説明

ミシンの中押え装置

【課題】ミシンの中押えが縫製物の段差などに押し当てられた場合、例えば、縫製中に布の厚さが変化するような場合に、布に対する中押えの圧力が変化するのを防止する。
【解決手段】縫製時に布をばね27の付勢力により針板に押え付ける中押え19と、主軸の回転により上下する針に合わせて中押え19を上下動させる中押さえ上下運動機構M1と、中押え19の下降位置を布の厚さに応じて上下方向に移動させ、中押え19の下降位置を調整する中押え下降位置調節機構M2と、を備え、中押え下降位置調節機構M2を、ミシンアームに回動可能に支持される中押え軸28と、中押え軸28の端部に固定される中押え上げレバー22と、中押え上げレバー22に近接配置され、中押え軸28に対して回動可能に嵌合される中押えレバー23と、中押え上げレバー22に回動可能に設けられたばね掛け24から構成し、ばね掛け24と中押えレバー23間にばね27を配設した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はミシンの中押え装置に係り、特に、中押えに対する付勢力を変化させず、縫製物への圧力を変化させないミシンの中押え装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
刺繍ミシン等のように送り歯を用いず布をXY方向に搬送させながら縫製を行なうミシンにあっては、布が針との摩擦により針と共に上昇してばたつくのを防止するため、針の上昇時に布の針貫通部周辺を下方に押え付ける中押え装置が設けられている。この装置は通常、針が布から上昇する際に中押えにより布を下方に押え付け、針が布から完全に上昇した後は中押えが針と共に上昇するようになっている。
【0003】
このような中押え装置の従来例として、中押えの搖動中心を略水平方向に変位させることにより、布厚に対応して中押えの下降位置を調節可能とした装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、別の従来例として、中押えを定位置に保持する付勢手段の一端を弾性力が減少する方向に移動させることにより、中押えを退避させる際に要する力を低減させた装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
【特許文献1】特開平7−178272号公報(段落0010、図1)
【特許文献2】特開2007−159710号公報(段落0005、図1)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示された中押え装置においては、ミシン縫製動作中に中押えの下降位置を変化させた際、中押えに対する付勢力が変化し、縫製物、例えば布に対する圧力が変化してしまう課題を有している。
【0007】
また、上記特許文献2に開示された中押え装置においては、中押えを退避させる際の力を低減させてはいるが、機構が大変複雑となる課題を有している。
【0008】
この発明は、搖動機構内に付勢手段を配置することにより、上記従来装置の課題を解決するミシンの中押え装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明に係るミシンの中押え装置は、縫製時に縫製物を付勢手段の付勢力により針板に押え付ける中押えと、主軸の回転により上下する針に合わせて上記中押えを上下動させる中押さえ上下運動機構と、上記中押えの下降位置を布の厚さに応じて上下方向に移動させ、中押え下降位置を調整する中押え下降位置調節機構と、を備えたミシンの中押え装置において、上記付勢手段を、上記中押え下降位置調節機構と一体的に構成したものである。
【発明の効果】
【0010】
この発明に係るミシンの中押え装置によれば、中押えが布の段差などに押し当てられた場合、例えば、縫製中に布の厚さが変化するような場合においても、布に対する中押えの圧力が変化することなく、しかも、中押えの破損を防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、この発明に係るミシンの中押え装置の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、この実施の形態によってこの発明が限定されるものではない。
【0012】
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係るミシンの中押え装置の斜視図であり、図2は正面図である。この図1、図2を用いて先ずミシンの中押え装置の全体構成について説明する。
【0013】
<中押え装置の全体構成>
図1、図2に示すように、本実施形態たるミシンの中押え装置1は、縫製時に縫製物、例えば布を針板に押え付ける中押え19と、主軸の回転により上下する縫い針に合せてこの中押え19を上下動させる中押え上下運動機構M1と、中押えの下降位置を調節する中押え下降位置調節機構M2と、を備えている。
【0014】
次に、中押え上下運動機構M1の構成について説明する。
