説明

メタクリル酸製造用触媒およびその製造方法ならびにメタクリル酸の製造方法

【課題】メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用される触媒として、より高いメタクリル酸収率を発揮できるものを提供する。
【解決手段】特定の組成のメタクリル酸製造用触媒を製造する方法であって、触媒前駆体を200〜500℃で焼成する焼成工程と、該焼成工程で得られた焼成物から、該焼成物中の水溶性成分の少なくとも一部を抽出溶媒に抽出して除去する除去工程とを有する方法である。除去工程後には、通常、乾燥、焼成を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用されるメタクリル酸製造用触媒およびその製造方法と、メタクリル酸の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する触媒としては、モリブドリン酸、モリブドリン酸塩などを主成分とするものが知られている。これら触媒の製造方法については数多くの検討がなされていて、その多くでは、まず、触媒を構成する各元素を含む水溶液または水性スラリーなどの原料液を調製し、その後、これを乾燥、焼成することで、触媒を製造している。その他には、原料液を乾燥後、予備焼成を行ってから、アンモニア水で混練り処理、再乾燥、焼成を実施する方法なども検討されている(特許文献1参照。)。
【0003】
ところが、これら従来の方法で製造された触媒は、必ずしも工業用触媒として十分なメタクリル酸収率を発揮するものではなかった。
そこで、触媒中の低活性成分を除去し、活性種の割合を高めることで、触媒の性能を向上させようとする方法が検討されている。この種の触媒の活性種は、モリブドリン酸やモリブドバナリン酸などの水溶性成分であると考えられ(非特許文献1参照。)、一方、触媒原料に由来する硫酸根などは低活性成分であると考えられている。このような観点から、例えば特許文献2には、硫酸根を触媒の原料液から硫酸バリウムとして除去する技術が開示されている。
【特許文献1】特開平9−290161号公報
【特許文献2】特開平6−287160号公報
【非特許文献1】植嶋ら、表面,24(10),582(1986)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献2に記載されているような方法でも、触媒性能の向上は不十分であった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、より高いメタクリル酸収率を発揮できるメタクリル酸製造用触媒の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述したように、この種のメタクリル酸製造用触媒の活性種は、モリブドリン酸やモリブドバナリン酸などの水溶性成分であるとされ、従来は、このような水溶性成分の触媒中の比率を高めようとする検討がなされてきたが、本発明者らは鋭意検討した結果、驚くべきことに、水溶性成分の少なくとも一部を除去することによって、その理由は明らかではないが、より高いメタクリル酸収率を発揮できるメタクリル酸製造用触媒が得られることを見出して本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための下記式(1)で示される触媒の製造方法であって、触媒前駆体を200〜500℃で焼成する焼成工程と、該焼成工程で得られた焼成物から、該焼成物中の水溶性成分の少なくとも一部を抽出溶媒に抽出して除去する除去工程とを有することを特徴とする。
α1Moα2α3Cuα4α5α6α7α8 (1)
(式中、P、Mo、V、Cu及びOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を示す元素記号である。Xはヒ素、テルル、アンチモン、セレン、ケイ素からなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Yはビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウム、ランタンからなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群より選ばれた1種類の元素を示す。α1〜α8は各元素の原子比率を表し、α2=12のときα1=0.5〜3、α3=0.01〜3、α4=0.01〜2、α5=0.01〜3、α6=0〜3、α7=0.01〜3であり、α8は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
本発明のメタクリル酸製造用触媒は、前記製造方法により製造されたことを特徴とする。
