiI、CoIが更に好ましく、CaI、NiI、CoIが特に好ましい。CaI、NiI、CoIであれば、極めて効率よくマロン酸誘導体を製造することができる。
【0012】
「2価の金属ヨウ化物」に代えて、又は「2価の金属ヨウ化物」と共に「2価の金属水酸化物及びヨウ素」を用いることもできる。尚、2価の金属水酸化物及びヨウ素からなる触媒は、「及び」であるため、2価の金属水酸化物とヨウ素の両方が必要である。
上記「2価の金属水酸化物」としては、2価の金属から形成される2価の水酸化金属化合物であれば特に限定はなく、例えば、Mg(OH)、Ca(OH)、Ba(OH)、Ni(OH)、Co(OH)、Cu(OH)が挙げられる。これらの中でもCa(OH)、Ni(OH)、Co(OH)が好ましく、Ca(OH)が特に好ましい。
また、ヨウ素は単体のヨウ素を意味する。2価の金属水酸化物とヨウ素の配合比率(モル比)は、2価の金属水酸化物:ヨウ素=(1:20)〜(20:1)であることが好ましく、(1:2)〜(2:1)であることが更に好ましい。
【0013】
上記触媒の量は、上記一般式(2)で表される化合物(以下、単に「化合物」ともいう。)1モルに対して0.15〜0.4モルであることが好ましく、0.2〜0.4モルであることが更に好ましい。0.15モル未満では触媒としての効果が低下する恐れがあり、0.4モルを超えると、光照射した場合の光の透過の妨げとなり、反応効率の低下をもたらす恐れがある。
【0014】
上記「酸素」は、単体の分子状酸素を意味する。分子状酸素であれば、原子効率が非常に高く、酸化剤としての役割を果たすからである。
「酸素の存在下」とは、常温、常圧の下で酸素が、反応系に存在していることを意味し、いわゆる酸素雰囲気であることを意味する。例えば空気のように酸素以外の気体が含有されていてもよく、酸素が100%でもよいし、酸素と、窒素、ヘリウム、アルゴン等の不活性ガスとを含むものであってもよい。
酸素ガス濃度は70容量%以上が好ましく、80容量%以上がより好ましい。高濃度の酸素が存在していることが好ましく、高濃度の酸素により反応効率を高めることができる。
具体的には、閉じた反応容器に、酸素風船により酸素を吹き込むことによって酸素を存在させることができる。
反応における酸素の量は、化合物の当量以上であればよいが、上記一般式(2)で表される化合物に対して5倍当量以上の大過剰が好ましく、10倍当量以上がより好ましく、30倍当量以上が更に好ましい。
また、圧力条件は、減圧、加圧又は常圧のいずれでもよいが、上記圧力は0.09〜5MPaが好ましく、0.09〜1.2MPaがより好ましく、0.1〜1.1MPaが更に好ましい。加圧とすることで、反応を促進することもできるが、製造条件を簡略化できる点で、0.09〜0.11MPa範囲の常圧又は常圧付近が好ましい。
尚、この反応は、バッチ反応でも連続反応でもよい。
【0015】
反応温度は、化合物の種類、用いる溶媒及び反応時間等の反応条件により適宜選択される。加熱することで、反応を促進することができるが、加熱する温度は、用いる溶媒の沸点以下が好ましい。尚、反応温度は、例えば、0〜200℃であり、好ましくは10〜150℃であり、より好ましくは10〜100℃であり、更に好ましくは10〜60℃である。
また、20〜25℃の加熱することのない常温付近での反応温度とすることもできる。
【0016】
上記「光照射」は、反応系に光を照射することをいう。光を照射することにより、上記酸素の存在下、光酸素酸化反応を行うことができる。
光は、可視光線ないし紫外線であることが好ましく、可視光線であることが更に好ましい。具体的には、人工灯、太陽光を利用することができる。例えば、可視光を発する人工灯としての汎用の蛍光灯を反応容器上に並べて照射することができる。汎用の蛍光灯であれば簡便であり、低コストである。
照射時間である反応時間は特に限定はないが、1時間〜72時間であることが好ましく、5時間〜48時間であることが更に好ましく、8時間〜24時間であることが特に好ましい。反応時間が上記の範囲内にあると、効率よくマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体が製造される。
【0017】
上記一般式(2)で表される化合物において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示す。
上記炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖状であってもよいし、分岐状であってもよく、その例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基などが挙げられる。これらのうち好ましくは、メチル基、エチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基である。
【0018】
また、上記炭素数7〜12のアルキルフェニル基としては、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、4−ブチルフェニル基、ジメチルフェニル基等が挙げられる
【0019】
また、上記炭素数7〜12のアルコキシフェニル基としては、メトキシフェニル基、エトキシフェニル基、n−プロポキシフェニル基、イソプロポキシフェニル基、n−ブトキシフェニル基、イソブトキシフェニル基、tert−ブトキシフェニル基、sec−ブトキシフェニル基、n−ペントキシフェニル基、ネオペントキシフェニル基等が挙げられる。これらのうち好ましくは、メトキシフェニル基である。
【0020】
また、上記炭素数7〜12のアラルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
【0021】
また、上記ハロゲン化フェニル基としては、フルオロフェニル基、クロロフェニル基、ブロモフェニル基等が挙げられる。
【0022】
上記一般式(2)におけるRは、炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。
尚、上記一般式(2)におけるRが、炭素数1〜5のアルキル基の場合は、上記一般式(2)で表される化合物は、ジケトン化合物を意味し、一般式(2)におけるRが、炭素数1〜5のアルコキシ基の場合は、上記一般式(2)で表される化合物は、ジカルボニル化合物を意味する。
【0023】
上記一般式(2)のRにおける炭素数1〜5のアルキル基については、前述の一般式(1)におけるRのアルキル基と同様である。また、炭素数1〜5のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペントキシ基、ネオペントキシ基等が挙げられる。これらのうち好ましくは、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基である。
【0024】
上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体(以下「誘導体」ともいう。)は、一般式(1)で表される溶媒(以下「溶媒」ともいう。)と一般式(2)で表される化合物とが反応して生成される。
即ち、化合物におけるRが、溶媒におけるRと置換される。更に、化合物におけるメチレン基が有する水素が、化合物におけるR及びヒドロキシル基に置換される。
ここで、上記化合物におけるRは、通常、反応後もRのまま変化しないため、一般式(3)におけるRは、化合物由来のRを意味する。しかし、化合物におけるRが炭素数1〜5のアルコキシ基であり、溶媒のRにおけるアルキル基の炭素数が、化合物のRにおけるアルコキシ基の炭素数より少ない場合は、化合物のRは溶媒のORに置換される場合がある。例えば、溶媒のRがメチル基であって、化合物のRがエトキシ基であれば、化合物のRは溶媒のORに置換される場合がある。従って、この場合は、一般式(3)におけるRは溶媒由来のORを意味する。
【0025】
上記一般式(3)におけるRは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。この炭素数1〜5のアルキル基については前述の一般式(1)におけるRのアルキル基と同様である。また、炭素数1〜5のアルコキシ基については前述の一般式(2)におけるRのアルコキシ基と同様である。
また、上記一般式(3)におけるRが炭素数1〜5のアルキル基の場合は、上記一般式(3)で表される化合物は、ケト酸エステル誘導体を意味し、上記一般式(3)におけるRが炭素数1〜5のアルコキシ基の場合は、上記一般式(3)で表される化合物はマロン酸エステル誘導体を意味する。
即ち、上記一般式(2)で表される化合物がジカルボニル化合物の場合には、生成物である一般式(3)で表される化合物はマロン酸エステル誘導体となり、上記一般式(2)で表される化合物がジケトン化合物の場合には、生成物である一般式(3)で表される化合物はケト酸エステル誘導体となる。
【0026】
また、本発明におけるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法は、下記一般式(4)で表される中間体を製造する工程を備えることができる。
下記一般式(4)で表される化合物(以下「中間体」ともいう。)は、上記一般式(1)で表される溶媒と上記一般式(2)で表される化合物とが反応して上記一般式(3)で表される誘導体が生成される過程で製造される。
【化11】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
上記一般式(4)におけるRは、前述の一般式(2)におけるRと同様であり、上記一般式(4)におけるRは、前述の一般式(2)におけるRと同様である。
【0027】
例えば、以下の式(5)に示すように、メタノール溶媒中で、ヨウ化カルシウムを触媒として、酸素の存在下で、光照射により、化合物(A)から誘導体(C)を製造することができるが、この製造過程において中間体(B)が生成される。
【化10】

