説明

メタクリル酸製造用触媒の製造方法およびメタクリル酸の製造方法

【課題】優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒を製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明のメタクリル酸製造用触媒の製造方法は、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなり、触媒前駆体を、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含むガス雰囲気下にて、360〜410℃で焼成する第1焼成工程;前記第1焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、420〜500℃でさらに焼成する第2焼成工程;および前記第2焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、280℃以下となるように冷却する工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタクリル酸製造用触媒の製造方法に関し、さらにこの方法で得られた触媒を用いてメタクリル酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メタクロレインなどの気相接触酸化反応によりメタクリル酸を製造する際に用いる触媒としては、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸やその塩からなるものが有効であることが知られている。この触媒は通常、触媒の原料を含む水性混合物を乾燥した後、焼成することにより製造される。特許文献1〜5には、この焼成方法に関して記載されている。
【0003】
特許文献1は、非酸化性ガスの雰囲気下に400〜500℃で焼成した後、酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で焼成することを開示している。特許文献2は、酸化性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下に360〜410℃で焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で焼成し、次いで酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で焼成する方法を開示している。特許文献3は、10容量%以下の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に400〜500℃で焼成し、次いで30容量%以下の水分を含む酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で焼成する方法を開示している。特許文献4は、酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で焼成した後、非酸化性ガスの雰囲気下に400〜500℃で焼成し、次いで非酸化性ガスの雰囲気下のままで280℃以下に冷却する方法を開示している。特許文献5は、酸化性ガスの雰囲気下に300〜400℃で第一段焼成し、次いで、0.1〜10容量%の水を含む非酸化性ガスの雰囲気下に420℃以上に昇温した後、非酸化性ガスの雰囲気下に420〜500℃で第二段焼成する方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−188231号公報
【特許文献2】特開2005−21727号公報
【特許文献3】特開2005−131577号公報
【特許文献4】特開2007−90193号公報
【特許文献5】特開2008−284508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の方法によって得られるメタクリル酸製造用触媒は、触媒活性や触媒寿命の点で、必ずしも満足のいくものではなかった。
本発明の課題は、優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒を製造する方法を提供することにある。さらに、この方法によって製造された触媒を用いて、原料を良好な転化率で転化して長期間にわたり安定してメタクリル酸を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するべく鋭意検討を行った結果、以下の構成からなる解決手段を見出し、本発明を完成するに至った。
(1)リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
触媒前駆体を、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含むガス雰囲気下にて、360〜410℃で焼成する第1焼成工程;
前記第1焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、420〜500℃でさらに焼成する第2焼成工程;および
前記第2焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、280℃以下となるように冷却する工程;
を含むことを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
(2)前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと;
