説明

マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー及びその製造方法、並びにそれを用いてなる分析装置

【課題】高い生理活性、生体機能性を有するマンノシルエリスリトールリピッド(MEL)の糖骨格を変えることなく、脂肪酸末端部位で共有結合によってポリマー鎖に結合させたマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを提供する。さらに、高いアフィニティーを有し、親水性、分散性、耐腐食性に優れ、抗菌性、抗ウイルス性等の高い生理活性を示す上記マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーをアフィニティー担体として利用することで、抗体タンパク質等の有用タンパク質の吸着、分離方法を提供する。
【解決手段】主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの前記反応性官能基の一部または全部に、マンノシルエリスリトールリピッド化合物が脂肪酸末端で共有結合を介して結合してなることを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微生物生産糖脂質であるマンノシルエリスリトールリピッド(以下、MELと呼ぶ場合がある。)を脂肪酸末端部位で、共有結合によってポリマー鎖に導入したポリマーとその製造方法、及びこれを利用した有用タンパク質等の認識、検出、分離精製、収集技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
糖脂質は、脂質に1〜10数個の単糖が結合した物質であり、生体内において細胞間の情報伝達に関与し、神経系・免疫系の機能維持にも重要な役割を果たしていること等が明らかにされつつある。一方で、糖脂質は、糖の性質に由来する親水性と脂質の性質に由来する親油性の二つの性質を併せ持つ両親媒性物質であり、このような性質を有する物質は界面活性物質と呼ばれている。
【0003】
一方、一部の微生物はこれらの界面活性物質を効率良く生産することが知られており、この生物由来界面活性剤(バイオサーファクタント)は、安全性が高く、環境に対する負荷が少ない生分解性に優れた環境先進型界面活性剤として研究が進められている。現在、微生物が生産する界面活性物質としては、糖脂質系、アシルペプチド系、リン脂質系、脂肪酸系及び高分子化合物系の5つに分類されているが、特にこの内の糖脂質系の界面活性剤については、最もよく研究され、細菌及び酵母によって生産された多くの種類の物質が報告されている。
【0004】
これらの糖脂質等のバイオサーファクタントは、生分解性が高く、低毒性で環境に優しく、新規な生理機能を持つといわれている。このことから、食品工業、化粧品工業、医薬品工業、化学工業、環境分野等にこれらのバイオサーファクタントを幅広く適用することは、持続可能社会の実現と高機能製品の提供という、両面を兼ね備えており極めて有意義である。
【0005】
マンノシルエリスリトールリピッド(MEL)は糖脂質型バイオサーファクタントの一種であり、Ustilago nuda(ウスチラゴ ヌーダ)とShizonella melanogramma(シゾネラ メラノグラマ)から発見された(非特許文献1及び2参照)。その後、イタコン酸生産の変異株であるCandida属酵母(特許文献1及び非特許文献3参照)、Candida antarctica(キャンデダ アンダークチカ)(非特許文献4及び5参照)、Kurtzmanomyces(クルツマノマイセス)属(非特許文献6参照)等の酵母が生産することを報告している。現在では、長時間の連続培養・生産を行うことで300g/L以上の生産を可能にしている。
【0006】
MELは、一般的に親水基である糖骨格にマンノースとエリスリトールを持ち、疎水基である脂質ドメインに1ないし2本の脂肪酸エステルを持つ特徴的な構造を有する。この特異な構造に起因する優れた界面物性を示すだけでなく、様々な幅広い生理機能を有することが報告されている(非特許文献7参照)。
【0007】
中でも、MELは抗体タンパク質(IgG)と特異的な相互作用をすることが確認されており、ポリマー粒子表面にMELを物理吸着させた樹脂は、IgGを特異的に吸着・脱離できることが報告されている(非特許文献8及び9参照)。したがって、MELで安定的に表面を修飾した微粒子を調製し、これを担体として利用することで、抗体タンパク質をはじめとする種々の有用なタンパク質を、高効率に検出・認識・吸着・分離・収集することができるアフィニティー担体及びそれに類する構造体、材料を提供することが出来る。
【0008】
抗体タンパク質のアフィニティーリガンドとして、現在最も有力なものはプロテインAやプロテインGをはじめとする特殊なタンパク質である(非特許文献10及び11参照)。しかし、これらの生産には遺伝子組み換え技術を利用した高度な細胞培養技術が必須であり、また担体への固定化がランダム配向となるためリガンド効率も低いものとなっている。結果として、現在使用されているアフィニティー担体は極めて高価なものとなっており、分離精製等のダウンストリーム工程のコスト高が、抗体タンパク質等の有用タンパク質の商業的利用促進を妨げる大きな要因となっている。以上の理由から、ターゲットのタンパク質とのアフィニティーが高く、固定化の位置・配向を比較的制御しやすい低分子化合物リガンドの開発が求められており、MELはその候補として極めて有望である。
【0009】
一方、MELで表面修飾した樹脂をアフィニティー担体として用いる場合、MELをポリマー鎖に対して物理的に吸着させるだけでは不安定であり、溶液中でMELの流出を防ぐことが出来ず、用途が著しく制限されてしまう。種々の用途に用いるためには、化学的に安定な共有結合でMELをポリマー鎖に結合させることが望まれていた。さらに、高い性能を実現するためには、生体分子との高い分子間相互作用を示す糖骨格が樹脂の外側に面するように結合することが望まれていた。したがって、MEL中の脂肪酸末端に反応性官能基を導入し、これを反応点として担体の基盤となるポリマー鎖に結合させることで、MELの配向を制御したポリマー及び樹脂の合成を行うことが強く望まれていた。
【0010】
【特許文献1】特公昭57−145896号公報
【非特許文献1】アール.エイチ.ハスキンス(R.H.Haskins),ジェイ.エー.トーン(J.A.Thorn),B.Boothroyd,「カナデアン ジャーナル オブ ケミストリー(Can.J.Microbiol.)」,1巻,p749−756(1955).
【非特許文献2】ジー.デム(G.Deml),ティ.アンケ(T.Anke),エフ.オーバーウインカー(F.Oberwinkler),ビー.エム.ジアネッティー(B.M.Giannetti),ダブリュ.ステグリッチ(W.Steglich),「フィトケミストリー(Phytochemistry)」,19巻,p83−87(1980).
【非特許文献3】ティ.ナカハラ(T.Nakahara),エイチ.カワサキ(H.Kawasaki),ティ.スギサワ(T.Sugisawa),ワイ.タカモリ(Y.Takamori),ティ.タブチ(T.Tabuchi),「ジャーナル オブ ファーメンテーション テクノロジー(J.Ferment.Technol.)」,(日本),日本発酵工学会,61巻,p19−23(1983).
【非特許文献4】ディ.キタモト(D.Kitamoto),エス.アキバ(S.Akiba),シー.ヒオキ(C.Hioki),ティ.タブチ(T.Tabuchi)「アグリカリチュラル アンド バイオロジカル ケミストリー(Agric. Biol. Chem.)」,(日本),日本農芸化学会,54巻.p31−36(1990).
【非特許文献5】エイチ.エス.キム(H.−S.Kim),ビー.ディ.ユーン(B.−D.Yoon),ディ.エイチ.チョン(D.−H.Choung),エイチ.エム.オー(H.−M.Oh),ティ.カツラギ(T.Katsuragi),ワイ.タニ(Y.Tani)「アプライド マイクロバイオロジー アンド バイオテクノロジー(Appl.Microbiol.Biotechnol.)」,(ドイツ),スプリンガー−バーラグ(Springer−Verlag),52巻,p713−721(1999).
【非特許文献6】角川(K.Kakukawa),玉井(M.Tamai),今村(K.Imamura),宮本(K.Miyamoto),三好(S.Miyoshi),森永(Y.Morinaga),鈴木(O.Suzuki),宮川(T.Miyakawa)「バイオサイエンス,バイオテクノロジー アンド バイオケミストリー(Biosci.Biotechnol.Biochem.)」,(日本),日本農芸化学会,66巻,p188−191(2002).
【非特許文献7】北本 大(D.Kitamoto)「オレオサイエンス」,(日本),日本油化学会,3巻,p663−672(2003).
【非特許文献8】ジェイ.エイチ.イム(J.−H.Im),ティ.イケガミ(T.Ikegami),エイチ.ヤナギシタ(H.Yanagishita),ティ.ナカネ(T.Nakane),ディ.キタモト(D.Kitamoto)「ビーエムシーバイオテクノロジー(BMC Biotechnology)」,(Web Journal),バイオメッド セントラル(Biomed Central),1:5巻,p1−7(2001).
【非特許文献9】ジェイ.エイチ.イム(J.−H.Im),エイチ.ヤナギシタ(H.Yanagishita),ティ.イケガミ(T.Ikegami),ワイ.タケヤマ(Y.Takeyama),ワイ.イデモト(Y.Idemoto),エヌ.コウラ(N.Koura),ディ.キタモト(D.Kitamoto)「ジャーナル オブ マイクロバイオロジー アンド バイオテクノロジー(J.Biomed.Mater.Res.)」,(米国),ワイリー(Wiley),65巻,p379−385(2003).
【非特許文献10】ジー.クロンバル(G.Kronvall),ユー.エス.シール(U.S.Seal),ジェイ.フィンスタッド(J.Finstad),アール.シー.ウィリアムズ.ジュニア(R.C.Williams,Jr)「ザ ジャーナル オブ イミュノロジー(J.immunol.)」,(米国),104巻,p140−147(1970).
【非特許文献11】エル.ブジャルク(L.Bjourck),ジー.クロンバル(G.Kronvall)「ザ ジャーナル オブ イミュノロジー(J.immunol.)」,(米国),133巻,p969−974(1984).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、高い生理活性、生体機能性を有するマンノシルエリスリトールリピッドの糖骨格を変えることなく、脂肪酸末端部位で共有結合によってポリマー鎖に結合させたマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを提供することにある。また、親水性、分散性、耐腐食性に優れ、抗菌性、抗ウイルス性等の高い生理活性を示す上記マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーをアフィニティー担体として利用することで、抗体タンパク質等の有用タンパク質の吸着、分離方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するための第一として、脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造方法について検討した。目的のMEL化合物は従来の化学合成法では著しく製造困難であるが、微生物による生合成経路を経てMELの脂肪酸鎖中に導入された炭素−炭素二重結合に着目し、これを開裂、あるいはメタセシス反応により他の炭素−炭素二重結合と組み替えることで、糖骨格構造を変えることなく脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物を効率良く、煩雑な操作を要することなく製造しえることを見出した。
さらに、得られたMEL化合物を新規リガンドとして反応性官能基を有するポリマーと反応させることで、共有結合によってMELが配向制御された状態で導入されたポリマーを構築でき、このようにして得られたポリマーを担体として用いることで、抗体タンパク質、糖タンパク質等の生体分子との相互作用を利用し得ることを見出した。本発明はこれら知見に基づき、本発明をなすに至ったものである。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示す通りである。
〔1〕主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの前記反応性官能基の一部または全部に、マンノシルエリスリトールリピッド化合物が脂肪酸末端で共有結合を介して結合してなることを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
〔2〕上記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの主骨格を形成する高分子が、多糖類、タンパク質又は有機合成ポリマーであることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
〔3〕上記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーが有する前記反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基又は炭素−炭素二重結合であることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
〔4〕下記一般式(1)又は(2)で表される脂肪酸末端アルデヒド化マンノシルエリスリトールリピッド化合物のアルデヒド基と、主鎖ないしは側鎖にアミノ基を有するポリマーのアミノ基とのシッフ塩基形成を介して、前記ポリマーに前記マンノシルエリスリトールリピッド化合物を共有結合してなる、マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
【0014】
【化1】