【0028】
また、請求項5に記載の本発明におけるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法は、上記一般式(1)で表される溶媒中で、上記一般式(2)で表される化合物から上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する製造方法であって、2価の金属ヨウ化物及びヨウ素から選ばれる少なくとも1種の触媒と、酸素との存在下で、光照射により、上記一般式(2)で表される化合物から上記一般式(4)で表される中間体を製造する第1工程と、1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物及び2価の金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で、上記一般式(4)で表される中間体から上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する第2工程と、を、順次、備えることを特徴とするマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法である。
【0029】
上記第1工程は、上記一般式(2)で表される化合物から上記一般式(4)で表される中間体を製造する工程である。この第1工程では、酸素の存在下で、光照射により2価の金属ヨウ化物及びヨウ素から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で上記中間体が製造される。この「2価の金属ヨウ化物」及び「ヨウ素」は、前述の「2価の金属ヨウ化物」及び「ヨウ素」と同様である。また、「酸素の存在下」及び「光照射」は、前述の「酸素の存在下」及び「光照射」と同様である。
【0030】
上記第1工程の反応時間は、特に限定されないが、1時間〜36時間であることが好ましく、2時間〜24時間であることが更に好ましく、3時間〜12時間であることが特に好ましい。反応時間が上記の範囲内にあると、効率よく中間体が製造される。
【0031】
上記第2工程は、上記一般式(4)で表される中間体から上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する工程である。この第2工程では、酸素及び光照射は不要であり、1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物及び2価の金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で上記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体が製造される。この第2工程で用いられる触媒は、2価の金属ヨウ化物及び2価の金属水酸化物に限らず、1価の金属ヨウ化物及び1価の金属水酸化物でもよい。
【0032】
上記1価の金属ヨウ化物としては、LiI、NaI、KI、RbI及びCsIが挙げられる。
また、上記1価の金属水酸化物としては、LiOH、NaOH、KOH、RbOH及びCsOHが挙げられる。これらのうち、反応効率に優れるNaOH、KOHが好ましい。
また、「2価の金属ヨウ化物」及び「2価の金属水酸化物」は、前述の「2価の金属ヨウ化物」及び「2価の金属水酸化物」と同様である。
【0033】
第2工程の反応時間は特に限定はないが、1時間〜36時間であることが好ましく、2時間〜24時間であることが更に好ましく、3時間〜12時間であることが特に好ましい。反応時間が上記の範囲内にあると、効率よくマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体が製造される。
【0034】
上記第1工程及び上記第2工程の圧力条件は、共に、減圧、加圧又は常圧のいずれでもよいが、上記圧力は0.09〜5MPaが好ましく、0.09〜1.2MPaがより好ましく、0.1〜1.1MPaが更に好ましい。加圧とすることで、反応を促進することもできるが、製造条件を簡略化できる点で、0.09〜0.11MPa範囲の常圧又は常圧付近が好ましい。
尚、この反応は、バッチ反応でも連続反応でもよい。
【0035】
また、上記第1工程及び上記第2工程の反応温度は、反応時間、用いる溶媒及び触媒等の反応条件により適宜選択される。加熱することで、反応を促進することができるが、加熱する温度は、用いる溶媒の沸点以下が好ましい。尚、反応温度は、例えば、0〜200℃であり、好ましくは10〜150℃であり、より好ましくは10〜100℃であり、更に好ましくは10〜60℃である。
また、20〜25℃の加熱することのない常温付近での反応温度とすることもできる。
【0036】
本発明の製造方法における反応の機構は、以下の(1)〜(4)のスキームのように推定される。
【化12】