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素と;
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素と;
を含むことを特徴とする、(1)に記載の方法。
(3)前記触媒前駆体が、第1焼成工程において、1〜20時間焼成される、(1)または(2)に記載の方法。
(4)前記第1焼成工程で得られる焼成物が、第2焼成工程において、1〜20時間焼成される、(1)〜(3)のいずれかの項に記載の方法。
(5)前記非酸化性ガスが、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種である、(1)〜(4)のいずれかの項に記載の方法。
(6)(1)〜(5)のいずれかの項に記載の製造方法によって得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、優れた触媒活性および触媒寿命を有するメタクリル酸製造用触媒が得られるという効果を奏する。さらに、この触媒を用いると、原料を良好な転化率で転化して長期間にわたり安定してメタクリル酸を製造することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の製造方法によって得られるメタクリル酸製造用触媒は、リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなる。このようなヘテロポリ酸化合物は、遊離のヘテロポリ酸からなるものであってもよいし、ヘテロポリ酸の塩からなるものであってもよい。これらの中でも、ヘテロポリ酸の酸性塩(部分中和塩)からなるものが好ましく、ケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩からなるものがより好ましい。
【0009】
ヘテロポリ酸化合物は、リンおよびモリブデンを必須の元素として含むものであれば、触媒活性を阻害しない限り、他の元素を含んでいてもよい。他の元素としては、バナジウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、タリウム、銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタン、セリウムなどが挙げられる。例えば、ヘテロポリ酸化合物は、以下の元素を含むものが好ましい。
リン;
モリブデン;
バナジウム;
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(以下、「X元素」と記載する場合がある);ならびに
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素(以下、「Y元素」と記載する場合がある)。
【0010】
特に、ヘテロポリ酸化合物は、モリブデン12原子に対して、リン、バナジウム、X元素およびY元素を、それぞれ3原子以下の割合で含むものが好ましい。
【0011】
本発明に係るメタクリル酸製造用触媒の製造方法(以下、「本発明の製造方法」と記載する場合がある)は、上記のように、第1焼成工程、第2焼成工程および冷却工程を含む。
【0012】
(第1焼成工程)
第1焼成工程は、触媒前駆体を、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含むガス雰囲気下にて、360〜410℃で焼成する工程である。
【0013】
触媒前駆体は、メタクリル酸製造用触媒に含まれる各元素を含有する化合物の混合物である。このような化合物としては、各元素のオキソ酸、オキソ酸塩、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。例えば、リンを含有する化合物としては、リン酸、リン酸塩などが挙げられる。モリブデンを含有する化合物としては、モリブデン酸、モリブデン酸塩、酸化モリブデン、塩化モリブデンなどが挙げられる。バナジウムを含有する化合物としては、バナジン酸、バナジン酸塩、酸化バナジウム、塩化バナジウムなどが挙げられる。上記X元素を含有する化合物としては、酸化物、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。上記Y元素を含有する化合物としては、オキソ酸、オキソ酸塩、硝酸塩、炭酸塩、水酸化物、ハロゲン化物などが挙げられる。
【0014】
この触媒前駆体は、通常、上記の化合物を、水と混合して水溶液や懸濁液とし、これらの水溶液や懸濁液を乾燥させることによって得られる。乾燥は、スプレードライヤーを用いた噴霧乾燥などが挙げられる。通常、乾燥物は、所望の形状(例えば、円柱状、球状、リング状など)に成形され、成形の際に、必要に応じて成形助剤を用いてもよい。得られた成形体は、好ましくは、酸化性ガスまたは非酸化性ガスの雰囲気下にて180〜300℃程度の温度で熱処理(前焼成)が施される。なお、乾燥物に熱処理(前焼成)を施した後、成形を行ってもよい。
【0015】
上記水溶液や懸濁液を調製する際、さらにアンモニアやアンモニウム塩を添加して、アンモニウム根を含む水溶液や懸濁液とするのが好ましい。アンモニアやアンモニウム塩を添加する代わりに、リン、モリブデン、バナジウム、X元素またはY元素を含む上記の化合物の少なくとも1種に、アンモニウム化合物を用いてもよい。このような処方の場合、乾燥物としては非ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる触媒前駆体が得られ、熱処理(前焼成)を施すことによって、非ケギン型からケギン型への転移反応が生じ、ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる触媒前駆体を得ることができる。