【0015】
(前記一般式(1)中、n、mは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R、Rは、いずれか一方がアルデヒド基で他方がメチル基であるか、あるいは両方がアルデヒド基である。また、R、Rは、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(2)中、lは、1〜18の数であり、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。)
〔5〕前記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーと、脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物とを、前記反応性官能基同士の反応により共有結合を介して結合させることを特徴とする、上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを製造する方法。
〔6〕前記脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物が有する前記反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基又は炭素−炭素二重結合であることを特徴とする、上記〔5〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーの製造方法。
〔7〕微生物によって生産されたマンノシルエリスリトールリピッド化合物を原料とし、その脂肪酸鎖中に含まれる炭素−炭素二重結合のオゾン酸化反応またはメタセシス反応により、脂肪酸末端に反応性官能基を導入することを特徴とする、〔5〕又は〔6〕に記載の脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物を製造する方法。
〔8〕下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物。
【0016】
【化2】

【0017】
【化3】

【0018】
(前記一般式(1)中、n、mは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R、Rは、いずれか一方がアルデヒド基で他方がメチル基であるか、あるいは両方がアルデヒド基である。また、R、Rは、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
前記一般式(2)中、lは、1〜18の数であり、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。
前記一般式(3)中、p、qは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R31、R32は、いずれか一方が2−アリルオキシメチルオキシラン基で他方がメチル基であるか、あるいは両方が2−アリルオキシメチルオキシラン基である。また、R33、R34は、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(4)中、rは、1〜18の数であり、R35、R36、R37はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。)
【0019】
〔9〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子を検出する方法。
〔10〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子の分離方法。
〔11〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子の収集方法。
〔12〕前記生体分子が抗体タンパク質、糖タンパク質又はレクチンであることを特徴とする、〔9〕〜〔11〕のいずれか1項に記載の方法。
〔13〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなる生体分子吸着剤。
〔14〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、〔13〕に記載の生体分子吸着剤。
〔15〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるアフィニティー担体。
〔16〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、上記〔15〕に記載のアフィニティー担体。
〔17〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるアフィニティーカラム。
〔18〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、〔17〕に記載のアフィニティーカラム。
〔19〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなる検査用試薬。
〔20〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、〔19〕に記載の検査用試薬。
〔21〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるセンサー。
〔22〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、〔21〕に記載のセンサー。
【0020】
〔23〕上記〔1〕に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるマイクロアレイ。
〔24〕親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、〔23〕に記載のマイクロアレイ。
〔25〕上記〔15〕に記載のアフィニティー担体、上記〔17〕に記載のアフィニティーカラム、上記〔21〕に記載のセンサー、または上記〔23〕に記載のマイクロアレイを用いてなる分離、定量ないしは検査用分析装置。
本明細書及び請求の範囲において、「脂肪酸末端」とは、マンノシルエリスリトールのマンノシル残基が有する水酸基に結合してなる脂肪酸エステル基の脂肪族基をいう。
【発明の効果】
【0021】
本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーは、優れた界面物性、様々な生理活性を有する機能性糖脂質であるMELが、構造の著しい変化を伴うことなく化学的に安定な共有結合によって導入されている。特にその機能発現の鍵となる糖(マンノシルエリスリトール)骨格がポリマー表面に配列していることから、表面の親水化を促し水溶液中でのポリマーの分散性の向上をもたらすほか、様々な生体分子の分子認識、吸着挙動の制御が可能である。例えば、前記ポリマーは表面に配列した糖骨格の特異的な分子間相互作用によって、抗体タンパク質、糖タンパク質、レクチン等をはじめ、種々の生体分子と高いアフィニティーを示すことから、その物性、形状に応じて、生体物質の分析・検査試薬、吸着剤、分離・精製用アフィニティー担体等、種々の目的用途に対応することが可能である。
本発明のMEL結合ポリマーの製造方法によれば、脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物と、それに対応した反応性官能基を鎖中に有するポリマーの組み合わせによって、前記ポリマーが構成する素材、形状を問わずその目的・用途に応じて、任意の構造及び結合様式のMEL結合ポリマーの製造が可能である。また、その導入率の制御も可能である。
前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物は、種々の担体に導入可能な新規糖脂質リガンドとして、本発明のMEL結合ポリマーの製造に有用である。
本発明に用いる脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造方法は、微生物の精巧な生合成経路を経てMELの脂肪酸鎖中に導入された不飽和基を反応点として利用することで、煩雑な操作を要することなく選択的に脂肪酸末端に任意の官能基を導入することができる。
【0022】
本発明の生体分子を検出する方法は、抗体タンパク質等の種々の有用な生体分子を特異的に検出できる。
本発明の生体分子を分離する方法は、有用な生体分子とMELとの特異的作用に基づき分離できる。
本発明の生体分子の収集方法は、有用な生体分子をMELとの特異的作用に基づき集めることができる。
本発明の生体分子吸着剤は、抗体タンパク質等の有用タンパク質を特異的に吸着できる。
上述のように、本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーは、医薬、食品、化粧品工業をはじめ、生体機能の認識、制御に密接に結びつく幅広い分野で有用な素材の開発において期待される。
特に、本発明のアフィニティー担体、アフィニティーカラム並びにそれらを用いてなる装置は、生体分子分析技術に大きな改革をもたらす。有用タンパク質の分離工程では、一般的にそれらに特異的に相互作用する特殊なタンパク質をリガンドとする担体を用いることが多いが、これらのタンパク質生産には遺伝子組み換え技術の利用が必要であるなど極めて高価(>100万円/kg)であり、かつリガンドの担体への固定化方法もランダムなものであるため、アフィニティーを示す部位の配向を制御できず、リガンドの効率が低いもの(1〜数mol%)となっている。このダウンストリーム工程のコスト高が市場への普及を抑圧している現状がある。
【0023】
一方、本発明のMEL結合ポリマーを用いたアフィニティー担体は、リガンドとなる糖脂質(MEL)の生産量が高く、またタンパク等と比較して低分子量で、分子構造もシンプルであり、アフィニティー部位(糖骨格)が表面に配列した状態であることからリガンド効率も高い。従来のタンパク質をリガンドとするアフィニティー担体と比較して、そのコストは1/10〜1/100まで容易に抑えることができる。
以上のことから、本発明のMEL結合ポリマーは低コストかつ高効率のアフィニティー担体として優れていると言える。
【0024】
また、本発明のMEL結合ポリマーを用いてなるアフィニティーカラムは、遠心分離せずとも糖タンパク質、レクチン等他の生体分子の分離を行うことができる。
本発明の分離、定量ないしは検査用分析装置は、抗体タンパク質等任意の生体分子の分離システムとして有用である。
本発明の検査用試薬は試料中に存在する特定の生体分子を捕捉、定量することができる。
本発明のセンサーは、微量サンプル中のタンパク質等生体分子を検知できる。
同様に、本発明のマイクロアレイは、微量サンプル中のタンパク質等生体分子を検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