<中押え上下運動機構の構成>
中押え上下運動機構M1は、先端に縫い針が設けられた針棒を上下方向に駆動させる上軸2に設けられている。上軸2には偏心カム3が固定され、この偏心カム3には接続リンク4が連結されている。接続リンク4には搖動軸抱き5が連結され、搖動軸抱き5には搖動軸6の一端部が連結されている。搖動軸抱き5には中押え19の上下方向D1の移動量を調節する溝カム5aが形成されている。この溝カム5aは弧状の長穴となっており、この溝カム5aの所望の位置で接続リンク4の一端部が調節ナット7と段ねじ8により軸支されている。なお、この接続リンク4の軸支位置は溝カム5aに沿って調節可能となっている。
【0015】
搖動軸6の他端部には搖動腕9が固定されている。搖動腕9にはリンク10の一端が段ねじ11により連結されており、リンク10の他端には逆L字型リンクを形成する搖動体12の上部が連結されている。この搖動体12の左端部はリンク13の上部に連結され、中央部の搖動中心C1は段ねじ20によってリンク14の右端部に接続されている。リンク14の他端部はミシンアーム(図示せず)と段ねじ15により連結されており、リンク13の他端部は中押え棒抱き16に段ねじ17により連結されている。中押え棒抱き16には下方向に延びる中押え棒18が保持されている。中押え棒18の下端部には、縫製時に布を針板に押え付ける中押え19が取り付けられている。なお、搖動体12の搖動中心C1は、後述する中押え下降位置調整機構M2により定位置に保持されている。
【0016】
上記構成により、上軸2が回転すると偏心カム3に接続された接続リンク4が搖動運動する。この接続リンク4の搖動運動は搖動軸抱き5に伝達され、同時に搖動腕9も搖動する。この運動はリンク10に伝達され搖動体12は搖動中心C1を中心に搖動し、リンク13は上下方向に運動する。このリンク13の上下方向の運動により、リンク13に接続された押え棒抱き16、押え棒18、中押え19がD1方向に運動する。
【0017】
次に、中押え下降位置調整機構M2の構成について説明する。
<中押え下降位置調整機構の構成>
中押え下降位置調整機構M2は、搖動体12の搖動中心C1を布の厚さに合わせ上下方向に移動させ、中押え下降位置を調整するものである。中押え軸28がミシンアーム(図示せず)に回動可能に支持されている。その中押え軸28の端部には中押え上げレバー22が固定されており、近接して中押えレバー23が中押え軸28に対して回動可能に嵌合されている。中押え上げレバー22にはばね掛け24が段ねじ25により回動可能に設置されており、調節ねじ26によってその角度が調節できるように配置されている。また、ばね掛け24と中押えレバー23の先端には、中押え19の付勢手段であるばね27が設置されている。このばね27により角駒21を挟持しており、ばね27の付勢力の調節は調節ねじ26により行う。このように、中押え下降位置調節機構M2とばね27とは一体的に構成されている。
【0018】
段ねじ20は搖動体12の搖動中心C1と角駒21を連結している。角駒21は中押え上げレバー22と中押えレバー23に挟持されている。一方、中押え軸28の他端には扇歯車29が固定されている。この扇歯車29にはモータ30の軸に固定された小歯車31が係合されている。
【0019】
モータ30にはパルスモータが採用されており、正逆方向に回動自在であると共に、回動量及び駆動のタイミングが図示しない制御部により制御可能となっている。モータ30によって中押え上げレバー22の角度を任意に制御することにより、角駒21、即ち、搖動体12の回転中心C1を自在に上下させ、中押え下降位置を調整することが可能となる。
【0020】
実施の形態1に係るミシンの中押え装置は、上記のように構成することで、通常の縫製時に中押え19が上下動を行う際には、ばね27の弾性力により角駒21を挟持した状態を維持する。ばね27の取付長さは中押え下降位置、即ち、角駒21の位置によらず一定であるため、中押え19への付勢力は変化せず、布に対する圧力は変化しない。そして、中押え19が、予定された下死点位置まで下降できないような障害、例えば、布の段差などに押し当てられた場合等には、ばね27の弾性力に抗して角駒21が中押え上げレバー22から上方にリンク14の回動に沿って離れることにより、中押え19を上方に逃がすことが可能となっている。これにより、中押え19の破損が防止される。
【0021】
また、中押え退避時についても下降位置を変化させることと同様の動作によって行えるため、中押え退避のための特別な機構を必要としない。この際もばね27の取付長さは変化しないため、ばね27に抗する力を付与する必要がない。
【0022】
以上のように、実施の形態1に係るミシンの中押え装置は、中押え19が布の段差などに押し当てられた場合、例えば、縫製中に布の厚さが変化するような場合においても、布に対する中押え19の圧力が変化することなく、しかも、中押え19の破損を防止することができる構成となっている。
【0023】
実施の形態2.
