説明

ミシンの給油装置

【課題】 潤滑油の油量調節部材および油量調節部材による調節の手間を省きつつも、ベッドに配置の給油ポンプから吐出される潤滑油からアーム内の摺動部材に微量な潤滑油を安定して供給することのできるミシンの給油装置を提供する。
【解決手段】 ミシンベッド2内に配置の第1ポンプ16とともに、減速機構を介して上軸5の回動に連動して動作する第2ポンプ30がミシンアーム4内に配置される。第1ポンプ16から第2ポンプ30を経由してミシンアーム4内の摺動部材まで潤滑油を輸送することにより、ミシンアーム4内の摺動部材に必要とされる微量な潤滑油を安定して供給することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミシンの給油装置に関するものであり、詳しくは、ミシンアーム内の摺動部材へ潤滑油を供給するための、ミシンの給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
多くのミシンの摺動部材において、摺動の激しい部分には摺動が円滑に行われるように潤滑油が供給されている。例えば、ミシンアーム内の摺動部材へ条件に応じた適量の潤滑油を供給するために、ミシンベッド内に備えたギヤ式の給油ポンプによりオイルパン(油溜め)の潤滑油が油量調節可能にミシンの摺動部材へ供給されるものが従来より知られている(例えば、文献1参照)。
文献1は上述の従来技術をミシンの針棒クランクロッドに適用したものであり、ミシンベッドに固定されたブラケットに給油ポンプを取り付け、給油ポンプのウォームホイールは下軸の回転に連動することで、オイルパンの潤滑油は給油ポンプ内に吸い上げられる。吸い上げられた潤滑油は給油ポンプに接続される供給管や給油管を介しミシンアーム内に供給され、ミシンアーム内において供給管,給油管及び油受け皿が接続される継手により潤滑油は分流され、一方はミシンアーム上方に配置される油受け皿に供給され、他方は継手に接続される供給管より送出される。供給管より送出された潤滑油については、供給管と給油管の接続箇所に設けられる油量調節部材により給油量を調節でき、針棒クランクロッドへ所望する量の潤滑油を供給できるようにしてある。針棒クランクロッドに供給された潤滑油はミシンの駆動に伴い針棒クランクロッドより周囲に飛散し、各摺動部材、例えば針棒ブッシュに支承される針棒に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−110377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
針棒など、ミシンのフレームから一部が突出して摺動する部材に過剰な潤滑油が供給されると、フレームから突出した部材を介して潤滑油がフレーム外に漏洩するという所謂油漏れを生じることがあり、とりわけ近年はこの油漏れの解決に対する要求が高まっている。特に針棒クランクロッドへの給油は余剰の潤滑油が針棒を介しフレーム外に漏洩することで、漏洩した潤滑油が縫製物に付着する可能性が高く、針棒近傍の摺動部材に潤滑油を供給するにあたっては条件に応じた非常に微量な給油量が必要とされる。
ところが、文献1に開示される従来技術においては、針棒クランクロッドに必要とされる微量な潤滑油を継手によって分流される構造をもって安定して供給管に送出するのは困難である。したがって、継手から供給管に送出する給油量は真に必要な量よりも大きめに設定せざるを得ず、継手から給油箇所までの中途に油量調節部材を設け、ミシンの使用条件に応じて油量調節部材を調節する必要があった。
【0005】
上記の油量調節部材や油量調節部材による調節の手間をなくすための一案として、給油ポンプに微量の潤滑油を排出できる機構を設け、そこから給油箇所まで油量調節部材を介さずにチューブなどで直結する方法が考えられる。しかし、前記した従来技術のように給油箇所と給油ポンプに高低差があると、微量の潤滑油を吐出するためのポンプ圧は非常に小さいため、ポンプの吐出量如何では、チューブ内の潤滑油の重力にポンプ圧が負け潤滑油が正常に輸送されないという問題がある。
【0006】