【0037】
上記(1)は、2価の金属ヨウ化物からヨウ素アニオンが解離するスキームである。光の照射により特に、解離が促進されるものと考えている。
上記(2)は、ヨウ素アニオンから単体ヨウ素の生成を表している。本反応は、反応が進行するにつれて単体ヨウ素に由来する淡黄色に呈色する点、および2価の金属水酸化物と単体ヨウ素の存在下でも反応が進行することから、単体ヨウ素が必須である。従って、2価の金属ヨウ化物を用いた場合は、光酸素酸化によりヨウ素アニオンが酸化されて単体ヨウ素が生成すると考えられる。
上記(3)は、ジカルボニル化合物からβ―ケトエステル誘導体(マロン酸誘導体を含む)への転位反応の機構を示している。まず、金属エノレート4に単体ヨウ素が反応してヨウ化物5および光照射によるラジカル種6が生成する。この6は分子状酸素をトラップしてパーオキシラジカル種7およびハイドロパーオキシド8を経て中間体3を生成する。3は、2価の金属イオンとエノレート9を形成し、アルコール類の求核攻撃を始点とする転位反応を経てβ―ケトエステル誘導体に至る。
上記(4)は、単体ヨウ素の再生について示した。2価の金属ヨウ化物および2価の金属水酸化物は触媒量で進行するため、反応系内での単体ヨウ素の再生が必要である。上記(3)の過程において生成したヨウ素ラジカル(I・)およびヨウ化水素(HI)が、反応条件下光酸素酸化を受けて、単体ヨウ素が再生されると考えられる。
尚、上記(3)のスキームにおけるR及びRは、前述の一般式(2)におけるR及びRと同様である。
【0038】
中間体生成に至るまでの触媒は、2価の金属ヨウ化物又はヨウ素が必要である。
しかし、中間体から最終生成物である誘導体に至るまでの触媒としては、1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物、又は2価の金属水酸化物のみでよい。即ち、1価又は2価の金属イオンの存在のみで中間体から最終生成物である誘導体が得られる。一方、ヨウ素のみでは、中間体から誘導体に至ることがない。
【0039】
また、上記中間体は、新規な物質であり、安定的に存在する。例えば、10℃〜30℃の温度では、30日程度安定的に存在する。
したがって、この物質を原料とする種々のマロン酸誘導体を製造することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例は実験例1〜10、実験例19〜23、実験例27〜32、実験例37〜48及び実験例50〜59である。また、比較例は実験例11〜18、実験例24〜26及び実験例33〜36及び実験例60である。尚、実験例における収率とは、用いた原料のモル数に対する得られた生成物のモル数の割合から算出される値であり、全て精製後の単離収率を示す。
【0041】
本実施例において、赤外線スペクトルは、「Perkin−Elmer Spectrum One FT−IRスペクトロメーター」により測定した。H−NMRスペクトルは、「JEOL JMN−EX−400スペクトロメーター」により測定した。化学シフトは、テトラメチルシランを内部標準(CDCl)としてppmで記録した。13C−NMRスペクトルは、「JEOL JMN−AL−400スペクトロメーター」により、完全プロトンデカップリングで測定した。化学シフトは、TMS(テトラメチルシラン)(0ppm)を内部標準としてppmで記録した。Massは、「JMS−SX 102A」により測定した。元素分析は、「YANACO MT−5」を用いた。TLCは、「Kieselgel F−254」を使用した。
【0042】
データは、化学シフト、積分値、多重度(s=1重線、d=2重線、t=3重線、q=4重線、quin=5重線、brs=広い1重線)、及びカップリング定数(Hz)の順で表記した。
【0043】
[1]触媒の種類による製造実験(実験例1〜18)
(1)マロン酸エステル誘導体の製造
下式(7)に示すように、原料であるジカルボニル化合物としてメチル3−オキソヘプタノエートから、生成物であるマロン酸エステル誘導体を製造した。
【化13】