まず、本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー(以下、単に「MEL結合ポリマー」ということもある。)について説明する。
本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーは、ポリマー鎖上(主鎖)ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの前記反応性官能基の一部または全部に、マンノシルエリスリトールリピッド化合物が、それが有する脂肪酸末端で共有結合を介して結合してなるポリマーである。前記ポリマーは、ゲル、微粒子、プレート、フィルム、ファイバー等の形態であってもよく、MELを前記共有結合を介して配向を制御してポリマー表面に結合させる観点から、前記反応性官能基を表面に有する、ゲル、微粒子、プレート、フィルム、ファイバー等の形態であることが好ましい。
ここで、ゲルとは、ポリマー鎖が架橋によって三次元ネットワーク構造を形成した多孔質固体状のものであり、その主骨格を成すポリマーは、多糖類、タンパク質又は有機合成ポリマーのいずれであっても良い。
前記反応性官能基を有するポリマーは、反応性官能基を側鎖に有する樹脂の形態であってもよく、前述と同様にMELを配向を制御して表面に結合させる観点から、前記側鎖を表面に有する樹脂の形態が好ましい。
前記反応性官能基を有するポリマーの前記主鎖には、β1,4−結合又はα1,4−結合で結合したグルコース、グルコサミン、N−アセチルグルコサミン、ガラクトース、ガラクトサミン、N−アセチルガラクトサミン、グルクロン酸等の繰り返しからなる糖鎖等の多糖類鎖も含まれる。
【0026】
前記反応性官能基を有するポリマーは、主骨格を形成する高分子が、多糖類、タンパク質又は有機合成ポリマーであることが好ましい。
前記主骨格を形成する高分子である多糖類としては、セルロース、キチン、キトサン等が挙げられる。前記主骨格を形成する高分子であるタンパク質としては、ゼラチン、コラーゲン等が挙げられる。前記主骨格を形成する高分子である有機合成ポリマーとしては、ビニルポリマー、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン及びこれらの共重合体等が挙げられる。
前記反応性官能基の例としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基、炭素−炭素二重結合等が挙げられる。
ポリマーに前記反応性官能基を導入して、前記反応性官能基を有するポリマーとする方法は、カルボジイミド(ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(EDC)等)を用いる脱水縮合法、エピクロロヒドリン導入後、エポキシの開環付加を行う方法等の任意の方法によって行うことができる。
【0027】
前記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有する前記ポリマー中、反応性官能基は、前記ポリマーの単位質量(g)当り0.1μmol〜1mol存在することが好ましく、10μmol〜1mol存在することがより好ましい。
【0028】
側鎖に前記反応性官能基を有するポリマーの具体例としては、ゲル単位体積(ml)当り15〜20μmolの2−ヒドロキシ−3−アミノプロピルオキシ基を表面に有するセルロースゲル、側鎖にホルミル基を10〜30質量%有するメタクリル酸系ポリマー等が挙げられる。例えば、アミノ−セルロファイン(商品名、生化学工業株式会社製)、トヨパールAFシリーズ(商品名、東ソー株式会社製)等が市販されている。
主鎖に前記反応性官能基を有するポリマーの具体例としては、片末端あるいは両末端にカルボキシル基を有する、ポリエチレンオキシド、ポリエステル等が挙げられる。
【0029】
次に、本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーの製造方法について説明する。
本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーは、脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物と、前述した主鎖ないしは側鎖に前記反応性官能基を有するポリマーとを、前記反応性官能基同士の反応によって、共有結合を形成することにより製造できる。
本発明の製造方法に用いる前記マンノシルエリスリトールリピッド化合物(以下、「MEL化合物」ということもある。)が脂肪酸末端に有する反応性官能基の例としては、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基、炭素−炭素二重結合等が挙げられる。
前記反応性官能基同士の反応によって形成される共有結合の例としては、アミノ基とカルボキシル基の反応から成るアミド結合、アミノ基とアルデヒド基の反応から成るシッフ塩基、及びそれを還元することでできるカルボキシル基とヒドロキシル基の反応から成るエステル結合、チオール基同士の反応から成るジスルフィド結合、エポキシ基とアミノ基の反応から成るアミノ結合、及びヒドロキシル基との反応から成るエーテル結合等が挙げられる。これら共有結合により、結合するMELの配向が制御される。
ここで「配向」とは、糖骨格(マンノシルエリスリトール骨格)が前記ポリマーとの結合に関与せず、前記ポリマーの外側(表面)に面することをいう。これによって、立体障害を受けることなく糖骨格の特異的な分子間相互作用を利用することが可能となる。
【0030】
本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー中、マンノシルエリスリトールリピッド化合物は、本発明のポリマーの質量当り0.01〜30質量%存在することが好ましく、1質量%〜30質量%存在することがより好ましい。
【0031】
続いて、本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーの製造方法の好ましい1つの実施態様として、側鎖にアミノ基が導入されたセルロースゲルに対して、脂肪酸末端アルデヒド化マンノシルエリスリトールリピッド化合物(以下、単に脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物ということもある。)を反応させる製造方法について説明する。
前記脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の構造については詳細に後述するが、アミノ基を有する化合物と任意の方法によってシッフ塩基を形成することから、下記式Aに示すように、側鎖にアミノ基を有するポリマーに炭素−窒素結合によってMEL化合物を共有結合させることが出来る。
【0032】
【化4】

【0033】
具体的には、アミノ化セルロースゲル、脂肪酸末端アルデヒド化MELを水中に分散させ、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaCNBH)等の任意の還元剤を添加して、50〜〜80℃で12〜72時間撹拌する。反応終了後、ゲルを濾別し、十分に洗浄することでMEL結合セルロースゲルを回収することができる。これにより、MELが脂肪酸末端で炭素−窒素結合によってゲル中に結合させることができる。
MEL結合セルロースゲル中のMEL導入率の決定については、MEL結合セルロースゲルの元素分析を行い、炭素/窒素重量比(C/N比)を計算し、元のセルロースゲルについても同様にし、その差を求めることでアミノ基に対する炭素導入数を決定することができる。得られた値について、構造決定の際に概算した脂肪酸末端アルデヒド化MELの炭素数で割ることによってアミノ基全量に対するMEL結合率を算出することができる。
【0034】
さらに、前記セルロースゲル以外の側鎖にアミノ基を有するポリマーを用いても、上記の方法と同様にして本発明のMEL結合ポリマーを製造し、かつMEL導入率の決定を行うことができる。
【0035】
その他、オレフィンのメタセシス反応を利用して合成した、脂肪酸末端に種々の反応性官能基(例えばアミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基等)を有するMEL化合物についても、対応する反応性官能基を有するポリマーと適宜反応させることで、本発明のMEL結合ポリマーを製造することができる。
【0036】
以上のように、本発明のMEL結合ポリマーの製造方法によれば、脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物と、それに対応した反応性官能基を鎖中に有するポリマーの組み合わせによって、前記ポリマーが構成する素材、形状を問わず目的用途に応じて、任意の構造及び結合様式のMEL結合ポリマーの製造が可能である。また、その導入率の制御も容易である。
【0037】
本発明の製造方法に用いられる脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するMEL化合物について説明する。
本発明の製造方法に用いる脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物は、脂肪酸末端に前述した反応性官能基を少なくとも1個有する限り特に制限はない。しかし、2’位又は3’位いずれかに限定して結合した脂肪酸末端に反応性官能基を有するため、得られる本発明のMEL結合ポリマーにおけるMEL部分の配向が制御される観点から、前記脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物又は脂肪酸末端エポキシ化マンノシルエリスリトールリピッド化合物(以下、単に脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物ということもある。)であることが好ましい。
前記脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物は、下記一般式(1)または(2)で表され、脂肪酸末端にアルデヒド基が導入されてなる新規な化合物である。脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物は、原料であるMEL−A等のMELが置換基に不飽和脂肪酸残基を有することにより、その炭素−炭素二重結合が開裂して末端部分にアルデヒド基が導入されてなる構造を有する。
炭素−炭素二重結合の開裂によるオゾニドの生成とその後の任意の還元的処理によるアルデヒドの生成は下記式のように進行する。例えば、日本化学会編「第4版実験化学講座」第23巻、457〜459頁、(株)丸善等に記載の方法に準じて行うことができる。式中R41、R42は任意の基である。
【0038】
【化5】