したがって本発明の課題は、潤滑油の油量調節部材および油量調節部材による調節の手間を省きつつも、ベッドに配置の給油ポンプから吐出される潤滑油からアーム内の摺動部材に微量な潤滑油を安定して供給することのできるミシンの給油装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のミシンの給油装置は、油溜めの上方で油溜めと連設されるミシンベッドと、ミシンベッドの上方にミシンベッドと連設配置されるミシンアームと、ミシンベッドに回動可能に支持される下軸と、ミシンアームに回動可能に支持される上軸と、ミシンベッド内に配置され、油溜めの潤滑油をミシンアーム及びミシンベッドに供給する第1ポンプと、第1ポンプに取り込まれる潤滑油をミシンアーム内に輸送する輸送手段とを備えるミシンの給油装置において、ミシンアーム内には減速機構を介して上軸の回動に連動して動作する第2ポンプが設けられ、第2ポンプは、輸送手段により輸送される潤滑油を第2ポンプに取り込む導入手段と、導入手段により取り込んだ潤滑油の少なくとも一部をミシンアーム内の摺動部材に供給する供給手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
なお、第2ポンプは第2ポンプのボディを形成するケーシングを備え、ケーシングに回動可能に支持される第2ポンプ軸の回動で第2ポンプが動作し、減速機構は、上軸に固定される第1ウォームと、ケーシングに配置される回動軸に固定され、第1ウォームと係合する第1ウォームホイールと、回動軸に固定される第2ウォームと、第2ポンプ軸に固定され第2ウォームと係合する第2ウォームホイールとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ミシンベッド内に配置の給油ポンプとともにミシンアーム内に配置され上軸の回動に連動する第2のポンプを設け、給油ポンプから第2のポンプを経由してミシンアーム内の摺動部材まで潤滑油を輸送することにより、ミシンの使用条件に応じて給油量を調節する必要がなく、ミシンアーム内の摺動部材に必要とされる微量な潤滑油を安定して供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明を適用した偏平縫いミシンの一部破断正面図である。
【図2】分配器の(a)左側面図,(b)正面図である。
【図3】第2ポンプの分解斜視図である。
【図4】第2ポンプ及び減速機構の斜視図である。
【図5】第2ポンプの第2ポンプ軸の構造を示す(a)左側面図,(b)図5(a)のc−c断面図である。
【図6】第2ポンプの正面断面図である。
【図7】本発明のミシンの給油装置の要部を示す正面図である。
【図8】第2ポンプの1サイクルにおける挙動を示した要部正面図である。
【図9】針棒クランクロッドに供給される潤滑油の給油量とミシンの回転数との関係を示す概念図である。
【図10】本発明の別実施例における第2ポンプの1サイクルにおける挙動を示した要部正面図である。
【図11】図10のf−f部分断面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0011】
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。
【0012】
図1は本発明を適用した偏平縫いミシンの部分断面図である。図1に示すように、ミシンベッド2は油溜め1の上方で油溜め1と連設されている。下軸3はミシンベッド2内に水平に配置され、かつ回動可能にミシンベッド2に支持されている。ミシンベッド2の上部にはミシンアーム4が連設されている。上軸5はミシンアーム4に水平に配置され、ミシンアーム4に回動可能に支持されている。下軸3と上軸5にはタイミングベルト(図示せず)が掛架されており、ミシン用の駆動モータ(図示せず)に連動して下軸3と上軸5は一方向に回動する。上軸5の一端部にはクランク6がネジ11で固定されている。クランク6にはピン(図示せず)の一端が挿通固定され、該ピンの他端は針棒クランクロッド7の上筒部7aにクランクロッド7との回動可能に挿通されている。針棒クランクロッド7の下筒部7bには針棒抱き8のピン部8aが挿通され、針棒抱き8には針棒9がネジ22で固定されている。針棒9はミシンアーム4に圧入されたブッシュ10に上下動可能に支持されている。上述した構成により、上軸5の回動に連動して針棒9が上下運動する。
【0013】
ミシンベッド2内においてウォーム15が下軸3にネジ12で固定されている。第1ポンプ16は公知のトロコイドポンプであり、第1ポンプ16のボディを形成する第1ケーシング17の取付け部17aはミシンベッド2のフレームにネジ13で固定されている。第1ポンプ軸18は下軸3と直交して配置され、軸周りの回動可能に第1ケーシング17に支持されている。第1ポンプ軸18の上部は第1ケーシング17より突出しており、突出した部分にはウォームホイール19がネジ14,14で固定されている。ウォーム15とウォームホイール19は係合しており、下軸3の回動に連動してウォーム15,ウォームホイール19,第1ポンプ軸18が回動すると、公知のポンプ作用により油溜め1の潤滑油が第1ポンプ16に取り込まれ、取り込まれた潤滑油のうち、一部は一端が第1ポンプに接続されている輸送チューブ64によりミシンベッド内の摺動部材へ供給され、残りの潤滑油は一端が第1ポンプ16に接続されている第1輸送チューブ20によりミシンアーム4へと輸送される。