パイレックス(登録商標)試験管中でメチル3−オキソヘプタノエート0.3mmolと、表1に示す実験例1〜18の触媒のうちのいずれか0.06mmol(0.2当量)をメタノール(溶媒)5mlに溶解し、酸素雰囲気下(酸素風船)、攪拌しながら蛍光灯(22ワット、松下電器産業株式会社製パルックボール;品番:EFR25ED/22)4個で光照射した。蛍光灯は、原料等を入れた試験管より7cm離し、その試験管を四方から囲む形で設置した。
そして、反応後、得られた反応混合液を減圧下で溶媒留去し、残渣を酢酸エチルに溶解し分液ロートに移した。その後、チオ硫酸ナトリウムで有機層を洗浄した後、抽出を行った。その抽出した粗生成物をPTLCにて精製することにより、目的のジメチルブチルヒドロキシマロネートを得た。また、得られた生成物は、H−NMR、13C−NMR、IR及びMassの測定結果から確認した。
尚、得られた生成物(C)(ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート)におけるH−NMRの測定結果を図1、13C−NMRの測定結果を図2、IRの測定結果を図3に示す。
実験例1〜18での用いた触媒及び反応時間を表1に示す。また、反応開始後10時間、反応開始後24時間、反応開始後48時間及び反応開始後72時間の反応経過時間毎の収率を表1に併記する。
【0044】
ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート<Dimethyl 2-butyl-2―hydroxymalonate>;
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=3.76(s,6H),1.97(t,J=8.1Hz,2H),1.29−1.20(m,4H),0.85(t,J=7.1Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400 MHz,CDCl):δ=171.0,79.0,53.2,34.6,25.2,22.5,13.8ppm;
〔3〕IR(neat):3495,2960,1745,1438,1233,1159cm−1;
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C17[M+1]:205.10760,found 205.10816.
【0045】
【表1】

【0046】
(2)触媒の種類及び目的生成物の収率
表1に示すように、実験例1〜10の2価の金属ヨウ化物の場合には、すべて目的生成物を得ることができた。この中でも実験例1〜8の場合は10時間で24%以上の収率を得ることができた。特に、CaI、NiI、CoIの場合は、約80%の高収率であった。その中でも特に、CaIでは、85%という高収率であった。
ここで、実験例2のCaIは、10時間で収率85%であったが、24時間経過の収率は表1に示すように92%という高収率を得る結果となった。実験例1及び実験例3〜8については、10時間経過のみの収率を調査しているが、更に時間を経過することにより収率が高まるものと推定される。
一方、実験例11から14までの1価の金属ヨウ化物、実験例15の4価の金属ヨウ化物、実験例16の塩化物、実験例17の臭化物、実験例18の単体ヨウ素については、目的生成物は得られなかった。
ここで、表1の収率において、「−」はデータなし、「n.r.」は反応が全く生じず、原料を回収したものであり、「trace」は、極く微量の目的生成物が検出されたものであり、「0」は目的生成物は生じなかったが、後述の中間体が生成されたものをそれぞれ示す(表2〜表5の収率においても同様である。)。尚、収率がtraceのものは、反応時間を更に延ばせば収率が上昇すると考えられる。
【0047】
[2]触媒の量、光照射、酸素の影響の製造実験(実験例19〜26)
(1)マロン酸エステル誘導体の製造
実験例19〜26では、触媒としてヨウ化カルシウムを用い、原料であるジカルボニル化合物としてメチル3−オキソヘプタノエートを用いた。そして実験例19〜22では、反応時間は10時間とし、触媒量をジカルボニル化合物に対して0.1〜0.4当量と変化させて、目的生成物を生成した。
0.1当量とは、原料1モルに対して0.1モル添加することを意味する。すなわち、メチル3−オキソヘプタノエート0.3mmolに対して0.03mmolが0.1当量である(以下、「当量」の意味は同じである。)
その他の条件は、上記[1]の製造実験と同様にして行った。また、得られた生成物は、上記[1]の製造実験と同様にH−NMR、13C−NMR、IR及びMassの測定結果から確認した。
実験例23では、反応時間を5時間とした。その他の条件は実験例20と同様にして行った。
実験例24では、触媒を使用しなかった。その他の条件は実験例19〜22と同様にして行った。
実験例25では、製造実験で用いる上記試験管をアルミホイルで、完全に包んで遮光して行い、光照射をしなかった。その他の条件は実験例20と同様にして行った。
実験例26では、酸素雰囲気下ではなく、アルゴン雰囲気下で行った。その他の条件は実験例20と同様にして行った。
尚、上記実験例19〜26での用いた触媒、触媒量、光照射の有無、酸素の有無、反応時間及び収率を表2に示す。
【0048】
【表2】