【0039】
【化6】

【0040】
前記一般式(1)中、n、mは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R、Rは、いずれか一方がアルデヒド基で他方がメチル基であるか、あるいは両方がアルデヒド基である。また、R、Rは、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(2)中、lは、1〜18の数であり、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。
本発明において、l、m、nは、それぞれ、1〜18である飽和脂肪族アルキレン基を構成することが好ましく、1〜10である飽和脂肪族アルキレン基を構成することがより好ましい。
前記脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物は、下記一般式(3)または(4)で表され、脂肪酸末端にエポキシ基が導入されてなる新規な化合物である。脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物は、原料であるMEL−A等のMELが置換基に不飽和脂肪酸残基を有することにより、アリルグリシジルエーテルとのオレフィンのメタセシス反応によって、その炭素‐炭素二重結合間で組み替えが起こり、末端部分にエポキシ基が導入されてなる構造を有する。前記オレフィンのメタセシス反応については、J.Am.Chem.Soc.,125巻,p11360−11370(2003)及びその引用文献に記載の方法等に準じて行うことができる。
【0041】
【化7】

【0042】
前記一般式(3)中、p、qは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R31、R32は、いずれか一方が2−アリルオキシメチルオキシラン基(
【0043】
【化8】

【0044】
)で他方がメチル基であるか、あるいは両方が2−アリルオキシメチルオキシラン基である。また、R33、R34は、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(4)中、rは、1〜18の数であり、R35、R36、R37はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。
本発明において、p、q、rは、それぞれ、1〜18である飽和脂肪族アルキレン基を構成することが好ましく、1〜10である飽和脂肪族アルキレン基を構成することがより好ましい。
【0045】
次に、本発明のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーの製造に用いる脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造方法について説明する。
前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造の原料として用いるマンノシルエリスリトールリピッド(以下、単にMELということもある。)は、酵母等の微生物を用いて長時間の連続培養・生産を行うことで300g/L以上の生産ができるので、原料として用いるMELは微生物を用いて生産することが好ましい。
特に、前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造の原料として用いるMELは、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica T-34株)、シュードザイマ・ルグローサ(Pseudozyma rugulosa株)、シュードザイマ・パラアンタクティカ(Pseudozyma parantarctica株)等のMEL生産菌の任意の方法による培養によって得るのがより好ましい。
例えば、シュードザイマ・アンタクティカ(Pseudozyma antarctica T-34株)を用い、大豆油を炭素源として培養することで得られた生産物から任意の方法で分離・精製して、原料としてのMEL−Aを得ることができる。
【0046】
不飽和基含有率の高いMELが原料として好ましいが、MELの脂肪酸鎖の組成は、生産培地に含有させる炭素源の種類、生産菌の資化様式によって変化することから、生産培地に含有させる炭素源として、不飽和基含有率の高いリノール酸、リノレン酸等を多く含む油脂を用いることで、不飽和基含有率の高いMELを生産することができる。さらに、MEL生産菌は油脂以外に、中〜長鎖脂肪族炭化水素、中〜長鎖脂肪族アルコール、中〜長鎖脂肪酸エステル等の化合物に関しても資化できることから、特に、特定の位置に不飽和基を有する上記化合物をMEL生産培地に含有させることで、脂肪酸鎖中の特定の位置に二重結合を導入したMELの調製も可能である。
【0047】
前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造の原料として用いるMELは、下記一般式(5)または(6)で表される構造の化合物であり、4−O−β−D−マンノピラノシル−meso−エリスリトールをその基本構造とするものである。
【0048】
【化9】

【0049】
前記一般式(5)及び(6)中、置換基R11、R12、R22は、それぞれ独立して、炭素数3〜21のアルキル基又は二重結合を少なくとも1個有する不飽和脂肪族炭化水素基であり、炭素数5〜17のアルキル基又は二重結合を少なくとも1個有する不飽和直鎖炭化水素基であることが好ましい。さらに、前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造の原料として用いるMELは、R11、R12又はR22が二重結合を1個有する不飽和直鎖炭化水素基であることがより好ましく、特に末端近くに二重結合を1個有する不飽和直鎖炭化水素基であることがさらに好ましい。
前記R11、R12又はR22を表すアルキル基の具体例として、ペンチル基、ヘプチル基、ノニル基、ウンデシル基、トリデシル基等が挙げられる。
前記R11、R12又はR22を表す二重結合を少なくとも1個有する不飽和炭化水素基の具体例として、2−ノネル基、2−ウンデセル基、4−ウンデセル基、6−ウンデセル基、8−ウンデセル基等が挙げられる。
前記R21、R23又はR24は、それぞれ独立して水素原子又はアセチル基を表す。
前記一般式(5)または(6)において、上記各MELにおける置換基R11、R12、R22の炭素数は、MEL生産培地に含有させる油脂類中のトリグリセリドを構成する脂肪酸の炭素数及び使用するMEL生産菌の脂肪酸の資化様式の程度により変化する。また、上記トリグリセリドが不飽和脂肪酸残基を有する場合、MEL生産菌が上記不飽和脂肪酸の二重結合部分まで資化しないことにより、前記R11、R12、R22が不飽和脂肪酸残基となることが好ましい。
以上の説明から明らかなように、原料となるMELは、通常、前記R11、R12、R22の脂肪酸残基部分が異なる化合物の混合物の形態である。
【0050】
脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の一例として、前記脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の製造方法について説明する。
脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物は、上述のように微生物によって生産されたMELを出発原料とし、その脂肪酸鎖中に含まれる不飽和基をオゾン酸化することで製造できる。これにより、煩雑な操作を要することなく選択的に脂肪酸末端にアルデヒド基を導入できることが特徴である。
具体的には、MEL化合物(例えばMEL−A(前記一般式(5)参照))を溶媒(例えば、メタノール)に溶解し、50〜75℃において、一般的なオゾン発生装置によって発生させたオゾンをMEL化合物に対して1〜3当量吹き込むことで、選択的に二重結合部分の酸化開裂を行うことができる。任意の還元条件化で反応を進行させることで二重結合が開裂し、アルデヒドが生成される。既知のカラムクロマトグラフィー法によって生成物の分離、精製を行うことで、アルデヒド化物を回収することができる。
【0051】
脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の構造決定等同定については次のようにして行う。
原料であるMEL−A等のMELの分子構造(糖骨格、脂肪酸組成等)及びその決定方法については既知である。
単離した糖脂質成分は、TLCプレート上で、アンスロン硫酸試薬で青緑色に呈色することにより糖脂質成分であると判断できる。この糖脂質についてNMR解析を行い、得られたスペクトルと、出発原料として用いたMEL−A等(前記一般式(5)あるいは(6)参照)のスペクトルとを比較することで、構造解析を行うことができる。
【0052】
具体的には、下記1)及び2)によって、脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物が同定できる。
1)アルデヒド基導入の確認
1H−NMRスペクトル(DMSO−d)では、MEL脂肪酸鎖中の不飽和基に結合しているプロトンが5.4ppm付近にブロードなピークとして検出されるが、オゾン酸化の進行に伴って二重結合が開裂し、このシグナルが消失する。また、9.8ppm付近にアルデヒド基由来のプロトンのシグナルが新たに現れる。さらに、脂肪酸末端の消失によって、0.9ppm前後の末端メチル基由来のプロトンのシグナルが減少あるいは消失する。以上のシグナルの動きで、アルデヒド基が脂肪酸末端に導入されたことが容易に確認できる。
【0053】
2)分子量測定によるアルデヒド化物の構造及び脂肪酸鎖長の確認
得られた糖脂質は脂質部分の脂肪酸鎖長が異なる成分の混合物として回収されるが、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法質量分析(MALDI−TOF/MS)を行うことで、アルデヒド化物の分子量及び脂肪酸鎖長の分布が分かり、主成分の構造が決定される。
【0054】
さらにこれは、逆相カラム(ODSカラム)を用いたHPLC分析を行うことで、単一の脂肪酸を有する化合物に容易に分離することもできる。
【0055】
さらに、MEL−A以外の他のMEL類縁体(MEL−B〜D(前記一般式(5)参照))や脂肪酸鎖が一本のタイプのMEL化合物(前記一般式(6)参照)、異なる炭素源から培養された脂肪酸組成の異なるMELを出発物質に用いた場合でも、上記の方法と同様にして脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の製造及び同定を行うことが可能である。
【0056】
脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の別の例として、前記脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物の製造方法について説明する。
【0057】
脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物は、上述のように微生物によって生産されたMEL化合物を原料とし、アリルグリシジルエーテルとのオレフィンメタセシス反応を行うことで製造できる。
具体的には、MEL化合物(例えばMEL−A(前記一般式(5)参照)を溶媒(例えば、ジクロロメタン)に溶解し、触媒として一般的にオレフィンメタセシス反応に用いられるグラブス触媒を1〜10mol%程度加え、室温において1〜3日間撹拌することで脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物を合成することができる。既知のカラムクロマトグラフィー法によって生成物の分離、精製を行うことで、エポキシ化物を回収することができる。前記グラブス触媒としては、下記式で、それぞれ、表される第1世代グラブス触媒(CAS 172222−30−9)、第2世代グラブス触媒(CAS 246047−72−3)等が挙げられる。
【0058】
【化10】