また、本発明のメタクリル酸の製造方法は、前記メタクリル酸製造用触媒を用いることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より高いメタクリル酸収率を発揮できるメタクリル酸製造用触媒を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、下記式(1)で表される組成を有し、メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造する際に使用されるメタクリル酸製造用触媒の製造方法に関するものである。
【0010】
α1Moα2α3Cuα4α5α6α7α8 (1)
(式中、P、Mo、V、Cu及びOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を示す元素記号である。Xはヒ素、テルル、アンチモン、セレン、ケイ素からなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Yはビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウム、ランタンからなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群より選ばれた1種類の元素を示す。α1〜α8は各元素の原子比率を表し、α2=12のときα1=0.5〜3、α3=0.01〜3、α4=0.01〜2、α5=0.01〜3、α6=0〜3、α7=0.01〜3であり、α8は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【0011】
上記式(1)のメタクリル酸製造用触媒を製造する際には、好ましくは、まず、触媒を構成する各元素(酸素以外)を上記式(1)に示される比率で含む原料液を調製し(原料液調製工程)、ついで、これを乾燥する(乾燥工程)ことにより、触媒前駆体を製造する。
原料液の調製方法には特に制限はないが、水に各元素の原料を投入し、30〜100℃に加熱、撹拌してスラリー状の原料液を調製する方法が好ましい。水の使用量は、各元素の原料の合計100質量部に対して、200〜1000質量部が好ましい。
【0012】
各元素の原料としては、各元素の酸化物、硝酸塩、炭酸塩、アンモニウム塩等を適宜選択して使用することができる。例えば、モリブデンの原料としてはモリブデン酸や三酸化モリブデンが好ましいが、パラモリブデン酸アンモニウム等も使用できる。リンの原料としては、正リン酸、五酸化リン、リン酸アンモニウム等が使用できる。バナジウムの原料としては、メタバナジン酸アンモニウム、五酸化二バナジウム等が使用できる。また、銅の原料としては硝酸銅、硫酸銅、炭酸銅等が使用できる。
原料液の調製スケールには特に制限はないが、モリブデンの原料の一回の使用量として好ましくは100g〜10t、より好ましくは1kg〜1tであると、良好な原料液を安定に調製することができる。
【0013】
また、スラリー状の原料液を調製する場合、その原料液のpHは8未満であることが好ましく、3未満であることがより好ましい。pHが8未満であると、好ましい構造の触媒前駆体が得られやすく、その結果、より高いメタクリル酸収率を発揮できるメタクリル酸製造用触媒が得られる。
【0014】
このような原料液を乾燥し、触媒前駆体を得る乾燥工程の具体的な方法には特に制限はないが、例えば蒸発乾固法、噴霧乾燥法、ドラム乾燥法、気流乾燥法等が挙げられる。乾燥に使用する乾燥機の種類、機種、乾燥時の温度、雰囲気等には特に制限はなく、例えば、空気雰囲気下100〜180℃で0.1〜20時間乾燥する条件などが挙げられるが、乾燥条件を変えることによって、触媒前駆体の流動性、成形性などの物性を制御できるため、目的に応じた条件を設定することが好ましい。
【0015】
ついで、このように乾燥して得られた触媒前駆体を200〜500℃で焼成する焼成工程を行う。また、焼成工程の前には、必要に応じて、触媒前駆体を予備成形する成形工程を実施してもよい。
その際、具体的な成形方法には特に制限はなく、公知の乾式および湿式の成形方法が適用でき、例えば、打錠成形、プレス成形、押出成形、造粒成形等が挙げられる。成形品の形状についても特に限定されず、例えば、円柱状、リング状、球状等の形状が挙げられる。また、成形時には、触媒前駆体に担体等を添加せず、触媒前駆体のみを成形することが好ましい。
【0016】
焼成工程での焼成方法や焼成条件は特に限定されず、公知の方法および条件を適用できる。好ましい焼成条件は、触媒を構成する各元素の原料(触媒原料)、触媒組成、原料液の調製法などによって異なるが、通常、空気等の酸素含有ガス流通下または不活性ガス流通下で200〜500℃、好ましくは300〜400℃で、0.5時間以上、好ましくは1〜40時間焼成する。ここで不活性ガスとは触媒活性を低下させないような気体のことを指し、窒素、炭酸ガス、ヘリウム、アルゴン等が挙げられる。