【0014】
図1に示すように、ミシンアーム4上方のフレーム部分に油受け23と分配器24が連設されている。図2(a),(b)に示すように、分配器24には通孔24a,縦孔24b,横孔24cが設けられている。噴出管25は油受け23を分配機24とで上下に挟持するように配置されるとともに、分配器24の上面に開口した縦孔24bに螺合されている。第1輸送チューブ20の他端は分配器24に固定された継手27に継手ネジ26により接続されている。継手ネジ26は通孔24aに螺合されており、第1輸送チューブ20を介して油溜め1からミシンアーム4に輸送された潤滑油は継手27,継手ネジ26を介し通孔24aに導かれる。通孔24aに導かれた潤滑油は通孔24aから縦孔24b,横孔24cの夫々へ分流される。縦孔24bに導かれた潤滑油は分配器24の上方へ向け噴出管25から噴出される。噴出管25より噴出した潤滑油の一部はミシンフレームを伝いミシンアーム4内の各部材に供給される。また、噴出管25より噴出した潤滑油のうち油受け23に溜まった潤滑油は、油受け23に設けられた滴下穴23a,23aから滴下し、ミシンアーム4内の摺動部に供給される。横孔24cには継手28が螺合され、横孔24cに導かれた潤滑油は継手28に接続された第2輸送チューブ29により第2ポンプ30へ導かれる。
【0015】
次に、第2ポンプ機構について説明する。第2ポンプ30のボディを形成する第2ケーシング31は、上軸5の後方において、ミシンアーム4上方のフレームにネジ33で固定されている。図3,図4に示すように、第2ケーシング31の回動軸用貫通穴32,32には回動軸34が上軸5と直交し、かつ下端が第2ケーシング31から突出した状態で回動可能に支持されている。回動軸34の下端には、第1ウォームホイール35がネジ39で固定されており、第1ウォームホイール35は上軸5の中途にネジ38で固定されている第1ウォーム36と係合している。第1ウォームホイール35の上方には、第2ウォーム37が第1ウォームホイール35と第2ケーシング31の隔壁部31aを挟んで対向配置されているとともに、回動軸34の中途にネジ40で固定されている。第2ポンプ軸用貫通穴41は回動軸34と直交し、かつ第2ケーシング31を水平方向に貫通して形成されている。第2ポンプ軸42は両端が第2ポンプ軸用貫通穴41の開口より突出して軸周りの回動可能に第2ポンプ軸用貫通穴41に挿通されている。第2ポンプ軸用貫通穴41の一端には第2ウォームホイール43が第2ウォーム37と係合した状態でネジ44で固定され、他端にはカラー45がネジ46で固定されるようにしてあり、第2ポンプ軸42の軸線方向の移動は規制されている。図5(a)に示すように、第2ポンプ軸42の外周面の一部には偏心部47が形成されている。偏心部47には第2ポンプ軸42の周回方向に沿って半周にわたり幅dの溝からなる溝部47aが形成されている。図5(b)に示すように、溝部47aの周回方向の断面形状は、始点47as,終点47aeを長径(=第2ポンプ軸42の径)とする楕円状となっている。溝部47aは第2ケーシング31に嵌挿されて、図6に示すように、該第2ケーシング31内に取り込まれる潤滑油を収容する容積がVaなる油収容室48を形成している。
【0016】
図3,図6に示すように、第2ケーシング31にはネジ孔49,排出孔50,導入孔51,ピン用貫通穴52,吐出孔53が設けられている。排出孔50は一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の上面に開口している。導入孔51は一端が排出孔50及び第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の傾斜面に開口している。継手54は導入孔51の他端に螺合されている。図1,図7に示すように、チューブ状の第2輸送チューブ29は分配器24の横孔24cから排出された潤滑油の一部が導かれるようにしてあり、その一端は継手54に接続されている。つまり、下軸3及び上軸5の回動に連動して第1ポンプ16,分配器24より排出された潤滑油の一部が継手54,導入孔51を通じて第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41及び該貫通穴41に嵌挿される第2ポンプ軸42の溝部47aに導かれるようにしてある。第2ポンプ30の第2ケーシング31内に導かれる潤滑油のうち過剰分は排出孔50の他端を通じて第2ケーシング31の外に排出されるが、その際、潤滑油に混在する微小な塵等も併せて排出される。
