説明

メタクリル酸の製造方法

【課題】シェル−チューブ式反応器にてメタクロレインを触媒の存在下に分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法において、ホットスポット部の温度を十分に抑制し、スタートアップを効率的に行い、高い負荷での酸化反応を実施可能なメタクリル酸の製造方法を提供する。
【解決手段】シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法であって、触媒の充填された反応管を予熱する際、少なくとも該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱されたガスを導入する導入口から半径1mの範囲内の点を含む1点以上の反応管内の触媒温度のうち、最大温度が150℃以上、195℃以下となるように制御することを特徴とするメタクリル酸の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェル−チューブ式反応器を用いてメタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用する触媒に関しては数多くの提案がなされている。これら提案は主として触媒を構成する元素及びその比率に関するものである。
【0003】
該気相接触酸化は発熱反応であるため、触媒層で蓄熱が起こる。蓄熱の結果生じる局所的異常高温帯域はホットスポットと呼ばれ、この部分の温度が高すぎると過度の酸化反応を生じるので目的生成物の収率は低下する。
また、ホットスポットの温度が高くなりすぎると、その蓄熱により触媒反応がさらに促進され、発熱が進み触媒が燃焼し失活する可能性がある。
【0004】
このため、該酸化反応の工業的実施において、ホットスポットの温度抑制は重大な問題であり、特に生産性を上げるために原料ガス中におけるメタクロレイン濃度を高めた場合、ホットスポットの温度が高くなる傾向があることから反応条件に関して大きな制約を強いられているのが現状である。
【0005】
したがって、ホットスポット部の温度を抑えることは工業的に高収率でメタクリル酸を生産する上で非常に重要である。また、特に、一般的なモリブデン含有固体酸化触媒を用いる場合、モリブデン成分が昇華しやすいことから、ホットスポットの発生を抑制することは重要である。
【0006】
一方、メタクロレインの気相接触酸化に用いる触媒は、使用前に活性化のため熱処理を行う必要がある。これまでに触媒を熱処理する方法として、例えば特許文献1には、メタクロレインを気相接触酸化してメタクリル酸を製造するに際し、触媒を反応管に充填し、一方の端より空気を供給しながら300〜500℃で焼成した後、メタクロレインと分子状酸素を含む原料ガスを該反応管の他端より供給する方法が開示されている。
【0007】
この方法により、反応に有効な活性点を充分に発現させることができ、高活性な触媒を得ることができる。しかしながら、より高活性な触媒が開発されてくるにつれて前述したホットスポットの温度が高くなるという問題が発生してきており、これまで以上にその対策が必要になっている。
【0008】
ホットスポット部の温度上昇を抑える方法として、これまでにいくつかの提案がなされている。例えば特許文献2には、触媒組成を変動させて調製した活性の異なる複数個の触媒を原料ガス入口側から出口側に向かって活性がより高くなるように充填し、この触媒層にメタクロレイン及び酸素を含む原料ガスを流通させる方法が開示されている。また、特許文献3には、熱媒浴を備えた多管式固定床反応器を用いてアクロレインをアクリル酸に気相酸化する際に、熱媒浴の温度が反応器の入口部と出口部の間で2〜10℃上がるように熱媒の流れを制御する方法が開示されている。
【0009】
これらの方法は反応器内の触媒層における原料ガス入口側での単位容積当たりの反応率を低くすることで、単位容積当たりの反応発熱量を抑え、結果としてホットスポット部の温度を低くしようとする方法である。
【0010】
しかし、これらの方法ではホットスポット部の温度制御が十分でなく、過度な酸化反応が発生しないよう低い負荷で反応せざるを得なくなるため、メタクリル酸の収率が低くなるという問題があった。
【0011】
【特許文献1】特開昭58−67643号公報
【特許文献2】特開平4−210937号公報