【0017】
ついで、焼成工程で得られた焼成物中の水溶性成分の少なくとも一部を焼成物から抽出して除去する除去工程を行う。具体的には、抽出溶媒に焼成物を分散させたり、浸漬したりした後、公知の分離法により固液分離し、固体成分を回収する。
抽出に使用する抽出溶媒としては、水や、無機酸および/または無機塩の水溶液などの水性溶媒が好適である。無機酸および/または無機塩の水溶液を使用する場合には、そのpHは8未満であることが触媒の化学構造や物理構造を維持する点で好ましく、また、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムを含まない方が触媒の性能に悪影響を与えない点でより好ましい。抽出溶媒の使用量は特に限定されないが、焼成物の質量に対して500倍以下の質量であることが好ましく、2〜50倍がより好ましい。
【0018】
抽出溶媒に焼成物を分散させる時には、抽出溶媒に焼成物を投入して単に撹拌するだけでもよいが、抽出効率が高まることから、超音波を照射しながら、1〜60分間保持することが好ましい。また、抽出溶媒の温度は、10〜100℃が好ましい。
固液分離法としては、ろ過、遠心分離等が適用でき、焼成物の粒子径に応じて選択すればよい。例えば、抽出溶媒中の焼成物の粒子径が数μm以上である場合にはろ過を適用できるが、抽出溶媒中の焼成物に1μm以下の粒子が含まれる場合には、このような粒子の分離はろ過では困難であることから、遠心分離を適用することが好ましい。
遠心分離を適用する場合には、液体成分の全量を必ずしも固体成分から除去しなくてもよいが、より高いメタクリル酸収率のメタクリル酸製造用触媒が得られることから、使用した抽出溶媒の質量の10質量%以上に相当する量の液体を除去することが好ましく、さらに作業性も考慮すると、50〜80質量%の量を除去することが好ましい。
このような除去工程によれば、上記式(1)中、Zで示される元素以外の元素を含む成分が水溶性成分として主に除去される。
【0019】
こうして水溶性成分の少なくとも一部が除去された後の固体成分、または、固体成分とこの固体成分に付随して残留した残留液との混合スラリーを再度乾燥し(再乾燥工程)、好ましくは再度焼成する(再焼成工程)ことによって、メタクリル酸製造用触媒が得られる。再乾燥工程および再焼成工程は、それぞれ上述の乾燥工程および焼成工程と同様の方法、条件で行えばよい。
また、再焼成工程の前には、必要に応じて、再乾燥工程により得られた再乾燥品を公知の乾式および湿式の成形方法で再成形する再成形工程を行ってもよい。具体的な成形方法や成形品の形状としては、先に成形工程において例示した各種方法、形状を同様に採用できる。また、成形時には、担体等を添加しないで成形することが好ましいが、必要に応じて、例えばグラファイトやタルクなどの公知の添加剤を加えてもよい。
【0020】
こうして製造されたメタクリル酸製造用触媒に、メタクロレインと分子状酸素を含む原料ガスを接触させることにより、メタクロレインが分子状酸素により気相接触酸化され、メタクリル酸が得られる。
ここで原料ガス中のメタクロレイン濃度には制限はなく、任意の濃度に設定できるが、1〜20容量%が適当であり、特に3〜10容量%が好ましい。原料ガス中の分子状酸素濃度は、メタクロレイン1モルに対して0.5〜4モルが好ましく、より好ましくは1〜3モルである。また、原料ガスには、希釈のために窒素、炭酸ガス等の不活性ガスを加えてもよいし、水蒸気を加えてもよい。
反応圧力は、通常、大気圧から数百kPaまでの範囲内で設定される。反応温度は、通常、230〜450℃の範囲内で設定され、メタクリル酸収率の点からは、250〜400℃が好ましい。
【0021】
以上説明したメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、触媒前駆体を200〜500℃で焼成する焼成工程と、該焼成工程で得られた焼成物中の水溶性成分の少なくとも一部を焼成物から抽出溶媒に抽出して除去する除去工程とを有しているため、その理由は明らかではないが、高収率でメタクリル酸を製造可能なメタクリル酸製造用触媒を提供できる。
【実施例】
【0022】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
また、下記の実施例および比較例中の「部」は質量部である。
原料ガスおよび生成物の分析はガスクロマトグラフィーを用いて行った。なお、メタクロレインの反応率、生成するメタクリル酸の選択率および単流収率は以下のように定義される。
メタクロレインの反応率(%)=(B/A)×100
メタクリル酸の選択率(%)=(C/B)×100
メタクリル酸の単流収率(%)=(C/A)×100
ここで、Aは供給したメタクロレインのモル数、Bは反応したメタクロレインのモル数、Cは生成したメタクリル酸のモル数である。
【0023】
[実施例1]