【0017】
ピン用貫通穴52は、一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の左側面に開口している。ピン55はピン用貫通穴52に左右動可能に挿通されている。ピン55の直径は第2ポンプ軸42に形成された偏心部47の溝部47aの幅dと等しくされており、ピン55の右端部が該溝部47aと隙間なく係合するようにピン用貫通穴52は位置付けられている。板バネ56はピン55を右方すなわち第2ポンプ軸42側に弾性的に押圧するための手段であり、その基端はネジ57をネジ孔49に螺合することにより第2ケーシング31に固定されているとともに、先端はピン55の左端部に弾性的に当接している。
【0018】
吐出孔53はピン用貫通穴52の下方に位置し、一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の傾斜面に開口している。継手58は吐出孔53の他端に螺合されている。図1,図7に示すように、チューブ状の供給チューブ59は一端が継手58に接続され、他端が針棒クランクロッド7の上方に位置する給油管60に接続されている。給油管60は中途の一部がフレームに固定されており、先端が針棒クランクロッド7に向かい下方に開孔している。第2ポンプ30の作動により、吐出孔53から排出された潤滑油は、供給チューブ59を経由して給油管60の開孔より滴下し、針棒クランクロッド7に導かれるようにされている。
【0019】
以上のように構成されたミシンの給油装置について、作用を以下に説明する。図示しないミシンの駆動源により下軸3が回動すると、ウォーム15,ウォームホイール19を介して第1ポンプ軸18が下軸3に連動して回動することにより、第1ポンプ16は作動する。第1ポンプ16の作動により、油溜め1の潤滑油は第1ポンプ16に取り込まれ、取り込まれた潤滑油は第1輸送チューブ20,継手27,継手ネジ26を通じてミシンアーム4内に配置される分配器24へと輸送される。分配器24へ輸送された潤滑油の一部は、通孔24a,横孔24c,継手28,第2輸送チューブ29を通じて第2ポンプ30へ輸送され、残りの潤滑油は、通孔24a,縦孔24b,噴出管25を通じてミシンアーム4内に供給される。
【0020】
次に、第2ポンプ30の1サイクルの動作について、図8をもとに説明する。なお、図8(b)乃至図8(d)に示す各部位は図8(a)と同じなので、一部符号を省略している。上軸5が回動すると、第1ウォーム36,第2ウォームホイール35を介して回動軸34が回動し、回動軸34が回動すると、第2ウォーム37,第2ウォームホイール43を介して第2ポンプ軸42が回動する。第2ポンプ軸42は軸周り方向R(ミシンの正面から見て時計回り)に回動する。
【0021】
図5,図8(a)に示すように、第2ポンプ軸42が回動して偏心部47の溝部47aの始点47asがピン55を通過すると、油収容室48のピン55より上方においては、導入孔51に導かれた潤滑油が油収容室48内に充填されていく。第2ポンプ軸42がさらに回動し溝部47aの終点47aeがピン55を通過すると、図8(b)に示すように油収容室48全体が導入孔51及び排出孔50と連通し、油収容室48の容積Vaを越えた余剰の潤滑油は排出孔50より排出され、油収容室48の容積Vaと等しい量の潤滑油が油収容室48に充填される。そして、図8(c)に示すように、溝部47aの始点47asが再びピン55に達するまでは、油収容室48に容積Vaの潤滑油を保持したまま、第2ポンプ軸42は回動する。図8(d)に示すように、溝部47aの始点47asがピン55に到達しさらに第2ポンプ軸42が回動すると、油収容室48に充填されている潤滑油は溝部47aに隙間なく嵌挿されるピン55によって堰き止められ、第2ポンプ軸42の回動に伴い油収容室48のピン55手前側の容積が漸次減少するにつれて油収容室48内に保持できなくなった潤滑油は、吐出孔53に排出されていく。そして溝部47aの終点47aeが再度ピン55に達したとき、油収容室48に保持されていた容積Vaの潤滑油は、全て吐出孔53に排出される。
【0022】