【0059】
前記式中Cyはシクロヘキシル基を表す。
脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物の構造決定等同定については、上述の脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の場合と同様に、次のようにして行う。
具体的には、下記3)及び4)によって、脂肪酸末端エポキシ化MELが同定できる。
3)エポキシ基導入の確認
1H−NMRスペクトル(CDCl)では、エポキシ由来のプロトンのシグナルが2.6ppm付近、2.8ppm付近、3.2ppm付近に現れる。さらに、脂肪酸末端の消失によって、0.9ppm前後の末端メチル基由来のプロトンのシグナルが減少あるいは消失する。また、13C−NMRスペクトル(CDCl)では、エポキシ由来のカーボンのシグナルが44ppm付近と51ppm付近に現れる。以上のシグナルの動きで、エポキシ基が脂肪酸末端に導入されたことが容易に確認できる。
【0060】
4)分子量測定によるエポキシ化物の構造及び脂肪酸鎖長の確認
上述の脂肪酸末端アルデヒド化MEL化合物の場合と同様に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法質量分析(MALDI−TOF/MS)を行うことで、エポキシ化物の分子量及び脂肪酸鎖長の分布が分かり、主成分の構造が決定される。
【0061】
さらにこれは、逆相カラム(ODSカラム)を用いたHPLC分析を行うことで、単一の脂肪酸を有する化合物に容易に分離することもできる。
【0062】
さらに、MEL−A以外の他のMEL類縁体(MEL−B〜D(前記一般式(5)参照))や脂肪酸鎖が一本のタイプのMEL化合物(前記一般式(6)参照)、異なる炭素源から培養された脂肪酸組成の異なるMELを出発物質に用いた場合でも、上記の方法と同様にして脂肪酸末端エポキシ化MEL化合物の製造及び同定を行うことが可能である。
【0063】
複雑な分子構造を有するMEL化合物において、糖脂質の立体構造を維持したまま、MEL化合物の脂肪酸末端へ官能基を選択的に導入することは通常の化学合成法では著しく困難である。
【0064】
しかし、上述のように本発明に用いる脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造方法は、微生物の生合成経路を経てMELの脂肪酸鎖中に導入された不飽和基を反応点として利用することで、煩雑な操作を要することなく選択的に脂肪酸末端に任意の官能基を導入することができる。
また、微生物の生合成機構を利用し、原料、培養条件を適切に設定することで、生産されるMELの脂肪酸鎖中の不飽和基の位置をある程度制御できることから、最終的に得られる脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の構造についても、ある程度設計が可能となる。
【0065】
以上のように、前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物は、種々の担体に導入可能な新規糖脂質リガンドとして、本発明のMEL結合ポリマーの製造に有用である。
【0066】
前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物は、前記一般式(5)または(6)で表されるような従来のMELと同様に優れた界面活性能を有し、バイオサーファクタントとして用いることができる。
さらに、前記脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL化合物の製造方法において、前述のようにオレフィンメタセシス反応によって前記反応性官能基を所望の官能基にすることができる。例えば、アミノ基を末端に有する不飽和炭化水素(アリルアミン等)を反応に用いれば、脂肪酸末端にアミノ基を有するMEL化合物、チオール基を末端に有する不飽和炭化水素(アリルメルカプタン等)を反応に用いれば、脂肪酸末端にチオール基を有するMEL化合物等を製造することができる。これによりMELが本来有するバイオサーファクタントとしての機能の改質を系統的に行うこともできる。
【0067】
界面活性能については、下記の方法で簡便に観察することができる。
すなわち、単離した脂肪酸末端に反応性官能基を有するMEL(例えば脂肪酸末端アルデヒド化MEL)の水溶液を疎水性のフィルム上にスポットし、その表面張力の変化を観察することができる。また、コントロールとして水、及び従来型MELの水溶液をそれぞれスポットして比較することができる。
【0068】
以下、本発明のMEL結合ポリマーの用途について説明する。
本発明のMEL結合ポリマーは下記用途において、ポリマー表面にMELが配列して共有結合していることが好ましい。
【0069】
本発明のMEL結合ポリマーを用いることで、MELの糖骨格の分子間相互作用を利用して、抗体タンパク質、糖タンパク質、レクチン等の種々の生体分子を特異的に樹脂に吸着することが可能である。
これにより、本発明のMEL結合ポリマーを用いて、生体分子を検出することができるし、生体分子を分離することもでき、生体分子を集めることもできる。
上述の特異的な吸着作用から、本発明のMEL結合ポリマーは、例えば生体分子吸着剤として用いることができる。
MELを物理的に吸着させた樹脂には、疎水性相互作用によるタンパク質(血清アルブミン等)の非特異的吸着を抑制し、かつ抗体タンパク質等、ある種の有用タンパク質を特異的に吸着する機能が発現するという報告例(ジェイ.エイチ.イム(J.−H.Im),ティ.イケガミ(T.Ikegami),エイチ.ヤナギシタ(H.Yanagishita),ティ.ナカネ(T.Nakane),ディ.キタモト(D.Kitamoto)「ビーエムシーバイオテクノロジー(BMC Biotechnology)」,(Web Journal),バイオメッド セントラル(Biomed Central),1:5巻,p1−7(2001).及びジェイ.エイチ.イム(J.−H.Im),エイチ.ヤナギシタ(H.Yanagishita),ティ.イケガミ(T.Ikegami),ワイ.タケヤマ(Y.Takeyama),ワイ.イデモト(Y.Idemoto),エヌ.コウラ(N.Koura),ディ.キタモト(D.Kitamoto)「ジャーナル オブ マイクロバイオロジー アンド バイオテクノロジー(J.Biomed.Mater.Res.)」,(米国),ワイリー(Wiley),65巻,p379−385(2003).)がある。しかし、物理的な吸着方法では、樹脂から溶媒中へのMELの溶出が懸念され、溶媒中での長時間の使用や、高純度での分離精製に適さない。
一方、本発明のMEL結合ポリマーは、共有結合によって担体にMELが強固に結合していることから、溶媒へのMELの溶出が起こることはない。よって、様々な溶媒条件での取り扱いが可能であることから、分離操作に塩濃度やpH等、劇的な溶媒条件の変化を伴う生体分子のアフィニティー担体として極めて有効である。また、有機溶媒に対しても耐性があることから幅広い用途に対応できる。
【0070】
前述のように、本発明のMEL結合ポリマーは、アフィニティー担体として用いることができるが、本発明のMEL結合ポリマーを用いてなるアフィニティー担体の具体例として、MEL結合セルロースゲルを用いた抗体タンパク質の選択的吸着及び溶出方法について以下に説明する。
遠心管にMEL結合セルロースゲルを所定量秤取し、下記手順で抗体タンパク質の選択的吸着及び溶出試験を行うことができる。
(1)非特異的吸着面のブロック(血清アルブミンによるブロッキング処理)
血清アルブミン(SA)の水溶液をゲルに添加し、振とう機で2時間撹拌することで吸着操作を行う。その後、遠心分離によってゲルを沈殿させ、上澄み液を回収する。
続いて、吸着に用いた溶液を同じ溶媒でゲルを洗浄し、遠心分離後、上澄み液を回収する。
(2)抗体タンパク質の吸着
免疫グロブリン(IgG)の水溶液をゲルに添加し、振とう機で2時間撹拌することで吸着操作を行う。その後、遠心分離によってゲルを沈殿させ、上澄み液を回収する。
続いて、吸着に用いた溶液を同じ溶媒でゲルを洗浄し、遠心分離後、上澄み液を回収する。
(3)抗体タンパク質の溶出
ゲルに溶出溶液を添加し、十分洗浄し、遠心分離後、上澄み液を回収する。
(4)タンパク質の定量
回収した全ての上澄み液について、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)用カラム、またはイオン交換カラム等を用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)分析によって、溶液中のタンパク質の定量を行う。投与した全タンパク質量に対する溶出量から、ゲルへの吸着量を求めることができる。
さらに、上述の方法はMEL結合セルロースゲルに限らず、本発明のMEL結合ポリマー全てに対して適用できる。
【0071】
また、本発明のMEL結合ポリマーを用いることで、上述の方法と同様の操作で糖タンパク質、レクチン等他の生体分子の吸着や分離を行うことができる。
上述の方法以外に、中圧オープンカラム、HPLCシステム用エンプティーカラムにMEL結合セルロースゲルを充填し、上述(1)〜(3)で用いた溶液を連続的に流入させることで、遠心分離の手順を省略することが可能となる。
これにより、本発明のMEL結合ポリマーを用いてなるアフィニティーカラムを提供できる。
また流出口に示差屈折率(RI)検出器、紫外−可視吸光(UV)検出器を接続することで、抗体タンパク質等任意の生体分子の分離システムを作成することができる。
これにより、前記アフィニティーカラムないしは前記アフィニティー担体を用いてなる本発明の分離、定量ないしは検査用分析装置を提供できる。
【0072】
また同様に、本発明のMEL結合ポリマーは、試料中に存在する特定の生体分子を捕捉、定量することができる検査用試薬としても用いることができ、微量サンプル中のタンパク質等、生体分子を検知するセンサー、マイクロアレイとしても利用できる。具体的には、血漿をはじめとする血液由来試料から特定の抗体タンパク質を選択的に捕捉し、蛍光ラベルした二次抗体を組み合わせることで、検出、定量、分析等を行うことのできる検査用装置等に本発明のMEL結合ポリマーを導入することが可能である。
【0073】