【特許文献3】特開平8−92154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、シェル−チューブ式反応器にてメタクロレインを触媒の存在下に分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法において、ホットスポット部の温度を十分に抑制し、スタートアップを効率的に行い、高い負荷での酸化反応を実施可能なメタクリル酸の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する方法であって、以下の工程(1)から(5)を含み、工程(2)において、予熱の際、少なくとも該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱されたガスを導入する導入口から半径1mの範囲内の点を含む1点以上の反応管内の触媒温度のうち、最大温度が150℃以上、195℃以下となるように制御することを特徴とするメタクリル酸の製造方法。
(1)シェル−チューブ式反応器の反応管に触媒を充填する工程
(2)該反応管の一方の端より含酸素ガスを供給しながら、該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱したガスを導入し、該シェル部を予熱する工程
(3)前記加熱したガスの導入を停止し、該シェル部に熱媒を導入する工程
(4)熱媒を該シェル部に循環させて触媒を、300℃以上、500℃以下で熱処理する工程
(5)メタクロレインと酸素を含む原料ガスを反応管に供給する工程。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際、反応前の触媒の熱処理にかかる時間を大幅に短縮し、効率よくスタートアップを行うことができる。また、高い負荷での酸化反応を実施できるため、メタクリル酸の収率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明のメタクリル酸の製造方法は、シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化することにより行われ、以下に示す工程(1)から(5)を含む。
【0016】
(1)シェル−チューブ式反応器の反応管に触媒を充填する工程
(2)該反応管の一方の端より含酸素ガスを供給しながら、該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱したガスを導入し、該シェル部を予熱する工程
(3)前記加熱したガスの導入を停止し、該シェル部に熱媒を導入する工程
(4)熱媒を該シェル部に循環させて触媒を、300℃以上、500℃以下で熱処理する工程
(5)メタクロレインと酸素を含む原料ガスを反応管に供給する工程。
【0017】
本発明は、メタクリル酸の製造において、反応管内に触媒前駆体を充填して反応に必要な温度に加熱し、原料ガスを導入してスタートアップをする前段階として、触媒前駆体の熱処理を実施することで触媒前駆体を焼成し、メタクリル酸の製造を開始する場合に好適に用いられる。
【0018】
本発明において、メタクリル酸を合成する反応はシェル−チューブ式反応器を用いて実施される。シェル−チューブ式反応器としては、反応管(チューブ部)と、反応管を内包するシェル部が反応管内で発生した熱を除去するための反応管外側流体、すなわち熱媒の導入口及び導出口とを有する構造であれば、公知のいずれの反応器を用いてもよい。特に、複数の反応管を有する多管式反応器は、反応器の容積当たりの反応効率が高いため好ましい。
【0019】
以下に、本発明で使用することができる多管式反応器の一般的な構造を、図1により説明する。多管式反応器1は、複数の反応管2を有し、反応管2はその両端を管板3a、3bにより固定されている。反応管2は、導入口4a、導出口4bと通じており、触媒を反応管2に導入したり、原料を流通させたりすることができる。また、管板3a、3b及び反応器1に囲まれる空間(シェル部5)は、導入口6a、導出口6bと通じており、反応管2の温度を制御可能なガスや熱媒を導入、流通させることができる。シェル部5は、ガスや熱媒の流れを制御するため、シェル部5内を複数のチャンバーに仕切るための遮断板を有してもよい。
【0020】
以下、前記工程(1)から(5)について、詳細を示す。
【0021】
[工程(1)]
まず、シェル−チューブ式反応器の反応管に触媒を充填する。
【0022】