(1)原料液調製工程
(A液の調製)
純水200部に、三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸6.67部、メタバナジン酸アンモニウム3.39部、硝酸第二銅2.10部、硝酸第二鉄0.47部、60%砒酸水溶液9.59部を加え、100℃の還流下で5時間攪拌してA液を調製した。
A液中に含まれるアンモニウムの量は、A液中に含まれるモリブデン原子12モルに対して0.5モルであった。
(B液の調製)
重炭酸セシウム10.10部を純水28.43部に50℃で溶解してB液を調製した。
(A液とB液の混合)
A液を50℃まで冷却した後、B液を攪拌しながらA液と混合し、10分間攪拌してA−B混合液を調製した。
このようにして得られたA−B混合液を液温50℃で攪拌しながら、このA−B混合液に、硝酸アンモニウム2.20部、重炭酸アンモニウム12.00部を純水20.00部に溶解した溶液を加えて、触媒前駆体を含むスラリーを得た。
(2)乾燥工程
この触媒前駆体を含むスラリーを101℃まで加熱し、撹拌しながら蒸発乾固した後、さらに、130℃で16時間乾燥して、触媒前駆体を得た。
(3)成形工程および焼成工程
得られた触媒前駆体を打錠成形機により、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状に成形した。この成形品を空気流通下、380℃にて12時間焼成して、焼成物を得た。
【0024】
(4)除去工程
得られた焼成物100部を水1000部に加えて、室温で1時間攪拌した。ついで、得られた分散液を日立工機(株)製himac CR22Fにアングルロータ R20A2を装着した遠心分離器に供して、12000rpm、5℃の条件下で5分間の分離を行った。この条件の遠心で加えられる重力の計算値は約17300Gである。遠心分離により固体成分を沈降させた後、上澄みのうち750部(使用した抽出溶媒の質量の75質量%に相当)を除去した。
なお、上澄みを乾燥したところ、47質量部の固体が得られた。また、この固体を原子吸光光度法、および、ICP発光分析法により元素分析したところ、酸素以外の組成がP1.0Mo120.77As0.88Cu0.24Fe0.02であった。
(5)再乾燥工程
こうして水溶性成分の少なくとも一部を含む上澄みが除去された後の固体成分とこれに付随して残留した残留液との混合物を再度撹拌してスラリー状態としながら蒸発乾固し、ついで、130℃で16時間乾燥して再乾燥品を得た。
(6)再成形工程および再焼成工程
得られた再乾燥品を打錠成形機により、外径5mm、内径2mm、長さ5mmのリング状に再成形した。そして、この再成形品を空気流通下、380℃にて12時間焼成して、メタクリル酸製造用触媒を得た。
得られた触媒の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.2As0.5Cu0.05Fe0.02Cs1.9であった。
この触媒を反応管に充填し、下記条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
【0025】
(反応条件)
反応ガス:メタクロレイン5容量%、酸素10容量%、水蒸気30容量%、窒素55容量%の混合ガス
反応温度:290℃
反応圧力:101kPa(絶対圧力)
接触時間:3.6秒
【0026】
[実施例2]
(1)原料液調製工程
(A液の調製)
純水200部に、三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸6.67部、メタバナジン酸アンモニウム3.39部、60%砒酸水溶液9.59部を加え、100℃の還流下で5時間攪拌してA液を調製した。
A液中に含まれるアンモニウムの量は、A液中に含まれるモリブデン原子12モルに対して0.5モルであった。
(B液の調製)
重炭酸セシウム10.10部を純水28.43部に50℃で溶解してB液を調製した。
(C液の調製)
25質量%アンモニア水41.34部をC液とした。
C液中に含まれるアンモニウムの量は、A液中に含まれるモリブデン原子12モルに対して10.5モルであった。
(A液、B液、C液の混合)
A液を70℃まで冷却した後、B液を攪拌しながらA液に混合し、10分間攪拌してA−B混合液を調製した。次いで、A−B混合液を撹拌しながら、このA−B混合液にC液を10分間かけて徐々に添加した。C液混合後、50℃で60分間撹拌保持し、A−B−C混合液を調製した。
このようにして得られたA−B−C混合液を液温50℃で撹拌しながら、これに硝酸第二銅2.10部、硝酸第二鉄0.47部を純水9.80部に溶解した溶液を加えて、触媒前駆体を含むスラリーを得た。
【0027】
(2)乾燥工程〜(6)再成形工程および再焼成工程
(2)〜(6)の各工程を実施例1と同様に行って、メタクリル酸製造用触媒を得た。