また、前記生体分子吸着剤、前記検査用試薬、前記センサー、前記マイクロアレイ、前記アフィニティー担体又は前記アフィニティーカラムは、本発明のMEL結合ポリマーを用いることにより、親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性、耐腐食性などの物性が付与されえる。
さらに、前記生体分子吸着剤、前記検査用試薬、前記センサー、前記マイクロアレイ、前記アフィニティー担体又は前記アフィニティーカラムは、本発明のMEL結合ポリマーを用いることにより、抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制、タンパク吸着の抑制などの生理活性が付与されえる。
【0074】
具体的には、本発明のMEL結合ポリマーは、極めて優れた界面活性を示すMELが直接導入されたことによって、素材表面の親水性が付与され、水溶液中での分散性の向上が見込まれるほか、素材表面の滑らかさが増すことで帯電防止効果が表れるなど、操作性の向上が見込まれる。
これらの性能を素材に付与するために、一般的には、界面活性剤による表面のコーティング処理などが施されるが、本発明のMEL結合ポリマーでは素材自体に界面活性剤が組み込まれており、その工程が不要である。
また、一般的に、アフィニティー担体は水溶液中での使用が基本となるため防腐剤等の添加が必要とされるが、MELをはじめとする糖脂質型バイオサーファクタントには、脂質類に対する可溶化能が高く、細胞膜への膜透過性等の効果で高い抗菌性、抗ウイルス性等を示す。そのため前記生体分子吸着剤、前記検査用試薬、前記センサー、前記マイクロアレイ、前記アフィニティー担体又は前記アフィニティーカラムは、本発明のMEL結合ポリマーを用いることにより、素材自体にこれらの抗微生物作用が付与されており、耐腐食性に優れるため他成分の付加を必要としない。
さらに、上述のように素材表面に高い親水性が付与されることで、疎水性相互作用によるタンパク質非特異的な吸着や細胞の癒着が抑制されるばかりでなく、腫瘍細胞の分化誘導、増殖抑制効果等を有するMELが表面に配列していることで、素材表面での細胞増殖を抑制できるなど、本発明のMEL結合ポリマーを用いてなる前記生体分子吸着剤、前記検査用試薬、前記センサー、前記マイクロアレイ、前記アフィニティー担体又は前記アフィニティーカラムは、生体機能性素材としての性能を満たすものと考えられる(例えば、オレオサイエンス,第3巻,p663−672(2003)、J.Biosci.Bioeng.,94巻,p187−201(2002)、及びこれに記載の引用文献を参照。)。
以上の性能は広く医工学材料に求められるものであるが、本発明のMEL結合ポリマーは素材自体にこれらの性能が付与されており、極めて有用な素材として幅広い利用が期待される。
以下に、本発明について実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【実施例】
【0075】
参考例1
(不飽和MELの生産)
本発明ではMELの脂肪酸鎖中に含まれる炭素−炭素二重結合を反応点として利用するため、微生物生産の原料となる炭素源に単一構造の不飽和脂肪族アルコールを添加することで、二重結合の含有量及び結合位置の制御されたMELの生産を行った。(J.Jpn.Oil Chem.Soc.,42巻,p346−358(1993)参照)
a)保存培地(麦芽エキス3g/L、酵母エキス3g/L、ペプトン5g/Lグルコース10g/L、寒天30g/L)に保存しておいたPseudozyma antarctica T-34株を、グルコース20g/L、酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地4mLが入った試験管に1白金耳接種し30℃で振とう培養を行い、次いで、
b)得られた菌体培養液を6% cis−11−テトラデセン−1−オールと酵母エキス1g/L、硝酸ナトリウム1g/L、リン酸2水素カリウム0.5g/L、及び硫酸マグネシウム0.5g/Lの組成の液体培地20mLの入った坂口フラスコに接種して、30℃で振とう培養を行った。
上記a)の培養を1日間行った後、b)の培養を7日間行った後の培養液を採取し、等量の酢酸エチルを添加・攪拌して、酢酸エチル抽出物を得た。得られた糖脂質を含む酢酸エチル抽出物から既知の精製手法によってMELを分離した。すなわち、上記酢酸エチル抽出物をシリカゲルカラムに供し、クロロホルムとアセトンの混合液を展開溶媒とするカラムクロマトグラフィーで精製した。クロロホルムとアセトンの割合を、80:20から30:70まで変化させながら投入することで、原料及びMEL−A、−B、−Cを順に分離回収した。得られたフラクションの中に含まれる成分については薄層クロマトグラフィーで確認した。展開溶媒はクロロホルム:メタノール:7Nアンモニア水=65:15:2を用い、指示薬には糖脂質を青緑色に発色させるアンスロン硫酸試薬を用いた。
【0076】
参考例2
参考例1と同様にして、生産菌株にPseudozyma antarctica JCM 10317株、Pseudozyma rugulosa NBRC 10877株、Pseudozyma parantarctica JCM 11752株を用いてMELの生産を行った。回収したMEL全量は、P.antarctica T-34株:64.4mg、P.antarctica JCM 10317株:111.4mg、P.rugulosa株:51.4mg、P.parantarctica株:120.8mgであり、P.parantarctica株でMELの生産量が最も高くなった。
以後の反応、測定等はP.parantarctica株を用いて生産し、分離精製したMEL−Aを用いて行った。
【0077】
参考例3
回収したMEL−Aについて、1H、13C、1H−1H COSY、HMQC(Heteronuclear Multiple Quantum Coherence)、HMBC(Heteronuclear Multiple Bond Coherence)の各NMRスペクトル解析を行うことで、その構造解析を行った。
図1にMEL−AのH NMRスペクトルを示す。図1から明らかなように、炭素−炭素二重結合(図1中c)に帰属されるプロトンのシグナルが5.5〜5.0ppmに、脂肪酸末端から2個目の炭素原子に結合するプロトンのシグナルが2.1ppm付近に、脂肪酸末端のメチル基(図1中a)のプロトンのシグナルが0.9ppm付近に、それぞれ観測されたことからMEL−Aの構造が確認された。
また、上記各種NMR測定の結果から、得られたMEL−Aは、脂肪酸末端から3個目と4個目の炭素の間に不飽和二重結合が存在するMEL−Aであることが確認された。
また、上記MEL−Aの脂質部分の組成は、塩酸メタノール加水分解物からヘキサンで抽出して得られた脂肪酸メチルエステルのGC/MS分析により行った。本糖脂質では、炭素数8の不飽和脂肪酸(5−オクテン酸)が33%、炭素数10の不飽和脂肪酸(7−デセン酸)が34%、炭素数12の不飽和脂肪酸(9−ドデセン酸)が13%、全体として不飽和脂肪酸が80%含まれていることが示された。
以上の微生物を用いた生産により二重結合の含有量及び結合位置の制御されてMELが生産されたことが分かる。
なお、5−オクテン酸、7−デセン酸、9−ドデセン酸はいずれも脂肪酸ω末端から3個目と4個目の炭素の間に不飽和二重結合が存在する。
【0078】
実施例1−1
(MEL−Aのオゾン酸化)
MEL−A 0.65gを脱水メタノール10mLに溶かし、−90℃に冷却した。オゾン発生器(エコデザイン社製、商品名ED−OG−R4)を用いて発生させたオゾンを、このメタノール溶液に冷却撹拌しながら吹き込んだ。この際、あらかじめヨウ化カリウム水溶液でオゾンの発生速度を定量しておき、MEL−Aと等量分のオゾンを吹き込んだ。20分後トリメチル亜リン酸を加え、その後ゆっくりと室温(25℃)に戻し、70分間撹拌を続けた。酢酸エチルとメタノールの混合溶媒(9:1)で希釈して水洗いし、油相に硫酸マグネシウムを加え乾燥し、溶媒を留去した。酢酸エチルを展開溶媒としたカラムクロマトグラフィー法により不純物を取り除いた後、展開溶媒にエタノールを10%(v/v)加え無色粘性液体0.12gを精製した。
【0079】
(NMR測定による生成物の構造解析)
図2は、目的物である脂肪酸末端アルデヒド化MELのH NMRスペクトルを示す図である。図2bから明らかなように、炭素‐炭素二重結合に特異的な5.4ppmのピークが消え、図2aに示したように、代わりに9.8ppm付近にアルデヒド基に由来するピークが出現した。また、脂肪酸末端メチル基由来プロトンの積分値が約6から3.7へと大きく減少した。以上のスペクトル変化から、目的物である脂肪酸末端アルデヒド化MELの生成が確認された。以下に化学シフトをまとめて記す。
1H NMR(DMSO,δ):0.87(t,3.7H,CH3CH2CH2),1.2-1.4(m,14H,CH2),1.5(m,1.2H,-CH2CH2COO),1.64(m,1.5H,-CH2CH2COO),1.97-2.03(m,7H,CH2-CHO,CH3COO),2.24(t,1.2H,CH2COO),2.30-2.60(m,2H,CH2COO)2.60-2.80(m,2H),3.40-3.55(m,3.5H),3.89(m,2H),4.00(d,1H),4.16(dd,2H),4.37(s,1H),4.58(s,1H),4.65(s,1H),4.97(s,1H),5.04(d,1H),5.15(d,1H),5.36(m,1H),9.60-9.70(m,0.82H,CHO)
【0080】
(脂肪酸末端アルデヒド化MELの分子量測定)
図3は、前記得られた脂肪酸末端アルデヒド化MELのMALDI−TOF/MS測定結果である、主成分の擬似分子イオンの分子量付近のスペクトルを示す図である。
図3から明らかなように、この糖脂質はMALDI−TOF/MS分析において、擬似分子イオン[M+Na]+ m/z 630.0、及び601.9が検出された。したがって、本発明の脂肪酸末端アルデヒド化MELは、下記式(7)で表される、マンノシルエリスリトール骨格の2’、3’位のどちらか一方の水酸基にC10の直鎖飽和脂肪酸がエステル結合しており、もう一方にエチレン鎖の末端にアルデヒド基が存在するエステルが結合した構造の化合物が主成分であり、続いて、同様に下記式(8)で表される、直鎖飽和脂肪酸がC8である化合物が多く含まれていることが分かった。
【0081】
【化11】