吐出孔53に排出された潤滑油は、吐出孔53に嵌挿された継手58、継手58に接続された供給チューブ59を経由して給油管60内に輸送され、給油管60の開孔より滴下される。開孔より滴下した潤滑油は針棒クランクロッド7を潤滑する。
【0023】
以上のように構成された第2ポンプ機構の第1ウォーム36,第1ウォームホイール35,第2ウォーム37,第2ウォームホイール43からなる減速機構63によれば、第1ウォーム36,第2ウォーム37の条数をa1,a2、第1ウォームホイール35,第2ウォームホイール43の歯数をb1,b2とすると、上軸5に対する第2ポンプ軸42の減速比はa1*a2/b1*b2となる。本実施例ではa1<b1,a2<b2であるように設定しており、上軸5から一組のウォーム,ウォームホイールで連結されたポンプ軸と比して、第2ポンプ軸42は減速機構63により上軸5に対し非常に大きな減速比を得ることができる。つまり、第2ポンプ30は上軸5に連動しつつも、極めて微量な潤滑油を吐出可能となっている。
【0024】
また、第2ポンプ30は極めて単純な構造にして、例えば、第1ポンプ16がトロコイドポンプの場合、これと比して圧力損失が非常に小さく、さらに潤滑油を取り込む油収容室48の一部を形成する溝部47aの加工精度を出しやすい。つまり、第2ポンプ30を小型化しても高い吐出量精度を確保できる。そして、上述のように第2ポンプ30はミシンアーム4内にコンパクトに配置することができる。
【0025】
図9は針棒クランクロッド7に供給される潤滑油の給油量と針棒クランクロッド7の摺動状態との関係を示す概念図であり、横軸に上軸5の回転速度、縦軸に針棒クランクロッド7への給油量をとっている。点線Laは油漏れの閾値を示し、Laより上方は針棒9からの油漏れが生じる領域である。一点鎖線Lbは摩耗,焼き付きの閾値を示し、Lbより下方は針棒クランクロッド7に摩耗,焼き付きが生じる領域である。したがって、給油量は実線Lで示すようなLaとLbの中間位に設定されることが望ましいが、出願人の検証によると、実線Lで示すような給油量は極めて微量であり、従来の給油機構すなわち本実施例でいえば第1ポンプ16のみを設けた場合、実線Lに示す給油量を針棒クランクロッド7に安定して導くことは非常に困難であった。本実施例の第2ポンプ30を、減速比及び油収容室48の容積を適宜設定させて設けることで、図9の実線Lに沿う給油量を針棒クランクロッド7へ供給可能となった。
【0026】
また、第2ポンプ30はミシンアーム4内に配置されているので、ミシンアーム4内の摺動箇所への給油について、ポンプ(第2ポンプ30),導油経路(供給チューブ59),給油管60の高低差をなくすことができ、微量の潤滑油を安定して供給できる。
【0027】
本発明の第2ポンプ30は本実施例の構造に限定されず、例えば第2ポンプ軸42の回動で動作する公知のプランジャーポンプ等であってもよい。また、本実施例では第2ポンプ30から吐出された潤滑油を供給チューブ59に接続される給油管60によって針棒クランクロッド7に供給するようにしているが、他の摺動部材に供給すようにしてもよい。
【0028】
第2ポンプの第2実施例を第1実施例と異なる点についてのみ、図10,図11に基づき説明する。
【0029】
図10に示すように、第2ケーシング31には導入孔51,排出孔50,吐出孔53,ピン用貫通穴52が設けられている。導入孔51は一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の外面に開口している。排出孔50は一端が導入孔51に開口し、他端が第2ケーシング31の上面に開口している。導入孔51の中心軸線の延長線上を同じく中心軸線とし、一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の外面に開口して吐出孔53は形成されている。ピン用貫通穴52は一端が第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に開口し、他端が第2ケーシング31の下側面に開口しており、ピン55がピン用貫通穴52に上下動可能に挿通されている。
【0030】
第2ケーシング31の第2ポンプ軸用貫通穴41に挿通されている第2ポンプ軸65には外周面の一部に第2偏心部61が形成されている。第2偏心部61には第2ポンプ軸65の周回方向に沿って半周にわたり幅eの溝からなる第2溝部61aが形成されている。図11に示すように、第2溝部61aはピン55の直径より大きく形成されており、ピン55の上部の周辺には第2溝部61aとの隙間を有して、ピン55の上端部は第2溝部61aと係合する。第2溝部61aは第2ケーシング31に嵌挿されて、第2ケーシング31内に取り込まれる潤滑油を収容する容積Vbなる第2油収容室62を形成している。