本発明においてメタクリル酸の製造に用いる触媒は、公知のメタクリル酸製造用固体酸化触媒であれば特に限定されず、従来から知られているモリブデンを含む複合酸化物等を用いることができるが、下記の式(1)で表される複合酸化物が本発明を実施する効果がより高いことから好ましい。
【0023】
MoabCucdefg (1)
(式中、Mo、P、Cu、V及びOはそれぞれモリブデン、リン、銅、バナジウム及び酸素を表す。Xは鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a〜gは原子組成比を示し、aが12とき、bは0.1≦b≦3、cは0.01≦C≦3、dは0.01≦d≦3、eは0≦e≦10、fは0.01≦f≦3、gは各原子全体の原子価を満足するのに必要な酸素原子比を示す。)
【0024】
本発明で用いる触媒を調製する方法は特に限定されず、成分の著しい偏在を伴わない限り、従来から知られている種々の方法を用いることができる。
【0025】
触媒の調製に用いる原料は特に限定されず、各元素の硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、アンモニウム塩、酸化物、ハロゲン化物等を組み合わせて使用することができる。例えばモリブデン原料としてはパラモリブデン酸アンモニウム、三酸化モリブデン、モリブデン酸、塩化モリブデン等が使用できる。
【0026】
本発明に用いられる触媒は無担体でもよいが、シリカ、アルミナ、シリカ・アルミナ、シリコンカーバイト等の不活性担体に担持させた担持触媒や、或いはこれらで希釈した触媒を用いることもできる。
【0027】
触媒の反応管への充填は、反応管の端部の一方又は双方から充填することができる。充填後の触媒層の長さは特に限定されないが、反応性、選択性などの観点から、適宜選択することができる。
【0028】
[工程2]
次に、反応管の一方の端より含酸素ガスを供給しながらシェル部に加熱したガスを導入し、シェル部を予熱する。工程(1)で反応管に充填した触媒は、反応管に含酸素ガスを供給しながら300〜500℃で最終熱処理して活性化した後、使用するが、この最終熱処理は、シェル部内の熱媒により反応管を加熱して行う。
【0029】
シェル内に導入する熱媒は、その凝固点が、一般的に50〜250℃のものが用いられるが、好ましくは130〜180℃のものを用いる。該当する熱媒としては、代表的にはナイターが挙げられる。ナイターはいわゆる溶融塩であり、化学反応の温度コントロールに使用される熱媒のうちで熱安定性に優れ、350〜550℃の高温における熱交換に優れた安定性を有する点で好ましい。ナイターは、種々の組成を構成し、凝固点も異なる。本発明において、何れの組成のナイターであっても、上記の凝固点を有する限り、熱媒として好適に用いることができる。ナイターに使用される化合物としては、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等があり、これらを単独で又は2種以上を混合して使用することができる。
【0030】
前記熱媒をシェル部内に導入するためには、シェル部が熱媒の溶解温度以上であることが必要となるため、あらかじめ加熱したガスを用いてシェル部を熱媒が溶解する温度まで加熱する操作が必要となる。この加熱操作を予熱と呼ぶ。
【0031】
本発明において、前記シェル部の予熱は、少なくとも該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱されたガスを導入する導入口から半径1mの範囲内の点を含む1点以上の反応管内の触媒温度のうち、最大温度が150℃以上、195℃以下となるように制御する必要がある。
【0032】
通常、加熱されたガスによりシェル部内を予熱する場合、シェル部内の温度は、加熱したガスをシェル部に導入する導入口付近で最大となる。したがって、該導入口付近に設置された反応管内の触媒温度は局所的に高くなり、活性化が促進されるため、メタクロレインの気相接触酸化反応を行う際、ホットスポットとなる。
【0033】
本発明では、反応時にホットスポットを生じさせないため、シェル部の予熱の間、少なくともシェル部のガス導入口から半径1mの範囲内に存在する触媒の温度を含む複数の箇所における触媒温度を測定し、その中の最大温度が150℃以上、195℃以下となるように制御して予熱を行い、その後、熱媒をシェル部に投入する。
【0034】