【0049】
(2)実験結果
実験例19〜22では、原料に対して0.2当量添加したときが最も収率がよい結果が得られた。0.3当量以上添加してもかえって収率が下がるのは、触媒によって光透過率が減少して、反応効率が低下するためと考えられる。
実験例24〜26では、触媒、光照射、酸素のいずれかが欠けていると、目的生成物が全く得られないことが判明した。
【0050】
[3]金属水酸化物の種類による製造実験(実験例27〜36)
(1)マロン酸エステル誘導体の製造
実験例27〜36では、触媒として、2価の金属ヨウ化物に代えて、ヨウ素及び表3に示す金属水酸化物を使用して試験を行った。反応時間は10時間とし、その他の条件は、上記[1]の製造実験と同様にして行った。
実験例27〜32では、ヨウ素0.2当量及び2価の金属水酸化物0.2当量を使用した。また、実験例33〜35ではヨウ素0.1当量及び1価の金属水酸化物0.2当量、実験例36ではヨウ素0.3当量及び3価の金属水酸化物0.2当量を使用した。
尚、上記実験例27〜36での用いた触媒、触媒量、反応時間及び収率を表3に示す。
また、得られた生成物は、上記[1]の製造実験と同様にH−NMR、13C−NMR、IR及びMassの測定結果から確認した。
【0051】
【表3】

【0052】
(2)実験結果
実験例27〜36の結果より、触媒として、2価の金属ヨウ化物に代えて、ヨウ素及び金属水酸化物を用いても、目的生成物が得られることが判明した。ヨウ素と水酸化カルシウム、水酸化ニッケル、水酸化コバルトの組み合わせでは60%以上の収率が得られた。 特に、ヨウ素と水酸化カルシウムの組み合わせでは、85%という高収率であった。
一方、実験例33〜36では目的生成物は全く得られない結果となった。
【0053】
[4]種々のジカルボニル化合物及びジケトン化合物からのマロン酸エステル誘導体及びケト酸エステル誘導体の製造実験(実験例37〜48)
(1)マロン酸誘導体の製造
表4に示す種々のジカルボニル化合物及びジケトン化合物を原料としてマロン酸エステル誘導体及びケト酸エステル誘導体への転換を行った。
溶媒は、表4に示す種々のものを用いた。触媒としては、ヨウ化カルシウムを使用した。触媒量は、実験例39及び44は0.5当量とし、それ以外の実験例37、38、40〜43、及び45〜48は0.2当量とした。また、反応時間は、実験例43及び46は24時間とし、それ以外の実験例37〜42、44、45、47及び48は10時間とした。その他の条件は、上記[1]の製造実験と同様にして行った。
尚、上記実験例37〜48での用いた原料、溶媒、生成物及び収率を表4に示す。
また、得られた生成物は、H−NMR、13C−NMR、IR等の測定結果から確認した。
【0054】
実験例37の生成物〔エチルメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Ethyl methyl 2-butyl-2-hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=4.29-4.24(m,2H),3.80(s,3H),3.77(s,1H),2.03(t,J=8.1Hz,2H),1.35-1.28(m,4H),1.30(t,J=7.2Hz,3H),0.90(t,J=7.0Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=171.1,170.6,79.0,62.5,53.1,34.4,25.2,22.5,14.0,13.8ppm;
〔3〕IR(neat):3500,2961,1739,1440,1369,1216,1158cm-1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C1019[M+1]:219.12325,found 219.12411.
【0055】
実験例38の生成物〔イソプロピルメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Isopropyl methyl 2−butyl−2−hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=5.08−5.05(m,1H),3.76(s,3H),3.70(s,1H),1.98(t,J=8.0Hz,2H),1.36−1.24(m,4H),1.24(q,J=3.9Hz,6H),0.87(t,J=7.2Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=171.0,170.3,79.0,70.5,53.0,34.2,25.1,22.6,21.5,21.4,13.8ppm;
〔3〕IR (neat):3500,2960,1739,1455,1377,1232,1160,1105cm−1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C1121[M+1]:233.13890, found 233.13825.
【0056】
実験例39の生成物〔ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Dimethyl 2−butyl−2−hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=3.76(s,6H),1.97(t,J=8.1Hz,2H),1.29−1.20(m,4H),0.85(t,J=7.1Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=171.0,79.0,53.2,34.6,25.2,22.5,13.8 ppm;
〔3〕IR(neat):3495,2960,1745,1438,1233,1159cm−1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C17[M+1]:205.10760, found 205.10816.
【0057】
実験例40の生成物〔ジエチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Diethyl 2−butyl−2−hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=4.21(q,J=7.1Hz,4H),3.73(br,1H),1.97(t,J=8.1Hz,2H),1.35−1.20(m,4H),1.24(t,J=7.2Hz,6H),0.85(t,J=7.1Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.6,78.9,62.3,34.2,25.1,22.5,13.9,13.8ppm;
〔3〕IR(neat):3500,2962,1739,1467,1368,1212,1158cm−1;
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C1121[M+1]:233.13890, found 233.13796.
【0058】
実験例41の生成物〔エチルイソプロピル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Ethyl isopropyl 2−butyl−2−hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=5.13−5.07(m,1H),4.25(q,J=7.2Hz,2H),3.75(s,1H),2.01(t,J=8.0Hz,2H),1.34−1.26(m,13H),0.90(t,J=7.1Hz,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.6,170.3,78.9,70.2,62.1,34.1,25.1,22.6,21.5,21.4,14.0,13.8 ppm;
〔3〕IR(neat):3500,2962,1733,1468,1376,1215,1105cm−1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd forC1223[M+1]:247.15455, found 247.15538.
【0059】
実験例42の生成物〔ジメチル2−ヒドロキシ−2−イソプロピルマロネート〕<Dimethyl 2−hydroxy−2−isopropylmalonate>:
〔1〕H−NMR(400 MHz,CDCl):δ=3.82(s,6H),3.68(s,1H),2.66−2.63(m,1H),0.92(d,J =6.1 Hz,6H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.9,82.3,53.3,33.4,16.5 ppm;
〔3〕IR(KBr):3501,1753,1433,1389,1369,1296,1231,1185,1164,1046 cm−1
〔4〕Anal:Calcd for C14:C,50.52;H,7.42,
found C,50.29;H,7.37.
【0060】
実験例43の生成物〔ジメチル2−tert−ブチル−2−ヒドロキシマロネート〕<Dimethyl 2−tert−butyl−2−hydroxymalonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=3.83(s,1H),3.77(s,6H),1.07(s,9H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.6,83.5,52.9,38.0,25.5 ppm;
〔3〕IR(neat):3494,2959,1738,1436,1369,1213,1108,1060 cm−1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C17[M+1]:205.10760,found205.10751.
【0061】
実験例44の生成物 〔ジメチル2−ヒドロキシ−2−フェニルマロネート〕<Dimethyl 2−hydroxy−2−phenylmalonate>:
〔1〕H−NMR(400 MHz,CDCl):δ=7.63(d,J=6.3Hz,2H),7.38−7.36(m,3H),4.39(s,1H),3.83(s,6H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.3,135.7,128.7,128.1,126.5,80.0,53.7 ppm;
〔3〕IR (KBr):3432,1731,1441,1291,1118,734,693cm−1
〔4〕Anal:Calcd for C1112:C,58.93;H,5.39,found C,58.95;H,5.21.
【0062】
実験例45の生成物〔ジメチル2−ヒドロキシ−2−(4−メトキシフェニル)マロネート〕<Dimethyl 2−hydroxy−2−(4−methoxyphenyl)malonate>:
〔1〕H−NMR(400 MHz,CDCl):δ=7.53(d,J=9.0Hz,2H),6.88(d,J=8.8Hz,2H),4.27(s,1H),3.82(s,6H),3.79(s,3H) ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=170.5,159.8,127.8,127.7,113.5,79.7,55.2,53.7ppm;
〔3〕IR (KBr):3450,1731,1515,1432,1295,1260,1178,1098,835 cm−1
〔4〕Anal:Calcd for C1214:C,56.69;H,5.55, found C,56.56;H,5.54.
【0063】
実験例46の生成物〔ジメチル2−ヒドロキシ−2−(4−ニトロフェニル)マロネート〕<Dimethyl 2−hydroxy−2−(4−nitrophenyl)malonate>:
〔1〕H−NMR(400 MHz,CDCl):δ=8.24(d,J=9.0Hz,2H),7.89(d,J=9.0Hz,2H),4.51(s,1H),3.88(s,6H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=169.2,148.1,142.1,128.0,123.1,79.6,54.2ppm;
〔3〕IR(KBr):3445,1737,1519,1356,1291cm−1
〔4〕HRMS(FAB):m/z calcd for C1112NO[M+1]:270.06137, found 270.06224.
【0064】
実験例47の生成物〔ジメチル2−ヒドロキシ−2−(ピリジン−3−イル)マロネート〕<Dimethyl 2−hydroxy−2−(pyridine−3−yl)malonate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl):δ=8.83(s,1H),8.51(d,J=3.7Hz,1H),7.95(d,J=8.3Hz,1H),7.25(dd,J=4.3Hz,1H),3.77(s,6H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=169.6,149.3,148.1,134.8,132.0,122.9,78.8,53.8ppm;
〔3〕IR(KBr):3091,1744,1595,1487,1436,1272cm−1
〔4〕Anal:Calcd for C1011NO:C,53.33;H,4.92;N,6.22, found C,53.07;H,4.77;N,6.13.
【0065】
【表4】