【0016】
得られた触媒前駆体は、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含むガス雰囲気下にて、360〜410℃で焼成される。本発明の製造方法では、特定量の水分を含むガスであれば、特に限定されない。このようなガスとしては、酸化性ガス(空気、酸素など)、非酸化性ガス(不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、還元性ガス(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)など)などが挙げられる。これらの中でも、窒素、空気、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素が好ましく、窒素および空気がより好ましい。これらのガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
上記ガスは、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含む。特定の範囲で水分を含むことによって、得られる触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させることができる。水分は、好ましくは0.8〜1.8容量%の割合で含まれる。
【0018】
第1焼成は、360〜410℃で行われる。360〜410℃で第1焼成を行うことによって、得られる触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させることができる。第1焼成は、好ましくは380〜400℃で行われる。
【0019】
第1焼成は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは1〜5時間行われる。第1焼成を1〜20時間行うことによって、触媒前駆体の組成に関係なく十分に焼成が行われる。
【0020】
このようにして第1焼成工程で得られた焼成物は、第2焼成工程に供される。
【0021】
(第2焼成工程)
第2焼成工程は、第1焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、420〜500℃でさらに焼成する工程である。
【0022】
第2焼成工程で用いられる非酸化性ガスは、上述の非酸化性ガス(不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、還元性ガス(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)など)などが挙げられる。これらの非酸化性ガスの中でも、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素が好ましく、窒素がより好ましい。非酸化性ガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、第2焼成工程で用いられる非酸化性ガスは、水分を含んでいても含まなくてもよいが、水分を含まない乾燥状態のガスが好ましい。
【0023】
第2焼成は、420〜500℃で行われる。420〜500℃で第2焼成を行うことによって、得られる触媒の触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させることができる。第2焼成は、好ましくは430〜440℃で行われる。
【0024】
第2焼成は、好ましくは1〜20時間、より好ましくは1〜5時間行われる。第2焼成を1〜20時間行うことによって、触媒前駆体の組成に関係なく十分に焼成が行われる。
【0025】
第2焼成工程で得られた焼成物は、冷却工程に供される。
【0026】
(冷却工程)
冷却工程は、第2焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、280℃以下となるように冷却する工程である。
【0027】
冷却工程で用いられる非酸化性ガスは、上述の非酸化性ガス(不活性ガス(窒素、アルゴン、ヘリウム、ネオンなど)、還元性ガス(二酸化炭素、水素、アンモニアなど)など)などが挙げられる。これらの非酸化性ガスの中でも、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素が好ましく、窒素がより好ましい。冷却工程で用いられる非酸化性ガスは、作業性の観点から、第2焼成工程で用いた非酸化性ガスと同一のガスを用いる(すなわち、第2焼成工程で用いた非酸化性ガスをそのまま用いる)ことが好ましい。非酸化性ガスは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、冷却工程で用いられる非酸化性ガスは、水分を含んでいても含まなくてもよいが、水分を含まない乾燥状態のガスが好ましい。
【0028】
冷却は、280℃以下となるように行なわれ、好ましくは250℃以下となるように行なわれる。280℃を超える高い温度で酸化性ガスに曝されないようにすることにより、触媒活性および触媒寿命を効果的に向上させることができる。
【0029】
(メタクリル酸の製造方法)
本発明の製造方法によって得られたメタクリル酸製造用触媒は、優れた触媒活性および触媒寿命を有する。このメタクリル酸製造用触媒を用いて、例えば、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタン、イソ酪酸などの原料化合物を、気相接触酸化反応に供することにより、原料化合物を良好な転化率で転化して、メタクリル酸を長期間にわたり安定して製造することができる。