【0031】
第2ポンプ30の1サイクルの動作について、図10をもとに説明する。なお、図10(b)乃至図10(d)に示す各部位は図10(a)と同じなので、一部符号を省略している。上軸5が回動すると、第1ウォーム36,第1ウォームホイール35を介して回動軸34が回動し、回動軸34が回動すると、第2ウォーム37,第2ウォームホイール43を介して第2ポンプ軸65が回動する。第2ポンプ軸65は軸周り方向R(ミシンの正面から見て時計回り)に回動する。
【0032】
図10(a)に示すように、第2ポンプ軸65が回動して第2偏心部61の第2溝部61aの始点61asが導入孔51を通過すると、導入孔51に導かれた潤滑油が第2油収容室62内に充填されていく。第2ポンプ軸65がさらに回動し、図10(b)に示すように第2溝部61aの終点61aeがピン55を通過すると、第2油収容室62の容積Vbを越えた余剰の潤滑油は排出孔50より排出され、第2油収容室62の容積Vbと等しい量の潤滑油が第2油収容室62に充填される。そして、図10(c)に示すように、第2溝部61aの始点61asがピン55に到達しさらに第2ポンプ軸65が回動すると、第2油収容室62に充填されている潤滑油のうち、ピン55の第2溝部61aと係合する部分の容積vと等しい量の潤滑油が吐出孔53に排出されていく。そして、図10(d)に示すように、第2溝部61aの終点61aeが吐出孔53を通過すると、第2油収容室62にはVb−vの量の潤滑油が収容されていることになる。
【0033】
したがって、第1実施例における第2ポンプが油収容室48の容積Va分の潤滑油を吐出できるのに対し、第2実施例における第2ポンプはピン55の第2溝部61aと係合する部分の容積v分の潤滑油を吐出でき、極めて微量な潤滑油を吐出できる。ミシンアーム内の摺動部材に必要とされる潤滑油の量に応じて吐出量の異なる第2ポンプを設定できる。
【符号の説明】
【0034】
1 油溜め
2 ミシンベッド
3 下軸
4 ミシンアーム
5 上軸
7 針棒クランクロッド
16 第1ポンプ
20 第1輸送チューブ
23 油受け
24 分配器
25 噴出管
29 第2輸送チューブ
30 第2ポンプ
34 回動軸
35 第1ウォームホイール
36 第1ウォーム
37 第2ウォーム
42 第2ポンプ軸
43 第2ウォームホイール
47 偏心部
47a 溝部
48 油収容室
59 供給チューブ
60 給油管
61 第2偏心部
61a 第2溝部
62 第2油収容室
63 減速機構
65 第2ポンプ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油溜めの上方で油溜めと連設されるミシンベッドと、ミシンベッドの上方にミシンベッドと連設配置されるミシンアームと、ミシンベッドに回動可能に支持される下軸と、ミシンアームに回動可能に支持される上軸と、ミシンベッド内に配置され、油溜めの潤滑油をミシンアーム及びミシンベッドに供給する第1ポンプと、第1ポンプに取り込まれる潤滑油をミシンアーム内に輸送する輸送手段とを備えるミシンの給油装置において、ミシンアーム内には減速機構を介して上軸の回動に連動して動作する第2ポンプが設けられ、第2ポンプは、輸送手段により輸送される潤滑油を第2ポンプに取り込む導入手段と、導入手段により取り込んだ潤滑油の少なくとも一部をミシンアーム内の摺動部材に供給する供給手段とを備えることを特徴とする、ミシンの給油装置。
【請求項2】
第2ポンプは第2ポンプのボディを形成するケーシングを備え、ケーシングに回動可能に支持される第2ポンプ軸の回動で第2ポンプが動作し、減速機構は、上軸に固定される第1ウォームと、ケーシングに配置される回動軸に固定され、第1ウォームと係合する第1ウォームホイールと、回動軸に固定される第2ウォームと、第2ポンプ軸に固定され第2ウォームと係合する第2ウォームホイールとを備えることを特徴とする、ミシンの給油装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−212210(P2011−212210A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−82884(P2010−82884)
【出願日】平成22年3月31日(2010.3.31)
【出願人】(000113229)ペガサスミシン製造株式会社 (52)
【Fターム(参考)】