得られた触媒の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.2As0.4Cu0.05Fe0.015Cs2.0であった。
この触媒を反応管に充填し、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
なお、除去工程で得られた上澄み液を乾燥したところ、45質量部の固体が得られた。また、この固体を実施例1と同様に元素分析したところ、酸素以外の組成がP1.0Mo120.75As0.95Cu0.23Fe0.02であった。
【0028】
[実施例3]
純水200部に、三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸6.67部、70.9質量%シュウ酸バナジル7.59部、硝酸第二銅2.10部、硝酸第二鉄0.47部、酸化テルル3.70部を加え、100℃の還流下で5時間攪拌してA液を調製した以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸製造用触媒を製造した。
得られた触媒の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.2Te0.3Cu0.05Fe0.01Cs1.9であった。
この触媒を反応管に充填し、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
なお、除去工程で得られた上澄み液を乾燥したところ、47質量部の固体が得られた。また、この固体を実施例1と同様に元素分析したところ、酸素以外の組成がP1.0Mo120.77Te0.49Cu0.24Fe0.02であった。
【0029】
[実施例4]
純水200部に、三酸化モリブデン100部、85質量%リン酸6.67部、70.9質量%シュウ酸バナジル7.59部、硝酸第二銅2.10部、硝酸マンガン2.49部、、三酸化アンチモン3.38部を加え、100℃の還流下で5時間攪拌してA液を調製した以外は、実施例1と同様にして、メタクリル酸製造用触媒を製造した。
得られた触媒の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.2Sb0.3Cu0.05Mn0.1Cs1.9であった。
この触媒を反応管に充填し、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
なお、除去工程で得られた上澄み液を乾燥したところ、47質量部の固体が得られた。また、この固体を実施例1と同様に元素分析したところ、酸素以外の組成がP1.0Mo120.77Sb0.49Cu0.24Mn0.1であった。
【0030】
[比較例1]
実施例1における(1)原料液調製工程〜(3)成形工程および焼成工程までを行い、(4)除去工程以降の工程を行わず、(3)で得られた焼成物を触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
得られた触媒(焼成物)の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.5As0.7Cu0.15Fe0.02Cs0.9であった。
【0031】
[比較例2]
実施例2における(1)原料液調製工程〜(3)成形工程および焼成工程までを行い、(4)除去工程以降の工程を行わず、(3)で得られた焼成物を触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
得られた触媒(焼成物)の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.5As0.7Cu0.15Fe0.02Cs0.9であった。
【0032】
[比較例3]
実施例3における(1)原料液調製工程〜(3)成形工程および焼成工程までを行い、(4)除去工程以降の工程を行わず、(3)で得られた焼成物を触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
得られた触媒(焼成物)の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.5Te0.4Cu0.15Fe0.02Cs0.9であった。
【0033】
[比較例4]
実施例4における(1)原料液調製工程〜(3)成形工程および焼成工程までを行い、(4)除去工程以降の工程を行わず、(3)で得られた焼成物を触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
得られた触媒(焼成物)の酸素以外の組成は、P1.0Mo120.5Sb0.4Cu0.15Mn0.1Cs0.9であった。
【0034】
[比較例5]
比較例1と同様の方法で焼成物を得て、これを触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