【0030】
メタクリル酸の製造は、通常、固定床多管式反応器に触媒を充填し、この反応器に原料化合物と酸素を含むガスとを供給することによって行われる。また、固定床の代わりに、流動床や移動床の形態も採用され得る。酸素を含むガスとしては、一般的に空気や純酸素が用いられる。酸素を含むガスおよび原料化合物の他に、窒素、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気などを、反応器に供給してもよい。
【0031】
メタクロレインを原料化合物として用いる場合、好ましくは、反応は以下の条件下で行われる。なお、空間速度は、反応器内を通過する1時間当たりの原料(原料化合物およびその他のガス)供給量(L/h)を、反応器内の触媒容量(L)で除して求められる。
原料中のメタクロレインの濃度:1〜10容量%
原料中の水蒸気の濃度:1〜30容量%
メタクロレインと酸素とのモル比:1/1〜1/5(メタクロレイン/酸素)
空間速度:500〜5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250〜350℃
反応圧力:0.1〜0.3MPa
【0032】
イソブタンを原料化合物として用いる場合、好ましくは、反応は以下の条件下で行われる。
原料中のイソブタンの濃度:1〜85容量%
原料中の水蒸気の濃度:3〜30容量%
イソブタンと酸素とのモル比:1/0.05〜1/4(イソブタン/酸素)
空間速度:400〜5000h-1(標準状態基準)
反応温度:250〜400℃
反応圧力:0.1〜1MPa
【0033】
なお、イソブチルアルデヒドおよびイソ酪酸を原料化合物として用いる場合は、メタクロレインを原料化合物として用いる場合と、ほぼ同様の条件下で反応が行われる。また、これらの原料化合物は、精製された高純度品である必要はない。例えば、メタクロレインの場合、イソブチレンやt−ブチルアルコールの気相接触酸化反応によって得られたメタクロレインを未精製のまま用いてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、各実施例および各比較例で使用した窒素は、実質的に水分を含まないものである。
【0035】
(調製例1:触媒前駆体の調整)
まず、以下のそれぞれの原料を混合して、A液およびB液を調製した。
<A液(溶液)>
イオン交換水(40℃):224kg
硝酸セシウム(CsNO3):38.2kg
オルトリン酸(85重量%品):24.2kg
硝酸(70重量%品):25.2kg
<B液(懸濁液)>
イオン交換水(40℃):330kg
モリブデン酸アンモニウム4水和物((NH46Mo724・4H2O):297kg
メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3):8.19kg
【0036】
次いで、撹拌しながら、A液をB液に滴下した。滴下後、密閉容器中で120℃にて5.8時間撹拌した。次いで、10.2kgの三酸化アンチモン(Sb23)および10.2kgの硝酸銅3水和物(Cu(NO32・3H2O)を23kgのイオン交換水に懸濁させて上記密閉容器中に添加し、120℃にてさらに5時間撹拌した。
【0037】
得られたスラリーをスプレードライヤーで噴霧乾燥し、得られた乾燥物100重量部に対して、4重量部のセラミックファイバー(SiO2−Al23系、繊維直径2〜4μm、繊維平均長400μm)、13重量部の硝酸アンモニウム、および9.7重量部のイオン交換水を加えて混練し、円柱状(直径5mm、高さ6mm)に押出成形した。次いで、得られた成形体を、温度90℃および湿度30%RH雰囲気下で3時間乾燥した。得られた乾燥物に、220℃の空気気流中で22時間、その後250℃で1時間熱処理(前焼成)を施し、ケギン型ヘテロポリ酸塩からなる前焼成された触媒前駆体を得た。
【0038】
(実施例1)
上記調製例1で得られた触媒前駆体を、空気とスチームとの混合ガス(含水量:1.0容量%)気流中で、390℃にて3時間保持した(第1段焼成)。次いで、空気とスチームとの混合ガスを窒素に換えて、窒素気流中で435℃にてさらに3時間保持した(第2段焼成)。第2段焼成後、焼成物を窒素気流中で70℃まで冷却し、大気中に取り出した。得られた焼成物(触媒1)は、リン(1.5)、モリブデン(12)、バナジウム(0.5)、アンチモン(0.5)、銅(0.3)およびセシウム(1.4)を含むケギン型ヘテロポリ酸の酸性塩であった。なお、かっこ内の数値は原子比である。
【0039】
(実施例2)
第1段焼成において、含水量を1.4容量%としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒2)を得た。
【0040】
(実施例3)
第1段焼成において、含水量を1.8容量%としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒3)を得た。
【0041】
(実施例4)
第1段焼成において、空気とスチームとの混合ガスの代わりに、窒素とスチームとの混合ガス(含水量:1.8容量%)としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒4)を得た。
【0042】
(比較例1)
第1段焼成において、空気とスチームとの混合ガスの代わりに、空気のみ(含水量:0.0容量%)としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒5)を得た。