前記最大温度が150℃より低い場合、予熱が不十分であり、予熱後シェル内に導入する熱媒を完全に溶解することができない。また、195℃を超える場合、その最大温度となった箇所の触媒の活性化が局所的に促進され、反応の際ホットスポットとなる。その結果、ホットスポット部の温度を注視しながら過度な酸化反応が発生しないよう低い負荷で反応せざるを得なくなり、スタートアップに時間がかかり、結果的に目的物の収率が低下する。より好ましい温度範囲は、170℃以上、190℃以下である。
【0035】
また、加熱したガスをシェル部に導入してから、触媒温度を目標の熱媒投入温度に上昇させるまでの平均昇温速度は、5℃/hr以上、12℃/hr以下の範囲であることが好ましい。
【0036】
昇温速度が5℃/hrより遅いとき、熱処理にかかる時間が長くなり、目的生成物の収率が著しく低下するため、好ましくない。また、昇温速度が12℃/hrより速いとき、ガス導入口付近とそれ以外の部分との触媒層にかかる温度差がより大きい状態で熱履歴を受けることになり、その後の触媒の熱処理時において、より局所的に活性化が促進されることにより、ホットスポットの温度がより高くなるため好ましくない。
【0037】
シェル部の予熱に用いられるガスは、特に限定されるものではないが、安価な空気が好適である。また、窒素やアルゴンなどの不活性ガスを用いることもできる。
【0038】
また、予熱の際、反応管内に流す含酸素ガスには、空気、又は、窒素、ヘリウム等不活性ガスで希釈した酸素を用いることができる。含酸素ガスの酸素濃度は、適度な熱処理を行うため、0.1容量%以上、10容量%以下であることが好ましく、1容量%以上、7容量%以下であることがより好ましい。
【0039】
加熱したガス及び熱媒をシェル部に導入する構造としては、シェル部に加熱したガスを供給するラインと熱媒を供給するラインを任意に切り替えることができる構造とし、加熱したガスを供給するライン側には、ガスを送るブロワー等とガスを加熱するヒータを備えたものを用いる。該ヒータは、シェル部内に設置した反応管内温度を測定可能な熱電対の温度をフィードバックして、出力を随時制御することができる構造であることが好ましい。また、熱媒を供給するライン側には、熱媒を収納するタンクと、タンクからシェル部に熱媒を送るポンプを備えたものを用いる。
【0040】
シェル部に送られたガス及び熱媒は、シェル部の上部に配置された導入口から導入され、シェル部内部に設けられた遮断板等により、シェル部全体に斑がないよう行き渡らせて、シェル部の上部に配置された導出口から排出される構造とする。
【0041】
シェル部から排出されたガスは、そのまま大気開放する構造でも良く、再びガスのブロワー等へ循環させる構造でも良い。熱媒は、シェル部から排出された後、タンクに戻って再び循環する構造であることが好ましい。
【0042】
触媒温度を測定する方法としては、シェル部にガス又は熱媒が導入される導入口付近の触媒温度を測定できるように、導入口付近の反応管内部を少なくとも含む1箇所以上の反応管内に、熱電対を設置して行う。前記導入口付近とは、導入口を中心とした半径1mのシェル部の範囲内とする。
【0043】
また、反応器の各部の反応管における触媒温度を満遍なく測定できるように、反応器の断面方向と縦方向に複数の熱電対を分散して配置することが好ましい。また各熱電対は、反応管の断面において、中央に位置するように設置することが好ましい。熱電対は、触媒を反応管に充填する前にあらかじめ挿入している中空の保護管の中に挿入される。保護管は、反応管の断面において中心に位置し、かつ触媒層温度を測定しようとする位置が先端となるように長さを決めて挿入する。先端は封止されており、この保護管に挿入する熱電対は触媒層とは隔絶されている。
【0044】
[工程3、工程4]
次に、前記加熱したガスの導入を停止後、シェル部に熱媒を導入し、シェル部内に循環させて、触媒を300℃以上、500℃以下で熱処理する。
【0045】
熱媒は、予め熱媒を貯蔵するタンク内で加熱する。シェル部内に導入する熱媒の温度は、熱媒導入口に近接する触媒が急激に活性化されることを防止する観点から、150℃以上、220℃以下が好ましい。シェル部内に導入された熱媒は、シェル部内に設置されたヒータにより所定の熱処理条件となるように加熱される。
【0046】