【0066】
(2)実験結果
実験例37及び38は、上記実験例2と同一の原料で、溶媒のみ異なる。実験例2、37、38のいずれも原料のジカルボニル化合物におけるn−ブチル基が溶媒のアルコキシ基と置換され、ジカルボニル化合物におけるメチレン基の水素がn−ブチル基とヒドロキシル基で置換された。溶媒のアルコキシ基の炭素数が少ないものほど収率が高い結果となった。また、分岐した構造を有するイソプロピル基では収率がやや低下した。
【0067】
実験例39〜41で用いたジカルボニル化合物は、実験例2、37、38で用いた原料のジカルボニル化合物におけるメトキシ基をエトキシ基に置き換えたジカルボニル化合物である。実験例40、41は、実験例2、37、38と同様、ジカルボニル化合物におけるn−ブチル基が溶媒のアルコキシ基と置換され、ジカルボニル化合物におけるメチレン基の水素がn−ブチル基とヒドロキシル基で置換された。
しかしながら、実験例39では、原料のジカルボニル化合物におけるエトキシ基が、生成物においてメトキシ基に置換されている。これは、溶媒のアルコキシ基の炭素数が少ないと、ジカルボニル化合物におけるアルコキシ基が、溶媒のアルコキシ基に置換されると考えられる。
ただし、この実験例39では、原料に対して0.5当量の触媒を使用した。また、この実験例39において、0.2当量の触媒を使用した場合には、生成物においてメトキシ基に置換されたものが56%、メトキシ基に置換されずエトキシ基のままのものが29%得られた。
【0068】
実験例42、43で用いたジカルボニル化合物は、実験例2、37、38で用いた原料のジカルボニル化合物におけるn−ブチル基をそれぞれ、i−プロピル基、t−ブチル基に置換したジカルボニル化合物である。この場合も、i−プロピル基、t−ブチル基が、溶媒中のアルコキシ基と置換され、ジカルボニル化合物におけるメチレン基の水素がi−プロピル基とt−ブチル基で置換された。
ただし、実験例43では、24時間経過後の収率である。
【0069】
実験例44〜48では芳香族環を含む基を有するジカルボニル化合物を原料とする場合である。表4に示すように、実験例44〜47のいずれも、上記実験例と同様の置換反応が生じた。
実験例44は、実験例39と同様、ジカルボニル化合物におけるエトキシ基が溶媒のメトキシ基と置換されている。尚、実験例44は、触媒0.5当量を使用した。
実験例45の高い収率は、原料のメトキシフェニル基が電子供与基であることに起因していると考えられる。
また、実験例46における収率は、24時間経過後のものである。さらに、実験例46では、表4に示す生成物以外に、メチル4−ニトロベンゾエイトが12%の収率で得られた。
尚、実験例46では収率は、57%とやや低かったが、これは、ニトロフェニル基が、電子求引基であることに起因していると考えられる。
【0070】
実験例48は、上記のエステル化合物とは異なるジケトン化合物を原料とするものである。得られた生成物は、フェニル基、メチル基のいずれもそれぞれ置換された生成物が同一の収率で得られた。さらに、表4に示す生成物以外に、ジメチル2−ヒドロキシ−2−フェニルマロネートも12%の収率で得られた。
【0071】
[5]ジカルボニル化合物から中間体を経て、マロン酸誘導体への製造実験(実験例49)
(1)中間体の確認
実験例49は、原料のジカルボニル化合物から中間体を経て、その中間体からマロン酸誘導体を生成する反応である。
具体的には、パイレックス(登録商標)試験管中でメチル3−オキソヘプタノエート0.3mmolと、ヨウ化カルシウム(CaI)0.06mmol(0.2当量)をメタノール(溶媒)5mlに溶解し、酸素雰囲気下(酸素風船)、攪拌しながら蛍光灯(22ワット、松下電器産業株式会社製パルックボール;品番:EFR25ED/22)4個で光照射した。蛍光灯は、原料等を入れた試験管より7cm離し、その試験管を四方から囲む形で設置した。
そして、以下の式(8)に示すように、メタノール溶媒中で、ヨウ化カルシウムを触媒として、酸素の存在下で、光照射により、化合物(A)から中間体(B)が生成され、誘導体(C)を製造した。また、化合物(A)、得られた中間体(B)及び誘導体(C)は、H−NMR、13C−NMR、Mass、IR及び元素分析の測定結果から確認した。
尚、下記中間体(B)におけるH−NMRの測定結果を図4、13C−NMRの測定結果を図5、IRの測定結果を図6に示す。
【化14】