次に実施の形態2について図3を用いて説明する。
図3に示すように、図1に示した搖動体12の搖動中心C1の移動を腕による回転運動ではなく、ラックピニオンによる上下方向の移動に置き換えても良い。この実施の形態2は角駒21を搖動体移動基台32と搖動体押え33により挟持する。搖動体押え33は搖動体移動基台32に固定された軸34に沿って上下に移動可能となっており、軸34の周りに設置されたばね35によって角駒21を搖動体移動基台32に押し付けている。
【0024】
搖動体移動基台32にはラック36が固定されており、これにピニオン37が係合している。ピニオン37はパルスモータによって回転量及び駆動のタイミングが制御可能となっており、搖動中心C1を上下方向に移動させることができる。なお、その他の構成については実施の形態1と同様であり、その説明を省略する。
【0025】
以上のように構成することにより、実施の形態2に係るミシンの中押え装置においても、実施の形態1に係るミシンの中押え装置と同等の効果を奏する。
【産業上の利用可能性】
【0026】
この発明に係るミシンの中押え装置は、縫製位置の厚さが異なる縫製物を縫製するミシンに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明の実施の形態1を説明するミシンの中押え装置の斜視図である。
【図2】この発明の実施の形態1を説明するミシンの中押え装置の正面図である。
【図3】この発明の実施の形態2を説明するミシンの中押え装置の正面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 中押え装置
2 上軸
3 偏心カム
4 接続リンク
5 搖動軸抱き
6 搖動軸
7 調節ナット
8 段ねじ
9 搖動腕
10 リンク
11 段ねじ
12 搖動体
13 リンク
14 リンク
15 段ねじ
16 押え棒抱き
17 段ねじ
18 中押え棒
19 中押え
20 段ねじ
21 角駒
22 中押え上げレバー
23 中押えレバー
24 ばね掛け
25 段ねじ
26 調節ねじ
27 ばね
28 中押え軸
29 扇歯車
30 モータ
31 小歯車
32 搖動体移動基台
33 搖動体押え
34 軸
35 ばね
36 ラック
37 ピニオン
C1 搖動体12の搖動中心
D1 中押えの上下方向
M1 中押え上下運動機構
M2 中押え下降位置調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
縫製時に縫製物を付勢手段の付勢力により針板に押え付ける中押えと、主軸の回転により上下する針に合わせて上記中押えを上下動させる中押さえ上下運動機構と、上記中押えの下降位置を布の厚さに応じて上下方向に移動させ、中押え下降位置を調整する中押え下降位置調節機構と、を備えたミシンの中押え装置において、
上記付勢手段を、上記中押え下降位置調節機構と一体的に構成したことを特徴とするミシンの中押え装置。
【請求項2】
上記中押え下降位置調節機構を、ミシンアームに回動可能に支持される中押え軸と、上記中押え軸の端部に固定される中押え上げレバーと、上記中押え上げレバーに近接配置され、上記中押え軸に対して回動可能に嵌合される中押えレバーと、上記中押え上げレバーに回動可能に設けられたばね掛けと、を含む構成とし、
上記付勢手段は、上記ばね掛けと上記中押えレバーとの間に配設されることを特徴とする請求項1に記載のミシンの中押え装置。
【請求項3】
上記中押え上げレバーに調整ねじを設け、上記ばね掛けの回動角度を調整することを特徴とする請求項2に記載のミシンの中押え装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−72428(P2009−72428A)
【公開日】平成21年4月9日(2009.4.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−245393(P2007−245393)
【出願日】平成19年9月21日(2007.9.21)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】