触媒を活性化させるための熱処理条件は、特に限定されるものではないが、酸素濃度0.1〜10容量%、好ましくは1〜7容量%の含酸素ガス流通下、300〜500℃、好ましくは360〜390℃の温度で、少なくとも0.5時間以上熱処理を行うことにより、メタクリル酸を有利に製造することができる。この場合、酸素濃度が0.1容量%未満では活性化処理した触媒が十分に活性化されないため好ましくない。また、酸素濃度が10容量%を超えると、メタクリル酸の選択率が減少しメタクリル酸を有利に製造することができなくなるため好ましくない。熱処理温度を300℃未満で行った場合には、活性化処理した触媒が十分に活性化されないため好ましくない。また、熱処理温度が500℃を超えると、触媒構造の崩壊を生じ、メタクリル酸を有利に製造することができないため好ましくない。なお、熱処理時の温度は、熱媒を導入する導入口から半径1mの範囲内の点で測定した温度である。
【0047】
熱媒をシェル部に導入してから、目標の熱処理温度に上昇させるまでの平均昇温速度は、特に限定されないが、触媒が急激に活性化されることを防止する観点から、3℃/hr以上、50℃/hr以下が好ましい。
【0048】
また、前記熱処理を行う時間は、5時間以上、50時間以下であることが、生産性及び触媒の活性を扱いやすい範囲に制御する観点から好ましい。
【0049】
[工程5]
触媒を熱処理後、メタクロレインと分子状酸素を含む原料ガスを反応管に供給し、メタクロレインの気相接触酸化反応を行う。
【0050】
シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを固体酸化触媒の存在下に分子状酸素で気相接触酸化してメタクリル酸を製造する反応は、通常250〜350℃の範囲の反応温度で実施される。
【0051】
本発明の実施に際して、原料ガス中のメタクロレインの濃度は特に限定されるものではないが、通常1〜20容量%が適当であり、3〜10容量%が好ましい。また、反応のスタートアップ時は、原料ガス中のメタクロレイン濃度を段階的に増やして、反応負荷を段階的に上げていくことができる。
【0052】
原料のメタクロレインは水、低級飽和アルデヒド等の不純物を少量含んでいてもよく、これらの不純物は反応に実質的な影響を与えない。
【0053】
酸素源としては空気を用いるのが経済的であるが、必要ならば純酸素で富化した空気も用いることができる。原料ガス中の酸素濃度は、メタクロレインに対するモル比で規定され、この値は0.3〜4、特に0.4〜2.5が好ましい。原料ガスは窒素、水蒸気、炭酸ガス等の不活性ガスを加えて希釈してもよい。
【0054】
反応圧力は常圧から数気圧までがよい。反応温度は230〜450℃の範囲で選ぶことができるが、特に、250〜400℃が好ましい。反応は固定床でも流動床でも行うことができる。
【実施例】
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例及び比較例中の「部」は質量部を意味する。
【0056】
触媒組成は触媒成分の原料仕込み量から求めた。反応器の熱媒としては硝酸カリウム50質量%及び亜硝酸ナトリウム50質量%からなる塩溶融物を用いた。ホットスポットは触媒層のΔT(触媒層の温度−シェル部内の温度)により検出した。
【0057】
触媒を充填するシェル−チューブ式反応器は、内径25.4mmで長さが4500mmの鋼鉄製の反応管を上部管板と下部管板で13000本支持された構造のものを用いた。シェル部は熱媒を抜き出して空の状態で、常温において触媒を充填した。
【0058】
シェル−チューブ式反応器内部の各部の反応管における触媒層温度を満遍なく測定できるように、反応器の断面方向と縦方向で36箇所に熱電対を分散して配置し、各部の温度を測定した。その熱電対のうちの1本は、シェル部への加熱したガスの導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管に設置した。なお、保護管内は反応系と隔絶されている。触媒層内の温度は、反応管の断面において中央に位置するよう熱電対を設置して測定した。
【0059】
原料ガス及び反応生成ガスの分析は、ガスクロマトグラフィーにより行った。シェル部内の熱媒の温度制御は、シェル部内の熱媒温度をフィードバックして、シェル部内に設置したヒータの出力を制御する機構を用いて、任意に設定した昇温速度に合わせてヒータの出力を自動的に制御できるものを用いた。
【0060】
[実施例1]
<触媒の調製>