【0082】
実施例1−2
(MEL−Aのオレフィンメタセシス反応)
【0083】
【化12】

【0084】
前記式中Cyはシクロへキシル基を表す。
MEL−A 68mg(0.1mmol)、アリルグリシジルエーテル57mg(0.5mmol)、前記式で表される第2世代グラブス触媒(C4665l2PRu、FW:848.98、CAS 246047−72−3)4mg(5μmol)を、ジクロロメタン2.5mLに溶かし、窒素置換した後密栓し、室温で3日間撹拌した。反応後の生成物のTLCチャートを図4に示す。
図4から明らかなように、MEL−AのRf値0.71に対し、Rf値0.65に生成物である脂肪酸末端エポキシ化MELのスポットが現れた。
反応後、エバポレーターで溶媒を除去し、クロロホルムとアセトンの混合溶媒を展開溶媒としたカラムクロマトグラフィー法により、アリルグリシジルエーテルのホモカップリング物(クロロホルム)及び未反応MEL(クロロホルム/アセトン=70/30(vol/vol))を取り除いた後、無色粘性液体(クロロホルム/アセトン=50/50(vol/vol))16mgを精製した。
【0085】
(NMR測定による生成物の構造解析)
前記精製した脂肪酸末端エポキシ化MELのH NMR測定の結果、2.6ppm、2.85ppm、3.2ppm付近にエポキシ基に由来するピークが出現した。また、脂肪酸末端メチル基由来プロトンの積分値が約6から2.8へと大きく減少した。以上のスペクトル変化から、目的物である脂肪酸末端エポキシ化MELの生成が確認された。以下に化学シフトをまとめて記す。
1H NMR(CDCl3,δ):0.85-1.0(m,2.8H,CH3CH2CH2),1.2-1.5(br,7H,CH2),1.55-1.7(m,4H,-CH2CH2COO),1.97-2.1(m,7H,CH2-CHO,CH3COO),2.2-2.3(t,2H,CH2COO),2.4-2.5(t,2H,CH2COO),2.6-2.7(br,1H,epoxy),2.8-2.9(br,1H,epoxy),3.2-3.4(br,1H,epoxy),3.6-3.85(br,6H),4.0(dd,1H),4.16-4.3(m,2H),4.78(s,1H),5.09(dd,1H),5.25(t,1H),5.3-5.45(br,4H),5.52(d,1H).
【0086】
(脂肪酸末端エポキシ化MELの分子量測定)
前記得られた脂肪酸末端エポキシ化MELのMALDI−TOF/MS測定の結果、擬似分子イオン[M+Na]+ m/z 725.7が検出された。したがって、本発明の脂肪酸末端エポキシ化MELは、下記式(9)で表される、マンノシルエリスリトール骨格の2’、3’位のどちらか一方の水酸基に炭素原子数8の直鎖不飽和脂肪酸がエステル結合しており、もう一方に末端にグリシジルエーテル基が結合した炭素原子数9の直鎖不飽和脂肪酸エステルが結合した構造の化合物が主成分であることが分かった。
【0087】
【化13】