ただし、焼成物の酸素以外の組成が、実施例1で製造されたメタクリル酸製造用触媒と同じP1.0Mo120.2As0.5Cu0.05Fe0.02Cs1.9となるように、原料液調製工程での原料の使用量を調整した。
【0035】
[比較例6]
比較例2と同様の方法で焼成物を得て、これを触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
ただし、焼成物の酸素以外の組成が、実施例2で製造されたメタクリル酸製造用触媒と同じP1.0Mo120.2As0.4Cu0.05Fe0.015Cs2.0となるように、原料液調製工程での原料の使用量を調整した。
【0036】
[比較例7]
比較例3と同様の方法で焼成物を得て、これを触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
ただし、焼成物の酸素以外の組成が、実施例3で製造されたメタクリル酸製造用触媒と同じP1.0Mo120.2Te0.3Cu0.05Fe0.01Cs1.9となるように、原料液調製工程での原料の使用量を調整した。
【0037】
[比較例8]
比較例4と同様の方法で焼成物を得て、これを触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
ただし、焼成物の酸素以外の組成が、実施例4で製造されたメタクリル酸製造用触媒と同じP1.0Mo120.2Sb0.3Cu0.05Mn0.1Cs1.9となるように、原料液調製工程での原料の使用量を調整した。
【0038】
[比較例9]
比較例1と同様の方法で(1)原料液調製工程と(2)乾燥工程とを行った。
ついで、得られた触媒前駆体100部を1000部の水に加え、室温で1時間撹拌した。その後、得られたスラリーを実施例1の(5)再乾燥工程と同様にして蒸発乾固した後、実施例1の(6)再成形工程および再焼成工程と同様の工程を実施した。
得られたものを触媒として使用して、実施例1と同様の条件で気相接触酸化によるメタクリル酸の製造を実施した。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示すように、各実施例で得られたメタクリル酸製造用触媒を使用すると、高収率でメタクリル酸を製造できた。
一方、除去工程以降を実施しなかった比較例1〜8では、実施例1〜4もよりもメタクリル酸収率が低い結果となった。特に、比較例5〜8では、最終的な触媒組成を実施例1〜4に合わせたものの、メタクリル酸収率は低く、除去工程の重要性が示された。また、除去工程を焼成工程の前に行った比較例9では、メタクリル酸収率は非常に低い結果となった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクロレインを分子状酸素により気相接触酸化してメタクリル酸を製造するための下記式(1)で示されるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
触媒前駆体を200〜500℃で焼成する焼成工程と、
該焼成工程で得られた焼成物から、該焼成物中の水溶性成分の少なくとも一部を抽出溶媒に抽出して除去する除去工程とを有することを特徴とするメタクリル酸製造用触媒の製造方法。
α1Moα2α3Cuα4α5α6α7α8 (1)
(式中、P、Mo、V、Cu及びOはそれぞれリン、モリブデン、バナジウム、銅及び酸素を示す元素記号である。Xはヒ素、テルル、アンチモン、セレン、ケイ素からなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Yはビスマス、ジルコニウム、銀、鉄、亜鉛、クロム、マグネシウム、コバルト、マンガン、バリウム、セリウム、ランタンからなる群より選ばれた1種類の元素を示し、Zはカリウム、ルビジウム、及びセシウムからなる群より選ばれた1種類の元素を示す。α1〜α8は各元素の原子比率を表し、α2=12のときα1=0.5〜3、α3=0.01〜3、α4=0.01〜2、α5=0.01〜3、α6=0〜3、α7=0.01〜3であり、α8は前記各成分の原子価を満足するのに必要な酸素の原子比率である。)
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法で製造されたことを特徴とするメタクリル酸製造用触媒。
【請求項3】
請求項2に記載のメタクリル酸製造用触媒を用いることを特徴とするメタクリル酸の製造方法。


【公開番号】特開2007−253033(P2007−253033A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−79015(P2006−79015)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】