パラモリブデン酸アンモニウム100部、メタバナジン酸アンモニウム2.8部及び硝酸セシウム9.2部を純水300部に溶解した。これを攪拌しながら、85質量%リン酸8.2部を純水10部に溶解した溶液及びテルル酸1.1部を純水10部に溶解した溶液を加え、攪拌しながら95℃に昇温した。次いで硝酸銅3.4部、硝酸第二鉄7.6部、硝酸亜鉛1.4部及び硝酸マグネシウム1.8部を純水80部に溶解した溶液を加えた。更にこの混合液を100℃で15分間攪拌し、得られたスラリーを、噴霧乾燥機を用いて乾燥した。
【0061】
得られた乾燥物100部に対してグラファイト2部を添加混合し、打錠成形機により外径5mm、内径2mm、長さ3mmのリング状に成形し、触媒を得た。触媒の組成は、酸素を除いた原子比で、Mo121.5Cu0.30.5Fe0.4Te0.1Mg0.15Zn0.1Cs1であった。
【0062】
<熱処理>
前記シェル−チューブ式反応器の原料ガスの導入口側に、触媒を620mLと外径5mmのアルミナ球130mLを混合したものを充填し、導出口側に触媒を750mL充填した。このときの触媒層の長さは3005mmであった。この時、触媒を充填したシェル−チューブ式反応器のチューブ部に、室温の空気を1L/hrで導入を開始した。なお、この時のシェル−チューブ式反応器のシェル部には熱媒は抜き出された状態であり、温度も室温である。
【0063】
反応管への触媒充填が完了した後、あらかじめヒータで190℃に加熱した空気を20km3/hrの流量で、導入口からシェル部へ導入を開始した。加熱した空気の導入を開始してから14hr後に、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が190℃となったことを確認した。その後、さらに約2hrかけて加熱した空気の導入を閉止し、経路を熱媒の導入経路に切り替えて、予め200℃に加熱した熱媒を導入した。なお、シェル部内への空気導入開始から、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が190℃になるまでの平均昇温速度は、11.8℃/hrであった。
【0064】
その後、シェル部内に設置されたヒータで熱媒を加熱し、熱媒を導入する導入口から半径1mの範囲内の点の温度が200℃から275℃の範囲を5℃/hrで昇温した。その後、275℃から385℃までの範囲を10℃/hrで昇温し、385℃となったところで昇温を止め、385℃で14時間保持した。
【0065】
385℃で14時間保持した後、熱処理温度を250℃まで25℃/hrの降温速度で下げた。
【0066】
<メタクロレインの気相接触酸化>
この後、反応器の反応管内に流していた空気を一旦停止し、反応管にメタクロレイン4.0%、酸素9.0%、水蒸気30.0%及び窒素57.0%からなる原料混合ガスを、反応温度290℃、接触時間4.5秒にて通過させて反応を開始した。その後、メタクロレインの転化率が75%となるまで、シェル部の熱媒の温度を変更した。この時の温度を反応温度と定義する。
【0067】
反応温度が安定した後、原料ガスのメタクロレイン濃度を表1にある原料組成表に沿って原料ガスの組成を変更し、反応の負荷レベルを1〜4まで順次上げていった。この時、各負荷レベルにおいて反応温度が安定するのを待って、その時点の各位置のΔTを測定し、その値が35℃を越えないように、次の負荷レベルの原料ガス条件に徐々に変更した。その結果、負荷レベルを4まで上昇するためにかかった時間は40hrであった。結果を表2に示す。
【0068】
[実施例2]
触媒を反応管内に充填後、シェル部の導入口から加熱した空気の導入を開始してから14hr後における、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が170℃とした以外は実施例1と同様に酸化反応を実施した。なお、シェル部内への空気導入開始から、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が170℃になるまでの平均昇温速度は、10.6℃/hrであった。
【0069】
その結果、負荷レベルを4まで上昇するためにかかった時間は60hrであった。結果を表2に示す。
【0070】
[比較例1]
触媒を反応管内に充填後、シェル部の導入口から加熱した空気の導入を開始してから14hr後における、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が200℃とした以外は実施例1と同様に酸化反応を実施した。なお、シェル部内への空気導入開始から、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が200℃になるまでの平均昇温速度は、12.5℃/hrであった。