【0088】
(界面活性能の観察)
上記得られた脂肪酸末端アルデヒド化MELの希釈水溶液を作成し、疎水性のフィルム上にスポットすることで、その表面張力の変化を観察した。また、コントロールとして水、及び出発物質として用いたMEL−Aの水溶液をそれぞれスポットして比較した。
その結果、溶液スポット後3分後の滴の直径を測定したところ、水のスポットは直径5mm、脂肪酸末端アルデヒド化MELのスポットは6.5mm、MEL−Aのスポットは8mmであった。
脂肪酸末端アルデヒド化MELは水溶液の表面張力が低下しており、界面活性剤としての機能を有することが示された。また、脂肪酸末端アルデヒド化MELの水溶液のスポットは、MEL−Aと比較するとスポットの広がりは小さくなった。脂肪酸末端アルデヒド化MELは疎水基である脂肪酸エステルの末端にアルデヒド基が導入されているため、より親水的なバイオサーファクタントであると推測される。従って、疎水性フィルムとの親和力は従来型MELと比べて低く、スポットの広がりはやや小さくなるものと予想されたが、本観察の結果はそれに則するものであった。
【0089】
実施例1−3
(MEL結合セルロースゲルの製造)
側鎖アミノ化セルロースゲル(商品名アミノ−セルロファイン:生化学工業株式会社製)1g(湿潤重量)を0.1mol/Lリン酸緩衝液(pH7)2mLに分散させ、実施例1で得られた脂肪酸末端アルデヒド化MEL60mg、シアノ水素化ホウ素ナトリウム31mgを添加し、70℃油浴中で3日間撹拌した。反応終了後、水、エタノールで十分洗浄し、減圧下乾燥後、白色粉末状ゲルを約100mg得た。
【0090】
(MEL結合セルロースゲルの元素分析)
前記得られたゲルの元素分析を行った。結果を表1にまとめる。結果より求めたC/N比(mol/mol)は、元のセルロースゲルの117.2に対して、本発明のゲルで143.8となり、一つのアミノ基に26.6個の炭素が導入されたことが確認された。実施例1−1で行った分子量測定の結果より、導入に用いた脂肪酸末端アルデヒド化MELの主成分は、前記一般式(7)で表される構造の炭素原子数28の化合物である。したがって、その導入率は26.6/28×100=95(%)となり、MELを高効率に導入できたことが確認された。
【0091】
【表1】

【0092】
実施例2
(MEL結合セルロースゲルを用いた抗体分離)
実施例1−3で得られたゲルを用いて抗体タンパク質の選択的吸着・溶出試験を行った。ゲル80mg(乾燥重量)を遠心管に秤取し、次の手順で実験を行った。コントロール実験として、MELを吸着させていない元のゲル160mg(湿潤重量)を遠心管に秤取し、同様の実験を行った。
【0093】
(1)血清アルブミンによるブロッキング処理
40mg/mLヒト血清アルブミン(HSA)溶液1.5mLを添加し、2時間撹拌した。溶媒には、1mol/Lとなるように硫酸ナトリウムを溶解した50mmol/Lリン酸緩衝溶液(pH4.6)を用いた。撹拌後、遠心分離を行い、上澄み液を回収した。
続いて、同溶媒3.3mLずつで3回(合計10mL)洗浄を行い、遠心分離後上澄み液を回収した。
回収した上澄み液のHPLC分析を行い、波長280nmのUV検出器によってピーク面積からタンパク質の定量を行ったところ、どちらのゲルにおいても操作後の上澄み液中に、添加したHSAがほぼ全量含有していることが確認された。以上のことから、実施例1−3で得られたゲルが疎水性相互作用によるHSAの非特異的吸着をほとんど起こさないことが確認された。
【0094】
(2)抗体タンパク質の吸着
続いて、(1)操作後のゲルに1mg/mLヒト免疫グロブリン(IgG)溶液3mLを添加し、2時間撹拌した。溶媒は(1)と同様の緩衝液を用いた。撹拌後、遠心分離を行い、上澄み液を回収した。
続いて、同溶媒3.3mLずつで3回(合計10mL)洗浄を行い、遠心分離後上澄み液を回収した。
【0095】
(3)抗体タンパク質の溶出
前記(2)の操作に続けて、50mmol/Lリン酸緩衝溶液(pH7)3.3mLずつで3回(合計10mL)洗浄を行い、遠心分離後上澄み液を回収した。
回収した上澄み液のHPLC分析を行い、波長280nmのUV検出器によってピーク面積からタンパク質の定量を行った。結果を表2にまとめる。MELを結合させたゲルはコントロールと比較して抗体の回収量が約7倍と大幅に増加した。
【0096】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】参考例で得られたMEL−AのH NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1で得られた脂肪酸末端アルデヒド化MELのH NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1で得られた脂肪酸末端アルデヒド化MELのMALDI−TOF/MS測定結果である、主成分の擬似分子イオンの分子量付近のマススペクトルを示す図である。
【図4】実施例1−2で脂肪酸末端エポキシ化MELが生成したことを示すTLCチャートである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの前記反応性官能基の一部または全部に、マンノシルエリスリトールリピッド化合物が脂肪酸末端で共有結合を介して結合してなることを特徴とする、マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
【請求項2】
前記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーの主骨格を形成する高分子が、多糖類、タンパク質又は有機合成ポリマーであることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
【請求項3】
前記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーが有する前記反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基又は炭素−炭素二重結合であることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
【請求項4】
下記一般式(1)又は(2)で表される脂肪酸末端アルデヒド化マンノシルエリスリトールリピッド化合物のアルデヒド基と、主鎖ないしは側鎖にアミノ基を有するポリマーのアミノ基とのシッフ塩基形成を介して、前記ポリマーに前記マンノシルエリスリトールリピッド化合物を共有結合してなる、マンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマー。
【化1】

(前記一般式(1)中、n、mは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R、Rは、いずれか一方がアルデヒド基で他方がメチル基であるか、あるいは両方がアルデヒド基である。また、R、Rは、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(2)中、lは、1〜18の数であり、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。)
【請求項5】
前記主鎖ないしは側鎖に反応性官能基を有するポリマーと、脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物とを、前記反応性官能基同士の反応により共有結合を介して結合させることを特徴とする、請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを製造する方法。
【請求項6】
前記脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物が有する前記反応性官能基が、アミノ基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アルデヒド基、チオール基、エポキシ基、イソシアネート基、エステル基、スルホン基、フェノール基、アジド基又は炭素−炭素二重結合であることを特徴とする、請求項5に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーの製造方法。
【請求項7】
微生物によって生産されたマンノシルエリスリトールリピッド化合物を原料とし、その脂肪酸鎖中に含まれる炭素−炭素二重結合のオゾン酸化反応またはメタセシス反応により、脂肪酸末端に反応性官能基を導入することを特徴とする、請求項5又は6に記載の脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物を製造する方法。
【請求項8】
下記一般式(1)〜(4)のいずれかで表される脂肪酸末端に少なくとも1個の反応性官能基を有するマンノシルエリスリトールリピッド化合物。
【化2】

【化3】

(前記一般式(1)中、n、mは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R、Rは、いずれか一方がアルデヒド基で他方がメチル基であるか、あるいは両方がアルデヒド基である。また、R、Rは、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
前記一般式(2)中、lは、1〜18の数であり、R、R、Rはそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。
前記一般式(3)中、p、qは、それぞれ、1〜18の数であり、飽和脂肪族アルキレン基を構成し、R31、R32は、いずれか一方が2−アリルオキシメチルオキシラン基で他方がメチル基であるか、あるいは両方が2−アリルオキシメチルオキシラン基である。また、R33、R34は、それぞれ、水素原子又はアセチル基を表す。
また前記一般式(4)中、rは、1〜18の数であり、R35、R36、R37はそれぞれ独立して、水素原子又はアセチル基を表す。)
【請求項9】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子を検出する方法。
【請求項10】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子の分離方法。
【請求項11】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いることを特徴とする、生体分子の収集方法。
【請求項12】
前記生体分子が抗体タンパク質、糖タンパク質又はレクチンであることを特徴とする、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなる生体分子吸着剤。
【請求項14】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項13に記載の生体分子吸着剤。
【請求項15】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるアフィニティー担体。
【請求項16】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項15に記載のアフィニティー担体。
【請求項17】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるアフィニティーカラム。
【請求項18】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項17に記載のアフィニティーカラム。
【請求項19】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなる検査用試薬。
【請求項20】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項19に記載の検査用試薬。
【請求項21】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるセンサー。
【請求項22】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項21に記載のセンサー。
【請求項23】
請求項1に記載のマンノシルエリスリトールリピッド結合ポリマーを用いてなるマイクロアレイ。
【請求項24】
親水性、高分散性、高流動性、帯電防止性ないしは耐腐食性の物性、又は抗菌性、抗ウイルス性、抗腫瘍性、抗血栓性、細胞癒着の抑制ないしはタンパク吸着の抑制の生理活性が付与されたことを特徴とする、請求項23に記載のマイクロアレイ。
【請求項25】
請求項15に記載のアフィニティー担体、請求項17に記載のアフィニティーカラム、請求項21に記載のセンサー、または請求項23に記載のマイクロアレイを用いてなる分離、定量ないしは検査用分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−127409(P2008−127409A)
【公開日】平成20年6月5日(2008.6.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−310959(P2006−310959)
【出願日】平成18年11月17日(2006.11.17)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】