【0072】
中間体(B)<Methyl 2―hydroperoxy―3―hydroxyhept―2―enoate>:
〔1〕H−NMR(400MHz,CDCl3):δ=4.94(br,2H),3.90(s,3H),3.83(s,3H),2.79(t,J=7.2Hz,2H),2.57(t,J=7.2Hz,2H),1.64−1.59(m,2H),1.36−1.27(m,2H),1.00−0.86(m,3H)ppm;
〔2〕13C−NMR(400MHz,CDCl):δ=203.2,197.9,182.0,169.5,162.3,92.3,53.6,53.0,36.5,35.3,25.2,24.5,21.9,13.5 ppm;
〔3〕IR (neat):3441,2960,1733,1263,1128cm−1
〔4〕Anal: Calcd for C14:C,50.52;H,7.42,found C,50.56;H,7.34.
【0073】
上記化合物(A)、上記中間体(B)及び上記誘導体(C)について、反応開始前、反応開始後2時間、反応開始後4時間、反応開始後6時間、反応開始後8時間及び反応開始後10時間の各反応時間における、上記(A)、(B)及び(C)の単離収率を確認した。その割合の変化を図7に示す。
【0074】
(2)実験結果
図1に示すように、初期には化合物(A)のみが100質量%で存在しており、2時間後に中間体(B)が40質量%以上生成すると共に、化合物(A)が2質量%以下にまで減少する。その後、中間体(B)が徐々に減少して10時間後には消失すると共に、誘導体(C)が92質量%の収率で得られる結果となった。
以上の結果より、化合物(A)→中間体(B)→誘導体(C)という反応が進行していることが確認できた。
【0075】
[6]中間体からマロン酸誘導体への製造実験(実験例50〜60)
(1)マロン酸誘導体の製造
実験例50〜60は中間体からマロン酸誘導体を生成する反応である。
下式(9)に示すように、中間体(B)から目的生成物(C)であるマロン酸エステル誘導体を生成した。
【化15】