【0043】
(比較例2)
第1段焼成において、空気とスチームとの混合ガスの代わりに、窒素のみ(含水量:0.0容量%)としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒6)を得た。
【0044】
(比較例3)
第1段焼成において、含水量を2.8容量%としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒7)を得た。
【0045】
(比較例4)
第1段焼成において、含水量を3.5容量%としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒8)を得た。
【0046】
(比較例5)
第1段焼成において、含水量を4.0容量%としたこと以外は、実施例1と同様の手順で焼成物(触媒9)を得た。
【0047】
各実施例および各比較例で得られた触媒(触媒1〜9)について、以下の方法によって触媒の活性試験を行った。
【0048】
(触媒の活性試験)
得られた触媒を9g秤量して、16mmの内径を有するガラス製マイクロリアクターに充填し、炉温(マイクロリアクターを加熱するための炉の温度)を280℃まで昇温した。次いで、メタクロレイン、空気、水蒸気および窒素を混合して調製した原料ガス(メタクロレイン4容量%、分子状酸素12容量%、水蒸気17容量%、窒素67容量%)を、670h-1の空間速度でマイクロリアクター内に供給し、反応を開始した。反応開始から1時間後に、マイクロリアクター出口からの流出ガス(反応後のガス)をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析して、以下の式に基づいてメタクロレイン転化率を求めた。
メタクロレイン転化率(%)=(A/B)×100
ここで、
Aは、反応したメタクロレインのモル数。
Bは、供給したメタクロレインのモル数。
【0049】
次いで、炉温を355℃まで昇温し、上記の原料ガスを上記の空間速度(670h-1)で供給して1時間反応を行い、触媒を強制的に劣化させた。再度、炉温を280℃にして、この劣化触媒に、上記の原料ガスを上記の空間速度(670h-1)で供給し、反応を開始した。反応開始から1時間後に、マイクロリアクター出口からの流出ガス(反応後のガス)をサンプリングし、上記と同様にして、ガスクロマトグラフィーにて分析し、メタクロレイン転化率を求めた。各触媒(触媒1〜9)の強制劣化前後におけるメタクロレイン転化率を、表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1に示すように、実施例1〜4で得られた触媒(触媒1〜4)は、比較例1〜5で得られた触媒(触媒5〜9)と比較して、強制劣化後も高いメタクロレイン転化率が維持され、良好な転化率で長期間にわたりメタクリル酸を製造し得ることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンおよびモリブデンを含むヘテロポリ酸化合物からなるメタクリル酸製造用触媒の製造方法であって、
触媒前駆体を、0.1容量%以上2.0容量%未満の水分を含むガス雰囲気下にて、360〜410℃で焼成する第1焼成工程;
前記第1焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、420〜500℃でさらに焼成する第2焼成工程;および
前記第2焼成工程で得られた焼成物を、非酸化性ガス雰囲気下にて、280℃以下となるように冷却する工程;
を含むことを特徴とする、メタクリル酸製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記ヘテロポリ酸化合物が、さらに、
バナジウムと;
カリウム、ルビジウム、セシウムおよびタリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素と;
銅、ヒ素、アンチモン、ホウ素、銀、ビスマス、鉄、コバルト、ランタンおよびセリウムからなる群より選択される少なくとも1種の元素と;
を含むことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記触媒前駆体が、第1焼成工程において、1〜20時間焼成される、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1焼成工程で得られる焼成物が、第2焼成工程において、1〜20時間焼成される、請求項1〜3のいずれかの項に記載の方法。
【請求項5】
前記非酸化性ガスが、窒素、アルゴン、ヘリウムおよび二酸化炭素からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの項に記載の製造方法によって得られたメタクリル酸製造用触媒の存在下で、メタクロレイン、イソブチルアルデヒド、イソブタンおよびイソ酪酸からなる群より選択される少なくとも1種の化合物を、気相接触酸化反応に供することを特徴とする、メタクリル酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−245432(P2012−245432A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116925(P2011−116925)
【出願日】平成23年5月25日(2011.5.25)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】