【0071】
その結果、負荷レベルが2のときΔTが35℃を超えそうになったため、一時的に反応温度を下げてΔTが下がるのを待ち、その後負荷レベルを4まで上昇させた結果、負荷レベルを4まで上昇するためにかかった時間は105hrであった。結果を表2に示す。
【0072】
[比較例2]
触媒を反応管内に充填後、シェル部導入口から加熱した空気の導入を開始してから14hr後における、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が210℃とした以外は実施例1と同様に酸化反応を実施した。なお、シェル部内へ空気導入開始から、前記導入口から半径1m以内の範囲内に配置された反応管内に設置した熱電対の測定温度が210℃になるまでの平均昇温速度は、13.1℃/hrであった。
【0073】
その結果、負荷レベルを2のときΔTが35℃を超えそうになったため、一時的に反応温度を下げてΔTが下がるのを待ち、その後負荷レベルを4まで上昇させた結果、負荷レベルを4まで上昇するためにかかった時間は370hrであった。結果を表2に示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】本発明に用いるシェル−チューブ式反応器の断面図である。
【符号の説明】
【0077】
1 多管式反応器
2 反応管(チューブ部)
3a 管板(上部)
3b 管板(下部)
4a 導入口
4b 導出口
5 シェル部
6a 導入口
6b 導出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェル−チューブ式反応器を用いて、メタクロレインを触媒存在下、分子状酸素により気相接触酸化するメタクリル酸の製造方法であって、
下記工程(1)から(5)を含み、
工程(2)において、予熱の際、少なくとも該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱されたガスを導入する導入口から半径1mの範囲内の点を含む1点以上の反応管内の触媒温度のうち、最大温度が150℃以上、195℃以下となるように制御することを特徴とするメタクリル酸の製造方法。
(1)シェル−チューブ式反応器の反応管に触媒を充填する工程
(2)該反応管の一方の端より含酸素ガスを供給しながら、該シェル−チューブ式反応器のシェル部に加熱したガスを導入し、該シェル部を予熱する工程
(3)前記加熱したガスの導入を停止し、該シェル部に熱媒を導入する工程
(4)熱媒を該シェル部に循環させて触媒を、300℃以上、500℃以下で熱処理する工程
(5)メタクロレインと酸素を含む原料ガスを反応管に供給する工程
【請求項2】
前記触媒が、下記式(1)で表される複合酸化物である請求項1記載のメタクリル酸の製造方法。
MoabCucdefg (1)
(式中、Mo、P、Cu、V及びOはそれぞれモリブデン、リン、銅、バナジウム及び酸素を表す。Xは鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、チタン、クロム、タングステン、マンガン、銀、ホウ素、ケイ素、スズ、鉛、ヒ素、アンチモン、ビスマス、ニオブ、タンタル、ジルコニウム、インジウム、イオウ、セレン、テルル、ランタン及びセリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。Yはカリウム、ルビジウム、セシウム及びタリウムからなる群より選ばれた少なくとも1種の元素を表す。a〜gは原子組成比を示し、aが12とき、bは0.1≦b≦3、cは0.01≦c≦3、dは0.01≦d≦3、eは0≦e≦10、fは0.01≦f≦3、gは各原子全体の原子価を満足するのに必要な酸素原子比を示す。)

【図1】
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【公開番号】特開2009−190984(P2009−190984A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30511(P2008−30511)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】