【0076】
具体的には、パイレックス(登録商標)試験管中で、上記中間体(B)0.3mmolと、表5に示す実験例50〜60の触媒について、表5に示す触媒量(中間体に対する当量)をメタノール(溶媒)5mlに溶解し、酸素雰囲気下(酸素風船)、攪拌しながら蛍光灯(22ワット、松下電器産業株式会社製パルックボール;品番:EFR25ED/22)4個で光照射した。蛍光灯は、上記試験管より7cm離し、その試験管を四方から囲む形で設置した。また、反応時間は、10時間とした。反応混合液を減圧下で溶媒留去し、残渣を酢酸エチルに溶解し分液ロートに移した後、チオ硫酸ナトリウムで有機層を洗浄した後、抽出した。抽出した粗生成物をPTLCにて精製することにより、目的生成物のジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネートを得た。
尚、実験例51は、製造実験で用いる上記試験管をアルミホイルで、完全に包んで遮光して行い、光照射をしなかった。また、酸素雰囲気下ではなく、アルゴン雰囲気下で行った。その他の条件は、上記と同様にして行った。
上記実験例50〜60での用いた触媒、触媒量、溶媒、光照射の有無、酸素の有無及び収率を表5に示す。
また、得られた生成物は、H−NMR、Mass、IR、元素分析の測定結果から確認した。
【0077】
【表5】

【0078】
(2)実験結果
反応開始から10時間経過後の目的生成物の収率を求めた結果を、表5に併記する。実験例50によると、触媒としてヨウ化カルシウムを使用した場合、中間体から目的生成物が90%という高収率で得ることができた。
また、実験例51において、触媒として水酸化カルシウムを用いた場合においても、中間体から目的生成物が80%という高収率で得ることができた。
また、実験例52において、光照射及び酸素が無くとも目的生成物が、79%の高い収率で得られた。このことから、中間体からマロン酸エステル誘導体等を製造する上で、光照射及び酸素は必要ないことが分かる。
また、触媒として水酸化カルシウムを使用した実験例52〜55では、触媒量を0.2〜0.01当量に変化させた。0.2当量では収率80%、0.1当量では収率87%、0.05当量では収率80%とそれぞれ高い収率で得られたが、0.01当量においては、10時間の反応条件では微量しか得られなかった。
また、水酸化マグネシウムを触媒として使用した場合も目的生成物が、収率10%で得られた。
また、1価の金属水酸化物である水酸化リチウムを触媒として使用した実験例57では収率76%、水酸化ナトリウムを用いた実験例58では収率80%、水酸化カリウムを用いた実験例59では収率92%であり、1価の金属水酸化物においても目的生成物が高い収率で得られた。
一方、実験例60においては、触媒として分子状のヨウ素のみを用いたところ、目的生成物は全く得ることができなかった。
即ち、中間体から目的生成物を得るためには、1価の金属イオン又は2価の金属イオンが存在すればよく、ヨウ素は、不要であることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0079】
本発明は、マロン酸誘導体、及びマロン酸エステル誘導体並びにケト酸エステル誘導体の製造方法、さらには、マロン酸誘導体から製造される医薬品、農薬等の製品分野において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネートのH−NMRの測定結果である。
【図2】ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネートの13C−NMRの測定結果である。
【図3】ジメチル2−ブチル−2−ヒドロキシマロネートのIRの測定結果である。
【図4】メチル3−オキソヘプタノエートから製造される中間体のH−NMRの測定結果である。
【図5】メチル3−オキソヘプタノエートから製造される中間体の13C−NMRの測定結果である。
【図6】メチル3−オキソヘプタノエートから製造される中間体のIRの測定結果である。
【図7】本発明に係るマロン酸誘導体が製造される過程を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される溶媒中で、
2価の金属ヨウ化物からなる触媒、及び/又は2価の金属水酸化物とヨウ素とからなる触媒と、
酸素と、の存在下で、
光照射により、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造することを特徴とするマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
ROH (1)
〔一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。〕
【化1】

〔一般式(2)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化2】

〔一般式(3)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【請求項2】
上記一般式(2)で表される化合物1モルに対して、上記触媒が、0.15〜0.4モルである請求項1に記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項3】
上記溶媒が、メタノール、エタノール及びプロパノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2に記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
【請求項4】
下記一般式(4)で表される中間体を製造する工程を備える請求項1乃至3のいずれかに記載のマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
【化3】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【請求項5】
下記一般式(1)で表される溶媒中で、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する製造方法であって、
2価の金属ヨウ化物及びヨウ素から選ばれる少なくとも1種の触媒と、酸素と、の存在下で、光照射により、下記一般式(2)で表される化合物から下記一般式(4)で表される中間体を製造する第1工程と、
1価の金属ヨウ化物、2価の金属ヨウ化物、1価の金属水酸化物及び2価の金属水酸化物から選ばれる少なくとも1種の触媒の存在下で、下記一般式(4)で表される中間体から下記一般式(3)で表されるマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体を製造する第2工程と、
を、順次、備えることを特徴とするマロン酸エステル誘導体又はケト酸エステル誘導体の製造方法。
ROH (1)
〔一般式(1)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す。〕
【化4】

〔一般式(2)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化5】

〔一般式(3)において、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示し、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【化6】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕
【請求項6】
下記一般式(4)で表されることを特徴とする化合物。
【化7】

〔一般式(4)において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、フェニル基、炭素数7〜12のアルキルフェニル基、炭素数7〜12のアルコキシフェニル基、炭素数7〜12のアラルキル基、ハロゲン化フェニル基、ニトロフェニル基又はピリジル基を示し、Rは炭素数1〜5のアルキル基又は炭素数1〜5のアルコキシ基を示す。〕

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−6787(P2010−6787A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−171479(P2008−171479)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(805000018)財団法人名古屋産業科学研究所 (55)
【Fターム(参考)】